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特開2024-47971コーティング組成物および酸化亜鉛含有被膜を有する物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047971
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】コーティング組成物および酸化亜鉛含有被膜を有する物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
C09D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153764
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】森 春菜
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】木下 智之
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038AA011
4J038JC43
4J038MA07
4J038MA12
4J038NA19
4J038PA06
4J038PB05
4J038PB08
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】370nm~390nmの近紫外線領域の波長域の紫外線に対して優れた遮蔽機能を発揮することができる酸化亜鉛含有被膜の提供を可能にすること。
【解決手段】式(1)で表される有機亜鉛化合物と、式(2)で表される有機ビスマス化合物と、を含有するコーティング組成物。式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上7以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す。式(2)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上4以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上7以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す)
で表される有機亜鉛化合物と、
下記式(2):
【化2】
(式(2)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上4以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す)
で表される有機ビスマス化合物と、
を含有するコーティング組成物。
【請求項2】
前記有機ビスマス化合物に含まれるビスマス元素の含有率が、前記有機亜鉛化合物に含まれる亜鉛元素に対して、1~60質量%の範囲である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記有機亜鉛化合物は、ジエチル亜鉛である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記有機ビスマス化合物は、トリメチルビスマスである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記有機ビスマス化合物に含まれるビスマス元素の含有率が、前記有機亜鉛化合物に含まれる亜鉛元素に対して、1~60質量%の範囲であり、
前記有機亜鉛化合物はジエチル亜鉛であり、かつ
前記有機ビスマス化合物はトリメチルビスマスである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のコーティング組成物を基板上に塗布することを含む、酸化亜鉛含有被膜を有する物品の製造方法。
【請求項7】
前記塗布を400℃以下の基板温度において行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記塗布を空気中で行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記塗布を液滴塗布法によって行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
前記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、300nm以上1μm以下である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項11】
前記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、500nm以上1μm以下である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項12】
前記酸化亜鉛含有被膜の透過率特性は、
波長370nmにおける透過率が20.0%以下、
波長380nmにおける透過率が60.0%以下、かつ
波長390nmにおける透過率が80.0%以下である、
請求項6に記載の製造方法。
【請求項13】
前記塗布を、空気中、400℃以下の基板温度において液滴塗布法によって行い、
前記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は300nm以上1μm以下であり、
前記酸化亜鉛含有被膜の透過率特性は、
波長370nmにおける透過率が20.0%以下、
波長380nmにおける透過率が60.0%以下、かつ
波長390nmにおける透過率が80.0%以下である、
請求項6に記載の製造方法。
【請求項14】
前記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、500nm以上1μm以下である、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物および酸化亜鉛含有被膜を有する物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線遮蔽機能を有する被膜の一例としては、酸化亜鉛含有被膜が挙げられる(例えば特許文献1および2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-105313号公報
【特許文献2】特開平8-143331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
370nm~390nmの近紫外線領域の波長域のUV-Aの遮蔽機能に優れる被膜は、医薬品関連用途をはじめとする各種用途において有用である。しかしながら、酸化亜鉛含有被膜は、上記波長域の紫外線遮蔽機能に劣る傾向がある。
【0005】
