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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047321
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/06 20060101AFI20240329BHJP
   C08G 65/48 20060101ALI20240329BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C08G73/06
C08G65/48
H01B7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152875
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】三木 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】中谷 晃司
【テーマコード(参考)】
4J005
4J043
5G309
【Fターム(参考)】
4J005AA24
4J005BB01
4J005BB02
4J005BD05
4J043PB03
4J043PB08
4J043QC01
4J043QC07
4J043RA08
4J043SA06
4J043SA46
4J043SA47
4J043SA87
4J043TA73
4J043UA352
4J043ZA23
4J043ZB47
4J043ZB48
5G309MA01
(57)【要約】
【課題】溶剤溶解性に優れ、酸素存在下で低温での硬化が可能である硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本開示の硬化性組成物は、下記式(1)で表される化合物(A)および硬化促進剤(B)を含む。硬化促進剤(B)は、メタキシリレンジアミンの反応物、第4級ホスホニウム塩、カルボキシ基を有するホスホニウム塩、熱潜在性の塩基発生剤でありカルボキシ基を有する2-エチルヘキサン酸塩、第2級モノアミン、イミダゾール系化合物、および低分子量マレイミドからなる群より選択される一種以上である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化合物(A)と下記硬化促進剤(B)とを含む硬化性組成物。
化合物(A):下記式(1)で表される化合物
【化1】
[式中、R1およびR2は、同一または異なって、下記式(r-1)
【化2】
[式中、QはCまたはCHを示す。式中の2個のQは単結合または二重結合を介して結合する。R3~R6は同一または異なって水素原子または炭化水素基を示す。R3およびR4は互いに結合して環を形成していてもよい。n’は0以上の整数を示す。式中の波線を付した結合手はD1またはD2に結合する]
で表される基を示す。D1およびD2は、同一または異なって、単結合または連結基を示す。Lは、下記式(I)で表される構造と下記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する二価の基を示す]
【化3】
(式中、Ar1~Ar3は、同一または異なって、芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、または2個以上の芳香環が単結合若しくは連結基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基を示す。Xは-CO-、-S-、または-SO2-を示し、Yは、同一または異なって、-S-、-SO2-、-O-、-CO-、-COO-、または-CONH-を示す。nは0以上の整数を示す)
硬化促進剤(B):メタキシリレンジアミンの反応物、第4級ホスホニウム塩、カルボキシ基を有するホスホニウム塩、熱潜在性の塩基発生剤でありカルボキシ基を有する2-エチルヘキサン酸塩、第2級モノアミン、イミダゾール系化合物、および低分子量マレイミドからなる群より選択される一種以上
【請求項2】
前記硬化促進剤(B)は前記第4級ホスホニウム塩である有機求核剤を含む請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
さらに、ヒドラジン骨格を含むヒンダードフェノール構造を有する化合物(C)を含む請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記硬化性組成物中の前記硬化促進剤(B)の含有割合は0.1~2質量%である請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
酸素存在下、200℃以下で硬化開始可能である請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
硬化して導体線を被覆する絶縁膜として使用される請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
導体線と、前記導体線を被覆する請求項6に記載の硬化性組成物の硬化物である絶縁膜とを備える絶縁電線。
【請求項8】
請求項7に記載の絶縁電線を含むコイル。
【請求項9】
請求項8に記載のコイルを備えるモーター。
【請求項10】
請求項8に記載のコイルを備える発電機。
【請求項11】
請求項8に記載のコイルを備える電子・電気機器。
【請求項12】
請求項7に記載の絶縁電線を含むケーブル。
【請求項13】
請求項12に記載のケーブルを備える電子・電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は硬化性組成物に関する。より詳細には、本開示は、溶剤溶解性に優れ、酸素存在下で低温での硬化が可能である硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックは高い耐熱性と機械特性とを併せ持つ高性能材料であり、各種部品の小型化、軽量化、高性能化、高信頼性化に必須の材料として重用されている。しかし、例えばポリイミドはエンジニアリングプラスチックの1つであるが、溶剤に溶解し難く、且つ融解し難いため用途に応じた成形体を得ることが困難であった。
【0003】
特に、スーパーエンジニアリングプラスチックとも呼ばれるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、連続使用温度が260℃で、耐熱性、難燃性、および電気特性に優れた性能を有する熱可塑性樹脂であるが、融点が343℃であるためとりわけ融解し難く、溶剤にも溶解し難いため、加工性に劣ることから、成形体を得ることが困難であった。
【0004】
一方、PEEK骨格を有する硬化物を成形可能である硬化性化合物が知られている。当該硬化性化合物は、融解しやすく、また溶剤溶解性に優れるため、取り扱い性および加工性が良好であり、容易にPEEK骨格を有する硬化物および成形体を得ることができる(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-95542号公報
【特許文献2】特開2021-95544号公報
【特許文献3】国際公開第2019/244693号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記硬化性化合物は比較的低温で硬化可能であることが求められる場合がある。低温で硬化させるために過酸化物を硬化剤として使用することが考えられる。しかしながら、過酸化物は酸素により失活してしまうため、空気雰囲気下など酸素が存在する系内では安定した品質の硬化物を形成することは困難であった。なお、過酸化物を硬化剤として使用する場合、窒素雰囲気下で行うことが必要であり、また、過酸化物を使用しない場合は300℃以上の高温処理が必要となる。
【0007】
従って、本開示の目的は、溶剤溶解性に優れ、酸素存在下で低温での硬化が可能である硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の硬化性化合物と特定の硬化促進剤とを組み合わせて用いることで、溶剤溶解性に優れ、酸素存在下で低温での硬化が可能である硬化性組成物が得られることを見出した。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものに関する。
【0009】
すなわち、本開示は、下記化合物(A)と下記硬化促進剤(B)とを含む硬化性組成物を提供する。
化合物(A):下記式(1)で表される化合物
【化1】
[式中、R1およびR2は、同一または異なって、下記式(r-1)
【化2】
[式中、QはCまたはCHを示す。式中の2個のQは単結合または二重結合を介して結合する。R3~R6は同一または異なって水素原子または炭化水素基を示す。R3およびR4は互いに結合して環を形成していてもよい。n’は0以上の整数を示す。式中の波線を付した結合手はD1またはD2に結合する]
で表される基を示す。D1およびD2は、同一または異なって、単結合または連結基を示す。Lは、下記式(I)で表される構造と下記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する二価の基を示す]
【化3】
(式中、Ar1~Ar3は、同一または異なって、芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、または2個以上の芳香環が単結合若しくは連結基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基を示す。Xは-CO-、-S-、または-SO2-を示し、Yは、同一または異なって、-S-、-SO2-、-O-、-CO-、-COO-、または-CONH-を示す。nは0以上の整数を示す)
硬化促進剤(B):メタキシリレンジアミンの反応物、第4級ホスホニウム塩、カルボキシ基を有するホスホニウム塩、熱潜在性の塩基発生剤でありカルボキシ基を有する2-エチルヘキサン酸塩、第2級モノアミン、イミダゾール系化合物、および低分子量マレイミドからなる群より選択される一種以上
【0010】
上記硬化促進剤(B)は上記第4級ホスホニウム塩である有機求核剤を含むことが好ましい。
【0011】
上記硬化性組成物は、さらに、ヒドラジン骨格を含むヒンダードフェノール構造を有する化合物(C)を含むことが好ましい。
【0012】
上記硬化性組成物中の上記硬化促進剤(B)の含有割合は0.1~2質量%であることが好ましい。
【0013】
上記硬化性組成物は、酸素存在下、200℃以下で硬化開始可能であることが好ましい。
【0014】
上記硬化性組成物は、硬化して導体線を被覆する絶縁膜として使用されることが好ましい。
【0015】
また、本開示は、導体線と、上記導体線を被覆する上記硬化性組成物の硬化物である絶縁膜とを備える絶縁電線を提供する。
【0016】
また、本開示は、上記絶縁電線を含むコイルを提供する。
【0017】
また、本開示は、上記コイルを備えるモーターを提供する。
【0018】
また、本開示は、上記コイルを備える発電機を提供する。
【0019】
また、本開示は、上記コイルを備える電子・電気機器を提供する。
【0020】
また、本開示は、上記絶縁電線を含むケーブルを提供する。
【0021】
