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特開2024-47406芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および光拡散性成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047406
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および光拡散性成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240329BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20240329BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20240329BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20240329BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240329BHJP
   C08K 5/526 20060101ALI20240329BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/101
C08K5/524
C08L33/00
C08L83/04
C08K5/526
G02B5/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153009
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 厚史
【テーマコード(参考)】
2H042
4J002
【Fターム(参考)】
2H042BA02
2H042BA18
2H042BA19
2H042BA20
4J002BG002
4J002BG052
4J002CG001
4J002CP032
4J002EE039
4J002EH016
4J002EH026
4J002EH036
4J002EJ028
4J002EU179
4J002EU189
4J002EW067
4J002EW087
4J002FD019
4J002FD029
4J002FD039
4J002FD077
4J002FD078
4J002FD109
4J002FD169
4J002FD202
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れ、透明性・光線透過率・光拡散性が高く、透明性・光透過性の低下を生じ難い芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、脂肪酸エステル(B)、光拡散剤(C)、リン系酸化防止剤(D)及び下記式(1)で表される芳香族化合物(E)を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、該直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、脂肪酸エステル(B)を0.1~2.0重量部、光拡散剤(C)を0.1~10重量部、リン系酸化防止剤(D)を0.005~0.5重量部まで、芳香族化合物(E)を0.003重量部まで含有する、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
式(1):
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、脂肪酸エステル(B)、光拡散剤(C)、リン系酸化防止剤(D)及び下記式(1)で表される芳香族化合物(E)を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、脂肪酸エステル(B)を0.01~0.5重量部、光拡散剤(C)を0.1~6重量部、リン系酸化防止剤(D)を0.005~0.5重量部、芳香族化合物(E)を0.003重量部まで含有する、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
式(1):
【化1】
【請求項2】
前記脂肪酸エステル(B)が、脂肪族カルボン酸とアルコールとの縮合化合物を含む、請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸エステル(B)は、炭素数6~36の、脂肪族モノカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸と、炭素数30以下の、脂肪族飽和一価アルコール及び脂肪族飽和多価アルコールとのエステルを含む、請求項2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸エステル(B)が、グリセリンモノステアレートである、請求項3に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記光拡散剤(C)が、シリコーン系光拡散剤、アクリル系光拡散剤、またはそれらの併用剤である、請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記リン系酸化防止剤(D)が、下記亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物を含有する、請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】
【請求項7】
前記リン系酸化防止剤(D)が、下記式(2)及び(3)で表される亜リン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種以上の化合物を含有する、請求項6に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
式(2):
【化3】
[式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、aは、0~3の整数を示す。]
式(4):
【化5】
[式中、R、R10は炭素数1~20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、b及びcは、0~3の整数を示す。]
【請求項8】
下記のことから選択される少なくとも1を満たす、請求項7に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
前記式(2)で表される亜リン酸エステル化合物が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトを含有すること;及び
前記式(4)で表される亜リン酸エステル化合物が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンを含有すること。
【請求項9】
前記リン系酸化防止剤(D)が、少なくとも式(2)で表される化合物を含み、該式(2)で表される化合物の量が、リン系酸化防止剤(D)全量の20~100質量%である、請求項8に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
前記リン系酸化防止剤(D)が、少なくとも2種の化合物を含み、その少なくとも2種の化合物のうちの1種が、式(2)で表される化合物であり、該式(2)で表される化合物の量が、リン系酸化防止剤(D)全量の20~90質量%である、請求項8に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
