(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047405
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】界面活性剤
(51)【国際特許分類】
C09K 23/10 20220101AFI20240329BHJP
C09K 23/54 20220101ALI20240329BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C09K23/10
C09K23/54
C07F7/08 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153008
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(71)【出願人】
【識別番号】391024700
【氏名又は名称】三好化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】鷺坂 将伸
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸夫
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ54
4H049VU28
4H049VW01
(57)【要約】
【課題】フッ化炭素鎖又はポリジメチルシロキサン鎖を有しない界面活性剤であって、常温での利用が可能で、表面張力低下速度が大きい界面活性剤を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物からなる界面活性剤。
[一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3の炭化水素基又は炭素数1~3のヘテロ炭化水素基を示す。なお、R
1及びR
2は、一緒になって炭化水素環又はヘテロ環を形成していてもよい。Aは-SO
3-、又は-OSO
3-、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は-N(R
10)
4(R
10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のヒドロキシルアルキル基を示す。)、nは1~17の整数、mは1~17の整数をそれぞれ示す。lは0又は1であり、Mがアルカリ金属又は-N(R
10)
4のときはqは1、Mがアルカリ土類金属のときはqは2である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物からなる界面活性剤。
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3の炭化水素基又は炭素数1~3のヘテロ炭化水素基を示す。なお、R
1及びR
2は、一緒になって炭化水素環又はヘテロ環を形成していてもよい。Aは-SO
3-又は-OSO
3-、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属又は-N(R
10)
4(R
10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のヒドロキシルアルキル基を示す。)、nは1~17の整数、mは1~17の整数、をそれぞれ示す。lは0又は1であり、Mがアルカリ金属又は-N(R
10)
4のときは、qは1、Mがアルカリ土類金属のときは、qは2である。]
【請求項2】
R1及びR2は、共に水素原子である、請求項1に記載の界面活性剤。
【請求項3】
m及びnの和は、2~18である請求項1に記載の界面活性剤。
【請求項4】
mとnの差は、0~3である、請求項1に記載の界面活性剤。
【請求項5】
Aは、-SO3-である、請求項1に記載の界面活性剤。
【請求項6】
Mは、ナトリウム、カルシウム又はマグネシウムである、請求項1に記載の界面活性剤。
【請求項7】
下記一般式(100a)で表される化合物。
【化2】
【請求項8】
下記一般式(100b)で表される化合物。
【化3】
【請求項9】
下記一般式(100c)で表される化合物。
【化4】
【請求項10】
水の表面張力低下速度の向上方法であって、水に請求項1~6のいずれか一項に記載の界面活性剤を添加することを含む、向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤は、分子内に親水部と疎水部を併せ持つ両親媒性分子であり、洗剤、帯電防止剤、化粧品、表面処理剤等の成分として使用されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
界面活性剤は、水の表面や水/油界面に吸着し、水の表面張力、水/油界面張力を低下させ、乳化や可溶化、起泡、濡れなどに効果を発揮する。界面活性剤の吸着速度が高い場合、乳化や可溶化、起泡、濡れなどで生じる新しい表面/界面の状態を素早く安定化させることが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】吉田時行「新版 界面活性剤」、工学図書株式会社出版、第2版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの知見によれば、界面活性剤の吸着速度、すなわち表面張カ(界面張力)を低下させる速度は、界面活性剤の疎水性を強めること、例えば、疎水鎖を長くすること、又は炭化水素基よりも強い疎水性のフッ化炭素鎖やポリジメチルシロキサン鎖に変えることで達成できる。また、疎水基にメチル分岐を多く導入することで、低表面エネルギー化とともに疎水性を高め、水溶性も維持させるという方法もある。
【0006】
しかし、炭化水素鎖長を長くする場合、又はフッ化炭素鎖やポリジメチルシロキサン鎖を採用する場合においては、疎水性が強いため水への溶解性が失われ、クラフト点(イオン性界面活性剤がミセルを形成し、溶解し出す下限温度)が高くなり、或いは曇点(ノニオン性界面活性剤が析出し出す上限温度)が低くなる。したがって、常温で使用することができない場合がある。
【0007】
フッ化炭素は、通常自然界には存在しないため、分解されにくく、環境負荷が大きい。また、生体蓄積性等の健康への影響も懸念されている。一方、ポリジメチルシロキサン鎖については、水中で加水分解しやすいため、水に溶解させてからは長く効果を持続できず、長期保存が困難になる場合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、フッ化炭素鎖又はポリジメチルシロキサン鎖を有しない界面活性剤であって、常温での利用が可能で、表面張力低下速度が大きい界面活性剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記[1]~[10]を提供するものである。
[1]下記一般式(1)で表される化合物からなる界面活性剤。
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3の炭化水素基又は炭素数1~3のヘテロ炭化水素基を示す。なお、R
1及びR
2は、一緒になって炭化水素環又はヘテロ環を形成していてもよい。Aは-SO
3-又は-OSO
3-、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属又は-N(R
