(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047535
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/113 20060101AFI20240329BHJP
A61B 3/08 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
A61B3/113
A61B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099209
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022153119
(32)【優先日】2022-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】行森 隆史
(72)【発明者】
【氏名】多々良 陽子
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 誠
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA01
4C316AA03
4C316AA06
4C316AA13
4C316AA16
4C316AA21
4C316AA24
4C316AB16
4C316FA01
4C316FB11
4C316FB12
4C316FB13
4C316FB24
4C316FB26
(57)【要約】
【課題】被検眼の状態を適切に把握することができる眼科装置を提供する。
【解決手段】眼科装置は、被検眼Eの前眼部像E′を取得する撮像素子159(画像取得部)と、被検眼Eに対して少なくとも2つの異なる提示位置に視標を提示する視標投影系140と、各提示位置に視標を提示したときに撮像素子159が取得した前眼部像E′から各々特徴点を抽出し、抽出した特徴点の前眼部像E′上での位置情報を検出し、位置情報に基づいて、被検眼Eの視線方向を検出する視線方向検出部としての制御部26と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の前眼部像を取得する画像取得部と、
前記被検眼に対して少なくとも2つの異なる提示位置に視標を提示する視標投影系と、 各提示位置に前記視標を提示したときに前記画像取得部が取得した前記前眼部像から各々特徴点を抽出し、抽出した前記特徴点の前記前眼部像上での位置情報を検出し、前記位置情報に基づいて、前記被検眼の視線方向を検出する視線方向検出部と、を備えた
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記視線方向検出部は、検出した前記視線方向に基づいて、前記被検眼の眼位の状況を検出する
請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記視線方向検出部は、前記被検眼に入射される平行光束が前記被検眼内で結像して得られる点像に基づく角膜反射から第1の特徴点を取得し、前記前眼部像から検出した瞳孔像から第2の特徴点を取得し、前記第1の特徴点及び前記第2の特徴点に基づいて、前記視線方向を検出する
請求項1に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記視線方向検出部は、前記第1の特徴点として輝点重心座標(X,Y)を検出し、前記第2の特徴点として瞳孔中心座標(X’,Y’)を検出し、所定の基準方向に対する前記被検眼の前記視線方向の水平方向のプリズム量と、鉛直方向のプリズム量とを、次式
被検眼の視線方向(水平)[Δ]=a*(X’-X)+b
被検眼の視線方向(垂直)[Δ]=a’*(Y’-Y)+b’
上記式中のa,b,a’,b’は補正係数
により算出する
請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記前眼部像が表示される表示部と、
前記前眼部像に、前記視線方向を定量的に示す画像を重畳して、前記表示部に表示させる表示制御部と、を備える
請求項1に記載の眼科装置。
【請求項6】
被検眼の情報を取得する測定光学系、
前記被検眼の前記測定光学系の光軸上の前記前眼部像を取得する前記画像取得部、
及び前記視標投影系を備える測定ユニットと、
前記測定ユニットを鉛直方向及び水平方向に移動させ、鉛直方向に平行な軸及び水平方向に平行な軸を回転軸として回転させる駆動機構と、
前記前眼部像が表示される表示部と、
を備える
請求項1~5の何れか一項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜視や斜位は眼精疲労の原因であることが知られている。また、斜視や斜位がある被検眼は、視標の固視ができず眼特性が正確に取得されないことがある。そこで、被検眼の斜視や斜位のような眼位の異常を発見すべく、被検眼に対して可視光の遮蔽及び透過を急激に切り換えて、両眼視と片眼視を強制的に切り換え、切り換え前後の被検眼の調節を、非可視光を用いて測定し、視線方向の変化を測定する眼科装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このように、眼位異常等の被検眼の状態を、適切に把握できるような技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上記の事情に鑑みて為されたもので、被検眼の状態を適切に把握することができる眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本開示の眼科装置は、被検眼の前眼部像を取得する画像取得部と、前記被検眼に対して少なくとも2つの異なる提示位置に視標を提示する視標投影系と、各提示位置に前記視標を提示したときに前記画像取得部が取得した前記前眼部像から各々特徴点を抽出し、抽出した前記特徴点の前記前眼部像上での位置情報を検出し、前記位置情報に基づいて、前記被検眼の視線方向を検出する視線方向検出部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
このように構成された眼科装置では、被検眼の状態を適切に把握することが可能となる。この結果、検者等は、被検眼の斜視や斜位等の眼位の状況も適切に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る眼科装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る眼科装置の右眼用測定光学系の詳細構成を示す図である。
【
図3A】
図2のフィールドレンズの断面図を模式的に示した図である。
【
図3B】
図2の円錐プリズムの断面図を模式的に示した図である。
【
図4】第1実施形態に係る眼科装置の表示部の表示画面に表示される操作画面の一例を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係る眼科装置の表示部の表示画面に表示される操作画面の一例を示す図である。
【
図6】正面視における被検眼の前眼部像及び左方視における被検眼の前眼部像と、輝点重心座標及び瞳孔中心座標との関係を説明するための説明図である。
【
図7】第1実施形態に係る眼科装置の表示部の表示画面に表示される情報表示画面の一例を示す図である。
【
図8】第1実施形態に係る眼科装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9】第1実施形態に係る眼科装置で用いられる視標の他の例を説明するための説明図である。
【
図10】正面視における被検眼の前眼部像及び左方視における被検眼の前眼部像と、輝点重心座標、瞳孔中心座標及びプリズムサークルとの関係を説明するための説明図である。
【
図11】視線方向の他の異なる検出手法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態に係る眼科装置は、
図1~
図3Bを参照して、以下のように説明される。第1実施形態の眼科装置100は、被検者が左右の両眼を開放した状態で、被検眼Eの特性測定を両眼同時に実行可能な両眼開放タイプの眼科装置である。なお、本実施形態の眼科装置100は、片眼を遮蔽したり、固視標を消灯したりすることで、片眼ずつ検査等することも可能となっている。また、眼科装置が両眼開放タイプに限定されるものではなく、片眼ずつ特性測定する眼科装置にも本開示を適用することができる。
【0009】
