(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004759
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】複合型不織布の製造方法及び複合型不織布の製造装置
(51)【国際特許分類】
D04H 5/03 20120101AFI20240110BHJP
【FI】
D04H5/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104568
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】大篭 幸治
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AB04
4L047AB06
4L047BA04
4L047BA08
4L047CA02
4L047EA03
4L047EA19
(57)【要約】
【課題】パルプを含有する複合型不織布の製造において、エアレイド方式を採用しても、紙力剤の定着を均一化し、歩留りを確保して、効率よく、強度を発現する複合型不織布を製造できる製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】スパンボンド不織布SW上に、エアレイド装置2によって供給されるパルプ繊維ウェブPFWを載置した後、水流交絡装置5により水流交絡処理を施して複合型不織布WPを製造する、複合型不織布WPの製造方法であって、水流交絡処理の後に、脱水処理を行って複合型不織布の水分量を調整した後、複合型不織布WPに湿潤紙力剤を添加することを特徴とする、製造方法及び製造装置1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンボンド不織布上に、エアレイド装置によって供給されるパルプ繊維ウェブを載置した後、水流交絡装置により水流交絡処理を施して複合型不織布を製造する、複合型不織布の製造方法であって、
前記水流交絡処理の後に、脱水処理を行って前記複合型不織布の水分量を調整した後、前記複合型不織布に湿潤紙力剤を添加することを特徴とする、複合型不織布の製造方法。
【請求項2】
前記パルプ繊維ウェブの坪量が50g/m2以上75g/m2以下であり、
前記湿潤紙力剤は、スプレー噴霧によって前記パルプ繊維ウェブに添加率2.5%以下で添加され、
前記湿潤紙力剤を添加する際の前記パルプ繊維ウェブの搬送速度が、120m/min以上230m/min以下であることを特徴とする、請求項1に記載の複合型不織布の製造方法。
【請求項3】
前記複合型不織布を下側から脱水処理する脱水装置の下流において、前記スプレー噴霧によって前記湿潤紙力剤を含む薬液を添加する添加装置が備えられることを特徴とする、請求項2に記載の複合型不織布の製造方法。
【請求項4】
前記スプレー噴霧において、前記湿潤紙力剤を含む薬液を2回に分割して噴霧することを特徴とする、請求項2に記載の複合型不織布の製造方法。
【請求項5】
前記スプレー噴霧において、薬液中の前記湿潤紙力剤の濃度が0.1%以上2.5%以下であり、吐出圧力が0.1MPa以上1.0MPa以下であることを特徴とする、請求項2に記載の複合型不織布の製造方法。
【請求項6】
前記複合型不織布のパルプ繊維ウェブ中における、前記湿潤紙力剤の定着率が70%以上であることを特徴とする、請求項2に記載の複合型不織布の製造方法。
【請求項7】
スパンボンド不織布上に、エアレイド装置によって供給されるパルプ繊維ウェブを載置した後、水流交絡装置により水流交絡処理を施して複合型不織布を製造する、複合型不織布の製造装置であって、
前記水流交絡装置の下流に、前記複合型不織布を下側から脱水処理する脱水装置が備えられるとともに、前記脱水装置の下流には、前記複合型不織布の前記パルプ繊維ウェブに湿潤紙力剤を添加する、添加装置が備えられ、前記水流交絡装置が備えられる場所と前記脱水装置及び前記添加装置が備えられる場所とがそれぞれ独立していることを特徴とする、複合型不織布の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ繊維ウェブ及びスパンボンド不織布を含む複合型不織布の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パルプ繊維のみからなる紙製品(シート)や、合成繊維のみからなる不織布製品とは別に、パルプ繊維シートと合成(長)繊維不織布を水流交絡させることにより得られる複合型不織布の製品が市場で販売されている。
