(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047826
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ガス分析システム及びガス分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20240401BHJP
G01N 29/036 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/036
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153534
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 洋
(72)【発明者】
【氏名】川村 邦人
(72)【発明者】
【氏名】高武 直弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 知哉
(72)【発明者】
【氏名】山梨 良幸
(72)【発明者】
【氏名】土橋 一浩
(72)【発明者】
【氏名】亀井 陽介
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA01
2G047BC04
2G047CA04
2G047GD02
2G047GF11
2G047GG24
2G047GG28
2G047GG32
2G047GG33
(57)【要約】
【課題】多数のガス種を検知可能なガスセンサに対して、分析目的に適合した測定条件、分析条件の設定を容易にする。
【解決手段】ガス分析システムは、測定空間10内に配置されるガスセンサ2と、ガス分析システムにて実施したガス分析事例について、分析目的、測定条件及び分析条件を少なくとも蓄積するガスデータベース55とを備え、測定空間のガスの分析目的に基づきガスデータベースから類似事例を検索し、ガスセンサに類似事例における測定条件のパラメータをガスセンサに設定し、ガスセンサの測定結果を受けて、類似事例における分析条件のパラメータ及びアルゴリズムに基づき、測定空間のガスの分析を行う。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを分析するガス分析システムであって、
測定空間内に配置されるガスセンサと、
前記ガス分析システムにて実施したガス分析事例について、分析目的、測定条件及び分析条件を少なくとも蓄積するガスデータベースと、
前記測定空間のガスの分析目的に基づき前記ガスデータベースから類似事例を検索する分析方法決定部と、
前記ガスセンサに前記類似事例における測定条件のパラメータを前記ガスセンサに設定し、前記ガスセンサの測定結果を受けて、前記類似事例における分析条件のパラメータ及びアルゴリズムに基づき、前記測定空間のガスの分析を行う分析演算部と、を有するガス分析システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記ガスセンサは、前記測定空間のガスに光を照射したときに発生する光音響効果を利用してガス種を特定する光音響センサであって、
前記測定条件のパラメータには、前記光の波長及び前記光の照射時間の少なくとも一方を含むガス分析システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記ガスデータベースは、さらに前記ガス分析システムにて実施したガス分析事例において測定されたガス種の特徴量を蓄積しており、
前記分析演算部は、前記ガスデータベースに蓄積された事例において測定されたガス種の特徴量から、前記測定空間のガスの分析事例におけるガス種の特徴量を算出するガス分析システム。
【請求項4】
請求項1において、
前記測定空間のガスの分析事例を前記ガスデータベースに登録するデータベース更新部と、
前記測定空間のガスの分析事例における測定条件のパラメータ及び分析条件のパラメータを登録する分析演算調整部と、を有するガス分析システム。
【請求項5】
請求項4において、
前記データベース更新部は、前記測定空間のガスの分析事例が継続的に実施される分析事例であって、分析方法が変更された場合には、当該測定空間のガスの分析事例について登録される測定条件及び分析条件を前記変更にあわせて更新するガス分析システム。
