(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047360
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】触媒、ハニカム構造体および排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20240329BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240329BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20240329BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B01J23/63 A
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152937
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藤江 和之
(72)【発明者】
【氏名】北川 宏
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AB01
3G091BA01
3G091GA06
3G091GB01W
3G091GB04W
3G091GB10W
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4G169EA01Y
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4G169ED06
4G169FA01
4G169FB30
4G169FB34
4G169FB58
4G169FB63
(57)【要約】
【課題】使用される雰囲気が変動した場合においても高い触媒活性を維持する。
【解決手段】本開示の一態様の触媒は、1種類以上のチタン族元素と、4種類以上の希土類元素と、1種類以上の白金族元素とを含有する酸化物を有し、前記チタン族元素および前記希土類元素の平均イオン半径が0.925Å以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上のチタン族元素と、4種類以上の希土類元素と、1種類以上の白金族元素とを含有する酸化物を有し、
前記チタン族元素および前記希土類元素の平均イオン半径が0.925Å以上である、触媒。
【請求項2】
前記酸化物において、イオン半径が1Å以上の、前記チタン族元素および前記希土類元素のモル分率の総和が、前記白金族元素のモル分率よりも小さい、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記酸化物は、前記希土類元素としてCeおよびPrのうち少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
請求項1または2に記載の触媒が担持された、ハニカム構造体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の触媒を備える、排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、白金族元素を含む触媒などに関する。
【背景技術】
【0002】
白金族元素は、触媒として好適に用いられているが、高温で用いる場合、焼結(シンタリング)してしまい、特性が劣化するという課題があった。この課題を解決するため、例えば、非特許文献1に記載の技術のように、白金族元素を酸化物の結晶格子中に固溶させ、シンタリングを抑制することが試みられてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. Xu et al., Nat. Commun. 11, 3908 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
白金族元素を含む触媒では、使用される雰囲気が変動した場合においても高い触媒活性を維持できる触媒が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る触媒は、1種類以上のチタン族元素と、4種類以上の希土類元素と、1種類以上の白金族元素とを含有する酸化物を有し、前記チタン族元素および前記希土類元素の平均イオン半径が0.925Å以上である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、使用される雰囲気が変動した場合においても高い触媒活性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係る排ガス浄化装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。本実施形態における触媒は、1種類以上のチタン族元素と、4種類以上の希土類元素と、1種類以上の白金族元素とを含む酸化物であってよい。より詳細には、本実施形態における触媒は、1種類以上のチタン族元素と、4種類以上の希土類元素と、1種類以上の白金族元素とによって構成される固溶体酸化物であってよい。
