(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047610
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】モータ駆動用インバータの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153195
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(72)【発明者】
【氏名】柿元 巧
(72)【発明者】
【氏名】榎本 将也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勝
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505BB03
5H505DD03
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE49
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ16
5H505JJ26
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】本発明は、過変調制御を実行するインバータの制御装置において、過変調領域の駆動に必要な三相分の電流を再現する。
【解決手段】過変調制御を実行するモータ3駆動用のインバータ1において、インバータ1の直流電流部に設置した1シャント方式の電流検出回路4によって一相分のモータ電流を検出する。三相過変調駆動時は、過変調制御領域における他の二相分のモータ入力電流値をキルヒホッフの法則にしたがって推定することで三相過変調駆動を実現する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過変調制御を実行するモータ駆動用のインバータにおいて、当該インバータの直流電流部に設置した1シャント方式の電流検出回路によって一相分のモータ電流を検出し、三相過変調駆動時は、当該過変調制御領域における他の二相分のモータ入力電流値をキルヒホッフの法則にしたがって推定することで三相過変調駆動を実現することを特徴とするモータ駆動用インバータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過変調制御を実行するインバータの制御装置において、当該制御に必要な三相分の電流を再現するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータを駆動させるインバータの制御方法として、ベクトル制御が知られている。ベクトル制御の実現には、回転子の位置を検出する位置センサや、モータの入力電流を検出する電流センサが必要となる。
【0003】
電流センサや位置センサの設置は、システムの高コスト化、大型化を招き、また、信頼性の低下を招くおそれがある。特に、圧縮機等のモータを駆動させるためのインバータは、低コスト化、省スペース化の要求から、位置センサや電流センサを廃した構成が用いられるようになっている。
【0004】
位置センサの代替には、モータに入力される電圧、電流から回転子位置を推定した情報を用いることが可能である(位置センサレス制御)。電流センサについては、その代替として、1シャント電流検出方式の採用が知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
前記圧縮機等は空調機に用いられることが代表的であるが、空調機においては、急速冷房時などに圧縮機を高回転で駆動する運転モードが存在し、圧縮機は回転数に応じて負荷が増加するため、圧縮機用のモータは高回転高負荷で駆動することになる。
【0007】
モータを高回転高負荷で駆動するために弱め界磁制御が採択されるが、高速回転時の効率の低下を招きやすい。弱め界磁制御は最大回転数を高めるために、永久磁石の磁束を弱める電流を流して、逆起電圧を下げる。この弱め界磁による電流の銅損によって、高速回転時の効率が低下する。
【0008】
そこで、モータ効率が低下する弱め界磁制御領域を減らすために、過変調制御を採用する方法が知られている。
【0009】
しかし、前述した1シャント電流検出方式を採用した場合、過変調時、位置センサレス制御の実現に三相分の電流値が必要であるが、三相過変調時において、検出できる電流は1相分のみである。
【0010】
この点、前記特許文献1記載の制御装置は、三相過変調駆動時、平均化した直流母線電流、1相分の瞬時相電流、直流電圧を用いて三相分の電流をキルヒホッフの法則を適用して推定している。
【0011】