第1実施形態の眼科装置100は、任意の自覚検査を行う装置であり、さらに他覚検査を行うこともできる。なお、自覚検査では、眼科装置100は、被検者に所定の提示位置で視標等を提示し、この視標等に対する被検者の応答に基づいて検査結果を取得する。この自覚検査は、遠用検査、中用検査、近用検査、コントラスト検査、夜間検査、グレア検査、ピンホール検査、立体視検査等の自覚屈折測定や、視野検査等がある。また、他覚検査では、眼科装置100は、被検眼Eに光を照射し、その戻り光の検出結果に基づいて被検眼Eに関する情報(眼特性)を測定する。この他覚検査は、被検眼Eの特性を取得するための測定と、被検眼E(
図2参照)の画像を取得するための撮影とが含まれる。さらに、他覚検査は、他覚屈折測定(レフ測定)、角膜形状測定(ケラト測定)、眼圧測定、眼底撮影、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:以下、「OCT」という)を用いた断層像撮影(OCT撮影)、OCTを用いた計測等がある。
【0010】
[眼科装置の全体構成]
本実施形態の眼科装置100は、
図1に示されるように、本体部10と、本体部10に設けられた制御部26と、検者用コントローラ27と、図示しない被検者用コントローラとを主に備える。本体部10は、基台11と、検眼用テーブル12と、支柱13と、アーム14と、一対の駆動機構(駆動部)15と、一対の測定ヘッド16と、額当部17、制御部26とを備える。眼科装置100は、検眼用テーブル12と正対する被検者が、両測定ヘッド16の間に設けられた額当部17に額を当てた状態で、被検者の被検眼Eの情報を取得する。なお、本明細書を通じて、X軸、Y軸及びZ軸は、
図1に記すように設定され、被検者から見て、左右方向はX方向とされ、上下方向(鉛直方向)はY方向とされ、X方向及びY方向と直交する方向(測定ヘッド16の奥行き方向)はZ方向とされる。
【0011】
検眼用テーブル12は、検者用コントローラ27や被検者用コントローラを置いたり検眼に用いるものを置いたりするための机であり、基台11により支持されている。検眼用テーブル12は、Y方向での位置(高さ位置)を調節可能に基台11に支持されていてもよい。
【0012】
支柱13は、検眼用テーブル12の後端部でY方向に延びるように基台11により支持されており、先端にアーム14が設けられている。アーム14は、検眼用テーブル12上で駆動機構15を介して両測定ヘッド16を吊り下げるもので、支柱13から手前側へとZ方向に延びている。アーム14は、支柱13に対してY方向に移動可能とされている。なお、アーム14は、支柱13に対してX方向及びZ方向に移動可能とされていてもよい。アーム14の先端には、一対の駆動機構15が吊り下げられる。この一対の駆動機構15は、一対の測定ヘッド16を吊り下げて支持している。
【0013】
駆動機構15及び測定ヘッド16は、被検者の左右の被検眼Eに個別に対応すべく対を為して設けられる。以下では個別に述べる際には、駆動機構15は、左眼用駆動機構15L及び右眼用駆動機構15Rと称され、測定ヘッド16は、左眼用測定ヘッド16L及び右眼用測定ヘッド16Rと称される。左眼用駆動機構15L及び右眼用駆動機構15R、並びに左眼用測定ヘッド16L及び右眼用測定ヘッド16Rは、X方向で双方の中間に位置する鉛直面に関して面対称な構成とされている。
【0014】
左眼用駆動機構15Lは、左眼用測定ヘッド16Lを移動可能に吊り下げている。左眼用駆動機構15Lは、右眼用測定ヘッド16Rを移動可能に吊り下げている。左眼用駆動機構15L及び右眼用駆動機構15Rは、制御部26からの制御信号に基づいて、左眼用測定ヘッド16L及び右眼用測定ヘッド16Rを、個別に又は連動して、Y方向(鉛直方向)に移動させ、X方向及びZ方向(水平方向)に移動させる。また、左眼用駆動機構15L及び右眼用駆動機構15Rは、制御部26からの制御信号に基づいて、左眼用測定ヘッド16L及び右眼用測定ヘッド16Rを、個別に又は連動させて被検眼Eの眼球回旋点O(
図2参照)を通り鉛直方向(Y方向)に延びる鉛直眼球回旋軸を中心(回旋軸)として、X方向(水平方向)に回旋させ、被検眼Eの眼球回旋点Oを通り水平方向(X方向)に延びる左右一対の水平眼球回旋軸を中心(回旋軸)として、Y方向(鉛直方向、上下方向)に回旋させる。
【0015】
このように、一対の駆動機構15は、一対の測定ヘッド16をX方向に回旋させることで、被検眼Eを開散(開散運動)させたり、輻輳(輻輳運動)させたりできる。また、一対の駆動機構15は、一対の測定ヘッド16をY方向に回旋させることで、被検眼Eの視線を下方向に向けさせたり、元の位置に戻させたりできる。これにより、眼科装置100は、被検者に開散運動及び輻輳運動のテストを行わせることや、両眼視の状態で遠点距離での遠用検査から近点距離での近用検査まで様々な検査距離での検査を行わせて、両被検眼Eの各種特性を測定することができる。
【0016】
左眼用測定ヘッド16Lは、被検者の左側の被検眼Eの情報を取得し、右眼用測定ヘッド16Rは、被検者の右側の被検眼Eの情報を取得する。
【0017】
各測定ヘッド16は、被検眼Eの眼情報を取得する測定光学系21(個別に述べる際には右眼用測定光学系21R及び左眼用測定光学系21Lとする。)を備えている。各測定ヘッド16は、偏向部材であるミラー18(18L,18R)が備えられ、ミラー18を通じて測定光学系21により対応する被検眼Eの情報が取得される。
【0018】
測定光学系21(左眼用測定光学系21L及び右眼用測定光学系21R)は、それぞれ提示する視標を切り替えながら視力検査を行う視力検査装置、矯正レンズを切換え配置しつつ被検眼Eの適切な矯正屈折力を取得するフォロプタ、屈折力を測定するレフラクトメータや波面センサ、眼底の画像を撮影する眼底カメラ、網膜の断層画像を撮影する断層撮影装置、角膜内皮画像を撮影するスペキュラマイクロスコープ、角膜形状を測定するケラトメータ、眼圧を測定するトノメータ等が、単独又は複数組み合わされて構成される。
【0019】
左眼用測定光学系21L及び右眼用測定光学系21Rの詳細構成は、
図2に基づいて、以下のように説明される。
図2ではミラー18Rは、省略されている。なお、左眼用測定光学系21L及び右眼用測定光学系21Rの詳細構成は、
図2に示される構成に限定されない。また、左眼用測定光学系21Lと右眼用測定光学系21Rとは同一の構成である。このため、以下では、左眼用測定光学系21Lの説明は省略され、右眼用測定光学系21Rについてのみ説明される。
【0020】
また、以下の説明では、「眼底共役位置A」は、アライメントが完了した状態での被検眼Eの眼底Efと光学的に略共役な位置であり、被検眼Eの眼底Efと光学的に共役な位置又はその近傍を意味するものとする。「瞳孔共役位置B」は、アライメントが完了した状態での被検眼Eの瞳孔と光学的に略共役な位置であり、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置又はその近傍を意味するものとする。
【0021】
右眼用測定光学系21Rは、
図2に示すように、Zアライメント系110、XYアライメント系120、ケラト測定系130、視標投影系140、前眼部観察系150、レフ測定投射系160、及びレフ測定受光系170を含む。
【0022】
<前眼部観察系150>
前眼部観察系150は、被検眼Eの前眼部を動画撮影する。前眼部観察系150を経由する光学系において、画像取得部である撮像素子159の撮像面は瞳孔共役位置Bに配置されている。前眼部照明光源151は、被検眼Eの前眼部に平行光束からなる照明光(例えば、赤外光)を照射する。被検眼Eの前眼部により反射された光は、対物レンズ152を通過し、第1ダイクロイックミラー153を透過し、ハーフミラー154を透過し、第1リレーレンズ155及び第2リレーレンズ156を順に通過し、第2ダイクロイックミラー157を透過する。第2ダイクロイックミラー157を透過した光は、第1結像レンズ158により撮像素子159(エリアセンサ)の撮像面に結像される。撮像素子159は、所定のレートで撮像及び信号出力を行う。撮像素子159の出力(映像信号)は、制御部26に入力される。制御部26は、この映像信号に基づく前眼部像E′を表示部30の表示画面30aに表示させる。前眼部像E′は、例えば赤外動画像である。
【0023】
<Zアライメント系110>
Zアライメント系110は、前眼部観察系150の光軸方向(前後方向、Z方向)におけるアライメントを行うための光(赤外光)を被検眼Eに投射する。Zアライメント光源111から出力された光は、被検眼Eの角膜に投射され、角膜により反射され、第2結像レンズ112によりラインセンサ113のセンサ面に結像される。角膜頂点の位置が前眼部観察系150の光軸方向に変化すると、ラインセンサ113のセンサ面における光の投射位置が変化する。制御部26は、ラインセンサ113のセンサ面における光の投射位置に基づいて被検眼Eの角膜頂点の位置を求め、これに基づき測定光学系21を移動させる駆動機構15を制御してZアライメントを実行する。
【0024】
