(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047679
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】膨らみのよいケーキ類
(51)【国際特許分類】
A21D 10/00 20060101AFI20240401BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20240401BHJP
A21D 2/10 20060101ALI20240401BHJP
A21D 10/04 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D13/80
A21D2/10
A21D10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153307
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 秀二郎
(72)【発明者】
【氏名】西山 沙紀
(72)【発明者】
【氏名】天田 克己
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB05
4B032DG02
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK35
4B032DK48
4B032DK49
4B032DP12
4B032DP40
4B032DP60
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、ベーキングパウダーや乳化剤といった食品添加物を使用せずとも十分な膨らみが形成されたケーキ類を製造するためのミックス粉、そのケーキ類用ミックス粉を使用したケーキバッター生地、そのケーキバッター生地を焼成等してなるケーキ類、そのケーキ類を製造する方法、ケーキ類膨化用組成物、及びケーキ類の膨化方法を提供することにある。
【解決手段】 食品添加物でない、以下(A)~(C)を満たす澱粉分解物を少なくとも穀粉100質量部に対して3質量部使用することにより、上記課題は解決される:(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物を含むケーキ類用ミックス粉:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、
(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
【請求項2】
穀粉100質量部に対して前記澱粉分解物を3~30質量部の割合で含んでなる、請求項1記載のケーキ類用ミックス粉。
【請求項3】
ベーキングパウダー及び重曹を含まない、請求項1又は2記載のケーキ類用ミックス粉。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のケーキ類用ミックス粉を含んでなる、ケーキバッター生地。
【請求項5】
請求項4記載のケーキバッター生地を焼成又は蒸してなるケーキ類。
【請求項6】
以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物を、穀粉100質量部に対して3~30質量部の割合で配合する工程と、少なくとも焼成若しくは蒸す工程を含む、ケーキ類の製造方法:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、
(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
【請求項7】
以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物を含んでなるケーキ類の膨化用組成物:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、
(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
【請求項8】
以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物をケーキ類の製造工程において含ませる、ケーキ類の膨化方法:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、
(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ類用組成物、その組成物を利用して焼成されたケーキ類、及びそのケーキ類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキ類は、主原料である小麦粉に対し、卵、砂糖、牛乳、バター、ベーキングパウダー、重曹などの副原料を混合してバッター生地とし、これを焼成してなるものをいう。ケーキ類の具体例として、スポンジケーキ、シフォンケーキ、パウンドケーキ、カップケーキ、マフィン、ホットケーキ、どら焼き、たい焼き、ワッフルなどが挙げられ、そのふんわりした食感は、卵が泡立てられて生じる気泡や、ベーキングパウダー又は重曹が溶解又は加熱されて発生する二酸化炭素により、焼成時に生地が膨らむことにより形成される。
