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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047634
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】横圧測定装置、及び、横圧測定方法
(51)【国際特許分類】
   B61K 9/02 20060101AFI20240401BHJP
   G01L 5/20 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B61K9/02
G01L5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153232
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】本堂 貴敏
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA01
2F051AB09
2F051BA07
(57)【要約】
【課題】横圧の測定精度を向上した横圧測定装置等を提供する。
【解決手段】鉄道車両の車輪100とレールとの間の横圧Qを測定する横圧測定装置を、車輪は、外周縁部に設けられ踏面が形成されたリム部110と、中央部に設けられ車軸が取り付けられるボス部120と、リム部とボス部との間に設けられた板部130とを有し、横圧測定装置は、板部を車輪の回転中心軸方向に貫通するとともに回転中心軸回りにおける角度位置がπ/4rad以内の範囲に配置された孔の内面に貼付され横圧に起因する板部のせん断ひずみを検出する複数のひずみゲージと、前記ひずみゲージで構成されたブリッジ回路の出力に基づいて横圧を算出する横圧算出部とを備える構成とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪とレールとの間の横圧を測定する横圧測定装置であって、
前記車輪は、
外周縁部に設けられ踏面が形成されたリム部と、
中央部に設けられ車軸が取り付けられるボス部と、
前記リム部と前記ボス部との間に設けられた板部とを有し、
前記横圧測定装置は、
前記板部を前記車輪の回転中心軸方向に貫通するとともに前記回転中心軸回りにおける角度位置がπ/4rad以内の範囲に配置された孔の内面に貼付され前記横圧に起因する前記板部のせん断ひずみを検出する複数のひずみゲージと、
前記ひずみゲージで構成されたブリッジ回路の出力に基づいて前記横圧を算出する横圧算出部とを備えること
を特徴とする横圧測定装置。
【請求項2】
前記ブリッジ回路を構成する複数の前記ひずみゲージは、同一の前記孔の内面に貼付されること
を特徴とする請求項1に記載の横圧測定装置。
【請求項3】
前記横圧算出部は、前記車輪の一回転毎に間欠的に前記横圧を算出すること
を特徴とする請求項2に記載の横圧測定装置。
【請求項4】
前記孔は前記車輪の周方向に離間して配列された第1孔及び第2孔を有し、
前記ブリッジ回路を構成する複数の前記ひずみゲージは、前記第1孔の内面に貼付された前記ひずみゲージ及び前記第2孔の内面に貼付された前記ひずみゲージを含むこと
を特徴とする請求項1に記載の横圧測定装置。
【請求項5】
前記横圧算出部は、前記車輪と前記レールとの接触点位置の周方向の変化に応じて前記横圧を連続的に算出すること
を特徴とする請求項4に記載の横圧測定装置。
【請求項6】
前記横圧算出部は、前記車輪の検定試験において得られた前記ブリッジ回路の出力履歴と、前記車輪を転動させて得られた前記ブリッジ回路の出力履歴とに基づいて、前記ブリッジ回路の出力のオフセットを演算するオフセット演算処理部を備えること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の横圧測定装置。
【請求項7】
鉄道車両の車輪とレールとの間の横圧を測定する横圧測定装置であって、
前記車輪は、
外周縁部に設けられ踏面が形成されたリム部と、
中央部に設けられ車軸が取り付けられるボス部と、
前記リム部と前記ボス部との間に設けられた板部とを有し、
前記横圧測定方法は、
前記横圧に起因する前記板部のせん断ひずみを検出する複数のひずみゲージを、前記板部の前記車輪の回転中心軸回りにおける角度位置がπ/4rad以内の範囲に配置され前記板部を回転中心軸方向に貫通する孔の内面に貼付し、
前記孔の内面に貼付された前記ひずみゲージで構成されたブリッジ回路の出力に基づいて前記横圧を算出すること
を特徴とする横圧測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車輪とレールとの間に横方向に作用する接触力である横圧を測定する横圧測定装置及び横圧測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車輪とレールとの間に作用する接触力である輪重、横圧を測定(いわゆるPQ測定)する方法は、主に軌道側に設けられたセンサ等を用いて地上側で測定する方法と、車載したセンサ等を用いて車上で測定する方法とに大別される。
走行安全性評価を目的として輪重、横圧を測定する場合には、主に車上で測定する方法が用いられる。
【0003】
車上で輪重、横圧を測定する方法として、車輪の変形量をひずみゲージで測定する方法が知られている。
また、近年では、いわゆるPQモニタリング台車のように、ひずみゲージを車輪に貼付する代わりに、ロードセルや変位センサを台車に組み込むことで、輪重、横圧の常時監視を行うことも提案されている。
【0004】
鉄道車両の横圧測定に関する従来技術として、例えば、非特許文献1には、車輪の外周縁部に設けられ踏面が設けられるリム部と、車軸が挿通されるボス部との間に設けられる車輪板部に、周方向に分散して複数の孔(開口)を形成し、孔の内部に貼付したひずみゲージを用いて車輪板部の曲げ変形量を検出し、横圧を測定することが記載されている。
非特許文献2には、車輪板部に周方向に分散して複数のひずみゲージを貼付することにより、車輪板部の曲げ変形量を検出し、横圧の連続測定を可能としたものが記載されている。
非特許文献3には、車輪板部の曲げ変形量をリム部の横変位に基づいて検出し、横圧を演算するPQモニタリング台車が記載されている。
非特許文献4には、車輪板部の曲げひずみに基づいた横圧測定が困難な中央締結ブレーキディスクを備えた車輪において、踏面が設けられるリムのせん断ひずみに応じて横圧を測定することが記載されている。
また、非特許文献5には、PQ輪軸の輪重測定用ブリッジ回路から得られるひずみ信号を用いて、輪重の車輪一回転平均値を求めることが記載されている。
また、非特許文献6には、曲げ・せん断横圧測定法を併用したPQ輪軸において、左右方向接触位置の車輪一回転平均値を算出することが記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、横圧の測定精度を改善するため、車輪の板部のせん断ひずみに基づいて横圧を算出することにより、例えば板部の曲げ変形に基づいて横圧を算出する従来技術に対して、輪重によるモーメント荷重による誤差を低減可能であることが記載されている。
また、特許文献2には、鉄道車両の車輪におけるレールとのまくらぎ方向における接触位置を測定する接触位置測定装置において、車輪の周方向に分散して配置され車輪の弾性変形を検出するとともに、接触位置に応じて車輪回転時の出力波形の周波数特性が変化する接触位置測定用ブリッジ回路を構成する複数の接触位置測定用ひずみゲージと、車輪回転時における接触位置測定用ブリッジ回路の出力波形の周波数特性に基づいて接触位置を演算する接触位置演算部とを備えるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022- 41347号公報
【特許文献2】特開2022- 41349号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】石田弘明,松尾雅樹,手塚和彦,植木健司,「鉄道車両の新しい輪重,横圧,脱線係数測定法(測定装置の開発)」,日本機械学会論文集C編,Vol. 63,No. 614 (1997),pp. 3417-3423.