【0003】
パルプ繊維シートと長繊維不織布を交絡させて得られる複合型不織布の製造において、パルプ繊維シートに湿式シートを用いる場合は、パルプ湿式シートの製造(抄紙)時に紙力剤等の添加剤を付与することが行われる。
【0004】
一方で、パルプ繊維ウェブ(シート)の形成に乾式(エアレイド方式)を使用する場合には、パルプ繊維に薬品を均一に付与することは難しいことから、風合い、柔軟性、強度などの機能性を付与する場合は、ウォータージェット(水流交絡)後に薬液等を付与することとなる。
【0005】
ウォータージェットにより、パルプ繊維が長繊維の間に入り込み、両繊維の交絡した構造形成が行われるため、その後に薬液を付与することで、形成された複合繊維の構造に対して薬液を付与することが可能となる。
【0006】
複合型不織布に関する先行技術文献として、例えば、特許文献1には、水圧により交絡されたパルプ含有率の高い不織複合布であって、約30重量パーセント以下の不織連続フィラメント支持体と、パルプからなり、約70重量パーセント以上の繊維部分と、を含むことを特徴とする不織複合布が開示されている。また、不織複合布の製造方法として、パルプ繊維の層を、ボンド密度が約100ピンボンド位置/平方インチで合計ボンド面積が約30パーセント以下の不織連続フィラメント支持体の上に重ね合わせて、各層を水圧によって絡め合わせて複合素材を形成し、この複合素材を乾燥することを特徴とする旨も記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、エアレイド方式で得られたパルプ繊維ウェブがスパンボンド不織布上に積層されて一体化されている複合型不織布であって、パルプ繊維ウェブが紙力剤及び両性樹脂を含有し、パルプ繊維ウェブの固形重量に対して、紙力剤の固形分で換算した添加量が0.04~1.0%、かつ、両性樹脂の固形分で換算した添加量が0.06~1.5%である、ことを特徴とする複合型不織布が開示されている。また、複合型不織布の製造装置として、水流交絡装置の下流側にはパルプ繊維ウェブに残留する水分を吸引除去する脱水処理、その後に乾燥処理を行って、複合型不織布の製造を完了するためのサクション装置及び乾燥装置が配備され、サクション装置は、例えばバキューム式で水流交絡後の複合型不織布を下側から脱水し、搬送される複合型不織布を間にして、サクション装置の上方には、紙力剤添加装置が配設されている旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2533260号公報
【特許文献2】特開2021-130888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2における薬液付与(噴霧)処理においては、同時にウォータージェット工程で加えられた水分を吸引するサクション(吸引)装置等の脱水設備が設けられている。サクションにより余分な水分が除去され、それにより添加薬液が構造内部に浸透することを促進するが、紙力剤を噴霧する場合は、合成繊維層に達した紙力剤の脱離が問題となる。そこで、特に紙力剤の歩留り効率を改善する工夫が必要となる。
【0010】
よって、本発明の目的は、パルプを含有する複合型不織布の製造において、エアレイド方式を採用しても、紙力剤の定着を均一化し、歩留りを確保して、効率よく、強度を発現する複合型不織布を製造できる製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は鋭意検討を行い、スパンボンド不織布上に、エアレイド装置によって供給されるパルプ繊維ウェブを載置した後、水流交絡装置により水流交絡処理を施して複合型不織布を製造する、複合型不織布の製造方法及び製造装置において、水流交絡処理の後に、脱水処理を行って複合型不織布の水分量を調整した後、複合型不織布に湿潤紙力剤を添加することで、エアレイド方式を採用しても、紙力剤の定着を均一化し、歩留りを確保して、効率よく、強度を発現する複合型不織布とすることができ、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0012】
