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特開2024-47483テープ送り出し用のローラユニット、繊維積層装置及び複合材成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047483
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】テープ送り出し用のローラユニット、繊維積層装置及び複合材成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20240329BHJP
   B29C 70/38 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C70/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153126
(22)【出願日】2022-09-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「薄層材自動積層によるCFRPの3D高自由度設計技術の開発」委託研究(管理法人:JST)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】平林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】寺山 大地
(72)【発明者】
【氏名】中西 舜也
(72)【発明者】
【氏名】國谷 知可
(72)【発明者】
【氏名】駒庭 正巳
(72)【発明者】
【氏名】上野 俊介
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG03
4F205AJ08
4F205HA14
4F205HA23
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HC02
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK23
4F205HK29
(57)【要約】
【課題】FRPの素材となるプリプレグテープ又はドライテープ等の複数のテープ材を互いオーバーラップさせることなく同時に積層し、かつ積層後における複数のテープ材全体の幅を変化できるようにすることである。
【解決手段】テープ送り出し用のローラユニットは、樹脂を含浸させる前の繊維又は樹脂を含浸させた後の繊維からなる複数のテープを幅方向に並べて厚さ方向に押付けながら長さ方向に送り出すものであって、前記複数のテープとの間における摩擦力によって回転し、回転軸が同一直線上となるように並べて配置され、かつ最大径が同一である複数のローラと、前記複数のローラをそれぞれ独立した回転速度で回転可能に支持する共通の支持シャフトとを有し、前記各ローラの内部に前記各ローラの半径方向を長さ方向及び伸縮方向とする複数のバネを放射状に配置することによって前記各ローラに弾性を付与したものである。
【選択図】 図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含浸させる前の繊維又は樹脂を含浸させた後の繊維からなる複数のテープを幅方向に並べて厚さ方向に押付けながら長さ方向に送り出すテープ送り出し用のローラユニットであって、
前記複数のテープとの間における摩擦力によって回転し、回転軸が同一直線上となるように並べて配置され、かつ最大径が同一である複数のローラと、
前記複数のローラをそれぞれ独立した回転速度で回転可能に支持する共通の支持シャフトと、
を有し、
前記各ローラの半径方向を長さ方向及び伸縮方向とする複数のバネを前記各ローラの内部に放射状に配置することによって前記各ローラに弾性を付与したテープ送り出し用のローラユニット。
【請求項2】
前記各ローラの外表面を形成し、かつ内側に前記複数のバネを配置したリング状の部材を、凹凸を有する面に前記リング状の部材を押し当てた場合に前記凹凸を有する面にフィットするように前記リング状の部材を変形させる一方、前記凹凸を有する面から前記リング状の部材を引離した場合に前記リング状の部材の形状を元の形状に復元することが可能な弾性体で構成した請求項1記載のテープ送り出し用のローラユニット。
【請求項3】
前記各ローラの外表面を形成し、かつ内側に前記複数のバネを配置したリング状の部材を、位相方向を円形にした波形のバネで構成し、かつ前記波形のバネと、前記放射状に配置された複数のバネとを一体化した請求項1記載のテープ送り出し用のローラユニット。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のテープ送り出し用のローラユニットを備えた繊維積層装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のテープ送り出し用のローラユニットで前記複数のテープを送り出すことによって前記複数のテープを積層するステップと、
前記テープに含浸させた前記樹脂を硬化するステップと、
を有する複合材成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、テープ送り出し用のローラユニット、繊維積層装置及び複合材成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の複合材とも呼ばれる繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)を成形するためには、シート状の繊維に未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグのシートを積層した後、樹脂を硬化させることが必要となる。或いは、樹脂を含浸させる前のシート状の繊維を積層した後、樹脂を含浸させて硬化させることが必要となる。繊維を積層した後、樹脂を含浸させるFRPの成形方法は、RTM(Resin Transfer Molding)法と呼ばれる。
【0003】
近年では、テープ状のプリプレグ又は繊維を自動的に積層する自動繊維積層(AFP:Automated Fiber Placement)装置が市販されており(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)、AFP装置で積層するためのプリプレグテープの他、ドライテープと呼ばれる樹脂を含浸させる前のテープ状の繊維も市販されている。
【0004】
AFP装置でプリプレグテープやドライテープ等のテープ材を積層する場合、複数のテープ材を同時に積層することにより、積層効率、すなわち単位時間当たりに積層されるテープ材の長さを向上することができる。このため、複数のテープ材を同時に積層できるように複数の積層ヘッドを備えたAFP装置も考案されている(例えば特許文献4及び特許文献5参照)。また、複数のプリプレグテープを同時に積層する多頭式AFP装置において、隣接するプリプレグテープ間におけるオーバーラップ量を調整できるようにする技術も提案されている(例えば特許文献6及び特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-519995号公報
【特許文献2】国際公開第2018-168202号明細書
【特許文献3】特開2019-151726号公報
【特許文献4】特表2011-527648号公報
【特許文献5】特開2022-130133号公報
【特許文献6】特開2020-059145号公報
【特許文献7】特開2022-046379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数の積層ヘッドを備えた従来のAFP装置では、特定の幅を有するテープ材でなければ積層することができない。このため、積層後における複数のテープ材の幅を変化させるためには、テープ材間におけるオーバーラップ量を変化せざるを得ない。換言すれば、テープ材を部分的にオーバーラップさせなければ、積層後におけるテープ材全体の幅を変化させることができない。このため、積層後におけるテープ材の厚さを均一にすることができない。
【0007】
加えて、プリプレグテープには粘着性があることから、プリプレグテープをオーバーラップさせて積層すると、曲線的に複数のプリプレグテープを積層することが困難となる場合がある。具体的には、複数のプリプレグテープを互いにオーバーラップさせた状態で曲線的に積層しようとすると、内側におけるプリプレグテープと、外側におけるプリプレグテープとの間で積層長さが異なることから、理想通りに複数のプリプレグテープを敷き詰めることができない場合がある。このため、複数のプリプレグテープをオーバーラップさせて積層する場合には、直線的又は曲率が非常に小さい曲線に沿ってプリプレグテープを積層せざるを得ない。
【0008】
これは、テープ材自体の幅が大きい場合においても同様である。すなわち、曲率が大きい曲線に沿って複数のテープ材を積層するためには、幅が狭い複数のテープ材をオーバーラップさせずに積層することが必要となる。しかも、テープ材の幅が狭くなるほど、テープ材の積層効率が減少することから、積層効率の低下を回避又は低減するためには、より多くのテープ材を同時に積層することが求められる。
【0009】