【非特許文献2】佐藤潔,久保木辰夫,神戸英樹,「間欠・連続併用に対応した輪重・横圧測定処理システムの開発」,鉄道総研報告,Vol. 22,No. 2 (2008),pp. 47-52.
【非特許文献3】大野寛之,松本陽,佐藤安弘,清水忠,留岡正男,松本耕輔、谷本益久、佐藤與志「PQ輪軸を用いない車輪/レール接触力の測定方法」,日本機械学会論文集C編,Vol. 77,No. 774 (2011),pp. 147-155.
【非特許文献4】石田弘明,遠藤賢也「中央締結ブレーキディスク付き車輪の横圧測定法」,明星大学理工学部研究紀要,53号 (2017),pp. 39-46.
【非特許文献5】本堂貴敏「PQ輪軸のひずみ出力に対する回転角度センサが不要な縦クリープ力車輪1回転移動平均値抽出手法」日本機械学会論文集,Vol.87, No.894, 2021
【非特許文献6】本堂貴敏, 國行翔哉, 土井久代「曲げ・せん断横圧測定法を併用したPQ輪軸のための接触位置情報抽出処理手法」TRANSLOG2021講演論文集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1乃至3に記載されたように、車輪板部の曲げ変形量に基づいて横圧を測定する場合、車輪とレールとの接触位置が、踏面中心からまくらぎ方向に移動した場合に、横圧測定手段における輪重に対する交差感度が大きくなり、輪重に起因する測定誤差が大きくなることが懸念される。
例えば、車輪とレールとの接触位置が踏面中心からフランジ側へ移動した場合には、輪重によるモーメント荷重が車輪に加わり、横圧のみが作用した場合よりも曲げ変形量が大きくなり、横圧を実際よりも大きいと誤認する場合がある。このような場合、例えば走行安全性評価において、本来安全であるにも関わらず、危険であると判定される可能性がある。
また、非特許文献4に記載されたように、車輪のリム部のせん断ひずみに基づいて横圧を測定しようとした場合、ひずみゲージが設けられる測点が車輪とレールとの接触箇所に近いことから、やはり輪重による影響を強く受けることが明らかとなっている。
また、特許文献1に記載されたように、車輪の板部のせん断ひずみを活用して横圧を測定した場合、車輪の曲げひずみや、リム部のせん断ひずみにより横圧を測定する場合よりは輪重の影響を抑制することができるが、輪重による影響をさらに低減することが要望されている。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、横圧の測定精度を向上した横圧測定装置及び横圧測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る横圧測定装置は、鉄道車両の車輪とレールとの間の横圧を測定する横圧測定装置であって、前記車輪は、外周縁部に設けられ踏面が形成されたリム部と、中央部に設けられ車軸が取り付けられるボス部と、前記リム部と前記ボス部との間に設けられた板部とを有し、前記横圧測定装置は、前記板部を前記車輪の回転中心軸方向に貫通するとともに前記回転中心軸回りにおける角度位置がπ/4rad以内の範囲に配置された孔の内面に貼付され前記横圧に起因する前記板部のせん断ひずみを検出する複数のひずみゲージと、前記ひずみゲージで構成されたブリッジ回路の出力に基づいて前記横圧を算出する横圧算出部とを備えることを特徴とする。
ここで、回転中心軸回りにおける角度位置(以下、中心角と称する)がπ/4rad以内の範囲に孔が配置されるとは、孔が単一の場合、あるいは、複数の孔を、全ての孔の少なくとも一部が中心角π/4rad以内の範囲に含まれるよう配置した場合(例えば孔が円形であり各孔の中心が中心角π/4rad以内の範囲に含まれる場合)を意味するものとする。
これによれば、例えば車輪の曲げひずみを用いる手法や、車輪の周上で180度離間した箇所のせん断ひずみの影響を受ける既存の横圧測定手法に対して、輪重が負荷された際に生じるひずみによってみかけの横圧が発生する影響を抑制し、横圧の測定精度を向上することができる。
【0010】
本発明において、前記ブリッジ回路を構成する複数の前記ひずみゲージは、同一の前記孔の内面に貼付される構成とすることができる。
この場合、前記横圧算出部は、前記車輪の一回転毎に間欠的に前記横圧を算出する構成とすることができる。
これによれば、車輪とレールとの接触角度位置が特定の一点にあるときの輪重によるみかけの横圧の交差感度比を改善し、間欠的に横圧を算出する際の測定精度を改善することができる。
【0011】
本発明において、前記孔は前記車輪の周方向に離間して配列された第1孔及び第2孔を有し、前記ブリッジ回路を構成する複数の前記ひずみゲージは、前記第1孔の内面に貼付された前記ひずみゲージ及び前記第2孔の内面に貼付された前記ひずみゲージを含む構成とすることができる。
この場合、前記横圧算出部は、前記車輪と前記レールとの接触点位置の周方向の変化に応じて前記横圧を連続的に算出する構成とすることができる。
これによれば、輪重に対する交差感度特性の高調波成分を低減し、車輪とレールとの接触角度位置が車輪の周方向における所定の回転角度範囲内にわたって連続的に存在する際の平均の交差感度比を改善し、車輪の転動に応じて連続的に横圧を算出する際の測定精度を改善することができる。
【0012】
本発明において、前記横圧算出部は、前記車輪の検定試験において得られた前記ブリッジ回路の出力履歴と、前記車輪を転動させて得られた前記ブリッジ回路の出力履歴とに基づいて、前記ブリッジ回路の出力のオフセットを演算するオフセット演算処理部を備える構成とすることができる。
これによれば、本発明特有のひずみゲージの配置に起因するブリッジ回路の出力のオフセットを適切に演算し、ブリッジ回路の出力から除去することにより、横圧の測定精度を確保することができる。