10)
4(R
10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のヒドロキシルアルキル基を示す。)、nは1~17の整数、mは1~17の整数、をそれぞれ示す。lは0又は1であり、Mがアルカリ金属又は-N(R
10)
4のときは、qは1、Mがアルカリ土類金属のときは、qは2である。]なお、一般式(1)で表される化合物からなる界面活性剤は、m、n、l、qが異なるもの、或いは異性体(-Aの結合位置が異なるもの)の混合物であってもよい。
[2]R
1及びR
2は、共に水素原子である、[1]に記載の界面活性剤。
[3]m及びnの和は、2~18である[1]又は[2]に記載の界面活性剤。
[4]mとnの差は、0~3である、[1]~[3]のいずれかに記載の界面活性剤。
[5]Aは、-SO
3-である、[1]~[4]のいずれかに記載の界面活性剤。
[6]Mは、ナトリウム、カルシウム又はマグネシウムである、[1]~[5]のいずれかに記載の界面活性剤。
[7]下記一般式(100a)で表される化合物。
【化2】
[8]下記一般式(100b)で表される化合物。
【化3】
[9]下記一般式(100c)で表される化合物。
【化4】
[10]水の表面張力低下速度の向上方法であって、水に[1]~[6]のいずれかの界面活性剤を添加することを含む、向上方法。
【0010】
一般式(1)で表される界面活性剤は、トリメチルシリル基を有するアルキル鎖とアルキル鎖とをハイブリッド化させた界面活性剤であり、同じ疎水鎖を2つ有する対称二鎖型界面活性剤に比べ、10倍程度、水の表面張力低下速度(吸着速度)が大きい。
【0011】
通常、吸着速度を高めるには、界面活性剤の疎水性を高める必要があるが、一方で、この方法では水溶性が低下し、利用しにくくなる。しかし、本発明によれば、疎水性は大きく変化させることなく、水溶性の低下も起こさせずに吸着速度を大きく増大させることができる。そして、分子の特徴としては、「トリメチルシリル基」を有する「ハイプリッド疎水鎖構造」であり、相溶性の悪い2つ以上の疎水鎖を分子内に共存させた構造である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フッ化炭素鎖又はポリジメチルシロキサン鎖を有しておらず、常温(例えば25℃)での利用が可能であり、表面張力低下速度が大きい界面活性剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の界面活性剤[BC
4P-SiPSS]を使用した際の、表面張力と、表面寿命の関係を示す図である。
【
図2】比較例1の界面活性剤[BC
18-SiPSS]を使用した際の、表面張力と、表面寿命の関係を示す図である。
【
図3】比較例2の界面活性剤[di-BC
4PSS]を使用した際の、表面張力と、表面寿命の関係を示す図である。
【
図4】比較例3の界面活性剤[di-SiPSS]を使用した際の、表面張力と、表面寿命の関係を示す図である。
【
図5】比較例4の界面活性剤[BC
18-BC
4ESS]を使用した際の、表面張力と、表面寿命の関係を示す図である。
【
図6】実施例及び比較例の界面活性剤の特性時間τと、界面活性剤の濃度の関係を示す図である。
【
図7】実施例1~3の水溶液の各種濃度の表面張力を示す図である。
【
図8】実施例2の界面活性剤[Mg(BC
4P-SiPSS)
2]を使用した際の、表面張力と、表面寿命の関係を示す図である。
【
図9】実施例3の界面活性剤[Cu(BC
4P-SiPSS)
2]を使用した際の、表面張力と、表面寿命の関係を示す図である。
【
図10】実施例1~3の界面活性剤の特性時間τと、界面活性剤の濃度の関係を示す図である。
【
図11】実施例1~3の界面活性剤の特性時間τと、界面活性剤の濃度を臨界ミセル濃度(CMC)で補正したときの値の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態に係る界面活性剤は、以下の一般式(1)で表される化合物からなる。
【化5】
一般式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3の炭化水素基又は炭素数1~3のヘテロ炭化水素基を示す。R
1及びR
2は、水素原子、炭素数1~2の炭化水素基又は炭素数1~2のヘテロ炭化水素基、或いは、水素原子、炭素数1の炭化水素基又は炭素数1のヘテロ炭化水素基であってもよく、R
1及びR
2は、共に水素原子であり得る。なお、炭素数1~3の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、i-プロピル基)が挙げられ、1~3のヘテロ炭化水素基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。
【0015】
R1及びR2は、一緒になって炭化水素環又はヘテロ環を形成していてもよい。炭化水素環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロへプタン環、シクロオクタン環、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。ヘテロ環としては、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロチオフェン環、ピペラジン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、インドール環等が挙げられる。
【0016】
一般式(1)のlが0又は1であることから分かるように、R1が結合している炭素とR2が結合している炭素は、直接結合しているか、炭素原子1つを介して結合している。このような構造を有することで、t-ブチル基を有する疎水鎖と、トリメチルシリル(TMS)基を有する疎水鎖とが、近接して存在できるため、水中でモノマーとして溶存しているときも、ミセル等を形成するときも2つの疎水鎖が同一方向に揃いやすく、疎水鎖間の反発相互作用がより強く表れるようになる。このことが水中での界面活性剤の溶存状態の安定性を低下させ、界面活性剤の吸着速度、すなわち表面張カの低下させる速度をより高めることができる。
【0017】
R1及びR2が一緒になって炭化水素環又はヘテロ環を形成する場合は、lは0でも1でも可能であるが、炭化水素環又はヘテロ環が、ベンゼン環、ナフタレン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、インドール環等の芳香環である場合は、lが0であることが好ましい。
【0018】
一般式(1)において、nは1~17の整数、mは1~17の整数である。nは1~12、1~10、1~8、1~6、1~3であってもよく、mは1~12、1~10、1~8、1~6、1~3であってもよい。
【0019】
m及びnの値は、mが1~17の整数、nが1~17の整数であれば、どのような組み合わせであってもよいが、疎水基の疎水性が優れ、表面張力を低下させる速度の点で優れるため、m及びnの和が、2~18である化合物が好ましい。また、1分子中の2つの疎水基の長さが近くなり、疎水基として配向しやすくなるため、表面張力を低下させる速度に優れることから、mとnの差は、0~3であることが好ましく、0~2、0~1であってもよく、0すなわちmとnの数が同一であってもよい。なお、m及びnの和が2~18且つmとnの差が0~3であってもよい。
