(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047694
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ワーク加工用シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240401BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20240401BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240401BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20240401BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/04
H01L21/78 M
C09J7/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153330
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】若山 洋司
(72)【発明者】
【氏名】山口 征太郎
(72)【発明者】
【氏名】土山 さやか
(72)【発明者】
【氏名】福元 彰朗
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004AB06
4J004CC02
4J004DA04
4J004FA05
4J040DF021
4J040JB07
4J040JB09
4J040NA20
5F063AA16
5F063EE18
5F063EE31
5F063EE75
5F063EE81
(57)【要約】
【課題】シリコーン成分の移行を十分に抑制しながらも、粘着面における被着体の保持と、被着体の容易な分離とを良好に両立可能なワーク加工用シートを提供する。
【解決手段】基材11と、基材11における片面側に積層された粘着剤層12と、粘着剤層12における基材11とは反対側の面か、または、基材11における粘着剤層12とは反対側の面に積層された剥離剤層13とを備えるワーク加工用シート1A,1Bであって、粘着剤層12が、アクリル系粘着剤から構成されており、剥離剤層13が、シリコーン系剥離剤組成物から形成されており、粘着剤層12における基材11とは反対側の面におけるX線光電子分光分析で測定した炭素原子比率およびケイ素原子比率について、前記炭素原子比率に対する前記ケイ素原子比率の比が、0.5以上、5.0以下であるワーク加工用シート1A,1B。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材における片面側に積層された粘着剤層と、
前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面か、または、前記基材における前記粘着剤層とは反対側の面に積層された剥離剤層と
を備えるワーク加工用シートであって、
前記粘着剤層が、アクリル系粘着剤から構成されており、
前記剥離剤層が、シリコーン系剥離剤組成物から形成されており、
前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面におけるX線光電子分光分析で測定した炭素原子比率およびケイ素原子比率について、前記炭素原子比率に対する前記ケイ素原子比率の比が、0.5以上、5.0以下である
ことを特徴とするワーク加工用シート。
【請求項2】
前記剥離剤層は、前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面に積層されているとともに、
前記ワーク加工用シートは、前記剥離剤層における前記粘着剤層とは反対側の面に積層された剥離シート用基材を備え、
前記剥離剤層と前記剥離シート用基材とは、剥離シートを構成している
ことを特徴とする請求項1に記載のワーク加工用シート。
【請求項3】
前記剥離剤層は、前記基材における前記粘着剤層とは反対側の面に積層されており、
前記ワーク加工用シートは、前記ワーク加工用シートを巻回してなる巻回体を構成可能であり、
前記巻回体において、前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面と、前記剥離剤層における前記基材とは反対側の面とが少なくとも一部において接触するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のワーク加工用シート。
【請求項4】
前記シリコーン系剥離剤組成物は、付加反応型シリコーン樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載のワーク加工用シート。
【請求項5】
前記剥離剤層における単位面積当たりの前記シリコーン系剥離剤組成物の含有量は、0.01g/m2以上、10g/m2未満であることを特徴とする請求項1に記載のワーク加工用シート。
【請求項6】
前記粘着剤層中におけるシリコーン成分の含有量は、100ppm以下であるか、または、前記粘着剤層は、前記シリコーン成分を含有しないことを特徴とする請求項1に記載のワーク加工用シート。
【請求項7】
前記ワーク加工用シートは、ダイシングシートおよびピックアップシートの少なくとも一方として使用されるものであることを特徴とする請求項1に記載のワーク加工用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等のワークの加工に使用されるワーク加工用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハや各種パッケージ類は、大径の状態で製造され、チップに切断(ダイシング)され、剥離(ピックアップ)された後に、次の工程であるマウント工程に移される。この際、半導体ウエハ等のワークは、基材および粘着剤層を備える粘着シート(以下、「ワーク加工用シート」という場合がある。)上に積層された状態で、バックグラインド、ダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディング、ピックアップ、マウンティング等の加工が行われる。
【0003】
ワーク加工用シートには、粘着剤層における基材とは反対側の面(以下「粘着面」という場合がある。)上に、ワークおよび加工後のワークを良好に保持できることが求められる。例えば、上述したダイシングを行う工程においては、ダイシングの衝撃によって得られるチップがワーク加工用シートから脱離して飛散すること(以下「チップ飛び」という場合がある。)がないよう、ワーク加工用シートがチップを十分に保持できることが求められる。
【0004】
一方で、ワーク加工用シートには、加工後のワークを過度な力を要せず容易に分離できることも求められる。例えば、上述したピックアップを行う工程では、一般的に、チップの裏面側からワーク加工用シート越しにチップを突き上げると同時に、真空コレットで吸引しながらチップを取り上げることが行われる。この際、効率性の観点やチップの破損を抑制する観点から、過度な突き上げや過度な吸引を要せず、チップの取り上げが可能であること、すなわちピックアップ性に優れることが求められる。
