(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047913
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】柱と杭との接合構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20240401BHJP
E02D 27/00 20060101ALI20240401BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20240401BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E02D27/00 D
E04B1/30 H
E04B1/58 503P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153686
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】亀田 哲二郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 航平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 唯
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
【テーマコード(参考)】
2D046
2E125
【Fターム(参考)】
2D046AA14
2D046CA03
2D046CA08
2E125AA03
2E125AA44
2E125AB13
2E125AB17
2E125AC01
2E125AC08
2E125AC16
2E125AG25
2E125BA07
2E125BA33
2E125BB19
2E125CA05
(57)【要約】
【課題】 フーチングや基礎梁を不要として、掘削土量及び使用鉄骨量を削減して、構造の簡素化及びコストダウンを図るとともに、接合形態を半剛接合とすることで接合部に生じる曲げ力を低減して、合理性及び経済性を高めることができる、柱と杭との接合構造を提供する。
【解決手段】 柱と中空断面を有する杭との接合構造であって、前記柱の下端部には、ベースプレートと、該ベースプレートから下方に延出し前記杭の上端部内に挿入される、前記柱よりも小さい外寸を有するシアキーとが設けられ、前記杭の上端部には、前記シアキーを取り囲むように杭本体から上方に延出する複数本のスタッドが設けられ、前記複数本のスタッドを外周側から取り囲むフープ筋が設けられ、前記杭の前記上端部から前記ベースプレートの下面までの空間に、前記シアキー、前記複数本のスタッドおよび前記フープ筋の周囲を覆うようにコンクリートが充填されている、柱と杭との接合構造。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と中空断面を有する杭との接合構造であって、
前記柱の下端部には、ベースプレートと、該ベースプレートから下方に延出し前記杭の上端部内に挿入される、前記柱よりも小さい外寸を有するシアキーとが設けられ、
前記杭の上端部には、前記シアキーを取り囲むように杭本体から上方に延出する複数本のスタッドが設けられ、
前記複数本のスタッドを外周側から取り囲むフープ筋が設けられ、
前記杭の前記上端部から前記ベースプレートの下面までの空間に、前記シアキー、前記複数本のスタッドおよび前記フープ筋の周囲を覆うようにコンクリートが充填されている、柱と杭との接合構造。
【請求項2】
前記フープ筋は、前記スタッドに接する位置に配設されている、請求項1に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項3】
前記フープ筋を外周側からさらに取り囲む補強フープ筋が設けられている、請求項1または2に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項4】
前記シアキーには、側方に突出する支圧板が設けられ、
前記杭の上端部には、杭の内面よりも内側に突出する突出部が設けられている、請求項1または2に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項5】
前記スタッドはボルトからなり、
前記突出部は、前記ボルトにより前記杭の上端に設けられる端板に締結される補強プレートからなる、請求項4に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項6】
前記ベースプレートと、前記シアキーとの間を補剛するスチフナが設けられている、請求項1または2に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項7】
前記ベースプレートの下面に、前記コンクリートと係合する係合部が設けられている、請求項1または2に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項8】