【0020】
一般式(1)において、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は-N(R10)4(R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のヒドロキシルアルキル基を示す。)である。
【0021】
Mがアルカリ金属である場合、Mとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムが挙げられ、ナトリウムが代表的である。Mがアルカリ土類金属である場合、Mとしては、マグネシウム、カルシウム、バリウムが挙げられ、マグネシウム、カルシウムが代表的である。
【0022】
Mが-N(R10)4で表される場合、R10は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基)、又は炭素数1~3のヒドロキシルアルキル基(ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等)である。-N(R10)4の例としては、-NH4(R10が全て水素原子)、-NH(C2H4OH)3(R10の1つが水素原子で3つがヒドロキエチル基)、-N(C2H4OH)4(R10が全てヒドロキエチル基)が挙げられる。
【0023】
Aは-SO3-、又は-OSO3-であり、不飽和ジカルボン酸を使用した合成経路を採用する場合、Aとしては-SO3-が好ましい。
【0024】
一般式(1)で表される化合物の好適な態様として、例えば、一般式(1)中、R
1及びR
2が水素原子である、以下の一般式(10)で表される化合物が挙げられる。
【化6】
【0025】
一般式(10)の具体例としては、lが0且つqが1(Mがアルカリ金属又は-N(R
10)
4である場合)の化合物が挙げられ、そのような化合物は、以下の一般式(10a)で表わすことができる。なお、m、n、l、A及びMは好適例を含め、上記と同義である(以下同様)。
【化7】
【0026】
一般式(10)の他の具体例としては、上記の他、lが0且つqが2(Mがアルカリ土類金属である場合)の化合物が挙げられ、そのような化合物は、以下の一般式(10b)で表わすことができる。
【化8】
【0027】
一般式(10)の他の具体例としては、更に、lが1且つqが1(Mがアルカリ金属又は-N(R
10)
4である場合)の化合物が挙げられ、そのような化合物は、以下の一般式(11a)で表わすことができる。
【化9】
【0028】
一般式(10)の他の具体例としては、また、lが1且つqが2(Mがアルカリ土類金属である場合)の化合物が挙げられ、そのような化合物は、以下の一般式(11b)で表わすことができる。
【化10】
【0029】
一般式(10a)で表される化合物の好適な態様として、例えば、m及びnがそれぞれ3であり、Aが-SO
3-であり、Mがナトリウムである以下の式(100a)で表される化合物が挙げられる。なお、式(100a)で表される化合物には、-SO
3-の結合位置によって以下の通り2種類の異性体が考えられるが、いずれの異性体であっても、異性体の混合物であってもよい。
【化11】
【化12】
【0030】
一般式(10b)で表される化合物の好適な態様として、例えば、m及びnがそれぞれ3であり、Aが-SO
3-であり、Mがカルシウムである以下の式(100b)で表される化合物が挙げられる。
【化13】
【0031】
一般式(10b)で表される化合物の好適な態様として、例えば、m及びnがそれぞれ3であり、Aが-SO
3-であり、Mがマグネシウムである以下の式(100c)で表される化合物が挙げられる。
【化14】
【0032】
なお、式(100b)又は式(100c)で表される化合物には、-SO3-の結合位置によって以下のように3種類の異性体が考えられるが、いずれの異性体であっても、異性体の混合物であってもよい。以下の式中、M0はカルシウム又はマグネシウムを表す。
【0033】
【0034】
一般式(11a)で表される化合物の好適な態様として、例えば、m及びnがそれぞれ3であり、Aが-SO
3-であり、Mがナトリウムである以下の式(110a)で表される化合物が挙げられる。なお、式(110a)で表される化合物には、-SO
3-の結合位置によって以下の通り3種類の異性体が考えられるが、いずれの異性体であっても、異性体の混合物であってもよい。
【化16】
【化17】
【0035】
一般式(11b)で表される化合物の好適な態様として、例えば、m及びnがそれぞれ3であり、Aが-SO
3-であり、Mがカルシウムである以下の式(110b)で表される化合物が挙げられる。
【化18】
【0036】
一般式(11b)で表される化合物の好適な態様として、例えば、m及びnがそれぞれ3であり、Aが-SO
3-であり、Mがマグネシウムである以下の式(110c)で表される化合物が挙げられる。
【化19】
【0037】
なお、式(110b)又は式(110c)で表される化合物には、-SO3-の結合位置によって以下のように6種類の異性体が考えられるが、いずれの異性体であっても、異性体の混合物であってもよい。以下の式中、M0はカルシウム又はマグネシウムを表す。
【0038】
【0039】
一般式(1)で表される化合物のうち、R
1及びR
2が水素原子、Aが-SO
3-、lが0、qが1の化合物は、例えば、以下の反応スキームで合成できる。
【化21】
【0040】
一般式(1)で表される化合物のうち、R
1及びR
2が水素原子、Aが-SO
3-、lが1、qが1の化合物は、例えば、以下の反応スキームで合成できる。
【化22】
【0041】
一般式(1)で表される化合物のうち、R1及びR2が水素原子、Aが-SO3-、qが2で、Mがマグネシウム又はナトリウムの化合物は、上記生成物に、それぞれ飽和Mg(NO3)2溶液又は飽和Ca(NO3)2溶液を加えて反応させればよい。
【0042】
一般式(1)で表される化合物のうち、R
1及びR
2が水素原子、Aが-OSO
3-、qが1の化合物は、例えば、以下のステップで合成できる。
【化23】
【0043】
一般式(1)で表される化合物のうち、R
1及びR
2が一緒になって炭化水素環又はヘテロ環を形成し、Aが-SO
3-、qが1の化合物は、例えば、以下の反応スキームで合成できる。なお、Xは炭素原子又はヘテロ原子(酸素原子、窒素原子等)であり、Xが炭素原子であるときは、pは1~4の整数、Xがヘテロ原子であるときは、pは1~5の整数を表す。
【化24】
【0044】
一般式(1)で表される化合物は他の界面活性剤(非フッ素系界面活性剤等)と共に使用してもよく、溶媒として、水、エタノール、イソプロパノール、メタノール、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、クロロホルム、飽和および不飽和炭化水素油、超臨界二酸化炭素、イオン液体等を含んでいてもよい。また、他の添加物(例えば、有機微粒子、無機微粒子、ポリマー、ハイドロトロープ、染料、高級アルコールなど助溶媒、助界面活性剤)の添加も可能である。一般式(1)で表される化合物からなる界面活性剤の用途としては、消火剤、レベリング剤、原油増進回収用薬剤、農薬、医薬品、化粧品、洗浄剤、撥水処理剤、親水処理剤、乳化剤、分散剤、起泡剤等が挙げられる。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
