(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047594
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ステントおよびステントの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/915 20130101AFI20240401BHJP
【FI】
A61F2/915
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025066
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 隆
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267AA50
4C267BB06
4C267BB13
4C267CC09
4C267FF05
4C267GG16
4C267HH08
(57)【要約】
【課題】薬剤コート層の剥がれを抑制しつつ、薬効の低下を抑制できるステントを提供する。
【解決手段】ステント10は、径方向に拡張および収縮が可能な円筒形状のステントであって、拡張および収縮に伴い応力集中が起きる応力集中部と、少なくとも一部の応力集中部の表面に薬剤が被覆されていない非コート領域52と、非コート領域以外の表面に薬剤コート層CLが形成されたコート領域51と、コート領域に設けられ、薬剤から構成され、径方向の外側に向かって突出する凸部53と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に拡張および収縮が可能な円筒形状のステントであって、
拡張および収縮に伴い応力集中が起きる応力集中部と、
少なくとも一部の前記応力集中部の表面に薬剤が被覆されていない非コート領域と、
前記非コート領域以外の表面に薬剤コート層が形成されたコート領域と、
前記コート領域に設けられ、前記薬剤から構成され、前記径方向の外側に向かって突出する凸部と、を有するステント。
【請求項2】
前記凸部は、前記コート領域のうち前記非コート領域側の端部に設けられる、請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記コート領域および前記非コート領域の境界部から、前記凸部の中心位置までの距離は、1000μm以下である、請求項1または請求項2に記載のステント。
【請求項4】
前記凸部の高さは、1~90μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のステント。
【請求項5】
前記凸部の幅は、前記凸部の前記高さの0.5~10倍である、請求項1~4のいずれか1項に記載のステント。
【請求項6】
前記薬剤コート層は、前記非コート領域に向かって厚さが漸減するように構成された傾斜部を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のステント。
【請求項7】
前記薬剤コート層は、ステント本体の外表面側にのみ形成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のステント。
【請求項8】
径方向に拡張および収縮が可能な円筒形状のステント本体と、薬剤を含むコート領域と、を有するステントの製造方法であって、
拡張および収縮に伴い応力集中が起きる応力集中部の少なくとも一部の表面を除き、前記ステント本体の表面に前記薬剤を塗布して前記コート領域および前記コート領域内で前記径方向の外側に向かって突出する凸部を形成する工程を有するステントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントおよびステントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、例えば、心筋梗塞あるいは狭心症に用いられる経皮的冠状動脈血管形成術(PTCA:Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty、PCI:Percutaneous Coronary Intervention)において再狭窄防止のために適用される。
【0003】
このようなステントとして、血管壁に接触する外表面側に、血管平滑筋細胞の遊走および増殖を抑制する薬剤を被覆し、当該薬剤をステント留置後に溶出させて再狭窄を防止する薬剤溶出性ステント(DES:Drug Eluting Stent)の開発が行われている。
【0004】