詳述すると、前記制御装置は、電流再現部と、PWM発生器と、dq逆変換器、電圧指令演算部、速度指令発生部、位置センサレス制御部を有しており、電流再現部は、直流母線電流検出器により検出された直流母線電流I0,直流電圧検出器により検出された直流電圧(Ed),PWM信号情報,印加電圧指令値(Vd*,Vq*),インバータ推定回転位相θdcを用いて、回転(dq)座標軸上での電動機電流(Id,Iq)を再現電流(Idc,Iqc)として再現する。
【0012】
PWM発生器は、交流印加電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)よりPWM信号を発生し、dq逆変換器は、印加電圧指令値(Vd*,Vq*)を基に交流印加電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)へ変換する。電圧指令演算部は、再現電流(Idc,Iqc)と速度指令値ω1*を用いて電動機への印加電圧指令値(Vd*,Vq*)を算出し、速度指令発生部は、電圧指令演算部9へ速度指令値ω1*を出力する。
【0013】
位置センサレス制御部は、再現電流(Idc,Iqc)と印加電圧指令値(Vd*,Vq*)を用いて、電動機回転位相θdを推定し、電流再現部は、AD変換部,フィルタ処理部,電流相判別部,電流再現演算部を有し、AD変換部は、直流母線電流I0と直流電圧EdとをAD変換して、それぞれI0-SとEd-Sとする。
【0014】
フィルタ処理部は、AD変換された直流母線電流I0-Sをフィルタ処理して平均直流母線電流I0-FL-Sを出力し、電流相判別部は、AD変換された直流母線電流I0-SをPWM信号情報を用いて、電動機のどの相電流かを判別する。
【0015】
電流再現演算部は、相判別された直流母線電流I0-S-W(W相だと判別された場合)と平均直流母線電流I0-FL-Sと、AD変換された直流電圧Ed-Sと、PWM信号情報、印加電圧指令値(Vd*,Vq*)、インバータ推定回転位相θdcを用いて、回転(dq)座標軸上での電動機電流(Id,Iq)を再現電流(Idc,Iqc)としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記特許文献1記載の技術同様、1シャント電流検出方式を採用しつつ、過変調制御の三相過変調時において、より簡単な方法によって三相分の電流(モータ入力電流)を再現することのできるインバータ制御方法を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1記載のインバータの制御方法は、過変調制御を実行するモータ駆動用インバータの制御装置において、インバータの直流電流部に設置した1シャント方式の電流検出回路によって一相分のモータ電流を検出し、三相過変調駆動時において、他の二相分のモータ入力電流値をキルヒホッフの法則にしたがって推定することに特徴を有する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載のインバータの制御方法によれば、極力簡単な方法によって、三相分のモータ入力電流値の推定が可能となる。また、システム構成が単純なため、汎用性が高く、システムコストを低減でき、ロバスト性や応答性の向上が図れる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るモータ駆動装置を示す回路構成図である。
【
図3】前記モータ駆動装置による各制御方法の採否による運転領域の変動を示すイメージ図である。
【
図4】前記モータ駆動装置による通常変調領域(線形領域)におけるインバータ主回路を構成する上アームのスイッチング動作図である。
【
図5】(a)は、
図4に示す(1)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図であり、(b)は
図4に示す(2)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図である。
【
図6】(a)は、前記モータ駆動装置による一相(U相)過変調時におけるインバータ主回路を構成する上アームのスイッチング動作図であり、(b)は一相(W相)過変調時におけるインバータ主回路を構成する上アームのスイッチング動作図である。
【
図7】(a)は、
図6(a)に示す(1)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図であり、(b)は同図(b)に示す(2)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図である。
【
図8】(a)は、
図6(b)に示す(1)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図であり、(b)は同図(b)に示す(2)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図である。