前記杭の上端部を取り囲むように地盤上に設置または前記杭の上端部に固定された、複数本の建方用アンカーボルトが設けられ、
前記ベースプレートには、建方用締結部が設けられ、
前記建方用アンカーボルトに前記建方用締結部が締結されることにより、前記柱の前記杭に対する位置決めがなされている、請求項1または2に記載の柱と杭との接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と中空断面を有する杭との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
杭と上部構造物とを接合する方法としては、鉄筋コンクリート製の基礎フーチングや基礎梁等を介して接合する方法が、多く用いられるが、配筋が繁雑になったり地盤の掘削土量が増えたりするため、コストの低減や工期の短縮が阻害される。
【0003】
そこで、基礎フーチングや基礎梁を不要として、掘削土量を削減すべく、例えば特許文献1には、杭頭接合金物を杭頭部に固定し、これを柱脚のベースプレートと締結することで杭頭と柱脚とを接合する、柱と杭との接合構造および工法が開示されている。この方法では、柱脚部をベースプレートの下方に延長しておき、杭頭部の中空部に挿入して、コンクリートを充填し固定することで、柱と杭とを確実強固かつ簡便に接合できる。また、柱のレベル調整、及び杭の位置ずれの修正を、容易に行える。
【0004】
また、特許文献2には、鉄骨柱またはコンクリート充填鋼管柱の柱脚に接合されたベースプレートと、その下側に接合された鋼管とから構成されたキャップ鋼管(接合治具)を、鋼管杭または既製コンクリート杭の頭部に被せ、その隙間にコンクリートを充填して、柱と杭とを一体化させることで剛接合とする、杭と上部構造物との接合構造及び接合方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-295286号公報
【特許文献2】特開2007-009438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示される接合構造では、柱と杭との定着強度を確保して剛接合するため、杭頭部の中空部に挿入される柱脚部延長部分に、スタッドを設ける必要がある。また、杭頭部に固定される杭頭接合金物の形状が複雑であり、その製作に手間がかかる。さらに、杭頭部の中空部に柱脚部を挿入して柱を建て込むときに、柱をワイヤで仮支持する必要もある。
【0007】
また、特許文献2に開示される接合構造では、柱と杭とを剛接合すべく、キャップ鋼管の径は杭径+300mm程度、キャップ鋼管内への杭の埋込長さは、杭径の1.5倍程度以上を確保する必要があるため、杭径が大きくなるにつれて、杭に被せるキャップ鋼管の径及び高さも大きくなり、その結果、掘削土量が多くなり、キャップ鋼管の現場への搬入にも労力を要することとなる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、フーチングや基礎梁を不要として、掘削土量及び使用鉄骨量を削減して、構造の簡素化及びコストダウンを図るとともに、柱と杭との接合形態を特許文献1又は特許文献2のように剛接合とせず、半剛接合とすることで、上方の柱から接合部に伝達される曲げモーメントを低減して、合理性及び経済性を高めることができる、柱と杭との接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 柱と中空断面を有する杭との接合構造であって、前記柱の下端部には、ベースプレートと、該ベースプレートから下方に延出し前記杭の上端部内に挿入される、前記柱よりも小さい外寸を有するシアキーとが設けられ、前記杭の上端部には、前記シアキーを取り囲むように杭本体から上方に延出する複数本のスタッドが設けられ、前記複数本のスタッドを外周側から取り囲むフープ筋が設けられ、前記杭の前記上端部から前記ベースプレートの下面までの空間に、前記シアキー、前記複数本のスタッドおよび前記フープ筋の周囲を覆うようにコンクリートが充填されている、柱と杭との接合構造。
[2] 前記フープ筋は、前記スタッドに接する位置に配設されている、[1]に記載の柱と杭との接合構造。
[3] 前記フープ筋を外周側からさらに取り囲む補強フープ筋が設けられている、[1]または[2]に記載の柱と杭との接合構造。
[4] 前記シアキーには、側方に突出する支圧板が設けられ、前記杭の上端部には、杭の内面よりも内側に突出する突出部が設けられている、[1]または[2]に記載の柱と杭との接合構造。
[5] 前記スタッドはボルトからなり、前記突出部は、前記ボルトにより前記杭の上端に設けられる端板に締結される補強プレートからなる、[4]に記載の柱と杭との接合構造。
[6] 前記ベースプレートと、前記シアキーとの間を補剛するスチフナが設けられている、[1]または[2]に記載の柱と杭との接合構造。
[7] 前記ベースプレートの下面に、前記コンクリートと係合する係合部が設けられている、[1]または[2]に記載の柱と杭との接合構造。
