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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047443
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】自動運転装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20240329BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240329BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20240329BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W60/00
B60W40/06
G08G1/16 C
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153058
(22)【出願日】2022-09-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】原 英之
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA33
3D241BA49
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CD09
3D241CD12
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB01Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DB20Z
3D241DC33Z
3D241DC37Z
3D241DC39Z
3D241DC42Z
3D241DC50Z
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC24
5H181FF04
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】自車両前方の障害物を回避する際の安全性を向上する。
【解決手段】ポテンシャル場に基づいて自車両Vの運転行動を決定する自動運転装置1は、自車両Vの周辺の障害物を検出する障害物検出部121と、障害物検出部121が検出した自車両の進行方向前方で静止している静止障害物の外縁から自車両Vの走行車線の幅方向に所定の障害物回避最小距離だけ離れた回避位置が、走行車線の幅に基づく幅方向において自車両が移動可能な移動最大位置よりも走行車線の中心位置に近い場合、幅方向における静止障害物と自車両との距離が障害物回避最小距離以上になる障害物回避軌道を生成する回避軌道生成部122と、障害物回避軌道に沿って自車両を走行させる車速の推奨度合いを示す車速ポテンシャル及び走行位置の推奨度合いを示す車線ポテンシャルを生成するポテンシャル生成部124と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポテンシャル場に基づいて自車両の運転行動を決定する自動運転装置であって、
前記自車両の周辺の障害物を検出する障害物検出部と、
前記障害物検出部が検出した前記自車両の進行方向前方で静止している静止障害物の外縁から前記自車両の走行車線の幅方向に所定の障害物回避最小距離だけ離れた回避位置が、前記走行車線の幅に基づく前記幅方向において前記自車両が移動可能な移動最大位置よりも前記走行車線の中心位置に近い場合、前記幅方向における前記静止障害物と前記自車両との距離が前記障害物回避最小距離以上になる障害物回避軌道を生成する回避軌道生成部と、
前記障害物回避軌道に沿って前記自車両を走行させる車速の推奨度合いを示す車速ポテンシャル及び走行位置の推奨度合いを示す車線ポテンシャルを生成するポテンシャル生成部と、
を有する自動運転装置。
【請求項2】
前記回避軌道生成部は、前記回避位置が前記移動最大位置よりも前記中心位置から遠ければ前記障害物回避軌道を生成せず、前記回避位置が前記移動最大位置よりも前記中心位置に近ければ、前記障害物回避最小距離以上になる一以上の前記障害物回避軌道を生成する、
請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項3】
前記自車両が走行中の走行軌道を走行し続けるときの維持コストよりも前記障害物回避軌道を走行するときの障害物回避コストが低ければ、前記障害物回避軌道を走行する障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定する走行モード決定部をさらに備える、
請求項1又は2に記載の自動運転装置。
【請求項4】
前記走行モード決定部は、
前記自車両の向きが、前記走行軌道の経路点の接線方向を基準とする所定の判定角度範囲内であり、
前記障害物回避軌道の終点での前記自車両の向きが、前記障害物回避軌道の終点の接線方向を基準とする前記判定角度範囲内であり、
前記障害物回避軌道を走行するときの回避リスクがリスク閾値未満であり、
かつ前記維持コストよりも前記障害物回避コストが低い状態が、所定の判定継続時間以上続いたら、前記障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定する、
請求項3に記載の自動運転装置。
【請求項5】
前記回避軌道生成部は、前記静止障害物と前記自車両との距離及び前記自車両の目標速度のうちの少なくともいずれかが異なる複数の前記障害物回避軌道を生成し、
前記走行モード決定部は、前記複数の障害物回避軌道のうちの前記障害物回避コストが最も低い障害物回避軌道を走行する障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定する、
請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項6】
前記回避軌道生成部は、前記自車両が前記静止障害物を通過した後、前記走行車線の前記幅方向において前記中心位置を走行する復帰走行軌道を生成し、
前記走行モード決定部は、
前記自車両の向きが、前記自車両が走行中の前記障害物回避軌道の経路点の接線方向を基準とする前記判定角度範囲内であり、
前記復帰走行軌道の終点での前記自車両の向きが、前記復帰走行軌道の終点の接線方向を基準とする前記判定角度範囲内であり、
前記復帰走行軌道を走行するときの復帰リスクが前記リスク閾値未満であり、
かつ前記障害物回避軌道を走行し続けるときの復帰軌道コストよりも前記復帰走行軌道を走行するときの復帰軌道コストが低い状態が、前記判定継続時間以上続いたら、