また、本開示は、上記ケーブルを備える電子・電気機器を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本開示の硬化性組成物は、溶剤溶解性に優れ、酸素存在下で低温での硬化が可能である。このため、上記硬化性組成物を硬化させる設備面や生産性の点で適用幅が広く、あらゆる状況下で使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[硬化性組成物]
本開示の硬化性組成物は、後述の式(1)で表される化合物(以後、「化合物(A)」と称する場合がある)と、後述の硬化促進剤(以後、「硬化促進剤(B)」と称する場合がある)とを少なくとも含む。化合物(A)および硬化促進剤(B)は、それぞれ、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0024】
(化合物(A))
化合物(A)は下記式(1)で表される化合物である。
【化1】
【0025】
式(1)中、R1およびR2は、同一または異なって、下記式(r-1)で表される基を示す。
【化2】
【0026】
式(r-1)中、QはCまたはCHを示す。式中の2個のQは単結合または二重結合を介して結合する。R3~R6は同一または異なって水素原子または炭化水素基を示す。R3およびR4は互いに結合して環を形成していてもよい。n’は0以上の整数を示す。式(r-1)中の波線を付した結合手はD1またはD2に結合する。
【0027】
式(1)中、D1およびD2は、同一または異なって、単結合または連結基を示す。
【0028】
式(1)中、Lは、下記式(I)で表される構造と下記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する二価の基を示す。
【化3】
【0029】
式(I)および式(II)中、Ar1~Ar3は、同一または異なって、芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、または2個以上の芳香環が単結合若しくは連結基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基を示す。Xは-CO-、-S-、または-SO2-を示し、Yは、同一または異なって、-S-、-SO2-、-O-、-CO-、-COO-、または-CONH-を示す。nは0以上の整数を示す。
【0030】
3~R6における炭化水素基としては、例えば、飽和または不飽和脂肪族炭化水素基(好ましくは、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基)、芳香族炭化水素基(好ましくは、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~10のアリール基)、上記飽和または不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基から選択される2個以上の基とが結合した基が挙げられる。
【0031】
3およびR4は互いに結合して隣接する炭素原子と共に環を形成していてもよい。上記環としては、例えば、炭素数3~20の脂環、炭素数6~14の芳香環などが挙げられる。上記炭素数3~20の脂環としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルカン環;シクロペンテン環、シクロへキセン環等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルケン環;パーヒドロナフタレン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、アダマンタン環、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環等の橋かけ環式炭化水素基などが挙げられる。上記炭素数6~14の芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。
【0032】
n’は0以上の整数であり、例えば0~3の整数、好ましくは0または1である。
【0033】
上記式(r-1)で表される基としては、中でも、下記式(r-1-1)~(r-1-6)で表される基から選択される基が好ましい。
【化4】
(式中の窒素原子から伸びる結合手は、式(1)中のD1またはD2と結合する)
【0034】
上記式(r-1-1)~(r-1-6)で表される基には1種または2種以上の置換基が結合していてもよい。上記置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0035】
上記式(r-1)で表される基としては、好ましくは上記式(r-1-1)~(r-1-5)で表される基から選択される基、特に好ましくは上記式(r-1-1)または(r-1-5)で表される基である。
【0036】
上記式(r-1)で表される基としては、中でも、下記式(r-1’)で表される基が好ましい。
【化5】
(式中、Q、R3、およびR4は上記に同じ)
【0037】
式(1)中、D1およびD2は、同一または異なって、単結合または連結基を示す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、二価の複素環式基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、アミド結合、イミド結合、およびこれらが複数個連結した基などが挙げられる。
【0038】
1およびD2としては、中でも、特に優れた耐熱性を有する硬化物が得られる点で、二価の芳香族炭化水素基を含む基が好ましく、特に、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、4,4’-ビフェニレン基、3,3’-ビフェニレン基、2,6-ナフタレンジイル基、2,7-ナフタレンジイル基、1,8-ナフタレンジイル基、アントラセンジイル基等の炭素数6~14のアリーレン基が好ましい。
【0039】
1およびD2としては、下記式(d-1)~(d-4)で表される基から選択される基が好ましく、特に下記式(d-1)で表される基(1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、または1,4-フェニレン基)が好ましく、1,4-フェニレン基がより好ましい。なお、下記式中の結合手の付き位置は、特に制限されない。
【化6】
【0040】
また、D1およびD2は、上記二価の芳香族炭化水素基と共に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、アミド結合、およびイミド結合からなる群より選択される少なくとも1つの基が連結した基が好ましく、とりわけ上記二価の芳香族炭化水素基にエーテル結合が連結した基が好ましい。
【0041】
従って、式(1)中のR1-D1-基およびR2-D2-基としては、下記式(rd-1’-1)または(rd-1’-2)で表される基が好ましい。なお、下記式中の結合手の付き位置は、特に制限されない。
【化7】
(式中、Q、R3、およびR4は上記に同じ)
【0042】
Ar1~Ar3は、同一または異なって、芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、または2個以上の芳香環が単結合若しくは連結基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基を示す。
【0043】
上記芳香環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6~14の芳香環が挙げられる。中でも、ベンゼン、ナフタレン等の炭素数6~10の芳香環などの芳香族炭化水素環が好ましい。
【0044】
上記連結基としては、例えば、炭素数1~5の二価の炭化水素基や、炭素数1~5の二価の炭化水素基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基などが挙げられる。
【0045】
従って、Ar1~Ar3としては、同一または異なって、炭素数6~14の芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、または、炭素数6~14の芳香環の2個以上が、単結合、炭素数1~5の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、または炭素数1~5の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基の水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基であることが好ましい。
【0046】
Ar1~Ar3としては、中でも、同一または異なって、下記式(a-1)~(a-5)で表される基から選択される基が好ましい。なお、下記式中の結合手の付き位置は、特に制限されない。
【化8】
【0047】
式(I)中のAr1およびAr2としては、中でも、炭素数6~14の芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基が好ましく、特に、上記式(a-1)または(a-2)で表される基が好ましい。
【0048】
式(I)中のXは、-CO-、-S-、または-SO2-を示す。Xとしては、中でも、-CO-または-SO2-が好ましい。
【0049】
式(II)中のAr3としては、中でも、上記式(a-1)、(a-4)、および(a-5)で表される基から選択される基が好ましい。
【0050】
式(II)中のYは、同一または異なって、-S-、-SO2-、-O-、-CO-、-COO-、または-CONH-を示す。Yとしては、中でも、-S-、-O-、または-SO2-が好ましい。
【0051】
式(II)中のnは0以上の整数を示し、例えば0~5の整数、好ましくは1~5の整数、特に好ましくは1~3の整数である。
【0052】
式(1)中のLとしては、下記式(L-1-1)または(L-1-2)で表される二価の基が好ましい。
【化9】
【0053】
上記式中のm1およびm2は、分子鎖(=上記式(L-1-1)または(L-1-2)で表される二価の基)中に含まれる丸括弧内に示される繰り返し単位の数、すなわち平均重合度であり、例えば2~50、好ましくは3~40、より好ましくは4~30、さらに好ましくは5~20、特に好ましくは5~10である。なお、m1およびm2の値は、GPC測定やNMRのスペクトル解析により求めることができる。
【0054】
化合物(A)1gあたりの式(r-1)で表される基のモル数(以後、「官能基濃度」と称する場合がある)は、例えば0.5×10-4~20×10-4モル/gである。上記官能基濃度の上限値は、好ましくは15×10-4モル/g、特に好ましくは10×10-4モル/gである。上記官能基濃度の下限値は、好ましくは1.0×10-4モル/g、特に好ましくは1.5×10-4モル/gである。化合物(A)の官能基濃度が上記範囲内であると、溶剤溶解性に優れ、靱性や耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。一方、官能基濃度が上記範囲を下回ると、溶剤溶解性が低下する傾向がある。また、官能基濃度が上記範囲内を上回ると、靱性に優れた硬化物を形成することが困難となる傾向がある。