熱安定剤、着色剤、離型剤、軟化剤、帯電防止剤及び衝撃性改良剤を含む群から選択される少なくとも1種を更に含有する、請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含む、光拡散性成形品。
【請求項13】
前記光拡散性成形品が、画像表示装置用の光拡散板または光拡散フィルムである、請求項9に記載の光拡散性成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および光拡散性成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性及び透明性等に優れるので、従来、導光板、各種レンズ及び銘板等の成形品に利用されている。芳香族ポリカーボネート系樹脂に無機微粒子、高分子微粒子等の光拡散剤を配合した樹脂組成物からなる光拡散性成形品は、アクリル樹脂からなる光拡散性成形品に比べ、耐熱性および寸法安定性に優れることから、電灯カバー、メーター、看板(特に内照式)、樹脂窓ガラス、画像読取装置または画像表示装置用の光拡散板(例えば、液晶表示装置等のバックライトモジュールに使用される光拡散板、プロジェクターテレビ等の投影型表示スクリーンに使用される光拡散板等)、光拡散フィルム(例えば、液晶表示装置の輝度向上等に利用される高透過光拡散フィルム等)等、幅広い分野で使用されている。
【0003】
近年の画像表示装置の大型化、薄肉化(軽量化)、形状複雑化、高性能化等に伴って、光拡散性成形品、特に画像表示装置に用いられる光拡散板および光拡散フィルムにも、大型化、薄肉化(軽量化)、形状複雑化、高性能化等の要望が高まっており、成形加工時の流動性に優れた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物が求められている。
【0004】
特許文献1には、ペンタエリスリトール系エステル化合物を添加し、エステル交換により芳香族ポリカーボネート系樹脂を低分子量化することで流動性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/011977号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示のポリカーボネート樹脂組成物は、近年の材料に求められる要求、例えば、薄肉成形を行うため高温で成形加工した場合でも透明性・光透過率の低下が少ないこと、大型化が可能であること等を充分に満足し得るものではない。
【0007】
更に、近年、成形加工された0.3mm程度の薄型のサイズの車載用画像表示装置に用いられる光拡散性成形品(例えば、画像表示装置用の光拡散板)が、光照射等による高温条件下に極めて長期にわたり暴露された場合でも、透明性・光透過性の低下が少なく、すなわち、大型であっても光透過性を落とさずに、それでいて光源が透けて見えない光拡散性の高い材料が、求められつつある。
【0008】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れ、透明性・光線透過率・光拡散性が高く、しかも成形加工された0.3mm程度の薄型の大型の成形品(例えば、画像表示装置用の光拡散板)が、光照射等による高温条件下に極めて長期にわたり暴露された場合でも、透明性・光透過性の低下を生じ難く(白濁及び着色を生じ難く)、すなわち、大型であっても光透過性を落とさずに、それでいて光源が透けて見えない光拡散性の高い、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討を行った結果、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪酸エステル(B)、光拡散剤(C)、リン系酸化防止剤(D)、及び、必要に応じて下記式(1)で表される芳香族化合物(E)を含む所定量含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性を損なうことなく、熱安定性に優れ、光線透過率が高く、しかも、成形加工された0.3mm程度の薄型の成形品(導光板)が光源照射等による高温条件下に長期に亘り暴露された場合でも、透明性・透過性の低下が少なく(白濁又は着色を生じ難く)、すなわち、光透過性を落とさずに、それでいて光源が透けて見えない光拡散性の高いポリカーボネートが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、脂肪酸エステル(B)、光拡散剤(C)、リン系酸化防止剤(D)及び下記式(1)で表される芳香族化合物(E)を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、該直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、脂肪酸エステル(B)を0.01~0.5重量部、光拡散剤(C)を0.1~6重量部、リン系酸化防止剤(D)を0.005~0.5重量部、芳香族化合物(E)を0.003重量部まで含有する、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびそれを成形してなる光拡散性成形品を提供する。
式(1):
【化1】
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れ、透明性・光線透過率・光拡散性が高く、しかも得られる成形品が、炎天下環境及び/又は光源照射等による高温条件下に長期に亘り暴露された場合でも、透明性・透過性が低下し難い(白濁又は着色を生じ難い)。よって、例えば厚さ0.3mm程度の薄型の成形品(拡散板)であっても、色相が変化して外観が低下(劣化)することを生じ難く、外部環境や光源に起因する高温条件下に長期間暴露された場合でも、透明性の低下を生じ難く(白濁又は着色を生じ難く)、すなわち、光透過性を落とさずに、それでいて光源が透けて見えない光拡散性の高いポリカーボネート樹脂組成物を提供でき、工業的利用価値が極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0013】
なお、発明者らは当業者が本発明を充分に理解するために以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0014】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、脂肪酸エステル(B)、光拡散剤(C)、リン系酸化防止剤(D)と、必要に応じて、特定の芳香族化合物(E)を含む。
【0015】
本発明の実施形態において、「直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)」は、芳香族化合物に基づくポリカーボネート樹脂であって、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはないが、分岐状芳香族ポリカーボネートは、透明性・光透過性を低下させるため本発明の範囲から極力除くものとする。直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂として、例えば、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体を例示できる。代表例は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂を含む。
【0016】