【請求項6】
請求項4において、
前記分析演算調整部は、前記測定空間のガスの分析事例において測定条件のパラメータまたは分析条件のパラメータが変更された場合には、当該測定空間のガスの分析事例について登録される測定条件のパラメータまたは分析条件のパラメータを前記変更にあわせて更新するガス分析システム。
【請求項7】
請求項4において、
前記ガスデータベースは、さらに前記ガス分析システムにて実施したガス分析事例についての外部評価結果を蓄積しており、
前記分析演算調整部は、前記外部評価結果に応じて測定条件及び/または分析条件を変更するガス分析システム。
【請求項8】
請求項1において、
前記ガスデータベースは、さらに前記ガス分析システムにて実施したガス分析事例についての外部評価結果を蓄積しており、
前記測定空間のガスの分析事例について外部評価結果が登録された場合には、前記分析演算部は、前記ガスデータベースに蓄積された事例において測定されたガス種の特徴量から、前記測定空間のガスの分析結果とともに前記登録された外部評価結果を出力装置に表示するガス分析システム。
【請求項9】
ガスを分析するガス分析システムを用いたガス分析方法であって、
前記ガス分析システムは、測定空間内に配置されるガスセンサと、前記ガス分析システムにて実施したガス分析事例について、分析目的、測定条件及び分析条件を少なくとも蓄積するガスデータベースと、分析方法決定部と、分析演算部とを備え、
前記分析方法決定部は、前記測定空間のガスの分析目的に基づき前記ガスデータベースから類似事例を検索し、
前記分析演算部は、前記ガスセンサに前記類似事例における測定条件のパラメータを前記ガスセンサに設定し、前記ガスセンサの測定結果を受けて、前記類似事例における分析条件のパラメータ及びアルゴリズムに基づき、前記測定空間のガスの分析を行う、ガス分析方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記ガスセンサは、前記測定空間のガスに光を照射したときに発生する光音響効果を利用してガス種を特定する光音響センサであって、
前記測定条件のパラメータには、前記光の波長及び前記光の照射時間を少なくとも含むガス分析方法。
【請求項11】
請求項9において、
前記ガスデータベースは、さらに前記ガス分析システムにて実施したガス分析事例において測定されたガス種の特徴量を蓄積しており、
前記分析演算部は、前記ガスデータベースに蓄積された事例において測定されたガス種の特徴量から、前記測定空間のガスの分析事例におけるガス種の特徴量を算出するガス分析方法。
【請求項12】
請求項9において、
前記ガス分析システムは、データベース更新部と分析演算調整部とをさらに備え、
前記データベース更新部は、前記測定空間のガスの分析事例を前記ガスデータベースに登録し、
前記分析演算調整部は、前記測定空間のガスの分析事例における測定条件のパラメータ及び分析条件のパラメータを登録するガス分析方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記データベース更新部は、前記測定空間のガスの分析事例が継続的に実施される分析事例であって、分析方法が変更された場合には、当該測定空間のガスの分析事例について登録される測定条件及び分析条件を前記変更にあわせて更新するガス分析方法。
【請求項14】
請求項12において、
前記分析演算調整部は、前記測定空間のガスの分析事例において測定条件のパラメータまたは分析条件のパラメータが変更された場合には、当該測定空間のガスの分析事例について登録される測定条件のパラメータまたは分析条件のパラメータを前記変更にあわせて更新するガス分析方法。
【請求項15】
請求項9において、
前記ガスデータベースは、さらに前記ガス分析システムにて実施したガス分析事例についての外部評価結果を蓄積しており、
