IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝テック株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-液体吐出ヘッド 図1
  • 特開-液体吐出ヘッド 図2
  • 特開-液体吐出ヘッド 図3
  • 特開-液体吐出ヘッド 図4
  • 特開-液体吐出ヘッド 図5
  • 特開-液体吐出ヘッド 図6
  • 特開-液体吐出ヘッド 図7
  • 特開-液体吐出ヘッド 図8
  • 特開-液体吐出ヘッド 図9
  • 特開-液体吐出ヘッド 図10
  • 特開-液体吐出ヘッド 図11
  • 特開-液体吐出ヘッド 図12
  • 特開-液体吐出ヘッド 図13
  • 特開-液体吐出ヘッド 図14
  • 特開-液体吐出ヘッド 図15
  • 特開-液体吐出ヘッド 図16
  • 特開-液体吐出ヘッド 図17
  • 特開-液体吐出ヘッド 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047750
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20240401BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/14 307
B41J2/14 611
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153413
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003362
【氏名又は名称】弁理士法人i.PARTNERS特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁田 昇
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF99
2C057AG47
2C057AG99
2C057AM16
2C057AR03
2C057AR16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】圧電アクチュエータと駆動回路の発熱を抑えることのできる液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエータ6、共通電圧波形信号線、電源供給部、補助電位供給部73、トランジスタ、目標電圧波形生成部74、および制御回路を備える。電源供給部は、圧電アクチュエータに最大の変形を与える最大電位V1、変形を与えない最低電位V0、最大の変形より小さい定常変形を与える中間電位V2を供給する。補助電位供給部は、最大電位と中間電位の電位差、及び/又は、中間電位と最低電位の電位差を分圧して補助電位を生成する。トランジスタは、電源供給部及び補助電位供給部から供給される各電位の供給線と共通電圧波形信号線を選択的に接続する。目標電圧波形生成部は、目標電圧波形を生成する。制御回路は、目標電圧波形と共通電圧波形を比較し、共通電圧波形が目標電圧波形に近づくようにトランジスタを制御する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を吐出するようにそれぞれ構成した複数の圧電アクチュエータと、
複数の前記圧電アクチュエータに共通電圧波形を与える共通電圧波形信号線と、
前記圧電アクチュエータに最大の変形を与える最大電位、前記圧電アクチュエータに変形を与えない最低電位、前記圧電アクチュエータに前記最大の変形より小さい定常変形を与える中間電位を供給する電源供給部と、
前記最大電位と前記中間電位の電位差、及び/又は、前記中間電位と前記最低電位の電位差を分圧して補助電位を生成すると共に、キャパシタに前記補助電位の電荷を前記圧電アクチュエータに充放電可能に蓄える補助電位供給部と、
前記電源供給部及び前記補助電位供給部から供給される各電位の供給線と前記共通電圧波形信号線を選択的に接続するトランジスタ群と、
目標電圧波形を生成する目標電圧波形生成部と、
前記目標電圧波形と前記共通電圧波形を比較し、前記共通電圧波形が前記目標電圧波形に近づくように前記トランジスタ群を制御する制御回路と、を備えたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記目標電圧波形は、1ドットの液体を吐出する毎に前記中間電位で始まって前記中間電位で終わる波形であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
複数ドットの液体の吐出を繰り返し、最後のドットの液体の吐出が終了したら、前記共通電圧波形を前記最低電位に戻して一連の液体吐出動作を終了することを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記目標電圧波形は、前記補助電位を介して、前記最大電位、前記中間電位、前記最低電位のいずれかに変化する傾斜部を含み、
前記制御回路は、前記目標電圧波形と前記共通電圧波形を比較し、その電位差の大きさに応じた電圧を生成してON制御する前記トランジスタのゲートに与え、前記トランジスタのON抵抗を非飽和に変化させて前記傾斜部を含む共通電圧波形を生成することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
ノズルから液体を吐出するように構成した圧電アクチュエータと、
前記圧電アクチュエータに電圧波形を与える電圧印加部と、
前記圧電アクチュエータに最大の変形を与える最大電位、前記圧電アクチュエータに変形を与えない最低電位、前記圧電アクチュエータに前記最大の変形より小さい変形を与える複数の中間電位を供給する電源供給部と、
前記電源供給部から供給される各電位の供給線と前記電圧印加部を遮断するか又はON抵抗可変に接続する複数のトランジスタからなるトランジスタ群と、
目標電圧波形を生成する目標電圧波形生成部と、
前記目標電圧波形と前記電圧印加部の電圧波形を比較する比較部と、
目標電圧と比較した結果を参照して前記トランジスタ群の中からON動作させるトランジスタを選び、かつそのON抵抗を制御する制御回路と、を備えたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
所定量の液体を所定の位置に供給する液体吐出ヘッドが知られている。液体吐出ヘッドは、例えばインクジェットプリンタ、3Dプリンタ、分注装置などに搭載する。インクジェットプリンタは、インクの液滴をインクジェットヘッドから吐出して、記録媒体の表面に画像等を形成する。3Dプリンタは、造形材の液滴を造形材吐出ヘッドから吐出し、硬化させて、三次元造形物を形成する。分注装置は、試料の液滴を吐出して複数の容器等へ所定量供給する。
【0003】
