(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047857
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】内燃機関の始動制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 21/10 20060101AFI20240401BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F02D21/10 G
F02D19/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153587
(22)【出願日】2022-09-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 淳志
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA02
3G092DC16
3G092FA31
3G092GA01
3G092HE03Z
3G092HE05Z
3G092HF05Z
3G092HF19Z
(57)【要約】
【課題】エンジン始動時における始動用モータの消費電力を低減する。
【解決手段】内燃機関1の始動制御装置は、筒9内にガスを噴射するためのガス噴射装置20と、エンジン停止時に圧縮行程中にピストン4が停止した圧縮行程停止気筒に対し、エンジン始動時にガスを噴射するよう、前記ガス噴射装置を制御するように構成された制御ユニット100とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内にガスを噴射するためのガス噴射装置と、
エンジン停止時に圧縮行程中にピストンが停止した圧縮行程停止気筒に対し、エンジン始動時にガスを噴射するよう、前記ガス噴射装置を制御するように構成された制御ユニットと、
を備えることを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、前記圧縮行程停止気筒における排気弁開弁時の筒内容積とエンジン始動開始時の筒内容積との差と、前記ガスの密度とに基づいて、前記ガス噴射装置から噴射するガスの最大質量を計算し、前記最大質量以下の質量のガスを前記ガス噴射装置から噴射させる
請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記制御ユニットは、エンジン始動開始後、前記圧縮行程停止気筒の最初の膨張行程において、前記ガス噴射装置からガスを噴射させる
請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項4】
前記制御ユニットは、エンジン始動開始後、前記圧縮行程停止気筒の前記ピストンがエンジン始動開始時の位置に最初に戻った時以降に、前記ガス噴射装置からガスを噴射させる
請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は内燃機関の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では一般的に、スタータモータ等の始動用モータによりクランクシャフトを回転(クランキング)させてエンジンを始動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン停止時には、何れかの気筒のピストンが圧縮上死点の手前の圧縮行程中のクランク角で停止している。次にエンジンを始動する際、クランキングにより圧縮上死点手前で停止していたピストンが運動を開始し、筒内の空気が少ない状態で圧縮、次いで膨張が行われる。筒内に存在する空気が少ないために膨張行程の後半では筒内は負圧の状態となる。クランキングのためには、機械損失のほかにポンプ仕事を上回るモータ仕事が必要となる。そのため、モータの消費電力が増加する。
【0005】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、エンジン始動時における始動用モータの消費電力を低減することができる内燃機関の始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、
筒内にガスを噴射するためのガス噴射装置と、
エンジン停止時に圧縮行程中にピストンが停止した圧縮行程停止気筒に対し、エンジン始動時にガスを噴射するよう、前記ガス噴射装置を制御するように構成された制御ユニットと、