【0009】
本開示の一態様の触媒では、上記酸化物を含んでいれば、他の物質を含んでいてもよい。すなわち、本開示の触媒は、上記酸化物そのものでもあってもよいし、上記酸化物を含む触媒であってもよい。以降の説明では、触媒が上記酸化物そのものである場合について説明する。
【0010】
(チタン族元素)
本実施形態における触媒は、チタン族元素である、Ti、ZrおよびHfのうち1種類以上を含む。
【0011】
ここで、白金族元素と希土類元素とを含む触媒は、高温で使用した場合、焼結(シンタリング)し、触媒の特性が劣化する場合がある。本実施形態における触媒は、酸化物の融点が高いチタン族元素を含有することにより、高温で使用した場合に触媒が焼結しにくくなっている。その結果、高温で使用した場合においても触媒性能が低下しにくくなっている。
【0012】
(白金族元素)
本実施形態における触媒は、白金族元素である、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtのうち1種類以上を含む。白金族元素は、排ガス浄化性能が高く、広く用いられている元素である。
【0013】
(希土類元素)
本実施形態における触媒は、希土類元素である、Sc、Yおよびランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)のうち4種類以上を含んでいる。
【0014】
希土類元素は、結合にほとんど寄与しないf電子を多く有している。そのため、酸化物に白金族元素とともに希土類元素を含ませると、希土類族元素のf電子が白金族元素に供与されることにより、白金族元素の価数が実質的に0に近くなる。その結果、白金族元素の酸化物中への固溶状態を維持することができる。
【0015】
白金族元素が酸化物中に固溶していると、反応ガスにおける酸素分圧が変動した際に、触媒活性が高いまま維持されるという利点がある。例えば従来の排気ガス浄化触媒では、排気ガスに含まれる酸素の量が多くなるとNOx還元活性が低下し、酸素量が減るとCOまたは炭化水素の酸化活性が低下し得る。
【0016】
本開示の触媒では、酸素分圧が変動した際、酸化物が酸素を吸収・放出し、その酸素が活性サイト、すなわち白金族元素と、酸化物との間で遣り取りされることによって、酸素分圧の変動をカバーすることができる。本開示の触媒では、白金族粒子が酸化物に固溶していることにより、上記のような酸素の遣り取りがスムーズに起こる。その結果、本開示の触媒によれば、触媒活性を向上させることができる。一方、白金族元素が酸化物に固溶していない場合(例えば、酸化物粒子の表面に白金族粒子を担持させた従来の触媒の場合)、酸化物と白金族粒子との酸素の遣り取りが生じる部分は、酸化物と白金族粒子との界面に限られる。このような従来の触媒では、反応ガスにおける酸素分圧の変動時に触媒活性が低下する。
【0017】
上記のように、本実施形態の触媒は、4種類以上の希土類元素を含む。希土類元素は、すべての元素において、s軌道およびp軌道が閉殻となっているとともにd軌道の電子数が0または1であり、化学的性質が互いに似通っている。そのため、希土類元素を4種類以上含ませることにより、触媒としての酸化物のエンタルピーを低くできるとともに、酸化物のエントロピーを高くすることができる。これにより、触媒のギブスエネルギーが小さくなり、その結果、通常ではカチオンとして酸化物中に存在することが困難である白金族元素を、従来の触媒と比べて酸化物中に多く固溶させることができる。これにより、従来の触媒と比べて活性サイト密度を高くすることができるので、触媒システム(例えば排ガス浄化装置)を小型化することができる。
【0018】
さらに、本実施形態の触媒は、1種類以上のチタン族元素、および、4種類以上の希土類元素を含む、換言すれば、白金族元素以外の5種類以上の元素を含む。これにより、触媒としての酸化物のエンタルピーをより低くすることができるとともに、酸化物のエントロピーを高くすることができる。そのため、本実施形態の触媒は、酸化物のギブスエネルギーがより小さくなり、その結果、白金族元素を酸化物中により多く固溶させることができる。
【0019】
また、本実施形態の触媒は、ギブスエネルギーが小さいため、白金族元素を固溶させても化学的に安定となっている。そのため、触媒を高温下で用いた場合であっても、酸化物中に白金族元素が固溶した状態を、維持し易くすることができる。すなわち白金族元素を固溶させた従来の触媒と比べて熱分解温度を高くすることができる。これにより、白金族元素がシンタリング(焼結)しにくくすることができるので、触媒性能の低下を抑えることができ、高い触媒活性を維持することができる。したがって、本実施形態の触媒は、排ガス浄化用触媒として用いることができる。
