(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047755
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】マルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 7/46 20060101AFI20240401BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20240401BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20240401BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H03H7/46 A
H03H9/72
H03H9/64 Z
H03H9/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153419
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】小笹 茂生
【テーマコード(参考)】
5J097
5J108
【Fターム(参考)】
5J097AA12
5J097BB15
5J097DD29
5J097EE08
5J097KK09
5J097LL07
5J108AA07
5J108CC11
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE13
5J108JJ01
(57)【要約】
【課題】共通接続された各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサを提供する。
【解決手段】マルチプレクサ1は、共通端子100と、第一端および第二端を有し、第一端が共通端子100に接続されたインダクタ31と、第二端に接続され第1通過帯域を有するフィルタ11と、共通端子100に接続され、第1通過帯域よりも高周波側に位置する第2通過帯域を有するフィルタ21と、第二端およびフィルタ11を結ぶ経路とグランドとの間に接続されたインダクタ41と、上記経路とグランドとの間に接続されたキャパシタ42と、を備え、インダクタ41とキャパシタ42とで構成されるLC並列共振回路40の共振周波数は、第1通過帯域と第2通過帯域との間に位置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通端子と、
第一端および第二端を有し、前記第一端が前記共通端子に接続された第1インダクタンス素子と、
前記第二端に接続され、第1通過帯域を有する第1弾性波フィルタと、
前記共通端子に接続され、前記第1通過帯域よりも高周波側に位置する第2通過帯域を有する第2弾性波フィルタと、
前記第二端および前記第1弾性波フィルタを結ぶ経路とグランドとの間に接続された第2インダクタンス素子と、
前記経路とグランドとの間に接続されたキャパシタンス素子と、を備え、
前記第2インダクタンス素子と前記キャパシタンス素子とで構成される共振回路の共振周波数は、前記第1通過帯域と前記第2通過帯域との間に位置する、
マルチプレクサ。
【請求項2】
さらに、
前記第二端に接続され、前記第2通過帯域よりも低周波側に位置する第3通過帯域を有する第3弾性波フィルタを備え、
前記共振回路の共振周波数は、前記第1通過帯域と前記第2通過帯域との間に位置し、かつ、前記第3通過帯域と前記第2通過帯域との間に位置する、
請求項1に記載のマルチプレクサ。
【請求項3】
前記第2インダクタンス素子と前記キャパシタンス素子とは、前記経路とグランドとの間で並列接続されている、
請求項1に記載のマルチプレクサ。
【請求項4】
前記キャパシタンス素子は、前記第1弾性波フィルタおよび前記第3弾性波フィルタの接続点と前記第1弾性波フィルタとを結ぶ経路と、グランドとの間に接続されている、
請求項2に記載のマルチプレクサ。
【請求項5】
前記キャパシタンス素子は、弾性波共振子である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項6】
前記第2インダクタンス素子と前記弾性波共振子とで構成される共振回路は、第1共振周波数および第2共振周波数を有し、
前記第1共振周波数は、前記弾性波共振子の反共振周波数に対応し、
前記第2共振周波数は、前記弾性波共振子の共振周波数に対応し、
前記第1共振周波数は、前記第1通過帯域と前記第2通過帯域との間に位置し、
前記第2共振周波数は、前記第1通過帯域よりも低周波側に位置する、
請求項5に記載のマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタを備えるマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一端が第1共通端子に接続され他端が第2共通端子に接続されたインダクタンス素子と、第1共通端子にインダクタンス素子を介さずに接続され、第1通過帯域を有する第1弾性波フィルタ(第1通過帯域)と、第2共通端子に接続され、第1通過帯域よりも低周波側の第2通過帯域を有する第2弾性波フィルタとを備えたマルチプレクサが開示されている。これによれば、インダクタンス素子が接続された第2弾性波フィルタの第2通過帯域における誘導性のインピーダンスと、第1弾性波フィルタの第2通過帯域における容量性のインピーダンスとを複素共役の関係とし、マルチプレクサの第2通過帯域におけるインピーダンスを基準インピーダンスに整合できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたマルチプレクサでは、第2弾性波フィルタ単体の第2通過帯域におけるインピーダンスが容量成分の大きな領域に位置する場合には、インダクタンス素子が付加された後の第2弾性波フィルタの第2通過帯域におけるインピーダンスが、基準インピーダンスから遠い誘導性領域に位置することとなる。このため、インダクタンス素子が接続された第2弾性波フィルタの第2通過帯域における上記誘導性インピーダンスと、第1弾性波フィルタの第2通過帯域における容量性インピーダンスとでアンバランスが生じ、マルチプレクサの第2通過帯域におけるインピーダンスを精度よく基準インピーダンスに整合できないという問題が生じる。その結果、第2通過帯域における整合損が発生し、マルチプレクサの挿入損失が増大する。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、共通接続された各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るマルチプレクサは、共通端子と、第一端および第二端を有し、第一端が共通端子に接続された第1インダクタンス素子と、第二端に接続され、第1通過帯域を有する第1弾性波フィルタと、共通端子に接続され、第1通過帯域よりも高周波側に位置する第2通過帯域を有する第2弾性波フィルタと、第二端および第1弾性波フィルタを結ぶ経路とグランドとの間に接続された第2インダクタンス素子と、上記経路とグランドとの間に接続されたキャパシタンス素子と、を備え、第2インダクタンス素子とキャパシタンス素子とで構成される共振回路の共振周波数は、第1通過帯域と第2通過帯域との間に位置する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、共通接続された各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例に係るマルチプレクサの回路構成図である。