前記ジヒドロキシジアリール化合物として、ビスフェノールAの他に、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3、5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類を例示できる。これらは単独で又は組み合せて使用できる。これらの他にも、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル等を組み合わせて使用することができる。
【0017】
直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、10000~100000であることが好ましく、12000~30000であることがより好ましい。なお、このような芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0018】
本発明の実施形態において、脂肪酸エステル(B)は、後述する特定の芳香族化合物(E)とともに作用し、得られるポリカーボネート樹脂組成物の本来有する耐熱性、機械的強度等の特性を損なうことなく、熱安定性、光線透過率を向上させる。しかも、成形加工された0.3mm程度の薄型の成形品(導光板)が光源照射等による高温条件下に長期に亘り暴露された場合でも、透明性の低下(白濁又は着色を生じ難い)を少なくし得る。
【0019】
例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形される光学用成形品が光源(LED光源等)によって長期間光照射されることによる熱劣化(白濁又は着色)が効果的に防止される。光学用成形品は、炎天下等過酷な条件下で及び/又は光照射を長時間受け続けると、当該成形品表面の温度が上昇することがあり、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の熱劣化が少しずつ進行し得る。更に、樹脂組成物中の脂肪酸エステル(B)が次第に変性し得、通常の光学用成形品に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に期待される透明性(輝度又は光透過性)を損ない、成形品表面に白濁又は着色(淡~濃着色)現象が生じる場合がある。
【0020】
本願発明者らは、この課題に鑑み、鋭意検討した結果、脂肪酸エステル(B)の変性等の劣化やそれに起因する着色を抑止する化合物として、特定の芳香族化合物(E)が特に効果的であり、特定の芳香族化合物(E)を芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融混練前に添加することにより、成形品中での脂肪酸エステル(B)の劣化を抑止して白濁又は着色(淡~濃着色)現象を低減又は緩和できることを知得している。
【0021】
本発明の実施形態において、脂肪酸エステル(B)として、脂肪族カルボン酸とアルコールとの縮合化合物を用いることができ、本発明が目的とする樹脂組成物を得られる限り、特に制限されることはない。
【0022】
前記脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸等が挙げられる。なお、該脂肪族カルボン酸には、脂環式カルボン酸も含まれる。これらの中でも、炭素数6~36の、モノカルボン酸及びジカルボン酸が好ましく、炭素数6~36の飽和モノカルボン酸がさらに好ましい。
【0023】
前記脂肪族カルボン酸の具体例としては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
【0024】
前記アルコールとしては、飽和又は不飽和の、一価アルコール及び多価アルコールが挙げられ、これらのアルコールは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、炭素数30以下の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の、脂肪族飽和一価アルコール及び脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、脂肪族アルコールには、脂環式アルコールも含まれる。
【0025】
前記アルコールの具体例としては、例えば、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0026】
脂肪酸エステル(B)の具体例としては、例えば、ベヘニルベヘネート、オクチルドデシルベヘネート、ステアリルステアレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート等のステアリン酸エステルが好適であり、例えば、理研ビタミン(株)製のリケマールS-100A(商品名)や日油(株)製のユニスターH476DP(「ユニスター」は登録商標)、ロキシオールVPG861(商品名、コグニス社製)が商業的に入手可能である。
【0027】
前記脂肪酸エステル(B)の量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、例えば0.01~0.5重量部であり得、0.03~0.5重量部であることが好ましく、0.05~0.2重量部であることがより好ましい。脂肪酸エステル(B)の量が0.01~0.5重量部の場合、黄変をより抑制し、色相をより向上させ得る。
【0028】
本発明の実施形態において、光拡散剤(C)は、ポリカーボネート樹脂組成物の内部で光を散乱させることができるものであれば特に限定されず、高分子系および無機系など化学組成上特に制限はない。ただし、直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)に光拡散剤(C)を添加し、押出機による溶融混合など公知の方法にて分散させた際にマトリックス相と相溶しないか、又は相溶しにくく粒子として存在することが必要である。
【0029】
光拡散剤(C)としては、光拡散能を有する微粒子が好ましい。このような微粒子としては、無機微粒子および高分子微粒子が挙げられる。無機微粒子としては、ガラス充填材、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、マイカ、ワラストナイト、酸化チタン等が挙げられる。これらのうち、炭酸カルシウムが好ましい。無機微粒子の形状は、繊維状よりは粒状(不定形を含む)または板状が好ましい。例えば、ガラス充填材の場合、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、極薄ガラスフレーク(ゾル-ゲル法により製造される)、不定形ガラス等が挙げられる。他の無機微粒子においても同様に、様々な形状のものを採用できる。
【0030】
高分子微粒子としては、光拡散性の観点から球状であるものが好ましく、真球状に近い形態であるほどより好ましい。シリコーン系光拡散剤、アクリル系光拡散剤、シリコーンゴム状弾性体、ポリメチルシルセスオキサン、アクリル系、スチレン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ウレタン系、ナイロン系、メタクリレート-スチレン系、フッ素系、ノルボルネン系、シリコーン系などの有機系拡散剤など等が挙げられるが、特に有機微粒子であるシリコーン系光拡散剤、アクリル系光拡散剤が好ましい。光拡散剤としては市販品を用いることができ、例えば、シリコーン系光拡散剤としてはモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製「トスパール(登録商標)120S」が、また、アクリル系光拡散剤としてはアイカ工業社製「ガンツパール(登録商標)GM-0449S」、「ガンツパールGM-0205S」、綜研化学社製「ケミスノー(登録商標)KMR-3TA」などを用いることができる。
