(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047616
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】電子写真機器用ベルト部材
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20240401BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20240401BHJP
C08G 18/71 20060101ALI20240401BHJP
C08G 18/38 20060101ALI20240401BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240401BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G03G15/16
C08G18/62 075
C08G18/71 080
C08G18/38 093
G03G15/00 552
B32B1/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153208
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】西岡 央成
(72)【発明者】
【氏名】坂本 翔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 泰秀
【テーマコード(参考)】
2H171
2H200
4F100
4J034
【Fターム(参考)】
2H171FA10
2H171FA26
2H171GA09
2H171GA20
2H171UA04
2H171UA06
2H171UA10
2H171VA02
2H171VA06
2H171VA09
2H171XA03
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2H200MA17
2H200MA20
2H200MC05
2H200MC06
4F100AH06B
4F100AK17B
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4F100YY00B
4J034BA03
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4J034QC03
4J034RA05
4J034RA11
4J034RA13
4J034RA14
(57)【要約】
【課題】長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑え、クリーニングブレードの摺動音を抑え、外観を良好にし、表層と基層の密着性を良好にする電子写真機器用ベルト部材を提供する。
【解決手段】水酸基を有するフッ素樹脂100質量部に対し、両末端にイソシアネート基を有し分子量が600g/mol以上4000g/mol以下であるイソシアネート硬化剤を10質量部以上30質量部以下、あるいは、片末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤を5質量部以上18質量部以下、フッ素系界面活性剤を5質量部以上10質量部以下、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤を1.0質量部以上5質量部以下含む樹脂組成物の硬化体として構成された表層14を筒状の基層12の外周面上に有する電子写真機器用ベルト部材10とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の基層と、前記基層の外周面上に形成された表層と、を有し、
前記基層は、ポリイミドおよびポリアミドイミドの少なくとも1種を含有し、
前記表層は、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成され、
前記イソシアネート硬化剤は、両末端にイソシアネート基を有し、その分子量が600g/mol以上4000g/mol以下であり、
前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記イソシアネート硬化剤は10質量部以上30質量部以下であり、前記フッ素系界面活性剤は5質量部以上10質量部以下であり、前記シランカップリング剤は1.0質量部以上5質量部以下である、電子写真機器用ベルト部材。
【請求項2】
筒状の基層と、前記基層の外周面上に形成された表層と、を有し、
前記基層は、ポリイミドおよびポリアミドイミドの少なくとも1種を含有し、
前記表層は、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成され、
前記イソシアネート硬化剤は、片末端にイソシアネート基を有するものであり、
前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記イソシアネート硬化剤は5質量部以上18質量部以下であり、前記フッ素系界面活性剤は5質量部以上10質量部以下であり、前記シランカップリング剤は1.0質量部以上5質量部以下である、電子写真機器用ベルト部材。
【請求項3】
前記フッ素系界面活性剤のフッ素含有量が、10質量%以上30質量%以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用ベルト部材。
