(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047843
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】高周波電力増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 1/22 20060101AFI20240401BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20240401BHJP
H03F 3/60 20060101ALI20240401BHJP
H03F 3/195 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H03F1/22
H03F3/24
H03F3/60
H03F3/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153566
(22)【出願日】2022-09-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond5Gに資するワイドバンドギャップ半導体高出力デバイス技術/回路技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】末松 英治
(72)【発明者】
【氏名】原 信二
【テーマコード(参考)】
5J067
5J500
【Fターム(参考)】
5J067AA04
5J067AA13
5J067AA41
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5J500AK12
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5J500AM17
5J500AM22
5J500AQ03
5J500AS14
5J500AT03
5J500AT05
5J500LV08
5J500WU08
(57)【要約】
【課題】マイクロ波帯およびミリ波帯における高利得かつ高出力な高周波電力増幅器を提供する。
【解決手段】高周波電力増幅器1において、第1のトランジスタ(第1のFET101)は、接地される第1端子と、高周波入力信号が入力される第1制御端子と、第2端子と、を有する。第2のトランジスタ(第2のFET102)は、第1のトランジスタの第2端子に接続された第3端子と、高周波出力信号を出力する第4端子と、第2制御端子と、を有する。第1のバイアス回路(ドレインバイアス回路15b)は、第1のトランジスタの第2端子に第1バイアス電圧を供給する。第1のリアクタンス素子(オープンスタブ10)は、高周波入力信号の周波数において第2制御端子と接地との間に接続された容量として機能する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地される第1端子と、高周波入力信号が入力される第1制御端子と、第2端子と、を有する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタの前記第2端子に接続された第3端子と、高周波出力信号を出力する第4端子と、第2制御端子と、を有する第2のトランジスタと、
前記第1のトランジスタの前記第2端子に第1バイアス電圧を供給する第1のバイアス回路と、
前記高周波入力信号の周波数において前記第2制御端子と接地との間に接続された容量として機能する第1のリアクタンス素子と、
を備えることを特徴とする高周波電力増幅器。
【請求項2】
前記第1のリアクタンス素子は、オープンスタブである、
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項3】
前記第1のリアクタンス素子は、前記第2制御端子と接地との間に直列接続された伝送線路と容量素子を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項4】
前記高周波入力信号の周波数において、前記第1のリアクタンス素子のリアクタンスは、10Ω以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項5】
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2のトランジスタの前記第3端子との間に接続された伝送線路と、
前記伝送線路上の所定位置に接続され、前記高周波入力信号の周波数において当該所定位置と接地との間に接続された容量として機能する第2のリアクタンス素子と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項6】
前記高周波電力増幅器は、半導体基板に構成され、
前記第1のバイアス回路は、前記第1のトランジスタの前記第2端子に接続された一端と、前記第1バイアス電圧が供給される他端とを有するバイアス線路を有し、
前記高周波電力増幅器の動作中心周波数に対応する前記半導体基板における実効波長をλgとして、前記バイアス線路の長さは、λg/4より短い、
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項7】
前記第2のトランジスタは、当該第2のトランジスタの両端に配置された、前記第3端子を構成する第1電極と第2電極を有し、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第1電極との間に接続された第1伝送線路と、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2電極との間に接続された第2伝送線路と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項8】
前記第1伝送線路は、前記第2端子と前記第1電極との間に、並列に複数設けられ、
前記第2伝送線路は、前記第2端子と前記第2電極との間に、並列に複数設けられている、
ことを特徴とする請求項7に記載の高周波電力増幅器。
【請求項9】
前記第2のトランジスタの前記第3端子に接続された第5端子と、前記第2のトランジスタの前記第4端子に接続された第6端子と、第3制御端子と、を有する第3のトランジスタと、
前記高周波入力信号の周波数において前記第3制御端子と接地との間に接続された容量として機能する第3のリアクタンス素子と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項10】
前記第1のリアクタンス素子と前記第3のリアクタンス素子は、それぞれオープンスタブである、
ことを特徴とする請求項9に記載の高周波電力増幅器。
【請求項11】
前記第1のリアクタンス素子は、前記第2制御端子と接地との間に直列接続された伝送線路と容量素子を有し、
前記第3のリアクタンス素子は、前記第3制御端子と接地との間に直列接続された伝送線路と容量素子を有する、
ことを特徴とする請求項9に記載の高周波電力増幅器。
【請求項12】
前記第2のトランジスタの前記第4端子の電圧を分圧して前記第2制御端子に供給する第1の分圧回路と、
前記第3のトランジスタの前記第6端子の電圧を分圧して前記第3制御端子に供給する第2の分圧回路と、
をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の高周波電力増幅器。
【請求項13】
前記第2のトランジスタは、当該第2のトランジスタの両端に配置された、前記第3端子を構成する第1電極と第2電極を有し、
前記第3のトランジスタは、当該第3のトランジスタの両端に配置された、前記第5端子を構成する第3電極と第4電極を有し、
前記第2のトランジスタと前記第3のトランジスタは、前記第2電極と前記第3電極が隣接するように配置され、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第1電極との間に接続された第1伝送線路と、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第4電極との間に接続された第2伝送線路と、
をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の高周波電力増幅器。
【請求項14】
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2のトランジスタの前記第3端子との間に接続された第1の容量素子と、
前記第2のトランジスタの前記第3端子に第2バイアス電圧を供給する第2のバイアス回路と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1~4、6のいずれかに記載の高周波電力増幅器。
【請求項15】
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2のトランジスタの前記第3端子との間に、前記第1の容量素子に直列に接続された伝送線路と、
前記伝送線路上の所定位置に接続され、前記高周波入力信号の周波数において当該所定位置と接地との間に接続された容量として機能する第2のリアクタンス素子と、
をさらに備えることを特徴とする請求項14に記載の高周波電力増幅器。
【請求項16】
前記第2のトランジスタは、当該第2のトランジスタの両端に配置された、前記第3端子を構成する第1電極と第2電極を有し、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第1電極との間に、前記第1の容量素子に直列に接続された第1伝送線路と、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2電極との間に接続された第2の容量素子と、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2電極との間に、前記第2の容量素子に直列に接続された第2伝送線路と、
をさらに備えることを特徴とする請求項14に記載の高周波電力増幅器。
【請求項17】
