(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047716
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止する方法
(51)【国際特許分類】
A01C 1/00 20060101AFI20240401BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240401BHJP
C11B 5/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
A01C1/00 A
A01G7/00 604Z
C11B5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153366
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】508373497
【氏名又は名称】株式会社日本健康食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁木 弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博二
【テーマコード(参考)】
2B051
4H059
【Fターム(参考)】
2B051AB01
2B051AB07
2B051BA03
2B051BB14
4H059BC13
4H059CA02
4H059CA12
4H059DA22
(57)【要約】
【課題】本発明は、安価で、かつ、環境への負荷が少ない、野菜類の抽苔防止方法及び抽苔発生防止剤を提供することを課題とする。
【解決手段】葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止するための方法であって、
抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子に、
有効成分として植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を接触させる工程を含む、
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止する方法、
を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止するための方法であって、
抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子に、
有効成分として植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を接触させる工程を含む、
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止する方法。
【請求項2】
前記接触させる工程が、以下のいずれか1以上である請求項1に記載の方法。
(1)植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を含む液状物を抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子又は苗に噴霧する工程
(2)植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を含む液状物に抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を浸漬する工程
(3)植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を混合した培養土に、抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子を播種する工程
【請求項3】
植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を接触させた葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を用いて葉菜類植物又は根菜類植物を栽培する方法。
【請求項4】
植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を有効成分とする葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生防止剤。
【請求項5】
固形状である請求項4に記載の葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生防止剤。
【請求項6】
葉菜類植物又は根菜類植物の種子であって、植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物で被覆された前記種子。
【請求項7】
葉菜類植物又は根菜類植物の苗であって、植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物で被覆された前記苗。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を利用した葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物、特に野菜の種または幼葉が寒さに会うとそれが記憶されて、野菜が成長する過程で突然とう立ちし、花茎が伸びて、花が咲き、種ができる、いわゆる「抽苔(バーナリゼイション)」が起きることが知られている。
抽苔は野菜の品質を著しく低下させ、商品価値をなくしてしまう事から、野菜農家にとって重大な問題である。
ここで、「抽苔(バーナリゼイション)」として、より具体的に以下が知られている。
大根、白菜、カブなどの野菜は、種が土中で水分を吸った時に低温に会うと、芽が出て成長する過程で抽苔を起こすが、この現象を「種子バーナリゼイション」という。
また、キャベツ、タマネギ、ニンジンなどの野菜は、葉が5~10枚位になった時に低温に会うと、それが成長する過程で抽苔を起こすが、この現象を「植物体バーナリゼイション」という。
このほかにも、最適な環境要因に比べて、低照度、低温、高温、肥料不足、水分不足、水分過多等の環境ストレスによっても抽苔が起こる場合があることが知られている。
ここで、特許文献1には、5-アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩に、特許文献2には、天然型アブジン酸に野菜類の抽苔抑制作用があることが開示されている。しかし、これらの化合物の利用には製造コストがかかり、また多用することによる他の植物への影響あるいは周囲の環境への問題も考えられる。