【
図2】実施例に係る各フィルタの周波数関係を示す図である。
【
図3】実施例に係るLC並列共振回路の共振特性およびインピーダンス特性を示す図である。
【
図4A】実施例に係る各フィルタを構成する弾性波共振子の第1例を模式的に表す平面図および断面図である。
【
図4B】実施例に係る各フィルタを構成する弾性波共振子の第2例を模式的に表す断面図である。
【
図4C】実施例に係る各フィルタを構成する弾性波共振子の第3例を模式的に表す断面図である。
【
図5】比較例に係るマルチプレクサの回路構成図である。
【
図6】実施例および比較例に係る第1フィルタ群をノードp1から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャートである。
【
図7A】実施例および比較例に係る第1フィルタ群をノードp2から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャートである。
【
図7B】実施例および比較例に係る第1フィルタ群をノードp2から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャートおよびコンダクタンスを比較したグラフである。
【
図8A】実施例および比較例に係るマルチプレクサをノードp3から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャート、および、第1フィルタ群の通過特性を示すグラフである。
【
図8B】実施例および比較例に係るマルチプレクサをノードp3から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャート、および、第2フィルタ群の通過特性を示すグラフである。
【
図9】変形例1に係るマルチプレクサの回路構成図である。
【
図10】変形例1に係る各フィルタおよびLC並列共振回路の周波数関係を示す図である。
【
図11】変形例2に係るマルチプレクサの回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、実施例、変形例および図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施例および変形例は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施例および変形例で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施例および変形例における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。
【0010】
なお、各図は、本発明を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではなく、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる場合がある。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡素化される場合がある。
【0011】
本開示の回路構成において、「接続される」とは、接続端子および/または配線導体で直接接続される場合だけでなく、他の回路素子を介して電気的に接続される場合も含む。「AおよびBの間に接続される」とは、AおよびBの間でAおよびBの両方に接続されることを意味する。
【0012】
また、「平行」および「垂直」などの要素間の関係性を示す用語、「矩形」などの要素の形状を示す用語、ならびに、数値範囲は、厳格な意味のみを表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の誤差をも含むことを意味する。
【0013】
また、以下の実施の形態において、フィルタの通過帯域は、当該通過帯域内における挿入損失の最小値から3dB大きい2つの周波数間の周波数帯域と定義される。
【0014】
なお、本開示において、「2つのインピーダンスが複素共役の関係となる」とは、合成された2つのインピーダンスの複素成分が0に近づくようにキャンセルされることを意味する。すなわち、一方のインピーダンスをR1+jX1とし、他方のインピーダンスをR2+jX2とした場合に、X1>0かつX2<0を満たす(一方のインピーダンスが誘導性であり、かつ、他方のインピーダンスが容量性である)ことを意味し、特に、X1+X2=0を満たすことが好適である。
【0015】
(実施の形態)
[1.1 マルチプレクサ1の回路構成]
図1は、実施例に係るマルチプレクサ1の回路構成図である。同図に示すように、マルチプレクサ1は、フィルタ11、12、13、14、21および22と、インダクタ31と、LC並列共振回路40と、共通端子100と、入力端子110、130および210と、出力端子120、140および220と、を備える。
【0016】
共通端子100は、例えば、アンテナ2に接続される。
【0017】
インダクタ31は、第1インダクタンス素子の一例であり、第一端および第二端を有する。インダクタ31の第一端は共通端子100に接続されている。
【0018】
フィルタ11は、第1弾性波フィルタの一例であり、バンドAの送信帯域(アップリンク動作バンド)を含む通過帯域(第1通過帯域)を有する。フィルタ11の一端(出力端)はインダクタ31の第二端に接続され、他端(入力端)は入力端子110に接続されている。フィルタ11は、1以上の弾性波共振子を有する。
【0019】
フィルタ12は、第3弾性波フィルタの一例であり、バンドAの受信帯域(ダウンリンク動作バンド)を含む通過帯域(第3通過帯域)を有する。フィルタ12の一端(入力端)はインダクタ31の第二端に接続され、他端(出力端)は出力端子120に接続されている。フィルタ12は、1以上の弾性波共振子を有する。
【0020】
フィルタ13は、バンドBの送信帯域(アップリンク動作バンド)を含む通過帯域を有する。フィルタ13の一端(出力端)はインダクタ31の第二端に接続され、他端(入力端)は入力端子130に接続されている。フィルタ13は、1以上の弾性波共振子を有する。
【0021】
フィルタ14は、バンドBの受信帯域(ダウンリンク動作バンド)を含む通過帯域を有する。フィルタ13の一端(入力端)はインダクタ31の第二端に接続され、他端(出力端)は出力端子140に接続されている。フィルタ14は、1以上の弾性波共振子を有する。
【0022】
フィルタ11、12、13および14は、インダクタ31の第二端に共通接続された第1フィルタ群である。
【0023】
フィルタ21は、第2弾性波フィルタの一例であり、バンドCの送信帯域(アップリンク動作バンド)を含む通過帯域(第2通過帯域)を有する。フィルタ21の一端(出力端)は共通端子100に接続され、他端(入力端)は入力端子210に接続されている。フィルタ21は、1以上の弾性波共振子を有する。
【0024】
フィルタ22は、バンドCの受信帯域(ダウンリンク動作バンド)を含む通過帯域を有する。フィルタ22の一端(入力端)は共通端子100に接続され、他端(出力端)は出力端子220に接続されている。フィルタ22は、1以上の弾性波共振子を有する。
【0025】