ところが、薬剤溶出性ステントを管腔内に留置するには、一旦ステントを縮径した状態で管腔内の目的部位に到達させた後、ステントを拡張して留置するため、湾曲部やリンク部などの拡張および収縮に伴い応力集中が起きる場所にコーティングされている薬剤コート層が、ステントの拡張および収縮に伴って環状体の表面から脱落するという問題が生じる。
【0005】
これに関連して、例えば下記の特許文献1には、薬剤コート層の剥がれを防止するために、湾曲部およびリンク部を避けて薬剤コート層が形成されたステントが開示されている。このようなステントによれば、薬剤コート層の剥がれを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のステントでは、湾曲部およびリンク部等の非コート領域に薬剤が塗布されていないため、薬効が低下してしまう虞がある。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、薬剤コート層の剥がれを抑制しつつ、薬効の低下を抑制できるステントおよびステントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するステントは、径方向に拡張および収縮が可能な円筒形状のステントである。ステントは、拡張および収縮に伴い応力集中が起きる応力集中部と、少なくとも一部の前記応力集中部の表面に薬剤が被覆されていない非コート領域と、前記非コート領域以外の表面に薬剤コート層が形成されたコート領域と、前記コート領域に設けられ、前記薬剤から構成され、前記径方向の外側に向かって突出する凸部と、を有する。
【0010】
上記目的を達成するステントの製造方法は、径方向に拡張および収縮が可能な円筒形状のステント本体と、薬剤を含むコート領域と、を有するステントの製造方法であって、拡張および収縮に伴い応力集中が起きる応力集中部の少なくとも一部の表面を除き、前記ステント本体の表面に前記薬剤を塗布して前記コート領域および前記コート領域内で前記径方向の外側に向かって突出する凸部を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成したステントによれば、少なくとも一部の応力集中部の表面に薬剤が被覆されていない非コート領域を備えるため、薬剤コート層が剥がれてしまうことを抑制できる。また、コート領域に薬剤から構成される凸部が設けられるため、ステントが拡張して生体組織にステントが当接した際に、凸部の薬剤が、凸部が置かれる位置の生体組織から、ステントの非コート領域が置かれる位置の生体組織へ向けて浸透していく。このため、凸部が設けられていないステントと比較して、薬効が向上する。以上から、薬剤コート層の剥がれを抑制しつつ、薬効の低下を抑制できるステントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るステントが適用されるステントデリバリーシステムを説明するための概略図である。
【
図2】本実施形態に係るステントを示す平面図である。
【
図3】本実施形態に係るステントを示す部分拡大図である。
【
図4】本実施形態に係るステントのリンク部近傍を示す平面図である。
【
図7】本実施形態に係るステントの湾曲部近傍を示す平面図である。
【
図9】本実施形態に係るステントの効果を説明するための概略図である。
【
図11】本実施形態に係るステントの製造方法の塗布パターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係るステント10が適用されるステントデリバリーシステム100を説明するための概略図である。
【0015】
本発明の実施形態に係るステント10は、外表面側に薬剤を含む薬剤コート層が形成された薬剤溶出性ステント(DES)からなる。ステント10は、狭窄部の内面に密着させて留置されることで管腔を保持する生体内留置物として機能する。ステント10は、例えば、
図1に示すように、ステントデリバリーシステム100に適用され、再狭窄防止を目的とした治療に利用される。
【0016】
本実施形態において、ステントデリバリーシステム100は、ハブ110と、シャフト140と、バルーン130と、ステント10と、を有する。
【0017】
ハブ110は、
図1に示すように、バルーン130を拡張させる装置を連結するためのルアーテーパーが形成された開口部112を有する。
【0018】
シャフト140は、外管シャフトと、内管シャフトと、ガイドワイヤーポート152と、を有する。
図1に示すステントデリバリーシステム100は、ガイドワイヤーポート152がシャフト140の中間にあり、
図1に示すステントデリバリーシステム100は、ガイドワイヤー150がシャフト140の先端から中間まで通過する、ラピッドエクスチェンジ(RX)タイプである。
【0019】