前記測定空間のガスの分析事例について外部評価結果が登録された場合には、前記分析演算部は、前記ガスデータベースに蓄積された事例において測定されたガス種の特徴量から、前記測定空間のガスの分析結果とともに前記登録された外部評価結果を出力装置に表示するガス分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析システム及びガス分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、雰囲気中の物質の検出が可能なニオイセンサを用いて物質検出を行う技術が開示されている。特許文献1では、ニオイセンサとして、膜型表面応力センサ(MSS:Membrane-type Surface Stress Sensor)を用いる。MSSは感応膜の材質が異なる複数のMSS素子を備え、MSS素子に物質が吸着して発生する出力データを合成して得られるMSS全体の出力データのパターンに基づき、多種類の物質の検出を可能にする。このため、解析対象とする物質ごと、さらに環境条件によってセンサデータの挙動が変化するため環境条件に応じた解析器が必要になり、MSSで多種類の物質を検出するには、多数の解析器の実装が課題であることを指摘している。
【0003】
特許文献2には、セルと呼ばれる閉鎖された空間を形成する筐体に測定ガスを封入し、光をパルス状に照射して音響波を発生させ、この音響波のピーク周波数(強度が最大となる周波数)からガス成分を特定する光音響効果を利用するガスセンサ(光音響センサ)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2019/069959号
【特許文献2】特開2022-26652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のガスセンサのセンサ素子として広く使用されてきた金属酸化物、有機半導体薄膜では、それらに付着することによる特性の変化を検知することで特定の化学物質を検知する。このため汎用性に乏しかった。特許文献1に開示されるMSSでは複数の解析器を実装することにより複数種類の物質検知を行うことが可能であるものの、感応膜への吸着現象を利用しているため、MSSで検知可能な物質には制約があると言わざるをえない。
【0006】
これに対して、特許文献2に開示される光音響センサの場合、特定の波長の光を断続的(パルス状)に照射すると、光を吸収した分子が熱膨張、収縮を行うことで音響波が発生する光音響効果を利用するものであるため、気体に含まれる多種類の成分(物質)についての情報を取得することができる。
【0007】
このように、光音響センサでは従来のガスセンサよりも飛躍的に多種類の物質を検知することが可能になる。光音響センサでは、光音響効果が発生する限りにおいて、物質の存在が出力信号に反映されるためである。このため、従来のガスセンサが利用されていなかった幅広い用途への拡大が期待される。
【0008】
検知したい物質が既知であれば、光音響センサに当該物質についての好適な測定条件や分析条件を設定することは可能である。しかしながら、光音響センサが多種類の物質を検知可能であるという特性を利用したニーズとして、例えば、人には匂いとして検知されるが気体中の物質が未知であるといった場合や、腐敗や劣化の予兆となる何らかのガス成分を検知したいといったように、ガスセンサに検知させたい物質が未知である場面が生じてくる。このような場合でも、利用場面に応じた測定条件や分析条件を設定可能とする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施態様であるガス分析システムは、測定空間内に配置されるガスセンサと、ガス分析システムにて実施したガス分析事例について、分析目的、測定条件及び分析条件を少なくとも蓄積するガスデータベースと、測定空間のガスの分析目的に基づきガスデータベースから類似事例を検索する分析方法決定部と、ガスセンサに類似事例における測定条件のパラメータをガスセンサに設定し、ガスセンサの測定結果を受けて、類似事例における分析条件のパラメータ及びアルゴリズムに基づき、測定空間のガスの分析を行う分析演算部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
多数のガス種を検知可能なガスセンサに対して、分析目的に適合した測定条件、分析条件の設定を容易にする。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0013】
図1Aにガス分析システムの第1の例を示す。測定対象とするガスが存在する空間を測定空間と呼ぶ。ガス分析システム1aは、ガス分析装置4、ユーザがアクセスするユーザ端末5、サービス提供者がアクセスする管理者端末6を含み、これらはネットワーク7aによって相互に通信可能に接続されている。ここで、ユーザとはガス分析による何らかの課題解決のニーズをもつ者であり、サービス提供者とはガス分析装置4によるガス分析をサービスとして提供する者である。
