(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047675
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】バナジウム化合物の製造設備及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/22 20060101AFI20240401BHJP
F23J 1/00 20060101ALI20240401BHJP
F23G 7/00 20060101ALI20240401BHJP
F23G 5/50 20060101ALI20240401BHJP
F23J 15/00 20060101ALI20240401BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20240401BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240401BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20240401BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20240401BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20240401BHJP
F27B 7/33 20060101ALI20240401BHJP
F27B 7/42 20060101ALI20240401BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20240401BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C22B34/22
F23J1/00 A ZAB
F23G7/00 103Z
F23G5/50 M
F23G5/50 H
F23G5/50 G
F23J15/00 B
F23G5/50 N
C22B3/02
C22B1/02
F27D17/00 104G
F27D19/00 A
F27D21/00 G
F27B7/33
F27B7/42
B01D53/50
C22B7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153298
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514132268
【氏名又は名称】日本管機工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田尻 浩範
(72)【発明者】
【氏名】政本 学
(72)【発明者】
【氏名】西出 勉
(72)【発明者】
【氏名】港谷 昌成
【テーマコード(参考)】
3K062
3K070
3K161
4D002
4K001
4K056
4K061
【Fターム(参考)】
3K062AA07
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4K061DA01
4K061FA02
4K061FA03
4K061GA02
4K061HA05
(57)【要約】
【課題】製造コストが低減され、かつ、製造トラブルの少ないバナジウム化合物の製造設備及び製造方法の提供。
【解決手段】この製造設備は、原料灰減容装置及びバナジウム回収装置を含む。向流型原料灰減容装置では、原料灰を燃焼させつつ投入口側から排出口側に向かって移動させるとともに、一次吸気口及び二次吸気口から外気を供給することにより燃焼により発生した廃ガス及び蒸気を投入口側に向かって移動させ、燃焼室内の温度及び廃ガスの温度を指標として原料灰の燃焼温度を制御する。併流型第一の原料灰減容装置では、排気装置が廃ガスを強制排気して、吸気口及び複数の吸気ノズルから燃焼室内に外気を供給し、原料灰から発生した蒸気を排出口側に向かって移動させ、廃ガスの温度を指標として原料灰の燃焼温度を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含んでおり、
上記原料灰減容装置が、その一端に原料灰を投入する投入口を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口を有し、その内部が燃焼室である円筒状のキルン胴と、上記燃焼室に連通して上記投入口側に設けられた排気・燃焼チャンバーと、上記燃焼室に連通して上記排出口側に設けられた吸気チャンバーと、上記投入口から上記燃焼室内に挿入された原料供給管と、上記排出口から上記燃焼室内に挿入された吸気ランスと、を備えており、
上記吸気チャンバーが、外気の一次吸気口を有しており、
上記吸気ランスが、外気の二次吸気口を有しており、
上記排気・燃焼チャンバーが、廃ガス中の飛散灰を燃焼する燃焼機構と、この廃ガスを排気する排気口と、燃焼した飛散灰を取り出す取出口と、を有している、バナジウム化合物の製造設備。
【請求項2】
上記一次吸気口及び二次吸気口からの燃焼空気の供給量を調整する調整装置をさらに含む、請求項1に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【請求項3】
上記燃焼室内の温度を測定する内部温度測定装置と、上記排気口から排出した廃ガスの温度を測定する廃ガス温度測定装置と、をさらに備えている、請求項1に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【請求項4】
上記原料供給管が、上記燃焼室内への原料灰の供給位置を調整するための原料位置調整機構を有しており、
上記吸気ランスが、上記燃焼室内への外気の供給位置を調整するための吸気位置調整機構を有している、請求項1に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【請求項5】
上記廃ガスを処理するための排煙脱硫装置と、この廃ガス中の固形分を回収する固形分回収装置と、をさらに含む、請求項1に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【請求項6】
上記バナジウム回収装置が、上記焼却灰からバナジウム化合物を液相に抽出する抽出機を備えている、請求項1に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【請求項7】
上記原料灰減容装置を用いて、バナジウムを含み、かつ、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得ること、
及び、
上記焼却灰中のバナジウム化合物を液相に抽出すること、
を含み、
上記原料灰を燃焼する際に、上記原料供給管から投入した原料灰を燃焼させつつ、上記投入口側から上記排出口側に向かって移動させるとともに、上記排出口側に設けられた上記一次吸気口及び二次吸気口から、上記燃焼室内に外気を燃焼空気として供給することにより、上記原料灰の燃焼により発生した廃ガス及び蒸気を上記投入口側に向かって移動させ、上記燃焼室内の温度及び上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記原料灰の燃焼温度を制御する、請求項1に記載のバナジウム化合物の製造設備を用いたバナジウム化合物の製造方法。
【請求項8】
上記燃焼室内の温度及び上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記一次吸気口及び二次吸気口からの燃焼空気の供給量とを調整することにより上記原料灰の燃焼温度を制御する、請求項7に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【請求項9】
上記燃焼室内の温度及び上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記原料供給管を移動して、上記燃焼室内への原料灰の供給位置を調整し、
上記燃焼室内の温度及び上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記吸気ランスを移動して、上記燃焼室内への外気の供給位置を調整する、請求項7に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【請求項10】
含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含んでおり、
上記原料灰減容装置が、その一端に原料灰を投入する投入口を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口を有し、その内部が燃焼室である円筒状のキルン胴と、上記燃焼室に連通して上記投入口側に設けられた入口チャンバーと、上記燃焼室に連通して上記排出口側に設けられた出口チャンバーと、を備えており、
上記入口チャンバーが、外気の吸気口を有しており、
上記出口チャンバーが、廃ガスを排気する強制排気装置が設けられた排気口を有しており、
上記キルン胴が、上記投入口と上記排出口との間に配置され、上記燃焼室に連通する複数の吸気ノズルを備えているバナジウム化合物の製造設備。
【請求項11】
上記廃ガスの温度を測定する廃ガス温度測定装置と、この廃ガス温度を指標として、上記吸気口及び上記複数の吸気ノズルからの燃焼空気の供給量を調整する調整装置と、をさらに含む、請求項10に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【請求項12】
上記廃ガスを処理するための排煙脱硫装置をさらに含む、請求項10に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【請求項13】
上記バナジウム回収装置が、上記焼却灰からバナジウム化合物を液相に抽出する抽出機を備えている、請求項10に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【請求項14】
上記原料灰減容装置を用いて、バナジウムを含み、かつ、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得ること、
及び、
上記焼却灰中のバナジウム化合物を液相に抽出すること、
を含み、
上記原料灰を燃焼する際に、上記強制排気装置が上記排気口から廃ガスを強制排気し、上記吸気口及び複数の吸気ノズルから、上記燃焼室内に外気を燃焼空気として供給するとともに、上記投入口側において上記原料灰から発生した蒸気を、上記排出口に向かって移動させ、上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記原料灰の燃焼温度を制御する、請求項10に記載のバナジウム化合物の製造設備を用いたバナジウム化合物の製造方法。
【請求項15】
上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記強制排気装置による廃ガスの排気量と、上記吸気口及び上記複数の吸気ノズルからの燃焼空気の供給量とを調整することにより上記原料灰の燃焼温度を制御する、請求項14に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バナジウム化合物の製造設備及び製造方法に関する。詳細には、本開示は、燃焼灰等からバナジウム化合物を回収するための製造設備及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウムは、大型蓄電池であるレドックス・フロー電池の主要構成物である電解液の原料として使用されている。バナジウムを含むレドックス・フロー電池(バナジウム・レドックス・フロー電池)では、電解液の構成物として、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)等の夾雑金属化合物を含まない安価な高純度バナジウムが求められている。しかしながら、一般的に流通しているバナジウム製品は、鋼材添加用のフェロバナジウムで、鉄と共存し純度が低いこと、鋼材向けが主流で大量供給ができないという欠点があった。