化合物は実施例1~3及び比較例1~4に記載した方法で合成した。なお、合成及び測定用の試料としては以下のものを用いた。
【0047】
[合成及び測定用の試料]
・2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctan-1-ol C18H38O=270.49日産化学(株)
・4,4-dimethylpentan-1-ol C7H15O=115.19ChemBridge(株)、純度95.0%
・3-(trimethylsilyl)propan-1-ol C6H16OSi=132.28SIGMA-ALDRICH(株)、純度97.0%
・Fumaric acid C4H4O4 116.07 関東化学 (株) 純度 99.0%
・Maleic anhydride C4H2O3=98.06 富士フィルム和光純薬工業(株)、純度99.0%
・4-Dimethylaminopyridine C7H10N2=122.17関東化学(株)、純度99.0%
・1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide hydrochloride C8H17N3・HCl=191.71 渡辺化学工業(株)、純度98.0%
・Sodium bisulfite NaHSO3=104.06 富士フィルム和光純薬工業(株)、純度64.0~67% [Sodium bisulfite (NaHSO3)と Sodium metabisulfite (Na2S2O5)の混合物]
・p-toluenesulfonic acid monohydrate C7H8O3S・H2O=190.22 富士フィルム和光純薬工業 (株)、純度 99.0%
【0048】
合成した化合物は、シリカゲル(63-210μm)(KANTOCHEMICAL Co. INK.)を用いて、カラムクロマトグラフィーによって精製した。その後、核磁気共鳴(NMR)スペクトル、赤外(IR)スペクトルにより構造を確認し、有機微量元素分析により純度を確認した。測定は、以下に示す条件で行った。
【0049】
[測定条件]
NMRスペクトルはJEOL(日本電子株式会社)製の商品名「JMN-GX400」、又は同社製の商品名「JMN-ECZ400」を用いて測定した。ケミカルシフトは百万分率(ppm)で表している。内部標準物質には、tetramethylsilane (TMS)を用いた。結合定数(J)は、ヘルツで示しており、略号s、d、t、q及びm、は、それぞれ、一重線(singlet)、二重線(doublet)、三重線(triplet)、四重線(quartet)、及び多重線(multiplet)を表す。IRスペクトルはBIO-RAD製の商品名「FTS-30」を用いて測定した。純度確認は有機微量元素分析(EA1110、CE Instrumental (株)アコム)により行った。
【0050】
(実施例1)BC
4P-SiPSSの合成
BC
4P-SiPSSは、以下の反応スキームに従い、3つのステップを含む方法で合成した。
【化25】
【0051】
[ステップ1]3-(trimethylsilyl)-1-propyl hydrogen maleate(SiPM)の合成
3-(trimethylsilyl)propan-1-ol (5.05g,38.18mmol)とmaleic anhydride (5.02g, 75.57mmol)を90℃で24時間攪拌、還流した。反応後、分液ロートを用いて反応溶液からpHを1に調製した飽和NaCl水溶液とジエチルエーテルで未反応のmaleic anhydrideを抽出した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、脱水した後にろ過、濃縮した。その後、HPLCを用いて精製し、無色透明液体のSiPM (3-(trimethylsilyl)-1-propylhydrogen maleate)(3.18g、収率36.1%)を得た。
【0052】
SiPM
1H NMR (500MHz, CDCl3,TMS): δH/ ppm: 6.41 (dd, 2H, -CH=CH-, J = 39.5 Hz, J =12.6Hz), 4.23 (t, 2H, -O-CH2-, J=7.2 Hz), 1.72-1.66 (m,2H, -O-CH2-CH2-),0.52-0.49(m, 2H, -CH2-C(CH3)3), 0.00 (s, 9H, -Si(CH3)3)
IR (KBr) νmax / cm-1: 3192 (-OH), 2954 (C-H), 1734 (C=O,-COO-), 1631 (C=C)
【0053】
[ステップ2]1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(4,4-dimethylpent-1-yl) fumarate(BC4P-SiPF)の合成
次に、合成した3-(trimethylsilyl)-1-propyl hydrogen maleate (3.18g, 13.80mmol)、4,4-dimethylpentan-1-ol (1.61g,13.86mmol)、4-Dimethylaminopyridine(DMAP) (1.69g,13.83 mmol)、及び1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimidehydrochloride (EDC) (3.34g,17.42mmol)を室温で24時間攪拌した。反応溶液を濃縮後に50℃で24時間真空乾燥させ、トルエンを用いたろ過により、析出した固体を除去した。ろ液を濃縮した後に、展開溶媒にトルエンを用いてカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色透明液体のBC4P-SiPF(1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(4,4-dimethylpent-1-yl)fumarate)(4.53g、収率42.2%)を得た。
【0054】
BC4P-SiPF
1H NMR (500 MHz, CDCl3,TMS) : δH/ ppm : 6.85 (s, 2H, -CH=CH-), 4.17 (t, 2H,-O-CH2-CH2-CH2-Si(CH3)3,J=6.9 Hz), 4.15 (t, 2H, -O-CH2-CH2-CH2-C(CH3)3,J=6.9 Hz), 1.68-1.63(m, 4H, -O-CH2-CH2-), 1.25-1.22 (m,2H, -CH2-C(CH3)3), 0.89 (s, 9H, -C(CH3)3),0.53-0.49(m, 2H, -CH2-C(CH3)3), 0.00 (s, 9H,-Si(CH3)3)
IR (KBr) νmax / cm-1: 2955 (C-H), 1724 (C=O, -COO-), 1646(C=C)
【0055】
[ステップ3]Sodium 1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(4,4-dimethylpent-1-yl)sulfosuccinate (BC4P-SiPSS)の合成