【0003】
このケーキ類の焼成時の膨らみを維持するためには、上述のとおり、卵やベーキングパウダーを用いてケーキバッター生地中に気泡を発生させることのほか、その発生した気泡の消泡を焼成完了まで抑えることが考えられ、もっともよく知られる手法として、乳化剤の添加が挙げられる。
【0004】
しかし、ベーキングパウダーや乳化剤といった食品添加物を生地に添加すると、独特の好ましくない風味がケーキ類に付与されてしまうことや、最近の無添加嗜好の顧客ニーズに合わないという理由から、極力使用を避けたいものとなっている。
【0005】
そこで、ベーキングパウダーや乳化剤を使用せずにケーキ類を製造する方法として、イソマルツロース又はトレハロースを利用する方法(特許文献1)や、卵白と砂糖の泡立て温度を30℃~42℃としてメレンゲを調製し、そこへ小麦粉と洋酒、次いでバターを加えて焼成する方法(特許文献2)が提案されている。しかし、特許文献1の方法では、ベーキングパウダーの添加は少量であっても依然必要であるとされているし、特許文献2の方法では、原料の添加順が限定的であることに加えて洋酒を必須原料としていることから、得られる商品及び消費者が限定的であり、汎用性が非常に低い方法といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-221031号公報
【特許文献2】特開2017-077199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ベーキングパウダーや乳化剤を使用せずとも十分な膨らみが形成されたケーキ類、そのケーキ類の製造方法、及びそのケーキ類用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはかかる課題を解決すべく種々検討したところ、食品添加物の範疇にない、特定の糖組成分布を有する澱粉分解物を少量使用することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、主に6つの発明からなり、ケーキ類用ミックス粉([1]~[3])、そのケーキ類用ミックス粉を使用したケーキバッター生地([4])、そのケーキバッター生地を焼成等してなるケーキ類([5])、そのケーキ類を製造する方法([6])、ケーキ類膨化用組成物([7])、及びケーキ類の膨化方法([8])であって、以下のとおりである:
[1]以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物を含むケーキ類用ミックス粉:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、
(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
[2]穀粉100質量部に対して前記澱粉分解物を3~30質量部の割合で含んでなる、前記[1]記載のケーキ類用ミックス粉。
[3]ベーキングパウダー及び重曹を含まない、前記[1]又は[2]記載のケーキ類用ミックス粉。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載のケーキ類用ミックス粉を含んでなるケーキバッター生地。
[5]前記[4]記載のケーキバッター生地を焼成又は蒸してなるケーキ類。
[6]以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物を、穀粉100質量部に対して3~30質量部の割合で配合する工程と、少なくとも焼成若しくは蒸す工程を含む、ケーキ類の製造方法:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、
(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
[7]以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物を含んでなるケーキ類の膨化用組成物:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、
(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
[8]以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物をケーキ類の製造工程において含ませる、ケーキ類の膨化方法:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、
(C)103<N(分子量)≦104が30~72
