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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047909
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20240401BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240401BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153681
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】391017540
【氏名又は名称】東芝ITコントロールシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】新井 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】窓岩 尚史
(72)【発明者】
【氏名】田中 彰
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA15
5H770BA11
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA23
5H770DA32
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA03W
5H770HA03X
5H770HA14W
5H770HA14X
5H770JA11W
5H770JA11X
5H770JA13Y
5H770JA18W
(57)【要約】      (修正有)
【課題】直流電圧が交流電圧の波高値より小さい状態であっても、所望の電力変換動作を実現できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置1は、第1直流コンデンサC1と、第2直流コンデンサC2と、第1スイッチングレグ5と、第2スイッチングレグ6と、を有する。正側アーム9と負側アーム10は、複数の両極性単位変換器Hを含む。制御装置20は、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の合計電圧が交流電源ACの波高値より小さいとき、後記する(1)(2)の制御を行う。(1)正側アーム9は、第1スイッチングレグ5が正出力しているときは両極性、負出力しているときは正極性の電圧を出力する。(2)負側アーム10は、第2スイッチングレグ6が正出力しているときは正極性、負出力しているときは両極性の電圧を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1直流コンデンサと、
前記第1直流コンデンサと直列に接続した第2直流コンデンサと、
前記第1直流コンデンサに並列に接続した第1スイッチングレグと、
前記第2直流コンデンサに並列に接続した第2スイッチングレグと、
交流電源と接続する交流端子と前記第1スイッチングレグの出力端子との間に直列に接続した複数の両極性単位変換器を含む正側アームと、
前記交流端子と前記第2スイッチングレグの出力端子との間に直列に接続した複数の両極性単位変換器を含む負側アームと、
前記第1直流コンデンサ、前記第2直流コンデンサ、前記第1スイッチングレグ、前記第2スイッチングレグ、前記正側アーム及び前記負側アームに接続され、これらの機器の入出力を検出又は制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記第1直流コンデンサと前記第2直流コンデンサの合計電圧が前記交流電源の波高値より小さいとき、
前記正側アームは前記第1スイッチングレグが正出力しているときは両極性、負出力しているときは正極性の電圧を出力し、
前記負側アームは前記第2スイッチングレグが正出力しているときは正極性、負出力しているときは両極性の電圧を出力する制御を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記単位変換器はセルコンデンサを含み、前記セルコンデンサの電圧×前記両極性単位変換器数は前記交流電源の波高値より大きいことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置
