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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047599
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】着磁装置及び着磁方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 13/00 20060101AFI20240401BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20240401BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H01F13/00 350
H02K1/276
H02K15/03 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153180
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 潤
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CB03
5H622DD02
5H622QB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】内径の深い位置での着磁用の磁界を高める着磁装置及び着磁方法を提供する。
【解決手段】ロータ12に内蔵された複数の磁石14に着磁を行う着磁装置10であって、ロータ12の周囲を囲むヨーク部材と、ヨーク部材の収容部の周囲に周方向に複数配置され、中心線の向きが円形の半径方向を向く着磁コイル28と、隣接する2つの着磁コイル28の周方向の中間に位置し、ロータ12の軸線方向に延びる複数の補助配線30と、を備える。周方向に隣接する一対の着磁コイル28は、中心線に沿った発生磁界の向きが互いに反対向きであり、補助配線30は、隣接する2つの着磁コイル28の間を結ぶ磁界と反対向きの磁界を発生させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータに内蔵された複数の磁石に着磁を行う着磁装置であって、
前記ロータを収容する収容部を有し、前記ロータの周囲を囲むヨーク部材と、
前記ヨーク部材の前記収容部の周囲に周方向に複数配置され、中心線の向きが円形の半径方向を向く着磁コイルと、
隣接する2つの前記着磁コイルの前記周方向の中間に位置し、前記ロータの軸線方向に延びる複数の補助配線と、を備え、
前記周方向に隣接する一対の前記着磁コイルは、前記中心線に沿った発生磁界の向きが互いに反対向きであり、
前記補助配線は、隣接する2つの前記着磁コイルの間を結ぶ磁界と反対向きの磁界を発生させる、
着磁装置。
【請求項2】
請求項1記載の着磁装置であって、前記補助配線の発生磁界は、前記着磁コイルの発生磁界よりも小さい、着磁装置。
【請求項3】
請求項2記載の着磁装置であって、前記補助配線及び前記着磁コイルは、1本の繋がったワイヤを巻き回して形成されており、前記補助配線に含まれる前記ワイヤの巻数は、前記着磁コイルに含まれる前記ワイヤの巻数よりも少ない、着磁装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の着磁装置であって、前記着磁コイルの数は、前記ロータの磁極の数よりも少なく、前記着磁コイルは、前記ロータの前記磁石に対して磁極を2つ飛ばしで配置される、
着磁装置。
【請求項5】
請求項4記載の着磁装置であって、
前記ロータの前記磁極を2つ飛ばしで配置された第1コイルと、
前記第1コイルの間の2つ磁極の各々に向かい合って配置され、前記第1コイルよりも巻数の少ない2つの第2コイルと、を有し、
2つの前記第2コイルの隣接部位の鉛直配線によって前記補助配線が構成され、
前記第1コイルと、前記第1コイルの隣接部位の前記第2コイルの鉛直配線と、によって着磁コイルが構成される、
着磁装置。
【請求項6】
請求項1記載の着磁装置を用いた着磁方法であって、
前記収容部に前記ロータを配置する工程と、
前記着磁コイル及び前記補助配線に電流を流して、前記磁石に着磁磁界を印加する着磁工程と、を有し、
前記着磁工程において、前記着磁コイルは、前記ロータの周方向に2極飛ばしで前記磁石に着磁用磁界を印加するとともに、前記補助配線は、隣接する2つの前記着磁コイルに挟まれた2極分の前記磁石に対する着磁予定方向と反対向きの磁界の印加を妨げる、
