(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047327
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】距離画像センサ
(51)【国際特許分類】
G01S 7/497 20060101AFI20240329BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G01S7/497
G02B26/10 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152883
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孟真
(72)【発明者】
【氏名】石川 智之
【テーマコード(参考)】
2H045
5J084
【Fターム(参考)】
2H045AB13
2H045BA14
5J084AA04
5J084AA05
5J084AB01
5J084AD01
5J084BA20
5J084BA34
5J084BA36
5J084BA50
5J084BB28
5J084CA03
5J084CA31
5J084CA70
5J084DA07
5J084DA09
5J084EA20
(57)【要約】
【課題】生成した距離画像に基づいて、距離画像センサ自身が異常を検出する。
【解決手段】測距部111は、画素に対応する方向にある対象物Jまでの距離と、その対象物Jに反射された反射光の光量とを特定する。駆動部112は、メモリ12に記憶されたタイミングデータに基づいて走査部17を駆動し、投光部16から投光される光の進行方向を変化させる。検出部113は、測距部111が生成した距離画像を取得して、これに基づいて距離画像センサ1に生じている異常を検出する。通知部114は、検出部113が検出した異常を、通信回線3経由で端末2に通知する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に向けて光を所定のパターンで走査させ該対象物から反射光を受光して距離画像を生成し、1フレーム内の前記距離画像における画素の分布が所定条件を満たさない場合に異常を通知する距離画像センサ。
【請求項2】
前記所定のパターンはリサージュパターンである請求項1に記載の距離画像センサ。
【請求項3】
前記距離画像において所定距離未満に存在する対象物を示す近距離画素のばらつきが基準を超えている場合に異常を通知する請求項1又は2に記載の距離画像センサ。
【請求項4】
前記近距離画素のうち、上下左右のいずれも連結していない孤立画素、及び/又は、上下左右のいずれかで連結し、大きさが閾値未満の連結成分の割合が基準を超えている場合に異常を通知する請求項3に記載の距離画像センサ。
【請求項5】
前記近距離画素のうち所定光量以上の画素のばらつきが基準を超えている場合に異常を通知する請求項3に記載の距離画像センサ。
【請求項6】
受光した前記反射光を示す信号を増幅させる回路を有し、前記回路から出力された信号を用いて前記距離画像を生成し、前記回路に入力される前の信号から前記近距離画素を抽出する請求項3に記載の距離画像センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離画像センサの異常検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるTOF(Time of Flight)方式は、照射した光が対象物に当たって反射光として戻るまでの時間を用いて対象物までの距離を測定する方式である。TOF方式の距離画像センサは、対象空間を二次元走査して、その空間に存在する対象物を距離画像として捉える。この距離画像センサは、正確な距離画像を得るために、光の走査方向を高精度で制御する必要がある。そこで、走査方向に著しい誤差が生じた場合に、測距装置自身が故障している、と診断する技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、測定対象に向けて走査させる電磁波の通過範囲のうち少なくとも一部に透過反射を切り替える切替機構を設け、その切替機構による測距状態の変化に基づき故障の診断を行う測距装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、測距装置の内部に故障診断用の切替機構を用意しているので、この切替機構に対応する画素の確認しかできない。また、切替機構を別途設けるために生産コストが増大する。また、こういった切替機構は、既存の測距装置に新たに設けることが難しい場合もある。
【0006】