次に、合成した1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(4,4-dimethylpent-1-yl) fumarate(3.04g,4.89mmol)を、1,4-ジオキサン(75mL)、2-プロパノール(75mL)に溶解させ、NaHSO3/水(7.59g,49.1mmol/75mL)を加えた後、110℃で24時間攪拌、還流した。反応溶液を濃縮後に50℃で24時間真空乾燥させ、ジクロロメタンを用いたろ過により未反応のNaHSO3を除去した。ろ液を濃縮した後に、トルエンを展開溶媒に用いたカラムクロマトグラフィーによって未反応の中間生成物を除去し、その後メタノールを展開溶媒に用いて白色固体を得た。得られた化合物を濃縮し、真空オーブン中で24時間乾燥させ、白色固体のSodium 1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(4,4-dimethylpent-1-yl)sulfosuccinate (0.97g、収率38.5%)を得た。
【0056】
BC4P-SiPSS
1H NMR (500 MHz, CDCl3,TMS) : δH/ ppm : 4.36-4.33 (m, 1H, -CH2-CH(SO3Na)-),4.18-4.13 (m, 2H, -O-CH2-CH2-CH2-Si(CH3)3),4.05-4.00 (m, 2H, -O-CH2-CH2-CH2-C(CH3)3),3.24-3.12 (m, 2H, -CH(SO3Na)-CH2-), 1.65-1.55 (m, 4H,-O-CH2-CH2-), 1.22-1.17 (m, 2H, -CH2-C(CH3)3),0.89 (s, 9H, -C(CH3)3), 0.50-0.45 (m, 2H, -CH2-Si(CH3)3),0.00 (s, 9H, -Si(CH3)3)
IR (KBr) νmax / cm-1: 2952 (C-H), 1736 (C=O, -COO-), 1248(O=S=O), 1055 (O=S=O)
元素分析(C17H33NaO7SSi) C / 47.70 %, H /7.46 %, S / 7.72 % (理論値 C / 47.20 %, H / 7.69 %, S /7.41 %)
【0057】
(実施例2)Mg(BC
4P-SiPSS)
2の合成
Mg(BC
4P-SiPSS)
2は、以下の反応スキームに従い合成した。
【化26】
実施例1に記載の方法でBC
4P-SiPSSを合成した。BC
4P-SiPSS(0.5138g,1.19mmol)を最小量のエタノール(EtOH) (5mL)に溶解させ、飽和Mg(NO
3)
2溶液5mLに加えて24時間攪拌した。その後、分液漏斗を用いてトルエン中に目的物を抽出し、水層を除去後、飽和MgCl
2溶液を添加して、未反応のBC
4P-SiPSSを水層に抽出して除去した。有機層に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水し、その後ろ過・減圧濃縮をして、白色固体のMagnesium 1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(4,4-dimethylpent-1-yl)sulfosuccinate(Mg(BC
4P-SiPSS)
2)(0.4811g、収率96.0%)を得た。
【0058】
(実施例3)Ca(BC
4P-SiPSS)
2の合成
Ca(BC
4P-SiPSS)
2は、以下の反応スキームに従い合成した。
【化27】
実施例1に記載の方法でBC
4P-SiPSSを合成した。BC
4P-SiPSS(0.5004g,1.16mmol)を最小量のエタノール(EtOH) (5mL)に溶解させ、飽和Ca(NO
3)
2溶液5mLに加えて24時間攪拌した。その後、分液漏斗を用いてトルエン中に目的物を抽出し、水層を除去後、飽和CaCl
2溶液を添加して、未反応のBC
4P-SiPSSを水層に抽出して除去した。有機層に無水硫酸マグネシウムを添加して脱水し、その後ろ過・減圧濃縮をして、白色固体のCalcium 1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(4,4-dimethylpent-1-yl)sulfosuccinate(Ca(BC
4P-SiPSS)
2)(0.3694g、収率74.3%)を得た。
【0059】
(比較例1)BC
18-SiPSSの合成
BC
18-SiPSSは、以下の反応スキームに従い、2つのステップを含む方法で合成した。なお、BC
18-SiPSSは下記の通り2種の構造異性体の混合物であった。
【化28】
【0060】
[ステップ1]1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)fumarate (BC18-SiPF)の合成
2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctan-1-ol(11.68g,43.17mmol)、3-(trimethylsilyl)propan-1-ol(5.82g,44.02mmol)及びfumaric acid(5.02g,43.28mmol)をトルエン200mLに溶解させ、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.29g,6.79mmol)を加え、ディーン・スターク装置により130℃で69時間攪拌、還流した。反応後、分液ロートを用いて反応溶液から飽和NaCl水溶液でp-トルエンスルホン酸一水和物を抽出した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、脱水した後にろ過、濃縮した。その後、展開溶媒にトルエン:ヘキサン=1:1溶液を用いて、カラムクロマトグラフィーにより精製し、黄色液体のBC18SiPF(1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)fumarate)(7.61 g、収率36.4%)を得た。
【0061】
BC18-SiPF
1H NMR (500 MHz, CDCl3,TMS) : δH/ ppm: 6.85 (s, 2H, -HC=CH-), 4.15 (t, 2H,-O-CH2-CH2-, J=6.9 Hz), 4.12- 4.08 (m, 2H, -O-CH2-CH-),1.70-1.00 (m, 13H, -O-CH2-CH2-, -O-CH2-CH-,-CH2-CH2-CH(CH3)-, -CH2-CH2-CH(CH3)-,-CH-CH3, -CH2-C(CH3)3), 0.91-0.88(m, 24H, -C(CH3), -CH3-CH-), 0.53-0.49 (m, 2H, -CH2-Si(CH3)3),0.00 (s, 9H, -Si(CH3)3)
IR (KBr) νmax / cm-1: 2954 (C-H), 1724 (C=O, -COO-), 1646(C=C)
【0062】
[ステップ2]Sodium1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)sulfosuccinate (BC18-SiPSS)の合成