フィルタ21および22は、共通端子100に共通接続された第2フィルタ群である。
【0026】
図2は、実施例に係る各フィルタの周波数関係を示す図である。同図には、フィルタ11~14および21~22の通過特性の概略が示されている。同図に示すように、各フィルタの通過帯域は、低周波側から順に、フィルタ11、12、13、14、21および22となっている。
【0027】
つまり、第2フィルタ群(フィルタ21~22)の各通過帯域は、第1フィルタ群(フィルタ11~14)の各通過帯域よりも高周波側に位置している。
【0028】
なお、第1フィルタ群(フィルタ11~14)の間では、通過帯域の周波数関係は任意であり、第2フィルタ群(フィルタ21~22)の間では、通過帯域の周波数関係は任意である。
【0029】
なお、バンドAとしては、例えば、LTE(Long Term Evolution)のBand3(送信帯域:1710-1785MHz、受信帯域:1805-1880MHz)が適用される。また、バンドBとしては、例えば、LTEのBand1(送信帯域:1920-1980MHz、受信帯域:2110-2170MHz)が適用される。また、バンドCとしては、例えば、LTEのBand7(送信帯域:2500-2570MHz、受信帯域:2620-2690MHz)が適用される。
【0030】
なお、本実施例に係るマルチプレクサ1において、フィルタ12~14、および22はなくてもよい。また、フィルタ11~14以外のフィルタがインダクタ31の第二端に接続されていてもよく、フィルタ21~22以外のフィルタが共通端子100に接続されていてもよい。ただし、インダクタ31の第二端に接続された各フィルタの通過帯域は、共通端子100に直接接続された各フィルタの通過帯域よりも低周波側に位置することが条件となる。
【0031】
LC並列共振回路40は、共振回路の一例であり、インダクタ31の第二端およびフィルタ11を結ぶ経路上のノードn2とグランドとの間に接続され、インダクタ41と、キャパシタ42と、を備える。インダクタ41は、第2インダクタンス素子の一例であり、ノードn2とグランドとの間に接続されている。キャパシタ42は、キャパシタンス素子の一例であり、ノードn2とグランドとの間に接続されている。つまり、インダクタ41とキャパシタ42とは、上記経路とグランドとの間で並列接続されている。本実施例では、ノードn2は、フィルタ11~14が共通接続されたノードn1とインダクタ31の第二端との間に位置している。
【0032】
なお、インダクタ31および41のそれぞれは、チップ状の表面実装型部品、基板に形成された導体コイルまたは導体配線などのインダクタンス素子であってもよい。また、キャパシタ42は、チップ状の表面実装型部品、基板に形成された導体電極または導体配線などのキャパシタンス素子であってもよい。
【0033】
図3は、実施例に係るLC並列共振回路40の共振特性およびインピーダンス特性を示す図である。同図の(a)には、LC並列共振回路40の回路図ならびにインダクタ41およびキャパシタ42の数値例が示されている。また、同図の(b)には、LC並列共振回路40のインピーダンスの周波数特性が示されている。また、同図の(c)には、LC並列共振回路40のインピーダンスを示すスミスチャートが示されている。
【0034】
図3の(b)に示すように、LC並列共振回路40の共振周波数Frにおいて、インピーダンスが極大となる。
図3の(a)に示すように、インダクタ41のインダクタンス値L
41を例えば4.4nHとし、キャパシタ42のキャパシタンス値C
42を例えば1.0pFとすることで、LC並列共振回路40の共振周波数Frは、例えば2399.5MHzとなる。
【0035】
ここで、LC並列共振回路40の共振周波数Frは、第1フィルタ群(フィルタ11~14)の各通過帯域と、第2フィルタ群(フィルタ21~22)の各通過帯域との間に位置している。これによれば、共振周波数Frよりも低周波側ではLC並列共振回路40のインピーダンスは誘導性を示し、共振周波数Frよりも高周波側ではLC並列共振回路40のインピーダンスは容量性を示すこととなる。
【0036】
なお、共通端子100、入力端子110、130および210、出力端子120、140および220は、マルチプレクサ1が備えていなくてもよい。
【0037】
[1.2 弾性波フィルタの構造]
ここで、マルチプレクサ1を構成する各フィルタが有する弾性波共振子の構造について例示する。
【0038】
図4Aは、実施例に係る各フィルタの弾性波共振子の第1例を模式的に表す平面図および断面図である。同図には、フィルタ11~14および21~22を構成する弾性波共振子の基本構造が例示されている。なお、
図4Aに示された弾性波共振子60は、弾性波共振子の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数および長さなどは、これに限定されない。
【0039】
弾性波共振子60は、圧電性を有する基板50と、櫛形電極60aおよび60bとで構成されている。
【0040】
図4Aの(a)に示すように、基板50の上には、互いに対向する一対の櫛形電極60aおよび60bが形成されている。櫛形電極60aは、互いに平行な複数の電極指61aと、複数の電極指61aを接続するバスバー電極62aとで構成されている。また、櫛形電極60bは、互いに平行な複数の電極指61bと、複数の電極指61bを接続するバスバー電極62bとで構成されている。複数の電極指61aおよび61bは、弾性波伝搬方向(X軸方向)と直交する方向に沿って形成されている。
【0041】
また、複数の電極指61aおよび61b、ならびに、バスバー電極62aおよび62bで構成されるIDT電極54は、
図4Aの(b)に示すように、密着層540と主電極層542との積層構造となっている。
【0042】
密着層540は、基板50と主電極層542との密着性を向上させるための層であり、材料として、例えば、Tiが用いられる。主電極層542は、材料として、例えば、Cuを1%含有したAlが用いられる。保護層55は、櫛形電極60aおよび60bを覆うように形成されている。保護層55は、主電極層542を外部環境から保護する、周波数温度特性を調整する、および、耐湿性を高めるなどを目的とする層であり、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする誘電体膜である。
【0043】
なお、密着層540、主電極層542および保護層55を構成する材料は、上述した材料に限定されない。さらに、IDT電極54は、上記積層構造でなくてもよい。IDT電極54は、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属または合金から構成されてもよく、また、上記の金属または合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。また、保護層55は、形成されていなくてもよい。
【0044】
次に、基板50の積層構造について説明する。
【0045】
図4Aの(c)に示すように、基板50は、高音速支持基板51と、低音速膜52と、圧電膜53とを備え、高音速支持基板51、低音速膜52および圧電膜53がこの順で積層された構造を有している。
【0046】
