(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047329
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】接合用ろう材および接合体
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20240329BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20240329BHJP
C22C 12/00 20060101ALI20240329BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20240329BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B23K35/30 310C
B23K35/28 310Z
C22C12/00
C22C9/00
C04B37/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152886
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】関 優佑
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA01
4G026BA17
4G026BB21
4G026BE04
4G026BF22
4G026BF24
4G026BG02
4G026BG22
4G026BG27
4G026BH07
(57)【要約】
【課題】セラミックスと金属とを高強度で接合することができる接合用ろう材および接合体を提供すること。
【解決手段】本発明に係る接合用ろう材は、セラミックスと金属とを接合する接合用ろう材であって、31重量%以上60重量%未満のアンチモン(Sb)、1重量%以上5重量%以下のチタン(Ti)を含み、かつ、残部がCuおよび不可避不純物からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスと金属とを接合する接合用ろう材であって、
31重量%以上60重量%未満のアンチモン(Sb)、1重量%以上5重量%以下のチタン(Ti)を含み、かつ、残部がCuおよび不可避不純物からなる、
ことを特徴とする接合用ろう材。
【請求項2】
錫(Sn)およびインジウム(In)から選択される少なくとも一種を、合計で1重量%以上30重量%未満含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の接合用ろう材。
【請求項3】
セラミックスと、
金属と、
前記セラミックスおよび前記金属を接合する接合用ろう材であって、31重量%以上60重量%未満のアンチモン(Sb)、1重量%以上5重量%以下のチタン(Ti)を含み、かつ、残部がCuおよび不可避不純物からなる接合用ろう材と、
を有することを特徴とする接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合用ろう材および接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置等において用いられる回路基板として、耐熱性および絶縁性を有するセラミックスと、導電性の金属とを接合した接合体が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。特許文献1、2では、セラミックスと金属との接合に、ろう材を用いている。この際、ろう材には、銅(Cu)-マグネシウム(Mg)合金にチタン(Ti)またはTi-Cu合金を添加したCu-Mg-Ti合金や、CuおよびこのCuと共晶反応する共晶元素を含むものが用いられる。ここで、特許文献2において、共晶元素としてアンチモン(Sb)を用いる場合、ろう材におけるSbの質量%を56%以上90%以下とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4375730号公報
【特許文献2】特許第6256176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、Mgは、蒸気圧が高く、引用文献1では、500℃を超えるような接合プロセスにおいてMgの蒸発が生じた場合、接合不良が発生するおそれがある。また、Sbは脆性材料であることが知られており、特許文献2において、Cuに対するSbの添加量が多く、接合界面で脆性的な破壊が生じやすい。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、セラミックスと金属とを高強度で接合することができる接合用ろう材および接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る接合用ろう材は、セラミックスと金属とを接合する接合用ろう材であって、31重量%以上60重量%未満のアンチモン(Sb)、1重量%以上5重量%以下のチタン(Ti)を含み、かつ、残部がCuおよび不可避不純物からなる、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る接合用ろう材は、上記発明において、錫(Sn)およびインジウム(In)から選択される少なくとも一種を、合計で1重量%以上30重量%未満含む、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る接合体は、セラミックスと、金属と、前記セラミックスおよび前記金属を接合する接合用ろう材であって、31重量%以上60重量%未満のアンチモン(Sb)、1重量%以上5重量%以下のチタン(Ti)を含み、かつ、残部がCuおよび不可避不純物からなる接合用ろう材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セラミックスと金属とを高強度で接合することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る接合体の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例において得られた接合体の接合界面における超音波探傷画像である。