次に、合成した1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)fumarate(3.52g,7.29mmol)を、1,4-ジオキサン(85mL)、2-プロパノール(85mL)に溶解させ、NaHSO3/水(7.59g,72.9mmol/85mL)を加えた後、110℃で41時間攪拌、還流した。反応溶液を濃縮後に50℃で24時間真空乾燥させ、ジクロロメタンを用いたろ過により未反応のNaHSO3を除去した。ろ液を濃縮した後に、トルエンを展開溶媒に用いたカラムクロマトグラフィーによって未反応の中間生成物を除去し、その後メタノールを展開溶媒に用いて白色固体を得た。得られた化合物を濃縮し、真空オーブン中で24時間乾燥させ、白色固体のSodium1-(3-(trimethylsilyl)-1-propyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)sulfosuccinate(3.28g、収率76.7%)を得た。
【0063】
BC18-SiPSS
1H NMR (500 MHz, CDCl3,TMS): δH/ ppm: 4.36-4.30 (m, 1H, -CH2-CH(SO3Na)-),4.19-4.08 (m, 2H, -O-CH2-CH2-), 4.00- 3.96 (m, 2H, -O-CH2-CH-),3.17 (s, 2H, -S-CH-CH2-), 1.71-1.01 (m, 13H, -O-CH2-CH2-,-O-CH2-CH-, -CH2-CH2-CH(CH3)-, -CH2-CH2-CH(CH3)-,-CHCH3, -CH2-C(CH3)3), 0.91-0.87(m, 24H, -C(CH3), -CH3-CH-), 0.49-0.45 (m, 2H, -CH2-Si(CH3)3),0.00 (s, 9H, -Si(CH3)3)
IR (KBr) νmax / cm-1:2955 (C-H), 1738 (C=O, -COO-), 1250 (O=S=O), 1053 (O=S=O)
元素分析(C28H55NaO7SSi)C/56.37%,H/9.58%,S/6.10%(理論値C/57.30%, H/9.45%, S/5.46%)
【0064】
(比較例2)di-BC
4PSSの合成
di-BC
4PSSは、以下の反応スキームに従い、2つのステップを含む方法で合成した。なお、di-BC
4PSSは下記の通り2種の構造異性体の混合物であった。
【化29】
[ステップ1]Bis(4,4-dimethylpent-1-yl) fumarate (di-BC
4PF)の合成
4,4-dimethylpentan-1-ol(3.03g,26.10mmol)、とfumaricacid(1.51g,13.00mmol)を、トルエン150mLに溶解させ、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.76g,4.01mmol)を加え、ディーン・スターク装置により130℃で24時間攪拌、還流した。反応後、分液ロートを用いて反応溶液から飽和NaCl水溶液でp-トルエンスルホン酸一水和物を抽出した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、脱水した後にろ過、濃縮した。その後、展開溶媒にトルエンを用いて、カラムクロマトグラフィーによって精製し、無色透明液体のdi-BC
4PF (bis(4,4-dimethylpent-1-yl)fumarate)(3.46g、収率85.3%)を得た。
【0065】
di-BC4PF
1H NMR (500 MHz, CDCl3,TMS): δH/ ppm: 6.86 (s, 2H, -CH=CH-), 4.18 (t, 4H,-O-CH2-, J= 6.9 Hz), 1.68-1.63 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),1.26-1.22 (m, 4H, -CH2-C(CH3)3), 0.90 (s, 18H,-C(CH3)3)
IR (KBr) νmax / cm-1 : 2956 (C-H), 1725 (C=O, -COO-),1645 (C=C)
【0066】
[ステップ2]Sodium bis(4,4-dimethylpent-1-yl) sulfosuccinate (di-BC4PSS)の合成
次に、合成したbis(4,4-dimethylpent-1-yl) fumarate (3.46g,11.08mmol)を、2-プロパノール(85mL)に溶解させ、NaHSO3/水(11.53g,110.8mmol/85mL)を加えた後、110℃で21時間攪拌、還流した。反応溶液を濃縮後に50℃で24時間真空乾燥させ、ジクロロメタンを用いたろ過により未反応の NaHSO3を除去した。ろ液を濃縮した後に、トルエンを展開溶媒に用いたカラムクロマトグラフィーによって未反応の中間生成物を除去し、その後メタノールを展開溶媒に用いて白色固体を得た。得られた化合物を濃縮し、真空オーブン中で24時間乾燥させ、白色固体のSodium bis (4,4-dimethylpent-1-yl)sulfosuccinate (3.30g、収率71.6%)を得た。
【0067】
di-BC4PSS
1H NMR (500 MHz, CDCl3,TMS) : δH/ ppm : 4.33-4.30 (m, 1H, -CH2-CH(SO3Na)-),4.16 (t, 2H, -CH2-COO-CH2-, J = 6.6 Hz), 4.02 (t, 2H,-CH(SO3Na)-COO-CH2-, J = 6.9 Hz), 3.22-3.11(m, 2H, -CH(SO3Na)-CH2-),1.64-1.55 (m, 4H, -O-CH2-CH2-), 1.21-1.16 (m, 4H, -CH2-C(CH3)3),0.88 (s, 18H, -C(CH3)3)
IR (KBr) νmax / cm-1: 2955 (C-H), 1736 (C=O, -COO-), 1246(O=S=O), 1048 (O=S=O)
元素分析(C18H33NaO7S)
C / 51.23 %, H / 7.68 %, S / 7.75 % (理論値 C /51.90 %, H / 7.99 %, S / 7.70 %)
【0068】
(比較例3)di-SiPSSの合成
di-SiPSSは、以下の反応スキームに従い、2つのステップを含む方法で合成した。なお、di-SiPSSは下記の通り2種の構造異性体の混合物であった。
【化30】
【0069】
[ステップ1]Bis(3-(trimethylsilyl)-1-propyl) fumarate(di-SiPF)の合成
3-(trimethylsilyl)-1-propanol(8.00 g, 60.5 mmol)とfumaric acid(3.51 g, 30.2 mmol)をトルエン(150 mL)に溶解させ、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.45 g, 7.66 mmol)を加え、ディーン・スターク装置により130℃で3.5時間攪拌、還流した。反応溶液中に析出した 原料をろ過で除去した後、分液ロートを用いて反応溶液から飽和NaCl水溶液でp-トルエンスルホン酸一水和物を抽出した。有機層に無水硫酸マグネシウムを加え、脱水した後にろ過、濃縮した。その後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒にトルエン)を用いて精製し、黄色透明液体のbis(3-(trimethylsilyl)-1-propyl) fumarate(7.68g、収率73.8 %)を得た。