【0005】
加工後のワークの容易な分離性を高める観点から、粘着剤層を構成する粘着剤にシリコーン成分を添加することも検討されている(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-72546号公報
【特許文献2】国際公開第2018/159418号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、シリコーン成分を添加した粘着剤を使用した従来のワーク加工用シートでは、時間の経過に伴う粘着力の変化が生じ易く、それに伴い、チップ飛びが生じ易くなったり、逆にチップが粘着面に固着することもある。
【0008】
さらに、シリコーン成分を添加した粘着剤を使用した従来のワーク加工用シートでは、シリコーン成分が加工後のワークに移行し易いという問題も存在する。例えば、ワーク加工用シート上にて作製したチップに対してシリコーン成分が移行するといった問題が生じる。この場合、当該チップを基板上にて封止して得られるパッケージにおいては、上記シリコーン成分の影響により、チップと基板や封止材との密着性が不十分となる可能性が高まる。このようなパッケージは、十分な性能を発揮できなかったり、時間の経過に伴い破損が生じたりして、信頼性に劣るものとなる。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、シリコーン成分の移行を十分に抑制しながらも、粘着面における被着体の保持と、被着体の容易な分離とを良好に両立可能なワーク加工用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材における片面側に積層された粘着剤層と、前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面か、または、前記基材における前記粘着剤層とは反対側の面に積層された剥離剤層とを備えるワーク加工用シートであって、前記粘着剤層が、アクリル系粘着剤から構成されており、前記剥離剤層が、シリコーン系剥離剤組成物から形成されており、前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面におけるX線光電子分光分析で測定した炭素原子比率およびケイ素原子比率について、前記炭素原子比率に対する前記ケイ素原子比率の比が、0.5以上、5.0以下であることを特徴とするワーク加工用シートを提供する(発明1)。
【0011】
上記発明(発明1)に係るワーク加工用シートは、剥離剤層がシリコーン系剥離剤組成物から形成されていることで、当該剥離剤層と粘着剤層が接触している間に粘着剤層へのシリコーン成分の適度な移行が生じる。そして、それによって粘着面における炭素原子比率に対するケイ素原子比率の比が上記範囲となっている。これらにより、ワーク加工用シートからワークや加工後のワークへのシリコーン成分への移行を十分に抑制しながらも、粘着面にワークおよび加工後のワークを良好に保持できるとともに、加工後のワークの容易な分離も可能となる。
【0012】
上記発明(発明1)において、前記剥離剤層は、前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面に積層されているとともに、前記ワーク加工用シートは、前記剥離剤層における前記粘着剤層とは反対側の面に積層された剥離シート用基材を備え、前記剥離剤層と前記剥離シート用基材とは、剥離シートを構成していることが好ましい(発明2)。
【0013】
上記発明(発明1)において、前記剥離剤層は、前記基材における前記粘着剤層とは反対側の面に積層されており、前記ワーク加工用シートは、前記ワーク加工用シートを巻回してなる巻回体を構成可能であり、前記巻回体において、前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面と、前記剥離剤層における前記基材とは反対側の面とが少なくとも一部において接触するものであることが好ましい(発明3)。
【0014】
上記発明(発明1~3)において、前記シリコーン系剥離剤組成物は、付加反応型シリコーン樹脂を含有することが好ましい(発明4)。
【0015】
上記発明(発明1~4)において、前記剥離剤層における単位面積当たりの前記シリコーン系剥離剤組成物の含有量は、0.01g/m2以上、10g/m2未満であることが好ましい(発明5)。
【0016】
上記発明(発明1~5)において、前記粘着剤層中におけるシリコーン成分の含有量は、100ppm以下であるか、または、前記粘着剤層は、前記シリコーン成分を含有しないことが好ましい(発明6)。
【0017】
上記発明(発明1~6)において、前記ワーク加工用シートは、ダイシングシートおよびピックアップシートの少なくとも一方として使用されるものであることが好ましい(発明7)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るワーク加工用シートは、シリコーン成分の移行を十分に抑制しながらも、粘着面における被着体の保持と、被着体の容易な分離とを良好に両立可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るワーク加工用シートの断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態に係るワーク加工用シートの断面図である。
【
図3】本発明の別の実施形態に係るワーク加工用シートを巻回してなる巻回体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1および
図2には、それぞれ本実施形態に係るワーク加工用シートの例が示されている。
図1および
図2に示されるように、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bは、基材11と、基材11における片面側に積層された粘着剤層12と、粘着剤層12における基材11とは反対側の面か、または、基材11における前粘着剤層12とは反対側の面に積層された剥離剤層13とを備える。
【0021】
特に、
図1に示されるワーク加工用シート1Aでは、剥離剤層13が、粘着剤層12における基材11とは反対側の面に積層されている。そして、ワーク加工用シート1Aは、剥離剤層13における粘着剤層12とは反対側の面に積層された剥離シート用基材14をさらに備えており、剥離剤層13は、この剥離シート用基材14とともに剥離シートを構成するものとなっている。すなわち、ワーク加工用シート1Aは、基材11と粘着剤層12とを備える粘着シートの粘着面に対し、剥離シートが積層されたものとなっている。なお、本書面では、剥離剤層13における粘着剤層12と接触する面のことを、剥離面という。
【0022】
一方、
図2に示されるワーク加工用シート1Bでは、剥離剤層13は、基材11における粘着剤層12とは反対側の面に積層されている。このワーク加工用シート1Bは、
図3に示されるように、ワーク加工用シート1Bを巻回してなる巻回体2として保管・使用されることが好ましい。この場合、当該巻回体2においては、粘着剤層12における基材11とは反対側の面(粘着面;
図3中、符号100で示される面)と、剥離剤層13における基材11とは反対側の面(剥離面;
