(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004790
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ガスエンジン用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20240110BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20240110BHJP
C10M 159/22 20060101ALN20240110BHJP
C10M 159/24 20060101ALN20240110BHJP
C10M 129/54 20060101ALN20240110BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20240110BHJP
C10M 135/10 20060101ALN20240110BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20240110BHJP
C10M 133/56 20060101ALN20240110BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20240110BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20240110BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20240110BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20240110BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240110BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M133/12
C10M159/22
C10M159/24
C10M129/54
C10M129/10
C10M135/10
C10M133/16
C10M133/56
C10M139/00 A
C10M137/10 A
C10N10:04
C10N30:08
C10N30:00 Z
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104625
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平原 賢志
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB05C
4H104BB08A
4H104BB24C
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BE07C
4H104BE11C
4H104BF03C
4H104BG06C
4H104BH07C
4H104BJ05C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104DB06C
4H104DB07C
4H104FA02
4H104LA04
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】低灰分であり、かつ、ロングドレイン性及び耐熱性に優れたガスエンジン用潤滑油組成物の提供。
【解決手段】基油と、金属系清浄剤と、ホウ素系分散剤及びホウ素非含有無灰系分散剤を含む分散剤と、フェノール系酸化防止剤と、pKaが0.1以上2以下の芳香族アミン系酸化防止剤A、及び、pKaが2を超え8以下の芳香族アミン系酸化防止剤Bを含むアミン系酸化防止剤と、摩耗防止剤とを含有し、潤滑油組成物全量基準で、金属系清浄剤に由来する金属元素含有量、ホウ素元素含有量が、窒素元素含有量、及び、亜鉛元素含有量が、所定の範囲を満たし、硫酸灰分が0.45質量%以下であるガスエンジン用潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
金属系清浄剤と、
ホウ素系分散剤及びホウ素非含有無灰系分散剤を含む分散剤と、
フェノール系酸化防止剤と、
酸解離定数(pKa)が0.1以上2以下の芳香族アミン系酸化防止剤A、及び、酸解離定数(pKa)が2を超え8以下の芳香族アミン系酸化防止剤Bを含むアミン系酸化防止剤と、
摩耗防止剤と、を含有し、
前記金属系清浄剤に由来する金属元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、300質量ppm以上1000質量ppm以下であり、
ホウ素元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、80質量ppm以上470質量ppm以下であり、
窒素元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で1800質量ppm以上2900質量ppm以下であり、
亜鉛元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、150質量ppm以上1500質量ppm以下であり、
JIS K2272(1998)に準拠した硫酸灰分が、潤滑油組成物全量基準で、0.45質量%以下である、
ガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記金属系清浄剤が、アルカリ土類金属清浄剤を含む、請求項1に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記金属系清浄剤が、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、及び、マグネシウムスルホネートからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記ホウ素系分散剤が、ホウ素含有イミド系分散剤を含む、請求項1に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項5】
前記分散剤の合計含有量が、潤滑油組成物全量基準で、6質量%以上である、請求項1に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記フェノール系酸化防止剤及び前記アミン系酸化防止剤の合計含有量が、潤滑油組成物全量基準で、1質量%以上4質量%以下である、請求項1に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項7】
前記芳香族アミン系酸化防止剤Bが、酸解離定数(pKa)が2を超え7以下の芳香族アミン系酸化防止剤である、請求項1に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項8】
前記アミン系酸化防止剤が、更に、酸解離定数(pKa)7以上12以下のアミン系酸化防止剤Cを含む、請求項1に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項9】
前記摩耗防止剤が、炭素数4~12の第一級又は第二級アルキル基から選択された同一又は異なる2つのアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛から選択される1種以上を含む、請求項1に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項10】
水素エンジン用、又は船舶向けデュアルフューエルエンジン用である、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスエンジン用潤滑油組成物に関する。
【0002】
近年、省エネルギー対策及び電源の多分散化の観点からコージェネレーションシステムに注目が集まっている。特に、ガスコージェネレーションシステムは、クリーン燃料使用による環境配慮型システムとしても有望視されている。その一方で、ガスエンジンに使用される潤滑油は、長時間連続運転中の高温環境曝露によって化学的な熱酸化を受け易い傾向にある。
ガスエンジンは、燃焼温度が高いために、ブローバイガスに含有されるNOxの濃度が比較的高く、潤滑油中にスラッジの生成を引き起こし易い。そのため、潤滑油の定期的な交換が必要であるが、交換回数の増加は、メンテナンスコストの上昇につながることから、潤滑油自体の長寿命化(すなわち、ロングドレイン性)が求められている。
【0003】