【請求項4】
500回摩耗試験後の動摩擦係数および静摩擦係数は0.5以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用ベルト部材。
【請求項5】
前記フッ素系界面活性剤のフッ素含有量が、10質量%以上30質量%以下であり、
500回摩耗試験後の動摩擦係数および静摩擦係数は0.5以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用ベルト部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用ベルト部材に関し、さらに詳しくは、搬送ベルトや中間転写ベルトなどの電子写真機器用ベルト部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真機器の搬送ベルトや中間転写ベルトなどのベルト部材において、クリーニングブレードとの摺動性を改善する技術として、ポリイミド系の基層の面上にポリイミド系塗料を積層する技術やフッ素チューブを積層する技術、シリコーン系の滑り剤を添加した熱硬化性フッ素樹脂を積層する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-094605号公報
【特許文献2】特開2011-073804号公報
【特許文献3】国際公開2022/071224号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ベルト部材は、2軸により引張方向の力がかかっている。このため、長期的な保管状態に置かれる場合や、長期的な使用状態にある場合などにおいて、ベルト部材の表面にシワやうねりが発生し、使用時において紙の搬送不良が発生する可能性がある。また、上記ベルト部材は、クリーニングブレードと当接しているため、長期の使用により、ベルト部材とクリーニングブレードの間で摺動音が異音として発生しやすくなる。さらに、上記ベルト部材は、基層と表層が密着力不足であると、表層の剥がれが発生するおそれがある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えるとともに、クリーニングブレードの摺動音を抑え、外観を良好にするとともに、表層と基層の密着性を良好にする電子写真機器用ベルト部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子写真機器用ベルト部材は、筒状の基層と、前記基層の外周面上に形成された表層と、を有し、前記基層は、ポリイミドおよびポリアミドイミドの少なくとも1種を含有し、前記表層は、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成され、前記イソシアネート硬化剤は、両末端にイソシアネート基を有し、その分子量が600g/mol以上4000g/mol以下であり、前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記イソシアネート硬化剤は10質量部以上30質量部以下であり、前記フッ素系界面活性剤は5質量部以上10質量部以下であり、前記シランカップリング剤は1.0質量部以上5質量部以下である。
【0007】
また、本発明に係る他の電子写真機器用ベルト部材は、筒状の基層と、前記基層の外周面上に形成された表層と、を有し、前記基層は、ポリイミドおよびポリアミドイミドの少なくとも1種を含有し、前記表層は、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成され、前記イソシアネート硬化剤は、片末端にイソシアネート基を有するものであり、前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記イソシアネート硬化剤は5質量部以上18質量部以下であり、前記フッ素系界面活性剤は5質量部以上10質量部以下であり、前記シランカップリング剤は1.0質量部以上5質量部以下である。
【0008】
前記フッ素系界面活性剤のフッ素含有量は、10質量%以上30質量%以下であるとよい。500回摩耗試験後の動摩擦係数および静摩擦係数は0.5以下であるとよい。
【0009】
(1)本発明に係る電子写真機器用ベルト部材は、筒状の基層と、前記基層の外周面上に形成された表層と、を有し、前記基層は、ポリイミドおよびポリアミドイミドの少なくとも1種を含有し、前記表層は、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成され、前記イソシアネート硬化剤は、両末端にイソシアネート基を有し、その分子量が600g/mol以上4000g/mol以下であり、前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記イソシアネート硬化剤は10質量部以上30質量部以下であり、前記フッ素系界面活性剤は5質量部以上10質量部以下であり、前記シランカップリング剤は1.0質量部以上5質量部以下である。
【0010】