(1)本発明の第1の態様は、スパンボンド不織布上に、エアレイド装置によって供給されるパルプ繊維ウェブを載置した後、水流交絡装置により水流交絡処理を施して複合型不織布を製造する、複合型不織布の製造方法であって、前記水流交絡処理の後に、脱水処理を行って前記複合型不織布の水分量を調整した後、前記複合型不織布に湿潤紙力剤を添加することを特徴とする、複合型不織布の製造方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載の複合型不織布の製造方法であって、前記パルプ繊維ウェブの坪量が50g/m2以上75g/m2以下であり、前記湿潤紙力剤は、スプレー噴霧によって前記パルプ繊維ウェブに添加率2.5%以下で添加され、前記湿潤紙力剤を添加する際の前記パルプ繊維ウェブの搬送速度が、120m/min以上230m/min以下であることを特徴とするものである。
【0014】
(3)本発明の第3の態様は、(2)に記載の複合型不織布の製造方法であって、前記複合型不織布を下側から脱水処理する脱水装置の下流において、前記スプレー噴霧によって前記湿潤紙力剤を含む薬液を添加する添加装置が備えられることを特徴とするものである。
【0015】
(4)本発明の第4の態様は、(2)に記載の複合型不織布の製造方法であって、前記スプレー噴霧において、前記湿潤紙力剤を含む薬液を2回に分割して噴霧することを特徴とするものである。
【0016】
(5)本発明の第5の態様は、(2)に記載の複合型不織布の製造方法であって、前記スプレー噴霧において、薬液中の前記湿潤紙力剤の濃度が0.1%以上2.5%以下であり、吐出圧力が0.1MPa以上1.0MPa以下であることを特徴とするものである。
【0017】
(6)本発明の第6の態様は、(2)に記載の複合型不織布の製造方法であって、前記複合型不織布のパルプ繊維ウェブ中における、前記湿潤紙力剤の定着率が70%以上であることを特徴とするものである。
【0018】
(7)本発明の第7の態様は、スパンボンド不織布上に、エアレイド装置によって供給されるパルプ繊維ウェブを載置した後、水流交絡装置により水流交絡処理を施して複合型不織布を製造する、複合型不織布の製造装置であって、前記水流交絡装置の下流に、前記複合型不織布を下側から脱水処理する脱水装置が備えられるとともに、前記脱水装置の下流には、前記複合型不織布の前記パルプ繊維ウェブに湿潤紙力剤を添加する、添加装置が備えられ、前記水流交絡装置が備えられる場所と前記脱水装置及び前記添加装置が備えられる場所とがそれぞれ独立していることを特徴とする、複合型不織布の製造装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、パルプを含有する複合型不織布の製造において、エアレイド方式を採用しても、紙力剤の定着を均一化し、歩留りを確保して、効率よく、強度を発現する複合型不織布を製造できる製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る複合型不織布の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0022】
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
また、複合型不織布におけるMD方向とは、複合型不織布の製造時における搬送方向(Machine Direction)であり、CD方向とは、搬送方向に対して垂直な幅方向(Cross Direction)である。
【0023】
本発明の一実施形態に係る複合型不織布の製造方法及び製造装置は、スパンボンド不織布上に、エアレイド装置によって供給されるパルプ繊維ウェブを載置した後、水流交絡装置により水流交絡処理を施して複合型不織布を製造する、製造方法及び製造装置である。
以下、本発明に係る複合型不織布を製造するのに好適な製造装置及び製造装置を用いた複合型不織布の製造方法を、
図1を参照して説明する。
【0024】
<複合型不織布の製造装置>
本実施形態に係る複合型不織布WPの製造装置(以下、単に製造装置とも称する)1は
図1に示すように、上流側にパルプ繊維ウェブPFWを供給するためのエアレイド装置2、スパンボンド不織布SWを供給するスパンボンド不織布供給装置3、そして脱水処理するサクション装置(脱水装置とも称する)4が備えられる。サクション装置4はエアレイド装置2の下側に対向するように備えられる。