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る横圧測定方法は、鉄道車両の車輪とレールとの間の横圧を測定する横圧測定装置であって、前記車輪は、外周縁部に設けられ踏面が形成されたリム部と、中央部に設けられ車軸が取り付けられるボス部と、前記リム部と前記ボス部との間に設けられた板部とを有し、前記横圧測定方法は、前記横圧に起因する前記板部のせん断ひずみを検出する複数のひずみゲージを、前記板部の前記車輪の回転中心軸回りにおける角度位置がπ/4rad以内の範囲に配置され前記板部を回転中心軸方向に貫通する孔の内面に貼付し、前記孔の内面に貼付された前記ひずみゲージで構成されたブリッジ回路の出力に基づいて前記横圧を算出することを特徴とする。
これによれば、上述した横圧測定装置に係る発明の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、横圧の測定精度を向上した横圧測定装置及び横圧測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の横圧測定装置等において用いられる車輪の構成及びひずみゲージの配置を示す図である。
図2図1に示すひずみゲージのうち、分離型ブリッジ回路を構成するために最低限必要なひずみゲージのみの配置を示す図である。
図3】せん断ひずみを活用した横圧測定法の分離型ブリッジ回路の基本形を示す図である。
図4】せん断ひずみを活用した横圧測定法において、隣接する孔のひずみゲージを活用したブリッジ回路(隣接孔活用形)である。
図5】本発明の比較用の曲げひずみを用いた分離型ブリッジ回路(曲げ比較用)である。
図6】基本形のブリッジ回路において横圧を載荷した際の感度特性を示す図である。
図7】隣接孔活用形のブリッジ回路において横圧を載荷した際の感度特性を示す図である。
図8】曲げ比較用のブリッジ回路において横圧を載荷した際の感度特性を示す図である。
図9】基本形のブリッジ回路において輪重を載荷した際の感度特性を示す図である。
図10】隣接孔活用形のブリッジ回路において輪重を載荷した際の感度特性を示す図である。
図11】曲げ比較用のブリッジ回路において輪重を載荷した際の感度特性を示す図である。
図12】測定守備範囲における交差感度比を計算した結果を示す図であって、左右方向載荷位置が-20mm(反フランジ側)における状態を示す図である。
図13】測定守備範囲における交差感度比を計算した結果を示す図であって、左右方向載荷位置が+20mm(フランジ側)における状態を示す図である。
図14】単位横圧あたりのひずみ出力を、式1でフィッティングした結果を示す図である。
図15】単位輪重あたりのひずみ出力を式2でフィッティングした結果を示す図である。
図16】オフセットを除去するためのフィルタを間欠法によるPQ測定に適用する場合の実装例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した横圧測定装置及び横圧測定方法の実施形態について説明する。
先ず、上述した既存の車輪のせん断歪を活用した横圧測定法(特許文献1に記載された技術)においては、ひずみゲージ貼付位置と180度異なる位置に輪重を載荷した場合に大きなひずみが生じており(後述する図9を参照)、従来のブリッジ回路の構成法ではこの影響で精度が低下することが問題となっていた。
すなわち、輪重によりみかけの横圧が発生する交差感度比を低減することが求められる。
実施形態においては、こうした交差感度比の改善を図っている。
【0017】
交差感度比が悪化する原因は、車輪円周上のある位置に力を載荷した場合、載荷した位置と180度位相の異なる位置にも弾性変形が生じるためであると考えられる。
つまり、載荷した位置に最も近いひずみゲージだけではなく、車軸を挟んで反対側のひずみゲージにも、計測精度上無視できないオーダのひずみが生じており、そのひずみが交差感度比を悪化させる方向に生じたものと考えられる。
このことは、車軸を挟んで反対側のひずみを測定するゲージをブリッジ回路から分離することができれば、交差感度比をより低減させることができる可能性がある。
本実施形態では、このように分離したブリッジ回路のことを「分離型ブリッジ回路」(本発明が適用されたもの)、従来技術のように反対側のひずみゲージを組み込んだブリッジ回路のことを「非分離型ブリッジ回路」(特許文献1に記載されたものに相当する従来技術)と称する。
【0018】
ブリッジ回路を分離するうえでは、以下の課題を解決する必要がある。

・従来のように車輪全周にわたって十分な感度を確保するためには、横圧測定だけでも最低4系統のブリッジ回路が必要となり、現用のスリップリング装置ではチャンネル数が不足する。

・車輪回転に対する感度特性がオフセットを伴う周期性を持つため、信号処理手法を新たに開発する必要がある
【0019】
これらの課題のうち、前者については、無線ディジタル伝送装置を活用し、多チャンネル化を図ることで対応が可能である。
以下、主に後者の課題の解決について説明する。
具体的には、分離後のブリッジ回路構成の検討と、FEMによる感度特性の解析と、オフセットを伴う周期性に対応したフィルタの検討について以下説明する。
【0020】
図1は、実施形態の横圧測定装置等において用いられる車輪の構成及びひずみゲージの配置を示す図である。
図1(a)は、車輪100を車軸方向かつ車幅方向外側から見た図である。
図1(b)、図1(c)は、それぞれ図1(a)のb-b部矢視断面図、c-c部矢視断面図である。
車輪100は、例えば、リム部110、ボス部120、板部130等を一体に形成した一体圧延車輪である。
