IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニッタン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-消火システム 図1
  • 特開-消火システム 図2
  • 特開-消火システム 図3
  • 特開-消火システム 図4
  • 特開-消火システム 図5
  • 特開-消火システム 図6
  • 特開-消火システム 図7
  • 特開-消火システム 図8
  • 特開-消火システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004791
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】消火システム
(51)【国際特許分類】
   A62C 37/38 20060101AFI20240110BHJP
   G08B 17/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A62C37/38
G08B17/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104628
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】小林 耕起
(72)【発明者】
【氏名】山納 正人
【テーマコード(参考)】
2E189
5G405
【Fターム(参考)】
2E189BA03
2E189BB06
2E189BD06
2E189GA05
2E189GB00
5G405AB01
5G405AB02
5G405CA29
(57)【要約】
【課題】消火区域内に人が居る場合に消火ガスの放出を停止または遅らせることで事故の発生を回避することができる消火システムを提供する。
【解決手段】消火剤放出装置と、開始信号を受けて放出動作を開始する起動装置と、消火区域内に存在する携帯送信器から送信される所定周波数の電波を受信するアンテナと、起動装置へ開始信号を送信する制御装置とを備えた消火システムにおいて、前記制御装置は、アンテナから伝送された電波信号を受信する電波信号受信手段と、消火区域において火災の発生が検出されてからの経過時間を計時する計時手段と、火災発生の判断時から開始信号の送信開始までの放出開始時間を設定する放出開始時間設定手段と、経過時間が放出開始時間に達したと判断すると開始信号の送信を決定する放出決定手段とを有し、電波信号受信手段が電波信号を受信すると放出開始時間を既定の長さより長く設定変更するようにした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火区域に設置され消火剤の放出を行う消火剤放出装置と、
消火区域において消火剤の放出動作を開始する開始信号を受けて当該放出動作を開始する起動装置と、
前記消火区域に設置され当該消火区域内に存在する携帯送信器から送信される所定周波数の電波を受信するアンテナと、
所定の条件の成立に基づいて前記起動装置へ前記開始信号を送信する制御装置と、
を備える消火システムであって、
前記制御装置は、
前記アンテナから伝送された電波信号を受信する電波信号受信手段と、
前記消火区域において火災の発生が検出されてからの経過時間を計時する計時手段と、
火災発生の判断時から前記開始信号の送信開始までの放出開始時間を設定する放出開始時間設定手段と、
前記経過時間が前記放出開始時間に達したと判断すると前記開始信号の送信を決定する放出決定手段と、
を有し、
前記放出開始時間設定手段は、前記電波信号受信手段が前記携帯送信器からの電波信号を受信すると前記放出開始時間を既定の長さより長く設定変更する
ことを特徴とした消火システム。
【請求項2】
前記アンテナはアレイアンテナであり、前記アレイアンテナが前記消火区域内に分散して複数個設置されており、
前記制御装置は、
前記消火区域についてのマップ情報を予め記憶する記憶手段と、
前記複数のアレイアンテナから受信した電波信号を処理して前記携帯送信器の存在位置を推定する位置推定手段と、
をさらに備え、
前記放出開始時間設定手段は、前記位置推定手段により推定された前記携帯送信器の存在位置と前記記憶手段から読み出した前記消火区域のマップ情報を参照して前記放出開始時間を設定する