圧電膜53は、例えばθ°YカットX伝搬LiTaO3圧電単結晶または圧電セラミックス(X軸を中心軸としてY軸からθ°回転した軸を法線とする面で切断したリチウムタンタレート単結晶、またはセラミックスであって、X軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶またはセラミックス)からなる。なお、各フィルタの要求仕様により、圧電膜53として使用される圧電単結晶の材料およびカット角θが適宜選択される。
【0047】
高音速支持基板51は、低音速膜52、圧電膜53ならびにIDT電極54を支持する基板である。高音速支持基板51は、さらに、圧電膜53を伝搬する表面波および境界波などの弾性波よりも、高音速支持基板51中のバルク波の音速が高速となる基板であり、弾性表面波を圧電膜53および低音速膜52が積層されている部分に閉じ込め、高音速支持基板51より下方に漏れないように機能する。高音速支持基板51は、例えば、シリコン基板である。
【0048】
低音速膜52は、圧電膜53を伝搬するバルク波よりも、低音速膜52中のバルク波の音速が低速となる膜であり、圧電膜53と高音速支持基板51との間に配置される。この構造と、弾性波が本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中するという性質とにより、弾性表面波エネルギーのIDT電極外への漏れが抑制される。低音速膜52は、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする膜である。
【0049】
なお、基板50の上記積層構造によれば、圧電基板を単層で使用している従来の構造と比較して、共振周波数および反共振周波数におけるQ値を大幅に高めることが可能となる。すなわち、Q値が高い弾性波共振子を構成し得るので、当該弾性波共振子を用いて、挿入損失が小さいフィルタを構成することが可能となる。
【0050】
なお、高音速支持基板51は、支持基板と、圧電膜53を伝搬する表面波および境界波などの弾性波よりも、伝搬するバルク波の音速が高速となる高音速膜とが積層された構造を有していてもよい。この場合、支持基板には、サファイア、リチウムタンタレート、リチウムニオベイト、および水晶等の圧電体、アルミナ、マグネシア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、およびフォルステライト等の各種セラミック、ガラス等の誘電体、シリコンおよび窒化ガリウム等の半導体、ならびに樹脂基板等を用いることができる。また、高音速膜には、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、DLC膜、ダイヤモンド、これらの材料を主成分とする媒質、これらの材料の混合物を主成分とする媒質等、様々な高音速材料を用いることができる。
【0051】
また、
図4Bは、実施例に係る各フィルタの弾性波共振子の第2例を模式的に表す断面図である。
図4Aに示した弾性波共振子60では、IDT電極54が、圧電膜53を有する基板50上に形成された例を示したが、当該IDT電極54が形成される基板は、
図4Bに示すように、圧電体層の単層からなる圧電単結晶基板57であってもよい。圧電単結晶基板57は、例えば、LiNbO
3の圧電単結晶で構成されている。本例に係る弾性波共振子は、LiNbO
3の圧電単結晶基板57と、IDT電極54と、圧電単結晶基板57上およびIDT電極54上に形成された保護層58と、で構成されている。
【0052】
上述した圧電膜53および圧電単結晶基板57は、弾性波フィルタ装置の要求通過特性などに応じて、適宜、積層構造、材料、カット角、および、厚みを変更してもよい。上述したカット角以外のカット角を有するLiTaO3圧電基板などを用いた弾性波共振子であっても、上述した圧電膜53を用いた弾性波共振子60と同様の効果を奏することができる。
【0053】
また、IDT電極54が形成される基板は、支持基板と、エネルギー閉じ込め層と、圧電膜がこの順で積層された構造を有していてもよい。圧電膜上にIDT電極54が形成される。圧電膜は、例えば、LiTaO3圧電単結晶または圧電セラミックスが用いられる。支持基板は、圧電膜、エネルギー閉じ込め層、およびIDT電極54を支持する基板である。
【0054】
エネルギー閉じ込め層は1層または複数の層からなり、その少なくとも1つの層を伝搬するバルク弾性波の速度は、圧電膜近傍を伝搬する弾性波の速度よりも大きい。例えば、エネルギー閉じ込め層は、低音速層と、高音速層との積層構造となっていてもよい。低音速層は、圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、低音速層中のバルク波の音速が低速となる膜である。高音速層は、圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、高音速層中のバルク波の音速が高速となる膜である。なお、支持基板を高音速層としてもよい。
【0055】
また、エネルギー閉じ込め層は、音響インピーダンスが相対的に低い低音響インピーダンス層と、音響インピーダンスが相対的に高い高音響インピーダンス層とが、交互に積層された構成を有する音響インピーダンス層であってもよい。
【0056】
また、
図4Cは、実施例に係る各フィルタの弾性波共振子の第3例を模式的に表す断面図である。
図4Cには、フィルタ11~14および21~22の弾性波共振子として、バルク弾性波共振子が示されている。同図に示すように、バルク弾性波共振子は、例えば、支持基板65と、下部電極66と、圧電体層67と、上部電極68と、を有しており、支持基板65、下部電極66、圧電体層67、および上部電極68がこの順で積層された構成となっている。
【0057】
支持基板65は、下部電極66、圧電体層67、および上部電極68を支持するための基板であり、例えば、シリコン基板である。なお、支持基板65は、下部電極66と接触する領域に、空洞が設けられている。これにより、圧電体層67を自由に振動させることが可能となる。
【0058】
下部電極66は、第1電極の一例であり、支持基板65の一方面上に形成されている。上部電極68は、第2電極の一例であり、支持基板65の一方面上に形成されている。下部電極66および上部電極68は、材料として、例えば、Cuを1%含有したAlが用いられる。
【0059】
圧電体層67は、下部電極66と上部電極68との間に形成されている。圧電体層67は、例えば、ZnO(酸化亜鉛)、AlN(窒化アルミニウム)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、KN(ニオブ酸カリウム)、LN(リチウムニオベイト)、LT(リチウムタンタレート)、水晶、およびLiBO(ホウ酸リチウム)の少なくとも1つを主成分とする。
【0060】
上記積層構成を有するバルク弾性波共振子は、下部電極66と上部電極68との間に電気的なエネルギーを印加することで圧電体層67内にてバルク弾性波を誘発して共振を発生させるものである。このバルク弾性波共振子により生成されるバルク弾性波は、下部電極66と上部電極68との間を、圧電体層67の膜面に垂直な方向に伝搬する。つまり、バルク弾性波共振子は、バルク弾性波を利用した共振子である。
【0061】
マルチプレクサ1の各フィルタが有する弾性波共振子が一対の櫛形電極で構成されたIDT電極を有すること(
図4Aおよび
図4B参照)、または、圧電体層を挟んで対向する一対の平行平板電極を有すること(
図4C参照)により、上記各フィルタのインピーダンスは、容量性を示すこととなる。
【0062】