【0003】
従来、燃焼灰等を原料として、バナジウムを選択的に抽出する技術として、液相抽出法が知られている。例えば、原料灰を、バナジウム化合物を溶解する液体に浸漬して、液相に抽出されたバナジウム化合物を回収する方法が挙げられる。
【0004】
通常、原料とされる燃焼灰は、原油等重質油を常圧蒸留した常圧蒸留残渣油や減圧蒸留して得られる減圧蒸留残渣油、オイルコークス、オイルサンド等を燃焼したものであり、バナジウム(V)の他に、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)等の複数の金属やアンモニウムが含まれる。また、燃焼灰には、通常、多くの未燃焼カーボンが含まれており、燃焼灰中のバナジウム含量(濃度)は極めて少ない。従来の液相抽出法によって、この原料灰からバナジウム化合物を回収する場合、大量の液体が必要であり、廃液処理も含めて製造コスト増大の一因となっている。
【0005】
例えば、液相抽出前に、燃焼灰を水等で洗浄して、バナジウム以外の金属夾雑物(鉄、ニッケル、マグネシウム等)や溶解性塩類(硫安分、硫酸等)を除去することにより、処理コストをある程度低減することができる。しかし、洗浄水中へのバナジウム溶出により、回収率が低下する場合がある。また、洗浄工程について新たに設備及び費用が必要となる。即ち、燃焼灰からバナジウムを液相に抽出する場合、未燃焼炭素の存在量に比例して、必要な抽出溶液量が増え、コスト増大を引き起こす。製造効率向上及びコスト低減の観点から、未燃焼炭素を焼却して燃料灰を減容する技術が求められている。
【0006】
特許文献1(特開平8-311574号公報)に開示された有価金属の回収方法は、化石燃料の燃焼の際に得られる集塵機灰を520~800℃に加熱し、含有されている硫酸アンモニウムを熱分解させると共にカーボンを燃焼させて、気体成分として除去する処理工程を含む。
【0007】
特許文献2(特開2002-210433号公報)では、石油系燃料の燃焼もしくはガス化で生じたスーツを減容して、燃焼灰中のバナジウム濃度を高める処理方法が提案されている。この処理方法は、スーツを乾燥手段に導入して、水分量が30重量%以下の乾燥スーツを得る乾燥工程と、乾燥スーツを所定の燃焼手段に導入し、乾燥スーツ中の炭素及び炭化水素分を燃焼して、燃焼灰を回収する燃焼工程と、を含む。この燃焼工程では、燃焼手段から排出される気体温度が450~650℃とされている。
【0008】
特許文献3(国際公開2017/069223号)には、未燃炭素を含む燃焼残渣を出発原料として、高純度のバナジウム電解液を製造する方法が開示されている。また、特許文献3では、出発原料である燃焼残渣を、雰囲気温度500℃以上750℃以下で燃焼させて、バナジウムを含有する燃焼灰を得る技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8-311574号公報
【特許文献2】特開2002-210433号公報
【特許文献3】国際公開2017/069223号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、燃焼灰の焼却には、焼却灰の排出側からバーナーで加熱する形式のロータリーキルンが用いられている。例えば、燃焼灰の投入側から廃ガスを排出する向流型キルンでは、炉内雰囲気が400~700℃に制御され、400~600℃の焼却灰が排出される。また、燃焼灰の排出側から廃ガスを排出する併流型キルンでは、炉内雰囲気が400~690℃に制御され、690℃未満の焼却灰が排出される。しかし、炭素の燃焼では、過剰な発熱により、局所的な温度上昇が生じる場合がある。また、炭素の熾火燃焼では、炉内温度や局所温度が700℃を超える場合がある。そのため、原料灰に含まれる低融点物質が溶融して炉内に付着する場合があり、製造トラブルの要因となっていた。また、融点が約690℃である五酸化バナジウム(V2O5)が炉内に付着することで、回収率が低下する要因ともなっている。
【0011】
特許文献2及び3では、燃焼炉に導入する気体(空気)量の調整により燃焼温度が調整されている。しかし、局所的な温度上昇が生じ、また、熾火燃焼のように燃焼温度が異なる領域が生じている炉内において、空気導入量の調整等により、原料灰の温度を適切に制御することは容易ではない。また、原料として供給される燃焼灰の種類も一定ではなく、その性状が大きく異なる場合がある。燃焼炉内の温度を、五酸化バナジウム(V2O5)の溶融しない温度領域に制御しつつ原料灰を燃焼させて製造トラブルを低減するとともに、原料灰を効率的に減容することにより、その後のバナジウム回収工程における処理コストを低減する技術は、未だ提案されていない。
【0012】
本開示の目的は、製造コストが低減され、かつ、製造トラブルの少ないバナジウム化合物の製造設備及び製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係るバナジウム化合物の製造設備は、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含む。この原料灰減容装置は、その一端に原料灰を投入する投入口を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口を有しており、その内部が燃焼室である円筒状のキルン胴と、燃焼室に連通して投入口側に設けられた排気・燃焼チャンバーと、燃焼室に連通して排出口側に設けられた吸気チャンバーと、投入口から燃焼室内に挿入された原料供給管と、排出口から燃焼室内に挿入された吸気ランスと、を備えている。吸気チャンバーは、外気の一次吸気口を有している。吸気ランスは、燃焼室の内部に挿入されており、外気の二次吸気口を有している。排気・燃焼チャンバーは、廃ガス中の飛散灰を燃焼する燃焼機構と、この廃ガスを排気する排気口と、燃焼した飛散灰を取り出す取出口と、を有している。
【0014】
他の観点から、本開示に係るバナジウム化合物の製造設備は、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含む。この原料灰減容装置は、その一端に原料灰を投入する投入口を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口を有しており、その内部が燃焼室である円筒状のキルン胴と、燃焼室に連通して投入口側に設けられた入口チャンバーと、燃焼室に連通して排出口側に設けられた出口チャンバーと、を備えている。入口チャンバーは、外気の吸気口を有している。出口チャンバーは、廃ガスの強制排気装置が設けられた排気口を有している。キルン胴は、投入口と排出口との間に配置され、燃焼室に連通する複数の吸気ノズルを備えている。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係る製造設備及び製造方法では、向流型及び併流型の原料灰減容装置を用いることができる。向流型原料灰減容装置では、原料灰を燃焼する際に、原料供給管から投入した原料灰を燃焼させつつ、投入口側から排出口側に向かって移動させるとともに、排出口側に設けられた一次吸気口及び二次吸気口から、燃焼室内に外気を燃焼空気として供給することにより、上記原料灰の燃焼により発生した廃ガス及び蒸気を上記投入口側に向かって移動させる。併流型原料灰減容装置では、原料灰を燃焼する際に、廃ガスを強制排気することにより、吸気口及び複数の吸気ノズルから、燃焼室内に外気が燃焼空気として供給されるとともに、投入口側において原料灰から発生した廃ガス及び蒸気が、排出口に向かって移動する。これらの減容装置によれば、急激な温度上昇を抑制して、原料灰を安定して燃焼することができる。この製造設備及び製造方法によれば、低融点物質の付着による製造トラブルを生じることなく、原料灰が効率的に減容することができる。これにより、バナジウム回収に要する薬剤、処理水等が減量され、製造コストが顕著に低減される。さらに、この製造方法では、バナジウム化合物の流出をともなう原料灰の洗浄が不要であるため、バナジウムの回収率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るバナジウム化合物の製造設備で用いる併流型原料灰減容装置を説明するための概略図である。
【
図2】
図2は、
図1の原料灰減容装置の吸気ノズルの近傍が示された部分断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の他の実施形態に係るバナジウム化合物の製造設備で用いる向流型原料灰減容装置を説明するための概略図である。
【
図4】
図4は、650℃の炉内で7時間処理後の焼却灰の外観写真である。
【
図5】
図5は、600℃の炉内で7時間処理後の焼却灰の外観写真である。
【
図6】
図6は、650℃の炉内で7時間処理後の他の焼却灰の外観写真である。
【
図7】
図7は、600℃の炉内で7時間処理後の他の焼却灰の外観写真である。
【
図8】
図8は、600℃の炉内に設置されたサンプル温度の時間変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、650℃の炉内に設置されたサンプル温度の時間変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、アルカリ抽出後の焼却灰のSEM画像(倍率1500倍)である。
【
図11】
図11は、酸抽出後の焼却灰のSEM画像(倍率1500倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本開示が詳細に説明される。本開示は、その要旨を変更しない範囲で、適宜変更して実施することが可能である。なお、本願明細書において特に言及しない限り、「X~Y」は「X以上Y以下」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0018】
[第一実施形態]
本開示の一実施形態に係るバナジウム化合物の製造方法は、バナジウム及び/又はバナジウム化合物を含有する原料灰から、高純度バナジウム化合物を回収するための方法であり、特に、レドックス・フロー電池用電解液に適した高純度バナジウム化合物を、極めて高い回収率で得るための方法である。例えば、この製造方法は、バナジウムを含み、かつ、含水状態の原料灰を準備すること、原料灰減容装置を用いて、この原料灰を燃焼して焼却灰を得ること、及び、この焼却灰中のバナジウム化合物を液相に抽出すること、を含む。この製造方法によれば、製造トラブルの発生が少なく、低コストでバナジウム化合物を回収できる。回収したバナジウム化合物を原料として、レドックス・フロー電池用電解液の製造に供することにより、安価で効率よくレドックス・フロー電池用電解液を得ることができる。
【0019】
この製造方法に用いられる原料灰としては、例えば、重質油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油などの燃焼灰、焼却ボイラー灰、部分酸化灰、石油コークス灰、オイルサンドの残渣灰などを挙げることができる。この燃焼灰等に、バナジウム含有の廃触媒を混合したものを原料灰として用いてもよい。以下、燃焼灰を原料灰として用いる場合を例として、この実施形態について詳細に説明する。
【0020】
