(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047664
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/64 20060101AFI20240401BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240401BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240401BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20240401BHJP
【FI】
A61K8/64
A61Q19/00
A61K8/9789
A61K8/9794
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153284
(22)【出願日】2022-09-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000147213
【氏名又は名称】株式会社成和化成
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 正人
(72)【発明者】
【氏名】中村 清香
(72)【発明者】
【氏名】富山 愛
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AD411
4C083CC02
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】光老化予防やエイジングケアを目的とするタンパク質の加水分解物を有効成分として含有した皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】エンドウ、米、小麦、大豆、ゴマからなる植物由来タンパク質の加水分解物を有効成分として含有することを特徴とし、皮膚のシミの予防または改善、マトリックスメタロプロテアーゼ-1及びサーチュイン1に作用することによる抗シワ効果を示す皮膚外用剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来タンパク質の加水分解物を有効成分とする皮膚外用剤。
【請求項2】
エンドウ、米、小麦、大豆、ゴマからなる群より選択して得られる加水分解物を有効成分とする請求項1の皮膚外用剤。
【請求項3】
皮膚のシミ及びシワの予防または改善を目的とする請求項1又は2に記載の皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光老化予防やエイジングケアを目的とする植物タンパクの加水分解物を有効成分とした皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化粧料や皮膚外用剤への要求はさらに高度化しており、より優れた機能が求められている。美しい肌であり続けたいという要求の高まりや、若年層における予防意識の高まりから、光老化予防やエイジングケアを目的とする化粧料や皮膚外用剤が望まれている。特に皮膚のシミやシワは、見た目年齢を著しく高めうることから、これらを予防若しくは改善することはエイジングケアにおいて効果的であると言える。
【0003】
紫外線や可視光線、赤外線といった光が皮膚にあたると、肌内部で活性酸素種(ROS)が発生し、コラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリックス(以下、ECMと言う)の産生の低下やマトリックスメタロプロテアーゼ-1(以下、MMP-1と言う)のような細胞外マトリックスの分解酵素の産生が誘発され、シワの形成や肌の弾力低下といった老化現象が加速される報告(非特許文献1)があり、MMP-1はサーチュイン1(以下、SIRT1と言う)により発現が抑制されることも確認されている(非特許文献2)。さらに光によってダメージを受けたECMは、カテプシンのようなプロテアーゼを含有するリソソームによって分解され、新しいECMを合成するために再利用される報告(非特許文献3)やリソソームの質は光老化や加齢により減少することも報告されている(非特許文献4)。
【0004】
また、従来から天然物由来のタンパク質の加水分解物及びその誘導体は毛髪化粧料に配合されている。それらは、毛髪への収着性がよく、毛髪の損傷を防止、回復させたり、毛髪に保湿性を付与する作用を有しており、さらに、天然物由来であるために、毛髪に対する刺激が少なく、安全性が高いという理由によるものである。特に植物由来タンパク質の加水分解物は、動物由来タンパク質の加水分解物と比べて臭いも少なく、動物愛護や牛伝達性海綿状脳症のような疾患の発生リスクを避ける観点においても利用が多くなってきている(特許文献1、2)。また、昨今では急激な気候変動やサステナビリティに対する消費者意識の高まりからも、植物由来の化粧品原料が好まれる傾向にある。
【0005】
一方、植物由来タンパク質の加水分解物を利用したスキンケアに関する報告はこれまでにもあるが、消費者にとって十分な効果を提供するまでには至っていない。(特許文献3)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. Wakita et al., (2021) Sun protection by new vitamin C derivatives. Fragrance Journal. 49 (8)
【非特許文献2】K. Ohguchi et al., (2010) SIRT1 modulates expression of matrix metalloproteinases in human dermal fibroblasts. Br J Dermatol. 163:689-694.
【非特許文献3】Fonović M, Turk B (2014) Cysteine cathepsins and extracellular matrix degradation. Biochim Biophys Acta. 1840:2560-2570.
