(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004765
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】滑り止め部材
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240110BHJP
C25F 3/02 20060101ALI20240110BHJP
C23F 1/00 20060101ALI20240110BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20240110BHJP
B25J 15/08 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
H01L21/68 N
C25F3/02 B
C23F1/00 Z
C23F1/00 101
H01L21/68 A
B25J15/08 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104578
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】前野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】二田 伸康
【テーマコード(参考)】
3C707
4K057
5F131
【Fターム(参考)】
3C707AS24
3C707AS29
3C707AS30
3C707DS01
3C707EV10
4K057WA05
4K057WB01
4K057WB03
4K057WB04
4K057WB05
4K057WB08
4K057WE08
4K057WN10
5F131AA02
5F131CA02
5F131CA12
5F131EB54
5F131EB78
(57)【要約】
【課題】高温環境下およびクリーン環境下でも安定して使用可能であり、対象物を十分に固定することが可能な滑り止め部材を提供する。
【解決手段】無機材料からなる基材の表面の少なくとも一部に、複数の突起体21が立設した突起体領域20を有しており、突起体21は、第1方向と、この第1方向と交差する第2方向とに、それぞれ周期的に配置されており、突起体21の第1方向における平均ピッチP1および第2方向における平均ピッチP2が20nm以上1000nm以下の範囲内とされており、前記表面における静摩擦係数が0.20以上とされていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料からなる基材の表面の少なくとも一部に、複数の突起体が立設した突起体領域を有しており、
前記突起体は、第1方向と、この第1方向と交差する第2方向とに、それぞれ周期的に配置されており、
前記突起体の前記第1方向における平均ピッチおよび前記第2方向における平均ピッチが20nm以上1000nm以下の範囲内とされており、
前記表面における静摩擦係数が0.20以上とされていることを特徴とする滑り止め部材。
【請求項2】
前記表面における前記突起体領域の占有面積率が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の滑り止め部材。
【請求項3】
前記突起体の前記第1方向における平均ピッチおよび前記第2方向における平均ピッチが500nm以下とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の滑り止め部材。
【請求項4】
前記突起体の平均高さが20nm以上1000nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の滑り止め部材。
【請求項5】
前記突起体は、先端が尖った尖端部を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の滑り止め部材。
【請求項6】
前記尖端部は、頂部を介して互いに逆方向に傾斜した傾斜面を有することを特徴とする請求項5に記載の滑り止め部材。
【請求項7】
前記尖端部は、四角錐形状をなしていることを特徴とする請求項5に記載の滑り止め部材。
【請求項8】
前記基材の前記表面が、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、タングステン、タングステン合金、マグネシウム、マグネシウム合金、石英、ガラス、シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタンのうち、少なくとも一つ以上で構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の滑り止め部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り止め部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
対象物を把持する把持部材、対象物を搬送する搬送部材においては、例えば、特許文献1,2に示すように、対象物を安定して固定するために、対象物と接触する部分には滑り止め部材が配設されている。
また、対象物を取り扱う際にも、例えば、特許文献3に示すように、対象物を仮固定して位置ずれを防止するために、滑り止め部材が用いられている。