この実施形態に係る製造方法では、バナジウムを含み、かつ、含水状態の燃焼灰が原料として準備される。含水状態の原料灰が後述する原料灰減容装置に供されると、原料灰中の水分が蒸発して水蒸気になる。この水分の蒸発に伴う吸熱により、原料灰の燃焼に伴う過剰な温度上昇が抑制される。
【0021】
原料灰を燃焼する際に適正な燃焼温度が維持されるとの観点から、原料灰の含水率は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上が特に好ましい。含水率の上限値は特に限定されないが、原料灰の燃焼に要するエネルギー及びコストの観点から、好ましくは75質量%以下である。準備された燃焼灰の含水率に応じて、この燃焼灰をそのまま原料灰として使用してもよいし、水と混合して含水率を当該範囲に調整したものを原料灰として使用してもよい。
【0022】
前述した通り、原料灰はバナジウムを含んでいる。代表的には、原料灰(燃焼灰)に含まれる成分は、炭素、硫酸根、バナジウム及び水である。
【0023】
原料灰に含まれるバナジウムは、3価、4価、5価の様々な価数の化合物の形態をとっている。具体的にはNH4V3(OH)6(SO4)2、VOSO4・5H2O、V2O5等である。一般に、原料灰に含まれるバナジウム(純V)は、0.1~10質量%程度であり、より一般的には1~3質量%程度である。
【0024】
原料灰に含まれる炭素は、未燃焼の炭素又は炭化水素を主成分とする非水溶性固形物(S分)を意味する。原料灰に含まれる炭素分の量は、その種類にもよるが、通常、乾物当たり50~90質量%程度であり、より一般的には60~85質量%程度である。
【0025】
原料灰には、バナジウム以外の他の元素(夾雑物)も含まれている。このような夾雑物の例として、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、クロム、チタン、銅、亜鉛、パラジウム、白金、リン、硫黄等が挙げられる。一般にこれらの金属夾雑物は、酸化物、硫化物等として含まれることが多い。一般に、原料灰に含まれるこれらの金属夾雑物は、元素の種類にもよるが、0.1~10質量%程度であり、より一般的には0.3~1.0質量%程度である。
【0026】
原料灰が硫酸根として硫安分を含む場合、硫安分の量は原料灰の種類にもよるが、通常、質量比で0~60質量%程度であり、より一般的には30~50質量%程度である。硫安分を多く含む廃棄物としては、石油系燃焼灰などを挙げることができる。また、原料灰が硫酸を含む場合、硫酸の量は、0~20質量%程度であり、より一般的には10~15質量%程度である。なお、本開示にかかる製造方法は、硫酸根を含まない原料灰についても適用されうる。
【0027】
(原料灰の燃焼)
原料灰の燃焼には、所定の構成を有する原料灰減容装置が用いられる。原料灰減容装置を用いて原料灰を燃焼することにより、その容積を低減した焼却灰が得られる。燃焼により、原料灰中のほとんどの水分が蒸発して除去され、未燃焼カーボン等の炭素分が焼却されるとともに、原料灰中の硫酸根(硫酸、硫安等)がSOxガス(亜硫酸ガス)として放出される。これにより、原料灰が5~20質量%程度に減容され、得られる焼却灰中のバナジウム(純V)含有率が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上に向上する。また、焼却灰中の未燃焼カーボン等の炭素分は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは80質量%以下に低減される。さらに、焼却灰中の硫酸根は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下に低減される。この焼却灰を液相抽出することにより、バナジウム化合物の抽出効率が向上する。さらには、より少ない量の薬剤(例えば水、酸、アルカリ等の抽出液)でバナジウム化合物を抽出することができるため、製造コストが大幅に低減される。
【0028】
図1及び
図2には、第一実施形態で用いられる原料灰減容装置20(以下、「減容装置20」と称する場合がある)の一例が示されている。なお、第一実施形態における原料灰減容装置20は、「併流方式」の減容装置である。ここで、「併流方式」とは、投入された原料灰の移動方向と併流に、燃焼空気、廃ガス等が移動する方式を意味する。以下、
図1及び
図2を用いて、原料灰減容装置20の基本構成及び使用方法を説明する。
【0029】
図示される通り、この減容装置20は、キルン胴28と、入口チャンバー30と、出口チャンバー32と、を備えている。キルン胴28は概して円筒状である。
図1における左右方向は、このキルン胴28の軸方向である。
【0030】
キルン胴28は、その一端に原料灰を投入する投入口22を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口24を有している。キルン胴28の内部には、原料灰を燃焼させるための燃焼室26が形成されている。以下、本明細書において、燃焼室26の投入口22側を上流側、排出口24側を下流側と称する場合がある。
【0031】
この実施形態では、減容装置20は、キルン胴28を軸心周りに回転させる駆動機構を備えている。キルン胴28は、複数のサポート40により回転可能に支持されている。
図1中、キルン胴28の回転軸が破線線で示されている。
【0032】
入口チャンバー30は、キルン胴28の投入口22側に設けられている。この入口チャンバー30は、外気の吸気口34を有しており、燃焼室26に連通している。燃焼室26内には、入口チャンバー30を貫通して、原料灰の投入装置42と、着火装置44とが挿入されている。図示されないが、投入装置42には、原料灰の供給管が接続されている。着火装置44には、助燃剤としてLPガス等を供給するための配管が接続されている。
【0033】
出口チャンバー32は、キルン胴28の排出口24側に設けられている。この出口チャンバー32は、廃ガスの排気口36を有しており、燃焼室26に連通している。出口チャンバー32は、さらに、焼却灰を取り出すための取出口46を備えている。この実施形態では、取出口46は、配管を介して回収装置に接続されており、排気口36には、廃ガスを強制排気するための強制排気装置が設置されている。排気口36は、サイクロン、バグフィルタを含む集塵機を介して、排煙脱硫装置に接続されてもよい。
【0034】
図示される通り、キルン胴28は、燃焼室26に連通して、外気を取り入れるための複数の吸気ノズル38をさらに備えている。複数の吸気ノズル38はキルン胴28の投入口22と排出口24との間に配置されている。各吸気ノズル38は、その一端が燃焼室26内で開口しており、他端がキルン胴28外の外気に向けて開口している。
【0035】
図3は、キルン胴28に設けられた吸気ノズル38の近傍が拡大して示された部分断面図である。この実施形態では、キルン胴28の外周に設けたリングヘッダー48に、複数の吸気ノズル38が間隔を開けて取り付けられている。図示される通り、複数の吸気ノズル38の、燃焼室26内に開口した先端には、それぞれ、原料灰又は焼却灰が吸気ノズル38に流入することを防ぐためのダスト流入防止カバー50が隔設されている。各吸気ノズル38の、外気に向けて開口した先端に、雨水流入防止カバーが設けられてもよい。
【0036】
キルン胴28の外壁52は鉄皮と称される。燃焼による高温及び燃焼物から発生するSOxガス等に曝される鉄皮52の内表面は、耐酸レンガ又は抗火石からなる層54に被覆されており、この層54に耐熱レンガ56が積層されている。さらに、図示される通り、このキルン胴28では、吸気ノズル38の上流側において、鉄皮52と、耐酸レンガ又は抗火石からなる層54との間に、耐酸ペイント58及び耐酸モルタル60からなる層が形成されている。耐酸レンガ、抗火石、耐酸ペイント及び耐酸モルタルは、SOxガス等硫黄酸化物に対する耐腐食性を有している。換言すれば、キルン胴28の壁面は、硫黄酸化物に対する腐食防止材料からなる層を含む。
【0037】
この減容装置20によって原料灰の燃焼が実施されるには、キルン胴28の投入口22に挿入された投入装置42により、燃焼室26内に含水状態の原料灰が投入される。この投入装置42としてはコンベア、プッシャー、振動フィーダー等が例示される。
【0038】
原料灰の投入時、吸気口34、複数の吸気ノズル38及び排気口36は解放されており、燃焼室26内は外気に満たされている。この燃焼室26内に助燃剤であるLPガスが供給され、着火装置44で着火して原料灰の燃焼が開始される。この着火装置44としては着火ランス等を使用することができる。なお、原料灰の燃焼が開始され、熾火燃焼が継続している状態では、着火装置144の使用は不要である。
【0039】
この実施形態において、減容装置20は、その一端から他端に向かって、軸方向に傾斜が設けられている。この減容装置20では、投入口22から排出口24に向かって、下向きの傾斜が設けられている。キルン胴28は、駆動機構により軸心周りに回転する。この回転と傾斜とにより、燃焼する原料灰は、燃焼室26の中で撹拌されつつ、投入口22から排出口24に向かって移動する。移動中、原料灰に含まれる炭素分等の燃焼により減容化された焼却灰が、排出口24から出口チャンバー32に排出される。
【0040】
燃焼室26において、原料灰が燃焼すると、SOx等を含む廃ガスが発生する。この実施形態では、排気口36に設けられた強制排気装置により、廃ガスが強制排気される。この強制排気に伴って、燃焼室26内に負圧が生じる。この負圧により、解放された吸気口34及び複数の吸気ノズル38から、燃焼空気である外気が燃焼室26内に供給される。これにより、キルン胴28の内部に、投入口22から排出口24に、即ち、上流から下流に向かう空気の流れが発生する。この流れによって、燃焼室26内に存在する原料灰に、燃焼に必要な酸素が有効に供給される。この減容装置20では、原料灰が、酸素の供給を受けて燃焼しながら、排出口24に向かって進みつつ、自己の燃焼熱によりさらに加熱される一方で、より低温の外気(大気)が供給されることにより、急激な温度上昇が抑制されうる。
【0041】
また、前述した通り、この実施形態では、原料灰が、含水状態で燃焼室26に投入される。原料灰は、未燃焼カーボン等の炭素分を多く含む。水分を含む炭素分の燃焼状態が、
図1に示されている。
図1中、投入口22に近い上流領域では、原料灰表面の水分が蒸発乾燥しやすい状態に解砕される(原料灰解砕領域)。投入口22と排出口24との間の中流領域では、解砕された原料灰の表面から水分が蒸発するとともに、原料灰から放出された可燃性ガスが発火、若しくは着火されて燃焼する(水分乾燥及び着火燃焼領域)。排出口24に近い下流領域では、原料灰内部の水分が蒸発するとともに、空気(酸素)と接触する原料灰が燃焼する(水分蒸発及び熾火燃焼領域)。
【0042】
ここで、熾火燃焼とは、発火を伴わず、酸素との接触で燃焼している現象を意味する。通常、このような燃焼状態が継続すると、燃焼室26の上流から下流に向かって、燃焼温度が徐々に増加し、熾火燃焼領域では、その温度が1000℃を超える場合がある。しかし、この減容装置20では、キルン胴28の内部に、上流から下流に向かう空気の流れが生じている。この流れにより、上流で発生した水蒸気が下流に運ばれる。比較的低温の水蒸気によって、熾火燃焼領域における急激な温度上昇が抑制される。また、燃焼による酸素の消費及び蒸発水蒸気の分圧上昇に伴って酸素分圧が調整されるため、原料灰表面での急激燃焼が抑制され、良好な燃焼状態が維持される。
【0043】
さらに、この実施形態では、複数の吸気ノズル38が、投入口22と排出口24との間の中流領域に設置されている。この減容装置20では、各吸気ノズル38から取り込まれた比較的低温の外気が、上流から下流へ向かう空気の流れによって、主として、燃焼による酸素消費及び蒸発水蒸気の分圧上昇により酸素分圧が低下した下流領域に供給される。この下流領域では、熾火燃焼による急激な温度上昇が水蒸気により抑制されながらも、吸気ノズル38から供給される外気によって、良好な燃焼状態が維持される。