着磁方法。
【請求項7】
請求項6記載の着磁方法であって、さらに、
前記ロータを前記周方向の第1方向に2極分回転させる工程と、
前記着磁コイル及び前記補助配線に電流を流して、2極分ずれた位置の前記磁石に着磁磁界を印加する第2着磁工程と、
前記第2着磁工程の後に、さらに前記第1方向に前記ロータを2極分回転させる工程と、
前記着磁コイル及び前記補助配線に電流を流して、2極分ずれた位置の前記磁石に着磁磁界を印加する第3着磁工程と、
を有する、着磁方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のロータに配置された磁石を着磁する着磁装置及び着磁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータに永久磁石を使用した回転電機は、電気自動車等に広く用いられている。ロータの永久磁石への着磁は、着磁前の磁性体をロータに固定した後に、外部から着磁用の磁界を印加して行われる。例えば、特許文献1は、ロータの外周部に磁極数に対応した着磁コイルを有する着磁装置を用いた着磁方法を開示する。この着磁方法は、隣接する着磁コイルの磁界の向きを互いに逆向きとしてロータの全ての磁石に対する着磁を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-38459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、モータの高トルク化及び高速化をはかるべく、永久磁石をロータの内径の深い位置にまで配置し、磁極付近の磁束密度を高める回転電機が提案されている。しかし、従来の着磁方法は、隣接する着磁コイルで発生する逆向きの磁界が、互いの磁界を打ち消すため、強い磁界が発生する領域が着磁コイルの近傍に限定される。そのため、内径深くに配置された磁性体に着磁用の磁界が届きにくく、十分な着磁が難しいという問題がある。
【0005】
内径の深い位置での着磁用の磁界を高めるために、着磁コイルに高電流を流すことが考えられる。しかし、着磁コイルへの高電流の供給は、電源容量の必要容量の増大、着磁コイルに作用する電磁気力の増加による耐久性の低下、及び発熱量の増大による冷却期間の長時間化に伴う生産性の悪化等の問題を生じさせる。
【0006】
別の方法として、周方向に1極ずつ着磁を行うことで、隣接する着磁コイルの逆磁界の影響を回避する方法が考えられる。しかし、この方法では、着磁を完了するまでに、磁極数と同じ回数の通電(磁界の印加)が必要であり、エネルギー効率及び生産性が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の開示の一観点は、ロータに内蔵された複数の磁石に着磁を行う着磁装置であって、前記ロータを収容する収容部を有し、前記ロータの周囲を囲むヨーク部材と、前記ヨーク部材の前記収容部の周囲に周方向に複数配置され、中心線の向きが円形の半径方向を向く着磁コイルと、隣接する2つの前記着磁コイルの前記周方向の中間に位置し、前記ロータの軸線方向に延びる複数の補助配線と、を備え、前記周方向に隣接する一対の前記着磁コイルは、前記中心線に沿った発生磁界の向きが互いに反対向きであり、前記補助配線は、隣接する2つの前記着磁コイルの間を結ぶ磁界と反対向きの磁界を発生させる、着磁装置にある。
【0009】
別の一観点は、上記観点の着磁装置を用いた着磁方法であって、前記収容部に前記ロータを配置する工程と、前記着磁コイル及び前記補助配線に電流を流して、前記磁石に着磁磁界を印加する着磁工程と、を有し、前記着磁工程において、前記着磁コイルは、前記ロータの周方向に2極飛ばしで前記磁石に着磁用磁界を印加するとともに、前記補助配線は、隣接する2つの前記着磁コイルに挟まれた2極分の前記磁石に対する着磁予定方向と反対向きの磁界の印加を妨げる、着磁方法にある。
【発明の効果】
【0010】
上記観点の着磁装置及び着磁方法は、隣接する着磁コイルの逆磁界の影響を抑制できるため、高電流を流すことなく、より内径の深い位置まで磁化できる。また、上記の着磁装置及び着磁法方法は、1極ずつ着磁する場合よりも着磁回数が少なくて済み、エネルギー効率及び生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る着磁装置の構成図である。
図2図2Aは、図1の着磁装置で着磁されるロータに関し、磁石をV字配置した例を示す断面図であり、図2Bは、図1の着磁装置で着磁される別のロータに関し、磁石をΔ配置した例を示す断面図である。