前記復帰走行軌道を走行する走行モードを前記自車両の走行モードに決定する、
請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項7】
前記走行モード決定部は、前記静止障害物の位置が前記中心位置に近いほど、前記判定継続時間を長くする、
請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項8】
前記走行モード決定部は、前記静止障害物の位置と前記中心位置との距離が所定の閾値未満の場合には前記障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定せず、前記静止障害物の位置と前記中心位置との距離が前記閾値以上の場合には前記障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定する、
請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項9】
前記走行モード決定部は、前記静止障害物が静止し続けることが特定されたら前記判定継続時間を短くし、前記静止障害物が移動を開始することが特定されたら前記判定継続時間を長くする、
請求項4に記載の自動運転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、自車両の運転行動を決定する自動運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両前方の障害物を回避する技術が知られている。特許文献1には、自車両の前方に障害物を検出すると、自車両の走行車線からはみ出して障害物を回避する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-60073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、障害物を回避するために走行車線から自車両がはみ出しすぎると、隣接車線を走行する他車両や対向車線を走行する対向車に接触するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、自車両前方の障害物を回避する際の安全性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様においては、ポテンシャル場に基づいて自車両の運転行動を決定する自動運転装置であって、前記自車両の周辺の障害物を検出する障害物検出部と、前記障害物検出部が検出した前記自車両の進行方向前方で静止している静止障害物の外縁から前記自車両の走行車線の幅方向に所定の障害物回避最小距離だけ離れた回避位置が、前記走行車線の幅に基づく前記幅方向において前記自車両が移動可能な移動最大位置よりも前記走行車線の中心位置に近い場合、前記幅方向における前記静止障害物と前記自車両との距離が前記障害物回避最小距離以上になる障害物回避軌道を生成する回避軌道生成部と、前記障害物回避軌道に沿って前記自車両を走行させる車速の推奨度合いを示す車速ポテンシャル及び走行位置の推奨度合いを示す車線ポテンシャルを生成するポテンシャル生成部と、を有する自動運転装置を提供する。
【0007】
前記回避軌道生成部は、前記回避位置が前記移動最大位置よりも前記中心位置から遠ければ前記障害物回避軌道を生成せず、前記回避位置が前記移動最大位置よりも前記中心位置に近ければ、前記障害物回避最小距離以上になる一以上の前記障害物回避軌道を生成してもよい。
【0008】
前記自車両が走行中の走行軌道を走行し続けるときの維持コストよりも前記障害物回避軌道を走行するときの障害物回避コストが低ければ、前記障害物回避軌道を走行する障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定する走行モード決定部をさらに備えてもよい。
【0009】
前記走行モード決定部は、前記自車両の向きが、前記走行軌道の経路点の接線方向を基準とする所定の判定角度範囲内であり、前記障害物回避軌道の終点での前記自車両の向きが、前記障害物回避軌道の終点の接線方向を基準とする前記判定角度範囲内であり、前記障害物回避軌道を走行するときの回避リスクがリスク閾値未満であり、かつ前記維持コストよりも前記障害物回避コストが低い状態が、所定の判定継続時間以上続いたら、前記障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定してもよい。
【0010】
前記回避軌道生成部は、前記静止障害物と前記自車両との距離及び前記自車両の目標速度のうちの少なくともいずれかが異なる複数の前記障害物回避軌道を生成し、前記走行モード決定部は、前記複数の障害物回避軌道のうちの前記障害物回避コストが最も低い障害物回避軌道を走行する障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定してもよい。
【0011】
前記回避軌道生成部は、前記自車両が前記静止障害物を通過した後、前記走行車線の前記幅方向において前記中心位置を走行する復帰走行軌道を生成し、前記走行モード決定部は、前記自車両の向きが、前記自車両が走行中の前記障害物回避軌道の経路点の接線方向を基準とする前記判定角度範囲内であり、前記復帰走行軌道の終点での前記自車両の向きが、前記復帰走行軌道の終点の接線方向を基準とする前記判定角度範囲内であり、前記復帰走行軌道を走行するときの復帰リスクが前記リスク閾値未満であり、かつ前記障害物回避軌道を走行し続けるときの復帰軌道コストよりも前記復帰走行軌道を走行するときの復帰軌道コストが低い状態が、前記判定継続時間以上続いたら、前記復帰走行軌道を走行する走行モードを前記自車両の走行モードに決定してもよい。
【0012】
前記走行モード決定部は、前記静止障害物の位置が前記中心位置に近いほど、前記判定継続時間を長くしてもよい。
【0013】
前記走行モード決定部は、前記静止障害物の位置と前記中心位置との距離が所定の閾値未満の場合には前記障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定せず、前記静止障害物の位置と前記中心位置との距離が前記閾値以上の場合には前記障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定してもよい。
【0014】