液体吐出ヘッドは、液体を吐出するチャネルを複数有している。各チャネルは、液体を吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、圧力室の容積を変える圧電アクチュエータを備える。液体吐出ヘッドは、複数のチャネルの中から液体を吐出するチャネルを選択し、圧電アクチュエータに駆動信号を与えて駆動させる駆動回路をさらに備える。液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエータの静電容量、充電電圧、充電回数、放電回数などに応じて、液体を吐出する動作時に圧電アクチュエータと駆動回路が発熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5624734号公報
【特許文献2】特許5759710号公報
【特許文献3】特許4152757号公報
【特許文献4】特許4483884号公報
【特許文献5】米国特許公開US2007/0076026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、液体を吐出する動作時の圧電アクチュエータまたは駆動回路の発熱を抑えることのできる液体吐出ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエータ、共通電圧波形信号線、電源供給部、補助電位供給部、トランジスタ群、目標電圧波形生成部、および制御回路を備える。複数の圧電アクチュエータは、ノズルから液体を吐出するようにそれぞれ構成する。共通電圧波形信号線は、複数の前記圧電アクチュエータに共通電圧波形を与える。電源供給部は、前記圧電アクチュエータに最大の変形を与える最大電位、前記圧電アクチュエータに変形を与えない最低電位、前記圧電アクチュエータに前記最大の変形より小さい定常変形を与える中間電位を供給する。補助電位供給部は、前記最大電位と中間電位の電位差、及び/又は、前記中間電位と前記最低電位の電位差を分圧して補助電位を生成すると共に、キャパシタに前記補助電位の電荷を前記圧電アクチュエータに充放電可能に蓄える。トランジスタ群は、前記電源供給部及び前記補助電位供給部から供給される各電位の供給線と前記共通電圧波形信号線を選択的に接続する。目標電圧波形生成部は、目標電圧波形を生成する。制御回路は、前記目標電圧波形と前記共通電圧波形を比較し、前記共通電圧波形が前記目標電圧波形に近づくように前記トランジスタを制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に従うインクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタの全体構成図である。
図2】上記インクジェットヘッドの斜視図である。
図3】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した断面図である。
図4】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した断面図である。
図5】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した平面図である。
図6】上記インクジェットヘッドの駆動回路である。
図7】上記駆動回路で生成する共通電圧波形と目標電圧波形である。
図8】上記駆動回路の判別回路と判別条件である。
図9】上記駆動回路のゲート駆動回路である。
図10】上記駆動回路のVCOMトランジスタ群である。
図11】上記VCOMトランジスタ群の中の動作させるトランジスタである。
図12】上記ゲート駆動回路の変形例である。
図13】ゲート駆動回路を上記変形例としたときのVCOMトランジスタ群の中の動作させるトランジスタである。
図14】ゲート駆動回路を上記変形例としたときのVCOMトランジスタ群の回路図である。
図15】上記駆動回路の補助電位生成回路である。
図16】上記補助電位生成回路の変形例である。
図17】上記駆動回路の選択スイッチである。
図18】上記共通電圧波形を与えたアクチュエータの動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態に従う液体吐出ヘッドについて、添付図面を参照しながら詳述する。なお、各図において、同一構成は同一の符号を付している。
【0009】
実施形態の液体吐出ヘッドを搭載した画像形成装置の一例として、記録媒体に画像を印刷するインクジェットプリンタ10を説明する。図1は、インクジェットプリンタ10の概略構成を示す。インクジェットプリンタ10は、筐体11の内部に、記録媒体の一例であるシートSを収納するカセット12、シートSの上流搬送路13、カセット12内から取り出したシートSを搬送する搬送ベルト14、搬送ベルト14上のシートSに向けてインクの液滴を吐出する複数のインクジェットヘッド100~103、シートSの下流搬送路15、排出トレイ16、及び制御基板17を配置する。ユーザーインターフェイスである操作部18は、筐体11の上部側に配置する。
【0010】
シートSに印刷する画像データは、例えば外部接続機器であるコンピュータ200で生成する。コンピュータ200で生成した画像データは、ケーブル201、コネクタ202,203を通してインクジェットプリンタ10の制御基板17に送る。
【0011】
ピックアップローラ204は、カセット12からシートSを一枚ずつ上流搬送路13へ供給する。上流搬送路13は、送りローラ対131、132と、シート案内板133、134で構成する。シートSは、上流搬送路13を経由して、搬送ベルト14の上面に送る。図中の矢印104は、カセット12から搬送ベルト14へのシートSの搬送経路を示す。
【0012】
搬送ベルト14は、表面に多数の貫通孔を形成した網状の無端ベルトである。駆動ローラ141、従動ローラ142,143の3本のローラは、搬送ベルト14を回転自在に支持する。モータ205は、駆動ローラ141を回転することによって搬送ベルト14を回転させる。モータ205は、駆動装置の一例である。図中105は、搬送ベルト14の回転方向を示す。搬送ベルト14の裏面側に、負圧容器206を配置する。負圧容器206は、減圧用のファン207と連結する。ファン207は、形成する気流によって負圧容器206内を負圧にし、搬送ベルト14の上面にシートSを吸着保持させる。図中106は、気流の流れを示す。
【0013】
液体吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッド100~103は、搬送ベルト14上に吸着保持したシートSに対して、例えば1mmの僅かな隙間を介して対向するように配置する。インクジェットヘッド100~103は、シートSに向けてインクの液滴を夫々吐出する。インクジェットヘッド100~103は、下方をシートSが通過する際に画像を印刷する。各インクジェットヘッド100~103は、吐出するインクの色が異なることを除けば、同じ構造である。インクの色は、例えば、シアン,マゼンタ,イエロー,ブラックである。
【0014】
インクジェットヘッド100~103は、夫々、インク流路311~314を介してインクタンク315~318及びインク供給圧力調整装置321~324と連結する。各インクタンク315~318は、各インクジェットヘッド100~103の上方に配置する。待機時に、インクジェットヘッド100~103のノズル24(図2参照)からインクが漏れ出ないように、各インク供給圧力調整装置321~324は、各インクジェットヘッド100~103内を大気圧に対して負圧、例えば-1.2kPaに調整している。画像形成時、各インクタンク315~318のインクは、インク供給圧力調整装置321~324によって各インクジェットヘッド100~103に供給する。