本発明者らは、長年、カボチャの種子油を開発してきたが(特許文献3)、カボチャの種子およびカボチャ種子の搾油粕のアルコール抽出物に5α―リダクターゼ阻害作用があることを見出した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-121878号公報
【特許文献2】特開平4-217603号公報
【特許文献3】特許第5615484号公報
【特許文献4】特許第6761705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、安価で、かつ、環境への負荷が少ない、野菜類の抽苔防止方法及び抽苔発生防止剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、カボチャ種子油等の他の有用な生理作用について鋭意探索してきたところ、カボチャ種子の搾油粕およびそのアルコール抽出物に野菜類の抽苔発生を防止する効果があることを見出した。さらに、カボチャ種子のみならず、ナタネ、ヒマワリなどの他の植物種子の搾油粕およびそのアルコール抽出物にも野菜類の抽苔発生を防止する効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止するための方法であって、
抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子に、
有効成分として植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を接触させる工程を含む、
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止する方法。
<2>
前記接触させる工程が、以下のいずれかである<1>に記載の方法。
(1)植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を含む液状物を抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子又は苗に噴霧する工程
(2)植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を含む液状物に抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を浸漬する工程
(3)植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を混合した培養土に、抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子を播種する工程
<3>
植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を接触させた葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を用いて葉菜類植物又は根菜類植物を栽培する方法。
<4>
植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を有効成分とする葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生防止剤。
<5>
固形状である<4>に記載の葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生防止剤。
<6>
葉菜類植物又は根菜類植物の種子であって、植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物で被覆された前記種子。
<7>
葉菜類植物又は根菜類植物の苗であって、植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物で被覆された前記苗。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を有効成分として葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔を防止することができる。本発明は、廃棄される植物種子の搾油粕を利用することができることから安価な方法である。さらに、植物種子の搾油粕は、そのまま土壌に残存しても肥料となることから、環境にも優しい方法である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(有効成分)
本発明の有効成分としては、葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止する作用を有する植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物であればよく、植物種子としては、カボチャ種子、ナタネ種子、ヒマワリ種子などが挙げられるがこれらに限定されない。カボチャ種子は、西洋カボチャ種子、東洋カボチャ種子、ペポカボチャ種子のいずれも対象とすることができる。搾油粕抽出物としては、有効成分を抽出できればいずれでもよく、アルコール抽出物が好ましく、エタノール抽出物がさらに好ましい。
植物種子の搾油粕は、本来廃棄処分されるものであるから、本発明によれば廃棄物の有効利用につながる。また、これらの植物の搾油粕は、肥料としても利用できることから、本発明によれば、施肥により抽苔の発生防止と栄養分の供給という複合的な効果が期待できる。
【0008】
植物種子の搾油粕は、当該種子について知られている搾油方法により生じる搾油粕であればいずれでもよい。例えばカボチャ種子の場合は、搾油機を利用するなど公知の方法により搾油粕を得ることができる。西洋カボチャまたは東洋カボチャについては、種皮が取り除かれた子葉部分の搾油には直圧式プレス機を使用して搾油することができ、種皮が残っている場合にはスクリュー式搾油機を使用して搾油することが望ましい。ペポカボチャの場合は、種皮がないため、直圧式の搾油機を利用することができる。
搾油粕抽出物は、種子の搾油により生じた搾油粕を液体で抽出したものをいう。具体的には、アルコールに搾油粕を一定時間浸漬し、濾過したろ液そのものや、ろ液を一定程度濃縮した液状物(場合によっては油状物)である。
【0009】
本発明の有効成分は、固形状あるいは液状で利用することができる。
液状の有効成分としては、液状又は油状の搾油粕抽出物それ自体、液状の搾油粕抽出物を他の液体と混合したものなどが挙げられる。
当該有効成分の濃度としては、減圧濃縮などによって得られる搾油粕抽出物(液状あるいは油状)をそのままを利用することもできるが、利用形態又は抽出物の粘度によって、水や他の溶媒で希釈して用いることが望ましい場合もある。例えば、搾油粕抽出物のアルコール抽出物(油状)の場合、2倍~100倍に希釈して利用することができる。
また、固形状の有効成分としては、搾油粕それ自体、搾油粕を他のバインダーと混錬した成形したもの、液状(含む油状)の搾油粕抽出物を固化して成形したもの、ビーズなどの担体に固定化したもの、他のバインダーと混錬して成形したものなどが挙げられる。また、固形状とする場合にはあらかじめ種子とともに固形化することも望ましい態様である。