【0044】
換言すれば、この減容装置20は、排気口36に設けられた強制排気装置が廃ガスを強制排気することにより、吸気口34及び複数の吸気ノズル38から、燃焼室26内に外気が燃焼空気として供給されるとともに、投入口22側において原料灰から発生した水蒸気が、排出口24に向かって移動するように構成されている。この減容装置20を用いた焼却工程によれば、燃焼室26内において、比較的低い温度での緩やかな燃焼状態が安定して維持されうる。この減容装置20を用いた焼却工程を経て得られる焼却灰は、投入された原料灰の10~20質量%程度まで減容される。さらに、この減容装置20では、局所的な温度上昇が回避されるので、低融点物質による付着トラブルが低減される。
【0045】
この減容装置20では、強制排気装置による廃ガスの排気量を調整することにより、吸気口34及び/又は吸気ノズル38からの吸気量を制御することができる。具体的には、燃焼温度が高くなりすぎる場合には、燃焼空気である吸気量を減少し、燃焼状態が不良の場合には吸気量を増加させることにより、緩やかで安定した燃焼状態を維持することができる。バナジウム化合物の回収率向上及び付着トラブル低減の観点から、キルン胴28内における原料灰の温度は700℃以下が好ましく、690℃を超えないことが特に好ましい。燃焼効率の観点から、好ましい燃焼温度は400℃以上であり、600℃以上がより好ましい。
【0046】
燃焼状態を良好に維持するとの観点から、排気口36から排出された廃ガスの温度を測定し、この温度を指標として、燃焼温度を調整することが好ましい。廃ガスの温度測定は、排気口36付近に設置した既知の温度センサー等によりなされうる。この廃ガスの温度を指標として、吸気口34及び/又は複数の吸気ノズル38から、強制的に外気を燃焼空気として供給してもよい。好ましくは、キルン胴28内における原料灰の温度が前述した燃焼温度となるように、吸気口34及び/又は吸気ノズル38からの燃焼空気の供給量を調整する。これにより、キルン胴28内における原料灰の燃焼温度がより精密に制御される。
【0047】
必要に応じて、キルン胴28の外周面の温度を調整することにより、燃焼温度を制御してもよい。例えば、キルン胴28の外周面に冷風を吹き付けることにより、燃焼温度を制御する方法が挙げられる。特に、高温となりやすい熾火燃焼領域が位置する下流部分の温度を制御することが好ましい。
【0048】
本開示の効果が得られる限り、着火装置44から、強制的に外気を燃焼用空気として供給してもよい。必要に応じて、燃焼室26内にLPガス等の助燃剤を供給してもよい。
【0049】
(焼却灰の液相抽出)
この実施形態では、原料灰を燃焼して減容させた焼却灰を、バナジウム化合物を溶解する液体(抽出液)に浸漬させて、液相にバナジウム化合物を抽出する。この製造方法によれば、液相抽出に供される焼却灰には、原料灰に存在したバナジウムのほぼ全量が含まれている。さらに、この焼却灰中のバナジウム含有率は高い。この焼却灰から液相へのバナジウムの抽出効率は、高い。この製造方法によれば、焼却灰に添加する抽出液の量を低減することができる。さらには、液相抽出により生じる廃液量を低減することもできる。
【0050】
(原料灰の含水率調整)
本開示の効果が阻害されない限り、この製造方法において、燃焼前に原料灰の含水率を50質量%以上に調整してもよい。例えば、減容装置20のキルン胴28への投入前に、原料灰に水を添加・混合して、その含水率を好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上に調整する。原料灰に添加する水としては特に限定されない。得られるバナジウム化合物の純度向上の観点から、塩等を含まないことが好ましい。含水率50質量%以上の原料灰を燃焼することにより、燃焼室26内における蒸気発生量が適正となり、水分蒸発に伴う吸熱により燃焼室26内の温度の過剰な上昇が回避されうる。原料灰の燃焼に係るエネルギー及びコスト抑制の観点から、調整後の原料灰の含水率は75質量%以下が好ましい。
【0051】
原料灰の含水率調整方法は、バッチ法でもよく、連続法でもよい。具体的には、原料灰に水を添加して混合する混練混合装置を用いた方法を挙げることができる。また、減容装置20の投入口22に接続されたスクリューコンベア内の原料灰に散水する方法により、その含水率を調整してもよい。
【0052】
(第一実施形態に係るバナジウム化合物の製造設備)
本開示のバナジウム化合物の製造装置は、前述した第一実施形態に係るバナジウム化合物の製造方法を実施するための設備として構成することができる。第一実施形態に係るバナジウム化合物の製造設備は、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含んで構成される。
図1及び
図2に示される基本構成を備えた原料灰減容装置20が用いられる。前述した通り、原料灰減容装置20は、その一端に原料灰を投入する投入口22を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口24を有し、その内部が燃焼室26である円筒状のキルン胴28を備えている。キルン胴28の投入口22側には、燃焼室26に連通する入口チャンバー30が設けられている。キルン胴28の排出口24側には、燃焼室26に連通する出口チャンバー32が設けられている。入口チャンバー30は、外気の吸気口34を有している。出口チャンバー32は、廃ガスの強制排気装置が設けられた排気口36を有している。キルン胴28は、投入口22と排出口24との間に配置され、燃焼室26に連通する複数の吸気ノズル38を備えている。この減容装置20では、排気口36から廃ガスが強制排気される。この減容装置20は、この強制排気により、吸気口34及び複数の吸気ノズル38から、燃焼室26内に外気が燃焼空気として供給されるとともに、投入口22側において原料灰から発生した蒸気が、排出口24に向かって移動するように構成されている。この構成を有する減容装置20では、使用時に、投入口22から投入された原料灰が、排出口24に向かって燃焼しつつ移動し、かつ、上流から下流に向かう気流が生じる。換言すれば、この減容装置20は、原料灰の移動方向と気流の方向とが同じ(併流)である。この減容装置20では、併流系であることにより、キルン胴28に投入された原料灰の燃焼温度の制御が容易である。
【0053】
第一実施形態に係る製造設備では、原料灰減容装置20を用いて含水状態の原料灰を燃焼させて減容することにより、バナジウム含有率の高い焼却灰が得られる。また、この減容装置20によれば、燃焼中に未燃焼カーボン等の炭素分が焼却されるとともに、硫酸根の大部分がSOxとして除去される。この焼却灰を回収装置に供することにより、アルカリ等薬剤や処理水の使用量が低減され、製造コストが顕著に低減される。さらに、この焼却灰によれば、液相抽出時に、未燃焼カーボン等への吸着によるバナジウムの流出が回避されるため、バナジウム化合物の回収率が向上する。
【0054】
排気口36に設置する強制排気装置としては特に限定されず、誘引通風機等既知の排気装置が用いられる。好ましくは、強制排気装置は、廃熱回収装置、硫安回収装置及び廃ガス処理装置(特には、排煙脱硫装置)を経由して、排気口36に接続される。この製造設備が、排気口36から排出された廃ガスの温度を指標として、強制排気装置による排気量を調整する調整装置を含んでもよい。減容装置20のキルン胴28内における原料灰の温度が好ましくは700℃以下、より好ましくは690℃を超えないように、廃ガスの排気量を調整することが好ましい。廃ガスの温度を指標として、原料灰の燃焼温度が調整された減容装置20では、低融点である五酸化バナジウム(V2O5)の融解に起因するバナジウム回収率の低下や、装置への付着トラブルが回避されうる。さらには、付着物の洗浄等に要するコストが低減される。
【0055】
燃焼温度の調整が容易であるとの観点から、この製造設備が、排気口36から排出された廃ガスの温度を指標として、吸気口34及び/又は複数の吸気ノズル38からの燃焼空気の供給量を調整する調整装置を備えてもよい。例えば、入口チャンバー30の吸気口34からの外気の吸入量を調整する吸気量調整装置をさらに備えてもよい。この吸気量調整装置としては空気送風機等が例示される。また複数の吸気ノズル38のそれぞれが、絞り込み等の流量調整装置を備えてもよい。
【0056】
好ましくは、この製造設備は、減容装置20の排気口36から排出した廃ガスの温度を測定する、廃ガス温度測定装置をさらに備えている。測定された廃ガスの温度に基づいて、排気口36からの排気量、吸気口34からの吸気量及び吸気ノズル38からの吸気量を調整することにより、燃焼室26における燃焼温度をより精密に制御することが可能になる。この廃ガス温度測定装置として、既知の温度センサー等が用いられうる。
【0057】
この製造設備が、減容装置20のキルン胴28の外周面に、外部温度制御装置をさらに備えてもよい。この外部温度制御装置により、燃焼室26における燃焼温度の制御がさらに容易になる。外部温度制御装置としては、冷却ファン等が例示される。
【0058】
好ましくは、この製造設備は、減容装置20のキルン胴28に投入する前の原料灰の含水率を調整する含水率調整装置を備える。原料灰含水率調整装置では、原料灰の含水率を50質量%以上に調整する。これにより、燃焼室26における燃焼温度の急激な上昇が回避されうる。この含水率調整装置としては、混練混合装置等が例示される。
【0059】
好ましくは、この製造設備は、排気口36から排出される廃ガスを処理するための排煙脱硫装置をさらに含む。排煙脱硫装置により、廃ガス中の二酸化硫黄等SOxを除去することができる。既知の排煙脱硫装置が適宜選択して用いられうる。この製造設備が、除去したSOxを硫安として回収する回収装置をさらに備えてもよい。
【0060】
好ましくは、バナジウム回収装置は、焼却灰を抽出液に浸漬させて、焼却灰からバナジウム化合物を液相に抽出する抽出機を備えている。この抽出液が、酸、アルカリ及び水又はこれらの溶液であってもよい。
【0061】
抽出機により、バナジウム化合物の液相抽出が実施される。この抽出機としては、例えば、抽出液及び焼却灰を混合する撹拌混合槽等を挙げることができる。抽出機がpH調整機を含んでもよい。バナジウム回収装置が、液相抽出後の抽出液を回収する固液分離機をさらに備えてもよい。
【0062】
[第二実施形態]
本開示の他の実施形態に係るバナジウム化合物の製造方法は、バナジウムを含み、かつ、含水状態の原料灰を準備すること、第一実施形態とは異なる構成の原料灰減容装置を用いて、原料灰を燃焼して焼却灰を得ること、及び、この焼却灰中のバナジウム化合物を液相に抽出すること、を含む。第一実施形態にて前述された原料灰が、適宜選択して用いられる。
【0063】
(原料灰の燃焼)
第二実施形態において、原料灰の燃焼には、「向流方式」の原料灰減容装置が用いられる。ここで、「向流方式」とは、投入された原料灰の移動方向と略対向する方向(向流)に、燃焼空気、廃ガス等が移動する方式を意味する。向流方式の原料灰減容装置を用いて原料灰を燃焼することにより、原料灰の燃焼温度をより精密に制御して、局所的な温度上昇を回避しながら、その容積が5~20質量%程度に低減された焼却灰が得られる。この製造方法によれば、製造トラブルの発生がさらに少なく、低コストでバナジウム化合物を回収できる。
【0064】
図3には、この第二実施形態で用いられる原料灰減容装置120(以下、「減容装置120」と称する場合がある)の一例が示されている。以下、
図3を用いて、原料灰減容装置120の基本構成及び使用方法を説明する。
【0065】