【
図9】前記モータ駆動装置による二相過変調時におけるインバータ主回路を構成する上アームのスイッチング動作図である。
【
図10】(a)は、
図9に示す(1)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図であり、(b)は(2)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図である。
【
図11】前記モータ駆動装置による三相過変調時におけるインバータ主回路を構成する上アームのスイッチング動作図である。
【
図12】
図11に示す三相過変調時における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0021】
図1は、本発明に係るモータ駆動装置Aを示している。モータ駆動装置Aは、インバータ1とインバータ制御装置2から概略構成されている。インバータ1はIGBTとダイオードから構成された上アームと下アームからなるインバータ主回路1aと、インバータ制御装置2からのPWM信号に基づいて、インバータ主回路1aの上アームと下アームのゲート信号を発生する図示しないゲート・ドライバから構成されている。
【0022】
インバータ1は、インバータ制御装置2からのPWM信号に基づいて上アームと下アームをオン/オフし、直流電源から供給される直流電圧VDCを三相の交流電圧に変換して圧縮機用モータ3に供給する。
【0023】
図1に示す4は、インバータ1の直流部に流れる電流iDCを直流シャント抵抗を用いて検出し、インバータ制御装置2に出力する1シャント方式の電流検出回路(以下、1シャント抵抗という)であり、インバータ制御装置2は、1シャント抵抗4によって検出した電流iDCに基づき、圧縮機用モータ3をベクトル制御方式を用いて駆動する。なお、モータ3としては、永久磁石同期モータや誘導モータが想定される。
【0024】
図1に示す圧縮機用モータ3の等価回路を
図2に示す。
図2に示すiU, iV, iwは、
図1に示すインバータ制御装置2で生成したゲート信号を基に、インバータ1がモータ3内部の各相のRL回路にパルス電圧を出力することによって、RL回路のフィルタ特性によって流れる基本波を主成分とする電流を示している。また、
図2に示すRは相抵抗であり、Lは相インダクタンス、eu,ev,ewは相誘起電圧を示している。
【0025】
なお、
図1に示すモータ駆動装置Aは、ベクトル制御に必要な位置センサや電流検出センサを有さず、圧縮機用モータ3に入力される電圧と電流等からモータ3の回転子位置を推定する。また、電流検出センサに変えて前述した1シャント抵抗4を用いることで、製品コストを抑制している。
【0026】
前記モータ駆動装置Aのインバータ制御装置2は、
図3に示すように、過変調制御を採用している。過変調制御を採用することによって、高トルクによる運転可能範囲(モータ3の回転速度)を拡大できる。また、
図1に示す電源電圧(PN間電圧)VDCに対するインバータ2の出力電圧の比(電圧利用率)を向上させることが可能となる。
【0027】
図4は
図1に示すモータ駆動装置Aによる通常変調制御の領域(通常変調領域または線形領域という)におけるインバータ主回路1aを構成する上アームのスイッチング動作図である。通常変調制御では、各相の相電圧指令値vu*,vv*,vw*が三角波(キャリア波)の振幅以内に設定されている。
【0028】
この場合、インバータ主回路1aを構成する上アームは、各相の相電圧指令値vu*,vv*,vw*がキャリア波を上回っているときにONし、それ以外ではOFFする。
【0029】
図5(a)に、
図4に示す(1)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図を示す。
図5(a)に示すように、(1)領域においては、U相とV相の上アームがONし、W相の上アームはOFFしている。これに伴い、U相とV相の下アームはOFFし、W相の下アームはONする。
【0030】
これにより、インバータ主回路1aとモータ3間の電流は、
図5(a)に示す矢印の方向に流れる、と考えられる。この結果、モータ3のW相に流れる電流(-iw)をシャント抵抗4で検出することが可能となる。
【0031】
図5(b)は、
図4に示す(2)領域における上下アームに流れる電流を描画した簡略的な回路図である。この領域においては、U相の上アームのみONし、V相とW相の上アームはOFFする。これに伴い、U相の下アームはOFFし、V相とW相の下アームはONする。
【0032】
すると、インバータ主回路1aとモータ3間に流れる電流は、
図5(b)に示す矢印の方向に流れる、と考えられ、モータ3のU相に流れる電流(iu)をシャント抵抗4で検出することができる。
【0033】