図3中、符号200で示される面)とが少なくとも一部において接触するものとなる。上記巻回体2は、ワーク加工用シート1Bを必要な分だけ繰り出して使用されることが可能となる。
【0023】
なお、巻回体2において巻回の内側となる面は、粘着面100および剥離面200のいずれでもよい。しかしながら、剥離面200を内側の面として巻回すると、得られた巻回体2の表面に粘着面100の一部が露出して、埃等の付着や装置等との意図しない密着が生じてしまうため、これらを回避するために、粘着面100を内側の面として巻回することが好ましい。また、巻回の際には、芯材に巻回してもよい。
【0024】
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bでは、粘着剤層12が、アクリル系粘着剤から構成されており、また、剥離剤層13が、シリコーン系剥離剤組成物から形成されたものとなっている。
【0025】
さらに、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bでは、粘着剤層12における基材11とは反対側の面におけるX線光電子分光分析で測定した炭素原子比率およびケイ素原子比率について、当該炭素原子比率に対する当該ケイ素原子比率の比が、0.5以上、5.0以下である。
【0026】
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bでは、上述の通り、粘着剤層12がアクリル系粘着剤から構成されている一方で、剥離剤層13がシリコーン系剥離剤組成物から形成されたものとなっていることにより、粘着剤層12と剥離剤層13とが所定の期間接触した状態に置かれることで、剥離剤層13から粘着剤層12に対して、シリコーン成分の適度な移行が生じる。そして、粘着剤層12の表面(粘着面)における炭素原子比率に対するケイ素原子比率の比が上述した範囲となることにより、ワークや加工後のワークに対して十分な粘着力を発揮しながらも、加工後のワークを分離する際には、過度な力を要せず容易に分離が可能となる。このため、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bを用いてウエハ等をダイシングする場合には、ダイシング時のチップ飛びを良好に抑制できるとともに、形成されたチップを良好にピックアップすることが可能となる。
【0027】
さらに、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bでは、剥離剤層13から粘着剤層12へのシリコーン成分の過度な移行が生じていないため、粘着剤層12からワークへのシリコーン成分の移行も抑制されたものとなる。その結果、例えば、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bにて得られたチップを用いて作製されたパッケージは、内部でのチップの剥がれ等の問題が生じ難くなり、信頼性に優れたものとなる。
【0028】
上述の通り、粘着剤層12の表面(粘着面)における炭素原子比率に対するケイ素原子比率の比は、0.5以上、5.0以下であるが、上記の効果をより良好に得る観点からは、当該比は、0.8以上であることが好ましく、特に1.2以上であることが好ましい。また、上記比は、4.5以下であることが好ましく、特に4.0以下であることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bでは、粘着剤層12内の位置のうち、粘着剤層12における基材11とは反対側の面(粘着面)から深さ100nmの位置におけるX線光電子分光分析で測定した炭素原子比率およびケイ素原子比率について、当該炭素原子比率に対する当該ケイ素原子比率の比が、0.5未満であることが好ましく、特に0.3以下であることが好ましく、さらには0.1以下であることが好ましい。粘着剤層12内部の比が上記範囲である場合、粘着剤層12はシリコーン成分を過度に殆ど含有しないものとなる。それにより、粘着剤層12の表面における上記比の条件を達成し易くなり、ワークに対する十分な粘着力と、ワークへのシリコーン成分の移行の抑制とを達成し易いものとなる。なお、粘着面から深さ100nmの位置における炭素原子比率に対するケイ素原子比率の比の下限値については特に限定されず、例えば0.01以上であってよく、特に0.05以上であってよい。
【0030】
なお、以上の炭素原子比率およびケイ素原子比率の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0031】
1.ワーク加工用シートの構成
(1)基材
本実施形態における基材11としては、ワーク加工用シート1A,1Bの使用の際に所望の機能を発揮するものである限り、特に限定されない。特に、基材11は、樹脂系の材料を主材とする樹脂フィルムであることが好ましい。その具体例としては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系フィルム;エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム;エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体フィルム、その他のエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルムなどが挙げられる。また、これらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムといった変性フィルムも用いられる。また、基材11は、上述したフィルムが複数積層されてなる積層フィルムであってもよい。この積層フィルムにおいて、各層を構成する材料は同種であってもよく、異種であってもよい。
【0032】
上記の中でも、ポリオレフィン系フィルムおよびエチレン系共重合体フィルムの少なくとも一種を使用することが好ましく、特にエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルムを使用することが好ましい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語についても同様である。また、本明細書における「重合体」は「共重合体」の概念も含むものとする。
【0033】
また、本実施形態における粘着剤層12を構成する粘着剤が活性エネルギー線(特に紫外線)硬化性を有する場合には、基材11は、活性エネルギー線(特に紫外線)に対する透過性を有するものであることが好ましい。さらに、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bが加熱処理を含む方法に使用される場合には、基材11を構成する樹脂としては、融点が比較的高く、耐熱性に優れるものを使用することが好ましい。
【0034】
基材11は、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤、着色剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、イオン捕捉剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤の含有量としては、特に限定されないものの、基材11が所望の機能を発揮する範囲とすることが好ましい。