近年のガスコージェネレーションシステムは、燃料の最適燃焼によって二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物の排出量を極小化し、発電・熱利用の高効率化による省エネルギー化を追求している。従って、ガスエンジンで使用される潤滑油組成物には、発電効率を低下させることなく、優れた高温安定性を保持することも求められる。
【0004】
ガスコージェネレーションシステムには、比較的大型のガスエンジンが採用されることが多く、メンテナンスコストが高いことから、保守点検頻度の低減が重要な課題である。この点、ガスエンジンにおける潤滑油の使用においては、潤滑油に含有される灰分がピストン上部や廃気バルブに堆積していき、ガスエンジン内の清浄性が低下する問題点がある。その結果として、エンジン自体のオーバーホールを定期的に複数回実施する必要性が生じるために、メンテナンスに多大な労力がかかる。従って、メンテナンス性の向上の観点から潤滑油の低灰分化が必要である。
【0005】
ガスエンジン用潤滑油組成物は、上記の要求に応じて適切に選択される基油及び添加剤から構成される。例えば、特許文献1~3には、低灰分でありながら、残存塩基価、耐熱性等を保持する目的で、特定の金属系清浄剤、アミン系化合物、及びモリブデン系化合物を含有する潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-511410号公報
【特許文献2】特開2020-164747号公報
【特許文献3】特開2020-164746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガスエンジン用潤滑油組成物の燃焼時に生じる灰分は、ガスエンジンのピストン上部付近に堆積することによってリングライナー損傷等の原因となる可能性がある。潤滑油組成物中の灰分は、主に金属系清浄剤由来の金属成分であるため、低灰分化のために金属系清浄剤の配合量を減少させることも想定される。しかし、金属清浄剤の配合量を単純に減少させることは、残存塩基価の低下及び潤滑油組成物自体の寿命低下に直結する。また、NOxが発生しやすいガスエンジンにおいては、高温での清浄性を確保することが必要であるが、金属清浄剤の配合量が少ない組成範囲においては、十分な清浄性(即ち、高温清浄性)を確保することが一般的に困難である。
【0008】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、低灰分であり、かつ、ロングドレイン性及び耐熱性に優れたガスエンジン用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
[1]基油と、金属系清浄剤と、ホウ素系分散剤及びホウ素非含有無灰系分散剤を含む分散剤と、フェノール系酸化防止剤と、酸解離定数(pKa)が0.1以上2以下の芳香族アミン系酸化防止剤A、及び、酸解離定数(pKa)が2を超え8以下の芳香族アミン系酸化防止剤Bを含むアミン系酸化防止剤と、摩耗防止剤と、を含有し、
金属系清浄剤に由来する金属元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、300質量ppm以上1000質量ppm以下であり、
ホウ素元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、80質量ppm以上470質量ppm以下であり、
窒素元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で1800質量ppm以上2900質量ppm以下であり、
亜鉛元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、150質量ppm以上1500質量ppm以下であり、
JIS K2272(1998)に準拠した硫酸灰分が、潤滑油組成物全量基準で、0.45質量%以下である、
ガスエンジン用潤滑油組成物。
[2] 金属系清浄剤が、アルカリ土類金属清浄剤を含む、[1]に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
[3] 金属系清浄剤が、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、及び、マグネシウムスルホネートからなる群より選択される少なくとも1種を含む、[2]に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
[4] ホウ素系分散剤が、ホウ素含有イミド系分散剤を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
[5] 分散剤の合計含有量が、潤滑油組成物全量基準で、6質量%以上である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
[6] フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の合計含有量が、潤滑油組成物全量基準で、1質量%以上4質量%以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
[7] 前記芳香族アミン系酸化防止剤Bが、酸解離定数(pKa)が2を超え7以下の芳香族アミン系酸化防止剤である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
[8] アミン系酸化防止剤が、更に、酸解離定数(pKa)7以上12以下のアミン系酸化防止剤Cを含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
[9] 摩耗防止剤が、炭素数4~12の第一級又は第二級アルキル基から選択された同一又は異なる2つのアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛から選択される1種以上を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
[10]水素エンジン用、又は船舶向けデュアルフューエルエンジン用である、[1]~[9]のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、低灰分であり、かつ、ロングドレイン性及び耐熱性に優れたガスエンジン用潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0012】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の成分の合計量を意味する。
【0014】
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義である。
本開示において、2つ以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
【0015】
本開示において、潤滑油組成物が「低灰分」であるとは、JIS K2272(1998)に準拠した硫酸灰分が、0.45質量%以下であることを意味する。
【0016】
本開示において、「ロングドレイン性」とは、ガスエンジンにおいて潤滑油組成物の劣化が抑制され、潤滑油組成物の交換間隔を長くできる性質を意味する。本開示における「ロングドレイン性」は、熱酸化安定性及びNOx劣化抑制性により評価するものとする。具体的には、ロングドレイン性は、後述する実施例に記載の内燃機関潤滑酸化安定度試験(ISOT試験)及びNOx劣化試験により評価する。ISOT試験及びNOx劣化試験の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0017】
<ガスエンジン用潤滑油組成物>
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、
基油と、金属系清浄剤と、ホウ素系分散剤及びホウ素非含有無灰系分散剤を含む分散剤と、フェノール系酸化防止剤と、酸解離定数(pKa)が0.1以上2以下の芳香族アミン系酸化防止剤A、及び、酸解離定数(pKa)が2を超え8以下の芳香族アミン系酸化防止剤Bを含むアミン系酸化防止剤と、摩耗防止剤と、を含有し、
金属系清浄剤に由来する金属元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、300質量ppm以上1000質量ppm以下であり、
ホウ素元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、80質量ppm以上470質量ppm以下であり、
窒素元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で1800質量ppm以上2900質量ppm以下であり、
亜鉛元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、150質量ppm以上1500質量ppm以下であり、
