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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047608
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】シリンダ装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/08 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
F15B11/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153193
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】久保 大和
(72)【発明者】
【氏名】菅原 央道
【テーマコード(参考)】
3H089
【Fターム(参考)】
3H089AA86
3H089CC02
3H089DA02
3H089DA14
3H089DB13
3H089EE36
3H089GG02
(57)【要約】
【課題】本発明は、モータの動作点がモータの出力限界を超えていることを見極めて、モータの動作点を出力限界内に収め得るシリンダ装置の提供を目的とする。
【解決手段】シリンダ装置Aは、シリンダ2と、シリンダ2内を二つの作動室R1,R2に区画するピストン3と、並列して作動室同士R1,R2を連通する第1流路4と第2流路5と、第1流路4の途中に設けられた第1可変絞り弁6と、第2流路5の途中に直列に設けられる第2可変絞り弁7およびモータ8によって駆動される双方向吐出型のポンプ9とを有する液圧シリンダ1と、第1可変絞り弁6、第2可変絞り弁7およびモータ8を制御するコントローラ11とを備え、コントローラ11は、モータ8が制動状態であって動作点が出力限界を超えていると判断すると、動作点を出力限界内に収めるように第1可変絞り弁6と第2可変絞り弁7の一方または両方を制御する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダ内に移動自在に挿入されて前記シリンダ内を二つの作動室に区画するピストンと、互いに並列して前記作動室同士を連通する第1流路と第2流路と、前記第1流路に設けられた第1可変絞り弁と、前記第2流路に直列に設けられる第2可変絞り弁およびモータによって駆動される双方向吐出型のポンプとを有する液圧シリンダと、
前記第1可変絞り弁、前記第2可変絞り弁および前記モータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記モータの回転速度およびトルクと前記モータに電力供給する電源の電圧とに基づいて前記モータが制動状態であって前記モータの動作点が出力限界を超えていると判断すると、前記モータの動作点を前記出力限界内に収めるように前記第1可変絞り弁の絞り係数と前記第2可変絞り弁の絞り係数の一方または両方を制御する
ことを特徴とするシリンダ装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記モータの回転速度とトルクとに基づいて前記モータが制動状態であるか否かを判定する制動状態判定部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシリンダ装置としては、たとえば、車両の車体と車軸との間に介装されるアクティブサスペンション等に適用され、具体的には、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されてシリンダ内を二つの作動室に区画するピストンと、ピストンに連結されるロッドと、並列して二つの作動室を連通する第1流路および第2流路と、第1流路に設けられた第1可変絞り弁と、第2流路に直列に設けられた第2可変絞り弁および双方向吐出型のポンプと、ポンプを駆動するモータとを有する油圧シリンダと、第1可変絞り弁、第2可変絞り弁およびモータを制御する制御装置とを備えて構成されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、従来のシリンダ装置は、アクティブサスペンションとして使用される場合、シリンダが車体と車軸の一方に連結されるとともに、ロッドが車体と車軸の他方に連結され、ポンプをモータによって駆動することによって推力を発生して、車体の振動を抑制できる。
【0004】
さらに、従来のシリンダ装置では、油圧シリンダが外力によって強制的に伸縮させられる場合、第2流路を流れる作動油によってポンプが回転させられるため、モータが制動領域で使用されて発電して回生電力が発生する。このようにモータが制動領域で使用される場合、モータが発生するトルクによってポンプが作動油の流れに抵抗を与える。そのため、油圧シリンダは、外力による油圧シリンダの伸縮を妨げる推力が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-196597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、油圧シリンダが外力を受けて高速で伸縮して、ポンプを通過する流量が過大となってモータが高速で回転するような状況となると、モータの回転速度とトルクとの交点(モータの動作点)がモータの出力限界を超える領域に入ってしまう場合がある。このような状況になると、もはやモータの制御が不能となってしまうので、シリンダ装置が発生する推力を目標推力通りに制御できなくなる。
【0007】
従来のシリンダ装置では、第1可変絞り弁の絞り係数と第2可変絞り弁の絞り係数の調整によって、ポンプを通過する作動油量の調整とモータが負担するトルクを調整できるが、モータの動作点がモータの出力限界を超えているかについて具体的に見極めができない。
【0008】
そこで、本発明は、モータの動作点がモータの出力限界を超えていることを見極めて、モータの動作点を出力限界内に収めることができるシリンダ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段におけるシリンダ装置は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されてシリンダ内を二つの作動室に区画するピストンと、互いに並列して作動室同士を連通する第1流路と第2流路と、第1流路に設けられた第1可変絞り弁と、第2流路に直列に設けられる第2可変絞り弁およびモータによって駆動される双方向吐出型のポンプとを有する液圧シリンダと、第1可変絞り弁、第2可変絞り弁およびモータを制御するコントローラとを備え、コントローラは、モータの回転速度およびトルクとモータに電力供給する電源の電圧とに基づいてモータが制動状態であってモータの動作点が出力限界を超えていると判断すると、モータの動作点を出力限界内に収めるように第1可変絞り弁の絞り係数と第2可変絞り弁の絞り係数の一方または両方を制御する。
