(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047907
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】マルチレベル電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240401BHJP
H02M 7/49 20070101ALI20240401BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H02M7/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153676
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】391017540
【氏名又は名称】東芝ITコントロールシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】新井 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】窓岩 尚史
(72)【発明者】
【氏名】田中 彰
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770BA11
5H770DA03
5H770DA23
5H770DA41
5H770DA44
5H770HA03W
5H770QA01
5H770QA02
5H770QA08
5H770QA22
5H770QA28
5H770QA33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小型で低コストの、単位変換器が多数直列接続されたマルチレベル電力変換装置を提供する。
【解決手段】マルチレベル電力変換装置は、主回路基板10と、コンデンサ基板13と、スイッチング素子S、セルコンデンサCa及びゲート駆動回路21含む単位変換器と、単位変換器を複数直列に接続した正側変換器アーム及び負側変換器アームを有する。主回路基板10は、複数の単位変換器に含まれるスイッチング素子S及びゲート駆動回路21を実装する。コンデンサ基板13は、単位変換器毎にセルコンデンサCaを実装する。主回路基板10とコンデンサ基板13とは、積層状態で接続される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子とセルコンデンサを含む単位変換器と、前記単位変換器を複数直列に接続した変換器アームを有するマルチレベル電力変換装置であって、
複数の前記単位変換器に含まれるスイッチング素子を実装する主回路基板と、
前記単位変換器ごとに前記セルコンデンサを実装するコンデンサ基板と、
を備え、
前記主回路基板と前記コンデンサ基板が積層状態で接続されていることを特徴とするマルチレベル電力変換装置。
【請求項2】
前記スイッチング素子は、前記主回路基板の実装面に直接的に取付けられることを特徴とする請求項1に記載のマルチレベル電力変換装置。
【請求項3】
前記主回路基板のパターンの銅箔厚は、前記コンデンサ基板のパターンの銅箔厚より厚いことを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチレベル電力変換装置。
【請求項4】
前記主回路基板の層数は、前記コンデンサ基板の層数より多いことを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチレベル電力変換装置。
【請求項5】
前記スイッチング素子を駆動するゲート駆動回路と前記セルコンデンサの電圧を検出する電圧検出回路を備え、
前記ゲート駆動回路と前記電圧検出回路は主回路基板に実装されることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチレベル電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、単位変換器が多数直列接続されたマルチレベル電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電力と直流電力とを相互に変換する電力変換装置として、複数の単位変換器を多段に接続したモジュラー・マルチレベル変換器(MMC)の研究開発が進められている。MMCは、スイッチング素子とセルコンデンサから構成されるセルを多数直列に接続して構成することで、出力電圧を多レベル化することができる。半導体スイッチのスイッチングに伴う高調波電圧を低減することができるため、電力変換装置のコスト上昇と、重量増加を招いていた大容量のフィルタを小さくすることができる。更には、半導体スイッチのスイッチング周波数も下げることができるため、変換器の高効率化も期待できる。
【0003】
一方で、MMCのセルコンデンサは大きな静電容量を原理的に必要とすることが知られている。セル数を削減した回路構成や制御法での解決が検討されているが、従来の変換器のコンデンサ(たとえば2レベル変換器)より大型化することは避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-146692
【特許文献2】特開2021-87262
【0005】