JIS K2272(1998)に準拠した硫硫酸灰分が、潤滑油組成物全量基準で、0.45質量%以下である。
【0018】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を更に含有することが好ましく、所望により、その他の添加剤を含有してもよい。
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、低灰分性を阻害しない範囲において、上記以外の金属成分又は非金属成分を含有してもよい。
【0019】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、上記構成により、低灰分であり、かつ、ロングドレイン性及び耐熱性に優れる。また、本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、摩耗特性、耐金属腐食性及び抗乳化性にも優れる。
【0020】
(基油)
基油としては、特に限定されず、潤滑油分野において用いられる基油を用いることができる。基油としては、具体的には、鉱油系基油、合成系基油等が挙げられる。
【0021】
鉱油系基油としては、例えば、原油から常圧蒸留、減圧蒸留、溶剤脱歴、溶剤抽出、水素化精製、溶剤脱ろうの工程を組み合わせて得られるAPI(American Petroleum Institute;米国石油協会) Group Iに分類される基油;水素化分解、触媒脱ろう等の工程を組み合わせて得られるAPI Group IIに分類される基油;水素化分解、水素化異性化脱ろう等の高度水素化処理の工程を組み合わせて得られるAPI Group IIIに分類される基油;等が挙げられる。
鉱油系基油は、精製された、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、及び芳香族系基油であってよく、これらの基油は、単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
【0022】
基油としては、高温での酸化安定性の観点から、API Group IIIに分類される鉱油系基油を主として用いることが好ましい。
【0023】
合成系基油としては、例えば、α-オレフィンオリゴマー、イソパラフィンオリゴマー、プロピレンオリゴマー、イソブチレンオリゴマー、ブテンオリゴマー、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンオリゴマー等の合成炭化水素;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族含有炭化水素;ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート等のエステル類;トリメチロールプロパンオレート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート等のポリオールエステル類;ポリオキシアルキレングリコール等のポリグリコール類;ポリフェニルエーテル類;等が挙げられる。
【0024】
高温での酸化安定性の観点から、基油としては鉱油系基油を用いることが好ましいが、合成系基油も添加剤の十分な溶解を妨げない範囲で使用してもよい。
【0025】
基油の40℃動粘度は、特に制限されないが、高温安定性及び耐摩耗性の観点から、10.0mm2/s以上60.0mm2/s以下であることが好ましく、30.0mm2/s以上55.0mm2/s以下であることがより好ましく、40.0mm2/s以上50.0mm2/s以下であることがさらに好ましい。
【0026】
基油の100℃動粘度は、4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であることが好ましく、6.0mm2/s以上9.0mm2/s以下であることがより好ましく、7.0mm2/s以上8.0mm2/s以下であることが更に好ましい。
【0027】
基油の40℃動粘度及び100℃動粘度は、基油単独又は混合基油のいずれである場合についても、上記の動粘度であることが好ましい。
【0028】
基油の40℃動粘度及び100℃動粘度は、JIS K2283(2000)に準拠して測定する。
【0029】
基油の粘度指数は、特に制限されないが、100以上であることが好ましく、110以上であることがより好ましく、120以上であることが更に好ましい。
粘度指数が上記範囲にあることにより、温度に対するガスエンジン用潤滑油組成物の粘度の安定性が向上するため、多様な外部環境において耐摩耗性等の性能が安定的に発揮されやすい。
【0030】
基油の粘度指数は、JIS K2283(2000)に準拠して測定する。
【0031】
(金属系清浄剤)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、金属系清浄剤を含有する。
金属系清浄剤は、1種類であっても、2種類以上であってもよい。
【0032】
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属系清浄剤、及びアルカリ土類金属系清浄剤が挙げられ、清浄性効果の観点から、アルカリ土類金属系清浄剤が好ましい。
アルカリ金属としては、ナトリウム等のアルカリ金属が挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。
アルカリ土類金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート、等が挙げられる。
【0033】
潤滑油組成物の長寿命化の観点から、金属清浄剤は、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、及びマグネシウムスルホネートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、カルシウムサリシレートがより好ましい。
【0034】
カルシウムサリシレートは、中性塩、塩基性塩、及び過塩基性塩のいずれであってもよい。カルシウムサリシレートの製造方法は、限定されない。
【0035】
カルシウムサリシレートの塩基価は、200mgKOH/g~250mgKOH/gであることが好ましく、210mgKOH/g~240mgKOH/gであることがより好ましい。
【0036】
カルシウムサリシレートの塩基価は、JIS K2501(2003)に準拠した過塩素酸法により測定する。
【0037】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、金属系清浄剤に由来する金属元素含有量が、潤滑油組成物全量基準で、300質量ppm以上1000質量ppm以下であり、340質量ppm以上660質量ppm以下であることが好ましい。
金属系清浄剤に由来する元素が2種類以上である場合、上記の金属元素含有量は、2種類以上の元素の合計含有量である。
【0038】
金属系清浄剤に由来する金属元素は、例えば、カルシウム元素又はマグネシウム元素である。
【0039】
金属系清浄剤に由来する金属元素含有量が、300質量ppm以上であると高温環境及びNOx存在下における潤滑油組成物の寿命特性が良好になり、1000質量ppm以下であると金属系清浄剤に由来する金属元素のガスエンジン内のピストンへの顕著な堆積を抑制することができる。
【0040】
金属系清浄剤に由来する金属元素含有量は、JPI-5S-38-92に準拠したICP発光分光分析による分析値とする。
【0041】
金属系清浄剤の含有量は、低灰分化を実現する観点から、潤滑油組成物全量基準で、0.01質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましく、0.4質量%以上0.8質量%以下であることが更に好ましい
【0042】
(分散剤)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、分散剤を含有する。分散剤は、ホウ素系分散剤及びホウ素非含有無灰系分散剤を含む。
【0043】
ホウ素系分散剤及びホウ素非含有無灰系分散剤は、該当する分散剤から、それぞれ1種以上を選択すればよい。
【0044】
<ホウ素系分散剤>
ホウ素系分散剤とは、ホウ素を含有する分散剤を意味する。
ホウ素系分散剤としては、潤滑油分野において用いられるホウ素系分散剤を用いることができる。
【0045】
ホウ素系分散剤としては、ホウ素含有イミド系分散剤が好ましい。ホウ素含有イミド系分散剤とは、ホウ素を含有し、かつイミド結合を有する化合物である分散剤を意味する。ホウ素含有イミド系分散剤としては、例えば、アルキル又はアルケニルコハク酸のモノイミド体、そのビスイミド体のホウ素変性物が挙げられる。ホウ素含有イミド系分散剤としては、これらの中でも、潤滑油組成物の長寿命化、耐摩耗性及び分散性の観点から、アルキル又はアルケニルコハク酸のビスイミド体のホウ素変性物が好ましい。