【0020】
本開示の一態様の触媒は、カチオンサイトの配置のエントロピーが1.5R(Rは気体定数)よりも大きくなるように、1種類以上のチタン族元素、および、4種類以上の希土類元素を含んでいてもよい。
【0021】
ここで、カチオンサイトの配置のエントロピーSconfig(モルエントロピー)は、以下の式によって算出される数値である。
【0022】
【数1】
上記式において、Rは気体定数(8.314J/(K・mol))であり、Nはカチオンの元素数(種類数)、x
iはi番目の元素のモル組成(モル分率)である。上記「カチオンの元素」とは、本実施形態における触媒(酸化物)に含まれる、1種類以上のチタン族元素、4種類以上の希土類元素および1種類以上の白金族元素のそれぞれであり、Nの値は、本実施形態における触媒に含まれるチタン族元素の種類数、希土類元素の種類数および白金族元素の種類数の合計である。上記の式が示すように、カチオンサイトの配置のエントロピーS
configは、酸化物の結晶構造におけるカチオンサイトに配置され得る元素の種類数およびその割合によって定まる値である。上記x
iは、より詳しくは、酸化物の結晶構造におけるカチオンサイトに配置され得る、当該酸化物に含まれる1種類以上のチタン族元素、4種類以上の希土類元素および1種類以上の白金族元素の合計の物質量に対する、i番目(iは1からNまでの整数)の元素が占める物質量の割合である。
【0023】
本開示の一態様の触媒は、カチオンサイトの配置のエントロピーが1.5Rよりも大きくなっていることにより、ギブスエネルギーを小さくすることができるため、白金族元素を酸化物中により多く固溶させることができる。これにより、活性サイト密度をさらに高くすることができる。
【0024】
本実施形態における触媒(酸化物)は、チタン族元素、希土類元素および白金族元素以外の元素であってカチオンサイトに配置され得る元素(以下、説明の便宜上「不特定元素」と称する)を含んでいてもよい。本実施形態における触媒は、上記不特定元素を不可避的不純物として含んでいてもよい。また、酸化物の結晶構造におけるカチオンサイトに配置され得る元素の合計の物質量のうち、上記不特定元素を20モル%以下含んでいてもよい。
【0025】
本実施形態における触媒(酸化物)は、仮に、酸化物中に上記不特定元素が含まれている場合、当該酸化物から上記不特定元素を除いた残部が、本実施形態における触媒(酸化物)としての各種条件を満たしていればよい。例えば、酸化物から上記不特定元素を除いた残部において、当該残部に含まれる、1種類以上のチタン族元素、4種類以上の希土類元素および1種類以上の白金族元素について、上記xiおよびカチオンサイトの配置のエントロピーSconfigを求めればよい。
【0026】
本開示の一態様の触媒では、(i)1種類以上のチタン族元素と、(ii)4種類以上の希土類元素のそれぞれと、(iii)1種類以上の白金族元素とが同じモル分率(上記xi)で含まれていてもよい。これは、チタン族元素、希土類元素および白金族元素の合計の種類数を同じ(一定)とした場合において、上記の構成とすることにより、カチオンサイトの配置のエントロピーSconfigを最大にすることができ、ギブスエネルギーを小さくすることができるためである。上記(i)のモル分率、上記(ii)のモル分率、および上記(iii)のモル分率が「同じ」とは、モル分率を小数点以下2桁で表した場合に、上記(i)のモル分率、上記(ii)のモル分率、および上記(iii)のモル分率が同じ数値になっていればよい。
【0027】
(チタン族元素および希土類元素の平均イオン半径)
本実施形態における触媒は、触媒(酸化物)に含まれている、チタン族元素および希土類元素の平均イオン半径が0.925Å以上となっている。本明細書における「酸化物に含まれている、チタン族元素および希土類元素の平均イオン半径」とは、下記のように算出される値である。
【0028】
酸化物に含まれている1種類以上のチタン族元素および4種類以上の希土類元素をRe1、Re2、・・・Rex(xは5以上の整数)と称する。Re1のイオン半径とRe1の酸化物におけるモル分率との積をPr1と称し、同様に、Re2、・・・Rexについて、イオン半径と酸化物におけるモル分率との積をそれぞれPr2、・・・Prxと称する。Pr1~Prxを合計する(Pr1~Prxの総和を算出する)ことにより、酸化物に含まれているチタン族元素および希土類元素の平均イオン半径が求められる。以降の説明では、酸化物に含まれているチタン族元素および希土類元素の平均イオン半径を平均イオン半径ravgと称する。
【0029】
