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特開2024-47733エア混入判定装置及びエア混入判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047733
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】エア混入判定装置及びエア混入判定方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 51/00 20060101AFI20240401BHJP
   F04B 49/10 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F04B51/00
F04B49/10 311
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153392
(22)【出願日】2022-09-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】岡 祐介
(72)【発明者】
【氏名】北本 雄祐
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀生
(72)【発明者】
【氏名】竹本 翔一
(72)【発明者】
【氏名】淺坂 雅史
【テーマコード(参考)】
3H145
【Fターム(参考)】
3H145AA24
3H145BA33
3H145BA46
3H145BA48
3H145CA01
3H145EA13
3H145EA35
3H145EA37
3H145FA02
3H145FA19
3H145FA25
3H145FA26
3H145FA27
(57)【要約】
【課題】油圧ポンプモータの稼働中にエアの混入を判定可能にすることを目的とする。
【解決手段】エア混入判定装置60は、シリンダ21と、シリンダ21内を並進運動するピストン22と、シリンダ21内の圧力を計測する圧力センサ23と、備えた油圧ポンプモータのシリンダ21内におけるエアの混入を判定する。エア混入判定装置60は、シリンダ21内の圧力情報を圧力センサ23から取得する取得部61と、シリンダ21内のエアの混入量が所定量以下である場合のシリンダ21内の圧力変化に関する基準データと、圧力情報が示すシリンダ21内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、シリンダ21内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する判定部62と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダ内を並進運動するピストンと、前記シリンダ内の圧力を計測する圧力センサと、備えた油圧ポンプモータの前記シリンダ内におけるエアの混入を判定するエア混入判定装置であって、
前記シリンダ内の圧力情報を前記圧力センサから取得する取得部と、
前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合の前記シリンダ内の圧力変化に関する基準データと、前記圧力情報が示す前記シリンダ内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、前記シリンダ内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する判定部と、を備える、
エア混入判定装置。
【請求項2】
前記基準データには、前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合における前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの基準時間が含まれており、
前記判定部は、前記対象データにおける前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの時間である対象時間と、前記基準時間との比較に基づいて、前記シリンダ内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する、
請求項1に記載のエア混入判定装置。
【請求項3】
前記基準データには、前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合における前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの基準時間が含まれており、
前記判定部は、前記対象時間が前記基準時間を超える場合に、前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたと判定する、
請求項2に記載のエア混入判定装置。
【請求項4】