【請求項3】
前記制御回路は、前記単位変換器を制御するゲート信号を生成するにあたり、前記正側アームの前記単位変換器のゲート信号を生成する正側キャリア群と、前記負側アームの前記単位変換器のゲート信号を生成する負側キャリア群の位相を、前記第1直流コンデンサと前記第2直流コンデンサの合計電圧に基づいて決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1直流コンデンサと前記第2直流コンデンサの合計電圧は前記交流電源の波高値より小さいとき、前記正側アームの前記単位変換器のゲート信号を生成する正側キャリア群と前記負側アームの前記単位変換器のゲート信号を生成する負側キャリア群の位相を90度ずらすことを特徴とする請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第1スイッチングレグに与えるゲート信号のデューティ比と前記第2スイッチングレグに与えるゲート信号のデューティ比を変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御回路は、前記単位変換器と前記第1スイッチングレグと前記第2スイッチングレグとを制御するゲート信号を生成する回路であって、
前記第1直流コンデンサと前記第2直流コンデンサの電圧を検出し、
前記第1スイッチングレグが正出力のとき、前記正側アームが出力する電圧は前記第1直流コンデンサの電圧を含むように、前記第2スイッチングレグが負出力のとき、前記負側アームが出力する電圧は前記第2直流コンデンサの電圧を含むように、
前記単位変換器のゲート信号を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御回路は、前記第1スイッチングレグと、前記第2スイッチングレグと、複数の前記単位変換器とのゲート信号を生成する回路であって、
セルコンデンサ電圧の平均値制御部と、
前記平均値制御部から出力されたフィードバック操作量電流値に基づいて、電圧指令値を出力する循環電流制御部とを備え、
前記第1直流コンデンサの正側端子と前記第2直流コンデンサの負側端子に直流電圧源が接続されたとき、
前記平均値制御により、複数の前記単位変換器のそれぞれに含まれるセルコンデンサ電圧の平均値を所定の値とするフィードバック操作量電流値を演算し、
前記循環電流制御部からの前記電圧指令値に基づいて、前記正側アームと前記負側アームとを貫く方向の循環電流が前記フィードバック操作量電流値を含む循環電流指令値に追従するように制御することを特徴とする請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御回路は、直流コンデンサ電圧制御部を更に備え、
前記第1直流コンデンサの正側端子と前記第2直流コンデンサの負側端子に直流電流源が接続されたとき、
複数の前記単位変換器のそれぞれに含まれるセルコンデンサ電圧の平均値を所定の値とする第1フィードバック操作量電流値と、
前記第1直流コンデンサ及び前記第2直流コンデンサの電圧の合計値を所定の値とする第2フィードバック操作量電流値と、の和を演算し、
前記正側アームと前記負側アームとを貫く方向の循環電流が前記和を含む循環電流指令値に追従するように制御することを特徴とする請求項7に記載の電力変換装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、交流電力と直流電力とを変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電力と直流電力とを相互に変換する電力変換装置として、複数の単位変換器を多段に接続したモジュラー・マルチレベル変換器(MMC)の研究開発が進められている。MMCは、出力電圧を多レベル化することで半導体スイッチのスイッチングに伴う高調波電圧を低減することができる。これにより、電力変換装置のコスト上昇と、重量増加を招いていた大容量のフィルタを小さくすることができる。
【0003】
さらなる小型化に向けて、MMCの単位変換器の数を減らす回路構成として、中性点クランプ形モジュラー・マルチレベル変換器(NPC-MMC)が提案されている(特許文献1)。NPC-MMCは、直流電圧を分圧する2つのコンデンサと、それぞれのコンデンサに並列に接続した半導体スイッチで構成されるスイッチングレグを備え、スイッチングレグの交流出力に単位変換器を多段に接続した回路構成である。これにより、従来のMMCのおよそ半分の単位変換器で同等の電力変換動作が可能になる。