ここで、滑り止め部材においては、対象物との間に十分な摩擦力を有することが要求されることから、通常、粘弾性体であるゴム等の有機材料で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-094704号公報
【特許文献2】WO2009/005027号公報
【特許文献3】特開2009-168860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ゴム等の有機材料においては、耐熱性が不十分なために、高温環境下では安定して使用することができないといった問題があった。また、有機材料による汚染のおそれがあるため、クリーン環境下では使用できないといった問題があった。
よって、例えば、半導体製造プロセス用途、航空宇宙用途、ロボット用途においては、有機材料からなる滑り止め部材を適用することができなかった。
【0005】
ここで、各種部材を構成する工業材料は、樹脂やゴムなどの有機材料、セラミックスや金属等の無機材料に大別される。
有機材料においては、上述のように、柔軟性に優れるが耐熱性に劣ることになる。これに対して、無機材料においては、耐熱性に優れるが柔軟性に劣ることになる。このように、工業材料においては、選択する材料によって特性のトレードオフが発生してしまうことになる。
【0006】
このため、滑り止め部材を無機材料で構成した場合には、耐熱性に優れるとともに汚染の問題が少なくなるが、十分な摩擦力を得ることができず、対象物を十分に固定することができないおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高温環境下およびクリーン環境下でも安定して使用可能であり、対象物を十分に固定することが可能な滑り止め部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、セラミックスや金属等の無機材料からなる基材の表面に微細な凹凸を形成することにより、その表面に十分な摩擦力が付与されることになり、滑り止め部材として使用することが可能となるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1の滑り止め部材は、無機材料からなる基材の表面の少なくとも一部に、複数の突起体が立設した突起体領域を有しており、前記突起体は、第1方向と、この第1方向と交差する第2方向とに、それぞれ周期的に配置されており、前記突起体の前記第1方向における平均ピッチおよび前記第2方向における平均ピッチが20nm以上1000nm以下の範囲内とされており、前記表面における静摩擦係数が0.20以上とされていることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1の滑り止め部材によれば、セラミックスや金属等の無機材料で構成されているので、耐熱性に優れるとともに、汚染の問題を十分に抑制することができる。
そして、基材の表面の少なくとも一部に、複数の突起体が立設した突起体領域を有しており、前記突起体は、第1方向と、この第1方向と交差する第2方向とに、それぞれ周期的に配置されており、前記突起体の前記第1方向における平均ピッチおよび前記第2方向における平均ピッチが20nm以上1000nm以下の範囲内とされており、前記表面における静摩擦係数が0.20以上とされているので、この表面の摩擦力によって対象物を十分に固定することができる。
よって、高温環境下およびクリーン環境下でも安定して使用することができるとともに、対象物を十分に固定することが可能となる。
【0011】
本発明の態様2は、態様1の滑り止め部材において、前記表面における前記突起体領域の占有面積率が30%以上であることを特徴としている。
本発明の態様2の滑り止め部材によれば、前記表面における前記突起体領域の占有面積率が30%以上とされているので、前記表面に前記突起体領域によってさらに十分な摩擦力が付与されており、さらに確実に対象物を固定することが可能となる。
【0012】
本発明の態様3は、態様1または態様2の滑り止め部材において、前記突起体の前記第1方向における平均ピッチおよび前記第2方向における平均ピッチが500nm以下とされていることを特徴としている。
本発明の態様3の滑り止め部材によれば、前記突起体の前記第1方向における平均ピッチおよび前記第2方向における平均ピッチがそれぞれ500nm以下とさらに微細な構造とされているので、前記表面にさらに十分な摩擦力を付与することができ、さらに確実に対象物を固定することが可能となる。
【0013】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つの滑り止め部材において、前記突起体の平均高さが20nm以上1000nm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の態様4の滑り止め部材によれば、前記突起体の平均高さが20nm以上1000nm以下の範囲内とされているので、前記表面にさらに十分な摩擦力を付与することができ、さらに確実に対象物を固定することが可能となる。
【0014】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれか一つの滑り止め部材において、前記突起体は、先端が尖った尖端部を有していることを特徴としている。
本発明の態様5の滑り止め部材によれば、前記突起体が、先端が尖った尖端部を有していることから、前記突起体の先端(尖端部)が対象物の外形に沿って変形し易くなり、対象物をさらに確実に固定することが可能となる。
【0015】
