IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同メタル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-半割スラスト軸受 図1
  • 特開-半割スラスト軸受 図2
  • 特開-半割スラスト軸受 図3
  • 特開-半割スラスト軸受 図4
  • 特開-半割スラスト軸受 図5
  • 特開-半割スラスト軸受 図6
  • 特開-半割スラスト軸受 図7
  • 特開-半割スラスト軸受 図8
  • 特開-半割スラスト軸受 図9
  • 特開-半割スラスト軸受 図10
  • 特開-半割スラスト軸受 図11
  • 特開-半割スラスト軸受 図12
  • 特開-半割スラスト軸受 図13
  • 特開-半割スラスト軸受 図14
  • 特開-半割スラスト軸受 図15
  • 特開-半割スラスト軸受 図16
  • 特開-半割スラスト軸受 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047719
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】半割スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/04 20060101AFI20240401BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F16C17/04 Z
F16C9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153374
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡野 真治
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011AA20
3J011BA09
3J011BA13
3J011CA01
3J011KA03
3J011MA03
3J011NA01
3J033AA05
3J033BA01
3J033BA12
3J033BA20
3J033GA02
3J033GA05
3J033GA09
(57)【要約】
【課題】内燃機関の運転時に、損傷が生じにくい半割スラスト軸受の提供。
【解決手段】半割スラスト軸受は、軸線方向力を受ける摺動面及びその反対側の背面を有し、摺動面と背面との間の軸受壁厚が一定である。半割スラスト軸受の軸線方向に垂直な基準面を、半割スラスト軸受の摺動面側に、摺動面から離間しており、半割スラスト軸受の周方向中央部における摺動面の径方向中心線と平行となり、且つ、摺動面の周方向両端部において基準面との間の軸線方向距離が同じとなる仮想面と定義する。そのとき、摺動面と基準面との間の軸線方向距離は、径方向のいずれの位置においても径方向中心線部において最大であり、摺動面の周方向端部側に向かって周方向に連続して小さくなる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための略半円環形状の半割スラスト軸受(8)であって、
前記半割スラスト軸受は、前記軸線方向力を受ける摺動面(81)及びその反対側の背面(84)を有し、前記摺動面(81)と前記背面(84)との間の軸受壁厚(T)が一定である、前記半割スラスト軸受(8)において、
前記半割スラスト軸受(8)の軸線方向に垂直な基準面(90)を、
前記半割スラスト軸受(8)の前記摺動面(81)側に、前記摺動面(81)から離間しており、
前記半割スラスト軸受(8)の周方向中央部(C)における前記摺動面(81)の径方向中心線(CL)と平行となり、且つ、前記摺動面(81)の周方向両端部(86)において前記摺動面(81)と前記基準面(90)との間の軸線方向距離(L2)が同じとなる仮想面と定義すると、
前記摺動面(81)と前記基準面(90)との間の軸線方向距離(L)は、径方向のいずれの位置においても前記径方向中心線部(C)において最大(L1)であり、前記摺動面(81)の周方向端部(86)側に向かって周方向に連続して小さくなる、半割スラスト軸受。
【請求項2】
前記径方向中心線(CL)における前記摺動面(81)と前記基準面(90)との間の軸線方向距離(L1)と、前記周方向端部(86)における前記摺動面(81)と前記基準面(90)との間の軸線方向距離(L2)との差が50~150μmである、請求項1に記載された半割スラスト軸受。
【請求項3】
前記摺動面(81)に、前記半割スラスト軸受(8)の周方向端面(83)にそれぞれ隣接して2つのスラストリリーフ(82)が形成される、請求項1または請求項2に記載された半割スラスト軸受。
【請求項4】
前記摺動面(81)に、少なくとも1つの油溝(81a)が形成される、請求項1または請求項2に記載された半割スラスト軸受。
【請求項5】