(2)また、本発明に係る他の電子写真機器用ベルト部材は、筒状の基層と、前記基層の外周面上に形成された表層と、を有し、前記基層は、ポリイミドおよびポリアミドイミドの少なくとも1種を含有し、前記表層は、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成され、前記イソシアネート硬化剤は、片末端にイソシアネート基を有するものであり、前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記イソシアネート硬化剤は5質量部以上18質量部以下であり、前記フッ素系界面活性剤は5質量部以上10質量部以下であり、前記シランカップリング剤は1.0質量部以上5質量部以下である。
【0011】
(3)上記(1)または上記(2)において、前記フッ素系界面活性剤のフッ素含有量は、10質量%以上30質量%以下であるとよい。
【0012】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれかにおいて、500回摩耗試験後の動摩擦係数および静摩擦係数は0.5以下であるとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電子写真機器用ベルト部材によれば、表層が、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成され、前記イソシアネート硬化剤は、両末端にイソシアネート基を有し、その分子量が600g/mol以上4000g/mol以下であり、前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記イソシアネート硬化剤は10質量部以上30質量部以下であり、前記フッ素系界面活性剤は5質量部以上10質量部以下であり、前記シランカップリング剤は1.0質量部以上5質量部以下であることから、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えるとともに、クリーニングブレードの摺動音を抑え、外観を良好にするとともに、表層と基層の密着性を良好にする。
【0014】
また、本発明に係る他の電子写真機器用ベルト部材によれば、表層が、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成され、前記イソシアネート硬化剤は、片末端にイソシアネート基を有するものであり、前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記イソシアネート硬化剤は5質量部以上18質量部以下であり、前記フッ素系界面活性剤は5質量部以上10質量部以下であり、前記シランカップリング剤は1.0質量部以上5質量部以下であることから、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えるとともに、クリーニングブレードの摺動音を抑え、外観を良好にするとともに、表層と基層の密着性を良好にする。
【0015】
前記イソシアネート硬化剤が両末端にイソシアネート基を有し、その分子量が600g/mol以上4000g/mol以下であると、表層が柔軟になり、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えることができる。
【0016】
また、前記イソシアネート硬化剤が片末端にイソシアネート基を有するものであると、表層が柔軟になり、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えることができる。
【0017】
そして、前記フッ素系界面活性剤のフッ素含有量が10質量%以上30質量%以下であると、表層の滑り性が向上し、クリーニングブレードの摺動音を抑える効果に優れる。
【0018】
また、500回摩耗試験後の動摩擦係数および静摩擦係数が0.5以下であると、表層の滑り性に優れ、クリーニングブレードの摺動音を抑える効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電子写真機器用ベルト部材の概略を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す電子写真機器用ベルト部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る電子写真機器用ベルト部材(以下、単にベルト部材ということがある。)について詳細に説明する。ベルト部材は、弾性体層と、弾性体層の外周面上に形成された表層と、を備える。ベルト部材は、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器において用いられる中間転写ベルト、紙転写搬送ベルト、定着ベルトなどの無端ベルトなどとして好適である。
【0021】
図1には、本発明の一実施形態に係るベルト部材を示す。
図2には、
図1に示すベルト部材の断面図を示す。
【0022】
ベルト部材10は、筒状の基層12と、基層12の外周面上に形成された表層14と、を有する。ベルト部材10は、無端ベルトとして構成されている。
【0023】
基層12は、ベルト部材10の基材となる。基層12は、筒状に形成されており、周方向において継ぎ目のないシームレス構造を有する。基層12は、ポリイミドおよびポリアミドイミドの少なくとも1種を含んでいる。ポリイミドおよびポリアミドイミドは、官能基変性されていてもよい。ポリイミドやポリアミドイミドは、剛性および耐久性に優れていることから、ベルト部材10の基層12の構成材料として、好適に用いることができる。特に、ポリイミドを用いて基層12を構成することが好ましい。基層12は、ポリイミドおよびポリアミドイミドの少なくとも1種を主成分とするものであれば、添加剤等、他の成分を含んでいてもよい。添加剤としては、カーボンブラックやグラファイト等の導電剤、炭酸カルシウム等の充填剤、離型剤、難燃剤、レベリング剤、消泡剤等が挙げられる。