上記平均イオン半径ravgが小さい触媒、具体的には上記平均イオン半径ravgが0.925Å未満の触媒では、酸化物の結晶の格子定数が小さいため、酸化物イオン同士のクーロン斥力が大きくなる。そのため、酸化物が熱力学的に不安定になり、結晶格子から酸化物イオンが抜けてしまう。その結果、酸化物において希土類元素のレドックス由来の酸素貯蔵能(OSC:Oxygen Storage Capacity)が失われる。そのため、雰囲気変動時(例えば反応ガスの酸素分圧が変動したとき)に酸化物の触媒活性が低下してしまう。
【0030】
これに対して本実施形態における触媒では、上記平均イオン半径ravgが0.925Å以上となっているため、酸化物の結晶の格子定数が大きくなっている。これにより、結晶格子中の酸化物イオン間に作用するクーロン斥力が小さくなるため、酸化物が熱力学的に安定となる。その結果、結晶格子から酸化物イオンが抜けることを低減できるので、雰囲気変動時においても希土類元素のレドックス由来の酸素貯蔵能(OSC)を維持することができ、高い触媒活性を維持することができる。
【0031】
本明細書において、上記平均イオン半径r
avgの算出に用いられる希土類元素のイオン半径とは、シャノンのイオン半径(R. D. Shannon, Acta. Cryst. A 32, 751 (1976).)であり、チタン族元素およびCeは+4価8配位、それ以外の元素は+3価6配位で計算した値である。表1にチタン族元素および希土類元素のイオン半径の一覧を示す。
【表1】
以上のように、本実施形態における触媒は、1種類以上のチタン族元素と、4種類以上の希土類元素と、1種類以上の白金族元素とを含有する酸化物を有している。これにより、触媒のギブスエネルギーを小さくすることができるため、白金族元素を酸化物中により多く固溶させることができる。これにより、活性サイト密度を高くすることができ、触媒性能を向上させることができる。
【0032】
さらに、本実施形態における触媒は、酸化物の融点が高いチタン族元素を含んでいる。これにより、触媒が高温に加熱されたときに酸化物が焼結することを低減することができ、高温での触媒性能の低下を低減することができる。また、本実施形態における触媒は、チタン族元素を含むことにより、白金族元素が酸化状態となり、白金族元素の酸化物への固溶状態が安定する。
【0033】
さらに、本実施形態における触媒は、触媒(酸化物)に含まれている、チタン族元素および希土類元素の平均イオン半径が0.925Å以上となっている。これにより、雰囲気変動時においても希土類元素のレドックス由来の酸素貯蔵能(OSC)を維持することができ、高い触媒活性を維持することができる。
【0034】
ここで、希土類元素としてLaのようなイオン半径が大きい元素を多く含む場合、イオン半径が大きい元素とその他の元素とのイオン半径の差に由来して、例えばペロブスカイト酸化物(例えば、LaPdO3)のようなLaと白金族元素との複合酸化物が形成されやすくなり、触媒活性が低下してしまう。そのため、本開示の一態様の触媒は、イオン半径が1Å以上の、チタン族元素および希土類元素のモル分率の総和が、白金族元素のモル分率よりも小さくなっていてもよい。これにより、イオン半径が1Å以上の元素のモル分率が白金族元素のモル分率よりも少ないため、ペロブスカイト酸化物などの不活性な複合酸化物が形成されることを低減することができる。その結果、触媒活性が低下することを低減することができる。
【0035】
本開示の一態様の触媒は、希土類元素としてCeおよびPrの少なくとも一方を含んでいてもよい。Ceを含むことにより、Ce3+/Ce4+のレドックスによって酸素の吸収・放出量が増加する。Prを含むことにより、は、Pr3+/Pr4+のレドックスによって酸素の吸収・放出量が増加する。すなわち、希土類元素としてCeおよびPrの少なくとも一方を含むことにより、触媒のOSC能を向上させることができる。その結果、雰囲気変動時の触媒活性を向上させることができる。
【0036】
Ceは、4価が安定であり、他の希土類元素よりも剰余電子数が多い。そのため、希土類元素としてCeを含んでいる場合、白金族元素に供与できる電子数が多くなり、酸化物中の白金族元素がより安定化する。そのため、白金族元素をより多く酸化物に固溶させることができるとともに、熱分解温度を高くすることができる。
【0037】
(排ガス浄化装置)
次に、本実施形態における排ガス浄化装置1について説明する。
図1は、排ガス浄化装置1を示す模式図である。
図1に示すように、排ガス浄化装置1は、ハニカム構造体2を備えている。ハニカム構造体2には、本実施形態における触媒が担持されている。排ガス浄化装置1は、車両から排出された排ガスに含まれる有害ガスを、触媒が担持されたハニカム構造体2に通すことにより、無害なガスに変換する装置である。上記有害ガスは、例えば、一酸化炭素、NOxなどである。排ガス浄化装置1は、本実施形態の触媒を含むため、雰囲気変動時においても希土類元素のレドックス由来の酸素貯蔵能(OSC)を維持することができ、高い浄化性能を維持することができる。