【0031】
光拡散剤(C)として、スチレンモノマーとメチルメタクリレートモノマーと架橋剤とを共重合して得られる微粒子(スチレン-メチルメタクリレート共重合架橋微粒子)も好適に用いられ得る。一般的な乳化重合法、溶液重合法、分散重合法、懸濁重合法、塊状重合法、ソープフリー重合法、シード重合法等を用いて得ることができる。これらの重合方法の中で、乳化重合法、分散重合法、懸濁重合法が好ましく、光拡散板の物性の点から、乳化重合法、分散重合法が特に好ましい。
【0032】
スチレン-メチルメタクリレート共重合架橋微粒子に使用される架橋剤としては、ビニル基を2つ以上含有するラジカル重合可能なモノマーであればよい。そのような具体例としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリストールテトラアクリレート、ペンタエリストールテトラメタアクリレートが挙げられる。そして、これらの架橋剤は、1種であっても2種以上を併用してもかまわない。
【0033】
スチレン-メチルメタクリレート共重合架橋微粒子の平均粒子径は、5~30μmである。より好ましい平均粒子径は、8~20μmの範囲である。平均粒子径が5μm未満では得られる光拡散板の表面状態が平滑性を維持することから光の散乱が充分には得られず光拡散性に劣り、また30μmを超えると得られる光拡散板の表面状態が平滑に近づくため光が直進し透過してしまうことから光の散乱が低下して光拡散性、光源透過防止性に劣るので好ましくない。微粒子の平均粒子径を測定する一般的な方法としては、コールター法、動的光散乱法、遠心沈降法等が挙げられる。
【0034】
スチレン-メチルメタクリレート共重合架橋微粒子の屈折率は、1.54~1.57の範囲である。より好ましい範囲は、1.55~1.57の範囲である。屈折率が1.54未満では、ヘーズが発生して光透過性が低下する場合がある。また、1.57を超えると、光拡散性が低下する場合がある。屈折率は、微粒子を共重合する際のスチレンとメチルメタクリレートのそれぞれのモノマーの重合比率を調整することにより変化させることができる。
【0035】
スチレン-メチルメタクリレート共重合架橋微粒子としては、例えば、積水化成品工業社製SMX-12R(平均粒径12.3μm、屈折率1.56)、またはGuide Win Special Chemicals社製GMS-6121(平均粒径11.3μm、屈折率1.56)等が商業的に入手可能である。
【0036】
スチレン-メチルメタクリレート共重合架橋微粒子の屈折率を測定する一般的な方法としては、ベッケ法が挙げられる。スライドガラス上に樹脂粒子を載せ、屈折液(CARGILLE社製:カーギル標準屈折液)を滴下する。樹脂粒子と屈折液をよく混ぜ、下からナトリウムランプを照射し上部から粒子の輪郭を観察して、輪郭が見えない場合、屈折液と樹脂粒子の屈折率が等しいとする。光拡散剤の屈折率と、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率との差の絶対値は、0.02~0.2であることが好ましい。屈折率の差がこの範囲にあることにより、光拡散性と全光線透過率とを高いレベルで両立させることが可能となる。光拡散剤の屈折率は、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率よりも低いことがより好ましい。
【0037】
拡散剤の好ましい平均粒径は0.1~50μmであり、より好ましくは0.5~10μmであり、特に好ましくは1~5μmである。光拡散剤の平均粒径が小さ過ぎると、十分な光分散効果が得られず、大き過ぎると成形体表面に肌荒れを起こしたり、成形品の機械的強度が低下したりする。ここで、光拡散剤の平均粒径とは、コールターカウンター法にて測定した体積平均粒子径を採用する。コールカウンター法は、サンプル粒子を懸濁させた電解質を細孔(アパチャ-)に通過させ、そのときに粒子の体積に比例して発生する電圧パルスの変化を読み取って粒子径を定量するもので、また電圧パルス高を1個ずつ計測処理して、サンプル粒子の体積分布ヒストグラムを得ることができる。このようなコールカウンター法による粒径又は粒径分布測定は、粒度分布測定装置として最も多用されているものである。
【0038】
また、光拡散剤(C)としては、光拡散性の点から、ポリカーボネート樹脂(A)との屈折率差(Δn)が0.01以上のものが好ましい。また、光拡散性を十分に発揮させて、例えば成形体(光拡散板等)の後ろの光源が透けて見える等の不具合を抑制し、更には、十分な輝度を発揮させるため、光拡散剤は、ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が、0.05以上がより好ましく、0.07以上が特に好ましい。
【0039】
また、光拡散剤(C)の質量平均粒径は、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。質量平均粒径が小さ過ぎると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の光拡散性が劣り、拡散板等として使用した場合に光源が透けて見えたり、視認性に劣ったりする傾向があり、逆に大き過ぎると含有量に対する拡散効果が低くなる可能性がある。
【0040】
なお、光拡散剤(C)は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。シリコーン系光拡散剤と他の光拡散剤を併用するのが好ましい。
【0041】
光拡散剤(C)の配合量は、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.1~6.0重量部が好ましく、1.0~5.0重量部がさらに好ましい。0.1重量部未満では光が充分に散乱せず光源の視認性防止の効果に劣り、また6.0重量部を超えると透過率が著しく低下するおそれがある。
【0042】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、リン系酸化防止剤(D)を含む。芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、脂肪酸エステル(B)と光拡散剤(C)とリン系酸化防止剤(D)とを同時に含むので、光拡散性成形品に求められる優れた光学特性を維持向上させつつ、特に、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品の初期光学特性を劣化させず、加えて使用状況に起因する劣化を防止することが出来る。
【0043】
本発明の実施形態におけるリン系酸化防止剤(D)は、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得られる限り特に制限されることはないが、下記亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物を含むことが好ましい。
【化2】
【0044】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、前記リン系酸化防止剤(D)が、下記式(2)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(3)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(4)で表される亜リン酸エステル化合物及び下記式(5)で表される亜リン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0045】