【0024】
基層12の厚さは、特に限定されるものではない。基層12の厚さは、例えば、50μm以上、60μm以上であることが好ましい。また、90μm以下、80μm以下であることが好ましい。
【0025】
表層14は、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成される。
【0026】
フッ素樹脂は、表層14を構成する主成分であり、バインダーポリマーとしての役割を果たす。フッ素樹脂は、塗料とすることができるものであれば特に限定されるものではない。フッ素樹脂としては、フッ化エチレン・ビニルエーテル共重合体(FEVE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)などを挙げることができる。水酸基を有するフッ素樹脂は、イソシアネート硬化剤とのウレタン反応により硬化することができる。
【0027】
イソシアネート硬化剤は、水酸基を有するフッ素樹脂の硬化剤として機能する。イソシアネート硬化剤としては、モノイソシアネート、ポリイソシアネートが挙げられる。イソシアネート硬化剤は、両末端にイソシアネート基(官能基)を有するものであってもよいし、片末端にイソシアネート基(官能基)を有するものであってもよい。イソシアネート硬化剤は、硬化体の柔軟化に効果のあるものを用いるとよい。
【0028】
両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤は、比較的分子量の大きいものがよい。特に、架橋間距離が大きくなると、硬化体の柔軟化により寄与することができる。この観点から、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤においては、分子量は600g/mol以上であることが好ましい。より好ましくは1000g/mol以上、さらに好ましくは1500g/mol以上、特に好ましくは2000g/mol以上である。一方で、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の分子量が大きすぎると、クリーニングブレードの摺動音が大きくなりやすい。このため、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の分子量としては、4000g/mol以下が好ましい。より好ましくは3500g/mol以下、さらに好ましくは3000g/mol以下である。イソシアネート硬化剤の分子量は、オリゴマーあるいはポリマーのものは数平均分子量で表される。
【0029】
両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤としては、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られるNCO末端のウレタンプレポリマーを用いてもよい。
【0030】
ポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、MDIやポリメリックMDIの混合物であるクルードMDI(c-MDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、オルトトルイジンジイソシアネート(TODI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PDI)、リジンジイソシアネートメチルエステル(LDI)、ジメチルジイソシアネート(DDI)、多量体であるMDIヌレート、HDIヌレート、TDIヌレート、これらを尿素化、ビュレット化、アロファネート化、カルボジイミド化、ウレタン化などした変性体などが挙げられる。ポリイソシアネートとしては、柔軟性の付与、反応のしやすさなどの観点から、HDIなどの脂肪族ポリイソシアネートが好ましい。
【0031】
ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。ポリオールとしては、高温多湿環境中の安定性(加水分解性)などの観点から、ポリエーテルポリオールが特に好ましい。
【0032】
ポリエステルポリオールとしては、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキシレンアジペート(PHA)、エチレンアジペートとブチレンアジペートとの共重合体(PEA/BA)などが挙げられる。
【0033】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、これらのエチレンオキサイド変性タイプポリオール、ポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。
【0034】
ポリカーボネートポリオール(ポリカーボネートジオール)は、アルキレンジオールをモノマーとし低分子カーボネート化合物により重合することで得られる。モノマーとしてのアルキレンジオールとしては、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0035】