前記走行モード決定部は、前記静止障害物が静止し続けることが特定されたら前記判定継続時間を短くし、前記静止障害物が移動を開始することが特定されたら前記判定継続時間を長くしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自車両前方の障害物を回避する際の安全性を向上できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】自動運転装置の構成を説明するための図である。
図2】障害物回避軌道を説明するための図である。
図3】障害物回避ステートマシンの模式図である。
図4】安定走行状態かを判定する処理を説明するための図である。
図5】障害物回避モードに決定するかを判定する処理の一例を示すフローチャートである。
図6】走行車線の中心位置に復帰するかを判定する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、自動運転装置1の構成を説明するための図である。自動運転装置1は、自動運転車両である自車両Vに搭載されている。自車両Vは、自動運転装置1の他に、センサ群2及びECU(Electronic Control Unit)3を搭載している。
【0018】
センサ群2は、自車両Vの状態及び周辺環境を検出するセンサである。センサ群2は、例えば自車両Vの状態として車速を検出する車速センサ及び加速度を検出する加速度センサを含み、自車両Vの車速及び加速度を検出する。センサ群2は、車両の位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)受信機を含み、自車両Vの位置を検出する。また、センサ群2は、自車両Vの状態として、ヨーレートを検出するセンサを含み、ヨーレートを検出する。センサ群2は、自車両Vの進行する向きを検出する。自車両Vの進行する向きは、例えば北を基準とする自車両Vの方位角である。センサ群2は、周辺環境を検出するセンサとして、カメラ、レーダ、LIDAR等の外部センサを有する。センサ群2は、外部センサの出力値を自動運転装置1に出力する。
【0019】
ECU3は、自車両Vを制御するECUである。ECU3は、自動運転装置1が決定した運転行動に従い、自車両Vの加速度及びヨーレートを制御する。例えば、ECU3は、自動運転装置1が決定した加速度になるように自車両Vの駆動輪に接続されたエンジンのスロットル開度又はモータに供給する電力量を制御する。また、ECU3は、自動運転装置1が決定したヨーレートになるように、自車両Vの操舵輪の角度を制御する。
【0020】
自動運転装置1は、記憶部11及び制御部12を備える。記憶部11は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部11は、制御部12が実行するプログラムを記憶する。
【0021】
制御部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部12は、記憶部11に記憶されたプログラムを実行することにより、障害物検出部121、回避軌道生成部122、基本走行モード決定部123、ポテンシャル生成部124及び運転行動決定部125としての機能を実現する。
【0022】
障害物検出部121は、センサ群2の出力値に基づいて自車両Vの周辺の障害物を検出する。例えば、障害物検出部121は、移動障害物(例えば、他車両、自転車、歩行者等)を検出する。また、障害物検出部121は、自車両Vの進行方向の前方の静止障害物を検出する。静止障害物は、例えば、自車両Vの走行車線の進行方向の前方で停車している他車両である。また、静止障害物は、塀、ガードレール、標識、看板等であってもよい。
【0023】
障害物検出部121は、センサ群2に含まれるカメラが撮像した撮像画像に基づいて、障害物として検出した他車両の状態を特定する。例えば、障害物検出部121は、撮像画像を解析することにより、他車両のブレーキランプ、非常点滅表示灯及び方向指示器の点灯状態を特定する。具体的には、障害物検出部121は、ブレーキランプが点灯しているか否か、非常点滅表示灯が点滅しているか否か、及び方向指示器が点滅しているか否かを特定する。
【0024】
また、障害物検出部121は、センサ群2の出力値に基づいて自車両Vが走行する走行車線の位置や幅等を検出してもよい。具体的には、障害物検出部121は、カメラが撮像した撮像画像を解析することにより自車両Vの走行車線の車道外側線及び車線境界線を検出し、車道外側線と車線境界線の間の距離を走行車線の幅として検出する。障害物検出部121は、自車両Vの走行車線の左右の車線境界線を検出し、左右の車線境界線間の距離を走行車線の幅として検出する。
【0025】
回避軌道生成部122は、障害物検出部121が検出した静止障害物を回避する障害物回避軌道を生成する。障害物回避軌道には、例えば、現時点から所定の予測時間後までの各時刻における自車両Vの目標速度、目標位置及び目標位置に到達する目標時刻を示す情報が含まれている。図2は、障害物回避軌道Tを説明するための図である。他車両Bは、自車両Vの進行方向Xの前方で、車道外側線Gを跨いで停車している静止障害物である。
【0026】
まず、回避軌道生成部122は、走行車線の幅方向Yにおける他車両Bの外縁の位置Eから障害物回避最小距離Kだけはなれた回避位置Aを特定する。外縁の位置Eは、例えば幅方向Yにおける他車両Bの右端又は左端である。具体的には、外縁の位置Eは、他車両Bの右端と左端うちの走行車線の中心位置Cに近い方である。回避軌道生成部122は、静止障害物が他車両であれば障害物回避最小距離Kを基準距離よりも長くする。回避軌道生成部122は、静止障害物が塀、ガードレール、標識、看板等であれば障害物回避最小距離Kを基準距離よりも短くする。基準距離は、例えば自車両Vの車幅の半分の長さに所定の長さを加えた距離である。所定の長さは、例えば1メートルであるが、これに限定するものではない。一例を挙げると、基準距離は、自車両Vの車幅の半分の長さが1メートルであれば、2メートルである。
【0027】
次に、回避軌道生成部122は、幅方向Yにおいて、走行車線の幅に基づく自車両Vが移動可能な移動最大位置Mを特定する。移動可能な移動最大位置Mは、例えば、走行車線の中心位置Cから移動可能距離Wだけ離れた位置である。例えば、回避軌道生成部122は、移動可能距離Wを走行車線の幅の半分の長さに設定し、中心位置Cから移動可能距離Wだけ離れた車線境界線H上の位置を移動最大位置Mとして特定する。また、回避軌道生成部122は、自車両Vの周辺に障害物が検出されていれば、移動可能距離Wを走行車線の幅の半分の長さよりも短い長さにする。具体的には、回避軌道生成部122は、車線境界線Hを挟んで自車両Vの反対側を走行する他車両が検出されていれば移動可能距離Wを走行車線の幅の半分の長さよりも短い長さに設定する。一例を挙げると、回避軌道生成部122は、走行車線の幅が3メートルであれば、移動可能距離Wを1メートルにする。
【0028】