前記エア混入判定装置は、前記判定部が前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたと判定した場合に、アラームを出力する又はエアを抜く動作を前記油圧ポンプモータに実行させる制御信号を出力する出力部を備える、
請求項3に記載のエア混入判定装置。
【請求項5】
シリンダと、前記シリンダ内を並進運動するピストンと、前記シリンダ内の圧力を計測する圧力センサと、備えた油圧ポンプモータの前記シリンダ内におけるエアの混入を判定するエア混入判定方法であって、
コンピュータ装置に、
前記シリンダ内の圧力情報を前記圧力センサから取得する取得ステップと、
前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合の前記シリンダ内の圧力変化に関する基準データと、前記圧力情報が示す前記シリンダ内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、前記シリンダ内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する判定ステップと、を実行させる、
エア混入判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エア混入判定装置及びエア混入判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポンプ又はモータのいずれかとして選択的に作動可能な油圧ポンプモータが開示されている。特許文献1に記載の油圧ポンプモータは、クランクシャフトの周囲に放射状に配置され、クランクシャフトの回転に伴って容積が周期的に変化する複数のシリンダと、各シリンダと低圧ラインとの間の作動油の流れを調整する低圧バルブと、各シリンダと高圧ラインとの間の作動油の流れを調整する高圧バルブと、低圧バルブ及び高圧バルブの開閉を制御する制御部と、を備えている。
【0003】
このような油圧ポンプモータは、例えば、ソレノイドアクチュエータへの通電によって低圧バルブや高圧バルブの開閉を制御することで、低圧ラインから高圧ラインへ作動油をポンピングしたり、高圧ラインの圧力でクランクシャフトを加速するモータリングをしたりする事ができる。ポンピングもモータリングも必要ない場合、ソレノイドアクチュエータへ通電しないことで、低圧ラインから入った作動油が低圧バルブを通ってシリンダ内へ入り、再度低圧バルブを通って低圧ラインへ出ていくだけのアイドリング状態になるよう構成したものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-535906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の油圧ポンプモータのように、シリンダをクランクシャフトの周囲に放射状に配置する構造の場合、シリンダの位置によっては、シリンダの上部に混入したエアが留まり続けやすい。作動油で満たされるべきシリンダ内にエアが混入した状態だと、バルブ作動の応答の悪化、効率の悪化、キャビテーションの発生、潤滑性の低下等の悪影響が生じるおそれがある。エアの混入を早期に発見することは重要であり、油圧ポンプモータの稼働中に上記のような悪影響が生じてしまう前に、エアの混入を判定したいというニーズがある。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本開示は、油圧ポンプモータの稼働中にエアの混入を判定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係るエア混入判定装置は、
シリンダと、前記シリンダ内を並進運動するピストンと、前記シリンダ内の圧力を計測する圧力センサと、備えた油圧ポンプモータの前記シリンダ内におけるエアの混入を判定するエア混入判定装置であって、
前記シリンダ内の圧力情報を前記圧力センサから取得する取得部と、
前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合の前記シリンダ内の圧力変化に関する基準データと、前記圧力情報が示す前記シリンダ内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、前記シリンダ内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する判定部と、を備える。
【0008】
本開示の一実施形態に係るエア混入判定方法は、
シリンダと、前記シリンダ内を並進運動するピストンと、前記シリンダ内の圧力を計測する圧力センサと、備えた油圧ポンプモータの前記シリンダ内におけるエアの混入を判定するエア混入判定方法であって、
コンピュータ装置に、
前記シリンダ内の圧力情報を前記圧力センサから取得する取得ステップと、
