(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047786
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】チャックボディの焼入れ方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20240401BHJP
C21D 1/09 20060101ALI20240401BHJP
B23P 13/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C21D9/00 M
C21D1/09 G
C21D1/09 M
B23P13/00
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153472
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000241588
【氏名又は名称】豊和工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森山 義見
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA25
4K042BA03
4K042DA01
4K042DB04
4K042DF02
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】 チャックボディに複数形成されるガイド溝の摺動面の硬化を均一にすることが容易なチャックボディの焼入れ方法を提供する。
【解決手段】 チャックボディ5の上方または側方にレーザを照射するノズル13が配置され、チャックボディ5のガイド溝7の上部9の摺動面11Aにレーザ焼入れを行った後、基部8の摺動面11Cにレーザ焼入れを行う。その後、ガイド溝7の上部9の摺動面11E、基部8の摺動面11Gにレーザ焼入れを行う。続けて基部8の摺動面11B、11Dにレーザ焼入れを行った後、基部8の摺動面11F、11Hにレーザ焼入れを行うようにした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック軸線方向に移動する駆動部材によってチャック半径方向に往復動するマスタジョーには爪が固着され、その爪によりワークをクランプ、アンクランプするように構成されたチャックであって、前記駆動部材はチャックボディに形成される貫通孔に収容され、前記マスタジョーはチャックボディに複数形成されるガイド溝に収容され、駆動部材とマスタジョーの往復動により貫通孔やガイド溝に設けた摺動面が摩耗するのを防止するために摺動面を硬化させるようにしたチャックボディの焼入れ方法において、貫通孔やガイド溝に設けた摺動面にレーザ焼入れを行うことで摺動面を硬化させるようにしたことを特徴とするチャックボディの焼入れ方法。
【請求項2】
前記ガイド溝はチャックボディの円周方向に複数形成され、各ガイド溝は幅広の基部と基部より幅狭の上部とを有するT字形状の断面であって、基部と上部には複数の摺動面が設けられ、第1のガイド溝のいずれかの摺動面にレーザ焼入れを行った後、チャックボディの回転により、前記摺動面と同一位置にある第2のガイド溝の摺動面、第3のガイド溝の摺動面に順次レーザ焼入れを行うようにしたことを特徴とする請求項1記載のチャックボディの焼入れ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャック軸線方向に移動する駆動部材によってチャック半径方向に往復動するマスタジョーには爪が固着され、その爪によりワークをクランプ、アンクランプするように構成されたチャックであって、前記駆動部材はチャックボディに形成される貫通孔に収容され、前記マスタジョーはチャックボディに複数形成されるガイド溝に収容され、駆動部材とマスタジョーの往復動により貫通孔やガイド溝に設けた摺動面が摩耗するのを防止するために摺動面を硬化させるようにしたチャックボディの焼入れ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、チャック本体20(チャックボディ)のガイド溝40の表面を焼入れによって硬化させることが知られている。従来のチャックボディでは前記焼入れは主に高周波焼入れが採用されている。高周波焼入れは部品が摺動する摺動面のある貫通孔やガイド溝の近傍にコイルを配置し、そのコイルに流す高周波誘導電流を利用して貫通孔やガイド溝の摺動面を急速に加熱し、その後直ちに、水などの冷却液で急速に冷やすことで貫通孔やガイド溝の摺動面の表面を硬化させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のチャックボディのガイド溝は、幅広の基部と基部より幅狭の上部とを有するT字形状の断面であって、基部と上部には複数の摺動面が設けられている。従来のような高周波焼入れによってガイド溝の複数の摺動面の表面を一度に硬化させるには、ガイド溝に対応した形状のコイルを設けなければならない。そのコイルをガイド溝に対して常に一定な距離となるように配置しなければ各摺動面に均一に熱を加えることができず、各摺動面の硬度が均一となるように硬化させることができない。よって、硬度の低い摺動面がマスタジョーの往復動により摩耗することでマスタジョーの往復動に影響を与えるおそれがあった。