【0038】
(製造方法)
次に、本実施形態の触媒の製造方法について説明する。本実施形態における触媒は、噴霧熱分解法によって製造することができる。具体的には、本実施形態の触媒の製造方法は、溶液準備工程と、熱分解工程と、を含んでいてもよい。
【0039】
溶液準備工程では、所望の金属元素のモル比率となるように、チタン族元素、希土類元素および白金族元素をイオン交換水に溶解させて溶液を作製する。より詳細には、チタン族元素の塩(例えば、硝酸塩)、希土類元素の塩(例えば、硝酸塩)および白金族元素の塩(例えば、硝酸塩)をイオン交換水に溶解させることにより溶液を作製する。溶液準備工程では、溶液に含まれるチタン族元素および希土類元素の平均イオン半径が0.925Å以上となるように溶液を作製する。すなわち、溶液に含まれる1種類以上のチタン族元素および4種類以上の希土類元素のモル分率と、各元素のイオン半径との積を合計した値が0.925Å以上となるように溶液を作製する。
【0040】
熱分解工程では、まず、溶液準備工程において作製した溶液に対して超音波を印加することにより、溶液を霧状にする。次に、空気をキャリアガスとして霧状の溶液を高温(例えば、1000℃)に加熱した管状炉に流入させて、管状炉の内部において熱分解させる。これにより、本実施形態の触媒を製造することができる。熱分解して製造した触媒は、例えばフィルタにより捕集する。
【0041】
本開示の触媒における各元素のモル分率に関して説明したことは、上記溶液準備工程の仕込組成におけるモル分率として理解されてもよい。また、本開示の一態様における触媒は、前述した当該触媒に関する各種の条件が満たされる仕込組成となるように上記溶液準備工程にて調製された溶液を用いて製造されたものとして理解されてよい。
【0042】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る触媒は、1種類以上のチタン族元素と、4種類以上の希土類元素と、1種類以上の白金族元素とを含有する酸化物を有し、前記チタン族元素および前記希土類元素の平均イオン半径が0.925Å以上である。
【0043】
本開示の態様2に係る触媒は、上記の態様1において、前記酸化物において、イオン半径が1Å以上の、前記チタン族元素および前記希土類元素のモル分率の総和が、前記白金族元素のモル分率よりも小さくてもよい。
【0044】
本開示の態様3に係る触媒は、上記の態様1または態様2において、前記酸化物は、前記希土類元素としてCeおよびPrのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0045】
本開示の態様4に係るハニカム構造体は、上記の態様1から3のいずれかの触媒が担持されたものである。
【0046】
本開示の態様5に係る排ガス浄化装置は、上記の態様1から3のいずれかの触媒を備えるものである。
【実施例0047】
本開示の一実施例について以下に説明する。本実施例では、以下の製造方法により、本開示の触媒の実施例として実施例1の触媒、ならびに、本開示の触媒の比較例として比較例1~3の触媒を作製した。
【0048】
<実施例1>
実施例1の触媒は、以下のように作製した。まず、Y(NO3)3・2H2O、ZrO(NO3)2・2H2O、Ce(NO3)3・6H2O、Pr(NO3)3・6H2O、Sm(NO3)3・6H20、およびPd(NO3)2を、Y、Zr、Ce、Pr、SmおよびPdのモル分率がY:Zr:Ce:Pr:Sm:Pd=0.18:0.18:0.18:0.18:0.18:0.10となるように、イオン交換水200mlに溶解し、溶液を作製した。この溶液は、チタン族元素、希土類元素および白金族元素の濃度が合計で0.1mol/Lとなるように調整した。
【0049】
次に、作製した溶液に対して超音波を印加することにより、溶液を霧状にした。次に、3slm(slmは、standard liter per minutesの略であり、0℃、101.3kPaにおけるガス流量をL/minで表した単位である)の空気をキャリアガスとして、霧状の溶液を1000℃に加熱した管状炉に流入させて管状炉の内部において熱分化させて、粉末状の実施例1の触媒を製造した。製造した触媒は、フィルタにより捕集した。
【0050】
<比較例1>
比較例1の触媒は、出発材料のZrO(NO3)2・2H2Oに代えてLa(NO3)3・6H2Oを用い、モル分率がY:La:Ce:Pr:Sm:Pd=0.18:0.18:0.18:0.18:0.18:0.10となるようにイオン交換水200mlに溶解した以外は実施例1の触媒と同様に作製した。
【0051】
<比較例2>
