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特開2024-47576シラン化シリカ粒子を含む水性インクジェットインク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047576
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】シラン化シリカ粒子を含む水性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20240329BHJP
【FI】
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023159315
(22)【出願日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】63/410,160
(32)【優先日】2022-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519372065
【氏名又は名称】デュポン エレクトロニクス インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】504089426
【氏名又は名称】ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ シーエムピー ホウルディングス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャオチン リー
(72)【発明者】
【氏名】チャンザイ チー
(72)【発明者】
【氏名】ジー イオン ホ
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD10
4J039AE04
4J039BA21
4J039BE01
4J039CA06
4J039EA44
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 シラン化シリカ粒子を含む水性インクジェットインクを提供する。
【解決手段】 本開示は、自己分散顔料、またはアルカリで中和されたカルボキシル官能基を有するポリウレタン若しくはアクリル分散剤ポリマーによって分散された顔料と、ポリウレタンまたはアクリルバインダー粒子と、添加剤としての3重量%未満の30nmより小さい粒子サイズの表面改質シラン化コロイダルシリカ粒子とを有する水性インクジェットインクに関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ビヒクルと、顔料分散物と、ポリマーバインダーと、添加剤とを含有する水性インクジェットインクであって、
前記顔料分散物が、自己分散顔料、あるいは、アルカリで中和されたカルボキシル官能基を有する、ポリウレタン分散剤ポリマーまたはアクリル分散剤ポリマーで分散された顔料を含み、
前記ポリマーバインダーはポリウレタンポリマーまたはアクリルポリマーであり、
前記添加剤は、表面改質されたシラン化コロイダルシリカ粒子を含み、かつ、前記インクの総重量を基準として3重量%未満で存在し、
前記シリカ粒子の平均粒子サイズが30nmよりも小さい
ことを特徴とする水性インクジェットインク。
【請求項2】
前記表面改質されたシラン化コロイダルシリカ粒子が、エポキシシランとコロイダルシリカ粒子の反応生成物である、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記顔料分散物が、アルカリで中和されたカルボキシル官能基を有するポリウレタン分散剤ポリマーによって分散された顔料を含む、請求項2に記載のインク。
【請求項4】
前記ポリマーバインダーがポリウレタンポリマーである、請求項3に記載のインク。
【請求項5】
前記ポリマーバインダーがアクリルポリマーである、請求項3に記載のインク。
【請求項6】
前記顔料分散物が、アルカリで中和されたカルボキシル官能基を有するアクリル分散剤ポリマーによって分散された顔料を含む、請求項2に記載のインク。
【請求項7】
前記ポリマーバインダーがポリウレタンポリマーである、請求項6に記載のインク。
【請求項8】
前記ポリマーバインダーがアクリルポリマーである、請求項6に記載のインク。
【請求項9】
前記顔料分散物が自己分散顔料を含む、請求項2に記載のインク。
【請求項10】
前記ポリマーバインダーがポリウレタンポリマーである、請求項9に記載のインク。
【請求項11】
前記ポリマーバインダーがアクリルポリマーである、請求項9に記載のインク。
【請求項12】
前記インクが遊離の表面未修飾のコロイダルシリカ粒子を含まない、請求項1に記載のインク。
【請求項13】
前記ポリウレタン分散剤ポリマーおよびアクリル分散剤ポリマーが前記ポリマーバインダーとは異なる、請求項1に記載のインク。
【請求項14】
前記シラン化コロイダルシリカ粒子が式(I):
【化1】
(式中、XはOまたは直鎖の結合であり;RおよびRは、独立して直鎖または分岐のC~Cアルキレンであり;Rは、H、C~Cアルキル、またはC~Cアルキルで置換されたC~Cアルキルである)
の構造を有する、請求項1に記載のインク。
【請求項15】
XがOである、請求項14に記載のインク。
【請求項16】
が-(CH-である、請求項15に記載のインク。
【請求項17】
が-(CH)-でありRがHである、請求項16に記載のインク。
【請求項18】
Xが直鎖の結合である、請求項14に記載のインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性ビヒクルと、分散顔料と、ポリマーバインダーと、添加剤としての30nmより小さい粒子サイズの表面改質シラン化コロイダルシリカ粒子とを含有する水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、ノンインパクトデジタル印刷プロセスであり、この場合、紙などの基材にインクの液滴を堆積させて所望の画像を形成する。インクジェットプリンタは、フルカラー印刷については、典型的にはシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、および追加のブラックインクを含むインクセット(CMYK)を備えており、ブラックインクが最も一般的なインクである。透明なプラスチックなどの透明基材については、カラー画像を強調するために一般的にはホワイトインクが必要とされる。この場合、インクセットは典型的にはCMYKWインクを含む。
【0003】
インクジェット印刷は、小規模オフィス/ホームオフィス向けの従来のデスクトップ印刷以外の市場で一層重要になっている。デジタル印刷法は商業印刷やパッケージ印刷で評判が高く、インクジェット印刷により、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、およびオフセット印刷などの様々なアナログ印刷プロセスに伴うセットアップ労力を不要にすることによって、コスト効率の高い短納期の生産を可能にする。より多くのノズル数、より高密度の充填密度、およびより小さな液滴サイズを有するプリントヘッドを備えたシングルパス方式のプリンタ構造の進歩により、アナログからデジタルへの変換が更に加速されている。これらの開発のため、シリコン(Si)MEMSから構成されたプリントヘッドの人気が高まっている。これは、そのようなプリントヘッドが、MEMSプロセスを使用するフォトリソグラフィーおよびマイクロマシニング技術に固有の正確なフィーチャサイズ制御と適合性を有するためである。しかしながら、プリンタOEMは、シリコンから構成されたプリントヘッドと水性インクジェットインクとの適合性の問題に直面することも増えている。具体的には、プリントヘッドの非湿式コーティングが、水性インクに一定期間浸漬された後に剥がれ、その結果、プリントヘッドの寿命が大幅に制限されることが多いことが判明した。仮説は、水性インクが非湿潤コーティング層のピンホールやエッジを通って拡散し、コーティングの下にあるSi-O結合と反応して、コーティングとシリコン層との間の結合を破壊するというものである。また、高いpHや、高いPKaを持つナトリウムおよびカリウムのカチオンが特に有害であることも分かっている。