ことを特徴とした請求項1に記載の消火システム。
【請求項3】
前記マップ情報には、前記消火区域をブロック分けした見取り図およびそれぞれのブロックから前記消火区域の出入り口までの移動経路長と前記ブロックの識別番号との対応を表わすテーブルデータが含まれ、
前記放出開始時間設定手段は、前記位置推定手段により推定された前記携帯送信器の存在位置を含むブロックについての前記移動経路長が長いほど前記放出開始時間を長く設定変更する
ことを特徴とした請求項2に記載の消火システム。
【請求項4】
前記放出決定手段は、前記経過時間が前記放出開始時間に達したときに、前記位置推定手段が前記消火区域内に前記携帯送信器の存在を検知していない場合には、前記開始信号の送信を決定することを特徴とした請求項3に記載の消火システム。
【請求項5】
前記消火区域に設置された音声出力手段をさらに備え、
前記制御装置は、火災の発生が検出されると前記音声出力手段に対して、前記携帯送信器における電波送信操作を要請するアナウンスを出力させる信号を送信する
ことを特徴とした請求項1~4のいずれかに記載の消火システム。
【請求項6】
前記消火区域に設置された火災感知器をさらに備え、
前記制御装置は、前記火災感知器からの信号に基づいて火災の発生を判断する機能を備え、
前記消火区域に配設され前記アンテナからの信号を伝送する信号線および前記音声出力手段から出力する音声案内に関わる信号を伝送する信号線を含む信号線群と、前記火災感知器からの信号を伝送する信号線と、は互いに離間して敷設されていることを特徴とした請求項5に記載の消火システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火剤(消火ガスを含む)を用いた消火システムに関し、消火区域内に人が居る状態で消火剤が放出される事故が発生するのを防止するために利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式駐車場、コンピューターサーバールーム、ライン生産方式の工場・工房など、閉鎖された空間(防護区画)において発生した火災を、窒素や二酸化炭素のような不燃性ガス(以下、消火ガス)の一斉放出により消火するシステムが普及している。消火ガスには、配管の工事性や放出時間を考慮して、窒素ガスやハロンガスなどが用いられているが、一部に二酸化炭素ガスを用いた消火システムもある。
従来、消火ガスを用いた消火システムにおいては、人為的な判断ミスの他、防護区画(消火区域)内にて作業員が点検作業中に、火災検知信号を伝送する信号線を誤って切断することで意図しない信号が起動装置(制御装置)へ送信され、火災の発生と判断されてしまった結果、消火ガスが放出されるという事故の発生が報告されている。
【0003】
上記のような事故の発生を防止する観点から、徐々にガス濃度を高くすることを目的として、ガスの放出量を制限する遅延放出手段や火災の発生している防護区画へ二酸化炭素を供給する配管のガス通過量を制限する手段を設け、ガスの放出開始から所定時間後、またはガス濃度が所定レベルに達すると、遅延放出手段が解除され一斉に放出されるようにした二酸化炭素消火設備に関する発明が特許文献1に開示されている。また、特許文献1には、防護区画内に、二酸化炭素の放出を停止する緊急停止スイッチを設けることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-39603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術によれば、火災発生時に消火ガスの放出が見込まれる状態になったことを認識した作業員が緊急停止スイッチの操作ボタンを押すことで放出開始を停止するなどして事故の発生の防止ができる。しかし、緊急停止スイッチの位置を目立つように表示していても気が動転していると見落とす危険性がある。一方で、見落とさないよう緊急停止スイッチの操作ボタンを防護区画内に数多く設置するのは現実的でなく、防護区画内の構造、設備のレイアウトによっては、操作ボタンの設置位置にたどり着くまでに時間がかかり、緊急停止スイッチの操作が消火ガスの放出開始までに間に合わない場合があるという課題がある。