本発明の態様6は、態様5の滑り止め部材において、前記尖端部は、頂部を介して互いに逆方向に傾斜した傾斜面を有することを特徴としている。
本発明の態様6の滑り止め部材によれば、前記尖端部が、頂部を介して互いに逆方向に傾斜した傾斜面を有することから、前記表面と対象物との接触面積が確保され、対象物をさらに確実に固定することが可能となる。
【0016】
本発明の態様7は、態様5の滑り止め部材において、前記尖端部は、四角錐形状をなしていることを特徴としている。
本発明の態様7の滑り止め部材によれば、前記尖端部が四角錐形状をなしていることから、前記表面と対象物との接触面積が確保され、対象物をさらに確実に固定することが可能となる。
【0017】
本発明の態様8は、態様1から態様7のいずれか一つの滑り止め部材において、前記基材の前記表面が、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、タングステン、タングステン合金、マグネシウム、マグネシウム合金、石英、ガラス、シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタンのうち、少なくとも一つ以上で構成されていることを特徴としている。
本発明の態様8の滑り止め部材によれば、前記基材の前記表面が、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、タングステン、タングステン合金、マグネシウム、マグネシウム合金、石英、ガラス、シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタンのうち、少なくとも一つ以上で構成されていることから、耐熱性に特に優れており、高温環境下およびクリーン環境下でも安定して使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高温環境下およびクリーン環境下でも安定して使用可能であり、対象物を十分に固定することが可能な滑り止め部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態である滑り止め部材の概略説明図である。
【
図2】
図1に示す滑り止め部材における突起体領域の説明図である。
【
図5】
図1に示す滑り止め部材における突起体の斜視説明図である。
【
図7】本発明の一実施形態である滑り止め部材の製造方法を示すフロー図である。
【
図8】本発明の他の実施形態である滑り止め部材における突起体領域の説明図である。
【
図9】
図8に示す滑り止め部材における突起体の斜視説明図である。
【
図11】
図8に示す滑り止め部材における突起体の斜視説明図である。
【
図12】実施例において静摩擦係数を測定する方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、添付した図面を参照して、本発明の一実施形態である滑り止め部材10について説明する。
本実施形態である滑り止め部材10は、例えば、航空宇宙分野、半導体製造プロセス分野、医療分野等の高温環境下又はクリーン環境下で使用される把持装置、搬送装置、製造装置等において、対象物を仮固定するために用いられるものである。
【0021】
本実施形態である滑り止め部材10は、セラミックスや金属等の無機材料からなる基材11を有しており、
図1に示すように、基材11の表面の少なくとも一部に、複数の突起体21が立設した突起体領域20が形成されている。
なお、基材11の形状やサイズに特に制限はないが、本実施形態では、
図1に示すように、板状とされており、その厚さが、例えば10μm以上10cm以下の範囲内とされている。
【0022】
ここで、基材11を構成する無機材料としては、金属、セラミックス、シリコン、ガラスが挙げられる。基材11を構成する無機材料は、融点が100℃以上、分解温度が100℃以上であることが好ましく、融点が300℃以上で、分解温度が300℃以上であることが好ましく、融点が500℃以上で、分解温度が500℃以上であることが好ましい。
【0023】
基材11を構成する金属は、金属単体であってもよいし、合金であってもよい。合金は、複数の金属元素からなるもの及び金属元素と非金属元素からなるものを含む。金属単体の例としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、チタン、タングステン、マグネシウムを挙げることができる。合金の例としては、アルミニウム合金、NiP、ステンレス鋼、銅合金を挙げることができる。
基材11を構成するセラミックスとしては、酸化物、窒化物、炭化物を用いることができる。セラミックスの例としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン、石英を挙げることができる。
基材11を構成する無機材料は、金属であることが好ましく、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、NiP合金のいずれかを含むことがより好ましい。
【0024】
基材11の表面に形成された突起体領域20は、
図1から
図4に示すように、第1方向(
図2から
図4においてX方向)と、この第1方向と交差する第2方向(
図2から
図4においてY方向)に、それぞれ周期的に配置された複数の突起体21によって構成されている。本実施形態では、第1方向(X方向)と第2方向(Y方向)とが直交するものとされている。
【0025】