【0055】
上記官能基濃度は、化合物(A)の1H-NMRスペクトルから、各ピークの面積を求め、求められた値を下記式に算入することにより得られる。
官能基濃度=[式(r-1)で表される基のピーク面積/式(r-1)で表される基のプロトン数]/Σ[(各ピーク面積/各ピークが帰属される基のプロトン数)×各ピークに対応する化学式量]
【0056】
化合物(A)の数平均分子量(Mn;標準ポリスチレン換算)は、例えば1000~15000、好ましくは1500~12000、より好ましくは2000~10000、さらに好ましくは2200~8000、特に好ましくは2500~7500である。
【0057】
化合物(A)の重量平均分子量(Mw;標準ポリスチレン換算)は、例えば1000~45000である。重量平均分子量(Mw)の下限値は、好ましくは1500、より好ましくは2500、さらに好ましくは3000、特に好ましくは4000である。重量平均分子量(Mw)の上限値は、好ましくは40000、より好ましくは35000、さらに好ましくは25000である。
【0058】
上記Mn、Mwはゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定(溶剤:クロロホルム、標準ポリスチレン換算)により求められる。化合物(A)は上記分子量を有すると、溶剤溶解性に優れる。
【0059】
化合物(A)は溶剤溶解性に優れ、溶解度は、23℃において溶剤100gに対して1g以上であることが好ましく、より好ましくは5g以上、特に好ましくは10g以上である。
【0060】
化合物(A)は溶剤溶解性に優れ、溶解度は、23℃において溶剤100gに対して1g以上であり、好ましくは5g以上、特に好ましくは10g以上である。
【0061】
化合物(A)は、例えば、下記式(2)
【化10】
(式中、D1、D2、およびLは、上記に同じ)
で表される化合物と、下記式(3)
【化11】
(式中、QおよびR3~R6は上記に同じ)
で表される化合物とを、反応させることにより製造することができる。
【0062】
上記式(2)で表される化合物のうち、例えば、下記式(2-1)で表される化合物は、下記工程[1-1]、[1-2]を経て製造することができる。
工程[1-1]:下記式(4)で表される化合物と下記式(5)で表される化合物とを、塩基の存在下で反応させることにより、下記式(6)で表される化合物を得る。
工程[1-2]:下記式(6)で表される化合物に、アミノアルコール(下記式(7)で表される化合物)を反応させる。
【0063】
【化12】
【0064】
上記式中、Ar1~Ar3、X、Y、およびnは上記に同じ。Dは連結基を示し、D1およびD2における連結基と同様の例が挙げられる。mは繰り返し単位の平均重合度であり、例えば3~50、好ましくは4~30、特に好ましくは5~20である。Zはハロゲン原子を示す。
【0065】
(工程[1-1])
上記式(4)で表される化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、2-ナフチルフェニルケト等のビスアリール化合物のハロゲン化物、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0066】
上記式(5)で表される化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールAなどが挙げられる。
【0067】
上記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基などが挙げられる。上記塩基の使用量は塩基の種類によって適宜調整することができる。例えば、水酸化カルシウム等の二酸塩基の使用量は、式(5)で表される化合物1モルに対して1.0~2.0モル程度である。
【0068】
また、この反応は溶媒の存在下で行うことができる。上記溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶剤、或いはこれらの二種以上の混合溶媒を用いることができる。
【0069】
反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。反応温度は、例えば100~200℃程度である。
【0070】
(工程[1-2])
上記式(7)で表される化合物としては、例えば、4-アミノフェノール、2-アミノ-6-ヒドロキシナフタレン、およびこれらの位置異性体や誘導体などが挙げられる。
【0071】
また、この反応は溶媒の存在下で行うことができる。溶媒としては、工程[1]において使用されるものと同様のものを使用することができる。反応温度は、例えば100~200℃程度である。
【0072】
上記硬化性組成物中の化合物(A)の含有割合は、上記硬化性組成物の総量100質量%に対して、10質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。また、上記含有割合は、例えば99質量%以下であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0073】
上記硬化性組成物中の化合物(A)の含有割合は、上記硬化性組成物中の固形分の総量(例えば、溶媒を除く各成分の総量)100質量%に対して、40質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。また、上記硬化性組成物中の化合物(A)、硬化促進剤(B)、および後述の化合物(C)の合計100質量%に対する化合物(A)の含有割合は、上記範囲内であることが好ましい。
【0074】
(硬化促進剤(B))
硬化促進剤(B)は、メタキシリレンジアミンの反応物、第4級ホスホニウム塩、カルボキシ基を有するホスホニウム塩、熱潜在性の塩基発生剤でありカルボキシ基を有する2-エチルヘキサン酸塩、第2級モノアミン、イミダゾール系化合物、および低分子量マレイミドからなる群より選択される一種以上である。
【0075】
上記メタキシリレンジアミンの反応物は、メタキシリレンジアミンと他の化合物との反応物である。上記他の化合物は、アミノ基と反応性を有する官能基を有する化合物が挙げられる。上記官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、ビニル基を含む基、エポキシ基、ハライド基などが挙げられる。上記ビニル基を含む基を有する化合物としてはスチレンが挙げられる。
【0076】
上記メタキシリレンジアミンの反応物は、下記式(B-1)で表される化合物が好ましい。
【化13】
【0077】
式(B-1)中、Raは二価の有機基を示し、naは1以上の整数を示し、nbは0または1を示す。
【0078】
上記二価の有機基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。上記炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、上記炭化水素基は、直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、またはこれらの2以上が結合した基が挙げられる。上記二価の有機基の炭素数は1~10が好ましく、より好ましくは3~8である。
【0079】
上記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアナート基、イソチオシアナート基などが挙げられる。
【0080】
aは1以上の整数を示し、好ましくは1~16、より好ましくは1~12である。
【0081】
上記式(B-1)で表される化合物としては、例えば、メタキシリレンジアミンとスチレンの付加物(商品名「ガスカミン240」(三菱瓦斯化学株式会社製)等)、メタキシリレンジアミンとエピクロルヒドリンとの付加体(商品名「ガスカミン328」(三菱瓦斯化学株式会社製)等)などが挙げられる。
【0082】
上記第4級ホスホニウム塩は、ホスホニウムカチオンおよびカウンターアニオンから構成される塩である。上記第4級ホスホニウム塩としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラ(p-トリル)ボレート等の公知乃至慣用の化合物が挙げられる。
【0083】
中でも、上記第4級ホスホニウム塩としては、下記式(B-2)で表される化合物が好ましい。
【化14】
【0084】
式(B-2)中、Rbは、炭素数1~10のアルキル基、またはアリール基を示す。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、s-ヘキシル基、t-ヘキシル基、ネオヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基等の炭素数3~10の環状アルキル基(シクロアルキル基)などが挙げられる。また、アリール基としては、例えば、フェニル基、置換フェニル基(例えば、トリル基、キシリル基、メシチル基、エチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基等)、ナフチル基などが挙げられる。Rbとしては、中でも、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数2~6のアルキル基である。
【0085】
式(B-2)中、Rcは、炭素数1~4のアルキル基を示す。炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等の炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状アルキル基が挙げられる。Rcとしては、中でも、炭素数1~3の直鎖または分岐鎖状アルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基、エチル基である。
【0086】
bおよびRcは互いに異なる基であり、Rbの炭素数はRcの炭素数よりも多いことが好ましい。
【0087】
式(B-2)中、A-は、カウンターアニオンを示す。上記カウンターアニオンとしては、公知乃至慣用のカウンターアニオンを用いることができ、特に限定されないが、酸性リン酸エステルの共役塩基が好ましい。上記酸性リン酸エステルとしては、公知乃至慣用の酸性リン酸エステルが挙げられ、特に限定されないが、例えば、リン酸モノエステル(リン酸モノアルキルエステル等)、リン酸ジエステル(リン酸ジアルキルエステル等)などが挙げられる。より具体的には、上記酸性リン酸エステルとしては、下記式(B-2a)で表される基が好ましい。
【化15】
【0088】
式(B-2a)中、Rdは、同一または異なって、炭素数1~10のアルキル基、またはアリール基を示す。Rdの具体例としては、Rbとして挙げたものと同様の基が挙げられる。式(B-2a)中のRdとしては、中でも、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状アルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基である。
【0089】
上記式(B-2)で表される化合物は、公知乃至慣用の製造方法により得ることもできるし、例えば、商品名「ヒシコーリンPX-4MP」(日本化学工業株式会社製)などの市販品を入手することもできる。