図3図3は、図1の着磁装置の着磁コイル及び補助配線の配置位置と発生磁界を示す説明図である。
図4図4は、図3の着磁コイル及び補助配線の1つの構成例を示す説明図である。
図5図5Aは、1回目の着磁工程を示す説明図であり、図5Bは2回目の着磁工程を示す説明図であり、図5Cは3回目の着磁工程を示す説明図である。
図6図6Aは、比較例の着磁装置による磁界分布(空気中)を示す図であり、図6Bは、実施形態の着磁装置による磁界分布(空気中)を示す図である。
図7図7Aは、補助配線がない場合(比較例2)の磁界分布を示す図であり、図7Bは補助配線に電流を流した場合の磁界分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す実施形態に係る着磁装置10は、永久磁石同期モータ等の回転電機のロータ12に埋め込まれた磁石14(磁性体)の着磁に使用される。着磁装置10で着磁されたロータ12は、回転電機に組み込まれ、電気自動車の動力装置等に利用される。
【0013】
図2Aに示されるように、着磁装置10で処理されるロータ12は、複数の磁極16を有している。図示の例ではロータ12は、12極の磁極16を有している。図2Aのロータ12において、各々の磁極16は、1つ又は複数の磁石14を有する。図示の例では、磁極16は、3つに分割された磁石14を有する。ロータ12の磁石14は、U字状(V字配置)に配置されている。なお、ロータ12において、複数の磁石14は、周方向に沿って配置されてもよい。
【0014】
また、着磁装置10は、図2Bに示されるロータ12Aに対しても、着磁を行うことができる。図2Bのロータ12Aは、12極の磁極16を有している。このロータ12Aにおいて、各々の磁極16は3つの磁石14を有する。3つの磁石14は、2つの磁石14がV字状に配置され、1つの磁石14が周方向に配置された、いわゆるΔ配置となっている。
【0015】
磁石14は、例えば希土類磁石である。近年、資源供給に不安のある重希土類元素(例えば、ディスプロシウム)を含まない希土類磁石の耐熱化技術として、組織を微細化した磁石(熱間加工磁石)が提案されている。熱間加工磁石は、結晶粒を微細化することで磁壁の移動を起こり難くし、重希土類に頼ることなく耐熱性を向上させる。ところが、熱間加工磁石は、磁壁が移動しにくいことから、従来の希土類磁石よりも着磁により大きな磁界が必要とされる。
【0016】
本実施形態の着磁装置10は、着磁が難しい熱間加工磁石を用いたロータ12及び通常の希土類磁石を使用したロータ12に対しても好適に着磁を行える。以下、着磁装置10の詳細について説明する。
【0017】
図1に示すように、着磁装置10は、電源装置18と、冷却装置20と、ヨーク部材22と、を有する。電源装置18は、数kVの耐圧と、数千μFの容量を有するコンデンサを備え、数kVの電圧で数十kAのパルス状の電流をヨーク部材22に供給する。冷却装置20は、冷却チラーと冷却水循環装置を含み、ヨーク部材22に冷却水を供給する。冷却装置20は、ヨーク部材22を冷却することで、ヨーク部材22の破損を防ぐ。
【0018】
ヨーク部材22は、ヨーク本体24と、収容部26と、着磁コイル28と、補助配線30と、を有する。ヨーク本体24は、鉄等の磁性材料で形成された矩形状の部材である。ヨーク本体24は、上面34に収容部26が開口する。また、ヨーク本体24は、内部に図示しない冷却水流路を有する。冷却水流路は、冷却装置20から供給された冷却水で、ヨーク本体24を冷却する。
【0019】
収容部26は、処理対象とするロータ12を収容する凹部である。収容部26は、ヨーク本体24の中央に位置する。収容部26は、ヨーク本体24を上面視で円筒状に切欠いて形成される。収容部26は、ロータ12の直径よりもわずかに大きな内径を有し、ロータ12の全体を収容可能な深さを有する。
【0020】
図1に示されるように、着磁コイル28及び補助配線30は、ヨーク本体24に埋め込まれている。着磁コイル28及び補助配線30は、収容部26の内周面の近傍に配置されている。全ての着磁コイル28及び補助配線30は、例えば、1本のワイヤ状の配線を巻き回して形成されうる。また、着磁コイル28及び補助配線30は、互いに直列に接続されてもよい。
【0021】
