(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004780
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】二酸化炭素の吸収液および二酸化炭素の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240110BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240110BHJP
B01D 53/52 20060101ALI20240110BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240110BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20240110BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20240110BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/52 200
B01D53/78
B01D53/96
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104607
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】早川 純平
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA03
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA01
4D002CA06
4D002CA07
4D002DA31
4D002EA08
4D002GA01
4D002GB08
4D002GB11
4D002GB20
4D020AA03
4D020AA04
4D020BA16
4D020BB04
4D020BC01
4D020CB01
4D020CB09
4D020CB25
4D020DA03
4D020DB06
4D020DB07
4D020DB20
4G146JA02
4G146JB04
4G146JB10
4G146JC08
4G146JC21
4G146JC28
4G146JD03
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を含むガスの二酸化炭素をより少ないエネルギーで効率的に分離回収するための吸収液及びこれを用いた二酸化炭素の分離回収方法を提供する。
【解決手段】
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液であって、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、及び、20MPa1/2~35MPa1/2の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤を含有することを特徴とする吸収液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液であって、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、および、溶剤を含有し、該溶剤の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)が、20MPa1/2~35MPa1/2であることを特徴とする吸収液。
【請求項2】
前記溶剤の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)が、22MPaMPa1/2~30MPaMPa1/2であることを特徴とする請求項1記載の吸収液。
【請求項3】
前記4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンを、吸収液中、5質量%以上含むことを特徴とする請求項1または2記載の吸収液。
【請求項4】
二酸化炭素および硫化水素を含むガスから、二酸化炭素および硫化水素を分離回収するための吸収液であって、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、および、溶剤を含有し、該溶剤の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)が、20MPa1/2~35MPa1/2であることを特徴とする吸収液。
【請求項5】
以下の工程AおよびBを含む、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法。
工程A:請求項1~4いずれか1項に記載の吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させ、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収した吸収液を得る工程。
工程B:工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程。
【請求項6】
前記工程Bの加熱温度が、50℃以上80℃以下であることを特徴とする請求項5記載の二酸化炭素を分離回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を高効率に分離回収するための吸収液、および、該吸収液を用いた二酸化炭素を分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会活動に付随する二酸化炭素やメタンといった温室効果ガス排出量の急激な増加が地球温暖化の原因の1つに挙げられている。特に、二酸化炭素は温室効果ガスの中でも、最も主要なものであり、2016年に発効されたパリ協定に従い、二酸化炭素排出量削減に向けての対策が急務となっている。
【0003】
二酸化炭素排出量削減に向けた取組として、二酸化炭素の分離回収が注目されており、二酸化炭素吸収液の開発が盛んにおこなわれている。そのため、近年では、発電所や製鉄所から排出される二酸化炭素含有ガスを対象として、アミン化合物の水溶液を主成分とする化学吸収法による二酸化炭素分離回収技術の開発が精力的に推進されている。