【0015】
画像形成後、搬送ベルト14から下流搬送路15へシートSを送る。下流搬送路15は、送りローラ対151,152,153,154と、シートSの搬送経路を規定するシート案内板155,156で構成する。シートSは、下流搬送路15を経由し、排出口157から排出トレイ16へ送る。図中矢印107は、シートSの搬送経路を示す。
【0016】
続いて、インクジェットヘッド100~103の構成について説明する。以下は、図2図5を参照しながら、インクジェットヘッド100について説明しているが、インクジェットヘッド101~103もインクジェットヘッド100と同じ構造である。
【0017】
図2に示すように、インクジェットヘッド100は、液体吐出部の一例であるヘッド部2を備える。ヘッド部2は、フィルム配線基板の一例であるフレキシブルプリント配線板21と接続する。フレキシブルプリント配線板21は、中継基板の一例であるプリント基板22と接続する。ヘッド部2は、ノズル部の一例であるノズルプレート23を備える。ヘッド部2は、インク流路311を介して図1のインク供給圧力調整装置321と接続する。
【0018】
インクを吐出する各チャネルのノズル24は、ノズルプレート23の第1の方向の例えばX方向に沿って配列する。ノズル密度は、例えば150~1200dpiの範囲内に設定する。ノズル24は、一列に限らず、複数列であってもよい。ヘッド部2の詳しい構成は、後述する。
【0019】
フレキシブルプリント配線板21は、例えばポリイミドなどの合成樹脂フィルムを用いたフレキシブルなプリント配線基板である。フレキシブルプリント配線板21は、ドライバチップである駆動用のIC(Integrated Circuit)3を搭載している(以下、駆動ICと称す)。プリント基板22は、ガラス繊維入りのエポキシ樹脂層と銅配線層を多重に積層した硬質のスルーホール基板である。制御部としての駆動IC3は、インクジェットプリンタ10の制御基板17からプリント基板22を介して送られてくるプリントデータを一時的に格納し、所定のタイミングでインクを吐出するよう各チャネルに駆動信号を与える。
【0020】
図3図5は、ヘッド部2の部分断面図である。ノズルプレート23は、圧力室基板4の一面に接合する。ノズルプレート23は、例えばポリイミドなどの樹脂又はステンレスなどの金属で形成した矩形状のプレートである。振動板5は、ノズルプレート23とは反対側の圧力室基板4の一面に接合する。振動板5は、外力を加えたときに変形する可撓性を有する。振動板5は、例えばニッケルやステンレスなどの金属で形成した薄板状のプレートである。振動板5の材質は、ポリイミドフィルムなど、金属以外でもよい。
【0021】
圧力室42は、圧力室基板4に形成する。複数の圧力室42は、各ノズル24の位置に配列して、ノズル24とそれぞれ連通させている。圧力室基板4は、例えばステンレスなどの金属で形成する。圧力室42は、一例として、第2の方向の例えばZ方向に貫通する矩形状の開口を圧力室基板4に形成し、両側の開口をノズルプレート23と振動板5でそれぞれ塞ぐことによって形成する。
【0022】
圧力室42は、狭窄部を有するガイド流路43と連通し、さらに振動板5を貫通する開口穴であるインク供給口44を介してインク供給マニホールド45に連通する。ガイド流路43は、圧力室42ごとに、圧力室基板4の振動板5側の一面に第3の方向の例えばY方向に溝状に形成する。インク供給マニホールド45は、振動板5の一面に接合したフレーム46内に形成する。インク供給マニホールド45は、X方向に延び、各チャネルのインク供給口44及びガイド流路43を介して、各チャネルの圧力室42とそれぞれ連通する。共通インク室としてのインク供給マニホールド45は、インク流路311と連通する(図1図2参照)。
【0023】
各チャネルのアクチュエータ6は、振動板5を挟んで圧力室42およびガイド流路43と対向する位置に配列している。各アクチュエータ6は、Z方向における振動板5とは反対側の一面を支持部材47にそれぞれ接合することによって固定している。
【0024】
圧電アクチュエータの一例であるアクチュエータ6は、例えばピエゾ素子などの圧電体61、第1の内部電極62、及び第2の内部電極63を交互に層状に積層して形成した積層型圧電アクチュエータである(特に図3参照)。各圧電体61は、分極方向が例えばZ方向において互いに逆向きに配置し、d33モードで変形させる。第1の内部電極62と第2の内部電極63は、圧電体61の主面にそれぞれ形成した導電膜である。第1の内部電極62は、それぞれY方向におけるアクチュエータ6の一方の端面まで形成し、この端面に形成した第1の外部電極64に接続する。第2の内部電極63は、それぞれY方向におけるアクチュエータ6の他方の端面まで形成し、この端面に形成した第2の外部電極65に接続する。ダミー層68は、圧電体61と同材料である。但し、ダミー層68は、内部電極を設けず、電界が印加されないので変形しない。ダミー層68は、アクチュエータ6を支持部材47に固定するベースとなり(特に図4参照)、あるいは組立中や組立後の精度を出すために研磨する研磨代となる。
【0025】
複数の圧電体61を積層したアクチュエータ6は、一例として、薄板状に加工した各圧電体61の主面に第1の内部電極62と第2の内部電極63をそれぞれ成膜する。そして圧電体61同士を積層し焼成して一体にする。その後、第1の外部電極64と第2の外部電極65を成膜する。その後、圧電体61を着分極する。圧電体61は、チタン酸ジルコン酸鉛 (PZT)などの鉛含有圧電材料、或いはニオブ酸ナトリウムカリウムなどの鉛非含有圧電材料で形成する。第1の内部電極62と第2の内部電極63は、銀パラジウムなどの焼成可能な導電性材料で成膜する。第1の外部電極64と第2の外部電極65は、メッキ法やスパッタ法など既知の方法で、Ni、Cr、Auなどで成膜する。
【0026】
各アクチュエータ6の第1の外部電極64は、フレキシブルプリント配線板21の個別配線66にそれぞれ接続する(図3参照)。フレキシブルプリント配線板21は、基材26,個別配線66,接着層27,絶縁層28を有する。フレキシブルプリント配線板21は、ハンダメッキ層29を形成した領域が第1の外部電極64と対向するように配置し、ハンダを溶融させることによって各チャネルの第1の外部電極64と個別配線66を電気的及び機械的に接続する。一方、各チャネルの第2の外部電極65は、共通配線(不図示)に接続し、例えばフレキシブルプリント配線板21を介して共通電位に接続する。
【0027】
支柱60は、各チャネルのアクチュエータ6の間に溝69を介して配置する。駆動用のアクチュエータ6および支柱60とするダミーのアクチュエータは、共通の圧電体61、第1の内部電極62、及び第2の内部電極63を用いて一括で形成し、溝69を形成することで個々のアクチュエータ6と支柱60に分ける。支柱60は、隣接する圧力室42間の隔壁40にあたる位置に配置する(図4参照)。支柱60は、アクチュエータ6と同様に圧電体61等で形成するのに代えて、別の部材で形成してもよい。例えば支持部材47と一体的に支柱を形成してもよい。