[8] 前記杭の上端部を取り囲むように地盤上に設置または前記杭の上端部に固定された、複数本の建方用アンカーボルトが設けられ、前記ベースプレートには、建方用締結部が設けられ、前記建方用アンカーボルトに前記建方用締結部が締結されることにより、前記柱の前記杭に対する位置決めがなされている、[1]または[2]に記載の柱と杭との接合構造。
【発明の効果】
【0010】
本発明の柱と杭との接合構造によれば、フーチングや基礎梁が不要となることにより、掘削土量の削減、使用鉄骨量の削減等により構造の簡素化、コストダウンを図ることができる。また、杭の上端部からベースプレートの下面までの空間に充填されるコンクリートが、シアキーを取り囲むように杭本体から上方に延出する複数本のスタッドと、これら複数本のスタッドを外周側から取り囲むフープ筋とによりせん断補強される。よって、コンクリートのせん断強度及びせん断耐力が高められ、大きなせん断力に耐えうる接合構造となる。さらに、接合形態を半剛接合に調整することで、上方の柱から接合部に伝達される曲げモーメントを低減して、合理性及び経済性をさらに高めることができる。
【0011】
そして、シアキーの外寸が柱の外寸よりも小さいので、杭に対する柱の偏心に対応しやすくなり、設計の自由度及び施工性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の柱と杭との接合構造が適用される建築物の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の一例を示す縦断面図および平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の柱と杭との接合構造の他の一例を示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の柱と杭との接合構造のさらに他の一例を示す縦断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の柱と杭との接合構造のさらに他の一例を示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の柱と杭との接合構造のさらに他の一例を示す縦断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の柱と杭との接合構造のさらに他の一例を示す縦断面図である。
【
図8】
図8(a)及び
図8(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
【
図9】
図9(a)及び
図9(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
【
図10】
図10(a)及び
図10(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
【
図11】
図11(a)及び
図11(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
【
図12】
図12(a)及び
図12(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
【
図13】
図13(a)及び
図13(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
【
図14】
図14(a)及び
図14(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の柱と杭との接合構造の実施形態について、具体的に説明する。
<柱と杭との接合構造>
[第一の実施形態]
図1に、本発明の第一の実施形態の柱と杭との接合構造が適用された建築物の斜視図を示す。また、
図2(a)および
図2(b)に、第一の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図および平面図を示す。
【0014】
図1に示すように、第一の実施形態の柱と杭との接合構造は、低層の鉄骨造建築物の鉄骨柱2と、中空断面を有するPHC杭(遠心成形プレストレスト高強度コンクリート杭)1とが接合される箇所に用いられる。
図1に示すように、この鉄骨造建築物の鉄骨柱2の柱脚には基礎梁やフーチングが設けられず、鉄骨柱2の各々の柱脚にPHC杭1が直接接合されている。
【0015】
具体的には、
図2(a)および
図2(b)に示すように、地盤Gの根切り内においてプレボーリングし、根固め液(図示せず)および杭周固定液10を注入した上で、PHC杭1が、その上部が地盤Gの根切り表面から突出する状態に沈設されて建て込まれている。地盤Gの根切り部分において、PHC杭1の周囲には、砕石61が敷きこまれ、さらに捨てコンクリート62が打設されている。
【0016】
一方、鉄骨柱2の下端部には、ベースプレート21と、ベースプレート21から下方に延出して中空断面を有するPHC杭1の上端部内に挿入される、鉄骨柱2よりも小さい外寸を有するシアキー23とが設けられている。本実施形態の柱と杭との接合構造では、シアキー23は継目無鋼管から構成されており、大きな強度及び耐力が要求される箇所にも適用可能な構造とされているが、シアキー23は、他の鋼管や形鋼等から構成されていても良い。また、本実施形態の柱と杭との接合構造が、ブレースが取り付かない柱脚等に用いられる場合には、シアキー23を太径の鉄筋やその他の棒鋼により構成して、PHC杭1と鉄骨柱2との接合部の曲げ剛性を抑制してもよい。このようにすると、PHC杭1の杭頭および鉄骨柱2の柱脚に発生する曲げモーメントが小さくなり、合理的な構造とすることができる。