しかしながら、典型的なAFP装置は、テープ材を固定するブレーキ、テープ材を送り出すフィードローラ、テープ材を切断するカッタ及びテープ材を型に押付けるコンパクションローラで構成される積層ヘッドを有しており、これら積層ヘッドの構成要素の幅はテープの幅よりも大きくなることから、構成要素間における干渉を回避するために積層ヘッドをテープ材の幅方向に並べることができない。すなわち、テープ材の数に等しい数の複数の積層ヘッドを、互い違いに配置するなど、テープ材の送り出し方向に異なる位置に配置することが必要となる。その結果、多数のテープ材を同時に送り出すためには、多数の積層ヘッドを備えた大掛かりなAFP装置が必要となり、テープ材の数を増やすことは容易ではない。
【0010】
そこで、本発明は、FRPの素材となるプリプレグテープ又はドライテープ等の複数のテープ材を互いにオーバーラップさせることなく同時に積層し、かつ積層後における複数のテープ材全体の幅を変化できるようにすることを目的とする。
【0011】
また、本発明の別の目的は、AFP装置の積層ヘッドを複雑で大掛かりなものとせずに、より多くのテープ材を積層できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係るテープ送り出し用のローラユニットは、樹脂を含浸させる前の繊維又は樹脂を含浸させた後の繊維からなる複数のテープを幅方向に並べて厚さ方向に押付けながら長さ方向に送り出すものであって、前記複数のテープとの間における摩擦力によって回転し、回転軸が同一直線上となるように並べて配置され、かつ最大径が同一である複数のローラと、前記複数のローラをそれぞれ独立した回転速度で回転可能に支持する共通の支持シャフトとを有し、前記各ローラの内部に前記各ローラの半径方向を長さ方向及び伸縮方向とする複数のバネを放射状に配置することによって前記各ローラに弾性を付与したものである。
【0013】
また、本発明の実施形態に係る繊維積層装置は、上述したテープ送り出し用のローラユニットを備えたものである。
【0014】
また、本発明の実施形態に係る複合材成形方法は、上述したテープ送り出し用のローラユニットで前記複数のテープを送り出すことによって前記複数のテープを積層するステップと、前記テープに含浸させた前記樹脂を硬化するステップとを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係るテープ送り出し装置を備えた繊維積層装置の全体的な概略構成を示す正面図。
図2図1に示す繊維積層装置の側面図。
図3図1に示す積層ヘッド内外における詳細構成例を示す側面図。
図4】テープ送り出し装置の構成を示す正面図。
図5図4に示すテープ送り出し装置の縦断面図。
図6図5に示すサブローラの位置Aにおける拡大図。
図7図4に示すテープ送り出し装置で幅が広いプリプレグのテープを送り出す場合の例を示す図。
図8図4に示すテープ送り出し装置で幅が狭いプリプレグのテープを送り出す場合の例を示す図。
図9図4に示すテープ送り出し装置で幅が変化するプリプレグのテープを送り出す場合の例を示す図。
図10図4に示すテープ送り出し装置を備えた繊維積層装置で積層可能なプリプレグのテープの一例を示す図。
図11図4に示すテープ送り出し装置を備えた繊維積層装置で積層可能なプリプレグのテープの別の一例を示す図。
図12】交互に配置した複数のセパレート型ローラで複数のプリプレグのテープの送り出しを行う従来のAFP装置における問題点を説明する図。
図13】共通の単体ローラで複数のプリプレグのテープの送り出しを行う従来のAFP装置における問題点を説明する図。
図14図14は本発明の第2の実施形態に係る繊維積層装置に備えられるテープ送り出し用のローラユニットの正面図。
図15図14に示すローラユニットを構成するサブローラの左側面図。
図16図14に示すサブローラの位置Bにおける拡大縦断面図。
図17図15に示す各サブローラの内部に配置される第1のバネのバネ定数をサブローラ間で変えた例を示すローラユニットの正面図。
図18図18はゴム製ローラでテープに圧力をかける場合に生じる問題点を説明する図。
図19】複数のゴム製ローラを回転軸方向に配置してテープに圧力をかける場合に生じる問題点を説明する図。
図20】柔軟性が不十分な波形でないリング状ローラでテープに圧力をかける場合に生じる問題点を説明する図。
図21図15に示すようにサブローラの外輪を波形の第2のバネで構成したローラユニットによる効果を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るテープ送り出し用のローラユニット、繊維積層装置及び複合材成形方法について添付図面を参照して説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
(テープ送り出し用のローラユニット及び繊維積層装置の構成及び機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係るテープ送り出し用のローラユニットを備えた繊維積層装置1の全体的な概略構成を示す正面図であり、図2図1に示す繊維積層装置1の側面図である。
【0018】
繊維積層装置1は、FRPからなる複合材の素材であるプリプレグのテープTを積層することによってプリプレグのテープTの積層体を製作するためのAFP装置である。プリプレグは、熱可塑性樹脂又は未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたシート状の繊維である。繊維積層装置1は、プリプレグのテープTを巻いたロールを素材としてプリプレグの積層体を製作するプリプレグの自動積層装置である。
【0019】
繊維積層装置1は、積層ヘッド2を懸垂するガントリ3、テーブル4及び制御装置5で構成することができる。積層ヘッド2は、プリプレグのテープTを内部に収納し、プリプレグのテープTを吐出しながらテーブル4上に送り出す装置である。特に、積層ヘッド2は、複数のプリプレグのテープTを並列配置しながらテーブル4上に送り出す機能を有している。このため、積層ヘッド2には、複数のプリプレグのテープTのクリールスタンドが格納される。
【0020】
テーブル4は、プリプレグのテープTを積層するための台である。テーブル4には、プリプレグのテープTを直接積層しても良いが、テーブル4に賦形型等の積層治具Jを載置し、積層治具Jの上にプリプレグのテープTを積層することが、プリプレグの積層体への形状付与や清掃の観点から実用的である。従って、テーブル4には、直接又は積層治具Jを介して間接的にプリプレグのテープTを積層することができる。
【0021】
ガントリ3は、積層ヘッド2を支持する支柱3A等の支持機構の他、積層ヘッド2を任意軸方向に移動させる送り機構6を備えている。送り機構6は、積層ヘッド2を送り動作させる装置である。すなわち、送り機構6が積層ヘッド2をテーブル4に対して相対移動させることによって、プリプレグのテープTをテーブル4側に積層位置を変えながら送り出すことができる。プリプレグのテープTのテーブル4側への送り出し方向は、積層ヘッド2の移動方向と逆方向となる。
【0022】
送り機構6は、典型的な積層ヘッド2の直線移動に加えて、積層ヘッド2の回転移動を行えるように構成されている。従って、プリプレグのテープTを直線的又は曲線的に送り出すことができる。換言すれば、プリプレグのテープTの送り出し方向を変化させることができる。尚、積層ヘッド2の筐体自体を回転させずに、積層ヘッド2に取付けた部品を回転させるようにしても良い。
【0023】
図1及び図2に示す例では、送り機構6が、水平方向及び鉛直方向を含むX軸、Y軸及びZ軸からなる直交3軸方向への平行移動に加えて、鉛直方向のZ軸を回転軸とするC軸方向に積層ヘッド2を回転移動できるように構成されている。もちろん、テーブル4の表面に対して積層ヘッド2を傾斜させるチルト軸を設けても良い。また、積層ヘッド2の移動に加えて、或いは、積層ヘッド2の移動に代えて、テーブル4を送り機構6で積層ヘッド2に対して移動させるようにしても良い。
【0024】
積層ヘッド2やテーブル4を直線移動させるための移動機構は、例えば、電動モータ、油圧モータ或いは空気圧モータ等のモータと、モータを回転させるための電気回路、油圧回路或いは空気圧回路等の回路に加えて、ギアの一種であるラック・アンド・ピニオン、ボールねじ或いは無限軌道(クローラ)等のモータの回転運動を直線運動に変換する所望の機械要素を用いて構成することができる。或いは、モータを使用せずに油圧回路とピストンで移動機構を構成することもできる。
【0025】
一方、積層ヘッド2を回転移動させるための回転機構は、例えば、電動モータ、油圧モータ或いは空気圧モータ等のモータと、モータの動力で回転する回転シャフトを含む所望の機械要素で構成することができる。
【0026】
制御装置5は、送り機構6及び積層ヘッド2を自動制御する装置である。例えば、送り機構6を制御することによってテーブル4に対する積層ヘッド2の相対的な空間位置及び回転移動量を数値(NC:numerical control)制御することができる。また、積層ヘッド2を制御することによって、積層ヘッド2からの複数のプリプレグのテープTの送り出しの開始と終了並びに切断を自動的に行うことができる。制御装置5は、ガントリ3に内蔵又は取付けることができるが、操作盤等のユーザインターフェースや重量物は、ガントリ3の外部に設置しても良い。