【0035】
基材11の粘着剤層12が積層される面には、粘着剤層12との密着性を高めるために、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理が施されてもよい。
【0036】
基材11の厚さは、ワーク加工用シート1A,1Bが使用される方法に応じて適宜設定できるものの、例えば、200μm以下であることが好ましく、特に150μm以下であることが好ましい。また、基材11の厚さは、10μm以上であることが好ましく、特に25μm以上であることが好ましい。
【0037】
(2)粘着剤層
本実施形態における粘着剤層12は、前述の通り、アクリル系粘着剤から構成されている。当該アクリル系粘着剤としては、特に限定されず、ワーク加工用シートに関する技術分野において通常使用されるものとすることができる。
【0038】
上記アクリル系粘着剤は、活性エネルギー線硬化性を有するものであってもよく、活性エネルギー線硬化性を有しないものであってもよい。活性エネルギー線硬化性を有するアクリル系粘着剤は、活性エネルギー線の照射によって被着体に対する粘着力を低下させることが可能となり、加工後のワークの容易な分離の観点から好ましい。一方、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bは、前述の通り、剥離剤層13に含有されるシリコーン成分の作用により、アクリル系粘着剤が活性エネルギー線硬化性を有しないものであったとしても、加工後のワークを十分に容易に分離することができる。
【0039】
なお、粘着剤層12は、シリコーン成分を実質的に含有しないことが好ましい。具体的には、粘着剤層12中におけるシリコーン成分の含有量が、100ppm以下(特に50ppm以下)であるか、または、粘着剤層12がシリコーン成分を含有しないことが好ましい。粘着剤層12がシリコーン成分を実質的に含有しないことにより、粘着面における炭素原子比率に対するケイ素原子比率の比を前述した範囲に調整し易くなる。なお、本明細書において、粘着剤層12が、シリコーン成分を実質的に含有するか否かを議論する場合、剥離剤層13との接触が生じていない粘着剤層12単独の状態(すなわち、剥離剤層13からのシリコーン成分の移行が生じていない粘着剤層12の状態)について述べるものとする。
【0040】
粘着剤層12を構成するアクリル系粘着剤が活性エネルギー線硬化性を有しないものである場合、当該粘着剤層12は、例えば、活性エネルギー線硬化性を有しない(メタ)アクリル酸エステル重合体と、架橋剤とを含有する粘着剤組成物から形成されたものであることが好ましい。
【0041】
一方、粘着剤層12を構成するアクリル系粘着剤が活性エネルギー線硬化性を有するものである場合、当該粘着剤層12は、例えば、活性エネルギー線硬化性を有しない(メタ)アクリル酸エステル重合体と、少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーと、架橋剤と、光重合開始剤とを含有する粘着剤組成物から形成されたものであることが好ましい。また、上記粘着剤層12は、側鎖に活性エネルギー線硬化性を有する官能基(活性エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体と、架橋剤と、光重合開始剤とを含有する粘着剤組成物から形成されたものであることも好ましい。さらに、上記粘着剤層12は、活性エネルギー線硬化性基が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体と、少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーと、架橋剤と、光重合開始剤とを含有する粘着剤組成物から形成されたものであることも好ましい。
【0042】
上述した各種粘着剤組成物に含有される各成分としては、ワーク加工用シートを構成する粘着剤の形成に使用される従来のものを使用することができる。
【0043】
上述した種々の(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、150万以下であることが好ましく、特に100万以下であることが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0044】
本実施形態における粘着剤層12の厚さは、1μm以上であることが好ましく、特に3μm以上であることが好ましく、さらには5μm以上であることが好ましい。また、粘着剤層12の厚さは、70μm以下であることが好ましく、特に30μm以下であることが好ましく、さらには15μm以下であることが好ましい。粘着剤層12の厚さが上述した範囲であることで、本実施形態に係るワーク加工用シート1が所望の粘着性を発揮し易いものとなる。
【0045】
(3)剥離剤層
本実施形態における剥離剤層13は、前述の通り、シリコーン系剥離剤組成物から形成されたものである限り、特に限定されない。当該剥離剤組成物中に含有されるシリコーン樹脂としては、付加反応型、縮合反応型、ならびに、紫外線硬化型および電子線硬化型等のエネルギー線硬化型のいずれであってもよいものの、付加反応型シリコーン樹脂であることが好ましい。付加反応型シリコーン樹脂は、反応性が高く生産性に優れるとともに、縮合反応型と比較すると、製造後の剥離力の変化が小さい、硬化収縮がない等のメリットがある。
【0046】
付加反応型シリコーン樹脂の具体例としては、分子の末端および/または側鎖に、ビニル基、アリル基、プロペニル基およびヘキセニル基等の炭素数2~10のアルケニル基を2個以上備えたオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0047】
シリコーン系剥離剤組成物(後述の触媒は除く)の総重量を100質量部とした時のシリコーン樹脂の含有量は、好ましくは100質量部未満、さらに好ましくは90質量部未満、より好ましくは80質量部未満、特に好ましくは70質量部未満である。また、上記シリコーン樹脂の含有量は、好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上である。
【0048】
上記付加反応型シリコーン樹脂を用いる際には、架橋剤および触媒を併用することが好ましい。
【0049】
上記架橋剤の例としては、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。架橋剤の具体例としては、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)等が挙げられる。
【0050】
付加反応型シリコーン樹脂100質量部に対する架橋剤の含有量は、好ましくは0.1~100質量部、さらに好ましくは0.5~50質量部である。
【0051】
上記触媒の例としては、微粒子状白金、炭素粉末担体上に吸着された微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウムおよびロジウム等の白金族金属系化合物等が挙げられる。このような触媒を用いることにより、シリコーン系剥離剤組成物の硬化反応をより効率よく進行させることができる。
【0052】