【0090】
上記カルボキシ基を有するホスホニウム塩は、ホスホニウムカチオンおよびカウンターアニオンから構成される塩であり、上記ホスホニウムカチオンおよび/または上記カウンターアニオンはカルボキシ基を有する。中でも、上記カウンターアニオンがカルボキシ基を有することが好ましい。
【0091】
中でも、上記カルボキシ基を有するホスホニウム塩としては、下記式(B-3)で表される化合物が好ましい。
【化16】
【0092】
式(B-3)中、Reは、同一または異なって、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、または、芳香環上に置換基を有していてもよいフェニル基を示す。Reとしては、中でも、炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が好ましい。上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基が好ましい。上記置換基を有していてもよいフェニル基は、フェニル基、p-トリル基が好ましい。特にReの全てが直鎖状若しくは分岐鎖状のブチル基であることが好ましい。
【0093】
式(B-3)中、A-は、カウンターアニオンを示す。上記カウンターアニオンとしては、公知乃至慣用のカウンターアニオンを用いることができ、特に限定されないが、カルボキシ基を有するアニオンが好ましい。上記カルボキシ基を有するアニオンとしては、ポリカルボン酸のアニオンが好ましい。上記ポリカルボン酸としては、脂肪族ポリカルボン酸、脂環式ポリカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸が挙げられる。中でも、脂肪族ポリカルボン酸が好ましい。上記ポリカルボン酸は、酸無水物の形態をとっていてもよい。
【0094】
上記ポリカルボン酸におけるカルボキシ基数は、例えば2~6個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個である。上記ポリカルボン酸のアニオンは、ポリカルボン酸が有する複数のカルボキシ基のうちの1以上のカルボキシ基の水素原子が外れて1価以上(典型的には1価)のカルボキシアニオンとなったものである。
【0095】
上記ポリカルボン酸のアニオンとしては、下記式(B-3a)で表される基が好ましい。
【化17】
【0096】
式(B-3a)中、Rf、Rg、Rh、およびRiは、同一または異なって、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、または有機基を示し、Rf~Riのうちの2以上は互いに結合して環を形成していてもよい。上記有機基としては、置換基を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。上記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアナート基、イソチオシアナート基などが挙げられる。
【0097】
上記式(B-3a)で表される基を形成し得る脂肪族ポリカルボン酸としては、具体的には、Rf~Riが全て水素原子であるコハク酸、Rf~Rhが水素原子でありRiがヒドロキシ基であるリンゴ酸、RfおよびRgが水素原子、Rhがヒドロキシ基、Riがカルボキシルメチル基で示されるクエン酸、RfおよびRhが水素原子、RgおよびRiがカルボキシル基であるブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸などが挙げられる。
【0098】
上記式(B-3a)で表される基を形成し得る脂環式ポリカルボン酸としては、RfおよびRgが結合した炭素原子、並びに、RhおよびRiが結合した炭素原子を構成原子とした脂環を有するポリカルボン酸が挙げられる。
【0099】
上記脂環式ポリカルボン酸としては、下記式(B-3b)で表される化合物および下記式(B-3c)で表される化合物が挙げられる。
【化18】
【0100】
上記式(B-3b)および上記式(B-3c)中、Rj、Rk、Rl、およびRmは、同一または異なって、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、または有機基を示す。上記有機基としては、置換基を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。上記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアナート基、イソチオシアナート基などが挙げられる。上記炭化水素基としては、炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が好ましい。Rnは、二価の有機基を示し、好ましくは二価の炭化水素基、より好ましくは炭素数1~4の二価の炭化水素基、特に好ましくはメチレン基またはエチレン基である。
【0101】
上記式(B-3b)で表される化合物としては、Rnがメチレン基であり、Rj~Rmの全てが水素原子である化合物、Rnがメチレン基であり、Rj~Rmのうちの1つがメチル基であり3つが水素原子である化合物が好ましい。
【0102】
上記式(B-3c)で表される化合物としては、Rj~Rmの全てが水素原子である化合物、Rj~Rmのうちの1つがメチル基であり3つが水素原子である化合物、Rj~Rmのうちの2つ(特に、RkおよびRl)がカルボキシ基であり2つが水素原子である化合物が好ましい。上記式(B-3c)において、Rj~Rmの全てが水素原子である化合物、Rj~Rmのうちの2つ(特に、RkおよびRl)がカルボキシ基であり2つが水素原子である化合物がより好ましい。
【0103】
上記芳香族ポリカルボン酸としては、下記式(B-3d)で表される化合物が挙げられる。
【化19】
【0104】
上記式(B-3d)中、Ro、Rp、Rq、およびRrは、同一または異なって、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アルキル基、またはアルコキシ基を示す。
【0105】
上記式(B-3d)で表される化合物としては、具体的には、フタル酸、4-メチルフタル酸、4-ヒドロキシフタル酸、4-アミノフタル酸、4-メトキシフタル酸などが挙げられる。
【0106】
なお、上記第4級ホスホニウム塩は上記カルボキシ基を有するホスホニウム塩に該当する化合物であってもよいし、上記カルボキシ基を有するホスホニウム塩は上記第4級ホスホニウム塩に該当する化合物であってもよい。
【0107】
中でも、上記第4級ホスホニウム塩および上記カルボキシ基を有するホスホニウム塩は、上記式(B-2)で表される化合物または上記式(B-3)で表される化合物であり、A-が上記酸性リン酸エステルの共役塩基または上記ポリカルボン酸のアニオンである化合物が特に好ましい。この場合、溶媒との相溶性に優れる傾向がある。
【0108】
上記熱潜在性の塩基発生剤でありカルボキシ基を有する2-エチルヘキサン酸塩としては、2-エチルヘキサン酸アニオンとアミジンカチオンとから構成される塩が好ましい。
【0109】
上記アミジンを形成し得るアミジンとしては、下記式(B-4)で表される化合物が挙げられる。
【化20】
【0110】
上記式(B-4)中、Cyは、式(B-4)中の1つの窒素原子と2つの窒素原子の間の炭素原子とを構成原子とする脂環を示す。上記脂環は、上記脂環を構成する炭素原子上に一価の有機基が置換していてもよい。上記脂環としては、4~8員環が好ましく、より好ましくは5~7員環である。
【0111】
上記一価の有機基としては、炭素数1~6のアルキル基(メチル、エチル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、n-ヘキシル等)、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基(ヒドロキシメチル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシイソプロピル、3-ヒドロキシ-t-ブチル、6-ヒドロキシヘキシル等)、炭素数2~12のジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ、メチルエチルアミノ、ジエチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、t-ブチルメチルアミノ、ジn-ヘキシルアミノ等)などが挙げられる。
【0112】
上記式(B-4)で表される化合物としては、具体的には、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]-ノネン-5(DBN)、1,5-ジアザビシクロ[4,4,0]-デセン-5、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7、5-ヒドロキシプロピル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7、5-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7などが挙げられる。中でも、特にDBN、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7が好ましい。
【0113】
上記熱潜在性の塩基発生剤でありカルボキシ基を有する2-エチルヘキサン酸塩の活性温度は、85~130℃が好ましく、より好ましくは90~120℃、さらに好ましくは95~110℃である。
【0114】
上記第2級モノアミンは、分子内にただ一つのアミノ基として第2級アミノ基を有するアミンである。上記第2級モノアミンとしては、2つの炭化水素基が窒素原子に結合した化合物が好ましい。上記炭化水素基としては、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基が挙げられる。上記炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数2~4のアルキル基である。上記2つの炭化水素基は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0115】
上記第2級モノアミンとしては、具体的には、N,N-ジメチルアミン、N,N-ジエチルアミン、N,N-ジプロピルアミン、N,N-ジブチルアミン、N,N-ジペンチルアミン、N,N-ジヘキシルアミン、N,N-ジヘプチルアミン、N,N-ジオクチルアミン、N,N-ジノニルアミン、N,N-ジデシルアミン、N,N-ジウンデシルアミン、N,N-ジドデシルアミン、N-メチル-N-プロピルアミン、N-エチル-N-プロピルアミン、N-プロピル-N-ブチルアミンなどが挙げられる。
【0116】
上記イミダゾール系化合物としては、下記式(B-5)で表される化合物が挙げられる。
【化21】
【0117】
上記式(B-5)中、Rs、Rt、Ru、およびRvは、同一または異なって、水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。上記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアナート基、イソチオシアナート基などが挙げられる。