【0010】
このように構成されたシリンダ装置によれば、モータが制動状態であり、かつ、モータの動作点が出力限界内にないことを正確に把握することができ、モータの動作点が出力限界内にない場合にモータの動作点を出力限界内にいち早く復帰させることができる。
【0011】
また、シリンダ装置におけるコントローラは、モータの回転速度とトルクとに基づいてモータが制動状態であるか否かを判定する制動状態判定部を備えてもよい。このように構成されたシリンダ装置によれば、モータの回転速度とトルクとに基づいて回転速度トルク座標系においてモータの動作点が制動状態となる第2象限と第4象限に存在していることを精度よく判定でき、第2可変絞り弁の絞り係数を調整して回生効率を向上させる回生制御を実行する1つの条件の見極めを正確に行える。
【発明の効果】
【0012】
以上より、本発明のシリンダ装置によれば、モータの動作点がモータの出力限界を超えていることを見極めて、モータの動作点を出力限界内に収めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施の形態におけるシリンダ装置の概念図である。
図2図2は、一実施の形態におけるシリンダ装置の流量と差圧の関係を示したモデル図である。
図3図3は、モータの回転速度をポンプの通過流量に対応させるとともに、モータのトルクを液体がポンプを通過する際の差圧(圧力損失)に対応させたグラフである。
図4図4は、モータの回転速度と出力可能なトルクの範囲を示す図である。
図5図5は、コントローラの構成を示した図である。
図6図6は、復帰制御部の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態におけるシリンダ装置Aは、図1に示すように、液圧シリンダ1と、コントローラ11とを備えて構成されている。
【0015】
以下、シリンダ装置Aの各部について詳細に説明する。液圧シリンダ1は、図1に示すように、シリンダ2と、シリンダ2内に移動自在に挿入されてシリンダ2内を二つの作動室R1,R2に区画するピストン3と、互いに並列して作動室R1,R2同士を連通する第1流路4と第2流路5と、第1流路4に設けられた第1可変絞り弁6と、第2流路5に直列に設けられる第2可変絞り弁7およびモータ8によって駆動される双方向吐出型のポンプ9とを備えて構成され、シリンダ2内には液体が充填され密閉されている。また、ピストン3はシリンダ2内に移動自在に挿通されるロッド10に連結されており、この液圧シリンダ1の場合、シリンダ2の両端からロッド10が突出する、いわゆる、両ロッド型のシリンダ装置とされている。
【0016】
そして、液圧シリンダ1を車両に適用する場合、シリンダ2を車両のばね上部材およびばね下部材のうち一方に連結し、ロッド10をばね上部材およびばね下部材のうち他方に連結して、ばね上部材とばね下部材との間に介装すればよい。液圧シリンダ1は、車両に適用されて使用される場合、発揮する推力によってばね上部材である車両の車体とばね下部材である車両の車輪の振動を抑制する。
なお、本書では、ロッド10がピストン3とともにシリンダ2に対して図1中上方へ移動する場合に液圧シリンダ1が伸長作動すると言い、反対に、ロッド10がピストン3とともにシリンダ2に対して図1中下方へ移動する場合に液圧シリンダ1が収縮作動すると言う。なお、液圧シリンダ1は、図示したところでは、両ロッド型に設定されているが、片ロッド型に設定されてもよい。
【0017】
シリンダ2内は、前述したようにピストン3によって図1中上方の伸側の作動室R1と図1中下方の圧側の作動室R2とに区画されており、各作動室R1,R2内には作動油等の液体が充填されている。液体は、作動油の他にも水や水溶液といった他の液体であってもよい。なお、液圧シリンダ1は、前述したように両ロッド型の液圧シリンダとされており、シリンダ2に対してロッド10がピストン3とともに図1中上下方向に移動してもシリンダ2内でロッド10が押し退ける容積が変化しないため、ロッド10がシリンダ2内に出入りする体積の補償をするリザーバを備えていないが、液体の温度変化による体積変化を補償するためにシリンダ2内に連通されるアキュムレータを備えていてもよい。
【0018】
ポンプ9は、双方向吐出型に設定され、たとえば、ベーンポンプ、ギアポンプやアキシャルポンプ等、図示しない回転軸を備えて当該回転軸の回転によって流体を吸込んで吐出することができるとともに、逆に流体の流れによって回転軸を強制的に駆動することができるものであればよい。さらに、ポンプ9の回転軸は、モータ8に接続されており、モータ8は、通電によって駆動することができるとともに、ポンプ9側からの入力によって強制的に回転駆動させられると発電してポンプ9の回転を抑制するトルクを発生するモータであればよく、直流、交流を問わず、種々の形式のモータ、たとえば、ブラシレスモータ、誘導モータ、同期モータ等を採用することができる。
【0019】
液圧シリンダ1は、モータ8によってポンプ9を回転駆動して液体を伸側の作動室R1から圧側の作動室R2へ、あるいは、圧側の作動室R2から伸側の作動室R1へ第2流路5を介して送り込むことで、自発的に伸縮できるとともに、望む方向へ推力を発生することができる。また、液圧シリンダ1は、液圧シリンダ1が外部入力によって強制的に伸縮させられる場合、伸側の作動室R1から圧側の作動室R2へ、あるいは、圧側の作動室R2から伸側の作動室R1へ、第2流路5を介して移動する液体の流れにモータ8のトルクが伝達されるポンプ9で抵抗を与えて伸縮を妨げる方向に推力を発生することができる。
【0020】
さらに、液圧シリンダ1が強制的に伸縮させられる場合、第2流路5を行き来する液体の流れによってポンプ9を介してモータ8が強制的に駆動されるため、モータ8によって液体の運動エネルギが電気エネルギに変換されて電力回生できる。なお、モータ8によって回生した電力は、外部機器へ送電してもよいし、蓄電器に蓄電するようにしてもよい。
【0021】