【0006】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、消火剤を用いた消火システムにおいて、所定箇所に設置された緊急停止スイッチに依存せずに、消火区域内に人が居る場合には、消火ガスの放出を停止または遅らせることで事故の発生を回避することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
消火区域に設置され消火剤の放出を行う消火剤放出装置と、
消火区域において消火剤の放出動作を開始する開始信号を受けて当該放出動作を開始する起動装置と、
前記消火区域に設置され当該消火区域内に存在する携帯送信器から送信される所定周波数の電波を受信する複数のアンテナと、
所定の条件の成立に基づいて前記起動装置へ前記開始信号を送信する制御装置と、
を備える消火システムにおいて、
前記制御装置は、
前記アンテナから伝送された電波信号を受信する電波信号受信手段と、
前記消火区域において火災の発生が検出されてからの経過時間を計時する計時手段と、
火災発生の判断時から前記開始信号の送信開始までの放出開始時間を設定する放出開始時間設定手段と、
前記経過時間が前記放出開始時間に達したと判断すると前記開始信号の送信を決定する放出決定手段と、
を有し、
前記放出開始時間設定手段は、前記電波信号受信手段が前記携帯送信器からの電波信号を受信すると前記放出開始時間を既定の長さより長く設定変更する
ように構成したものである。
【0008】
上記のような構成を有する消火システムによれば、消火区域内に所定周波数の電波を送信する携帯送信器が存在すると判断すれば、所定箇所に設置された緊急停止スイッチに依存せずに、消火剤の放出開始を遅らせることができ、それによって消火区域内に居る人が退出する時間を確保し、事故の発生を回避して安全に消火剤の放出を開始することができる。
【0009】
ここで、望ましくは、前記アンテナはアレイアンテナであり、前記アレイアンテナが前記消火区域内に分散して複数個設置されており、
前記制御装置は、
前記消火区域についてのマップ情報を予め記憶する記憶手段と、
前記複数のアレイアンテナから受信した電波信号を処理して前記携帯送信器の存在位置を推定する位置推定手段と、
をさらに備え、
前記放出開始時間設定手段は、前記位置推定手段により推定された前記携帯送信器の存在位置と前記記憶手段から読み出した前記消火区域のマップ情報を参照して前記放出開始時間を設定するように構成する。
【0010】
上記のような構成によれば、複数のアレイアンテナから受信した電波信号に基づいて携帯送信器を保持する作業者等の存在位置を推定することができ、消火区域のマップ情報を参照して、推定された存在位置に応じて放出開始時間を設定できるため、より適切に消火区域内に居る人が退出する時間を確保し、事故の発生を回避することができる。
【0011】
さらに、望ましくは、前記マップ情報には、前記消火区域をブロック分けした見取り図およびそれぞれのブロックから前記消火区域の出入り口までの移動経路長と前記ブロックの識別番号との対応を表わすテーブルデータが含まれ、
前記放出開始時間設定手段は、前記位置推定手段により推定された前記携帯送信器の存在位置を含むブロックについての前記移動経路長が長いほど前記放出開始時間を長く設定変更するように構成する。
【0012】
上記のような構成によれば、消火区域内の構造等に起因して出入り口までの直線距離と移動経路長とが必ずしも一致しない場合でも、予め把握しておきマップ化した移動経路長を参照することで、放出開始時間を、携帯送信器が存在するブロックから消火区域の出口までの移動距離に比例した長さに変更するため、火災発生時に消火区域内の出入り口から遠い場所に人が居たとしても退出する時間を確保し事故の発生を回避することができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記放出決定手段は、前記経過時間が前記放出開始時間に達したときに、前記位置推定手段が前記消火区域内に前記携帯送信器の存在を検知していない場合には、前記開始信号の送信を決定するように構成する。
かかる構成によれば、火災発生と判断した際に消火区域内に携帯送信器が存在しないあるいは存在しなくなったと判定すると、速やかに消火剤を放出させて消火を実行することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記消火区域に設置された音声出力手段をさらに備え、