【0028】
図6は、共通電圧波形VCOMを生成し、アクチュエータ6に与えて駆動させるインクジェットヘッド100の駆動回路を示す。駆動回路は、制御回路の一例であるVCOM生成回路7、外部電源71,72を接続した補助電位生成回路73、および駆動IC3で構成する。VCOM生成回路7は、さらに目標電圧生成回路74、判別回路75、ゲート駆動回路76、VCOM生成トランジスタ群77、および分圧回路78を備える。
【0029】
図6に示すように、各チャネルのアクチュエータ6(CX1~CXn)は、第1の外部電極64に接続した個別配線66を介して駆動IC3の出力端子にそれぞれ接続する。第1の外部電極64と個別配線66の接続点がアクチュエータ6の個別端子である。一方、各アクチュエータ6(CX1~CXn)の第2の外部電極65は、共通配線67を介して例えばグランド(GND)などの共通電位に接続する。第2の外部電極65と共通配線67の接続点がアクチュエータ6のコモン端子である。
【0030】
各チャネルのアクチュエータ6は、それぞれ個別端子に電圧波形を与えることによって駆動する。図7(a)に例示する電圧波形は、一連のインク吐出動作のシーケンスを示した共通電圧波形VCOMである。共通電圧波形VCOMは、各チャネルのアクチュエータ6に共通に与える電圧波形の一例である。従って、チャネル毎に波形生成回路を設けて電圧波形を生成しなくてよい。
【0031】
共通電圧波形VCOMは、図7(a)の例では、最大電位V1、最低電位V0、中間電位V2、および補助電位V41,V32,V31に電圧を変化させる電圧波形である。最大電位V1は、インク吐出動作時におけるアクチュエータ6の変形範囲内で、最大の変形を与える電位である。最低電位V0は、アクチュエータ6に変形を与えない電位である。中間電位V2は、最大の変形よりも小さい変形をアクチュエータ6に与える電位である。補助電位V41は、最大電位V1と中間電位V2の間にある電位である。補助電位V32,V31は、中間電位V2と最低電位V0の間にある電位である。
【0032】
ここで、アクチュエータ6に中間電位V2を与えて変形させることを「定常変形」と称する。定常変形は、例えばインクを吐出する動作の基準とする。例えばコモン端子が共通電位に接続され個別端子に電圧を与えるとd33モード或いはd31モードで縦変形するアクチュエータ6の場合、定常変形を基準にすれば、最大電位V1を与えて第1の方向(例えば伸長する方向)に変形させ、最低電位V0を与えて第1の方向とは反対の第2の方向(例えば収縮する方向)に変形させることができる。
【0033】
共通電圧波形VCOMは、補助電位生成回路73から各供給線を介してそれぞれ供給される各電位V1,V41,V2,V32,V31,V0を用いて生成する。
【0034】
VCOM生成回路7の目標電圧生成回路74は、共通電圧波形VCOMの元になる目標電圧波形VINを出力する。目標電圧波形VINは、例えば図7(b)に示すような波形である。すなわち、目標電圧波形VINは、例えばアナログ信号で出力する場合、アクチュエータ6に与えようとする電圧波形と同じか或いはスケーリングした電圧波形で出力する。そしてVCOM生成回路7内で、目標電圧波形VINに追従するように共通電圧波形VCOMを生成する。目標電圧波形VINの波形情報は、メモリ741に格納しておく。メモリ741に格納しておく目標電圧波形VINの種類は、一つに限らず、複数種類の目標電圧波形VINを格納してよい。出力する目標電圧波形VINは、アドレス発生742からアドレスを与えてメモリ741から読み出し、D/Aコンバータ743でアナログに変換して出力する。目標電圧生成回路74は、目標電圧波形生成部の一例である。
【0035】
目標電圧波形VINは、例えばアナログ回路設計を扱い易くするために、実際の目標電圧よりも小さい値にスケーリングして出力するのが望ましい。一例として、実際の目標電圧を1/10にスケーリングする。目標とする電圧波形の振幅が例えば20Vのとき、D/Aコンバータ743の出力振幅は1/10の2Vにスケーリングして出力する。出力した目標電圧波形VINは、判別回路75とゲート駆動回路76にそれぞれ与える。
【0036】
分圧回路78は、共通電圧波形VCOMをフィードバックし、目標電圧波形VINと比較可能なようにスケーリングした比較電圧波形Vsensを出力する。例えば実際の目標電圧を1/10にスケーリングして目標電圧波形VINとした場合、共通電圧波形VCOMも1/10にスケーリングして比較電圧波形Vsensとする。出力した比較電圧波形Vsensは、判別回路75とゲート駆動回路76にそれぞれ与える。
【0037】
比較部の一例である判別回路75は、図8(a)に示すように、目標電圧波形VINと比較電圧波形Vsensを比較し、比較結果に基づいて制御信号en-a~en-jを出力する。図8(b)は、判別回路75が制御信号en-a~en-jを出力するのに用いる判別条件の一例である。
【0038】
図8(b)に示すように、判別回路75は、目標電圧波形VINの電圧が最低電位V0~補助電位V31の間にあるときに、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が小さくなると(VIN>Vsens)、制御信号en-aをHighにし、残りの制御信号はLowにする。反対に、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が大きくなると(VIN<Vsens)、制御信号en-fをHighにし、残りの制御信号をLowにする。出力した各制御信号en-a,en-fは、ゲート駆動回路76に与える。
【0039】
制御信号en-a~en-jは、VCOM生成トランジスタ群77の複数のトランジスタを排他的に制御するのに用いる。但し、図8(b)の判別条件において、例えばV31などの境界値を目標電圧波形VINが通過するときは、制御信号en-aと制御信号en-bの両方をHighにしてよい(VIN>Vsensのとき)。或いは、いずれか一方のみHighにするようにしてもよい。他の条件の境界値も同様である。
【0040】
同様に、判別回路75は、目標電圧波形VINの電圧が補助電位V31~補助電位V32の間にあるときに、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が小さくなると(VIN>Vsens)、制御信号en-bをHighにし、残りの制御信号はLowにする。反対に、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が大きくなると(VIN<Vsens)、制御信号en-gをHighにし、残りの制御信号をLowにする。出力した各制御信号en-b,en-gは、ゲート駆動回路76に与える。
【0041】