<XYアライメント系120>
XYアライメント系120は、前眼部観察系150の光軸に直交する方向(左右方向(X方向)、上下方向(Y方向))のアライメントを行うための光(赤外光)を被検眼Eに照射する。XYアライメント系120は、ハーフミラー154により前眼部観察系150から分岐された光路に設けられたXYアライメント光源121を含む。XYアライメント光源121から出力された光は、ハーフミラー154により反射され、前眼部観察系150を通じて被検眼Eに投射される。被検眼Eの角膜による反射光は、前眼部観察系150を通じて撮像素子159に導かれる。
【0025】
この反射光に基づく像(輝点像)は前眼部像E′に含まれる。制御部26は、輝点像を含む前眼部像E′とアライメントマークとを表示部30の表示画面30aに表示させる。手動でXYアライメントを行う場合、検者等の検者は、アライメントマーク内に輝点像を誘導するように測定光学系の移動操作を行う。自動でアライメントを行う場合、制御部26は、アライメントマークに対する輝点像の変位がキャンセルされるように、測定光学系21を移動させる駆動機構15を制御する。
【0026】
<ケラト測定系130>
ケラト測定系130は、被検眼Eの角膜の形状を測定するためのリング状光束(赤外光)を角膜に投射する。ケラト板131は、対物レンズ152と被検眼Eとの間に配置されている。ケラト板131の背面側(対物レンズ152側)にはケラトリング光源(図示せず)が設けられている。ケラトリング光源からの光でケラト板131を照明することにより、被検眼Eの角膜にリング状光束が投射される。被検眼Eの角膜からの反射光(ケラトリング像)は撮像素子159により前眼部像E′とともに検出される。制御部26は、このケラトリング像を基に公知の演算を行うことで、角膜の形状を表す角膜形状パラメータを算出する。
【0027】
<視標投影系140>
視標投影系140は、固視標や自覚検査用視標等の各種視標を被検眼Eに提示する。光源141から出力された光(可視光)は、コリメートレンズ142により平行光束とされ、視標チャート143に照射される。視標チャート143は、例えば透過型の液晶パネルを含み、視標を表すパターンを表示する。視標チャート143を透過した光は、第3リレーレンズ144及び第4リレーレンズ145を順に通過し、第1反射ミラー146により反射され、第3ダイクロイックミラー168を透過し、第1ダイクロイックミラー153により反射される。第1ダイクロイックミラー153により反射された光は、対物レンズ152を通過して眼底Efに投射される。光源141、コリメートレンズ142及び視標チャート143は、視標ユニット147を構成し、一体となって光軸方向に移動可能である。
【0028】
自覚検査を行う場合、制御部26は、他覚測定の結果に基づき視標ユニット147を光軸方向に移動させ、視標チャート143を制御する。制御部26は、検者又は制御部26により選択された視標を視標チャート143に表示させる。それにより、当該視標が被検者に提示される。被検者は視標に対する応答を行う。応答内容の入力を受けて、制御部26は、更なる制御や、自覚検査値の算出を行う。例えば、視力測定において、制御部26は、ランドルト環等に対する応答に基づいて、次の視標を選択して提示し、これを繰り返し行うことで視力値を決定する。
【0029】
また、視標チャート143が表示する視標は、検眼に用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ランドルト環、スネレン視標、Eチャート等が好適に挙げられる。また、視標は、ひらがなやカタカナ等の文字、動物や指等の絵等からなる視標、十字視標等の両眼視機能検査用の特定の図形や風景画や風景写真等からなる視標等、様々な視標を用いることができる。また、視標は静止画であってもよいし、動画であってもよい。本実施形態では、視標チャート143は、液晶パネルを含むため、所望の形状、形態及びコントラストの視標を、所定の検査距離で表示することができ、多角的で綿密な検眼が可能となる。また、眼科装置100は、左右の被検眼Eに対応して2つの視標ユニット147(視標チャート143)を備えているため、視差を与える視標を、所定の検査距離(視標の提示位置)に対応して表示することができ、立体視検査も自然な視軸の向きで、容易かつ精密に行うことが可能となる。
【0030】
<レフ測定投射系160、レフ測定受光系170>
レフ測定投射系160及びレフ測定受光系170は他覚屈折測定(レフ測定)に用いられる。レフ測定投射系160は、他覚測定用のリング状光束(赤外光)を眼底Efに投射する。レフ測定受光系170は、このリング状光束の被検眼Eからの戻り光を受光する。
【0031】
レフ測定光源161は、発光径が所定のサイズ以下の高輝度光源であるSLD(Superluminescent Diode)光源であってよい。レフ測定光源161は、光軸方向に移動可能であり、眼底共役位置Aに配置される。リング絞り165(具体的には、透光部)は、瞳孔共役位置Bに配置されている。合焦レンズ174は、光軸方向に移動可能である。合焦レンズ174は、制御部26からの制御を受け、焦点位置を変更可能な公知の焦点可変レンズであってもよい。レフ測定受光系170を経由する光学系において、撮像素子159の撮像面は眼底共役位置Aに配置されている。
【0032】
レフ測定光源161から出力された光は、第5リレーレンズ162を通過し、円錐プリズム163の円錐面に入射する。円錐面に入射した光は偏向され、円錐プリズム163の底面から出射する。円錐プリズム163の底面から出射した光は、フィールドレンズ164を通過し、リング絞り165にリング状に形成された透光部を通過する。リング絞り165の透光部を通過した光(リング状光束)は、孔開きプリズム166の反射面により反射され、ロータリープリズム167を通過し、第3ダイクロイックミラー168により反射される。第3ダイクロイックミラー168により反射された光は、第1ダイクロイックミラー153により反射され、対物レンズ152を通過し、被検眼Eに投射される。ロータリープリズム167は、眼底Efの血管や疾患部位に対するリング状光束の光量分布を平均化や光源に起因するスペックルノイズの低減のために用いられる。
【0033】
円錐プリズム163は、瞳孔共役位置Bに可能な限り近い位置に配置されることが望ましい。
【0034】
フィールドレンズ164は、例えば、
図3Aに示されるように、被検眼Eの側のレンズ面にリング絞り165が貼り付けられていてもよい。この場合、例えば、フィールドレンズ164は、レンズ面に、リング状の透光部が形成されるように遮光膜が蒸着される。
【0035】
また、レフ測定投射系160は、フィールドレンズ164が省略された構成を有していてもよい。
【0036】
さらに、円錐プリズム163は、例えば、
図3Bに示されるように、第5リレーレンズ162を通過した光が円錐面163aに入射する円錐プリズム163の底面163bにリング絞り165が貼り付けられていてもよい。この場合、例えば、円錐プリズム163は、底面163bに、リング状の透光部が形成されるように遮光膜が蒸着される。また、リング絞り165は、円錐プリズム163の円錐面163aの側にあってもよい。
【0037】
リング絞り165は、所定の測定パターンに対応した形状を有する透光部が形成された絞りであってよい。リング絞り165は、レフ測定投射系160の光軸に対して偏心した位置に透光部が形成されていてよい。また、リング絞り165は、2以上の透光部が形成されていてもよい。
【0038】
眼底Efに投射されたリング状光束の戻り光は、対物レンズ152を通過し、第1ダイクロイックミラー153及び第3ダイクロイックミラー168により反射される。第3ダイクロイックミラー168により反射された戻り光は、ロータリープリズム167を通過し、孔開きプリズム166の孔部を通過し、第6リレーレンズ171を通過する。第6リレーレンズ171を通過した戻り光は、第2反射ミラー172により反射され、第7リレーレンズ173及び合焦レンズ174を通過する。合焦レンズ174を通過した光は、第3反射ミラー175により反射され、第2ダイクロイックミラー157により反射され、第1結像レンズ158により撮像素子159の撮像面に結像される。制御部26は、撮像素子159からの出力を基に公知の演算を行うことで被検眼Eの屈折力値を算出する。例えば、屈折力値は、球面度数、乱視度数及び乱視軸角度を含む。
【0039】
孔開きプリズム166と第6リレーレンズ171との間に、瞳孔上の光束径を制限する絞り(不図示)が配置されている。この絞りの透光部は、瞳孔共役位置Bに配置される。
【0040】