【0027】
制御装置5で積層ヘッド2のNC制御を行う場合には、制御装置5は、NCプログラムを読込ませたコンピュータ等の電子回路で構成することができる。また、送り機構6が油圧式又は空気圧式である場合には、油圧回路又は空気圧回路を用いて制御装置5の一部を構成することができる。
【0028】
図3図1に示す積層ヘッド2内外における詳細構成例を示す側面図である。
【0029】
積層ヘッド2は、上述したように複数のプリプレグのテープTを幅方向に並べてテーブル4上に送り出す機能を有している。そのために、積層ヘッド2には、図3に例示されるように、複数のボビン10、複数の幅調整装置11、集合ローラ12、テンションローラ13、フィードローラ14、カッタ15及びコンパクションローラ16を設けることができる。
【0030】
ボビン10は、一定の幅を有するプリプレグのテープTを巻き付けたテープTのクリールスタンドである。ボビン10は、テーブル4上に送り出す可能性があるテープTの数だけ設けられる。尚、ボビン10の一部を休止状態としたり、取外したりすることによってテーブル4上に送り出すテープTの数を減じるようにしても良い。また、ボビン10間でテープTの幅を互いに異なる幅としても良い。
【0031】
幅調整装置11は、必要に応じてボビン10の後段に設けられ、各ボビン10から供給されるテープTの幅を所望の幅に変化させる装置である。例えば、日本国特開2020-93454号公報に開示されているテープTの幅を狭くする装置を幅調整装置11として用いることができる。幅調整装置11を配置すれば、ボビン10から供給されるテープTの幅を所望の幅に変化させて供給することができる。一方、幅調整装置11を配置しない場合には、幅が異なるテープTのボビン10と交換することによって、異なる幅を有するテープTを供給することができる。
【0032】
航空機用のプリプレグのテープTの幅は、単位をインチとして規格化されている場合が多い。上述したように積層ヘッド2を回転させてプリプレグのテープTを曲線的にテーブル4上に送り出すステアリング積層を行う場合には、テープTの幅を1/4インチ(6.35mm)以下とすることが、プリプレグのテープTの積層体として製作されるプリフォームの品質を維持する観点から望ましいことがプリフォームの試作試験によって確認された。このため、幅調整装置11を設けるか否かを問わず、幅が1/4インチであるプリプレグのテープTのボビン10や幅が1/8インチであるプリプレグのテープTのボビン10をセットすることができる。
【0033】
一方、市販されている標準的なプリプレグのテープTの厚さは0.2mm~0.8mmであり、0.05mmの厚さを有するプリプレグのテープTをプリフォームの試作試験用に使用した。技術的には、厚さが0.025mm程度まで薄いプリプレグのテープTの製作が可能であると考えられる。
【0034】
ボビン10及び幅調整装置11にはテープTの脱落防止用の枠や壁面が設けられる。このため、ボビン10及び幅調整装置11の幅は、テープTの幅よりも広くなる。従って、複数のテープTを隙間なく並べて配置するためには、図3に示すように、隣接するテープTを供給するボビン10及び幅調整装置11の干渉を防止するために、隣接するテープTを供給するボビン10及び幅調整装置11をテープTの厚さ方向に異なる位置に配置することが必要となる。テープTの数が多い場合にはボビン10及び幅調整装置11を交互に配置するようにしても良い。或いは、プリプレグテープTを捩って干渉が生じない位置に各ボビン10及び幅調整装置11を配置するようにしても良い。
【0035】
集合ローラ12は、テープTの厚さ方向に異なる位置から送り出される複数のテープTをテープTの厚さ方向に同じ位置に配置して送り出すための円筒状のローラである。換言すれば、集合ローラ12は、異なる方向に送り出された複数のテープTを、長さ方向が概ね平行となるように配列して同一の送り出し方向に送り出すための円筒状のローラである。
【0036】
集合ローラ12の前段に幅調整装置11を設ける場合には、異なる幅を有する複数のテープTが集合ローラ12に送り出されることになる。このため、幅方向に隣接するテープTの中心位置における間隔を一定にすると、幅方向に隣接するテープTの縁の間における隙間の幅が変化することになる。そこで、日本国特願2022-007499の出願書類に開示されているテープ送給装置を集合ローラ12の前段に設け、幅調整装置11から送り出されるテープTの幅に応じてテープTの中心位置における間隔を調整できるようにしても良い。
【0037】
テンションローラ13は、集合ローラ12から同一方向に送り出された複数のテープTにテンションをかけることによってテープTの弛みを防止するための円筒状のローラである。テンションローラ13と、各テープTとの接触によって、各テープTの進行方向を変化させれば、各テープTにテンションを掛けることができる。
【0038】
フィードローラ14は、同一方向に送り出された複数のテープTをテープTの長さ方向に送り出すための動力を有するローラである。フィードローラ14は、動力を有する円筒状の動力ローラ14Aと、動力の無い円筒状のサポートローラ14Bで構成することができる。動力ローラ14Aの回転シャフトにはモータ14Cの出力シャフトが連結される。このため、動力ローラ14Aはモータ14Cの動力で回転する。サポートローラ14Bは、動力ローラ14Aとの間で複数のテープTを挟み込むためのローラである。
【0039】
もちろん、複数のテープTを挟み込む2つのローラの双方をモータで回転させるようにしても良い。また、動力ローラ14Aの回転シャフトとモータ14Cの出力シャフトとの間には、ギアの他、ワンウェイクラッチを連結しても良い。
【0040】
フィードローラ14を駆動させるモータ14Cは、制御装置5で制御することができる。このため、モータ14Cの回転開始と回転停止の制御によって、テープTの送り出しの開始と終了を制御することができる。
【0041】
カッタ15は、同一方向に送り出された複数のテープTの積層が完了した際に、テープTを切断するための工具である。カッタ15の動作は、制御装置5で制御することができる。
【0042】
図3に示す例では、カッタ15が回転することによってカッタ15の刃15Aを各テープTに接触させる回転式となっているが、カッタ15を平行移動させることによって、カッタ15の刃15Aを各テープTに接触させるようにしても良い。また、カッタ15の刃15Aとの間で各テープTを挟み込むための円筒状のローラ15Bを設けることができる。
【0043】
コンパクションローラ16は、同一方向に送り出された複数のテープTに各テープTの厚さ方向における圧力を付与しながらテーブル4に向けて送り出すための円筒状のローラである。1層目のテープTはコンパクションローラ16で積層治具Jに押付けられることになり、2層目以降のテープTは厚さ方向に隣接する下方の積層済みのテープTに押付けられることになる。従って、コンパクションローラ16は、幅方向に配列された複数のテープTを、積層治具J又は厚さ方向に隣接する複数のテープTに押付けながら送り出すローラである。
【0044】
テープTの積層枚数が増えると、新たに積層するテープTの高さは徐々に高くなる。このため、コンパクションローラ16は鉛直方向にも移動させる必要がある。コンパクションローラ16の鉛直方向における位置は、送り機構6で積層ヘッド2を鉛直方向に平行移動させることによって調整することができる。但し、コンパクションローラ16を積層ヘッド2に対して相対的に上下移動させる駆動軸を設けても良い。
【0045】
同一方向に送り出された複数のテープTをコンパクションローラ16でテーブル4に対して水平方向に相対移動させれば、コンパクションローラ16の移動方向と逆方向に複数のテープTを送り出すことができる。複数のテープTを水平方向に送り出すためには、コンパクションローラ16の回転軸が水平方向となるようにコンパクションローラ16を配置することが必要となる。これに対して、各テープTは捩ることが可能であるため、集合ローラ12等の他のローラについては、干渉回避等のために回転軸を水平方向に対して傾斜させても良い。
【0046】
各テープTの先端がコンパクションローラ16に到達した後は、動力を有するフィードローラ14で各テープTに張力を与えなくてもコンパクションローラ16から付与される圧力によって各テープTを送り出すことができる。そして、各テープTの送り出し速度は、必然的にコンパクションローラ16から送り出されるテープTの速度となる。従って、各テープTの先端がコンパクションローラ16に到達した後は、フィードローラ14で各テープTに過剰な張力を与えることは各テープTの弛みや突っ張りの原因となり、好ましくない。
【0047】
そこで、フィードローラ14の動力ローラ14Aには、図3に例示されるシリンダ機構14D或いはラック・アンド・ピニオンやボールねじ等の往復移動する機械要素を連結し、各テープTの先端がコンパクションローラ16に到達した後は、動力ローラ14Aを各テープTから退避できるようにすることができる。
但し、各テープTの張力を適度に確保するために、フィードローラ14を各テープTと接触させ、フィードローラ14に対して各テープTを滑らせるようにしても良い。また、フィードローラ14に代えて、或いはフィードローラ14に加えて、日本国特願2022-013771の出願書類に開示されているベルトコンベアや吸引チャック付きのベルトコンベアを用いても良い。