本発明の目的の一つは、生成した距離画像に基づいて、自身の異常を検出する距離画像センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、対象物に向けて光を所定のパターンで走査させ該対象物から反射光を受光して距離画像を生成し、1フレーム内の前記距離画像における画素の分布が所定条件を満たさない場合に異常を通知する距離画像センサ、を第1の態様として提供する。
【0008】
第1の態様の距離画像センサによれば、距離画像センサは、生成した距離画像に基づいて、自身の異常を検出することができる。
【0009】
第1の態様の距離画像センサにおいて、前記所定のパターンはリサージュパターンである、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0010】
第2の態様の距離画像センサによれば、ラスター走査と異なる走査のパターンとして、リサージュパターンが採用される。
【0011】
第1又は第2の態様の距離画像センサにおいて、前記距離画像において所定距離未満に存在する対象物を示す近距離画素のばらつきが基準を超えている場合に異常を通知する、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0012】
第3の態様の距離画像センサによれば、所定距離未満に存在する対象物を示す近距離画素が基準を超えてばらついている場合に異常が通知される。
【0013】
第3の態様の距離画像センサにおいて、前記近距離画素のうち、上下左右のいずれも連結していない孤立画素、及び/又は、上下左右のいずれかで連結し、大きさが閾値未満の連結成分の割合が基準を超えている場合に異常を通知する、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0014】
第4の態様の距離画像センサによれば、所定距離未満に存在する対象物を示す近距離画素のうち、孤立画素、及び/又は、大きさが閾値未満の連結成分の割合が基準を超えている場合に異常が通知される。
【0015】
第3の態様の距離画像センサにおいて、前記近距離画素のうち所定光量以上の画素のばらつきが基準を超えている場合に異常を通知する、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0016】
第5の態様の距離画像センサによれば、近距離画素であっても所定光量未満の画素は、異常の判定から除外される。
【0017】
第3の態様の距離画像センサにおいて、受光した前記反射光を示す信号を増幅させる回路を有し、前記回路から出力された信号を用いて前記距離画像を生成し、前記回路に入力される前の信号から前記近距離画素を抽出する、という構成が第6の態様として採用されてもよい。
【0018】
第6の態様の距離画像センサによれば、信号が増幅される回路により距離画像が生成され、かつ、この回路に入力される前の信号を用いて異常が判定される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る異常通知システム9の構成の例を示すブロック図。
【
図6】距離画像センサ1の機能的構成の例を示す図。
【
図9】連結成分・孤立画素の数を説明するための図。
【
図10】距離画像センサ1の動作の流れの例を示すフロー図。
【
図11】位相ずれ判定の動作の流れの例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
<異常通知システムの構成>
図1は、本発明の実施形態に係る異常通知システム9の構成の例を示すブロック図である。
図1に示す異常通知システム9は、距離画像センサ1、端末2、及び通信回線3を有する。これらの構成は、異常通知システム9において、いずれも複数であってもよいし、1つであってもよい。
【0021】
距離画像センサ1は、空間に存在する対象物Jに向けて照射した光の反射光を用いてTOF方式で対象物Jを含む距離画像を生成する距離画像センサである。
【0022】
通信回線3は、有線又は無線により距離画像センサ1と端末2とを通信可能に接続する回線である。通信回線3は、例えばLAN(Local Area Network)のほか、WAN(Wide Area Network)であってもよいし、インターネットであってもよいし、これらの組合せであってもよい。また、通信回線3は、公衆交換通信網(PSTN:Public Switched Telephone Networks)、サービス統合デジタル網(ISDN:Integrated Services Digital Network)等を含むものでもよい。
【0023】
端末2は、距離画像センサ1と通信回線3経由で通信可能に接続され、距離画像センサ1が自身の異常を検出すると距離画像センサ1からメッセージを受信し、その旨をユーザに通知する情報処理装置である。
【0024】
<距離画像センサの構成>