制御部26は、算出された屈折力値に基づいて、眼底Efとレフ測定光源161と撮像素子159の撮像面とが光学的に共役になるように、レフ測定光源161と合焦レンズ174とをそれぞれ光軸方向に移動させる。さらに制御部26は、レフ測定光源161及び合焦レンズ174の移動に連動して視標ユニット147をその光軸方向に移動させる。光源141、コリメートレンズ142及び視標チャート143を含む視標ユニット147と、レフ測定光源161と、合焦レンズ174とは、連動してそれぞれの光軸方向に移動可能であってよい。
【0041】
検者用コントローラ27は、操作者である検者が眼科装置100を操作するために用いられる機器である。検者用コントローラ27は、CPU及び記憶装置等を有するコンピュータを備えた情報処理装置である。第1実施形態の検者用コントローラ27は、タブレット端末から構成される。なお、検者用コントローラ27は、タブレット端末に限定されず、スマートフォン、その他の携帯情報端末とすることもできるし、ノート型パーソナルコンピュータ、デスクトップ型パーソナルコンピュータ等とすることもできる。また、検者用コントローラ27は、眼科装置100専用のコントローラとすることもできる。
【0042】
本実施形態の眼科装置100では、検者用コントローラ27は携帯可能に構成されている。検者は、検者用コントローラ27を、検眼用テーブル12上に配置した状態で操作してもよいし、手に持って操作してもよい。
【0043】
検者用コントローラ27は、タッチパネルディスプレイからなる表示部(表示パネル)30を備えている。この表示部30は、画像等が表示される表示画面30aと、この表示画面30a上に重畳して配置されたタッチパネル式の入力部30bとを備えている。表示部30は、それ自体が、一つの入力部であり、表示部30の表示画面30aは、検者のタッチ操作を含む入力操作を受け入れる入力部30bとして機能する。入力部30bは、検者の指やスタイラスなどによるタッチ操作を検出する検知面としても機能する。
【0044】
検者用コントローラ27は、近距離無線等の通信手段により制御部26と近距離通信可能となっている。検者用コントローラ27は、制御部26から送出される表示制御信号に基づいて、所定の画面(例えば、
図4、
図5に示される操作画面40、
図7に示される情報表示画面40A等)、測定光学系21の撮像素子159が取得した前眼部像E′等の各種画像を表示画面30aに表示する。また検者用コントローラ27は、表示画面30a(入力部30b)に対する検者による操作入力を受け入れ、この操作入力に応じた入力情報(制御信号)を制御部26に送出する。
【0045】
図4、
図5は、表示画面30aに表示される操作画面40の一例を示す図である。操作画面40は、被検眼Eの球面度(S)、乱視度数(C)、乱視軸(A)、加入度(ADD)等の矯正値が設定される矯正値設定領域41、検査距離が設定される検査距離設定領域42、視標を選択する視標アイコン43、選択された視標が表示される視標表示領域44、撮像素子159で撮影された前眼部像E′が表示される前眼部像表示領域(検眼窓)45、各種操作ボタン46等を有する。
【0046】
図7は、表示画面30aに表示される情報表示画面40Aの一例を示す図である。この情報表示画面40Aは、左右の前眼部像E′が表示される前眼部像表示領域47と、視線方向の検出結果(斜位量又は斜視量)が表示される視線方向表示領域48とを有する。
【0047】
被検者用コントローラは、被検眼Eの各種の眼情報の取得の際に、被検者が応答するために用いられる機器である。被検者用コントローラは、例えば図示しないキーボード、マウス、ジョイスティック、タッチパッド、タッチパネル等を備える。被検者用コントローラは、制御部26と有線又は無線の通信路を介して接続されており、被検者用コントローラに対して為された操作に応じた入力情報(制御信号)を制御部26に送出する。
【0048】
制御部26は、検眼用テーブル12の下方に設けられた情報処理装置である。制御部26は測定ヘッド16及び駆動機構15を含む眼科装置100の各部を統括的に制御する。また、制御部26は、検者用コントローラ27から送信された制御信号に基づいて、駆動機構15及び測定ヘッド16を制御し、測定ヘッド16に被検眼Eの眼特性を測定させ、測定結果を検者用コントローラ27に送信する。
【0049】
また、制御部26は、左眼用測定光学系21L及び右眼用測定光学系21Rの各視標投影系140を制御して、被検眼Eに、XY平面において少なくとも2つの異なる提示位置に視標を提示させ、被検眼Eの視線方向を変化させる。また、制御部26は、各提示位置に視標を提示したときに、前眼部観察系150を制御して、撮像素子159に被検眼Eの前眼部像E′を取得させる。制御部26は、撮像素子159で取得した各前眼部像E′から各々特徴点を抽出し、抽出した特徴点の前眼部像E′上での位置情報を検出し、この位置情報に基づいて、被検眼Eの視線方向を検出する。つまり、制御部26は、視線方向検出部として機能する。制御部26は、前眼部像E′とともに、検出した視線方向に関する情報を、表示部30の表示画面30aに表示させ、検者等に提示させる。
【0050】
また、制御部26は、検出した視線方向に基づいて、前記被検眼の眼位に関する情報を検出する。眼位に関する情報は、例えば、斜位量や斜視量(プリズム量)等が挙げられる。制御部26は、この眼位に関する情報を、表示部30の表示画面30aに表示させることもでき、検者等は、被検眼Eに斜位又は斜視があることや、斜位又は斜視の程度(状況)を適切に把握できる。
【0051】
また、特徴点は、例えば、被検眼Eに入射される平行光束(測定光学系21の前眼部観察系150から被検眼Eに入射される光軸に平行な光線)が被検眼E内で結像して得られる点像に基づく角膜反射である輝点像(「プルキンエ像」ともいわれる。)から取得される特徴点(第1の特徴点)が挙げられる。また、特徴点は、前眼部像E′から検出した瞳孔(瞳孔像)から取得される特徴点(第2の特徴点)が挙げられる。制御部26は、この第1の特徴点及び第2の特徴点に基づいて、被検眼Eの視線方向を検出する。
【0052】
例えば、第1の特徴点は、角膜反射(輝点像)の重心の位置情報(輝点重心座標)であり、第2の特徴点は、瞳孔中心の位置情報(瞳孔中心座標)である。輝点重心座標及び瞳孔中心座標は、前眼部像E′に基づいて公知の手法により算出できる。制御部26は、これらの位置情報の差分を求め、この差分に基づいて被検眼Eの視線方向を算出する。
【0053】
具体的には、例えば、制御部26は、第1の特徴点として輝点重心座標(X,Y)を検出し、第2の特徴点として瞳孔中心座標(X’,Y’)を検出する。そして、制御部26は、所定の基準方向に対する被検眼の視線方向の水平方向のプリズム量(単位:Δ(プリズムディオプター))と、鉛直方向のプリズム量[Δ]とを、下記式(1)、(2)により算出する。下記式(1)、(2)中、a,b,a’,b’は補正係数であり、a=a’,b=,b’であってもよい。
【0054】
被検眼の視線方向(水平方向)[Δ]=a*(X’-X)+b (1)
被検眼の視線方向(垂直方向)[Δ]=a’*(Y’-Y)+b’ (2)
【0055】
補正係数a,bは、水平方向の視線方向の検出に用いられる補正係数であり、例えば下記式(3)、(4)により算出される。下記式(3)、(4)中、X0,Y0は、例えば正面視(第1の提示位置に視標を提示したときの視線方向)での輝点像Brの輝点重心のX座標及びY座標であり、X0’,Y0’は正面視での瞳孔中心PcのX座標及びY座標である。また、X1,Y1は、例えば左方視(第2の提示位置に視標を提示したときの視線方向)での輝点重心のX座標及びY座標であり、X1’,Y1’は左方視での瞳孔中心PcのX座標及びY座標である。Pは、既知のプリズム量[Δ]であり、具体的には、被検眼Eに提示される視標のプリズム量である。
【0056】
a=P/((X1’-X1)-(X’0-X0)) (3)
b=-P*(X0’-X0)/((X1’-X1)-(X’0-X0)) (4)
【0057】
ここで、正面視における被検眼Eの前眼部像E′及び左方視における被検眼Eの前眼部像E′と、輝点重心座標及び瞳孔中心座標との関係は、
図6を参照して以下のように説明される。この
図6に示されるBrが、輝点像であり、Pcが瞳孔中心である。「正面視」は、被検眼Eが正面(測定光学系21の光軸に平行な方向)を向いている状態をいう。「左方視」は、被検眼Eが光軸に交差する方向であって左方を向いている状態をいう。同様に、「右方視」、「上方視」及び「下方視」は、それぞれ被検眼Eが光軸に交差する方向であって右方、上方、下方を向いている状態をいう。
【0058】
被検眼Eの視線方向を「正面視」、「左方視」、「右方視」、「上方視」及び「下方視」させるための視標の表示例は、
図4、
図5を用いて以下のように説明される。
図4、