【0004】
しかし、NPC-MMCを畜電池や太陽光パネルなど直流電圧が比較的大きく変化する機器(電源若しくは負荷)と連系させると、運転中の状況によって直流端子の電圧が低下し、正常な運転を継続することができない。そのため、直流電源電圧が変動した場合でも、電力変換装置が運転し続けることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-146692
【特許文献2】特開2021-87262
【0006】
【非特許文献1】赤木泰文・萩原 誠:「モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCc)の分類と名称」,電気学会全国大会,4-043(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来は、変換器と蓄電池等の間に昇圧チョッパを接続し、変換器の直流電圧をある程度の値まで昇圧していた。しかし、昇圧チョッパの損失や大きさが問題で、NPC-MMCによる小型・高効率化を十分生かすことができなかった。
【0008】
また、特許文献2や非特許文献1では、負の電圧を出力できる両極性のブリッジ回路を単位変換器に採用したMMC(もしくはMMCc Double Star Bridge Cellと呼ばれる)を利用することで、直流端子の電圧が低下しても運転し続けられる構成が開示されている。しかしながら、NPC-MMCは、単位変換器の数を削減するために、直流側に2つのスイッチングレグと直流コンデンサを有する。スイッチングレグの動作や直流電圧が単位変換器の制御に影響を与えるため、単位変換器を両極性に変えるだけでは、直流電圧が低下した場合において所望の電力変換動作を実現することができない。
【0009】
本発明の実施形態は、上記課題を解決するためになされたものであり、直流電圧が交流電圧の波高値より小さい状態であっても、所望の電力変換動作を実現できる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の電力変換装置は、次のような構成を備える。
(1)第1直流コンデンサ。
(2)前記第1直流コンデンサと直列に接続した第2直流コンデンサ。
(3)前記第1直流コンデンサに並列に接続した第1スイッチングレグ。
(4)前記第2直流コンデンサに並列に接続した第2スイッチングレグ。
(5)交流電源と接続する交流端子と前記第1スイッチングレグの出力端子との間に直列に接続した複数の両極性単位変換器を含む正側アーム。
(6)前記交流端子と前記第2スイッチングレグの出力端子との間に直列に接続した複数の両極性単位変換器を含む負側アーム。
(7)前記第1直流コンデンサ、前記第2直流コンデンサ、前記第1スイッチングレグ、前記第2スイッチングレグ、前記正側アーム及び前記負側アームに接続され、これらの機器の入出力を検出又は制御する制御回路。
(8)前記制御回路は、前記第1直流コンデンサと第2直流コンデンサの合計電圧が前記交流電源の波高値より小さいとき、
前記正側アームは前記第1スイッチングレグが正出力しているときは両極性、負出力しているときは正極性の電圧を出力し、
前記負側アームは前記第2スイッチングレグが正出力しているときは正極性、負出力しているときは両極性の電圧を出力する制御を行う。
【0011】
実施形態の電力変換装置は、次のような構成を採用することができる。
(1)前記単位変換器はセルコンデンサを含み、前記セルコンデンサの電圧×前記両極性単位変換器数は前記交流電源の波高値より大きい。
【0012】
(2)前記制御回路は、前記単位変換器を制御するゲート信号を生成するにあたり、前記正側アームの前記単位変換器のゲート信号を生成する正側キャリア群と、前記負側アームの前記単位変換器のゲート信号を生成する負側キャリア群の位相を、前記第1直流コンデンサと前記第2直流コンデンサの合計電圧に基づいて決定する。
【0013】
(3)前記第1直流コンデンサと前記第2直流コンデンサの合計電圧は前記交流電源の波高値より小さいとき、前記正側アームの前記単位変換器のゲート信号を生成する正側キャリア群と前記負側アームの前記単位変換器のゲート信号を生成する負側キャリア群の位相を90度ずらす。
【0014】
(4)前記第1スイッチングレグに与えるゲート信号のデューティ比と前記第2スイッチングレグに与えるゲート信号のデューティ比を変更する。
【0015】