図2は、距離画像センサ1の構成の例を示す図である。距離画像センサ1は、プロセッサ11、メモリ12、通信部13、投光部16、走査部17、受光部18、及び慣性計測部19を有する。これらは、バスにより相互に通信可能に接続されている。
【0025】
メモリ12は、プロセッサ11に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のコンピュータプログラム(以下、単にプログラムという)、データ等を記憶する記憶手段である。メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)を有する。なお、メモリ22は、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等を有してもよい。
【0026】
このメモリ22は、上述したデータとして、光を投光するタイミングを示すタイミングデータを記憶する。このタイミングデータは、破損する可能性があるデータである。
【0027】
プロセッサ11は、メモリ12からプログラムを読出して実行することにより距離画像センサ1を制御する。プロセッサ11は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。また、プロセッサ11は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)であってもよいし、FPGAを含んでもよい。また、このプロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又は他のプログラマブル論理デバイスを有し、これらによって制御を行ってもよい。
【0028】
通信部13は、有線又は無線により距離画像センサ1を、通信回線3経由で端末2に通信可能に接続する通信回路である。この通信部13は、端末2の他に各種の外部装置を距離画像センサ1に接続してもよい。
【0029】
慣性計測部19は、IMU(inertial measurement unit)とも呼ばれ、三次元空間における角速度と加速度を測定する装置である。この慣性計測部19は、例えば、三軸のジャイロスコープ及び三方向の加速度センサを備える。この慣性計測部19は、距離画像センサ1の角速度と加速度を測定し、これらの測定値をプロセッサ11に供給する。プロセッサ11は、供給されたこれらの測定値を用いて距離画像センサ1の傾きを特定する。特定したこの傾きは、投光部16、走査部17、及び受光部18により生成される距離画像を点群に変換する際に用いられる。
【0030】
投光部16は、空間に向けて、例えば、近赤外パルスレーザー等の光を投光する。投光部16は、光源として例えば、LED(light emitting diode)を有する。投光部16から投光される光の進行方向は、走査部17によって周期的に変化される。
【0031】
受光部18は、投光部16から投光された光が対象物Jに当たって反射し、戻ってくる反射光を受光する。受光部18は、フォトダイオード(Photodiode)等の受光素子、又は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等の撮像素子を備える。
【0032】
走査部17は、投光部16による光の進行方向を周期的に変化させることにより、この光を対象物Jに向けて所定のパターンで走査させるデバイスである。この走査部17は、リサージュパターンを用いて二次元走査を行う。
【0033】
<走査部の構成>
図3は、走査部17の機械的構成の例を示す図である。走査部17は、内側可動部171、内側トーションバー172、外側可動部173、外側トーションバー174、及び支持部175を有する。また、走査部17は、支持部175の上下、左右にそれぞれ永久磁石(
図3において図示せず)を配置している。
【0034】
走査部17は、プロセッサ11の制御の下、永久磁石による磁場の中を図示しない2系統のコイルにそれぞれ決められた周期で交流電流を流す。この電流によりローレンツ力が生じるため、内側トーションバー172及び外側トーションバー174は、それぞれの周期で揺動する。そして、この揺動を受けて内側可動部171に設けられたミラーは、決められたパターン(この場合、リサージュパターン)で動く。その結果、投光部16からこのミラーに向けて投光された光の進行方向は、リサージュパターンに応じて変化し、二次元走査が行われる。
【0035】
図4は、二次元走査のパターンの例を示す概念図である。
図4の(a)には、矩形の一辺に平行な主走査方向を進み、末端に到達すると画素に相当する距離だけ副走査方向に進むとともに主走査方向を先端に戻すパターンが示される。
図4の(a)に示すパターンは、ラスターパターンともいう。
【0036】