図5に示される操作画面40は、視標アイコン43の中から視標が3行5列で示された視力表(いわゆる「字並び視標」)が選択され、視標表示領域44に表示された状態が示されている。検者は、3行5列の視力表の中から、被検眼Eに提示する視標をタップ操作やボタン操作等によって選択する。この3行5列の字並び視標は、個々の視標のプリズム量が予め決められている。中央(1行3列目)の視標は、水平方向及び鉛直方向においてプリズム量が0Δの視標であり、上下及び左右で隣接する視標どうしのプリズム量の差は1.28Δである。つまり、中央の視標に対して、水平方向(左右方向)に1列ずれるごとに、各視標の水平方向のプリズム量は、1.28Δずつアップし、垂直方向(上下方向)1行ずれるごとに、各視標の垂直方向のプリズム量は、1.28Δずつアップする。なお、隣接する視標どうしのプリズム量の差は、1.28Δに限定されず、2Δ、4Δ、8Δ等、視線方向の検出の目的や、検査目的等に応じて、適宜のプリズム量とすることができる。
【0059】
被検眼Eの視線方向を「正面視」とするときは、検者は、視標表示領域44の中央の視標(プリズム量が0Δ)を選択する。この選択に応じて、
図4に示されるように、制御部26は視標表示領域44の中央の視標を明るく表示し、他の視標を暗く表示するとともに、視標投影系140を制御し、視標チャート143の中央の提示位置(第1の提示位置)に視標を表示させる。被検眼Eは、この視標チャート143に表示された視標を固視することで、視線方向を「正面視」とすることができる。
【0060】
一方、被検眼Eの視線方向を「左方視」とするときは、検者は、例えば、字並び視標の2行1列目の視標を選択する。この視標は、水平方向のプリズム量は、2.56Δとなる(つまり、上記式(3)、(4)のP=2.56Δとなる。)。この選択に応じて、
図5に示されるように、制御部26は視標表示領域44の2行1列目の視標を明るく表示し、他の視標を暗く表示するとともに、視標投影系140を制御し、視標チャート143の左側の提示位置(第2の提示位置)に視標を表示させる。被検眼Eは、この視標チャート143に表示された視標を固視することで、視線方向を「左方視」とすることができる。
【0061】
なお、上記では制御部26は、視標チャート143上での視標の提示位置を変化させることで、被検眼Eの視線方向を変化させている。しかし、制御部26は、視標チャート143上にすべての視標を提示するようにして、検者は、被検者に中央の視標を固視するように指示し、その後、2行1列目の視標を固視するように指示してもよい。
【0062】
水平方向(左右方向)の視線方向に用いられる補正係数a,bは、「正面視」及び「右方視」の各前眼部像E′に基づいて算出することもできる。また、垂直方向(上下方向)の視線方向の検出に用いられる補正係数a’,b’は、「正面視」及び「上方視」の各前眼部像E′、又は「正面視」及び「下方視」の各前眼部像E′に基づいて算出することができる。また、補正係数は、三か所以上(例えば「正面視」、「右方視」及び「左方視」)での各前眼部像E′に基づく計算結果から、最小二乗法で算出することできる。また、補正係数a,b及び補正係数a’,b’は、
図5等に示される中央の視標と、斜め方向に視線を向けさせる視標(例えば、1行2列目の視標、3行2列目の視標、1行4列目の視標及び/又は3行4列目の視標)を用いて、同時に算出することもできる。
【0063】
以上のような視線方向の検出手順は、被検者の顔(頭部)の状態が、何れの場合でも用いることができ、特に、被検者の顔が固定されていないときに好適に用いることができる。「被検者の顔が固定されていない」は、額当部17に額が当接しているかどうかに関わらず、顔の向き等が適切でない状態、例えば、顔がふらついたり、顔が横方向を向いていたり、頭が左右に傾いていたりする状態が挙げられる。このような状態でも、制御部26は、前眼部像E′から抽出した輝点と瞳孔等に基づく複数の特徴点を用いることで、視線方向を適切に算出できる。なお、被検者の顔が、額当部17や顎受部等によって、適切な状態(例えば、顔が不測に動かず、顔が正面を向き、頭が傾かずに真っすぐな状態)に固定されている場合は、特徴点が1つ(例えば、瞳孔像に基づく特徴点)であっても、制御部26は、視線方向を適切に算出できる。さらに、複数の特徴点を用いることで、制御部26は、視線方向をより適切に算出できる。
【0064】
上述のような構成の第1実施形態の眼科装置100で実行される動作の一例は、
図8のフローチャートを用いて、以下のように説明される。なお、眼科装置100は、電源がオンとなって起動され、制御部26は検者用コントローラ27及び被検者用コントローラと通信可能となっているものとする。
【0065】
検査に際して、検者は、被検者を椅子等に座らせて、眼科装置100と対峙させ、額当部17に額を当てさせる。
図8のフローチャートに示す動作は、例えば、被検者が額当部17に額を当てたことをセンサ等が検知したタイミングで、又は検者が操作画面から撮影指示を与えたタイミングで開始される。
【0066】
まず、ステップS1で、制御部26は、左右の測定光学系21に設けられた前眼部観察系150を制御して、左右の被検眼Eの前眼部の撮影を開始させる。制御部26は、検者用コントローラ27の表示部30を制御して、前眼部観察系150の撮像素子159から出力される画像信号に基づく左右の前眼部像(正面像)E′を、表示画面30aに表示させる。
【0067】
次に、検者は検者用コントローラ27の入力部30bからアライメント開始の操作入力を行う。この操作入力に対応する入力情報(制御信号)を受信した制御部26は、ステップS2で、視標投影系140を制御して、視標チャート143の中央位置に固視標(例えば、点光源視標)を表示させ、被検眼Eに提示させる。この状態で、検者は被検者に対して固視標を固視するように指示する。
【0068】
次のステップS3では、被検者に固視標を固視させた状態で、制御部26の制御の下、Zアライメント系110が測定ヘッド16のZ方向のアライメンを行い、XYアライメント系120が測定ヘッド16のX方向及びY方向のアライメントを行う。
【0069】
次のステップS4では、被検眼Eの視線方向を検出するための補正係数を算出するべく、検者による入力部30bからの操作入力に基づき、又は自動で、制御部26は、表示部30を制御して、
図4に示すような操作画面40を表示画面30aに表示させる。
【0070】
次のステップS5で、制御部26は、検者からの視標の選択操作に従って、視標チャート143の中央の第1の提示位置に「正面視」用の視標を表示させる。検者は被検者に対して視標を固視するように指示する。次いで、ステップS6で、制御部26は、撮像素子159で取得した「正面視」の前眼部像E′に基づいて、輝点重心座標を検出し、瞳孔中心座標を検出する。
【0071】
次のステップS7で、制御部26は、検者からの視標の選択操作に従って、例えば、視標チャート143の左側の第2の提示位置に「左方視」用の視標を表示させる。検者は被検者に対して視標を固視するように指示する。次いで、ステップS8で、制御部26は、撮像素子159で取得した「左方視」の前眼部像E′に基づいて、輝点重心座標を検出し、瞳孔中心座標を検出する。
【0072】
なお、ステップS6及びS8で、制御部26は、前眼部像E′からの輝点重心座標と瞳孔中心座標の算出を、適宜のタイミングで自動的に行ってもよい。または、制御部26は、被検者が被検者用コントローラを操作したタイミングでこれらを算出してもよく、被検者が視標を固視していない状態で算出が行われるのを抑制し、輝点重心座標と瞳孔中心座標をより適切に算出できる。
【0073】
次のステップS9で、制御部26は、取得した特徴点に基づいて、上記式(3)、(4)を用いて、補正係数を算出する。次のステップS10で、制御部26は、被検眼Eの前眼部像E′に基づいて、被検眼Eが任意の方向を向いているときの視線方向(例えば、斜位検査や斜視検査をしたときの視線方向)を検出する。具体的には、制御部26は、上記式(1)、(2)を用いて、被検眼Eの視線方向として水平方向及び垂直方向のプリズム量(Δ)を算出する。これらのプリズム量は、視線方向のデータとされる。
【0074】
次のステップS11で、制御部26は、表示部30を制御して、
図7に示されるように、情報表示画面40Aの前眼部像表示領域47に被検眼Eの前眼部像E′を、視線方向表示領域48に視線方向のデータ(水平方向及び垂直方向のプリズム量)を表示画面30aに表示させる。検者は、この表示画面30aの各画像を視認することで、被検眼Eに斜位又は斜視があるかどうか、斜位又は斜視といった眼位の状況(程度)を把握できる。また、検者は、被検眼Eが適切に視標を固視しているかどうかを確認でき、詐盲の防止等が可能となるとともに、以下のように眼科装置100を用いて斜位検査や視野検査等を行うときに、制御部26及び検者は、視線方向のデータを有効に活用できる。
【0075】
なお、斜視のない正常な被検眼Eであっても、正面視のときに瞳孔中心と、輝点重心とはずれている。