【0004】
上記アミン化合物としては、一級アルカノールアミンであるモノエタノールアミン(MEA)、ジグリコールアミン(DGA)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、二級アルカノールアミンである2-(メチルアミノ)エタノール(MAE)、2-(エチルアミノ)エタノール(EAE)、2-(イソプロピルアミノ)エタノール(IPAE)、3-(イソプロピルアミノ)プロパノール(IPAP)、ジエタノールアミン(DEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、三級アルカノールアミンであるN-メチルジエタノールアミン(MDEA)、2-(ジメチルアミノ)エタノール(DMAE)、トリエタノールアミン(TEA)、三級アルキルアミンであるN,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン(TMDAH)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-ジアミノブタン(TMDAB)、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル(BDER)等が知られており、特にMEAが広く用いられている
。
【0005】
より少ないエネルギーでの二酸化炭素の分離回収のための従来技術として、例えば、特許文献1には、アミノ基周辺にアルキル基等の立体障害を有する二級アルカノールアミンの水溶液と大気圧下の燃焼排ガスとを接触させ二酸化炭素を吸収させる方法による燃焼排ガス中の二酸化炭素の除去方法が記載されている。
【0006】
硫化水素( H2S ) 、二酸化炭素(CO2)からなる群の少なくとも1 つの酸性化合物を含むガス状流出物を脱酸する方法における二酸化炭素吸収剤に含まれるアミン化合物の1つとして、ヒンダードアミン骨格からなる4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンや特定の溶剤に関する記載がなされている。これら文献では、二酸化炭素などの酸性化合物を吸収した後、相分離状態を形成することを特徴としているが、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンや特定の溶剤に関する、具体的な実施例が示されておらず、二酸化炭素の吸収能や放出効率に関する記載はない。(特許文献2および特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-301023号公報
【特許文献2】特表2009-529420号公報
【特許文献3】米国特開2006-104877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、二酸化炭素の高い吸収能、低温における二酸化炭素の高い放出能、並びに、吸収および放出サイクルを繰り返しても劣化しない二酸化炭素吸収放出剤と二酸化炭素の分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、二酸化炭素を効率的に吸収し、且つ、低エネルギーで放出し、高純度の二酸化炭素を高効率で回収できるだけでなく、吸収と放出を繰り返し行っても劣化しにくい吸収液について鋭意検討した結果、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、および、20MPa1/2~35MPa1/2の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤を含有する吸収液が、高い二酸化炭素回収量、および、二酸化炭素回収量に対して、必要な消費エネルギーを低く抑えることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液であって、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、および、溶剤を含有し、該溶剤の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)が、20MPa1/2~35MPa1/2であることを特徴とする吸収液に関する。
【0011】
また、本発明は、全ハンセン溶解度パラメータ(δT)が22MPa1/2~30MPa1/2であることを特徴とする前記吸収液に関する。
【0012】
また、本発明は、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンを5質量%以上含むことを特徴とする前記吸収液に関する。
【0013】
また本発明は、二酸化炭素および硫化水素を含むガスから、二酸化炭素および硫化水素を分離回収するための吸収液であって、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、および、溶剤を含有し、該溶剤の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)が、20MPa1/2~35MPa1/2であることを特徴とする吸収液に関する。
【0014】
また本発明は、以下の工程AおよびBを含む、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法に関する。
工程A:吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させ、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収した吸収液を得る工程。
工程B:工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程。
【0015】
前記工程Bの加熱温度が、50℃以上80℃以下であることを特徴とする二酸化炭素を分離回収する方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、該吸収液が高い二酸化炭素回収量を有すること、低いエネルギーでの二酸化炭素の放出能を有すること、および、その二酸化炭素の回収と放出の繰り返しによる材料の劣化が抑制されることで、システム全体として低いエネルギーでの二酸化炭素分離回収が可能となる。さらに、よりコンパクトな二酸化炭素分離回収設備の設計が可能となり、初期コストが低減される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明について説明する。