転じて、第1可変絞り弁6は、ポンプ9を迂回して作動室R1,R2同士を連通する第1流路4に設けられており、第2可変絞り弁7は、ポンプ9とともに第2流路5に設けられている。よって、第1可変絞り弁6は、第2可変絞り弁7およびポンプ9に対して並列に配置されている。これら第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7は、開度や弁通路長を変更することで、圧力損失に対する通過流量の比である絞り係数を変更することができるようになっており、具体的にはたとえば、可変チョークや可変オリフィスといった種々の弁を使用することができ、また、図示しない弁体をソレノイドやモータ等の駆動源で駆動することによって絞り係数を変更できるようになっている。これら第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7における絞り係数を変更する駆動源はコントローラ11によって制御される。
【0022】
なお、ポンプ9と第2可変絞り弁7の配置関係であるが、ポンプ9は作動室R1と作動室R2のいずれに側に配置してもよい。また、シリンダ2内に充填される流体は、たとえば、油、水、水溶液、気体等、どのような流体を使用しても良い。
【0023】
さて、このように構成された液圧シリンダ1は、モータ8にコントローラ11側から電力供給してポンプ9を駆動させる場合には、自ら伸縮するアクチュエータとして機能することができるが、反対に、外力を受けて液圧シリンダ1が伸縮させられる場合、モータ8のトルクでポンプ9の回転を抑制する、すなわち、モータ8を制動領域で使用してモータ8にポンプ9の回転方向とは逆のトルクを発生させるようにし、モータ8、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7とで協働して減衰力を発生できる。そして、モータ8を制動領域で使用する際、これら第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数を調節することによってモータ8の回転速度とトルクをコントロールすることが可能である。
【0024】
なお、モータ8に電流を与えてポンプ9を駆動する、つまり、モータ8を力行領域で使用して、液圧シリンダ1をアクチュエータとして機能させる場合、第1可変絞り弁6を全閉として第1流路4を介しての作動室R1,R2同士が連通されないようにしつつ、第2可変絞り弁7を全開として第2可変絞り弁7によって液体の流れに無用な抵抗を与えてエネルギ損失を生じないようにする。
【0025】
ここで、液圧シリンダ1が外力で伸縮させられる場合におけるモータ8の負荷(回転速度とトルク)のコントロールについて、図2に示すモデル図を使用して説明する。なお、ポンプ9は、モータ8から伝達されるトルクによって液体の流れに抵抗を与え、液体通過時に圧力損失を生じさせることから、可変絞り弁と同等に取り扱うことができるため、図2中では、モータ8およびポンプ9を一つの可変絞り弁Mとして記載している。
【0026】
そして、液圧シリンダ1の伸縮時における一方の作動室R1と他方の作動室R2との差圧をΔPとし、一方の作動室R1から流出する流体の単位時間当たりの流量(以下、単に流量という)をQとし、第1可変絞り弁6を通過する流体の流量q1を第1可変絞り弁6で生じる差圧(圧力損失)ΔPで除した比である絞り係数をC1とし、第2可変絞り弁7を通過する流体の流量q2を第2可変絞り弁7で生じる差圧(圧力損失)Δp2で除した比である絞り係数をC2とし、モータ8とポンプ9でなる可変絞り弁Mを通過する流体の流量q2を可変絞り弁Mで生じる差圧(圧力損失)Δpmで除した比である絞り係数をC3とすると、下記(1)式が得られる。
【0027】
【数1】
【0028】
ここで、C=C2×C3/(C2+C3)とおくと、(1)式は下記(2)式と書くことができる。
【0029】
【数2】
【0030】
さらに、全体の流量Q=q1+q2が成り立ち、第1可変絞り弁6で生じる差圧ΔPは、第2可変絞り弁7とモータ8とポンプ9でなる可変絞り弁Mの全体で生じる差圧に等しいので、以下の(3)式が成立する。
【0031】
【数3】
【0032】
(3)式を(2)式に代入してまとめると、以下の(4)式を得る。
【0033】
【数4】
【0034】
そして、上記(4)式から理解できるように、流量Qおよび差圧ΔPを変化させない場合、絞り係数C1を変更することで、流量q2を変更することができる。
【0035】
つまり、絞り係数C1を変更することによってポンプ9を迂回する第1可変絞り弁6における流量q1を調整することで、可変絞り弁Mを通過する流量q2を変更することができ、たとえば、第1可変絞り弁6を全閉状態から全開状態に移行する場合、流量q2を増減させて、モータ8の回転速度を増減させることができる。
【0036】
また、第2可変絞り弁7と可変絞り弁Mにおける流量はq2であり、全体の差圧はΔPであり、可変絞り弁Mにおける差圧(圧力損失)はΔpmであり、第2可変絞り弁7と可変絞り弁Mの合成絞り係数Cは、上述のようにC=C2×C3/(C2+C3)となるため、第2可変絞り弁7と可変絞り弁Mにのみ着目して整理すると、下記(5)式を得る。
【0037】
【数5】
【0038】
そして、上記(5)式から理解できるように、流量q2および差圧ΔPを変化させない場合、絞り係数C2を変更することで、可変絞り弁Mにおける差圧Δpmを変更することができる。
【0039】
つまり、絞り係数C2を変更することによってポンプ9を流体が通過する際に生じる差圧Δpmを変更することができ、たとえば、第2可変絞り弁7を全閉状態から全開状態に移行する場合、差圧Δpmを増減させて、モータ8で負担すべきトルクを増減させることができる。
【0040】
以上のことを、流量Qおよび差圧ΔPを一定にした状態において、モータ8の回転速度をポンプ9の通過流量に対応させるとともに、モータ8のトルクを流体がポンプ9を通過する際の差圧(圧力損失)に対応させた図3に示すグラフを参照して説明すると、第2可変絞り弁7の絞り係数C2を変更することでモータ8の負担すべきトルク(負担トルク)を縦軸に沿って調節でき、第1可変絞り弁6の絞り係数C1を変更することでモータ8の回転速度を横軸に沿って調節することができるということになる。モータ8の負担トルクは、モータ8とポンプ9との間で作用するトルクであり、シリンダ装置Aが所望の推力を出力するためにモータ8からポンプ9に加える必要があるトルクと看做すことができる。なお、本書では、液圧シリンダ1が自発的に伸縮している場合であっても負担トルクという名称を用いる。
【0041】