そして、回避軌道生成部122は、回避位置Aが移動最大位置Mよりも中心位置Cに近ければ、自車両Vと他車両Bとの距離が障害物回避最小距離K以上になる障害物回避軌道Tを生成する。具体的には、回避軌道生成部122は、複数の経路点の各々での目標速度、目標位置及び目標到達時刻を含む障害物回避軌道Tを生成する。また、回避軌道生成部122は、幅方向Yにおいて回避位置Aから移動最大位置Mの間の位置を走行する、自車両Vと他車両Bとの距離が異なる複数の障害物回避軌道Tを生成してもよい。具体的には、回避軌道生成部122は、移動最大位置Mを走行する障害物回避軌道Tと、回避位置Aを走行する第2障害物回避軌道を生成する。これにより、回避軌道生成部122は、自車両Vが走行車線を逸脱しすぎず、かつ他車両Bからできるだけ離れられる障害物回避軌道Tを生成できる。
【0029】
回避軌道生成部122は、例えば基本走行ポテンシャルや顕在リスクポテンシャルを加算することで求められるポテンシャル場を用いて決定された自車両Vの運転行動に応じて障害物回避軌道Tを生成する。具体的には、回避軌道生成部122は、ポテンシャル場を用いて決定された短期予測時間内の運転行動に基づき、短期予測時間よりも長い長期予測時間における障害物回避軌道Tを生成する。なお、回避軌道生成部122が障害物回避軌道Tを生成する方法はこれに限らない。
【0030】
回避軌道生成部122は、目標速度の異なる複数の障害物回避軌道Tを生成する。例えば、回避軌道生成部122は、自車両Vの現在の速度と同じ目標速度の障害物回避軌道、現在の速度よりも速い目標速度の障害物回避軌道、及び現在の速度よりも遅い目標速度の障害物回避軌道を生成する。具体的には、回避軌道生成部122は、自車両Vが走行する道路の制限速度を上限とし、0を下限とする複数の目標速度の各々の障害物回避軌道を生成する。具体例を挙げると、回避軌道生成部122は、制限速度が時速80キロメートルであり、自車両Vの速度が時速70キロメートルであれば、目標速度が80、75、70、60、50の複数の障害物回避軌道を生成する。
【0031】
なお、回避軌道生成部122は、所定の計算時間以内に生成できる数の障害物回避軌道を生成する。計算時間は、例えば50ミリ秒であるが、これに限定するものではない。例えば、回避軌道生成部122は、一の障害物回避軌道を生成するのに10ミリ秒かかるときには、目標速度及び自車両Vと他車両Bとの距離の少なくともいずれかが異なる5個の障害物回避軌道を生成する。
【0032】
回避軌道生成部122は、回避位置Aが移動最大位置Mよりも中心位置Cから遠ければ障害物回避軌道Tを生成しない。これにより、回避軌道生成部122は、走行車線を逸脱しすぎたり、他車両Bの近くを通過したりする障害物回避軌道Tの生成を抑制できる。
【0033】
基本走行モード決定部123は、自車両Vの進行方向X前方に静止障害物が検出されていなければ、自車両Vの基本走行モードを車線維持モードに決定する。基本走行モード決定部123は、基本走行モードを車線維持モードに決定すると、自車両Vが走行中の走行車線の幅方向Yにおける中心位置Cを走行する走行軌道を生成する。走行軌道には、例えば、現時点から所定の予測時間後までの各時刻における自車両の目標速度、目標位置及び目標位置に到達する目標時刻を示す情報が含まれている。
【0034】
基本走行モード決定部123は、自車両Vの進行方向X前方に静止障害物が検出されたら、障害物回避ステートマシンに基づいて複数の走行モードのうちの一の走行モードを自車両Vの走行モードに決定する。図3は、障害物回避ステートマシンSM1の模式図である。車線維持モードSM11は、障害物を回避せずに走行中の走行軌道を走行し続ける走行モードである。障害物右回避加速モードSM12は、静止障害物の右側を加速して通過する走行モードである。障害物右回避車速維持モードSM13は、車速を維持して静止障害物の右側を通過する走行モードである。障害物右回避減速モードSM14は、静止障害物の右側を減速して通過する走行モードである。障害物左回避加速モードSM15は、静止障害物の左側を加速して通過する走行モードである。障害物左回避車速維持モードSM16は、車速を維持して静止障害物の左側を通過する走行モードである。障害物左回避減速モードSM17は、静止障害物の左側を減速して回避する走行モードである。
【0035】
基本走行モード決定部123は、複数の障害物回避軌道が生成されていれば、各障害物痂皮に対応する走行モードうちのコスト関数の関数値が最も低い障害物回避軌道を走行する障害物回避モードを特定する。一例を挙げると、基本走行モード決定部123は、車速を維持して静止障害物の右側を通過する障害物回避軌道Tを走行する障害物右回避車速維持モードSM13の関数値が、他の走行モードの関数値よりも小さければ、障害物右回避車速維持モードSM13を関数値が最も低い走行モードとして特定する。
【0036】
基本走行モード決定部123は、自車両Vが走行中の走行軌道を走行し続けるときの維持コストよりも、関数値が最も低い障害物回避モードの障害物回避コストが小さければ、障害物右回避車速維持モードSM13を自車両Vの走行モードに決定する。具体例を挙げると、基本走行モード決定部123は、障害物右回避車速維持モードSM13の障害物回避軌道コスト関数の関数値が、維持コスト関数の関数値よりも小さければ、障害物右回避車速維持モードSM13を自車両Vの走行モードに決定する。基本走行モード決定部123は、維持コストが障害物回避コスト以上であれば、自車両Vの走行モードを、障害物回避モードに決定せず、自車両Vが走行中の走行軌道を走行し続ける車線維持モードSM11に決定する。以下、複数の障害物回避モードのうちの関数値が最も低い障害物回避モードが「障害物右回避車速維持モードSM13」であるものとして説明する。
【0037】
基本走行モード決定部123は、走行軌道を走行中の自車両Vが安定走行状態であり、かつ障害物回避軌道Tを走行する際に自車両Vが安定走行状態になる場合に、障害物右回避車速維持モードSM13を自車両Vの走行モードに決定する。図4は、安定走行状態かを判定する処理を説明するための図である。図4の黒丸は、自車両Vが走行中の走行軌道の経路点を示す。図4の白丸は、障害物回避軌道Tの経路点を示す。
【0038】
基本走行モード決定部123は、自車両Vの進行する向きF1が第1判定角度範囲H1内であれば、自車両Vが安定走行状態であると判定する。第1判定角度範囲H1は、自車両Vの現在位置に最も近い最近経路点SPの接線方向を基準とする角度の範囲である。第1判定角度範囲H1は、例えば鋭角であり、走行軌道の最近経路点SPでの接線方向の当該最近経路点SPから次の経路点NPを向く向きD1を中心とするマイナス15度からプラス15度である。基本走行モード決定部123は、自車両Vの向きが第1判定角度範囲H1外であれば自車両Vが不安定走行状態であると判定し、自車両Vの走行モードを車線維持モードに決定する。