バルーン130は、外周にステント10が配置され、折り畳まれた状態(あるいは収縮された状態)で配置される。バルーン130は、ハブ110の開口部112から導入されるバルーン拡張流体によって拡張される。
【0020】
ステントデリバリーシステムは、ラピッドエクスチェンジタイプに限定されず、ガイドワイヤーがステントデリバリーシステムの全長を通過する、オーバーザワイヤ(OTW)タイプに適用することも可能である。また、ステントデリバリーシステムは、心臓の冠動脈に生じた狭窄部に適用する形態に限定されず、その他の血管、胆管、気管、食道、尿道等に生じた狭窄部に適用することも可能である。
【0021】
本実施形態に係るステントデリバリーシステム100によるステント10の留置は、例えば、以下のように実施される。
【0022】
まず、ステントデリバリーシステム100の先端部を、患者の管腔に挿入し、シャフト140の開口部142から突出させたガイドワイヤー150を先行させながら、目的部位である狭窄部に位置決めする。そして、ハブ110の開口部112からバルーン拡張流体を導入して、バルーン130を拡張させて、ステント10の拡張および塑性変形を引き起こし、狭窄部に密着させる。
【0023】
その後、バルーン130を減圧して収縮させることにより、ステント10とバルーン130との係合を解除し、ステント10をバルーン130から分離する。これにより、ステント10は狭窄部に留置される。そして、ステント10が分離されたステントデリバリーシステム100は、後退させられ、管腔から取り除かれる。
【0024】
次に、
図2~
図9を参照して、ステント10の構成について詳述する。
【0025】
図2は、本実施形態に係るステント10を示す平面図である。
図3は、本実施形態に係るステント10を示す部分拡大図である。
図4は、ステント10のリンク部30近傍を示す図である。
図5は、
図4の5-5線に沿う断面図である。
図6は、
図4の6-6線に沿う断面図である。
図7は、本実施形態に係るステント10の湾曲部24近傍を示す平面図である。
図8は、
図7の8-8線に沿う断面図である。
図9は、本実施形態に係るステント10の効果を説明するための概略図である。
【0026】
ステント10は、
図2、
図3に示すように、軸方向D1に沿って複数設けられる環状体20と、軸方向D1に沿って隣接する環状体20同士を接続するリンク部30と、を有する。ステント10の所定の位置には、薬剤コート層CLが形成されている。以下の説明において、薬剤コート層CLが形成される前のステント10をステント本体10Aと称する場合がある。
【0027】
ステント本体10Aは、生体適合性を有する材料から構成される。生体適合性を有する材料は、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、スズ、タンタルもしくはタンタル合金、プラチナもしくはプラチナ合金、金もしくは金合金、チタン合金、ニッケル-チタン合金、コバルトベース合金、コバルト-クロム合金、ステンレス鋼、亜鉛-タングステン合金、ニオブ合金等である。
【0028】
環状体20は、
図2、
図3に示すように、波状に折り返されつつ周方向D2に延在して、無端の環状形状を形作っている。環状体20は、
図3に示すように、線状部21、22、23と、線状部21、22同士を接続する湾曲部24と、線状部21、23同士を接続する湾曲部25と、を有する。本実施形態において、湾曲部24、25、およびリンク部30は、拡張および収縮に伴い応力集中が起きる応力集中部に相当する。
【0029】
ステント10は、
図4、
図5に示すように、リンク部30の近傍において、ステント本体10Aの表面に薬剤コート層CLが形成された第1コート領域(コート領域に相当)51と、ステント本体10Aの表面に薬剤が被覆されていない第1非コート領域(非コート領域に相当)52と、第1コート領域51のうち、第1非コート領域52側の端部に形成される第1凸部(凸部に相当)53と、を有する。第1非コート領域52は、ステント本体10Aにあるリンク部30の一部または全てに形成される。
【0030】
第1コート領域51において、ステント本体10Aのうち薬剤コート層CLが形成される部位および薬剤コート層CLの間には、薬剤コート層CLの剥離しやすさのバラつきを低減するためのプライマー被覆層40が配置されている。なお、
図5のプライマー被覆層40は、第1非コート領域52のステント本体10Aの表面上にも配置されているが、プライマー被覆層はここに配置されていなくてもよい。
【0031】
ステント10は、
図4、
図6に示すように、リンク部30の近傍において、環状体20の表面に薬剤コート層CLが形成された第2コート領域(コート領域に相当)61と、環状体20の表面に薬剤が被覆されていない第2非コート領域(非コート領域に相当)62と、第2コート領域61のうち、第2非コート領域62側の端部に形成される第2凸部(凸部に相当)63と、を有する。第2非コート領域62は、ステント本体10Aにあるリンク部30の一部または全てに形成される。