を備えることを特徴とする内燃機関の始動制御装置が提供される。
【0007】
好ましくは、前記制御ユニットは、前記圧縮行程停止気筒における排気弁開弁時の筒内容積とエンジン始動開始時の筒内容積との差と、前記ガスの密度とに基づいて、前記ガス噴射装置から噴射するガスの最大質量を計算し、前記最大質量以下の質量のガスを前記ガス噴射装置から噴射させる。
【0008】
好ましくは、前記制御ユニットは、エンジン始動開始後、前記圧縮行程停止気筒の最初の膨張行程において、前記ガス噴射装置からガスを噴射させる。
【0009】
好ましくは、前記制御ユニットは、エンジン始動開始後、前記圧縮行程停止気筒の前記ピストンがエンジン始動開始時の位置に最初に戻った時以降に、前記ガス噴射装置からガスを噴射させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、エンジン始動時における始動用モータの消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る内燃機関を示す概略図である。
【
図2】本実施形態の制御方法を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0013】
図1は、本開示の実施形態に係る内燃機関の概略図である。内燃機関(エンジン)1は車両用の多気筒(本実施形態では4気筒)ディーゼルエンジンであり、図は1気筒のみを示す。車両はトラック等の大型車両である。なお車両の種類はこれに限定されず、例えば乗用車等の小型車両であってもよい。
【0014】
なおエンジンは、車両以外の移動体、例えば船舶、建設機械、または産業機械に適用されるものであってもよいし、定置式のものであってもよい。
【0015】
エンジン1は、シリンダブロック2、シリンダヘッド3、ピストン4、クランクシャフト5、コンロッド6、吸気弁7および排気弁8を備える。シリンダブロック2、シリンダヘッド3およびピストン4により燃焼室もしくはシリンダ(筒)9が画成される。またエンジン1は、シリンダ9内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁すなわちインジェクタ(図示せず)と、エンジン始動時にクランクシャフト5を回転駆動するスタータモータ10とを備える。
【0016】
また、エンジン1を制御するための制御ユニット、回路要素(circuitry)もしくはコントローラである電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit)という)100が設けられる。ECU100は、演算機能を有するCPU(Central Processing Unit)、記憶媒体であるROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)、入出力ポート、ならびにROMおよびRAM以外の記憶装置等を含む。
【0017】
エンジン1のクランク角および回転速度(具体的には毎分当たりの回転数(rpm))を検出するためのクランク角センサ40が設けられ、クランク角センサ40の出力信号はECU100に送られる。
【0018】
さて、前述したように、エンジン停止時には、何れかの気筒のピストン4が圧縮上死点TDCの手前の圧縮行程中のクランク角で停止している。次にエンジンを始動する際、クランキングにより圧縮上死点手前で停止していたピストン4が運動を開始し、筒内の空気が少ない状態で圧縮、次いで膨張が行われる。筒内に存在する空気が少ないために膨張行程の後半では筒内は負圧の状態となる。クランキングのためには、機械損失のほかにポンプ仕事を上回るモータ仕事が必要となる。そのため、スタータモータ10の消費電力が増加する。
【0019】
そこで本実施形態の始動制御装置は、この課題を解決すべく構成されている。本実施形態の始動制御装置は、筒内(シリンダ9内)にガスを噴射するためのガス噴射装置と、前述のECU100とを備える。ECU100は、エンジン停止時に圧縮行程中にピストン4が停止した気筒すなわち圧縮行程停止気筒に対し、エンジン始動時にガスを噴射するよう、ガス噴射装置を制御するように構成されている。
【0020】