詳しくは、図3中の点aは、第2可変絞り弁7を全開にして絞り係数C2を最大にし、第1可変絞り弁6を全閉にして絞り係数C1を最小にした状態におけるモータ8の回転速度と負担トルクとの関係を示し、点bは、第2可変絞り弁7を全開にして絞り係数C2を最大にし、第1可変絞り弁6を全開にして絞り係数C1を最大にした状態におけるモータ8の回転速度と負担トルクとの関係を示し、点cは、第2可変絞り弁7を全閉にして絞り係数C2を最小にし、第1可変絞り弁6を全閉にして絞り係数C1を最小にした状態におけるモータ8の回転速度と負担トルクとの関係を示し、点dは、第2可変絞り弁7を全閉にして絞り係数C2を最小にし、第1可変絞り弁6を全開にして絞り係数C1を最大にした状態におけるモータ8の回転速度と負担トルクとの関係を示している。すなわち、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7における絞り係数C1,C2を変更することで点a,b,c,dで囲まれる範囲でモータ8の回転速度と負担トルクを調節することができる。
【0042】
具体的には、モータ8の回転速度と負担トルクの交点(モータの動作点)が点aにあるときに、第1可変絞り弁6における絞り係数C1を大きくしていくと、点b側へシフトさせることができ、第2可変絞り弁7における絞り係数C2を小さくしていくと、点c側へシフトさせることができ、第1可変絞り弁6における絞り係数C1を大きくし第2可変絞り弁7における絞り係数C2を小さくしていくと点d側へシフトさせることができるのである。つまり、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数を制御することで、モータ8の回転速度と負担トルクをコントロールすることができるのである。
【0043】
なお、図3の説明において流量Qおよび差圧ΔPを一定にした状態を仮定しているため、モータ8の負担トルクが0であるのに回転している状態や回転速度が0であるのに負担トルクがある状態は生じないので、点bと点dを結ぶ線および点dと点cを結ぶ線は、モータ8の動作点が採りえる範囲の境界を示しており、モータ8の動作点は、上記線上の値を採ることは無い。
【0044】
ところで、モータ8の任意の回転速度に対して出力することが可能な負担トルク範囲は、図4に示すように、負担トルクを縦軸に採り回転速度を横軸に採った回転速度トルク座標系において、第1象限および第2象限における横軸に平行な直線j1と、直線j1に連なる曲線k1,k2と、第3象限および第4象限における横軸に平行な直線j2と、直線j2に連なる曲線k3,k4と、で囲まれた領域となる。なお、直線j1,j2は、モータ8の負担トルクの上限を示しており、コントローラ11内に設けられる図示しない電流リミッタによって電流が制限されることに起因して生じる境界である。曲線k1,k2,k3,k4もまた、その時の回転速度においてモータ8が出力可能な負担トルクの領域と出力不可能な負担トルクの領域とを仕切る線であり、電源Batの電圧、モータ8の誘起電力等の特性によって決せられる境界線である。なお、図4では、モータ8が正転方向のトルクの符号を正とするとともに逆転方向のトルクの符号を負とし、モータ8が正転方向に回転する場合の回転速度の符号を正とするとともに逆転方向のトルクの符号を負としている。
【0045】
この図4から理解できるように、モータ8は、各象限にて回転速度が高くなればなるほど出力可能な負担トルクの上限が小さくなる。すなわち、第1可変絞り弁6を閉弁して第1流路4を遮断して作動室R1,R2を行き交う液体の全流量をポンプ9に流す場合、液圧シリンダ1の伸縮速度が高くなればなるほど、モータ8の回転速度も高くなり出力可能な負担トルクが小さくなることになる。
【0046】
また、第2象限の回転速度が負で負担トルクが正である領域および第4象限の回転速度が正で負担トルクが負である領域では、モータ8は電力回生を行うことができる制動領域で動作しており、第1象限の回転速度が正で負担トルクが正である領域および第3象限の回転速度が負で負担トルクが負である領域では、モータ8は、電力を消費して力行する力行領域で動作していることを示している。よって、モータ8は、制動領域で動作している場合に制動状態にあり、力行領域で動作している場合に力行状態にある。
【0047】
そして、直線j1と直線j1に連なる曲線k1,k2とでなる線と、直線j2と直線j2に連なる曲線k3,k4とでなる線とは、回転速度トルク座標系においてモータ8の出力限界を示しており、第2象限および第4象限においてモータ8の回転速度とトルクの交点である動作点が出力限界を超える領域Xにあると、モータ8が制御不能な状態となっていることを示している。また、モータ8の動作点が出力限界内の領域Yにある場合には、モータ8がその時の回転速度において所望のトルクを発生可能であるので、モータ8は制御可能な状態となっていることを示している。
【0048】
ここで、図3に示すように、第1可変絞り弁6の絞り係数を大きくすることによりモータ8の回転速度を低下させることができ、第2可変絞り弁7の絞り係数を小さくすることによりモータ8が負担するトルクを低下させることができる。よって、モータ8の動作点が第2象限および第4象限にあってモータ8が制動状態であって、モータ8の動作点が出力限界を超えて領域Xにある場合、第1可変絞り弁6の絞り係数と第2可変絞り弁7の絞り係数の一方または両方を調整することで、モータ8の動作点を領域Xから制御可能な領域Yへ移動させて、モータ8を正常に制御できる状態へ復帰させ得る。
【0049】
そこで、コントローラ11は、図5に示すように、上位の制御装置からの液圧シリンダ1の目標推力を指示する推力指令を受けてモータ8を制御する推力制御部20の他に、第1可変絞り弁6の絞り係数および第2可変絞り弁7の絞り係数を制御してモータ8の動作点を制御可能な領域Yに復帰させる復帰制御部21を備えている。
【0050】
推力制御部20は、上位の制御装置から液圧シリンダ1の目標推力を指示する推力指令を受けるとモータ8に供給すべき目標電流を求めて当該目標電流を指示する電流指令を出力する電流指令生成部20aと、電流指令生成部20aが生成した電流指令を受け取るとモータ8に流れる電流をフィードバックしてモータ8に流れる電流を目標電流通りに制御するモータ制御部20bとを備えている。本実施の形態では、液圧シリンダ1を車両に適用して、上位の制御装置は、主としてばね上部材としての車体の振動の抑制と目的して液圧シリンダ1に発生するべき推力を求める。なお、推力指令は、車体の振動の低減のみならずばね下部材としての車輪の振動の抑制の低減も可能となるように求められてもよい。また、推力制御部20は、上位の制御装置から推力指令を入手するのではなく、車両における車体、或いは車体および車輪の振動情報を検知するか、或いはこれらの振動情報を車両から受け取って、自ら推力指令を求めてもよい。
【0051】