【0046】
ホウ素系分散剤は、低分子化合物及び重合物のいずれでもよいが、清浄分散性の観点からは、重合物であることが好ましい。本開示において重合物とは、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000以上である化合物を意味する。
【0047】
ホウ素系分散剤は、清浄分散性の観点から、重量平均分子量(Mw)が、2,000~7,000であることが好ましい。
本開示において、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。
【0048】
本開示における重量平均分子量(Mw)の測定は、測定装置:Shodex GPC-101(昭和電工社製)、測定カラム:Shodex GPC LF-804(昭和電工社製)を3本、検出器:示差屈折検出器、移動相:THF(テトラヒドロフラン)、流量:1ml/min、試料濃度:1.0mass%/vol、注入量:100μLの条件にて行う。重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作製した分子量分布曲線を使用して算出される。
【0049】
ホウ素含有コハク酸イミド系分散剤としては、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が3,000~8,000であり、かつアルキル又はアルケニルコハク酸のビスイミド体のホウ素変性物が好ましい。
【0050】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物におけるホウ素元素含有量は、ホウ素系分散剤に由来するホウ素元素の含有量であってもよい。すなわち、本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物におけるホウ素元素含有量は、ホウ素系分散剤の種類及び/又は含有量により調整されてもよい。
ホウ素元素含有量については後述する。
【0051】
<ホウ素非含有無灰系分散>
ホウ素非含有無灰系分散剤とは、ホウ素を含有しない分散剤であって、無灰系分散剤に包含される分散剤を意味する。
【0052】
ホウ素非含有無灰系分散剤としては、潤滑油分野において用いられる無灰系分散剤であってホウ素を含有しない分散剤を用いることができる。
【0053】
ホウ素非含有無灰系分散剤としては、例えば、極性基を主鎖に有さないポリオレフィンの側鎖又は極性基を主鎖に有するポリアミンの側鎖に極性基が直接結合した化合物等が挙げられる。ここで、極性基としては、例えば、アルコール性ヒドロキシ基、アミド基、及びエステル基が挙げられる。
【0054】
ホウ素非含有無灰系分散剤としては、例えば、アルキル基又はアルケニル基を分子中に1個以上を含むポリアミン、及びこれらの酸変性物を用いることができる。
ホウ素非含有無灰系分散剤としては、例えば、特開2018-048220号公報の段落0029~0032に記載の一般式(1)又は一般式(2)で表されるコハク酸イミド(但し、ホウ素変性物は含まない)及び段落0048に記載の分散剤Bも好適に用いることができる。
ホウ素非含有無灰系分散剤として、具体的には、ホウ素を含有しないポリイソブテニルコハク酸イミド化合物が好適に挙げられる。
【0055】
分散剤の合計含有量は、ロングドレイン性及び耐熱性の観点から、潤滑油組成物全量基準で、5質量%以上としてもよく、6質量%以上であることが好ましく、6質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
(酸化防止剤)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤及び複数種のアミン系酸化防止剤を組み合わせて含む。
複数種のアミン系酸化防止剤としては、芳香族アミン系酸化防止剤及び脂肪族アミン系酸化防止剤が挙げられる。
【0057】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、フェノール系酸化防止剤と、酸解離定数(pKa)が0.1以上2以下の芳香族アミン系酸化防止剤A及び酸解離定数が2を超え8以下の芳香族アミン系酸化防止剤Bとを含み、更に、酸解離定数(pKa)が7以上12以下のアミン系酸化防止剤Cを含むアミン系酸化防止剤を含むことが好ましい。
以下、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤について、詳細に説明する。
【0058】
<フェノール系酸化防止剤>
酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤から選択される少なくとも1種を含む。
【0059】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-p-クレゾール等のアルキルフェノール系化合物;4,4’-メチレンビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)等のビスフェノール系化合物;3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸と炭素数8以上のアルコールとのエステル等のヒンダードフェノール系化合物;などが挙げられる。これらの化合物はアルキル基の炭素数又は構造が異なる異性体であってもよい。
【0060】
<アミン系酸化防止剤>
酸化防止剤は、複数種のアミン系酸化防止剤を含む。
複数種のアミン系酸化防止剤は、酸解離定数(pKa)が0.1以上2以下の芳香族アミン系酸化防止剤A(以下、単に「芳香族アミン系酸化防止剤A」とも称する。)から選択される少なくとも1種、及び、酸解離定数(pKa)が2を超え8以下の芳香族アミン系酸化防止剤B(以下、単に「芳香族アミン系酸化防止剤B」とも称する。)から選択される少なくとも1種を含む。複数種のアミン系酸化防止剤は、芳香族アミン系酸化防止剤A及びB以外のアミン系酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0061】
酸解離定の異なるアミン系酸化防止剤を組み合わせることによって、劣化過程初期から終期までの段階的に潤滑油組成物の酸化を抑制することが可能となり、金属系清浄剤の含有量の減少による影響を効果的に補うことができる。
【0062】
本開示において、アミン系酸化防止剤の酸解離定数(pKa)は、電位差滴定法によって測定される20℃の水中における値である。
【0063】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン、4-ベンジルアミン、2-アミノビフェニル、ナフチルアミン、アリルアニリン、4-アミノビネフェニル、o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン、アニリン、アリルアミン、それらのアルキル化誘導体、ヒンダードアミン系化合物、それらのアルケニル化誘導体等のアミン系化合物などが挙げられる。これらの化合物が有するアルキル基の炭素数や構造が異なる異性体であってもよい。
【0064】
芳香族アミン系酸化防止剤としては、一級アミン、二級アミン、一級ジアミン、及び二級ジアミンから選ばれる1種以上のアミンを化学構造中に含有し、芳香環を1種以上含有し、その1種以上のアミンの酸解離定数が8以下であるアミン系化合物が挙げられる。
【0065】
芳香族アミン系酸化防止剤としては、アミン部分の酸化防止効果を効果的にする観点から、下記の式(1)及び式(2)で表される化合物から、それぞれ1種以上を選択して含有することが好ましい。
【0066】
【0067】
式(1)中、R1~R6は、各々独立に、アルキル基又はアルコキシ基を表す。n及びmは、各々独立に、0~4の整数を表す。
R1~R6で表されるアルキル基としては、炭素数1~16のアルキル基が好ましく、炭素数1~14のアルキル基がより好ましい。アルキル基は直鎖アルキル基であっても分岐鎖アルキル基であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、及びオクチル基が挙げられる。
R1~R6で表されるアルコキシ基としては、炭素数1~16のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~14のアルコキシ基がより好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、及びオクトキシ基が挙げられる。