前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合の前記シリンダ内の圧力変化に関する基準データと、前記圧力情報が示す前記シリンダ内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、前記シリンダ内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する判定ステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、油圧ポンプモータの稼働中にエアの混入を判定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態に係るエア混入判定装置を示す模式図である。
図2図2は、油圧ポンプモータのバルブユニットの構造の一例を示す模式図である。
図3図3は、シリンダ内へのエアの混入の一例を示す模式図である。
図4図4は、遅れ時間と気泡混入量の関係の一例を示すグラフである。
図5図5は、シリンダ内の圧力変化の一例を示すグラフである。
図6図6は、本開示の一実施形態に係るエア混入判定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態に係るエア混入判定装置及びエア混入判定方法について図面を参照しながら説明する。各図面において、同一又は同等の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、各図面に示された各構成要素の寸法は、説明の便宜上のものであって、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0012】
(エア混入判定装置)
まず、図1及び図2を用いて、エア混入判定装置について説明する。図1は、本開示の一実施形態に係るエア混入判定装置60を示す模式図である。また、図1には、エア混入判定装置60の判定対象である油圧ポンプモータ100も示されている。図2は、図1に示すバルブユニットの構造の一例を示す模式図である。
【0013】
油圧ポンプモータ100は、電子制御式の可変容量型のポンプモータである。図1に示すように、油圧ポンプモータ100は、バルブユニット10A~D(以下、まとめて「バルブユニット10」とも称する)と、複数のシリンダ21及び複数のピストン22と、クランクカム31と、クランクシャフト32と、高圧ライン40と、低圧ライン50と、タンク70と、を備える。
【0014】
クランクカム31は、駆動源(不図示)に接続されたクランクシャフト32に固定されている。クランクカム31の周囲には、放射状に、かつ作動油の吸入排出サイクル上で等間隔になるように、複数のシリンダ21及び複数のピストン22が配置されている。本例では、シリンダ21及びピストン22の数はそれぞれ4つであり、90°毎に配置されているが、シリンダ21及びピストン22の数は適宜変更可能である。クランクシャフト32の回転に伴ってクランクカム31が回転することにより、クランクカム31の周囲に配置された各ピストン22が、対応するシリンダ21内を並進運動する。
【0015】
各シリンダ21には、バルブユニット10が接続される。図2に示すように、バルブユニット10は、アクチュエータ11と、高圧バルブ12と、低圧バルブ14と、を含む。アクチュエータ11は、例えば、電磁ソレノイドである。
【0016】
高圧バルブ12は、例えば、アクチュエータ11が通電状態である場合に開き、高圧ライン40とシリンダ21とを連通させる。このとき、低圧バルブ14は閉じている。この状態において、排出工程ではシリンダ21内の作動油が高圧ライン40へ排出され、吸入工程では高圧ライン40からシリンダ21内へ作動油が吸入される。高圧ライン40は、例えば、高圧ライン40から送出された作動油によって動作する油圧モータ(不図示)に接続される。
【0017】
低圧バルブ14は、例えば、アクチュエータ11が非通電状態である場合に開き、低圧ライン50とシリンダ21とを連通させる。このとき、高圧バルブ12は閉じている。この状態において、排出工程ではシリンダ21内の作動油が低圧ライン50へ排出され、吸入工程では低圧ライン50からシリンダ21内へ作動油が吸入される。低圧ライン50は、例えば、作動油を貯蔵するタンク70に接続される。
【0018】
また、シリンダ21には、シリンダ21内の作動油の圧力を測定する圧力センサ23が設けられている。圧力センサ23は、シリンダ21と高圧バルブ12の間の流路に設けられていてもよい。圧力センサ23は、シリンダ21内の圧力を計測し、圧力情報をエア混入判定装置60へと送信する。
【0019】
エア混入判定装置60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するコンピュータ装置である。エア混入判定装置60は、例えば、CPUがROMから読み出したコンピュータプログラムをRAM上で実行することにより、取得部61、判定部62、及び出力部63の各機能を実現しうる。
【0020】
取得部61は、例えば、無線又は有線による通信によって、シリンダ21内の圧力情報を圧力センサ23から取得する。圧力センサ23から取得した圧力情報は、エアの混入を判定するための対象データとして、RAM又はROMに記憶される。