電流指令生成部20aは、たとえば、液圧シリンダ1が発生している実推力をフィードバックして、推力指令が指示する目標推力と実推力との制御偏差を比例積分微分補償して、モータ8に出力させるべきトルクに応じた目標電流を求める演算処理を行う。なお、液圧シリンダ1の推力は、作動室R1の圧力を検知する圧力センサ25aと、作動室R2の圧力を検知する圧力センサ25bと、作動室R1の圧力と作動室R2の圧力との差にピストン3の受圧面積を乗じて液圧シリンダ1が発生している推力を求める演算部25cとを備えた実推力検知部25から電流指令生成部20aに入力される。電流指令生成部20aは、推力指令から目標電流を求めて電流指令を生成できる限りにおいて、どのように構成されてもよい。また、液圧シリンダ1が発生する推力は、ロッド10に設けられれる荷重の検知によって把握できるので、実推力検知部25はロッド10に作用する荷重を検知するセンサとされてもよい。また、推力制御部20は、実際に液圧シリンダ1が出力している推力を検知するのではなく、前述の圧力や荷重の検知に代えて、たとえば、第1可変絞り弁6、第2可変絞り弁7における絞り係数、モータ8の回転速度、トルクといった液圧シリンダ1の状態量を検知して、当該状態量から液圧シリンダ1の推力を推定するオブザーバを備えてもよい。また、車体と車軸とに取り付けられた加速度センサの情報から液圧シリンダ1の実推力を推定してもよく、シリンダ装置Aの制御以外の用途に使用されるセンサの情報を用いて液圧シリンダ1の実推力を推定してもよい。この場合、電流指令生成部20aはオブザーバが推定した推力をフィードバックして目標電流を求めてもよい。モータ制御部20bは、モータ8の形式によってモータ8の電流制御に適した駆動回路を備えて、電流指令に従ってモータ8の電流を制御可能であればよい。
【0052】
復帰制御部21は、モータ8の回転速度とトルクとを監視しつつ第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7を制御する。モータ8の回転速度については、モータ8が図示しないロータの回転位置を検知可能なレゾルバ等のセンサを備えている場合には、当該センサが検知するロータの回転位置情報から得ればよい。また、モータ8の回転速度をサスペンションのストローク変位の情報から推定してもよい。モータ8のトルクについてはモータ8をDCモータ或いはDCモータと等価なモータとする場合にはモータ8に流れる電流に比例するから電流をそのままトルクと看做すことができ、モータ8の電流を検知するセンサをモータ制御部20bが備えているので、モータ制御部20bから電流値を入手してモータ8のトルクとして利用すればよい。なお、復帰制御部21は、モータ8の回転速度を検知するセンサと、モータ8のトルクを検知するセンサ或いはモータ8の電流を検知するセンサを個別に備えていてもよい。復帰制御部21は、モータ8の回転速度とトルクとを所定の演算周期で順次取り込み、取り込んだ回転速度とトルクとを処理する。復帰制御部21は、モータ8のトルクを処理するが、前述したように、モータ8に流れる電流をトルクと看做すことができるので、モータ8に流れる電流をトルクとして取り扱って処理すればよい。
【0053】
復帰制御部21は、モータ8の動作状態が制動状態であり、モータ8の動作点が第2象限或いは第4象限中にあって出力限界を超えて領域Xに位置していることを条件として、モータ8を正常に制御可能な領域Yにモータ8の動作点を移動させる復帰制御を行う。他方、モータ8が力行状態であるか或いは制動状態でも前記条件を満たしておらず、復帰制御を行う条件が整っていない場合、モータ8を正常に制御可能な状態であるにもかかわらず、第1可変絞り弁6の流路面積が大きいと作動室R1と作動室R2の圧力差が小さくなって液圧シリンダ1が発生する推力が小さくなるとともにモータ8で消費するエネルギも高くなってしまう。よって、復帰制御を行う条件が整っていない場合、復帰制御部21は、基本的には、モータ8の動作状態によらず第1可変絞り弁6の絞り係数を最小値に固定して、第1可変絞り弁6を閉弁或いは流路面積を小さくするように制御して、第1流路4を通過する液体の流量を0或いはごく少量に制限させる。また、第2可変絞り弁7は、ポンプ9と直列に第2流路5に設けられておりポンプ9の動作に対して抵抗となってしまうため、復帰制御を行う条件が整っていない場合には、復帰制御部21は、ポンプ9が吐出する液体の通過を第2可変絞り弁7が妨げないように、第2可変絞り弁7の絞り係数を最大とする。
【0054】
以下、復帰制御部21について詳細に説明する。復帰制御部21は、モータ8の回転速度からばね下共振周波数以上の成分を除去してフィルタ処理後回転速度を出力する第1フィルタ30aとモータ8のトルクからばね下共振周波数以上の成分を除去してフィルタ処理後トルクを出力する第2フィルタ30bとを備えたフィルタ処理部30と、フィルタ処理後回転速度とフィルタ処理後トルクとに基づいてモータ8が制動状態であるか否かを判定する制動状態判定部31と、モータ8の動作点が出力限界を超えているか否かを判定する動作点位置判定部32と、制動状態判定部31の判定結果と動作点位置判定部32の判定結果との判定結果に基づいて第1可変絞り弁6の目標絞り係数と第2可変絞り弁7の目標絞り係数とを絞り係数演算部33と、絞り係数演算部33が求めた目標絞り係数を指示する指令を受けて第1可変絞り弁6における図外の駆動源と第2可変絞り弁7における図外の駆動源に供給する電流を制御する駆動回路34とを備えて構成されている。
【0055】
フィルタ処理部30は、モータ8の回転速度のばね下共振周波数帯以上の成分を除去してフィルタ処理後回転速度を出力する第1フィルタ30aと、モータ8のトルクのばね下共振周波数帯以上の成分を除去してフィルタ処理後トルクを出力する第2フィルタ30bとを備えている。フィルタ処理部30は、順次入力されるモータ8の回転速度とトルクを処理してフィルタ処理後回転速度とフィルタ処理後トルクの信号を出力する。
【0056】
ここで、液圧シリンダ1が車両におけるばね上部材である車体とばね下部材である車輪との間に介装されて使用される場合、液圧シリンダ1は、車体と車輪との相対移動によって伸縮するため、液圧シリンダ1には車体および車輪の振動が入力される。液圧シリンダ1に入力される振動によって、第2流路5におけるポンプ9を通過する液体の流量も変化するので、モータ8の回転速度およびトルクも変動する。よって、フィルタ処理部30で処理する前のモータ8の回転速度およびトルクには、車輪の共振周波数帯の高周波成分や高周波ノイズが重畳している。
【0057】