(5)前記制御回路は、前記単位変換器と前記第1スイッチングレグと前記第2スイッチングレグとを制御するゲート信号を生成する回路であって、
前記第1直流コンデンサと前記第2直流コンデンサの電圧を検出し、
前記第1スイッチングレグが正出力のとき、前記正側アームが出力する電圧は前記第1直流コンデンサの電圧を含むように、前記第2スイッチングレグが負出力のとき、前記負側アームが出力する電圧は前記第2直流コンデンサの電圧を含むように、
前記単位変換器のゲート信号を生成する。
【0016】
(6)前記制御回路は、前記第1スイッチングレグと、前記第2スイッチングレグと、複数の前記単位変換器とのゲート信号を生成する回路であって、
セルコンデンサ電圧の平均値制御部と、
前記平均値制御部から出力されたフィードバック操作量電流値に基づいて、電圧指令値を出力する循環電流制御部とを備え、
前記第1直流コンデンサの正側端子と前記第2直流コンデンサの負側端子に直流電圧源が接続されたとき、
前記平均値制御により、複数の前記単位変換器のそれぞれに含まれるセルコンデンサ電圧の平均値を所定の値とするフィードバック操作量電流値を演算し、
前記循環電流制御部からの前記電圧指令値に基づいて、前記正側アームと前記負側アームとを貫く方向の循環電流が前記フィードバック操作量電流値を含む循環電流指令値に追従するように制御する。
【0017】
(7)前記制御回路は、直流コンデンサ電圧制御部を更に備え、
前記第1直流コンデンサの正側端子と前記第2直流コンデンサの負側端子に直流電流源が接続されたとき、
複数の前記単位変換器のそれぞれに含まれる前記セルコンデンサ電圧の平均値を所定の値とする第1フィードバック操作量電流値と、
前記第1直流コンデンサ及び前記第2直流コンデンサの電圧の合計値を所定の値とする第2フィードバック操作量電流値と、の和を演算し、
前記正側アームと前記負側アームとを貫く方向の循環電流が前記和を含む循環電流指令値に追従するように制御する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態の全体構成を示す回路図である。
図2】第1実施形態におけるブリッジセルを示す回路図である。
図3】第1実施形態における各モードを示す回路図である。
図4】第1実施形態の動作波形を示すグラフである。
図5】第2実施形態において、直流電圧<交流電圧波高値の状態の交流電圧に含まれる高調波を示すグラフである。
図6】第2実施形態において、直流電圧>交流電圧波高値の状態の交流電圧に含まれる高調波を示すグラフ図である。
図7】第3実施形態の動作波形を示すグラフである。
図8】第4実施形態における制御回路の構成を示す回路図である。
図9】第5実施形態における制御回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
本発明の第1実施形態を図1により説明する。本実施形態の電力変換装置1は、交流電源ACと直流電圧源DCとの間に接続されている。電力変換装置1は、正側直流端子2と負側直流端子3を分割して中性点4電位を作るための直列接続された第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2を有する。第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2と並列に、第1スイッチングレグ5と第2スイッチングレグ6が接続されている。第1スイッチングレグ5は2つのスイッチング素子S1,S2を直列に接続し、第2スイッチングレグ6は2つのスイッチング素子S3,S4を直列に接続して構成される。
【0020】
本実施形態では、3相一括の第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2が記載されているが、3相個別に設け、それぞれが並列接続されていても良い。
【0021】
第1直流コンデンサC1と並列に接続された第1スイッチングレグ5の第1出力端子7と第2直流コンデンサC2と並列に接続された第2スイッチングレグ6の第2出力端子8との間に、単位変換器Hを直列接続して構成される正側アーム9及び負側アーム10を有するレグを接続する。単位変換器Hの直列数は、従来のMMCと比較して1/2でよい。正側アーム9と負側アーム10の接続点が交流端子11である。図1では、スイッチングに伴うリプル電流を抑制するために、バッファリアクトル12を介して、正側アーム9と負側アーム10を接続しているが、結合リアクトルや変圧器を介して接続しても良い。