【0048】
積層ヘッド2とともに鉛直方向を回転軸としてコンパクションローラ16をテーブル4に対して相対的に回転させ、幅方向に並列配置されたプリプレグのテープTをコンパクションローラ16から曲線的にテーブル4上に送り出す場合には、幅方向に並列配置されたテープT間において送り出し速度を変えることが必要となる。試験の結果、幅方向に並列配置されたプリプレグのテープTが互いにオーバーラップしていると、プリプレグの粘着力によってテープT間で送り出し速度を大きく変化させることが困難であることが判明した。
【0049】
このため、できるだけ曲率が大きい曲線軌道に沿って積層ヘッド2を移動させるためには、上述のように1/4インチ以下のテープTを用いる他、同時に送り出すテープTを幅方向にオーバーラップさせないことが肝要である。
【0050】
尚、複数のテープTに隙間を空けて積層することが許容される場合には、換言すれば、複数のテープTの幅の合計よりも、積層エリアの幅の方が広い場合には、複数のテープTに隙間を空けてコンパクションローラ16から送り出すようにしても良い。但し、以降では、無視できる誤差程度の隙間やオーバーラップを発生させずに複数のテープTをコンパクションローラ16から送り出する場合を例に説明する。
【0051】
幅方向にオーバーラップさせずに並列配置された複数のテープT間において送り出し速度を変えてコンパクションローラ16から送り出す場合には、コンパクションローラ16のみならずコンパクションローラ16以外のローラで送り出されるテープTの送り出し速度もテープT間において変えることが必要となる。すなわち、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことが必要となる。
【0052】
そこで、幅方向にオーバーラップさせずに並列配置された複数のテープTの先端がコンパクションローラ16に到達した後、引続き複数のテープTと同時に接触して無視できない摩擦力が生じるローラについては、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことが可能なテープ送り出し用のローラユニットで構成される。
【0053】
図3に示す例で言えば、少なくとも集合ローラ12、テンションローラ13及びコンパクションローラ16を、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことが可能なテープ送り出し用のローラユニットで構成することができる。また、カッタ15の刃15Aに対向する円筒状のローラ15Bやフィードローラ14のサポートローラ14Bについても、複数のテープTとの間において無視できない摩擦力が生じる場合には、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことが可能なテープ送り出し用のローラユニットで構成することができる。
【0054】
図4はテープ送り出し用のローラユニット20の構成を示す正面図であり、図5図4に示すローラユニット20の縦断面図である。
【0055】
テープ送り出し用のローラユニット20は、幅が変更し得る複数のテープTを幅方向にオーバーラップさせずに並べた状態で各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことが可能なローラユニットである。そのようなローラユニット20は、複数のサブローラ21をそれぞれ複数の軸受22を介して支持シャフト23で支持した円筒状のローラとされる。
【0056】
複数のサブローラ21は、同一の直径を有し、回転軸が同一直線上となるように並べて配置される。各サブローラ21の内面は、対応する軸受22の外輪22Aに固定される。すなわち、各サブローラ21は、軸受22で支持される。このため、各サブローラ21は、複数のテープTとの間における摩擦力によって回転する。すなわち、各サブローラ21に直接トルクを付与させるためのモータは設けられない。
【0057】
支持シャフト23は、複数のサブローラ21をそれぞれ独立した回転速度で回転可能に支持する共通のシャフトである。支持シャフト23自体は回転しないように固定される。支持シャフト23には、各軸受22の内輪22Bが固定される。これにより、支持シャフト23で複数のサブローラ21をそれぞれで回転可能に支持することができる。また、複数のサブローラ21の両側において、脱輪防止プレート24を支持シャフト23に固定することができる。
【0058】
尚、軸受22を設けずに支持シャフト23で円筒状のサブローラ21を直接回転可能に支持することも可能であるが、テープTとの間における摩擦力のみでサブローラ21が回転するため、サブローラ21と支持シャフト23との間における潤滑不足を回避する観点から、軸受22で各サブローラ21を支持することが現実的である。
【0059】
このように構成されるローラユニット20は、複数のリングを回転自在に並べて円筒状とした複合ローラであると言うこともできる。複数のリングを構成する複数のサブローラ21の各外表面は、幅及び本数が一定とは限らない複数のテープTと接触し得る面である。
【0060】
従って、各テープTに好ましくない皺が生じないように、複数のサブローラ21の外表面の形状は、ローラユニット20の縦断面において平坦となるように決定される。そのためには、複数のサブローラ21の各外表面の形状を面取りが無い円柱の側面とすれば良い。加えて、隣接するサブローラ21の外表面の間に隙間が形成されないように複数のサブローラ21が配置される。つまり、ローラユニット20の縦断面において、全てのサブローラ21の外表面の輪郭を連結した形状が平行な2本の直線となるように、サブローラ21の形状と配置が決定される。また、各サブローラ21は、外表面が容易に変形しないように金属や樹脂等の剛体で構成される。
【0061】
そうすると、ローラユニット20及び各サブローラ21の回転軸を含む縦断面において、各テープTを複数のサブローラ21の少なくとも一部とサブローラ21の回転軸方向に摺動可能に線接触させることができる。つまり、各テープTを各サブローラ21に対して各サブローラ21の回転軸方向に滑らせることが可能となる。
【0062】
各サブローラ21の厚さは、供給される可能性があるテープTの幅よりも薄い厚さに決定される。換言すれば、想定されるどのような幅のテープTが供給されても、供給されたテープTが必ず複数のサブローラ21と接触するように、各サブローラ21の厚さが決定される。具体例として、各サブローラ21の厚さを3mmとすれば、1/4インチ(6.35mm)の幅を有するテープTが供給されても、1/8インチ(3.175mm)の幅を有するテープTが供給されても、テープTを複数のサブローラ21と接触させることができる。
【0063】
各サブローラ21の厚さをテープTの幅よりも薄い厚さにすると、各テープTは複数のサブローラ21に跨がることになる。この場合、各サブローラ21は主たる1つのテープTとの間における摩擦力で定まる回転速度で回転し、別のテープTと接触しても別のテープTとの間では滑りが生じる。従って、各サブローラ21を、テープTの送り出し速度に応じて独立した回転速度で回転させることができる。逆に言えば、互いに独立した回転速度で回転可能な複数のサブローラ21で、複数のテープTを互いに独立した送り出し速度で送り出すことができる。
【0064】
つまり、複数のサブローラ21のうちのどのサブローラ21の厚さよりも広い幅をそれぞれ有する複数のテープTであれば、複数のサブローラ21の回転軸を含む複数のサブローラ21の縦断面において、複数のサブローラ21の少なくとも一部と回転軸方向に摺動可能に線接触させながら、複数のサブローラ21の回転によって互いに独立した送り出し速度で送り出すことができる。
【0065】
尚、図3に示す集合ローラ12の場合には、複数のテープTが集合ローラ12の周方向に異なる位置から接触し、周方向に同一の位置で離れる。このため、ローラユニット20が集合ローラ12である場合には、複数のサブローラ21の少なくとも1つの縦断面において全てのテープTが複数のサブローラ21の少なくとも一部と回転軸方向に摺動可能に線接触することになる。
【0066】
サブローラ21の厚さを薄くすれば、より幅が狭いテープTであっても送り出すことが可能となる。但し、サブローラ21の厚さは、軸受22の厚さ以下とする必要があるため、入手が容易な軸受22の厚さに合わせてサブローラ21の厚さを決定することが、ローラユニット20の製作の容易化に繋がる。また、サブローラ21の剛性を確保する観点からサブローラ21の厚さを1mm以上にすることが現実的であると考えられる。
【0067】
サブローラ21の直径については、テープTの厚さとローラユニット20の前後に配置される装置との関係で決定することができる。すなわち、プリプレグのテープTの厚さが厚くなる程、テープTが厚さ方向に湾曲し難くなるため、サブローラ21の直径を大きくすることが必要になる。例えば、0.05mmの厚さを有するプリプレグのテープTであれば、直径が20mmのサブローラ21であっても十分にテープTを湾曲させることができる。
【0068】
図6図5に示すサブローラ21の位置Aにおける拡大図である。
【0069】