比較例2の触媒は、出発材料のPr(NO3)3・6H2Oに代えてGd(NO3)3・6H2Oを用い、Y:Zr:Ce:Sm:Gd:Pd=0.18:0.18:0.18:0.18:0.18:0.10となるようにイオン交換水200mlに溶解した以外は実施例1の触媒と同様に作製した。
【0052】
<比較例3>
比較例3の触媒は、La(NO3)3・6H2O、Ce(NO3)3・6H2O、Pr(NO3)3・6H2O、およびPd(NO3)2を、La:Ce:Pr:Pd=0.30:0.30:0.30:0.10となるようにイオン交換水200mlに溶解した以外は実施例1の触媒と同様に作製した。
【0053】
<触媒活性評価>
作製した実施例1、および比較例1~3の触媒について、以下の方法により触媒活性を評価した。まず、使用した反応ガスについて説明する。反応ガスは、ガソリン車の排気ガスを模擬したものであり、反応ガスの成分は体積%でNO:0.15%、CO:0.35%、C3H6:0.033%、O2:0.25%、H2O:10%で、これにN2を加えて100%とした。反応ガスは、触媒反応が理想的に進行すれば、NO、CO、およびC3H6はいずれも完全に分解され、N2、CO2、H2Oが生成する成分を有するガスである。以降では、当該反応ガスの雰囲気を化学量論雰囲気と呼ぶ。
【0054】
他の反応ガスとして、排気ガスの組成変動を模擬して、上記のガス組成を基本として、O2:+0.25%/CO:+0.5%の変動を0.5Hzで与えた反応ガスも用いた。この条件を変動雰囲気と呼ぶ。
【0055】
触媒活性試験では、まず、触媒50mgを石英管に入れ、500slmの化学量論雰囲気または変動雰囲気の反応ガスを室温から600℃まで10℃/minで加熱しながら触媒を入れた石英管にフローした。石英管を通じた後のガスをガス分析計にて測定し、NO、CO、C3H6の浄化率を算出した。算出した各浄化率から、NOの浄化率が50%となる温度T50(℃)、および、NOの浄化率の最大値Cmax(%)を算出した。
【0056】
上記の評価試験は、(1)作製した触媒に対して後述するエージング処理(前処理)を行っていない触媒、および、(2)作製した触媒に対して空気と水蒸気を90:10の体積比で混合したガスをフローしながら、1000℃で10時間エージング処理した触媒のそれぞれに対して行った。
【0057】
表2に、実施例1、および比較例1~3の触媒について、(1)カチオンサイトの配置のエントロピーSconfig、(2)チタン族元素および希土類元素の平均イオン半径ravg、および、(3)触媒活性評価試験の結果を示す。
【0058】
【表2】
実施例1の触媒は、1種類のチタン族元素(Zr)と、4種類の希土類元素(Y、Ce、Pr、Sm)と、1種類の白金族元素(Pd)とを含有し、チタン族元素および希土類元素の平均イオン半径r
avgが0.925Å以上である。表2に示すように、実施例1の触媒は、前処理無しの場合の温度T
50とエージング処理した場合の温度T
50との差が50℃であった。また、実施例1の触媒では、前処理無しの場合およびエージング処理した場合のいずれにおいても変動雰囲気におけるC
maxが100%であった。
【0059】
これに対して、チタン族元素を含まない比較例1の触媒では、前処理無しの場合の温度T50とエージング処理した場合の温度T50との差が94℃と実施例1の触媒と比べて大きくなった。これは、比較例1の触媒をエージング処理したことにより、触媒が焼結し、触媒活性が低下したためであると考えられる。一方で、実施例1の触媒は、チタン族元素であるZrを含有することにより、エージング処理を行った場合に焼結しにくく、その結果、触媒性能の低下が低減されたと考えられる。
【0060】
また、チタン族元素および希土類元素の平均イオン半径ravgが0.921Åである比較例2の触媒では、エージング処理した場合の温度T50が72%であった。これは、比較例2の触媒の平均イオン半径ravgが小さいことにより、熱力学的に不安定になり、結晶格子から酸化物イオンが抜けてしまい、希土類元素のレドックス由来の酸素貯蔵能(OSC)能が失われたためであると考えられる。一方で、実施例1の触媒は、平均イオン半径ravgが0.925Å以上であるため、雰囲気変動時においても希土類元素のレドックス由来の酸素貯蔵能(OSC)を維持することができ、高い触媒活性を維持できたと考えられる。
【0061】
また、3種類の希土類元素(La、Ce、Pr)と1種類の白金族元素(Pd)とを含有する比較例3の触媒では、含有する希土類元素の種類数が少ないため、実施例1の触媒と比べて温度T50が高い、すなわち、実施例1の触媒と比べて触媒性能が低かった。これは、比較例3の触媒は、含有する希土類元素の種類数が少ないため実施例1の触媒と比べてギブスエネルギーが高く、触媒中に固溶するPdの量が少なかったためであると考えられる。
【0062】
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。