【0022】
第1直流コンデンサC1、第2直流コンデンサC2、第1スイッチングレグ5、第2スイッチングレグ6、正側アーム9及び負側アーム10は、制御回路20に接続されている。制御回路20は、これらの機器の入出力を検出又は制御するもので、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の合計電圧が交流電源ACの波高値より小さいときにおいて、次のような制御を行う。
【0023】
(1)正側アーム9は第1スイッチングレグ5が正出力しているときは両極性、負出力しているときは正極性の電圧を出力する。
(2)負側アーム10は第2スイッチングレグ6が正出力しているときは正極性、負出力しているときは両極性の電圧を出力する。
【0024】
図2に両極性単位変換器Hの一例であるブリッジセル13を示す。ブリッジセル13は4つのスイッチング素子Sb1~Sb4とセルコンデンサCcによって構成される。セルコンデンサCcの電圧をVcとすると、図2の単位変換器Hの出力は、スイッチング素子Sb1~Sb4のスイッチング状態によって、Vc、―Vc、0の電圧を出力できる。正極性のVcと負極性の―Vcが出力できることから、この構成の単位変換器Hを両極性単位変換器と呼んでいる。セルコンデンサ電圧Vcを一定に制御するため、単位変換器Hはコンデンサ電圧検出回路14を有し、電圧検出信号Vsを制御回路20に送信する。
【0025】
各スイッチング素子Sb1~Sb4は制御回路20から送信されるゲート信号Gsにもとづいて駆動される。すなわち、制御回路20は正側アーム9の単位変換器Hのゲート信号Gsを生成する正側キャリア群と、負側アーム10の単位変換器Hのゲート信号Gsを生成する負側キャリア群の位相を、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の合計電圧に基づいて決定する。なお、位相の決定の具体例については、第2実施形態に記載する。
【0026】
[1-2.作用]
本実施形態の電力変換装置1の動作について説明する。図1に示す回路は第1スイッチングレグ5及び第2スイッチングレグ6の動作によって、両極性の単位変換器Hが出力すべき電圧が変わる。
【0027】
図3(1)~(4)にスイッチングレグの動作状態で分類したモード1~4を示す。モード1は、第1スイッチングレグ5と第2スイッチングレグ6が正出力の場合である。このとき、正側アーム9はVdc/2-Vacの電圧を、負側アーム10はVacの電圧を出力する必要がある。モード2は、第1スイッチングレグ5と第2スイッチングレグ6が負出力の場合である。このとき、正側アーム9は-Vacの電圧を、負側アーム10はVdc/2+Vacの電圧を出力する必要がある。モード3は、第1スイッチングレグ5が正出力で第2スイッチングレグ6が負出力の場合である。このとき、正側アーム9はVdc/2-Vacの電圧を、負側アーム10はVdc/2+Vacの電圧を出力する必要がある。モード4は、第1スイッチングレグ5が負出力で第2スイッチングレグ6が正出力の場合である。このとき、正側アーム9は-Vacの電圧を、負側アーム10はVacの電圧を出力する必要がある。
【0028】
図4は、直流電圧が交流電圧の波高値より小さい状態で、モード1とモード2を使用した波形である。交流電圧が正の半周期では、正側アーム9は両極性、負側アーム10は正極性の電圧を出力することで、モード1の状態を実現する。交流電圧が負の半周期では、正側アーム9は正極性、負側アーム10は両極性の電圧を出力することで、モード2の状態を実現する。これにより、直流電圧が交流電圧の波高値より小さい状態であっても、適切なモードを選択することができ、所望の電力変換動作を実現できる。各アーム9,10の電圧は最大でも交流電圧の波高値となるため、各アーム9,10のセルコンデンサ電圧Vcの合計値は、交流電圧の波高値以上とすることが望ましい。
【0029】
また、運転中のセルコンデンサ電圧Vcは上述の値以上で一定に保つ必要がある。しかしながら、直流電圧が低下し、各アーム9,10が両極性の電圧を出力すると、各アーム9,10が出力する電圧平均値が低下する。そのため、各アーム9,10が出力する電圧平均値の低下に応じて、正側負側アーム9,10を貫く循環電流Izを増加させるように制御する必要がある。循環電流IzはたとえばIz=(Ip+In)/2に従って計算できる。
【0030】
[1-3.効果]