突起体21の第1方向(X方向)における平均ピッチP1および第2方向(Y方向)における平均ピッチP2が、それぞれ20nm以上1000nm以下の範囲内とされている。なお、突起体21の第1方向(X方向)における平均ピッチP1および第2方向(Y方向)における平均ピッチP2は、隣り合う突起体21,21の頂部25,25の間の距離の平均値である。
なお、後述するように、本実施形態では、突起体21の頂部25は第2方向(Y方向)に沿って延在する構成とされていることから、第2方向(Y方向)の平均ピッチP2は、隣り合う突起体21の頂部25の中心間の距離となる。
ここで、第1方向の平均ピッチP1及び第2方向の平均ピッチP2は、例えば、SSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影された突起体領域20の断面SEM写真から測定することができる。
【0026】
突起体21の第1方向(X方向)における平均ピッチP1および第2方向(Y方向)における平均ピッチP2は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることが好ましい。また、突起体21の第1方向(X方向)における平均ピッチP1および第2方向(Y方向)における平均ピッチP2は、20nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが好ましい。
【0027】
本実施形態においては、
図5に示すように、突起体21は、先端が尖った尖端部22と、尖端部22と基材11とを接続する胴体部23とを有している。尖端部22は、第1方向(X方向)の中央に、第2方向D(Y方向)に沿って延在する21頂部25と、頂部25を介して互いに第1方向で逆方向に傾斜した傾斜面26a、26bと、頂部25を介して互いに第2方向で逆方向に傾斜した傾斜面26c、26dを有する。また、胴体部23は、四角柱状をなしている。
【0028】
尖端部22は、
図3から
図5に示すように、第1方向(X方向)に直交する断面(YZ面)が台形状で、第2方向(Y方向)に直交する断面(XZ面)が三角形状とされている。尖端部22の三角形状は、二等辺三角形であることが好ましい。二等辺三角形の底角(
図4のα)は、60度以上であることが好ましい。
【0029】
ここで、
図5に示すように、突起体21(尖端部22の底面28および胴体部23)における第1方向(X方向)の長さL1が20nm以上1500nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
また、突起体21(尖端部22の底面28および胴体部23)における第2方向(Y方向)の長さL2が20nm以上1500nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
さらに、尖端部22の頂部25のY方向長さL3が10nm以上1000nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態においては、突起体21の平均高さHが20nm以上1000nm以下の範囲内であることが好ましい。突起体21の平均高さHは、SEM(走査型電子顕微鏡)で撮影された突起体領域20の断面SEM写真から測定することができる。
なお、突起体21の平均高さHは、1500nm以下であることが好ましく、500nm以下であることが好ましい。また、突起体21の平均高さHは、20nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが好ましい。
【0031】
また、本実施形態においては、
図5に示すように、胴体部23と尖端部22とを有しており、尖端部22の平均高さH1が20nm以上1500nm以下の範囲内とされていることが好ましく、胴体部23の平均高さH2が0nm以上1400nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0032】
ここで、突起体21において、尖端部22の底面28および胴体部23における第1方向(X方向)の長さL1、および、尖端部22の底面28および胴体部23における第2方向(Y方向)の長さL2と、突起体21の高さHとの比H/L1およびH/L2は、0.7以上10以下の範囲内であることが好ましく、0.85以上がより好ましく、1.00以上であることが特に好ましい。
尖端部22の底面28および胴体部23における第2方向(Y方向)の長さL2と尖端部22の頂部25のY方向長さL3との比L3/L2は、0.4以上0.9以下の範囲内であることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態である滑り止め部材10においては、基材11において対象物と接触する表面における突起体領域20の占める面積率(占有面積率)が30%以上であることが好ましい。
図1に示す滑り止め部材10においては、基材11の表面の約70%に突起体領域20が形成されている。
なお、基材11の表面における突起体領域20の占める面積率は33%以上であることが好ましく、50%以上であることが好ましい。また、基材11の表面における突起体領域20の占める面積率は100%以下となる。
【0034】
そして、本実施形態である滑り止め部材10においては、基材11のうち突起体領域20が形成された表面における静摩擦係数μが0.20以上とされている。
なお、基材11の表面における静摩擦係数μは、0.30以上であることが好ましく、0.40以上であることが好ましい。なお、静摩擦係数μの上限に特に制限はないが、現実的には静摩擦係数μは10以下である。