【0017】
図2(a)および
図2(b)に示すように、シアキー23の下端には、シアキー23の側方に突出する支圧板24が設けられている。また、ベースプレート21とシアキー23には、両者の間を補剛するスチフナ26が設けられており、ベースプレート21の耐力及び剛性が高められている。
【0018】
また、
図2(a)および
図2(b)に示すように、PHC杭1の上端部に設けられるリング状の端板11の上には、シアキー23を取り囲むように、杭本体から上方に延出するスタッドボルト13が複数本設けられている。各スタッドボルト13は、PHC杭1の上端部の端板11に設けられたねじ穴に螺入されている。さらに、PHC杭1の上端部に設けられるリング状の端板11の上には、PHC杭1の内面よりも内側に突出する突出部が設けられている。突出部は、例えば板厚25mmの鋼板からなる補強プレート12により構成されている。補強プレート12には、PHC杭1の端板11に設けられたねじ穴に対応する位置にボルト孔(図示せず)が設けられている。このボルト孔に挿通されたスタッドボルト13にナット14を螺合させることで、補強プレート12がPHC杭1の上端の端板11に締結されている。あるいは、上述の構造に代えて、異形鉄筋やボルト等からなるスタッドを予め補強プレート12の上面に溶接等により接合したものを用意し、これをPHC杭1の上端の端板11に締結するようにしても良い。
【0019】
PHC杭1の内面よりも内側に突出する突出部としては、補強プレート12に代えて、またはこれに加えて、PHC杭1の上端部の内面に水平リブ(図示せず)を形成しても良い。補強プレート12または水平リブを設けることにより、より大きな引張力及びせん断力に耐えうる接合構造となる。鉄骨柱2からPHC杭1に軸方向引張力が作用するときに、シアキー23の下端に設けられる支圧板24との間にコンクリートストラットが形成されるためである。
【0020】
また、本実施形態において、PHC杭1の上端部の内面に、超高圧洗浄等によって目荒らしを施しても良い。このようにすると、鉄骨柱2からPHC杭1に軸方向引張力が作用するときに、引抜に対する摩擦抵抗力がさらに高められる。
【0021】
さらに、
図2(a)および
図2(b)に示すように、PHC杭1の上端部から上方に延出する複数本のスタッドボルト13の外周側には、これら複数本のスタッドボルト13を外周側から取り囲むように、フープ筋15が三段設けられている。各フープ筋15は、スタッドボルト13に接するように、スタッドボルト13の外側に巻設され、結束線や点溶接等によりスタッドボルト13に留め付けられている。そして、各段のフープ筋15を外周側からさらに取り囲むように、補強フープ筋16が三段設けられている。補強フープ筋16は、捨てコンクリート62の上に設けられたサイコロ(図示せず)等により固定される。フープ筋15及び補強フープ筋16には、例えば785N/mm
2級(降伏強度が785N/mm
2以上と規定される鉄筋)等の高強度の溶接閉鎖型フープ筋を用いると、後述するコンクリート4のせん断強度及びせん断耐力を効果的に高めることができるので好ましい。
【0022】
そして、
図2(a)および
図2(b)に示すように、PHC杭1の上端部からベースプレート21の下面までの空間に、シアキー23、スタッドボルト13、フープ筋15、および補強フープ筋16の周囲を覆うようにコンクリート4が充填される。これにより、PHC杭1と鉄骨柱2とが接合されている。
【0023】
本実施形態の柱と杭との接合構造では、PHC杭1の上端部を取り囲むように、地盤Gの根切り部分の捨てコンクリート62の上に、複数本の建方用アンカーボルト31が設けられている。また、PHC杭1のベースプレート21の側縁には、鋼板からなる建方用締結部32が溶接されている。建方用締結部32は、例えば、厚さ40mmの鋼板を二枚重ねて組み合わることにより構成され、建方用アンカーボルト31に対応する位置にボルト孔(図示せず)が設けられている。このボルト孔から建方用締結部32の上に突出する建方用アンカーボルト31にナット33を螺合させることで、建方用締結部32が建方用アンカーボルト31に締結されている。これにより、鉄骨柱2のPHC杭1に対する位置決めがなされている。
【0024】
鉄骨柱2の柱脚の周囲には、必要に応じて床スラブ(図示せず)が設けられていてもよい。
【0025】
なお、本実施形態において、支圧板24、補強プレート12、水平リブは、必ずしも必須でなく、例えば鉄骨柱2が大きな引抜力が作用しない部位に設けられる場合等には、これらを省略してもよい。本実施形態のように、支圧板24、補強プレート12、水平リブを設けることにより、より大きな軸方向引張力に耐えうる接合構造となる。鉄骨柱2からPHC杭1に軸方向引張力が作用するときに、シアキー23の下端に設けられる支圧板24との間にコンクリートストラットが形成されるためである。