付加反応型シリコーン樹脂および架橋剤の合計量を100質量部とした時の触媒の含有量は、好ましくは0.01~30質量部、さらに好ましくは0.05~20質量部である。
【0053】
また、シリコーン系剥離剤組成物は、所望の剥離性を達成し易いという観点から、重剥離添加剤を含有してもよい。重剥離添加剤の例としては、シリコーンレジン、シランカップリング剤等のオルガノシランが挙げられるが、これらの中でも、シリコーンレジンを用いることが好ましい。
【0054】
シリコーンレジンとしては、例えば、一官能シロキサン単位[R3SiO1/2]であるM単位と、四官能シロキサン単位[SiO4/2]であるQ単位とを含むMQレジンを用いることが好ましい。なお、M単位中の3つのRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基または有機基を表す。シリコーン移行を制御し易くする観点からM単位中の3つのRの1つ以上は、水酸基またはビニル基であることが好ましく、ビニル基であることがより好ましい。
【0055】
シリコーン系剥離剤組成物(触媒は除く)の総重量を100質量部とした時の重剥離添加剤の含有量は、好ましくは0~50質量部、さらに好ましくは5~45質量部、特に好ましくは10~40質量部である。
【0056】
シリコーン系剥離剤組成物は、粘度を調整して塗布性を向上させる観点から、上述の各種有効成分とともに、希釈溶媒を含む塗布剤として用いることが好ましい。本明細書において、「有効成分」とは、対象となる組成物を含む塗布剤に含まれる成分のうち、希釈溶媒を除いた成分を指す。
【0057】
希釈溶媒としては、トルエンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどの脂肪酸エステル、メチルエチルケトンなどのケトン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素等の有機溶剤等が挙げられる。これらの希釈溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
シリコーン系剥離剤層用組成物を含む塗布剤の有効成分(固形分)濃度としては、好ましくは0.3~10質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは0.5~3質量%である。
【0059】
シリコーン系剥離剤層用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、剥離剤層13において一般的に使用される添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、染料および分散剤等が挙げられる。
【0060】
剥離剤層13における単位面積当たりのシリコーン系剥離剤組成物の含有量は、0.01g/m2以上であることが好ましく、特に0.04g/m2以上であることが好ましく、さらには0.05g/m2以上であることが好ましい。また、当該含有量は、10g/m2未満であることが好ましく、特に0.9g/m2以下であることが好ましく、さらには0.85g/m2以下であることが好ましい。これらの範囲の塗布量のシリコーン系剥離剤組成物によって剥離剤層13が形成されていることにより、剥離剤層13から粘着剤層12の表面(粘着面)に対して、シリコーン成分を適度に移行させ易くなる。それにより、粘着面における炭素原子比率に対するケイ素原子比率の比を前述した範囲に調整し易いものとなる。
【0061】
剥離剤層13の厚さは、20nm以上であることが好ましく、特に50nm以上であることが好ましく、さらには70nm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、200nm以下であることが好ましく、特に150nm以下であることが好ましく、さらには120nm以下であることが好ましい。剥離剤層13の厚さが上記範囲であることで、剥離剤層13から粘着剤層12の表面(粘着面)に対して、シリコーン成分を適度に移行させ易くなる。それにより、粘着面における炭素原子比率に対するケイ素原子比率の比を前述した範囲に調整し易いものとなる。
【0062】
(4)剥離シート用基材
本実施形態における剥離シート用基材14としては、特に限定されず、例えば、基材11として使用できる前述した種々の樹脂フィルムを、剥離シート用基材14としても使用することができる。前述した樹脂フィルムの中でも剥離シート用基材14としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムを使用することが好ましい。
【0063】
剥離シート用基材14の厚さは、特に制限はなく、200μm以下であることが好ましく、特に150μm以下であることが好ましい。また、基材11の厚さは、10μm以上であることが好ましく、特に25μm以上であることが好ましい。
【0064】
2.ワーク加工用シートの製造方法
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bの製造方法は、特に限定されず、従来の方法により製造することができる。
【0065】
例えば、
図1に示されるワーク加工用シート1Aを製造する場合には、まず、剥離シート用基材14の片面に剥離剤層13を形成することで剥離シートを得た後、当該剥離シートにおける剥離面上に粘着剤層12を形成し、さらに当該粘着剤層12における剥離シートとは反対の面上に基材11を積層することで、ワーク加工用シート1Aを得ることができる。
【0066】
剥離剤層13の形成は公知の方法により行うことができ、例えば剥離シート用基材14の片面にシリコーン系剥離剤組成物を塗布し、得られた塗膜を硬化することで剥離剤層13とすることができる。上記塗布は、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、ナイフコーター、アプリケータ等を用いて行ってもよい。また、上記硬化は、シリコーン系剥離剤組成物中の成分に応じて選択され、例えば熱硬化や活性エネルギー線硬化等を行うことができる。
【0067】
粘着剤層12の形成も公知の方法により行うことができ、剥離シートの剥離面上に粘着剤組成物を塗布し、得られた塗膜を乾燥(さらに必要に応じて硬化)することで粘着剤層12とすることができる。当該塗布は、剥離剤層13の形成と同様に種々のコーターを用いて行うことができる。また、塗膜の乾燥として、加熱処理を行ってもよい。
【0068】
図2に示されるワーク加工用シート1Bを製造する場合には、例えば、基材11の一方の面に剥離剤層13を形成した後、基材11の他方の面に粘着剤層12を形成することで、ワーク加工用シート1Bを得ることができる。これらは公知の手法によって行うことができる。
【0069】
3.ワーク加工用シートの使用方法
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bは、半導体ウエハ等のワークの加工のために使用することができる。すなわち、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bの粘着面をワークに貼付した後、ワーク加工用シート1A,1B上にてワークの加工を行うことができる。当該加工に応じて、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bは、バックグラインドシート、ダイシングシート、エキスパンドシート、ピックアップシート等として使用されることとなる。ここで、ワークの例としては、半導体ウエハ、半導体パッケージ、発光ダイオード(LED)等の半導体部材、ガラス板等のガラス部材、セラミック製部材が挙げられる。