【非特許文献1】赤木泰文・萩原 誠:「モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCc)の分類と名称」,電気学会全国大会,4-043(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MMCを数百V系統などの低圧で用いた場合、セルコンデンサの課題は顕著になる。これは、低圧で用いる場合は基板上にMMCを実装することになり、大きなセルコンデンサを実装するために必要な基板面積を確保しなければならないからである。MMCを実装する基板は大きな主電流を流したり、多数のゲート信号を配線したりするために、単位面積当たりの基板価格が比較的大きく、基板面積増加はコスト増加に直結する。更に、低圧で用いられる半導体スイッチは、表面実装の非常に小さな素子であるが、大きなコンデンサと併用すると、実装効率が悪く、必要な回路体積が増加する。また、寿命の比較的短いコンデンサを交換するには、基板をすべて取り換える必要があった。
【0007】
本実施形態は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたもので、小型で低コストの電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態のマルチレベル電力変換装置は、次のような構成を備える。
(1)スイッチング素子とセルコンデンサを含む単位変換器と、前記単位変換器を複数直列に接続した変換器アームを有する。
(2)複数の前記単位変換器に含まれるスイッチング素子を実装する主回路基板。
(3)前記単位変換器ごとに前記セルコンデンサを実装するコンデンサ基板。
(4)前記主回路基板と前記コンデンサ基板が積層状態で接続されている。
【0009】
実施形態のマルチレベル電力変換装置は、次のような構成を採用することができる。
(1)前記スイッチング素子は前記主回路基板の実装面に直接的に取付けられる。
(2)前記主回路基板のパターンの銅箔厚は前記コンデンサ基板のパターンの銅箔厚より厚い。
(3)前記主回路基板の層数は前記コンデンサ基板の層数より多い。
(4)前記スイッチング素子を駆動するゲート駆動回路と前記セルコンデンサの電圧を検出する電圧検出回路を備え、前記ゲート駆動回路と前記電圧検出回路は主回路基板に実装される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】電力変換装置における単位変換器の一例を示す回路図である。
【
図3】アームを流れるアーム電流とセルコンデンサ電流の実効値を示すグラフである。
【
図4】第1実施形態の構成を示す平面図と側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1.第1実施形態]
第1実施形態を
図4により説明する。
【0012】
本実施形態のマルチレベル電力変換装置1は、
図1に示すように、交流電源ACと直流電源との間に接続されている。電力変換装置1の正側直流端子DC1と負側直流端子DC2の間には正側アームA1と負側アームA2およびバッファリアクトルLが接続されている。正側アームA1と負側アームA2は単位変換器Cと呼ばれる単位変換器Cを複数直列に接続して構成する。正側アームA1と負側アームA2の中点は交流電源ACに接続されている。制御装置20は、電力変換装置1が所望の電力変換ができるように、各単位変換器Cのスイッチング素子Sを駆動するゲート信号を生成する。
【0013】
本実施形態は単位変換器Cを複数直列に接続した回路の一例を示したものであり、アーム同士の接続方法に限定されない。
図1の接続はダブルスター型と呼ばれるが、たとえば各相に1つずつアームを有したシングルスター型でも同様の効果を得ることができる。この場合、単位変換器Cを複数直列に接続した回路はクラスタと呼ばれることがある。
【0014】
図2に単位変換器Cの回路図の一例を示す。単位変換器Cは2つのスイッチング素子SとセルコンデンサCaから構成する。制御装置20が生成するゲート信号に合わせてスイッチング素子Sを駆動するゲート駆動回路21を備える。また、セルコンデンサCaの電圧を検出する電圧検出回路22や駆動用の給電回路23も備える。2つのスイッチング素子Sのオンオフ動作によって、セルコンデンサCaを挿入、もしくはバイパスすることで、電圧を出力する。なお、
図2に示す回路はチョッパ単位変換器と呼ばれるが、4つのスイッチング素子Sを用いたブリッジ単位変換器でも同様である。
【0015】
図3にアームA1,A2を流れるアーム電流とセルコンデンサCa電流の実効値を示す。アームA1,A2には主電流が流れるため、電流値が大きい。一方、セルコンデンサCaに流れる電流は、スイッチング素子Sのオンオフ動作によってチョッピングされるため、電流値が小さくなる。運転状態にも依存するが、たとえばアーム電流の55%に低減できる。
【0016】
図4に単位変換器Cを複数直列に接続したアームA1,A2を基板へ実装した状態を示す。主回路基板10には、複数の単位変換器Cのスイッチング素子Sを実装する。その他、ゲート駆動回路21や電圧検出回路22を実装する。スイッチング素子Sに表面実装素子を適用すれば、主回路基板10に実装される部品の密度があがり、小型な基板とすることができる
【0017】
複数の単位変換器Cを制御するために、ゲート信号線や電圧検出用の信号線が多数必要である。1つの主回路基板10内で、複数の単位変換器Cの信号線11を基板パターンで接続することで、煩雑な信号線11を配線することができ、接続間違いなども回避できる。信号数などによっては、主回路基板10の層数を増加させて複雑な配線ができるようにする。また、主電流であるアーム電流を流す必要があるため、抵抗値を下げるために、基板パターンの銅箔圧を大きくすることが望ましい。