【0032】
第2コート領域61において、ステント本体10Aのうち薬剤コート層CLが形成される部位および薬剤コート層CLの間には、プライマー被覆層40が配置されている。なお、
図6のプライマー被覆層40は、第2非コート領域62のステント本体10Aの表面上にも配置されているが、プライマー被覆層はここに配置されていなくてもよい。
【0033】
ステント10は、
図7、
図8に示すように、湾曲部24の近傍において、環状体20の表面に薬剤コート層CLが形成された第3コート領域(コート領域に相当)71と、環状体20の表面に薬剤が被覆されていない第3非コート領域(非コート領域に相当)72と、第3コート領域71のうち、第3非コート領域72側の端部に形成される第3凸部(凸部に相当)73と、を有する。第3非コート領域72は、ステント本体10Aにある湾曲部24の一部または全てに形成される。
【0034】
第3コート領域71において、ステント本体10Aのうち薬剤コート層CLが形成される部位および薬剤コート層CLの間には、プライマー被覆層40が配置されている。なお、
図8のプライマー被覆層40は、第3非コート領域72のステント本体10Aの表面上にも配置されているが、プライマー被覆層はここに配置されていなくてもよい。
【0035】
ステント本体10Aの外側表面に被覆される薬剤は、ポリマーに担持されて薬剤コート層CLを構成している。薬剤コート層CLがポリマーに担持される場合、生体内にステント10を留置した後、薬剤は徐々に放出されるため、薬効が長期にわたり持続し、ステント留置部での再狭窄のリスクが低減する。また、ポリマーが残存すると炎症反応が起きる可能性があるため、ポリマーは生分解性ポリマーであることが好ましい。
【0036】
薬剤コート層CLは、薬剤およびポリマーが溶媒に溶解されて調製された塗布液を重ね塗りすることによって形成されている。
【0037】
ステント本体10Aの外側表面に被覆される薬剤(生理活性物質)は、例えば、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、NO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。
【0038】
生分解性ポリマーは、例えば、ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、およびセルロースからなる群から選択される少なくとも1つの重合体、前記重合体を構成する単量体が任意に共重合されてなる共重合体、並びに前記重合体および/または前記共重合体の混合物である。脂肪族ポリエステルは、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、乳酸とカプロラクトンの共重合体である。ここでは、乳酸とカプロラクトンの共重合体が好ましい。
【0039】
プライマー被覆層の材料は、例えば、上記の薬剤コート層CLがポリマーに担持される場合の生分解性ポリマーである。
【0040】
本実施形態では、薬剤コート層CLは、ステント10の外表面側にのみ配置されている。すなわち、薬剤コート層CLは、ステント10の内表面側には設けられていない。
【0041】
この構成によれば、ステント10が血管内に留置された場合、内表面側にも薬剤コート層が設けられているステントと比較して、ステント10が早期に血管組織内に包み込まれる。
【0042】
なお、薬剤コート層CLが、ステントの外表面側に加えて側面側または/および内表面側に設けられている構成も、本発明に含まれるものとする。
【0043】
第2コート領域61および第3コート領域71は、第1コート領域51と同様の構成であって、第2非コート領域62および第3非コート領域72は、第1非コート領域52と同様の構成であって、第2凸部63および第3凸部73は、第1凸部53と同様の構成であるため、ここでは、第1コート領域51、第1非コート領域52、および第1凸部53の構成について説明する。
【0044】
第1コート領域51は、薬剤およびポリマーが溶媒に溶解されて調製された塗布液を重ね塗りすることによって形成されている。第1コート領域51において、薬剤コート層CLは、
図5に示すように、第1非コート領域52に向かって厚さが漸減するように構成された傾斜部51Tを有する。
【0045】
傾斜部51Tは、上層側のコート長が下層側のコート長より短くなるように重ね塗りすることによって形成される。このように傾斜部51Tが設けられることによって、傾斜部がない場合と比較して、リンク部30の近傍に位置する薬剤コート層CLの厚みが薄くなるため、薬剤コート層CLの剥離あるいは脱落を防止する効果が高まる。