前記油溝(81a)は、前記半割スラスト軸受(8)の径方向に延在し、前記油溝(81a)は、溝部及び傾斜部からなり、前記半割スラスト軸受(8)を前記摺動面(81)の周方向に切断した断面で見ると、前記傾斜部は、前記溝部の一方の端部(81aE)または両端部に隣接し、摺動面側から溝部側に向かって壁厚が小さくなる、請求項4に記載された半割スラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるスラスト軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受を円筒形状に組み合わせて構成される主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に回転自在に支承される。一対の半割軸受のうちの一方又は両方が、クランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受と組み合わせて用いられる。半割スラスト軸受は、半割軸受の軸線方向端面の一方又は両方に配設される。半割スラスト軸受は、クランク軸に生じる軸線方向力を受ける。すなわち、クラッチによってクランク軸と変速機とが接続される際等に、クランク軸に対して入力される軸線方向力を支承することを目的として配置される。
【0003】
一般的に半割スラスト軸受の軸線方向力を受ける摺動面およびその反対側の背面は、半割スラスト軸受の軸線方向に垂直な平面と平行になされ、摺動面と背面との間の厚さは、一定になされている。また、半割スラスト軸受の周方向両端近傍の摺動面側には、周方向端面へ向かって軸受部材の厚さが薄くなるスラストリリーフが形成される。一般にスラストリリーフは、半割スラスト軸受の周方向端面から摺動面までの長さや周方向端面での深さが、径方向の位置によらずに一定になるように形成される。スラストリリーフは、半割スラスト軸受を分割型軸受ハウジング内に組み付ける際の一対の半割スラスト軸受の端面同士の位置ずれを吸収するために形成される(特許文献1の図10参照)。
【0004】
従来、内燃機関の運転時のクランク軸の撓み変形を考慮して、半割スラスト軸受の摺動面の少なくとも外径側に曲面形状のクラウニング面を設け、それにより半割スラスト軸受の摺動面のクランク軸との局所的な接触応力を低減することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-201145号公報
【特許文献2】特開2013-19517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、内燃機関の軽量化のためにクランク軸の軸径が小径化され、従来のクランク軸よりも低剛性となっている。このため、内燃機関の運転時にクランク軸に撓みが発生しやすく、クランク軸の振動が大きくなる傾向にあり、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面に対するスラストカラー面の傾斜が特に大きくなる。したがって、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面とクランク軸のスラストカラー面とが接触し、損傷(疲労)が起きやすくなっている。
【0007】
半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面とクランク軸のスラストカラー面とが接触し、損傷(疲労)が起きやすくなることを防止するために特許文献2に記載されたように摺動面の少なくとも外径側に曲面形状のクラウニング面を設けても、上述のクランク軸の撓みによる振動が大きい場合には、特に半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面が、クランク軸のスラストカラーと接触し、損傷(疲労)することを防止することは困難である。
【0008】
したがって本発明の目的は、上記問題に対処し、内燃機関の運転時に、損傷(疲労)が生じにくい半割スラスト軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための略半円環形状の半割スラスト軸受が提供される。半割スラスト軸受は、軸線方向力を受ける摺動面及びその反対側の背面を有し、摺動面と背面との間の軸受壁厚が一定である。
半割スラスト軸受の軸線方向に垂直な基準面を以下の通り定義する。すなわち、基準面は、半割スラスト軸受の摺動面側に、摺動面から離間しており、半割スラスト軸受の周方向中央部における摺動面の径方向中心線と平行となり、且つ、摺動面の周方向両端部にて基準面との間の軸線方向距離が同じとなる仮想面と定義する。
そうすると、摺動面と基準面との間の軸線方向距離は、径方向のいずれの位置においても径方向中心線部において最大であり、摺動面の周方向端部側に向かって周方向に連続して小さくなる。
【0010】