【0018】
主回路基板10には単位変換器Cごとに接続端子12を設け、複数のコンデンサ基板13を接続する。基板間のインダクタンスを低減するために、主回路基板10とコンデンサ基板13を接続する接続端子間の距離は1cm以下とすることが望ましい。コンデンサ基板13は単位変換器Cごとに独立して設けることが望ましい。主回路基板10とコンデンサ基板13は積層状態に設けられ、両者の間隔を保持するために、支持部材15が設けられている。主回路基板10には、配線用のコネクタ14が設けられ、信号線11などの基板パターンに接続されている。
【0019】
コンデンサ基板13には、セルコンデンサCaのみを実装し、主回路基板10と分離して接続することで、体積効率の良い、小型な電力変換装置1が構成できる。特に、MMCのセルコンデンサCaは比較的大きく、表面実装型のスイッチング素子Sやゲート駆動回路21、電圧検出回路22、給電回路23を実装した面積と近いことから、実装密度をあげることができる。
【0020】
図3で示したように、セルコンデンサCaを流れる電流値は、主回路基板10を流れるアーム電流より小さい。したがって、主回路基板10とコンデンサ基板13の合計の基板面積は大きくなるが、コンデンサ基板13の銅箔圧は小さくてよいため、安価にできる。すなわち、コンデンサ基板13の銅箔圧は主回路基板10と同じかより小さいことが好ましい。
【0021】
更に、コンデンサ基板13には、セルコンデンサCaの正極と負極を配線するだけでよいため、基板層数も小さくてよい。低圧向けで想定されるセルコンデンサCaは電解コンデンサであるため、比較的熱に弱く、周囲の温度上昇によって寿命が下がる傾向にある。主な発熱源であるスイッチング素子Sと物理的に基板を分けることで、スイッチング素子Sで発生する熱の影響も受けづらい。すなわち、複数の単位変換器Cに含まれるスイッチング素子Sを実装する主回路基板10と、単位変換器CごとにセルコンデンサCaを実装するコンデンサ基板13とを接続すれば、小型でコストの低い電力変換装置1を提供することができる。
【0022】
本実施形態では、セルコンデンサCaをコンデンサ基板13にモジュール化し、主回路基板10とコンデンサ基板13を接続することで、レイアウトの自由度が高まり、主回路基板10を小さくできる。また、故障したセルコンデンサCaをモジュールごと取り換えることが可能になる。なお、スイッチング素子Sを別基板(コンデンサ基板13)に実装すると、体積効率も落ち、接続端子12が増えるので望ましくない。
【0023】
[2.第2実施形態]
第2実施形態を
図5を用いて説明する。一般に、基板同士を直接ハンダで接続すると強度の問題があるため、主回路基板10とセルコンデンサCa基板とは、ねじ端子16を用いて接続することが望ましい。本実施形態では、
図5のように、基板実装型のねじ端子16を用い、主回路基板10とコンデンサ基板13のそれぞれにねじ端子16を実装する。基板同士をねじ端子16で接続するために、コンデンサ基板13側のねじ端子16は、ねじ切りタップを設けない。更に、コンデンサ基板13には、ねじ山も貫通する程度の大きさのねじ穴17を設ける。
【0024】
一方、主回路基板10側のねじ端子16はねじ切りタップを設ける。これにより、コンデンサ基板13はねじ穴17を貫通しつつ、2つのねじ端子16をねじ18で締め付け、固定することが可能になる。
図5では、コンデンサ基板13側にねじ18が貫通するねじ穴17を設けたが、主回路基板10側に設けても同じ効果が得られる。
【0025】
スイッチング素子Sの動作を考えたとき、セルコンデンサCaの正極と接続するねじ端子16と負極と接続するねじ端子16はできるだけ近づけることが望ましい。これにより、ねじ端子16で発生する寄生インダクタンスを低減することができ、スイッチングに伴うサージ電圧を抑制することができる。ねじ端子16の位置によっては、別途固定用端子16aなどを設けても良い。すなわち、
図5において、ねじ端子が3つあるが、隣接している右2つのねじ端子16が、セルコンデンサCaを電気的に接続している端子で、左の1つは固定用端子16aである。
【0026】
[3.第3実施形態]
第3実施形態を
図6を用いて説明する。本実施形態では、片方の基板、たとえば主回路基板10のみにねじ端子16を設けている。もう一方のコンデンサ基板13には、ねじ穴17とセルコンデンサCaと電気的に接続する導電パターン19を設ける。このねじ穴17は、ねじ山が貫通しない大きさとすることで、コンデンサ基板13と主回路基板10側のねじ端子16とを接続することができる。これにより、部品点数を削減しつつ、回路の小型化が実現できる。
【0027】
[4.他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…電力変換装置
10…主回路基板
11…信号線
12…接続端子
13…コンデンサ基板
14…コネクタ
15…支持部材
16,16a…ねじ端子
17…ねじ穴
18…ねじ
19…導電パターン
20…制御装置
21…ゲート駆動回路
22…電圧検出回路
23…給電回路
A1…正側アーム
A2…負側アーム
AC…交流電源
C…単位変換器
Ca…セルコンデンサ
DC1…正側直流端子
DC2…負側直流端子
L…バッファリアクトル
S…スイッチング素子