本発明の一態様は、370nm~390nmの近紫外線領域の波長域の紫外線に対して優れた遮蔽機能を発揮することができる酸化亜鉛含有被膜の提供を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、以下のコーティング組成物を用いて形成される酸化亜鉛含有被膜が、370nm~390nmの波長域の紫外線に対して優れた遮蔽機能を発揮できることを新たに見出した。
【0007】
即ち、本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]下記式(1):
【化1】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上7以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す)
で表される有機亜鉛化合物と、
下記式(2):
【化2】
(式(2)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上4以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す)
で表される有機ビスマス化合物と、
を含有するコーティング組成物。
[2]上記有機ビスマス化合物に含まれるビスマス元素の含有率が、上記有機亜鉛化合物に含まれる亜鉛元素に対して、1~60質量%の範囲である、[1]に記載のコーティング組成物。
[3]上記有機亜鉛化合物は、ジエチル亜鉛である、[1]または[2]に記載のコーティング組成物。
[4]上記有機ビスマス化合物は、トリメチルビスマスである、[1]~[3]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[5]上記有機ビスマス化合物に含まれるビスマス元素の含有率が、上記有機亜鉛化合物に含まれる亜鉛元素に対して、1~60質量%の範囲であり、
上記有機亜鉛化合物はジエチル亜鉛であり、かつ
上記有機ビスマス化合物はトリメチルビスマスである、[1]~[4]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のコーティング組成物を基板上に塗布することを含む、酸化亜鉛含有被膜を有する物品の製造方法。
[7]上記塗布を400℃以下の基板温度において行う、[6]に記載の製造方法。
[8]上記塗布を空気中で行う、[6]または[7]に記載の製造方法。
[9]上記塗布を液滴塗布法によって行う、[6]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]上記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、300nm以上1μm以下である、[6]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]上記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、500nm以上1μm以下である、[6]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]上記酸化亜鉛含有被膜の透過率特性は、
波長370nmにおける透過率が20.0%以下、
波長380nmにおける透過率が60.0%以下、かつ
波長390nmにおける透過率が80.0%以下である、
[6]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]上記塗布を、空気中、400℃以下の基板温度において液滴塗布法によって行い、
上記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は300nm以上1μm以下であり、
上記酸化亜鉛含有被膜の透過率特性は、
波長370nmにおける透過率が20.0%以下、
波長380nmにおける透過率が60.0%以下、かつ
波長390nmにおける透過率が80.0%以下である、
[6]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[14]上記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、500nm以上1μm以下である、[13]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、370nm~390nmの波長域の紫外線に対して優れた遮蔽機能を発揮することができる酸化亜鉛含有被膜を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[コーティング組成物]
本発明の一態様は、上記式(1)で表される有機亜鉛化合物と、上記式(2)で表される有機ビスマス化合物と、を含有するコーティング組成物に関する。
【0010】
本発明および本明細書において、「コーティング組成物」とは、被膜を形成するために基板等の上に塗布される組成物を意味する。上記コーティング組成物を用いる成膜工程中、例えば空気中の水と反応することによって、式(1)で表される有機亜鉛化合物は酸化亜鉛を生成することができる。したがって、上記コーティング組成物によれば、酸化亜鉛含有被膜を形成することができる。一方、式(2)で表される有機ビスマス化合物は、上記コーティング組成物を用いる成膜工程中、例えば空気中の酸素と反応することによって、酸化ビスマスを生成することができると本発明者らは考えている。こうして生成される酸化ビスマスが、上記コーティング組成物を用いて形成される酸化亜鉛含有被膜が370nm~390nmの波長域の紫外線に対して優れた遮蔽機能を発揮できることに寄与すると本発明者らは推察している。ただし、本明細書に記載の推察は、本発明を限定するものではない。
【0011】
以下、上記コーティング組成物について、更に詳細に説明する。
【0012】
<有機亜鉛化合物>
上記有機亜鉛化合物は、下記式(1)によって表される。
【0013】
【化3】
【0014】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上7以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す。式(1)で表される有機亜鉛化合物は、ジアルキル亜鉛である。RおよびRは、一形態では同じアルキル基を表し、他の一形態では異なるアルキル基を表す。
【0015】
上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、2-ヘキシル基、ヘプチル基等を挙げることができる。
【0016】
上記有機亜鉛化合物は、Rで表されるアルキル基およびRで表されるアルキル基として、炭素数が1以上3以下のアルキル基を有することが好ましい。上記有機亜鉛化合物は、入手容易性が高いことから、ジエチル亜鉛(即ちRおよびRがいずれもエチル基)であることがより好ましい。