ウェブの搬送方向MDで、これらの装置2、3、4より下流には、上流側から順に、水流交絡処理を行うためのウォータージェットを噴射する水流交絡装置5、脱水処理を行うためのサクション装置6、乾燥装置7が備えられる。上記乾燥装置7の下流には連続して製造される複合型不織布WPを巻き取るための巻取装置8が備えられる。
【0025】
(積層工程)
上記エアレイド装置2は、繊維同士が密集しシート状となっている原料パルプRPをパルプ繊維PFに解繊する解繊機21や、送風機(図示しない)を備えて解繊されたパルプ繊維PFをエアレイドホッパ23へと搬送するダクト22を有している。
【0026】
また、上記ダクト22よりも下流側にはエアレイドホッパ23が配置されている。このエアレイドホッパ23の内部では、解繊状態にあるパルプ繊維PFが分散しながら降下し、下面に配置した積層位置24に徐々に積み上りパルプ繊維ウェブPFWが形成されるように設計してある。
上記のように、エアレイド装置2は乾式でパルプ繊維ウェブPFWを供給できる装置設備であり、湿式抄紙法を応用し湿式でパルプ繊維ウェブを製造する装置よりも設備コストを抑制できる。また、エアレイド装置2ではパルプの解繊から分散、降下まで閉鎖系空間となっており異物の混入が防止されているので、湿式抄紙法でパルプ繊維ウェブを供給する場合と比較して、異物の混入を圧倒的に低く抑えることができる。
【0027】
上記積層位置24の下側にはサクション装置4が対向配備してある。より詳細には、サクション装置4はサクション装置本体41の上面にサクション部42を有しており、サクション部42が上記パルプ繊維ウェブPFWに吸引力(負圧)を作用させるべく積層位置24に対して設定してある。
なお、
図1では、エアレイドホッパ23とサクション装置本体41とを1つずつ一段での配置として、パルプ繊維ウェブPFWを形成する場合を例示している。しかし、これに限らず、上記パルプ繊維ウェブPFWの目付(坪量)や製造速度に応じて、上記エアレイドホッパ23とサクション装置本体41を2つ以上の多段とする配置に変更してもよい。
【0028】
また、サクション装置4の周囲にはウェブ搬送用の搬送ワイヤ43が配設してある。搬送ワイヤ43は、積層位置24においてパルプ繊維PFが堆積したパルプ繊維ウェブPFWが載置可能で、これを下流側に搬送するように配置されている。ただし、パルプ繊維ウェブPFWは直接、搬送ワイヤ43上に載置されない。これについては後述する。
搬送ワイヤ43はサクション部42の吸引力が、反対側(上側)に及ぶような目開き形態(メッシュ)で形成されている。
【0029】
上記エアレイド装置2の下側で、サクション装置4よりも上流側に、スパンボンド不織布供給装置3が配置してある。このスパンボンド不織布供給装置3には、あらかじめ準備されたスパンボンド不織布SWがロール状とされてセットされている。すなわち、前述したように、設計されたスパンボンド不織布SWが製造に伴って巻き取られてロール状とされており、これがスパンボンド不織布供給装置3から引出され、上述した搬送ワイヤ43に乗って上記積層位置24へと搬送されるようになっている。
【0030】
このようにして、積層位置24に位置したスパンボンド不織布SWの上に、前述したパルプ繊維ウェブPFWが載置される。その際に、積層位置24ではサクション装置4のサクション部42による吸引力が搬送ワイヤ43を通過し、その上のスパンボンド不織布SW及びパルプ繊維ウェブPFWに作用する。よって、スパンボンド不織布SWとパルプ繊維ウェブPFWとが積層された状態となっている予備的積層体PWeb(積層ウェブ)が下流側へと搬送される。
【0031】
上記のように予備的積層体PWebが形成されるときに、スパンボンド不織布SW上へのパルプ繊維ウェブPFWの供給量を制御することで、本装置で製造される複合型不織布WPに含まれるパルプ繊維ウェブPFWの坪量を制御することができる。複合型不織布WPに含まれるパルプ繊維ウェブPFWの坪量は、従来の一般的な複合型不織布よりもパルプ繊維ウェブPFWの比率が高くなるように設計するのが好ましく、例えば50g/m2以上75g/m2以下であることが好ましく、54g/m2以上73g/m2以下であることがより好ましい。パルプ繊維ウェブPFWの坪量を上記の数値範囲内とすることにより、強度を発現する複合型不織布WPとすることができる。
