IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人茨城大学の特許一覧 ▶ 株式会社セントラル技研の特許一覧 ▶ 株式会社エーバイシーの特許一覧

<>
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図1
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図2
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図3
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図4
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図5
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図6
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図7
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図8
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図9
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図10
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図11
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図12
  • 特開-透水試験装置及びその試験方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047787
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】透水試験装置及びその試験方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/06 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
E02D1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153474
(22)【出願日】2022-09-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人 地盤工学会関東支部 第18回 地盤工学会 関東支部発表会 GeoKanto2021<要旨集> 第6会場 環境1 環境1-3 p.55 令和3年10月22日発行 〔刊行物等〕公益社団法人 地盤工学会関東支部 第18回 地盤工学会 関東支部発表会 GeoKanto2021<要旨集> 第6会場 環境1 環境1-3 オンライン発表(ZOOM) 令和3年10月22日開催 〔刊行物等〕公益社団法人 地盤工学会関東支部 第18回 地盤工学会 関東支部発表会 GeoKanto2021<要旨集> 第6会場 環境1 環境1-4 p.56 令和3年10月22日発行 〔刊行物等〕公益社団法人 地盤工学会関東支部 第18回 地盤工学会 関東支部発表会 GeoKanto2021<要旨集> 第6会場 環境1 環境1-4 オンライン発表(ZOOM) 令和3年10月22日開催 〔刊行物等〕2022年5月21日 公益社団法人 日本地下水学会 2022年春季講演会(東京農工大)講演予稿 p.10~p.13 2022年5月21日発行 〔刊行物等〕公益社団法人 日本地下水学会 2022年春季講演会(東京農工大学)プログラム 第1会場 セッション1 03 東京農工大学 府中キャンパス 2022年5月21日開催
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(71)【出願人】
【識別番号】594051655
【氏名又は名称】株式会社セントラル技研
(71)【出願人】
【識別番号】518427340
【氏名又は名称】株式会社エーバイシー
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221615
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明夫