【0039】
基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tの終点EPでの自車両Vの進行する向きF2が、第2判定角度範囲H2内であれば、当該障害物回避軌道Tを走行する際に自車両Vが安定走行状態になると判定する。第2判定角度範囲H2は、障害物回避軌道Tの終点EPの接線方向を基準とする角度の範囲である。第2判定角度範囲H2は、例えば鋭角であり、終点EPでの接線方向の終点EPの直前の経路点BPから終点EPを向く向きを中心とするマイナス15度からプラス15度である。基本走行モード決定部123は、終点EPにおける自車両Vの向きが第2判定角度範囲H2外であれば、障害物回避軌道Tを走行すると自車両Vが不安定走行状態になると判定し、自車両Vの走行モードを車線維持モードに決定する。
【0040】
基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tを安全に走行できると判定されたら、障害物右回避車速維持モードSM13を自車両Vの走行モードに決定する。基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tを走行するときの回避リスクがリスク閾値未満であれば、障害物回避軌道Tを安全に走行できると判定する。回避リスクは、障害物回避軌道Tを走行するときの自車両Vの周辺の障害物と自車両Vが接触するリスクの大きさである。リスク閾値は、自車両Vの周辺の障害物を緊急回避する必要があるか否かを判定するための閾値である。リスク閾値は、平均的な運転者が車両を運転する際に緊急回避する必要があると判断する場合の基準リスクよりも低い値である。基本走行モード決定部123は、回避リスクがリスク閾値以上であれば、障害物回避軌道Tを安全に走行できないと判定し、自車両Vの走行モードを車線維持モードに決定する。
【0041】
基本走行モード決定部123は、自車両Vが安定走行状態であり、かつ障害物回避軌道Tを走行する際に自車両Vが安定走行状態になり、かつ障害物回避軌道Tを安全に走行できると判定され、維持コストよりも障害物回避コストが小さい状態が判定継続時間以上継続したら、障害物右回避車速維持モードSM13を基本走行モードに決定する。判定継続時間は、判定結果が安定するのにかかると想定される時間であり、判定継続時間の基準値は例えば1秒であるが、これに限定するものではない。
【0042】
このように、基本走行モード決定部123は、判定結果が判定継続時間以上継続する安定状態になってから障害物右回避車速維持モードSM13を基本走行モードに決定する。その結果、基本走行モード決定部123は、例えば条件が満たされた直後の判定でいずれかの条件が満たされなくなった場合には、障害物右回避車速維持モードSM13を基本走行モードにすることを抑制して、自車両Vの走行モードを車線維持モードに決定し続けられる。言い換えると、基本走行モード決定部123は、判定結果が頻繁に変わってしまうことによる走行モードの頻繁な切り換えを抑制できる。
【0043】
基本走行モード決定部123は、静止障害物の状態に応じて判定継続時間を変更してもよい。例えば、基本走行モード決定部123は、静止障害物が信号待ちや渋滞で停車中の他車両であれば、判定継続時間を基準値よりも長くする。具体的には、基本走行モード決定部123は、静止障害物の位置が、走行車線の中心位置Cに近いほど静止障害物が信号待ちや渋滞で停車中の他車両である確率が高いので、判定継続時間を基準値よりも長くする。他車両の位置は、例えば他車両の幅方向の中心である。これにより、基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tを走行する障害物右回避車速維持モードSM13に決定するまでの時間を長くできるので、信号待ちや渋滞で停車中の他車両の側方を通過することを抑制できる。
【0044】
なお、基本走行モード決定部123は、静止障害物の位置と、走行車線の中心位置Cとの距離が所定の閾値未満の場合には、障害物右回避車速維持モードSM13を走行モードに決定しない。基本走行モード決定部123は、静止障害物の種別に応じて所定の閾値を設定する。例えば、基本走行モード決定部123は、静止障害物の種別が自動二輪車である場合の閾値を、静止障害物の種別が自動車である場合の閾値よりも大きくする。これにより、基本走行モード決定部123は、一時停止中の自動二輪車の側方を通過してしまうことを抑制できる。基本走行モード決定部123は、静止障害物の位置と、走行車線の中心位置Cとの距離が所定の閾値以上であれば障害物右回避車速維持モードSM13を走行モードに決定する。
【0045】
ところで、停車中の他車両が移動を開始しようとしているのにも関わらず、自車両Vが他車両の側方を通過するのは望ましくない。そこで、基本走行モード決定部123は、他車両が移動を開始することが特定されたら判定継続時間を基準値よりも長くする。例えば、基本走行モード決定部123は、他車両のブレーキランプが消灯したら、他車両が移動を開始すると特定する。また、基本走行モード決定部123は、点滅していた他車両の非常点滅表示灯が消灯した後、方向指示器が点滅したら、他車両が移動を開始すると特定する。これにより、基本走行モード決定部123は、静止障害物が移動を開始する他車両であるときに走行モードを障害物右回避車速維持モードSM13に決定することを抑制できるので、移動を開始する他車両の側方を通過すること抑制できる。
【0046】
上記のとおり、停車中の他車両が移動を開始する場合に他車両の側方を通過するのは望ましくないが、静止し続ける他車両を回避せずに停車してしまうと、自車両Vが走行する道路の交通を妨げてしまうおそれがある。そこで、基本走行モード決定部123は、他車両が静止し続けると判定されたら判定継続時間を基準値よりも短くする。例えば、基本走行モード決定部123は、他車両の非常点滅表示灯が点滅していれば、他車両が停止し続けると判定する。これにより、基本走行モード決定部123は、停車中の他車両を回避しやすくできる。
【0047】
ポテンシャル生成部124は、障害物回避軌道Tに沿って自車両Vを走行させる車速の推奨度合いを示す車速ポテンシャル及び走行位置の推奨度合いを示す車線ポテンシャルを生成する。車速ポテンシャルは、障害物回避軌道Tの各経路点の目標速度と現時刻の速度との差に比例する引力又は斥力ポテンシャルである。車線ポテンシャルは、障害物回避軌道Tの各経路点の目標位置を基準とするポテンシャルであり、目標位置と自車両Vの現在位置との差に比例する引力ポテンシャルである。