そのため、フィルタ処理部30による処理を行わない場合、モータ8の動作点は、高周波で振動的に推移するので、後に続く、モータ8の動作状態の判定等の処理でハンチングが生じる可能性がある。そのため、第1フィルタ30aおよび第2フィルタ30bは、本実施の形態では、ばね上部材の共振周波数成分の抽出が可能なようにバンドパスフィルタとされている。ばね上部材の共振周波数帯は、1Hz~2Hz程度であるので、第1フィルタ30aおよび第2フィルタ30bは、1Hz~2Hzの成分を抽出できる特性となるように設定される。
【0058】
このように、本実施の形態のシリンダ装置Aでは、モータ8の回転速度およびトルクがフィルタ処理部30によって処理されてモータ8の回転速度およびトルクから高周波のばね下共振周波数以上の成分が除去されるので、車両におけるばね上部材の振動に応じてモータ8の制動状態を精度良く把握できるようになり、復帰制御部21による第1可変絞り弁6の絞り係数および第2可変絞り弁7の絞り係数を適切に制御できるようになる。なお、フィルタ処理部30における第1フィルタ30aおよび第2フィルタ30bは、ばね上共振周波数帯の成分を抽出するフィルタとされているが、少なくともばね下共振周波数帯以上の成分を除去可能なローパスフィルタであってもよい。このように、第1フィルタ30aおよび第2フィルタ30bがばね下共振周波数帯以上の成分を除去可能なローパスフィルタとされても、ばね下部材の振動やノイズを回転速度およびトルクの信号から取り除いて、モータ8の制動状態を精度良く把握できるようになり、第1可変絞り弁制御部22による第1可変絞り弁6の絞り係数を適切に制御できるようになる。なお、フィルタ処理部30における第1フィルタ30aおよび第2フィルタ30bを設けることで、モータ8の制動状態を精度良く把握できるようになるが、第1フィルタ30aおよび第2フィルタ30bを省略することも可能である。
【0059】
つづいて、制動状態判定部31は、フィルタ処理後回転速度とフィルタ処理後トルクとに基づいてモータ8が制動状態であるか否かを判定する。具体的には、制動状態判定部31は、フィルタ処理後回転速度の符号とフィルタ処理後トルクの符号とから、モータ8の動作点が図4中でどの象限にあるのかを判断して、モータ8が制動状態と力行状態の何れであるのかを判定する。制動状態判定部31は、モータ8の動作状態を判定した後、判定結果を絞り係数演算部33に入力する。
【0060】
詳細には、制動状態判定部31は、フィルタ処理後回転速度が正であってフィルタ処理後トルクが正である場合、つまり、フィルタ処理後回転速度をωfとし、フィルタ処理後トルクをTfとすると、ωf≧0かつTf≧0である場合、モータ8の動作点が図4中第1象限の力行領域にあると判断して、モータ8の動作状態を第1象限における力行状態であると判定する。
【0061】
また、制動状態判定部31は、フィルタ処理後回転速度が負であってフィルタ処理後トルクが正である場合、つまり、ωf<0かつTf≧0である場合、モータ8の動作点が図4中第2象限の制動領域にあると判断して、モータ8の動作状態を第2象限における制動状態であると判定する。
【0062】
さらに、制動状態判定部31は、フィルタ処理後回転速度が負であってフィルタ処理後トルクが負である場合、ωf<0かつTf<0である場合、モータ8の動作点が図4中第3象限の力行領域にあると判断して、モータ8の動作状態を第3象限における力行状態であると判定する。
【0063】
そして、制動状態判定部31は、フィルタ処理後回転速度が正であってフィルタ処理後トルクが負である場合、つまり、ωf≧0かつTf<0である場合、モータ8の動作点が図4中第4象限の制動領域にあると判断して、モータ8の動作状態を第4象限における制動状態であると判定する。
【0064】
このように、制動状態判定部31は、ωfの値が正である負であるか、およびTfの値が正であるか負であるのかを判断して、モータ8の動作点が4つの象限の何れに当てはまるのかを判断して、モータ8の動作状態が制動状態であるか力行状態であるかを判断する。
【0065】
動作点位置判定部32は、フィルタ処理後回転速度とフィルタ処理後トルクとに基づいてモータ8の動作点が領域X或いは領域Yにあるか否かを判定して、判定結果を絞り係数演算部33に入力する。
【0066】
ここで、モータ8をブラシレスDCモータとして、モータ8の巻線に印可されるq軸電圧をvpとし、モータ8の巻線に印可されるd軸電圧をvdとし、モータ8の巻線のq軸電流をipとし、モータ8の巻線のd軸電流をidとし、モータ8の巻線のq軸インダクタンスをLqとし、モータ8の巻線のd軸インダクタンスをLdとし、モータ8の巻線の抵抗をRとし、モータ8のトルク定数をKmとし、モータ8の誘起電圧定数をKeとし、モータ8の慣性モーメントをImとし、モータ8の回転速度から角速度へ変換する係数をKωとし、モータ8の回転速度をωmとし、モータ8の発生トルクをTmとし、モータ8の負担トルクをTlとし、モータ8の粘性抵抗をCmとし、ラプラス演算子をsとし、モータ8が定常状態であって回転速度に変化がないものとすると、モータ8における電圧方程式、トルク方程式および運動方程式は、それぞれ、以下の式6、式7および式8で表すことができる。
【0067】
【数6】
【0068】
【数7】
【0069】
【数8】
【0070】
また、トルク定数Ktと誘起電圧定数Keは、ともに等しいため、以下の式では区別せず、Kmと記述する。ここで、モータ8が定常状態であり、かつ、d軸電流が0であるとかていすると、式6、式7および式8は、以下のように書き換えられる。
【0071】
【数9】
【0072】
【数10】
【0073】
【数11】
【0074】
【数12】
【0075】
また、q軸電圧vqとd軸電圧の大きさと、モータ8に電力供給を行う電源Batの電圧Vbatの関係は以下の式13で表される。
【0076】
【数13】
【0077】
式9から式12を式13に代入して整理すると、電源Batの電圧Vbat、モータ8の負担トルクTlおよびモータ8の回転速度ωmとの関係は、以下の式で表せられる。
【0078】
【数14】
【0079】
この式14は、電源Batの電圧Vbatによって決まるモータ8が出力可能なトルクと出力できないトルクとの境を示す曲線、つまり、モータ8の出力限界を示す曲線を示している。また、式14の左辺は、モータ8の回転速度とトルク以外のパラメータについては変動しない既知の値であるからをモータ8の回転速度とトルクとに依存して値を変化させる。よって、式14の左辺にモータ8の回転速度とトルクとの値を代入した際に、この左辺の値が右辺の値よりも大きい場合、モータ8の動作点が出力限界を超えた領域X内に存在していることを示し、反対に左辺の値が右辺の値以下である場合、モータ8の動作点がモータ8を正常に制御可能な領域Y内に存在していることを示す。