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2のトランジスタの前記第3端子との間に接続された第1の容量素子と、
前記第2のトランジスタの前記第3端子に第2バイアス電圧を供給する第2のバイアス回路と、
前記第2のトランジスタの前記第3端子に接続された第5端子と、前記第2のトランジスタの前記第4端子に接続された第6端子と、第3制御端子と、を有する第3のトランジスタと、
前記高周波入力信号の周波数において前記第3制御端子と接地との間に接続された容量として機能する第3のリアクタンス素子と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項18】
前記第2のトランジスタは、当該第2のトランジスタの両端に配置された、前記第3端子を構成する第1電極と第2電極を有し、
前記第3のトランジスタは、当該第3のトランジスタの両端に配置された、前記第5端子を構成する第3電極と第4電極を有し、
前記第2のトランジスタと前記第3のトランジスタは、前記第2電極と前記第3電極が隣接するように配置され、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第1電極との間に、前記第1の容量素子に直列に接続された第1伝送線路と、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第4電極との間に接続された第2の容量素子と、
前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第4電極との間に、前記第2の容量素子に直列に接続された第2伝送線路と、
をさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の高周波電力増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ波帯およびミリ波帯における高周波電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、第5世代の携帯電話ではマイクロ波帯とミリ波帯の周波数帯が使用され、第5世代以降の携帯電話の研究開発では100GHz超の周波数帯での開発が進んでいる。これに伴い、ミリ波帯デバイスには高利得化と高出力化が要求されている。高周波増幅器として、カスコード増幅器が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の高周波増幅器では、マイクロ波帯およびミリ波帯において十分な利得と出力電力を得ることが困難である。
【0005】
本開示の例示的な目的の一つは、マイクロ波帯およびミリ波帯における高利得かつ高出力な高周波電力増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の高周波電力増幅器は、接地される第1端子と、高周波入力信号が入力される第1制御端子と、第2端子と、を有する第1のトランジスタと、第1のトランジスタの第2端子に接続された第3端子と、高周波出力信号を出力する第4端子と、第2制御端子と、を有する第2のトランジスタと、第1のトランジスタの第2端子に第1バイアス電圧を供給する第1のバイアス回路と、高周波入力信号の周波数において第2制御端子と接地との間に接続された容量として機能する第1のリアクタンス素子と、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本開示の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、マイクロ波帯およびミリ波帯における高利得かつ高出力な高周波電力増幅器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図2】小信号領域における高周波電力増幅器の高周波利得と入出力のリターンロスの周波数依存性を示す図である。
【
図3】大信号特性の入力電力依存性を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図5】インピーダンスZsとインピーダンスZgを示す図である。
【
図6】第1の実施の形態の第1の変形例の高周波特性を示す図である。
【
図7】第1の実施の形態の第2の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図8】第1の実施の形態の第3の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図9】第2の実施の形態の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図10】
図9の高周波電力増幅器の一部のレイアウト図である。
【
図11】
図9の高周波電力増幅器の高周波特性を示す図である。
【
図12】第2の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図13】第2の実施の形態の第2の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図14】第3の実施の形態の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図15】
図14の高周波電力増幅器の一部のレイアウト図である。
【
図16】
図14の高周波電力増幅器の高周波特性を示す図である。
【
図17】第3の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図18】第3の実施の形態の第2の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図19】第3の実施の形態の第3の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図20】第4の実施の形態の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図21】小信号領域における高周波電力増幅器の高周波利得と入出力のリターンロスの周波数依存性を示す図である。
【
図22】大信号特性の入力電力依存性を示す図である。
【
図23】第4の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図24】第5の実施の形態の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図25】
図24の高周波電力増幅器の高周波特性を示す図である。
【
図26】第5の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図27】第6の実施の形態の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図28】
図27の高周波電力増幅器の一部のレイアウト図である。
【
図29】
図27の高周波電力増幅器の高周波特性を示す図である。
【
図30】第6の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図31】第6の実施の形態の第2の変形例の高周波電力増幅器を示す回路図である。
【
図32】
図31の高周波電力増幅器の一部のレイアウト図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、高周波電力増幅器について研究し、以下の知見を得た。
図33は、比較例の高周波増幅器1Xの回路図である。比較例の高周波増幅器1Xは、特許文献1に記載の技術に基づく。
【0011】
高周波増幅器1Xは、信号入力部IN、ソース接地のFET121、交流ゲート接地のFET122、FET121のゲートバイアス部123、FET122のドレインバイアス部127、FET122のゲートバイアス部125、FET122の交流接地用キャパシタ124、信号出力部OUT、および接続点バイアス部131を備える。
【0012】
接続点バイアス部131は、FET121のドレインバイアス電圧を印加する。これにより、両方のFET121、FET122におけるドレインバイアス電圧を互いに独立かつ自由に設定できる。
【0013】
一方、RF信号に関しては、両方のFET121、FET122のドレインRF電圧を重畳することができる。すなわち、カスコード回路における特徴である2個のFETのドレインRF電圧の重畳による高出力化を、バイアス電圧の選定により、高電力のもとで実現することができる。さらに、比較例の形態のカスコード回路を用いた増幅器では、比較的低周波では安定した増幅動作が可能である。また、両FET121、FET122のドレイン電圧および電流は互いに独立して自由に設定できるため、FET121を高効率動作のゲートバイアス電圧に設定し、ゲート・ソース間の信号入力電圧が大きいFET122を低ひずみ動作のゲートバイアス電圧に設定することで、高効率かつ低ひずみ動作のカスコード回路を実現できる。
【0014】
本発明者らは、上記の高周波増幅器1Xには以下の課題があることを認識した。高周波増幅器1Xを一般的なマイクロ波帯以上の高出力増幅器、つまり電力増幅器として用いる場合、上述のようにFET122は交流接地用キャパシタ124でゲート接地されているため、利得が高く、入出力インピーダンスは不安定領域になってしまう。加えて、FET122をゲート接地してしまうと、ゲートには電圧振幅が生じず、高出力増幅器としては必ずしも好適な回路構成ではない。一般的にマイクロ波帯以上の周波数では、ゲート接地のFET122を交流接地する場合、小信号増幅器では、交流接地用キャパシタ124と直列に小さな抵抗素子を入れて安定化し、カスコード回路の不安定性の課題に対しては対処されてきた。
【0015】
本発明者らは、これらの知見に基づいて研究を重ね、ソース接地のFETのドレインにバイアス電圧を供給する構成において、ゲート接地のFETのゲート端子を接地に高周波短絡することなく、適当なリアクタンス成分を持つ容量成分を介して接地することで、マイクロ波帯、ミリ波帯において増幅器の利得と出力電力を改善できることを見出した。実施の形態は、このような思索に基づいて案出されたもので、以下にその具体的な構成を説明する。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0017】