前記制御装置は、火災の発生が検出されると前記音声出力手段に対して、前記携帯送信器における電波送信操作を要請するアナウンスを出力させる信号を送信するように構成する。
かかる構成によれば、消火区域内で火災が発生したと制御装置が判断した場合に、携帯送信器における電波送信操作を要請するアナウンスが出力されるため、消火剤放出開始前に消火区域内に携帯送信器を保持する作業者等が存在すれば、携帯送信器が送信した電波を受信して放出開始時間を遅らせることができる。
【0015】
さらに、望ましくは、前記消火区域に設置された火災感知器をさらに備え、
前記制御装置は、前記火災感知器からの信号に基づいて火災の発生を判断する機能を備え、
前記消火区域に配設され前記アンテナからの信号を伝送する信号線および前記音声出力手段から出力する音声案内に関わる信号を伝送する信号線を含む信号線群と、前記火災感知器からの信号を伝送する信号線と、は互いに離間して敷設されているように構成する。
【0016】
上記のような構成によれば、アンテナからの信号を伝信する信号線および音声出力手段から出力する音声案内に関わる信号を伝送する信号線を含む信号線群と、火災の発生の検知信号を伝送する信号線と、が同時に切断された状態が発生する可能性が低くなり、システムの信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る消火システムによれば、所定箇所に設置された緊急停止スイッチに依存せずに、消火区域内に人が居る場合には、消火ガスの放出を停止または遅らせることで事故の発生を回避することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る消火システムの一実施形態を示す概略構成図である。
図2】実施形態の消火システムの詳細を示すブロック図である。
図3】実施形態の消火システムが適用される防護区画としての消火区域の一例として、ライン生産方式の工場のレイアウトを示す見取り図である。
図4図3の見取り図におけるブロックの分割の仕方の例を示す説明図である。
図5】実施形態の消火システムにおけるブロック番号と消火剤放出開始時間の遅延時間との関係を示すデータテーブルである。
図6】実施形態の消火システムにおけるアレイアンテナによる受信電波の方向の推定方法を示す模式図である。
図7】実施形態の消火システムにおける携帯送信器から送信された電波が複数のアレイアンテナにより受信される様子を示す説明図である。
図8】実施形態の消火システムにおける複数のアレイアンテナにより受信された電波の到来方向に基づいて作業者の位置を推定する仕方を示す説明図である。
図9】実施形態の消火システムにおける消火起動処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る消火システムの一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の消火システムの概略構成を示す。図1に示すように、本実施形態の消火システムは、閉鎖された空間を有するライン生産方式の工場などの消火区域(防護区画)PA内部の所定箇所に配設された火災感知器11、消火区域内部の各箇所に配設された消火ガスの噴射ノズル12、同じく消火区域内部の各箇所に配設されたアレイアンテナおよびスピーカーを内蔵した機器セット13、消火ガスが充填されたガスボンベ14、噴射ノズル12とガスボンベ14とを接続するガス配管15を備えている。
【0020】
また、本実施形態の消火システムは、火災感知器11や機器セット13内のアレイアンテナの受信電波に基づいて火災発生の有無や消火ガス放出の要否の判断を行う制御装置16、該制御装置16が消火ガス放出要と判断した場合にガスボンベ14の接続口またはガス配管15の始端部にある弁を開放して噴射ノズル12より消火ガスを放出させる起動装置17、火災感知器11および機器セット13と制御装置16とを接続する信号線18A,18B、消火区域の出入り口の近傍に設けられた放出表示灯19を備えている。
さらに、上記消火システムとは別に、消火区域内部の所定箇所に配設された火災感知器21と、信号線22を介して火災感知器21からの検知信号を受信して火災の発生の判断を行う火災受信機23とを備えた火災報知システムが設けられており、火災受信機23と上記消火システムの制御装置16とは信号線24を介して通信可能に接続されている。