本実施形態のガスは空気であり、ガス噴射装置は空気噴射装置20として構成されている。空気噴射装置20は、シリンダ9内に空気(具体的には圧縮空気)Aを直接噴射する空気噴射弁すなわちエアインジェクタ21と、エアインジェクタ21に空気Aを供給するエアタンク22とを備える。エアインジェクタ21は各気筒に設けられ、ECU100によって個別に開閉制御される。エアタンク22は各気筒のエアインジェクタ21に、大気圧より高圧の圧縮空気Aを分配供給する。
【0021】
本実施形態の始動制御装置は、筒内温度を取得するための温度検出器も備える。本実施形態の温度検出器は、エアインジェクタ2に一体に設けられて筒内温度を直接検出する温度センサ(図示せず)により構成されている。温度センサの出力信号はECU100に送られる。なお温度検出器の形態は任意であり、エアインジェクタ2以外の場所に設けられた温度センサにより構成されてもよいし、予め記憶した推定モデルにより筒内温度を推定するECU100により構成されてもよい。
【0022】
次に、
図2を参照して本実施形態の制御方法を説明する。
図2において、上段はエンジンの動作を示し、中段は筒内圧の変化を示し、下段は筒内容積の変化を示す。
【0023】
エンジン始動開始時(すなわちクランキング開始時)t0より前のエンジン停止時、図示するような圧縮行程停止気筒においては、ピストン4が圧縮行程中かつ圧縮上死点TDC手前のクランク角θ1で停止し、以降、エンジン始動開始時t0までそのクランク角θ1に保持される。以下、このクランク角θ1を始動開始時クランク角という。始動開始時クランク角θ1は、エンジン停止時のクランク角に等しい。
【0024】
このエンジン停止時からエンジン始動開始時t0までの間、圧縮行程停止気筒においては空気漏れが起こり、徐々に筒内圧Pcが低下する。図示例では空気が抜けきってエンジン始動開始時t0には筒内圧Pcが大気圧P0まで達している。
【0025】
本実施形態の始動制御装置がない通常のエンジン(比較例という)の場合、この状態からエンジンの始動(クランキング)を開始すると、圧縮上死点TDC(=θ2)まで(圧縮行程)は筒内圧Pcが上昇し、圧縮上死点TDC以降(膨張行程)は筒内圧Pcが低下する。
【0026】
そして、ピストン4が、前述の始動開始時クランク角θ1のときと同じピストン位置に達すると、筒内圧Pcは元のエンジン始動開始時t0の初期筒内圧すなわち大気圧P0に戻る。このときのクランク角(復帰クランク角という)θ3は、θ2から(θ2-θ1)だけ遅れている(θ3=θ2+(θ2-θ1))。
【0027】
その後も膨張行程でピストン4が下降するので、筒内圧Pcは仮想線aで示すように、大気圧P0よりも低下し、筒内は負圧化する。
【0028】
この負圧に対抗してスタータモータ10がクランキングを行うので、スタータモータ10はポンプ仕事を上回るモータ仕事を行わなければならず、結果としてスタータモータ10の消費電力が増加する。
【0029】
しかし、本実施形態の場合は次の通りとなる。ECU100は、所定の空気噴射時期、例えばクランク角θ3において、圧縮行程停止気筒のエアインジェクタ21をオン(開弁)し、そのエアインジェクタ21から空気を噴射させる。すると、空気噴射分だけ筒内圧Pcが上昇するので、
図2に実線bで示す如く、筒内の負圧の大きさが減少し、ポンプ仕事に対抗してスタータモータ10が行うモータ仕事も減少する。これにより、スタータモータ10の消費電力を低減することができる。
【0030】
図示例の場合、排気弁8の開弁時期(開弁開始時期)となるクランク角(排気弁開弁時クランク角という)θ4は、膨張下死点BDCに等しく設定されている。この排気弁8の開弁と同時に、筒内圧Pcは大気圧P0に等しくなる。
【0031】
ここで、空気噴射量に関し、少しでも空気噴射を行えば負圧の大きさは減少し、スタータモータ10の消費電力を低減できる。空気噴射量を多くするほど負圧の大きさはより大きく減少する傾向にある。
【0032】
しかし、空気を過剰に噴射し、排気弁8の開弁時期に筒内が正圧化(大気圧P0より高い状態)してしまうと、せっかく供給した圧縮空気が排気弁8の開弁と同時にシリンダ9外に捨て去られ、無駄となってしまう。
【0033】
そこで本実施形態では、排気弁8の開弁時期に筒内が正圧化しないよう、適切な量の空気を噴射するようにしている。以下、この点について説明する。
【0034】
ECU100は、圧縮行程停止気筒における排気弁開弁時の筒内容積とエンジン始動開始時の筒内容積との差と、空気の密度とに基づいて、エアインジェクタ21から噴射する空気の最大質量を計算し、最大質量以下の質量の空気をエアインジェクタ21から噴射させる。
【0035】