【0046】
第1コート領域51における薬剤コート層CLの厚みは、例えば1~100μmである。
【0047】
第1凸部53は、薬剤から構成される。第1凸部53は、
図5に示すように、液滴状に構成される。
【0048】
第1凸部53は、
図5に示すように、第1コート領域51のうち第1非コート領域52側の端部に設けられることが好ましい。より具体的には、第1コート領域51および第1非コート領域52の境界部54から、第1凸部53の中心位置53Pまでの距離L1は、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。この構成によれば、第1凸部53が配置される箇所を境界部54により近づけることができるため、ステント10が拡張して生体組織にステント10が当接した際に、第1凸部53の薬剤が、第1凸部53が置かれる位置の生体組織から、ステント10の第1非コート領域52が置かれる位置の生体組織へ向けて浸透していく(
図9の矢印参照)。したがって、薬効をより向上させることができる。
【0049】
第1凸部53の高さHは、特に限定されないが、例えば1~90μmであることが好ましく、70μm以下であることがより好ましい。例えば、第1凸部の高さが1μmよりも小さい場合は、上述した浸透する効果が小さくなる。一方、第1凸部の高さが90μmよりも大きい場合、ステント留置後の内皮化に要する時間が長期化して血栓が付着しやすくなり、付着した血栓による血管閉塞などのリスクが高まる。
【0050】
第1凸部53の幅Wは、凸部53の高さHの0.5~10倍であることが好ましい。この構成によれば、第1凸部53の傾斜がなだらかになるため、ステントデリバリーシステム100を生体内にデリバリーしていくときに、生体組織に引っ掛かることを好適に抑制することができる。
【0051】
以上のように第1凸部53が設けられることによって、
図9に示すように、ステント10が拡張して生体組織Cにステント10が当接した際に、第1凸部53の薬剤が、第1凸部53が置かれる位置の生体組織Cから、ステント10の第1非コート領域52が置かれる位置の生体組織へ向けて浸透していく。このため、第1凸部53が設けられていないステントと比較して、薬効が向上する。
【0052】
また、凸部53、63、73が設けられることによって、凸部53、63、73がアンカー効果を備えることになり、ステント10の位置ずれ(マイグレーション)を抑制することができる。
【0053】
また、ステント10を生体内に留置した後、ステント10の軸方向D1の両端において、湾曲部24が生体組織Cを傷つけてしまう可能性がある。ここに薬剤コート層CLが形成されていなくても、本発明のステントにおいてはコート領域に薬剤から構成される凸部が設けられているため、薬剤を傷ついた部位に効率よく送ることができる。
【0054】
次に、
図10、
図11を参照して、本実施形態に係るステント10の製造方法について説明する。
図10は、塗布装置90を示す概略図である。
図11は、本実施形態に係るステント10の製造方法の塗布パターンを示す平面図である。
【0055】
本実施形態に係るステント10の製造方法は、国際公開第2015/046168号と略同一の製造方法を用いることができる。本明細書では、適宜省略しつつステント10の製造方法について説明する。
【0056】
本実施形態に係るステント10の製造方法は、ステント本体10Aを形成する形成工程と、ステント本体10Aに薬剤を塗布して薬剤コート層CLを形成する塗布工程と、を有する。
【0057】
形成工程では、管体(具体的には、金属パイプ)からステント本体10A以外の部分を除去して所定のパターンが形成される。形成工程では、例えば、フォトファブリケーションと呼ばれるマスキングと化学薬品を使用したエッチング方法、型による放電加工法、切削加工法(例えば、機械研磨、レーザー切削加工)などによって、金属パイプから所定のパターンを形成することができる。
【0058】
このように成形した後、化学研磨あるいは電解研磨によって環状体20のエッジを除去し、滑らかな面となるように仕上げる。
【0059】
さらに所定のパターンに成形した後、焼きなましを行ってもよい。焼きなましによって、ステント本体10A全体の柔軟性および可撓性が向上し、屈曲した血管内での留置性が良好となり、血管内壁に与える物理的な刺激も減少し、再狭窄の要因を減少させることができる。
【0060】
塗布工程では、
図10に示す塗布装置90によって、ステント本体10Aの所定の箇所に薬剤が塗布されて、薬剤コート層CLが形成される。
【0061】
薬剤コート層CLの形成は、例えば、浸漬法、スプレー法、インクジェット法、ノズル噴射法など種々の方法を使用することができるが、本発明ではスプレー法、インクジェット法、ノズル噴射法が好ましい。