そして、スパンボンド不織布SWの坪量は、例えば8.0g/m2以上20.0g/m2以下であることが好ましく、製造される複合型不織布WP(スパンボンド不織布SW+パルプ繊維ウェブPFW)の坪量は、例えば58.0g/m2以上95.0g/m2以下であることが好ましく、65.0g/m2以上90.0g/m2以下であることがより好ましい。なお、各坪量はいずれもJIS P 8124に従い測定する。
また、パルプ繊維ウェブPFWの搬送速度やパルプ繊維ウェブPFWの時間当たりの供給量などを適宜に調整し、製造された複合型不織布WPのパルプ繊維ウェブPFWの坪量を確認することで、坪量が所望の範囲となるように設定すればよい。パルプ繊維ウェブPFWの搬送速度は、例えば後述する湿潤紙力剤を添加する際の搬送速度と同じ120m/min以上230m/min以下であることが好ましい。
【0032】
(水流交絡工程)
そして、水流交絡装置5では、前処理部となるエアレイド装置2の処理を受けた予備的積層体PWebに、高圧のウォータージェットを吹き付けることによりパルプ繊維同士の交絡を促進し、かつ、上側に位置するパルプ繊維ウェブPFW層と下側に位置するスパンボンド不織布SW層との一体化が促進される(水流交絡処理)。
図1で例示的に示している水流交絡装置5は、搬送方向MDに沿って多段(
図1では4段)にウォータージェットヘッド51が配置されている。
【0033】
なお、
図1では、搬送方向MDに対して直角な方向(ウェブの幅方向CD)において延在しているウォータージェットヘッド51に設けたノズルの様子は図示していないが、幅方向CDにおいて複数のウォータージェットノズルが適宜の位置に配置してある。このウォータージェットノズルの穴直径φは、好ましくは0.06mm以上0.15mm以下である。また、ウォータージェットノズルの間隔は0.4mm以上1.0mm以下とするのが好ましい。
上記水流交絡処理をする際の水圧は、パルプ繊維ウェブPFWとスパンボンド不織布SWとの坪量を勘案して設定するのが望ましく、例えば、1MPa以上30MPa以下の範囲において選択するのが好ましい。
【0034】
そして、上記ウォータージェットヘッド51と対向するように、サクション装置52が配設してある。ウォータージェットヘッド51から出る高圧のウォータージェットを上側に位置しているパルプ繊維ウェブPFWに吹き付けつつ、下側に位置しているスパンボンド不織布SWの下側にサクション装置52の吸引力を作用させる。
ウォータージェットヘッド51とサクション装置52との協働作用によって、パルプ繊維ウェブPFW側のパルプ繊維PFが下側のスパンボンド不織布SWに入り込んだ状態や、スパンボンド不織布SWを貫通して反対側にまで至った状態などが形成されると推定される。その作用により、2つの層の一体化が促進される。
【0035】
水流交絡装置5にも、搬送ワイヤ55が配設してある。搬送ワイヤ55はエアレイド装置2の下流で予備的積層体PWebを受けて、水流交絡装置5内へと搬送する。搬送ワイヤ55は水流交絡装置5のウォータージェットヘッド51とサクション装置52との間を、上流側から下流に向かって通過するように配設されている。
よって、搬送ワイヤ55上を搬送される予備的積層体PWebは、搬送方向MDで下流に向かう程に、より多くの水流交絡処理を受けることになり、水流交絡装置5を出るときには上側のパルプ繊維ウェブPFW層と下側のスパンボンド不織布SW層との十分な交絡処理が実現される。
【0036】
(紙力剤添加工程)
水流交絡装置5を出た直後の複合型不織布WPにあっては、湿潤状態にあり、パルプ繊維同士などの結合は十分に確立されてはいない。
そこで、
図1で示すように、水流交絡装置5の下流側にはパルプ繊維ウェブPFWに残留する水分を吸引除去する脱水処理、その後に乾燥処理を行って、複合型不織布WPの製造を完了するためのサクション装置6及び乾燥装置7が配備してある。このように複合型不織布WPの製造の後段で、サクション装置6及び乾燥装置7による脱水処理、乾燥処理を行うと効率よく複合型不織布WPを製造でき、また、製造される水流交絡後の複合型不織布WPに大きな外圧を掛けることなく乾燥した複合型不織布WPを製造できる。
しかしながら、先に指摘したように、複合型不織布WP上のパルプ繊維ウェブPFWから離脱するパルプ繊維PFを確実に抑止できる複合型不織布WPとする必要がある。そのため、本製造装置1には、パルプ繊維PFの脱落を抑止するために、(湿潤)紙力剤を添加するための添加装置9が配置されている。