図示される通り、この減容装置120は、キルン胴128と、吸気チャンバー130と、排気・燃焼チャンバー132と、を備えている。キルン胴128は概して円筒状である。
図3における左右方向は、このキルン胴128の軸方向である。
【0066】
キルン胴128は、その一端に原料灰を投入する投入口122を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口124を有している。キルン胴128の内部には、原料灰を燃焼させるための燃焼室126が形成されている。以下、本明細書において、燃焼室126の投入口122側を上流側、排出口124側を下流側と称する場合がある。
【0067】
この実施形態では、減容装置120は、キルン胴128を軸心周りに回転させる駆動機構を備えている。キルン胴128は、複数のサポート140により回転可能に支持されている。
図3中、キルン胴128の回転軸が破線線で示されている。
【0068】
吸気チャンバー130は、キルン胴128排出口124側に設けられている。この吸気チャンバー130は、外気(燃焼空気)の一次吸気口133と、焼却灰を取り出すための一次取出口134を有しており、燃焼室126に連通している。燃焼室126の内部には、吸気チャンバー130を貫通して、排出口124から、吸気ランス135が挿入されている。吸気ランス135はパイプ状であり、その一端が燃焼室126の内部で開口している。吸気ランス135が、この開口部付近に燃焼室126内の内部温度測定装置を有してもよい。内部温度測定装置としては、既知の温度センサーが適宜用いられる。吸気ランス135の他端は吸気チャンバー130から露出しており、外気の二次吸気口138を有している。一次吸気口133及び二次吸気口138には、外気(燃焼空気)の供給量を調整する調整装置を設置してもよい。吸気ランス135が、燃焼室126内への外気の供給位置を調整するための吸気位置調整機構を有してもよい。この実施形態では、一次取出口134が、配管を介してバナジウム回収装置に接続されている。
【0069】
排気・燃焼チャンバー132は、キルン胴128の投入口122側に設けられており、燃焼室126に連通している。この排気・燃焼チャンバー132は、廃ガスを排気する排気口141と、廃ガス中の飛散灰を燃焼する燃焼機構とを有している。この実施形態では、排気・燃焼チャンバー132を貫通して、投入口122から、燃焼室126の内部に原料供給管142と着火装置144とが挿入されている。着火装置144には、助燃剤としてLPガス等を供給するための配管が接続されている。原料供給管142が、燃焼室内への原料灰の供給位置を調整するための原料位置調整機構145を有してもよい。さらに、排気・燃焼チャンバー132が燃焼した飛散灰を取り出すための二次取出口146を備えている。二次取出口146が、配管を介してバナジウム回収装置に接続されてもよい。排気口141には、廃ガスを排気するための排気装置を設置してもよく、この排気口141付近に、廃ガスの温度を測定する廃ガス温度測定装置を備えてもよい。廃ガス温度測定装置としては、既知の温度センサーが適宜用いられる。排気口141が、廃ガスを処理するための排煙脱硫装置と、この廃ガス中の固形分をする固形分回収装置と、に接続されてもよい。例えば、排気口141が、サイクロン、バグフィルタを含む集塵機を介して、排煙脱硫装置に接続されてもよい。
【0070】
キルン胴128の外壁152は鉄皮と称される。燃焼による高温に曝される鉄皮152の内表面は、耐火材からなる層154に被覆されている。鉄皮152の内表面が、さらに、SOxガス等硫黄酸化物に対する腐食防止材料からなる層を有してもよい。
【0071】
この減容装置120によって原料灰の燃焼が実施されるには、キルン胴128の投入口122に挿入された原料供給管142により、燃焼室126内に含水状態の原料灰が投入される。この原料供給管142として、コンベア、プッシャー、振動フィーダー等が用いられてもよい。
【0072】
原料灰の投入時、一次吸気口133、二次吸気口138及び排気口141は解放されており、燃焼室126内は外気に満たされている。この燃焼室126内に助燃剤であるLPガスが供給され、着火装置144で着火して原料灰の燃焼が開始される。この着火装置144としては着火ランス等を使用することができる。なお、原料灰の燃焼が開始され、熾火燃焼が継続している状態では、着火装置144の使用は不要である。
【0073】
この実施形態において、減容装置120は、その一端から他端に向かって、軸方向に傾斜が設けられている。この減容装置120では、投入口122から排出口124に向かって、下向きの傾斜が設けられている。キルン胴128は、駆動機構により軸心周りに回転する。この回転と傾斜とにより、燃焼する原料灰は、燃焼室126の中で撹拌されつつ、投入口122から排出口124に向かって移動する。移動中、原料灰に含まれる炭素分等の燃焼により減容化された焼却灰が、排出口124から吸気チャンバー130に移動して、一次取出口134から取り出される。
【0074】
燃焼室126において、原料灰が燃焼すると、蒸気、SOx等を含む廃ガスが発生する。また、原料灰の最大粒子径は100μm付近であり、そのため、多くが燃焼室126の内部に飛散する。この実施形態では、一次吸気口133及び二次吸気口138から、燃焼空気である外気が燃焼室126内に供給される。これにより、キルン胴128の内部に、排出口124から投入口122に、即ち、下流から上流に向かう空気の流れが発生する。この流れによって、燃焼室126内に存在する原料灰に、燃焼に必要な酸素が有効に供給されるとともに、比較的低温の燃焼空気大気との接触により、急激な温度上昇が抑制されうる。さらに、この減容装置120では、下流から上流に向かう空気の流れによって、燃焼により発生した廃ガスと、飛散灰とが、投入口122側に向かって移動して、排気・燃焼チャンバー132に流入する。排気・燃焼チャンバー132に流入した飛散灰は、燃焼機構により燃焼されて、一部が廃ガスとともに排気口141から排出され、一部が二次取出口146から取り出される。この実施態様によれば、飛散灰中のバナジウム化合物を回収することができる。排気・燃焼チャンバー132では、残酸素を含む廃ガスと飛散灰とが気固撹拌混合されている。そのため、飛散灰中のバナジウム化合物は、主に5価の酸化バナジウムとして含有されている。
【0075】
この実施形態における原料灰の燃焼状態が、
図3に示されている。
図3中、排気・燃焼チャンバー132を含む投入口122に近い上流領域では、飛散灰が乾燥して燃焼する(飛散灰乾燥燃焼領域)。投入口122と排出口124との間の中流領域では、原料灰内部の水分が蒸発するとともに、空気(酸素)と接触する原料灰が燃焼する(熾火燃焼維持領域)。排出口124に近い下流領域では、低温の空気(酸素)が供給されることにより燃焼灰が冷却される(熾火冷却領域)。
【0076】
例えば、熾火冷却領域では、一次吸気口133から供給された外気との接触によって、灰の燃焼温度が、好ましくは690℃以下、より好ましくは650℃以下、場合により100℃近くまで冷却される。一方、一次吸気口133から供給された空気(一次燃焼空気)の温度は、熾火燃焼する灰との接触によって、常温から、好ましくは、原料灰が自然燃焼を起こす350℃以上、より好ましくは400℃以上に昇温される。吸気ランス135の開口部付近に設置された内部温度測定装置により、燃焼室内126の温度を測定し、この内部温度を指標として、上記温度が達成されるように、一次吸気口133からの燃焼空気の供給量を調整してもよい。また、上記温度が達成されるように、吸気位置調整機構139を用いて、吸気ランス135の位置を変更することにより、二次吸気口138から供給される空気(二次燃焼空気)の供給位置を調整してもよい。
【0077】
熾火燃焼維持領域では、原料灰の燃焼温度を、好ましくは690℃以下、より好ましくは650℃以下に調整することにより、安定した熾火燃焼が維持される。燃焼効率の観点から、好ましい燃焼温度は600℃以上である。例えば、排気口141付近に設けられた廃ガス温度測定装置により、排気口141から排出される廃ガスの温度を測定し、この廃ガスの温度を指標として、上記温度が達成されるように二次吸気口138からの燃焼空気の供給量を調整してもよい。また、上記温度が達成されるように、原料位置調整機構145を用いて、原料供給管142の位置を変更することにより、燃焼室126内に供給される原料灰の位置を調整して、原料灰の種類や量による負荷変動を抑制することもできる。
【0078】
690℃以下、好ましくは650℃以下の安定した熾火燃焼が進行する過程では、原料灰(一般に、1~100μmの粒径分布を有している)のうち、比較的大きな粒子の表面及び内部において、カーボン及びバナジウム化合物の酸化反応(主に燃焼)と還元反応(主に脱酸素)と複合して生じている。概ね、熾火燃焼の前半で酸化反応が生じ、後半で還元反応が生じている。この酸化反応から還元反応への移行段階で、燃焼中の灰の表面の熾火温度が700℃を超える場合がある。そのため、融点の低い5価の酸化バナジウム(V2O5)が溶融して、燃焼灰の表面を被覆するように厚み数mm程度の脆い塊を形成する。この状態で、燃焼灰が前述の熾火冷却領域に導入される。
【0079】
そして、本開示者らは、驚くべきことに、熾火冷却領域を経て一次取出口134から取り出される焼却灰(以下、この焼却灰を「焼成焼却灰」と称する場合がある)中のバナジウムの多くが鉄、ニッケル等との合金として存在しており、通常の酸、アルカリには溶解しない針状結晶を形成していることを見出した。この合金は、鉄鋼材料に所望の元素を加えて強度、靱性等を付与するための添加剤として有用であり、この実施形態に係る減容装置120によれば、従来回収されていなかったバナジウムを、重要なフェロバナジウム合金の粗原料として容易に回収することができることを見出した。
【0080】
飛散灰乾燥燃焼領域では、原料供給管142により供給される原料灰の乾燥とともに、廃ガスと共に下流から移動してきた飛散灰の燃焼が生じる。燃焼室126内を流れてきた廃ガスの温度は高い。この廃ガスとの接触により、飛散灰及び原料灰の乾燥及び燃焼が効率的におこなわれる。詳細には、熾火燃焼維持域及び飛散灰乾燥域の両方で発生した飛散灰は、好ましくは690℃以下、より好ましくは650℃以下の廃ガスとの接触により、気固燃焼反応又は酸化反応を受ける。この反応によって、飛散灰中のバナジウム化合物は、5価の酸化バナジウムとして存在している。排気・燃焼チャンバー132における飛散灰の乾燥及び燃焼の効率化の観点から、排気・燃焼チャンバー132の寸法を、飛散灰の滞留時間が2秒以上となるように設定することが好ましい。また、原料位置調整機構145を用いて、原料供給管142の位置を変更することにより、燃焼室126内に供給される原料灰の位置を調整して、当該領域における飛散灰及び原料灰の乾燥・燃焼温度を調整することもできる。
【0081】
換言すれば、この減容装置120は、原料灰を燃焼する際に、原料供給管142から投入した原料灰を燃焼させつつ、投入口122側から排出口124側に向かって移動させるとともに、排出口124側に設けられた一次吸気口133及び二次吸気口138から、燃焼室126内に外気を燃焼空気として供給することにより、原料灰の燃焼により発生した廃ガス及び蒸気を投入口132側に向かって移動させ、燃焼室126内の温度及び排気口141から排出された廃ガスの温度を指標として、原料灰の燃焼温度を制御するように構成されている。
【0082】
前述した通り、この減容装置120では、一次吸気口133と二次吸気口138から低温の外気が供給される。詳細には、一次吸気口133からの外気は、排出口124付近の熾火冷却領域に供給され、二次吸気口138からの外気は、吸気ランス135を通って、中流付近の熾火燃焼維持領域に供給される。これにより、この減容装置120では、燃焼室126内の全域において、原料灰の燃焼温度と雰囲気温度とがバランスされる。このバランスにより、熾火燃焼領域において、急激な温度上昇を伴うことなく、良好な燃焼状態が維持される。さらに、この減容装置120では、燃焼室126内の全域において燃焼温度の急激な上昇が回避されるので、低融点物質の付着による製造トラブルが極めて低減される。