樹脂組成物において、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量は、フッ素樹脂100質量部に対し、10質量部以上30質量部以下である。フッ素樹脂100質量部に対し、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量が10質量部未満であると、柔軟性が不十分で、長期的な保管・使用により、表層14にシワやうねりが発生する。また、この観点から、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量は、より好ましくは15質量部以上である。一方、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤が多すぎると、クリーニングブレードの摺動音が大きくなる。このため、フッ素樹脂100質量部に対し、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量は30質量部以下である。また、この観点から、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量は、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。
【0036】
片末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤は、水酸基を有するフッ素樹脂に対し、橋架け構造を形成するものではないため、ウレタン反応することにより、硬化体の柔軟化により寄与することができる。この観点から、片末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤は、分子量が特に限定されるものではない。
【0037】
片末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤としては、脂肪族または芳香族のモノイソシアネートを挙げることができる。
【0038】
樹脂組成物において、片末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量は、フッ素樹脂100質量部に対し、5質量部以上18質量部以下である。フッ素樹脂100質量部に対し、片末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量が5質量部未満であると、柔軟性が不十分で、長期的な保管・使用により、表層14にシワやうねりが発生する。また、この観点から、イソシアネート硬化剤の含有量は、より好ましくは7質量部以上である。一方、片末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤が多すぎると、クリーニングブレードの摺動音が大きくなる。このため、フッ素樹脂100質量部に対し、片末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量は18質量部以下である。また、この観点から、片末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量は、より好ましくは15質量部以下である。
【0039】
フッ素系界面活性剤は、表層14の表面の滑り性を向上する。フッ素系界面活性剤は、フッ素含有基を有する化合物で構成される。フッ素含有基は、化合物の側鎖に有することが好ましい。このような化合物としては、フッ素含有基を有する重合体、アクリルフッ素共重合体、アクリルフッ素-アクリル共重合体、アクリルフッ素-アクリルシリコーン-アクリル共重合体、ポリフルオロポリエーテル、ポリフルオロポリエーテルアルコールなどが挙げられる。重合体としては、特に限定されるものではないが、上記フッ素樹脂を含むフッ素塗料との相溶性などの観点から(メタ)アクリル重合体であることが好ましい。
【0040】
フッ素含有基としては、フッ素を含有する有機基が挙げられる。フッ素を含有する有機基としては、炭素数1~20のフルオロアルキル基が挙げられる。フルオロアルキル基は、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基であってもよいし、アルキル基の一部の水素原子がフッ素原子に置換されたフルオロアルキル基であってもよい。これらのうちでは、表層14の表面に偏在しやすいなどの観点から、パーフルオロアルキル基が好ましい。
【0041】
炭素数1~20のフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロプロピル基、ヘプタフルオロブチル基などが挙げられる。
【0042】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリレートの共重合体や、(メタ)アクリルアミドの共重合体、(メタ)アクリレートと(メタ)アクリルアミドの共重合体などを表す。例えば、フッ素を含有する有機基を有する(メタ)アクリレートと、フッ素を含有しない有機基を有する(メタ)アクリレートと、を共重合することで、フッ素を含有する有機基を有する共重合体を得ることができる。
【0043】
(メタ)アクリル重合体は、共重合可能な非変性の(メタ)アクリレートや非変性の(メタ)アクリルアミドを共重合成分として含んでいてもよい。非変性の(メタ)アクリレートとしては、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのうちでは、共重合反応性などの観点から、メチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0044】