【0037】
サクション装置6は、例えばバキューム式で水流交絡後の複合型不織布WPを下側から脱水する。そして、サクション装置6の更に下流には、紙力剤添加装置(以下、添加装置とも称する)9が備えられる。なお、製造の効率化のために、水流交絡装置5が備えられる場所とサクション装置6及び添加装置9が備えられる場所とがそれぞれ独立していることが好ましい。
このように、サクション装置6の下流に添加装置9が備えられる、すなわち、水流交絡処理の後に、脱水処理を行って複合型不織布WPの水分量を調整した後、複合型不織布WPに湿潤紙力剤を添加することにより、紙力剤の定着を均一化し、複合型不織布WPの歩留まりを確保することができる。また、効率よく、強度を発現する複合型不織布WPとすることもできる。なお、サクション装置6は2つ備えられていてもよく、又はそれ以上の多段であってもよい。
【0038】
このとき、添加する湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン系(PAE)、ポリアクリルアミド系(PAM)、ポリアミドエポキシ系及びポリアミドポリアミン系よりなる群から選択した少なくとも1つを用いることが好ましく、ポリアミドエピクロロヒドリン系のものを用いるのがより好ましい。ポリアミドエピクロロヒドリン系の湿潤紙力剤としては、例えば星光PMC社製の紙力剤WS4030、WS4038、WS4027等を用いることができる。
また、湿潤紙力剤を含む薬液は、
図1に示すように、添加装置9のスプレー噴霧によってパルプ繊維ウェブPFWに添加される(噴霧される)ことが好ましい。湿潤紙力剤を含む薬液をスプレー噴霧でパルプ繊維ウェブPFWに添加することにより、なお、このときの複合型不織布WPにおけるパルプ繊維ウェブPFWの水分率は、湿潤紙力剤の定着の均一化のために、70%以上300%以下であることが好ましい。
【0039】
さらに、湿潤紙力剤は(対パルプ繊維ウェブPFWにおいて)添加率2.5%以下で添加されることが好ましく、また、湿潤紙力剤を添加する際のパルプ繊維ウェブPFWの搬送速度が、120m/min以上230m/min以下であることが好ましい。
添加率が2.5%を超えると、スプレー噴霧に用いるノズルが詰まり、複合型不織布WPの歩留まりにも影響を与える。添加率が2.5%以下であることにより、ノズル詰まりが発生せず、歩留りにも大きな影響を与えないが、複合型不織布WPに付与したい湿潤紙力の程度に応じて適切に添加していくことが好ましい。ただし、複合型不織布WPの湿潤紙力の発現効果を踏まえると、0.3%以上の添加が好ましい。
【0040】
そして、添加装置9によるスプレー噴霧において、
図1に示すように、湿潤紙力剤を含む薬液を2回に分割して噴霧することが好ましい。すなわち、1液目、2液目ともに、それぞれサクション装置6の下流において湿潤紙力剤を噴霧するスプレー噴霧を行うことで薬液が添加されることが好ましい。薬液のスプレー噴霧は、1段(1液)であっても、2段(2液)以上の多段であってもよいが、特に(2回に分割する)2液での添加の場合には、定着せずに流出する薬液が多い代わりに、薬液が分散されるためにノズル詰まりが緩和され、効率的に複合型不織布WPを製造することができる。
【0041】
また、上記のスプレー噴霧において、薬液中の湿潤紙力剤の濃度が0.1%以上2.5%以下であることが好ましく、また、吐出圧力が0.1MPa以上1.0MPa以下であることが好ましい。
吐出圧力が0.1MPa未満であると、複合型不織布WP全体の薬液散布が不足し、均一な薬剤分布とならない。吐出圧力が1.0MPaを超えると、パルプ繊維ウェブPFWの表面を荒らし、原料が飛び散って、操業が滞り(効率が悪化し)、複合型不織布WPの品質も悪化する。なお、薬液に含まれる湿潤紙力剤以外の物質としては、紙力剤の定着を阻害しないものであれば特に限定されないが、水等の溶媒や、澱粉やグアーガム等の両性樹脂であることが好ましい。
【0042】
(乾燥及び巻取工程)
そして、上記サクション装置6及び添加装置9の下流には、更に乾燥装置7が設置されており、湿潤紙力剤が添加されたパルプ繊維ウェブPFWを備える複合型不織布WPが乾燥処理される。ここでの乾燥装置7は非圧縮型のドライヤ、好適にエアスルードライヤを採用することが好ましい。