【0083】
この減容装置120では、原料灰の燃焼状態に応じて、一次吸気口133及び二次吸気口138からの燃焼空気の供給量を調整してもよい。詳細には、燃焼室126内の内部温度及び排気口141から排出された廃ガスの温度を指標として、一次吸気口133及び二次吸気口138からの燃焼空気の供給量とを調整することにより、原料灰の燃焼温度を制御してもよい。具体的には、燃焼温度が高くなりすぎる場合には、燃焼空気の供給量を減少し、燃焼状態が不良の場合には供給量を増加させることにより、緩やかで安定した燃焼状態を維持することができる。また、この減容装置120では、二次吸気口138からの供給量と、一次吸気口133からの供給量と、を別途増減することにより、熾火燃焼維持領域及び熾火冷却領域の燃焼状態を、それぞれ調節することができる。これにより、従来キルン胴を用いた焼却では困難であった、より精密な温度制御が可能となる。
【0084】
この減容装置120では、原料灰の投入量及び燃焼状態に応じて、吸気位置調整機構139を用いて、吸気ランス135の挿入位置を調整してもよく、原料位置調整機構145を用いて原料供給管142の挿入位置を調整してもよい。詳細には、燃焼室126内の内部温度及び排気口141から排出された廃ガスの温度を指標として、原料供給管142を移動して、燃焼室内への原料灰の供給位置を調整することにより、原料灰の燃焼温度を制御してもよく、また、吸気ランス135を移動して、燃焼室内への外気の供給位置を調整することにより、原料灰の燃焼温度を制御してもよい。例えば、原料灰の投入量が多く、熾火燃焼領域における燃焼空気が不足する場合には、外気の供給位置が熾火燃焼領域内になるように吸気ランス135を設置することができる。一方、熾火燃焼領域の温度が高くなりすぎる場合には、外気の供給位置が熾火燃焼領域外となるように吸気ランス135を設置するか、原料灰の供給位置が熾火燃焼領域内となるように原料供給管142の位置を設置することができる。この減容装置120によれば、一次吸気口133及び二次吸気口138からの燃焼空気の供給量をそれぞれ増減するとともに、二次吸気口138からの供給位置を調整することにより、また、原料供給管142からの原料灰の供給位置を調整することにより、熾火燃焼維持領域における燃焼温度をより精密に制御することができる。
【0085】
(焼却灰の液相抽出)
この実施形態では、原料灰を燃焼して減容させた焼却灰を、バナジウム化合物を溶解する液体(抽出液)に浸漬させて、液相にバナジウム化合物を抽出する。第二の実施形態によれば、燃焼室126内を通って一次取出口134から取り出される焼却灰(焼成焼却灰)と、排気・燃焼チャンバー132で焼却され二次取出口146から取り出された焼却灰と、排気口141から排出された廃ガスから回収される焼却灰と、を液相抽出に用いることができる。これにより、バナジウムの回収率が向上する。以下、二次取出口146から取り出される焼却灰と、廃ガスから回収される焼却灰とを、併せて飛散焼却灰と称する場合がある。
【0086】
前述した通り、飛散焼却灰中のバナジウムのほとんどは5価の酸化バナジウムとして存在し、焼成焼却灰中のバナジウムは5価の酸化バナジウムの他に、Fe、Ni等を含むバナジウム合金としても存在する。この減容装置120によれば、飛散焼却灰及び焼成焼却灰の液相抽出により、5価のバナジウムを効率よく回収することができる。さらには、液相抽出後の焼成焼却灰から、有用なフェロバナジウム合金の粗原料を回収することができる。その結果として、総体的にバナジウムの回収率が向上する。
【0087】
(任意の工程)
本開示の効果が阻害されない限り、第二の実施形態に係る製造方法が、第一実施形態にて前述した、原料灰の含水率を50質量%以上に調整すること、及び、廃ガスから硫安分を回収して再利用すること(リサイクル)を含んでもよい。原料灰の含水率調整及びリサイクルの詳細は、第一実施形態にて前述した通りである。
【0088】
(第二実施形態に係るバナジウム化合物の製造設備)
本開示のバナジウム化合物の製造装置が、前述した第二実施形態に係るバナジウム化合物の製造方法を実施するための設備として構成されてもよい。第二実施形態に係るバナジウム化合物の製造設備は、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含んで構成される。
図3に示される基本構成を備えた原料灰減容装置120が用いられる。前述した通り、原料灰減容装置120は、その一端に原料灰を投入する投入口122を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口124を有し、その内部が燃焼室126である円筒状のキルン胴128を備えている。キルン胴128の投入口122側には、燃焼室126に連通する排気・燃焼チャンバー132及び原料供給管142が設けられている。キルン胴128の排出口124側には、燃焼室126に連通する吸気チャンバー130及び吸気ランス135が設けられている。吸気チャンバー130は、外気の一次吸気口133を有している。吸気ランス135は、外気の二次吸気口138を有している。排気・燃焼チャンバー132は、廃ガス中の飛散灰を燃焼する燃焼機構と、この廃ガスを排気する排気口141と、を有している。
【0089】
第二実施形態に係る製造設備では、前述した第一実施形態に係る製造設備と同様に、原料灰減容装置120を用いて含水状態の原料灰を燃焼させて減容することにより、バナジウム含有率の高い焼却灰が得られるとともに、液相抽出に伴う処理水の低減等により製造コストが低減される。さらに、第二実施形態において使用する減容装置120は、一次吸気口133及び二次吸気口138から、燃焼室126内に、比較的低温の外気が燃焼空気として供給され、燃焼室126の内部で原料灰の燃焼により発生した高温の廃ガスとともに、投入口122側に向かって移動するように構成されている。この構成を有する減容装置120では、使用時に、原料供給管142から投入口122側に供給された原料灰が、排出口124に向かって燃焼しつつ移動する一方で、排出口124側から投入口122側に向かって、即ち、下流から上流に向かって、燃焼空気及び廃ガスの気流が生じる。換言すれば、この減容装置120は、原料灰の移動方向が気流の方向と略対向する(向流)。この向流型の減容装置120によれば、燃焼室126内の気流温度と燃焼灰の温度とがバランスされるので、局所的な温度上昇が生じることなく、緩慢で安定した熾火燃焼が維持される(熾火燃焼維持領域)。また、排出口124付近では、一次吸気口133から供給される外気により冷却されるため、熾火燃焼が抑制又は停止される(熾火冷却領域)。この向流型減容装置120によれば、キルン胴128に投入された原料灰の燃焼温度の制御が容易である。例えば、減容装置120のキルン胴128内における原料灰の温度が690℃を超えないように、廃ガスの排気量を調整することにより、低融点である五酸化バナジウム(V2O5)の融解に起因するバナジウム回収率の低下や、装置への付着トラブルが回避される。さらには、付着物の洗浄等に要するコストが低減される。
【0090】
また、この減容装置120では、燃焼室126内の気流が多量の飛散灰を伴って排気・燃焼チャンバー132に流入する。この飛散灰は、排気・燃焼チャンバー132が有する燃焼機構により燃焼され、焼却灰として回収される。この実施形態では、減容装置120が、排気・燃焼チャンバー132が燃焼した飛散灰を取り出すための二次取出口146を備えている。この二次取出口146は、配管を介してバナジウム回収装置に接続されうる。また、この実施形態では、排気口141に設置されるサイクロン、バグフィルタ、電気集塵機等により、廃ガス中の焼却灰が回収されうる。この減容装置120を有する製造設備によれば、燃焼室126に投入された原料灰のほとんどを、減容された焼却灰として回収し、バナジウム回収装置に供することができる。その結果として、バナジウム化合物の回収率がさらに向上する。
【0091】
第二実施形態において、燃焼室126の内部温度の制御が容易であるとの観点から、この製造設備が、外気(燃焼空気)の供給量を調整する調整装置をさらに備えてもよい。例えば、外気供給量調整装置として空気送風機等が挙げられる。一次吸気口133及び/又は二次吸気口138に絞り込み等の流量調整装置を有する吸気ノズルを設置することにより、外気の供給量を調整してもよい。一次吸気口133からの外気(一次燃焼空気)の供給量を調整することにより、燃焼室126内部に好ましい気流を発生させ、下流域において熾火燃焼を効率的に抑制(冷却)することができる。また、二次吸気口138からの外気(二次燃焼空気)の供給量を調整することにより、中流域において、適正な熾火燃焼を維持しつつ、急激な温度上昇を抑制することができる。
【0092】
燃焼温度制御の観点から、吸気ランス135が、二次吸気口138から燃焼室126内への外気(二次燃焼空気)の供給位置を調整するための吸気位置調整機構139を有してもよい。燃焼室126内の燃焼状態に応じて、二次燃焼空気を適切な領域に供給することにより、局所的な温度上昇を抑制して緩慢な熾火燃焼が維持されうる。吸気位置調整機構139として、例えば、メタルシュースライド、ベアリングシュー等が挙げられる。
【0093】
原料灰の変動に応じて適切な燃焼状態を維持するとの観点から、原料供給管142が、燃焼室126内への原料灰の供給位置を調整するための原料位置調整機構145を有してもよい。原料灰の物性及び量に応じて、原料灰を適切な領域の投入することにより、含水率の高い原料灰の投入による燃焼不良や、熾火燃焼維持領域における急激な温度上昇を抑制することができる。原料位置調整機構145として、例えば、メタルシュースライド、ベアリングシュー等が用いられる。
【0094】
燃焼室126内部の気流を促して温度制御をさらに容易にする観点から、減容装置120の排気口141に排気装置を設けてもよい。排気装置の種類は特に限定されず、誘引通風機等既知の排気装置が用いられる。この排気装置が、廃熱回収装置、焼却灰集塵装置及び廃ガス処理装置(特には、排煙脱硫装置)を経由して、排気口141に接続されてもよい。この製造設備が、排気口141から排出された廃ガスの温度を指標として排気装置による排気量を調整する調整装置をさらに含んでもよい。
【0095】
第二実施形態に係る製造設備が、減容装置120の排気口141付近に、この排気口141から排出した廃ガスの温度を測定する廃ガス温度測定装置をさらに備えてもよい。廃ガスの温度を指標として、一次吸気口133及び二次吸気口138からの吸気量、排気口141からの排気量、吸気ランス135及び原料供給管142の位置をそれぞれ調整することにより、燃焼室126における燃焼状態をより精密に制御することができる。この廃ガス温度測定装置として、既知の温度センサー等が用いられうる。
【0096】
第二実施形態に係る製造設備において、吸気ランス135が燃焼室126内の温度を測定する内部温度測定装置をさらに備えてもよい。吸気ランス135の先端は、燃焼室126の内部に挿入されて開口している。この先端付近に、内部温度測定装置を備えることが好ましい。燃焼室126内の温度を指標として、一次吸気口133及び二次吸気口138からの吸気量、排気口141からの排気量、吸気ランス135及び原料供給管142の位置をそれぞれ調整することにより、燃焼室126における燃焼状態をより精密に制御することができる。この内部温度測定装置としては、耐熱性の温度センサー等が適宜用いられる。
【0097】