【0004】
商業印刷およびパッケージ印刷用途におけるインクジェットの拡大のため、印刷媒体は、普通紙や特殊インクジェット紙から、低吸収性基材、例えばコート紙、コート段ボール、折り畳み式の箱、および非吸収性のプラスチック基材、例えばビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン板、並びにフレキシブルなポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレンのフィルムにも広がっている。普通紙や特殊なインクジェット用紙と比較すると、低吸収性および非吸収性の基材にはインクがほとんどまたはまったく浸透しないため、乾燥が遅くなり、画質が低下し、使用前に印刷が互いにくっついてしまう。これらの欠点は、特に高速で印刷を行うときに悪化する。
【0005】
シリコンプリントヘッドの適合性の問題に対処するために、これまでに様々なインク配合戦略が試みられてきた。例えば、(特許文献1)では、pHを制御してインクとシリコンとの反応性を低下させるための緩衝剤を含むインクが開示された。(特許文献2)では、二価または三価の金属と1つ以上の有機配位子とを含む可溶性金属配位子錯体を含有するインクジェットインク印刷流体が開示された。(特許文献3)では、少なくとも第1の着色剤と、可溶性有機芳香族アゾ化合物とを、インク組成物が接触したときにケイ素系材料の腐食を抑制するのに十分な濃度で含むインク組成物が開示された。しかしながら、上記アプローチは、特に30℃を超える温度でインクにさらされたときにプリントヘッドの腐食を防ぐのには十分ではなかった。
【0006】
別のタイプのアプローチは無機粒子の添加を含み、例えば(特許文献4)では粒子サイズが5nmから50nmまで変化するアルミニウム安定化コロイダルシリカ粒子を含む顔料インクジェットインクが開示された。しかしながら、このタイプのコロイダルシリカ添加剤では、長期保存時の際に安定性が不十分なインクになることが多い。水溶液中では、天然シリカ粒子の表面はシラノール基で覆われており、未改質シリカの等電点はpH2である。典型的にはpH8~9の範囲である水性インクジェットインクとシリカ粒子を適合させるために、シリカ粒子はNa、K、Li、およびNH などのアルカリ性カチオンで中和され、粒子間の電荷反発によって安定化される。これらの高度に帯電したシリカ粒子は、電解質の一形態として、インク内の顔料と樹脂粒子の凝集を引き起こすのに十分な高レベルまでインクの導電性を高める可能性がある。そのため、アルカリ安定化シリカの最大添加量は制限され、これはプリントヘッドの腐食を防止するには十分でない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7370952号明細書
【特許文献2】米国特許第8465142号明細書
【特許文献3】国際公開第2010138191号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5925178号明細書
【特許文献5】米国特許第7544726号明細書
【特許文献6】米国特許第5085698号明細書
【特許文献7】米国特許第5554739号明細書
【特許文献8】米国特許第6852156号明細書
【特許文献9】米国特許第4,597,794号明細書
【特許文献10】欧州特許第0556649号明細書
【特許文献11】米国特許第5,231,131号明細書
【特許文献12】米国特許第6,117,921号明細書
【特許文献13】米国特許第6,262,152号明細書
【特許文献14】米国特許第6,306,994号明細書
【特許文献15】米国特許第6,433,117号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2012/0214939号明細書
【特許文献17】米国特許第5,022,592号明細書
【特許文献18】米国特許第5,026,427号明細書
【特許文献19】米国特許第5,310,778号明細書
【特許文献20】米国特許第5,891,231号明細書
【特許文献21】米国特許第5,976,232号明細書
【特許文献22】米国特許出願公開第2003/0089277号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Pigment & Resin Technology, 40/5 (2011) 275-284
【非特許文献2】Colloids and Surfaces A,Physicochemical and Engineering Aspects, Volume 74, Issue 1, 6 July 1993, Pages 71-90
【非特許文献3】G.W.Sears, Anal. Chem. 1956, 28, 12, 1981-1983
【非特許文献4】The Color Index, Third Edition, 1971
【非特許文献5】"The Pigment Handbook", Vol. 1, 2nd Ed., John Wiley & Sons, NY(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
良好なインク安定性を有しながらも、シリコンで構成されたプリントヘッドと適合性を有する、特に30℃を超える温度での印刷のための水性インクジェットインクが依然として必要とされている。本開示は、30nmより小さい粒子サイズの表面改質シラン化コロイダルシリカ粒子を添加剤として含むインク組成物を提供することにより、この要求を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの実施形態は、水性ビヒクルと、顔料分散物と、ポリマーバインダーと、添加剤とを含有する水性インクジェットインクを提供し;前記顔料分散物は、自己分散顔料、またはアルカリで中和されたカルボキシル官能基を有するポリウレタン分散剤ポリマー若しくはアクリル分散剤ポリマーで分散された顔料を含み、前記ポリマーバインダーはポリウレタンポリマーまたはアクリルポリマーであり、前記添加剤は、表面改質されたシラン化コロイダルシリカ粒子を含み、インクの総重量を基準として3重量%未満で存在し、前記シリカ粒子の平均粒子サイズが30nmより小さい。
【0011】
別の実施形態は、表面改質シラン化コロイダルシリカ粒子が、コロイダルシリカ粒子をエポキシシランと反応させることによって調製されることを提供する。
【0012】
別の実施形態は、アルカリで中和されたカルボキシル官能基を有するポリウレタン分散剤ポリマーによって分散された顔料を含む顔料分散物を提供する。
【0013】
別の実施形態は、アルカリで中和されたカルボキシル官能基を有するアクリル分散剤ポリマーによって分散された顔料を含む顔料分散物を提供する。
【0014】
別の実施形態は、ポリマーバインダーがポリウレタンポリマーであることを提供する。
【0015】
別の実施形態は、ポリマーバインダーがアクリルポリマーであることを提供する。
【0016】
別の実施形態では、インクが遊離の表面未改質のコロイダルシリカ粒子を含まないことを提供する。
【0017】
別の実施形態では、ポリウレタン分散剤ポリマーおよびアクリル分散剤ポリマーがポリマーバインダーとは異なることを提供する。
【0018】
別の実施形態は、シラン化コロイダルシリカ粒子が式(I)の構造(式中、XはOまたは直鎖の結合であり;RおよびRは、独立して直鎖または分岐のC~Cアルキレンであり;Rは、H、C~Cアルキル、またはC~Cアルキルで置換されたC~Cアルキルである)を有することを提供する。
【0019】