実施形態のPQ輪軸は、図示しない車軸の両端部に、左右一対の車輪100のボス部120をそれぞれ圧入して構成される。
【0021】
リム部110は、車輪100の外周縁部に設けられたタイヤ部分であり、踏面111、フランジ112等を有する。
踏面111は、リム部110の外周面部であって、図示しないレールの頭部と接触する部分である。
踏面111には、曲線通過を円滑に可能とするため、車両外側が内側に対して小径となるよう所定の踏面勾配が設けられている。
フランジ112は、踏面111の車両内側の端部から外径側につば状に張り出して形成されている。
なお、図1(a)において、リム部110に周方向に沿って記載された数字は、横圧測定等における載荷点などを示すために用いられる周方向の位置指標である。
この位置指標は、車輪100を周方向に32分割し、図1(a)における時計回り方向に沿って等間隔に配列される。
【0022】
ボス部120は、車輪100の中央部に設けられ、図示しない車軸が圧入される円筒状の部分である。
リム部110、ボス部120は、板部130に対して車軸方向における両側へ突出して形成されている。
【0023】
板部130は、リム部110の内径側に設けられる円盤状の部分である。
板部130は、例えば、車軸の軸心方向と直交する平面に沿って延在する平板状に形成されている。
ボス部120は、板部130の中央部に設けられている。
【0024】
板部130には、ひずみゲージを貼付するため、孔131が形成されている。
孔131は、車輪100の径方向において、リム部110の内周縁部と、ボス部120の外周縁部との中間部に設けられている。
孔131は、車輪100の周方向に沿って、例えば8箇所、等間隔に配列されている。
孔131は、上述した位置指標において、0,4,8,12,16,20,24,28に対応した位置に形成されている。
孔131の内周面には、以下説明するひずみゲージが貼付されている。
【0025】
ひずみゲージ1A,1B,2A,2B,3A,3B,4A,4B,5A,5B,6A,6B,7A,7B,8A,8Bは、孔131の内周面に貼付されている。
ひずみゲージ1A,1Bは、位置指標0に相当する箇所(車軸回りにおける位相・角度位置)に設けられた孔131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
【0026】
ひずみゲージ2A,2Bは、位置指標4に相当する箇所に設けられた孔131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ3A,3Bは、位置指標8に相当する箇所に設けられた孔131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ4A,4Bは、位置指標12に相当する箇所に設けられた孔131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ5A,5Bは、位置指標16に相当する箇所に設けられた孔131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ6A,6Bは、位置指標20に相当する箇所に設けられた孔131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ7A,7Bは、位置指標24に相当する箇所に設けられた孔131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
ひずみゲージ8A,8Bは、位置指標28に相当する箇所に設けられた孔131の内周面に、車輪110の周方向に対向して配置されている。
【0027】
せん断ひずみによる横圧測定法を採用するため、ひずみゲージ1A,1B,3A,3B,5A,5B,7A,7B,8A,8Bには、例えばロゼット解析等に用いられるひずみゲージ1箇所あたり3点分(3軸)のひずみゲージが設けられる。
これらを区別するために、主番号に加えて枝番号を付番する。
図1(b)、図1(c)に示すように、ひずみゲージの頭(軸方向のうち車輪外径側に向いた方向)がフランジ方向に傾いているひずみゲージの枝番を3とし、中央の輪重測定用ひずみゲージの枝番を2とし、ひずみゲージの頭が反フランジ方向に傾いているひずみゲージの枝番を1とした。
なお、ひずみゲージ2A,2B,4A,4B,6A,6B,8A,8Bは、枝番2に相当する単軸のひずみゲージである。(但し、後述する隣接孔活用形のブリッジ回路を構成する場合には、ひずみゲージ2A,2Bも3軸ひずみゲージとする。)
枝番2に係る各ひずみゲージは、公知の連続輪重測定装置における輪重ブリッジ回路を構成するものである。
【0028】
また、車輪100には、本発明の比較例である横圧測定装置を構成するひずみゲージ1a,1a’,3a,3a’,5a,5a’,7a,7a’が設けられている。
これらのひずみゲージは、板部130の曲げ変形に基づいて横圧を測定する公知の横圧ブリッジ回路を構成する。
ひずみゲージ1a,1a’,3a,3a’,5a,5a’,7a,7a’は、板部130の表面(車輪110側面)であって、孔131よりも内径側の領域に配置されている。
ひずみゲージ1a,1a’は、ひずみゲージ1A,1Bが設けられた孔131の内径側に配置されている。
ひずみゲージ1aは、車輪110における車幅方向外側の面に貼付されている。
ひずみゲージ1a’は、車輪110における車幅方向内側の面に貼付されている。
ひずみゲージ1aとひずみゲージ1a’とは、板部130を挟み、車輪110の回転軸方向に対向して配置されている。
【0029】
ひずみゲージ3a,3a’は、ひずみゲージ3A,3Bが設けられた孔131の内径側に配置されている。