【0018】
[二酸化炭素を分離回収するための吸収液]
本発明の吸収液は、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンに加えて、20MPa1/2~35MPa1/2の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤も含むことが特徴である。
【0019】
(4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)
本発明の4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンは、2級のアミノ基が1つ脂環上に置換したアミンであり、単一化合物として工業的に容易に入手することができる。
【0020】
(溶剤)
本発明に用いる溶剤は、全ハンセン溶解度パラメータ(δT)が、20MPa1/2~35MPa1/2であることを特徴とする。
上記の4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンは、二酸化炭素を吸収し、加熱によって、二酸化炭素を放出することが出来るが、二酸化炭素の分離には高エネルギーを要する。そこで、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンの分離効率を向上させるために、20MPa1/2~35MPa1/2の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤を用いることによって、加熱温度を低下させることが可能であり、二酸化炭素の放出効率が高くなることを見出した。
【0021】
(全ハンセン溶解度パラメータ(δT))
ハンセンパラメータは、全ヒルデブランド値を、分散力(δD)、極性成分(δP)、及び水素結合(δH)成分の3つの部分に分割する。ヒルデブランド値は、気化、ファンデルワールス力、及び溶解度の間の関係を用いて計算される。全ハンセン溶解度パラメータ (δT)は、分散(δD)、極性(δP)、及び水素結合(δH)力に分解され、式(1)を用いて計算される。
δT2=δD2+δP2 +δH2(1)
式中、
・δDは、分散成分であり、
・δPは、極性成分であり、
・δHは、水素結合成分である。
【0022】
なお、本明細書において、「ハンセン溶解度パラメータ」の計算は、コンピュータソフトウェア「Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)」を用いて計算した値を意味する。なお、計算に使用した「HSPiP」のバージョンは「5.4.02」である。
【0023】
本発明に用いる溶剤は、全ハンセン溶解度パラメータ(δT)が、20MPa1/2~35MPa1/2であり、22MPaMPa1/2~30MPaMPa1/2であることがより好ましい。
【0024】
また溶媒を2種以上用いる場合は、それぞれの溶媒の質量分率を重みとした加重平均を用いる。
【0025】
具体的には、2種類以上の液体の混合液の全ハンセン溶解度パラメータ値(δT)は、下記式(1)により、各溶媒のンセン溶解度パラメータ値(δT)の加重平均値mとして求めることができる。
m=δ1φ1+δ2φ2・・・(1)
ここで、δ1およびδ2は各液体成分の全ハンセン溶解度パラメータ値(δT)であり、φ1およびφ2は各液体成分の重量分率である
【0026】
本発明に使用できる溶剤は、特に制限はないが、例えば表1に記載の溶剤を使用することができ、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
また、20MPa1/2~35MPa1/2の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤を含むことが好ましく、22MPaMPa1/2~30MPaMPa1/の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤を含むことがより好ましい。
【0027】
表1は、異なる溶媒の分散成分、極性成分、及び水素結合成分、並びに異なる溶媒に対する全ハンセン溶解度パラメータ(δT)計算結果を示す。
【0028】
【0029】
【0030】
本発明の吸収液において、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンと20MPa1/2~35MPa1/2の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤の重量比は好ましくは、5:95~95:5の範囲であり、さらに好ましくは、5:95~1:1の範囲、および、特に好ましくは、1:9~1:3の範囲である。吸収液中の、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンを少なくとも5重量%含有することが好ましく、さらに好ましくは、少なくとも10重量%、および、特に好ましくは、25質量%含む。
【0031】
本発明の吸収液に用いる20MPa1/2~35MPa1/2の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤は、4-アミノ-2,2,6,6―テトラメチルピペリジンと二酸化炭素との反応物を溶解させるものであっても良いし、溶解させないものであっても良い。
【0032】
本発明の二酸化炭素吸収液には、一般的に知られた、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、イソプロピルアミノエタノールなどを添加しても良い。
【0033】