図2に示すように、圧縮行程停止気筒における排気弁開弁時の筒内容積は、排気弁8の開弁時期すなわち膨張下死点BDC(=θ4)における筒内容積Vc4である。一方、圧縮行程停止気筒におけるエンジン始動開始時の筒内容積は、始動開始時クランク角θ1のときの筒内容積Vc1である。前者の筒内容積Vc4から後者の筒内容積Vc1を減じて両者の差すなわち筒内容積差ΔVcが求められる(ΔVc=Vc4-Vc1)。
【0036】
筒内容積差ΔVcに空気密度ρを乗じて、エアインジェクタ21から噴射する空気の最大質量Mmaxを計算する(Mmax=ρ×ΔVc)。この最大質量Mmaxに等しい質量の空気をエアインジェクタ21から噴射すれば、排気弁開弁直前の筒内圧Pcが大気圧P0に等しくなり、正圧化は免れられる。
【0037】
図示例の実線bは、最大質量Mmaxより僅かに少ない量の空気を噴射した場合の筒内圧変化を示す。これから見られるように、筒内圧Pcは正圧化することなく、大気圧P0に近い値でほぼ一定に推移し、排気弁開弁と同時に僅かに大気圧P0まで上昇する。
【0038】
ECU100は、計算した最大質量Mmaxを上限として、噴射する空気の質量を決定し、この決定した質量の空気をエアインジェクタ21から噴射させる。空気噴射量を最大質量Mmaxより少なくする程、負圧化抑制効果は減少するが、それでも、空気噴射を全く行わない場合(比較例)に比べれば、負圧化抑制効果を発揮できる。
【0039】
ECU100は、エンジン停止時のクランク角θeを記憶し、この停止時クランク角θeに基づいて、圧縮行程停止気筒におけるエンジン始動開始時のクランク角θ1と筒内容積Vc1とを計算する。またECU100は、各気筒の排気弁開弁時期を予め記憶し、この記憶した値の中から、圧縮行程停止気筒の排気弁開弁時期θ4を読み出すと共に、排気弁開弁時期θ4に対応した筒内容積Vc4を計算する。
【0040】
ところで、筒内に噴射した空気の体積は筒内温度に応じて変化する。そこでこの筒内温度の影響を除くため、本実施形態では、筒内温度に応じて空気密度ρの値を変更する。
【0041】
具体的には、ECU100は、エンジン始動開始時t0の筒内温度Tcを、エアインジェクタ2に設けられた温度センサを用いて検出する。そして予め記憶したマップ、テーブルもしくは関数等を用いて、筒内温度Tcに対応した空気密度ρを算出する。この空気密度ρを最大質量Mmaxの計算に用いることで、筒内温度Tcの影響を除去し、最大質量Mmaxを正確に求めることができる。
【0042】
なお、筒内温度Tcの検出タイミングは変更可能であり、エンジン始動開始時t0より後とすることもできる。例えば、空気噴射直前のタイミングなどとしてもよい。
【0043】
例えば、アイドリングストップ後の再始動の場合では、通常の夜間駐車後の再始動の場合よりも、筒内温度が高い状態で空気噴射が行われる。本実施形態によれば、前者の場合に後者の場合よりも、空気噴射量を低減でき、正圧化をより確実に防止することができる。
【0044】
次に、空気噴射時期(具体的には空気噴射開始時期)について説明する。空気噴射時期は、概して、始動開始時クランク角θ1から、負圧化が始まる復帰クランク角θ3までの間で、任意に設定できる。
【0045】
一方、圧縮行程中に圧縮空気を噴射するのは、圧縮抵抗の増加に繋がるので好ましくない。よって空気噴射時期は、膨張行程中とするのが好ましい。すなわちECU100は、エンジン始動開始後、圧縮行程停止気筒の最初の膨張行程において、エアインジェクタ21から空気を噴射させる。
【0046】
また、膨張行程中であっても、圧縮TDC(θ2)から復帰クランク角θ3までの間は、圧縮TDC(θ2)までに圧縮された筒内空気のエネルギを使ってピストンを下降できるし、筒内圧が比較的高い状態で空気噴射を行うので噴射効率上好ましくない。空気噴射を効率的に行うためには、筒内圧ができるだけ低い状態で空気噴射を行うのが好ましい。
【0047】
そこで本実施形態では、膨張行程中の復帰クランク角θ3以降(復帰クランク角θ3と同時またはそれより後)に空気噴射を行う。これにより空気噴射を効率的に行うことができる。ECU100は、エンジン始動開始後、圧縮行程停止気筒のピストン4がエンジン始動開始時の位置に最初に戻った時(θ3)以降に、エアインジェクタ21からガスを噴射させる。本実施形態の場合、最先のタイミングである復帰クランク角θ3に空気噴射を行って負圧化を極力防止している。
【0048】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は様々考えられる。
【0049】