隣接するサブローラ21間において端面同士が接触すると好ましくない摩擦力が生じる。そこで、図6に例示されるように、隣接するサブローラ21間において接触し得る端面の面積が減少するように、各サブローラ21に段差30を形成することができる。より具体的には、図6に例示されるように、各サブローラ21の外表面の形状が変化しないように、各サブローラ21の厚さが軸受22に向かって減少する半径方向の段差30を、それぞれ複数のサブローラ21に形成することができる。
【0070】
そうすると、各サブローラ21には、幅が狭い環状の端面が形成され、隣接するサブローラ21の端面間における接触面積を減少させることができる。その結果、隙間なく配置された複数のサブローラ21が独立した回転速度で回転することに起因する無用な摩擦力の発生を低減することができる。
【0071】
段差30の落差を大きくすると、サブローラ21の厚さが薄くなり剛性が低下する要因となるので、段差30の落差は摩擦力の発生を回避できる最小限の落差とすることが好ましい。一方、段差30の位置を各サブローラ21の外表面に近くする程、サブローラ21の環状の端面の幅が狭くなり、摩擦力の低減効果が大きくなる。このため、例えば、段差30の落差を0.1mm程度とし、環状の端面の幅を0.2mm程度とすることができる。
【0072】
尚、隣接するサブローラ21の2つの端面の一方に段差30を形成すれば端面間における接触面積が減少するため、接触し得る2つの端面の双方に段差30を形成する必要は無い。すなわち、脱輪防止プレート24に隣接する両端の2つのサブローラ21の一方を除き、片側の端面のみに段差30を形成すればサブローラ21間における摩擦力の低減効果を得ることができる。一方、脱輪防止プレート24に隣接するサブローラ21については、脱輪防止プレート24とサブローラ21との間にOリング等の配置によって隙間が生じる場合を除き、脱輪防止プレート24との間における摩擦力を低減するための段差30を形成することが望ましい。
【0073】
図7図4に示すローラユニット20で幅が広いプリプレグのテープTを送り出す場合の例を示す図、図8図4に示すローラユニット20で幅が狭いプリプレグのテープTを送り出す場合の例を示す図、図9図4に示すローラユニット20で幅が変化するプリプレグのテープTを送り出す場合の例を示す図である。
【0074】
ローラユニット20からは、上述したように幅が異なる複数のテープTを幅方向に並列配置して送り出すことができる。このため、幅が広い複数のテープTをローラユニット20に供給すれば、図7に例示されるように全体としても幅が広い複数のテープTを送り出すことができる。逆に、幅が狭い複数のテープTをローラユニット20に供給すれば、図8に例示されるように全体としても幅が狭い複数のテープTを送り出すことができる。また、幅調整装置11で幅を変化させながら複数のテープTをローラユニット20に供給すれば、図9に例示されるように全体としても幅が変化する複数のテープTを送り出すことができる。
【0075】
図10図4に示すローラユニット20を備えた繊維積層装置1で積層可能なプリプレグのテープTの一例を示す図であり、図11図4に示すローラユニット20を備えた繊維積層装置1で積層可能なプリプレグのテープTの別の一例を示す図である。
【0076】
テーブル4に対して相対的に、鉛直方向を回転軸として積層ヘッド2を回転移動させながら水平方向に平行移動させれば、図10に例示されるように幅方向に配列された複数のテープTを曲線的に送り出して積層することができる。複数のテープTを曲線的に積層する場合、図10に例示されるように単位時間当たりに送り出されるテープTの長さがテープT間において相違するが、ローラユニット20で複数のテープTを送り出せば各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことができるため、テープTの一部がずれて重なる不具合を防止することができる。
【0077】
また、幅が狭い複数のテープTを送り出す場合には、図11に例示されるように、より曲率が大きい曲線に沿って複数のテープTを積層することが可能となる。一方、図10に例示されるように各テープTの幅を大きくすれば、単位時間当たりのテープTの積層面積を大きくすることができる。このため、成形対象となるFRPの形状に応じて適切な幅を有するテープTを使用することができる。
【0078】
(複合材成形方法)
次にテープ送り出し用のローラユニット20を備えた繊維積層装置1を用いてFRPからなる複合材を成形する方法について説明する。
【0079】
FRPの成形を行う場合には、まずプリプレグのテープTの積層と賦形によって、成形後のFRPの形状に対応する形状を有するプリフォームが製作される。そのために、プリプレグのテープTを積層するための単純な形状を有する積層治具Jと、プリプレグのテープTの積層体を賦形するための複雑な形状を有する賦形治具を別々に準備し、積層治具Jに積層したプリプレグのテープTの積層体を賦形治具に載せ替えて賦形を行っても良いし、積層治具Jと賦形治具を共通にしても良い。
【0080】
プリプレグのテープTを積層治具Jに積層する作業は、図1乃至図6に例示されるテープ送り出し用のローラユニット20を備えた繊維積層装置1で行われる。そのために、プリプレグのテープTの自動積層を行うための繊維積層装置1の制御プログラムが制御装置5に読み込まれる。一方、積層に使用する幅のプリプレグのテープTを巻き付けた複数のボビン10が積層ヘッド2にセットされる。この時、各テープTの先端はフィードローラ14を構成する動力ローラ14Aとサポートローラ14Bで挟み込まれる。
【0081】
制御装置5による制御下で繊維積層装置1を作動させるとフィードローラ14のモータ14Cが駆動し、動力ローラ14Aが回転する。これにより、各テープTの先端が同一の送り出し速度で送り出される。すなわち、各ボビン10から幅調整装置11、集合ローラ12及びテンションローラ13を経由するテープTが同一の送り出し速度で送り出される。
【0082】
各テープTの先端が積層治具Jの表面に到達すると制御装置5による統括制御下で送り機構6が駆動し、積層ヘッド2が各テープTの送り出し方向と逆方向に移動する。このため、コンパクションローラ16が積層治具Jに対して各テープTの送り出し方向と逆方向に移動し、各テープTの先端がコンパクションローラ16と積層治具Jで挟み込まれる。すなわち、各テープTの先端がコンパクションローラ16に到達する。
【0083】
そうすると、制御装置5による統括制御下でシリンダ機構14Dが駆動し、動力ローラ14Aが各テープTから退避する。このため、積層ヘッド2を引続き各テープTの送り出し方向と逆方向に移動させると、各テープTは送り出し方向に送り出され、各テープTの送り出し速度は、コンパクションローラ16から圧力を受けながら送り出されるテープTの速度、すなわちコンパクションローラ16及び積層ヘッド2に対するテーブル4及び積層治具Jの相対速度となる。
【0084】
その後は制御プログラムで定義した経路に沿って積層ヘッド2を移動させることにより、積層治具J上に1層目のプリプレグを積層することができる。積層ヘッド2を直接的に移動させることによって各テープTを直接的に送り出す場合には、各テープTの送り出し速度がテープT間で同一となる。これに対し、図10及び図11に例示されるように、各テープTを曲線的に送り出す場合には、各テープTの送り出し速度がテープT間で同一とはならない、
【0085】
但し、各テープTを送り出すために使用されている集合ローラ12やテンションローラ13等の各ローラは、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことが可能な図4乃至図6に例示されるローラユニット20で構成されている。このため、積層ヘッド2の経路が、曲率が小さな曲線である場合はもちろん曲率が大きい曲線である場合であっても、図10及び図11に例示されるように、各テープTがずれること無く目的とする経路に沿って各テープTを積層することができる。
【0086】
加えて、各テープTを送り出すために使用されている集合ローラ12やテンションローラ13等のローラユニット20では、各テープTを幅方向にスライドさせながら送り出すことができる。このため、プリプレグの積層条件によっては制御装置5で幅調整装置11を制御し、幅調整装置11で幅を連続的に変えながら図9に例示されるようにローラユニット20でテープTを送り出すこともできる。
【0087】
また、制御装置5で幅調整装置11を制御することによって、図7及び図8に例示されるように、積層ヘッド2の回転半径や積層後におけるプリプレグの幅等の積層条件に応じて幅調整装置11でテープTの幅を断続的に変化させ、ローラユニット20でテープTを送り出すこともできる。換言すれば制御プログラムで様々なテープTの積層条件を定義することができる。
【0088】
積層ヘッド2が1層目の積層終了位置に到達すると制御装置5による統括制御下でカッタ15が駆動し、各テープTが切断される。続いて、制御装置5による統括制御下で送り機構6が駆動し、積層ヘッド2が2層目の積層開始位置に移動する。そして、1層目と同様に2層目の各テープTの積層を開始することができる。このようにして、全ての層の積層が完了するとプリプレグの積層体が製作される。尚、同一の層が複数の積層エリアに分割されている場合やテープTの幅を不連続に変化させる場合には、同一の層の積層中において各テープTの切断と積層の再開を行うことができる。