【0080】
以上より、以下の式15の左辺にモータ8の回転速度とトルクを代入して、式15が成り立つ場合には、モータ8の動作点が出力限界を超えた領域X内に存在しており、式15が成り立たない場合には、モータ8の動作点がモータ8を正常に制御可能な領域Y内に存在していることが解る。
【0081】
【数15】
【0082】
そこで、動作点位置判定部32は、フィルタ処理後回転速度とフィルタ処理後トルクとを式15に代入して、式15が成り立つ場合、モータ8の動作点が領域Xに存在すると判定し、式15が成り立たない場合、モータ8の動作点が領域Yに存在すると判定する。なお、式15の演算にあたって電源Batの電圧ついては設計値を利用すればよいが、電源Batの電圧をモニタする電圧センサを設けておき、動作点位置判定部32は、電圧センサで検知する電源Batの電圧の情報を取り込んで式15に代入してモータ8の動作点が領域Xに存在するか否かを判定してもよい。このように電源Batの電圧をモニタする場合、電圧の変動によってモータ8の出力限界が変動しても、この変動に対応して精度よくモータ8の動作点が領域Xに存在しているか否かを判定できる。
【0083】
絞り係数演算部33は、制動状態判定部31の判定結果がモータ8の動作状態が制動状態であって、動作点位置判定部32の判定結果がモータ8の動作点が領域Xに存在しているとの判定である場合、モータ8の回転速度とトルクを低下させてモータ8の動作点を領域Xから領域Yへ移動させるため、第1可変絞り弁6の絞り係数を低下させる目標絞り係数と、第2可変絞り弁7の絞り係数を低下させる目標絞り係数を求める。
【0084】
具体的には、第1可変絞り弁6の絞り係数よりも第2可変絞り弁7の絞り係数を優先的に変化させる場合、絞り係数演算部33は、第1可変絞り弁6の絞り係数については最小に維持して、モータ8の回転速度を固定して、式14を用いてモータ8の動作点が出力限界未満になるトルクを求める。このようにして求めたトルクは、モータ8のその時の回転速度において動作点が領域Yに入るために要求されるトルクの上限値である。モータ8のトルクを上限値にすると、モータ8の動作点が領域Yと領域Xとを行き来する可能性があるため、絞り係数演算部33は、求めたトルクが正である場合には求めたトルクから正の値の一定のマージンを差し引いて目標トルクを求め、求めたトルクが正である場合には求めたトルクから正の値の一定のマージンを加算して目標トルクを求める。そして、絞り係数演算部33は、モータ8のトルクが求めた目標トルクになるような第2可変絞り弁7の絞り係数を求め、この求めた絞り係数を第2可変絞り弁7の目標絞り係数とする。絞り係数演算部33は、第1可変絞り弁6の目標絞り係数についてはモータ8が力行状態である場合に採用される制御上採り得る最小の絞り係数とすればよい。
【0085】
また、第2可変絞り弁7の絞り係数よりも第1可変絞り弁6の絞り係数を優先的に変化させる場合、絞り係数演算部33は、第2可変絞り弁7の絞り係数については最大に維持して、モータ8のトルクを固定して、式14を用いてモータ8の動作点が出力限界未満になる回転速度を求める。このようにして求めた回転速度は、モータ8のその時のトルクにおいて動作点が領域Yに入るために要求される回転速度の上限値である。モータ8の回転速度を上限値にすると、モータ8の動作点が領域Yと領域Xとを行き来する可能性があるため、絞り係数演算部33は、求めた回転速度が正である場合には求めた回転速度から正の値の一定のマージンを差し引いて目標回転速度を求め、求めた回転速度が正である場合には求めた回転速度から正の値のマージンを加算して目標回転速度を求める。そして、絞り係数演算部33は、モータ8の回転速度が求めた目標回転速度になるような第1可変絞り弁6の絞り係数を求め、この求めた絞り係数を第1可変絞り弁6の目標絞り係数とする。絞り係数演算部33は、第2可変絞り弁7の目標絞り係数についてはモータ8が力行状態である場合に採用される制御上採り得る最大の絞り係数とすればよい。
【0086】
さらに、第1可変絞り弁6の絞り係数と第2可変絞り弁7の絞り係数との両方を変化させる場合、絞り係数演算部33は、第1可変絞り弁6の絞り係数を予め決められた目標絞り係数にし、このように第1可変絞り弁6の絞り係数を変化させてモータ8の回転速度を低下させる場合に想定されるモータ8の回転速度を式14に代入して、前述と同じように目標トルクを求めて、目標トルクから第2可変絞り弁7の目標絞り係数を求めるようにすればよい。また、逆に、絞り係数演算部33は、第2可変絞り弁7の絞り係数を予め決められた目標絞り係数にし、このように第2可変絞り弁7の絞り係数を変化させてモータ8のトルクを低下させる場合に想定されるモータ8のトルクを式14に代入して、前述と同じように目標回転速度を求めて、目標回転速度から第1可変絞り弁6の目標絞り係数を求めるようにすればよい。
【0087】
他方、絞り係数演算部33は、制動状態判定部31の判定結果がモータ8の動作状態が力行状態である場合、或いは、動作点位置判定部32の判定結果がモータ8の動作点が領域Xに存在せず領域Yに存在していると判定される場合、絞り係数演算部33は、第1可変絞り弁6の最小の絞り係数を目標絞り係数に設定してモータ8のエネルギ消費を少なくし、ポンプ9の駆動の妨げにならないように第2可変絞り弁7の制御上で採りえる最大の絞り係数を目標絞り係数に設定する。
【0088】
絞り係数演算部33が求めた目標絞り係数は、駆動回路34に入力される。駆動回路34は、第1可変絞り弁6の絞り係数と第2可変絞り弁7の絞り係数を目標絞り係数通りになるように第1可変絞り弁6の図外の駆動源および第2可変絞り弁7の図外の駆動源に電流を与えて第2可変絞り弁7の絞り係数を調整する。
【0089】
このように、モータ8の動作状態が制動状態であり、モータ8の動作点が第2象限或いは第4象限中にあって出力限界を超えて領域Xに位置している場合、復帰制御部21は、復帰制御を行って第1可変絞り弁6の絞り係数と第2可変絞り弁7の絞り係数との一方または両方を小さくする。復帰制御部21が復帰制御を行って第1可変絞り弁6の絞り係数と第2可変絞り弁7の絞り係数との一方または両方を小さくすると、モータ8の動作点が回転速度トルク座標系の縦軸或いは横軸の一方または両方に近づくように移動して、モータ8が制御不可能な領域Xからモータ8が制御可能な領域Yへモータ8の動作点が移動する。よって、モータ8を正常に制御できる状態に復帰して、推力制御部20が目標推力通りに液圧シリンダ1に推力を発生させることができる状態に復帰する。