(1)例えば、筒内に空気を噴射するとき、1回で噴射してもよいし、複数回に分けて噴射してもよい。
【0050】
(2)内燃機関はディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジン等であってもよいし、多気筒でなくてもよい。
【0051】
(3)ガスは空気でなくてもよく、他の気体、例えば窒素であってもよい。
【0052】
(4)エンジン始動用モータは、始動専用のスタータモータでなくてもよく、例えばハイブリッド車または電気自動車における動力用モータジェネレータであってもよい。
【0053】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 内燃機関(エンジン)
4 ピストン
9 シリンダ(筒)
20 ガス噴射装置
100 電子制御ユニット(ECU)
【手続補正書】
【提出日】2023-08-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内にガスを噴射するためのガス噴射装置と、
エンジン停止時に圧縮行程中にピストンが停止した圧縮行程停止気筒に対し、エンジン始動時にガスを噴射するよう、前記ガス噴射装置を制御するように構成された制御ユニットと、
を備え、
前記制御ユニットは、前記圧縮行程停止気筒における排気弁開弁時の筒内容積とエンジン始動開始時の筒内容積との差と、前記ガスの密度とに基づいて、前記ガス噴射装置から噴射するガスの最大質量を計算し、前記最大質量以下の質量のガスを前記ガス噴射装置から噴射させる
内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、エンジン始動開始後、前記圧縮行程停止気筒の最初の膨張行程において、前記ガス噴射装置からガスを噴射させる
請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記制御ユニットは、エンジン始動開始後、前記圧縮行程停止気筒の前記ピストンがエンジン始動開始時の位置に最初に戻った時以降に、前記ガス噴射装置からガスを噴射させる
請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は内燃機関の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では一般的に、スタータモータ等の始動用モータによりクランクシャフトを回転(クランキング)させてエンジンを始動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン停止時には、何れかの気筒のピストンが圧縮上死点の手前の圧縮行程中のクランク角で停止している。次にエンジンを始動する際、クランキングにより圧縮上死点手前で停止していたピストンが運動を開始し、筒内の空気が少ない状態で圧縮、次いで膨張が行われる。筒内に存在する空気が少ないために膨張行程の後半では筒内は負圧の状態となる。クランキングのためには、機械損失のほかにポンプ仕事を上回るモータ仕事が必要となる。そのため、モータの消費電力が増加する。
【0005】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、エンジン始動時における始動用モータの消費電力を低減することができる内燃機関の始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、
筒内にガスを噴射するためのガス噴射装置と、
エンジン停止時に圧縮行程中にピストンが停止した圧縮行程停止気筒に対し、エンジン始動時にガスを噴射するよう、前記ガス噴射装置を制御するように構成された制御ユニットと、を備え、前記制御ユニットは、前記圧縮行程停止気筒における排気弁開弁時の筒内容積とエンジン始動開始時の筒内容積との差と、前記ガスの密度とに基づいて、前記ガス噴射装置から噴射するガスの最大質量を計算し、前記最大質量以下の質量のガスを前記ガス噴射装置から噴射させる内燃機関の始動制御装置が提供される。
【0007】
好ましくは、前記制御ユニットは、エンジン始動開始後、前記圧縮行程停止気筒の最初の膨張行程において、前記ガス噴射装置からガスを噴射させる。
【0008】