【0048】
運転行動決定部125は、車速ポテンシャル及び車線ポテンシャルを含み、自車両Vの運転行動をパラメータとするコスト関数を最小化する値を求めて、運転行動を決定する。具体的には、運転行動決定部125は、自車両Vの加速度及びヨ―レートをパラメータとするコスト関数を最小化する加速度及びヨ―レートを求めることにより、自車両Vの運転行動である加速度及びヨ―レートを決定する。より具体的には、運転行動決定部125は、自車両V周辺の障害物に応じて生成された障害物ポテンシャルに基づく接触リスクを含むコスト関数を最小化する値を求めて、自車両Vの運転行動を決定する。このようにすることで、自車両Vは、走行車線を逸脱しすぎずに障害物から一定距離離れる障害物回避軌道Tに沿って自車両Vの進行方向X前方の静止障害物を回避できる。
【0049】
(走行車線の中心位置に復帰する処理)
ところで、自車両Vが他車両Bの側方を通過した後も障害物回避軌道Tを走行して走行車線を逸脱し続けると、走行車線に隣接する隣接車線又は対向車線を走行する他車両と自車両Vが接触するリスクが高くなる。そこで、自動運転装置1は、自車両Vが他車両Bの側方を通過したら、走行車線の中心位置Cに復帰する。以下、走行車線の中心位置Cに復帰する処理を説明する。
【0050】
回避軌道生成部122は、自車両Vが静止障害物を通過したら、走行車線の中心位置Cに復帰する復帰走行軌道を生成する。具体的には、回避軌道生成部122は、走行車線の幅方向Yにおいて自車両Vが現在走行中の位置から中心位置Cに移動して走行する復帰走行軌道を生成する。
【0051】
基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tを走行し続けるときの回避継続コストよりも復帰走行軌道を走行するときの復帰軌道コストが小さければ、復帰走行軌道を走行する車線維持モードを自車両Vの走行モードに決定する。具体的には、基本走行モード決定部123は、走行モードを障害物右回避車速維持モードSM13に決定する場合と同様に、障害物回避軌道Tを走行する自車両Vが安定走行状態であり、復帰走行軌道を走行するときに自車両Vが安定走行状態なり、復帰走行軌道を走行するときの復帰リスクがリスク閾値未満であり、復帰軌道コストが回避軌道コスト以上であれば、走行モードを車線維持モードに決定する。
【0052】
基本走行モード決定部123は、自車両Vの向きが第3判定角度範囲内であれば、自車両Vが安定走行状態であると判定する。第3判定角度範囲は、第1判定角度範囲に対応しており、自車両Vが走行中の障害物回避軌道Tの経路点の接線方向を基準とする角度の範囲である。基本走行モード決定部123は、自車両Vの向きが第3判定角度範囲外であれば、自車両Vが不安定走行状態であると判定する。
【0053】
基本走行モード決定部123は、復帰走行軌道の終点での自車両Vの向きが第4判定角度範囲内であれば、復帰走行軌道を走行する際に自車両Vが安定走行状態になると判定する。第4判定角度範囲は、第2判定角度範囲に対応しており、復帰走行軌道の終点の接線方向を基準とする角度の範囲である。基本走行モード決定部123は、帰走行軌道の終点での自車両Vの向きが第4判定角度範囲外であれば、復帰走行軌道を走行すると自車両Vが不安定走行状態になると判定する。
【0054】
基本走行モード決定部123は、復帰走行軌道を走行するときの復帰リスクがリスク閾値未満であれば、復帰走行軌道を安全に走行できると判定する。復帰リスクは、復帰走行軌道を走行するときの自車両Vの周辺の障害物と自車両Vが接触するリスクの大きさである。基本走行モード決定部123は、復帰リスクがリスク閾値以上であれば、復帰走行軌道を安全に走行できないと判定する。
【0055】
基本走行モード決定部123は、自車両Vの向きが第3判定角度範囲内であり、復帰走行軌道の終点での自車両Vの向きが第4判定角度範囲内であり、復帰リスクがリスク閾値未満であり、かつ回避軌道コストよりも復帰走行軌道コストが小さい状態が、判定継続時間以上続いたら、車線維持モードを自車両Vの走行モードに決定する。基本走行モード決定部123は、上記の状態が判定継続時間以上続く前に、障害物回避軌道Tを走行する自車両Vが不安定走行状態である、復帰走行軌道を走行するときに自車両Vが不安定走行状態になる、復帰リスクがリスク閾値以上である、又は復帰軌道コストが回避軌道コスト以上であると判定したら、自車両Vの走行モードを障害物右回避車速維持モードSM13に決定する。
【0056】
このように、基本走行モード決定部123は、自車両Vが他車両Bを通過して上記の条件を満たしたら、走行車線の中心位置Cに復帰する車線維持モードを走行モードに決定する。これにより、基本走行モード決定部123は、自車両Vが他車両Bの側方を通過した後も障害物回避軌道Tを走行して走行車線を逸脱し続けることを抑制でき、自車両Vの安全性を高められる。
【0057】
[障害物回避モードに決定するかを判定する処理]
図5は、障害物回避モードに決定するかを判定する処理の一例を示すフローチャートである。図5のフローチャートは、自車両Vの進行方向前方に静止障害物が検出されたら実行される。
【0058】
回避軌道生成部122は、回避位置Aが移動最大位置Mよりも中心位置Cに近いか否かを判定する(ステップS1)。具体的には、回避軌道生成部122は、走行車線の幅方向Yにおける、静止障害物である他車両Bの外縁の位置Eから障害物回避最小距離Kだけはなれた回避位置Aと、自車両Vが移動可能な移動最大位置Mとを特定し、回避位置Aが移動最大位置Mよりも中心位置Cに近いか否かを判定する(図2を参照)。
【0059】
回避軌道生成部122は、回避位置Aが移動最大位置Mよりも中心位置Cに近ければ(ステップS1でYes)、障害物回避軌道Tを生成する(ステップS2)。具体例を挙げると、回避軌道生成部122は、移動最大位置Mを走行する障害物回避軌道Tを生成する(図2を参照)。回避軌道生成部122は、回避位置Aが移動最大位置Mよりも中心位置から遠ければ(ステップS1でNo)、障害物回避軌道Tを生成しない。
【0060】
基本走行モード決定部123は、回避軌道生成部122が障害物回避軌道Tを生成したら、自車両Vが走行車線に対して安定走行状態であるか否かを判定する(ステップS3)。具体的には、基本走行モード決定部123は、自車両Vの進行する向きF1が第1判定角度範囲H1内であれば、自車両Vが安定走行状態であると判定する(図4を参照)。
【0061】
基本走行モード決定部123は、自車両Vが安定走行状態であれば(ステップS3でYes)、障害物回避軌道Tを走行する際に自車両Vが安定走行状態になるか否かを判定する(ステップS4)。具体的には、基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tの終点EPでの自車両の進行する向きF2が、障害物回避軌道Tの終点EPの接線方向を基準とする第2判定角度範囲H2内であれば、当該障害物回避軌道Tを走行する際に自車両Vが安定走行状態になると判定する(図4を参照)。