本発明に係る距離画像センサ1は、ラスターパターンと異なるパターンを二次元走査のパターンとして採用する。実施形態における距離画像センサ1は、ラスターパターンと異なるパターンとしてリサージュパターンを採用する。
図4の(b)には、リサージュパターンの例が示されている。なお、このリサージュパターンは、走査の方向を概念的に説明するため簡略化されている。
【0037】
リサージュパターンは、ラスターパターンと異なり、矩形平面で表される二次元を縦軸、横軸のいずれにも平行でない斜めの方向に走査するパターンである。この斜めの方向とは、矩形内部を格子状に区切った画素で構成される画像における斜めの方向に対応する。
【0038】
<端末の構成>
図5は、端末2の構成の例を示す図である。
図5に示す端末2は、プロセッサ21、メモリ22、通信部23、操作部24、及び表示部25を有する。これらの構成は、例えばバスで、互いに通信可能に接続されている。
【0039】
メモリ22は、プロセッサ21に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する記憶手段である。メモリ22は、RAM、ROMを有する。なお、メモリ22は、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等を有してもよい。
【0040】
プロセッサ21は、メモリ22に記憶されているプログラムを読出して実行することにより端末2の各部を制御する。プロセッサ21は、例えばCPUである。
【0041】
通信部23は、有線又は無線により端末2を、他の装置に通信可能に接続する通信回路である。
図5に示す通信部23は、
図1に示した通り、通信回線3を経由して端末2と距離画像センサ1とを接続する。なお、端末2と距離画像センサ1とは同一筐体内に収められていてもよいし、別筐体内に収められていてもよい。
【0042】
操作部24は、各種の指示をするための操作ボタン、キーボード、タッチパネル、マウス等の操作子を備えており、操作を受付けてその操作内容に応じた信号をプロセッサ21に送る。この操作は、例えば、キーボードに対する押下、タッチパネルに対するジェスチャー等である。
【0043】
表示部25は、液晶ディスプレイ等の表示画面を有しており、プロセッサ21の制御の下、画像を表示する。表示画面の上には、操作部24の透明のタッチパネルが重ねて配置されてもよい。表示部25は、通信部23が距離画像センサ1から異常検出の通知を受けると、その通知内容を表示してユーザに伝える。
【0044】
なお、プロセッサ21は、距離画像センサ1から異常検出の通知を受けたときに、メモリ22にこれを記憶してもよい。
【0045】
<距離画像センサの機能的構成>
図6は、距離画像センサ1の機能的構成の例を示す図である。距離画像センサ1のプロセッサ11は、メモリ12に記憶されたプログラムを読み込んで実行することにより、測距部111、駆動部112、検出部113、及び通知部114として機能する。なお、メモリ12は、
図6において省略されている。
【0046】
測距部111は、メモリ12に記憶されたタイミングデータを読出す。そして、測距部111は、読出したタイミングデータにより示されるタイミング(投光タイミングという)で投光部16から光を投光させる。
【0047】
また、測距部111は、受光部18が反射光を受光したタイミング(受光タイミングという)と、その反射光の強度の情報を取得する。そして、測距部111は、受光タイミングと、この受光タイミングに対応する投光タイミングとの時間差から対象物Jまでの距離を算出する。
【0048】
また、測距部111は、駆動部112と情報のやり取りをすることで、上述した投光タイミングの走査における位置を特定し、その位置に対応する距離画像における画素を特定する。これにより、測距部111は、その画素に対応する方向にある対象物Jまでの距離と、その対象物Jに反射された反射光の光量とを特定する。
【0049】
測距部111は、距離画像の1フレームに相当する一連の画素について、それぞれ距離と光量とを特定する。この一連の画素は、上述した所定のパターン(例えば、リサージュパターン)の順序で並んでいる。そこで、測距部111は、これら一連の画素をラスター順に並べ替えて、距離画像を生成する。生成された距離画像のデータは、検出部113に供給される。つまり、測距部111、及び受光部18は、対象物から反射光を受光して距離画像を生成する
【0050】
駆動部112は、メモリ12に記憶されたタイミングデータに基づいて走査部17を駆動し、投光部16から投光される光の進行方向を変化させる。これにより、光は上述した所定のパターンを描いて二次元走査が行われる。つまり、測距部111、駆動部112、投光部16、及び走査部17は、対象物に向けて光を所定のパターンで走査させる。
【0051】