本実施形態によれば、制御回路20は、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の合計電圧が交流電源ACの波高値より小さいときにおいて、前記4つのモードを実行するように、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の合計電圧、及び第1スイッチングレグ5と第2スイッチングレグ6の出力の正負を監視し、正側アーム9及び負側アーム10の出力電圧の極性を制御する。その結果、直流電圧が交流電圧の波高値より小さい状態であっても、適切なモードを選択することができ、所望の電力変換動作を実現できる。
【0031】
[2.第2実施形態]
本実施形態は、複数の単位変換器Hを有するマルチレベル変換器の一例を示すものである。マルチレベル変換器は、基本的に高調波が少ない変換器であるが、その運転状態や変調方法によって高調波の低減率が変わる。図5は、図1の回路で直流電圧源DCの電圧が交流電源ACの電圧の波高値より小さい状態における、高調波電圧を示した図である。
【0032】
本実施形態において、各アーム9,10は、3つの単位変換器Hで構成されており、それぞれ120度ずつずれた三角波キャリア群と電圧指令値Vaとを比較してゲート信号を生成している、いわゆる位相シフトPWM変調法を採用している。
【0033】
図5(1)は、正側と負側のアーム9,10で使用しているキャリア群の位相を一致させた場合で、図5(2)は、正側と負側のアーム9,10で使用しているキャリア群の位相を90度ずらした場合である。位相を一致させた場合より、位相をずらした場合の方が高調波が低減できていることが分かる。なお、位相角度はキャリア周期での角度であることに注意されたい。
【0034】
図6は、図1の回路で直流電圧が交流電圧の波高値より大きい状態における、高調波電圧を示した図で、図6(1)は、正側と負側のアームで使用しているキャリア群の位相を一致させた場合で、図6(2)は、正側と負側のアームで使用しているキャリア群の位相をずらした場合である。この場合は、図5の場合と異なり、位相を一致させた場合より位相をずらした方が高調波が大きい。つまり、高調波を低減するには、直流電圧の大きさによって、位相のずらし方を変える必要があることを示している。
【0035】
たとえば、直流電圧が交流電圧の波高値より小さいとき、正側アーム9の単位変換器Hのゲート信号Gsを生成する正側キャリア群と負側アーム10の単位変換器Hのゲート信号Gsを生成する負側キャリア群の位相を90度ずらすことが望ましい。
【0036】
前記の知見に基づき、第2実施形態では、制御回路20において、単位変換器Hを制御するゲート信号Gsを生成するにあたって、正側アーム9の単位変換器Hのゲート信号Gsを生成する正側キャリア群と負側アーム10の単位変換器Hのゲート信号Gsを生成する負側キャリア群の位相を、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の合計電圧に基づいて90度ずらすように決定する。
【0037】
このような構成を有する第2実施形態によれば、直流電圧が交流電圧の波高値を比較して、両者の大小に応じて、正側アーム9と負側フレーム10の単位変換器Hのゲート信号Gsの位相のずらし方を変えることによって、交流電圧における高調波が少なくなり、交流電圧の安定化が可能となる。
【0038】
[3.第3実施形態]
直流電圧の低下に伴い、各アーム9,10が出力する電圧平均値の低下に応じて、循環電流Izが増加すると、損失が増大する。第3実施形態では、第1スイッチングレグ5と第2スイッチングレグ6のオンオフデューティを変化させることで、モード3を利用できるようにする。
【0039】
すなわち、、第3実施形態では、制御回路20は、第1スイッチングレグ5に与えるゲート信号Gsのデューティ比を増加させ、第2スイッチングレグ6に与えるゲート信号Gsのデューティ比を低下させるというように、両者のデューティ比をを変更する制御を行う。例えば、第1実施形態では、図4の通り、スイッチング素子S1,S3のどちらもデューティ比0.5であるが、第3実施形態では、図7の通り、スイッチング素子S1のデューティ比を0.5より大きくし、スイッチング素子S3のデューティ比を0.5より小さくすることで、循環電流の増加を抑制する。
【0040】