本発明の一具体例によれば、径方向中心線における摺動面と基準面との間の軸線方向距離と周方向端部における摺動面と基準面との間の軸線方向距離との差が50~150μmである。
【0011】
本発明の一具体例によれば、摺動面に、半割スラスト軸受の周方向両端面にそれぞれ隣接して、2つのスラストリリーフが形成される。
【0012】
本発明の一具体例によれば、摺動面に少なくとも1つの油溝が形成される。
【0013】
本発明の一具体例によれば、油溝は、半割スラスト軸受の径方向に延在し、油溝は、溝部及び傾斜部からなり、半割スラスト軸受を摺動面の周方向に切断した断面で見ると、傾斜部は、溝部の一方の端部または両端部に隣接し、摺動面側から溝部側に向かって壁厚が小さくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半割スラスト軸受によれば、内燃機関の運転時のクランク軸の撓みに起因して半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面に対するクランク軸のスラストカラー面の傾斜角度が大きくなった場合でも、半割スラスト軸受の周方向両端部付近の摺動面がクランク軸のスラストカラー面と接触するので、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面のみがクランク軸のスラストカラー面と接触することが防止され、半割スラスト軸受の摺動面の損傷が起きにくい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】軸受装置の分解斜視図である。
図2】半割軸受及びスラスト軸受の正面図である。
図3】軸受装置の断面図である。
図4】従来技術の半割スラスト軸受の正面図である。
図5図4の従来技術の半割スラスト軸受のY2矢視側面図である。
図6】従来技術の半割スラスト軸受の作用を説明するための側面図である。
図7】実施例1の半割スラスト軸受の正面図である。
図8図7の半割スラスト軸受のA-A断面図である。
図9図7の半割スラスト軸受のY1矢視底面図である。
図10】実施例の作用を説明するための半割スラスト軸受の断面図である。
図11】実施例の作用を説明するための半割スラスト軸受の断面図である。
図12】実施例2の半割スラスト軸受の正面図である。
図13図12の半割スラスト軸受のY3矢視側面図である。
図14】実施例3の半割スラスト軸受の正面図である。
図15図14の半割スラスト軸受のB-B断面図である。
図16】本発明の他の形態の半割スラスト軸受の正面図である。
図17図16の半割スラスト軸受の周方向端部付近の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
(軸受装置の全体構成)
まず、図1図3を用いて軸受装置1の全体構成を説明する。図1図3に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー面12を介して軸線方向力f(図3参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。
【0018】
(従来技術)
次に、図4図6を用いて、従来の半割スラスト軸受18の問題点を説明する。
図4は、従来の半割スラスト軸受18の正面図を示し、図5は、図4に示す半割スラスト軸受18のY2矢視から見た側面図を示す。従来の半割スラスト軸受18の摺動面181および背面184は、半割スラスト軸受18の軸線方向に垂直な平面になっている。
【0019】
図6は、内燃機関の運転時のクランク軸の撓みに起因して従来の半割スラスト軸受18の周方向中央部付近の摺動面181に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった状態を示す(符号186が周方向端面を示す)。従来の半割スラスト軸受18の摺動面181および背面184は、軸線方向に垂直な平面状のため、半割スラスト軸受18の周方向中央部付近の摺動面181に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった場合、半割スラスト軸受18の周方向中央部付近の摺動面181のみがクランク軸のスラストカラー面12と強く接触するので、周方向中央部付近の摺動面181に損傷(疲労)が起きやすいという問題があった。
【実施例0020】
(半割スラスト軸受の構成)
次に、図7図11を用いて本発明の実施例1の半割スラスト軸受8の構成について説明する。図7は、半割スラスト軸受8の正面図を示し、図8は、図7に示す半割スラスト軸受のA-A断面図を示し、図9は、図7に示す半割スラスト軸受8のY1矢視の底面図を示す。本実施例の半割スラスト軸受8は、鋼製の裏金層に薄い軸受合金層を接着したバイメタルによって、略半円環形状に形成される(半割スラスト軸受8は下記の通り図7の紙面垂直方向に湾曲しているので、「略」半円環形状と称する)。半割スラスト軸受8は、軸線方向を向いた摺動面81を備え、摺動面81は軸受合金層から構成される。半割スラスト軸受8は、摺動面81の反対側に背面84を備える。