【非特許文献4】Lamore SD, Wondrak GT (2011) Autophagic-lysosomal dysregulation downstream of cathepsin B inactivation in human skin fibroblasts exposed to UVA. Photochem Photobiol Sci. 11:163–172.
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2878425号
【特許文献2】特開2007-302615号公報
【特許文献3】特許第6153469号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、植物由来タンパク質の加水分解物を有効成分とし、優れたスキンケア効果を有する皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑みて鋭意検討した結果、植物由来タンパク質の加水分解物が、皮膚のシミやシワの予防若しくは改善に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
[1] 植物由来タンパク質の加水分解物を有効成分とする皮膚外用剤。
【0011】
[2] エンドウ、米、小麦、大豆、ゴマからなる群より選択して得られる加水分解物を有効成分とする請求項1の皮膚外用剤。
【0012】
[3] 皮膚のシミ及びシワの予防または改善を目的とする請求項1又は2に記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、植物由来タンパク質の加水分解物を有効成分とする皮膚外用剤であって、メラニン産生抑制効果やコラーゲン産生促進効果、ECM関連因子への作用に基づき、ヒト皮膚におけるシミやシワの形成を防ぐ高いスキンケア効果を有する皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の加水分解タンパク質は植物由来タンパク質を加水分解することにより調製することができる。加水分解する方法は当該分野で周知の任意の手段を用いることができ、例えば、プロテアーゼで処理する加水分解方法、酸やアルカリで処理する加水分解方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
本発明において用いられる植物由来タンパク質の加水分解物の中でも優れたスキンケア効果を有することからエンドウ、米、小麦、大豆、ゴマの加水分解物であることが好ましく、市販品を用いることができる。例えば、加水分解エンドウタンパクとしてPromois WJ、Promois WJ-SP(以上、株式会社成和化成製)、KeraMatch V(クローダジャパン株式会社製)、加水分解コメタンパクとしてPromois WR、Promois WR-SP(以上、株式会社成和化成製)、PeptAIde 4.0(BASFジャパン株式会社製)、オリザペプチド-PC60(オリザ油化株式会社製)、レグーエイジ PF(DSM株式会社製)、加水分解コムギタンパクとしてPromois WG、Promois WG-SP(以上、株式会社成和化成製)、Enameguard(BASFジャパン株式会社製)、加水分解ダイズタンパクとしてPromois WS、Promois WS-HSP、Promois WS-HF(以上、株式会社成和化成製)、Gluadin Soy BENZ(BASFジャパン株式会社製)、加水分解ゴマタンパクとしてSESAQUA、Promois GOMA-SIG(以上、株式会社成和化成製)などが挙げられる。
【0017】
本発明に用いる植物由来タンパク質の加水分解物の平均分子量は、特に制限されるものではないが、皮膚への浸透性を高め、より高い効果を得る観点から、好ましくは100~3000、より好ましくは300~3000である。なお、加水分解物の分子量分布は、当業者に公知の任意の方法により測定することができ、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により容易に算出される。
【0018】
本発明の皮膚外用剤への植物由来タンパク質の加水分解物の配合量は、特に制限されず、皮膚外用剤の種類によっても異なるが、0.001~3質量%が好ましく、0.01~3質量%がより好ましい。
【0019】