[1.3 比較例に係るマルチプレクサ500]
ここで、従来の構成を有する、比較例に係るマルチプレクサ500について説明しておく。
【0063】
図5は、比較例に係るマルチプレクサ500の回路構成図である。同図に示すように、マルチプレクサ500は、フィルタ11、12、13、14、21および22と、インダクタ31と、共通端子100と、入力端子110、130および210と、出力端子120、140および220と、を備える。比較例に係るマルチプレクサ500は、実施例に係るマルチプレクサ1と比較して、LC並列共振回路40がない点が異なる。
【0064】
比較例に係るマルチプレクサ500によれば、インダクタ31が接続されたフィルタ11~14の各通過帯域(バンドAおよびB)における誘導性のインピーダンスと、フィルタ21~22の上記通過帯域(バンドAおよびB)における容量性のインピーダンスとが複素共役の関係であることを利用し、上記通過帯域(バンドAおよびB)におけるマルチプレクサ500のインピーダンスを基準インピーダンスに整合させようとしている。
【0065】
しかしながら、比較例に係るマルチプレクサ500では、フィルタ11~14(第1フィルタ群)の各通過帯域(バンドAおよびB)におけるインピーダンスが容量成分の大きな領域に位置する場合がある。なお、インダクタ31に接続される弾性波フィルタの数が多いほど、第1フィルタ群の各通過帯域におけるインピーダンスの容量成分は大きくなる。これにより、インダクタ31が接続された状態でのフィルタ11~14の各通過帯域(バンドAおよびB)におけるインピーダンスは、インダクタ31の直列接続により等レジスタンス円を時計回りにシフトして、基準インピーダンスから遠い誘導性領域に位置することとなる。このため、インダクタ31が接続されたフィルタ11~14の各通過帯域(バンドAおよびB)における誘導性インピーダンスと、フィルタ21~22の減衰帯域(バンドAおよびB)における容量性インピーダンスとでアンバランスが生じ、マルチプレクサ500の第1フィルタ群の各通過帯域(バンドAおよびB)におけるインピーダンスを精度よく基準インピーダンスに整合できないという問題が生じる。その結果、上記通過帯域(バンドAおよびB)における整合損が発生し、マルチプレクサ500の挿入損失が増大する。
【0066】
[1.4 実施例および比較例に係るマルチプレクサの特性比較]
以下では、本実施例に係るマルチプレクサ1のインピーダンス特性(アドミタンス特性)および通過特性について、実施例および比較例のマルチプレクサを比較しながら説明する。
【0067】
図6は、実施例および比較例に係る第1フィルタ群をノードp1から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャートである。同図には、実施例および比較例における、ノードp1(インダクタ31の第二端)からフィルタ11~14を見たインピーダンス特性が示されている。なお、ノードp1は、インダクタ31の第二端とノードn2(LC並列共振回路40の接続点)との間に位置している。
【0068】
同図の(a)および(b)には、ノードp1からフィルタ11~14を見たインピーダンスのうちのバンドBの送信帯域および受信帯域におけるインピーダンスが示されている。同図の(c)および(d)には、ノードp1からフィルタ11~14を見たインピーダンスのうちのバンドAの送信帯域および受信帯域におけるインピーダンスが示されている。同図の(e)および(f)には、ノードp1からフィルタ11~14を見たインピーダンスのうちのバンドCの送信帯域および受信帯域におけるインピーダンスが示されている。
【0069】
比較例に係るマルチプレクサ500では、ノードp1からフィルタ11~14を見たバンドA、バンドBおよびバンドCのインピーダンスは、全て容量性領域に位置している。
【0070】
これに対して、実施例に係るマルチプレクサ1では、比較例に係るマルチプレクサ500と比較して、ノードp1からフィルタ11~14を見たインピーダンスのうち、共振周波数Frよりも低周波側に位置するバンドAおよびバンドBのインピーダンスは、LC並列共振回路40の誘導性(誘導成分の並列接続)により等コンダクタンス円を反時計回りに(基準インピーダンスに向かって)シフトしている。
【0071】
また、実施例に係るマルチプレクサ1では、比較例に係るマルチプレクサ500と比較して、ノードp1からフィルタ11~14を見たインピーダンスのうち、共振周波数Frよりも高周波側に位置するバンドCのインピーダンスは、LC並列共振回路40の容量性(容量成分の並列接続)により等コンダクタンス円を時計回りに(ショート点に向かって)シフトしている。
【0072】
つまり、実施例に係るマルチプレクサ1では、共振周波数FrがバンドAおよびBとバンドCとの間に位置していることにより、比較例に係るマルチプレクサ500と比較して、ノードp1からフィルタ11~14を見たバンドAおよびバンドBのインピーダンスと、ノードp1からフィルタ11~14を見たバンドCのインピーダンスとを、逆方向にシフトさせている。
【0073】
つまり、実施例に係るマルチプレクサ1では、比較例に係るマルチプレクサ500と比較して、ノードp1からフィルタ11~14を見たバンドAおよびバンドBのインピーダンスは、基準インピーダンスにより近く位置し、ノードp1からフィルタ11~14を見たバンドCのインピーダンスは、ショート点により近く位置している。
【0074】
図7Aは、実施例および比較例に係る第1フィルタ群をノードp2から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャートである。また、
図7Bは、実施例および比較例に係る第1フィルタ群をノードp2から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャートおよびコンダクタンスを比較したグラフである。なお、ノードp2は、インダクタ31の第一端と、インダクタ31および第2フィルタ群の接続点との間に位置している。
【0075】
図7Aおよび
図7Bには、実施例および比較例における、ノードp2(インダクタ31の第一端)からフィルタ11~14を見たインピーダンス特性が示されている。
図7Aの(a)および(b)には、ノードp2からフィルタ11~14を見たインピーダンスのうちのバンドBの送信帯域および受信帯域におけるインピーダンスが示されている。
図7Aの(c)および(d)には、ノードp2からフィルタ11~14を見たインピーダンスのうちのバンドAの送信帯域および受信帯域におけるインピーダンスが示されている。
図7Bの(a)および(b)には、ノードp2からフィルタ11~14を見たインピーダンスのうちのバンドCの送信帯域および受信帯域におけるインピーダンスが示されている。さらに、
図7Bの(c)には、ノードp2からフィルタ11~14を見たコンダクタンスの周波数特性が示されている。
【0076】
比較例に係るマルチプレクサ500では、ノードp2からフィルタ11~14を見たバンドAおよびバンドBのインピーダンスは、直列接続されたインダクタ31(誘導成分の直列接続)により等レジスタンス円を時計回りにシフトし、全て誘導性領域に位置している。
【0077】