リン系酸化防止剤(D)は、例えば、下記式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0046】
式(2):
【化3】
(式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す)
【0047】
前記式(2)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基であるが、さらには、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
【0048】
式(2)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0049】
リン系酸化防止剤(D)は、例えば、下記式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0050】
式(3):
【化4】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-(ここで、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-(ここで、Rは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0051】
式(3)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0052】
ここで、炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0053】
前記R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R及びRは、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基であることがさらに好ましい。
【0054】
前記Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0055】
式(3)において、Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
【0056】
式(3)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-で表される基を示す。ここで、式:-CHR-中のRは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基及び炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0057】
式(3)において、Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-で表される基を示す。炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*-COR-におけるRは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示す。Rを示す炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。Rは、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*-COR-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0058】
式(3)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0059】
式(3)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野に、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0060】
リン系酸化防止剤(D)は、例えば、下記式(4)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0061】
式(4):
【化5】
(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0062】
式(4)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトは、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-24G」として商業的に入手可能である。(株)ADEKA製のアデカスタブPEP-36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0063】
リン系酸化防止剤(D)は、例えば、下記式(5)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0064】
式(5):
【化6】
【0065】
(式中、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基またはアルケニル基を示す。R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18とは、互いに結合して環を形成していても良い。R19~R22は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す。d~gは、それぞれ独立して、0~5の整数である。X~Xは、それぞれ独立に、単結合または炭素原子を示す。X~Xが単結合である場合、R11~R22のうち、当該単結合に繋がった官能基は一般式(5)から除外される。)
【0066】
式(5)で表される化合物の具体例としては、例えばビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが挙げられる。これは、Dover Chemical社製、商品名「Doverphos(登録商標) S-9228」、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-45」(ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)として商業的に入手可能である。
【0067】
下記のことから選択される少なくとも1を満たす、上述の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が好ましい:
前記式(2)で表される亜リン酸エステル化合物が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトを含むこと;
前記式(3)で表される亜リン酸エステル化合物が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンを含むこと;
前記式(4)で表される亜リン酸エステル化合物が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンを含むこと;及び
前記式(5)で表される亜リン酸エステル化合物が、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトを含むこと。
【0068】
前記リン系酸化防止剤(D)が、少なくとも2種の化合物を含み、その少なくとも2種の化合物のうちの1種が、一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。この場合、該一般式(2)で表される化合物の量が、リン系酸化防止剤(D)全量の20~90質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~70質量%であることが特に好ましい。