図7に、第3実施形態における第1スイッチングレグ5と第2スイッチングレグ6のオンオフデューティを変化させた場合の波形を示す。図7では、制御回路20により、スイッチング素子S1のオン期間を交流電圧の正の半周期より長く、スイッチング素子S3のオン期間を交流電圧の正の半周期より短くしている。これにより、各アーム9,10が出力する電圧平均値の低下が抑制でき、循環電流Izの増加を抑制することができる。
【0041】
[4.第4実施形態]
図8は、蓄電池等の電圧源が直流端子に接続された場合の制御回路20の一例を示す。前記実施形態で説明したように、各アーム9,10は、単位変換器Hと第1スイッチングレグ5と第2スイッチングレグ6とを有しているので、本実施形態の制御回路20は、各アーム9,10に設けられた単位変換器Hに与えるゲート信号Gsを作成する回路を有する。
【0042】
図8において、交流電流指令値は、交流電流制御部21に入力され、コンパレータ22を経由して、スイッチング素子S1~S4のゲート信号Gsとして出力される。交流電流制御部21からは、正側アーム9と、負側アーム10のモード1及び2の制御信号が出力される。そのうち、正側アーム9のモード1及び2の制御信号は、反転器23、モード切換スイッチ24及び位相シフトPWM25を介して、正側アーム9の単位変換器ゲート信号Gsとして出力される。負側アーム10のモード1及び2の制御信号は、モード切換スイッチ24及び位相シフトPWM25を介して、正側アーム9の単位変換器ゲート信号Gsとして出力される。負側アーム10の位相シフトPWM25には、予め設定された正負キャリアの位相差が入力される。
【0043】
一方、循環電流Izの制御のため、セルコンデンサ電圧Vcの平均値制御部26が設けられ、そこから出力されたフィードバック操作量電流値Fiが循環電流制御部27に入力される。循環電流制御部27から出力された電圧指令値Vaは、1/2演算器28を経由して、交流電流制御部21から出力された正側アーム9及び負側アーム10のモード1及び2の制御信号に加算器29を経由して加算される。この場合、正側アーム9のモード1の制御信号には第1直流コンデンサ電圧が加算され、負側アーム10のモード2の制御信号には第2直流コンデンサ電圧が加算される。すなわち、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の電圧を検出し、第1スイッチングレグ5が正出力のとき、正側アーム9が出力する電圧は第1直流コンデンサC1の電圧を含むように、第2スイッチングレグ6が負出力のとき、負側アーム10が出力する電圧は第2直流コンデンサC2の電圧を含むように、単位変換器Hのゲート信号Gsを生成する。
【0044】
本実施形態において、セルコンデンサ電圧Vcの平均値制御部26は、すべての単位変換器Hのセルコンデンサ電圧Vcの平均値を所定の値に制御するフィードバック操作量電流値Fiを演算する。循環電流制御部27はフィードバック操作量電流値Fiを含む循環電流指令値に追従するように、電圧指令値Vaを生成する。
【0045】
モード1のときは、図3(1)に示すように、正側アーム9は第1直流コンデンサC1の電圧を電圧指令値Vaに加算して出力する。また、モード2のときは、図3(2)に示すように、負側アーム10は第2直流コンデンサC2の電圧を電圧指令値Vaに加算して出力する。これにより、直流電圧が低下した場合においても、セルコンデンサ電圧Vcを適切な値に制御することができる。
【0046】
すなわち、セルコンデンサ電圧Vcの平均値制御部26により、第1直流コンデンサC1の正側端子と第2直流コンデンサC2の負側端子に直流電圧源DCが接続されたとき、複数の単位変換器Hのそれぞれに含まれるセルコンデンサCcの電圧の平均値を所定の値とするフィードバック操作量電流値Fiを演算する。そして、正側アーム9と負側アーム10とを貫く方向の循環電流Izが、フィードバック操作量電流値Fiを含む循環電流指令値に追従するように、第1スイッチングレグ5と第2スイッチングレグ6と、複数の単位変換器Hとのゲート信号Gsを生成する。
【0047】
このような構成を有する本実施形態においては、直流端子に電圧源が接続された場合は、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の電圧は維持されるため、交流電流指令値は自由に与えることができる。交流電流が流れることでセルコンデンサ電圧Vcが低下するが、上述の通り、セルコンデンサ電圧Vcの平均値制御部26と循環電流制御部27によって、交流電流指令値は適切な値に制御される。
【0048】