【0021】
判定部62は、例えば、シリンダ21内のエアの混入量が所定量以下である場合のシリンダ21内の圧力変化に関する基準データと、取得部61が取得した圧力情報が示すシリンダ21内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、シリンダ21内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する。
【0022】
上記所定量は、油圧ポンプモータ100の動作に悪影響が生じるおそれがほぼない量であれば、特に制限されず、シリンダ21のサイズや作動油の種類等に応じて、適宜決定すればよい。一例として、上記所定量は、シリンダ21内の作動油の気泡混入率が95%以下となる程度の量である。基準データは、シリンダ21内にエアが混入していない場合のシリンダ21内の圧力変化に関するデータであってもよい。
【0023】
基準データは、予めROMに記憶されている。基準データには、例えば、シリンダ21内のエアの混入量が所定量以下である場合における、シリンダ21内の圧力上昇が開始されてから最高圧力に到達するまでの時間である基準時間に関する情報が含まれることが好ましい。また、基準データには、例えば、シリンダ21内の圧力上昇が開始されてから最高圧力に到達するまでの時間経過と圧力の関係を示すデータが含まれていてもよい。
【0024】
判定部62は、例えば、対象データにおけるシリンダ21内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの時間である対象時間と、基準時間との比較に基づいて、シリンダ21内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定してもよい。
【0025】
また、判定部62は、例えば、対象時間がシリンダ21内のエアの混入量が所定量以下である場合における基準時間を超える場合に、シリンダ21内のエアの混入量が許容量を超えたと判定してもよい。
【0026】
出力部63は、例えば、シリンダ21内のエアの混入量が許容量を超えたと判定部62によって判定された場合に、アラームを出力する又はエアを抜く動作を油圧ポンプモータ100に実行させる制御信号を出力する。エア混入判定装置60の動作については、後の段落で更に詳しく説明する。
【0027】
なお、本実施形態において、エア混入判定装置60は、油圧ポンプモータ100の動作を制御する制御装置としての機能も担う。具体的には、エア混入判定装置60は、アクチュエータ11の通電状態と非通電状態を切り替える制御信号を出力することで、バルブユニット10内の低圧バルブ14及び高圧バルブ12の開閉を制御する。また、エア混入判定装置60は、バルブユニット10A~Dのそれぞれを個別に制御することが可能である。なお、油圧ポンプモータ100の動作を制御する制御装置は、エア混入判定装置60とは別のコンピュータ装置として構成してもよい。
【0028】
(エア混入判定方法)
次に、図3から図6を用いて、本開示の一実施形態に係るエア混入判定方法について説明する。図3は、シリンダ21内へのエアの混入の一例を示す模式図である。図3の上図は、ピストン22が下死点にある状態であり、図3の下図は、ピストン22が上死点にある状態である。この例では、低圧バルブ14が開いており、吸入工程において低圧ライン50からシリンダ21内に作動油Hを吸入し、排出工程においてシリンダ21内の作動油Hを低圧ライン50へ排出するアイドリング状態にある。
【0029】
図3の例のように、ピストン22の並進運動の方向が重力方向に対して傾いている場合、シリンダ21内に混入したエアAは、吸入工程及び排出工程を繰り返してもシリンダ21外へと排出されにくく、シリンダ21の上部に溜まり続ける。油圧ポンプモータ100のように、クランクカム31の周囲に放射状に複数のシリンダ21を配置する場合、そのうちのいくつかのシリンダ21では、図3の例のように混入したエアAがシリンダ21の外部へ排出されにくくなることが想定される。
【0030】
本発明者らは、油圧ポンプモータ100の稼働時において図3に示すようなシリンダ21内のエアの混入を発見する方法について鋭意検討したところ、シリンダ21内にエアAが混入している場合は、エアAが混入していない場合よりも、シリンダ21内の圧力上昇が緩やかになり、最高圧力に到達するまでの遅れ時間が発生することを見出した。これは、圧力の一部がエアAの圧縮に使われてしまうことに起因する。
【0031】
図4は、遅れ時間と気泡混入量の関係の一例を示すグラフである。図4に示すように、気泡混入量が多くなるほど、遅れ時間は増加していく。よって、シリンダ21内の圧力をモニタして遅れ時間を算出することで、気泡混入の有無や気泡混入量が推定可能になる。なお、遅れ時間と気泡混入量の関係は、シリンダ21のサイズや、作動油の種類等の条件で変わってくる。よって、エアAの混入判定の対象となる油圧ポンプモータ100の基準データは、予め測定又はシミュレートする等して、基準データとしてROMに記憶しておく。