【0069】
リン系酸化防止剤(D)の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.005~0.5重量部であり、0.04~0.1重量部であることが好ましく、0.04~0.08重量部がより好ましい。リン系酸化防止剤(D)の量が0.005重量部未満の場合は、光線透過率または色相の向上効果が不充分である。逆にリン系酸化防止剤(D)の量が0.5重量部を超える場合も、光線透過率または色相の向上効果が不充分である。
【0070】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、脂肪酸エステル(B)と共に、光拡散剤(C)、リン系酸化防止剤(D)、及び以下の式(1)で表される芳香族化合物(E)を含むことがより好ましい。このように、脂肪酸エステル(B)、光拡散剤(C)、リン系酸化防止剤(D)、及び該芳香族化合物(E)を使用することにより、光拡散性成形品に求められる優れた光学特性を維持しつつ、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品の使用状況に起因する劣化に加え、エージング劣化などの劣化を防止することが出来る。
【0071】
例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形される光学用成形品が光源(LED光源等)によって長期間光照射されることによる熱劣化(白濁又は着色)が効果的に防止される。光拡散成形品は、炎天下等過酷な条件下で及び/又は光照射を長時間受け続けると、当該成形品表面の温度が上昇することがあり、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の熱劣化が少しずつ進行し得る。更に、樹脂組成物中の脂肪酸エステル(B)が変性し得、通常の光拡散成形品に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に期待される透明性(輝度又は光透過性)を損ない、成形品表面に白濁又は着色(淡~濃着色)現象が生じ得る。
【0072】
本願発明者らは、この課題に鑑み、鋭意検討した結果、脂肪酸エステル(B)の変性等の劣化を抑止する化合物として、次式(1)の特定芳香族化合物(E)が特に効果的であり、特定芳香族化合物(E)を脂肪酸エステル(B)に予め添加するか、あるいは芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得るための溶融混練前に添加することにより、成形品中での脂肪酸エステル(B)の劣化を抑止して白濁又は着色(淡~濃着色)現象を低減又は緩和できることを見出した。
式(1):
【化7】
【0073】
本発明の実施形態で使用される芳香族化合物(E)の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.003重量部以下未満であることが好ましい。芳香族化合物(E)による脂肪酸エステル(B)の変性抑制の効果を得るためには、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、芳香族化合物(E)の量を0.0001重量部以上とする。芳香族化合物(E)の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.0005重量部以上0.003重量部以下がより好ましい。芳香族化合物(E)の量が0.0001重量部未満の場合は、白濁又は着色の抑止効果が不充分である。逆に芳香族化合物(E)の量が0.003重量部を超える場合、光学成形体に要求される高水準の光線透過率及び色相を達成できない場合があるため望ましくない。
【0074】
本発明においては、実施の形態に係る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、例えば、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性をより向上させる成分である紫外線吸収剤を、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品の用途に応じて適宜用いることができる。
【0075】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シュウ酸アニリド系化合物等の、ポリカーボネート樹脂に通常配合される紫外線吸収剤を、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物としては、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-butyl-2-hydroxy-5-methylphenyl)-5-chloro-2H-benzotriazole、2-(3,5-di-tert-pentyl-2-hydroxyphenyl)-2H-benzotriazole、2-(2H-benzotriazole-2-yl)-4-methyl-6-(3,4,5,6-tetrahydrophthalimidylmethyl)phenol、2-(2-hydroxy-4-octyloxyphenyl)-2H-benzotriazole、2-(2-hydroxy-5-tert-octylphenyl)-2H-benzotriazole、2-[2’-hydroxy-3,5-di(1,1-dimethylbenzyl)phenyl]-2H-benzotriazole、2,2’-Methylenbis[6-(2H-benzotriazol-2-yl)4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol]などが挙げられる。なかでも、特に、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等が好適であり、例えば、BASF社製のTINUVIN 329(TINUVINは登録商標)、シプロ化成(株)製のシーソーブ709、ケミプロ化成(株)製のケミソーブ79等が商業的に入手可能である。
【0077】
トリアジン系化合物としては、例えば、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシフェニル-4-ヘキシルオキシフェニル)1,3,5-トリアジン、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノール等が挙げられ、例えば、BASF社製のTINUVIN 1577等が商業的に入手可能である。
【0078】
シュウ酸アニリド系化合物としては、例えば、クラリアントジャパン(株)製のSanduvor VSU等が商業的に入手可能である。
【0079】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2、4-dihydroxybenzophenone、2-hydroxy-4-n-octoxybenzophenoneなどが挙げられる。
【0080】
紫外線吸収剤の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して0~1.0重量部であり、0~0.5重量部であることが好ましい。紫外線吸収剤の量が1.0重量部を超える場合は、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の初期の色相が低下するおそれがある。また、紫外線吸収剤の量が0.1重量部以上の場合は、特に、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性をより向上させる効果が大きく奏される。