本発明の吸収液 は 、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、及び20MPa1/2~35MPa1/2の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤以外の成分を、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。その他の成分としては、本発明の吸収液の化学的又は物理的安定性を確保するための安定剤(酸化防止剤等の副反応抑制剤)、本発明の吸収液を用いる装置や設備の材質の劣化を防ぐための防止剤(腐食防止剤等)が挙げられる。本発明の吸収液におけるこれらその他の成分の含有量は本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限的なものではないが、質量濃度で5%以下が好ましい。
【0034】
上記酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0035】
上記腐食防止剤としては、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、 2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ホスホノプロパン-2-ジカルボン酸、ホスホノスクシン酸、2-ヒドロキシホスホノ酢酸、 マレイン酸系重合体(例えばマレイン酸及びアミレンの共重合体、又はマレイン酸、アクリル酸、及びスチレンの三元共重合体)等が挙げられる。
【0036】
二酸化炭素を含むガスとしては、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、製造所のボイラー、セメント工場のキルン、コークスで酸化鉄を還元する製鐵高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する製鉄転炉、石炭ガス化複合発電設備等からの排ガス、採掘時天然ガス、改質ガスなどが挙げられ、該ガス中の二酸化炭素濃度は、体積濃度で通常5~50%程度、特に10~40%程度 であればよい。かかる二酸化炭素濃度範囲では、本発明の作用効果が好適に発揮される。なお、二酸化炭素を含むガスには、二酸化炭素以外に窒素、水蒸気、一酸化炭素、硫化水素、硫化カルボニル、二酸化硫黄、二酸化窒素、メタン、水素等のガスが含まれていてもよい。
【0037】
本発明の吸収液である、 4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、及び20MPa1/2~35MPa1/2の全ハンセン溶解度パラメータ(δT)を有する溶剤は、二酸化炭素以外に、硫化水素の吸収にも優れている。
【0038】
[吸収液による二酸化炭素の分離回収方法]
本発明の吸収液による二酸化炭素の分離回収方法は、二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素を分離回収するための方法であって、本発明の吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させ、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収した吸収液を得る工程A、及び、工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程Bを含むことを特徴とする。
【0039】
(工程A)
工程Aでは、吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させることで、該二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素を吸収液に吸収させて分離する。
【0040】
工程Aにおける、吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、吸収液中に二酸化炭素を含むガスをバブリングさせる方法、二酸化炭素を含むガス中に吸収液を霧状に降らす方法(噴霧乃 至スプレー方式)、磁製や金属網製の充填材が入った吸収塔内で高圧の二酸化炭素を含むガスと吸収液とを向流接触させる方法等が挙げられる。
【0041】
工程Aにおける温度は、25~40℃とすることができる。この範囲であれば、吸収液が二酸化炭素回収量及び二酸化炭素吸収速度に優れる。工程Aにおける温度は、好ましくは25~35℃である。
【0042】
工程Aにおける圧力は、通常1.0bar以上、好ましくは1.0~3.5barとすることができる。また、より高い圧力で行うことで更に高い二酸化炭素の吸収性能が得られる。
【0043】
(工程B)
工程Bでは、工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する。
【0044】
工程Bの二酸化炭素を脱離して放散させる工程における温度は、50~80℃とすることができる。この範囲であれば、吸収液が二酸化炭素の放散速度に優れる。工程Bにおける温度は、好ましくは50~70℃であり、より好ましくは50~60℃である。
【0045】
工程Bの二酸化炭素を脱離して放散させる工程における圧力は、通常3.5bar以下、好ましくは1.0~3.5barとすることができる。また、より低い圧力で行うことで更に高い二酸化炭素の放散性能が得られる。
【0046】
二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、二酸化炭素を脱離して放散させ、回収する方法は、特に限定されるものではない。例えば、蒸留と同じく、吸収液を加熱して釜で泡立てて脱離する方法、棚段塔、スプレー塔、磁製、金属網製等の充填材の入った放散塔内で液界面を広げて加熱する方法等が挙げられる。これらの方法により、純粋な、あるいは非常に高濃度の二酸化炭素を回収することができる。
【0047】
工程Bにおいて二酸化炭素を放散した後の吸収液は、再び工程Aに戻し、循環再利用することができる。該循環過程において、工程Bで加えられた熱は、二酸化炭素を吸収した吸収液との熱交換により、吸収液の昇温に利用される。該熱交換により二酸化炭素分離回収工程全体のエネルギーの低減が計られる。
【0048】
本発明の吸収液による二酸化炭素の分離回収方法により分離回収された二酸化炭素は、通常95~100%の体積濃度を持ち、純粋で、あるいは非常に高濃度であり得る。該分離回収された二酸化炭素は、現在その技術が開発されつつある地中や海底等への隔離貯蔵(CCS)や石油増進回収法(Enhanced Oil Recovery、EOR)に供することができる。その他、該分離回収された二酸化炭素の利用用途は、特に限定されるものではない。例えば、化成品等の合成原料、或いは食品冷凍用の冷剤等が挙げられる。