(72)【発明者】
【氏名】荻野 一彦
(72)【発明者】
【氏名】本多 顕治郎
(72)【発明者】
【氏名】米山 俊一
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA05
2D043AC01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】同一供試体が充填された透水試験装置で鉛直方向と水平方向の透水係数を迅速に、かつ正確に評価でき、透水試験の際の通水方向を鉛直方向から水平方向に簡単安全に供試体を乱すことなく変更できて連続的に正確な透水試験が行える異方透水性の評価が可能な立方体試験装置及び異方透水試験方法を提供する。
【解決手段】本発明は、内部に供試体2が充填される立方体試験装置3と、前記立方体試験装置3の上端面に接続され、前記立方体試験装置3内の透水試験路と連通する鉛直通水管路8と、前記立方体試験装置3の側面に接続され、立方体試験装置3内の透水試験路と連通する水平通水管路10とを備え、前記立方体試験装置3と鉛直通水管路8の接続あるいは水平通水管路10の接続の切り替えは、立方体試験装置3に供試体2が入った状態で可能とされ、同一の供試体2入り立方体試験装置3により鉛直方向と水平方向の透水試験が行えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に供試体が充填される立方体試験装置と、前記立方体試験装置の上端面に接続され、前記立方体試験装置内の透水試験路と連通する鉛直通水管路と、前記立方体試験装置の側面に接続され、立方体試験装置内の透水試験路と連通する水平通水管路とを備え、
前記立方体試験装置と鉛直通水管路の接続あるいは水平通水管路の接続の切り替えは、立方体試験装置に供試体が入った状態で可能とされ、同一の供試体入り立方体試験装置により鉛直方向と水平方向の透水試験が行える、
ことを特徴とする透水試験装置。
【請求項2】
前記立方体試験装置内に形成された透水試験路は、該立方体試験装置内部の鉛直方向四隅部及び水平方向四隅部にそれぞれ隅角部スペーサが取り付けられて透水試験路が形成された、
ことを特徴とする請求項1記載の透水試験装置。
【請求項3】
前記隅角部スペーサが取り付けられて形成された透水試験路の入口及び出口の断面形状と略同等の断面形状を有する接続口の鉛直通水管路及び水平通水管路が前記透水試験路に連通する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の透水試験装置。
【請求項4】
液体が貯留された水槽内に、鉛直方向及び水平方向の透水試験結果が同一となる部材で形成された疑似供試体を内部に充填して透水試験路を形成した立方体試験装置を設置し、設置された立方体試験装置の上端面に鉛直通水管路を接続して、前記透水試験路を鉛直透水試験路に形成可能とすると共に、前記立方体試験装置の側面に水平透水試験管路を接続して前記透水試験路を水平透水試験路に形成可能として、前記立方体試験装置の測定精度検証のための透水試験を行い、精度検証された立方体試験装置に現場の供試体を充填し、あるいは供試体を締め固めて透水試験が行える、
ことを特徴とする透水試験方法。
【請求項5】
前記立方体試験装置内に形成された透水試験路は、立方体試験装置内部の鉛直方向四隅部及び水平方向四隅部にそれぞれ隅角部スペーサを取り付けて透水試験路を形成した、
ことを特徴とする請求項4記載の透水試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透水試験装置につき、該装置に充填された同一供試体によって例えば鉛直と水平方向など異方性の透水係数の測定が正確に行えて、連続的かつ正確に前記透水係数が測定できる透水試験装置及びその試験方法に係り、特に、立方体試験装置を用い、該立方体試験装置の隅角部に隅角部スペーサを取り付けることによりさらに正確な異方性を把握できる透水試験装置及びその試験方法に関するものである。尚、立方体試験装置は直方体試験装置であっても良い。
【背景技術】
【0002】
近年、気候変動に伴う異常気象が相次いで起こっており、特に短時間大雨による河川堤防の決壊や盛土崩壊等の自然災害の激甚化、頻発化が加速している。
かかる状況に鑑みると、いわゆる土構造物の安全性評価の試験は迅速に、かつ正確に行うことが重要となる。
【0003】