【0070】
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bは、前述した通り、ワークや加工後のワークを良好に保持可能でありながらも、加工後のワークを容易に分離することもできる。このため、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1Bは、ダイシングシートおよびピックアップシートの少なくとも一方として使用されることが好ましい。
【0071】
なお、粘着剤層12構成するアクリル系粘着剤が、前述したように、活性エネルギー線硬化性を有するものである場合には、使用の際に、次のような活性エネルギー線の照射することが好ましい。すなわち、ワーク加工用シート1A,1B上にてワークの加工が完了し、加工後のワークをワーク加工用シート1A,1Bから分離する場合に、当該分離の前に粘着剤層12に対して活性エネルギー線を照射することが好ましい。これにより、粘着剤層12が硬化して、加工後のワークに対する粘着シートの粘着力が良好に低下し、加工後のワークの分離が容易となる。
【0072】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0073】
例えば、基材と粘着剤層との間、または基材における粘着剤層とは反対側の面には、その他の層が設けられてもよい。
【実施例0074】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0075】
〔調製例1〕(粘着剤組成物A,活性エネルギー線硬化型)
アクリル酸n-ブチル90質量部と、アクリル酸10質量部とを、溶液重合法により重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を得た。当該(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量を後述の方法によって測定したところ、50万であった。
【0076】
得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部(固形分換算,以下、特に説明がない場合、固形分換算として配合量を表示する)と、活性エネルギー線硬化性成分としての2~3官能性ウレタンアクリレート(重量平均分子量:5000)130質量部と、イソシアネート系架橋剤(三井化学社製,製品名「タケネートD-101E」)10質量部と、光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製,製品名「オムニラッド184」)4質量部とを溶媒中で混合し、粘着剤組成物Aの塗布液を得た。
【0077】
〔調製例2〕(粘着剤組成物B,非活性エネルギー線硬化型)
アクリル酸2-エチルヘキシル80質量部と、メタクリル酸メチル10質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル10質量部とを、溶液重合法により重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を得た。当該(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量を後述の方法によって測定したところ、50万であった。
【0078】
得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部と、イソシアネート系架橋剤(三井化学社製,製品名「タケネートD-101E」)10質量部とを溶媒中で混合し、粘着剤組成物Bの塗布液を得た。
【0079】
〔調製例3〕(粘着剤組成物C,非活性エネルギー線硬化型,シリコーン成分添加)
調製例2と同様に作製した(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部と、イソシアネート系架橋剤(三井化学社製,製品名「タケネートD-101E」)10質量部と、シリコーン成分としてのポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製,製品名「SH28」)とを溶媒中で混合し、粘着剤組成物Cの塗布液を得た。
【0080】
〔調製例4〕(シリコーン系剥離剤組成物A)
ビニル基を有するポリオルガノシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含有する付加反応型シリコーン樹脂(信越アステック社製,製品名「KS-835」、固形分濃度:30質量%)100質量部(溶媒を含む量)と、白金触媒(信越シリコーン社製,製品名名「CAT-PL-50T」,固形分濃度:10質量%)0.5質量部(溶媒を含む量)とを溶媒中で混合し、シリコーン系剥離剤組成物Aの塗布液を得た。
【0081】
〔調製例5〕(シリコーン系剥離剤組成物B)
ビニル基を有するポリジメチルシロキサンとポリメチルハイドロジェンシロキサンとを含有する付加反応型シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製,製品名「SRX-211」,固形分濃度:30質量%)100質量部(溶媒を含む量)と、白金触媒(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製,製品名「SRX-212」)0.5質量部(溶媒を含む量)と、光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製,製品名「オムニラッド184」,固形分濃度:100質量%)0.5重量部とを溶媒中で混合し、シリコーン系剥離剤組成物Bの塗布液を得た。
【0082】
〔調製例6〕(アルキド系剥離剤組成物)
ヒドロキシ基含有ステアリル変性アルキド化合物(昭和電工マテリアルズ社製,製品名「テスファイン303」,固形分濃度:48質量%)100質量部(溶媒を含む量)と、p-トルエンスルホン酸3質量部とを溶媒中で混合し、アルキド系剥離剤組成物の塗布液を得た。
【0083】
〔重量平均分子量の測定〕
前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・測定装置:東ソー社製,HLC-8320
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK gel superH-H
TSK gel superHM-H
TSK gel superH2000
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0084】
〔実施例1〕
(1)剥離シートの作製
剥離シート用基材としてのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱樹脂製,製品名「T100」,厚さ:38μm)の片面に対し、調製例4で調製したシリコーン系剥離剤組成物Aの塗布液を、マイヤーバー#4を用いて塗布し、塗膜を形成した。このときの塗布液の塗布量は、0.1g/m2とした。