【化1】
【0020】
別の実施形態は、XがOであることを提供する。
【0021】
別の実施形態は、Rが-(CH-であることを提供する。
【0022】
別の実施形態は、Rが-(CH)-であることを提供する。
【0023】
別の実施形態は、RがHであることを提供する。
【0024】
更に別の実施形態は、Xが直鎖結合であることを提供する。
【0025】
本実施形態のこれらおよび他の特徴および利点は、以下の詳細な記載を読むことで当業者によってより容易に理解されるであろう。明確化のために別々の実施形態として前述および後述される、開示される実施形態の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせでも提供され得る。反対に、単一の実施形態に関連して記載される、開示される実施形態の様々な特徴は、別々にまたは任意の部分組み合わせでも提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0026】
特に明記または定義しない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されている意味を有する。
【0027】
特に明記されない限り、全てのパーセント、部、比などは、重量基準である。
【0028】
量、濃度または他の値またはパラメーターが上位の好ましい値および下位の好ましい値の範囲、好ましい範囲またはリストとして与えられる場合、これは、範囲が別個に開示されているかどうかにかかわらず、任意の範囲上限値または好ましい値と、任意の範囲下限値または好ましい値との任意の対から形成される全ての範囲を具体的に開示していると理解されるべきである。ある範囲の数値が本明細書において列挙される場合、特に明記しない限り、その範囲は、その終点並びにその範囲内の全ての整数および分数を含むことを意図する。
【0029】
「約」という用語が範囲の値または端点を表すのに使用される場合、本開示は、言及される具体的な値または端点を含むと理解されるべきである。
【0030】
本明細書において使用される場合、「分散物」という用語は、1つの相がバルク物質全体に分布している微細粒子(多くの場合にコロイドの大きさの範囲において)からなる2相系を意味し、粒子は、分散された相または内相であり、バルク物質は、連続相または外相である。
【0031】
本明細書において使用される場合、「分散剤」という用語は、多くの場合、コロイドの大きさの極めて微細な固体粒子の均一且つ最大の分離を促進するために懸濁媒体に加えられる界面活性剤を意味する。顔料の場合、分散剤は、最も多くの場合、ポリマー分散剤であり、通常、分散剤および顔料は、分散装置を使用して混ぜ合わされる。
【0032】
本明細書において使用される場合、「水性ビヒクル」という用語は、水または水と少なくとも1つの水溶性若しくは部分的に水溶性(即ちメチルエチルケトン)の有機溶媒(共溶媒)との混合物を指す。
【0033】
本明細書において使用される場合、「実質的に」という用語は、相当な程度、ほとんど全てであることを意味する。
【0034】
本明細書において使用される場合、「ダイン/cm」という用語は、表面張力単位であるダイン毎センチメートルを意味する。
【0035】
本明細書において使用される場合、「cP」という用語は、粘度単位であるセンチポアズを意味する。
【0036】
明確に述べられる場合のみを除いて、本明細書における材料、方法および例は、例示的なものにすぎず、限定することを意図しない。
【0037】
加えて、文脈上特に明記されない限り、単数形での言及は、複数形を含み得る(例えば、「1つの(a)」および「1つの(an)」は、1つまたは1つ以上を指し得る)。
【0038】
(インクセット)
「インクセット」という用語は、インクジェットプリンタが備えられて噴射する全ての個々のインクまたは他の流体を指す。カラーインクを印刷した後に画像を印刷するために使用される白色インクまたはカラーインクを印刷する前に印刷するために使用される白色インクは、インクセットの一部とみなされる。
【0039】
1つの好ましい実施形態では、インクセットは、少なくとも2つの異なる色のインクジェットインクを含み、そのうちの少なくとも1つは、上記のような白色顔料系インクジェットインクである。
【0040】
別の好ましい実施形態では、インクセットは、少なくとも4つの異なる色のインクジェットインクを含み、少なくとも1つは、シアンのインクジェットインクであり、少なくとも1つは、マゼンタのインクジェットインクであり、少なくとも1つは、イエローのインクジェットインクであり、少なくとも1つは、白色インクジェットインクである。
【0041】
直前に記載したカラーインクジェットインクに加えて、インクセットにブラックインクジェットインクを含めることも好ましい。
【0042】
上記のCMYKWインクに加えて、インクセットは、更なる異なる色のインク並びにCMYKWおよびその他のインクの異なる強度のバージョンを含有し得る。
【0043】
例えば、本発明のインクセットは、インクセットにおけるインクの1つ以上の最大強度のバージョンおよびその「淡色(light)」バージョンを含むことができる。
【0044】
インクジェットインクセットの更なる色には、例えば、オレンジ、バイオレット、グリーン、レッドおよび/またはブルーが含まれる。
【0045】
好ましいインクセットインクは、顔料インクである。
【0046】
(シラン化コロイダルシリカ粒子)
シランによる改質は、シリカ粒子の表面特性を変更し、様々な条件下での安定性を改善するために広く使用されている。水溶液中では、未改質のシリカの表面はシラノール(Si-OH)基で覆われており、これらの基の一部はイオン化状態(SiO)で存在する。この結果、シリカ粒子はアルカリ性のpHで通常負に帯電し、静電反発によって安定化される。本開示におけるシラン化コロイダルシリカ粒子は、エポキシ官能化シランと、アニオン電荷によって安定化されたコロイダルシリカ粒子との反応生成物を指す。水溶液中での反応中に、エポキシ官能化シランのシラン基は最初に加水分解してシラノール基になり、その後にシリカ粒子表面のシラノール基と縮合反応してシロキサン共有結合(Si-O-Si)を形成し、エポキシ基はジヒドロキシ基またはジオール部位へと加水分解される。このシラン化プロセスの結果、改質されたシリカ粒子は、ジオール部位を有する共有結合によりグラフトされた有機鎖によって更なる立体的安定化を獲得する。静電的な安定化と比較して、立体安定化は溶液のイオン強度の影響をあまり受けない。したがって、シリカ表面に追加された立体安定化により、電解質の添加時および凍結条件下でのシリカ分散液の安定性が向上する。
【0047】
シラン化のための出発コロイダルシリカ粒子は、アルカリ対カチオン、例えばLi、K、Na、およびNH によるアニオン電荷で安定化された粒子である。粒子の形状としては、限定するものではないが、球状の、節のある、曲がった、細長い、または繭状の粒子が挙げられる。平均粒子サイズは、動的光(DL)散乱技術により測定したときに、3nm~100nm、より好ましくは3nm~30nmの範囲であることが好ましい。適切な粒子サイズ測定装置は、例えば、Malvern Instruments(Malvern, UK)から入手可能である。典型的には、アニオン電荷のコロイダルシリカ粒子は、10%~40%の範囲、好ましくは少なくとも15%の重量%で分散形態で水中に担持される。市販の出発コロイダルシリカ粒子の例としては、日産化学グループ(東京,日本)のナトリウム安定化ST-XS、ST-30、ST-50、およびアンモニア安定化ST-NXS、ST-N、ST-N-40などのグレードのSNOWTEX(登録商標)シリーズ;Nouryon(アムステルダム、オランダ)のCT16PNH、CA414PNM、CT22M、OF50、CB75LS、およびFX170などのLevasil(登録商標)シリーズ;WR Grace(Columbia, MD)のAS-30、HS-40、TM-50、LS、SMなどのLudox(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0048】