このようにして、線形領域ではキャリア波一周期で二相分の電流(
図4,5の場合は、iu, -iw)を検出することができ、残りの一相分の電流は、検出した二相分の電流から算出することができるので、三相分の電流の取得が可能となる。三相分の電流の取得により、通常過変調制御による位置センサレスベクトル制御が実現できる。
【0034】
図6は
図1に示すモータ駆動装置Aによる一相過変調制御の領域(一相過変調領域という)におけるインバータ主回路1aを構成する上アームのスイッチング動作図である。一相過変調制御では、相電圧指令値のうち1つの相電圧指令値のみが三角波(キャリア波)の振幅の頂点を超えて設定されている。
図6(a)では、最大相であるU相の相電圧指令値vu*がキャリア波の振幅の頂点を超えて設定されており、同図(b)では、最小相であるW相の相電圧指令値vw*がキャリア波の振幅の頂点を超えて設定されている。
【0035】
この場合も、
図4の場合と同様に、インバータ主回路1aを構成する上アームは、
図6(a),(b)に示すように、各相の相電圧指令値vu*,vv*,vw*がキャリア波を上回っているときにONし、それ以外ではOFFする。
【0036】
図6(a)に示すように、U相の相電圧指令値vu*がキャリア波の振幅の頂点を超えて設定されている場合、
図6(a)に示す(1)領域では、
図7(a)に示すようにU相とV相の上アームがONし、W相の上アームはOFFする。これに伴い、U相とV相の下アームがOFFし、W相の下アームがONする。
【0037】
すると、インバータ主回路1aとモータ3間に流れる電流は、
図7(a)に示す矢印の方向に流れる、と考えられ、モータ3のW相に流れる電流(-iw)をシャント抵抗4にて検出することが可能となる。
【0038】
また、
図6(a)に示す(2)領域では、
図7(b)に示すようにU相の上アームのみONし、V相とW相の上アームはOFFする。これに伴い、U相の下アームがOFFし、V相とW相の下アームがONする。
【0039】
すると、インバータ主回路1aとモータ3間に流れる電流は、
図7(b)に示す矢印の方向に流れる、と考えられ、モータ3のU相に流れる電流(iu)をシャント抵抗4にて検出することが可能となる。
【0040】
図6(b)に示すように、W相の相電圧指令値vw*がキャリア波の振幅の頂点を超えて設定されている場合、
図6(b)に示す(1)領域では、
図8(a)に示すようにU相とV相の上アームがONし、W相の上アームはOFFする。これに伴い、U相とV相の下アームがOFFし、W相の下アームがONする。
【0041】
すると、インバータ主回路1aとモータ3間に流れる電流は、
図8(a)に示す矢印の方向に流れる、と考えられ、モータ3のW相に流れる電流(-iw)をシャント抵抗4にて検出することができる。
【0042】
また、
図6(b)に示す(2)領域では、
図8(b)に示すようにU相の上アームのみONし、V相とW相の上アームはOFFする。これに伴い、U相の下アームがOFFし、V相とW相の下アームがONする。
【0043】
これにより、インバータ主回路1aとモータ3間に流れる電流は、
図8(b)に示す矢印の方向に流れる、と考えられ、モータ3のU相に流れる電流(iu)をシャント抵抗4にて検出することが可能となる。
【0044】
このようにして、一相過変調領域ではキャリア波一周期で二相分の電流(
図6~
図8の場合は、iu, -iw)を検出することができ、残りの一相分の電流は、検出した二相分の電流から算出することができるので、三相分の電流の取得が可能となる。したがって、一相過変調制御においても位置センサレスベクトル制御を実現することができる。
【0045】
図9は
図1に示すモータ駆動装置Aによる二相過変調制御の領域(二相過変調領域という)におけるインバータ主回路1aを構成する上アームのスイッチング動作図である。二相過変調制御では、相電圧指令値のうち2つの相電圧指令値が三角波(キャリア波)の振幅の頂点を超えて設定される。
図9では、最大相であるU相の相電圧指令値vu*と最小相であるW相の相電圧指令値vw*がキャリア波の振幅の頂点を超えて設定されている。
【0046】
図9の場合も、インバータ主回路1aを構成する上アームは、各相の相電圧指令値vu*,vv*,vw*がキャリア波を上回っているときにONし、それ以外ではOFFする。
【0047】
つまり、
図9に示すように、U相の相電圧指令値vu*は常にキャリア波の最大値を超え、W相の相電圧指令値vw*はキャリア波の最小値を下回るので、U相の上アームは常時ONとなり、W相の上アームは常時OFFとなる。
【0048】
そして、
図9に示す(1)領域では、
図10(a)に示すようにU相とV相の上アームがONし、W相の上アームはOFFする。これに伴い、U相とV相の下アームがOFFし、W相の下アームがONする。
【0049】