共重合可能な非変性の(メタ)アクリルアミドとしては、(メタ)アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。アルキル(メタ)アクリルアミドとしては、メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、プロピル(メタ)アクリルアミド、ブチル(メタ)アクリルアミド、2-エチルヘキシル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これらのうちでは、共重合反応性などの観点から、メチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0045】
フッ素系界面活性剤のフッ素含有量は、フッ素系界面活性剤が表層14の表面に偏在しやすく、表面の滑り性の向上効果に優れるなどの観点から、10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは15質量%以上である。また、フッ素系界面活性剤のフッ素含有量は、表層14の外観を良好にする効果に優れるなどの観点から、30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは25質量%以下である。フッ素系界面活性剤のフッ素含有量は、GC-MS分析、NMR分析などにより測定することができる。
【0046】
樹脂組成物において、フッ素系界面活性剤の含有量は、フッ素樹脂100質量部に対し、5質量部以上10質量部以下である。フッ素樹脂100質量部に対し、フッ素系界面活性剤の含有量が5質量部未満であると、表面の滑り性の向上効果が不十分で、クリーニングブレードの摺動音が大きくなる。また、この観点から、フッ素系界面活性剤の含有量は、より好ましくは7質量部以上である。一方、フッ素樹脂100質量部に対し、フッ素系界面活性剤の含有量が10質量部超であると、塗膜表面に欠陥が発生し、表層14の表面の外観が悪化する。また、この観点から、フッ素系界面活性剤の含有量は、より好ましくは8質量部以下である。
【0047】
シランカップリング剤は、基層12と表層14の密着性を向上する。シランカップリング剤は、基層12と表層14の両方の材料と結合を形成すべく、アミノ基またはイソシアネート基を有する。
【0048】
アミノ基を有するシランカップリング剤(アミン系)としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0049】
樹脂組成物において、シランカップリング剤の含有量は、フッ素樹脂100質量部に対し、1.0質量部以上5質量部以下である。フッ素樹脂100質量部に対し、シランカップリング剤の含有量が1.0質量部未満であると、基層12と表層14の密着性が不十分である。また、この観点から、シランカップリング剤の含有量は、より好ましくは2質量部以上である。一方、フッ素樹脂100質量部に対し、シランカップリング剤の含有量が5質量部超であると、長期的な保管・使用により、表層14にシワやうねりが発生する。また、この観点から、シランカップリング剤の含有量は、より好ましくは3質量部以下である。
【0050】
表層14を構成する樹脂組成物は、フッ素樹脂、イソシアネート硬化剤、フッ素系界面活性剤、シランカップリング剤に加えて、適宜、添加剤等、他の成分を含有してもよい。添加剤としては、導電剤、充填剤、離型剤、難燃剤、レベリング剤、消泡剤などを挙げることができる。
【0051】
また、表層14は、上記する樹脂組成物の硬化体として構成されることで、500回摩耗試験後の動摩擦係数および静摩擦係数が0.5以下であることが好ましい。動摩擦係数および静摩擦係数は、フッ素系界面活性剤の選択、含有量の調整、イソシアネート硬化剤の選択、含有量の調整などにより、調整することができる。表層14の動摩擦係数および静摩擦係数は、摩擦摩耗計を用いて測定することができる。
【0052】
表層14の厚さは、特に限定されるものではないが、比較的薄くすることで、長期的な保管・使用に対し、表層14のシワやうねりの発生が抑えられやすい。この観点から、表層14の厚さは、60μm以下が好ましい。より好ましくは50μm以下である。また、表層14の効果がより発揮されやすいなどの観点から、表層14の厚さは、好ましくは20μm以上である。より好ましくは30μm以上である。
【0053】
ベルト部材10は、以下のようにして製造することができる。まず、基層12を形成する。基層12は、適宜溶媒等を用いて塗料の形態とした基層形成用材料を、筒状または柱状の金型の外周面に塗工し、乾燥させる。必要に応じて、熱処理してもよい。塗工方法としては、ディップコート法、ディスペンサーコート法(ノズルコート法)、ロールコート法、リングコート法などが挙げられる。次いで、形成した基層12の表面に、表層用の樹脂組成物を塗工し、硬化させることで、表層14を形成する。この際、必要に応じて、熱処理を行うことで、樹脂組成物の硬化を促進することができる。樹脂組成物の塗工には、上記で基層12の形成について列挙したのと同様の各種手法を用いることができる。最後に、金型を除去すれば、基層12の外周面に表層14が形成されたベルト部材10が得られる。
【0054】