【0032】
図5は、シリンダ21内の圧力変化の一例を示すグラフである。具体的には、図5は、ポンピング時のシリンダ21内の圧力変化を示している。図4において、ピストン22の上死点はアングルが0度の位置であり、ピストン22の下死点はアングルが180度及び-180度の位置である。グラフL0は、シリンダ21内に気泡がない場合の基準データである。グラフL1は、例えば、シリンダ21内の作動油Hの気泡混入率が95%のときの基準データであり、エアAの混入の許容量を示す。グラフL2は、取得部61によって取得された対象データである。
【0033】
グラフL0~L2は、いずれも、ピストン22が下死点に到達するよりも少し前の時間tから圧力の上昇が開始されているが、最高圧力に到達した時間が異なっている。グラフL0は、時間t0の時点で最高圧力に到達しているが、グラフL1は時間t0よりも遅れて時間t1の時点で最高圧力に到達している。また、グラフL2は、グラフL1よりも更に遅れて時間t2の時点で最高圧力に到達している。
【0034】
ここで、グラフL1における遅れ時間Dt1は、時間t1から時間t0を引いた値に相当する。また、グラフL2における遅れ時間Dt2は、時間t2から時間t0を引いた値に相当する。遅れ時間Dt2は遅れ時間Dt1よりも大きいので、グラフL2のケースでは、グラフL1のケースよりも多くのエアAを含んでいるといえる。
【0035】
本実施形態に係るエア混入判定方法では、例えば、グラフL0に対して遅れ時間が生じた場合、又は、遅れ時間がDt1よりも大きくなった場合に、シリンダ21内にエアAが混入していると判定しうる。また、本実施形態に係るエア混入判定方法では、対象データの遅れ時間の大きさに応じて、シリンダ21内の気泡混入量を推定してもよい。
【0036】
図6は、本開示の一実施形態に係るエア混入判定方法を示すフローチャートである。以下では、図5の各グラフL0~2にも言及しつつ、図6を用いて本開示の一実施形態に係るエア混入判定方法を詳述する。
【0037】
図6に示すように、まず、ステップS1において、油圧ポンプモータ100は、ポンピングを開始する。具体的には、吸入工程において低圧バルブ14を開き、低圧ライン50からシリンダ21内に作動油Hを吸入させる。また、続く排出工程において高圧バルブ12を開き、シリンダ21内の作動油Hを高圧ライン40へと圧送する。
【0038】
ポンピング時は、モータリング時やアイドリング時よりも、シリンダ21内にエアAが含まれている場合の遅れ時間が大きくなるため、以降のステップS3において、エアAの混入を判定しやすくなる。よって、本実施形態では、ポンピング時にエアの混入判定を行う。
【0039】
なお、本例において、ステップS1における高圧バルブ12及び低圧バルブ14の開閉は、油圧ポンプモータ100の制御装置を兼ねるエア混入判定装置60によって出力される制御信号に基づいて制御される。
【0040】
続くステップS2~S4の処理は、例えば、ポンピングが終了するまで繰り返され、ポンピングが終了した場合に終了する。まず、ステップS2において、エア混入判定装置60は、圧力センサ23からシリンダ21内の圧力情報を対象データとして取得し、シリンダ21内の圧力変化をモニタする。ステップS2では、特に、シリンダ21内の圧力上昇が開始されてから、最高圧力に到達するまでの時間をモニタすることが好ましい。
【0041】
次に、ステップS3において、エア混入判定装置60は、基準データと対象データとの比較に基づいて、エアAの混入を判定する。例えば、対象データに含まれる対象時間と基準データに含まれる基準時間に基づいて、対象時間及び基準時間の遅れ時間を比較することで、エアAの混入判定を簡単に行うことができる。
【0042】
本例では、ステップS3において、「式1:(対象データの最高圧力到達時間tx)-(グラフL0における最高圧力への到達時間t0)>グラフL1の遅れ時間Dt1」を満たすか否かを判定する。式1の左辺は、対象データの遅れ時間に相当する。よって、本例のステップSでは、シリンダ21内のエアAの混入量が許容量を超えているか否かを判定することになる。
【0043】
ステップS3では、対象データにおいて遅れ時間が発生するか否かによって、エアAの混入の有無を判定してもよい。また、図4を用いて説明したように、気泡混入量が多くなるほど遅れ時間は増加していく。よって、基準データとして、気泡混入量と遅れ時間の関係を示すデータをROMに予め記憶しておけば、エアAの混入の有無だけではなく、エアAの混入量を推定することも可能である。
【0044】
また、ステップS3では、最高圧力への到達時間の遅れ時間ではなく、基準データ及び対象データにおける所定の圧力への到達時間の遅れ時間に基づいて、エアAの混入を判定してもよい。また、基準データ及び対象データのグラフの形状の比較に基づいて、エアAの混入を判定してもよい。また、対象データと比較する基準データは、グラフL0やグラフL2ではなく、任意の気泡混入量に対応するデータであってもよい。