【0118】
上記炭化水素基としては、炭素数1~3のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、およびこれらの2以上が結合した基が挙げられる。
【0119】
上記イミダゾール系化合物としては、具体例には、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0120】
上記低分子量マレイミドとしては、例えば、炭素数が100以下(好ましくは10~50)の化合物が挙げられる。中でも、上記低分子量マレイミドとしては、下記式(B-6)で表される化合物が好ましい。
【化22】
【0121】
上記式(B-6)中のRWは、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、またはこれらの2以上が単結合または連結基を介して結合した基を示す。
【0122】
上記連結基としては、特に限定されないが、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、スルホニル結合(-SO2-)、アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)、アシル結合(-CO-)などが挙げられる。上記直鎖状または分岐鎖状アルキレン基中の炭素数は、1~12が好ましく、より好ましくは2~8である。上記シクロアルキレン基中の炭素数は、4~6が好ましい。上記アリーレン基は、炭素数6(フェニレン基)が好ましい。
【0123】
上記式(B-6)で表される化合物としては、Rwが上記直鎖状または分岐鎖状アルキレン基である脂肪族ビスマレイミド化合物が挙げられる。上記脂肪族ビスマレイミド化合物としては、例えば、1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、1,6-ビスマレイミド-(2,4,4-トリメチル)ヘキサン、N,N'-デカメチレンビスマレイミド、N,N'-デカメチレンビスマレイミド、N,N'-オクタメチレンビスマレイミド、N,N'-ヘプタメチレンビスマレイミド、N,N'-ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N'-ペンタメチレンビスマレイミド、N,N'-テトラメチレンビスマレイミド、N,N'-トリメチレンビスマレイミド、N,N'-エチレンビスマレイミド、N,N'-(オキシジメチレン)ビスマレイミド、1,13-ビスマレイミド-4,7,10-トリオキサトリデカン、1,11-ビス(マレイミド)-3,6,9-トリオキサウンデカンなどが挙げられる。
【0124】
上記式(B-6)で表される化合物としては、Rwが上記アリーレン基を含む芳香族ビスマレイミド化合物が挙げられる。上記芳香族ビスマレイミド化合物中の芳香環の個数は特に限定されない。
【0125】
芳香環を1個有する上記芳香族ビスマレイミド化合物としては、例えば、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,3-フェニレンビスマレイミド、1,4-フェニレンビスマレイミド、1,2-フェニレンビスマレイミド、ナフタレン-1,5-ジマレイミド、4-クロロ-1,3-フェニレンビスマレイミドなどが挙げられる。
【0126】
芳香環を2個有する上記芳香族ビスマレイミド化合物としては、例えば、4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N'-(4,4'-ビフェニレン)ビスマレイミド、N,N'-(スルホニルジ-p-フェニレン)ビスマレイミド、N,N'-(オキシジ-p-フェニレン)ビスマレイミド、N,N'-(3,3'-ジメチル-4,4'-ビフェニリレン)ビスマレイミド、N,N'-(ベンジリデンジ-p-フェニレン)ビスマレイミド、3,3'-ジクロロ-4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、3,3'-ジメチル-4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4'-ジフェニルスルフィドビスマレイミド、4,4'-ジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3'-ベンゾフェノンビスマレイミド、3,3'-ジメチル-5,5'-ジエチル-4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、1,1'-[1,4-ブタンジイルビス(オキシ-p-フェニレン)]ビスマレイミドなどが挙げられる。
【0127】
芳香環を3個以上有する上記芳香族ビスマレイミド化合物としては、例えば、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-マレイミド(4-フェノキシフェニル)]スルホン、1,1’-[1,4-フェニレンビス(オキシ-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、1,1’-[スルホニルビス(4,1-フェニレンオキシ-3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、ビス[4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,1’-[オキシビス(4,1-フェニレンチオ-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、1,1’-[(2,2’,3,3’,5,5’,6,6’-オクタフルオロ[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイル)ビス(オキシ-3,1-フェニレン)]ビスマレイミドなどが挙げられる。
【0128】
上記芳香族ビスマレイミドとしては、中でも、溶媒との相溶性により優れ、また、低温硬化性により優れる観点から、下記式(B-6a)で表される化合物が好ましい。
【化23】
【0129】
上記式(B-6a)中のncは、1以上の整数を示し、好ましくは1~10の整数、より好ましくは1~5の整数である。上記式(B-6a)で表される化合物として、ncの値が異なる化合物を用いてもよく、ncの値に分布をもつ化合物を用いてもよい。
【0130】
上記低分子量マレイミドの分子量は、特に制限されないが、200~10000が好ましく、より好ましくは200~8000、さらに好ましくは250~6000である。
【0131】
上記低分子量マレイミドの融点(Tm)は、155℃以下(例えば、60~155℃)が好ましく、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは145℃以下である。融点が155℃以下であると、より低温で硬化性組成物の硬化を促進することができる。なお、上記融点は、DSC測定の吸熱ピーク温度を示す。
【0132】
上記硬化促進剤(B)は、有機求核剤であることが好ましい。上記硬化促進剤(B)としては、中でも、上記第4級ホスホニウム塩である有機求核剤を含むことが好ましい。
【0133】
上記硬化性組成物中の上記硬化促進剤(B)の含有割合は、上記硬化性組成物の総量100質量%に対して、0.03~30質量%が好ましく、より好ましくは0.07~10質量%、さらに好ましくは0.1~2質量%である。
【0134】
上記硬化性組成物中の、上記メタキシリレンジアミンの反応物、第4級ホスホニウム塩、カルボキシ基を有するホスホニウム塩、熱潜在性の塩基発生剤でありカルボキシ基を有する2-エチルヘキサン酸塩、第2級モノアミン、およびイミダゾール系化合物からなる群より選択される一種以上の含有割合は、上記硬化性組成物の総量100質量%に対して、0.03~10質量%が好ましく、より好ましくは0.07~5質量%、さらに好ましくは0.1~2質量%である。上記硬化性組成物中の上記低分子量マレイミドの含有割合は、上記硬化性組成物の総量100質量%に対して、5~40質量%が好ましく、より好ましくは10~30質量%、さらに好ましくは15~25質量%である。
【0135】
上記硬化促進剤(B)の含有量は、上記化合物(A)の総量100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましく、より好ましくは0.2~100質量部、さらに好ましくは1~50質量部である。
【0136】
上記メタキシリレンジアミンの反応物、第4級ホスホニウム塩、カルボキシ基を有するホスホニウム塩、熱潜在性の塩基発生剤でありカルボキシ基を有する2-エチルヘキサン酸塩、第2級モノアミン、およびイミダゾール系化合物からなる群より選択される一種以上の含有量は、上記化合物(A)の総量100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、より好ましくは0.2~7質量部、さらに好ましくは1~4質量部である。上記硬化性組成物中の上記低分子量マレイミドの含有量は、上記化合物(A)の総量100質量部に対して、50~200質量部が好ましく、より好ましくは70~150質量部、さらに好ましくは80~120質量部である。
【0137】
(化合物(C))
上記硬化性組成物は、さらに、ヒドラジン骨格を含むヒンダードフェノール構造を有する化合物(「化合物(C)」と称する場合がある)を含むことが好ましい。化合物(C)は、溶媒との相溶性に優れ、且つ、銅等の金属基材に硬化性組成物が適用された場合であっても上記硬化性組成物から品質の安定した硬化物を形成することができる。化合物(C)は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0138】
化合物(C)におけるヒンダードフェノール構造としては、例えば、フェノール骨格におけるヒドロキシ基のオルト位にt-ブチル基等の嵩高いアルキル基を有する構造が挙げられる。
【0139】
化合物(C)としては、下記式(C-1)で表される化合物が好ましい。
【化24】
【0140】
上記式(C-1)中、Rxは、二価の有機基を示し、好ましくは二価の炭化水素基、より好ましくはアルキレン基である。上記二価の有機基の炭素数は、1~6が好ましく、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2である。
【0141】
上記硬化性組成物中の化合物(C)の含有割合は、上記硬化性組成物の総量100質量%に対して、0.1~10質量%が好ましく、より好ましくは0.2~5質量%である。
【0142】
上記化合物(C)の含有量は、上記化合物(A)の総量100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、より好ましくは0.5~5質量部、さらに好ましくは1~3質量部である。
【0143】
(溶剤)