【0062】
基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tを走行する際に自車両Vが安定走行状態になる場合(ステップS4でYes)、障害物回避軌道Tを走行するときの回避リスクがリスク閾値未満であるか否かを判定する(ステップS5)。基本走行モード決定部123は、回避リスクがリスク閾値未満であれば(ステップS5でYes)、走行中の走行車線を走行する維持コストよりも、障害物回避軌道Tを走行する障害物回避コストが小さいか否かを判定する(ステップS6)。なお、ステップS3からS6までの処理の順は、これに限らず、いずれのステップから開始してもよい。また、ステップS3からS6までの処理は、並列に実行されてもよい。
【0063】
基本走行モード決定部123は、維持コストよりも障害物回避コストが小さければ(ステップS6でYes)、ステップS3からステップS6までの判定がYesである状態が判定継続時間以上継続したか否かを判定する(ステップS7)。具体的には、基本走行モード決定部123は、自車両Vが安定走行状態であり、障害物回避軌道Tを走行する際に自車両Vが安定走行状態になり、回避リスクがリスク閾値未満であり、かつ維持コストよりも障害物回避コストが小さい状態が判定継続時間以上継続したか否かを判定する。基本走行モード決定部123は、ステップS3からステップS6までの判定がYesである状態が判定継続時間以上継続していれば(ステップS7でYes)、障害物回避モードを基本走行モードに決定する(ステップS8)。
【0064】
基本走行モード決定部123は、回避軌道生成部122が障害物回避軌道Tを生成しない場合(ステップS1でNo)、及びステップS3からステップS7のいずれかの判定がNoである場合には、障害物回避モードを基本走行モードに決定せず、車線維持モードを基本走行モードに決定する(ステップS9)。なお、障害物回避モードに決定するかを判定する処理は、自車両Vの走行モードが障害物回避モードに決定されるか、自車両Vが静止障害物を通過するか、又は自車両Vが静止障害物の手前で停車するまで繰り返し実行される。
【0065】
[走行車線の中心位置に復帰するかを判定する処理]
図6は、走行車線の中心位置に復帰するかを判定する処理の一例を示すフローチャートである。図6のフローチャートは、自車両Vの走行モードが障害物回避モードになったら実行される。
【0066】
基本走行モード決定部123は、自車両Vが静止障害物を通過したか否かを判定する(ステップS11)。例えば、基本走行モード決定部123は、自車両Vの進行方向前方に検出されていた静止障害物が、自車両Vの進行方向後方で検出されたら、自車両Vが静止障害物を通過したと判定する。回避軌道生成部122は、自車両Vが静止障害物を通過したと判定されたら(ステップS11でYes)、走行車線の中心位置に復帰する復帰走行軌道を生成する。具体的には、回避軌道生成部122は、幅方向Yにおいて自車両Vが現在走行中の位置から幅方向Yの中心位置Cに移動して、走行車線の幅方向Yの中心位置C付近を走行する復帰走行軌道を生成する(ステップS12)。
【0067】
基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tを走行する自車両Vが安定走行状態であるか否かを判定する(ステップS13)。例えば、基本走行モード決定部123は、自車両Vの向きが第3判定角度範囲内であれば、障害物回避軌道Tを走行する自車両Vが安定走行状態であると判定する。基本走行モード決定部123は、自車両Vの向きが第3判定角度範囲外であれば、障害物回避軌道Tを走行する自車両Vが不安定走行状態であると判定する。
【0068】
基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tを走行する自車両Vが安定走行状態であれば(ステップS13でYes)、復帰走行軌道を走行する際に自車両Vが安定走行状態になるか否かを判定する(ステップS14)。基本走行モード決定部123は、復帰走行軌道の終点での自車両Vの向きが第4判定角度範囲内であれば、自車両Vが安定走行状態になると判定し、復帰走行軌道の終点での自車両Vの向きが第4判定角度範囲外であれば不安定走行状態になると判定する。
【0069】
基本走行モード決定部123は、復帰走行軌道を走行する際に自車両Vが安定走行状態になる場合(ステップS14でYes)、復帰走行軌道を走行するときの復帰リスクがリスク閾値未満か否かを判定する(ステップS15)。基本走行モード決定部123は、復帰リスクがリスク閾値未満であれば(ステップS15でYes)、復帰軌道コストが回避軌道コストよりも小さいか否かを判定する(ステップS16)。なお、ステップS13からS16までの処理の順は、これに限らず、いずれのステップから開始してもよい。また、ステップS13からS16までの処理は、並列に実行されてもよい。
【0070】
基本走行モード決定部123は、復帰軌道コストが回避軌道コストよりも小さければ(ステップS16でYes)、ステップS13からステップS16までの判定がYesである状態が判定継続時間以上継続しているか否かを判定する(ステップS17)。具体的には、基本走行モード決定部123は、障害物回避軌道Tを走行する自車両Vが安定走行状態であり、復帰走行軌道を走行する際に自車両Vが安定走行状態になり、復帰リスクがリスク閾値未満であり、かつ回避軌道コストよりも復帰軌道コストが小さい状態が判定継続時間以上継続したか否かを判定する。基本走行モード決定部123は、ステップS13からステップS16までの判定がYesである状態が判定継続時間以上継続していれば(ステップS17でYes)、復帰走行軌道を走行する車線維持モードを基本走行モードに決定する(ステップS18)。
【0071】
基本走行モード決定部123は、自車両Vが静止障害物を通過してしない場合(ステップS11でNo)、及びステップS13からステップS17のいずれかの判定がNoである場合には、復帰走行軌道を走行する車線維持モードを基本走行モードに決定せず、障害物回避モードを基本走行モードに決定する(ステップS19)。なお、走行車線の中心位置に復帰するかを判定する処理は、自車両Vの走行モードが車線維持モードに決定されるまで繰り返し実行される。
【0072】
[自動運転装置1の効果]