エポキシ官能化シランとしては、限定するものではないが、5,6-エポキシヘキシルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、およびグリシドキシシランが挙げられる。好ましくは、エポキシシランはグリシドキシシランである。例示的なグリシドキシシラン化合物は、(3-グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、および(3-グリシドキシプロピル)ヘキシルトリメトキシシランである。
【0049】
本発明のシラン化コロイダルシリカ粒子は、好ましくは、最初に、望みの量のエポキシ官能化シランと脱イオン水とを約0.5~2時間混合して30~60%の予め加水分解されたエポキシシラン水溶液を調製することによって製造することができる。続いて、30~60%の予め加水分解されたエポキシシラン水溶液をアニオン電荷のコロイダルシリカ粒子の分散液に約1~10分間かけてゆっくりと添加し、室温で少なくとも1時間連続的に混合して反応を完了させることによって、シラン表面改質が行われる。同様のプロセスは、P. Greenwoodによって(非特許文献1)で以前に記載されており、また(特許文献5)に開示されている。30nm未満の平均粒子サイズ(PS)を有する市販のシラン化コロイダルシリカ粒子の例としては、限定するものではないが、Nouryon(アムステルダム、オランダ)のLevasil(登録商標)CC301(平均PS=7nm)、CC151(平均PS=5nm)、CC401(平均PS=12nm)、およびCB301(平均PS=7nm)が挙げられる。
【0050】
表面改質された粒子の特性および性能は、シラン化度によって特徴付けられる表面積あたりのグラフト化された鎖の数に依存する。シラン化度は、シリカ粒子表面の出発シラノール基に対するグラフト化された鎖のモルパーセントに等しい。シラン化度が高いほど、立体安定化の程度が高くなり、電解質添加時の安定性が向上する。シリカ粒子の形状、表面積、およびサイズは、シラン化の前後で同じままであると考えられる。シラン化度は以下の式を使用して計算することができる:
シラン化度(%)=(We/Me×NA)/(SSA×Ws×1018×4.6)
We:エポキシシランの重量
Me:エポキシシランの分子量
Ws:シリカ粒子の重量(g)
SSA:シリカ粒子の比表面積(m/g)
NA:アボガドロ数、6.022×1023mol-1
式中の定数4.6は、(非特許文献2)でZhuralexによって測定された、1nmのシリカ粒子表面あたりの平均シラノール基である。SSAは、BET表面積測定またはシアーズ滴定(水酸化ナトリウムを用いた滴定によるコロイダルシリカの比表面積の測定、(非特許文献3))によって得ることができる。これらのプロセスは、共に当技術分野でよく知られている。
【0051】
シラン化度は、典型的には8%~60%、好ましくは12%~50%の範囲である。シラン化度が低すぎると、インクの長期安定性に十分な立体安定化が得られない可能性があり、シラン化度が高いと、プリントヘッドの腐食を防止するのに十分なシラノール基がシリカ粒子表面上に残らない可能性がある。
【0052】
典型的には、インクは、インクの総重量を基準として最大約8重量%、好ましくは約0.1~約5重量%、より好ましくは約0.1~約3重量%のシラン化シリカ粒子を含み得る。
【0053】
(顔料)
カラー画像を印刷するために使用される着色剤は、染料または顔料であり得る。染料には、分散染料、反応性染料、酸性染料などが含まれる。本明細書において使用される場合、「顔料」という用語は、分散剤で分散され、分散剤の存在下において分散条件下で処理されることを必要とする不溶性着色剤を意味する。顔料系インクが好ましい。
【0054】
使用するのに適した顔料は、水性インクジェットインクにおいて当技術分野で一般によく知られているものである。選択された顔料は、乾燥形態または湿潤形態で使用され得る。例えば、顔料は、通常、水性媒体中で製造され、得られた顔料は、水で湿潤されたプレスケーキとして得られる。プレスケーキの形態では、顔料は、乾燥形態で凝集する程度に凝集しない。このため、水で湿潤されたプレスケーキの形態の顔料は、予備混合プロセスにおいて脱凝集するために、乾燥形態での顔料と同程度に多くの混合エネルギーを必要としない。代表的な市販の乾燥顔料は、(特許文献6)明細書に列挙されている。
【0055】
インクジェットインクに有用な着色特性を有する顔料のいくつかの例には、これらに限定されないが、以下が含まれる:ピグメントブルー15:3およびピグメントブルー15:4のシアン顔料、ピグメントレッド122およびピグメントレッド202のマゼンタ顔料、ピグメントイエロー14、ピグメントイエロー74、ピグメントイエロー95、ピグメントイエロー110、ピグメントイエロー114、ピグメントイエロー128およびピグメントイエロー155のイエロー顔料、ピグメントオレンジ5、ピグメントオレンジ34、ピグメントオレンジ43、ピグメントオレンジ62、ピグメントレッド17、ピグメントレッド49:2、ピグメントレッド112、ピグメントレッド149、ピグメントレッド177、ピグメントレッド178、ピグメントレッド188、ピグメントレッド254、ピグメントレッド184、ピグメントレッド264およびピグメントレッドPV19のレッド顔料、ピグメントグリーン1、ピグメントグリーン2、ピグメントグリーン7およびピグメントグリーン36のグリーン顔料、ピグメントブルー60、ピグメントバイオレット3、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット23、ピグメントバイオレット32、ピグメントバイオレット36およびピグメントバイオレット38のブルー顔料並びにブラック顔料カーボンブラック。本明細書において使用される顔料名および省略形は、Society of Dyers and Colourists, Bradford, Yorkshire, UKによって確立され、(非特許文献4)に公開された顔料の「C.I.」名称である。
【0056】
白色材料の例としては、これらに限定されないが、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモンおよび酸化ジルコニウムなどの白色無機顔料が挙げられる。このような白色無機顔料の他に、白色中空樹脂粒子およびポリマー粒子などの白色有機顔料も使用することができる。水性顔料系白色インクに好ましい顔料は、二酸化チタンである。有用な二酸化チタン(TiO)顔料は、ルチルまたはアナターゼ結晶形態であり得る。それは、一般的に、塩化物プロセスまたは硫酸塩プロセスのいずれかによって作製される。塩化物プロセスでは、TiClが酸化されてTiO粒子になる。硫酸塩プロセスでは、硫酸と、チタンを含有する鉱石とが溶解され、得られた溶液は、一連の工程を経てTiOを生成する。硫酸塩および塩化物のプロセスの両方は、(非特許文献5)により詳細に記載されており、その関連する開示は、完全に説明されているかのように、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
二酸化チタン粒子は、インクの所望の最終用途に応じて、約1ミクロン以下の多様な平均粒子サイズを有することができる。高い隠蔽または装飾印刷用途を要求する用途の場合、二酸化チタン粒子は、好ましくは、約1ミクロン(1000ナノメートル)未満の平均サイズを有する。好ましくは、粒子は、約50~約950ナノメートル、より好ましくは約75~約750ナノメートル、更により好ましくは約100~約500ナノメートルの平均サイズを有する。これらの二酸化チタン粒子は、一般的に、顔料性TiOと呼ばれる。
【0058】