ひずみゲージ3aは、車輪110における車幅方向外側の面に貼付されている。
ひずみゲージ3a’は、車輪110における車幅方向内側の面に貼付されている。
ひずみゲージ3aとひずみゲージ3a’とは、板部130を挟み、車輪110の回転軸方向に対向して配置されている。
【0030】
ひずみゲージ5a,5a’は、ひずみゲージ5A,5Bが設けられた孔131の内径側に配置されている。
ひずみゲージ5aは、車輪110における車幅方向外側の面に貼付されている。
ひずみゲージ5a’は、車輪110における車幅方向内側の面に貼付されている。
ひずみゲージ5aとひずみゲージ5a’とは、板部130を挟み、車輪110の回転軸方向に対向して配置されている。
【0031】
ひずみゲージ7a,7a’は、ひずみゲージ7A,7Bが設けられた孔131の内径側に配置されている。
ひずみゲージ7aは、車輪110における車幅方向外側の面に貼付されている。
ひずみゲージ7a’は、車輪110における車幅方向内側の面に貼付されている。
ひずみゲージ7aとひずみゲージ7a’とは、板部130を挟み、車輪110の回転軸方向に対向して配置されている。
【0032】
図2は、図1に示すひずみゲージのうち、分離型ブリッジ回路の検証のために最低限必要なひずみゲージのみの配置を示す図である。
図2に示す構成においては、隣接する孔131を活用したブリッジ回路の構成についても検証するため、図1では単軸ひずみゲージを貼付することとしていた「4」の位置についても、3軸ひずみゲージ2A-1,2,3、2B-1,2,3を貼付している。
【0033】
また、曲げひずみについても、比較のために分離型ブリッジ回路を構成する。
この場合、図1に示す貼り方では、4ゲージ法のブリッジ回路を構成することができないため、図2に示すように、ひずみゲージの貼付位置を車輪の周方向(図2における左右方向)に若干ずらし、車輪の半分(図2における上半分)のみで4枚(表側2枚、裏側2枚)の単軸ひずみゲージ1a′-1,1a-2,1a′-2,1a-1を貼付した。
【0034】
図3は、せん断ひずみを活用した横圧測定法の分離型ブリッジ回路の基本形(分離型基本構成)を示す図である。
ブリッジ回路は、ひずみゲージ1A-1,1A-3,1B-1,1B-3を順次環状に接続して構成される。
ブリッジ回路の出力は、ひずみゲージ1A-1,1A-3の間と、ひずみゲージ1B-1,1B-3との間の電圧となる。
図3の構成とした場合、一つの孔131のひずみゲージのみでブリッジ回路が完結する。
【0035】
図4は、せん断ひずみを活用した横圧測定法において、隣接する孔のひずみゲージを活用したブリッジ回路(隣接孔活用形)である。
図4の構成は、輪重に対する交差感度特性の高調波成分の低減を図ったものである。
ブリッジ回路は、ひずみゲージ1A-1,1B-1,1A-3,1B-3,2A-1,2B-1,2A-3,2B-3を順次環状に接続して構成される。
ブリッジ回路の出力は、ひずみゲージ1B-1,1A-3の間と、ひずみゲージ2A-1,2B-3との間の電圧となる。
図4の構成では、周方向に隣接する2つの孔131(本発明の第1孔、第2孔)のひずみゲージでブリッジ回路を構成している。
【0036】
図5は、比較用の曲げひずみを用いた分離型ブリッジ回路である。
ブリッジ回路は、ひずみゲージ1a′-1,1a-2,1a′-2,1a-1を順次環状に接続して構成される。
ブリッジ回路の出力は、ひずみゲージ1a′-1,1a-2の間と、ひずみゲージ1a′-2,1a-1との間の電圧となる。
図3乃至図5に示す構成は、いずれも4ゲージ法によるブリッジ回路であることから、温度補償機能を有している。
なお、本発明において、ひずみゲージの配置は本実施形態に限定されず適宜変更することが可能であるが、この場合であっても、車輪100の中心軸回りにおける角度位置がπ/4rad以内の範囲に配置されたひずみゲージのみでブリッジ回路を構成することが好ましい。
【0037】
各ブリッジ回路の出力は、演算手段である横圧算出部によって処理され、横圧Qの算出に用いられる。
横圧算出部は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するコンピュータとして構成することができる。
横圧Qの算出は、例えば、車上で測定したブリッジ回路出力(ひずみ波形)を記録し、例えば地上施設に持ち帰り、オフラインで行うようにしてもよい。
また、横圧算出部の演算能力に余裕がある場合には、車上あるいは車両と通信可能な地上施設において、リアルタイムで行うようにしてもよい。
【0038】
図3乃至図5に示す3種類のブリッジ回路について、横圧Qを載荷した際の感度特性と、輪重Pを載荷した際の交差感度特性を調査し、その結果を用いて各手法の交差感度比を比較した。
図6は、基本形のブリッジ回路において横圧を載荷した際の感度特性を示す図である。
図7は、隣接孔活用形のブリッジ回路において横圧を載荷した際の感度特性を示す図である。
図8は、曲げ比較用のブリッジ回路において横圧を載荷した際の感度特性を示す図である。
図6乃至図8では、横圧相当荷重を車輪円周上32点の検定位置(横軸に角度で表記)に、横圧Qを10kN,20kN,30kNの3パターン載荷した場合のブリッジ回路出力特性を示している。
先ず、3種類全てのブリッジ回路について、同じ位置に載荷した場合には、横圧Qに比例したブリッジ回路出力が得られることを確認できる。
同じ大きさの横圧Qを載荷した場合のひずみ量(感度)は、曲げと比較してせん断のほうが小さいが、曲げと比較した感度の減少率は、特許文献1に記載された非分離型のブリッジ回路と同程度である。
【0039】
上述した通り、ブリッジ回路の構成が車輪回転に対して軸対象ではないため、車輪回転に対するひずみの縦軸方向のゼロ点がずれている。