同様に、判別回路75は、目標電圧波形VINの電圧が補助電位V32~中間電位V2の間にあるときに、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電位の方が小さくなると(VIN>Vsens)、制御信号en-cをHighにし、残りの制御信号はLowにする。反対に、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が大きくなると(VIN<Vsens)、制御信号en-hをHighにし、残りの制御信号をLowにする。出力した各制御信号en-c,en-hは、ゲート駆動回路76に与える。
【0042】
同様に、判別回路75は、目標電圧波形VINの電圧が中間電位V2~補助電位V41の間にあるときに、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電位の方が小さくなると(VIN>Vsens)、制御信号en-dをHighにし、残りの制御信号はLowにする。反対に、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が大きくなると(VIN<Vsens)、制御信号en-iをHighにし、残りの制御信号をLowにする。出力した各制御信号en-d,en-iは、ゲート駆動回路76に与える。
【0043】
同様に、判別回路75は、目標電圧波形VINの電圧が補助電位V41~最大電位V1の間にあるときに、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が小さくなると(VIN>Vsens)、制御信号en-eをHighにし、残りの制御信号はLowにする。反対に、目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が大きくなると(VIN<Vsens)、制御信号en-jをHighにし、残りの制御信号をLowにする。出力した各制御信号en-e,en-jは、ゲート駆動回路76に与える。
【0044】
ゲート駆動回路76は、判別回路75から入力される制御信号en-a~en-jに基づき、VCOM生成トランジスタ群77の複数のトランジスタを排他的にON制御すると共に、トランジスタのON抵抗まで制御する電圧(制御電圧C0N~C1P)を生成して出力する。
【0045】
目標電圧VINの値に関わらず、VIN=Vsensのときは検出電圧が目標通りなので制御信号en-a~en-jは全てLowとし、すなわちVCOM生成トランジスタ群77は全てOFFする。回路を安定動作させるために、検出電圧が目標通りだと見做す範囲を設定して、その範囲内をVIN≒Vsensとして、そのとき制御信号en-a~en-jを全てLowとし、VCOM生成トランジスタ群77を全てOFFとしてもよい。
【0046】
図9は、ゲート駆動回路76の一例である。図9のゲート駆動回路76は、複数の差動増幅器80~89によって構成している。差動増幅器80~89は、VIN>Vsensのときに動作する差動増幅器群80~84と、VIN<Vsensのときに動作する差動増幅器群85~89を備える。VIN>Vsensのときに動作する差動増幅器80~84は、プラス入力にVsensを接続し、マイナス入力にVINを接続する。マイナス入力には、さらにダイオードDのアノードを接続する。一方、ダイオードDのカソードには、差動増幅器80~84毎に割り当てた制御信号en-a~en-eの入力を接続する。各差動増幅器80~84のプラス入力とマイナス入力にそれぞれ接続した抵抗は、制限抵抗である。特にマイナス入力の制限抵抗は、ダイオードDを保護する。
【0047】
一方、VIN<Vsensのときに動作する差動増幅器85~89も、プラス入力にVsensを接続し、マイナス入力にVINを接続する。プラス入力には、さらにダイオードDのアノードを接続する。一方、ダイオードDのカソードには、差動増幅器85~89毎に割り当てた制御信号en-f~en-jの入力を接続する。各差動増幅器85~89のプラス入力とマイナス入力にそれぞれ接続した抵抗は、制限抵抗である。特にマイナス入力の制限抵抗は、ダイオードDを保護する。
【0048】
既述のとおり、判別回路75からゲート駆動回路76に入力する制御信号en-a~en-jは、例えば図8(b)の判別表に示すように、条件毎にいずれかがHighで残りがLowである(境界値を通過するときは除く)。従って、差動増幅器80~89は排他的に動作する。一例として、目標電圧波形VINの電圧が最低電位V0~補助電位V31の間にあるときの、差動増幅器80と差動増幅器85の動作を、詳しくは後述する図10のVCOM生成トランジスタ群77の該当トランジスタの動作と併せて説明する。目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が大きいとき(VIN<Vsens)、制御信号en-aはLowであり差動増幅器80はアナログ動作せず飽和して出力C31Pを最大電圧に固定する。これがVCOM生成トランジスタ群77の該当するPchトランジスタ96Pのゲート電圧を最大電圧とするのでPchトランジスタ96Pはオフ動作に固定される。このとき制御信号en-fはHighでありダイオードDがOFFになって差動増幅器85はアナログ動作する。より詳細には、差動増幅器85は、マイナス入力のVINとプラス入力のVsensの電位差に応じて増幅した電圧(制御電圧)C0Nを出力する。制御電圧C0Nの電圧は、VINとVsensの電位差に応じて変わる。これにより制御電圧C0Nは、VCOM生成トランジスタ群77内の対応するNchトランジスタ92のON抵抗を変えることができる。
【0049】
目標電圧波形VINの電圧よりも比較電圧波形Vsensの電圧の方が小さくなると(VIN>Vsens)、制御信号en-aがHighになり、ダイオードDがOFFになって差動増幅器80はアナログ動作する。より詳細には、差動増幅器80は、マイナス入力のVINとプラス入力のVsensの電位差に応じて増幅した電圧(制御電圧)C31Pを出力する。制御電圧C31Pの電圧は、VINとVsensの電位差に応じて変わる。これにより制御電圧C31Pは、VCOM生成トランジスタ群77内の対応するPchトランジスタ96PのON抵抗を変えることができる。このとき制御信号en-fはLowであり差動増幅器85はアナログ動作せず飽和して出力C0Nをゼロに固定する。これがVCOM生成トランジスタ群77の該当するNchトランジスタ92のゲート電圧をゼロとするのでNchトランジスタ92はオフ動作に固定される。他の差動増幅器81~89も同様に、制御電圧CxP、CxNは、対応するトランジスタのON/OFF制御に加えて、トランジスタのON抵抗も変えることができる。VINとVsensの各条件に対して有効となるVCOM生成トランジスタ群77のトランジスタは図11のとおりとなる。
【0050】
VCOM生成トランジスタ群77は、共通電圧波形VCOMを生成する波形生成回路の一例である。VCOM生成トランジスタ群77は、補助電位生成回路73から供給される複数の電位V1,V2,V41,V31,V32の各供給線と、共通電圧波形VCOMを駆動IC3に与える共通電圧波形信号線を選択的に接続する。
【0051】