検出部113は、測距部111が生成した距離画像を取得して、これに基づいて距離画像センサ1に生じている異常を検出する。第一に、検出部113は、1フレームの距離画像を取得する時間間隔を計測し、この時間間隔が閾値を超えた場合、距離画像センサ1に「時間超過による異常」が生じていると判断する。そして、この異常が生じていると判断すると、検出部113は、その旨を通知部114に通知させる。なお、検出部113は、計測した時間間隔から、フレームレートを算出して、このフレームレートを閾値と比較してもよい。
【0052】
第二に、検出部113は、取得した距離画像における画素の分布、散らばり具合を把握して、それが所定条件を満たすか否かを判断する。距離画像における画素の分布が所定条件を満たさない場合、検出部113は、「位相ずれによる異常」が生じていると判断する。そして、この異常が生じていると判断すると、検出部113は、その旨を通知部114に通知させる。
【0053】
通知部114は、検出部113が検出した「時間超過による異常」又は「位相ずれによる異常」を、通信回線3経由で端末2に通知する。この通知を受けた端末2は、例えば、表示部25により距離画像センサ1に上述した異常が生じていることをユーザに表示することで、これを通知する。
【0054】
つまり、これらの機能を実現する距離画像センサ1は、対象物に向けて光を所定のパターンで走査させこの対象物から反射光を受光して距離画像を生成し、1フレーム内のこの距離画像における画素の分布が所定条件を満たさない場合に異常を通知する距離画像センサの例である。
【0055】
<画素の分布が満たすべき条件>
上述した通り検出部113として機能するプロセッサ11は、取得した距離画像における画素の分布が所定条件を満たさない場合に、「位相ずれによる異常」が生じていると判断する。以下、画素の分布が満たすべき条件の例について説明する。
【0056】
図7は、画素の連結を説明するための図である。距離画像において画素は、上下、左右に格子状に配列されている。
図7に示す画素X0は、座標(i,j)に配置された画素である。ここで
図7に示す「i」は、上から下へ向かうほど大きくなる数字であり、「行」の位置を示す。また、
図7に示す「j」は、左から右へ向かうほど大きくなる数字であり、「列」の位置を示す。座標(i,j)は、i行j列の位置を意味している。
【0057】
画素X0の周囲には8つの画素がある。
図7において、画素X1は、画素X0の右隣である。そして、画素X1から画素X8までの8つの画素は、画素X0を中心に反時計回りに割り当てられている。
【0058】
この場合、画素X0の「4近傍」の画素とは、座標(i,j+1)に配置された画素X1、座標(i-1,j)に配置された画素X3、座標(i,j-1)に配置された画素X5、及び、座標(i+1,j)に配置された画素X7、の4つである。画素X0が、これら「4近傍」の画素のいずれか1つと同じ種類であるとき、画素X0は、その画素と連結しているという。この連結は、「4連結」とも言われる。
【0059】
同じ種類の画素であって、連結されている複数の画素は、繋ぎ合わせるとひとまとまりの画素群になる。この連結によってひとまとまりになっている画素群を「連結成分」という。
【0060】
一方、「4近傍」の画素のいずれもが、画素X0と異なる種類であるとき、画素X0は、孤立している。孤立している画素を、「孤立画素」という。
【0061】
図8は、距離画像の例を示す図である。
図8には、黒画素、及び白画素の2種類の画素で構成される二値画像として距離画像が示されている。
【0062】
この距離画像において黒画素は、所定距離未満に存在する対象物を示す画素(近距離画素という)であり、かつ、その対象物から受光した反射光の光量が所定光量以上であった画素である。
【0063】
また、この距離画像において白画素は、近距離画素でないか、反射光の光量が所定光量未満であった画素である。
【0064】
図8の(a)には、正常時の距離画像の例が示されている。二次元走査によって光を走査するとき、光の進行方向はミラー等を起点に上下左右に動かされる。そのため、距離画像センサ1の空間分解能は、近距離ほど細かくなる。すなわち、距離画像における1つの画素に相当する対象物の大きさは、近距離であるほど小さくなる。
【0065】
対象物には様々な大きさのものが存在し得るが、チリ、ホコリ等に反射して戻ってくる反射光の光量は小さい。また、ガラス汚れ、電気ノイズ、迷光等により受光部18が受光する光の光量も小さい。そして、一般的な大きさの対象物は、近距離にあるとき複数の画素にわたって観測される。したがって、近距離画素であり、かつ、反射光の光量が所定光量以上である画素は、走査が正常であるとき、上下左右に連結していることが多い。
【0066】
一方、