R1~R6で表されるアルキル基又はアルコキシ基は、更に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アルキルアミノ基、アルカノニル基、及びアルキルエステル基が挙げられる。
nは、0~2が好ましく、0~1がより好ましい。
mは、0~2が好ましく、0~1がより好ましい。
【0068】
【0069】
式(2)中、R21~R28は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ又はフェニル基を表す。
R21~R28で表されるアルキル基としては、炭素数1~16のアルキル基が好ましく、炭素数1~12のアルキル基が好ましい。アルキル基は直鎖アルキル基であっても分岐鎖アルキル基であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、オクチル基、及びドデシル基が挙げられる。
R21~R28で表されるアルコキシ基としては、炭素数1~16のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~12のアルコキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、及びオクトキシ基が挙げられる。
R21~R28で表されるアルキル基、アルコキシ基又はフェニル基は、更に置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキルアミノ基、アルカノニル基、及びアルキルエステル基が挙げられる。
【0070】
・芳香族アミン系酸化防止剤A及びB
芳香族アミン系酸化防止剤Aは、酸解離定数(pKa)が0.1以上2以下の芳香族アミン系酸化防止剤であり、上記の式(1)で表される化合物から、酸解離定数(pKa)が0.1以上2以下である化合物を選択することが好ましい。芳香族アミン系酸化防止剤Aの酸解離定数(pKa)は、0.1以上1.8以下がより好ましい。
【0071】
芳香族アミン系酸化防止剤Aが、上記の式(1)で表される化合物から選択される化合物である場合、例えば、R1~R6が、各々独立に、炭素数3~12の分岐鎖アルキル基であり、nが、0~2であり、mが0~2である化合物が挙げられる。
【0072】
芳香族アミン系酸化防止剤Bは、酸解離定数(pKa)が2を超え8以下の芳香族アミン系酸化防止剤であり、上記の式(2)で表される化合物から、酸解離定数(pKa)が、2を超え8以下である化合物を選択することが好ましい。芳香族アミン系酸化防止剤Bの酸解離定数(pKa)は、2を超え7以下がより好ましい。
【0073】
芳香族アミン系酸化防止剤Bが、上記の式(2)で表される化合物から選択される化合物である場合、例えば、1-ナフチルアミン(R21~R28:水素原子)、R21~R28が、各々独立に、炭素数4~16の分岐鎖を有する、アルキル基又はアルコキシ基である化合物が挙げられる。
【0074】
・アミン系酸化防止剤C
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、更に、アミン系酸化防止剤Cを含むことが好ましい。
アミン系酸化防止剤Cとしては、一級アミン、二級アミン、一級ジアミン、二級ジアミンから選ばれる1種以上のアミンを化学構造中に含有し、その1種以上のアミンの酸解離定数(pKa)が7以上であるアミン系化合物が挙げられる。アミン系酸化防止剤Cの酸解離定数(pKa)は、7以上12以下であることが好ましい。
アミン系酸化防止剤Cは、上記の芳香族アミン系酸化防止剤Bを包含しない。
【0075】
アミン系酸化防止剤Cの一態様としては、一級アミン、二級アミン、一級ジアミン、及び二級ジアミンから選ばれる1種以上のアミンを化学構造中に有し、芳香環を含有せず、その1種以上のアミンの酸解離定数が7以上である脂肪族アミン系化合物が挙げられる。
【0076】
アミン系酸化防止剤Cの他の一態様としては、上記の式(1)で表される化合物であり、かつ酸解離定数(pKa)が、7以上12以下である化合物が挙げられる。
【0077】
アミン系酸化防止剤Cとしては、アミン部分の酸化防止効果を効果的にするために、下記の式(3A)及び式(3B)で表される化合物の中から選択される1種以上含有することが好ましい。
【0078】
【0079】
式(3A)及び(3B)中、R31及びR32は、各々独立に、アルキル基又はアルコキシ基を表す。
R31及びR32で表されるアルキル基としては、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~16のアルキル基がより好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、オクチル基、及びドデシル基が挙げられる。
R31及びR32で表されるアルコキシ基としては、炭素数1~18のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~16のアルコキシ基がより好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、及びオクトキシ基が挙げられる。
R31及びR32で表されるアルキル基又はアルコキシ基は、更に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アルケニル基、アルキルアミノ基、アルカノニル基、及びアルキルエステル基が挙げられる。
【0080】
アミン系酸化防止剤Cの具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
式(3A)で表される化合物としては、例えば、R31が、炭素数8である、2,2,6,6-tetramethylpiperidin-4-yl hexadecanoate2,2,6,6-tetramethylpiperidin-4-yl octadecanoateが挙げられる。
式(3B)で表される化合物としては、例えば、R31及びR32が、各々独立に、炭素数12である、ジドデシルアミンが挙げられる。
【0081】
フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の合計含有量は、潤滑油組成物全質量基準で、1質量%以上4質量%以下であることが好ましく、2質量%以上3.5質量%以下であることがより好ましい。
【0082】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤を、1.0質量%以上含有することで、基油の熱酸化劣化過程におけるラジカル捕捉反応が効果的に進み、酸化反応を効率的に停止させることができる。一方、4質量%以下とすることで、顕著な耐金属腐食性の低下、及び、顕著な色変化を抑制することができる。
【0083】
本開示に係るにガスエンジン用潤滑油組成物は、本開示に係る効果が得られる範囲において、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤以外のその他の酸化防止剤を含有してもよい。その他の酸化防止剤としては、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、等が挙げられる。その他の酸化防止剤の含有量は、潤滑油組成物全質量基準で、4質量%以下であることが好ましい。
【0084】
[摩耗防止剤]
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、摩耗防止剤を含有する。
【0085】
摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等の亜鉛化合物(即ち、亜鉛系酸化防止剤)、アミド系モリブデン化合物、モリブデン酸アミン化合物、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート、それらの誘導体が挙げられる。
【0086】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、摩耗防止剤として亜鉛化合物(即ち、亜鉛系摩耗防止剤)を含有することが好ましく、亜鉛系摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が好適である。
【0087】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、例えば、第一級又は第二級のアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛であることが好ましい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛が有する第一級又は第二級のアルキル基としては、炭素数4~12のアルキル基であることが好ましい。すなわち、摩耗防止剤の好適な態様の一つは、炭素数4~12の第一級又は第二級アルキル基から選択された同一又は異なる2つのアルキル基を有する、ジアルキルジチオリン酸亜鉛から選択された少なくとも1種である。