【0026】
また、本実施形態において、スチフナ26は必ずしも必須でないが、柱と杭との接合形態を半剛接合に調整すべく、必要に応じて本実施形態のようにスチフナ26を設けてベースプレート21の耐力及び剛性を高めると好ましい。
[第二の実施形態]
図3に、本発明の第二の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。
【0027】
図3に示すように、本実施形態の柱と杭との接合構造では、第一の実施形態の柱と杭との接合構造におけるスチフナ26が省略されている。他の点については、本実施形態の柱と杭との接合構造は、第一の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0028】
本実施形態のように、ベースプレート21とシアキー23の間を補剛するスチフナ26を省略することにより、柱と杭との接合剛性を低めに調整して、上方の鉄骨柱2から接合部に伝達される曲げモーメントを小さくすることができる。併せて、ベースプレート21を降伏させて、曲げ変形させることにより、十分な塑性変形能力を確保することができる。
[第三の実施形態]
図4に、本発明の第三の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。
【0029】
図4に示すように、本実施形態の柱と杭との接合構造では、第二の実施形態の柱と杭との接合構造におけるシアキー23の下端に設けられ側方に突出する支圧板24に加えて、シアキー23の中間部にも、シアキー23の側方に突出する支圧板25が設けられている。
【0030】
他の点については、本実施形態の柱と杭との接合構造は、第二の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0031】
本実施形態のように、シアキー23の側方に突出する支圧板を、複数箇所に設けることにより、さらに大きな軸方向引張力に耐えうる接合構造となる。
[第四の実施形態]
図5に、本発明の第四の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。
【0032】
図5に示すように、本実施形態の柱と杭との接合構造では、第二の実施形態の柱と杭との接合構造における鉄骨柱2のベースプレート21の下面に、コンクリート4と係合する係合部22が設けられている。係合部22には、例えばサイズ25mm×32mm×450mm程度のフラットバーを用いることができる。
【0033】
他の点については、本実施形態の柱と杭との接合構造は、第二の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0034】
本実施形態のように、鉄骨柱2のベースプレート21の下面に、コンクリート4と係合する係合部22を設けることにより、より大きなせん断力に耐えうる接合構造となる。これは、鉄骨柱2からPHC杭1にせん断力が作用するときに、PHC杭1の上端部の内面の水平方向横側部分との間にコンクリートストラットが形成されるためである。
[第五の実施形態]
図6に、本発明の第五の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。
【0035】
図6に示すように、本実施形態の柱と杭との接合構造では、第四の実施形態の柱と杭との接合構造において、PHC杭1の上端部の外周に、補強バンド17が巻かれている。補強バンド17は、鋼板、鋼線、又は炭素繊維等からなるワイヤを、PHC杭1の上端部の外周に巻き付けることで、構成できる。
【0036】
他の点については、本実施形態の柱と杭との接合構造は、第四の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0037】
本実施形態のように、PHC杭1の上端部の外周に、補強バンド17が巻かれ、PHC杭の円周方向応力に対して抵抗することにより、PHC杭1の上端部の内面に水平方向に作用する荷重への耐力が高められ、さらに大きなせん断力及び柱脚部の曲げモーメントに耐えうる接合構造となる。
[第六の実施形態]
図7に、本発明の第六の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。
【0038】
図7に示すように、本実施形態の柱と杭との接合構造では、第一の実施形態の柱と杭との接合構造における建方用アンカーボルト31が、捨てコンクリート62の上ではなく、PHC杭1の上端部に設けられた補強プレート12の外周側への延長部にナット34で締結されて設けられている。そして、PHC杭1のベースプレート21の側縁に溶接された建方用締結部32が、建方用アンカーボルト31にナット33で締結されることにより、鉄骨柱2のPHC杭1に対する位置決めがなされている。
【0039】
他の点については、本実施形態の柱と杭との接合構造は、第一の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0040】