【0089】
湾曲したウェブとフランジを有する航空機部品のように製作対象となるFRPの形状が複雑である場合には、積層治具Jに積層されたプリプレグの積層体にFRPの形状に対応する形状を付与することが必要となる場合がある。その場合には、プリプレグの積層工程に続いて、プリプレグの積層体に形状を付与する賦形工程が実施される。
【0090】
プリプレグの積層体の賦形は、加熱装置による加熱と加圧によって行うことができる。加圧は、プレス機による賦形型の押し当てやバギングによる大気圧の負荷によって行うことができる。上述したように積層治具Jが賦形型を兼ねていない場合には、プリプレグの積層体が積層治具Jから賦形型に載せ替えられる。逆に、積層治具Jが賦形型を兼ねている場合には、プリプレグの積層体を載置した積層治具Jがバギングやプレス機等によって賦形工程を実施するためのエリアに搬送される。
【0091】
プリプレグの積層体の賦形が完了すると、成形後のFRPの形状に対応する形状を有するプリフォームが製作される。また、航空機のパネルのようにFRPの形状が単純であり、賦形用の形状を有する積層治具JにプリプレグのテープTを積層するのみでプリフォームが製作される場合には、プリプレグの積層と賦形が同時に行われることになる。
【0092】
プリフォームが製作されると、プリフォームに含まれる樹脂の硬化が行われる。すなわち、積層及び賦形後におけるプリプレグのテープTに予め含浸させておいた樹脂の硬化工程が実施される。これにより、目的とする形状を有するFRPを成形することができる。
【0093】
樹脂が熱硬化性樹脂であれば樹脂の硬化工程はオーブンやオートクレーブ装置等の加熱装置を用いた樹脂の加熱となる。一方、樹脂が熱可塑性樹脂であれば樹脂の硬化工程は加熱装置で一旦樹脂を加熱して溶融させた後、空冷等で樹脂を冷却する工程となる。また、樹脂の硬化に先立って、プリフォームを他のプリフォームや中間硬化した他のFRPと組合せる組立工程を実施したり、プリフォームの上にRTM法で成形するための別のドライプリフォームを載置して樹脂を注入したりしても良い。
【0094】
プリフォームに含まれる樹脂を硬化することによってFRPを成形するための成形治具についても積層治具J又は賦形治具と共通にしても良いし、別に準備してプリフォームを載せ替えるようにしても良い。
【0095】
(効果)
以上のようなテープ送り出し用のローラユニット20、繊維積層装置1及び複合材成形方法は、幅方向にオーバーラップしないように並列配置された複数のプリプレグのテープTを、支持シャフト23で回転自在に支持された直径が同一の複数のサブローラ21で送り出すことによって積層するようにしたものである。
【0096】
このため、テープ送り出し用のローラユニット20、繊維積層装置1及び複合材成形方法によれば、複数のプリプレグのテープTを互いオーバーラップさせることなく同時に積層することができる。また、異なる幅を有するプリプレグのテープTを送り出したり、送り出すプリプレグのテープTの本数を変えたりすることによって、積層後におけるテープT全体の幅を変化させることもできる。
【0097】
図12は交互に配置した複数のセパレート型ローラ40で複数のプリプレグのテープTの送り出しを行う従来のAFP装置における問題点を説明する図である。
【0098】
図12に示すように交互に配置した複数のセパレート型ローラ40で複数のプリプレグのテープTを送り出す場合、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことが可能ではあるものの、各テープTの幅を変更することが容易ではない。また、仮に幅が狭いテープTを送り出す場合にはテープT間に隙間が生じてしまう。テープT間における隙間を無くすためには、各セパレート型ローラ40を回転軸方向に移動させるための複雑な機構が必要となる。
【0099】
このため、テープTの本数を増やすためにはセパレート型ローラ40の数とともに各セパレート型ローラ40を回転軸方向に移動させるための複雑な機構の数も増やすことが必要となり、積層ヘッドを非常に大きくしなければテープTの本数を増やすことができないという問題がある。
【0100】
これに対して、上述したローラユニット20を用いれば、複数のサブローラ21上において各テープTがテープTの幅方向にスライドできるため、異なる幅を有する複数のテープTを送り出す場合であっても、複雑な機構を用いることなくテープT間における隙間を無くすか隙間を調整することができる。また、サブローラ21の数を増やすのみで、送り出すことが可能なテープTの数を容易に増やすことができる。つまり、積層ヘッド2を複雑で大掛かりなものとせずに、実質的に円筒状の1本のローラで、より多くのテープTを同時に積層することが可能となる。
【0101】
図13は共通の単体ローラ41で複数のプリプレグのテープTの送り出しを行う従来のAFP装置における問題点を説明する図である。
【0102】
図13に示すように共通の単体ローラ41で複数のプリプレグのテープTを送り出す場合、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことができない。その結果、曲率が大きい曲線に沿って各テープTを積層しようとすると、テープTがずれて重なった状態で積層される場合があるという問題がある。
【0103】
尚、単体ローラ41の表面にテープTとの摩擦を低減するためのコーティングを施して試験を行った結果、摩擦力の低減効果が不十分であり、各テープTを独立した送り速度では送り出せない場合があることが判明した。
【0104】
これに対して、上述したローラユニット20を用いれば、各サブローラ21が独立した回転速度で回転できるため、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことができる。その結果、実質的に円筒状の1本のローラで、図10及び図11に例示されるように、曲率の大小を問わず曲線に沿って容易に複数のテープTを積層することが可能となる。すなわち、内輪側の余ったテープTが行き場を失って経路を逸脱する事態を回避し、安定した品質及び精度で複数のテープTのステアリング積層を行うことができる。
【0105】
(第2の実施形態)
図14は本発明の第2の実施形態に係る繊維積層装置1Aに備えられるテープ送り出し用のローラユニット50の正面図であり、図15図14に示すローラユニット50を構成するサブローラ51の左側面図である。
【0106】
図14及び図15に示された第2の実施形態における繊維積層装置1Aでは、コンパクションローラ16として用いられるテープ送り出し用のローラユニット50の構成が第1の実施形態における繊維積層装置1と相違する。第2の実施形態における繊維積層装置1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態における繊維積層装置1と実質的に異ならないためローラユニット50のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0107】
コンパクションローラ16は、複数のテープTを送り出す他、各テープTに厚さ方向の圧力を付与する役割を担っている。すなわち、コンパクションローラ16は、複数のテープTを幅方向に並べて厚さ方向に押付けながら長さ方向に送り出すためのローラである。
【0108】
各テープTが積層される積層治具Jはプリフォームの賦形用の下型を兼ねている場合があり、平面とは限らない。また、積層治具Jが平面であっても層ごとにテープTの長さや経路を変えれば平面ではない面が下方の積層済みのテープTによって形成される可能性がある。従って、コンパクションローラ16から送り出される複数のテープTの下方に積層されているテープTは平面を形成しているとは限らない。すなわち、コンパクションローラ16で、曲面や凹凸を有する面上に複数のテープTを押付けることが必要となる場合がある。
【0109】
そこで、コンパクションローラ16として用いるローラユニット50については、図14及び図15に例示されるように、複数のサブローラ51をそれぞれ複数の軸受52を介して支持シャフト53で支持した円筒状のローラとするのみならず、各サブローラ51に弾性を付与することができる。つまり、ローラユニット50は、幅が変更し得る複数のテープTを幅方向にオーバーラップさせずに並べた状態で各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことが可能であり、かつ弾性を有するローラユニットである。
【0110】
ローラユニット50の構成は、各サブローラ51に弾性を付与した点を除けば、図4及び図5に示すローラユニット20と概ね同様である。すなわち、図4及び図5に示すローラユニット20が有する剛体の各サブローラ21を、それぞれ弾性を有するサブローラ51に置換したものがコンパクションローラ16用のローラユニット50に相当する。但し、ローラユニット50で各テープTに厚さ方向の圧力を付与できるように、支持シャフト53に固定される脱輪防止プレート54の直径を、各サブローラ51の直径よりも小さくすることが必要となる。
【0111】