以下、それぞれの実施の形態の高周波電力増幅器は、マイクロ波帯およびミリ波帯で動作する高出力増幅器であり、一例としてモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC:Monolithic Microwave Integrated Circuit)で構成される形態で説明する。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の高周波電力増幅器1を示す回路図である。高周波電力増幅器1は、基本増幅器、即ち単位増幅器であることから、前段にはドライブ段を備えることが想定される。また、複数の高周波電力増幅器1が電力合成器で並列接続されてもよい。
【0019】
[基本構成]
図1に示すように、高周波電力増幅器1は、入力端子11a、出力端子11b、第1のFET101、第2のFET102、オープンスタブ10、伝送線路12、入力整合回路13、ゲートバイアス回路15a、ドレインバイアス回路15b、ゲートバイアス回路15c、ドレインバイアス回路15d、および出力整合回路14を備える。高周波電力増幅器1は、半導体基板8上に構成される。
【0020】
入力端子11aは、容量素子45と入力整合回路13を介して、ソース接地された第1のFET101のゲート端子に接続される。以下、容量素子は、例えばMIM(Metal - Insulator - Metal)容量である。
【0021】
入力整合回路13は、一例として、2つの入力側伝送線路37a,37a、スタブ線路35、および容量素子46を有する。スタブ線路35は、一端が2つの入力側伝送線路37a,37aの接続点に接続され、他端が容量素子46を介して接地9に接続される。スタブ線路35は、ミリ波回路では、容量素子46の引き出し部の接続線路部でもあってもよいし、容量素子46とは別の伝送線路であってもよい。
【0022】
第1のFET101のゲート端子には、ゲート電圧Vg1を供給するゲートバイアス回路15aも接続される。ゲートバイアス回路15aは、容量素子46およびバイアス線路36を有する。バイアス線路36は、λg/4以下の長さを有する。λgは、高周波電力増幅器1の動作中心周波数に対応する半導体基板8における実効波長である。バイアス線路36の長さをλg/4未満に設定し、ショートスタブであるバイアス線路36が入力整合回路13の一部を兼ねてもよい。
【0023】
ドレインバイアス回路15bは、第1のFET101のドレイン端子にドレイン電圧Vd1をバイアス電圧として供給する。ドレインバイアス回路15bは、容量素子46およびバイアス線路36を有する。バイアス線路36は、第1のFET101のドレイン端子に接続された一端と、ドレイン電圧Vd1が供給される他端とを有する。このバイアス線路36も、λg/4以下の長さを有し、伝送線路12による整合回路の一部を兼ねてもよい。ドレインバイアス回路15bは、本開示における第1のバイアス回路に相当する。
【0024】
入力整合回路13、ゲートバイアス回路15a、ドレインバイアス回路15bは、公知の構成であるため、これ以上の説明は省略する。
【0025】
第1のFET101は、入力端子11aに入力された高周波入力信号を増幅し、増幅した信号をドレイン端子から伝送線路12を介して第2のFET102のソース端子に供給する。伝送線路12は、第1のFET101のドレイン端子と、第2のFET102のソース端子との間に接続されている。伝送線路12は、第1のFET101のドレインと第2のFET102との間のインピーダンスを調整する。
【0026】
ゲート接地構成の第2のFET102は、第1のFET101にカスコード接続され、ドレイン端子から高周波出力信号を出力する。この高周波出力信号は、出力整合回路14、容量素子45を介して、出力端子11bから出力される。
【0027】
第2のFET102のゲート端子には、オープンスタブ10が接続されている。オープンスタブ10の長さLgは、Lg<λg/4である。オープンスタブ10は、高周波入力信号の周波数においてゲート端子と接地9との間に接続された容量として機能する第1のリアクタンス素子の一例である。高周波入力信号の周波数において、オープンスタブ10のリアクタンスは、10Ω以上の有限の値であり、実験またはシミュレーションにより適宜定めることができる。第2のFET102は、厳密にはゲート接地ではないが、構成および配置上、ゲート接地構成と呼ぶ。
【0028】
ゲートバイアス回路15cは、第2のFET102のゲート端子に、ゲート電圧であるコントロール電圧Vcontをバイアス電圧として供給する。ゲートバイアス回路15cは、一端が第2のFET102のゲート端子に接続され、他端にコントロール電圧Vcontが供給される抵抗Rg、および、抵抗Rgの他端と接地9との間に接続されるバイパスコンデンサである容量素子46を有する。
【0029】
出力整合回路14は、入力整合回路13と同様の構成であり、2つの出力側伝送線路37b,37b、スタブ線路35、および容量素子46を有する。
【0030】
第2のFET102のドレイン端子には、ドレイン電圧Vd2を供給するドレインバイアス回路15dも接続される。ドレインバイアス回路15dは、容量素子46およびバイアス線路36を有する。このバイアス線路36も、λg/4以下の長さを有し、出力整合回路14の一部を兼ねてもよい。出力整合回路14とドレインバイアス回路15dは、公知の構成であるため、これ以上の説明は省略する。
【0031】
第1のFET101は、本開示における第1のトランジスタの一例である。第1のFET101のソース端子は、本開示における第1端子の一例である。第1のFET101のドレイン端子は、本開示における第2端子の一例である。第1のFET101のゲート端子は、本開示における第1制御端子の一例である。
【0032】
第2のFET102は、本開示における第2のトランジスタの一例である。第2のFET102のソース端子は、本開示における第3端子の一例である。第2のFET102のドレイン端子は、本開示における第4端子の一例である。第2のFET102のゲート端子は、本開示における第2制御端子の一例である。
【0033】
なお、第1のFET101、第2のFET102の代わりに、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)等のバイポーラトランジスタを用いてもよい。この場合、
図1の構成においてソース端子をエミッタ端子に、ゲート端子をベース端子に、ドレイン端子をコレクタ端子に置き換えてよい。
【0034】
[高周波特性]
図2は、小信号領域における高周波電力増幅器1の高周波利得と入出力のリターンロスの周波数依存性を示す。
図2(a)は、比較例の特性を示し、
図2(b)は、第1の実施の形態の特性を示す。
図2は、比較例と本実施の形態で同一のFETのモデルを用いたシミュレーション結果を示す。
【0035】
ゲートバイアス回路15a、ドレインバイアス回路15b、ドレインバイアス回路15dでは、動作中心周波数100GHzで、バイアス線路36の長さをλg/4(=310μm)としている。
【0036】
比較例の構成では、FET122のゲート端子の交流接地用キャパシタ124を100GHzで短絡容量として機能する1pFとしている。実施の形態では、オープンスタブ10の長さLgをλg/4より短い160μmとしている。
【0037】
図2(a)に示すように、比較例では、100GHzでは利得を持たせることができず、90GHz程度で利得を有する特性となる。一方、
図2(b)に示すように、実施の形態では、所望の100GHzで利得6.9dBであり、概ね良好な利得特性と入出力リターンロス特性を有している。
【0038】
図3は、大信号特性の入力電力依存性を示す。
図3(a)は、100GHzにおける比較例の特性を示し、
図3(b)は、100GHzにおける第1の実施の形態の特性を示す。
図3(a)に示す比較例では、利得を持たず電力増幅器として機能せず、入力電力rfin=20dBmで出力電力Pout=11.1dBmとなっている。
図3(b)に示す実施の形態では、例えば入力電力rfin=15dBmで出力電力Pout=20.1dBmが得られており、飽和出力はPout=21.4dBmとなり、高い出力電力特性が得られている。
【0039】
[効果]
本実施の形態では、第1のFET101のドレイン端子にバイアス電圧を供給するカスコード接続タイプの高出力増幅器において、ゲート接地構成の第2のFET102のゲート端子を接地9に高周波短絡することなく、オープンスタブ10により当該ゲート端子に対して有限の容量成分で適当なリアクタンス成分を与えている。そのため、第2のFET102のゲート端子に電圧振幅を与えられる。これにより、第2のFET102の出力インピーダンスを大きくし、負荷線を倒すことができ、その結果、出力振幅も大きくすることができ、高出力特性を得ることが可能となる。安定性を高め、利得を高め、広帯域化することもできる。
【0040】
前述の比較例では、ゲート接地構成のFET122のゲート端子を接地に高周波短絡しているため、出力インピーダンスを高くすることができず、動負荷線は立ってしまい高出力特性は得られない。加えて、カスコード特性の課題点の1つである不安定条件を満たしやすく、かつ、利得が高くなる半面、同一FETでの利得帯域幅積は一定であることから、より高い周波数で動作させることは難しくなり、ミリ波およびテラヘルツ帯で好適な構成とは言えない。
【0041】
さらに、本実施の形態では、整合回路が誘導性スタブで構成できる場合、ゲートバイアス回路15a、ドレインバイアス回路15b、ドレインバイアス回路15dにおいて、λg/4より短いバイアス線路36を用いることで、整合回路の一部を兼ねることも可能であり、高周波電力増幅器1を小型化できる。整合回路が容量性スタブで構成される場合、バイアス線路36はλg/4線路とし、入力整合回路13と出力整合回路14の様に、伝送線路とスタブと容量素子で整合を取ったほうが小型化かつ低損失化できる。
【0042】