ある程度の透明性を備えた白色を要求する用途では、顔料として「ナノ」二酸化チタンが好ましい。「ナノ」二酸化チタン粒子は、典型的には、約10~約200ナノメートル、好ましくは約20~約150ナノメートル、より好ましくは約35~約75ナノメートルの範囲の平均サイズを有する。ナノ二酸化チタンを含むインクは、光による退色に対する良好な耐性および適切な色相角を依然として維持しながら、彩度および透明度を向上させることができる。コーティングされていないナノグレードの酸化チタンの市販の例は、Degussa(Parsippany, N.J.)から入手可能なP-25である。
【0059】
二酸化チタン顔料は、1つ以上の金属酸化物表面コーティングを有することもできる。これらのコーティングは、当業者に知られている技術を使用して塗布することができる。金属酸化物コーティングの例には、とりわけ、シリカ、アルミナ、アルミナシリカ、ボリアおよびジルコニアが含まれる。このようなコーティングは、二酸化チタン顔料の総重量に基づいて任意選択で約0.1重量%~約10重量%、好ましくは約0.5重量%~約3重量%の量で存在することができる。これらのコーティングは、二酸化チタンの光反応性を低減するなど、改善された特性を提供することができる。このようなコーティングされた二酸化チタンの商業的な例には、R700(アルミナコーティングされている、Chemours(Wilmington, Del.)から入手可能)、RDI-S(アルミナコーティングされている、Kemira Industrial Chemicals(ヘルシンキ、フィンランド)から入手可能)、R706(Chemours(Wilmington, Del.)から入手可能)およびW-6042(テイカ株式会社(大阪、日本)のシリカアルミナ処理されたナノグレード二酸化チタン)が含まれる。
【0060】
(顔料分散物)
従来、顔料は、ポリマー分散剤または界面活性剤などの分散剤によって安定化されて、ビヒクル中での顔料の安定な分散を生成する。しかし、より最近では、いわゆる「自己分散性」または「自己分散」顔料(以下では「SDP」)が開発されている。その名称が示すように、SDPは、分散剤なしで水中に分散可能である。
【0061】
(自己分散性顔料分散物-SDP)
本開示の顔料は、自己分散(または自己分散性)顔料であってよい。自己分散顔料(または「SDP」)という用語は、顔料粒子の表面が、別の分散剤なしで顔料が水性ビヒクルにおいて安定して分散されることを可能にする親水性の分散性を付与する基で化学的に改質されている顔料粒子を意味する。「安定して分散された」とは、顔料が微細に分けられ均一に分布され、粒子成長および凝集に耐性であることを意味する。
【0062】
SDPは、官能基または官能基を含有する分子を顔料の表面上にグラフトすることにより、物理的処理(真空プラズマなど)により、または化学処理(例えば、オゾン、または次亜塩素酸などでの酸化)により調製され得る。単一の種類または複数の種類の親水性官能基が1つの顔料粒子に結合され得る。親水性基は、水性ビヒクル中に分散される場合、SDPに負電荷をもたらすカルボキシレートまたはスルホネート基である。カルボキシレートまたはスルホネート基は、通常、一価および/または二価のカチオン性対イオンを伴う。SDPの製造方法は周知であり、例えば(特許文献7)および(特許文献8)に見出すことができる。
【0063】
SDPは、カーボンブラックに基づくものなどの黒色であり得るか、または着色顔料であり得る。インクジェットインクに有用な色特性を有する顔料の例としては、ピグメントブルー15:3およびピグメントブルー15:4(シアン用);ピグメントレッド122およびピグメントレッド202(マゼンタ用);ピグメントイエロー14、ピグメントイエロー74、ピグメントイエロー95、ピグメントイエロー110、ピグメントイエロー114、ピグメントイエロー128およびピグメントイエロー155(イエロー用);ピグメントオレンジ5、ピグメントオレンジ34、ピグメントオレンジ43、ピグメントオレンジ62、ピグメントレッド17、ピグメントレッド49:2、ピグメントレッド112、ピグメントレッド149、ピグメントレッド177、ピグメントレッド178、ピグメントレッド188、ピグメントレッド255およびピグメントレッド264(レッド用);ピグメントグリーン1、ピグメントグリーン2、ピグメントグリーン7およびピグメントグリーン36264(グリーン用);ピグメントブルー60、ピグメントバイオレット3、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット23、ピグメントバイオレット32、ピグメントバイオレット36およびピグメントバイオレット38(ブルー用);並びにカーボンブラックが挙げられる。しかしながら、これらの顔料のいくつかは、SDPとしての調製に好適ではない場合がある。本明細書では、着色剤は、Society Dyers and Colourists, Bradford, Yorkshire, UKによって確立され、(非特許文献4)で公開された、それらの「C.I.」表示に関する。
【0064】
本開示のSDPは、ある度合いの官能基化を有することができ、この場合、アニオン性基の密度は、顔料表面1平方メートル当たり約3.5μモル未満(3.5μモル/m)、より具体的には約3.0μモル/m未満である。また、約1.8μモル/m未満、より具体的には約1.5μモル/m未満の官能基化の度合いも適切であり、SDPの所定の特定の種類に好ましい場合がある。
【0065】
(ポリマー分散された顔料分散物)
(ポリマー分散剤)
非自己分散顔料のためのポリマー分散剤は、ランダムまたは構造化ポリマーであり得る。典型的には、アクリル系ポリマー分散剤は、疎水性モノマーと親水性モノマーのコポリマーである。使用される疎水性モノマーのいくつかの例は、メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2-フェニルエチルメタクリレートおよび対応するアクリレートである。親水性モノマーの例は、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびこれらの塩である。また、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの四級塩を使用することもできる。「ランダムポリマー」は、それぞれのモノマーの分子がポリマー骨格においてランダムに配列されているポリマーを意味する。適切なランダムポリマー分散剤の参照については、(特許文献9)を参照されたい。「構造化ポリマー」は、ブロック、分岐、グラフトまたはスター構造を有するポリマーを意味する。構造化ポリマーの例としては、(特許文献6)に開示されるものなどのABまたはBABブロックコポリマー、(特許文献10)に開示されるものなどのABCブロックコポリマーおよび(特許文献11)に開示されるものなどのグラフトポリマーが挙げられる。使用することができる他のポリマー分散剤は、例えば、(特許文献12)、(特許文献13)、(特許文献14)、および(特許文献15)に記載されている。
【0066】
「ランダムポリマー」には、ポリウレタンも含まれる。特に有用なものは、(特許文献16)に開示されているポリウレタン分散剤であり、このポリウレタン分散剤は、顔料を分散させた後に架橋されて顔料分散物を形成する。この関連する開示は、参照により完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。
【0067】