各サブローラ51は、図15に例示されるように、外輪55と内輪56を複数の第1のバネ57で連結することによって構成される。すなわち、各サブローラ51の内部には複数の第1のバネ57が配置される。外輪55は、サブローラ51の外表面を形成するリング状の部材である。一方、内輪56は、サブローラ51を軸受52の外輪52Aに固定するためのリング状の部材である。また、軸受52の内輪52Bは、支持シャフト53に固定される。これにより、支持シャフト53で各サブローラ51を互いに独立した回転速度で回転可能に支持することができる。
【0112】
尚、コンパクションローラ16は、集合ローラ12やテンションローラ13とは異なり、送り出すテープTをテーブル4又は下方に積層済みのテープTに押付けながら回転するため、軸受52を省略し、隙間嵌め等の公差の調整によって各サブローラ51を回転させるようにしても良い。すなわち、各サブローラ51の内輪56を支持シャフト53で直接回転可能に支持するようにしても良い。但し、コンパクションローラ16でテープTに付与する圧力が小さくなった場合に回転不良となるリスクを回避する観点から、軸受52で各サブローラ51を支持することが望ましい。
【0113】
外輪55の内側には、サブローラ51の半径方向を長さ方向及び伸縮方向とする複数の第1のバネ57が放射状に配置される。すなわち、ローラユニット50には、ローラユニット50の回転半径方向に伸縮する多数の第1のバネ57が内蔵される。これにより、複数の第1のバネ57で内側から支持されるサブローラ51及びローラユニット50の外表面には、回転半径方向における弾性を付与することができる。
【0114】
各サブローラ51の厚さは、図4及び図5に示すローラユニット20の各サブローラ21と同様に、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことができるように、各テープTの幅よりも薄い厚さに決定される。上述したようにテープTのステアリング積層を安定的に行うためには、各テープTの幅を1/4インチ(6.35mm)以下とすることが現実的である。従って、各サブローラ51の厚さは、1mmから6mm程度となる。
【0115】
サブローラ51の外輪55と内輪56との間に形成されるこのような厚さの空間に複数の第1のバネ57を配置するためには、サブローラ51の回転軸方向における第1のバネ57の厚さも薄くすることが必要となる。従って、放射状に配置される第1のバネ57を、それぞれ典型的なコイルバネとはせずに、図15に例示されるように、サブローラ51の半径方向を位相方向とし、サブローラ51の半径方向及び回転軸方向の双方に垂直な方向を振幅方向とする1次元の波形のバネとすることが実用的である。また、第1のバネ57を配置する空間は、サブローラ51の半径方向に向かってサブローラ51の回転中心から遠ざかる程、広くなるため、波形の第1のバネ57の振幅もサブローラ51の回転中心から遠ざかる程、大きくすることが空間の有効利用に繋がる。
【0116】
各サブローラ51の直径は、放射状に配置される複数の第1のバネ57を収容できるように決定される他、コンパクションローラ16に関連する部品との関係で決定することができる。尚、直径が50mmの複数のサブローラ51を有するローラユニット50を試作した。
【0117】
第1のバネ57の各バネ定数は、プリプレグのテープTを積層する面が曲面や凹凸を有する面であっても、面の形状に追従して安定的にコンパクションローラ16でテープTを適切な圧力で押付けられるように決定することが適切である。1次元の波形を有する第1のバネ57を金属で構成すると金属が塑性変形してしまう可能性が高い。一方、1次元の波形を有する第1のバネ57をゴムで構成するとバネ定数が過小となる可能性が高い。
【0118】
そこで、1次元の波形を有する第1のバネ57は、ゴム以外のポリアミドやABS樹脂等の樹脂で構成することができる。尚、実際に入手が容易なポリアミド12を使用して第1のバネ57を有するサブローラ51を試作し、目的とする弾性が得られることが確認された。但し、目的とするバネ定数が安定的に得られれば、金属やゴムを用いても良い。
【0119】
他方、第1のバネ57で内側から支持される外輪55についても十分な弾性を有する弾性体で構成することが好ましい。これは、上述したように外輪55で、テープTを曲面や凹凸を有する面上に押付けることが必要となる場合があるためである。特に、サブローラ51の直径よりも曲率半径が小さい凹みがある場合において、外輪55の弾性が不十分であると外輪55と凹みとの間に隙間が生じる恐れがある。
【0120】
従って、外輪55を、凹凸を有する面に外輪55を押し当てた場合に凹凸を有する面にフィットするように外輪55を変形させる一方、凹凸を有する面から外輪55を引離した場合に外輪55の形状を元の形状に復元することが可能な弾性体で構成することが好ましい。
【0121】
そこで、外輪55を図15に示すように位相方向を円形にした波形の第2のバネ58で構成することができる。すなわち、外輪55を構成する弾性体としてリング状の第2のバネ58を採用することができる。これにより、テープTを押付ける面の形状に対する外輪55の追従性を向上することができる。すなわち、内側の第1のバネ57の伸縮と、第2のバネ58の弾性変形によって、外輪55の外面を曲面や凹凸を有する面に容易にフィットさせることが可能となる。
【0122】
外輪55の外面はテープTを幅方向に摺動可能に送り出しながら厚さ方向に圧力を付与する面となるため、できるだけ円柱の側面に近い面とすることが好ましい。すなわち、外輪55の外面とテープTを線接触させることが望ましい。そこで、第2のバネ58の形状を、図15に示すように振幅方向が外輪55の半径方向となっており、少なくとも山側が円筒の一部となっている周期的な1次元の波形とすることができる。そうすると、外輪55を回転させた場合において、円柱の側面の一部と、長さ方向が外輪55の回転軸方向であるスリットが交互に外輪55の外面に現れ、外輪55の外面にテープTを断続的に線接触させることができる。このため、第2のバネ58において円筒の一部となっている山の間隔をできるだけ短くすることが望ましい。
【0123】
外輪55は、波形の第2のバネ58とせずに、第2のバネ58と同等な弾性を有する波形でない円筒状のゴムで構成してしても良い。但し、ゴム製の外輪55内にゴム製ではない第1のバネ57を配置するためには、外輪55と第1のバネ57の接合が必要となる。
【0124】
これに対して、外輪55を波形の第2のバネ58で構成すれば、第2のバネ58の材質を第1のバネ57の材質と同一にすることによって、放射状に配置された複数の第1のバネ57と波形の第2のバネ58を一体化することが可能となる。すなわち、外輪55、第1のバネ57及び内輪56からなるサブローラ51を一体化し、接合を回避することができる。
【0125】
特に、ポリアミドやABS樹脂等の樹脂は3D(3次元:three-dimensional)プリンタの材料とすることができる。このため、外輪55、第1のバネ57及び内輪56からなるサブローラ51を3Dプリンタの材料として選択できる樹脂で構成すれば、3Dプリンタを用いた3D造形によってサブローラ51を一体成形することができる。
【0126】
図16図14に示すサブローラ51の位置Bにおける拡大縦断面図である。
【0127】
ローラユニット50のサブローラ51についても、図4及び図5に示すローラユニット20のサブローラ21と同様に、独立した回転速度で回転できるように隣接するサブローラ51間で接触し得る面積を減少させることが望ましい。
【0128】
そこで、図16に例示されるように、隣接するサブローラ51間において接触し得る端面の面積が減少するように、各サブローラ51の外輪55に段差60を形成することができる。より具体的には、図16に例示されるように、各外輪55の外表面の形状が変化しないように、各外輪55の厚さが軸受52に向かって減少する半径方向の段差60を、それぞれ外輪55に形成することができる。尚、外輪55を波形の第2のバネ58で形成する場合には、テープTと接触する山側の外面にのみ段差60を形成すれば十分であると考えられる。
【0129】
図17図15に示す各サブローラ51の内部に配置される第1のバネ57のバネ定数をサブローラ51間で変えた例を示すローラユニット50の正面図である。
【0130】
ローラユニット50は、コンパクションローラ16として積層治具Jに向かって押付けられるが、支持シャフト53の両端付近に積層治具Jに向かう力が作用する。従って、支持シャフト53の中央付近は積層治具J及び積層済みのテープTからの反力によって上方に撓む可能性がある。この場合、各サブローラ51の弾性が同等であると、コンパクションローラ16から各テープTに付与される圧力が不均一になる恐れがある。
【0131】
そこで、支持シャフト53が積層治具J及び積層済みのテープTからの反力によって上方に撓んだとしても、コンパクションローラ16から各テープTに付与される圧力が均一になるように、各サブローラ51の内部に配置される第1のバネ57のバネ定数を調整することができる。
【0132】
この場合、サブローラ51間で第1のバネ57のバネ定数が一定とはならず、中央のサブローラ51に配置される第1のバネ57の収縮長さが減少するようにバネ定数が相対的に大きく設定される一方、両側のサブローラ51に配置される第1のバネ57の収縮長さが減少しないようにバネ定数が相対的に小さく設定される。第1のバネ57のバネ定数は、各サブローラ51を3Dプリンタで造形する場合には、第1のバネ57の太さや長さを変えることによって容易に変化させることができる。