【0062】
ここで、
図10を参照して、塗布装置90の構成について説明する。
【0063】
塗布装置90は、
図10に示すように、ステント本体10Aを保持する保持部91と、保持部91を移動させる移動手段92と、ステント本体10Aの所定の位置に薬剤を塗布する塗布部93と、を有する。保持部91、移動手段92、および塗布部93は、不図示の制御部によって制御される。保持部91、移動手段92、および塗布部93は、国際公開第2015/046168号に開示されている塗布装置と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0064】
塗布工程は、
図11に示すように、非コート領域52、62、72に薬剤が塗布されないように、ステント本体10Aの表面に薬剤を塗布してコート領域51、61、71を形成する第1塗布工程と、コート領域51、61、71に、薬剤を塗布して凸部53、63、73を形成する第2塗布工程と、を有する。
【0065】
第1塗布工程では、上述したように、非コート領域52、62、72に向かって厚さが漸減するように、薬剤をコート領域51、61、71に対して塗布する。具体的には、
図11に示すように、移動手段92または塗布部93のノズル93Aを所定のパターンに沿って移動し、ステント本体10Aの表面に薬剤を吐出して、薄い厚さの薄膜コート層を複数層形成する積層法が用いられる。積層法では、非コート領域52、62、72に近づくにしたがって、各薄膜コート層のコーティング領域を調整し、薄膜コート層の積層数を段階的に低減することによって、傾斜部51Tを形成することができる。
【0066】
第2塗布工程では、第1塗布工程によってステント本体10Aに所定の塗布パターンが形成された後に、コート領域51、61、71の上述した位置に、薬剤を塗布する。具体的には、塗布部93のノズル93Aから薬剤を滴下することによって凸部53、63、73が形成される。なお、凸部53、63、73は、第1塗布工程において当該部分の薬剤の吐出量を増加させることによって形成されてもよい。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係るステント10は、径方向に拡張および収縮が可能な円筒形状のステントであって、湾曲部やリンク部などの拡張および収縮に伴い応力集中が起きる応力集中部と、少なくとも一部の応力集中部の表面に薬剤が被覆されていない非コート領域52、62、72と、非コート領域52、62、72以外の表面に薬剤コート層CLが形成されたコート領域51、61、71と、コート領域51、61、71に設けられ、薬剤から構成され、径方向の外側に向かって突出する凸部53、63、73と、を有する。このように構成されたステント10によれば、応力集中部の表面に薬剤が被覆されていない非コート領域52、62、72を備えるため、薬剤コート層CLが剥がれてしまうことを抑制できる。また、コート領域51、61、71に、薬剤から構成される凸部53、63、73が設けられるため、ステント10が拡張して生体組織にステント10が当接した際に、凸部53、63、73の薬剤が、凸部53、63、73が置かれる位置の生体組織から、ステント10の非コート領域52、62、72が置かれる位置の生体組織へ向けて浸透していく。このため、凸部53、63、73が設けられていないステント10と比較して、薬効が向上する。以上から、薬剤コート層CLの剥がれを抑制しつつ、薬効の低下を抑制できるステント10を提供することができる。なお、ステント10にある全ての湾曲部または/およびリンク部の表面を非コート領域とすることにより、薬剤コート層が剥がれるリスクはより低減される。
【0068】
また、凸部53、63、73は、コート領域51、61、71のうち非コート領域52、62、72側の端部に設けられる。このように構成されたステント10によれば、第1凸部53が配置される箇所を境界部54に近づけることができるため、ステント10が拡張して生体組織に薬剤が当接した際に、第1凸部53の薬剤が、第1非コート領域52が置かれる位置の生体組織に、より短時間で好適に浸透していく。したがって、薬効をより向上させることができる。
【0069】
また、第1コート領域51および第1非コート領域52の境界部54から、第1凸部53の中心位置53Pまでの距離L1は、1000μm以下である。このように構成されたステント10によれば、第1凸部53が配置される箇所を境界部54に近づけることができるため、ステント10が拡張して生体組織に薬剤が当接した際に、第1凸部53の薬剤が、第1非コート領域52が置かれる位置の生体組織に、より短時間で好適に浸透していく。したがって、薬効をより向上させることができる。
【0070】