別の適切なタイプのポリマー分散剤は、スチレン無水マレイン酸(SMA)コポリマーである。「スチレン無水マレイン酸コポリマー」または「SMAコポリマー」は、スチレンと、無水マレイン酸モノマーと、任意選択的な1種以上の追加のコモノマーとから形成されるポリマーである。コポリマーは、0.2~5、好ましくは0.5~2のスチレン/無水マレイン酸繰り返し単位のモル比を有することができる。分散剤は、通常SMAコポリマーの加水分解された溶液の形態である。加水分解された溶液は、好ましくは、アルカリ水溶液に溶解したSMAコポリマーを含む。SMAコポリマーは水に溶けにくいため、アルカリ水溶液はSMAコポリマーを加水分解するのに有用である。アルカリ溶液のヒドロキシルイオンは、無水物の環上のカルボニル炭素を加水分解するかこれと反応して、炭素-酸素単結合を開裂させる。反応により無水物環が開き、一酸基が形成される。SMAコポリマーを溶解するために使用されるアルカリ水溶液は、好ましくは、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または有機アミンから調製される。本発明に適した加水分解されたSMAコポリマー溶液としては、商品名XIRAN(登録商標)SLとしてPolyscope Polymersから市販されているものが挙げられる。
【0068】
(ポリマー分散された着色顔料分散物)
添加されたポリマー分散剤によって安定化される着色顔料分散物は、当技術分野で知られている方法によって調製することができる。一般に、安定化された顔料を濃縮された形態にすることが望ましい。安定化された顔料は、最初に、選択された顔料とポリマー分散剤とを水性担体媒体(水および任意選択で水混和性溶媒など)中で予備混合し、次いで顔料を分散または解膠することによって調製される。予備混合工程は、一般に、攪拌混合容器内で行われ、高速分散機(HSD)が混合工程に特に適している。HSDに取り付けられた、500rpm~4000rpm、より典型的には2000rpm~3500rpmで作動するCowels型のブレードは、所望の混合を実現するために最適なせん断を提供する。十分な混合は、通常、上記の条件下で15~120分間にわたって混合した後に達成される。後続の分散工程は、2ロールミル、媒体ミル、水平ミニミル、ボールミル、磨砕機においてまたは混合物を液体ジェット相互作用チャンバー内の複数のノズルに少なくとも5,000psiの液体圧力で通過させ、水性担体媒体(マイクロルイダイザー)において顔料粒子の均一な分散物を生成することによって達成することができる。代わりに、濃縮物は、ポリマー分散剤および顔料を加圧下で乾式粉砕することによって調製することができる。媒体ミルの媒体は、ジルコニア、YTZおよびナイロンなどの一般的に入手可能な媒体から選択される。これらの様々な分散プロセスは、(特許文献17)、(特許文献18)、(特許文献19)、(特許文献20)、(特許文献21)、および(特許文献22)に例示されるように、一般的な意味において当技術分野でよく知られている。これらの刊行物のそれぞれの開示は、完全に説明されているかのように、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。2ロールミル、媒体ミルおよび混合物を少なくとも5,000psiの液圧で液体ジェット相互作用チャンバー内の複数のノズルに通すことによることが好ましい。
【0069】
粉砕プロセスが完了した後、着色顔料濃縮物を水系に「レットダウン」することができる。「レットダウン」とは、混合または分散による濃縮物の希釈を指し、混合/分散の強度は、通常、従来の方法論を使用した試行錯誤によって決定され、多くの場合、ポリマー分散剤、溶媒および顔料の組み合わせに依存する。
【0070】
分散後の有用な粒子サイズの範囲は、典型的には、約0.005マイクロメートル~約15マイクロメートルである。典型的には、顔料粒子サイズは、約0.005マイクロメートル~約5マイクロメートル、特に約0.005マイクロメートル~約1マイクロメートルの範囲であるべきである。動的光散乱によって測定される平均粒子サイズは、約500nm未満、典型的には約300nm未満である。
【0071】
(ポリマー分散された白色顔料分散物)
着色された顔料において記載されている1つ以上の分散剤も、二酸化チタンを安定化するために使用される。一般に、安定化されたTiO顔料を濃縮スラリーの形態で作製することが望ましい。TiOスラリーは、一般に、攪拌されている混合容器内で行われ、高速分散機(HSD)が混合工程に特に適している。HSDに取り付けられた、500rpm~4000rpm、より典型的には2000rpm~3500rpmで作動するCowels型のブレードは、所望の混合を実現するために最適なせん断を提供する。十分な混合は、通常、上記の条件下で15~600分間にわたって混合した後に達成される。スラリー組成物中に存在する二酸化チタンの量は、好ましくは、スラリーの総重量に基づいて約35重量%~約80重量%、より好ましくはスラリーの総重量に基づいて約50重量%~約75重量%である。二酸化チタンは、好ましくは、50~500nmの範囲、より好ましくは150~350nmの範囲である50%の平均粒子サイズ(以下では「D50」と呼ぶ)を有する。これらの範囲内のD50を有する二酸化チタンは、印刷されたフィルムが画像の十分な不透明度を示すことを可能にし、これは、高品質の画像の形成を可能にする。
【0072】
着色顔料の場合、インクは、インクの総重量に基づいて約30重量%まで、好ましくは約0.1~約25重量%、より好ましくは約0.25~約10重量%の顔料を含有し得る。TiO2顔料などの無機顔料が選択される場合、インクは、着色顔料を使用する同等のインクよりも高い重量パーセントの顔料を含有する傾向があり、無機顔料は、一般に、有機顔料よりも比重が高いため、場合により約75%にもなることがある。
【0073】
(顔料分散物の形成後のポリマー分散剤の後改質)
顔料を分散させるポリマー分散剤は、それがインクジェットインクに含まれる前に、顔料分散物が調製されて架橋された顔料分散物を形成した後、架橋され得る。架橋性ポリマー分散剤は、アセトアセトキシ、酸、アミン、エポキシ、ヒドロキシル、ブロックイソシアネートおよびこれらの混合物からなる群から選択される架橋性部位で置換されたポリマーである。架橋剤は、アセトアセトキシ、酸、アミン、無水物、エポキシ、ヒドロキシル、イソシアネート、ブロックイソシアネートおよびこれらの混合物からなる群から選択される。架橋工程では、顔料を分散させた後、顔料分散物に架橋剤を加えて、混合物を高温で数時間加熱することにより架橋が行われる。架橋工程後、限外濾過などの精製プロセスにより過剰のポリマーを除去することができる。架橋部位/架橋剤の対の具体的な例は、ヒドロキシル/イソシアネートおよび酸/エポキシである。
【0074】
(インクポリマーバインダー)
CMYKWインクのためのインクバインダーは、インク配合物に加えられるポリマー化合物またはポリマー化合物の混合物である。バインダーは、例えば、印刷された材料により大きい耐久性を与えるなど、印刷された材料に特性を付与することができる。インクジェットインクにおけるバインダーとして使用される典型的なポリマーとしては、ポリウレタン分散物、アクリル、スチレンアクリル、スチレンブタジエン、スチレンブタジエンアクリロニトリル、ネオプレン、エチレンアクリル酸、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、ラテックスなどが挙げられる。バインダーは、カルボン酸、硫黄含有酸、アミン基、および他の類似のイオン性基などのイオン性置換基を有することによってエマルジョンとして安定化され得る。代わりに、バインダーは、外的な界面活性剤により安定化され得る。バインダーは、単独でまたは他のバインダーと組み合わせて使用することができる。典型的には、バインダーは、ポリウレタンおよびアクリルである。バインダーは、典型的には、インクの総重量に基づいて少なくとも0.2重量%の量でインク中に存在する。インクバインダーポリマーの例には、Mitsui Chemicals(東京、日本)のTakelac(登録商標)WS5100、Takelac(登録商標)WS4022、Takelac(登録商標)W5030、XW-Um601、およびXW-Um602Aなどのポリウレタンポリマー、BASF(Ludwigshafen、ドイツ)のJoncryl(登録商標)FLX5000-A、Joncryl(登録商標)FLX5220、およびJoncryl(登録商標)FLX5026Aなどのアクリルポリマーが含まれる。