【
図3】
図3は、
図2に示す超音波探傷画像に二値化処理を施した画像である。
【
図4】
図4は、引張試験に用いた試験片について説明する図である。
【
図5】
図5は、実施例1~7における接合率を示す図である。
【
図6】
図6は、比較例1~6における接合率を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例1、4~7における引張せん断荷重を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0012】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係る接合体の構成を示す図である。接合体1は、例えば、半導体装置等における回路基板として用いられる。接合体1は、セラミックスを用いて形成されるセラミックス層11と、導電性材料を用いて形成される導電層12と、セラミックス層11および導電層12の間に設けられ、両者を接合する接合層13とを備える。
【0013】
セラミックス層11は、例えば板状をなす。セラミックス層11は、例えば、Si3N4を用いて形成される。
【0014】
導電層12は、例えば銅(Cu)等の導電性の金属を用いて形成される。
【0015】
接合層13は、ろう材成分として、第1添加剤としてアンチモン(Sb)を31重量%以上60重量%未満で含み、第2添加剤としてチタン(Ti)を1重量%以上5重量%以下で含み、かつ、残部がCuおよび不可避不純物からなる。また、接合層13は、第3添加剤として、錫(Sn)およびインジウム(In)から選択される少なくとも一種を、合計で1重量%以上30重量%未満含んでもよい。
【0016】
具体的には、接合層13は、活性金属層と、合金層とを有する。接合層13では、セラミックス層11側から活性金属層、合金層が設けられる。
活性金属層は、第2添加剤であるチタン(Ti)を含む。
合金層は、少なくともCu、および第1添加剤であるSbを含む。合金層は、上記第1添加剤のほか、第3添加剤を含むことがある。
【0017】
以上説明した本発明の実施の形態では、セラミックス層11および導電層12を接合する接合層13が、第1添加剤としてアンチモン(Sb)を31重量%以上60重量%未満で含み、第2添加剤としてチタン(Ti)を1重量%以上5重量%以下で含み、かつ、残部がCuおよび不可避不純物からなる。ここで、接合層13がTiおよびSbを上記の範囲で含むことによって、Tiは、セラミックスとの反応性を向上させ、Sbは、Cuと共晶する。これにより、セラミックスと金属とを高強度で接合することができる。
【0018】
また、本発明の実施の形態において、接合層13が、錫(Sn)および/またはインジウム(In)を含むことによって、接合体の機械特性を向上させることができる。
【実施例0019】
以下、本発明に係る接合体の実施例について説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
表1に示す各組成のろう材を用いてセラミックスと金属とを接合した接合体を作製した。ろう材は、31重量%のSb、2重量%のTiを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる。
セラミックス層として縦25mm、横25mm、厚さ0.32mmのSi3N4、導電層として縦25mm、横25mm、厚さ0.5mmのC1020の銅合金を、実施例1の組成のろう材によって接合した。具体的には、ペースト状のろう材を銅合金の中央領域(15mm×15mm)に塗布し、真空熱処理炉において真空雰囲気で、荷重を2.5kgf、面圧を0.04MPaとして作製した。温度条件は、10℃/分で昇温させ、600℃(第1均熱温度)で30分、720℃(第2均熱温度)で1時間、その後3℃/分で100℃まで冷却した後、窒素封入により冷却した。
【0021】
<接合可否評価>
接合体における接合の可否は、ろう付けによる接合の可否を目視により以下のように評価した。
〇:接合されている
△:接合されているが、接合層にクラック等の損傷がある
×:接合できていない
【0022】
<接合率の評価>
接合可否評価が〇および△の接合体について、超音波探傷(SAT)にて接合界面の接合状態を撮像し、撮像した画像に二値化処理を施して接合率を算出した。この際、ろう材の塗布範囲(15×15mm:
図2、3の領域R)を100%とし、ろう材が塗れ広がった領域の面積の割合を接合率とした。
図2は、実施例において得られた接合体の接合界面における超音波探傷画像である。
図3は、
図2に示す超音波探傷画像に二値化処理を施した画像である。
図2のようなSAT画像を取得した後、このSAT画像に二値化処理を施して
図3に示す二値化画像を得る。
図3では、色が薄い領域が接合されていること(接合OK)を示し、色の濃い領域が接合されていないこと(接合NG)を示す。接合率は、色が薄い領域の面積を求め、225mm
2に対する割合を接合率とした。
【0023】
<引張試験>
まず、引張試験用の試験片を作製した。
図4は、引張試験に用いた試験片について説明する図である。試験片は、縦25mm、横80mm、厚さ0.5mmのC1020からなる二つの銅板(銅板101、102)に、縦25mm、横25mm、厚さ0.32mmのSi
3N
4からなるセラミックス板103を、ろう材を介して接合する。ここでは、セラミックス板に対し、縦25mm、横10mmの二つの領域にそれぞれろう材104、105を塗布し、各領域に銅板101、102をそれぞれ接着する。その後、面圧が0.04MPaとなるようにタングステン製の重りを乗せ、接着面を固着させる。
作製した試験片の銅板101、102をそれぞれ把持して該銅板101、102が互いに離れる方向に移動させて試験片を引張り、破断するまでの耐荷重を引張せん断荷重として測定した。
【0024】
実施例1におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【表1】
【0025】
(実施例2)
実施例2は、ろう材の組成においてSbの含有比を40重量%とした以外は実施例1と同じである。実施例2におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0026】