有効成分を種子とともに固形化する態様としては、種子に液状の有効成分を直接あるいは間接的に被覆する態様が挙げられる。直接被覆するとは、種子に液状(あるいは油状)の有効成分をコーティングする態様であり、間接的に被覆するとは、有効成分をバインダーとともに種子に被覆したり、バインダーや他の担体とともに混合したものを被覆する態様などが挙げられる。この場合の有効成分は液状のみならず、固形状の有効成分も同様に種子に間接的に被覆することができることはいうまでもない。
担体としては、抽苔の抑制および植物の生育に悪い影響を与えない範囲でいずれも利用することができる、例えば、肥料などに利用される担体が挙げられる。より具体的には、シリカ、タルク、カオリナイト、珪藻土、炭酸カルシウム、鉄粉、でんぷん、ゼラチン、ポリビニルアルコールなどである。
また、有効成分を固形化する場合の形状は問わないが、種子とともに固形化する場合は、粒子形状とすることが望ましい。この場合の粒子径は、0.5~5.0mm程度が好ましく、1.0~3.0mm程度がさらに好ましく、2mm程度がよりいっそう好ましい。また、当該粒子中の有効成分の量は、1~50mgが好ましく、10~30mgがさらに好ましい。
上記において、有効成分が被覆された種子は、換言すれば、抽苔発生防止用種子と言える。また、同様に有効成分が被覆された苗は、抽苔発生防止用苗と言える。
【0010】
本発明の有効成分を抽苔を防止したい対象植物に接触させる方法(処理)としては、典型的には以下の工程が挙げられる。
(1)植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を含む液状物を抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子又は苗に噴霧する工程
(2)植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を含む液状物に抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を浸漬する工程
(3)植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物を混合した培養土に、抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子を播種する工程
本発明において、有効成分と抽苔を防止したい野菜類を接触させる処理は、濃度の調製により1回でも十分な効果は得られるが、複数回処理することにより、更に効果を高めることもできる。また、接触時間を調整することによっても効果をコントロールすることができる。さらにまた、有効成分と抽苔を防止したい野菜類を接触させる処理は、1種類の処理でもよいが、複数種類の異なる処理を組み合わせることによってさらに抽苔防止効果を高めることができる。例えば、有効成分を野菜類の種子に接触させ、かつ、有効成分を含む培養土に当該種子を播種する方法などが挙げられる。
【0011】
(対象植物)
本発明の抽苔発生を防止したい葉菜類又は根菜類植物は特に限定されないが、例えばアカザ科としてはホウレンソウ、テンサイ:アブラナ科としてはアブラナ、コマツナ、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、カブ:キク科としてはレタス、シュンギク、ゴボウ:ユリ科としてはタマネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラ、ネギ、アサツキ、ワケギ:ナス科としてはジャガイモ:セリ科としてはニンジン、セルリー:ショウガ科としてはショウガ、ミョウガ:ヤマノイモ科としてはヤマノイモ:サトイモ科としてはサトイモ:スイレン科としてはレンコン:ヒルガオ科としてはサツマイモ:シソ科としてはシソ:イネ科としてはタケノコ、ヒユ科としてはビートを挙げることができる。
【0012】
(抽苔発生防止剤)
本発明の抽苔発生防止剤は、上記有効成分である植物種子の搾油粕及び/又は搾油粕抽出物が含まれていればよく、これら以外に、必要に応じて他の植物生長調節剤、糖類、含窒素化合物、酸類、アルコール類、ビタミン類、微量要素、金属塩、キレート剤、防腐剤、防黴剤等を配合することもできる。また、有効成分の態様は上記で述べたとおりである。
以下、本発明をより具体的に実施例をもって説明するが、これらの実施例に限定されるべきものではない。
【実施例0013】
1.カボチャ種子油の搾油粕の抽出液の調製
西洋カボチャの種子の搾油粕10Kgに95%エチルアルコール50Kgを加え、5℃で1夜撹拌した後に濾過し、その濾液をロータリーエバポレーター(ヤマト科学製R-215)を用いて減圧濃縮し、油状物0.5Kgを得た。その油状物を「カボチャ種子搾油粕抽出液」として以下の試験に用いた。
【0014】
2.大根の栽培及び結果
大根、白菜、カブなどの種で植える野菜は、種の表面に本発明のカボチャ種子搾油粕抽出液をコーティングしてから播種することで、種子バーナリゼイションを防止することができる。
傾斜回転型パンにコア基材(シリカ、タルク、カオリナイトなど)を投入し、それに大根の種子を加え、回転しながら抽出液をスプレーした。種子の表面が乾燥したら、コア基材、大根種子、カボチャ種子搾油粕抽出液スプレーを加える操作を繰り返す。コーティング層の厚さは0.5~2mmが好ましい。
コーティングした大根の種子を人工気象室にセットした市販の培土に播種し、充分に水を与えて1夜放置した。その後、人工気象室の温度を1℃に下げて48時間冷却した後に、常温にもどして発芽させ、栽培した。
コントロールとして、カボチャ種子搾油粕抽出液をコーティングする代わりに蒸留水を用いてコーティングした大根種子を同様に低温処理した後に栽培した。
コントロールでは60%にバーナリゼイションが見られたが、カボチャ種子搾油粕抽出液をコーティングした種子から栽培したものは全くバーナリゼイションを起こさなかった。
キャベツ、タマネギ、トマト、キュウリ、などの苗で植える野菜は、苗を植物種子搾油粕抽出液に浸漬した後に移植することで、植物体バーナリゼイションを防止することができる。
育苗用セルに市販培土を入れ、それにキャベツの種子を播種し、種子が隠れる程度に覆土した後に1日2回水を与えて7日間置き、葉が3~4枚になった時に成型苗を取り出し、実施例1で調整したカボチャ種子搾油粕抽出液に1夜浸漬した後に、人口気象室で1℃に48時間冷却してから常温に戻して移植し、栽培した。
コントロールとして、カボチャ種子搾油粕抽出液の代わりに成型苗を蒸留水に浸漬してから同様に低温処理した後に移植し、栽培した。
この結果、コントロールでは80%にバーナリゼイションが見られたが、カボチャ種子搾油粕抽出液に浸漬した後に移植したものは全くバーナリゼイションを起こさなかった。