【0090】
以上のように構成されたコントローラ11は、図6に示したフローチャートにしたがって、第2可変絞り弁7の絞り係数の制御を行う。まず、コントローラ11は、モータ8の回転速度とモータ8に流れるトルクとを検知する(ステップF1)。つづいて、コントローラ11は、モータ8の回転速度とトルクとをフィルタ処理して、フィルタ処理後回転速度とフィルタ処理後トルクとを得る(ステップF2)。
【0091】
さらに、コントローラ11は、フィルタ処理後回転速度とフィルタ処理後トルクとからモータ8の動作状態が制動状態であるか否かを判定する(ステップF3)。つづいて、モータ8の動作状態が制動状態である場合、コントローラ11は、モータ8の動作点が領域Xに存在しているか否かを判定する(ステップF4)。そして、ステップF3およびステップF4の判定で、モータ8が制動状態であって、かつ、モータ8の動作点が領域Xに存在していると判定される場合、コントローラ11は、モータ8の動作点を領域Xから領域Yへ移動させるために必要な第1可変絞り弁6の目標絞り係数と第2可変絞り弁7の目標絞り係数を求めて(ステップF5)、目標絞り係数を求めた絞り係数に設定する(ステップF6)。ステップF3およびステップF4の判定で、モータ8が力行状態であるか、或いは、モータ8の動作点が領域Xに存在していないと判定される場合、コントローラ11は、第1可変絞り弁6が制御上採りえる最小の絞り係数を第1可変絞り弁6の目標絞り係数に設定し、第2可変絞り弁7が制御上採りえる最大の絞り係数を第2可変絞り弁7の目標絞り係数に設定する(ステップF7)。目標絞り係数の設定が完了すると、コントローラ11は、駆動回路34から電流を第1可変絞り弁6の駆動源と第2可変絞り弁7の駆動源とに供給して第1可変絞り弁6の絞り係数と第2可変絞り弁7の絞り係数とがそれぞれ対応する目標絞り係数となるように制御する(ステップF8)。
【0092】
コントローラ11は、以上までの処理を繰り返して実行して、第1可変絞り弁6の絞り係数と第2可変絞り弁7の絞り係数とを制御する。
【0093】
なお、コントローラ11は、推力制御部20における駆動回路、実推力検知部25における圧力センサ25a,25b、復帰制御部21における駆動回路34を除き、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、推力指令、モータ8の回転速度およびトルク(電流)およびシリンダ2内の圧力の信号を取り込むためのインターフェースと、モータ8、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7を制御するのに必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、コントローラ11における推力制御部20および復帰制御部21の各部は、CPUの前記プログラムの実行により実現できる。また、コントローラ11は、CPUの前記プログラムの実行による実現にかえて、アナログの電子回路によって実現されてもよい。
【0094】
以上、本実施の形態のシリンダ装置Aは、シリンダ2と、シリンダ2内に移動自在に挿入されてシリンダ2内を二つの作動室R1,R2に区画するピストン3と、互いに並列して作動室同士R1,R2を連通する第1流路4と第2流路5と、第1流路4に設けられた第1可変絞り弁6と、第2流路5に直列に設けられる第2可変絞り弁7およびモータ8によって駆動される双方向吐出型のポンプ9とを有する液圧シリンダ1と、第1可変絞り弁6、第2可変絞り弁7およびモータ8を制御するコントローラ11とを備え、コントローラ11は、モータ8の回転速度およびトルクと、モータ8に電力供給する電源Batの電圧に基づいてモータ8が制動状態であってモータ8の動作点が出力限界を超えていると判断すると、モータ8の動作点を出力限界内に収めるように第1可変絞り弁6の絞り係数と第2可変絞り弁7の絞り係数との一方または両方を制御する。
【0095】
このように構成されたシリンダ装置Aによれば、モータ8が制動状態であり、かつ、モータ8の動作点が出力限界内にないことを正確に把握することができ、モータ8の動作点が出力限界内にない場合にモータ8の動作点を出力限界内にいち早く復帰させることができる。よって、本実施の形態のシリンダ装置Aによれば、モータ8の動作点がモータ8の出力限界を超えていることを見極めて、モータ8の動作点を出力限界内に収めることができる。さらに、本実施の形態のシリンダ装置Aによれば、モータ8の動作点を出力限界内に収めることができるので、液圧シリンダ1の推力の目標推力に対する追従性能を向上できる。
【0096】
また、本実施の形態のシリンダ装置Aにおけるコントローラ11は、モータ8の回転速度とトルクとに基づいてモータ8が制動状態であるか否かを判定する制動状態判定部31を備えている。このように構成されたシリンダ装置Aによれば、モータ8の回転速度とトルクとに基づいて回転速度トルク座標系においてモータ8の動作点が制動状態となる第2象限と第4象限に存在していることを精度よく判定できるので、第2可変絞り弁7の絞り係数を調整して回生効率を向上させる回生制御を実行する1つの条件の見極めを正確に行える。
【0097】
また、本実施の形態のシリンダ装置Aでは、コントローラ11は、モータ8の回転速度から車両におけるばね下共振周波数以上の成分を除去する第1フィルタ30aと、モータ8のトルクから車両におけるばね下共振周波数以上の成分を除去する第2フィルタ30bと、フィルタ処理後回転速度とフィルタ処理後トルクとに基づいてモータ8が制動状態であるか否かを判定する制動状態判定部31と、フィルタ処理後回転速度とフィルタ処理後トルクとに基づいてモータ8の動作点が領域X或いは領域Yに存在している否かを判定する動作点位置判定部32とを備えている。このように構成されたシリンダ装置Aによれば、モータ8の回転速度およびトルクから高周波のばね下共振周波数以上の成分が除去されるので、車両におけるばね上部材の振動に応じてモータ8の制動状態と動作点の位置を精度良く把握できるようになり、第1可変絞り弁6の絞り係数と第2可変絞り弁6の絞り係数を適切に制御できるようになる。
【0098】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1・・・液圧シリンダ、2・・・シリンダ、3・・・ピストン、4・・・第1流路、5・・・第2流路、6・・・第1可変絞り弁、7・・・第2可変絞り弁、8・・・モータ、9・・・ポンプ、11・・・コントローラ、31・・・制動状態判定部、A・・・シリンダ装置、R1,R2・・・作動室
図1
図2
図3
図4
図5
図6