【0021】
摺動面81には、潤滑油の保油性を高めるために油溝81aを有してもよい。図7および図2には、2つの油溝81a、81aが形成されているが、本実施例とは異なり、摺動面81には、油溝81aが1個または3個以上形成されてもよい。ただし、油溝81aが形成される場合、油溝81aの部分の「摺動面81」とは、油溝81aが存在しないと仮定した場合の仮想面をいう。
【0022】
摺動面81は、半割スラスト軸受8の周方向で全体として摺動面81側から背面84側へ向かう方向に凸状に彎曲している。ここで、「彎曲している」とは、摺動面81が全体として1つの曲面となるように湾曲していればよく、曲面の曲率が周方向で変化してもよい(他の実施例も同様である)。背面84は、摺動面81と平行になされている。すなわち、摺動面81と背面84との間の摺動面81に垂直方向の軸受壁厚Tは、一定になされているので、背面84は、摺動面と対応する形状になる。なお、軸受壁厚Tは、僅かな変位(15μm以下)を有していてもよい。
【0023】
半割スラスト軸受8の軸線方向に垂直な基準面90を以下の通り定義する。
半割スラスト軸受8の周方向中央部Cにおける摺動面81の径方向に沿った線を径方向中心線(CL)と称する。基準面90を、半割スラスト軸受8の摺動面81が基準面90を向き、基準面90が摺動面81から離間し、半割スラスト軸受8の摺動面81の径方向中心線(CL)が基準面90と平行となり、且つ、摺動面81の周方向両端部86にて基準面90との間の軸線方向距離L2が同じとなる仮想面。
軸線方向は基準面90と垂直な方向であり、軸線は、半割スラスト軸受8の円中心を通り軸線方向に延びる仮想線であり、軸線方向距離とは、2つの対象物の軸線方向の離間距離をいう。
【0024】
基準面90をこのように定義すると、摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離Lは、径方向のいずれの位置においても径方向中心線CL部において最大(L1)であり、摺動面81の周方向端部86側(L2)に向かって(周方向に)連続して小さくなる(図8図9参照)。この時、半割スラスト軸受8の背面84と基準面90との間の軸線方向距離も、径方向のいずれの位置においても径方向中心線部において最大であり、背面84の周方向端部側に向かって(周方向に)連続して小さくなる。摺動面81と背面84は平行なので、背面84についても同様の関係が成り立つことは言うまでもない。
【0025】
具体的には、乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(直径が30~100mm程度のジャーナル部を有する)に使用する場合、半割スラスト軸受8の周方向中央部C(径方向中心線CL部)における摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離L1と周方向端部86における摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離L2の差L3(L3=L1-L2)は、例えば25~200μmであり、より好適には50~150μmである。この軸線方向距離の差L3が25μm未満の場合には、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった時に、周方向端部付近の摺動面81がクランク軸のスラストカラー面12と接触しなくなり、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81のみがスラストカラー面12と接触しやすくなる。また、この軸線方向距離の差L3が200μmを超える場合には、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった時に、周方向端部86付近の摺動面81に加わる負荷が大きくなり過ぎて損傷することがある。しかし、これらの寸法は一例に過ぎず、軸線方向距離の差L3はこの寸法範囲に限定されない。
【0026】
本実施例の半割スラスト軸受8は、周方向中央部Cにおける径方向中心線CL(およびそれに対応する背面84の径方向中心線)は、径方向の全長に亘って基準面90と平行な直線(すなわち、平坦)となっている。しかし、これに限定されないで、例えば、摺動面81および背面84は、周方向中央部C及他の位置における径方向の断面視にて背面84側から摺動面81側へ向かって僅かに突出した一つの(凸形状の)彎曲形状を有してもよく、または径方向の断面視にて摺動面81側から背面84側へ向かって僅かに突出した一つの(凸形状の)彎曲形状を有してもよく、その他の曲線であってもよい。周方向中央部Cにおける摺動面が径方向で彎曲している場合、半割スラスト8は、径方向外側端部8oにおける径方向中心線CLと基準面90との間の軸線方向距離L1と径方向内側端部8iにおける径方向中心線CLと基準面90との間の軸線方向距離L1が同じとなるように配置された状態が、「半割スラスト軸受8の摺動面81の径方向中心線CLが基準面90と平行」になる。この配置の状態での径方向中心線CLの径方向内側端部8iおよび径方向外側端部8oでの軸線方向距離L1が、「周方向中央部C(径方向中心線CL部)における摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離L1」と定義される。