そこで本発明の課題は、上記問題点に鑑み、チャックボディに設けた摺動面の硬化を均一にすることが容易なチャックボディの焼入れ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、チャック軸線方向に移動する駆動部材によってチャック半径方向に往復動するマスタジョーには爪が固着され、その爪によりワークをクランプ、アンクランプするように構成されたチャックであって、前記駆動部材はチャックボディに形成される貫通孔に収容され、前記マスタジョーはチャックボディに複数形成されるガイド溝に収容され、駆動部材とマスタジョーの往復動により貫通孔やガイド溝に設けた摺動面が摩耗するのを防止するために摺動面を硬化させるようにしたチャックボディの焼入れ方法において、貫通孔やガイド溝に設けた摺動面にレーザ焼入れを行うことで摺動面を硬化させるようにしたことを特徴とする。具体的には、前記ガイド溝は、幅広の基部と基部より幅狭の上部とを有するT字形状の断面であって、基部と上部には複数の摺動面が設けられ、第1のガイド溝の摺動面にレーザ焼入れを行った後、チャックボディを回転させ、前記摺動面と同一位置にある残りのガイド溝の摺動面にレーザ焼入れを行うようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、チャックボディに複数形成されるガイド溝の摺動面にレーザ焼入れを行うことで、ガイド溝に対してコイルを一定な距離となるように配置する煩わしさがなくなり、各ガイド溝の摺動面の硬度が均一となるように硬化させることが可能となる。更に、硬度の低い摺動面がないためにマスタジョーの往復動への影響を防ぐことが可能となる。また、円周方向に複数形成されるガイド溝の摺動面に焼入れを行う場合に、各ガイド溝の同一位置にある摺動面に焼入れし、連続した摺動面にレーザ焼入れを行わないようにしたことで、焼き戻しにつながる焼入れ箇所の重なりを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】チャックを示す図であり、一部の爪を外した状態を示す図である。
【
図3】
図2のIII視図であり、ガイド溝を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に示すチャック1は、駆動部材2の往復動によりチャック半径方向へ往復動させるマスタジョー3に装着した爪4によってワークをクランプ、アンクランプするように構成されたものである。前記駆動部材2はチャックボディ5に形成される貫通孔6に収容され、前記マスタジョー3はチャックボディ5の円周方向に複数形成されるガイド溝7に収容されている。
図3に示すように、ガイド溝7は幅広の基部8と基部8より幅狭の上部9とを有するT字形状の断面である。前記上部9はチャックボディ5の前方へ開口している。基部8の中央部には溝部10が設けられている。
【0009】
前記ガイド溝7にはマスタジョー3を案内する複数の摺動面11A~11Hが設けられ、その摺動面11A~11Hはマスタジョー3の往復動により摩耗するのを防止するために焼入れによって硬化してある。前記貫通孔6には駆動部材2のウエッジプランジャ12を案内する摺動面6Aが設けられ、その摺動面6Aはウエッジプランジャ12の往復動により摩耗するのを防止するために焼入れによって硬化してある。
【0010】
前記ガイド溝7の摺動面11A~11Hと貫通孔6の摺動面6Aの焼入れはレーザ焼入れで行うようにした。そのレーザ焼入れは、レーザを照射してガイド溝7の摺動面11A~11Hや貫通孔6の摺動面6Aを急速に加熱し、ガイド溝7の摺動面11A~11Hや貫通孔6の摺動面6Aの表面温度を一気に上げる。その後、レーザ焼入れの箇所を移動すると自己冷却によってレーザ焼入れの箇所の表面温度が急激に下がりガイド溝7の摺動面11A~11Hや貫通孔6の摺動面6Aの表面を硬化させることができる。更に、レーザの移動を均一とすることで焼入れの箇所の硬度を均一にできる。
【0011】
次に、上記のガイド溝7の摺動面11A~11Hの焼入れ方法について説明する。チャックボディ5の上方または側方にレーザを照射するノズル13が配置される。チャックボディ5はチャック軸線CLに対して回転するように設置される。前記ノズル13はレーザをチャック半径方向へ照射可能に設けられている。本実施形態では、前記ノズル13の旋回や移動によって、チャックボディ5のガイド溝7の上部9の摺動面11Aにレーザ焼入れを行った後、基部8の摺動面11Cにレーザ焼入れを行う。その後、ガイド溝7の上部9の摺動面11E、基部8の摺動面11Gにレーザ焼入れを行う。続けて基部8の摺動面11B、11Dにレーザ焼入れを行った後、基部8の摺動面11F、11Hにレーザ焼入れを行うようにした。このように、連続した摺動面11A~11Hにレーザ焼入れを行わないことで、焼き戻しにつながる焼入れ箇所の重なりを防ぐことができる。その後、チャックボディ5を回転させると共に、前記動作によって残りの第2、第3のガイド溝7B、7Cに設けた摺動面11A~11Hに焼入れを行うようにした。
【0012】
以上のことから、各ガイド溝7A~7Cに設けた摺動面11A~11Hにレーザ焼入れを行うことで、従来のようなガイド溝7の摺動面11A~11Hに対してコイルを一定な距離となるように配置する煩わしさがなくなり、各ガイド溝7A~7Cの摺動面11A~11Hの硬度が均一となるように硬化させることができる。更に、硬度の低い摺動面がないためにマスタジョー3の往復動への影響を防止することができる。更に、ガイド溝7には
図5に示すような基部8の上下方向の間隔が狭いものがあるが、レーザが通過可能な溝部10Aを形成することで、上記のガイド溝7と同様に各摺動面11A~11Hの硬度が均一となるように硬化させることができる。
【0013】
他の実施形態として、
図4に示すように、第1のガイド溝7Aの上部9の摺動面11Aにレーザ焼入れを行った後、チャックボディ5を回転させ、第2のガイド溝7Bの前記摺動面11Aと同一位置にある摺動面11Aにレーザ焼入れを行う。更に、チャックボディ5を回転させ、第3のガイド溝7Cの前記摺動面11Aと同一位置にある摺動面11Aにレーザ焼入れを行う。その後、ノズル13を移動させ、第1のガイド溝7Aの上部9の摺動面11E、第2のガイド溝7Bの上部9の摺動面11E、第3のガイド溝7Cの上部9の摺動面11Eにレーザ焼入れを行うようにした。このように、円周方向に複数形成されるガイド溝7A~7Cの摺動面11A~11Hに焼入れを行う場合に、各ガイド溝7A~7Cの同一位置にある摺動面11A~11Hに焼入れし、連続した摺動面11A~11Hにレーザ焼入れを行わないようにしたことで、焼き戻しにつながる焼入れ箇所の重なりを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0014】
1 チャック
2 駆動部材
3 マスタジョー
4 爪
5 チャックボディ
6 貫通孔
6A 摺動面
7 ガイド溝
8 基部
9 上部
11A~11H 摺動面