また、本実施の形態では、第1のFET101と第2のFET102では、それぞれ独立してドレイン電流を流せるため、第1のFET101のゲート幅Wg1と、第2のFET102のゲート幅Wg2との関係をWg1<Wg2として、第2のFET102のドレイン電流を第1のFET101のドレイン電流より大きくすることにより、さらに高出力化できる。加えて、第1のFET101のゲート幅Wg1を小さくすることにより、最大発振周波数fmaxが大きくなるため、初段の第1のFET101の利得を大きくすることができ、より周波数の高いマイクロ波帯、ミリ波帯、およびテラヘルツ帯で有利な構成となる。
【0043】
(第1の実施の形態の第1の変形例)
図4は、第1の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器1aを示す回路図である。
図1の構成との相違点は、伝送線路12上、即ち伝送線路12を構成する伝送線路12aと伝送線路12bとの接続点に、λg/4未満の適切な長さのオープンスタブ23が設けられている点である。ここでは、オープンスタブ23の長さは185μm(<λg/4)であり、容量性である。オープンスタブ23は、伝送線路12上の所定位置に接続され、高周波入力信号の周波数において当該所定位置と接地9との間に接続された容量として機能する第2のリアクタンス素子の一例である。
【0044】
第2のFET102のソース端子から第2のFET102側をみた段間のインピーダンスをZgとし、第2のFET102のソース端子から第1のFET101側をみた段間のインピーダンスをZsとする。
図1と
図4に、インピーダンスZs、Zgの方向を示す。
【0045】
図5は、インピーダンスZsとインピーダンスZgを示す。
図5(a)は、第1の実施の形態を示し、
図5(b)は、第1の変形例を示す。
図5(a)、(b)に示すように、第2のFET102側をみたインピーダンスZgは、同回路であるため両者同特性である。一方、第1のFET101側をみたインピーダンスZsは、オープンスタブ23の有無により
図5(a)、(b)で異なる。
図5(b)に示すように、伝送線路12の途中地点にオープンスタブ23を設けることにより、第1のFET101のドレイン側をみたインピーダンスZsの所望周波数f=100GHzのm9点は、インピーダンスチャートの中心側へ近づく。そのため、第2のFET102のソース端子をみたインピーダンスZgのm10点と共役整合状態に近づけることができ、利得と出力電力をより高くすることできる。
【0046】
加えて、第2のFET102がゲート接地構成であるため、もともと入力インピーダンスが数10Ω程度であり、第2のFET102のソース端子をみたインピーダンスZgは、比較的、低インピーダンスの特性を有する。これにより、容量性のオープンスタブ23により、広帯域にインピーダンスの整合状態に近づけることができ、より広帯域化することができる。
【0047】
図6は、第1の実施の形態の第1の変形例の高周波特性を示す。
図6(a)の利得と入出力リターンロスの周波数依存性に示すように、100GHzでGain=8.7dBである。
図6(b)の大信号特性の入力電力依存性に示すように、飽和出力Pout=21.8dBmである。よって、第1の変形例では、
図2(b)、
図3(b)の第1の実施の形態と比較し、より優れた高周波特性となっている。
【0048】
(第1の実施の形態の第2の変形例)
図7は、第1の実施の形態の第2の変形例の高周波電力増幅器1bを示す回路図である。第2の変形例では、第1の実施の形態のオープンスタブ10に替えて、容量素子20bと伝送線路20aで第1のリアクタンス素子を構成している。容量素子20bと伝送線路20aは、第2のFET102のゲート端子と接地9との間に直列接続されている。伝送線路20aは、容量素子20bの引き出し部であってもよい。この場合、第1のリアクタンス素子のリアクタンスは、動作周波数帯で10Ω以上の有限の値である。概ね100GHz帯以下では、スタブ構成と比較してより小型に構成できるというメリットがある。
【0049】
(第1の実施の形態の第3の変形例)
図8は、第1の実施の形態の第3の変形例の高周波電力増幅器1cを示す回路図である。第3の変形例では、第1の実施の形態のゲートバイアス回路15cに替えて、分圧回路15sが設けられ、セルフバイアス構成としている。第2のFET102のゲート端子に流れる電流が微小であることから、分圧回路15sは、第2のFET102のドレイン端子の電圧を分圧してゲート端子に供給する。
【0050】
分圧回路15sは、それぞれ1kΩ以上の高抵抗である第1の抵抗素子R1と第2の抵抗素子R2を有する。第1の抵抗素子R1は、第2のFET102のゲート端子と接地9との間に接続される。第2の抵抗素子R2は、第2のFET102のゲート端子とドレイン端子との間に接続される。望ましくは、第1の抵抗素子R1と第2の抵抗素子R2は、それぞれ10kΩ程度である。分圧比(=R2/R1)は、1±0.3としてもよい。第1の実施の形態では、第2のFET102にはゲート電圧Vcont1を高周波電力増幅器の外部から供給する必要があるが、本変形例ではゲート電圧Vcont1を外部から供給する必要がない。この構成により、高周波電力増幅器1cに供給する電源数を少なくでき、より簡素な構成にでき、小型化できる。
【0051】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、第1のFET101と第2のFET102との間は1本の伝送線路12で接続されているが、第2の実施の形態では、2本の伝送線路で接続される。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0052】
[構成]
図9は、第2の実施の形態の高周波電力増幅器2を示す回路図である。一般的に、FETのソース電極は、ドレイン電極の両側に2個存在し、これらのソース電極がエアブリッジで接続されてソース端子を構成する。そのため、カスコード接続する場合、
図1の例では、第1のFET101のドレイン端子から伝送線路12で第2のFET102の一方のソース電極に接続され、第2のFET102の他方のソース電極は開放(オープン)される。開放とは、伝送線路12が直接的に接続されないことを表す。しかしながら、高出力化のためにFETの複数のゲート電極を束ねてゲート端子を構成したマルチフィンガータイプのFETの場合、2個のソース電極間の距離が長くなるため、片側のソース電極を開放してしまうと、高周波特性を低下させる要因になる可能性がある。
【0053】
そこで、本実施の形態では、より高周波特性や電力特性を向上させるために、第1伝送線路12cは、第1のFET101のドレイン端子と第2のFET102のソース電極S1との間に接続され、第2伝送線路12dは、第1のFET101のドレイン端子と第2のFET102のソース電極S2との間に接続される。
【0054】
図10は、
図9の高周波電力増幅器2の一部のレイアウト図である。
図9と
図10において、1:1に対応する構成に同じ符号を付している。
図10は、第2のFET102の周辺のレイアウト例を示し、伝送線路をマイクロストリップ線路で構成した例である。
図10において、
図9に示す接地9は、ビアホール30と、ビアホール30を取り囲む導体31によって、半導体基板8の表面のパターンが半導体基板8の裏面の接地導体に電気的に接続されることを表す。
【0055】
図10に示すように、ソース電極S1とソース電極S2は、第2のFET102の両端に配置される。ソース電極S1は、本開示における第1電極に相当し、ソース電極S2は、本開示における第2電極に相当する。第1伝送線路12cと第2伝送線路12dは、2本ずつ設けられる。つまり、第1伝送線路12cは、第1のFET101のドレイン端子D1とソース電極S1との間に、並列に複数設けられる。第2伝送線路12dは、ドレイン端子D1とソース電極S2との間に、並列に複数設けられる。このような構成では、第2のFET102の周辺の電極の配線を、より対称性の高い配置にでき、低損失で位相特性の優れた構成とすることができる。ここで、2本ずつの伝送線路を用いた理由は、線路を低い特性インピーダンスの線路とするためである。なお、2本の伝送線路の線路長は、2本の伝送線路の中心線LLに沿った長さとする。
【0056】
第1の実施の形態の第1の変形例のオープンスタブ23と同様の作用で、インピーダンスZsはインピーダンスチャートのより内部にくるため、第1伝送線路12cと第2伝送線路12dの配線長を長くしても高周波特性の変化が小さくなる。そのため、第1伝送線路12cと第2伝送線路12dの配線長を長くすることも可能となり、ミリ波帯でのMMICレイアウトに適した配線長とすることができる。
【0057】
ここでは2本ずつの第1伝送線路12cと第2伝送線路12dを用いたが、3本ずつ、4本ずつ等の複数本の線路で伝送線路12を構成してもよい。これにより、ミリ波帯、サブテラヘルツ帯でのレイアウト、配置を可能とし、線路長に対する位相感度をなだらかにすることができ、さらに損失を低減する効果が生じる。なお、1本ずつの第1伝送線路12cと第2伝送線路12dを用いてもよい。
【0058】
[高周波特性]
図11は、
図9の高周波電力増幅器2の高周波特性を示す。
図11(a)は、利得と入出力リターンロスの周波数依存性を示し、
図11(b)は、大信号特性の入力電力依存性を示し、
図11(c)は、インピーダンスを示す。
【0059】
図11(c)において、第2のFET102側をみたインピーダンスZgは、
図5(a)、(b)の特性と同様である。一方、第1のFET101側をみたインピーダンスZsは、
図5(a)の1本の伝送線路12を用いた場合のインピーダンスZsとは異なり、所望周波数f=100GHzのm9点は、インピーダンスチャート内のより中心点側に来ており、f=100GHzでm9点とm10点は近づき、共役整合状態により近くなってきている。
【0060】
図11(a)に示すように、100GHzでGain=8.1dBであり、
図11(b)に示すように、飽和出力Pout=21.8dBmであり、
図2の第1の実施の形態と比較し、より広帯域特性を有し、より優れた高周波特性となっている。