【0027】
また、本実施例の半割スラスト軸受8は、周方向端部86(周方向端面83)における摺動面81(線状表面)が基準面90と平行になされている。しかし、これに限定されないで、周方向端部86(周方向端面83)における摺動面81(線状表面)が基準面90に対して僅かに傾斜してもよい。周方向端部86(周方向端面83)における摺動面81(線状表面)が基準面90に対して傾斜している場合、軸線方向距離L2は、周方向端部86(周方向端部83)の摺動面81(線状表面)にて基準面90との軸線方向距離Lが最小となる位置における軸線方向距離として定義される。
【0028】
また、半割スラスト軸受8は、摺動面81の周方向中央部C(径方向中心線CL)を含む位置に油溝81aが形成される場合には、油溝81aを形成しなかった場合の仮想の摺動面81において径方向中心線CLを想定し、軸線方向距離L1は、半割スラスト軸受8の周方向中央部Cにおける仮想の摺動面81と基準面81aとの間の軸線方向距離として定義される。
【0029】
半割スラスト軸受8は、背面84がシリンダブロック2の受座6に配置され、摺動面81は、クランク軸のスラストカラー面12を介して軸線方向力f(図3参照)を受けるようになっている。
図10は、半割スラスト軸受8の背面84の径方向中心線(摺動面81の径方向中心線CLと反対側の背面84の線状表面)がシリンダブロック2の受座6と平行となるように(受座6)に接し、且つ、背面84の周方向両端部にてシリンダブロック2の受座6との間の軸線方向距離L4が同じとなるように配置された時の半割スラスト軸受8の断面図である。半割スラスト軸受8の背面84と受座6との間には、半割スラスト軸受8の周方向端面83側へ向かって連続して大きくなる軸線方向の隙間S2が形成される。また、半割スラスト軸受8の摺動面81は、摺動面81が向く方向への軸線方向の偏位量が半割スラスト軸受8の周方向中央部Cにおいて最小で、周方向端部側へ向かって連続して大きくなる。
【0030】
(作用)
次に、図11を用いて本実施例の半割スラスト軸受8の作用を説明する。
図11は、内燃機関の運転時のクランク軸の撓みに起因して半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった状態を示す。半割スラスト軸受8の摺動面81は、摺動面81が向く方向(スラストカラー面12側)への軸線方向の偏位が周方向端部側へ向かって連続して大きくなっている。このため、半割スラスト軸受8の周方向中央部C付近の摺動面81に対するクランク軸のスラストカラー面12の傾斜角度が大きくなった場合でも、周方向両端部86付近の摺動面81がクランク軸のスラストカラー面12と接触するので、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81のみがクランク軸のスラストカラー面と接触することが防止される。
また、半割スラスト軸受8の背面84と受座6との間には、半割スラスト軸受8の周方向端面83側へ向かって連続して大きくなる軸線方向の隙間S2が形成され、周方向両端部86付近の摺動面81がクランク軸のスラストカラー面12と接触すると、半割スラスト軸受8の周方向端面83部付近は、隙間S2側へ向かって弾性変形することで、摺動面81の軸線方向の偏位が小さくなる。このため、半割スラスト軸受8の周方向端部86付近の摺動面81のみがクランク軸のスラストカラー面12と接触することも防止される。このため、発明の半割スラスト軸受8は、摺動面81の損傷が起きにくい。
【実施例0031】
図12図13を用いて、実施例1とは別の形態の半割スラスト軸受8について説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一又は類似の部分の説明については同一の符号を付して説明する。
【0032】
図12は、実施例2の半割スラスト軸受8の摺動面81側を見た正面図を示し、図13は、図12の半割スラスト軸受8のY3矢視側面図を示す。
【0033】
(構成)
まず、構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8の構成は、スラストリリーフ82、82の構成を除いて実施例1と概ね同様である。
【0034】
本実施例の半割スラスト軸受8は、周方向両側の端面83、83に隣接する領域にスラストリリーフ82、82を備えている。
【0035】