【実施例0049】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。但し、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【0050】
〈二酸化炭素ガスの放出効率の測定方法〉
後述する実施例で調整した二酸化炭素吸収液100g(容量200mlのガス吸収瓶に入った状態)を水浴で25℃に調温した。この二酸化炭素吸収液に、100ml/分の二酸化炭素ガスと400ml/分の窒素ガスの混合気体(500ml/分)を1時間バブリングさせながら吹き込んだ。このときの二酸化炭素ガスの吸収量を(1時間の二酸化炭素吸収量(L))をガス流量計と二酸化炭素濃度計を用いて測定した。この1時間の二酸化炭素吸収量(L)を用いて、二酸化炭素吸収液1kg当たりの二酸化炭素吸収量(L)を算出した。
【0051】
次に、この二酸化炭素吸収液を水浴で60℃に調温した。この二酸化炭素吸収液に500ml/分の窒素ガスを2時間、バブリングさせながら吹き込んだ。このときの二酸化炭素ガスの放出量(2時間の二酸化炭素放出量(L))を、ガス流量計と二酸化炭素濃度計を用いて測定した。その2時間の二酸化炭素放出量(L)を用いて、二酸化炭素吸収液1kg当たりの二酸化炭素放出量(L)を算出した。
前記の2時間の二酸化炭素放出量(L)と前記の1時間の二酸化炭素の吸収量(L)から、二酸化炭素ガス放散効率(=2時間の二酸化炭素放出量(L)÷1時間の二酸化炭素吸収量(L))を算出した。
【0052】
算出した二酸化炭素ガスの放出効率の測定から、以下の通り基準を設け評価し、◎、〇および△を実使用可能領域とした。評価結果を表3に示す。
◎:放出効率が0.6以上
〇:放出効率が0.5以上0.6未満
△:放出効率が0.4以上0.5未満
×:放出効率が0.4未満
【0053】
〈評価に用いた材料およびガス種〉
なお、表記を簡潔にするため、以下の略記号を使用した。
ATMP:4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン
MDEA:N-メチルジエタノールアミン
MEA:モノエタノールアミン
【0054】
【0055】
(実施例1)
ATMP30gに、ジメチルスルホキシド70gを加えて混合攪拌して、二酸化炭素吸収液(100g)を調製し、これを200mlのガス吸収瓶に入れ、二酸化炭素ガスの放出効率の測定を行った。
【0056】
1時間の二酸化炭素の吸収量(L)は、標準状態換算で1.83Lであった。すなわち、二酸化炭素の吸収液1kg当たりの1時間の二酸化炭素の吸収量(L)は標準状態で18.3Lであった。(二酸化炭素吸収液1kg当たりの1時間当たりの二酸化炭素吸収量(ml/分)は305ml/分(=18.3[L/時間]×1000[ml/L]÷60[分/時間])であった。)
2時間の二酸化炭素放出量(L)標準状態換算で1.16Lであった。
すなわち、二酸化炭素吸収液1kg当たりの2時間の二酸化炭素放出量(L)は標準状態換算で11.6Lであった。
(二酸化炭素吸収液1kg当たりの2時間の二酸化炭素放出量(mL/分)は96ml/分(=11.6[L/ 2時間]×1000[ml/L]÷120[分/時間])であった。)
【0057】
これらより、二酸化炭素ガスの放出効率は0.63であった。以上の結果を表3に示す。
【0058】
(実施例2)
ATMP30gを15gに変更し、ジメチルスルホキシドを70gから85gに変更し同様に二酸化炭素吸収液(100g)を調製し、これを200mlのガス吸収瓶に入れ、二酸化炭素ガスの放出効率の測定を行った。評価結果を表3に示す。
【0059】
(実施例3~47)
実施例1記載のジメチルスルホキシドを表3記載の溶剤に変更し、同様の実験を行った。評価結果を表3に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
(実施例48)
ATMP25gとMDEA5gに、ジメチルスルホキシド70gを加えて混合攪拌して、二酸化炭素吸収液(100g)を調製し、これを200mlのガス吸収瓶に入れ、同様の実験を行った。評価結果を表4に示す。
【0063】
(実施例49)
ATMP30gに、ジメチルスルホキシド60gと水10gを加えて混合攪拌して、二酸化炭素吸収液(100g)を調製し、これを200mlのガス吸収瓶に入れ、同様の実験を行った。評価結果を表4に示す。
【0064】
(比較例1)
MEA30gと水70gを加えて混合攪拌して、二酸化炭素吸収液(100g)を調製し、これを200mlのガス吸収瓶に入れ、同様の実験を行った。評価結果を表4に示す。
【0065】
(比較例2)
実施例1のTMP30gを全てMEAに変更し、二酸化炭素吸収液(100g)を調製し、これを200mlのガス吸収瓶に入れ、同様の実験を行った。評価結果を表4に示す。
【0066】
(比較例3~5)
アミンおよび溶剤の種類、量を表4に記載のとおり変更した以外は、比較例1と同様にして、実験を行った。評価結果を表4に示す。
【0067】
【0068】
(実施例50~98、比較例6~10)
〈二酸化炭素ガスの吸収/放出の繰り返し評価後の吸収量の変化度合い〉
表3および表4で作成した吸収液1~54を用い、前述の二酸化炭素ガスの吸収/放出測定を5回繰り返し行った。その後、1回目の試験と同様に、6回目の吸収量を算出し、1回目の吸収量に対する減少度合いを評価した。評価基準は以下の通りとし、◎、〇および△を実使用可能領域とした。評価結果を表5に示す。
◎:1回目の吸収量に対して、6回目の吸収量が98%以上
〇:1回目の吸収量に対して、6回目の吸収量が95%以上98%未満
△:1回目の吸収量に対して、6回目の吸収量が92%以上95%未満
×:1回目の吸収量に対して、6回目の吸収量が92%未満
【0069】
【0070】
【0071】
上記の実施例に記載の通り、本願発明の二酸化炭素吸収液は、従来公知の二酸化炭素炭素吸収液に比べて、二酸化炭素の放出効率(放出量/吸収量)に優れる効果を奏するものである。また、一般的に知られている、MEA水溶液の放出温度である120℃に対して、本発明の吸収液は、今回の実験条件である60℃の放出温度で効率的に二酸化炭素を放出することが可能であることを見出すことが出来た。