【0061】
なお、第1伝送線路12cと第2伝送線路12dのそれぞれに、第1の実施の形態の第1の変形例のオープンスタブ23が接続されてもよい。
【0062】
(第2の実施の形態の第1の変形例)
図12は、第2の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器2aを示す回路図である。第1の変形例では、第2の実施の形態のオープンスタブ10に替えて、容量素子20bと伝送線路20aで第1のリアクタンス素子を構成している。この場合、第1のリアクタンス素子のリアクタンスは、動作周波数帯で10Ω以上の有限の値である。概ね100GHz帯以下では、スタブ構成と比較してより小型に構成できるというメリットがある。
【0063】
(第2の実施の形態の第2の変形例)
図13は、第2の実施の形態の第2の変形例の高周波電力増幅器2bを示す回路図である。第2の変形例では、第2の実施の形態のゲートバイアス回路15cに替えて、分圧回路15sが設けられ、セルフバイアス構成としている。分圧回路15sは、第2のFET102のドレイン端子の電圧を分圧してゲート端子に供給する。分圧回路15sの構成は、第1の実施の形態の第3の変形例と同様である。この構成により、高周波電力増幅器2bに供給する電源数を少なくでき、より簡素な構成にでき、小型化できる。
【0064】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態では、ゲート接地構成のFETとして、並列接続された2つのFETを用いる。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0065】
図14は、第3の実施の形態の高周波電力増幅器3を示す回路図である。
図15は、
図14の高周波電力増幅器3の一部のレイアウト図である。
図15は、第2のFET102a、第3のFET102bの周辺のレイアウト例を示す。
【0066】
本実施形態では、第1のFET101のゲート幅はW、具体的にはW=40μmx4(単位ゲート幅xフィンガー数)であり、第2のFET102aと第3のFET102bのそれぞれのゲート幅はW/2、具体的にはW=40μmx2(単位ゲート幅xフィンガー数)であるが、この関係に限定されない。
【0067】
図15に示すように、レイアウトとしては、後段のゲート接地構成のFETのゲート幅を、小フィンガー数の第2のFET102aと第3のFET102bを並列接続して構成している。伝送線路12e、12fの中心線99に対して、第2のFET102aのソース電極Sa2と、第3のFET102bのソース電極Sb1とが線対称に配置される。ソース電極Sa2とソース電極Sb1は隣接する。エアブリッジ80で接続された第2のFET102aのソース電極Sa1と、第3のFET102bのソース電極Sb2は、開放端子のオープンとなっている。
【0068】
第2のFET102aのゲート端子Gaには、オープンスタブ10bが接続される。第3のFET102bのゲート端子Gbには、オープンスタブ10cが接続される。オープンスタブ10cは、高周波入力信号の周波数においてゲート端子Gbと接地9との間に接続された容量として機能する第3のリアクタンス素子の一例である。
【0069】
一方のゲートバイアス回路15cは、第2のFET102aのゲート端子にコントロール電圧Vcont2をバイアス電圧として供給する。他方のゲートバイアス回路15cは、第3のFET102bのゲート端子にコントロール電圧Vcont1をバイアス電圧として供給する。
【0070】
第2のFET102aのドレイン端子には、伝送線路37bbとオープンスタブ35bで構成された出力整合回路が接続される。第3のFET102bのドレイン端子には、伝送線路37baとオープンスタブ35aで構成された出力整合回路が接続される。2つの出力整合回路の出力信号は、電力合成器38で合成され、合成された信号は、容量素子45、出力端子11bを介して高周波出力信号として出力される。
【0071】
電力合成器38と容量素子45の間に接続されたドレインバイアス回路15dは、第2のFET102aのドレイン端子と第3のFET102bのドレイン端子にドレイン電圧Vd2を供給する。
【0072】
図15に示すレイアウトでは、伝送線路12eと伝送線路12fは、それぞれ2本の伝送線路で構成している。第2の実施形態と同様に、複数本の伝送線路で構成することで全体として伝送線路の特性インピーダンスを低下させることにより、第1のFET101のドレイン側をみたインピーダンスを低下させて、インピーダンスチャートのより内部にもってくることができる。2本、3本等の複数本の線路で伝送線路12e,12fのそれぞれを構成してもよい。このことにより、伝送線路12eと伝送線路12fを長くすることができ、MMICレイアウトに適した配線長とすることができる。これにより、ミリ波帯、サブテラヘルツ帯でのレイアウト、配置を可能とし、線路長に対する位相感度をなだらかにすることができ、さらに、損失を低減する効果が生じる。なお、伝送線路12eと伝送線路12fは、それぞれ1本であってもよい。
【0073】
伝送線路12eと伝送線路12fの間にオープンスタブ23が接続されている。オープンスタブ23は任意である。
【0074】
第3のFET102bは、本開示における第3のトランジスタの一例である。第3のFET102bのソース端子は、本開示における第5端子の一例である。第3のFET102bのドレイン端子は、本開示における第6端子の一例である。第3のFET102bのゲート端子は、本開示における第3制御端子の一例である。
【0075】
[高周波特性]
図16は、
図14の高周波電力増幅器3の高周波特性を示す。
図16(a)は、利得と入出力リターンロスの周波数依存性を示し、
図16(b)は、大信号特性の入力電力依存性を示し、
図16(c)は、インピーダンスを示す。
【0076】
図16(c)に示すように、第1のFET101側をみたインピーダンスZsは、
図5の第1の実施の形態の第1の変形例と類似している。一方、第2のFET102aと第3のFET102b側を見たインピーダンスZgは、f=100GHzで数10Ω程度であり、インピーダンスチャートの中央付近にくる特性を示すため、インピーダンスZs側では、オープンスタブ23を長くして、並列容量効果をより強く効かせる構成とする。
【0077】
図16(a)に示すように、100GHzでGain=9.8dBであり、
図16(b)に示すように、飽和出力Pout=21.7dBmであり、
図6の第1の実施の形態の第1の変形例と比べ、飽和出力特性は同程度であるが、利得特性は1.1dB高くなる。加えて、最大電力付加効率PAEも本実施の形態では幾分高くなっている。これは、組み合わせて用いられる第2のFET102aと第3のFET102bは、それぞれ、ゲートフィンガー数が小さく、寄生成分が少ないため、それぞれの利得が高いことに起因している。
【0078】
利得余裕のない100GHz以上のミリ波帯では、本実施の形態のように、総ゲート幅は一定に保ったまま1つのFETのゲートフィンガー数を少なくして、伝送線路を有する分布定数の回路として組み合わせた方が、FETの寄生成分が小さくなり、利得と電力付加効率を向上するために有利な構成となる。
【0079】
(第3の実施の形態の第1の変形例)
図17は、第3の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器3aを示す回路図である。第1の変形例では、第3の実施の形態のオープンスタブ10b,10cに替えて、直列接続された容量素子20bと伝送線路20aで第1のリアクタンス素子を構成し、直列接続された別の容量素子20bと伝送線路20aで第3のリアクタンス素子を構成している。この場合、第1のリアクタンス素子と第3のリアクタンス素子のそれぞれのリアクタンスは、動作周波数帯で10Ω以上の有限の値である。概ね100GHz帯以下では、スタブ構成と比較してより小型に構成できるというメリットがある。
【0080】
(第3の実施の形態の第2の変形例)
図18は、第3の実施の形態の第2の変形例の高周波電力増幅器3bを示す回路図である。第2のFET102aのゲート端子Gaと、第3のFET102bのゲート端子Gbとを結ぶ線路Lgの線路長LLgがλg/4と比較して十分短ければ、つまりLLg<<λg/4であれば、線路Lgで配線してもよい。この場合、配線Lgの影響は軽微である。この変形例では、第2のFET102aと第3のFET102bに電圧Vcont1を供給する電源を1台にすることが可能である。また、線路Lg中に0.5kΩ以上の高抵抗層(望ましくは2k~5kΩ)を含んで構成すれば、LLg<<λg/4の条件にとらわれることなく、線路Lgの影響は概ね無視することができる。
【0081】
(第3の実施の形態の第3の変形例)
図19は、第3の実施の形態の第3の変形例の高周波電力増幅器3cを示す回路図である。第3の変形例では、第3の実施の形態の2つのゲートバイアス回路15cに替えて、2つの分圧回路15sが設けられ、セルフバイアス構成としている。一方の分圧回路15sは、第2のFET102aのドレイン端子の電圧を分圧してゲート端子に供給する。他方の分圧回路15sは、第3のFET102bのドレイン端子の電圧を分圧してゲート端子に供給する。それぞれの分圧回路15sの構成は、第1の実施の形態の第3の変形例と同様である。この構成により、高周波電力増幅器3cに供給する電源数を少なくでき、より簡素な構成にでき、小型化できる。第3の変形例を第2の変形例と組み合わせてもよい。
【0082】
なお、第3の実施の形態を第2の実施の形態に組み合わせてもよい。つまり、第2の実施の形態の第1伝送線路12cが第1のFET101のドレイン端子と第2のFET102aのソース電極Sa1との間に接続され、第2の実施の形態の第2伝送線路12dが第1のFET101のドレイン端子と第3のFET102bのソース電極Sb2との間に接続されてもよい。これにより、回路のレイアウトが容易になる。ソース電極Sa1は、本開示における第1電極の一例である。ソース電極Sa2は、本開示における第2電極の一例である。ソース電極Sb1は、本開示における第3電極の一例である。ソース電極Sb2は、本開示における第4電極の一例である。