スラストリリーフ82は、周方向両端面83、83に隣接する摺動面81側の領域に、半割スラスト軸受8の軸受壁厚Tが端面に向かって徐々に薄くなるように形成される壁厚減少領域であり、半割スラスト軸受8の周方向端面83の径方向全長に亘って延びている。スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8を分割型の軸受ハウジング4内に組み付けた際の位置ずれ等に起因する、一対の半割スラスト軸受8、8の周方向端面83、83同士の位置ずれを緩和するために形成される。
【0036】
この場合も、摺動面81は、油溝81aおよびスラストリリーフ82の部分はそれらが存在しないと仮定した場合の仮想面を含む。摺動面81は、半割スラスト軸受8の周方向で全体が摺動面81から背面84側へ向かう方向に凸状の1つの曲面となるように彎曲している。
【0037】
図12に示すように、スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8の径方向内側端部8iと径方向外側端部8oの間で一定のスラストリリーフ長さL5を有している。
乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30~100mm程度)に使用する場合、半割スラスト軸受8の周方向端面83からのスラストリリーフ長さL5は、3~25mmになされる。
【0038】
ここで、スラストリリーフ長さL5とは、半割スラスト軸受8の周方向両端面83を通る平面(スラスト軸受分割平面HP)から垂直方向に測った長さとして定義される。特に、径方向内側端部におけるスラストリリーフ長さL5は、半割スラスト軸受8の周方向端面83から、スラストリリーフ表面82が摺動面81と交わる点までの垂直方向の長さとして定義される。
【0039】
また半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82は、周方向端面83において、半割スラスト軸受8の径方向内側端部8iと径方向外側端部8oとの間で一定の深さRD1を有するように形成できる。スラストリリーフ82の深さRD1は、0.1~1mmにすることができる。
【0040】
ここで、スラストリリーフ82の深さRD1とは、半割スラスト軸受8の摺動面81からスラストリリーフ82の表面までの摺動面81に垂直な方向の距離を意味する。換言すれば、深さは、摺動面81をスラストリリーフ82上まで延長した仮想摺動面からスラストリリーフ82の表面まで垂直に測った距離である。したがって深さRD1は、特に、半割スラスト軸受8の周方向端面83におけるスラストリリーフ82の表面から仮想摺動面までの深さとして定義される。
【0041】
しかし、これらのスラストリリーフ長さL5の寸法およびはスラストリリーフ82の深さRD1の寸法は一例に過ぎず、これらの寸法範囲に限定されない。また、スラストリリーフ長さL5の寸法およびはスラストリリーフ82の深さRD1の寸法は、半割スラスト軸受8の径方向内側端部8iと径方向外側端部8oとの間で変化するように形成してもよい。
【0042】
上記の通り、スラストリリーフ82を形成した場合、軸線方向距離L2は、周方向端部におけるスラストリリーフ82を形成しなかった場合の仮想摺動面と基準面90との間の軸線方向距離として定義される。
【実施例0043】
図14図15を用いて、実施例1とは別の形態の半割スラスト軸受8について説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一又は類似の部分の説明については同一の符号を付して説明する。
【0044】
図14は、実施例3の半割スラスト軸受8の摺動面81側を見た正面図を示し、図15は、図14の半割スラスト軸受8のB-B断面図を示す。
【0045】
(構成)
まず、構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8の構成は、油溝81aの構成、および傾斜面85F、85Rの構成を除いて実施例1と概ね同様である。
【0046】
この実施例でも、摺動面81(油溝81aおよび傾斜面85F、85Rの部分はそれらが存在しないと仮定した場合の仮想面を含む)は、半割スラスト軸受8の周方向で全体が摺動面81から背面84側へ向かう方向に凸状の1つの曲面となるように彎曲している。
【0047】
傾斜面85F、85Rの構成の理解を容易にするために図15において摺動面81および背面84は、半割スラスト軸受8の軸線方向に垂直な平面と平行となるように描いている。本実施例の半割スラスト軸受8は、摺動面81側に(半割スラスト軸受の中心から)放射状に延びる4個の油溝81aを備えている。
【0048】