ここで、基材11の表面における静摩擦係数μは、
図6に示す式によって算出することができる。
図6におけるmは物体の質量、gは重力加速度、F0は最大静止摩擦力、Nは垂直抗力である。具体的には、滑り始める角度をθとしたときに、静摩擦係数μ=tanθで表される。なお、本実施形態では、第1方向(X方向)、および、第2方向(Y方向)のいずれの方向においても、静摩擦係数μが0.20以上とされている。
【0035】
次に、本実施形態である滑り止め部材10の製造方法の一例について説明する。本実施形態である滑り止め部材10は、
図7のフロー図に示すように、研磨工程S01と、切削工程S02と、エッチング工程S03と、を有している。
研磨工程S01においては、無機材料からなる基材11の表面を研磨する。基材11の研磨は、例えば、グラインダー研磨、耐水紙による研磨、バフ研磨を用いることができる。研磨後の基材11の表面は、例えば、表面粗さRaで0.02μm以下であることが好ましい。
【0036】
切削工程S02においては、研磨工程S01で研磨した基材11の表面を切削加工して突起体21を形成する。切削加工方法は、特に制限はなく、種々の方法を選択することができる。
切削加工方法としては、例えば、刃具を周期的に上下に移動させながら刃具を刃面に対して直交する方向に移動させて溝を形成する方法(NP法:ナノペッキング法)、刃具を上下に移動させずに直線的に移動させて溝を形成する方法(従来法)を用いることができる。
【0037】
NP法において、加工装置としては、刃具と刃具を超音波振動させる超音波振動装置とを有する加工装置を用いることができる。刃具の刃面の形状は特に制限はなく、例えば、三角形や四角形とすることができる。NP法では、例えば、刃具を超音波振動させながら基材11の表面に斜めに押入し、次いで、刃具を周期的に上下に動かしながら、刃具を刃面に対して直交する方向(第1方向)に移動させる。同様に、刃具を周期的に上下に動かしながら、刃具を刃面に対して直交する方向(第2方向)に移動させる。これにより、基材11の表面に尖端部22が形成されることになる。
【0038】
従来法において、加工装置としては、刃具と刃具を超音波振動させる超音波振動装置とを有する加工装置を用いることができる。刃具の刃面の形状は、三角形とする。従来法では、例えば、刃具を超音波振動させながら基材11の表面に垂直に押入し、次いで、刃具を上下に移動しないように固定しながら、刃具を刃面に対して直交する方向(第1方向)に移動させる。同様に、刃具を上下に移動しないように固定しながら、刃具を刃面に対して直交する方向(第2方向)に移動させる。これにより、基材11の表面に尖端部22が形成されることになる。
【0039】
なお、切削工程S02では、NP法と従来法を併用して、基材11の表面に尖端部22を形成してもよい。
【0040】
エッチング工程S03では、切削工程S02で形成した尖端部22の周縁部をエッチング処理することによって胴体部23を形成する。なお、胴体部23を形成しない場合には、エッチング工程S03を省略してもよい。
エッチング処理方法としては、無機材料のエッチング処理方法として利用されている各種の方法を用いることができる。
【0041】
例えば、基材11の材料がアルミニウムである場合には、エッチング処理方法としては電解エッチング法を用いることができる。電解エッチング法によるエッチングは次のようにして行うことができる。まず、尖端部22にポリカーボネートフィルムを150℃で加熱した後に貼合せ、尖端部22に保護層を設置する。次いで、基材11を、例えば1規定のHCl水溶液(関東化学製)に浸漬して、電解エッチングを行う(100nm/min浸漬)。エッチング終了後、純水にて洗浄し、塩化メチレンによりポリカーボネートフィルムを溶解除去する。
【0042】
基材11の材料がアルミニウム以外である場合には、エッチング処理方法としては、塩鉄法を用いることができる。塩鉄法を用いる場合、尖端部22にPVAフィルム(ポバール、クラレ製、10μm厚)を貼合せ、尖端部22に保護層を設置する。次いで、基材11を濃度40°Be´の塩化第二鉄液(東亜合成製)へ浸漬し、エッチングを行う。エッチング終了後、純水にて洗浄し、PVAフィルムを溶解除去する。
【0043】
上述の各工程により、本実施形態である滑り止め部材10が製造される。
【0044】
以上のような構成とされた本実施形態である滑り止め部材10によれば、セラミックスや金属等の無機材料で構成されているので、耐熱性に優れるとともに、汚染の問題を十分に抑制することができる。
そして、基材11の表面の少なくとも一部に、基材の表面の少なくとも一部に、複数の突起体21が立設した突起体領域20を有しており、突起体21は、第1方向と、この第1方向と交差する第2方向とに、それぞれ周期的に配置されており、突起体21の第1方向における平均ピッチP1および第2方向における平均ピッチP2が20nm以上1000nm以下の範囲内とされており、表面における静摩擦係数μが0.20以上とされているので、この表面の摩擦力によって対象物を十分に固定することができる。
よって、高温環境下およびクリーン環境下でも安定して使用することができるとともに、対象物を十分に固定することが可能となる。
【0045】
ここで、本実施形態において、基材11の表面における突起体領域20の占める面積率が30%以上である場合には、突起体領域20によって対象物と接触する基材11の表面にさらに十分な摩擦力が付与されており、さらに確実に対象物を固定することが可能となる。
【0046】