この減容装置120では、投入口122から、燃焼室126の内部に着火装置144が挿入されることが好ましい。この着火装置144には、助燃剤としてLPガス等を供給するための配管が接続されてよい。この実施態様では、減容装置120の運転初期において、着火装置144により、原料灰の燃焼が開始される。
【0098】
この製造設備が、減容装置120のキルン胴128の外周面に、外部温度制御装置をさらに備えてもよい。この外部温度制御装置により、燃焼室126における燃焼温度の制御がさらに容易になる。外部温度制御装置としては、冷却ファン等が例示される。冷却ファ等を備えることにより、燃焼室126における異常燃焼又は機械的損傷を検出することができる。
【0099】
この製造設備が、減容装置120のキルン胴128に投入する前の原料灰の含水率を調整する含水率調整装置を備えてもよい。原料灰の含水率を調整することにより、燃焼室126における燃焼温度の制御がより容易になる。この含水率調整装置としては、混練混合装置等が例示される。
【0100】
この製造設備が、排気口141から排出される廃ガスを処理するための排煙脱硫装置をさらに含んでもよい。排煙脱硫装置により、廃ガス中の二酸化硫黄等SOxを除去することができる。既知の排煙脱硫装置が適宜選択して用いられうる。この製造設備が、廃ガス中の固形分を回収する固形分回収装置をさらに含んでもよい。廃ガス中の固形分としては、減容焼却された飛散灰が例示される。この飛散灰の回収により、バナジウム化合物の回収率が向上する。
【0101】
好ましくは、バナジウム回収装置は、焼却灰を抽出液に浸漬させて、焼却灰からバナジウム化合物を液相に抽出する抽出機を備えている。第一実施形態にて前述した抽出機が、用いられうる。この抽出機がpH調整機を含んでもよい。バナジウム回収装置が、液相抽出後の抽出液を回収する固液分離機をさらに備えてもよい。
【0102】
(用途)
本開示に係る製造設備及び製造方法で得られるバナジウム化合物は、レドックス・フロー電池用電解液の原料として用いることができる。レドックス・フロー電池用電解液としては、正極側はバナジウム(V)やバナジウム(IV)が、負極側はバナジウム(III)やバナジウム(II)が用いられている。本開示の設備及び方法で得られるバナジウム化合物は、バナジウム(V)であるオルトバナジン酸ナトリウム(Na3VO4)として正極側の電解液の製造に使用されてもよく、バナジウム(V)を還元してバナジウム(III)やバナジウム(II)として負極側の電解液の製造に使用されてもよい。また、第二の実施形態に係る製造設備及び製造方法を用いて、飛散焼却灰及び焼成焼却灰から正極側に用いるバナジウム(V)を回収するとともに、焼成焼却灰からフェロバナジウム合金の粗原料を回収してもよい。
【0103】
このようなレドックス・フロー電池用電解液は、前述のバナジウム回収装置で得られたバナジウム化合物をレドックス・フロー電池用電解液の製造装置に供することにより製造される。本開示に係る製造設備及び製造方法によれば、従来よりも安価かつ簡便に、高純度のバナジウム化合物を製造することができる。このバナジウム化合物を原料とすることにより、電池性能に優れたレドックス・フロー電池用電解液を、安価かつ簡便に、しかも、効率よく製造することができる。
【0104】
[まとめ]
一実施態様において、本開示のバナジウム化合物の製造設備は、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含む。この原料灰減容装置は、その一端に原料灰を投入する投入口を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口を有しており、その内部が燃焼室である円筒状のキルン胴と、燃焼室に連通して投入口側に設けられた排気・燃焼チャンバー及び原料供給管と、燃焼室に連通して排出口側に設けられた吸気チャンバー及び吸気ランスと、を備えている。吸気チャンバーは、外気の一次吸気口を有している。吸気ランスは、外気の二次吸気口を有している。排気・燃焼チャンバーは、廃ガス中の飛散灰を燃焼する燃焼機構と、この廃ガスを排気する排気口と、燃焼した飛散灰を取り出す取出口と、を有している。この製造設備によれば、バナジウム化合物の製造コストが低減され、かつ、製造トラブルの発生がすくない。
【0105】
この製造設備は、一次吸気口及び二次吸気口からの燃焼空気の供給量を調整する調整装置をさらに含んでもよい。この製造設備は、燃焼室内の温度を測定する内部温度測定装置と、排気口から排出した廃ガスの温度を測定する廃ガス温度測定装置と、をさらに備えてもよい。この態様によれば、原料灰の燃焼温度を適正な範囲に制御することができる。
【0106】
この製造設備が、原料供給管が、燃焼室内への原料灰の供給位置を調整するための原料位置調整機構を有してもよく、吸気ランスが、燃焼室内への外気の供給位置を調整するための吸気位置調整機構を有してもよい。この態様によれば、原料灰の燃焼温度を、より適正に制御することができる。
【0107】
この製造設備は、廃ガスを処理するための排煙脱硫装置と、この廃ガス中の固形分を回収する固形分回収装置と、をさらに含んでもよい。この態様によれば、廃ガスによる環境への影響を低減しつつ、高収率でバナジウム化合物を回収することができる。
【0108】
バナジウム回収装置が、焼却灰からバナジウム化合物を液相に抽出する抽出機を備えてもよい。この態様によれば、減容された焼却灰からバナジウム化合物を効率的に回収することができる。
【0109】
この実施態様において、バナジウム化合物の製造方法は、
(1)前述した原料灰減容装置を用いて、バナジウムを含み、かつ、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得ること
及び、
(2)焼却灰中のバナジウム化合物を液相に抽出すること、
を含む。この製造方法では、原料灰を燃焼する際に、原料供給管から投入した原料灰を燃焼させつつ、投入口側から排出口側に向かって移動させるとともに、排出口側に設けられた一次吸気口及び二次吸気口から、燃焼室内に外気を燃焼空気として供給することにより、原料灰の燃焼により発生した廃ガス及び蒸気を上記投入口側に向かって移動させ、燃焼室内の温度及び排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、原料灰の燃焼温度を制御する。この製造方法によれば、バナジウム化合物の製造コストが低減され、かつ、製造トラブルの発生が少ない。
【0110】
この製造方法では、燃焼室内の温度及び排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、一次吸気口及び二次吸気口からの燃焼空気の供給量とを調整することにより原料灰の燃焼温度を制御してもよい。この態様によれば、原料灰の燃焼温度を適正な範囲に制御することができる。
【0111】
この製造方法では、燃焼室内の温度及び排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、原料供給管を移動して、燃焼室内への原料灰の供給位置を調整してもよく、吸気ランスを移動して、燃焼室内への外気の供給位置を調整してもよい。この態様によれば、原料灰の燃焼温度を、より適正に制御することができる。
【0112】
他の実施態様において、本開示のバナジウム化合物の製造設備は、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含む。この原料灰減容装置は、その一端に原料灰を投入する投入口を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口を有しており、その内部が燃焼室である円筒状のキルン胴と、燃焼室に連通して投入口側に設けられた入口チャンバーと、燃焼室に連通して排出口側に設けられた出口チャンバーと、を備えている。入口チャンバーは、外気の吸気口を有している。出口チャンバーは、廃ガスの強制排気装置が設けられた排気口を有している。キルン胴は、投入口と排出口との間に配置され、燃焼室に連通する複数の吸気ノズルを備えている。この製造設備によれば、バナジウム化合物の製造コストが低減され、かつ、製造トラブルの発生が少ない。
【0113】
この製造設備は、廃ガスの温度を測定する廃ガス温度測定装置と、この廃ガス温度を指標として、上記吸気口及び上記複数の吸気ノズルからの燃焼空気の供給量を調整する調整装置と、をさらに含んでもよい。この態様によれば、原料灰の燃焼温度を適正に制御することができる。
【0114】
この製造設備は、廃ガスを処理するための排煙脱硫装置をさらに含んでもよい。この態様によれば、廃ガスによる環境への影響を低減することができる。
【0115】
バナジウム回収装置が、焼却灰からバナジウム化合物を液相に抽出する抽出機を備えてもよい。この態様によれば、減容された焼却灰からバナジウム化合物を効率的に回収することができる。
【0116】
この実施態様において、バナジウム化合物の製造方法は、
(1)前述した原料灰減容装置を用いて、バナジウムを含み、かつ、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得ること
及び
(2)焼却灰中のバナジウム化合物を液相に抽出すること、
を含む。この製造方法では、原料灰を燃焼する際に、強制排気装置が排気口から廃ガスを強制排気して、吸気口及び複数の吸気ノズルから、燃焼室内に外気を燃焼空気として供給するとともに、投入口側において原料灰から発生した蒸気を、排出口に向かって移動させ、排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、原料灰の燃焼温度を制御する。この製造方法によれば、バナジウム化合物の製造コストが低減され、かつ、製造トラブルの発生が少ない。
【0117】
この製造方法では、排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、強制排気装置による廃ガスの排気量と、吸気口及び上記複数の吸気ノズルからの燃焼空気の供給量とを調整することにより、原料灰の燃焼温度を制御してもよい。この態様によれば、原料灰の燃焼温度を、より適正に制御することができる。
【実施例0118】
以下、実施例によって本開示の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるべきではない。なお、特に言及がない限り、試験は全て室温(20℃±5℃)でなされている。
【0119】
(試験1)
原料灰として、燃焼灰A(含水率:25質量%、固形分換算で、バナジウム(V)含量:1.5質量%、炭素(C)含量:82質量%、硫安含量:15質量%、その他金属含量:1.5質量%)と、燃焼灰B(含水率15%質量%、固形分換算で、バナジウム(V)含量:2.5質量%、炭素(C)含量:62質量%、硫安含量:33質量%、その他金属含量:2.5質量%)を準備した。それぞれ400gを耐熱容器に採取して、所定温度に設定したマッフル炉(1000℃における温度精度±3℃)に設置し、空気雰囲気下で減容試験をおこなった。設定温度に到達後、1時間、2時間、4時間及び7時間経過後に、それぞれ耐熱容器を取り出して、室温まで放冷した後、サンプルを秤量して燃焼による重量減少率を求めた。得られた結果が、下表1に「減容率(%)」として示されている。7時間後に採取したサンプルの外観を示す写真が、
図4-
図7に示されている。
図4は燃焼灰A(設定温度650℃)であり、
図5は燃焼灰A(設定温度600℃)であり、
図6は燃焼灰B(設定温度650℃)であり、
図7は燃焼灰B(設定温度600℃)である。
【0120】
【0121】
(試験2)
試験1において、昇温開始後の炉内温度及びサンプルの内部温度を測定した。得られた結果が、
図8及び9に示されている。
図8は、設定温度600℃で得られた結果であり、
図9は、設定温度650℃で得られた結果である。