また、第1凸部53の高さHは1~90μmである。このように構成されたステント10によれば、非コート領域への薬効を向上させつつ、ステント留置後の内皮化に要する時間が短縮されることにより、血栓付着のリスクを低減することができる。
【0071】
また、第1凸部53の幅Wは、第1凸部53の高さの0.5~10倍である。このように構成されたステント10によれば、第1凸部53の傾斜がなだらかになるため、ステントデリバリーシステム100を生体内にデリバリーしていくときに、生体組織に引っ掛かることを好適に抑制することができる。
【0072】
また、薬剤コート層CLは、第1非コート領域52に向かって厚さが漸減するように構成された傾斜部51Tを有する。このように構成されたステント10によれば、傾斜部がない場合と比較して、応力集中部の近傍に位置する薬剤コート層CLの厚みが薄くなるため、薬剤コート層CLの剥離あるいは脱落を防止する効果が高まる。
【0073】
また、薬剤コート層CLは、コート領域51、61、71の外表面側にのみ形成されている。ステント10が血管内に留置された場合、外表面側に加えて側面側または/および内表面側にも薬剤コート層が設けられているステントと比較して、ステント留置後の内皮化に要する時間が短縮されることにより、血栓付着のリスクを低減することができる。
【0074】
また、以上説明したように、本実施形態に係るステント10の製造方法は、径方向に拡張および収縮が可能な円筒形状のステント本体10Aと、薬剤を含むコート領域51、61、71と、を有するステント10の製造方法であって、リンク部や湾曲部などの拡張および収縮に伴い応力集中が起きる応力集中部の少なくとも一部の表面を除き、ステント本体10Aの表面に薬剤を塗布してコート領域51、61、71および前記コート領域51、61、71内で径方向の外側に向かって突出する凸部53、63、73を形成する工程を有する。この製造方法によって製造されたステント10によれば、応力集中部の表面に薬剤が被覆されていないため、薬剤コート層CLが剥がれてしまうことを抑制できる。また、コート領域51、61、71に、薬剤から構成される凸部53、63、73が設けられるため、ステント10が拡張して生体組織にステント10が当接した際に、凸部53、63、73の薬剤が、凸部53、63、73が置かれる位置の生体組織から、ステント10の非コート領域52、62、72が置かれる位置の生体組織へ向けて浸透していく。このため、凸部53、63、73が設けられていないステント10と比較して、薬効が向上する。
【0075】
以上、実施形態を通じて本発明に係るステント10を説明したが、本発明は実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0076】
例えば、上述した実施形態では、第1凸部53は、第1コート領域51のうち第1非コート領域52側の端部に設けられた。しかしながら、第1凸部は、第1コート領域51の任意の箇所に設けられ得る。
【0077】
また、上述した実施形態では、薬剤コート層CLは、第1非コート領域52に向かって厚さが漸減するように構成された傾斜部51Tを有した。しかしながら、薬剤コート層は、傾斜部を有していなくてもよい。
【0078】
また、上述した実施形態では、ステント10は、波状に折り返された無端の環状形状である環状体20が、リンク部30により軸方向に連続して接続された円筒形状であった。しかしながら、ステントは、波線状に連続する構成要素をらせん状に巻いて円筒形状に形作られてもよい。また、当形状においてもリンク部により構成要素が軸方向に接続されていてもよい。
【0079】
また、上述した実施形態では、ステント本体10Aの表面にプライマー被覆層40が配置されたが、プライマー被覆層は配置されていなくてもよい。
【0080】
また、上述した実施形態では、第1凸部53の形状は、液滴状であった。しかしながら、第1凸部53は、
図12に示すように、液滴が滲んで広がったような形状であってもよい。さらに、第1凸部は、径方向の外側が鋭い形状であってもよい。
【符号の説明】
【0081】
10 ステント、
10A ステント本体、
20 環状体、
21、22、23 線状部、
24、25 湾曲部、
30 リンク部、
51 第1コート領域(コート領域)、
51T 傾斜部、
52 第1非コート領域(非コート領域)、
53、153 第1凸部(凸部)、
53P 第1凸部の中心位置、
54 境界部、
61 第2コート領域(コート領域)、
62 第2非コート領域(非コート領域)、
63 第2凸部(凸部)、
71 第3コート領域(コート領域)、
72 第3非コート領域(非コート領域)、
73 第3凸部(凸部)、
CL 薬剤コート層、
H 第1凸部の高さ、
L1 境界部から第1凸部の中心位置までの距離、
W 第1凸部の幅。