これに対して、実施例に係るマルチプレクサ1では、ノードp2からフィルタ11~14を見たバンドAおよびバンドBのインピーダンスは、直列接続されたインダクタ31(誘導成分の直列接続)により等レジスタンス円を時計回りにシフトするが、比較例に係るマルチプレクサ500と比較して、当該シフトする前の位置が基準インピーダンスにより近く位置しているため、当該シフト後の位置は誘導性領域の基準インピーダンスにより近くなっている。
【0078】
これにより、インダクタ31が接続されたフィルタ11~14の各通過帯域(バンドAおよびB)における誘導性インピーダンスと、フィルタ21~22の減衰帯域(バンドAおよびB)における容量性インピーダンスとが、より高精度な複素共役の関係となり、マルチプレクサ1の第1フィルタ群の各通過帯域(バンドAおよびB)におけるインピーダンスを高精度に基準インピーダンスに整合することが可能となる。
【0079】
また、実施例に係るマルチプレクサ1では、ノードp2からフィルタ11~14を見たバンドCのインピーダンスは、直列接続されたインダクタ31(誘導成分の直列接続)により等レジスタンス円を時計回りにシフトするが、比較例に係るマルチプレクサ500と比較して、当該シフトする前の位置がショート点により近く位置しているため、当該シフト後の位置は誘導性領域のオープン点により近くなっている。このため、
図7Bの(c)に示すように、ノードp2からフィルタ11~14を見たバンドCのコンダクタンスが低減されている。つまり、第1フィルタ群へのバンドCの信号の漏洩を抑制できる。
【0080】
図8Aは、実施例および比較例に係るマルチプレクサをノードp3から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャート、および、第1フィルタ群の通過特性を示すグラフである。また、
図8Bは、実施例および比較例に係るマルチプレクサをノードp3から見た場合のインピーダンスを比較したスミスチャート、および、第2フィルタ群の通過特性を示すグラフである。なお、ノードp3は、共通端子100と、インダクタ31および第2フィルタ群の接続点との間に位置している。
【0081】
図8Aの(a1)および(b1)には、ノードp3から11~14および21~22を見たインピーダンスのうちのバンドBの送信帯域および受信帯域におけるインピーダンスが示されている。
図8Aの(a2)および(b2)には、フィルタ13および14のバンドBにおける通過特性が示されている。
図8Aの(c1)および(d1)には、ノードp3からフィルタ11~14および21~22を見たインピーダンスのうちのバンドAの送信帯域および受信帯域におけるインピーダンスが示されている。
図8Aの(c2)および(d2)には、フィルタ11および12のバンドAにおける通過特性が示されている。
図8Bの(a1)および(b1)には、ノードp3からフィルタ11~14および21~22を見たインピーダンスのうちのバンドCの送信帯域および受信帯域におけるインピーダンスが示されている。
図8Bの(a2)および(b2)には、フィルタ21および22のバンドCにおける通過特性が示されている。
【0082】
図8Aに示すように、実施例に係るマルチプレクサ1では、比較例に係るマルチプレクサ500と比較して、ノードp3からフィルタ11~14および21~22を見たバンドAおよびバンドBのインピーダンスは、基準インピーダンスにより近くなっている。これにより、フィルタ13および14のバンドB(通過帯域)における挿入損失が低減されており、また、フィルタ11および12のバンドA(通過帯域)における挿入損失が低減されている。
【0083】
また、実施例に係るマルチプレクサ1では、比較例に係るマルチプレクサ500と比較して、ノードp2からフィルタ11~14を見たバンドCのコンダクタンスが低減されている(
図7Bの(c)参照)ので、フィルタ21および22のバンドC(通過帯域)における挿入損失が低減されている。よって、共通接続された各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサ1を提供することが可能となる。
【0084】
[1.5 変形例1に係るマルチプレクサ1A]
図9は、変形例1に係るマルチプレクサ1Aの回路構成図である。同図に示すように、マルチプレクサ1Aは、フィルタ11、12、13、14、21および22と、インダクタ31と、共振回路40Aと、共通端子100と、入力端子110、130および210と、出力端子120、140および220と、を備える。本変形例に係るマルチプレクサ1Aは、実施例に係るマルチプレクサ1と比較して、共振回路40Aの回路構成が異なる。以下、本変形例に係るマルチプレクサ1Aについて、実施例に係るマルチプレクサ1と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0085】
共振回路40Aは、インダクタ31の第二端およびフィルタ11を結ぶ経路上のノードn2とグランドとの間に接続され、インダクタ41と、弾性波共振子43と、を備える。インダクタ41は、第2インダクタンス素子の一例であり、ノードn2とグランドとの間に接続されている。弾性波共振子43は、キャパシタンス素子の一例であり、
図4A~
図4Cに示された弾性波共振子60の構成を有する。弾性波共振子43は、ノードn2とグランドとの間に接続されている。つまり、インダクタ41と弾性波共振子43とは、上記経路とグランドとの間で並列接続されている。
【0086】
図10は、変形例1に係るフィルタ11~14および21~22と、共振回路40Aとの周波数関係を示す図である。同図に示すように、共振回路40Aは、共振周波数F1(第1共振周波数)および共振周波数F2(第2共振周波数)を有する。共振周波数F1は共振回路40Aのインピーダンスが極大となる周波数であり、弾性波共振子43の反共振周波数に対応している。共振周波数F2は共振回路40Aのインピーダンスが極小となる周波数であり、弾性波共振子43の共振周波数に対応している。これによれば、共振周波数F1とF2との間では、共振回路40Aのインピーダンスは誘導性を示し、共振周波数F1よりも高周波側および共振周波数F2よりも低周波側では共振回路40Aのインピーダンスは容量性を示すこととなる。
【0087】
ここで、共振回路40Aの共振周波数F1は、第1フィルタ群(フィルタ11~14)の各通過帯域と、第2フィルタ群(フィルタ21~22)の各通過帯域との間に位置し、共振回路40Aの共振周波数F2は、第1フィルタ群(フィルタ11~14)の各通過帯域よりも低周波側に位置している。
【0088】
これによれば、第1フィルタ群のバンドAおよびBにおけるインピーダンスは、共振回路40Aの誘導性により等コンダクタンス円に沿って中心方向にシフトした上で、インダクタ31により等レジスタンス円に沿って誘導性領域にシフトする。一方、第1フィルタ群のバンドCにおけるインピーダンスは、共振回路40Aの容量性により等コンダクタンス円に沿ってショート方向にシフトした上で、インダクタ31により等レジスタンス円に沿って誘導性領域にシフトする。
【0089】