ここで、前記土構造物の安全性評価の試験、例えば土構造物の透水試験を行うに際しては、異方性の透水試験が行える試験装置、例えば鉛直方向の透水試験及び水平方向の透水試験が行える試験装置、すなわち異方性においても正確な透水性評価を行える透水試験装置並びにその試験方法でなければならない。
【0004】
しかしながら、透水試験を行う供試体を土構造物の原位置から乱さず採取し、それを搬送することは多大な労力とコストが必要となる。
【0005】
他方、前記土構造物の原位置における地盤に孔を掘削して、透水係数を現地で把握する原位置透水試験法が提案されているものの、未だJIS化されるには至っていない。
【0006】
よって現状では、日本工業規格(Japanese Industrial Standards) JIS A 1218(土の透水試験)に準拠して「室内試験で鉛直方向のみの」透水係数を求めている状態に留まっている。
【0007】
JIS A 1218(土の透水試験)では、円柱試験装置に入った供試体を用いて鉛直方向に水を流し、時間当たりの水の通過量(流量)を測定して透水係数を算出している。そして、異方性を有する地盤であっても、異方性を等方性と仮定して、前記供試体の鉛直方向の透水係数のみを算出し、該算出値をそのほかの水平方向の土の透水係数として設定している。
【0008】
また、Guelph Pressure Infiltrometer(GPI)法などの原位置透水試験も基本的に原位置の地盤は、異方性であっても「等方性」であると仮定した上で地盤の透水係数を算出するものである。
【0009】
しかしながら、原位置の地盤においては、異方性はすべて「等方性」であるとはいえず、鉛直方向と水平方向では異なった透水性を有することが報告されている。
また、堤防を構成する土の異方透水係数について詳細な原位置調査を行った結果、第1に「原位置透水試験と室内透水試験結果は、両者の透水係数には、10-1~10-2m/secのオーダー差がある」、第2に「一般的に、鉛直方向の透水係数に比較して水平方向の透水係数が大きいが、調査結果の中には逆に鉛直方向の透水係数が大きいことがある」、さらに「鉛直・水平供試体の採取による、異方透水性評価は、そもそも同一供試体を用いておらず正確な異方透水係数が測定できているとは言い難い」等の見解が報告されている。
【0010】
以上より、堤防、盛土などの土構造物を構成する土は、「等方性」ではなく「異方性」を有していることは明白であると考えられる。
【0011】
しかるに、前述の如く、透水係数の算定値には異方性を有することが認識されているにもかかわらず、これまでは対応可能な試験装置及び試験方法がなかったために「等方」として評価せざるをなかったのである。
【0012】
しかし、土の透水係数を算定する場合の「等方性」という仮定条件は、場合によっては、土の透水係数の評価につき極めて危険な評価にもなりかねず、ひいては、かかる評価が気候危機時代において国民の生命と財産を脅かしかねないとの危惧がある。
そして、上記のとおり、JIS A 1218(土の透水試験)で用いられる円柱状の試験装置では同一供試体を使用して鉛直方向と水平方向の透水試験を行うことは困難であるとの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003-321827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記従来に課題を解決するために創案されたものであり、同一供試体が充填された透水試験装置で鉛直方向と水平方向の透水係数を迅速に、かつ正確に評価でき、透水試験の際の通水方向を鉛直方向から水平方向に簡単に変更できて、連続的に正確な異方透水性を把握可能な試験装置及びその透水試験方法を提供することを目的とするものである。尚、JIS A 1218(土の透水試験)で定められている透水試験は、2種類が示されており、定水位透水試験(主に、透水性が高い土)と変水位透水試験(主に、透水性が低い土)があり、これらは土の透水性によりを使い分けられているが、試験装置及びその透水試験方法は両透水試験に適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、
内部に供試体が充填される立方体試験装置と、前記立方体試験装置の上端面に接続され、前記立方体試験装置内の透水試験路と連通する鉛直通水管路と、前記立方体試験装置の側面に接続され、立方体試験装置内の透水試験路と連通する水平通水管路とを備え、