上記硬化性組成物は、溶剤を含有していてもよい。上記溶剤としては、公知乃至慣用の有機溶剤を使用でき、特に限定されないが、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の鎖状ケトン;シクロペンタンノン、シクロヘキサノン等の環状ケトン;ホルムアミド、アセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゾトリフルオライド、ヘキサフルオロ-2-プロパノール等のハロゲン化炭化水素;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド、ベンジルフェニルスルホキシド等のスルホキシド;テトラヒドロフラン(THF);ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;アニソール等のエーテル;およびこれらの二種以上の混合液等が挙げられる。
【0144】
上記溶剤としては、中でも、化合物(A)の発熱開始温度および上記溶剤の沸点(=常圧下における沸点)の差が大きいものが、化合物(A)の硬化反応の進行を抑制しつつ、上記溶剤を容易に揮発させることができる点で好ましい。
【0145】
上記溶剤としては、中でも、化合物(A)および硬化促進剤(B)の溶解性に優れる観点から、アニソールが好ましい。
【0146】
上記硬化性組成物は、上述の各成分以外に、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。他の成分としては公知乃至慣用の添加剤を使用することができ、例えば、化合物(A)以外の硬化性化合物、重合開始剤、触媒、フィラー、有機樹脂(シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等)、安定化剤(化合物(C)以外の酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤等)、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤等)、難燃助剤、補強材、核剤、カップリング剤、滑剤、ワックス、可塑剤、離型剤、耐衝撃性改良剤、色相改良剤、流動性改良剤、着色剤(染料、顔料等)、分散剤、消泡剤、脱泡剤、抗菌剤、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤、硬化剤、硬化促進剤(B)以外の硬化促進剤、架橋剤などが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0147】
なお、化合物(A)以外の硬化性化合物を含有する場合、硬化性化合物の総量100質量%に対する化合物(A)の割合は、60質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。また、硬化促進剤(B)以外の硬化促進剤を含有する場合、硬化促進剤の総量100質量%に対する硬化促進剤(B)の割合は、60質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。また、化合物(C)以外の酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤の総量100質量%に対する化合物(C)の割合は、60質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0148】
上記重合開始剤としてはラジカル重合開始剤が挙げられる。上記ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤および熱ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0149】
上記光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノンベンジル、ベンジルジメチルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ジメトキシアセトフェノン、ジメトキシフェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ジフェニルジサルファイト、オルトベンゾイル安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、2,4-ジエチルチオキサンソン、2-メチル-1-[4-(メチル)フェニル]-2-モルホリノプロパノン-1、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ジメチルアミノ-2-(4-モルホリノ)ベンゾイル-1-フェニルプロパン等の2-アミノ-2-ベンゾイル-1-フェニルアルカン化合物、テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ベンジル、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のアミノベンゼン誘導体、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,5,4’,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾ-ル等のイミダゾール化合物、2,6-ビス(トリクロロメチル)-4-(4-メトキシナフタレン-1-イル)-1,3,5-トリアジン等のハロメチル化トリアジン化合物、2-トリクロロメチル-5-(2-ベンゾフラン2-イル-エテニル)-1,3,4-オキサジアゾール等のハロメチルオキサジアゾール化合物などが挙げられる。また、必要に応じて、光増感剤を加えることができる。
【0150】
上記熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物や、有機過酸化物類が挙げられる。上記有機過酸化物類としては、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシケタール、ケトンパーオキサイド等(具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイル)パーオキシヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジブチルパーオキシヘキサン、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,4-ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等)などが挙げられる。
【0151】
上記硬化性組成物は、重合開始剤を使用しない場合であっても低温で硬化可能である。このため、上記硬化性組成物中の重合開始剤の含有量は、上記化合物(A)の総量100質量部に対して、2質量部以下であってもよく、1質量部以下、0.5質量部以下、0.1質量部以下、0.02質量部以下であってもよい。
【0152】
上記硬化性組成物は、60℃において沈殿物や不溶物がないことが好ましい。また、常温(例えば25℃)において沈殿物や不溶物がないことが特に好ましい。
【0153】
上記硬化性組成物は、酸素存在下、300℃以下(好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下)で硬化開始可能であることが好ましい。すなわち、発熱開始温度が上記範囲内であることが好ましい。
【0154】
上記硬化性組成物は、溶剤溶解性に優れ、酸素存在下で低温での硬化が可能である。このため、上記硬化性組成物を硬化させる設備面や生産性の点で適用幅が広く、あらゆる状況下で使用することができる。また、上記硬化性組成物は銅等の金属基材と接触させて硬化した場合であっても、硬化物の品質(誘電率、ガラス転移温度、可撓性、密着性等)が不安定になりにくい。このため、上記硬化性組成物は、適用する基材の種類に限定されることなく、多種の基材に対して塗工することができる。
【0155】
上記硬化性組成物は、上述の各成分を混合し、例えば80℃以下の温度、好ましくは室温(25℃程度~80℃)、特に好ましくは50~70℃で加熱・撹拌することで調製することができる。
【0156】
上記硬化性組成物は、加熱処理を施すことにより化合物(A)同士が反応することで硬化して、硬化物を形成する。加熱処理を施す前に、乾燥処理を施して溶剤を揮発させる工程を設けてもよい。また、加熱処理は、常圧下で行うこともできるし、減圧下または加圧下で行うこともできる。また、加熱処理は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいが、上記硬化性組成物は酸素存在下でも硬化が充分に進行するので、酸素存在下等の空気雰囲気下で行うことが好ましい。
【0157】
加熱処理温度は、特に限定されないが、上記硬化性組成物は低温での硬化が可能である観点から、300℃以下(例えば60~300℃)が好ましく、より好ましくは250℃以下(例えば80~250℃)、さらに好ましくは200℃以下(例えば100~200℃)である。なお、加熱は温度を一定に保持した状態で行ってもよく、段階的に変更して行ってもよい。加熱温度は加熱時間に応じて適宜調整することができる。加熱手段は特に限定されることがなく、公知乃至慣用の手段を利用することができる。
【0158】
さらに、上記硬化性組成物は硬化反応を中途で一旦停止して、半硬化物(Bステージ)を形成することもできる。半硬化物は、加熱により一時的に流動性を発現し、段差を有する基板の上記段差に追従させることができる。また、さらに加熱処理を施すことにより、超耐熱性、難燃性、および良好な誘電特性を有する硬化物を形成することができる。
【0159】
上記半硬化物の硬化度は、例えば85%以下(例えば10~85%、特に好ましくは15~75%、さらに好ましくは20~70%)である。
【0160】
なお、半硬化物の硬化度は、硬化前(未硬化)の硬化性組成物の発熱量、およびその半硬化物の発熱量をDSCにより測定し、以下の式から算出できる。
硬化度(%)=[1-(半硬化物の発熱量/未硬化の硬化性組成物の発熱量)]×100
【0161】
上記硬化性組成物の硬化物は耐熱性に優れ、昇温速度10℃/分(窒素中)で測定される5%重量減少温度(Td5)は、例えば300℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、さらに好ましくは450℃以上である。5%重量減少温度(Td5)の上限は、例えば600℃、好ましくは550℃、特に好ましくは530℃である。なお、5%重量減少温度は、TG/DTA(示差熱・熱重量同時測定)により測定できる。
【0162】
従って、上記硬化性組成物は、周知慣用の成形方法により成形し、その後(必要に応じて、乾燥処理を施し)加熱処理を施すことにより、上記硬化性組成物の硬化物若しくは半硬化物からなる成形体を製造することができる。
【0163】