【0081】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物はエポキシ化合物を含むことができる。このように、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、脂肪酸エステル(B)と芳香族化合物(E)とエポキシ化合物とを同時に含む場合、光拡散性成形品に求められる優れた光学特性を維持向上させつつ、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品の初期光学特性を劣化させず、使用状況に起因する劣化やエージング劣化などの劣化を防止することが出来る。
【0082】
エポキシ化合物は、少なくとも1つのエポキシ基を分子内に有し、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得られる限り、特に制限されることはない。エポキシ化合物(F)は、例えば、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、エポキシ化大豆油、ε-カプロラクトン変性3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、エポキシ基含有アクリル・スチレン系ポリマー、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン-ジグリシジルエーテル等を含むことができる。エポキシ化合物(F)は、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを含むことが好ましい。
【0083】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、エポキシ化合物を、0.001~0.2重量部含むことが好ましく、0.002~0.1重量部含むことがより好ましく、0.005~0.05重量部含むことが特に好ましい。本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、エポキシ化合物を、0.001~0.2重量部含む場合、光拡散性成形品に求められる優れた光学特性を維持向上させつつ、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品の初期光学特性(積算透過率および黄色度)を向上させ、使用状況に起因する劣化やエージング劣化などの劣化を防止することが出来る。
【0084】
さらに、実施の形態に係る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明における効果を損なわない範囲で、例えば、熱安定剤、他の酸化防止剤、着色剤、離型剤、軟化剤、帯電防止剤、衝撃性改良剤等の各種添加剤、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリマー等が適宜配合されていてもよい。
【0085】
本発明の実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪酸エステル(B)、光拡散剤(C)、リン系酸化防止剤(D)を混合し、必要に応じて芳香族化合物(E)、エポキシ化合物、前記各種添加剤、及び直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリマー等を混合する製造方法を例示することができる。本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り、その製造方法は特に制限されることはなく、各成分の種類及び量を適宜調整することができる。成分の混合方法も特に制限されることはなく、例えば、タンブラー、及びリボンブレンダー等の公知の混合機にて混合する方法や、押出機にて溶融混練する方法を例示できる。これらの方法により、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを容易に得ることができる。芳香族化合物(E)は、溶融混練前に混合してもよいし、予め脂肪酸エステル(B)に添加又は混合してもよい。
【0086】
前記のごとく得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットの形状及び大きさには特に限定がなく、一般的な樹脂ペレットが有する形状及び大きさであればよい。例えば、ペレットの形状としては、楕円柱状、円柱状等が挙げられる。ペレットの大きさとしては、長さが2~8mm程度であることが好適であり、楕円柱状の場合、断面楕円の長径が2~8mm程度、短径が1~4mm程度であることが好適であり、円柱状の場合、断面円の直径が1~6mm程度であることが好適である。なお、得られたペレット1つずつがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体を形成する全てのペレットがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体の平均値がこのような大きさであってもよく、特に限定はない。
【0087】
本発明の実施形態の光拡散性成形品は、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得ることができる。大型かつ薄肉の光拡散板(特に画像表示装置用光拡散板)としては、表面積が500~50000cmである光拡散板が得られる。光拡散板の表面積は1000~25000cmが好ましく、厚さは0.3~3mmが好ましい。このように、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物によれば、大型であり、寸法安定性が高く、かつ薄肉(軽量)である光拡散板を製造できる。
【0088】
本発明が目的とする光拡散性成形品を得ることができる限り、光拡散性成形品の製造方法は特に限定されることはなく、例えば、公知の射出成形法、圧縮成形法等により芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形する方法が挙げられる。
【0089】
本発明に係る光拡散性成形品は、例えば、光拡散板、光拡散フィルム、電子・電気機器、OA機器の部品、車両部品、機械部品、農業資材、漁業資材、搬送容器、包装容器、雑貨等が挙げられる。具体的には、画像表示装置用光拡散板(液晶表示装置等のバックライトモジュールに用いられる光拡散板、プロジェクターテレビ等の投影型表示装置のスクリーンに用いられる光拡散板等)等として好適である。液晶表示装置等のバックライトモジュールとしては、各種の光源(冷陰極管、LED等)を用いることができる。
【0090】
以上のように、本発明の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例0091】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ重量基準である。
【0092】
原料として以下のものを使用した。
1.直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAと塩化カルボニルとから合成されたポリカーボネート樹脂(PC)
粘度平均分子量:15000、住化ポリカーボネート(株)製のSDポリカ 200-80(商品名)、「SDポリカ」は住化ポリカーボネート(株)の登録商標
【0093】
2.脂肪酸エステル(B):
グリセリンモノステアレート(GMS)、理研ビタミン(株)製、商品名リケマールS-100A