前記立方体試験装置と鉛直通水管路の接続あるいは水平通水管路の接続の切り替えは、立方体試験装置に供試体が入った状態で可能とされ、同一の供試体入り立方体試験装置により鉛直方向と水平方向の透水試験が行える、
ことを特徴とし、
または、
前記立方体試験装置内に形成された透水試験路は、該立方体試験装置内部の鉛直方向四隅部及び水平方向四隅部にそれぞれ隅角部スペーサが取り付けられて鉛直透水試験路あるいは水平試験通路が形成された、
ことを特徴とし、
または、
前記隅角部スペーサが取り付けられて形成された透水試験路の入口及び出口の断面形状と略同等の断面形状を有する鉛直通水管路及び水平通水管路が前記透水試験路に連通する、
ことを特徴とし、
または、
液体が貯留された水槽内に、鉛直方向及び水平方向の透水試験結果が同一となる部材で形成された疑似供試体を内部に充填して透水試験路を形成した立方体試験装置を設置し、設置された立方体試験装置の上端面に鉛直通水管路を接続して、前記透水試験路を鉛直透水試験路に形成可能とすると共に、前記立方体試験装置の側面に水平通水管路を接続して前記透水試験路を水平透水試験路に形成可能として、前記立方体試験装置の測定精度検証のための透水試験を行い、精度検証された立方体試験装置に現場の供試体を充填し、あるいは供試体を締め固めて透水試験が行える、
ことを特徴とし、
または、
前記立方体試験装置内に形成された透水試験路は、立方体試験装置内部の鉛直方向四隅部及び水平方向四隅部にそれぞれ隅角部スペーサを取り付けて透水試験路に形成した、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、同一供試体が充填された透水試験装置で鉛直方向と水平方向の透水係数を迅速に、かつ正確に評価でき、さらに、透水試験の際の通水方向を鉛直方向から水平方向に簡単安全に供試体を乱すことなく変更できて連続的に正確な透水試験が行える異方透水性の評価が可能な立方体試験装置及び異方透水試験方法が提供できるとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の構成を説明する説明図(1)である。
図2】本発明の構成を説明する説明図(2)である。
図3】立方体試験装置に隅角部スペーサを取り付けた状態を説明する説明図である。
図4】通水断面の形状による飽和透水係数(鉛直)の比較を説明する説明図である。
図5】通水断面の形状による飽和透水係数(水平)の比較を説明する説明図である。
図6】立方体試験装置の構成を説明する写真である。
図7】円柱試験装置の構成を説明する写真である。
図8】隅角部スペーサを取り付けた立方体試験装置の上部開口を上から見た状態の説明図である。
図9】隅角部スペーサを取り付けた立方体試験装置の側部開口を横から見た状態の説明図である。
図10】ガラスビーズ(φ0.6 mm)を用いた透水試験の結果の説明図である。
図11】ガラスビーズ(φ1.2 mm)を用いた透水試験の結果の説明図である。
図12】隅角部スペーサの構成の一実施例を示す説明図である。
図13】隅角部スペーサを取り付けたときの透水試験の結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を図に示す実施例に基づいて説明する。
図1あるいは図2に示す様に、水が貯留された水槽1内に供試体2入りの立方体試験装置3が設置される。ここで、供試体2としては、疑似供試体として大量の球状をなすガラスビーズを使用した。
【0019】
本発明においては、まず、立方体試験装置3の測定精度検証をする必要がある。すなわち、立方体試験装置3で鉛直方向の透水試験と水平方向の透水試験の測定精度が正確であるか否か検証する必要があった。そのため、供試体2に透水試験の試験結果につき異方性のほとんどない球体粒子のガラスビーズを疑似供試体として用いる必要があったのである。
【0020】
従って、前記により測定精度の正確性が検証された後、通常の透水試験を行うに際しは、前記立方体試験装置3内に土などの供試体を入れて透水試験が行われることとなる。
尚、立方体試験装置3は、その立方体の外形を形成する六面体の枠状に枠組みされた枠体4を有している。
【0021】
そして、前記枠体4で構成される六面体の四側面には表面に大量の通水孔を有する有孔板5が取り付けられると共に、その外側には孔を有しない遮蔽板6が着脱自在にして取り付けられている。
なお、立方体試験装置3の外形については、立方体形状の他、直方体形状にしても構わない。
【0022】