本実施形態において、突起体21の第1方向における平均ピッチP1および第2方向における平均ピッチP2が500nm以下とされている場合には、表面に微細な凹凸が形成され、対象物と接触する基材11の表面にさらに十分な摩擦力を付与することができ、さらに確実に対象物を固定することが可能となる。
【0047】
本実施形態において、突起体21の平均高さが20nm以上1000nm以下の範囲内とされている場合には、対象物と接触する基材11の表面にさらに十分な摩擦力を付与することができ、さらに確実に対象物を固定することが可能となる。
【0048】
本実施形態において、突起体21が、先端が尖った尖端部22を有している場合には、突起体21の先端(尖端部22)が対象物の外形に沿って変形し易くなり、対象物をさらに確実に固定することが可能となる。
【0049】
本実施形態において、尖端部22が、頂部25を介して互いに逆方向に傾斜した傾斜面26a、26bおよび26c、26dを有している場合には、滑り止め部材10の表面と対象物との接触面積が確保され、対象物をさらに確実に固定することが可能となる。
【0050】
以上、本発明の実施形態である滑り止め部材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、
図8から
図11に示す滑り止め部材110のように、基材111の表面に複数の突起体121が立設した突起体領域120が形成されており、突起体121が尖端部122を有し、この尖端部122が四角錐形状をなすものとしてもよい。
ここで、突起体121の第1方向における平均ピッチP1および第2方向における平均ピッチP2が20nm以上1000nm以下の範囲内とされている。なお、平均ピッチP1,P2は、突起体121の頂点125同士の距離となる。
また、尖端部122を構成する傾斜面126a,126b,126c、126dは、それぞれ同じ二等辺三角形であることが好ましい。底面128は正方形であることが好ましい。尖端部122の二等辺三角形の底角(
図10のα)は60度以上であることが好ましい。
【0051】
また、本実施形態では、突起体21が尖端部22および胴体部23を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、胴体部23を有さないものであってもよい。
さらに、本実施形態では、切削加工およびエッチング工程によって突起体21を形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の方法によって突起体21を形成したものであってもよい。
【実施例0052】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0053】
まず、表1に示す無機材料からなる基材(縦:10mm、横:10mm、板厚:1mm)を用意した。
用意した基材の表面に対して研磨加工を行い、表面粗さRaが0.02μm以下の平滑面とした。
【0054】
次に、研磨した基材の表面に、NP法を用いて切削加工を行い、複数の突起体を形成することにより、突起体領域を形成した。
ここで、突起体領域を構成する突起体の第1方向の平均ピッチP1、突起体の平均高さH、尖端部の高さH1、突起体の第1方向の平均ピッチP1と突起体の平均高さHとの比H/P1、突起体の第2方向の平均ピッチP2と突起体の平均高さHとの比H/P2、突起体の底面の第1方向長さL1、突起体の底面の第2方向長さL2、頂部の第2方向長さL3、突起体の底面の第2方向長さL2と頂部の第2方向長さL3との比L3/L2、表面における突起体領域が占める面積率(占有面積率)を、表1に示すものとした。
【0055】
なお、加工装置としては、刃具と刃具を超音波楕円振動させる超音波振動装置とを有する加工装置を用いた。刃具を超音波振動させながら斜めに押入し、次いで、刃具を超音波楕円振動させながら、刃面に対して直交する方向に移動させる間に、刃先が上下方向に移動する周期で動かす。この作業を直交する2方向で実施することで、基材の表面に、複数の突起体を形成し、表面に突起体領域を有する滑り止め部材を作製した。
【0056】
得られた滑り止め部材のうち、突起体領域が形成された表面の静摩擦係数を測定した。
300mmの円板状のシリコンウエハSを準備した。
図12に示すように、シリコンウエハSの中心から140mmの径方向位置で周方向に120°間隔で3つの滑り止め部材10を配置し、固定板Qの上に載置した。
なお、突起体領域が形成された表面がシリコンウエハS側を向くように、滑り止め部材10を配置した。また、質量128gのシリコンウエハを用いることで、積層方向の荷重を43g/cm
2とした。
【0057】
そして、固定板Qを傾けて、シリコンウエハSが滑り落ちる角度θを測定し、静摩擦係数を算出した。
【0058】
【0059】
比較例においては、突起体の第1方向の平均ピッチP1および突起体の第2方向の平均ピッチP2がそれぞれ10nmとされており、静摩擦係数が0.16となり、表面の摩擦力が不十分となった。
【0060】
これに対して、本発明例1-8においては、突起体の第1方向の平均ピッチP1および突起体の第2方向の平均ピッチP2がそれぞれ20nm以上1000nm以下の範囲内とされており、静摩擦係数が0.21以上となり、表面の摩擦力が十分に高く、対象物を十分に固定可能であることが確認された。
【0061】
以上のことから、本発明例によれば、高温環境下およびクリーン環境下でも安定して使用可能であり、対象物を十分に固定することが可能な滑り止め部材を提供可能であることが確認された。