図10は、VCOM生成トランジスタ群77の構成の一例である。VCOM生成トランジスタ群77は、最大電位V1を与える電流ソーススイッチ91、最低電位V0を与える電流シンクスイッチ92、中間電位V2を与える双方向スイッチ93、補助電位V41を与える双方向スイッチ94、補助電位V32を与える双方向スイッチ95、補助電位V31を与える双方向スイッチ96を備えている。以下は、単に「スイッチ91~96」と称する場合がある。
【0052】
各スイッチ91~96は、トランジスタを用いて構成する。スイッチ91は、PチャンネルのPchトランジスタを用い、Pchトランジスタのゲートにゲート電圧C1Pを入力する。Pchトランジスタのソースは最大電位V1に接続し、ドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続する。スイッチ92は、NチャンネルのNchトランジスタを用い、Nchトランジスタのゲートにゲート電圧C0Nを入力する。Nchトランジスタのドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続し、ソースは最低電位V0に接続する。
【0053】
中間電位V2、補助電位V41,V32,V31は、アクチュエータ6を充電する場合と放電させる場合の両方があるため、スイッチ93~96は、双方向スイッチとしている。スイッチ93は、PチャンネルのPchトランジスタ93PとNチャンネルのNchトランジスタ93Nを並列接続して双方向スイッチとしている。Pchトランジスタ93Pは、ゲートにゲート電圧C2Pを入力する。Pchトランジスタ93Pのソースは中間電位V2に接続し、ドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続する。一方、Nchトランジスタ93Nは、ゲートにゲート電圧C2Nを入力する。Nchトランジスタ93Nのソースは中間電位V2に接続し、ドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続する。各トランジスタに接続したショットキーダイオードは、逆電流を阻止する。
【0054】
スイッチ94は、PチャンネルのPchトランジスタ94PとNチャンネルのNchトランジスタ94Nを並列接続して双方向スイッチとしている。Pchトランジスタ94Pは、ゲートにゲート電圧C41Pを入力する。Pchトランジスタ94Pのソースは補助電位V41に接続し、ドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続する。一方、Nchトランジスタ94Nは、ゲートにゲート電圧C41Nを入力する。Nchトランジスタ94Nのソースは補助電位V41に接続し、ドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続する。各トランジスタに接続したショットキーダイオードは、逆電流を阻止する。
【0055】
スイッチ95は、PチャンネルのPchトランジスタ95PとNチャンネルのNchトランジスタ95Nを並列接続して双方向スイッチとしている。Pchトランジスタ95Pは、ゲートにゲート電圧C32Pを入力する。Pchトランジスタ95Pのソースは補助電位V32に接続し、ドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続する。一方、Nchトランジスタ95Nは、ゲートにゲート電圧C32Nを入力する。Nchトランジスタ95Nのソースは補助電位V32に接続し、ドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続する。各トランジスタに接続したショットキーダイオードは、逆電流を阻止する。
【0056】
スイッチ96は、PチャンネルのPchトランジスタ96PとNチャンネルのNchトランジスタ96Nを並列接続して双方向スイッチとしている。Pchトランジスタ96Pは、ゲートにゲート電圧C31Pを入力する。Pchトランジスタ96Pのソースは補助電位V31に接続し、ドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続する。一方、Nchトランジスタ96Nは、ゲートにゲート電圧C31Nを入力する。Nchトランジスタ96Nのソースは補助電位V31に接続し、ドレインは共通電圧波形VCOMの信号線に接続する。各トランジスタに接続したショットキーダイオードは、逆電流を阻止する。
【0057】
VCOM生成トランジスタ群77は、ゲート駆動回路76から入力される制御電圧C0N~C1Pによって各スイッチ91~95の各トランジスタを排他的にON制御する。すなわち、各トランジスタのゲート電圧は、差動増幅器80~89によってアナログ制御される。但し、ON/OFFではなく、その電圧に従って非飽和にトランジスタのON抵抗が変化するように構成している。これにより、例えば図7(a)に示した傾斜部を含む共通電圧波形VCOMを生成する。
【0058】
既述のように、図10におけるソース側(P)のゲート入力C*Pは、Lレベル入力でレベルに応じた抵抗でONし、Hレベル入力でOFFする。ソース側(N)のゲート入力C*Nは、Hレベル入力レベルに応じた抵抗でONし、Lレベル入力でOFFする。各トランジスタは排他的に制御され、何れかひとつが抵抗を持ってONのとき他はOFFである。各双方向スイッチ93~96の同電位に接続されるソース側のトランジスタ(P)とシンク側のトランジスタ(N)は、他方のゲートをON制御するときもう一方も同時にON制御してもよい。また、使用するトランジスタにMOSトランスファゲート(MOSアナログスイッチ)を用いることで逆電流阻止のショットキーダイオードを省略してもよい。或いは使用するトランジスタをPch型DMOSとNch型DMOSの直列で構成して、逆電流阻止のショットキーダイオードを省略してもよい。
【0059】
他方のゲートをON制御するときもう一方も同時にON制御する場合は、判別回路75の制御信号en-a~en-eの出力を用いて、ゲート駆動回路76を図12のように構成すればよい。この場合、VINとVsensの各条件に対して有効となるVCOM生成トランジスタ群77のうちVINとVsensの各条件に対して有効となるトランジスタは図13のとおりとなる。また、使用するトランジスタにMOSトランスファゲート(MOSアナログスイッチ)を用いることで逆電流阻止のショットキーダイオードを省略すると、VCOM生成トランジスタ群77の回路は図14のようになる。
【0060】
共通電圧波形VCOMの生成に用いる各電位V1,V2,V41,V32,V31,V0の電源は、補助電位生成回路73から供給する。最大電位V1,中間電位V2及び最低電位V0は、補助電位生成回路73に接続した外部電源71,72から供給する。すなわち、中間電位V2は、電圧V2の外部電源71から供給する。最大電位V1は、直列に接続した電圧V2の外部電源71と電圧V1-V2の外部電源72から供給する。最低電位V0は、外部電源71の負極側から供給する。各電位V1,V2,V0の値は、アクチュエータ6の構造やインクの種類などによって決定してよい。一例を挙げると、最大電位V1が30V、中間電位V2が18V、最低電位V0が0Vである。最大電位V1、中間電位V2、最低電位V0の電源71,72は、電源供給部の一例である。
【0061】