これにより、誘導性領域に位置する第1フィルタ群のバンドAおよびBにおけるインピーダンスは、共振回路40Aの誘導性により中心方向にシフトしているので、共振回路40Aが付加されていないマルチプレクサと比較して、基準インピーダンスにより近く位置している。よって、誘導性領域に位置する第1フィルタ群のバンドAおよびBにおけるインピーダンスと、容量性領域に位置する第2フィルタ群のバンドAおよびBにおけるインピーダンスと、の合成インピーダンス(複素共役)を基準インピーダンスに精度よく合わせることが可能となる。よって、第1フィルタ群を低損失にできる。また、第1フィルタ群のバンドCにおけるインピーダンスは、共振回路40Aが付加されていないマルチプレクサと比較して、誘導性領域のよりオープン(高インピーダンス)側にシフトする。よって、第1フィルタ群のバンドCにおけるコンダクタンスを低減できるので、バンドCの信号が第1フィルタ群へ漏洩することを抑制できるので、第2フィルタ群を低損失にできる。よって、共通接続された各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサ1Aを提供することが可能となる。
【0090】
[1.6 変形例2に係るマルチプレクサ1B]
図11は、変形例2に係るマルチプレクサ1Bの回路構成図である。同図に示すように、マルチプレクサ1Bは、フィルタ11、12、13、14、21および22と、インダクタ31および44と、弾性波共振子45と、共通端子100と、入力端子110、130および210と、出力端子120、140および220と、を備える。本変形例に係るマルチプレクサ1Bは、変形例1に係るマルチプレクサ1Aと比較して、LC並列共振回路を構成する弾性波共振子の接続位置が異なる。以下、本変形例に係るマルチプレクサ1Bについて、変形例1に係るマルチプレクサ1Aと同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0091】
インダクタ44は、第2インダクタンス素子の一例であり、インダクタ31の第二端およびフィルタ11を結ぶ経路上のノードn2とグランドとの間に接続されている。
【0092】
弾性波共振子45は、キャパシタンス素子の一例であり、
図4A~
図4Cに示された弾性波共振子60の構成を有する。弾性波共振子45は、フィルタ11および12の接続点とフィルタ11とを結ぶ経路と、グランドとの間に接続されている。弾性波共振子45は、フィルタ11の出力端に最も近く接続された弾性波共振子である。なお、弾性波共振子45は、キャパシタであってもよい。
【0093】
上記構成によれば、インダクタ44と弾性波共振子45とは、インダクタ31の第二端およびフィルタ11を結ぶ経路とグランドとの間に接続された共振回路を構成する。
【0094】
ここで、インダクタ44と弾性波共振子45とで構成された共振回路の共振周波数F1は、第1フィルタ群(フィルタ11~14)の各通過帯域と、第2フィルタ群(フィルタ21~22)の各通過帯域との間に位置し、当該LC並列共振回路の共振周波数F2は、第1フィルタ群(フィルタ11~14)の各通過帯域よりも低周波側に位置している。
【0095】
これによれば、本変形例に係るマルチプレクサ1Bは、変形例に係るマルチプレクサ1Aと同様の効果を奏することが可能となる。よって、共通接続された各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサ1Bを提供することが可能となる。
【0096】
なお、弾性波共振子45は、フィルタ11を構成する弾性波共振子であって、フィルタ11の出力端に最も近く接続された並列腕共振子であってもよい。ただし、弾性波共振子45は、フィルタ11の通過帯域を構成する弾性波共振子としては機能しない。
【0097】
[2 効果など]
以上のように、実施例に係るマルチプレクサ1は、共通端子100と、第一端および第二端を有し、第一端が共通端子100に接続されたインダクタ31と、第二端に接続され第1通過帯域を有するフィルタ11と、共通端子100に接続され、第1通過帯域よりも高周波側に位置する第2通過帯域を有するフィルタ21と、第二端およびフィルタ11を結ぶ経路とグランドとの間に接続されたインダクタ41と、上記経路とグランドとの間に接続されたキャパシタ42と、を備え、インダクタ41とキャパシタ42とで構成されるLC並列共振回路40の共振周波数は、第1通過帯域と第2通過帯域との間に位置する。
【0098】
これによれば、フィルタ11の第1通過帯域におけるインピーダンスは、LC並列共振回路40の誘導性によりスミスチャート上の等コンダクタンス円に沿って中心方向にシフトした上で、インダクタ31により等レジスタンス円に沿って誘導性領域にシフトする。一方、フィルタ11の第2通過帯域におけるインピーダンスは、LC並列共振回路40の容量性によりスミスチャート上の等コンダクタンス円に沿ってショート方向にシフトした上で、インダクタ31により等レジスタンス円に沿って誘導性領域にシフトする。
【0099】
これにより、誘導性領域に位置するフィルタ11の第1通過帯域におけるインピーダンスは、LC並列共振回路40の誘導性により中心方向にシフトしているので、LC並列共振回路40が付加されていないマルチプレクサと比較して、基準インピーダンスにより近く位置している。よって、誘導性領域に位置するフィルタ11の第1通過帯域におけるインピーダンスと、容量性領域に位置するフィルタ21の第1通過帯域におけるインピーダンスと、の合成インピーダンス(複素共役)を基準インピーダンスに精度よく合わせることが可能となる。よって、フィルタ11を低損失にできる。また、フィルタ11の第2通過帯域におけるインピーダンスは、LC並列共振回路40が付加されていないマルチプレクサと比較して、誘導性領域のよりオープン(高インピーダンス)側にシフトする。よって、フィルタ11の第2通過帯域におけるコンダクタンスを低減できるので、第2通過帯域の信号がフィルタ11へ漏洩することを抑制できるので、フィルタ21を低損失にできる。よって、共通接続されたフィルタ11および21の通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサ1を提供することが可能となる。
【0100】
また例えば、マルチプレクサ1は、さらに、第二端に接続され、第2通過帯域よりも低周波側に位置する第3通過帯域を有するフィルタ12を備え、LC並列共振回路40の共振周波数は、第1通過帯域と第2通過帯域との間に位置し、かつ、第3通過帯域と第2通過帯域との間に位置してもよい。
【0101】
これによれば、誘導性領域に位置するフィルタ11および12の第1通過帯域および第3通過帯域におけるインピーダンスは、LC並列共振回路40の誘導性により中心方向にシフトしているので、LC並列共振回路40が付加されていないマルチプレクサと比較して、基準インピーダンスにより近く位置している。よって、誘導性領域に位置するフィルタ11および12の第1通過帯域および第3通過帯域におけるインピーダンスと、容量性領域に位置するフィルタ21の第1通過帯域および第3通過帯域におけるインピーダンスと、の合成インピーダンス(複素共役)を基準インピーダンスに精度よく合わせることが可能となる。よって、フィルタ11および12を低損失にできる。また、フィルタ11および12の第2通過帯域におけるインピーダンスは、LC並列共振回路40が付加されていないマルチプレクサと比較して、誘導性領域のよりオープン(高インピーダンス)側にシフトする。よって、フィルタ11および12の第2通過帯域におけるコンダクタンスを低減できるので、第2通過帯域の信号がフィルタ11および12へ漏洩することを抑制できるので、フィルタ21を低損失にできる。よって、共通接続されたフィルタ11、12および21の通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサ1を提供することが可能となる。
【0102】