図8及び9中、横軸が経過時間を示し、縦軸が温度(℃)を示す。破線は、炉内温度であり、実線は、サンプル温度である。
図8中、実線Aはサンプルの上部温度であり、実線Bはサンプルの中心温度であり、実線Cはサンプルの底部温度である。
図8及び9中、両矢印(1)は、サンプルが自然着火温度である350-400℃に到達するまで直線的に昇温する領域(顕熱上昇)であり、両矢印(2)は、サンプルが二酸化炭素、硫黄化合物SOx等を発生しながら燃焼する領域(分解燃焼)であり、両矢印(3)は、空気(酸素)と接触するサンプルが燃焼する領域(熾火燃焼)であり、両矢印(4)は、サンプルが降温する領域(焼却灰冷却)を示す。なお、
図9中の矢印は、燃焼状態観察のためにマッフル炉の扉を開放したために生じた温度低下を示す。
【0122】
(試験3)
試験1において、設定温度650℃で7時間燃焼して得たサンプルAの焼却灰(焼成焼却灰)を採取し、室温下、抽出溶媒に浸漬させることにより、バナジウム化合物を液相に溶出させた。アルカリ抽出溶媒として濃度40質量%水酸化ナトリウム水溶液、酸抽出溶媒として濃度25質量%硫酸溶液を、それぞれ使用した。各抽出溶媒で得られた抽出液をろ別した後、ろ液中のバナジウムを、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を使用して定量した。液相抽出されたバナジウム量、液相抽出に供した焼却灰量及び原料灰中のバナジウム量に基づいて、バナジウム回収率(%)を算出した結果、アルカリ抽出による回収率が18.1~22.1%であり、酸抽出による回収率が15.0~23.4%であった。この結果から、液相抽出後の焼成焼却灰中に、酸/アルカリに溶出しないバナジウムが残存することが確認された。
【0123】
液相抽出後の焼却灰を乾燥後、走査型電子顕微鏡(日本電子製の商品名「JSM-IT500HR」)を使用して、SEM-EDX測定をおこなった。倍率1500倍で得られた画像が、
図10及び11に示されている。
図10は、アルカリ抽出後の焼却灰のSEM画像であり、
図11は、硫酸抽出後の焼却灰のSEM画像である。これらの画像から、針状結晶の存在を確認することができる。また、EDX測定から、針状結晶及びその周辺にV、Fe、Ni、O等の元素の存在を確認した。
【0124】
同様に、液相抽出後の焼却灰を乾燥後、X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製の商品名「PHI Versa Probe III」)を使用して、XPS測定をおこなった。その結果、V、Fe、Ni以外の微量成分として、Mg、Si、Ca等が検出され、それぞれ酸化物として存在していることを確認した。
【0125】
(まとめ)
表1に示される通り、いずれの燃焼灰も、設定温度600℃及び650℃の炉内で7時間燃焼することにより、90%以上減容率が達成されることを確認した。一方、
図4及び6に示されるように、設定温度650℃の試験では、容器内面に、五酸化バナジウム(V
2O
5)と思われる褐色の薄膜が付着し、粒子径数mmの粒状塊が形成されることがわかった。これに対し、
図5及び7に示される通り、設定温度600℃の試験では、褐色薄膜の付着及び粒状塊の形成は観察されなかった。
【0126】
図8及び9の対比から、設定温度600℃の試験では、燃焼中のサンプル温度が600~650℃に調整されているが、設定温度650℃の試験では、熾火燃焼領域において、局所的に700℃を超える温度上昇が生じたことがわかる。
図9を参照すると、
図4及び6で観察された褐色薄膜及び粒状塊の形成が、650~700℃超の燃焼温度に起因するものであること示された。実際に、設定温度650℃の試験において、随時燃焼灰の外観を観察したところ、700℃未満では原料灰の態様を維持した粉末状であり、700℃超で燃焼した焼却灰は、粒子同士が融着して塊状となることを確認した。このことから、燃焼温度を700度未満に制御することで、低融点物質の融着を抑制して効率よく燃焼灰を減容できることがわかる。また、700℃未満の燃焼により得られる焼成焼却灰には、酸/アルカリに溶出しないバナジウム合金が含まれており、この合金が、Ni、Fe及びVの合金であることを確認した。
【0127】
このように、従来よりも精密に原料灰の燃焼温度を制御することができる本開示の製造設備及び製造方法によれば、低融点物質の付着による製造トラブルを生じることなく、原料灰を効率的に減容することが可能になり、その結果として、バナジウム回収に要する製造コストも低減されることがわかる。さらには、液相抽出によるバナジウム回収率が向上することに加えて、形態の異なるバナジウム(例えば、バナジウム合金)の回収が可能になる。
【0128】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0129】
[項目1]
含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含んでおり、
上記原料灰減容装置が、その一端に原料灰を投入する投入口を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口を有し、その内部が燃焼室である円筒状のキルン胴と、上記燃焼室に連通して上記投入口側に設けられた排気・燃焼チャンバーと、上記燃焼室に連通して上記排出口側に設けられた吸気チャンバーと、上記投入口から上記燃焼室内に挿入された原料供給管と、上記排出口から上記燃焼室内に挿入された吸気ランスと、を備えており、
上記吸気チャンバーが、外気の一次吸気口を有しており、
上記吸気ランスが、外気の二次吸気口を有しており、
上記排気・燃焼チャンバーが、廃ガス中の飛散灰を燃焼する燃焼機構と、この廃ガスを排気する排気口と、燃焼した飛散灰を取り出す取出口と、を有している、バナジウム化合物の製造設備。
【0130】
[項目2]
上記一次吸気口及び二次吸気口からの燃焼空気の供給量を調整する調整装置をさらに含む、項目1に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【0131】
[項目3]
上記燃焼室内の温度を測定する内部温度測定装置と、上記排気口から排出した廃ガスの温度を測定する廃ガス温度測定装置と、をさらに備えている、項目1又は2に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【0132】
[項目4]
上記原料供給管が、上記燃焼室内への原料灰の供給位置を調整するための原料位置調整機構を有しており、
上記吸気ランスが、上記燃焼室内への外気の供給位置を調整するための吸気位置調整機構を有している、項目1から3のいずれかに記載のバナジウム化合物の製造設備。
【0133】
[項目5]
上記廃ガスを処理するための排煙脱硫装置と、この廃ガス中の固形分を回収する固形分回収装置と、をさらに含む、項目1から4のいずれかに記載のバナジウム化合物の製造設備。
【0134】
[項目6]
上記バナジウム回収装置が、上記焼却灰からバナジウム化合物を液相に抽出する抽出機を備えている、項目1から5のいずれかに記載のバナジウム化合物の製造設備。
【0135】
[項目7]
上記原料灰減容装置を用いて、バナジウムを含み、かつ、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得ること、
及び、
上記焼却灰中のバナジウム化合物を液相に抽出すること、
を含み、
上記原料灰を燃焼する際に、上記原料供給管から投入した原料灰を燃焼させつつ、上記投入口側から上記排出口側に向かって移動させるとともに、上記排出口側に設けられた上記一次吸気口及び二次吸気口から、上記燃焼室内に外気を燃焼空気として供給することにより、上記原料灰の燃焼により発生した廃ガス及び蒸気を上記投入口側に向かって移動させ、上記燃焼室内の温度及び上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記原料灰の燃焼温度を制御する、項目1から6のいずれかに記載のバナジウム化合物の製造設備を用いたバナジウム化合物の製造方法。
【0136】
[項目8]
上記燃焼室内の温度及び上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記一次吸気口及び二次吸気口からの燃焼空気の供給量とを調整することにより上記原料灰の燃焼温度を制御する、項目7に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【0137】
[項目9]
上記燃焼室内の温度及び上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記原料供給管を移動して、上記燃焼室内への原料灰の供給位置を調整し、
上記燃焼室内の温度及び上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記吸気ランスを移動して、上記燃焼室内への外気の供給位置を調整する、項目7又は8に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【0138】
[項目10]
含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得る原料灰減容装置と、この焼却灰からバナジウム化合物を回収するバナジウム回収装置と、を含んでおり、
上記原料灰減容装置が、その一端に原料灰を投入する投入口を有し、その他端に焼却灰を排出する排出口を有し、その内部が燃焼室である円筒状のキルン胴と、上記燃焼室に連通して上記投入口側に設けられた入口チャンバーと、上記燃焼室に連通して上記排出口側に設けられた出口チャンバーと、を備えており、
上記入口チャンバーが、外気の吸気口を有しており、
上記出口チャンバーが、廃ガスを排気する強制排気装置が設けられた排気口を有しており、
上記キルン胴が、上記投入口と上記排出口との間に配置され、上記燃焼室に連通する複数の吸気ノズルを備えているバナジウム化合物の製造設備。
【0139】
[項目11]
上記廃ガスの温度を測定する廃ガス温度測定装置と、この廃ガス温度を指標として、上記吸気口及び上記複数の吸気ノズルからの燃焼空気の供給量を調整する調整装置と、をさらに含む、項目10に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【0140】
[項目12]
上記廃ガスを処理するための排煙脱硫装置をさらに含む、項目10又は11に記載のバナジウム化合物の製造設備。
【0141】
[項目13]
上記バナジウム回収装置が、上記焼却灰からバナジウム化合物を液相に抽出する抽出機を備えている、項目10から12のいずれかに記載のバナジウム化合物の製造設備。
【0142】
[項目14]
上記原料灰減容装置を用いて、バナジウムを含み、かつ、含水状態の原料灰を燃焼して焼却灰を得ること、
及び、
上記焼却灰中のバナジウム化合物を液相に抽出すること、
を含み、
上記原料灰を燃焼する際に、上記強制排気装置が上記排気口から廃ガスを強制排気し、上記吸気口及び複数の吸気ノズルから、上記燃焼室内に外気を燃焼空気として供給するとともに、上記投入口側において上記原料灰から発生した蒸気を、上記排出口に向かって移動させ、上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記原料灰の燃焼温度を制御する、項目10から13のいずれかに記載のバナジウム化合物の製造設備を用いたバナジウム化合物の製造方法。
【0143】
[項目15]
上記排気口から排出された廃ガスの温度を指標として、上記強制排気装置による廃ガスの排気量と、上記吸気口及び上記複数の吸気ノズルからの燃焼空気の供給量とを調整することにより上記原料灰の燃焼温度を制御する、項目14に記載のバナジウム化合物の製造方法。