【0083】
ここで、本発明者らが認識した、比較例の高周波増幅器1Xの別の課題について説明する。カスコード接続では、低周波域では、ドレイン電圧が2倍になるため、出力電力も2倍、即ち3dB増大になるが、この関係が成立するのは、遮断周波数ftと最大発振周波数fmaxの関係において、電力増幅器として、動作周波数fに対して、f≦ftの関係が成立するときである。通常、電力増幅器に使用するFETの場合では、ft<fmaxの関係を有しており、動作周波数fがft<f<fmaxの関係している周波数帯、とりわけミリ波帯とテラヘルツ帯の電力増幅器では、この関係の周波数領域での動作となる。
【0084】
従って、カスコード電力増幅器としてのメリットが薄れてきてしまうこと、および、カスコード電力増幅器では、ドレイン電圧が2倍になるため、大きな動作電圧が必要となることという課題もある。上記のメリットが薄れてくるため、電力付加効率PAEも必ずしも高い効率の構成ではなくなってくる。
【0085】
本発明者らは、これらの認識に基づいて、第1から第3の実施の形態において、2つのFETをカスコード接続せず、容量素子を介して接続し、それぞれのFETに個別にバイアス電圧を与えることで、電源電圧を低下させることができることを見出した。
【0086】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態は、第1のFET101と第2のFET102が容量素子を介して接続されることが第1の実施の形態と異なる。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0087】
[構成]
図20は、第4の実施の形態の高周波電力増幅器4を示す回路図である。第1の容量素子70は、第1のFET101のドレイン端子と第2のFET102のソース端子との間に接続される。
【0088】
伝送線路12aと伝送線路12bは、第1のFET101のドレイン端子と第2のFET102のソース端子との間に、第1の容量素子70に直列に接続される。第1の容量素子70は、伝送線路12aと伝送線路12bの間に接続される。第1の容量素子70は、第1のFET101のドレイン端子と伝送線路12aとの間に接続されてもよいし、伝送線路12bと第2のFET102のソース端子との間に接続されてもよい。
【0089】
段間の第1の容量素子70は、一例として、0.2pFであり、動作周波数f=100GHzでは、リアクタンスは8.0Ωであり、概ねスルーの伝送特性である。
【0090】
第1の容量素子70と伝送線路12bとの接続点には、第1の実施の形態の第1の変形例と同様に、オープンスタブ23が接続される。オープンスタブ23は任意である。
【0091】
第1の容量素子70と伝送線路12bとの接続点には、バイアス回路15eが接続される。バイアス回路15eは、第2のFET102のソース端子にバイアス電圧としてソース電圧Vsを供給する。バイアス回路15eの構成は、ドレインバイアス回路15dと同様である。バイアス回路15eは、伝送線路12bと第2のFET102のソース端子との接続点に接続されてもよい。バイアス回路15eは、本開示における第2のバイアス回路に相当する。
【0092】
第1のFET101と第2のFET102の間は、第1の容量素子70で直流電流が遮断される構成のため、第1のFET101の電流路と、第2のFET102の電流路は完全に独立した構成となり、第1のFET101のドレイン電圧Vd1と、第2のFET102のドレイン電圧Vd2は、Vd1=Vd2の構成が基本となる。
【0093】
第2のFET102のゲート端子にバイアス電圧を供給する必要がない。そのため、第2のFET102のゲート端子と接地9との間に抵抗Rgが接続される。抵抗Rgは、例えば1kΩである。
【0094】
バイアス回路15eは、基本的には、λg/4の長さのバイアス線路36で構成する。この場合、バイアス回路15eがRF特性に与える影響がほとんど無く、安定供給することが容易となる。なお、他のドレインバイアス回路15d等と同様に、バイアス回路15eのバイアス線路36の長さをλg/4より短くして、整合回路も兼ねてもよい。
【0095】
[高周波特性]
図21は、小信号領域における高周波電力増幅器4の高周波利得と入出力のリターンロスの周波数依存性を示す。
図21(a)は、比較例の特性を示し、
図22(b)は、第4の実施の形態の特性を示す。ゲートバイアス回路15a、ドレインバイアス回路15b、ドレインバイアス回路15dでは、動作中心周波数100GHzで、バイアス線路36の長さをλg/4(=310μm)としている。
【0096】
比較例の構成では、既述の通り、FET122のゲート端子の交流接地用キャパシタ124を100GHzで短絡容量として機能する1pFとしている。1pFのリアクタンスは、100GHzで1.6Ωである。実施の形態では、オープンスタブ10の長さLgをλg/4より短い160μmとしている。λg/4は、既述の通り310μmである。
【0097】
図21(a)に示すように、比較例では、100GHzでは利得を持たせることができず、90GHz程度で利得を有する特性となる。一方、
図21(b)に示すように、実施の形態では、所望とする100GHzで利得7.95dBであり、概ね良好な利得特性と入出力リターンロス特性を有している。
【0098】
図22は、大信号特性の入力電力依存性を示す。
図22(a)は、100GHzにおける比較例の特性を示し、
図22(b)は、100GHzにおける第4の実施の形態の特性を示す。
図22(a)に示す比較例では、既述のように、利得を持たず電力増幅器として機能せず、入力電力rfin=20dBmで出力電力Pout=11.1dBmとなっている。
図22(b)に示す実施の形態では、例えばrfin=16dBmで出力電力Pout=20.0dBmが得られており、飽和出力はPout=21.2dBmとなり、高い出力電力特性が得られている。また、最大電力付加効率PAEも、
図22(a)の比較例では電力増幅器と機能していないため0%以下であり、
図22(b)の実施の形態では37.5%であり、より高い値が得られている。
【0099】
[効果]
(1)電力特性がFETの遮断周波数ftに依存しない。第1のFET101と第2のFET102の間を容量でカットしないカスコード接続構成では、ソース接地FET1段の電力増幅器に比べて、電力特性は、電圧が2倍になり、負荷線が倒れた構成の場合では、理想的に電力出力特性は3dB大きくなる。しかしながら、理想的に負荷線を倒すことができるのは、遮断周波数ftに依存し、動作周波数f≦ftの場合である。動作周波数fがft<f<fmaxの場合、カスコード動作の電力増幅器では、負荷線は倒れること、即ち高インピーダンスになることができず、電力が3dB上昇するメリットは薄れてきてしまい、本来のカスコード接続のもつ電力特性を発揮することができない。
【0100】
(2)大きなドレイン電圧Vd2を必要としない。
【0101】
(3)第2のFET102のゲート端子にバイアス電圧を印加する必要がなくなり、バイアス回路が容易になる。
【0102】
(4)通常、電力増幅器に使用するFETは、fmax>ftであるが、ftを超えた周波数帯の動作周波数fである場合、(2)のため、容量でカットしたほうが、DC電流は前段の第1のFET101の影響を受け難くなり、広帯域化しやすく、さらに、高いドレイン電圧を必要とせず、電力付加効率特性は高効率となりやすい。
【0103】
(5)加えて、マイクロ波帯、ミリ波帯のソース接地の多段増幅器では、グランドインダクタンスによる利得低下と出力低下が問題となる。実施の形態では、2段目のゲート接地構成の第2のFET102を高周波短絡することなくゲート端子に有限の容量成分で電圧振幅を与えるので、容量成分を調整することで電力特性と利得を制御できることから、グランドインダクタンスの影響を軽減できるという効果も生じる。これは、ミリ波帯、特にテラヘルツ帯では大きなメリットとなる。
【0104】
(第4の実施の形態の第1の変形例)
図23は、第4の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器4aを示す回路図である。第1の変形例では、第4の実施の形態のオープンスタブ10に替えて、容量素子20bと伝送線路20aで第1のリアクタンス素子を構成している。第1のリアクタンス素子のリアクタンスは、動作周波数帯で10Ω以上の有限の値である。概ね100GHz帯以下では、スタブ構成と比較してより小型に構成できるというメリットがある。
【0105】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態では、第1のFET101と第2のFET102との間が2本の伝送線路で接続される。以下、第4の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0106】
図24は、第5の実施の形態の高周波電力増幅器5を示す回路図である。第2のFET102は、第2のFET102の両端に配置されたソース電極S1とソース電極S2を有する。
【0107】
第1伝送線路61aと第1伝送線路62aは、第1のFET101のドレイン端子と第2のFET102のソース電極S1との間に、第1の容量素子70aに直列に接続される。第1の容量素子70aは、第1伝送線路61aと第1伝送線路62aの間に接続される。
【0108】
第2伝送線路61bと第2伝送線路62bは、第1のFET101のドレイン端子と第2のFET102のソース電極S2との間に、第2の容量素子70bに直列に接続される。第2の容量素子70bは、第2伝送線路61bと第2伝送線路62bの間に接続される。
【0109】
第1の容量素子70aと第1伝送線路62aとの接続点には、バイアス回路15eが接続される。
【0110】
2本の第1伝送線路61aと第2伝送線路61b、2本の第1伝送線路62aと第2伝送線路62bを用いるため、低い特性インピーダンスの線路を実現できる。これにより、第1の実施の形態の第1の変形例のオープンスタブ23と同様の作用で、インピーダンスZsはインピーダンスチャートのより内部にくるため、2本の第1伝送線路61aと第2伝送線路61b、2本の第1伝送線路62aと第2伝送線路62bの配線長を長くしても高周波特性の変化が小さくなる。そのため、2本の第1伝送線路61aと第2伝送線路61b、2本の第1伝送線路62aと第2伝送線路62bの配線長を長くすることも可能となり、ミリ波帯でのMMICレイアウトに適した配線長とすることができる。