【0094】
3.光拡散剤(C):
3-1.ポリメチルシルセスキオキサン系拡散剤
モメンティブ社製のトスパール120S(商品名)、以下(C1)ともいう。
3-2.アクリル系拡散剤
ガンツ化成社製のGM-0449S(商品名)、以下(C2)ともいう。
3-3.スチレン-メチルメタクリレート共重合架橋微粒子
積水化成品工業社製のSMX-12R(商品名)、以下(C3)ともいう。
【0095】
4.リン系酸化防止剤(D):
4-1.以下の式で表される、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト
【化8】
BASF社製のイルガフォス168(商品名)、以下(D1)ともいう。
【0096】
4-2.以下の式で表される、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(IUPAC名:3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン)
【化9】
ADEKA製のアデカスタブPEP-36(商品名)、以下(D2)ともいう。
5.芳香族化合物(E):
【0097】
3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)
和光純薬工業(株)製、以下(E)ともいう。
【0098】
6.エポキシ化合物(F):
3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート
(株)ダイセル化学工業製のセロキサイド2021P(商品名)
【0099】
(実施例1~9及び比較例1~3)
前記各原料を、表1に示す割合にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)を用いて、溶融温度230℃にて溶融混練し、実施例1~11、並びに、比較例1及び2の各々の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。なお、実施例及び比較例で得られたペレットはいずれも、ほぼ楕円柱状であり、ペレット100個からなる集合体は、各々長さの平均値が約5.1mm~約5.4mm、断面楕円の長径の平均値が約4.1mm~約4.3mm、短径の平均値が約2.2mm~約2.3mmであった。
【0100】
得られたペレットを用い、以下の方法にしたがって、各評価用試験片を作製して評価に供した。その結果を表1および表2に示す。
【0101】
(試験片の作製方法)
得られたペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S2000i100A)を用い、成形温度290℃、金型温度80℃にて、幅50mm×長さ90mmの3段プレート状試験片(厚み3mm部分:長さ35mm/厚み2mm部分:長さ30mm/厚み1mm部分:長さ25mm)を作成した
【0102】
(試験片の評価方法)
1.全光線透過率(%):
得られた3段プレート状試験片の1mm部分を用い、JIS K7361に準拠して全光線透過率を測定した。数値が大きいほど、成形品の光透過性が良好であることを示す。厚み1mmの成形品で全光線透過率の値が40%以上を良好とした。
【0103】
2.光拡散度(度):
上記1で用いた3段プレート状試験片の1mm部分を用い、自動変角光度計(村上色彩技術研究所製ゴニオフォトメーターGP-1R)により光拡散性(D50)を求めた。詳細な測定法は以下のとおりである。この数値が大きいほど成形品の光拡散性が良好であることを示す。自動変角光度計の光源からの直進光線を試験片の法線方向から当て、可動式受光器にて透過光の強度を測定し、法線方向からの角度に対して透過率をプロットし、直進光透過率の50%の透過率になるところの角度(D50)を求めた。単位は「度」であり、光拡散性(D50)が30度以上を良好とした。
【0104】
3.光源透視防止性(目視判定):
フィリップス製20W形直管形LEDランプの中央部に3cm×5cmの長方形状の穴を開け、その部分に3cm×5cm×1mmの射出成形板をLED光源から約1.5cmの高さに設置した。光源透視防止性は、LEDランプに設置した射出成形板上約20cmの高さから目視判定した。十分な光拡散性を備え、LED光源の輪郭が消失している場合は、極めて良好◎と判定した。LED光源の輪郭がやや分かる場合を良好○、光拡散性が乏しくLED光源の輪郭がはっきり分かる場合を不良×と判定した。
【0105】
4.黄色度:
得られた3段プレート状試験片の1mm部分を用い、分光光度計((株)日立製作所製、UH4150)にて、標準光源D65を用い、10度視野にて各々の試験片の加熱試験後の黄色度(以下、YI)を求めた。加熱試験は、上記試験片をエスペック社製イナートオーブンIPHH-201Mの中に設置し、90℃で500時間保持することによって行った。なお、YIが3.5以下を良好(表中、◎で示す)、3.5を超え、4.0以下を使用可(表中、○で示す)、4.0を超えると不良(表中、×で示す)とした。
【0106】
表1に、各実施例及び比較例の原料及び配合割合、評価結果を併せて示す。
【0107】
【表1】
【0108】
実施例1~9の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪酸エステル(B)、光拡散剤(C)及びリン系酸化防止剤(D)を含み必要に応じて、芳香族化合物(E)、エポキシ化合物等を、各々特定の割合で含む。したがって、該芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形された試験片は、必要とされる全光線透過率、光拡散性、光源透視防止性が高く、黄色度が小さく、かつ加熱試験後の劣化も殆ど無い。
【0109】
そして、このような芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、黄色度が小さく色相に優れ、しかも加熱試験後の劣化も殆ど無い。
【0110】
これに対して、比較例1の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、光拡散剤の配合量が少ないので、光拡散度が低く、光源透視防止性が悪かった。また、比較例2の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、光拡散剤の配合量が多いため、全光線透過率が低く、加熱試験前後の黄色度が高くなった。比較例3の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、リン系酸化防止剤の量が多いため、加熱試験後の黄色度が高くなった。
【0111】
以上のように本発明における技術の例示として実施の形態を説明した。そのために詳細な説明を提供した。
【0112】
したがって、詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0113】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れ、透明性・光線透過率・光拡散性が高く、しかも得られる成形品が、炎天下環境及び/又は光源照射等による高温条件下に長期に亘り暴露された場合でも、透明性・透過性が低下し難い(白濁又は着色を生じ難い)。よって、例えば厚さ0.3mm程度の薄型の成形品(拡散板)であっても、色相が変化して外観が低下(劣化)することを生じ難く、外部環境や光源に起因する高温条件下に長期間暴露された場合でも、透明性の低下を生じ難く(白濁又は着色を生じ難く)、すなわち、光透過性を落とさずに、それでいて光源が透けて見えない光拡散性の高いポリカーボネート樹脂組成物を提供でき、工業的利用価値が極めて高い。