一方、補助電位V41,V32,V31は、個別に外部電源は設けず、補助電位生成回路73で生成する。補助電位V41は、最大電位V1と中間電位V2の間にある電位である。この例では、最大電位V1と中間電位V2の電位差を二等分に分圧して、補助電位41としている。一例を挙げるとV1=30V、V2=18V、V41=24Vである。生成する補助電位の数は1個に限らない。すなわち、最大電位V1と中間電位V2の電位差をm等分に分圧し、m-1個の補助電位を生成する。「m」は、2以上である。
【0062】
補助電位V31,V32は、中間電位V2と最低電位V0の間にある互いに異なる電位である。この例では、中間電位V2と最低電位V0の電位差を三等分に分圧し、中間電位V2の1/3の電位を補助電位V31とし、中間電位V2の2/3の電位をV32としている。一例を挙げるとV2=18V、V32=12V、V31=6Vである。生成する補助電位の数は2個に限らない。すなわち、中間電位V2と最低電位V0の電位差をn等分に分圧し、n-1個の補助電位を生成する。「n」は、2以上である。
【0063】
図15は、補助電位生成回路73の好ましい一例である。補助電位生成回路73は、最大電位V1と中間電位V2の間に2個の分圧抵抗Rd,Rdを直列に接続して分圧する。2個の分圧抵抗Rd,Rdは、抵抗値が同じものを用いる。これにより最大電位V1と中間電位V2の電位差を、二等分に分圧する。さらに、最大電位V1と中間電位V2の間に、2個のキャパシタCS1,CS2を直列に接続する。キャパシタCS1,CS2の静電容量は、夫々、全チャネルのアクチュエータ6(CX1~CXn)の合計静電容量よりも大きくする。好ましくは10倍以上である。一例として、個々のアクチュエータ6(CX1~CXn)の静電容量が1000pF、チャネル数が300chの場合、合計静電容量は0.3μFである。この場合、キャパシタCS1,CS2は、夫々、静電容量が10倍以上となる3μF以上のものを用いる。
【0064】
分圧抵抗Rd,Rd間のノードとキャパシタCS1,CS2間のノードは、オペアンプOPを介して接続する。オペアンプOPは、プラス入力に分圧抵抗Rd,Rd間のノードを接続し、マイナス入力にアンプの出力を接続したボルテージフォロワーの構成とする。さらにオペアンプOPの出力とキャパシタCS1,CS2間のノードとの間に、制限抵抗RS1を接続する。
【0065】
オペアンプOPは、分圧抵抗Rd,Rdで決まる補助電位を目標値として、キャパシタCS1,CS2を充放電する。キャパシタCS1,CS2に充電した補助電位V41の電荷は、アクチュエータ6の充電に用いる。さらにキャパシタCS1,CS2は、アクチュエータ6から放電された補助電位V41の電荷を受け取って蓄える。つまり、補助電位V41のアクチュエータ6の充放電は、キャパシタCS1,CS2とアクチュエータ6との間の電荷の受け渡しによって行う。
【0066】
さらに補助電位生成回路73は、中間電位V2と最低電位V0の間に3個の分圧抵抗Rd,Rd,Rdを直列に接続して分圧する。3個の分圧抵抗Rd,Rd,Rdは、抵抗値が同じものを用いる。これにより中間電位V2と最低電位V0の電位差を、三等分に分圧する。さらに、中間電位V2と最低電位V0の間に、3個のキャパシタCS3,CS4,CS5を直列に接続する。キャパシタCS3,CS4,CS5の静電容量は、夫々、全チャネルのアクチュエータ6(CX1~CXn)の合計静電容量よりも大きくする。好ましくは10倍以上である。
【0067】
各分圧抵抗Rd,Rd,Rd間のノードと各キャパシタCS3,CS4,CS5間のノードは、オペアンプOPを介して接続する。オペアンプOPは、プラス入力に分圧抵抗Rd,Rd間のノードを接続し、マイナス入力にアンプの出力を接続したボルテージフォロワーの構成とする。さらにオペアンプOPの出力とキャパシタCS3,CS4間のノードとの間に、制限抵抗RS2を接続する。同様に、オペアンプOPは、プラス入力に分圧抵抗Rd,Rd間のノードを接続し、マイナス入力にアンプの出力を接続したボルテージフォロワーの構成とする。さらにオペアンプOPの出力とキャパシタCS4,CS5間のノードとの間に、制限抵抗RS3を接続する。
【0068】
オペアンプOP,OPは、分圧抵抗Rd,Rd,Rdで決まる補助電位を目標値として、キャパシタCS3,CS4,CS5を充放電する。キャパシタCS3,CS4,CS5に充電した補助電位V31,V32の電荷は、アクチュエータ6の充電に用いる。さらにキャパシタCS3,CS4,CS5は、アクチュエータ6から放電された補助電位V31,V32の電荷を受け取って蓄える。つまり、補助電位V31,V32のアクチュエータ6の充放電は、キャパシタCS3,CS4,CS5とアクチュエータ6との間の電荷の受け渡しによって行う。
【0069】
制限抵抗RS1,RS2,RS3は、オペアンプOP,OP,OPが補助電位V41,V31,V32の電位変動に過剰に反応して動作するのを防ぐ。すなわち、補助電位V41,V31,V32の電荷をアクチュエータ6に与えて充電すると、キャパシタCS1,CS2,CS3,CS4,CS5の電圧が下がるが、このキャパシタキャパシタCS1,CS2,CS3,CS4,CS5の電圧低下にオペアンプOP,OP,OPが敏感に反応して動作すると、電力を消費する。そこで制限抵抗RS1,RS2,RS3を設けて、オペアンプOP,OP,OPの反応の速さを調整している。オペアンプOP,OP,OPは、出来るだけキャパシタCS1,CS2,CS3,CS4,CS5の初期充電時にだけ動作するのが望ましい。また、オペアンプOP,OP,OPを用いると、分圧抵抗Rd,Rd,Rd,Rd,Rdの抵抗値を大きくすることができ、その分、消費電力を抑えられる利点もある。
【0070】
上述の補助電位生成回路73は、補助電位供給部の一例である。但し、補助電位生成回路73は、図16に変形例を示すように、オペアンプOP,OP,OPと制限抵抗RS1,RS2,RS3を省略するようにしてもよい。
【0071】
生成した共通電圧波形VCOMは、共通電圧波形信号線と駆動IC3を介して各チャネルのアクチュエータ6に与える。駆動IC3は、インクを吐出するアクチュエータ6に共通電圧波形VCOMを選択的に与える選択スイッチを備える。図17は、選択スイッチ97をアナログスイッチ群で構成した一例である。アナログスイッチ群は、電圧印加部の一例である。図17に示すように、各チャネルの選択スイッチ97は、アクチュエータ6を充放電可能なように双方向スイッチとしている。駆動IC3は、プリントデータに基づき、インクを吐出するチャネルに制御信号CC1~CC2を与える。該当するチャネルの選択スイッチ97は、制御信号CC1~CC2によってONし、共通電圧波形VCOMをアクチュエータ6に与える。制御信号CC1~CC2は、ピクセルデータとして例えばプリンタの制御部である制御基板17から入力する。
【0072】
続いて、共通電圧波形VCOMを生成し、生成した共通電圧波形VCOMを選択的にアクチュエータ6に与えてインク吐出動作について説明する。
【0073】