着磁コイル28は、周方向に90°の間隔を開けて4つ配置される。着磁コイル28は、ロータ12の2つの磁極16をとばすように配置されており、着磁コイル28は、ロータ12の3つの磁極16毎に1つ配置される。なお、図示の着磁コイル28の配置数及び周方向の間隔は、ロータ12の磁極数が12極の場合の一例であり、本実施形態はこれに限定されない。例えば、18極のロータ12に着磁する場合には、着磁コイル28は、6個配置され、それらの着磁コイル28は、周方向に60°の間隔を開けて配置される。
【0022】
着磁コイル28は、上下方向に延びる一対の鉛直配線38と、一対の鉛直配線38の上端と下端とをコイル状に繋ぐ水平配線40とを有し、上下方向に長く延びた矩形形状のコイルとして形成される。着磁コイル28は、複数巻のワイヤ状の配線で構成される。着磁コイル28は、配線の巻数に応じた強さの磁界を発生させる。
【0023】
1つの着磁コイル28に属する1つの鉛直配線38は、着磁対象の磁極16を構成する磁石14(又は磁石群)の一端に位置し、他の1つの鉛直配線38は、着磁対象とする磁石14(磁石群)の他の一端に位置する。各々の鉛直配線38は、図示の矢印の向きの磁界を発生させる。
【0024】
図3に示されるように、着磁コイル28の各々は、その中心線28aがロータ12の径方向を向くように配置される。また、隣接する着磁コイル28は、磁界発生方向が逆向きとなるように配置される。例えば、図の上端位置の着磁コイル28は、径方向の内側がN極となる向きの磁界を発生させる。また、上端位置の着磁コイル28に対して右に90°の位置の着磁コイル28は、径方向の外側がN極となる磁界を発生させる。上端位置の着磁コイル28に体して180°に位置する着磁コイル28は、径方向の内側がN極である。上端位置の着磁コイル28に対して左に90°に位置する着磁コイル28は、径方向の外側がN極である。
【0025】
補助配線30は、隣接する2つの着磁コイル28の周方向の中間に位置する。図示の例では、4つの補助配線30が、4つの着磁コイル28の中間に配置されている。補助配線30は、上下方向に延びる配線であり、複数本のワイヤ状の配線を含む。補助配線30に含まれる配線の本数(巻数)は着磁コイル28を構成する配線の本数(巻数)よりも少ない。全ての補助配線30と、全ての着磁コイル28とは、例えば直列に接続された1本の配線で形成されてもよい。この場合には、補助配線30が発生する磁界は、着磁コイル28が発生する磁界よりも弱い。
【0026】
図3において、黒丸は図の紙面の手前に電流が流れることを示し、Xは図の紙面の奥に向けて電流が流れることを示す。図示のように、補助配線30に最も隣接する2つの鉛直配線38(それぞれ別の着磁コイル28に属する)は、電流の向きが同じとなっている。補助配線30は、最隣接の2つの鉛直配線38の電流と反対向きに電流を流すように配置される。補助配線30は、着磁用磁界を打ち消して着磁対象ではない磁石14の磁化の変化を防止する。
【0027】
着磁コイル28及び補助配線30は、図4に示されるように、巻数の多い第1コイル28Aと巻数の少ない第2コイル30Aとで構成されてもよい。第1コイル28Aは、周方向にロータ12の2つの磁極16を飛ばし、3つの磁極16毎に配置される。第2コイル30Aは、周方向に隣接する2つの第1コイル28Aの間に、それぞれ2個ずつ配置される。第1コイル28A及び第2コイル30Aは、ロータ12の各磁極16に向かい合って配置される。また、第1コイル28A及び第2コイル30Aの中心線は、ロータ12の径方向を向いている。
【0028】
複数の第1コイル28Aは、周方向に隣接する他の第1コイル28Aに対して、互いの中心線に沿った磁界が逆向きとなるように接続される。また、周方向に隣り合う2つの第2コイル30Aは、それらの隣接部位の2本の鉛直配線31Aが、同じ向きに電流が流れるように配置される。隣接部位の2本の鉛直配線31Aは、周方向に隣接する2つの第1コイル28Aを結ぶ磁界の向きと逆向きの磁界を発生させる。一方、第2コイル30Aにおいて、第1コイル28Aに最も隣接する部位の鉛直配線31Bには、第1コイル28Aの鉛直配線38と同一方向に電流が流れる。
【0029】
このような、第1コイル28A及び第2コイル30Aにおいて、2本の鉛直配線31Aは補助配線30を構成する。また、鉛直配線31Bは、第1コイル28Aとともに、着磁コイル28を構成する。
【0030】
本実施形態の着磁装置10は以上のように構成される。以下、着磁装置10の作用について着磁方法とともに説明する。
【0031】