【0111】
ここでは、1本ずつの第1伝送線路61aと第2伝送線路61b、1本ずつの第1伝送線路62aと第2伝送線路62bを用いたが、2本ずつ、3本ずつ等の複数本ずつの第1伝送線路61aと第2伝送線路61b、複数本ずつの第1伝送線路62aと第2伝送線路62bを用いてもよい。これにより、インピーダンスZsをインピーダンスチャートのより内部に近づけることができる。そのため、ミリ波帯、サブテラヘルツ帯でのレイアウト、配置を可能とし、線路長に対する位相感度をなだらかにすることができ、さらに損失を低減する効果が生じる。
【0112】
なお、第1伝送線路61aと第2伝送線路61bのそれぞれ、または、第1伝送線路62aと第2伝送線路62bのそれぞれに、第1の実施の形態の第1の変形例と同様に、オープンスタブ23が接続されてもよい。
【0113】
[高周波特性]
図25は、
図24の高周波電力増幅器5の高周波特性を示す。
図25(a)は、利得と入出力リターンロスの周波数依存性を示し、
図25(b)は、大信号特性の入力電力依存性を示す。第4の実施の形態と比較し、利得と飽和出力は同等である。
【0114】
(第5の実施の形態の第1の変形例)
図26は、第5の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器5aを示す回路図である。第1の変形例では、第5の実施の形態のオープンスタブ10に替えて、容量素子20bと伝送線路20aで第1のリアクタンス素子を構成している。第1のリアクタンス素子のリアクタンスは、動作周波数帯で10Ω以上の有限の値である。概ね100GHz帯以下では、スタブ構成と比較してより小型に構成できるというメリットがある。
【0115】
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態では、ゲート接地構成のFETとして、並列接続された2つのFETを用いる。以下、第4の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0116】
図27は、第6の実施の形態の高周波電力増幅器6を示す回路図である。
図28は、
図27の高周波電力増幅器6の一部のレイアウト図である。
図28は、第2のFET102a、第3のFET102bの周辺のレイアウト例を示す。
【0117】
図28に示すように、レイアウトとしては、後段のゲート接地構成のFETのゲート幅を、小フィンガー数の第2のFET102aと第3のFET102bを並列接続して構成している。伝送線路12e、12fの中心線99に対して、第2のFET102aのソース電極Sa2と、第3のFET102bのソース電極Sb1とが線対称に配置される。エアブリッジ80で接続された第2のFET102aのソース電極Sa1と、第3のFET102bのソース電極Sb2は、開放端子のオープンとなっている。
【0118】
第2のFET102aのゲート端子Gaには、オープンスタブ10bが接続される。第3のFET102bのゲート端子Gbには、オープンスタブ10cが接続される。オープンスタブ10cは、高周波入力信号の周波数においてゲート端子Gbと接地9との間に接続された容量として機能する第3のリアクタンス素子の一例である。
【0119】
第2のFET102aのゲート端子Gaと接地9との間に抵抗Rgが接続される。第3のFET102bのゲート端子Gbと接地9との間に抵抗Rgが接続される。抵抗Rgは、例えば1kΩである。
【0120】
第2のFET102aのドレイン端子と第3のFET102bのドレイン端子から出力端子11bまでの構成は、第3の実施の形態と同様である。
【0121】
ゲート接地構成のFETとして、第2のFET102aと第3のFET102bで並列化したが、ソースバイアスは、並列化する前にバイアス回路15eから給電され、ドレインバイアスは、並列化し束ねて電力合成した後で、ドレインバイアス回路15dから給電される構成である。そのため、ゲートバイアスを第2のFET102aと第3のFET102bのそれぞれのゲート端子に複数の電源から給電する構成と比較し、バイアスの取り方を簡易化することができる。
【0122】
図28に示すレイアウトでは、伝送線路12eと伝送線路12fは、それぞれ2本の伝送線路で構成している。第5の実施形態と同様に、複数本の伝送線路で構成することで全体として伝送線路の特性インピーダンスを低下させることにより、第1のFET101のドレイン側をみたインピーダンスを低下させて、インピーダンスチャートのより内部にもってくることができる。2本、3本等の複数本の線路で伝送線路12e,12fのそれぞれを構成してもよい。このことにより、伝送線路12eと伝送線路12fを長くすることができ、MMICレイアウトに適した配線長とすることができる。これにより、ミリ波帯、サブテラヘルツ帯でのレイアウト、配置を可能とし、線路長に対する位相感度をなだらかにすることができ、さらに、損失を低減する効果が生じる。なお、伝送線路12eと伝送線路12fは、それぞれ1本であってもよい。
【0123】
伝送線路12eと第1の容量素子70の間にオープンスタブ23が接続されている。オープンスタブ23は任意である。
【0124】
[高周波特性]
図29は、
図27の高周波電力増幅器6の高周波特性を示す。
図29(a)は、利得と入出力リターンロスの周波数依存性を示し、
図29(b)は、大信号特性の入力電力依存性を示す。
【0125】
図29(a)に示すように、100GHzでGain=10.4dBであり、出力特性は、飽和出力Pout=21.3dBmであり、
図21(b)と
図22(b)の第4の実施の形態と比べ、飽和出力特性は同程度であるが、利得特性は2.5dB高くなっている。これは、組み合わせて用いられる第2のFET102aと第3のFET102bは、それぞれ、ゲートフィンガー数が小さく、寄生成分が少ないため、それぞれの利得が高いことに起因している。
【0126】
利得余裕のない100GHz以上のミリ波帯では、本実施の形態のように、総ゲート幅は一定に保ったまま1つのFETのゲートフィンガー数を少なくして、伝送線路を有する分布定数の回路として組み合わせた方が、FETの寄生成分が小さくなり、利得と電力付加効率を向上するために有利な構成となる。
【0127】
(第6の実施の形態の第1の変形例)
図30は、第6の実施の形態の第1の変形例の高周波電力増幅器6aを示す回路図である。第1の変形例では、第6の実施の形態のオープンスタブ10b,10cに替えて、容量素子20bと伝送線路20aで第1のリアクタンス素子を構成し、別の容量素子20bと伝送線路20aで第3のリアクタンス素子を構成している。この場合、第1のリアクタンス素子と第3のリアクタンス素子のそれぞれのリアクタンスは、動作周波数帯で10Ω以上の有限の値である。概ね100GHz帯以下では、スタブ構成と比較してより小型に構成できるというメリットがある。
【0128】
(第6の実施の形態の第2の変形例)
図31は、第6の実施の形態の第2の変形例の高周波電力増幅器6bを示す回路図である。
図32は、
図31の高周波電力増幅器6bの一部のレイアウト図である。
【0129】
第4から第6の実施の形態では、第1のFET101のドレイン端子をみたインピーダンスZsと、第2のFET102のソース側または第2のFET102aと第3のFET102bのソース側をみたインピーダンスZgの、帯域内での共役整合に近い状態を実現する構成である。これは、直接整合とも呼べる。
【0130】
これに対して、第2の変形例では、
図31,32に示すように、第1の容量素子70から第1のFET101側を見たインピーダンスをZsとし、第1の容量素子70から第2のFET102側を見たインピーダンスをZgとする。そして、ZsとZgをそれぞれ50Ωとして、第1のFET101のドレイン側では、伝送線路12eとオープンスタブ23aにより最大出力電力を取り出す出力整合、即ちパワー整合とし、FET102aと102b側では、伝送線路12fとオープンスタブ23bにより最大利得を取り出す利得整合の回路構成とする。近年、高周波シミュレータの進歩により、電力増幅器のロードプルシミュレーションが可能となったことにより、このような設計を行うことができる。インピーダンスZg側は、ゲート接地構成側のため、もともと低インピーダンス特性を有していることで、伝送線路12fとオープンスタブ23bにより整合を取りやすく、簡易な構成となる。
【0131】
なお、第6の実施の形態を第5の実施の形態に組み合わせてもよい。つまり、第5の実施の形態の第1伝送線路61aと第1伝送線路62aが第1のFET101のドレイン端子と第2のFET102aのソース電極Sa1との間に接続され、第5の実施の形態の第2伝送線路61bと第2伝送線路62bが第1のFET101のドレイン端子と第3のFET102bのソース電極Sb2との間に接続されてもよい。これにより、回路のレイアウトが容易になる。
【0132】
以上の各実施の形態では100GHz帯の一例を説明したが、これに限らず、300GHz帯のテラヘルツ帯であっても、MMICのレイアウトと配置を可能とし、同様な効果が得ることができる。
【0133】
以上、本開示を実施の形態にもとづいて説明した。本開示は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0134】
例えば、第1の実施の形態においても、第3の実施の形態と同様に伝送線路12が並列に複数設けられてもよい。第4の実施の形態においても、第6の実施の形態と同様に伝送線路12aと伝送線路12bが並列に複数設けられてもよい。
【0135】