【0014】
ガスセンサ2の測定出力は測定空間10の温度や湿度によって影響を受ける。そこで、測定出力に影響を与える測定空間10の環境についても同時に測定を行うために、測定空間10には温度や湿度などを測定する環境センサ3が設けられている。これらはネットワーク7bによってガス分析装置4と通信可能に接続されている。
【0015】
測定するガスの種類や測定形態については限定されない。例えば、環境保全あるいは異常検知などを目的として、工場や倉庫のような広い空間にガスセンサを配置してガス分析を行う場合もある。または、食品や化粧品の開発や品質保証を目的として、測定対象である食品や化粧品を密閉空間に配置してガス分析を行う場合もある。このように測定空間の環境は測定目的に応じて、厳密に管理された環境である場合もあるし、あるがままの環境である場合もある。
【0016】
ガスセンサ2の測定出力及び環境センサ3の測定出力はガス分析装置4に送信され、ガス分析装置4により測定空間10におけるガスの測定が実行される。ガス分析装置4による分析結果はユーザ端末5に表示される。
【0017】
図1Bにガス分析システムの第2の例を示す。ガス分析システム1aは主に測定結果をモニタする用途などに好適な構成であるが、ガス分析システム1bは測定結果に基づき装置の制御を行うための構成である。制御装置8は、ガス分析装置4による測定結果を受けて、駆動装置9を制御する。例えば、空調制御、製造ライン制御、プラント制御、機械装置の警報の発報などを想定する。
【0018】
ガスセンサ2は特許文献2に開示されるような光音響センサである。
図2を用いてガスセンサ2の基本構成について説明する。
【0019】
ガスセンサ2は少なくとも、内部空間を形成し、測定対象とする気体を貯留するガスセル13と、ガスセル13内の気体に光を照射する光源A12a~光源N12nと、ガスセル13内の気体の音響波を検出するマイクロフォン15とを備えている。ガスセル13には、ガスセル13内に気体を循環させるために、ガスセル13内の内部空間と外部空間を接続する少なくとの2つの接続孔14が設けられている。
【0020】
光源A12a~光源N12nの光は、ガスセル13に形成された光入射部から内部空間に向けて照射される。光源A12a~光源N12nには種々の光源を利用でき、例えば、半導体レーザ、ガスレーザ、LED等の光源を利用できる。光源A12a~光源N12nは断続的(パルス状)に発光して、ガスセル13内に貯留された気体に光エネルギを与える。これによって、ガスセル13内の特定ガス成分が熱膨張、収縮を繰り返して音響波を発生する。
【0021】
光源A12a~光源N12nから照射される光の波長によって、測定可能なガス成分が決まる。1つの光源12からの光による音響波特性に基づく特徴量によって1つのガス成分を検出してもよいし、複数の光源12からの光による複数の音響波特性に基づく特徴量によって1つのガス成分を検出してもよい。光源12としてLEDを用いる場合には、所定の波長を透過させる光フィルタを使用することにより、所望の波長を得ることができる。
【0022】
光源A12a~光源N12nは、それぞれ駆動回路A11a~駆動回路N11nによってパルス的に発光制御されている。駆動回路A11a~駆動回路N11nは、光源A12a~光源N12nのいずれかが発光するように発光タイミングをずらせて発光させるとともに、マイクロフォン15によって検出される音響波の強度が最大になるピーク周波数を探索するために、発光させる周波数をスイープさせる。このため、駆動回路A11a~駆動回路N11nは、制御回路部18によって決められたタイミング及び周波数で駆動される。制御回路部18は、マイクロコンピュータ、入出力回路等から構成されており、マイクロコンピュータに内蔵されたROMに記憶された制御ソフトウェアによって所定の機能を実行する。制御回路部18は、例えば、駆動回路A11a~駆動回路N11nの周波数を変更する機能(光源駆動機能)を備えている。さらに音響波からガス成分の種類や濃度を求める機能(ガス推定機能)などを備える場合もある。
【0023】