図8の(b)には、異常時の距離画像の例が示されている。二次元走査は、上述した通り、ラスターパターンと異なる斜め方向の走査を含んだ所定のパターンを用いている。そのため、メモリ12に記憶されたタイミングデータが破損していると、距離画像センサ1に観測される画素の位置は、斜め方向にずれる。この斜め方向のずれは、「位相ずれ」と言われる。
【0067】
「位相ずれ」が生じているとき、距離画像は、
図8の(b)に示す通り孤立画素、又は比較的小さい連結成分が多くなる。距離画像センサ1のプロセッサ11は、この斜め方向に画素の配置がずれることによって発生する、孤立画素、及び/又は大きさが閾値未満の連結成分の割合を求めることで、位相ずれによる異常を検出する。
【0068】
図9は、連結成分・孤立画素の数を説明するための図である。
図9の(a)には、9つの画素が1つの連結成分を構成している様子が示されている。この場合、連結成分の数は1つであり、その大きさは9画素である。
【0069】
一方、
図9の(b)には、6つの画素がそれぞれ孤立している様子が示されている。この場合、連結成分の数は0であり、孤立画素の数は6である。
【0070】
距離画像センサ1は、
図9に示す通り、画素の配置の分布、連結の状態を評価して、所定条件を満たしているか否かを判断することにより、距離画像センサ1の位相ずれによる異常を検出する。
【0071】
<距離画像センサの動作>
<全体の処理>
図10は、距離画像センサ1の動作の流れの例を示すフロー図である。距離画像センサ1のプロセッサ11は、投光部16及び走査部17を制御して、対象物に向けて光を所定のパターンで走査させる。ここで所定のパターンはリサージュパターンである。
【0072】
そして、
図10に示す通りプロセッサ11は、1フレームに相当する距離画像を生成するために受光を開始する(ステップS101)。プロセッサ11は、規定時間が経過したか否かを判断し(ステップS102)、経過している、と判断するとき(ステップS102;YES)、「時間経過による異常」を通知する(ステップS103)。
【0073】
一方、規定時間が経過していない、と判断すると(ステップS102;NO)、プロセッサ11は、受光が完了したか、つまり、1フレーム分の画素を示す光をそれぞれ受光したか否かを判断する(ステップS104)。
【0074】
受光が完了していない、と判断する間(ステップS104;NO)、プロセッサ11は、処理をステップS102に戻す。一方、受光が完了した、と判断すると(ステップS104;YES)、プロセッサ11は、「位相ずれ判定」の処理に進む(ステップS200)。
【0075】
<位相ずれ判定の処理>
図11は、位相ずれ判定の動作の流れの例を示すフロー図である。
図11に示す通り、プロセッサ11は、リサージュパターンで走査された光の反射光に相当する画素をラスター順に整列することにより、距離画像を生成する(ステップS201)。
【0076】
プロセッサ11は、生成した距離画像のうち、未選択の画素を1つ選択し(ステップS202)、その画素(選択画素という)が距離画像の外周に隣接している画素(外周画素という)であるか否かを判断する(ステップS203)。
【0077】
選択画素が外周画素である、と判断すると(ステップS203;YES)、プロセッサ11は、処理をステップS202に戻す。一方、選択画素が外周画素でない、と判断すると(ステップS203;NO)、プロセッサ11は、選択画素が近距離画素であるか否かを判断する(ステップS204)。
【0078】
選択画素が近距離画素でない、と判断すると(ステップS204;NO)、プロセッサ11は、処理をステップS202に戻す。一方、選択画素が近距離画素である、と判断すると(ステップS204;YES)、プロセッサ11は、選択画素が高光量画素であるか否かを判断する(ステップS205)。ここで「高光量画素」とは、対応する反射光の光量が所定光量以上である画素をいう。
【0079】
選択画素が高光量画素でない、と判断すると(ステップS205;NO)、プロセッサ11は、処理をステップS202に戻す。一方、選択画素が高光量画素である、と判断すると(ステップS205;YES)、プロセッサ11は、連結成分の画素、及び孤立画素をカウントする(ステップS206)。すなわち、選択画素が孤立画素であれば、孤立画素の数を1つ増やす。また、選択画素が連結成分を構成する画素であれば、その連結成分の画素数を1つ増やす。
【0080】
そして、プロセッサ11は、未選択の画素があるか否か判断する(ステップS207)。未選択の画素がある、と判断する場合(ステップS207;YES)、プロセッサ11は、処理をステップS202に戻す。一方、未選択の画素がない、と判断する場合(ステップS207;NO)、プロセッサ11は、孤立画素の数(孤立画素数という)と、大きさが閾値未満の連結成分に含まれる画素の数との合計を算出する(ステップS208)。
【0081】