【0076】
また、眼科装置100は、視線方向の検出と、前眼部像E′及び視線方向のデータの表示とは、所定のタイミングで一回のみ行ってもよい。また、眼科装置100は、これらの工程を前眼部像E′を取得している間、常時(繰り返し)行って、リアルタイムで検出した前眼部像E′及び視線方向のデータを検者等に提示してもよい。
【0077】
次のステップS12では、検者による入力部30bからの他覚検査の指示の操作入力に基づき、又は自動で、制御部26は、左右の測定光学系21を制御して、他覚検査を行わせる。他覚検査は、例えば、ケラト測定系130による角膜形状(ケラト)測定、レフ測定投射系160及びレフ測定受光系170による眼屈折力(レフ)測定等が挙げられる。ステップS10により表示画面30aに表示された前眼部像E′及び視線方向(斜位量や斜視量)を視認することで、検者は、被検眼Eの眼位の状況を把握できるともに被検者が視標を適切に固視しているか、頭がふらついていないか等を把握できる。このため、視標の固視が適切でない場合は、事前に検者は被検者に視標を固視するよう指示したり、頭がふらつかないよう頭を抑える等の対応をしたりすることができ、他覚測定を適切に行うことができ、測定効率の向上や、測定エラーの抑制が可能となる。
【0078】
次のステップS13では、被検眼Eの自覚検査を行うことができる。検者は、操作画面40の検査距離設定領域42をタップ操作して検査距離を変更したり、視標アイコン43をタップ操作して被検眼Eに提示する視標を選択したりできる。また、片眼による自覚検査を行うときには、検者は操作画面40の前眼部像表示領域45に表示された一方の前眼部像E′をタップ操作することで、一方の被検眼Eを遮蔽できる。また、制御部26は、自動で、又は検者からの操作入力に応じて、ステップS10で取得した視線方向(斜位量や斜視量)に基づいて、被検眼Eに提示する視標の位置を変更したり、被検眼Eの前方に矯正レンズを配置したりしてもよい。これにより、眼科装置100は、被検眼Eの眼位に対応した自覚検査を行わせることが可能となる。
【0079】
また、検者は、表示部30に表示された前眼部像E′及び視線方向(斜位量や斜視量)を視認することで、字並び視標を提示したときの視線方向を確認したり、被検者が視標を固視しているかどうかを確認したりすることができる。また、詐盲の防止等が可能となるとともに、斜位検査等を行うときに、検者又は制御部26は、視線方向のデータを有効に活用できる。また、視野計を用いた検査の際にも、検者又は制御部26は、視線方向のデータを有効に活用できる。
【0080】
そして、検者による入力部30bからの視標の選択入力に基づき、制御部26は、視標投影系140を制御して、視標を視標チャート143に表示して被検眼Eに提示し、同じ視標を、視標表示領域44に表示する。このとき、被検眼Eの視軸を検査距離に応じた向きとすべく、制御部26は、検査距離に応じて左右の駆動機構15を駆動して、左右の測定ヘッド16をX方向へ回旋させてもよい。
【0081】
自覚検査は、被検眼Eに視標を提示した状態で、検者は被検者に視標の見え方を回答させることで行われる。提示している視標及び被検者の回答の正誤に応じて、検者は入力部30bをタッチ操作して球面度数、乱視度数、及び乱視軸の角度等の矯正値を適宜変更する。制御部26は、変更後の矯正値に基づいて測定光学系21を制御する。これにより、測定光学系21による被検眼Eの矯正値が変更され、被検者は、変更後の矯正値での自覚検査を行える。
【0082】
自覚検査が繰り返され、処方が決定し、検者からの終了の操作がされると、プログラムはエンドへと進み、眼科装置100による被検眼Eの情報の取得(検査)のための動作が終了する。
【0083】
以上説明したように、第1実施形態に係る眼科装置100は、被検眼Eの前眼部像E′を取得する撮像素子159(画像取得部)と、被検眼Eに対して少なくとも2つの異なる提示位置に視標を提示する視標投影系140と、各提示位置に視標を提示したときに撮像素子159が取得した前眼部像E′から各々特徴点を抽出し、抽出した特徴点の前眼部像E′上での位置情報を検出し、位置情報に基づいて、被検眼Eの視線方向を検出する視線方向検出部としての制御部26と、を備える。
【0084】
この構成により、第1実施形態に係る眼科装置100は、被検眼Eの視線方向を、前眼部像E′に基づいて、より簡易かつより高精度に検出することができる。このため、眼科装置100は、従来のように両眼視と片眼視を強制的に切り換えて、切り換え前後の被検眼の調節を、非可視光を用いて測定し、視線方向の変化を測定する必要がない。
【0085】
したがって、検出した視線方向に基づいて、検者又は眼科装置100は、被検眼の状態を適切に把握することが可能となる。この結果、検者等は、被検眼Eが適切に視標を固視しているかどうかを確認でき、詐盲の防止等が可能となるとともに、斜位検査や視野検査等を行うときに、眼科装置100及び検者は、視線方向のデータを有効に活用することが可能となる。
【0086】
また、第1実施形態に係る眼科装置100において、制御部26は、検出した視線方向に基づいて、被検眼Eの眼位に関する情報、より詳細には斜位量や斜視量を検出する。これにより、制御部26又は検者は、斜位、斜視等の被検眼Eの眼位の状況をより適切に把握できる。
【0087】
また、第1実施形態に係る眼科装置100では、制御部26は、前眼部像E′の輝点像Brから第1の特徴点を取得し、瞳孔像から第2の特徴点を取得し、第1の特徴点及び第2の特徴点に基づいて、視線方向を検出している。このとき、制御部26は、第1の特徴点として輝点重心座標(X,Y)を検出し、第2の特徴点として瞳孔中心座標(X’,Y’)を検出している。そして、制御部26は、所定の基準方向に対する被検眼Eの視線方向の水平方向のプリズム量と、鉛直方向のプリズム量とを、上記式(1)、(2)により算出している。この構成により、眼科装置100は、被検眼Eの眼位の状況、つまり斜位又は斜視の状況を、斜位量又は斜視量によって、より詳細かつ定量的に把握できる。
【0088】
また、第1実施形態に係る眼科装置100では、撮像素子159及び視標投影系140は、左右の被検眼Eに対応して、対を為して設けられている。この構成により、両眼視の状態で被検眼Eの眼情報及び視線方向を検出することも、又は片眼視の状態で被検眼Eの眼情報及び視線方向を検出することもできる。
【0089】
以上、本開示の眼科装置を実施形態に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、この実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0090】
例えば、上記第1実施形態の眼科装置100は、視標チャート143上での表示位置を変更して視標を提示することで、視線方向を変化させているが、これに限定されない。例えば、眼科装置100は、被検眼Eの前方に既知のプリズム量のプリズムレンズ等の矯正レンズを配置したり、駆動機構15を駆動して測定ヘッド16の向きを変化させたりすることで、被検眼Eに、異なる複数の提示位置で視標を提示する構成とすることもできる。
【0091】
また、上記第1実施形態の眼科装置100は、視線方向の検出に字並び視標を用いていたが、字並び視標に限定されず、被検眼Eの視線方向を変化させることがでれば、何れの視標を用いてもよい。例えば、視標は、
図9に示す風景チャートのような固定視標であってもよい。この
図9に示す風景チャートは、中央の家の画像のプリズム量が0Δであり、水平線の左右の端部のプリズム量が8Δに設定されている。このため、検者は、被検者に対して、中央の家を固視するように指示することで、「正面視」の前眼部像E′を取得でき、水平線の右端部(又は左端部)を固視するように指示することで、8Δ位置での「右方視」(又は「左方視」)の前眼部像E′を取得できる。
【0092】
また、第1実施形態の眼科装置100において、制御部26は、視線方向を検出して前眼部像E′を表示部30に表示させるときに、前眼部像E′に、視線方向を定量的に示す画像(マッピング画像)を重畳して、表示部30に表示させてもよい。
図10の左方視8△は、プリズム量8Δでの左方視の前眼部像E′に、マッピング画像としてプリズムサークル画像50を重畳した図である。各サークルは、2Δ間隔で描かれている。なお、
図10の左方視8Δの前眼部像E′に示される十字スケールの中心、すなわちプリズムサークルの中心Cは、正面視における瞳孔中心Pcの位置である。なお、側方視における瞳孔中心Pcと角膜頂点T(
図11参照)との距離は非常に小さいため、この中心Cは、角膜頂点Tの位置とすることもできる。