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベーキングパウダーを使用せずとも十分な膨らみのあるケーキ類を提供することができるため、アルミニウムフリーのケーキ類を簡便に提供できることとなる。また、上述の特定の糖組成分布を有する澱粉分解物は添加物の範疇にないため、本発明によれば、食品添加物無添加のケーキ類を提供できることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における用語としての「澱粉」は、化学的な修飾が施された加工澱粉を除く趣旨で用いられ、物理的処理が施された澱粉、例えば、湿熱処理、酸処理、漂白などの処理が施された澱粉は、本発明で用いる用語の「澱粉」に包含される。以降、「澱粉」を、加工澱粉を含む用語として用いるときは、その旨記載する。
【0012】
一般に、「澱粉分解物」とは、澱粉を原料として酵素や酸によって加水分解されたものをいう。通常、澱粉を効率的に加水分解するには、まず、液化酵素であるα-アミラーゼや酸を用いて澱粉分子長鎖をランダムに加水分解し、補助的にβ-アミラーゼやグルコアミラーゼなどの糖化酵素を用いてマルトース単位やグルコース単位で加水分解するという方法が一般的である。一方、「本発明で用いる澱粉分解物」は、まずは原料澱粉を酸で処理してから中和・水洗し、少なくとも枝切り酵素を作用させてDE0.2~5となったときに当該酵素反応を終了させる方法を採ることで得られる。詳細には、15~45%(w/w)の澱粉懸濁液を塩酸や硫酸などの酸溶液でpH0.5~2となるよう調整し、30~60℃の温度で5~24時間程度反応させ、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液で中和してから水洗する(この時点で得られる酸処理澱粉の無水4%懸濁液のアミログラフ最高粘度は100BU以下である)。次に、この酸処理澱粉の10~40%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全に糊化した後、40~60℃まで冷却し、塩酸や硫酸などの酸溶液でpHを4~6に調整する。この糊液に市販の枝切り酵素(例えば、プルラナーゼであるノボザイムズ ジャパン社製「プロモザイムD6」)を0.1~5.0%(v/w澱粉)となるよう添加し、 DE0.2~3となったときに、85℃以上・10分程度の熱酵素失活操作で反応を終了する。このようにして得られた澱粉分解物溶液はそのまま液状で用いることもできるが、通常、スプレードライなどにより乾燥・粉末化して使用する。
【0013】
ここでいう枝切り酵素とは、澱粉分子鎖のアミロペクチンを構成するD-グルコースのα-1,6グルコシド結合を特異的に加水分解する酵素であり、具体的には、イソアミラーゼ及びプルラナーゼを指す。プルラナーゼは、イソアミラーゼと異なり、澱粉分子鎖を構成するアミロペクチンの密な部分には比較的作用しにくいため、枝切り酵素による加水分解処理を短時間で完了させたい場合は、最終的に得られる本発明にいう澱粉分解物の性質に影響を与えない程度で、事前にα-アミラーゼによる軽い処理をしておくとよい。
【0014】
また、DEは、Dextrose Equivalentの略であり、「[(直接還元糖(ブドウ糖として表示)の質量)/(固形分の質量)]×100」の式により求められる値である。その分析方法には、ウィルシュテッターシューデル法とレインエイノン法があり、ウィルシュテッターシューデル法での分析値は、レインエイノン法での分析値より1割~2割程度低い数値となる傾向があるが、本発明にいうDE値は、ウィルシュテッターシューデル法による分析値である。本発明で用いる上記澱粉分解物のDEは、少なくとも0.5~5の範囲にあればよいが、本発明の効果を効率的に得る観点からは、1~4の範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明で用いる上記「澱粉分解物」は、前述のとおり澱粉を原料として製造されるところ、その澱粉原料種は限定されるものでなく、米、コーン、タピオカ、馬鈴薯、甘藷、サゴ、エンドウ豆、小麦及びこれらの各ワキシー種など、いずれの原料種であっても構わない。もっとも、本発明の効果を効率的に発現させる観点からは、タピオカ、馬鈴薯、ワキシータピオカ、ワキシーポテトが好ましく、馬鈴薯澱粉又はタピオカ澱粉がより好ましく、馬鈴薯澱粉がさらに好ましい。また、これら原料澱粉から選ばれる二以上を組合せて澱粉分解物を製造することもできる。
【0016】
このようにして得られる本発明で用いる「澱粉分解物」は、以下の性質を有する:(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下であり、(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上であり、(C)103<N(分子量)≦104が30~75%である澱粉分解物を含むことを必須とする。また、当該澱粉分解物は、(A)糖組成中のDP1~7の合計が3%以下若しくは2.5%以下、(B)糖組成中のDP8~19の合計が10~30%若しくは12~25%、(C)103<N(分子量)≦104が30~71%若しくは30~50%であることが好ましく、さらには、付加的に(D)104<N(分子量)≦105が50~20%若しくは50~35%であることがより好ましい。
【0017】