例えば初期状態では、VCOM生成回路7は、最低電位V0の電圧波形を生成し、アクチュエータ6の個別端子に与える。そして、一連のインク吐出動作のシーケンスを開始すると、VCOM生成回路7は、最低電位V0から中間電位V2に変化する電圧波形を生成して、アクチュエータ6に与える。すなわち、VCOM生成回路7内で、最低電位V0から中間電位V2に変化する目標電圧波形VINを出力し、それに追従するように共通電圧波形VCOMを生成する。
【0074】
中間電位V2が与えられたアクチェータ6は、定常変形する。具体的には、図18(a)に示すように、圧電体61の分極軸の向きに電界が印加され、アクチュエータ6が積層方向(Z方向)に伸長して圧力室42の容積が縮小した状態になる。これはインク吐出のタイミングに先立って行っておく。そして、プリントデータに従ってインクの吐出動作が開始されるまで、中間電位V2を保持して、待機状態とする。
【0075】
その後、プリントデータに従って1ドットのインクを吐出する動作を開始する場合、VCOM生成回路7は、補助電位V32,V31を経由して中間電位V2から最低電位V0に変化する電圧波形を生成する。一方で、駆動IC3は、インクを吐出するチャネルの選択スイッチ97をONする。これにより、補助電位V32,V31を経由して中間電位V2から最低電位V0に変化する電圧波形を、インクを吐出するアクチュエータ6に与える。その結果、図18(b)に示すように、伸長していたアクチュエータ6が元に戻り、すなわち相対的に収縮し、圧力室42の容積が相対的に拡張する。圧力室42の容積が拡張した分、ガイド流路43を介して圧力室42内にインクが流れ込む。
【0076】
そして、駆動電圧をV2からV0に下げる変化をさせ始めてから例えばヘッド部2の圧力振動周期の1/2の時間が経過した後、VCOM生成回路7は、補助電位V32,V31を経由して最低電位V0から中間電位V2に変化する電圧波形を生成し、アクチュエータ6に与える。このように補助電位V32,V31を経由して最低電位V0から中間電位V2にアクチュエータ6の電圧を上げることによって、図18(c)に示すように、アクチュエータ6が積層方向(Z方向)に伸長して相対的に圧力室42の容積が縮小することでノズル24からインクの液滴Rが吐出する。
【0077】
そして、中間電位V2に挙げてから例えばヘッド部2の圧力振動周期の1/2の時間が経過した後、VCOM生成回路7は、補助電位V41を経由して中間電位V2から最大電位V1に変化する電圧波形を生成し、アクチュエータ6に与える。所定時間後、VCOM生成回路7は、補助電位V41を経由して最大電位V1から中間電位V2に変化する電圧波形を生成し、アクチュエータ6に与える。その際のアクチュエータ6の伸長(図18(d))と復帰(図18(a))によって圧力室42の容積を縮小、復帰させ、この動作によって残留振動を減衰させる。この一連の動作によって、1ドットのインクの液滴Rを吐出することができる。プリントデータに基づき続けてインクを吐出する場合、中間電位V2で始まり中間電位V2で終わる1ドットのインクの吐出動作を繰り返す。そして最後のドットのインクの吐出が終了したら、図7(a)に示すように最低電位V0に戻して一連の液体吐出動作を終了する。
【0078】
1ドットのインクを吐出する電圧波形(図7(a)参照)は、中間電位V2で始まり中間電位V2で終わる。その間ヘッドから補助電源V31、V32、V41に充電するときのヘッドと補助電源の電圧差と回数は補助電源V31、V32、V41からヘッドに充電するときのヘッドと補助電源の電圧差と回数に等しい。このため1ドットのインク吐出動作の間に補助電源V31、V32、V41から放電された電荷と同じだけの電荷が補助電源V31、V32、V41に回生され、補助電位V31、V32、V41は、インクを吐出した後も従前の電圧を維持する。この補助電位V31、V32、V41の電荷の供給と回生により、消費電力を軽減することができ、インクジェットヘッド100の駆動回路とアクチュエータ6の発熱が抑えられる。勿論、1ドットのインクを吐出する電圧波形は、図7(a)の電圧波形に限らない。例えば複数のインク滴をドロップして1ドットを形成するマルチドロップの電圧波形などであってもよい。さらに、上述の引き打ちの電圧波形に限らない。中間電位V2で始まり中間電位V2で終わる間、ヘッドから各補助電源に充電するときのヘッドと補助電源の電圧差と補助電源からヘッドに充電するときのヘッドと補助電源の電圧差と回数を等しくするという規則を維持する限り、どのような電圧波形であっても補助電位V31、V32、V41の電荷の収支は保たれるからである。従って、オペアンプOP,OP,OPによる充電量は小さく、消費電力を節約することができる。
【0079】
さらに、キャパシタCS1,CS2,CS3,CS4の静電容量を、全チャネルのアクチュエータ6(CX1~CXn)の合計静電容量よりも十分大きく設定しているので、1ドットのインクを吐出する電圧波形のシーケンスの中でキャパシタCS1,CS2,CS3,CS4の電圧変化を小さくできる。これにより、オペアンプOP,OP,OPが過剰に反応して電力を消費するのを抑えることができる。更にオペアンプOP,OP,OPの出力に制限抵抗RS1,RS2,RS3を設けたことで、キャパシタCS1,CS2,CS3,CS4の僅かな電圧変化にも、オペアンプOP,OP,OPが反応しないようにしている。
【0080】
以上説明したように、上述のいずれかの実施形態によれば、インク吐出動作時のアクチュエータ6及び駆動回路の発熱と消費電力を抑えることが可能である。さらに、図10の各トランジスタをアナログ動作させているのでアクチュエータ6の発熱を抑えることができ、またアクチュエータ6の動作から不要な高周波成分を取り除いてインクを安定に吐出することが可能となる。
【0081】
なお、補助電位V31、V32、V41は、中間電位V2とは生成方法が異なるが、最高電位と最低電位の間にある中間電位でもある。すなわち最高電位と最低電位の間に1以上の中間電位を設定している。インクを吐出するチャネルは、必ずしも複数設けなくてもよい。さらにアクチュエータ6は、複数の圧電体61を積層した積層型に限らない。圧電体61が単一層のアクチュエータであってもよい。また、駆動電圧を印加したときのアクチュエータの動作は、縦振動に限らない。さらに、ドロップオンデマンド・ピエゾ方式に限らず、コンティニアス方式に適用してもよい。
【0082】
上述の実施形態では、インクジェットプリンタ10のインクジェットヘッド100を液体吐出装置の一例として説明したが、液体吐出装置は、3Dプリンタの造形材吐出ヘッド、分注装置の試料吐出ヘッドであってもよい。
【0083】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
10 インクジェットプリンタ
100~103 インクジェットヘッド
2 ヘッド部
24 ノズル
3 駆動IC
6 アクチュエータ
7 VCOM生成回路
71,72 外部電源
73 補助電位生成回路
74 目標電圧生成回路
75 判別回路
76 ゲート駆動回路
77 VCOM生成トランジスタ群
Rd 分圧抵抗
Cs キャパシタ
Rs 制限抵抗
OP オペアンプ
V1 最大電位
V2 中間電位
V0 最低電位
V31,V32,V41 補助電位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18