以上説明したとおり、自動運転装置1は、自車両Vの進行方向前方の静止障害物の外縁から走行車線の幅方向Yに障害物回避最小距離Kだけ離れた回避位置Aが、自車両Vの移動最大位置Mよりも走行車線の中心位置Cに近い場合、幅方向Yにおける静止障害物と自車両Vの距離が障害物回避最小距離K以上になる障害物回避軌道Tを生成する。そして、自動運転装置1は、障害物回避軌道Tに沿って自車両Vを走行させるための車速ポテンシャル及び車線ポテンシャルを生成し、生成したポテンシャルに基づいて自車両Vの運転行動を決定する。このようにすることで、自動運転装置1は、自車両Vが走行車線を逸脱しすぎずに静止障害物から一定距離離れて静止障害物を回避できる。その結果、自動運転装置1は、走行車線に隣接する隣接車線又は対向車線を走行する他車両と自車両Vとが接触するリスク、及び静止障害物と自車両Vが接触するリスクを低減できるので、自車両V前方の静止障害物を回避する際の安全性を向上できる。
【0073】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0074】
1 自動運転装置
11 記憶部
12 制御部
121 障害物検出部
122 回避軌道生成部
123 基本走行モード決定部
124 ポテンシャル生成部
125 運転行動決定部
2 センサ群
3 ECU
V 自車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-10-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転行動を決定する自動運転装置であって、
前記自車両の周辺の障害物を検出する障害物検出部と、
前記障害物検出部が検出した前記自車両の進行方向前方で静止している静止障害物の外縁から前記自車両の走行車線の幅方向に所定の障害物回避最小距離だけ離れた回避位置が、前記走行車線の幅に基づく前記幅方向において前記自車両が移動可能な移動最大位置よりも前記走行車線の中心位置に近い場合、前記幅方向における前記静止障害物と前記自車両との距離が前記障害物回避最小距離以上になる障害物回避軌道を生成する回避軌道生成部と、
前記障害物回避軌道に沿って前記自車両を走行させる車速の推奨度合いを示し、前記障害物回避軌道の各経路点の目標速度と前記自車両の現時刻の速度との差に比例する引力又は斥力ポテンシャルである車速ポテンシャル及び前記障害物回避軌道の各経路点の目標位置を基準とし、前記経路点の目標位置と前記自車両の現在位置との差に比例する引力ポテンシャルである走行位置の推奨度合いを示す車線ポテンシャルを生成するポテンシャル生成部と、
前記ポテンシャル生成部が生成した前記車速ポテンシャル及び前記車線ポテンシャルを含み、前記自車両の加速度及びヨーレートをパラメータとするコスト関数を最小化する加速度及びヨーレートを前記運転行動として決定する運転行動決定部と、
を有する自動運転装置。
【請求項2】
前記回避軌道生成部は、前記回避位置が前記移動最大位置よりも前記中心位置から遠ければ前記障害物回避軌道を生成せず、前記回避位置が前記移動最大位置よりも前記中心位置に近ければ、前記障害物回避最小距離以上になる一以上の前記障害物回避軌道を生成する、
請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項3】
前記自車両が走行中の走行軌道を走行し続けるときの維持コストよりも前記障害物回避軌道を走行するときの障害物回避コストが低ければ、前記障害物回避軌道を走行する障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定する走行モード決定部をさらに備える、
請求項1又は2に記載の自動運転装置。
【請求項4】
前記走行モード決定部は、
前記自車両の向きが、前記走行軌道の経路点の接線方向を基準とする所定の判定角度範囲内であり、
前記障害物回避軌道の終点での前記自車両の向きが、前記障害物回避軌道の終点の接線方向を基準とする前記判定角度範囲内であり、
前記障害物回避軌道を走行するときの回避リスクがリスク閾値未満であり、
かつ前記維持コストよりも前記障害物回避コストが低い状態が、所定の判定継続時間以上続いたら、前記障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定する、
請求項3に記載の自動運転装置。
【請求項5】
前記回避軌道生成部は、前記静止障害物と前記自車両との距離及び前記自車両の目標速度のうちの少なくともいずれかが異なる複数の前記障害物回避軌道を生成し、
前記走行モード決定部は、前記複数の障害物回避軌道のうちの前記障害物回避コストが最も低い障害物回避軌道を走行する障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定する、
請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項6】
前記回避軌道生成部は、前記自車両が前記静止障害物を通過した後、前記走行車線の前記幅方向において前記中心位置を走行する復帰走行軌道を生成し、
前記走行モード決定部は、
前記自車両の向きが、前記自車両が走行中の前記障害物回避軌道の経路点の接線方向を基準とする前記判定角度範囲内であり、
前記復帰走行軌道の終点での前記自車両の向きが、前記復帰走行軌道の終点の接線方向を基準とする前記判定角度範囲内であり、
前記復帰走行軌道を走行するときの復帰リスクが前記リスク閾値未満であり、
かつ前記障害物回避軌道を走行し続けるときの復帰軌道コストよりも前記復帰走行軌道を走行するときの復帰軌道コストが低い状態が、前記判定継続時間以上続いたら、
前記復帰走行軌道を走行する走行モードを前記自車両の走行モードに決定する、
請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項7】
前記走行モード決定部は、前記静止障害物の位置が前記中心位置に近いほど、前記判定継続時間を長くする、
請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項8】
前記走行モード決定部は、前記静止障害物の位置と前記中心位置との距離が所定の閾値未満の場合には前記障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定せず、前記静止障害物の位置と前記中心位置との距離が前記閾値以上の場合には前記障害物回避モードを前記自車両の走行モードに決定する、
請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項9】
前記走行モード決定部は、前記静止障害物が静止し続けることが特定されたら前記判定継続時間を短くし、前記静止障害物が移動を開始することが特定されたら前記判定継続時間を長くする、
請求項4に記載の自動運転装置。