ここで、「DP」は、グルコースの重合度を指し、例えば、以下に示す条件の高速液体クロマトグラフィ(HPLC)により確認することができる。
・カラム MCI GEL CK02AS(三菱化学社製)
・カラム温度 80℃
・溶媒(移動相) 水
・流速 1.0mL/min
・検出器 示差屈折計
【0018】
また、「分子量(N)」は、以下に示す条件のHPLCを用いたゲルろ過クロマトグラフィにより確認することができる。
・カラム TSKgel G6000PWXL、TSKgel G3000PWXL、TSKgel G2500PWXL(東ソー社製)を連結して使用
・カラム温度 80℃
・溶媒(移動相) 0.1M NaNO3
・流速 0.5mL/min
・検出器 示差屈折計
【0019】
なお、本発明で用いる上記「澱粉分解物」の30%水懸濁液は、以下の物性を有する:(1)水(5~20℃)に懸濁したときには完全溶解せず、(2)70℃以上に保温すると溶解し、(3)65℃まで冷却すると白濁固化する。
【0020】
本発明にいう「ケーキ類」とは、主原料となる小麦粉をはじめとする「穀粉」に対し、卵、砂糖、牛乳、バターなどの副原料を混合してバッター生地とし、これを焼成又は蒸してなるものをいう。ケーキ類の具体例としては、スポンジケーキ、シフォンケーキ、パウンドケーキ、カップケーキ、マフィン、ホットケーキ、どら焼き、蒸しどら、たい焼き、人形焼、鈴カステラ、ワッフルなどが挙げられるが、本発明の効果がもっとも効率よく発揮される形態は、比較的小さめ又は薄めの生地を焼成又は蒸してなるものであり、例えば、ホットケーキ、どら焼き、人形焼、鈴カステラ、ワッフルなどである。
【0021】
本発明の「ケーキ類用ミックス粉」は、ケーキ類の製造に用いられるものであるから、少なくともミックス粉の調製時あるいはバッター生地の調製時にケーキ類の主原料である穀粉とともに用いられる。ここで、「穀粉」とは、ケーキ類を製造するためによく用いられる小麦粉のほか、米粉、コーンフラワー、大豆粉、ライ麦粉、大麦粉、あわ粉、ひえ粉、澱粉などである。本発明のケーキ類用ミックス粉は、これら「穀粉」のほか、副原料として砂糖、糖類、塩類、調味料、卵、乳製品、大豆製品、増粘多糖類、乳化剤、食物繊維、デキストリン、油脂など、ケーキ類製造一般に用いられる原料を含むことができる。ここでいう「澱粉」には加工澱粉が含まれ、具体的には、架橋澱粉(例えば、リン酸架橋デンプン)、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシプロピルデンプン)、エステル化澱粉(例えば、酢酸デンプン)、これら加工を組合せた加工澱粉(例えば、アセチル化アジピン酸架橋デンプンやヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン)、オクテニルコハク酸ナトリウムデンプン、酸化デンプンのほか、酸処理澱粉などが挙げられる。
【0022】
本発明のケーキ類用ミックス粉は、上に述べた特定の澱粉分解物を必須成分とする。本発明のケーキ類用ミックス粉を用いれば、ベーキングパウダーや重曹を用いることなく、膨化性のあるケーキ類を提供することができる。その膨化効果を得るために、必要となる上記特定の澱粉分解物の量は、「穀粉」100質量部に対して少なくとも3質量部(対紛3%)であり、多くとも30質量部(対紛30%)である。3%を下回ると目的とする膨化効果は得がたく、30%を超えると食感に少なからず影響が及ぶ。すなわち、上述の澱粉分解物の添加量は、対紛3~30%が好ましく、3~20%又は5~15%がより好ましい。また、このケーキ類ミックス粉を用いてケーキバッター生地を調製する際は、ケーキバッター生地中に少なくとも0.75~18質量%含まれるよう調製することが好ましく、ケーキバッター生地は、本発明のケーキ類用ミックス粉100質量部に対し液体原料65~300質量部の割合で調製される。
【0023】
本発明のケーキミックス粉又はケーキバッター生地を用いて焼成されたケーキ類は、上述のベーキングパウダーや重曹を使用せずとも膨化する。その膨化効果は、焼成後の中心高(mm)をレーザー体積計(例えば、アステックス株式会社製「Selnac Win VM2000シリーズ」)などで測定して確認するこができ、中心高が、上記の特定の澱粉分解物を添加しないケーキ類(コントロール)の中心高の1.1倍以上となったときに「効果あり」と認められ、1.2倍以上、1.3倍以上又は1.4倍以上となれば、より効果があるものと認められる。
【0024】
本発明によれば、ベーキングパウダーや重曹を使用せずとも、ケーキ類をふっくらとしたものとすることができるため、それ単独で、ケーキ類用の膨化用組成物の有効成分として用いることもできるし、併用してより高い効果を有するケーキ類用の膨化用組成物とすることもできる。なお、重曹とは、炭酸水素ナトリウムのことであり、ベーキングパウダーとは、この重曹及び/又は炭酸水素アンモニウムを主剤(アルカリ性剤)とするものであり、主剤を中和して二酸化炭素又はアンモニアガスの発生を促進するために、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素カルシウム (第一リン酸カルシウム)、酒石酸、焼ミョウバン、リン酸ナトリウムなどの酸性剤を含むこともある。