【0085】
続いて、上記塗膜を、150℃で1分間乾燥させることで硬化させ、厚さ100nmの剥離剤層を形成した。これにより、剥離シート用基材と剥離剤層とが積層されてなる剥離シートを得た。
【0086】
(2)粘着剤層の形成
上記工程(1)で得た剥離シートの剥離面に対して、調製例1で調製した粘着剤組成物Aの塗布液を塗布し、加熱により乾燥させることで、剥離シート上に、厚さ10μmの粘着剤層が形成されてなる積層体を得た。
【0087】
(3)ワーク加工用シートの作製
エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)(三井・デュポンポリケミカル社製,製品名「ニュクレルN0903HC」)を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押出成形することで、厚さ80μmのEMAAフィルムを得た。これを基材として使用した。
【0088】
得られた基材(EMAAフィルム)の片面に対しコロナ処理を施した後、当該コロナ処理面と、上記工程(2)で得られた積層体における粘着剤層側の面とを貼り合わせることで、ワーク加工用シートを得た。
【0089】
〔実施例2〕
調製例2で調製した粘着剤組成物Bの塗布液を使用して粘着剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0090】
〔実施例3〕
剥離シート用基材としてのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱樹脂製,製品名「T100」,厚さ:38μm)の片面に対し、調製例5で調製したシリコーン系剥離剤組成物Bの塗布液を、マイヤーバー#4を用いて塗布し、塗膜を形成した。このときの塗布液の塗布量は、0.1g/m2とした。
【0091】
続いて、上記塗膜を、150℃で1分間乾燥させた後、乾燥後の塗膜に対し、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)にて、無電極ランプを用いて紫外線(照度:150mW/cm2,光量:約350mJ/cm2)を照射した。これにより、当該塗膜を硬化させ、厚さ100nmの剥離剤層を形成した。
【0092】
以上により得られた剥離シートを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0093】
〔比較例1〕
基材としての厚さ80μmのポリプロピレン(PP)フィルムの片面にコロナ処理を施した後、当該コロナ処理面に対し、調製例1で調製した粘着剤組成物Aの塗布液を塗布し、加熱により乾燥させることで、基材上に、厚さ10μmの粘着剤層が形成されてなるワーク加工用シートを得た。
【0094】
〔比較例2〕
調製例6で調製したアルキド系剥離剤組成物の塗布液を使用して剥離剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0095】
〔比較例3〕
調製例3で調製した粘着剤組成物Cの塗布液を使用して粘着剤層を形成したこと、および、基材として厚さ80μmのポリ塩化ビニル(PVC)フィルムを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0096】
〔比較例4〕
調製例3で調製した粘着剤組成物Cの塗布液を使用して粘着剤層を形成したこと、基材として厚さ80μmのポリ塩化ビニル(PVC)フィルムを使用したこと、および、シリコーン系剥離剤組成物Aの塗布液の塗布量を1g/m2に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0097】
〔比較例5〕
調製例2で調製した粘着剤組成物Bの塗布液を使用して粘着剤層を形成したこと、および、シリコーン系剥離剤組成物Aの塗布液の塗布量を1g/m2に変更したことと以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0098】
〔試験例1〕(剥離剤層中のシリコーン系剥離剤組成物の含有量の算出)
実施例および比較例で作製したワーク加工用シートについて、剥離剤層における単位面積当たりのシリコーン系剥離剤組成物の含有量(g/m2)を、使用したシリコーン系剥離剤組成物の組成および塗布液の塗布量に基づいて算出した。そして、当該含有量を、以下に基準に基づいて区分した。その結果を表1に示す。
○:含有量が、0.01g/m2以上、10g/m2以下であった。
×:含有量が、0.01g/m2未満または10g/m2超であった。
【0099】
〔試験例2〕(X線光電子分光分析)
実施例および比較例で作製したワーク加工用シートを、10mm×10mmのサイズに裁断した。その後、実施例1~3および比較例2~5のワーク加工用シートについては、剥離シートを剥離・除去することで、測定用サンプルを得た。比較例1のワーク加工用シートについては、上述した裁断を行ったものを測定用サンプルとした。
【0100】
得られた測定用サンプルの粘着面における炭素原子比率(%)およびケイ素原子比率(%)を、X線光電子分光分析(XPS)装置(アルバック・ファイ社製,製品名「PHI Quantera SXM」)を用いて、以下の条件で測定した。測定はそれぞれのサンプルについて2回行い、その平均値として各原子比率(%)を算出した。
<XPS測定条件>
・X線源:単色化ALkα
・出力:25W
・加速電圧:15kV
・ビーム直径:100μm
・光電子取り出し角度:45°
・パスエネルギー:55.0eV
・ステップ分解能0.05eV
・測定面積:1mm×1mm
【0101】
得られた炭素原子比率(%)およびケイ素原子比率(%)に基づいて、炭素原子比率(%)に対するケイ素原子比率(%)の比(Si/C)を算出し、その結果を「表面(スパッタ前)のSi/C比」として表1に示す。なお、ケイ素原子比率(%)が検出限界未満であり、比(Si/C)を算出できなかったものは、表中に「ND」と表記した。
【0102】
さらに、上記と同様に得られた測定用サンプルの粘着面に対し、以下の条件でスパッタリングを行った。これにより、粘着剤層における、粘着面から深さ100nmの位置までの粘着剤を除去した。すなわち、粘着剤層内における深さ100nmの位置の面を露出させた。そして、当該露出面について、上記と同様に炭素原子比率(%)およびケイ素原子比率(%)を測定するとともに、それらの比(Si/C)を算出した。得られた比を「深さ100nm(スパッタ後)のSi/C比」として表1に示す。
<スパッタリング条件>
・スパッタガス:アルゴン
・印加電圧:4kV
・スパッタ範囲:2mm×2mm
・照射時間:60秒を1サイクルとして10サイクル行い、積算時間として600秒
【0103】
〔試験例3〕(粘着剤層中におけるシリコーン成分の含有量の測定)
実施例および比較例で作製したワーク加工用シートの粘着剤層について、下記装置および条件によるP&T/GC/MS分析法(パージアンドトラップ ガスクロマトグラフ・マススペクトル分析法)により、シロキサン系のガス発生量を定量した。
<装置・条件>
P&T
装置:日本分析工業社製,製品名「JHS-100A」
試料面積:1.0cm2