図10の左方視8△では、瞳孔中心Pcは、中心Cから4つ目(8Δ)のサークルに位置している。したがって、検者は、プリズムサークル画像50上の瞳孔中心Pcの位置に基づき、被検眼Eの眼位の状況を、リアルタイムで、より明確に、かつ定量的に把握できる。このとき、制御部26は、表示部30を制御して、プリズムサークル画像50に代えて、被検眼Eに提示している視標の画像(視標像51)を重畳してもよい。この視標像51により、検者は被検眼Eが視標のどの場所を固視しているか、リアルタイムで把握できる。視標像51の例は、
図10の紙面下方に示されるが、この例に限定されない。なお、被検者に対峙する方向から被検眼Eを視認しているように前眼部像E′を表示画面30aに表示していることから、視標像51は、視標を左右反転させた状態で表示されることで、被検眼Eの視線方向とプリズム量とを、視標の提示位置によって、より適切に把握できる。また、制御部26は、
図4等に示される字並び視標を用いて視線方向を検出するときにも、前眼部像E′に、プリズムサークル(極座標)画像等のマッピング画像を重畳することや、各視標とプリズム量とが対応して配置されるようにして、前眼部像E′に字並び視標の画像を重畳することができる。なお、プリズムサークルの表示態様が
図10の例に限定されず、例えば、検者等が分かり易いように、プリズムサークルは、表示領域一杯に広がるように拡大表示されてもよい。プリズムサークルは、直交座標の円に限定されず、四角形状(□)でもよい。視標像51を表示する際は、視標像51はプリズム度数上での対応がなされるように座標変換される。
【0093】
また、第1実施形態では、制御部26は、上記式(1)、(2)を用いて被検眼Eの視線方向を検出しているが、この手法に限定されない。例えば、視線方向の他の異なる検出手法は、
図11を参照して、以下のように説明される。
【0094】
制御部26は、前眼部像E′から取得した特徴点である輝点重心座標及び瞳孔中心座標に基づき、視線方向として、瞳孔中心Pcの位置に対する輝点像Brの位置のずれ量(プリズム量[Δ]、後述の変位d1)を求める。このずれ量は、視線方向のデータとされる。
【0095】
図11(a)は、斜視のない被検眼Eにおける輝点Qの位置が示され、
図11(b)は、斜視のある被検眼Eの輝点Qの位置が示されている。輝点Qは、角膜の曲率半径rの半分の位置(r/2)に形成される。輝点Qの像が、前眼部像E′上で、輝点像Brとなって現れる。また、
図11(a)又は
図11(b)に示されるOは眼球回旋点であり、Rは角膜曲率中心であり、Tは角膜頂点であり、PXは瞳孔と眼球回旋点を通る軸である。また、Epは瞳孔像であり、Irは虹彩像である。
【0096】
ところで、角膜の曲率半径r(つまり角膜曲率中心Rから角膜頂点Tまでの距離)と、角膜頂点Tの位置と輝点像Brの位置との距離dと、
図11(b)に示す瞳孔と眼球回旋点を通る軸PXと平行光束とのなす角度θとは、下記式(5)のような関係式で表される。
【0097】
sinθ = d/r (5)
【0098】
上記式(5)に、距離dと曲率半径rを代入することで、角度θを算出することができる。角膜の曲率半径rは、ケラト測定により取得された値を用いることが可能である。または、角膜の曲率半径rは、初期値として平均値(7.7mm)を用いてもよい。
【0099】
この変形例では、制御部26は、瞳孔中心Pcの位置に対する輝点像Brの位置のずれ量(距離d0)と、角膜曲率中心Rから瞳孔中心Pcまでの距離r0を用いて、下記式(6)に基づいて、角度θを求める。これにより、制御部26は、前眼部像E′に基づいて、より効率的に角度θ等を算出できる。
【0100】
sinθ = d0/r0 (6)
【0101】
角度θは、上記式(6)に、先に求めた距離d0を代入することにより算出できる。距離r0は、例えば平均値を用いることができる。具体的には、距離r0は、角膜の曲率半径rから、角膜頂点Tと瞳孔中心Pcとの距離r1を差分することで求められる。rの平均値=7.7mm、r1の平均値=3.6mm(ただし、瞳孔中心Pcを水晶体の前面とした場合の平均値)とした場合、距離r0=(7.7-3.6)mm=4.1mmとなる。
【0102】
なお、瞳孔中心Pcと輝点像Brの各位置は、角膜の屈折作用の影響を受け易く、また距離r
0には個人差がある。そのため、距離r
0は、
図11(a)のような斜視のない被検眼Eの瞳孔と眼球回旋点を通る軸PXや、他の様々な方向を向いた被検眼Eの瞳孔と眼球回旋点を通る軸PXに関する、距離d
0、距離r
0を収集し、これらの連立方程式に基づいて最適化されてもよい。または、距離r
0は、ケラト測定により取得された角膜の曲率半径rの実測値から最適化されてもよい。
【0103】
また、角度θは、上記(5)または(6)を用いた算出手順に代えて、下記式(7)によっても算出できる。次式(7)中、Lは角膜頂点Tから眼球回旋点Oまでの距離を示し、Dは角膜頂点Tの位置と眼球回旋点Oの位置との距離を示す。なお、角膜頂点Tから眼球回旋点Oまでの距離Lは予め決められた値(例えば、平均的な値である13mm)であってよい。あるいは、別の機器による測定において、実距離が既知である場合には、眼科装置100は、この値を距離Lとして入力されるものでもよい。またこの場合も、制御部26は、距離Lに代えて瞳孔中心Pcから眼球回旋点Oまでの距離を用い、距離Dに代えて、前眼部像E′における瞳孔中心Pcの位置と眼球回旋点Oの位置との距離を用いて算出してもよい。
【0104】
sinθ = D/L (7)
【0105】
さらに異なる角度θの算出手法として、例えば、輝点像Brの変位d
1(
図11(b)参照)を用いることもできる。変位d
1は、ずれが検出された被検眼Eのみに固視標を固視させて、
図11(a)の状態での各数値を求め、眼球回旋点Oからの輝点像Brのずれ量として表すことができる。この変位d
1が、斜視量(プリズム量[Δ])に相当する。
【0106】
角膜頂点Tから眼球回旋点Oまでの距離をLとし、角膜の曲率半径をrとすると、
図11(b)に示す輝点像Brの変位d
1は、下記式(8)のように表される。この場合も、角膜頂点Tから眼球回旋点Oまでの距離Lは予め決められた値(例えば、平均的な値である13mm)であってよい。あるいは、別の機器による測定において、実距離が既知である場合にはこの値を入力可能としてもよい。角膜の曲率半径rは、ケラト測定により取得された値又は平均値(7.7mm)を用いることが可能である。
【0107】
d1=(L - r)・sinθ (8)
【0108】
また、第1実施形態に係る眼科装置100において、制御部26は、視線方向の検出に加えて、被検眼Eの前房深度を検出する構成とすることもできる。制御部26は、特徴点である輝点重心座標(X、Y)、及び瞳孔中心座標(X’、Y’)に基づいて、例えば、
図11(b)を参照して、以下のようにして前房深度を算出できる。
【0109】
輝点重心偏心量(X1-X0)と、角膜曲率中心Rから眼球回旋点Oまでの距離L1とは、下記式(9)のような関係式で表される。瞳孔中心偏心量(X1’-X0’)と、瞳孔中心Pcから眼球回旋点Oまでの距離L2とは、下記式(10)のような関係式で表される。また、プリズム量Pと角度θとは、は、下記式(11)のような関係式で表される。
【0110】
輝点重心偏心量(X1-X0)=L1sinθ (9)
瞳孔中心偏心量(X1’-X0’)=L2sinθ (10)
tanθ=P/100 (11)
【0111】
制御部26は、上記式(9)~(11)に基づいて、距離L1、距離L2、Pを算出し、これらの値用いて、下記式(12)により、被検眼Eの前房深度を算出する。下記式(12)中、rは角膜の曲率半径(角膜曲率中心Rから角膜頂点Tまでの距離)であり、Lは角膜頂点Tから眼球回旋点Oまでの距離であり、L1は角膜曲率中心Rから眼球回旋点Oまでの距離であり、L2は瞳孔中心Pcから眼球回旋点Oまでの距離である。角膜厚は、予め決められた値(例えば、平均的な値である530μm)であってよい。あるいは、別の機器による測定において、実距離が既知である場合にはこの値を入力可能としてもよい。
【0112】
中心前房深度=L-L2-角膜厚=r+L1-L2-角膜厚 (12)
【0113】
以上のようにして、制御部26は、前房深度を算出したら、表示部30を制御して、視線方向ととともに前房深度を表示画面30aに表示させることができる。この表示画面30aを視認することで、検者等は、視線方向に基づいて、被検眼Eの斜位、斜視等の眼位の状況を把握できるとともに、前房深度に基づいて、被検眼Eの斜位、斜視以外の病気のリスク、例えば、緑内障のリスク等を把握することができる。
【0114】
以下は、角度θのさらに異なる算出手法及びプリズムサークル画像50のさらに異なる重畳手法の説明である。前述したように、瞳孔中心Pcと角膜頂点Tとの距離は非常に小さい。このため、制御部26は、以下のような手法によって角膜頂点Tを算出したり、以下のような手法によって前眼部像E′にプリズムサークル画像50等を重畳したりしてもよい。