ところで、立方体試験装置3の上端には開口部が設けられ、該開口部の外周側に存する四角状の上端面には図6から理解されるように、上方に向かって突出する突起7が設けられている。この突起7は角筒状をなす鉛直通水管路8を立方体試験装置3の上端面に取り付ける取付具及び取付の際の位置決め具との機能を有する。よって鉛直通水管路8の下端面(接続面)には前記突起7が挿入される取付孔が設けられ、前記取付孔に突起8を挿入することにより正確に位置決め出来て取り付けできる構成とされている。
【0023】
また、立方体試験装置3の下端面側には、水槽1の底面と立方体試験装置3の下端面との間にスペースを確保すべくスペーサ9が介在されて設けられている。
【0024】
よって、鉛直透水試験を行う際には、図1に示す様に、鉛直通水管路8の上方から通水された水は、立方体試験装置3の上方開口から供試体2間を鉛直方向の下向きに通過し、立方体試験装置3の下端開口から流出するよう構成される。この下端開口から水が容易に流出できるよう前記スペーサ9が配置されているのである。
【0025】
図2は既に水槽1内に設置された立方体試験装置3を使用して鉛直透水試験から水平透水試験に変更できる構成を示した図である。
【0026】
本発明によれば、図1に示す試験システムで鉛直透水試験を行った後、同一の供試体入り立方体試験装置3を使用し、しかも水槽1内において、立方体試験装置3を移動させることなく、また、内部の供試体2の状態を変化させることなく水平透水試験が行えるものとなる。
【0027】
まず、鉛直通水管路8を立方体試験装置3の上端から外す。次いで、立方体試験装置3の上端面と下端面の開口に前述した遮蔽板6を取り付けて塞ぐ。
さらに、水平方向に通水する両側面につき、取り付けてある遮蔽板6を取り外す。すると、前記両側面は有孔板5のみとなり、内部にある供試体2を外部に逃すことなく、水平方向に水を通過させることができるものとなる。
次いで、一方側の側面の外側に略L型をした水平通水管路10の接続口を取り付ける。かかる取り付け方法については何ら限定されない。
そして、取り付けた水平通水管路10の先端側から通水し、供試体2内を水平方向に通過させて水平透水試験が行えるのである。
【0028】
尚、立方体試験装置3の四側面について遮蔽板6が取り外せる構成になっており、前記の水平透水試験を行った側面から90度異なる角度の側面からも水平透水試験が行えるものとなっている。
【0029】
図3は前記立方体試験装置3の内部四隅に隅角部スペーサ11を取り付けた例を示す概略図である。そして、前記隅角部スペーサ11は立方体試験装置3内部において鉛直方向のみならず水平方向においても立方体試験装置3の四隅に隅角部スペーサ11が取り付けてあり、もって立方体試験装置3を通常の円柱試験装置になるべく近似させた試験装置として構成したものである。
【0030】
通常、JIS A 1218(土の透水試験)で用いられるのは円柱試験装置12である(図7参照)。しかしながら、前記円柱試験装置12では同一の供試体2を使用して鉛直方向と水平方向の透水試験を行うことは不可能である。そこで本件発明者らは、同一の供試体2で鉛直方向と水平方向の透水係数を正確に評価できる立方体試験装置3及び該試験装置を使用しての試験方法を発明した。
【0031】
すなわち、同一の供試体入り立方体試験装置3を用いつつ水の通水方向を鉛直方向から水平方向に変更出来、もって連続的に透水試験が行える機構を備えた異方透水性を評価する立方体試験装置3の開発に成功したのである。そして、円柱試験装置12で行ったときと同等の評価が行えるよう前記隅角部スペーサ11を内部の四隅に取り付けたのである。
【0032】
尚、立方体試験装置3の鉛直方向及び水平方向の四隅に隅角部スペーサ11を取り付けると、図8及び図9のように通水する際の開口が塞がれることになる。図8は立方体試験装置3を上方から見た図であり、図9は側方から見た図である。これら図8図9から理解されるように図8では水平方向に取り付けられた隅角部スペーサ11によって立方体試験装置3の上方開口が一部塞がれた状態となり、図9では鉛直方向に取り付けられた隅角部スペーサ11によって側方開口が一部塞がれた状態となっている。しかしながら、後述するように、前記隅角部スペーサ11の大きさや形状を変更することにより、円柱試験装置12での試験結果に近似させることが出来る。
尚、図8及び図9において、隅角部スペーサ11の長手方向一側辺を湾曲状に切り欠き、なるべく通水する際の開口が広くなるよう構成しても構わない。