図1で、エアスルードライヤの回転可能なドライヤ本体71は筒状体であり、その周表面には多数の貫通孔が設けてあり、図示しない熱源で加熱された熱風がドライヤ本体71の外周から中心部側に向かって吸い込む構成とするのがよい。
このようにして、連続的に製造される複合型不織布WPは乾燥後に巻取装置8のロール81に巻取られる。
【0043】
<複合型不織布>
このようにして製造された複合型不織布WPのパルプ繊維ウェブPFW中における、湿潤紙力剤の定着率が70%以上であることが好ましい。湿潤紙力剤の定着率が70%以上であることにより、歩留まりが良好な複合型不織布WPを製造することができる。
なお、湿潤紙力剤の定着率(窒素分による評価)は、液体クロマトグラフィーを用いて求める。事前に既知の紙力剤量を含ませた複合型不織布WPを利用し、窒素量と紙力剤添加率との間で検量線を引く。その検量線より、サンプルの窒素量よりパルプ繊維ウェブPFW中に含まれる紙力剤添加率を求め、実際の添加率より下記の式にて計算する。
紙力剤定着率(%)=検量線より求めた不織布のパルプウェブ中に含まれる紙力剤含有率(%)÷製造時に添加した対パルプ添加率(%)×100
【0044】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、パルプを含有する複合型不織布の製造において、エアレイド方式を採用しても、紙力剤の定着を均一化し、歩留りを確保して、効率よく、強度を発現する複合型不織布を製造できる製造方法及び製造装置を提供することができる。
【実施例0045】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0046】
表1に示す各条件において、実施例1~8及び比較例1~4のそれぞれの複合型不織布を製造し、以下の評価を行った。なお、実施例6及び8における2液の薬液添加(スプレー)の位置は、サクション装置を2つとした上でのそれぞれ「サクション後」であり、サクションを1回行う毎に薬液を1液添加したことを意味する。実施例7の「サクション後」「サクション前」は、サクションを1回行った後に薬液を2液続けて添加し、最後にサクションを1回行ったことを意味する。
また、下記のWETテーバー及び各引張強度以外の各パラメータは、上述した基準又は測定方法に従って行った。
【0047】
表1におけるWETテーバーは、JIS L 1096の織物及び編物の生地試験方法に記載のテーバー形法に準拠したテーバー試験機で、摩擦輪H-18を用いて湿潤状態の複合型不織布を試験した値(回数)を測定した。
また、複合型不織布WPの湿潤時のMD方向引張強度(WMDT)及び湿潤時のCD方向引張強度(WCDT)は、いずれもJIS P 8113に従って測定した。
【0048】
(1)紙力剤定着率
製造した複合型不織布における、パルプ繊維ウェブ中の紙力剤定着率を評価した。
優(◎):紙力剤定着率80%以上(歩留りが良好である)
可(○):紙力剤定着率70%以上80%未満(歩留りが許容範囲である)
不可(×):紙力剤定着率70%未満(歩留りが劣る)
【0049】
(2)操業性(ノズルの詰まり)
複合型不織布の製造中の連続操業時における、ノズルの詰まりを評価した。
優(◎):ノズル詰まりの発生頻度が著しく低く連続操業上問題とならない
可(○):ノズル詰まりが時折発生するが操業中に解消可能な範囲
【0050】
(3)強度
製造した複合型不織布における湿潤時MD方向引張強度(WMDT)とWETテーバーを評価した。
優(◎):WMDTが27.4N/25mm以上であり、かつ、WETテーバーが20回以上
良(○):WMDTが19.6N/25mm以上であり、かつ、WETテーバーが10回以上
【0051】
(4)総合評価
全ての評価項目に対し、下記の項目に基づいて各実施例及び各比較例の製造方法を4段階でスコアリングした。総合評価が2以上で、良好な歩留りであるワイパーを提供できる製造方法となるため合格ラインとした。
1点:紙力剤定着率が×である製造方法
2点:紙力剤定着率及び強度がいずれも〇である製造方法
3点:紙力剤定着率が◎である製造方法
4点:紙力剤定着率が○以上であり、かつ、操業性◎である製造方法
【0052】
【0053】
以上より、本実施例に係る製造方法によれば、エアレイド方式を採用しても、紙力剤の定着を均一化し、歩留りを確保して、効率よく、強度を発現する複合型不織布が得られることが確認された。