本発明の皮膚外用剤には、必須成分(有効成分)である植物由来タンパク質の加水分解物の他に、皮膚外用剤に通常用いられる成分、例えば、油性原料、界面活性剤、保湿剤、高分子化合物、酸化防止剤、美白剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、本発明の植物由来タンパク質以外の加水分解物、アミノ酸又はそれらの誘導体、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素や他の薬剤等が適宜配合される。
【0020】
本発明の皮膚外用剤は様々な形態に広く応用することが可能であり、皮膚用クリーム類、乳液、洗顔液、クレンジング化粧料、スキンケアジェル、美容液、化粧水、化粧下地、ファンデーションなどとして適用することができる。
【実施例0021】
次に、本発明を実施するための具体的な形態を実施例によって説明するが、本発明の範囲は以下の実施例により限定されるものではない。
【0022】
試験例1:メラニン産生抑制評価試験
本発明の植物由来タンパク質の加水分解物について、メラニン産生抑制効果を下記方法で評価し、それぞれ表1中の実施例1~5とした。
【0023】
[メラニン産生抑制評価試験法]
B16マウス メラノーマ4A5株を10%牛胎児血清(以下、FBSと言う)含有ダルベッコ変法イーグル培地(SIGMA社製、以下D-MEMと略記する。)を用いて、96穴プレートに2.5×104cells/wellで播種し、37℃で、5%CO2下で24時間培養を行い、培養後、0.2mMテオフィリン、及び所定の濃度の試料を含有した10%FBS含有D-MEMに交換し、さらに72時間培養した。培養終了後、アスピレーターを用いて培地を除去し、蒸留水を添加後超音波により細胞を破砕した。その後、タンパク量を、BCA protein assay kit(PIERCE社製)を用いて定量し、又、メラニンの生成量を、アルカリ可溶化法にて測定した。細胞破砕液に終濃度2Nとなるように水酸化ナトリウムを添加して加熱溶解(60℃、15分)後、マイクロプレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。メラニン量は、合成メラニン(SIGMA)を標準品として作成した検量線から算出した。タンパク量でメラニン量を除することにより単位タンパクあたりのメラニン量を算出した。各種加水分解タンパク質を用いていない群をコントロール群とし、コントロール群のメラニン量を100%として、各被検試料群によるメラニン産生抑制率を算出した。メラニン産生抑制率を表1中の「判定」の欄のカッコ内示す。
【0024】
メラニン産生抑制率は、次式から算出した。
メラニン産生抑制率(%)=[1-(A-B)/(C-B)]×100
[式中、Aは、試料添加時の単位タンパクあたりのメラニン量(g/g)、Bは、normal群の単位タンパクあたりのメラニン量(g/g)、Cはcontrol群の単位タンパクあたりのメラニン量(g/g)を示す。]
【0025】
試験試料を0.3質量%又は1.0質量%で適用したときのメラニン産生抑制率を、下記に基づき判定し、その結果を表1に示す。
10%未満 :+
10%以上-40%未満 :++
40%以上-70%未満 :+++
70%以上 :++++
【0026】
【0027】
表1の結果より、いずれの植物由来タンパク質の加水分解物を添加した場合でも、メラニン産生抑制効果を有していることが明らかとなった。特に加水分解コメタンパクにおいて優れた効果が確認された。
【0028】
試験例2:コラーゲン産生促進評価試験
本発明の植物由来タンパク質の加水分解物について、コラーゲン産生促進効果を下記方法で評価し、それぞれ表2中の実施例6~10とした。
【0029】
[コラーゲン産生促進評価試験法]
正常ヒト皮膚線維芽細胞を5%FBS含有D-MEM培地を用いて、96穴プレートに2.5×104cells/wellで播種し、37℃で、5%CO2下で24時間培養を行い、培養後、培地を除去し、試料が所定の濃度になるように添加調整したD-MEM培地を各ウェルに添加し、さらに48時間培養した。培養終了後、培養上清中のI型コラーゲンをELISA assayで測定した。各種加水分解タンパク質を用いていない群をコントロール群とし、コントロール群のコラーゲン産生量を100%として、各被検試料群のコラーゲン産生量を算出した。
【0030】
試験試料を0.3質量%又は1.0質量%で適用したときのコラーゲン産生量を、下記に基づき判定し、その結果を表2に示す。
100%未満 :±
100%以上-125%未満 :+
125%以上-150%未満 :++