【0075】
典型的には、バインダーは、前述のポリマー分散剤と異なり、着色剤に非反応性である。バインダーは、典型的には、顔料分散物の調製中ではなく、最終配合段階中にインクに加えられる。バインダーは、典型的には、インクの総重量に基づいて少なくとも0.2重量%の量でインクに存在する。この量は、1~15重量%であってよい。
【0076】
(インクビヒクル)
本開示の顔料系インクは、インクビヒクル、典型的には水性担体媒体としても知られる水性インクビヒクルと、任意選択的な他の成分とを含む。
【0077】
インクビヒクルは、水性分散物および任意選択の添加剤のための液体担体(または媒体)である。「水性インクビヒクル」という用語は、水または水と、共溶媒若しくは保湿剤と一般に言われる1つ以上の有機の水溶性ビヒクル成分との混合物からなるインクビヒクルを指す。適切な混合物の選択は、所望の表面張力および粘度、選択される顔料、顔料系インクジェットインクの乾燥時間並びにインクがそれに対して印刷される媒体の種類など、具体的な用途の要件に依存する。
【0078】
水溶性有機溶媒および保湿剤の例としては、アルコール、ケトン、ケト-アルコール、エーテルおよびその他、例えばチオジグリコール、スルホラン、2-ピロリジン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンおよびカプロラクタムなど、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコールおよびヘキシレングリコールなどのグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのオキシエチレンまたはオキシプロピレンの付加ポリマー、グリセロールおよび1,2,6-ヘキサントリオールなどのトリオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル、ジエチレングリコールジメチルまたはジエチルエーテルなどの多価アルコールの低級ジアルキルエーテル、尿素および置換された尿素が挙げられる。
【0079】
水と、ジエチレングリコールなどの多価アルコールとの混合物が水性インクビヒクルとして典型的である。水とジエチレングリコールとの混合物の場合、インクビヒクルは、通常、30%の水および70%のジエチレングリコールから95%の水および5%のジエチレングリコールまで、より典型的には60%の水および40%のジエチレングリコールから95%の水および5%のジエチレングリコールまでを含有する。パーセントは、インクビヒクルの総重量を基準とする。水とブチルカルビトールとの混合物も効果的なインクビヒクルである。
【0080】
インクのインクビヒクルの量は、典型的には、インクの総重量に基づいて約70重量%~約99.8重量%、より典型的には約80重量%~約99.8重量%の範囲にある。
【0081】
インクビヒクルは、グリコールエーテルおよび1,2-アルカンジオールなどの溶媒を含むことにより、速乾性にすることができる。グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-イソ-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-イソ-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-イソ-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテルおよびジプロピレングリコールモノ-イソプロピルエーテルが挙げられる。典型的な1,2-アルカンジオールは、C~Cアルカンジオールであり、1,2-ヘキサンジオールが最も典型的である。加えられるグリコールエーテルおよび1,2-アルカンジオールの量は、典型的には、インクの総重量に基づいて約1重量%~約15重量%、より典型的には約2重量%~約10重量%の範囲にある。
【0082】
通常、界面活性剤は、表面張力および湿潤特性を調整するためにインクに加えられる。適切な界面活性剤には、エトキシル化アセチレンジオール(例えば、Evonikから市販されているSurfynol(登録商標)シリーズ)、エトキシル化アルキル1級アルコール(例えば、Shellから市販されているNeodol(登録商標)シリーズ)および2級アルコール(例えば、Dow Chemicalから市販されているTergitol(登録商標)シリーズ)、スルホスクシネート(例えば、Cytecから市販されているAerosol(登録商標)シリーズ)、有機シリコーン(例えば、Evonikから市販されているDYNOL(商標)シリーズ)およびフルオロ界面活性剤(例えば、Chemoursから市販されているCAPSTONE(商標)シリーズ)が含まれる。典型的には、界面活性剤は、インクの総重量に基づいて約3重量%までの量、より典型的には1重量%までの量で使用される。
【0083】
他の成分、添加剤は、こうした他の成分がインクジェットインクの安定性および噴射性を妨げない程度でインクジェットインクに配合され得る。これは、当業者により、日常の実験によって容易に決定され得る。
【0084】
エチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン-ジ(o-ヒドロキシフェニル酢酸)、ニトリロトリ酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、トランス-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N”,N”-五酢酸およびグリコレテルジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸並びにこれらの塩などの封止(またはキレート)剤を含むことは、例えば、重金属不純物の有害作用を除去するために有益であり得る。
【0085】
微生物の増殖を阻害するために殺生物剤が使用され得る。
【0086】
(インク特性)
噴射速度、液滴の分離長さ、液滴サイズ、および流れ安定性は、インクの表面張力および粘度に非常に影響を受ける。典型的には、顔料系インクジェットインクは、25℃で約20ダイン/cm~約45ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。粘度は、25℃で30cPと高い場合があるが、典型的にはかなりより低く、より典型的には25℃で10cP未満である。インクは、広範囲の放出条件、即ちピエゾ素子の駆動周波数またはドロップオンデマンド型デバイス若しくは連続デバイスにおけるサーマルヘッドの放出条件並びにノズルの形状およびサイズと適合する物理的特性を有する。インクは、インクジェット装置においてかなりの程度詰まらないように長期間にわたり優れた貯蔵安定性を有さなければならない。更に、インクは、接触するインクジェット印刷装置のパーツを腐食してはならず、且つ基本的に無臭および無毒性でなければならない。インクの好ましいpHは、約6.5~約8.5の範囲である。
【実施例0087】
本発明を以下の実施例により更に例示するが、本発明は、これらに限定されず、特に注釈しない限り、部およびパーセントは、重量基準である。
【0088】
成分および略語
DMPA=ジメチロールプロピオン酸
EDA=エチレンジアミン
IPDI=イソホロンジイソシアネート
TEA=トリエチルアミン
DETA=ジエチレントリアミン
MEK=メチルエチルケトン
TMP=トリメチロールプロパン
DMEA=ジメチルエタノールアミン
CHDM=1,4-シクロヘキサンジメタノール
DBTL=ジブチルスズジラウレート
GLYEO=(3-グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン。
【0089】
特に明記しない限り、上述の化学物質は、Aldrich(Milwaukee, WI)または他の同様の研究用薬品の供給業者から入手した。