【0021】
上記機器セット13は、図2に示すように、アレイアンテナ31およびスピーカー32を内蔵している。
火災感知器11と制御装置16とを接続する信号線18Aと、機器セット13と制御装置16とを接続する信号線18Bとは、一定以上の距離をおいて離間した状態で敷設されている。これにより、信号線18Aと18Bとが同時に切断された状態が発生する可能性が低くなり、システムの信頼性が高くなる。
同様の理由で火災感知器21と火災受信機23を結ぶ信号線22、火災受信機23と制御装置16を結ぶ信号線24も可能な限り離間した状態で敷設されることが望ましい。
【0022】
制御装置16は、例えばCPU(Central Processing Unit)、CPUが実行するプログラムを格納した不揮発性メモリ、作業用のRAM(Random Access Memory)などからなる汎用のデータ処理装置により構成することができる。
なお、本実施形態においては、制御装置16により統括制御される消火システムと火災受信機23により統括制御される火災報知システムとが別個に構成されているが、例えば火災受信機23が制御装置16の機能も備えることで、火災報知機能と消火機能を有する一体のシステムとして構成することも可能である。その場合、消火区域内に配設されたすべての火災感知器(11,21)は火災受信機23に接続される。
なお、消火システムのみで実現した場合、消火区域内に配設されたすべての火災感知器(11,21)は制御装置16に接続される。
【0023】
また、制御装置16は、起動装置17を作動させて消火ガスの放出を開始もしくは実行したことを、火災受信機23または関係者が保有する携帯端末へ無線で知らせる機能を備えるように構成しても良い。
さらに、本実施形態においては、制御装置16が火災感知器11からの信号に基づいて火災発生と判断しており、かつ火災受信機23が消火区域内の火災感知器21からの信号に基づいて火災発生と判断していると起動装置17を作動させて消火ガスを放出させるが、制御装置16が火災感知器11からの信号に基づいて火災発生と判断していない場合であっても、火災受信機23が消火区域内の火災感知器21からの信号に基づいて火災発生と判断して制御装置16へ情報もしくは指令を送信してきた場合には、起動装置17を作動させて消火ガスを放出させるようにしても良い。逆に、火災感知器21が火災を検知していなくても火災感知器11が火災を検知した場合には、制御装置16から火災受信機23へ火災検知情報および消火ガスの放出の情報を送信するようにしても良い。
いずれの場合も、各システムで1つの火災感知器11、21が火災を検知していることを条件としたのでは、非火災報(誤報)の発生が懸念される面があるので、複数の火災感知器11、21が火災を検知していることを条件とするのが好ましい。この場合、複数の火災感知器11、複数の火災感知器21、火災感知器11と火災感知器21の組み合わせとすることができる。さらには、熱感知器と煙感知器とを組み合わせてもよい。
【0024】
図2には、上記制御装置16の具体的な構成例が示されている。
制御装置16は、信号線18Aを介して感知器11より送られている信号や信号線18Bを介して機器セット13内のアレイアンテナ31から伝送された電波信号を受信する信号送受信部61と、演算処理部62、記憶部63、火災受信機23等の外部装置との間の通信を行う通信部64、起動装置17や放出表示灯19に対する信号を出力する出力部65を備えており、記憶部63には、基本となるガス放出開始時間の情報(既定時間)、放出開始を遅らせる増加時間に関する情報、スピーカー32より出力する複数のメッセージ(音声案内情報)などが記憶されている。
【0025】
演算処理部62は、信号送受信部61が信号線18Bを介して受信したアレイアンテナ31からの信号に基づいて防護区画内の携帯送信器の位置を推定する位置推定手段62A、感知器11からの信号に基づいて火災発生の判断および消火ガスの放出の決定を行うガス放出決定手段62B、時刻を計時する計時手段(タイマ)62C、位置推定手段62Aの推定結果に基づいて放出開始時間を設定する放出開始時間設定手段62D、メッセージ選択手段62E、その他の手段を備えており、これらの手段は、演算処理部62を構成するCPU(マイクロプロセッサ)とCPUが実行するプログラムとによって実現される。記憶部63は、半導体メモリあるいはハードディスクなどの記憶装置により構成される。演算処理部62は、複数の素子からなる電子回路として構成することも可能である。