上記各実施形態の柱と杭との接合構造においては、各構成要素の形状、寸法および強度を適宜変更することにより、柱と杭との接合構造の耐力及び剛性を所望の大きさに調整できる。例えば、ベースプレート21の板厚、係合部22のサイズ、シアキー23の径、肉厚、支圧板24、25の板厚、突出幅、数及び配置、スチフナ26の板厚、数及び配置、補強プレート12の板厚及び突出幅、PHC杭1の上端部への挿入深さ等が調整対象となる。これにより、柱と杭との接合構造の圧縮耐力、引張耐力、曲げ耐力、せん断耐力、圧縮剛性、引張剛性、曲げ剛性、せん断剛性を調整できる。
【0041】
このような調整を行うことで、例えば柱と杭との接合構造の接合形態を半剛接合とすれば、接合部に生じる曲げ力が低減され、接合構造全体の経済設計が可能となる。
【0042】
また、例えば鉄骨柱2の間にブレースが設けられる場合には、PHC杭1と鉄骨柱2との間に大きな軸方向引張力が作用しやすいため、この大きな軸方向引張力に耐えるように、ベースプレート21の板厚等の大きさを設定することが好ましい。
<柱と杭との接合構造の施工方法>
上記各実施形態の柱と杭との接合構造の施工方法について、
図8~
図14を参照して説明する。以下では、第二の実施形態の柱と杭との接合構造を施工する場合について、説明する。
【0043】
まず、
図8(a)の平面図及び
図8(b)の縦断面図に示すように、地盤Gを根切りし、根切り内においてプレボーリングし、根固め液(図示せず)および杭周固定液10を注入した上で、PHC杭1を沈設して、PHC杭1を建て込む。杭周固定液10は、PHC杭1の建て込み時に、ボーリング孔の孔壁を保護するとともに、孔壁とPHC杭1との隙間を埋めて周辺地盤との密着性を図るものである。ボーリング孔中にPHC杭1を沈設する際には、杭周固定液10がPHC杭1の中空部にも流入する。PHC杭1の上端には、リング状の端板11が予め設けられている。このとき、PHC杭1の上端部(例えば、PHC杭1の上端から300mm程度の部分)が、根切り部の地盤Gの表面から突出するようにする。
【0044】
そして、PHC杭1の内部で固化した杭周固定液10を、例えばPHC杭1の頂部から800mm程度の深さまで、はつるなどして除去し、PHC杭1の上端部内に、鉄骨柱2のシアキー23を挿入するための空間を確保する。
【0045】
または、ボーリング孔中にPHC杭1を沈設する際に、PHC杭1の内部にスペーサー(図示せず)を取り付けておく。そして、PHC杭1を沈設した後、杭周固定液10が固化する前に、スペーサーを引き抜いて、杭周固定液10の液面をスペーサーの体積分だけ下げ、鉄骨柱2のシアキー23を挿入するための空間を確保してもよい。
【0046】
なお、地盤GにPHC杭1を建て込む際には、必ずしも杭周固定液10を用いなくても良く、PHC杭1が建て込まれた後に、PHC杭1の上端部内に、鉄骨柱2のシアキー23を挿入するための空間を確保されるようにすれば良い。
【0047】
次に、
図9(a)の平面図及び
図9(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1の上端に設けられるリング状の端板11の上に、PHC杭1の内面よりも内側に突出するように、補強プレート12を設置する。このとき、補強プレート12に設けられたボルト孔の位置を、PHC杭1の端板11に設けられたねじ穴の位置に合わせるようにする。そして、PHC杭1の端板11に設けられた各ねじ穴にスタッドボルト13を螺入する。これにより、シアキー23を取り囲むように、杭本体から上方に延出するスタッドボルト13が複数本設けられる。そして、補強プレート12のボルト孔に挿通されたスタッドボルト13にナット14を螺合させ、補強プレート12をPHC杭1の上端の端板11に締結する。
【0048】
次に、
図10(a)の平面図及び
図10(b)の縦断面図に示すように、地盤Gの根切り部分に、PHC杭1の周囲を取り囲むように、砕石61を敷き詰め、捨てコンクリート62を打設する。このとき、地盤Gに設置されたPHC杭1の上端部を取り囲むように、地盤G上に複数本の建方用アンカーボルト31を設置し、地盤Gの根切り部分の捨てコンクリート62に固定させておく。
【0049】
図10(a)及び
図10(b)に示すように、建築物の設計や、施工現場の状況等に応じて、PHC杭1の杭芯に対して複数本の建方用アンカーボルト31の配置の基準軸が、所定寸法(例えば80mm)だけ水平方向に偏心するようにしても良い。このとき、捨てコンクリート62上の柱芯位置に墨出しを行い、この墨出しに複数本の建方用アンカーボルト31の配置の基準軸を合わせて、捨てコンクリート62に固定する。建方用アンカーボルト31は、鉄骨柱2のPHC杭1に対する位置決めをするために、鉄骨柱2の柱脚部の一節を仮支持するために設けられる。
【0050】
次に、
図11(a)の平面図及び