以上の構成のベルト部材10によれば、表層14が、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含む樹脂組成物の硬化体として構成され、各成分が特定量で配合されることから、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えるとともに、クリーニングブレードの摺動音を抑え、外観を良好にするとともに、表層14と基層12の密着性を良好にする。
【0055】
樹脂組成物において、イソシアネート硬化剤は、表層14の柔軟化に貢献する。これにより、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えることができる。イソシアネート硬化剤が両末端にイソシアネート基を有し、その分子量が600g/mol以上4000g/mol以下であると、表層14が柔軟になり、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えることができる。また、イソシアネート硬化剤が片末端にイソシアネート基を有するものであると、表層14が柔軟になり、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えることができる。
【0056】
樹脂組成物において、フッ素系界面活性剤は、表面の滑り性に貢献する。これにより、クリーニングブレードの摺動音を抑える効果が高まる。そして、フッ素系界面活性剤のフッ素含有量が10質量%以上30質量%以下であると、表層14の滑り性が向上し、クリーニングブレードの摺動音を抑える効果に優れる。表層14の柔軟化により表面の滑り性は悪化するおそれがあるが、樹脂組成物において、表面の滑り性を向上するフッ素系界面活性剤を配合しているため、表層14の柔軟化による表面の滑り性の悪化が抑えられる。
【0057】
樹脂組成物において、シランカップリング剤は、表層14と基層12の密着性に貢献する。シランカップリング剤は、表層14の柔軟化を悪化させるおそれがあるが、樹脂組成物において、表層14を柔軟化するイソシアネート硬化剤を配合しているため、シランカップリング剤による柔軟性の悪化が抑えられ、長期的な保管・使用に対しシワやうねりの発生を抑えることができる。
【実施例0058】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0059】
<フッ素系界面活性剤の合成>
表1に示す組成の原料とメチルイソブチルケトン(MIBK)を固形分が50%になるように0.5Lのフラスコに投入した。フラスコの内容物を攪拌しながら5分間窒素バブリングを行った後、内液の温度を100℃に保ち、10時間にわたって重合反応を進行させた。その後、固形分が30%になるようにフラスコにMIBKを追加し、フッ素系界面活性剤<1>~<5>として共重合体溶液を得た。
【0060】
フッ素系界面活性剤の合成には、以下の原料を用いた。フッ素濃度(F濃度)は、各原料の使用量から算出される濃度である。
・MMA:メタクリル酸メチル(東京化成工業製)(分子量:100.12)
・BMA:メタクリル酸ブチル(東京化成工業製)(分子量:128.17)
・アクリル酸2-(パーフルオロヘキシル)エチル(ダイキン化成品販売社製)(分子量:418.15)
・開始剤(ラジカル重合開始剤):1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(富士フィルム和光純薬製)(分子量:244.34)
【0061】
【0062】
<イソシアネート硬化剤<5>の合成>
攪拌機、温度計、環流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気にし、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)(東京化成工業製)を60g、2価ポリエーテルポリオール(旭硝子製「プレミノールG-5000」数平均分子量5000)を62.5g(イソシアネート基/水酸基の当量比30/1)仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し、反応器内の温度を160℃に3時間保持した。次いで、反応液の温度を下げ、薄膜蒸発缶を用いて未反応のHDIを除去した。得られた両末端イソシアネートポリマー(イソシアネート硬化剤<5>)の数平均分子量は5000である。
【0063】
表層形成用の他の材料は以下の通りである。
・フッ素樹脂:関西ペイント製「カンペフロンEX」
・イソシアネート硬化剤<1>:ユニロイヤル製「アジプレンbl-16」(数平均分子量2000-3000)
・イソシアネート硬化剤<2>:日本ポリウレタン製「コロネート2412」(数平均分子量600-2000)
・イソシアネート硬化剤<3>:保土谷化学製「ミリオネート0」(分子量296)
・イソシアネート硬化剤<4>:DIC製「バーノックDB-980K」(分子量504)
・シランカップリング剤:信越化学工業製「KBM-903」
【0064】
<表層形成用組成物の調製>
表2~4に示す質量部にて各成分を混合することにより、表層形成用組成物を調製した。
【0065】
<ベルト部材の作製>
円筒状の金型の表面に、ポリイミドを含む塗工液(日立化成工業製「HCI-1300」)をディップコート法によって塗工し、120℃で30分、150℃で10分、200℃で10分、250℃で10分、350℃で10分加熱し、基層(厚さ70μm)を形成した。次いで、ディッピング法によって基層の表面に表層形成用組成物を塗工し、160℃で30分間加熱・硬化することにより、表2~4に記載の厚みの表層を形成した。次いで、金型を除去することにより、ベルト部材を作製した。