【0088】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛の具体例としては、例えば、炭素数8の第一級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛、及び、炭素数4の第二級アルキル基を有するアルキルジチオリン酸亜鉛が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物における亜鉛元素含有量は、上記の亜鉛化合物剤由来の亜鉛元素含有量であってもよい。すなわち、本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物における亜鉛元素含有量は、上記の亜鉛化合物の種類及び/又は含有量により調整されてもよい。
【0090】
亜鉛系酸化防止剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、0.1質量%~2質量%であることが好ましく、0.2質量%~1.5質量%であることがより好ましく、0.3質量%~0.5質量%であることが更に好ましい。亜鉛系酸化防止剤の含有量が、潤滑油組成物全量基準で、0.1質量%~2質量%の範囲であることによって、灰分を顕著に増加させることなく、効率的に摩擦摩耗特性を保持することができる。
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物が、摩耗防止剤として、亜鉛系酸化防止剤と亜鉛系酸化防止剤以外の摩耗防止剤を含有する場合、亜鉛系酸化防止剤以外の摩耗防止剤は、潤滑油組成物全質量基準で、2質量%以下の含有量であることが好ましい。
【0091】
(粘度指数向上剤)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を1種以上含有することが好ましい。
【0092】
粘度指数向上剤としては、JASO M355:2021に記載された、非分散タイプの粘度指数向上剤、及び分散タイプの粘度指数向上剤が挙げられる。
【0093】
非分散タイプの粘度指数向上剤としては、オレフィンコポリマーが挙げられる。
オレフィンコポリマーとしては、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体などの重合体が挙げられる。
【0094】
分散タイプの粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、オレフィン及びメタクリレートのランダム共重合体、オレフィン及びメタクリレートのブロック共重合体、ポリメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフト共重合体などの重合体が挙げられる。
ポリメタクリレートとしては、ポリアルキルメタクリレートなどが挙げられる。
オレフィン及びメタクリレートのランダム共重合体としては、エチレン-アルキルメタクリレートのランダム共重合体、プロピレン-アルキルメタクリレートのランダム共重合体、イソブチレン-アルキルメタクリレートのランダム共重合体などが挙げられる。
オレフィン及びメタクリレートのブロック共重合体としては、エチレン-アルキルメタクリレートのブロック共重合体、プロピレン-アルキルメタクリレートのブロック共重合体、イソブチレン-アルキルメタクリレートのブロック共重合体などが挙げられる。
ポリメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフト共重合体としては、主鎖がポリメタクリレートであり、側鎖にオレフィンコポリマーを有するポリマーが挙げられる。
【0095】
粘度指数向上剤である上記の重合体(オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート等)が、側鎖アルキル基を有するアルキル化誘導体である場合、側鎖アルキル基の炭素数は1~50であることが好ましい。
【0096】
本開示において粘度指数向上剤は、粘度指数の向上に寄与する、重量平均分子量が10,000以上の重合体であり、かつ、当該重合体の含有量が潤滑油組成物全量基準で1質量%以上であるものとする。
粘度指数向上剤の重量平均分子量は、50,000以上1,000,000以下であることが好ましく、100,000を超え800,000以下であることがより好ましい。
粘度指数向上剤の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、ポリスチレンを標準として算出する値である。
【0097】
(その他の添加剤)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。
【0098】
その他の添加剤としては、流動点降下剤、腐食防止剤、抗乳化剤、消泡剤、等が挙げられる。
【0099】
流動点降下剤としては、例えば、オレフィンコポリマー、ポリアルキルメタクリレート、その共重合体、そのアルキル化誘導体等が挙げられる。
流動点降下剤の重量平均分子量は100,000以下とする。
流動点降下剤の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、ポリスチレンを標準として算出する値である。
本開示において、流動点降下剤は、潤滑油組成物全量基準で、1質量%未満の含有量で含有される。
【0100】
腐食防止剤としては、例えば、チアジアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、イオン系のポリオキシエチレンアルキルエーテル誘導体、非イオン系のポリオキシエチレンアルキルエーテル誘導体、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル誘導体等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、アルキル化ポリジメチルシロキサ誘導体、ハロゲン化アルキル化ポリジメチルシロキサン誘導体等のシリコーンオイル等が挙げられる。
【0101】
その他の添加剤を用いる場合、その他の添加剤の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物全体に対して、0.1質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
【0102】
(ガスエンジン用潤滑油組成物の物性)
-動粘度-
ガスエンジン用潤滑油組成物の40℃動粘度は、80.0mm2/s以上150.0mm2/s以下であることが好ましく、90.0mm2/s以上120.0mm2/s以下であることがより好ましい。
また、ガスエンジン用潤滑油組成物の100℃動粘度は、好ましくは10.0mm2/s以上20.0mm2/s以下、より好ましくは12.5mm2/s以上16.3mm2/s以下である。
ガスエンジン用潤滑油組成物の40℃における動粘度及び100℃における動粘度は、JIS K2283(2000)に準拠して測定する。
【0103】
-粘度指数-
ガスエンジン用潤滑油組成物の粘度指数は、100以上であることが好ましく、110以上であることがより好ましく、120以上であることが更に好ましい。
ガスエンジン用潤滑油組成物の粘度指数は、JIS K2283(2000)に準拠して測定する。
粘度指数が上記範囲にあることにより、温度に対する潤滑油粘度の安定性が確保されるため、多様な外部環境において耐摩耗性等の性能が安定的に発揮されやすい。
【0104】
-塩基価-
ガスエンジン用潤滑油組成物の塩基価は、1.5mgKOH/g~7mgKOH/gであることが好ましく、2mgKOH/g~6mgKOH/gであることがより好ましい。
ガスエンジン用潤滑油組成物の塩基価はJIS K2501(2003)に準拠した塩酸法により測定する。
塩基価が1.5mgKOH/g以上であると基油の酸化及びNOx存在下における劣化を効果的に抑制することができる。塩基価が7mgKOH/g以下であると金属成分のピストンへの堆積を効果的に抑制することができる。
【0105】
ガスエンジン用潤滑油組成物の硫酸灰分量は、0.45質量%以下であり、0.40質量%以下であることがより好ましい。
硫酸灰分量はJIS K2272(1998)に準拠した方法により測定する。
硫酸灰分量が多い場合、ピストンヘッドへの堆積物により正常燃料が妨げられる傾向があるため、寿命特性の指標で塩基価保持性を著しく低下させない範囲において低くすることが望ましい。
【0106】
-ホウ素元素含有量-