Terathane(登録商標)T650-Invista(Wilmington, DE)のポリエーテルポリオール
Surfynol(登録商標)440および420-Evonik(Essen、ドイツ)の非イオン性界面活性剤
Dynol(商標)980-Evonik(Essen、ドイツ)のシリコーン界面活性剤
NIPex(登録商標)160 IQ-Orion Engineered Carbons(Kingwood, TX)のカーボンブラック顔料
SNOWTEX(登録商標)ST-XS-Nissan Chemical America(Houston, TX)の平均PSが4~6nmのアニオン電荷の水酸化ナトリウムで中和されたナノシリカ分散物
Levasil(登録商標)CC151(PS=5nm)、CC301(PS=12nm)-Nouryon(アムステルダム、オランダ)のエポキシシランで改質されたシリカ分散液。
【0090】
(エポキシシラン改質シリカ粒子の調製)
シリカ粒子のエポキシシラン改質は2段階プロセスで行った。エポキシシランとしてGLYEOを使用した。水酸化ナトリウムで中和された20%水分散液として供給される4~6nmの平均粒子サイズのSNOWTEX(登録商標)ST-XSが出発シリカ粒子であった。等量のGLYEOとDI水とを1時間混合することによって、50%の予め加水分解したGLYEO水溶液を最初に調製した。続いて、50%の予め加水分解したGLYEO水溶液をST-XS粒子分散液に5分間かけてゆっくりと添加することによって、シラン表面改質を行った。シランとシリカ粒子とを完全に確実に反応させるために、60℃に設定したオーブンで混合物を更に12時間熟成させた。異なるシラン化度を有する3つの改質シリカ分散液を、以下の表1に示す通りに調製した。SNOWTEX(登録商標)ST-XSのシリカ粒子が球形であり、5nmの直径を有し、545g/mのSSAを有し、表面積1平方nmあたり4.6個のシラノール基を有すると仮定して、シラン化度を見積もった。
【0091】
【表1】
【0092】
(黒色顔料分散液の調製-K分散液)
黒色分散液は、その開示が完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる(特許文献16)に開示されている手順を用いて調製した。カーボンブラック顔料であるNIPex160を使用し、顔料を分散した後に分散剤を架橋した。
【0093】
(インクバインダーの調製-PUバインダー)
添加漏斗と、冷却器と、攪拌機と、窒素ガスラインとを備えた乾燥したアルカリおよび酸を含まないフラスコに、15.8gのCHDM、104.7gのTerathane T650、4.0gのTMP、および118gのアセトンを加えた。内容物を40℃に加熱し、完全に混合した。次いで、120gのIPDIを、40℃で5分間にわたり添加漏斗を介してフラスコに加え、残りのIPDIを、添加漏斗から2gのアセトンでフラスコにすすいだ。
【0094】
フラスコ温度を50℃に上げ、240分間にわたって保持した後、15.8gのDMPA、次いで11gのTEAを添加し、その後これを2gのアセトンですすぎ洗いした。次いで、フラスコ温度を再び50℃に上げ、NCO%が2.0%以下になるまで50℃で保持した。
【0095】
50℃の温度で、570gの脱イオン(DI)水を10分かけて加え、続いて38gのEDA水溶液(水中の10%溶液として)を、添加漏斗を介して5分かけて加えた。混合物を50℃で1時間保持し、次いで室温に冷却した。
【0096】
アセトン(約122.0g)を真空下で除去し、約30.0重量%固形分のポリウレタンの最終分散液を得た。
【0097】
(インク配合物)
実施例で使用したインクは、インクジェット技術分野における標準的な手順に従って作製した。成分量は、最終的なインクの重量%である。ポリマーバインダーと添加剤は固形分基準で見積もった。顔料分散物は顔料基準で見積もった。インク調製の例として、インクビヒクルを調製し、撹拌しながら水性インクバインダーに添加した。均一な混合物が得られるまで撹拌した後、溶液を顔料分散物に加え、再び均一になるまで混合した。最終ステップは、シリカ分散液またはシラン化シリカ分散液を上記混合物に添加し、均一になるまで混合することであった。シリカまたは改質シリカ分散液を添加する前の全てのインクの組成は、表2に示す通りに一定に保持した。
【0098】
【表2】
【0099】
(プリントヘッドの適合性評価およびインクの安定性評価)
Si-MEM技術を用いて構成されたプリントヘッドは、水性インクジェットインクに対して特に脆弱である。プリントヘッドとインクの適合性を評価するために、プリントヘッドクーポンを45℃のインクに長時間浸した後、プリントヘッドクーポンの非湿潤コーティングに対するインクの腐食の影響を試験した。非湿潤コーティングが施されたシリコンMEMを有する2cm×4cmのサイズのSamba(登録商標)G3Lプリントヘッドクーポンは、FUJI FILM Diamatix Inc.(Santa Clara, CA)から供給された。試験中、プリントヘッドクーポンは密閉されたプラスチック容器内の40mlのインクに浸漬し、45℃で保管した。プリントヘッドクーポンの片面には非湿潤疎水性コーティングが施されていた。非湿潤コーティング面の水接触角を、インク浸漬前に測定し、その後2週間ごとに合計8週間測定した。非湿潤コーティングがひどく損傷したことを示す90℃未満の水接触角になった時点で、試験を終了した。接触角測定のためにプリントヘッドクーポンをインク槽から取り出すたびに、イソプロピルアルコールですすぎ、リントフリーワイプで吸い取り乾燥した。水接触角が90℃未満の場合には、プリントヘッドの非湿潤コーティングに対するインクの腐食は許容できず、インクはSi-MEMプリントヘッドと適合性がないとみなされた。
【0100】
インクの長期保存安定性は、70℃で2週間保管した後のインクの物理的特性を測定することによる加速エージング試験を用いて評価した。エージング後の粘度および粒子サイズの変化が20%を超えた場合、インクは室温で6~12か月を超える保管には不安定であるとみなした。
【0101】
プリントヘッド適合性の結果を以下の表3に示す。本発明のインク1、2、および3には、表2に定義したものと同じインク組成物にそれぞれ0.2%のシラン化シリカ粒子SA、SB、およびSCを添加したものが含まれていた。本発明のインク4は、平均粒子サイズが約12nmのNouryon(アムステルダム、オランダ)のエポキシシラン改質ナノシリカ分散物であるLevasil CC301を0.5%含んでいた。比較のインク1は、添加剤を含まない表2に規定されているインク組成物を含んでいた。比較のインク2は、Nissan Chemical America(Houston, TX)からの、平均PSが4~6nmの、アニオン電荷の水酸化ナトリウムで中和されたナノシリカ粒子であるSNOWTEX(登録商標)ST-XSを0.2%含んでいた。以下の表3に示されているように、添加剤を何も含まない比較のインク1にプリントヘッドクーポンを浸漬した後、その水接触角はわずか2週間後に78°にまで減少した。本発明のインク1、2、3、および4は、シラン化シリカ粒子を含んでいた。インク1、2、および4は、大幅に改善されたプリントヘッドの適合性を示し、8週間の浸漬試験後もプリントヘッドのクーポンがエッチングされなかった。本発明のインク3は、非湿潤コーティングの腐食を防止することにより、許容可能なプリントヘッド適合性を示した。Snowtex粒子を含む比較のインク2はプリントヘッド適合性試験に合格したものの、表4に示すようにインク安定性試験には不合格であった。一方で、本発明のインク4はインク安定性試験に合格した。更に、Levasil CC301が1%および2%と多く配合されたインク5および6は、インク安定性試験に合格した。
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【外国語明細書】