(実施例3)
実施例3は、ろう材の組成においてSbの含有比を50重量%とした以外は実施例1と同じである。実施例3におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0027】
(実施例4)
実施例4は、ろう材の組成において5重量%のSnをさらに添加した以外は実施例1と同じである。実施例4におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0028】
(実施例5)
実施例5は、ろう材の組成において20重量%のSnをさらに添加し、第2均熱温度を3時間とした以外は実施例1と同じである。実施例5におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0029】
(実施例6)
実施例6は、ろう材の組成において5重量%のInをさらに添加した以外は実施例1と同じである。実施例6におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0030】
(実施例7)
実施例7は、ろう材の組成において20重量%のInをさらに添加し、第2均熱温度を4時間とした以外は実施例1と同じである。実施例7におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0031】
(比較例1)
比較例1は、ろう材の組成においてSbの含有比を20重量%とし、第2均熱温度を950℃とした以外は実施例1と同じである。比較例1におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0032】
(比較例2)
比較例2は、ろう材の組成においてSbの含有比を60重量%とした以外は実施例1と同じである。比較例2におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0033】
(比較例3)
比較例3は、ろう材の組成においてSbの含有比を90重量%とした以外は実施例1と同じである。比較例3におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0034】
(比較例4)
比較例4は、ろう材の組成において1重量%のMgをさらに添加し、第2均熱温度による加熱環境を窒素雰囲気とした以外は実施例1と同じである。比較例4におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0035】
(比較例5)
比較例5は、ろう材の組成において3重量%のMgをさらに添加し、第2均熱温度による加熱環境を窒素雰囲気とした以外は実施例1と同じである。比較例5におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0036】
(比較例6)
比較例6は、ろう材の組成において5重量%のMgをさらに添加し、第2均熱温度による加熱環境を窒素雰囲気とした以外は実施例1と同じである。比較例6におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0037】
(比較例7)
比較例7は、ろう材の組成において10重量%のMgをさらに添加し、第2均熱温度による加熱環境を窒素雰囲気とした以外は実施例1と同じである。比較例7におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0038】
(比較例8)
比較例8は、ろう材の組成において、Sbに代えて20重量%のMgを含み、かつTiを5重量%とし、第2均熱温度を830℃、第2均熱温度による加熱環境を窒素雰囲気とした以外は実施例1と同じである。比較例8におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0039】
(比較例9)
比較例9は、ろう材の組成において、Sbに代えて30重量%のMgを含み、かつTiを5重量%とし、第2均熱温度を700℃、第2均熱温度による加熱環境を窒素雰囲気とした以外は実施例1と同じである。比較例9におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0040】
(比較例10)
比較例10は、ろう材の組成において、Sbに代えて40重量%のMgを含み、かつTiを5重量%とし、第2均熱温度を620℃、第2均熱温度による加熱環境を窒素雰囲気とした以外は実施例1と同じである。比較例10におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0041】
(比較例11)
比較例11は、ろう材の組成において、Sbに代えて4重量%のNi、15重量%のSn、5重量%のリン(P)とし、第2均熱温度を670℃とした以外は実施例1と同じである。比較例11におけるろう材の組成および試験結果を表1に示す。
【0042】
実施例1~7は、すべてにおいてセラミックスと金属(Cu)とがろう材によって接合できていることが確認された。一方、比較例1、7~11は、各組成のろう材では接合できていないことが確認された。また、比較例2、3は、接合できているものの、ろう材にクラックが発生していた。
【0043】
図5は、実施例1~7における接合率を示す図である。
図6は、比較例1~6における接合率を示す図である。実施例1~7は、すべて182%以上に塗れ広がって接合されていた。一方、比較例4~6は、接合率が100%であり、塗れ広がっていないことが示された。なお、比較例2、3は、接合率が高いものの、ろう材にクラックが発生している。
【0044】
図7は、実施例1、4~7における引張せん断荷重比を示す図である。表1および
図7に示すように、実施例1、4~7では、613N以上の引張せん断荷重が得られ、それぞれが高い接合率を示した。
【0045】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
【0046】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0047】
以上説明したように、本発明に係る接合体用ろう材および接合体は、セラミックスと金属とを高強度で接合するのに好適である。