[5.第5実施形態]
図9に太陽光発電等の電流源が直流端子に接続された場合の制御ブロックを示す。電流源が接続される場合、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の電圧を積極的に制御する必要がある。そのため、本実施形態では、制御回路20として、図8に示すセルコンデンサ電圧Vcの平均値制御部26に加えて、交流電流制御部21の前段に直流コンデンサ電圧制御部30が設けられている。
【0049】
セルコンデンサ電圧Vcの平均値制御部26は、すべての単位変換器Hのセルコンデンサ電圧Vcの平均値を所定の値に制御する第1フィードバック操作量電流値Fi1を演算する。直流コンデンサ電圧制御部30は、第1直流コンデンサC1及び第2直流コンデンサC2の電圧の平均値を所定の値とする第2フィードバック操作量電流値Fi2を演算する。循環電流制御部27は、第1フィードバック操作量電流値Fi1と第2フィードバック操作量電流値Fi2との和を加算器29により演算し、この和の値を含む循環電流指令値に追従するように、電圧指令値Vaを生成する。
【0050】
本実施形態では、平均値制御部26及び直流コンデンサ電圧制御部30の出力側には、乗算器31を設け、交流電流制御部21及び循環電流制御部27に入力する交流電流・循環電流に対して、所定の定数であるゲインK1~K4を乗算する。すなわち、直流コンデンサ電圧とセルコンデンサ電圧をそれぞれ制御するために必要な交流電流・循環電流は異なるため、乗算器31によりK1~K4で表される所定のゲインをかけることで、精度よく直流コンデンサ電圧とセルコンデンサ電圧を制御することができる。
【0051】
すなわち、制御回路20は、セルコンデンサ電圧Vcの平均値制御部26と直流コンデンサ電圧制御部30により、第1直流コンデンサC1の正側端子と第2直流コンデンサC2の負側端子に直流電流源DCが接続されたとき、複数の単位変換器Hのそれぞれに含まれるセルコンデンサCcの電圧の平均値を所定の値とする第1フィードバック操作量電流値Fi1と、第1直流コンデンサC1及び第2直流コンデンサC2の電圧の平均値を所定の値とする第2フィードバック操作量電流値Fi2との和を、加算器29により演算する。そして、正側アーム9と負側アーム10とを貫く方向の循環電流Izが前記和を含む循環電流指令値に追従するように、第1スイッチングレグ5と第2スイッチングレグ6と、複数の単位変換器Hとのゲート信号Gsを生成する。
【0052】
このような構成を有する本実施形態では、モード1のときは、図3(1)に示すように、正側アーム9は第1直流コンデンサC1の電圧を電圧指令値Vaに加算して出力する。また、モード2のときは、図3(2)に示すように、負側アーム10は第2直流コンデンサC2の電圧を電圧指令値Vaに加算して出力する。これにより、直流電圧が低下した場合においても、セルコンデンサ電圧Vcを適切な値に制御することができる。
【0053】
また、直流端子に電流源が接続された場合は、第1直流コンデンサC1と第2直流コンデンサC2の電圧も制御する必要がある。このため、セルコンデンサ電圧Vcの平均値制御と直流コンデンサ電圧制御部30の操作量に適切なゲインを乗じて加算した交流電流指令値に追従するよう交流電流制御をおこなう。これにより、セルコンデンサ電圧Vc及び直流コンデンサ電圧を適切な値に制御することができる。
【0054】
[6.他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
S1~S4…スイッチング素子
C1…第1直流コンデンサ
C2…第2直流コンデンサ
Cc…セルコンデンサ
H…単位変換器
Vs…電圧検出信号
Va…電圧指令値
Gs…ゲート信号
Fi…フィードバック操作量電流値
1…電力変換装置
2…正側直流端子
3…負側直流端子
4…中性点
5…第1スイッチングレグ
6…第2スイッチングレグ
7…第1出力端子
8…第2出力端子
9…正側アーム
10…負側アーム
11…交流端子
12…バッファリアクトル
13…ブリッジセル
14…コンデンサ電圧検出回路
20…制御回路
21…交流電流制御部
22…コンパレータ
23…反転器
24…モード切換スイッチ
25…位相シフトPWM
26…平均値制御部
27…循環電流制御部
28…1/2演算器
29…加算器
30…直流コンデンサ電圧制御部
31…乗算器

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9