ガスエンジン用潤滑油組成物におけるホウ素元素含有量は、潤滑油組成物全量基準で、80質量ppm以上470質量ppm以下であり、100質量ppm以上470質量ppm以下であることが好ましく、250質量ppm以上470質量ppm以下であることがより好ましい。
ホウ素元素含有量が、80質量ppm以上であると高温での生成スラッジの分散性が効果的に向上し、470質量ppm以下であると水蒸気に対する抗乳化性の顕著な悪化を抑制することができる。
【0107】
ホウ素は、例えば、ホウ素系分散剤の成分に由来する。
ホウ素元素含有量は、は、JPI-5S-38-92に準拠したICP発光分光分析による分析値とする。
【0108】
-窒素元素含有量-
ガスエンジン用潤滑油組成物における窒素元素含有量は、スラッジ分散性及び金属腐食性の観点から、潤滑油組成物全量基準で、1800質量ppm以上2900質量ppm以下である。
窒素は、例えば、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、等の成分であって、窒素を含む成分に由来する。
すなわち、本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物における窒素元素の含有量は、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、等の成分の種類及び/又は含有量により調整されてもよい。
窒素元素含有量は、JPI-5S-38-92に準拠したICP発光分光分析による分析値とする。
【0109】
-亜鉛元素含有量-
ガスエンジン用潤滑油組成物における亜鉛元素含有量は、低灰分、摩耗特性及び酸化防止性の観点から、潤滑油組成物全量基準で、150質量ppm以上1500質量ppm以下であり、200質量ppm以上1000質量ppm以下であることが好ましく、280質量ppm以上480質量ppm以下であることがより好ましい。
亜鉛は、例えば、亜鉛系摩耗防止剤に由来する。
亜鉛元素含有量は、は、JPI-5S-38-92に準拠したICP発光分光分析による分析値とする。
【0110】
(ガスエンジン用潤滑油組成物の用途)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、水素、オートガス、天然ガスなどのガスを燃料として駆動するガスエンジンの潤滑油として用いることが好ましい。
ガスエンジンの中でも、トータルエネルギーシステム(ガスを燃料にガスエンジン、タービン等を使って、電力、動力等をつくり、同時に発生する排熱を利用するシステム)に用いられるガスエンジン、水素エンジン、又は船舶向けデュアルフューエルエンジンの潤滑油として用いることが好ましい。
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、低灰分であり、かつ、ロングドレイン性及び耐熱性優れる。また、本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、摩耗特性、耐金属腐食性及び抗乳化性にも優れる。そのため、本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、水素エンジン、及び船舶向けデュアルフューエルエンジンに適している。
【0111】
(製造方法)
ガスエンジン用潤滑油組成物の製造方法としては、特に限定されず、潤滑油組成物が含有する基油及び基油以外の含有成分を適宜混合すればよい。ガスエンジン用潤滑油組成物は、例えば、基油、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、その他添加剤を混合することにより調製することができる。混合の方法及び混合順序は、特に制限されるものではなく、基油に基油以外の含有成分を順次混合してもよい。
【実施例0112】
以下に実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0113】
<実施例1~6、比較例1~10>
基油、金属系清浄剤、分散剤、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤)、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、及びその他添加剤を、下記表1、表2及び表3に示す種類及び配合割合(質量%)で混合し、60℃にて溶解、及び分散することでガスエンジン用潤滑油組成物を調製した。
【0114】
<評価>
実施例1~6及び比較例1~10のガスエンジン用潤滑油組成物に関して、以下の試験方法によって評価を実施した。
実施例4~6、比較例9~10については、新油の中和価、残留分(硫酸灰分)及び油中元素の測定結果、並びに、NOx劣化試験(24時間後、72時間後及び144時間後)のみを行った。
実施例1~3及び比較例1~8の結果を表1及び表2に示す。
実施例2、4~6及び比較例7、9~10については、新油の中和価、残留分(硫酸灰分)及び油中元素の測定結果、並びに、NOx劣化試験の結果を表3に示す。なお、表3に記載される実施例2及び比較例7は、それぞれ、表1に記載の実施例2及び表2に記載の比較例7と同じものである。
【0115】
1.動粘度
毛細管粘度計を用いてJIS K2283(2000)に従って、ガスエンジン用潤滑油組成物の40℃および100℃における動粘度、密度を測定し、粘度指数を算出した。
【0116】
2.中和価
JIS K2501(2003)に従って、ガスエンジン用潤滑油組成物の酸価および塩基価の値をトルエン/2-プロパノール/水の混合溶媒を用いて電位差滴定法により測定した。塩基価は塩酸法および過塩素酸法により測定を実施した。
【0117】
3.残留分(硫酸灰分、残留炭素分)
JIS K2272(1998)に従って、ガスエンジン用潤滑油組成物を磁製るつぼで精秤、燃焼させた炭素質物質に硫酸を加え、加熱恒量することで残留した灰分を硫酸灰分として測定した。
JIS K2270-1(2009)に従って、ガスエンジン用潤滑油組成物を磁製るつぼで精秤、燃焼させて炭素質物質とした後、電気炉で炭素質物質が消失するまで加熱する操作を繰り返し、室温にて計測した残渣の質量を残留炭素分として測定した。
【0118】
4.油中元素
JPI-5S-38-92に準拠して、ガスエンジン用潤滑油組成物の油中元素の量(質量ppm)をICP発光分光法によって測定を実施した。
なお、元素量は、ガスエンジン用潤滑油組成物の全質量に対する、測定対象とする元素の質量を意味する。
【0119】
5.ISOT試験
JIS K2514-1(2013)に準拠して、ガスエンジン用潤滑油組成物の酸化安定性試験を実施した。ガスエンジン油組成物を各250mLに銅および鋼板の触媒を投入し、165.5℃、1300rpm(revolutions per minute、以下同じ)、72時間の条件で試験を実施し、試験後のガスエンジン油組成物中の塩基価(塩酸法)をJIS K2501(2003)に従って測定した。
【0120】
6.NOx劣化試験
ガスエンジン用潤滑油組成物を各40mLに銅及び鋼板の触媒を投入し、0.8容量%のNOガスが含まれている窒素ガス50mL/minと加湿空気150mL/minの混合ガスを試験油中に吹き込みながら、140℃の温度において24時間毎に2mLずつ測定用試料を抜き取り、144時間まで試験を実施した。
【0121】
7.抗乳化試験
JIS K2514-1(2013)に準拠して、ガスエンジン用潤滑油組成物の酸化安定性試験を72時間実施した。試験後の劣化油と新油をそれぞれ50mLガラス容器に移し、水蒸気を5.0g/分の速度で1分間それぞれのガラス容器に吹き込み、72時間後に残存する高粘性状のスラッジ量(mL)を測定した。
【0122】
8.シェル4球摩耗試験
ガスエンジン用潤滑油組成物(新油)を用い、ASTM D4172に準拠したシェル4球耐摩耗試験において、回転速度1500rpm、30分、75℃、荷重30kgの条件下において試験を実施し、試験後の鋼球の摩耗痕径(μm)の計測を実施した。
【0123】
9.金属腐食性試験
ガスエンジン用潤滑油組成物のISOT試験後油50gを用いて、銅-錫-鉛から構成される合金を触媒とし、150℃において360時間浸漬試験を実施し、油中の鉛および銅成分の溶出量をJPI-5S-38-92に準拠したICP発光分光法によって測定した。
なお、銅溶出量及び鉛溶出量は、試験後のガスエンジン用潤滑油組成物の全質量に対する、鉛原子又は銅原子の質量ppmを意味する。
【0124】
10.ホットチューブ試験
JPI-5S-55-99に準拠して、ガスエンジン油組成物の高温清浄性を評価した。300℃に設定した加熱炉にガラス製のテストチューブを設置し、注射器を用いてチューブ下部より0.31mL/分の流量で試験油5mLを送り出し、16時間後にテストチューブの色を評点法により評価した。
【0125】
(評価基準)