【0033】
(測定精度検証のための試験手順)
ここで、供試体2には、疑似の供試体として二種類(φ0.6 mm とφ1.2 mm)のガラスビーズ(ρs=2.69 Mg/m3)を用いた。
そして、透水試験は、基本的に土の透水試験(JIS A 1218:2009)に準拠して行った。前記供試体2は、自然乾燥状態(含水比はほぼ 0 %)のガラスビーズを用いて、厚さ 2cmごとにゆっくりと締め固めながら下部より順に積み重ねて供試体2とした。作製したガラスビーズの供試体2の乾燥密度ρdは、ガラスビーズ(φ0.6 mm)では ρd=1.53 Mg/m3、ガラスビーズ(φ1.2 mm)では ρd=1.56 Mg/m3 である。
【0034】
(試験結果と考察)
図10には、立方体試験装置3に疑似の供試体2としてガラスビーズ(φ0.6 mm)を用い、鉛直方向と水平方向の透水試験を行ったときの鉛直方向と水平方向の飽和透水係数(kv、kh)の試験結果を示してある。
【0035】
また、図11にはガラスビーズ(φ1.2 mm)の鉛直方向と水平方向の飽和透水係数(kv、kh)の試験結果を示してある。両ガラスビーズとも再現性を確認するため3つの供試体2を用意し、これら3つの供試体2について透水試験を行ったものである。
【0036】
しかるに、前記試験結果からは、両ガラスビーズにより構成された供試体2とも鉛直方向の飽和透水係数 kv が水平方向の飽和透水係数 kh より若干大きい傾向を示した。
また、ガラスビーズ(φ0.6 mm)における飽和透水係数比(=kh/kv)は平均で 0.69、ガラスビーズ(φ1.2 mm)における飽和透水係数比(=kh/kv)は平均で 0.58 であった。
球体であるガラスビーズの場合、等方透水性(kh/kv=1)を示すものと考えられるが、本試験では異なる透水係数を若干示す結果となった。
【0037】
ところで、ガラスビーズ(φ0.6 mm)を用いた透水試験終了後、排水状態の供試体2の状況を観察すると、供試体2の両端部の上部のみ周辺に比較して白くなっていることが見受けられた。これは、該部分の間隙水が低下しているためである。この間隙水が低下した理由は、両端部(四隅)の間隙が周辺より大きく、その分保水力の低下が生じたと考えられるのである。
【0038】
これは、立方体試験装置3特有の四隅における隅角部付近のガラスビーズ、すなわち供試体2の詰まりが悪く、周辺の間隙と比較し相対的に大きかったからである。以上より、立方体試験装置3において供試体2を用いて適切な飽和透水係数を算定するためには、立方体試験装置3の隅角部に関する影響を排除する必要がある。
【0039】
よって、立方体試験装置3の隅角部(四隅)に新たに隅角部スペーサ11を取り付けることで、立方体試験装置3の隅角部が飽和透水係数の算定に及ぼす影響をなくした。
【0040】
(立方体試験装置3の隅角部に隅角部スペーサ11を取り付けて行った試験)
立方体試験装置3の隅角部に隅角部スペーサ11を取り付けた。よって、透水試験の供試体2は、100×100×100 mm の立方体であるが、隅角部スペーサ11を入れた供試体2の容積分は小さいものとなっている。
【0041】
前述した様に透水試験時の通水面には、土の透水試験(JIS A 1218:2009)を参考にして、例えば、φ2 mm 孔を縦横 5 mm 間隔で設けてある有孔板5が取り付けてある。尚、通水を阻害しないものであれば孔径、孔間隔は特にこだわらない。
また、隅角部スペーサ11を取り付けた鉛直方向と水平方向における透水試験の試験方法は、基本的には前述と同様である。
【0042】
供試体2は、前述の透水試験で飽和透水係数比(=kh/kv)が平均で 0.58 と、鉛直方向と水平方向の飽和透水係数の差が大きく算定されたガラスビーズ(φ1.2 mm、ρs=2.69 Mg/m3)を供試体2として用いた。
【0043】
(試験手順の概要)
立方体試験装置3を用いた透水試験は、基本的に土の透水試験(JIS A 1218:2009)に準拠して行われる。供試体2は、自然乾燥状態(含水比はほぼ 0 %)のガラスビーズを用いて、厚さ 2cm ごとにゆっくりと締め固めながら下部より順に積み重ねて作製した。
なお、供試体2を投入する前に立方体試験装置3の四隅の隅角部には図13に示す寸法の隅角部スペーサ11を取り付けた。
取り付けに際しては、隅角部スペーサ11に止水グリースを薄く塗布して立方体試験装置3の四隅に押し付け、隅角部スペーサ11の背面に水が回り込まない様に留意した.