これにより、インバータ主回路1aとモータ3間に流れる電流は、
図10(a)に示す矢印の方向に流れる、と考えられ、モータ3のW相に流れる電流(-iw)をシャント抵抗4で検出することが可能となる。
【0050】
また、
図9に示す(2)領域では、
図10(b)に示すようにU相の上アームのみONし、V相とW相の上アームはOFFする。これに伴い、U相の下アームがOFFし、V相とW相の下アームがONする。
【0051】
この結果、インバータ主回路1aとモータ3間に流れる電流は、
図10(b)に示す矢印の方向に流れる、と考えられ、モータ3のU相に流れる電流(iu)をシャント抵抗4にて検出することが可能となる。
【0052】
このようにして、二相過変調領域ではキャリア波一周期で二相分の電流(
図9,10の場合は、iu, -iw)を検出することができ、残りの一相分の電流は、検出した二相分の電流から算出することができるので、三相分の電流の取得が可能となる。したがって、二相過変調制御においても位置センサレスベクトル制御を実現することができる。
【0053】
図11は
図1に示すモータ駆動装置Aによる三相過変調制御の領域(三相過変調領域という)におけるインバータ主回路1aを構成する上アームのスイッチング動作図である。三相過変調制御では、相電圧指令値vu*,vv*,vw*のすべてが三角波(キャリア波)の振幅の頂点を超えて設定される。
【0054】
図11の場合も、インバータ主回路1aを構成する上アームは、各相の相電圧指令値vu*,vv*,vw*がキャリア波を上回っているときにONし、それ以外ではOFFする。
【0055】
つまり、
図11に示すように、U相の相電圧指令値vu*は常にキャリア波の最大値を上回るため、U相の上アームは常時ONとなり、V相とW相の相電圧指令値vv*,vw*は常にキャリア波の最小値を下回るため、V相とW相の上アームは常時OFFとなる。
【0056】
つまり、
図11に示す全領域において、U相の上アームは
図12に示すようにONし、V相とW相の上アームはOFFする。これに伴い、U相の下アームはOFFし、V相とW相の下アームがONする。
【0057】
これにより、インバータ主回路1aとモータ3間に流れる電流は、
図12に示す矢印の方向に流れる、と考えられ、モータ3のU相に流れる電流(iu)をシャント抵抗4で検出することが可能となる。
【0058】
そして、三相過変調制御時は、この一相の電流値から残り二相の電流値を算出する必要がある。この算出方法が本発明の要旨であり、
図2に示すモータ3の等価回路上でV-W相間の閉回路の電流差分値Δiについて解くことになる。まず、キルヒホッフの第2法則よりV-W相間の電圧は、下記[数1]に示す関係にある。
【0059】
【0060】
また、V-W相間の誘起電圧eは下記[数2]に示す関係にある。
【0061】
【0062】
そして、前周期のV-W相間の電流差分値Δiは下記[数3]に示す関係にある。
【数3】
【0063】
よって、V-W相間の電流差分値Δiは下記[数3]にて推定できる。
【0064】
【0065】
下記[数5]のキルヒホッフの第1法則によって、W相の電流iWを下記[数6]によって求めることが可能となる。
【0066】
【0067】
【0068】
以上のようにして、三相過変調領域ではキャリア波一周期で一相分の電流(
図11,12の場合は、iu)を検出することができ、残りの二相分の電流は、検出した一相分の電流から算出することができるので、三相分の電流の取得が可能となる。したがって、三相過変調制御においても位置センサレスベクトル制御を実現することができる。
【0069】
以上説明したように、本発明のインバータの制御方法によれば、過変調制御の採用によって、電源電圧(PN間電圧)に対するインバータの出力電圧の比(電圧利用率)を向上させることができるとともに、モータの高速域運転範囲を向上させることができる。
【0070】
また、一相~三相過変調時のいずれにおいても、三相分のモータ入力電流を再現することができ、位置センサレスベクトル制御が実現できる。
【0071】
しかも、直流電圧、電流検出部にフィルタを用いておらず、フィルタ配線が不要になるなど、直流電流値の再現を単純な構成で実現でき、省コスト性、汎用性を高めることができる。さらに、前記フィルタを設けないため、電流遅れを発生せず、高応答性を実現できる。
【0072】
また、インバータ制御装置の各入力情報に外乱の影響を受けないので、ロバスト性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、過変調制御を適用するあらゆる制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 インバータ
1a インバータ主回路
2 インバータ制御装置
3 モータ
4 1シャント抵抗
A モータ駆動装置