本開示における、低灰分、ロングドレイン性、耐熱性、摩耗特性、耐金属腐食性、及び、抗乳化性は、下記に示す基準により評価した。
【0126】
=低灰分=
「3.硫酸灰分」で得た測定値が「0.45質量%以下」であったガスエンジン用潤滑油組成物を、低灰分であると評価した。
【0127】
=ロングドレイン性=
6.新油の塩基価に対するNOx劣化試験で得た試験結果から得た塩基価の保持率(塩基価保持率)が20%以上であるガスエンジン用潤滑油組成物を、ロングドレイン性に優れると評価した。
【0128】
=耐熱性=
「10.ホットチューブ試験」で得た試験結果の評点が3~10であるガスエンジン用潤滑油組成物を、耐熱性に優れると評価した。
【0129】
=摩耗特性=
「8.シェル4球摩耗試験」の試験結果において、摩耗痕径が500μm以下であるガスエンジン用潤滑油組成物を、摩耗特性に優れると評価した。
【0130】
=耐金属腐食性=
「9.金属腐食性試験」の試験結果において、銅溶出量が170質量ppm以下であり、かつ、鉛溶出量が100質量ppm以下であるガスエンジン用潤滑油組成物を、耐金属腐食性に優れると評価した。
【0131】
=抗乳化性=
「7.抗乳化試験」で得た新油及び劣化油(ISOT 72h後油)に対する試験結果の結果において、高粘性スラッジ量が10mL以下であるガスエンジン用潤滑油組成物を、抗乳化性に優れると評価した。高粘性スラッジ量は、表1及び表2では「スラッジ量」と表示した。
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
表1、表2及び表3中の略称の詳細について、以下に記載する。
【0136】
(基油)
・基油(GrIII):API GroupIIIに属し、高度水素化過程を経て水素化処理された鉱油系精製基油であって、下記の一般性状を示す基油。
動粘度(100℃):7.6mm2/s、粘度指数:130、引火点:240℃以上
【0137】
(金属系清浄剤)
・カルシウム系清浄剤:カルシウムサリシレート系金属系清浄剤であって、JIS K2501(2003)に従って測定された塩基価が228mgKOH/gであり、密度1.05g/cm3(15℃)、100℃動粘度81cSt、引火点194℃、カルシウム分7.9%であるカルシウムサリシレートを含有する清浄剤。
【0138】
(分散剤)
・ホウ素系分散剤1:コハク酸イミド系分散剤であって、密度0.94g/cm3(15℃)、100℃動粘度512cSt、ホウ素分0.95%、窒素分1.7%、塩基価33mgKOH/g、重量平均分子量5500g/molであるホウ素系分散剤。
・ホウ素系分散剤2:コハク酸イミド系分散剤であって、密度0.93g/cm3(15℃)、100℃動粘度140cSt、ホウ素分0.52%、窒素分1.5%、塩基価32mgKOH/g、重量平均分子量がポリスチレン換算におけるゲル浸透クロマトグラフィー測定において4400g/molである重合系分散剤。
・無灰系分散剤(ホウ素非含有無灰系分散剤):密度0.92g/cm3(15℃)、100℃動粘度404cSt、窒素分1.8%、塩基価が41mgKOH/g、重量平均分子量4,910である無灰系分散剤。
【0139】
(酸化防止剤)
・フェノール系酸化防止剤
フェノール系酸化防止剤は、キノイド構造への変化によって基油の酸化劣化を防止するタイプのヒンダードフェノール系酸化防止剤であり、密度0.97g/cm3(20℃)、引火点152℃、沸点240℃であるCAS Nо.125643-61-0に分類されるフェノール系化合物(オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロ肉桂酸)である。
【0140】
・アミン系酸化防止剤
アミン系酸化防止剤は、pKaが0.1以上2以下のフェニルアミンを主骨格とする共役系アミン構造を有する芳香族アミン化合物(アミン系酸化防止剤1)、pKaが2を超え8以下のナフタレン骨格を有する芳香族アミン化合物(アミン系酸化防止剤2)、及びpKaが7以上12以下のアミン化合物(アミン系酸化防止剤3~5)である。
【0141】
アミン系酸化防止剤1;密度0.97g/cm3(20℃)、40℃動粘度401cSt、引火点154℃、塩基性窒素4.5%であるCAS Nо.68411-46-1に分類される芳香族アミン化合物。(芳香族アミン系酸化防止剤Aである式(1)で表される化合物)
アミン系酸化防止剤2;CAS Nо.68259-36-9に分類される芳香族アミン化合物。(芳香族アミン系酸化防止剤Bである式(2)で表される化合物)
アミン系酸化防止剤3;CAS Nо.106-20-7に分類される脂肪族アミン化合物。(アミン系酸化防止剤Cである式(3B)で表される化合物)
アミン系酸化防止剤4;CAS Nо.103-49-1に分類されるアミン化合物。(アミン系酸化防止剤Cである式(1)で表される化合物)
アミン系酸化防止剤5;引火点184℃、密度0.90g/cm3(20℃)、40℃動粘度13.2cSt、融点7℃の2、2、6,6-テトラメチルピぺリジン構造を有するヒンダードアミン系化合物。(アミン系酸化防止剤Cである式(3A)で表される化合物)
【0142】
(摩耗防止剤)
ジアルキルジチオリン酸亜鉛であって、第一級及び第二級の炭素数3~5のアルキル基を有する亜鉛化合物であり、密度1.16g/cm3(15℃)、100℃動粘度9.7cSt、亜鉛分9.7%、硫黄分19.1%、リン分9.3%であるCAS Nо.68649-42-3に分類されるセカンダリータイプのジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物である。
【0143】
(粘度指数向上剤)
・粘度指数向上剤;鉱油で希釈されたポリアルキルメタクリレートとオレフィンコポリマーの共重合体であって、密度0.885g/cm3(15℃)、100℃動粘度1750mm2/s、重量平均分子量140000g/molである分散型の粘度指数向上剤である。
【0144】
(その他の添加剤)
その他添加剤として、下記に示す流動点降下剤、腐食防止剤及び消泡剤を用いた。
・流動点降下剤:鉱油に溶解したポリメタクリレートであって、分子量が65000g/molである流動点降下剤。
・腐食防止剤:アルキルジメチルアミンである腐食防止剤。
・消泡剤:ポリジメチルシリコーンであるシリコーン系消泡剤。
【0145】
表1及び表2に示すように、実施例の潤滑油組成物は、比較例のガスエンジン用潤滑油組成物との対比において、いずれも、低灰分であり、かつ、ロングドレイン性、摩耗特性、耐熱性、耐金属腐食性及び抗乳化性に優れていた。
【0146】
実施例1~3は、カルシウム系清浄剤が含有量多い比較例4~8と比較して、硫酸灰分量が著しく低く、低灰分でありながら、ロングドレイン性、摩耗特性、耐熱性、耐金属腐食性及び抗乳化性のいずれについても良好であることが分かる。
【0147】
比較例1は、硫酸灰分量が0.16質量%と十分に低いものの、窒素元素量が1300質量ppm及び亜鉛元素量が90質量ppmであり、NОx劣化試験後の残存塩基価とホットチューブ試験における耐熱性が十分ではない。比較例2は、窒素元素量が1600質量ppmであり、耐熱性が十分でない。
比較例3は亜鉛元素量が100ppmであり、ロングドレイン性に劣り、摩耗特性にも劣っていた。比較例4は、低灰分を達成しておらず、ホウ素含有量が70ppmであり、摩耗特性に劣っていた。
比較例4~比較例10は、いずれも低灰分を達成しなかった。
【0148】
亜鉛元素量が150質量ppm以上である実施例は、いずれも摩耗特性に優れており、亜鉛元素量が150質量ppm以上であることは、摩耗特性の観点からも好適であることが分かる。
【0149】
表3に示すように、酸解離定数が8以上のアミン系酸化防止剤3~5(アミン系酸化防止剤C)をそれぞれ添加した実施例4~6は、アミン系酸化防止剤Cを含有していない実施例2よりも更に、NOx劣化試験の初期(24時間後)からの塩基価が底上げされていることが分かる。この結果からは、更なる長寿命化の観点から、pKaが8以上のアミン系酸化防止剤(アミン系酸化防止剤Cに相当する酸化防止剤)を更に添加することも好適であることが分かる。
また、低灰分化の観点から、カルシウム系清浄剤の含有量を単純に低減することは、残存塩基価の低下及び潤滑油組成物自体の寿命低下に直結することが想定されるところ、実施例2、4~6では、カルシウム系清浄剤の含有量が十分に多い比較例9(即ち、カルシウム元素量が1300質量ppm)と同程度の保持率にて、NОx劣化試験の144時間後においても、残存塩基価が保持されていることが分かる。
【0150】
以上より、本実施例のガスエンジン用潤滑油組成物によれば、低灰分でありながら、寿命特性(ロングドレイン性)及び耐熱性に優れ、さらに、摩耗特性、耐金属腐食性、及び抗乳化性の特性バランスにも優れたガスエンジン用潤滑油組成物を提供することができることが分かる。