このシフトしたゼロ点への対処が信号処理上の課題となる。
また、せん断ひずみを活用したブリッジ回路のうち、(a)基本形と(b)隣接孔活用形とを比較すると、ひずみ出力の絶対値には大きな差異はないものの、隣接孔活用形では、位相が約π/8radシフトすることがわかる。
【0040】
図9乃至図11は、輪重を載荷した際の交差感度特性を示す図である。
図9は、基本形のブリッジ回路において輪重を載荷した際の感度特性を示す図である。
図10は、隣接孔活用形のブリッジ回路において輪重を載荷した際の感度特性を示す図である。
図11は、曲げ比較用のブリッジ回路において輪重を載荷した際の感度特性を示す図である。
図9乃至図11では、輪重相当荷重40kNを、車輪円周上32点の検定位置(横軸に角度で表記)した場合のブリッジ回路出力特性を示している。
その際、左右方向(まくらぎ方向)載荷位置yとして、+20mm(フランジ側)、0mm(踏面中心)、-20mm(反フランジ側)の3パターンを設定している。
【0041】
図9に示す(a)基本形については、角度0rad付近に、非分離型のブリッジ回路と同様に交差感度が局所的に小さくなる「凹み」が見られ、間欠法において輪重交差感度の低減効果が大きいことが確認される。
一方、載荷位置(角度)が180度(πrad)異なる場合には、交差感度が相対的に大きくなっている。
これが非分離型のブリッジ回路において、交差感度比低減効果が顕著に現れない原因であると考えられる。
【0042】
図10に示す(b)隣接孔活用形については、角度0rad付近における交差感度の「凹み」が若干小さくなることが確認される。
(a),(b),(c)に共通する特性として、ゼロ点のシフト特性(具体的には、ひずみ出力がゼロとなる角度)が横圧感度とは若干異なることが確認される。
【0043】
最後に、輪重Pによりみかけの横圧Qが発生する程度を示す指標である交差感度比を比較する。
分離型ブリッジ回路を用いたPQ輪軸においては、ひずみゲージが貼付されている位置を基準に、例えば±π/4の範囲における測定を1つのブリッジ回路でカバーすることが想定される。
以下、この範囲のことを、「測定守備範囲」と称する。
図12は、測定守備範囲における交差感度比を計算した結果を示す図であって、左右方向載荷位置が-20mm(反フランジ側)における状態を示す図である。
図13は、測定守備範囲における交差感度比を計算した結果を示す図であって、左右方向載荷位置が+20mm(フランジ側)における状態を示す図である。
なお、上述したように、隣接孔活用形のブリッジ回路の出力は、位相が約π/8radシフトするが、測定守備範囲内での交差感度特性を比較するために、図12図13では全てのブリッジ回路について位相を合わせてプロットしている。
また、交差感度そのものが小さくなるy=0mmの条件は比較対象外とした。
【0044】
せん断ひずみを活用する2つの手法(基本形、隣接孔活用形)については、曲げひずみを使用する方法と比較して、測定守備範囲内の交差感度比が軒並み低く、分離型ブリッジ回路においても一定の輪重交差感度比低減効果を確認できる。
交差感度比低減効果について、定量的にみると、まず間欠法を想定した場合、角度0radにおける交差感度比が最も重要である。
表1は、間欠法を想定した場合の交差感度比を比較した表である。
【表1】
【0045】
3手法の中で、交差感度比が最も小さいのは、(a)のせん断ひずみを活用した分離型基本構成であり、(c)の曲げひずみを使用する方法と比較すると、交差感度比を1/3以下に低減することが可能である。
なお、(b)の隣接孔活用形については、(c)の曲げひずみを使用する方法と比較すると交差感度比は低下するものの、(a)の分離型基本構成よりは交差感度比が増加する。
(b)の隣接孔活用形は、ひずみゲージを多数必要とすることや、そもそも8孔タイプのPQ輪軸でなければ実現できないことから、少なくとも間欠法で測定する場合には、分離型の基本構成のほうが有利である。
【0046】
続いて、何らかの連続化処理を行うことを想定して、測定守備範囲内における平均的な交差感度特性について考察する。
表2は、測定守備範囲内における交差感度比の平均値を示す表である。
【表2】
全体的な傾向として、角度0radにおける交差感度比よりも平均値のほうが増加しており、この傾向は特に(a)の分離基本構成において顕著である。
その結果、3方式の中で最も交差感度比の平均値が小さいのは(b)の隣接孔活用形である。
この場合、交差感度比は(c)の曲げひずみを使用する方法と比較すると、6割程度に低減され、間欠法ほどの効果ではないものの、非分離型のブリッジ回路よりは大きな交差感度比低減効果が得られることがわかる。
【0047】
上述した通り、分離型ブリッジ回路を採用した場合、横圧感度特性がゼロ点を中心とした対称な周期関数ではなく、オフセット伴う周期関数となる。
さらに、そのオフセット特性は、横圧感度と輪重交差感度で若干異なるため、オフセット特性の差異を加味したうえで、「センサとして考慮すべきオフセット」と、「除去すべきオフセット」を分離する必要がある。
【0048】
ここで、「除去すべきオフセット」としては、主に動ひずみ測定器のゼロシフト時の初期荷重によるオフセットと、動ひずみ測定器の温度ドリフトによるオフセット等が考えられる。
後者については、近年の高性能な動ひずみ測定器においてはさほど考慮する必要はなくなりつつあるが、前者については、車両の荷重が車輪に作用している状態でゼロシフトせざるを得ないため、何らかの対処が必要である。
以下、実施形態の分離型のブリッジ回路に対応した信号処理フレームワークとして、フーリエ級数による感度特性モデルを活用する方法について説明する。
【0049】