以下では駆動回路A11aと光源A12aの動作について説明するが、これ以外の駆動回路B11b~駆動回路N11nと光源B12b~光源N12nも同様の動作を行う。マイクロフォン15で検出される、光源A12aの断続的な発光によって発生した音響波は、検出回路部16で電気信号に変換され、更に信号処理部17でノイズを除去されるとともに、増幅されて制御回路部18に送信される。制御回路部18では、音響波の強度が最大になるピーク周波数から、このピーク周波数を生じさせる駆動回路A11aの駆動周波数を求める。
【0024】
つまり、光源A12aの発光周波数と音響波の周波数とはほぼ一致するので、より正確な周波数を求めるために駆動回路A11aの駆動周波数を求めている。この駆動周波数は制御回路部18が自ら発生しているので、この駆動周波数を求めればよい。この音響波の強度が最大となるピーク周波数、及び強度は、メモリ19に一時的に記憶される。これらは一例であり、複数のピーク周波数がある場合にはそれぞれのピーク周波数を記憶してもよく、音響波の強度の発光周波数依存性(スペクトル)を記憶してもよい。記憶するデータは、ガス成分を検出するための特徴量を算出するためのアルゴリズムに依存する。メモリ19は、書き換え可能なメモリであり、電池バックアップされたRAM、フラッシュROM、マイクロコンピュータのRAM等のメモリを使用することができる。
【0025】
さらに、ガスセンサ2は通信部20を備えており、ネットワーク7bを介して、ガス分析装置4に接続される。ガス分析装置4において測定空間10のガス分析を行うため、メモリ19に記憶された測定結果はガス分析装置4に送信される。一方、制御回路部18にてガス推定機能を備える場合には、ガス分析装置4を介して環境センサ3の測定結果を取り込んで測定空間10のガス分析を行い、分析結果(ガス推定結果)をガス分析装置4に送信する。
【0026】
ガス分析装置4、ユーザ端末5、管理者端末6はそれぞれ、
図3に示すようなプロセッサ(CPU)31、メモリ32、ストレージ装置33、入力装置34、出力装置35、通信装置36、バス37を主要な構成として含む情報処理装置30により実現される。プロセッサ31は、メモリ32にロードされたプログラムに従って処理を実行することによって、所定の機能を提供する機能部として機能する。ストレージ装置33は、機能部で使用するデータやプログラムを格納する。ストレージ装置33には、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)のような不揮発性記憶媒体が用いられる。入力装置34は、キーボード、ポインティングデバイスなどであり、出力装置35はディスプレイなどである。通信装置36は、ネットワークを介して他の情報処理装置と通信を可能にする。これらはバス37により互いに通信可能に接続されている。
【0027】
なお、ガス分析装置4の一部、あるいはすべての機能をクラウド上のアプリケーションとして実現してもよい。
【0028】
図4は、ガス分析装置4の機能ブロック図である。ガス分析装置4は、分析部41、分析改善部45、記憶部50の機能部を有する。分析部41は、ガスデータベース(ガスDB)55に蓄積されている光音響センサを用いたガス分析事例を用いて分析方法を決定する分析方法決定部42と、決定した分析方法に基づきガス分析を行う分析演算部43とを含む。例えば、香りDB56には物質ごとに計測された特徴量が蓄積されており、分析演算部43では測定された特徴量と香りDB56に蓄積された特徴量を照合することにより、気体に含まれているガスを特定する。分析改善部45は、ガスDB55を更新するデータベース更新部46とガス分析を行う測定条件や分析条件のパラメータやアルゴリズムを調整する分析演算調整部47とを含む。
【0029】
記憶部50には、ガス分析を行う測定条件や分析条件のパラメータである設定データ51、ガス分析を行うためのアルゴリズムであるアルゴリズムデータ52、ガスセンサ2が行った測定結果及び測定結果に基づく分析結果を含む結果データ53、ガス分析に関連する外部データ54、ガス分析装置4のガス分析事例を蓄積するガスDB55、香り情報を蓄積する香りDB56が記憶されている。設定データ51にはガスDB55に登録されている事例において使用されたパラメータが記憶されている。アルゴリズムデータ52には分析内容に応じた分析アルゴリズムが格納されている。分析方法は分析目的に応じて多岐にわたる。例えば、特定臭を検知したい場合、さらに未知の夾雑臭がある環境において特定臭を検知したい場合、あるいは何らかの異常臭を検知したい場合では、適切な分析アルゴリズムは異なる。このため、分析目的に応じた分析アルゴリズムが選択できるよう、複数の分析アルゴリズムが格納されている。結果データ53の内容は随時、香りDB56に反映され、ガス分析装置4の分析のために利用される。