【0045】
式1を満たさない場合(ステップS3においてNO)、エアAの混入量は許容量以下にあるといえる。この場合、ステップS2に戻り、シリンダ21内の圧力変化のモニタを続ける。図4のグラフL2のように式1を満たす場合(ステップS3においてYES)、エアAの混入量が許容量を超えているといえる。この場合、ステップS4において、エア混入判定装置60は、エアを抜く動作を油圧ポンプモータ100に実行させる制御信号を出力し、油圧ポンプモータ100にエアを抜くための動作を実行させる。エアを抜くための動作は、特に制限されず、例えば、高圧ライン40の圧力を下げてポンピングを実行することでエア抜きを行ってもよいし、従来公知の他の方法を採用してもよい。また、ステップ4では、エアを抜くための動作をさせる制御信号を出力することに加えて或いは代えて、油圧ポンプモータ100の使用者に報知するためのアラームを出力してもよい。
【0046】
本実施形態に係るエア混入判定方法は、油圧ポンプモータ100のような、クランクカム31の周囲に放射状に複数のシリンダ21を配置してあるものに好適に用いられるが、他の形状の油圧ポンプモータに適用することもできる。
【0047】
以上、本開示に係る一実施形態について詳述したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。本発明には、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0048】
[付記]
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) シリンダと、前記シリンダ内を並進運動するピストンと、前記シリンダ内の圧力を計測する圧力センサと、備えた油圧ポンプモータの前記シリンダ内におけるエアの混入を判定するエア混入判定装置であって、
前記シリンダ内の圧力情報を前記圧力センサから取得する取得部と、
前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合の前記シリンダ内の圧力変化に関する基準データと、前記圧力情報が示す前記シリンダ内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、前記シリンダ内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する判定部と、を備える、
エア混入判定装置。
この構成によれば、油圧ポンプモータの稼働中にエアの混入を判定可能である。
結果として、エアの混入を早期に発見することが可能になり、バルブ作動の応答の悪化、効率の悪化、キャビテーションの発生、潤滑性の低下等の悪影響の発生の防止につなげることができる。
【0049】
(2) 前記基準データには、前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合における前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの基準時間が含まれており、
前記判定部は、前記対象データにおける前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの時間である対象時間と、前記基準時間との比較に基づいて、前記シリンダ内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する、
上記(1)に記載のエア混入判定装置。
この構成によれば、エアの混入判定を簡単に行うことができる。また、エアの混入量を推定することも容易になる。
【0050】
(3) 前記基準データには、前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合における前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの基準時間が含まれており、
前記判定部は、前記対象時間が前記基準時間を超える場合に、前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたと判定する、
上記(2)に記載のエア混入判定装置。
この構成によれば、エアの混入量が許容量を超える、すなわち、バルブ作動の応答の悪化、効率の悪化、キャビテーションの発生、潤滑性の低下等の悪影響の発生につながる事態にあることを把握可能になる。
【0051】
(4) 前記エア混入判定装置は、前記判定部が前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたと判定した場合に、アラームを出力する又はエアを抜く動作を前記油圧ポンプモータに実行させる制御信号を出力する出力部を備える、
上記(3)に記載のエア混入判定装置。
この構成によれば、許容量以上のエアの混入を早期に発見し、かつ、バルブ作動の応答の悪化、効率の悪化、キャビテーションの発生、潤滑性の低下等の悪影響の発生を抑制できる。