【0025】
以下、実験例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これら実験例に限定されるものではない。
【実施例0026】
<各種澱粉分解物の調製>
(試作品A)
馬鈴薯澱粉の43%(w/w)懸濁液を97%硫酸でpH0.6に調整し、50℃・17時間反応後に10%水酸化ナトリウムで中和し、水洗後、乾燥して試作品Aを得た。
【0027】
(試作品B)
馬鈴薯澱粉の43%(w/w)懸濁液を97%硫酸でpH0.5に調整し、50℃・24時間反応後に10%水酸化ナトリウムで中和し、水洗後、乾燥して試作品Bを得た。
【0028】
(試作品C)
試作品Aの15%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全糊化し、10%硫酸でpH4.4に調整後、プルラナーゼ(「プロモザイムD6」、ノボザイムズ ジャパン社製)を0.2%(v/w澱粉)となるよう添加して60℃で45分反応させた。85℃以上で10分間加熱して酵素失活させ、スプレードライヤーで粉末化して試作品Cを得た。
【0029】
(試作品D)
試作品Bの15%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全糊化し、10%硫酸でpH4.4に調整後、プルラナーゼ(「プロモザイムD6」、ノボザイムズ ジャパン社製)を0.2%(v/w澱粉)となるよう添加して60℃で45分反応させた。85℃以上で10分間加熱して酵素失活させ、スプレードライヤーで粉末化したものを試作品Dとした。
【0030】
(試作品E)
試作品Bの15%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全糊化し、10%硫酸でpH4.4に調整後、プルラナーゼ(「プロモザイムD6」、ノボザイムズ ジャパン社製)を0.2%(v/w澱粉)となるよう添加して60℃で150分反応させた。85℃以上で10分間加熱して酵素失活させ、スプレードライヤーで粉末化したものを試作品Eとした。
【0031】
(試作品F)
試作品Bの15%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全糊化し、10%硫酸でpH4.4に調整後、プルラナーゼ(「プロモザイムD6」、ノボザイムズ ジャパン社製)を0.4%(v/w澱粉)となるよう添加して60℃で135分反応させた。85℃以上で10分間加熱して酵素失活させ、スプレードライヤーで粉末化したものを試作品Fとした。
【0032】
以上の試作品A~Fと市販澱粉分解物(5品)の分析値を表1に示す。表中のDP1~7及びDP8~19は、糖全体における各糖の占める割合(%)を示し、103<M≦104及び104<M≦105は、分子量分布を測定した際の総面積に対するピーク面積の割合を示す。
【0033】
【0034】
<各澱粉分解物の効果(どら焼き)>
[表2]記載の配合及び[表3]の手順でどら焼きの生地を調製し、各生地粘度(Pa・s)をBH型粘度計で測定した(東機産業株式会社製「VISCOMETER TVB-10H」、ROTOR H6、回転数20rpm、30秒間)。次いで[表3]の手順で焼成し、得られた各どら焼きの中心高(mm)をレーザー体積計(アステックス株式会社製「Selnac Win VM2000シリーズ」)で測定した。結果は表4に示す。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
試験No.2、12~14のどら焼きは、中心高が無添加のもの(試験区No.1)の約1.2倍となり、ふっくらとしていて食感も好ましかった。一方、試験No.3~9のどら焼きは、中心高が無添加のもの(試験区No.1)とほぼ変わりがなく、食感にややネチャつきがあった。試験No.10、11、のどら焼きは膨らみが十分でなく、食感に糊感とベタつきがあった。また、試験No.15については、膨らみは約1.1倍と十分であったが、食感に強いベタつきがあった。
【0039】
<添加量の確認(どら焼き)>
先の実験と同様の手順で[表5]記載の配合で各どら焼きの生地を調製し、生地粘度と焼成後の中心高を測定した。結果は表6に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
試料No.1を対紛3%~30%で使用したどら焼き(試験No.17~21)は、中心高が試験No.1のどら焼き(無添加区)に比べて大きく膨らみ、なかには約1.5倍にまで大きく膨らんだものもあった(試験区No.19)。しかし、30%使用のどら焼き(試験No.21)は、生地の作業性がやや悪く、食感にベタつきを生じた。一方、試料No.1を対紛2%で使用したどら焼きは、中心高が十分でなく、膨らみに欠けていた(試験No.16)。また、この膨らみの効果が生地粘度に起因するものであるかの確認をするため、試料No.3を用いて、中心高が最も高かった試験No.19に近い粘度の生地を調製し、焼成後の中心高を確認した(試験No.22)。しかし、生地粘度と中心高の相関性はみられなかった。