【0066】
作製したベルト部材について、以下のうねり、摺動音、外観、密着性を評価した。また、作製したベルト部材の表面の摩擦係数を測定した。
【0067】
(うねり)
作製したベルト部材を紙搬送ユニット(セイコーエプソン製「WF-C20590」にセットし、32.5℃×90%RH環境下に5日間放置した。その後、ベルト部材を1/4回転させ、回転前に回転軸が接触していた箇所に発生したうねりの高さが、0.7mm以下であった場合を「◎」、0.7mm超0.9mm以下であった場合を「○」、0.9mm超であった場合を「×」とした。
【0068】
(摺動音)
作製したベルト部材を紙搬送ユニット(セイコーエプソン製「WF-C20590」にセットし、周速420mm/secにてベルト部材を回転させ、クリーニングブレードとの接触で摺動音が250時間以上発生しなかった場合を「◎」、200時間超250時間未満の間で摺動音が発生した場合を「○」、200時間以内で摺動音が発生した場合を「×」とした。
【0069】
(外観)
ベルト部材の作製過程で、表層形成用組成物を基層に塗工し、160℃30分で硬化反応させたときの塗膜表面に欠陥が発生した場合を「×」とし、欠陥(ハジキ、割れ、シワ、気泡、ブリード)が発生しなかった場合を「○」とした。
【0070】
(密着性)
ベルト部材の表層に1mm角×50マスの切り込みを入れ、粘着テープ(日東電工製「P-422」)を貼付し、テープのみを剥がした際に、表層のマス目に剥離が全くなかった場合を「◎」、剥離したマス目の数が1個であった場合を「○」、剥離したマス目の数が2個以上であった場合を「×」とした(クロスカット法)。
【0071】
(摩擦係数)
摩擦摩耗計(協和界面科学製「Triboster500」)の台座にベルト部材をセットし、ベルト部材の表層側を、金属線圧子を用いて、2.5mm/sの速さで500回摩耗試験を実施し、500回目の静摩擦係数および動摩擦係数を測定した。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
比較例1は、表層形成用組成物におけるイソシアネート硬化剤の含有量が少なすぎて、ベルト部材の表面にうねりが発生している。比較例2は、表層形成用組成物におけるイソシアネート硬化剤の含有量が多すぎて、摺動音が抑えられていない。比較例3は、表層形成用組成物におけるイソシアネート硬化剤が両末端に官能基を有するものであり、その分子量が小さいため、ベルト部材の表面にうねりが発生している。比較例4は、表層形成用組成物におけるイソシアネート硬化剤が両末端に官能基を有するものであり、その分子量が大きいため、摺動音が抑えられていない。比較例5は、表層形成用組成物におけるイソシアネート硬化剤が片末端に官能基を有するものであり、イソシアネート硬化剤の含有量が多すぎて、摺動音が抑えられていない。
【0076】
比較例6は、表層形成用組成物におけるフッ素系界面活性剤の含有量が少ないため、表面の滑り性を向上する効果が低く、摺動音が抑えられていない。比較例7は、表層形成用組成物におけるフッ素系界面活性剤の含有量が多いため、表層形成時の塗膜表面に欠陥が発生し、外観に劣っている。比較例8は、表層形成用組成物におけるシランカップリング剤の含有量が少ないため、基層と表層の密着性に劣っている。比較例9は、表層形成用組成物におけるシランカップリング剤の含有量が多いため、ベルト部材の表面にうねりが発生している。比較例10は、表層形成用組成物においてフッ素系界面活性剤が含まれていないため、表面の滑り性が悪く、摺動音が抑えられていない。比較例11は、表層形成用組成物においてシランカップリング剤が含まれていないため、基層と表層の密着性に劣っている。
【0077】
一方、実施例は、表層形成用組成物が、水酸基を有するフッ素樹脂と、イソシアネート硬化剤と、フッ素系界面活性剤と、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤と、を含み、各成分が特定量となっており、イソシアネート硬化剤が両末端にイソシアネート基を有しその分子量が600g/mol以上4000g/mol以下であるか、イソシアネート硬化剤が片末端にイソシアネート基を有するものである。そして、実施例によれば、ベルト部材の表面においてうねりの発生が抑えられ、クリーニングブレードの摺動音が抑えられ、表層形成時の塗膜表面に欠陥も見られず外観も良好で、表層と基層の密着性にも優れている。
【0078】
そして、実施例1,2,7から、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の含有量がフッ素樹脂100質量部に対し15質量部以上25質量部以下であると、ベルト部材表面のうねりを抑える効果により優れることがわかる。また、実施例1,8,9から、表層の厚みが20μm以上50μm以下であると、ベルト部材表面のうねりを抑える効果により優れることがわかる。また、実施例1,10、比較例3,4から、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート硬化剤の分子量が2000~4000であると、ベルト部材表面のうねりを抑える効果および摺動音を抑える効果により優れることがわかる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。