本開示の一態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様の高周波電力増幅器は、接地される第1端子と、高周波入力信号が入力される第1制御端子と、第2端子と、を有する第1のトランジスタと、前記第1のトランジスタの前記第2端子に接続された第3端子と、高周波出力信号を出力する第4端子と、第2制御端子と、を有する第2のトランジスタと、前記第1のトランジスタの前記第2端子に第1バイアス電圧を供給する第1のバイアス回路と、前記高周波入力信号の周波数において前記第2制御端子と接地との間に接続された容量として機能する第1のリアクタンス素子と、を備える。
【0136】
この態様によると、第1のトランジスタの第2端子にバイアス電圧を供給する構成において、第2制御端子の第1のリアクタンス素子により第2のトランジスタの出力インピーダンスを大きくできるので、安定性を高め、利得と出力電力を大きくでき、広帯域化できる。
【0137】
前記第1のリアクタンス素子は、オープンスタブであってもよい。この場合、第1のリアクタンス素子を簡素な構成で実現できる。
【0138】
前記第1のリアクタンス素子は、前記第2制御端子と接地との間に直列接続された伝送線路と容量素子を有してもよい。この場合、第1のリアクタンス素子を小型化できる。
【0139】
前記高周波入力信号の周波数において、前記第1のリアクタンス素子のリアクタンスは、10Ω以上であってもよい。この場合、第2のトランジスタの出力インピーダンスを適切に設定できる。
【0140】
高周波電力増幅器は、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2のトランジスタの前記第3端子との間に接続された伝送線路と、前記伝送線路上の所定位置に接続され、前記高周波入力信号の周波数において当該所定位置と接地との間に接続された容量として機能する第2のリアクタンス素子と、をさらに備えてもよい。この場合、第1のトランジスタの第2端子と第2のトランジスタの第3端子との間を共役整合に近づけることができる。
【0141】
前記高周波電力増幅器は、半導体基板に構成され、前記第1のバイアス回路は、前記第1のトランジスタの前記第2端子に接続された一端と、前記第1バイアス電圧が供給される他端とを有するバイアス線路を有し、前記高周波電力増幅器の動作中心周波数に対応する前記半導体基板における実効波長をλgとして、前記バイアス線路の長さは、λg/4より短くてもよい。この場合、第1のバイアス回路のバイアス線路を用いて、第1のトランジスタの第2端子と第2のトランジスタの第3端子との間のインピーダンスを調整できる。
【0142】
前記第2のトランジスタは、当該第2のトランジスタの両端に配置された、前記第3端子を構成する第1電極と第2電極を有してもよい。高周波電力増幅器は、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第1電極との間に接続された第1伝送線路と、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2電極との間に接続された第2伝送線路と、をさらに備えてもよい。この場合、回路構成の対称性を高めることができ、高周波特性を向上できる。
【0143】
前記第1伝送線路は、前記第2端子と前記第1電極との間に、並列に複数設けられ、前記第2伝送線路は、前記第2端子と前記第2電極との間に、並列に複数設けられてもよい。この場合、第1伝送線路と第2伝送線路のそれぞれの特性インピーダンスを低くできるので、第1伝送線路と第2伝送線路のそれぞれを長くしても高周波特性の変化を小さくできる。よって、回路のレイアウトが容易になる。
【0144】
高周波電力増幅器は、前記第2のトランジスタの前記第3端子に接続された第5端子と、前記第2のトランジスタの前記第4端子に接続された第6端子と、第3制御端子と、を有する第3のトランジスタと、前記高周波入力信号の周波数において前記第3制御端子と接地との間に接続された容量として機能する第3のリアクタンス素子と、をさらに備えてもよい。この場合、利得を高めることができる。
【0145】
前記第1のリアクタンス素子と前記第3のリアクタンス素子は、それぞれオープンスタブであってもよい。この場合、第1および第3のリアクタンス素子を簡素な構成で実現できる。
【0146】
前記第1のリアクタンス素子は、前記第2制御端子と接地との間に直列接続された伝送線路と容量素子を有し、前記第3のリアクタンス素子は、前記第3制御端子と接地との間に直列接続された伝送線路と容量素子を有してもよい。この場合、第1および第3のリアクタンス素子を小型化できる。
【0147】
高周波電力増幅器は、前記第2のトランジスタの前記第4端子の電圧を分圧して前記第2制御端子に供給する第1の分圧回路と、前記第3のトランジスタの前記第6端子の電圧を分圧して前記第3制御端子に供給する第2の分圧回路と、をさらに備えてもよい。この場合、高周波電力増幅器を小型化できる。
【0148】
前記第2のトランジスタは、当該第2のトランジスタの両端に配置された、前記第3端子を構成する第1電極と第2電極を有し、前記第3のトランジスタは、当該第3のトランジスタの両端に配置された、前記第5端子を構成する第3電極と第4電極を有し、前記第2のトランジスタと前記第3のトランジスタは、前記第2電極と前記第3電極が隣接するように配置されてもよい。高周波電力増幅器は、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第1電極との間に接続された第1伝送線路と、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第4電極との間に接続された第2伝送線路と、をさらに備えてもよい。この場合、回路を対称にレイアウトできる。
【0149】
高周波電力増幅器は、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2のトランジスタの前記第3端子との間に接続された第1の容量素子と、前記第2のトランジスタの前記第3端子に第2バイアス電圧を供給する第2のバイアス回路と、をさらに備えてもよい。この場合、第2のトランジスタの第4端子に供給するバイアス電圧を低くできる。
【0150】
高周波電力増幅器は、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2のトランジスタの前記第3端子との間に、前記第1の容量素子に直列に接続された伝送線路と、前記伝送線路上の所定位置に接続され、前記高周波入力信号の周波数において当該所定位置と接地との間に接続された容量として機能する第2のリアクタンス素子と、をさらに備えてもよい。この場合、第1のトランジスタの第2端子と第2のトランジスタの第3端子との間を共役整合に近づけることができる。
【0151】
前記第2のトランジスタは、当該第2のトランジスタの両端に配置された、前記第3端子を構成する第1電極と第2電極を有してもよい。高周波電力増幅器は、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第1電極との間に、前記第1の容量素子に直列に接続された第1伝送線路と、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2電極との間に接続された第2の容量素子と、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2電極との間に、前記第2の容量素子に直列に接続された第2伝送線路と、をさらに備えてもよい。この場合、回路構成の対称性を高めることができ、高周波特性を向上できる。
【0152】
高周波電力増幅器は、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第2のトランジスタの前記第3端子との間に接続された第1の容量素子と、前記第2のトランジスタの前記第3端子に第2バイアス電圧を供給する第2のバイアス回路と、前記第2のトランジスタの前記第3端子に接続された第5端子と、前記第2のトランジスタの前記第4端子に接続された第6端子と、第3制御端子と、を有する第3のトランジスタと、前記高周波入力信号の周波数において前記第3制御端子と接地との間に接続された容量として機能する第3のリアクタンス素子と、をさらに備えてもよい。この場合、利得を高めることができる。
【0153】
前記第2のトランジスタは、当該第2のトランジスタの両端に配置された、前記第3端子を構成する第1電極と第2電極を有し、前記第3のトランジスタは、当該第3のトランジスタの両端に配置された、前記第5端子を構成する第3電極と第4電極を有し、前記第2のトランジスタと前記第3のトランジスタは、前記第2電極と前記第3電極が隣接するように配置されてもよい。高周波電力増幅器は、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第1電極との間に、前記第1の容量素子に直列に接続された第1伝送線路と、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第4電極との間に接続された第2の容量素子と、前記第1のトランジスタの前記第2端子と前記第4電極との間に、前記第2の容量素子に直列に接続された第2伝送線路と、をさらに備えてもよい。この場合、回路を対称にレイアウトできる。
【符号の説明】
【0154】
1,1a,1b,1c,2,2a,2b,3,3a,3b,3c,4,4a,5,5a,6,6a,6b…高周波電力増幅器、8…半導体基板、10,10b,10c…オープンスタブ、12,12a,12b…伝送線路、12c…第1伝送線路、12d…第2伝送線路、12e,12f…伝送線路、15a…ゲートバイアス回路、15b…ドレインバイアス回路、15c…ゲートバイアス回路、15d…ドレインバイアス回路、15e…バイアス回路、15s…分圧回路、20a…伝送線路、20b…容量素子、23,23a,23b,35a,35b…オープンスタブ、36…バイアス線路、45,46…容量素子、61a…第1伝送線路、61b…第2伝送線路、62a…第1伝送線路、62b…第2伝送線路、70,70a…第1の容量素子、70b…第2の容量素子、101…第1のFET、102,102a…第2のFET、102b…第3のFET、R1…第1の抵抗素子、R2…第2の抵抗素子、S1,S2,Sa1,Sa2,Sb1,Sb2…ソース電極。