好ましくは、前記制御ユニットは、エンジン始動開始後、前記圧縮行程停止気筒の前記ピストンがエンジン始動開始時の位置に最初に戻った時以降に、前記ガス噴射装置からガスを噴射させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、エンジン始動時における始動用モータの消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る内燃機関を示す概略図である。
【
図2】本実施形態の制御方法を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0012】
図1は、本開示の実施形態に係る内燃機関の概略図である。内燃機関(エンジン)1は車両用の多気筒(本実施形態では4気筒)ディーゼルエンジンであり、図は1気筒のみを示す。車両はトラック等の大型車両である。なお車両の種類はこれに限定されず、例えば乗用車等の小型車両であってもよい。
【0013】
なおエンジンは、車両以外の移動体、例えば船舶、建設機械、または産業機械に適用されるものであってもよいし、定置式のものであってもよい。
【0014】
エンジン1は、シリンダブロック2、シリンダヘッド3、ピストン4、クランクシャフト5、コンロッド6、吸気弁7および排気弁8を備える。シリンダブロック2、シリンダヘッド3およびピストン4により燃焼室もしくはシリンダ(筒)9が画成される。またエンジン1は、シリンダ9内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁すなわちインジェクタ(図示せず)と、エンジン始動時にクランクシャフト5を回転駆動するスタータモータ10とを備える。
【0015】
また、エンジン1を制御するための制御ユニット、回路要素(circuitry)もしくはコントローラである電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit)という)100が設けられる。ECU100は、演算機能を有するCPU(Central Processing Unit)、記憶媒体であるROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)、入出力ポート、ならびにROMおよびRAM以外の記憶装置等を含む。
【0016】
エンジン1のクランク角および回転速度(具体的には毎分当たりの回転数(rpm))を検出するためのクランク角センサ40が設けられ、クランク角センサ40の出力信号はECU100に送られる。
【0017】
さて、前述したように、エンジン停止時には、何れかの気筒のピストン4が圧縮上死点TDCの手前の圧縮行程中のクランク角で停止している。次にエンジンを始動する際、クランキングにより圧縮上死点手前で停止していたピストン4が運動を開始し、筒内の空気が少ない状態で圧縮、次いで膨張が行われる。筒内に存在する空気が少ないために膨張行程の後半では筒内は負圧の状態となる。クランキングのためには、機械損失のほかにポンプ仕事を上回るモータ仕事が必要となる。そのため、スタータモータ10の消費電力が増加する。
【0018】
そこで本実施形態の始動制御装置は、この課題を解決すべく構成されている。本実施形態の始動制御装置は、筒内(シリンダ9内)にガスを噴射するためのガス噴射装置と、前述のECU100とを備える。ECU100は、エンジン停止時に圧縮行程中にピストン4が停止した気筒すなわち圧縮行程停止気筒に対し、エンジン始動時にガスを噴射するよう、ガス噴射装置を制御するように構成されている。
【0019】
本実施形態のガスは空気であり、ガス噴射装置は空気噴射装置20として構成されている。空気噴射装置20は、シリンダ9内に空気(具体的には圧縮空気)Aを直接噴射する空気噴射弁すなわちエアインジェクタ21と、エアインジェクタ21に空気Aを供給するエアタンク22とを備える。エアインジェクタ21は各気筒に設けられ、ECU100によって個別に開閉制御される。エアタンク22は各気筒のエアインジェクタ21に、大気圧より高圧の圧縮空気Aを分配供給する。
【0020】
本実施形態の始動制御装置は、筒内温度を取得するための温度検出器も備える。本実施形態の温度検出器は、エアインジェクタ2に一体に設けられて筒内温度を直接検出する温度センサ(図示せず)により構成されている。温度センサの出力信号はECU100に送られる。なお温度検出器の形態は任意であり、エアインジェクタ2以外の場所に設けられた温度センサにより構成されてもよいし、予め記憶した推定モデルにより筒内温度を推定するECU100により構成されてもよい。
【0021】
次に、
図2を参照して本実施形態の制御方法を説明する。