【0026】
本実施形態においては、制御装置16が火災感知器11、21からの信号に基づいて火災発生と判断した場合に、直ちに消火ガスの放出を開始させるのではなく、先ずスピーカー32に対して音声信号を送信して、携帯送信器による電波送信を要請する事前アナウンスを行い、アレイアンテナ31から伝送された電波信号に基づいて消火区域内に人がいるか否かを判定する。そして、人が存在していると判断した場合には、人のいる位置に応じた時間だけ消火ガスの噴射(放出)を遅らせるというものである。
【0027】
具体的には、機器セット13に内蔵されているスピーカー32を利用して、火災発生時に、携帯送信器より所定の周波数の電波を発する操作を行うように音声出力を行い、それに応じて消火区域内にいる作業者が携帯送信器の所定のボタンを操作することで送信された電波をアレイアンテナ31が受信した場合に制御装置16がアレイアンテナ31から伝送された電波信号の処理を行い、人の有無および位置の判断を行う。
作業者が保持する携帯送信器としては、発信指令ボタンを備えた携帯型ビーコンやブルートゥース(登録商標)など所定周波数の電波信号を発する機能を備えたスマートフォンなどが考えられる。スマートフォンを利用する場合には、所定周波数の電波信号を発する機能を実現するための専用のアプリケーションプログラムを作成してインストールしておき、消火区域に入る際には、そのアプリを立ち上げておくようにすることが考えられる。
【0028】
ところで、火災感知器11からの信号に基づいて制御装置16が行う火災発生の判断には、実際に火災が発生している場合のみではなく、信号線18Aの切断により火災が発生したと判断されるのに等しい信号が制御装置や受信機に入力された場合も含まれる。また、火災を感知して装置が起動してから消火剤(消火ガス)の放出まで、消火剤に二酸化炭素を用いた場合には最低20秒とすることが法令で定められており、上限はないので、消火ガスの放出を遅らせることは、法令遵守の観点および人命優先の観点からも問題はない。
【0029】
次に、図3図9を用いて、上記構成の消火システムにおいて、制御装置16が起動装置17を作動させて消火ガスの放出を開始させる判断を行う際の基本的な考え方について説明する。このうち、図3は、本実施形態の消火システムが適用される防護区画としての消火区域の一例として、ライン生産方式の工場のレイアウト例を示す見取り図である。
図3に示す見取り図において、符号L1~L4が付されているのがベルトコンベアなどを備えた生産ライン、符号R1,R2が付されているのは部品や工具が置かれる棚である。なお、図3においては、図面の右下に消火区域の出入り口Dがあるものとする。
【0030】
本実施形態の消火システムにおいては、図3に示す消火区域を、図4に示すように、複数のブロックに分割し、出入り口Dからの移動距離に応じて各ブロックに番号を付与する。図4に示す消火区域にあっては、生産ラインL1~L4があることで、各ブロックの出入り口Dからの直線距離と出入り口Dからの移動距離とは異なる。そのため、例えば図4の点線B1,B2で囲まれた範囲のブロックは、出入り口Dからの直線距離は小さいが移動距離が大きいため、番号「7」、「8」が付与されているブロックよりも大きな番号が付されることとなる。一方、制御装置16の記憶部63内に、図5に示すような、ブロック番号と放出開始遅延時間との対応関係を示すテーブルデータが記憶されている。
【0031】
ここで、アレイアンテナ31で受信した電波に基づいて、電波を発した携帯送信器の位置を推定する具体的な方法について説明する。なお、実際には、各アレイアンテナ31に携帯送信器からの直接の電波のみならず壁や天井などで反射した電波が入るため、反射波を考慮すると処理は複雑になるが、反射波は無視できるものとして理想化して説明する。
図7に示すように、消化区域内の複数箇所にアレイアンテナ31が分散して配設されている場合に、作業者が保持する携帯送信器40から無指向で発せられた電波は、複数のアレイアンテナ31により受信される。
【0032】
ここで、図6に示すように、各アレイアンテナ31における2つのアンテナA1,A2間の距離をd、アンテナA1とA2で受信した電波の位相差をφ、電波の波長をλとすると、電波の到来方向θは、次式、