図5A図5Cに示されるように、本実施形態の着磁方法は3回の着磁工程を有する。まず、図5Aに示されるように、着磁装置10のヨーク部材22(図1参照)にロータ12が配置される。ロータ12は、1回目の着磁対象とする磁極16に属する磁石14が着磁コイル28と周方向の位置が一致するように位置決めされる。着磁コイル28は、ロータ12の磁極16を周方向に2と飛ばしで配置される。着磁コイル28と向かい合う磁極16は、周方向に3つ毎に出現する。ロータ12において1回目の着磁工程で着磁対象となる磁極16は、#1、#4、#7、#10となる。
【0032】
その後、着磁コイル28及び補助配線30に電流を流す第1着磁工程が行われる。第1着磁工程において、電流は図5Aの黒丸又はXで示される向きで流れる。着磁コイル28及び補助配線30は、断面に現れるワイヤ36の本数(巻数)に応じた強度の磁界を周囲に発生させる。
【0033】
図6Aに示されるように、比較例に係る着磁方法は、12極の磁極16の各々に着磁コイル28を向かい合わせ、隣接する着磁コイル28の磁界発生方向を逆向きとする。比較例による着磁方法では、着目する着磁コイル28に対して、周方向に1つ離れた位置の鉛直配線38が発生させる磁界は、着磁方向に対して反対向きとなる。したがって、着磁コイル28の中心側では、着磁コイル28の磁界は、隣の鉛直配線38の磁界によって相殺され、磁界が弱められる。そのため、比較例の着磁方法は、ロータ12の中心部付近の磁石14を十分に着磁できない。
【0034】
これに対し、図6Bに示されるように、本実施形態の着磁装置10を用いた着磁方法では、着目する着磁コイル28と、周方向に1つ離れた位置の鉛直配線38の磁界とが同じ向きとなる。したがって、本実施形態の着磁装置10は、着磁用の磁界をロータ12の中心に近い部位に届けることができ、ロータ12のより中心に近い位置に埋め込まれた磁石14を効果的に磁化できる。
【0035】
図7Aに示されるように、補助配線30がない場合(比較例2)には隣接する着磁コイル28の磁束線は、短い経路を通過しようとする。そのため、第1着磁工程において、2つの着磁コイル28の磁界は、両者の間の着磁対象としない磁石14にも印加される。この磁界は、2回目以降の着磁工程で着磁したい方向と逆向きであり、着磁対象としない磁石14を、後の着磁で磁化させる方向と逆向きに磁化させる。逆向きの磁化は、後の着磁工程での磁化の妨げとなり、磁石14の磁力を弱める。
【0036】
これに対し、図7Bに示されるように、補助配線30は、最隣接の2つの鉛直配線38と逆向きに電流を流すことで、最隣接の2つの着磁コイル28を結ぶ磁界の一部を打ち消す。図示のように、着磁対象ではない磁石14の近傍では、着磁コイル28からの磁界は、補助配線30の磁界で相殺される。したがって、補助配線30は、着磁対象としない磁石14に対する逆向きの磁化を防止し、後の着磁工程による磁化率の低下を防止できる。
【0037】
その後、図5Bに示されるように、着磁方法は2回目の着磁工程に進む。2回目の着磁工程では、まずロータ12の回転が行われる。ロータ12は、周方向の第1方向(例えば反時計回り)に、磁極16の2つ分に相当する角度分、回転変位される。12極のロータ12であれば、周方向に60°回転変位する。着磁コイル28と向かい合う磁極16は、#3、#6、#9、#12となる。
【0038】
その後、第2着磁工程が行われる。第2着磁工程は、#3、#6、#9、#12の磁極16を構成する磁石14を磁化する。なお、第2着磁工程において、補助配線30は、第1着磁工程で磁化された#1、#4、#7、#10の磁極16に属する磁石14の減磁を防止する。
【0039】
その後、図5Cに示されるように、着磁方法は3回目の着磁工程に進む。3回目の着磁工程では、さらにロータ12が回転変位される。ロータ12は、周方向の第1方向(反時計回り)に、磁極16の2つ分に相当する角度分、回転変位される。その結果、着磁コイル28は、#2、#5、#8、#11の磁極16と向かい合う。
【0040】
その後、第3着磁工程が行われる。第3着磁工程は、#2、#5、#8、#11の磁極16に属する磁石14を着磁する。補助配線30は、それまでに磁化された磁石14の減磁を防止する。以上の工程により、全ての磁極16に属する磁石14に対して着磁が完了する。
【0041】
以上のように、本実施形態の着磁方法によれば、3回の着磁工程で全ての磁石14に対する着磁が完了する。
【0042】
以上の開示は、以下のようにまとめられる。
【0043】