分離型ブリッジ回路の感度特性を、式1のフーリエ級数で近似することを想定する。
【数1】
また、交差感度特性については、式2に示すフーリエ級数と1次関数の複合関数で近似する。
【数2】
この関数は、基本的には、非分離型ブリッジ回路に対して適用した一次関数の傾きとバイアスを、それぞれフーリエ級数によって表現する複合関数であるが、定数オフセット項
【数3】
を、一次関数の傾きを表現するフーリエ級数に対して個別に定義している。
【0050】
式1及び式2に含まれるオフセット項を含む各パラメータは、個々のPQ輪軸に対して行われる検定試験(一例として静荷重試験)の結果を用いて、各PQ輪軸固有の値として計算する。
これらの関数と輪重P、横圧Qを用いると、ひずみ出力εは、式3のように近似的に表される。
【数4】
【0051】
一方、走行試験中に車輪100を実際に転動させて得られるひずみ信号
【数5】
も、同様に式4のようにフーリエ級数で近似できるものとする。
【数6】
【0052】
この式のうち、Dεは、「センサとして考慮すべき感度のオフセット」と、「除去すべきオフセット」が足しあわされた値である。
いま、
【数7】
が成立すると仮定し、さらに「除去すべきオフセット」をDとすると、式5が成立する。
【数8】
【0053】
なお、ここでは、検定時の位相と走行試験で得られたひずみ信号の位相が揃っていることを前提としており、実際の信号処理においては、別途位相調整を行う必要がある。
式5を、φに関する恒等式とみなし、両辺の定数項を比較すると、式6を得る。
【数9】
【0054】
したがって、除去すべきオフセット項Dは、式7のように表せる。
【数10】
【0055】
すなわち、除去すべきオフセット項を厳密に計算するためには、
1.走行試験で得られる波形に含まれる全オフセット量D
2.輪重Pと左右方向接触位置y
3.横圧Q
を把握する必要がある。
このうち、1点目については、実波形をフーリエ変換することによって計算するか、ハイパスフィルタを通すことでD=0とすることができる。
2点目については、仮に
【数11】
及びDが、Dと比較して十分小さければ、無視しても差し支えないと考えられる。
これについては、後に詳しく説明する。
3点目については、横圧感度に載るオフセット項Dがゼロである非分離型ブリッジ回路では問題とならなかった課題であり、ハイパスフィルタに代わる信号処理手法を用いる必要がある。
【0056】
FEM解析結果に、式1、及び、式2をフィッティングさせることで、センサとして考慮すべき感度のオフセットがどの程度生じるかを定量的に評価した。
なお、ここで説明する評価は、全て分離型ブリッジ回路の基本形(a)である。
【0057】
先ず、横圧感度について評価する。
図14は、単位横圧あたりのひずみ出力を、式1でフィッティングした結果を示す図である。
なお、フーリエ級数の最大次数は11とした。
また、フィッティングにより同定された、オフセットを含むフーリエ級数を表3に示す。
【表3】
横圧感度については、横圧1kNあたり約1.65με程度のオフセットが生じることがわかる。
【0058】
続いて、輪重交差感度について評価する。
図15は、単位輪重あたりのひずみ出力を式2でフィッティングした結果を示す図である。
なお、フーリエ級数の最大次数は11とした。
また、フィッティングにより同定された、オフセットを含むフーリエ係数を表4に示す。
【表4】
【0059】
オフセットについては、
【数12】
程度のオーダであり、横圧感度のオフセット量と比較して3桁以上小さい。
具体的な輪重P、及び、接触位置yとして、例えば、P=60kN、y=30mmとした場合、輪重交差感度に起因する波形のオフセット量は、60×(-30×0.00143295+6.44588×10-5)=-2.57με程度と試算される。
これを間欠法の読み取り位置における横圧に換算すると、約-0.36kNである。
【0060】
一方、同じ接触位置と荷重の条件において、従来の曲げひずみを活用した横圧測定法における見かけの横圧は、約4.06kNと試算される。
以上を踏まえると、横圧測定用ブリッジ出力のオフセット処理において、輪重交差感度のオフセットに伴う横圧誤差は、無視できる程度に小さい。
また、輪重交差感度のオフセット特性を考慮しなくとも、少なくとも曲げひずみを用いた横圧測定手法と比較すれば、十分な見かけの横圧の低減効果が期待できる。
したがって、これ以降は、輪重P及び左右方向接触位置yに依存する部分を無視して、横圧感度のオフセット特性のみに着目する。
【0061】
式7において、輪重の影響項を無視すると式8を得る。
【数13】
このうち、右辺第1項のDεについては、通常のハイパスフィルタで除去できる他、公知の接触情報抽出アルゴリズムにおいて、ひずみ波形をフーリエ級数でフィッティングする際に取得することができる。
一方、右辺第2項のうち、Dについては、静荷重試験結果より計算することができる。
このため、横圧Qの大きさを何等かの方法で見積もることができれば、除去すべきオフセット量(すなわち、センサとしてのゼロ点)Dの近似値を推定することができる。
ここでは、接触情報抽出アルゴリズムのうち、作用力の車輪1回転平均値
【数14】
を抽出するアルゴリズムを応用して、除去すべきオフセット量Dを推定するアルゴリズムについて説明する。
【0062】
除去すべきオフセット量Dの推定手順を以下に示す。
1.例えばARモデル等を用いて、車輪回転角速度を推定し、それを用いて車輪1回転分のひずみ波形を抽出する。
2.車輪1回転分のひずみ波形をフーリエ級数でフィッティイングし、Dεを計算する。
3.2.の結果と静荷重試験結果を用いて、横圧Qの車輪1回転平均値
【数15】
を計算し、さらに
【数16】
を計算する。
4.