また例えば、マルチプレクサ1において、インダクタ41とキャパシタ42とは、上記経路とグランドとの間で並列接続されていてもよい。
【0103】
また例えば、変形例2に係るマルチプレクサ1Bにおいて、キャパシタ42の代わりに、弾性波共振子45(キャパシタンス素子)が、フィルタ11および12の接続点とフィルタ11とを結ぶ経路と、グランドとの間に接続されていてもよい。
【0104】
これによれば、インダクタ44(第2インダクタンス素子)と弾性波共振子45(キャパシタンス素子)とが、LC並列共振回路を構成する。これにより、誘導性領域に位置するフィルタ11および12のバンドAおよびBにおけるインピーダンスと、容量性領域に位置するフィルタ21のバンドAおよびBにおけるインピーダンスと、の合成インピーダンス(複素共役)を基準インピーダンスに精度よく合わせることが可能となる。よって、フィルタ11および12を低損失にできる。また、フィルタ11および12のバンドCにおけるインピーダンスは、LC並列共振回路が付加されていないマルチプレクサと比較して、誘導性領域のよりオープン(高インピーダンス)側にシフトする。よって、フィルタ11および12のバンドCにおけるコンダクタンスを低減できるので、バンドCの信号がフィルタ11および12へ漏洩することを抑制できるので、フィルタ21を低損失にできる。よって、共通接続された各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサ1Bを提供することが可能となる。
【0105】
また例えば、変形例1に係るマルチプレクサ1Aにおいて、第二端およびフィルタ11を結ぶ経路とグランドとの間に接続されたキャパシタンス素子は、弾性波共振子43であってもよい。
【0106】
これによれば、実施例に係るマルチプレクサ1と同様の効果を奏することが可能となる。よって、共通接続された各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサ1Aを提供することが可能となる。
【0107】
また例えば、変形例1に係るマルチプレクサ1Aにおいて、インダクタ41と弾性波共振子43とで構成される共振回路40Aは、第1共振周波数および第2共振周波数を有し、第1共振周波数は、弾性波共振子43の反共振周波数faに対応し、第2共振周波数は、弾性波共振子43の共振周波数frに対応し、第1共振周波数は、バンドAとバンドCとの間に位置し、第2共振周波数は、通過帯域バンドAよりも低周波側に位置してもよい。
【0108】
これによれば、第1共振周波数と第2共振周波数との間では、共振回路40Aのインピーダンスは誘導性を示し、第1共振周波数よりも高周波側および第2共振周波数よりも低周波側では共振回路40Aのインピーダンスは容量性を示すこととなる。これにより、実施例に係るマルチプレクサ1と同様の効果を奏することが可能となる。よって、共通接続された各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失が低減されたマルチプレクサ1Aを提供することが可能となる。
【0109】
(その他の実施の形態)
以上、本発明に係るマルチプレクサについて、実施の形態、実施例および変形例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態、実施例および変形例に限定されるものではない。上記実施の形態、実施例および変形例に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、本発明に係るマルチプレクサを内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
【0110】
また、例えば、上記実施の形態、実施例および変形例に係るマルチプレクサにおいて、各構成要素の間に、インダクタおよびキャパシタなどの整合素子、ならびにスイッチ回路が接続されていてもかまわない。
【0111】
なお、上記実施の形態、実施例および変形例において示された共振周波数frおよび反共振周波数faは、例えば、弾性波共振子の2つの入出力電極にRFプローブを接触させて反射特性を測定することで導出される。
【0112】
以下に、上記実施の形態および変形例に基づいて説明したマルチプレクサの特徴を示す。
【0113】
<1>
共通端子と、
第一端および第二端を有し、前記第一端が前記共通端子に接続された第1インダクタンス素子と、
前記第二端に接続され、第1通過帯域を有する第1弾性波フィルタと、
前記共通端子に接続され、前記第1通過帯域よりも高周波側に位置する第2通過帯域を有する第2弾性波フィルタと、
前記第二端および前記第1弾性波フィルタを結ぶ経路とグランドとの間に接続された第2インダクタンス素子と、
前記経路とグランドとの間に接続されたキャパシタンス素子と、を備え、
前記第2インダクタンス素子と前記キャパシタンス素子とで構成される共振回路の共振周波数は、前記第1通過帯域と前記第2通過帯域との間に位置する、マルチプレクサ。
【0114】
<2>
さらに、
前記第二端に接続され、前記第2通過帯域よりも低周波側に位置する第3通過帯域を有する第3弾性波フィルタを備え、
前記共振回路の共振周波数は、前記第1通過帯域と前記第2通過帯域との間に位置し、かつ、前記第3通過帯域と前記第2通過帯域との間に位置する、<1>に記載のマルチプレクサ。
【0115】
<3>
前記第2インダクタンス素子と前記キャパシタンス素子とは、前記経路とグランドとの間で並列接続されている、<1>または<2>に記載のマルチプレクサ。
【0116】
<4>
前記キャパシタンス素子は、前記第1弾性波フィルタおよび前記第3弾性波フィルタの接続点と前記第1弾性波フィルタとを結ぶ経路と、グランドとの間に接続されている、<2>に記載のマルチプレクサ。
【0117】
<5>
前記キャパシタンス素子は、弾性波共振子である、<1>~<4>のいずれかに記載のマルチプレクサ。
【0118】
<6>
前記第2インダクタンス素子と前記弾性波共振子とで構成される共振回路は、第1共振周波数および第2共振周波数を有し、
前記第1共振周波数は、前記弾性波共振子の反共振周波数に対応し、
前記第2共振周波数は、前記弾性波共振子の共振周波数に対応し、
前記第1共振周波数は、前記第1通過帯域と前記第2通過帯域との間に位置し、
前記第2共振周波数は、前記第1通過帯域よりも低周波側に位置する、<5>に記載のマルチプレクサ。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、マルチバンド化およびマルチモード化された周波数規格に適用できる低損失のマルチプレクサとして、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0120】
1、1A、1B、500 マルチプレクサ
2 アンテナ
11、12、13、14、21、22 フィルタ
40 LC並列共振回路
40A 共振回路
31、41、44 インダクタ
42 キャパシタ
43、45、60 弾性波共振子
50 基板
51 高音速支持基板
52 低音速膜
53 圧電膜
54 IDT電極
55、58 保護層
57 圧電単結晶基板
60 弾性波共振子
60a、60b 櫛形電極
61a、61b 電極指
62a、62b バスバー電極
65 支持基板
66 下部電極
67 圧電体層
68 上部電極
100 共通端子
110、130、210 入力端子
120、140、220 出力端子
n1、n2、p1、p2、p3 ノード