【0052】
(5) シリンダと、前記シリンダ内を並進運動するピストンと、前記シリンダ内の圧力を計測する圧力センサと、備えた油圧ポンプモータの前記シリンダ内におけるエアの混入を判定するエア混入判定方法であって、
コンピュータ装置に、
前記シリンダ内の圧力情報を前記圧力センサから取得する取得ステップと、
前記シリンダ内のエアの混入量が所定量以下である場合の前記シリンダ内の圧力変化に関する基準データと、前記圧力情報が示す前記シリンダ内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、前記シリンダ内へのエアの混入の有無又はエアの混入量を判定する判定ステップと、を実行させる、
エア混入判定方法。
この構成によれば、油圧ポンプモータの稼働中にエアの混入を判定可能である。
結果として、エアの混入を早期に発見することが可能になり、バルブ作動の応答の悪化、効率の悪化、キャビテーションの発生、潤滑性の低下等の悪影響の発生の防止につなげることができる。
【符号の説明】
【0053】
10,10A~D:バルブユニット
11:アクチュエータ
12:高圧バルブ
14:低圧バルブ
21:シリンダ
22:ピストン
23:圧力センサ
31:クランクカム
32:クランクシャフト
40:高圧ライン
50:低圧ライン
60:エア混入判定装置(コンピュータ装置)
61:取得部
62:判定部
63:出力部
70:タンク
100:油圧ポンプモータ
A:エア
H:作動油
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-12-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダ内を並進運動するピストンと、前記シリンダ内の圧力を計測する圧力センサと、備えた油圧ポンプモータの前記シリンダ内におけるエアの混入を判定するエア混入判定装置であって、
前記シリンダ内の圧力情報を前記圧力センサから取得する取得部と、
前記油圧ポンプモータのポンピング動作時に、前記シリンダ内にエアが混入していない場合の前記シリンダ内の圧力変化に関する基準データと、前記圧力情報が示す前記シリンダ内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたか否かを判定する判定部と、
前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたと前記判定部によって判定された場合に、エアを抜く動作を前記油圧ポンプモータに実行させる出力部と、
を備え
前記基準データには、前記シリンダ内にエアが混入していない場合における前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの基準時間が含まれており、
前記判定部は、前記対象データにおける前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの時間である対象時間と、前記基準時間とを比較し、前記対象時間が前記基準時間を超える場合に、前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたと判定する
エア混入判定装置。
【請求項2】
前記油圧ポンプモータは、回転駆動するクランクカムの周囲に、放射状に、前記シリンダ及び前記ピストンを複数配置した構成を有する
請求項1に記載のエア混入判定装置。
【請求項3】
シリンダと、前記シリンダ内を並進運動するピストンと、前記シリンダ内の圧力を計測する圧力センサと、備えた油圧ポンプモータの前記シリンダ内におけるエアの混入を判定するエア混入判定方法であって、
コンピュータ装置に、
前記シリンダ内の圧力情報を前記圧力センサから取得する取得ステップと、
前記油圧ポンプモータのポンピング動作時に、前記シリンダ内にエアが混入していない場合の前記シリンダ内の圧力変化に関する基準データと、前記圧力情報が示す前記シリンダ内の圧力変化に関する対象データとの比較に基づいて、前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたか否かを判定する判定ステップと、
前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたと判定された場合に、エアを抜く動作を前記油圧ポンプモータに実行させる出力ステップと、
を実行させる、
エア混入判定方法であって、
前記基準データには、前記シリンダ内にエアが混入していない場合における前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの基準時間が含まれており、
前記判定ステップでは、前記対象データにおける前記シリンダ内の圧力が上昇を開始してから最高圧力に到達するまでの時間である対象時間と、前記基準時間とを比較し、前記対象時間が前記基準時間を超える場合に、前記シリンダ内のエアの混入量が許容量を超えたと判定する
エア混入判定方法