図2において、上段はエンジンの動作を示し、中段は筒内圧の変化を示し、下段は筒内容積の変化を示す。
【0022】
エンジン始動開始時(すなわちクランキング開始時)t0より前のエンジン停止時、図示するような圧縮行程停止気筒においては、ピストン4が圧縮行程中かつ圧縮上死点TDC手前のクランク角θ1で停止し、以降、エンジン始動開始時t0までそのクランク角θ1に保持される。以下、このクランク角θ1を始動開始時クランク角という。始動開始時クランク角θ1は、エンジン停止時のクランク角に等しい。
【0023】
このエンジン停止時からエンジン始動開始時t0までの間、圧縮行程停止気筒においては空気漏れが起こり、徐々に筒内圧Pcが低下する。図示例では空気が抜けきってエンジン始動開始時t0には筒内圧Pcが大気圧P0まで達している。
【0024】
本実施形態の始動制御装置がない通常のエンジン(比較例という)の場合、この状態からエンジンの始動(クランキング)を開始すると、圧縮上死点TDC(=θ2)まで(圧縮行程)は筒内圧Pcが上昇し、圧縮上死点TDC以降(膨張行程)は筒内圧Pcが低下する。
【0025】
そして、ピストン4が、前述の始動開始時クランク角θ1のときと同じピストン位置に達すると、筒内圧Pcは元のエンジン始動開始時t0の初期筒内圧すなわち大気圧P0に戻る。このときのクランク角(復帰クランク角という)θ3は、θ2から(θ2-θ1)だけ遅れている(θ3=θ2+(θ2-θ1))。
【0026】
その後も膨張行程でピストン4が下降するので、筒内圧Pcは仮想線aで示すように、大気圧P0よりも低下し、筒内は負圧化する。
【0027】
この負圧に対抗してスタータモータ10がクランキングを行うので、スタータモータ10はポンプ仕事を上回るモータ仕事を行わなければならず、結果としてスタータモータ10の消費電力が増加する。
【0028】
しかし、本実施形態の場合は次の通りとなる。ECU100は、所定の空気噴射時期、例えばクランク角θ3において、圧縮行程停止気筒のエアインジェクタ21をオン(開弁)し、そのエアインジェクタ21から空気を噴射させる。すると、空気噴射分だけ筒内圧Pcが上昇するので、
図2に実線bで示す如く、筒内の負圧の大きさが減少し、ポンプ仕事に対抗してスタータモータ10が行うモータ仕事も減少する。これにより、スタータモータ10の消費電力を低減することができる。
【0029】
図示例の場合、排気弁8の開弁時期(開弁開始時期)となるクランク角(排気弁開弁時クランク角という)θ4は、膨張下死点BDCに等しく設定されている。この排気弁8の開弁と同時に、筒内圧Pcは大気圧P0に等しくなる。
【0030】
ここで、空気噴射量に関し、少しでも空気噴射を行えば負圧の大きさは減少し、スタータモータ10の消費電力を低減できる。空気噴射量を多くするほど負圧の大きさはより大きく減少する傾向にある。
【0031】
しかし、空気を過剰に噴射し、排気弁8の開弁時期に筒内が正圧化(大気圧P0より高い状態)してしまうと、せっかく供給した圧縮空気が排気弁8の開弁と同時にシリンダ9外に捨て去られ、無駄となってしまう。
【0032】
そこで本実施形態では、排気弁8の開弁時期に筒内が正圧化しないよう、適切な量の空気を噴射するようにしている。以下、この点について説明する。
【0033】
ECU100は、圧縮行程停止気筒における排気弁開弁時の筒内容積とエンジン始動開始時の筒内容積との差と、空気の密度とに基づいて、エアインジェクタ21から噴射する空気の最大質量を計算し、最大質量以下の質量の空気をエアインジェクタ21から噴射させる。
【0034】
図2に示すように、圧縮行程停止気筒における排気弁開弁時の筒内容積は、排気弁8の開弁時期すなわち膨張下死点BDC(=θ4)における筒内容積Vc4である。一方、圧縮行程停止気筒におけるエンジン始動開始時の筒内容積は、始動開始時クランク角θ1のときの筒内容積Vc1である。前者の筒内容積Vc4から後者の筒内容積Vc1を減じて両者の差すなわち筒内容積差ΔVcが求められる(ΔVc=Vc4-Vc1)。
【0035】
筒内容積差ΔVcに空気密度ρを乗じて、エアインジェクタ21から噴射する空気の最大質量Mmaxを計算する(Mmax=ρ×ΔVc)。この最大質量Mmaxに等しい質量の空気をエアインジェクタ21から噴射すれば、排気弁開弁直前の筒内圧Pcが大気圧P0に等しくなり、正圧化は免れられる。
【0036】
図示例の実線bは、最大質量Mmaxより僅かに少ない量の空気を噴射した場合の筒内圧変化を示す。これから見られるように、筒内圧Pcは正圧化することなく、大気圧P0に近い値でほぼ一定に推移し、排気弁開弁と同時に僅かに大気圧P0まで上昇する。