【0030】
図5にガスDB55のデータ構造例を示す。ガスDB55には、ガス分析システムによるガス分析事例がレコードとして蓄積される。ガスDB55には、各事例(プロジェクト)につき、分野61、分析目的62、ガス種別63、特徴量64、測定条件65、分析条件66、分析結果67、外部評価結果68が登録される。分野61には、当該事例の分野が登録される。分野は、醸造、香料、食品といったように測定対象や分析課題などに応じて事例ごとにサービス提供者が分類する。事例を適切に分類することにより、ガス分析装置4がこれから測定を実施しようとするプロジェクトに類似する事例の探索が容易になる。ここでは1つの事例を1つの分類に割り当てる例を示しているが、サービス提供者があらかじめ事例の特徴を示すタグを定義しておき、当該事例に対して、該当する1以上のタグを割り当てるようにしてもよい。分析目的62には当該事例の分析目的が登録される。例えば、「醸造工程でガスAの発生を検知したい」、「醸造後のお酒に含まれ、品質に悪影響を与える特徴的なガスを特定したい」といったようなものである。ガス種別63には、当該事例において検出された1以上のガス種が登録される。ガス種別63に登録されたガス種ごとに、特徴量64、測定条件65、分析条件66、分析結果67が登録される。なお、
図5の例では1つのガス種に対して1通りの測定条件、1通りの分析条件が設定されている例を示しているが、1つのガス種に対して2以上の測定条件または2以上の分析条件が設定される場合もあり、この場合はそれらに応じてレコードが追加される。特徴量64には、検出されたガス種の音響波の特徴量が登録され、例えば、ピーク周波数、そのときの音響波の強度、分子量などが含まれる。測定条件65には、ガス種を検出したときの測定条件が登録され、例えば、光源波長、照射時間などが含まれる。分析条件66には、ガス種を検出するための分析条件が登録され、例えば、例えばノイズ削減処理などの前処理方法、ガスセンサの出力からガス種を特定する分析アルゴリズム、当該ガス種であるか否かを判定するための閾値などが含まれる。分析結果67には、当該事例において当該ガス種について分析された結果が登録される。外部評価結果68は、各事例に関連する評価結果が登録される。例えば、事例が香料の測定であった場合に、当該香料の香りに対する人の受容性評価を登録する。外部評価結果68についての具体例は後述する。
【0031】
なお、データベースの形式は任意であり、特徴量64、測定条件65、分析条件66、分析結果67、外部評価結果68はフィールドに直接データが書き込まれていてもよいし、これらの内容が記憶されている記憶部50のアドレスが書き込まれていてもよい。この場合は、特徴量64または分析結果67のリンクをたどって結果データ53の内容を、測定条件65または分析条件66のリンクをたどって設定データ51の内容を、外部評価結果68のリンクをたどって外部データ54を参照する。
【0032】
図6を用いて、ガス分析システム1aによるガス分析の処理フローを説明する。本実施例では、ユーザはガスを測定することにより何らかの課題を解決したいという具体的なニーズを有しているが、原因となっているガス種が何であるのか、といった知識はもっていない場合を想定する。このため、本実施例では類似事例の測定条件、分析条件を利用する。
【0033】
管理者端末6からガス分析装置4にユーザの分析目的を入力する(S01)。本実施例ではガス分析をサービス提供者にて実施することを想定して説明するが、ユーザ自身で実施することもあり得る。分析方法決定部42は、入力された分析目的とガスDB55の分析目的62(
図5参照)とを比較し、類似する事例を検索する(S02)。なお、検索において、分類その他の情報を利用して絞り込みを行ってもよい。サービス提供者は検索した類似事例の測定条件、分析条件を本件の測定条件、分析条件として(S03)、ガス分析を実施する(S04)。
【0034】