上記硬化性組成物は、例えば、電子情報機器、家電、自動車、精密機械、航空機、宇宙産業用機器、エネルギー分野(油田掘削パイプ/チューブ、燃料容器)等の過酷な環境温度条件下で使用される複合材(繊維強化プラスチック、プリプレグ等)の成形材料や、遮蔽材料、伝導材料(例えば、熱伝導材料等)、絶縁材料、接着剤(例えば、耐熱性接着剤等)などの機能材料として好ましく使用することができる。その他、封止剤、塗料、インク、シーラント、レジスト、造形材、形成材[スラストワッシャー、オイルフィルター、シール、ベアリング、ギア、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナー、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品;基材、電気絶縁材(絶縁膜等)、積層板、電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池基板、光導波路、導光板、ホログラフィックメモリ、シリコンウェハキャリアー、ICチップトレイ、電解コンデンサトレイ、絶縁フィルム等の半導体・液晶製造装置部品;レンズ等の光学部品;ポンプ、バルブ、シール等のコンプレッサー部品;航空機のキャビン内装部品;滅菌器具、カラム、配管等の医療器具部品や食品・飲料製造設備部品;パーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材等の形成材]などとして好ましく使用できる。
【0164】
[硬化物]
上記硬化性組成物を成形し、必要に応じて乾燥することにより、上記硬化性組成物の固化物(好ましくは、化合物(A)の固化物)に所望の形状を付与することができ、上記固化物からなる成形体が得られる。上記固化物からなる成形体は、加熱により一時的に流動性若しくは接着性を発現し、二次成形や他の部材との接着が可能となる。また、所望の形状が付与された固化物を加熱処理に付すと、上記硬化性組成物の硬化物若しくは半硬化物(好ましくは、化合物(A)の硬化物若しくは半硬化物)からなる成形体が得られる。なお、成形体の形状は特に制限がなく、用途に応じた形状を適宜選択することができる。
【0165】
[絶縁電線]
上記硬化性組成物は、特に、硬化して導体線を被覆する絶縁膜として使用されることが好ましい。これにより、導体線と、上記導体線を被覆する絶縁膜とを備える絶縁電線を得ることができる。
【0166】
上記絶縁膜は上記硬化性組成物の硬化物を含む。上記絶縁膜全量において、化合物(A)の硬化物の占める割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。なお、上記割合の上限は100重量%である。すなわち、上記絶縁膜は化合物(A)の硬化物のみからなるものであってもよい。
【0167】
上記絶縁膜は、例えば、上記導体線の表面に上記硬化性組成物を塗布し、得られた塗膜を焼成することで得られる。
【0168】
上記硬化性組成物の上記導体線への塗布方法は、公知乃至慣用の塗布方法が使用でき、例えば、ディップコーティング法などが挙げられる。ディップコーティング法は、上記硬化性組成物に導体線を浸漬して、導体線の表面に硬化性組成物を付着させ、塗膜を形成する方法である。
【0169】
導体線へ塗布する際は、硬化性組成物の温度を、化合物(A)の発熱開始温度より低い温度に保持することが好ましい。上記温度では、化合物(A)の硬化反応が進行しないので、硬化性組成物の増粘を抑制しつつ導体線へ塗布することができ、均一な厚さの塗膜を形成することができる。
【0170】
また、硬化性組成物の導体線への塗布は、塗膜の厚さが所望の厚さとなるまで、複数回繰り返し行うことができる。化合物(A)は、硬化の際に水を生成しない。そのため、所望の厚さとなるまで塗膜を積層してから焼成しても、水が原因のボイドやピンホールが発生することがない。また、塗膜を積層してから焼成すると、焼成の回数を減らすことができ、省電力、省エネである。なお、硬化性組成物の塗布後は、次の塗布までの間に、塗膜を乾燥させることが好ましい。塗膜の乾燥は、例えば、室温を超え、化合物(A)の発熱開始温度未満の温度で加熱することにより行うことができる。
【0171】
乾燥後の塗膜は、焼成することにより、詳細には、化合物(A)の発熱開始温度以上の温度で加熱して焼成することにより、化合物(A)の硬化を開始させることができ、化合物(A)の硬化物を含む絶縁膜を形成することができる。
【0172】
上記導体線は、導電性を有する素材で形成された配線である。上記導電性を有する素材としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどが挙げられる。中でも、高い導電性が得られる点で銅が好ましい。従って、導体線としては、銅線が好ましい。上記導体線は、その表面に腐食を抑制するためのメッキ層(例えば、スズメッキ層)を有していてもよい。
【0173】
上記導体線の直径は、例えば0.5~2.0mmである。上記導体線の横断面形状としては、特に制限されることがなく用途に応じて適宜選択することができ、例えば、円形状、矩形状、正方形状などが挙げられる。
【0174】
上記硬化物(または上記絶縁膜)の10GHzでの比誘電率は、例えば2.70以下、好ましくは2.65以下、さらに好ましくは2.60以下である。なお、上記比誘電率の下限値は、例えば2.20である。上記比誘電率が上記範囲内であると、上記絶縁膜は優れた絶縁特性を有する。
【0175】
上記絶縁膜は絶縁特性に優れるため、絶縁膜は薄くても(例えば、厚さが30μm以下であっても)、充分な絶縁機能を発揮することができる。なお、上記絶縁膜の厚さの下限値は、例えば10μmである。
【0176】
[コイル]
上記絶縁電線を用いてコイルを得ることができる。上記コイルは、上記絶縁電線を備える。より詳細には、上記コイルは上記絶縁電線が巻回された構成を有する。上記コイルは、電子・電気機器[例えば、モーター(例えば、ハイブリッド車や電気自動車のモーター等)や発電機等の、電気エネルギーと機械エネルギーの変換装置を備える機器]などにおいて好ましく使用される。
【0177】
上記絶縁電線が備える絶縁膜は絶縁特性に優れ、薄化しても高い絶縁性を担保することができる。従って、上記コイルは、絶縁膜を薄化することで、絶縁特性を保持しつつ、小型化、軽量化を実現することができる。また、上記絶縁電線は、絶縁膜と導体線の密着性が高く、コイル巻回時の負荷によって剥離することがないので、上記絶縁電線を含む上記コイルは、電気特性に高い信頼性を有する。
【0178】
[ケーブル]
上記絶縁電線を用いてケーブルを得ることができる。上記ケーブルは、上記絶縁電線を含む。より詳細には、上記ケーブルは上記絶縁電線の1本または複数本が束ねられ、その表面に保護外被覆(=シース)が施された構成を有する。上記ケーブルは、電子・電気機器の接続部品(例えば、スマートフォン等の充電器のコード、電子機器のLANケーブル、家電製品のコード等)として好ましく使用することができる。
【0179】
上記絶縁電線が備える絶縁膜は、絶縁特性に優れ、薄化しても高い絶縁性を担保することができる。従って、上記ケーブルは、絶縁膜を薄化することで、絶縁特性を保持しつつ、小型化、軽量化を実現することができる。また、上記絶縁電線は、絶縁膜と導体線の密着性が高いので、上記ケーブルは電気特性に高い信頼性を有する。
【0180】
さらに、上記ケーブルを備える電子・電気機器も、電気特性に高い信頼性を有する。上記電子・電気機器は、例えば、コード、LANケーブル等の接続部品を備える機器であり、スマートフォン等の充電器、上記充電器を含むスマートフォン等の電子機器、家電製品などが挙げられる。
【0181】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0182】
以下、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0183】
調製例1(化合物(1-1)の調製)
(工程1-1)
撹拌装置、窒素導入管、およびディーンスターク装置を備えた反応器に、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを37.25g、ビスフェノールAを32.48g、無水炭酸カリウムを29.50g、N-メチルピロリドンを214.4g、およびトルエンを90.4g入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら加熱し、130~140℃で4時間トルエンを還流させた。その後、さらに加熱して170~180℃でトルエンを留去した。さらに、170~180℃で10時間撹拌を継続した後、室温に戻した。
【0184】
(工程1-2)
その後、反応生成物が入った反応器に、4-アミノフェノールを6.520g、無水炭酸カリウムを8.260g、N-メチルピロリドンを27.9g、およびトルエンを117.4g添加し、再び窒素雰囲気下で撹拌しながら加熱し、130~140℃で3時間トルエンを還流させた。その後、加熱して170~180℃でトルエンを留去し、さらに上記温度を保持しつつ4時間撹拌を継続した。その後、室温まで冷却し、反応液を3000mLのメタノールに添加、ろ過することで粉末状固体を得た。この粉末状固体をメタノールおよび水で繰返し洗浄した後、80℃で一晩減圧乾燥して、粉末状固体のジアミン-1(Diamine-1、下記式で表される化合物)を得た。
【0185】
【化25】
【0186】
(工程2)
撹拌装置、窒素導入管、およびディーンスターク装置を備えた反応器に、工程1-2で得られたジアミン-1を49.70g、無水マレイン酸を6.03g、N-メチルピロリドンを316.0g、およびトルエンを178.3g入れ、窒素雰囲気下、室温で5時間撹拌した。その後、触媒としてp-トルエンスルホン酸を1.086g添加し、140℃に昇温した後、8時間撹拌を継続し、トルエンを還流させて水分を除去した。反応液を室温に戻した後、反応液を3000mLのメタノールに添加することで粉末状固体を得た。この粉末状固体をメタノールおよび水で繰返し洗浄した後、80℃で一晩減圧乾燥して、化合物(1-1)(下記式(1-1)で表される化合物)48.8gを得た。
【0187】
【化26】
【0188】
得られた化合物(1-1)について、1H-NMRスペクトルのシグナルの積分強度比から、官能基濃度を算出した。また、GPC測定により数平均分子量および重量平均分子量を求めた。さらに、DSC測定により発熱開始温度を求め、TGA測定により5%熱重量減少温度(Td5)を求めた。その結果、官能基濃度は587.3μmol/g、数平均分子量は3500、重量平均分子量は5900、発熱開始温度は268℃、Td5は515℃であった。
【0189】
なお、測定は下記条件で行った。
<NMR測定>
測定装置:JEOL ECA500、またはBRUKER AVANCE600MHz
測定溶剤:重DMSO、重クロロホルム、または重クロロホルム/ペンタフルオロフェノール=2/1(wt/wt)の混合液
化学シフト:TMSを規準とした
<GPC測定>
装置:ポンプ「LC-20AD」(株式会社島津製作所製)
検出器:RID-10A(株式会社島津製作所製)またはMODEL302TDA(Viscotek製)、およびUV2501(Viscotek製)
溶剤:THFまたはクロロホルム
カラム:(Shodex KF-803)×1,(Shodex KF802)×1,および(Shodex KF801)×2
流速:1.0mL/min
温度:40℃
試料濃度:0.1%(wt/vol)
標準ポリスチレン換算
<DSC測定>
装置:DSC 6200(セイコーインスツル株式会社製)
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素雰囲気
<TGA測定>
装置:TG/DTA 6200(セイコーインスツル株式会社製)
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素雰囲気