【0037】
ECU100は、計算した最大質量Mmaxを上限として、噴射する空気の質量を決定し、この決定した質量の空気をエアインジェクタ21から噴射させる。空気噴射量を最大質量Mmaxより少なくする程、負圧化抑制効果は減少するが、それでも、空気噴射を全く行わない場合(比較例)に比べれば、負圧化抑制効果を発揮できる。
【0038】
ECU100は、エンジン停止時のクランク角θeを記憶し、この停止時クランク角θeに基づいて、圧縮行程停止気筒におけるエンジン始動開始時のクランク角θ1と筒内容積Vc1とを計算する。またECU100は、各気筒の排気弁開弁時期を予め記憶し、この記憶した値の中から、圧縮行程停止気筒の排気弁開弁時期θ4を読み出すと共に、排気弁開弁時期θ4に対応した筒内容積Vc4を計算する。
【0039】
ところで、筒内に噴射した空気の体積は筒内温度に応じて変化する。そこでこの筒内温度の影響を除くため、本実施形態では、筒内温度に応じて空気密度ρの値を変更する。
【0040】
具体的には、ECU100は、エンジン始動開始時t0の筒内温度Tcを、エアインジェクタ2に設けられた温度センサを用いて検出する。そして予め記憶したマップ、テーブルもしくは関数等を用いて、筒内温度Tcに対応した空気密度ρを算出する。この空気密度ρを最大質量Mmaxの計算に用いることで、筒内温度Tcの影響を除去し、最大質量Mmaxを正確に求めることができる。
【0041】
なお、筒内温度Tcの検出タイミングは変更可能であり、エンジン始動開始時t0より後とすることもできる。例えば、空気噴射直前のタイミングなどとしてもよい。
【0042】
例えば、アイドリングストップ後の再始動の場合では、通常の夜間駐車後の再始動の場合よりも、筒内温度が高い状態で空気噴射が行われる。本実施形態によれば、前者の場合に後者の場合よりも、空気噴射量を低減でき、正圧化をより確実に防止することができる。
【0043】
次に、空気噴射時期(具体的には空気噴射開始時期)について説明する。空気噴射時期は、概して、始動開始時クランク角θ1から、負圧化が始まる復帰クランク角θ3までの間で、任意に設定できる。
【0044】
一方、圧縮行程中に圧縮空気を噴射するのは、圧縮抵抗の増加に繋がるので好ましくない。よって空気噴射時期は、膨張行程中とするのが好ましい。すなわちECU100は、エンジン始動開始後、圧縮行程停止気筒の最初の膨張行程において、エアインジェクタ21から空気を噴射させる。
【0045】
また、膨張行程中であっても、圧縮TDC(θ2)から復帰クランク角θ3までの間は、圧縮TDC(θ2)までに圧縮された筒内空気のエネルギを使ってピストンを下降できるし、筒内圧が比較的高い状態で空気噴射を行うので噴射効率上好ましくない。空気噴射を効率的に行うためには、筒内圧ができるだけ低い状態で空気噴射を行うのが好ましい。
【0046】
そこで本実施形態では、膨張行程中の復帰クランク角θ3以降(復帰クランク角θ3と同時またはそれより後)に空気噴射を行う。これにより空気噴射を効率的に行うことができる。ECU100は、エンジン始動開始後、圧縮行程停止気筒のピストン4がエンジン始動開始時の位置に最初に戻った時(θ3)以降に、エアインジェクタ21からガスを噴射させる。本実施形態の場合、最先のタイミングである復帰クランク角θ3に空気噴射を行って負圧化を極力防止している。
【0047】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は様々考えられる。
【0048】
(1)例えば、筒内に空気を噴射するとき、1回で噴射してもよいし、複数回に分けて噴射してもよい。
【0049】
(2)内燃機関はディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジン等であってもよいし、多気筒でなくてもよい。
【0050】
(3)ガスは空気でなくてもよく、他の気体、例えば窒素であってもよい。
【0051】
(4)エンジン始動用モータは、始動専用のスタータモータでなくてもよく、例えばハイブリッド車または電気自動車における動力用モータジェネレータであってもよい。
【0052】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 内燃機関(エンジン)
4 ピストン
9 シリンダ(筒)
20 ガス噴射装置
100 電子制御ユニット(ECU)