【0044】
(試験結果と考察)
図13に、隅角部スペーサ11を取り付けた立方体試験装置3を用いて求めた鉛直方向と水平方向の飽和透水係数(kv、kh)と比較検討のために土の透水係数(JIS A 1218: 2009)より求めた飽和透水係数 ks を示す。
【0045】
試験に際し、算定した飽和透水係数の再現性を正確に確認するため、3つの供試体2で透水試験を行った。鉛直方向、水平方向共に、3つの供試体2の飽和透水係数は、多少バラツキが見受けられるものの、平均的な飽和透水係数としては概ね同様な値が得られていることがわかる。
よって、隅角部スペーサ11を取り付けることで、鉛直方向と水平方向の飽和透水係数の算定結果に差がほとんどなくなった。
【0046】
すなわち、本発明による試験でガラスビーズから構成した疑似の供試体2の等方透水性を適切に評価できたと共に、飽和透水係数 ks と概ね類似した値が得られていることが分かる。
【0047】
そして、ガラスビーズ(φ1.2 mm)を用いた透水試験の結果である図11図13を比較した場合、水平方向の飽和透水係数 kh は同程度の値((スペーサなし kh)/(スペーサあり kh)≒1.08)が得られている一方、鉛直方向の飽和透水係数 kv は、隅角部スペーサ11を取り付けたことで飽和透水係数の算定値が小さくなった((スペーサなし kv)/(スペーサあり kv) ≒1.80)。
このことから、飽和透水係数に及ぼす隅角部の影響は、水平方向より鉛直方向の方が大きかったことが分かる。
これは、水平方向の場合は供試体2の下部に位置する隅角部は、縦方向の隅角部より相対的に密状態で、その影響が小さくなった可能性も考えられる。
【0048】
図4および図5に、通水入口断面の形状の違いが算出される飽和透水係数に及ぼす影響を示す。横軸は、図3に示す様な通水入口断面の一般部長 L に通水入口断部の割合比に対する直線部長 l の割合比で示した。
【0049】
通水入口断面が円形である土の透水試験(JIS A 1218:2009)の通水入口部の割合比は 0、通水入口断面が正方形である本発明で創案した立方体試験装置3の初期型である隅角部スペーサ11なし(直線部 100 mm)の通水入口部の割合比は1 とすると、隅角部スペーサ11を取り付けた(直線部 50 mm)場合の通水入口部の割合比は 0.5 となった。
【0050】
よって、鉛直方向及び水平方向共に、隅角部スペーサ11を取り付けることで、飽和透水係数に及ぼす隅角部の影響を小さくできることが確認できたのである。
そして、図12で示す寸法の隅角部スペーサ11を用いることで、土の透水試験(JIS A 1218:2009)で求めた飽和透水係数と概ね同じ値が得られることが確認できたのである。
【0051】
したがって、隅角部スペーサ11を適切な形状のものとして選定出来れば、土の透水試験(JIS A 1218:2009)から得られる飽和透水係数 ks と同等の値が算定でき、同一の供試体2で異方透水性(鉛直方向と水平方向の飽和透水係数 kv、kh)を評価できる立方体試験装置3が構成できるのである。
【0052】
(まとめ)
本発明では、地盤の異方透水性を的確に評価できる透水試験装置及びその試験方法を提供することを目的として、同一の供試体2を用いて異方透水性を把握する立方体試験装置3を創案し、その上で等方透水係数を有するガラスビーズからなる供試体2を用いて立方体試験装置3の性能などを実験的に確認した。その結果、以下の知見が得られた。
【0053】
供試体2を立方体試験装置3に入れて透水試験を実施した場合、円柱試験装置を用いた土の透水試験(JIS A 1218:2009)から得られる飽和透水係数より特に鉛直方向の飽和透水係数については若干大きく算定されることとなった。これは立方体試験装置3特有の隅角部の影響と考えられる。しかし、その算定結果を予め補正係数として規定しておけば隅角部スペーサ11を取り付けていない立方体試験装置であっても充分に鉛直方向と水平方向の透水試験装置及びその試験方法として機能させることが出来る。
【0054】
また、立方体試験装置3の隅角部に隅角部スペーサ11を取り付ければ、さらに正確な試験結果が得られる透水試験装置及びその試験方法を提供できる。
尚、さらに適切な大きさや形状の隅角部スペーサ11を選択するに際しては、前述したように、図3乃至図5で示すデータを用いて選択すれば、より正確な試験結果が得られる透水試験装置及びその試験方法が提供できる。
【0055】
そして、現場においては透水試験を実施したい地盤の土を用い、これを本発明の立方体試験装置3内に充填して、あるいは立方体試験装置3内に土を締固めて、鉛直方向及び水平方向の透水試験が連続的に行えるものとなる。
【0056】
尚、前者の供試体2の場合は、不かく乱試料の供試体2となり、後者の供試体2の場合はかく乱試料の供試体2となる。透水試験は、大まかには2種類の供試体2について試験を行うものだからである。
【符号の説明】
【0057】
1 水槽
2 供試体
3 立方体試験装置
4 枠体
5 有孔板
6 遮蔽板
7 突起
8 鉛直通水管路
9 スペーサ
10 水平通水管路
11 隅角部スペーサ
12 円柱試験装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13