【0115】
例えば、被検者が額当部17に適切に額を当てて、顔を移動させることなく、正面視から視線だけを移動させて側方視を行った場合、前眼部像E′の眼球回旋点Oは画像上からずれることはない。このため、制御部26は、前眼部像E′上に被検眼Eの眼球回旋点Oを中心とする十字スケールを描き、角膜頂点Tを中心Cとするプリズムサークル画像50を前眼部像E′に重畳してもよい。このとき、角度θは、
図11に示す角膜曲率中心Rから眼球回旋点Oまでの距離L
1と、輝点像Brの変位d
1に基づいて、下記式(13)により算出できる。
【0116】
sinθ=d1/L1 (13)
【0117】
これに対して、被検者が顔を移動させつつ正面視から視線を移動させて側方視を行った場合でも、制御部26は、前眼部像E′を画像解析して目尻と目頭を検出することで、被検眼の移動を認識することができる。この移動状態に基づいて、制御部26は、画像解析によって側方視のときの眼球回旋点O及び角膜頂点Tを抽出し、眼球回旋点Oを中心とする十字スケールと、角膜頂点Tを中心とするプリズムサークル画像50を前眼部像E′に重畳するとともに、正面視のときの眼球回旋点Oの位置を前眼部像E′に表示することで、検者に被検者の顔が移動したことを知らせることができる。
【0118】
また、制御部26は、眼球回旋点Oと輝点像Brとの関係を示すプリズムサークル画像50を生成し、前眼部像E′に重畳することもできる。または、制御部26は、眼球回旋点Oと瞳孔中心Pcとの関係を示すプリズムサークル画像50を生成し、前眼部像E′に重畳することもできる。これらの場合も、側方視を行った際に、被検者の顔が移動したときは、制御部26は、目尻と目頭を検出し、被検眼Eの移動状態に基づいて各プリズムサークル画像50を生成し、前眼部像E′に重畳することが好ましい。
【0119】
また、制御部26は、輝点像Brと瞳孔中心Pcとの関係を示すプリズムサークル画像を生成し、前眼部像E′に重畳することもできる。この場合も、側方視を行った際に、被検者の顔が移動しても、制御部26は、輝点像Brと瞳孔中心Pcを画像解析によって適切に抽出することができ、プリズムサークル画像50の生成と重畳を適切に行うことができる。
【0120】
また、制御部26は、角度θに基づき角膜頂点Tの位置を算出し、輝点像Brと算出した角膜頂点Tとの関係を示すプリズムサークル画像を生成して前眼部像E′に重畳することもできる。角度θは、前述したように、距離L、距離L1、距離L2、曲率半径r、距離r0、距離r1、距離D、距離d、距離d0、変位d1等を用いて、三角関数の式等に基づいて算出することができる。
【0121】
以上のように前眼部像E′にプリズムサークル画像50や視標像51を重畳することの効果は、以下のように説明される。従来、検眼を行う場合、検者は被検者の姿勢や視線方向を確認したり、提示している視標を確認したり、検査結果をコントローラで確認したりする必要があり、作業が煩わしいものとなっていた。これに対して、上記実施形態及び変形例の眼科装置100は、検者が操作する検者用コントローラ27の表示部30に、情報表示画面40Aとして、前眼部像E′と、これに重畳したプリズムサークル画像50や視標像51を表示している。このため、検者は、検者用コントローラ27の表示部30を視認するだけで、被検眼Eを視認できるだけでなく、被検眼Eの斜位量、斜位の方向等の斜位の状態、提示している視標、被検眼Eが視認している視標の位置等を、明確かつ適切に把握することができる。このため、検者は、検眼のための作業を、効率的かつ適切に行うことができる。すなわち、上記第1実施形態及び変形例に係る眼科装置100は、検者等に被検眼Eの斜視や斜位等の眼位の状況を適切に把握させることが可能なだけでなく、検者の利便性を向上させることが可能となる。
【0122】
また、第1実施形態に係る眼科装置100の変形例として、制御部26は、被検眼Eに提示する視標の軌跡を視標チャート143上に表示させる軌跡表示制御部としての機能を有していてもよい。具体的には、制御部26は、視標チャート143に、例えば、中央の視標を提示させ、次に左方に視標を提示させる。このとき、制御部26は、視標チャート143に、中央の視標の提示位置から次の固視目標である左方の視標の提示位置に向けて移動する軌跡の画像を動的に表示させる。
【0123】
視標チャート143に表示された軌跡像の光束は、視標の光束とともに被検眼Eに投射される。この軌跡像は、被検者の注意を引き、被検眼Eの固視位置を中央の視標の提示位置から左方の視標の提示位置まで確実に誘導することができる。この結果、制御部26は、視線方向の検出を、より高精度に行うことができるとともに、詐盲等をより適切に防止できる。また、視標は、字並び視標や風景チャートに限定されず、被検眼Eの視線方向を変化させることができれば、何れの視標を用いてもよいし、視標を拡大縮小して表示することも効果的であり、被検眼Eに確実に視標を固視させることができる。
【0124】
また、第1実施形態に係る眼科装置100は、前眼部像E′から瞳孔像と虹彩像を取得し、視線方向の検出に、瞳孔中心座標と虹彩中心座標とを用いることや、さらには虹彩のパターンを用いることができる。この場合、眼科装置100は、前眼部観察系150を、被検眼Eに可視光を照射してカラー画像を取得可能な構成とすることが望ましく、虹彩像がより鮮明な前眼部像E′を取得し、視線方向の検出に有効に用いることができる。
【0125】
また、第1実施形態に係る眼科装置100は、撮像素子159とは別個に、測定光学系21に被検眼Eの前眼部像E′を異なる複数方向から撮影して取得するカメラ(いわゆるステレオカメラ)を備えていてもよい。このようなカメラは、前眼部像E′だけでなく、目頭、目尻、瞼等を含む被検眼Eのより広い範囲の画像を取得できる。なお、眼科装置100は、ステレオカメラに代えて、広角カメラを備えることや、前眼部観察系150に広角レンズを配置して撮像素子159に結像させることで、広い範囲の画像を取得することもできる。このような広い範囲を撮影した画像に基づいて、制御部26は、例えば、被検眼Eの目頭と目尻の位置の変化によって、顔の動きを把握し、この顔の動きに基づいて、視線方向を補正することができる。よって、制御部26は、被検者の顔が固定されていない場合でも、より適切に視線方向等の被検眼Eの情報を取得できる。
【0126】
以上の実施形態及び変形例の説明に関し、以下を開示する。
(1)被検眼の前眼部像を取得する画像取得部と、前記被検眼に対して少なくとも2つの異なる提示位置に視標を提示する視標投影系と、各提示位置に前記視標を提示したときに前記画像取得部が取得した前記前眼部像から各々特徴点を抽出し、抽出した前記特徴点の前記前眼部像上での位置情報を検出し、前記位置情報に基づいて、前記被検眼の視線方向を検出する視線方向検出部と、を備えたことを特徴とする眼科装置。
(2)前記視線方向検出部は、検出した前記視線方向に基づいて、前記被検眼の眼位の状況を検出する、前記(1)に記載の眼科装置。
(3)前記視線方向検出部は、前記被検眼に入射される平行光束が前記被検眼内で結像して得られる点像に基づく角膜反射から第1の特徴点を取得し、前記前眼部像から検出した瞳孔像から第2の特徴点を取得し、前記第1の特徴点及び前記第2の特徴点に基づいて、前記視線方向を検出する、前記(1)又は(2)に記載の眼科装置。
(4)前記視線方向検出部は、前記第1の特徴点として輝点重心座標(X,Y)を検出し、前記第2の特徴点として瞳孔中心座標(X’,Y’)を検出し、所定の基準方向に対する前記被検眼の前記視線方向の水平方向のプリズム量と、鉛直方向のプリズム量とを、次式
被検眼の視線方向(水平)[Δ]=a*(X’-X)+b
被検眼の視線方向(垂直)[Δ]=a’*(Y’-Y)+b’
上記式中のa,b,a’,b’は補正係数
により算出する、前記(3)に記載の眼科装置。
(5)前記前眼部像が表示される表示部と、前記前眼部像に、前記視線方向を定量的に示す画像を重畳して、前記表示部に表示させる表示制御部と、を備える、前記(1)~(4)の何れか一項に記載の眼科装置。
(6)被検眼の情報を取得する測定光学系、前記被検眼の前記測定光学系の光軸上の前記前眼部像を取得する前記画像取得部、及び前記視標投影系を備える測定ユニットと、前記測定ユニットを鉛直方向及び水平方向に移動させ、鉛直方向に平行な軸及び水平方向に平行な軸を回転軸として回転させる駆動機構と、前記前眼部像が表示される表示部と、を備える、前記(1)~(5)の何れか一項に記載の眼科装置。
【符号の説明】
【0127】
15 :駆動機構 21 :測定光学系
26 :制御部(視線方向検出部) 30 :表示部
100 :眼科装置 140 :視標投影系
Br :輝点像 E :被検眼
Ec :角膜 E′ :前眼部像
Pc :瞳孔中心 Q :輝点