一観点は、ロータ12に内蔵された複数の磁石14に着磁を行う着磁装置10であって、前記ロータを収容する収容部26を有し、前記ロータの周囲を囲むヨーク部材22と、前記ヨーク部材の前記収容部の周囲に周方向に複数配置され、中心線28aの向きが円形の半径方向を向く着磁コイル28と、隣接する2つの前記着磁コイルの前記周方向の中間に位置し、前記ロータの軸線方向に延びる複数の補助配線30と、を備え、前記周方向に隣接する一対の前記着磁コイルは、前記中心線に沿った発生磁界の向きが互いに反対向きであり、前記補助配線は、隣接する2つの前記着磁コイルの間を結ぶ磁界と反対向きの磁界を発生させる、着磁装置にある。
【0044】
上記の着磁装置は、着磁コイルへの供給電流を増加させずに、内径の深い位置の磁石を確実に着磁できるため、エネルギー効率に優れる。また、上記の着磁装置は、着磁コイルの発熱及び電磁力が抑制されることにより、着磁コイルの劣化を防止でき、装置の耐久性を向上させることができる。さらに、着磁装置は、補助配線で着磁対象ではない磁石に対する意図しない方向への磁化を防止できる。
【0045】
上記の着磁装置であって、前記補助配線の発生磁界は、前記着磁コイルの発生磁界よりも小さくてもよい。上記の着磁装置は、着磁対象とする磁極への影響を防ぎつつ、着磁対象ではない磁石に対する着磁コイルからの磁界を打ち消して、意図しない方向への磁化を防止できる。
【0046】
上記の着磁装置であって、前記補助配線及び前記着磁コイルは、1本の繋がったワイヤ36を巻き回して形成されており、前記補助配線に含まれる前記ワイヤの巻数は、前記着磁コイルに含まれる前記ワイヤの巻数よりも少なくてもよい。この着磁装置は、着磁対象とする磁極への影響を防ぎつつ、着磁対象ではない磁石に対する着磁コイルからの磁界を打ち消して、意図しない方向への磁化を防止できる。
【0047】
上記の着磁装置であって、前記着磁コイルの数は、前記ロータの磁極16の数よりも少なく、前記着磁コイルは、前記ロータの前記磁石に対して磁極を2つ飛ばしで配置されてもよい。この着磁装置は、3回の着磁工程で全ての磁石に対する着磁を終えることができるため生産性に優れる。
【0048】
上記の着磁装置であって、前記ロータの前記磁極を2つ飛ばしで配置された第1コイル28Aと、前記第1コイルの間の2つ磁極16の各々に向かい合って配置され、前記第1コイルよりも巻数の少ない2つの第2コイル30Aと、を有し、2つの前記第2コイルの隣接部位の鉛直配線31Aによって前記補助配線が構成され、前記第1コイルと、前記第1コイルの隣接部位の前記第2コイルの鉛直配線31Bと、によって前記着磁コイルが構成されてもよい。このような着磁装置は、短い結線で互いに接続された第1コイル及び第2コイルで着磁コイル及び補助配線を構成できるため、装置構成を簡素化できる。
【0049】
上記観点の着磁装置を用いた着磁方法であって、前記収容部に前記ロータを配置する工程と、前記着磁コイル及び前記補助配線に電流を流して、前記磁石に着磁磁界を印加する着磁工程と、を有し、前記着磁工程において、前記着磁コイルは、前記ロータの周方向に2極飛ばしで前記磁石に着磁用磁界を印加するとともに、前記補助配線は、隣接する2つの前記着磁コイルに挟まれた2極分の前記磁石に対する着磁予定方向と反対向きの磁界の印加を妨げてもよい。
【0050】
上記の着磁方法は、着磁コイルへの供給電流を増加させずに、内径の深い位置の磁石を確実に着磁できるため、エネルギー効率に優れる。また、上記の着磁方法は、着磁コイルの発熱及び電磁力が抑制されることにより、着磁コイルの劣化を防止でき、装置の耐久性を向上させることができる。さらに、着磁装置は、補助配線で着磁対象ではない磁石に対する意図しない方向への磁化を防止できる。
【0051】
上記の着磁方法であって、さらに、前記ロータを周方向の第1方向に2極分回転させる工程と、前記着磁コイル及び前記補助配線に電流を流して、2極分ずれた位置の前記磁石に着磁磁界を印加する第2着磁工程と、前記第2着磁工程の後に、さらに前記第1方向に前記ロータを2極分回転させる工程と、前記着磁コイル及び前記補助配線に電流を流して、2極分ずれた位置の前記磁石に着磁磁界を印加する第3着磁工程と、を有してもよい。この着磁方法は、3回の着磁工程で全ての磁石の着磁を行えるため、生産性に優れる。
【0052】
なお、本発明は、上記した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0053】
10…着磁装置 12、12A…ロータ
14…磁石 16…磁極
22…ヨーク部材 26…収容部
28…着磁コイル 30…補助配線
36…ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7