図11(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1の上端部から上方に延出する複数本のスタッドボルト13の外周側に、これら複数本のスタッドボルト13を外周側から取り囲むように、フープ筋15を設置する。このとき、各フープ筋15をスタッドボルト13に接するように配置して、結束線や点溶接等によりスタッドボルト13に留め付ける。また、フープ筋15を外周側からさらに取り囲むように、サイコロ(図示せず)等を用いて、捨てコンクリート62の上に補強フープ筋16を設置する。
【0051】
次に、
図12(a)の平面図及び
図12(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1のベースプレート21の側縁に、鋼板からなる建方用締結部32を溶接する。この状態で、PHC杭1の上端部内に、鉄骨柱2のシアキー23が、例えばPHC杭1の頂部から500mm程度の深さまで挿入されるようにして、鉄骨柱2を建て込む。このとき、建方用アンカーボルト31に設けられた各ボルト孔に、建方用アンカーボルト31を挿通されるようにする。そして、鉄骨柱2のレベルを調整し、建方用アンカーボルト31にナット33を螺合させることで、建方用締結部32を建方用アンカーボルト31に締結して仮固定する。
【0052】
次に、
図13(a)の平面図及び
図13(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1の上端部の外周を取り囲むように、例えば円形捨て型枠(捨て型枠)5を設置する。さらに、
図14(a)の平面図及び
図14(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1の上端部から鉄骨柱2のベースプレート21の下面までの空間に、シアキー23の周囲を覆うようにコンクリート4を充填して硬化させる。このとき、PHC杭1の内部には、杭周固定液10が充填されているため、シアキー23の下方のPHC杭1の内側には、コンクリート4の下面を形成するための型枠を設ける必要がない。また、上述のとおり、地盤GにPHC杭1を建て込む際には、必ずしも杭周固定液10を用いなくても良い。この場合も、PHC杭1の内部には、コンクリート4の下面を形成するための型枠を設ける必要は必ずしもなく、シアキー23の周囲がコンクリート4により完全に覆われるようにすればよい。PHC杭1の内部空間が掘削土等で埋まることなく空洞となっている場合には、必要に応じて、シアキー23の下方の高さに、コンクリート4の下面を形成するための捨て型枠を設け、コンクリート4の量を節約するようにすることもできる。これにより、柱と杭との接合構造の施工が完了する。その後、必要に応じて、
図14(b)に示すように、鉄骨柱2の柱脚の周囲に床スラブ7を設けてもよい。
【0053】
円形捨て型枠5に代えて、再利用可能な型枠を用いても良いが、捨て型枠を用いることにより、作業の安全性や効率を高めることができる。また、型枠の形状は、必ずしも円形に限られず、PHC杭1の上端部の外周を取り囲むように設置可能な形状であれば、適宜形状を変更しても良い。
【0054】
上記各実施形態の柱と杭との接合構造によれば、フーチングや基礎梁が不要となることにより掘削土量及び使用鉄骨量を削減して、構造の簡素化及びコストダウンを図ることができる。また、PHC杭1の上端部からベースプレート21の下面までの空間に充填されるコンクリート4が、シアキー23を取り囲むように杭本体から上方に延出する複数本のスタッドボルト13と、これらを外周側から取り囲むフープ筋15および補強フープ筋16によりせん断補強される。よって、コンクリート4のせん断強度及びせん断耐力が高められ、大きなせん断力に耐えうる接合構造となる。さらに、接合形態を半剛接合とすることで接合部に生じる曲げ力を低減して、合理性及び経済性を高めることができる。
【0055】
なお、上記各実施形態では、PHC杭1と鉄骨柱2との接合構造について説明したが、本発明の柱と杭との接合構造はこれに限られない。例えば、PRC杭(遠心成形プレストレスト鉄筋高強度コンクリート杭)、SC杭(遠心成形外殻鋼管付きコンクリート杭)、鋼管杭等、中空断面を有する種々の既製杭と、下端部にベースプレートを備える種々の柱との接合構造にも適用可能である。
【0056】
また、上記各実施形態では、フープ筋15及び補強フープ筋16が三段設けられている例について説明したが、コンクリート4のせん断強度及びせん断耐力を効果的に高める作用が発揮される限り、フープ筋15及び補強フープ筋16の段数はこれに限られるものでない。
【0057】
また、上記各実施形態では、建築物の基礎梁が省略されている例について説明したが、鉄骨柱の柱脚の間を連結する鉄骨からなる基礎梁が設けられる場合も、本発明を同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 PHC杭(杭)
10 杭周固定液
11 端板
12 補強プレート(突出部)
13 スタッドボルト
14 ナット
15 フープ筋
16 補強フープ筋
17 補強バンド
2 鉄骨柱(柱)
21 ベースプレート
22 係合部
23 シアキー
24、25 支圧板
26 スチフナ
31 建方用アンカーボルト
32 建方用締結部
33、34 ナット
4 コンクリート
5 円形捨て型枠(捨て型枠)
61 砕石
62 捨てコンクリート
7 床スラブ
G 地盤