150%以上 :+++
【0031】
【0032】
表2の結果に示されるように、いずれの植物由来タンパク質の加水分解物を添加した線維芽細胞においてI型コラーゲン産生量が増加したことが明らかとなった。この結果から、植物由来タンパク質の加水分解物は優れたコラーゲン産生促進効果を有していることが示された。
【0033】
試験例3:線維芽細胞内カテプシン活性及びリソソーム活性評価
本発明の植物由来タンパク質の加水分解物について、繊維芽細胞内カテプシン活性及びリソソーム活性促進効果を下記方法で評価し、それぞれ表3,4中の実施例11~15とした。
【0034】
[線維芽細胞内カテプシン活性及びリソソーム活性評価試験法]
正常ヒト皮膚線維芽細胞を5%FBS含有D-MEM培地を用いて、96穴プレートに2.0×104cells/wellで播種し、37℃で、5%CO2下で24時間培養を行い、培養後、培地を除去し、試料が所定の濃度になるように添加調整したD-MEM培地を各ウェルに添加し、さらに24時間培養した。培養終了後、0.5% Triton X-100を用いて細胞を回収した。回収した細胞とZ-Phe-Arg-MCAを30分室温で混合し、460nmの蛍光強度を測定することでカテプシン活性を測定した。さらにリソソーム活性はLysosomal Intracellular Activity Assay Kit (Biovision社製)を用いて測定した。本発明の植物由来タンパク質の加水分解物を用いていない群をコントロール群とし、コントロール群の活性を100%として、各被検試料群の活性を算出した。
【0035】
試験試料を0.25質量%又は1.0質量%で適用したときの細胞内カテプシン活性率を、下記に基づき判定し、その結果を表3に示す。
100%未満 :±
100%以上-200%未満 :+
200%以上-300%未満 :++
300%以上 :+++
【0036】
【0037】
表3の結果より、加水分解エンドウタンパク、加水分解コメタンパクおよび加水分解ダイズタンパクが細胞内カテプシン活性促進効果を有していることが明らかとなった。特に加水分解コメタンパクにおいて優れた効果が確認された。
【0038】
試験試料を0.5質量%又は1.0質量%で適用したときの細胞内リソソーム活性率を、下記に基づき判定し、その結果を表4に示す。
105%未満 :±
105%以上-110%未満 :+
110%以上 :++
【0039】
【0040】
表4の結果より、加水分解コメタンパクと加水分解ダイズタンパクが優れた細胞内リソソーム活性促進効果を有していることが明らかとなった。
【0041】
試験例4:MMP-1及びSIRT1のmRNA発現評価
試験例3にて優れた細胞内カテプシン活性及びリソソーム活性促進効果を示した加水分解大豆タンパク質について、MMP-1及びSIRT1のmRNA発現量促進効果を下記方法で評価し、表5の実施例16、17とした。
【0042】
[MMP-1及びSIRT-1のmRNA発現評価試験法]
正常ヒト皮膚線維芽細胞を5%FBS含有D-MEM培地を用いて、96穴プレートに2.0×104cells/wellで播種し、37℃で、5%CO2下で24時間培養を行い、培養後、培地を除去し、試料が所定の濃度になるように添加調整したD-MEM培地を各ウェルに添加し、さらに24時間培養した。細胞中のmRNA発現量をPower SYBR Green Cells-to-CT kit (Thermo社製)を用いてReal-time PCRで評価した。加水分解ダイズタンパクを用いていない群をコントロール群とし、コントロール群のmRNA発現量を100%として、加水分解ダイズタンパクを用いた群のmRNA発現量を算出した。その結果を表5に示す。
【0043】
【0044】
表5の結果より、加水分解ダイズタンパクを添加した線維芽細胞において、MMP-1の発現量が減少し、SIRT1の発現量が増加したことが明らかとなった。MMP-1はコラーゲン分解酵素であり、SIRT1はMMP-1の発現を抑制することが知られており、すなわち、加水分解ダイズタンパクは、SIRT1の発現を促進することでMMP-1の発現を抑制している可能性が示唆された。
【0045】
表2~5の結果より、植物由来タンパク質の各種加水分解物はコラーゲンの産生量を促進するだけでなくECMのリサイクルシステムにも作用することでシワの形成を防止することが示唆された。特に加水分解ダイズタンパクはコラーゲンの分解酵素であるMMP-1の発現においても作用していることから、シワの形成防止により好ましいと言える。