θ=arcsin(φ・λ/(2π・d))
で求めることができる。なお、1つのアレイアンテナ31に3個以上のアンテナが含まれる場合には、任意の2つのアンテナの受信電波について上記式により算出したθあるいは任意の2つのアンテナの受信電波について、それぞれ上記式により算出したθの平均値を検出方向として推定するようにしても良い。
【0033】
上記式により、複数のアレイアンテナ31について受信電波の方向を推定したならば、図8に示すように、各アレイアンテナ31より電波の到来方向を示す矢印R1~R6をレイアウトマップ上に仮想的に描き、各矢印R1~R6で囲まれた領域を、携帯送信器40を保持する作業者の存在位置Pとして推定する。そして、この存在位置Pが属するブロックの番号(図8の場合は「11」)を、制御装置16の記憶部63内に記憶されている図4に示すマップの情報を参照して特定した後、図5のテーブルを参照して消火ガスの噴出開始までの遅延時間を決定する。これにより、作業者の位置から出口までの距離に応じて遅らせる時間を適切に設定することができる。
【0034】
また、消火ガスの放出開始までの時間を遅らせる際には、例えば「火災が発生しています。消火ガスを放出します。あと〇分以内に非常出口から退去してください。」といった内容のアナウンスをスピーカー32により行う。その結果、出入り口から遠く離れた場所で作業をしている作業者が逃げ遅れるのを防止することができる。
さらに、火災発生のアナウンスを聞いて退避移動をする作業者が移動途中で、携帯送信器より電波を再度発した場合には、その電波を受信して存在位置Pを再推定し、遅延時間の見直し、再設定を行うようにしても良い。また、何回か放出を遅らせた時間が経過しても、消火区域内に人が存在していると判断した場合、基本的には、消火ガスの放出を中止する。
【0035】
次に、本実施形態の消火システムにおける制御装置16による消火起動処理の具体的な手順の一例を、図9のフローチャートを用いて説明する。なお、このフローチャートに従った消火起動処理は、制御装置16の電源が投入されることにより開始される。
制御装置16は、図9の消火起動処理を開始すると、先ず火災感知器11からの検知信号および火災受信機23からの情報信号をチェック(あるいは火災感知器11からの検知信号または火災受信機23からの情報信号をチェック)して、対象の消火区域内で火災が発生しているか否か判断する(ステップS1)。そして、火災が発生している(Yes)と判断するステップS2へ進み、タイマ62Cによる計時を開始するとともに、放出開始時間を既定値に設定する。
【0036】
その後、制御装置16は、スピーカー32による音声案内処理(ステップS11,S12)と、人の有無を確認した上で消火ガスの放出を開始させる安全確認放出処理(ステップS21~S25)を、並行して実行する。なお、図9のフローチャートの左側の音声案内処理(S11,S12)は、タイマ割込み等によりシステムがリセットもしくは停止ボタンが操作されるまで、所定の周期で絶え間なく繰り返し実行する。一方、図9のフローチャートの右側の安全確認放出処理(S21~S25)は、ステップS2で起動したタイマ62Cが放出開始時間の計時を終了するまで、処理の目的を達成するのに有意な時間間隔(例えば放出開始時間の半分の時間)で繰り返し実行する。
【0037】
左側の音声案内処理においては、先ずステップS11で、「火事です。火事です。消火剤を放出します。危険ですから避難してください。」といった法令で定められた所定内容のアナウンスを1回行う。続いて、携帯送信器による電波発生操作の要請のための音声案内(1回)を実行する時間を確保する(ステップS12)。
なお、ステップS12で確保した時間に音声案内が実行される際に、ステップS11で行なったアナウンスに続けて開始されることで、内容を聴き取りにくくなるのを回避するため、ステップS11のアナウンスとステップS12のアナウンスとの間に、数秒程度のインターバルを設けるのが望ましい。
【0038】
一方、安全確認放出処理においては、先ずステップS21で、携帯送信器からの所定周波数の電波を受信したか否かすなわち消火区域内に人が居るか否かを判断する。そして、人が居ない(No)と判断すると、ステップS22~S24をスキップしてステップS24へ移行する。また、ステップS21で人が居る(Yes)と判断すると、ステップS22へ進み、受信電波に基づく位置推定処理を実行した後、推定した位置(ブロック番号)からテーブルを参照して放出開始時間を所定時間だけ増加(延長)する(ステップS23)。