<DMA測定>
装置:DMA 7100(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
昇温速度:5℃/min
測定周波数:1Hz
【0190】
実施例および比較例
上記調製例1で得られた化合物(1-1)、溶媒としてのアニソール、および各表に示す成分(有機求核剤、酸化防止剤など)を、各表に示す配合量で混合し1.5時間撹拌して、各例の硬化性組成物を調製した。なお、混合および撹拌時の温度は、まずは室温で行い、各成分に一部溶け残りや沈殿物がある場合は60℃で行った。
【0191】
<評価>
実施例および比較例で作製した硬化性組成物について、以下の評価を行った。
【0192】
(1)アニソール相溶性
硬化性組成物の調製時におけるアニソール相溶性を以下の評価基準に従って評価した。結果を表に示した。
[評価基準]
○:室温撹拌で各成分が完全溶解した。
△:60℃加熱撹拌後において一部溶け残りや沈殿物があった。
×:60℃加熱撹拌後においてほとんど不溶または分散しなかった。
【0193】
(2)発熱開始温度
硬化性組成物の発熱開始温度について溶媒を除去した後、DSC測定を行った。そして、発熱開始温度を以下の評価基準に従って評価した。結果を表に示した。なお、上記アニソール相溶性の評価が劣る例の一部については評価を行わず、表中「-」で示した。
[評価基準]
◎:200℃以下で発熱開始が認められ、完全硬化した。
○:200℃超250℃以下で発熱開始が認められ、完全硬化した。
△:250℃超300℃以下で発熱開始が認められ、完全硬化した。
×1:300℃以下で発熱開始が認められなかった。
×2:発熱開始後、反応が失活した。
【0194】
(3)硬化性
硬化性組成物を、硬化後の厚さ40μmとなるようにアプリケータを用いて基材上に塗工し塗膜を形性した。なお、基材としては、ガラス板(市販フロートガラス、厚さ4mm)、アルミ箔(商品名「アルミタフシート」、200角、アズワン株式会社製)または銅板(市販無酸素銅、厚さ1mm)を用いた。そして、塗膜を形成した上記基材を250℃で保管し、溶媒の除去および硬化を行い、硬化物を形成した。使用した基材の種類、硬化時間、および硬化雰囲気は表4に示すとおりである。
【0195】
(4)ガラス転移温度および残発熱
上記硬化性の評価において形成した硬化物について、基板上から上記硬化物を単離し、DMA測定(動的粘弾性測定)またはDSC(示差走査熱量計)測定を行った。フィルム上の硬化物についてはDMA測定に、銅板上の硬化物についてはDSC測定にそれぞれ付した。
DMA測定は、固体粘弾性測定装置(製品名「DMA7100」、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、空気雰囲気下、昇温速度5℃/分、測定温度範囲25~400℃、変形モード:引張、周波数1Hzの条件で測定した。DSC測定は、示差走査熱量測定装置(商品名「DSC6200」、(セイコーインスツル株式会社製)を用い、窒素気流下、昇温速度10℃/分、測定温度範囲30~400℃の条件で測定した。そして、得られた温度熱履歴変化曲線の変曲点をガラス転移温度、ガラス転移温度~400℃間の発熱を残発熱とした。ガラス転移温度および残発熱について以下の評価基準に従って評価した。結果を表に示した。
[ガラス転移温度の評価基準]
○:160℃以上
×:160℃未満
[残発熱の評価基準]
○:5mJ/mg未満
×:5mJ/mg以上
【0196】
【表1】
【0197】
【表2】
【0198】
【表3】
【0199】
【表4】
【0200】
表に示す各成分は以下の通りである。
<有機求核剤>
ガスカミン240:商品名「ガスカミン240」、三菱瓦斯化学株式会社製、メタキシリレンジアミンとスチレンの付加物
PX-4MP:商品名「ヒシコーリンPX-4MP」、日本化学工業株式会社製、トリ-n-ブチルメチル ホスホニウムジメチルホスファイト
TBP-3S:商品名「TBP-3S」、北興産業株式会社製、テトラブチルホスホニウム 2-カルボキシシクロヘキサンカルボキシレート
U-CAT SA-102:商品名「U-CAT SA-102」、サンアプロ株式会社製、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7の2-エチルヘキサン酸塩
ガスカミン328:商品名「ガスカミン328」、三菱瓦斯化学株式会社製、メタキシリレンジアミンとエピクロルヒドリンとの付加体
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール
1B2MZ:1-ベンジル-2-メチルイミダゾール
U-CAT 3512T:商品名「U-CAT 3512T」、サンアプロ株式会社製、芳香族ウレア
U-CAT 3513N:商品名「U-CAT 3513N」、サンアプロ株式会社製、脂肪族ウレア
U-CAT SA-1:商品名「U-CAT SA-1」、サンアプロ株式会社製、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7のフェノール塩
DMAc:ジメチルアセトアミド
4,4’-DAS:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、三井化学ファイン株式会社製
3,3’-DAS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、三井化学ファイン株式会社製
<マレイミド>
BMI-2300:商品名「BMI-2300」、大和化成工業株式会社製、フェニルメタンマレイミド、式(B-6a)で表される化合物
<金属不活性剤・酸化防止剤>
Irganox MD 1024:商品名「Irganox MD 1024」、BASFジャパン株式会社製、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド、式(C-1)で表される化合物
CDA-10:商品名「アデカスタブ CDA-10」、株式会社ADEKA製、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド、式(C-1)で表される化合物
CDA-1M:商品名「アデカスタブ CDA-1M」、株式会社ADEKA製
CDA-6:商品名「アデカスタブ CDA-6」、株式会社ADEKA製
<ラジカル発生剤>
パークミルD:商品名「パークミルD」、日油株式会社製
パークミルZ:商品名「パークミルZ」、日油株式会社製
パーヘキサHC:商品名「パーヘキサHC」、日油株式会社製
<密着性・耐熱性付与剤>
タナックP:商品名「タナックP」、四国化成工業株式会社製
VD-5:商品名「VD-5」、四国化成工業株式会社製
MA-DGIC:商品名「MA-DGIC」、四国化成工業株式会社製
TEPIC-VL:商品名「TEPIC-VL」、四国化成工業株式会社製
TAIC:商品名「TAIC」、四国化成工業株式会社製
TG-G:商品名「TG-G」、四国化成工業株式会社製
DAG-G:商品名「DAG-G」、四国化成工業株式会社製
【0201】
表1に示す通り、実施例の硬化性組成物は、硬化性化合物および硬化促進剤のアニソールに対する相溶性に優れ、また空気雰囲気下での発熱開始温度が低かった。このため、実施例の硬化性組成物は、溶剤溶解性に優れ、酸素存在下で低温での硬化が可能であると評価された。一方、表2,3に示す通り、硬化促進剤(B)以外の硬化促進剤を用いた場合、アニソールに対する相溶性が悪く(比較例4~6,11~16)、あるいは、発熱開始温度が高い(比較例7~10,13,14,17~19)と評価された。また、硬化促進剤(B)にラジカル発生剤を使用した場合、発熱開始が認められたものの失活した(比較例1~3)。
【0202】
また、表4に示す通り、実施例5,6の硬化性組成物は銅板に対して硬化物を形成した場合であってもガラス転移温度および残発熱が高く、品質の安定性に優れ、多種の基板に使用可能であると評価された。一方、比較例1の硬化性組成物は、窒素雰囲気下ではガラス転移温度および残発熱が高かったものの、空気雰囲気下では残発熱が低く使用不可であると評価された。なお、比較例1の硬化性組成物の空気雰囲気下での硬化物は非常に脆くDMA測定を行うことができず、ガラス転移温度を測定することができなかった。
【0203】
以下、本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]下記化合物(A)と下記硬化促進剤(B)とを含む硬化性組成物。
化合物(A):下記式(1)で表される化合物
【化1】
[式中、R1およびR2は、同一または異なって、下記式(r-1)
【化2】
[式中、QはCまたはCHを示す。式中の2個のQは単結合または二重結合を介して結合する。R3~R6は同一または異なって水素原子または炭化水素基を示す。R3およびR4は互いに結合して環を形成していてもよい。n’は0以上の整数を示す。式中の波線を付した結合手はD1またはD2に結合する]
で表される基を示す。D1およびD2は、同一または異なって、単結合または連結基を示す。Lは、下記式(I)で表される構造と下記式(II)で表される構造とを含む繰り返し単位を有する二価の基を示す]
【化3】
(式中、Ar1~Ar3は、同一または異なって、芳香環の構造式から2個の水素原子を除いた基、または2個以上の芳香環が単結合若しくは連結基を介して結合した構造式から2個の水素原子を除いた基を示す。Xは-CO-、-S-、または-SO2-を示し、Yは、同一または異なって、-S-、-SO2-、-O-、-CO-、-COO-、または-CONH-を示す。nは0以上の整数を示す)
硬化促進剤(B):メタキシリレンジアミンの反応物、第4級ホスホニウム塩、カルボキシ基を有するホスホニウム塩、熱潜在性の塩基発生剤でありカルボキシ基を有する2-エチルヘキサン酸塩、第2級モノアミン、イミダゾール系化合物、および低分子量マレイミドからなる群より選択される一種以上
[付記2]前記硬化促進剤(B)は前記第4級ホスホニウム塩である有機求核剤を含む付記1に記載の硬化性組成物。
[付記3]さらに、ヒドラジン骨格を含むヒンダードフェノール構造を有する化合物(C)を含む付記1または2に記載の硬化性組成物。
[付記4]前記硬化性組成物中の前記硬化促進剤(B)の含有割合は0.1~2質量%である付記1~3のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
[付記5]酸素存在下、200℃以下で硬化開始可能である付記1~4のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
[付記6]硬化して導体線を被覆する絶縁膜として使用される付記1~5のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
[付記7]導体線と、前記導体線を被覆する付記6に記載の硬化性組成物の硬化物である絶縁膜とを備える絶縁電線。
[付記8]付記7に記載の絶縁電線を含むコイル。
[付記9]付記8に記載のコイルを備えるモーター。
[付記10]付記8に記載のコイルを備える発電機。
[付記11]付記8に記載のコイルを備える電子・電気機器。
[付記12]付記7に記載の絶縁電線を含むケーブル。
[付記13]付記12に記載のケーブルを備える電子・電気機器。