【数17】
を真のオフセット量
【数18】
とみなし、ひずみ波形から差し引くことで、この時、
【数19】
は逐次計算し、必要に応じて時間平均等の処理を施す。
【0063】
なお、ARモデルを用いた車輪回転角速度推定手法は、現時点では計算に時間を要することから、走行試験における一般的なサンプリング周期(例えば概ね1kHz程度)で実行することは困難である。
一方、上述した通り、PQ測定において、ひずみ信号のオフセットが変化する要因は、基本的にはゼロシフト時の荷重とアンプの温度ドリフトであると考えられる。
これを補正する上では、オフセット演算処理部に高速な応答は必要ない。
【0064】
図16は、オフセットを除去するためのフィルタを間欠法によるPQ測定に適用する場合の実装例を示すブロック図である。
本発明の補正演算部として機能するフィルタ部200は、1回転波形抽出部210、オフセット演算処理部220を有する。
1回転波形抽出部210は、AD変換部230によってディジタル変換されたブリッジ回路出力(ひずみ波形)を、車輪100の一回転分抽出するものである。
オフセット演算処理部220は、1回転波形抽出部210が抽出した1回転分のひずみ波形に基づいて、除去すべきオフセット量を演算するものである。
【0065】
オフセット演算処理部220が算出した除去すべきオフセット量は、DA変換部240によってアナログ変換された後、差動アンプ250によって、ブリッジ回路が出力したひずみ波形から減算される。
差動アンプ250によって除去すべきオフセット量の減算が行われたひずみ波形は、横圧Qの演算に利用される。
【0066】
次に、左右方向の接触位置yの変化の影響を考慮した演算手法について説明する。
本実施形態において、左右方向の接触位置変化の影響を考慮する場合には、式8の代わりに、式7を近似せずに使用する。
ただし、式7を使用するためには、横圧Qの車輪一回転平均値
【数20】
に加えて、輪重の車輪一回転平均値
【数21】
と、左右方向接触位置の車輪一回転平均値
【数22】
を取得する必要がある。
【0067】
先ず、輪重の車輪一回転平均値
【数23】
については、上述した非特許文献5に記載された方法を用いて、輪重測定用ブリッジ回路から得られるひずみ信号より計算することができる。
また、左右方向接触位置の車輪一回転平均値
【数24】
の計算については、上述した特許文献2、非特許文献6に記載された接触位置計算手法を、分離型ブリッジ回路に対しても適用することができる。
【0068】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ブリッジ回路を分離型の構成とすることにより、例えば車輪100の曲げひずみを用いる手法や、車輪100の周上で180度離間した箇所のせん断ひずみを用いる手法(非分離型)などの既存の横圧測定手法に対して、輪重Pが負荷された際に生じるひずみによってみかけの横圧Qが発生する影響を抑制し、横圧Qの測定精度を向上することができる。
(2)分離型ブリッジ回路の基本形においては、車輪100とレールとの接触角度位置が特定の一点にあるときの輪重Pによるみかけの横圧Qの交差感度比を改善し、間欠的(離散的)に横圧を算出する際の測定精度を改善することができる。
(3)分離型ブリッジ回路の隣接孔活用形においては、輪重に対する交差感度特性の高調波成分を低減し、車輪とレールとの接触角度位置が車輪の周方向における所定の回転角度範囲内(測定守備範囲内)にわたって連続的に存在する際の平均の交差感度比を改善し、例えば新連続法などにより、車輪の転動に応じて連続的に横圧を算出する際の測定精度を改善することができる。
(4)車輪の検定試験において得られたブリッジ回路の出力履歴と、車輪を転動させて得られたブリッジ回路の出力履歴とに基づいて、ブリッジ回路の出力のオフセットを演算することにより、本発明特有のひずみゲージの分離型の配置に起因するブリッジ回路の出力のオフセットを適切に演算し、ブリッジ回路の出力から除去することにより、横圧の測定精度を確保することができる。
【0069】
(他の実施形態)
なお、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。
(1)横圧測定装置、及び、横圧測定方法を構成する各構成要素、部品などの形状、構造、材質、製法、個数、配置などは、上述した実施形態に限定されず適宜変更することができる。
(2)車輪の形状、構造や、ひずみゲージの貼付手法などは、実施形態のものに限らず、適宜変更することができる。
(3)実施形態における具体的な演算手法及び数式等は一例であって、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0070】
1A~8B 輪重測定・横圧測定(せん断ひずみによる横圧測定法)用のひずみゲージ
1a~7a 横圧測定(板部曲げ)用のひずみゲージ
100 車輪 110 リム部
111 踏面 112 フランジ
120 ボス部 130 板部
131 孔
200 フィルタ部 210 1回転波形抽出部
220 オフセット演算処理部 230 AD変換部
240 DA変換部 250 差動アンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16