図7にガスセンサ2の制御回路部18で得られる光音響信号スペクトルの例を示す。横軸は発光周波数、縦軸は音響波の強度である。波長の異なる光源からの光を照射することにより、異なる光音響信号スペクトルが得られる。光音響信号スペクトル71~73は同じガス種に対してそれぞれ波長の異なるLED1~3を発光させて得られる光音響信号スペクトルである。例えば、光音響信号スペクトルのピークの発光周波数、音響波強度を特徴量としてガス種を特定することができる。ある波長のLEDの光音響信号スペクトルを用いてガス種を特定するようにしてもよいし、複数の波長のLEDの光音響信号スペクトルを用いてガス種を特定するようにしてもよい。例えば、
図7の例では光音響信号スペクトルの最大ピークは同じ発光周波数で得られており、これらの光音響信号強度の比率からガス種を特定するといったことも可能である。測定対象のガス種と他のガス種とを高感度に区別できる分析方法とすればよい。香りDB56にはこのような光音響信号スペクトルまたは光音響信号スペクトルから抽出された特徴量が、物質名や測定条件とともに登録されている。
【0035】
ガス分析により分析目的が達成されない場合には、測定条件または分析条件を見直し(S03)、再度ガス分析を実施する(S04)。あるいは、再度ガスDBを検索し(S02)、別の類似事例をもとに再度ガス分析のための測定条件、分析条件を決定し(S03)、ガス分析を実施してもよい(S04)。
【0036】
分析目的が達成されれば、分析を完了し、ガス分析の結果をユーザ端末5に表示する(S06)。また、分析演算調整部47は、ガス分析の過程において設定した条件をもとに調整した測定条件や分析条件を、当該事例の設定データ51として記憶させ、再利用可能な状態とする(S07)。また、データベース更新部46では、実施したガス分析の情報をガスDB55に追加する、ガス分析の結果を香りDB56に追加するなどのデータベースの更新を行う(S08)。
【0037】
以下、ガスDB55を用いた分析例について説明する。
【0038】
(分析例1)
図8に第1の分析例を示す。分析目的は「醸造中の異常を早期に検知したい」というものであったとする。最初の測定条件、分析条件では、不特定のガス種を検知する測定条件、分析条件にてガス種X,Y,Zが特定され、なかでも強度の高いものはガス種Xであった。この結果よりガス種Xの存在が醸造中の異常を示すものとして特定される場合には、測定条件、分析条件を、ガス種Xを精度よく検知する測定条件、分析条件に変更して、計測を継続する。
【0039】
このようにガスの分析が継続的に実施される場合には、ガス種Xを検知する事例としてガスDB55に追加するとともに、その測定条件、分析条件のパラメータを設定データ51に記憶する。これにより、類似事例において、最初からガス種Xに着目した醸造中の異常検知を行うことが可能になる。なお、レコードの追加は更新方法の一例であって、当該分析についてのレコードそのものを更新してもよい。
【0040】
(分析例2)
図9に第2の分析例を示す。分析目的は、「香料(A+B)を評価したい」というものである。ただし、過去に「香料Aを評価したい」、「香料Bを評価したい」というそれぞれの分析目的について、分析を実施していたとする。これらの過去の分析結果から「香料(A+B)を評価したい」という分析目的に対して得られる特徴量が推定できる。この場合には、実際の測定を行うことなく、まずは既存の評価結果から特徴量を算出する。既存の評価結果から算出される特徴量だけでは分析目的に対して不十分である場合には、実測を行う。このように過去の分析結果を活用することにより、分析目的に対して早期に分析結果を得ることができる。
【0041】
また、
図9には、外部評価結果68の例を示している。この場合は、外部評価結果として香料A,Bについて官能検査を実施した結果が登録されている。例えば、ユーザは香料A,Bについて実施した官能検査結果をユーザ端末5からガス分析装置4に転送し、ガス分析装置4の記憶部50では外部データ54として記憶しておく。分析演算部43は、ユーザに結果を表示する際(S06)、香料についてのガス分析結果とともに官能検査結果を併せて表示する。この例では、香料Aについては高い受容性が得られており、特にガス種Lについて高い強度が得られている。一方、香料Bについては低い受容性が得られており、特にガス種Nについて高い強度が得られている。これらから、ガス種Lは高い評価に関係性があり、ガス種Nは低い評価に関係性がある可能性があると推定され、香料の分析において着目するガス種として認識することができる。外部評価結果は対象の評価結果に限定されず、分析目的に関連する任意の情報であってよい。