パージ:250℃で10分間、50ml/分のヘリウムを使用
トラップ:-80℃
吸着剤:テナックス
GC/MS
装置:パーキンエルマー社製,製品名「ターボマス」
カラム:HP-5(寸法:30m×0.25mm×0.25mm)、70ml/分のヘリウムを使用
オーブン:50℃で5分間加熱した後、10℃/分の速度で300℃まで昇温し、300℃に10分間保持した
MS範囲:29~500m/z
定量標準:ドデカメチルシクロヘキサシロキサン
【0104】
測定されたシロキサン系のガス発生量に基づいて、粘着剤の比重を1.1g/μmとして粘着剤層中におけるシリコーン成分の含有量(ppm)を算出した。そして、当該含有量を、以下に基準に基づいて区分した。その結果を表1に示す。
○:含有量が、100ppm以下であった。
×:含有量が、100ppm超であった。
【0105】
〔試験例4〕(チップ飛びの評価)
実施例1~3および比較例2~5にて製造したワーク加工用シートから剥離シートを剥離し、粘着面を露出させた。また、比較例1にて製造したワーク加工用シートについては、粘着剤層における基材とは反対側の面をそのまま粘着面とした。
【0106】
そして、予めグラインダー(ディスコ社製,製品名「DFG8540」)を用いて片面を研削しておいた8インチシリコンウエハ(厚さ150μm)の研削面に対し、テープマウンター(リンテック社製,製品名「Adwill RAD2500m/12」)を用いて、貼付速度50mm/minにて、上記ワーク加工用シートにおける粘着面を貼付した。
【0107】
続いて、ダイシング装置(ディスコ社製,製品名「DFD-6361」)を用いて、以下のダイシング条件でシリコンウエハのダイシングを行った。
<ダイシング条件>
・ダイシング装置 :ディスコ社製 DFD-6361
・ブレード :ディスコ社製 Z05-SD2000-D1-90 CC
・ブレード幅 :0.025~0.030mm
・刃先出し量 :0.640~0.760mm
・ブレード回転数 :30000rpm
・切削速度 :30mm/sec
・基材切り込み深さ:20μm
・切削水量 :1.0L/min
・切削水温度 :20℃
・ダイシングサイズ:5mm×5mm
【0108】
ダイシングの完了後、デジタル顕微鏡(キーエンス社製,製品名「VE-9800」)を用いてワーク加工用シートを観察し、ワーク加工用シートから脱落したチップの有無を確認した。そして、以下の基準に基づいてチップ飛びを評価した。結果を表1に示す。なお、チップの脱落の確認は、目的の形状(5mm×5mmの四角形)の通りにダイシングされるチップのみについて行い、シリコンウエハの外周に位置していることにより、四角形の形状にダイシングされないチップについては除いて確認を行った。
○:脱落したチップが、無かった。
×:脱落したチップが、1個以上あった。
【0109】
〔試験例5〕(ピックアップ性の評価)
実施例および比較例にて製造したワーク加工用シートについて、試験例4と同様にシリコンウエハのダイシングを行った。
【0110】
さらに、実施例1および3並びに比較例1および2のワーク加工用シートに対しては、その基材側の面に対し、紫外線照射装置(リンテック社製,製品名「RAD-2000m/12」)を用いて、紫外線を照射(照度:230mW/cm2,光量:190mJ/cm2)し、粘着剤層を硬化させた。
【0111】
そして、以下の条件にて20個のチップをピックアップし、正常にピックアップできた数を数えた。そして、以下の基準に基づいてピックアップ性を評価した。結果を表1に示す。
○:正常にピックアップできたチップの数が、18個以上であった。
×:正常にピックアップできたチップの数が、17個以下であった。
<ピックアップ条件>
・ピックアップ装置:キャノンマシナリー社製,製品名「BESTEM D-510」
・突き上げ速度:20mm/min
・突き上げ高さ:200μm
・エキスパンド量:4mm
・荷重:1N
【0112】
〔試験例6〕(パッケージ信頼性の評価)
実施例および比較例にて製造したワーク加工用シートについて、試験例5と同様にして、シリコンウエハをダイシングし、チップをピックアップした。
【0113】
基板として、銅箔張り積層板(三菱ガス化学社製,製品名「HL832NX-A」)の銅箔(厚さ:18μm)に回路パターンが形成され、この回路パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ社製,製品名「PSR-4000AUS308」)の層が形成されてなる基板(シーマ電子社製,製品名「LN001E-001 PCB(Au)AUS308」)を用意した。
【0114】
そして、上述の通りピックアップしたチップを、接着剤(ヘンケル社製,製品名「LOCKTIT ABLESTIK 2025JH」)を用いて、上記基板にボンディングし、175℃で30分間加熱硬化した。
【0115】
次いで、封止装置(アピックヤマダ社製,製品名「MPC-06M TriAl Press」)を用いて、ボンディング後のチップ上に、封止樹脂(京セラケミカル社製,製品名「KE-G1250」)からなる層を形成した。そして、当該封止樹脂を硬化させて、厚さ400μmの封止層を形成することにより、封止基板を得た。このときの封止樹脂の硬化は、175℃に加熱した封止樹脂に7MPaの圧力を2分加えてプレキュアを行った後、175℃で5時間加熱することにより行った。
【0116】
得られた封止基板に、ダイシングテープ(リンテック社製,製品名「adwill D-510T」)を貼付した後、ダイシング装置(Disco社製,製品名「DFD6361」)を用いて、ダイシングブレードの回転数を4000rpmとして、上記封止基板をダイシングした。これにより、15mm×15mmのサイズに個片化された半導体パッケージを得た。
【0117】
そして、得られた半導体パッケージを、85℃、相対湿度60%の条件下で168時間放置することで吸湿させた後、最高加熱温度260℃、加熱時間5分の条件でIRリフローを行った。そして、このIRリフローを行った半導体パッケージのうちの任意の5個について、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック社製,製品名「Hye-Focus」)を用いて、パッケージクラックの発生の有無を観察した。そして、以下の基準に基づいてパッケージ信頼性を評価した。結果を表1に示す。
○:5つ全ての半導体パッケージについて、パッケージクラックが発生しなかった。
×:少なくとも1つの半導体パッケージについて、パッケージクラックが発生した。
【0118】
【0119】
表1から分かるように、実施例で得られたワーク加工用シートは、チップ飛びおよびピックアップ性に優れており、そのため、ワークの良好な保持が可能でありながらも、容易に分離することが可能であった。さらに、パッケージ信頼性に優れており、そのため、ワークへのシリコーン移行が良好に抑制できたことがわかった。
【0120】
一方、比較例1および2で得られたワーク加工用シートは、ピックアップ性に劣り、ワークを容易に分離できないものであった。また、比較例3~5で得られたワーク加工用シートは、チップ飛びが生じ、ワークを良好に保持できないものであった。さらに、比較例3~5で得られたワーク加工用シートは、パッケージ信頼性に劣り、ワークへのシリコーン移行が生じるものであった。