半割スラスト軸受8は、摺動面81側には、傾斜面85F,85Rを備えている。傾斜面85F、85Rは、油溝81aの周方向端部81aE、81aEに隣接する摺動面81側の領域に、半割スラスト軸受8の壁厚Tが摺動面81から油溝81aの周方向端部81aE、81aEに向かって徐々に薄くなり、油溝81aの周方向端部81aEと隣接する位置において最小の厚さT1となるように形成される壁厚減少領域であり、半割スラスト軸受8の径方向全長に亘って延びている。傾斜面85F、85Rは、内燃機関の運転時に傾斜面85F、85Rとスラストカラー面12のとの間の隙間を流れる油の圧力を高めて、半割スラスト軸受8の負荷能力を高めるために形成される。
【0049】
摺動面81からから油溝81aの周方向端部81aEと隣接する位置における傾斜面85F、85Rの表面までの摺動面81に垂直方向の長さとして定義される傾斜面の深さD0は、5~80μmとすることができる。各傾斜面85F、85Rの半割スラスト軸受8の周方向に平行方向の長さは、円周角度5°~25°に相当する長さすることができる。しかし、これらの傾斜面の深さD0の寸法およびは傾斜面の長さの寸法は一例に過ぎず、これらの寸法範囲に限定されない。
【0050】
なお、本実施例に限定されないで、油溝81aのスラストカラー面12の回転方向X(図14のX矢印方向)の前方側の周方向端部81aEに隣接する傾斜面85Fのみを形成し、油溝81aのクランク軸(スラストカラー面12)の回転方向Xの後方側の周方向端部81aEに隣接する傾斜面85Rは形成しないようにしてもよい。
【0051】
また、半割スラスト軸受8は、摺動面81の周方向中央部C(径方向中心線CL)を含む位置に油溝81aまたは傾斜面85F、85Rが形成される場合には、油溝81aまたは傾斜面85F、85Rを形成しなかった場合の仮想の摺動面81において径方向中心線CLを想定して、軸線方向距離L1は、半割スラスト軸受8の周方向中央部Cにおける仮想の摺動面81と基準面90との間の軸線方向距離として定義される。また、半割スラスト軸受8は、摺動面81の周方向端部86を含む位置に油溝81aが形成される場合には、軸線方向距離L2は、周方向端部86における油溝81aを形成しなかった場合の仮想摺動面と基準面90との間の軸線方向距離として定義される。
【0052】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更が本発明に含まれることを理解すべきである。
【0053】
例えば実施例では、半割軸受と半割スラスト軸受が分離しているタイプの軸受装置1について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、半割軸受と半割スラスト軸受が一体化したタイプの軸受装置1にも適用できる。
【0054】
また図16に示すように、半割スラスト軸受は、位置決め及び回転止めのために、径方向外側に突出する突出部88を備えていてもよい。なお、突出部88は、上述した軸線方向距離L1、L2および軸受壁厚Tの構成を満足していなくてもよい。
また図16及び17に示すように、半割スラスト軸受の周方向長さは、実施例1に示す半割スラスト軸受8の周方向端面の位置(スラスト軸受分割平面HP)から所定の長さS1だけ短く形成されてもよい。さらに、半割スラスト軸受は、周方向両端部近傍において内周面を半径Rの円弧状に切り欠かれてもよい。また、半割スラスト軸受の背面84と、周方向端面83に隣接する領域に背面リリーフ82Bを形成することもできる。
【0055】
また、半割スラスト軸受の摺動面と径方向外側の縁部及び/又は径方向内側の縁部に、周方向に沿って面取りを形成するもこともできる。その場合、半割スラスト軸受の軸受壁厚Tは、面取りを形成しなかった場合の軸受壁厚によって表すことができる。
【0056】
また上記実施例は、軸受装置に半割スラスト軸受を4つ使用する場合について説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも1つの本発明による半割スラスト軸受を使用することで所望の効果を得ることができる。また軸受装置において、本発明の半割スラスト軸受は、クランク軸を回転自在に支承する半割軸受の軸線方向の一方又は両方の端面に一体に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 軸受装置
11 ジャーナル部
12 スラストカラー面
2 シリンダブロック
3 軸受キャップ
4 軸受ハウジング
5 軸受孔(保持孔)
6 受座
7 半割軸受
71 潤滑油溝
72 貫通孔
8 半割スラスト軸受
81 摺動面
81a 油溝
82 スラストリリーフ
82B 背面リリーフ
83 周方向両端面
84 背面
85F 傾斜面
85R 傾斜面
86 周方向両端部
88 突出部
90 基準面
C 周方向中央部
CL 径方向中心線
HP スラスト軸受分割平面
L1 軸線方向距離
L2 軸線方向距離
L3 軸線方向距離の差
L4 軸線方向距離
L5 スラストリリーフ長さ
RD1 スラストリリーフの深さ
T 軸受壁厚
T1 軸受壁厚
X 回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17