【0042】
(分析例3)
図10に第3の分析例を示す。分析目的は、「倉庫に保管されている野菜の腐敗を事前に検知したい」というものである。この例では外部評価結果68として野菜が腐敗しているか、腐敗していないかという情報が登録されている。例えば、倉庫内の気体を測定するときのタイミングにあわせて、ユーザが倉庫に保管されている野菜の状況を確認し、ユーザ端末5からガス分析装置4に転送し、ガス分析装置4の記憶部50では外部データ54として記憶しておく。また、腐敗時にはガス種Oが発生していることが予めわかっていたとする。
【0043】
レコード81に示される第1の測定では、ガス種O、ガス種Pともに検出されたが、外部評価結果68では既に腐敗が始まっていることが示されていた。一方、レコード82に示される第2の測定ではガス種Oは検出されていないが、ガス種Pは検出されていた。ここからは、ガス種Oは腐敗によって発生するガスであって腐敗の事前検知には適切ではなく、ガス種Pの変化をさらに検証することで腐敗の事前検知につながる知見が得られる可能性がある。このように、分析演算部43が外部評価結果をあわせてガス分析結果を表示することにより、ユーザは着目するガス種を変えながら測定、分析を継続することができる。
【0044】
分析例3でも分析例1と同様にレコードの更新または追加をしてもよく、例えば分析目的「野菜の腐敗を事前に検知したい」を「野菜の腐敗を事前に検知したい(ガス種Pを検知したい)」への更新やレコードの追加が考えられる。この更新等はユーザからの指示に基づくものでも、分析改善部45が自動で行ってもよい。例えば、分析演算調整部47は外部評価結果68を参照し、外部評価結果が「腐敗していない」状態で検出されたガス種についてのみ測定対象を絞り込んで測定するよう、測定条件及び/または分析条件を変更する。すなわち、絞り込まれたガス種を測定するための測定条件や分析条件に変更する。この変更を受けて、データベース更新部46は、ガスDB55のレコードの更新または追加を行う。
【0045】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0046】
例えば、実施例ではガス分析をガス分析装置4で行う例を示したが、ガス分析装置4の分析演算部43を実行するプログラムをユーザ端末5または制御装置8に実装し、ユーザ側で分析演算を行うようにしてよい。この際、分析演算部43が必要とする設定データ51、アルゴリズムデータ52についてもガス分析装置4からユーザ側に転送する。また、
図6のフローチャートにおいて、ステップS01では管理者端末6からガス分析装置4にユーザの分析目的を入力する例を説明したが、ユーザ自身がユーザ端末5からガス分析装置4に分析目的を入力するようにしてもよい。またステップS06ではガス分析の結果をユーザ端末5に表示する例を説明したが、管理者端末6に表示するようにしても、両端末に表示するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1:ガス分析システム、2:ガスセンサ、3:環境センサ、4:ガス分析装置、5:ユーザ端末、6:管理者端末、7:ネットワーク、8:制御装置、9:駆動装置、10:測定空間、11:駆動回路、12:光源、13:ガスセル、14:接続孔、15:マイクロフォン、16:検出回路部、17:信号処理部、18:制御回路部、19:メモリ、20:通信部、30:情報処理装置、31:プロセッサ(CPU)、32:メモリ、33:ストレージ装置、34:入力装置、35:出力装置、36:通信装置、37:バス、41:分析部、42:分析方法決定部、43:分析演算部、45:分析改善部、46:データベース更新部、47:分析演算調整部、50:記憶部、51:設定データ、52:アルゴリズムデータ、53:結果データ、54:外部データ、55:ガスデータベース、56:香りデータベース、61:分野、62:分析目的、63:ガス種別、64:特徴量、65:測定条件、66:分析条件、67:分析結果、68:外部評価結果、71,72,73:光音響信号スペクトル、81,82:レコード。