【0070】
di-SiPF
1H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS) δH/ppm : 6.85 (s, 2H, -CH=CH-), 4.14 (t, 4H, -O-CH2-, J = 7.5 Hz),1.69-1.63 (m, 4H, -O-CH2-CH2-), 0.52-0.49 (m, 4H, -CH2-Si(CH3)3),0.00 (s, 18H, -Si(CH3)3)
IR (液膜法) νmax / cm-1 : 2953, 2895 (C-H), 1723 (C=O, -COO-), 1463(C=C), 839, 753 (C-Si)
【0071】
[ステップ2]Sodium bis(3-(trimethylsilyl)-1-propyl) sulfosuccinate(di-SiPSS)の合成
次に、合成したbis(3-(trimethylsilyl)-1-propyl) fumarate (2.96 g, 8.59 mmol)をエタノール(60 mL)に溶解させ、NaHSO3/水(8.33 g (80.0 mmol)/ 45 mL)を加えた後、110℃で3時間攪拌、還流した。反応溶液は濃縮後に50℃で真空乾燥させ、ジクロロメタンを用いたろ過により未反応の NaHSO3を除去した。ろ液の濃縮後に、酢酸エチルを展開溶媒に用いたカラムクロマトグラフィーによって未反応の中間生成物を除去し、その後メタノールを展開溶媒に用いて白色固体を得た。その後、酢酸エチルと1,4-ジオキサンを用いたカラムクロマトグラフィーによりさらに精製し、白色固体のSodiumbis(3-(trimethylsilyl)-1-propyl) sulfosuccinate(3.24 g、収率84.1 %)を得た。
【0072】
di-SiPSS
1H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS) δH/ppm : 4.31 (q, 1H, -CH2-CH(SO3Na)-, J = 5.0 Hz), 4.12 (t,2H, -CH2-COO-CH2-, J = 7.5 Hz), 4.00-3.96 (m, 2H, -CH(SO3Na)-COO-CH2-),3.21-3.09 (m, 2H, -CH2-CH(SO3Na)-), 1.62-1.54 (m, 4H,-O-CH2-CH2-), 0.47-0.43 (m, 4H, -CH2-Si(CH3)3),-0.01, -0.02 (s, 18H, -Si(CH3)3)
IR (KBr) νmax / cm-1: 2954, 2896 (C-H), 1735 (C=O, -COO-), 1248 (O=S=O), 1054 (O=S=O), 861, 751(C-Si)
元素分析(C16H33NaO7SSi2)
C / 42.37 % H / 7.14 % S / 6.59 % (理論値 C /42.83 % H / 7.41 % S / 7.15 %)
【0073】
(比較例4)BC
18-BC
4ESSの合成
下記化学式で表されるdi-SiPSSを、以下の3つのステップで合成した。なお、BC
18-BC
4ESSは下記の通り2種の構造異性体の混合物であった。
【化31】
【0074】
[ステップ1]1-(3,3-dimethylbutyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)fumarate (BC18-BC4EF)の合成
2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctan-1-ol (11.92 g,44.07 mmol)、3,3-dimethylbutan-1-ol (4.53 g, 44.36 mmol)およびfumaric acid (5.02 g, 43.21 mmol)をトルエン200 mLに溶解させ、p-トルエンスルホン酸一水和物 (1.28 g, 6.73 mmol)を加え、ディーン・スターク装置により130℃で25.5時間攪拌、還流した。反応後、分液ロートを用いて反応溶液から飽和NaCl水溶液でp-トルエンスルホン酸一水和物を抽出した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、脱水した後にろ過、濃縮した。その後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒にトルエン : ヘキサン = 1:1)を用いて精製し、無色透明液体の1-(3,3-dimethylbutyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)fumarate(収量4.93 g、収率25.2 %)を得た。
【0075】
BC18-BC4EF
1H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS) : δH/ppm : 6.96 (s, 2H, -HC=CH-), 4.39 (t, 2H, -O-CH2-CH2-, J= 7.4 Hz), 4.26-4.22 (m, 2H, -O-CH2-CH-), 1.85 (m, 1H, -O-CH2-CH-),1.74 (t, 2H, -CH2-C(CH3)3, J = 7.5Hz), 1.69(m, 2H, -CH-CH2-CH2-), 1.55 (m, 1H, CH3-CH-),1.43 (m, 1H, -CH2-CH(CH3)-CH2-), 1.40-1.38 (m,2H, -CH2-CH2-CH(CH3)-), 1.34-1.31 (m, 2H,-CH-CH(CH3)-CH2-C(CH3)3), 1.18-1.12(m, -CH2-CH(CH3)-CH2-C(CH3)3),1.04-0.95 (m, 33H, -CH3)
【0076】
[ステップ2]Sodium1-(3,3-dimethylbutyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)sulfosuccinate (BC18-BC4ESS)の合成
次に、合成した1-(3,3-dimethylbutyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)fumarate (4.93 g, 10.9 mmol)を1,4-ジオキサン (85 mL)、2-プロパノール(85 mL)に溶解させ、NaHSO3/水 (11.35 g, 109.1 mmol / 85 mL)を加えた後、110℃で70時間攪拌、還流した。反応溶液は濃縮後に50℃で真空乾燥させ、ジクロロメタンを用いたろ過により未反応のNaHSO3を除去した。ろ液を濃縮した後に、酢酸エチルを展開溶媒に用いたカラムクロマトグラフィーによって未反応の中間生成物を除去し、その後メタノールを展開溶媒に用いて白色固体を得た。得られた白色固体を濃縮後に真空オーブン中で7時間乾燥させ、白色固体のSodium1-(3,3-dimethylbutyl)-4-(2-(4,4-dimethylpentan-2-yl)-5,7,7-trimethyloctyl)sulfosuccinate(3.64 g、収率60.0 %)を得た。
【0077】
BC18-BC4ESS