プロセッサ11は、近距離画素かつ高光量画素の全体の数に対する、算出した合計の割合を求め、その割合が基準を超えたか否かを判断する(ステップS209)。全体の近距離画素かつ高光量画素における、孤立画素と大きさが閾値未満の連結成分に含まれる画素の割合が基準を超えた、と判断する場合(ステップS209;YES)、プロセッサ11は、位相ずれによる異常を通知し(ステップS210)、処理を終了する。
【0082】
すなわち、この距離画像センサ1は、近距離画素のうち所定光量以上の画素のばらつきが基準を超えている場合に異常を通知する距離画像センサの例である。
【0083】
一方、上述した割合が基準を超えていない、と判断する場合(ステップS209;NO)、プロセッサ11は、ステップS210を行わずに処理を終了する。
【0084】
以上、説明した処理を実行することにより、距離画像センサ1は、近距離画素かつ高光量画素のばらつきが基準を超えているか否かを判断することにより、自身に発生した位相ずれによる異常を検出する。この距離画像センサ1は、生成した距離画像に基づいて自身に発生した異常を検出するので、測距装置の内部に故障診断用のデバイスを新たに設ける必要がない。また、ソフトウエアの更新をするだけで、既存の距離画像センサに実装することが可能である。
【0085】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさ及び配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。したがって、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0086】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例は組み合わされてもよい。
【0087】
<1>
上述した実施形態において、プロセッサ11は、孤立画素の数(孤立画素数という)と、大きさが閾値未満の連結成分に含まれる画素の数との合計を算出していたが、孤立画素数のみを算出してもよい。また、プロセッサ11は、大きさが閾値未満の連結成分に含まれる画素の数のみを算出してもよい。
【0088】
この場合、距離画像センサ1は、近距離画素のうち、上下左右のいずれも連結していない孤立画素、及び/又は、上下左右のいずれかで連結し、大きさが閾値未満の連結成分の割合が基準を超えている場合に異常を通知する距離画像センサの例である。
【0089】
<2>
上述した実施形態において、プロセッサ11は、近距離画素かつ高光量画素の全体の数に対する、算出した合計の割合を求め、その割合が基準を超えた、と判断する場合に位相ずれによる異常を通知していた。しかし、プロセッサ11は、対象となる画素に高光量画素であるという条件を設けなくてもよい。この場合の距離画像センサ1は、距離画像において所定距離未満に存在する対象物を示す近距離画素のばらつきが基準を超えている場合に異常を通知する距離画像センサの例である。
【0090】
<3>
上述した実施形態において、反射光から算出された距離と反射光の光量とをそのまま用いて距離画像を生成していたが、反射光を示す信号は、共振回路等の回路によって増幅されてもよい。この場合、距離画像センサ1は、距離画像の生成に、この回路から出力された信号を用いてもよい。ただし、反射光を示す信号が増幅されることにより距離画像には孤立画素が増えることがある。そこで、距離画像センサ1は、共振回路等の回路を有する場合に、上述した近距離画素をこの回路に入力される前の反射光を示す信号から直接、抽出するとよい。
【0091】
この場合の距離画像センサ1は、受光した反射光を示す信号を増幅させる回路を有し、この回路から出力された信号を用いて距離画像を生成し、この回路に入力される前の信号から近距離画素を抽出する距離画像センサの例である。
【0092】
<4>
上述した実施形態において、プロセッサ11の動作は、1つのプロセッサ11によって成すのみでなく、物理的に離れた位置に存在する複数のプロセッサが協働して成すものであってもよい。例えば、上述したプロセッサ11及びメモリ12により実現する機能の少なくとも一部は、端末2のプロセッサ21又はメモリ22によって実現されてもよい。また、プロセッサ11の各動作の順序は上述した順序のみに限定されるものではなく、適宜変更されてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1…距離画像センサ、11…プロセッサ、111…測距部、112…駆動部、113…検出部、114…通知部、12…メモリ、13…通信部、16…投光部、17…走査部、171…内側可動部、172…内側トーションバー、173…外側可動部、174…外側トーションバー、175…支持部、18…受光部、19…慣性計測部、2…端末、21…プロセッサ、22…メモリ、23…通信部、24…操作部、25…表示部、3…通信回線、9…異常通知システム。