【0039】
その後、ステップS24へ移行して、ステップS2で計時を開始したタイマの計時時間が、設定された放出開始時間よりも長くなったか否か判定する。そして、タイマの計時時間が、設定された放出開始時間よりも長くなった(Yes)と判定したときは、ステップS25へ進んで、起動装置17へ信号を送って消火ガスの放出を開始させ、処理を終了する(符号A)。一方、ステップS24で、タイマの計時時間が、設定された放出開始時間に達していない(No)と判定したときは、処理を中断し所定時間後に再度ステップS21から処理を開始する。
【0040】
上記のような処理を繰り返し実行することで、携帯送信器からの電波を受信した場合には、放出開始時間を延長することができ、消火区域内にいる人が消火ガス放出開始前に退出する時間を確保することができる。また、人が居ると予想される場所から出口までの距離に応じて放出開始時間を延長することができる。
なお、図9のフローチャートでは、ステップS21で消化区域内に人が居る(Yes)と判断した場合には、人が居ると推定した位置から出口までの距離に応じた所定の放出開始時間に変更しているが、放出開始時間の変更および消火ガスの放出開始をせずにそのまま処理を終了するようにしても良い。
【0041】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、消火区域に配設する機器セット13に、アレイアンテナ31とスピーカー32を設けるようにしているが、マイクを追加して音声も取得できるように構成してもよい。
また、上記実施形態では、消火区域にアレイアンテナ31を設置して携帯送信器40を保持する人の存在を検知し、放出開始時間を遅延するようにしたシステムを示したが、消火区域内の適切な位置に緊急停止スイッチを補助的に設置するように構成しても良い。
【0042】
さらに、上述した実施形態では、火災の発生を火災感知器の出力に基づいて判断するようにしているが、これに限定されず、例えば火の手や煙の存在を目視で確認した人(システムや建物の管理者、あるいは偶然居合わせた第三者など)が火災受信機や発信機を操作して、火災の発生を制御装置16に知らせることができるように構成してよい。
この場合でも、本発明によれば、消火区画内に人がいるにもかかわらず無人であると誤判断して消火ガスの噴射の開始を試みても、消火区画内にいる人がガスの噴射を察知して携帯送信器を操作すればガスの噴射を遅らせられるので事故を防ぐことができる。
また、火災発生後、無人であることが確実に判明している場合には、適宜手動で消火ガスの放出を開始させることができるようにする機能を設けてもよい。さらには、システム(制御装置16)が無人であると判断していても、人がいることが何らかの手段で判明している場合には、手動による操作入力で消火ガスの噴射を開始しないようにする機能を設けてもよい
【0043】
さらに、以上述べてきた実施の形態においては、アレイアンテナは複数個設置されることとしていたが、そのような構成に限定されない。例えば消火区域がさほど広くなく、消火区画内の構造上、1つのアレイアンテナで求めた電波の到来方向から携帯送信器のおおよその位置が特定できる場合には必ずしも複数個設置する必要は無く1つであっても良い。
なお、この場合、例えば消火区域の天井の1辺や隅にアレイアンテナを設置して、携帯送信器からの電波を確実に受信できる場合には、上述した実施の形態と概ね同等の効果を奏することができる。
また、火災感知器の感知領域が広くなくてもよい場合には、設置基準に従って現場状況に応じた種別の火災感知器を1つ以上設置すればよい。
【符号の説明】
【0044】
11 火災感知器
12 ガス噴射ノズル(消火剤放出装置)
13 機器セット
14 ガスボンベ(消火剤放出装置)
15 ガス配管
16 制御装置
17 起動装置
18 信号線
19 放出表示灯
21 火災感知器
22 信号線
23 火災受信機
24 信号線
31 アレイアンテナ(電波受信手段)
32 スピーカー(音声出力手段)
40 携帯送信器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9