1H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS) : δH/ppm : 4.36 (m, 2H, -O-CH2-CH2-C(CH3)3),4.25 (m, 1H, -CH(SO3Na)-), 4.08 (m, 2H, -O-CH2-CH-), 3.26(d, 2H, -CH(SO3Na)-CH2-, J = 6.0), 1.70-1.17 (m, 13H,aliphatic-H), 1.05-1.01 (m, 33H,-CH3)
IR (KBr) νmax / cm-1:2954, 2868 (C-H), 1737 (C=O, -COO-), 1245 (O=S=O), 1050 (O=S=O)
元素分析(C28H53NaO7S)
C / 59.32 %, H / 9.20 %, S / 5.22 % (理論値 C / 60.40 %, H / 9.59 %, S / 5.76 %)
【0078】
[界面活性剤の常温(25℃)での使用可能性]
実施例1、2及び3において、最終生成物(界面活性剤)は、白色固体として得られたが、これを25℃の水中に溶解することで、常温での使用可能性を評価した。具体的には、実施例1、2及び3で得られた化合物のCMCの2倍となる量を、25℃の蒸留水に添加して撹拌したところ、蒸留水に溶解し不溶分は観察されなかった。よって、実施例1、2及び3の界面活性剤は常温で使用可能であることが分かった。
【0079】
[界面活性剤の表面張力低下能力の評価]
実施例1の界面活性剤(BC4P-SiPSS)、比較例1の界面活性剤(BC18-SiPSS)、比較例2の界面活性剤(di-BC4PSS)、比較例3の界面活性剤(di-SiPSS)、比較例4の界面活性剤(BC18-BC4ESS)について、様々な濃度に調製した水溶液の最大泡圧法による動的表面張力測定を25℃で行った。測定は、独国KRUSS社製のハンディ動的表面張力計BP50を用いて行った。
【0080】
図1、2、3、4及び5は、それぞれ、各種濃度における、実施例1、比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4の界面活性剤の表面張力と、表面寿命の関係を示す図である。横軸は表面寿命を示し、縦軸は表面張力を示す。
【0081】
最大泡圧法による動的表面張力測定は、液体中(水中に)に挿入したキャピラリに気体を導入し、気泡を発生させたときの最大圧力を測定することで表面張力を求める方法である。液中のキャピラリから気泡を生じさせると、細管内の圧力は徐々に変化し、気泡の曲率半径とキャピラリの半径が等しくなったときに圧力が最大となり、連続して気体を導入すると気泡自体のサイズは大きくなる一方で圧力は低下するようになる。気体の導入を連続して行うと、圧力は周期的に変化するようになり、圧力の最小値から圧力の最大値までの時間(気液界面が形成され始めてから圧力が最大になるまでの時間)を表面寿命という(表面形成時間、気泡の寿命、ライフタイム等とも呼ばれる)。界面活性剤の濃度を一定にして、気体の導入速度を変化させることで、様々な表面寿命における表面張力を求めることができる。また、濃度を変化させてこれを繰り返すことで、表面張力と表面寿命の関係が界面活性剤の濃度毎に得られ、これを表示したのが
図1~5となる。なお、表面張力は表面寿命が大きくなるに従って平衡値に達するようになる。
【0082】
図1、2、3、4及び5に示されるように、実施例1、比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4の全ての界面活性剤において、濃度が高いほど、表面張力が平衡値に達するのが速くなることが判明した。
【0083】
得られた動的表面張力の値から、各界面活性剤の各濃度について、以下の式を用いて半減値γτを求めた。
γτ=(γ0+γ∞)/2
ここで、γ0は初期(表面寿命=15ms)の表面張力値、γ∞は平衡表面張力値(静的表面張力)であり、γτは表面張力値の総減少量の半分まで減少したときの表面張力値である。τ(特性時間)は、表面張力値がγτとなる表面寿命として求めた。なお、測定開始時の15msの時点で動的表面張力値が下がりきっている系に関しては、γ0を水の表面張力値(72mN/m)として算出した 。
【0084】
図6は、実施例及び比較例の界面活性剤の特性時間τと、界面活性剤の濃度の関係を示す図である。
図6中の横軸は界面活性剤の濃度を、縦軸は特性時間τを示し、点線は、各界面活性剤の濃度と特性時間τの関係を示すプロットの近似直線である。
図6の結果から、いずれの濃度域においても、実施例1の界面活性剤(BC
4P-SiPSS)の特性時間τが、比較例の界面活性剤に比較して1/10程度に小さいという予想外の顕著な特性を示した。特性時間τが小さいことは、平衡表面張力値に到達するまでの時間が短いことに繋がり、消火剤、レベリング剤、農薬、医薬品、化粧品、原油増進回収、洗浄剤のような用途において有用性を発揮する。
【0085】
実施例1の界面活性剤[BC
4P-SiPSS]、実施例2の界面活性剤[Mg(BC
4P-SiPSS)
2]、及び実施例3の界面活性剤[Ca(BC
4P-SiPSS)
2]の水溶液の表面張力を25℃条件において、Whilhelmy法により測定した。
図7は、実施例1~3の水溶液の各種濃度の表面張力を示す図である。
【0086】
ミセル形成濃度(CMC)、CMCにおける表面張力値(γ
CMC)、CMCにおける分子占有面積(A
min)を以下の表1に示す。なお、A
minは、Gibbsの吸着式と
図7の傾きから算出した。表1からわかるように、2価カチオンに対イオンを交換するとCMCが1/10程度小さくなり、界面活性が高まることが確認された。
【表1】
【0087】
[対イオンによる表面張力低下能力の影響の評価]
実施例1の界面活性剤[BC
4-SiPSS]が有する表面張力低下能力が、対イオンの種類に影響されるかを調べるために、実施例2の界面活性剤[Mg(BC
4P-SiPSS)
2]及び実施例3の界面活性剤[Ca(BC
4P-SiPSS)
2]の25℃での最大法圧法による動的表面張力測定を行った。
図8及び9は、それぞれ、各種濃度における、実施例2及び実施例3の界面活性剤の表面張力と、表面寿命の関係を示す図である。横軸は表面寿命を示し、縦軸は表面張力を示す。
【0088】
図1、8及び9から、初期表面張力値と平衡表面張力値までの半減値γ
τになるまでにかかる時間である、特性時間τを求めた。
図10は特性時間τと界面活性剤濃度の関係を示す図である。
図10から、特性時間τは、二価カチオンへの対イオン交換により、1/10以下となることが明らかになった。
【0089】
ただし、このことは、表1に示すように、実施例2の界面活性剤[Mg(BC
4P-SiPSS)
2]及び実施例3の界面活性剤[Ca(BC
4P-SiPSS)
2]のCMCが1/10程度減少し、界面活性剤の疎水性が増大したことが明らかになっているため、それによる吸着速度の上昇と考えることもできる。そこで横軸の界面活性剤濃度をCMC基準に変換し、特性時間との関係をグラフ化した。
図11は、実施例1~3の界面活性剤の特性時間τと、界面活性剤の濃度を臨界ミセル濃度(CMC)で補正したときの値の関係を示す図である。この結果、界面活性剤濃度をCMC基準で表し直し、疎水性増大の影響を除外すると、特性時間は、CaやMgへの対イオン交換にあまり影響していないことがわかった。