【0133】
以上の第2の実施形態は、コンパクションローラ16として用いられるローラユニット50を、互いに独立した回転速度で回転することが可能な複数のサブローラ51で構成するのみならず、各サブローラ51に弾性を付与したものである。
【0134】
(効果)
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果に加えて、コンパクションローラ16でテープTを押し当てる面が平面でない場合であっても、面の形状に追従してテープTを押し当てることが可能になるという効果が得られる。すなわち、コンパクションローラ16が潰れないようにしてテープTへの押付け力を十分に確保しつつテープTを押し当てる面の形状に応じてコンパクションローラ16を変形させることができる。
【0135】
このため、ステアリング積層によって曲線に沿ったテープTの積層が容易となるのみならず、より複雑な形状を有する面へのテープTの積層が可能となる。その結果、FRPの設計の自由度を向上させることができる。
【0136】
図18はゴム製ローラ70でテープTに圧力をかける場合に生じる問題点を説明する図であり、図19は複数のゴム製ローラ70を回転軸方向に配置してテープTに圧力をかける場合に生じる問題点を説明する図である。
【0137】
厚さが直径よりも小さいような厚さが薄いゴム製ローラ70を積層治具J及び積層済みのテープTに押付けると、図18に示すようにゴム製ローラ70が圧力で潰れ、ポアソン効果によって横に広がる。加えて、厚さが薄いゴム製ローラ70でテープTに圧力を付与するとゴム製ローラ70が腰折れ、すなわち弾性を失って曲がる場合がある。
【0138】
従って、厚さが薄い複数のゴム製ローラ70を図19に示すように回転軸方向に隙間なく配置すると、各ゴム製ローラ70がポアソン効果によって横に広がり、互いに干渉してロッキングが起こる。その結果、各ゴム製ローラ70を互いに独立した回転速度で回転させることができない。
【0139】
このため、厚さが薄いローラユニット50のサブローラ51に弾性を付与するために、ゴム製ローラ70を採用することはできない。つまり、コンパクションローラ16を仮にゴム製にすると、コンパクションローラ16を回転軸方向に細かいピッチで分割することができない。
【0140】
これに対して、ローラユニット50の各サブローラ51には、ゴムのヤング率としてではなく、複数の第1のバネ57の形状によって定まるバネ定数として弾性が付与されている。このため、ローラユニット50の各サブローラ51には圧力が負荷されてもポアソン効果が生じない。その結果、厚さが1mmから6mmで直径よりも小さい複数のサブローラ51を回転軸方向に隙間なく配置しても、各サブローラ51間でロッキングが起こらない。
【0141】
このため、ローラユニット50の場合には、各サブローラ51が強い押付け力や起伏のある面に押付けられることによって半径方向に変形したとしても、各サブローラ51を互いに独立した回転速度で回転させることができる。その結果、ステアリング積層時におけるテープTの経路からの逸脱を防ぎ、テープTの積層精度を向上することができる。
【0142】
図20は、柔軟性が不十分な波形でないリング状ローラ71でテープTに圧力をかける場合に生じる問題点を説明する図であり、図21図15に示すようにサブローラ51の外輪55を波形の第2のバネ58で構成したローラユニット50による効果を説明する図である。
【0143】
図20に示すように柔軟性が不十分な波形でないリング状ローラ71でリング状ローラ71の直径よりも小さい曲率半径を有する凹面にテープTを押付けると、テープTと凹面との間に隙間が生じる。すなわち、テープTを積層できない空隙が生じる。このようなテープTの厚さ方向における隙間は、隙間が僅かであっても成形後におけるFRPの重大な品質劣化に繋がる。
【0144】
従って、図18及び図19を参照して説明したゴム製ローラ70の場合に生じるポアソン効果や腰折れを回避するために、ゴム製ローラ70を単に内側からバネで支持された非ゴム製のリングに置換えただけでは、複雑な凹凸形状を有する面にテープTを積層できない場合が生じる恐れがある。
【0145】
また、図18及び図19に示すような中空でないゴム製ローラ70であれば、柔軟性の高いゴムを使用することによって複雑な凹凸形状を有する面にゴム製ローラ70をフィットさせることができるものの、上述したようにポアソン効果や腰折れが生じる。このため、複数のゴム製ローラ70を隙間なく配置して互いに独立した回転速度で回転させることができないだけでなく、ゴム製ローラ70がテープTの積層時における押付け力で潰れてしまう場合がある。
【0146】
これに対して、図15に示すようにサブローラ51の外輪55を波形の第2のバネ58で構成すれば、外輪55自体にも柔軟性を付与することができる。具体的には、外輪55の半径方向には第1のバネ57で弾性を付与する一方、外輪55の進行方向にも第2のバネ58で弾性を付与することができる。つまり、サブローラ51がテープTに押付けられてもサブローラ51が半径方向に潰れないように第1のバネ57でサブローラ51を支持する一方、第2のバネ58で外輪55の進行先に存在し得る起伏に対する追従性を確保することができる。
【0147】
このため、例えば図21に示すように、サブローラ51及び外輪55の最大径よりも小さい曲率半径を有する凹面にテープTを押付ける場合であっても、外輪55を構成する第2のバネ58の、外輪55の進行方向を含む面内における弾性変形によって、外輪55を凹面にフィットさせることができる。その結果、サブローラ51及び外輪55の最大径よりも小さい曲率半径を有する凹面にテープTを隙間なく積層することができる。
【0148】
尚、実際に波形の第2のバネ58で外輪55を構成せずに、波形でない外輪自体のヤング率に応じた弾性と第1のバネ57の弾性によって回転軸に垂直な面内における弾性を付与したコンパクションローラを試作し、凹凸を有する面にテープTを押付けたところ、テープTと凹凸を有する面との間に隙間が生じる場合があることが確認された。これに対して、波形かつ円形の第2のバネ58で外輪55を構成し、第2のバネ58を内側から第1のバネ57で支持するローラユニット50で凹凸を有する面にテープTを押付ける試験を行ったところ、テープTと凹凸を有する面との間に隙間を発生させずにテープTを積層できることが確認された。
【0149】
各サブローラ51の外輪55を構成する第2のバネ58は、サブローラ51間で互いに独立した変形量で弾性変形させることができる。従って、図21に示す例に限らず、凹凸がサブローラ51の回転軸方向に存在する場合であっても、凹凸を有する面にローラユニット50をフィットさせることができる。
【0150】
以上のように第2の実施形態におけるローラユニット50は、押付け力や起伏した面との接触によって潰れず、かつ起伏が大きく複雑な形状を有する面であっても面の形状に合わせて変形し、フィットさせることができる。
【0151】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0152】
例えば上述した実施形態では積層対象となるテープTが、樹脂を含浸させた後の繊維であるプリプレグをテープ状にしたものである場合について説明したが、樹脂を含浸させる前の繊維をテープ状にしたものであっても良い。樹脂を含浸させる前の繊維からなるテープTはドライテープと呼ばれ、ドライテープを積層し、FRPの形状に合わせて賦形したドライテープの積層体はドライプリフォームと呼ばれる。
【0153】
ドライプリフォームを素材としてFRPを成形する場合には、RTM法によってFRPが成形される。具体的には、樹脂を硬化させる工程に先立ってドライプリフォームに未硬化の樹脂を注入することによって繊維を未硬化の樹脂で含浸させる工程が実施される。
【0154】
また、ドライテープの幅を広げる装置として、例えば、国際公開第2010/137525号パンフレットに開示されている開繊装置が知られている。このため、ドライテープが繊維積層装置1の積層対象である場合には、この開繊装置を幅調整装置11として用いても良い。
【符号の説明】
【0155】
1、1A 繊維積層装置
2 積層ヘッド
3 ガントリ
3A 支柱
4 テーブル
5 制御装置
6 送り機構
10 ボビン
11 幅調整装置
12 集合ローラ
13 テンションローラ
14 フィードローラ
14A 動力ローラ
14B サポートローラ
14C モータ
14D シリンダ機構
15 カッタ
15A 刃
15B ローラ
16 コンパクションローラ
20 テープ送り出し用のローラユニット
21 サブローラ
22 軸受
22A 外輪
22B 内輪
23 支持シャフト
24 脱輪防止プレート
30 段差
40 セパレート型ローラ
41 単体ローラ
50 ローラユニット
51 サブローラ
52 軸受
52A 外輪
52B 内輪
53 支持シャフト
54 脱輪防止プレート
55 外輪
56 内輪
57 第1のバネ
58 第2のバネ
60 段差
70 ゴム製ローラ
71 リング状ローラ
J 積層治具
T テープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21