【0017】
上記有機亜鉛化合物は、公知の方法で合成することができ、市販品として入手することもできる。
【0018】
<有機ビスマス化合物>
上記有機ビスマス化合物は、下記式(2)によって表される。
【0019】
【化4】
【0020】
式(2)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上4以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す。式(2)で表される有機ビスマス化合物は、トリアルキルビスマスである。R、RおよびRは、一形態では3つがすべて同じアルキル基を表し、他の一形態では2つが同じアルキル基を表し他の1つが異なるアルキル基を表し、また他の一形態では3つがすべて異なるアルキル基を表す。
【0021】
上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等を挙げることができる。上記有機ビスマス化合物は、Rで表されるアルキル基、Rで表されるアルキル基およびRで表されるアルキル基として、炭素数が1以上3以下のアルキル基を有することが好ましく、炭素数が1または2のアルキル基を有することがより好ましい。上記有機ビスマス化合物は、入手容易性が高いことから、トリメチルビスマス(即ちR、RおよびRがいずれもメチル基)であることが更に好ましい。
【0022】
先に記載したように、上記コーティング組成物を用いて形成される酸化亜鉛含有被膜は、上記有機ビスマス化合物の反応により生成された酸化ビスマスを含むと推察される。酸化ビスマスそのものをコーティング組成物の成分として添加すると、コーティング組成物は懸濁液となるため、塗布装置のノズルの詰まりを引き起こし得る。これに対し、上記有機ビスマス化合物は、均一な溶液をもたらし得るため、成膜工程において塗布装置のノズルの詰まりを起こすことなく上記コーティング組成物の塗布を行うことが可能である。
【0023】
上記有機亜鉛化合物は、公知の方法で合成することができ、市販品として入手することもできる。
【0024】
上記コーティング組成物は、上記有機亜鉛化合物および上記有機ビスマス化合物をそれぞれ1種以上含み、通常、溶媒を更に含むことができる。溶媒は、特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、1,2-ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、グライム、ジグライム、トリグライム、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル系溶媒等が挙げられる。また、溶媒は1種のみ用いることができ、2種類以上を任意の割合で混合して用いることもできる。上記有機亜鉛化合物および上記有機ビスマス化合物の溶解性、溶媒の揮発性等を考慮すると、溶媒としては、キシレン、メシチレン等が好ましい。
【0025】
上記コーティング組成物の上記有機亜鉛化合物の濃度は、組成物全量を100質量%として、15質量%以下であることが好ましく、14質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下、12質量%以下の順に更に好ましい。また、上記濃度は、例えば、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。上記濃度は、十分な膜厚を有する酸化亜鉛含有被膜を製造する、可視光透過性に優れる透明な酸化亜鉛含有被膜を製造する、ポットライフおよび溶媒の揮発に伴うノズルのつまりを抑える等の観点から、上記範囲であることが好ましい。
【0026】
上記コーティング組成物の上記有機ビスマス化合物の濃度に関して、上記有機ビスマス化合物に含まれるビスマス元素の含有率は、上記有機亜鉛化合物に含まれる亜鉛元素に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上の順により好ましい。上記コーティング組成物を用いて形成される酸化亜鉛含有被膜の370nm~390nmの波長域の紫外線に対する遮蔽機能の更なる向上の観点から、上記有機ビスマス化合物に含まれるビスマス元素の含有率が上記範囲であることは好ましい。また、形成される酸化亜鉛含有被膜の透明性を高める観点からは、上記有機ビスマス化合物に含まれるビスマス元素の含有率は、上記有機亜鉛化合物に含まれる亜鉛元素に対して、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
上記コーティング組成物は、上記成分のみを含むことができ、または、公知の成分の1種以上を任意の割合で含むこともできる。
【0028】
上記コーティング組成物を用いることによって、酸化亜鉛含有被膜を形成することができる。こうして形成される酸化亜鉛含有被膜は、370nm~390nmの波長域の紫外線に対して優れた遮蔽機能を発揮することができる。
【0029】
[酸化亜鉛含有被膜を有する物品の製造方法]
本発明の一態様は、上記コーティング組成物を基板上に塗布することを含む、酸化亜鉛含有被膜を有する物品の製造方法に関する。
【0030】
上記製造方法によれば、上記コーティング組成物に含まれる式(1)で表される有機亜鉛化合物の加水分解によって、酸化亜鉛を含有する被膜を形成することができる。上記製造方法は、酸化亜鉛粒子とバインダとを含む塗布液によって酸化亜鉛含有被膜を形成する方法に対して、バインダなしで、酸化亜鉛含有被膜を形成することが可能な方法である。また、上記製造方法によれば、被被覆面である基板表面に酸化亜鉛を強固に付着させることも可能である。更に、酸化亜鉛粒子とバインダとを用いて形成された酸化亜鉛含有被膜に対して、上記製造方法によって形成された酸化亜鉛含有被膜は、高い耐熱性を示し得る観点からも好ましい。加えて、先に記載したように、上記製造方法によって形成された酸化亜鉛含有被膜は、式(2)で表される有機ビスマス化合物によってもたらされる酸化ビスマスを含むと推察される。この点が、上記製造方法によって形成された酸化亜鉛含有被膜が、370nm~390nmの近紫外線領域の波長域の紫外線に対して優れた遮蔽機能を発揮することに寄与し得る。例えば、医薬品関連分野では、医薬品の品質保持のためにUV-A遮光が求められる。そのため、医薬品を保管および/または流通させる際に使用される容器には、優れたUV-A遮光機能を有することが望まれる。例えば、上記コーティング組成物は、そのような容器の外表面および/または内表面にUV-A遮光機能を付与するための被膜を形成するために使用することができる。また、上記コーティング組成物は、化粧品、食品等を保管および/または流通させる際に使用される容器の外表面および/または内表面にUV-A遮光機能を付与するための被膜を形成するために使用することもできる。
【0031】
以下、上記製造方法について、更に詳細に説明する。
【0032】
<基板>
上記コーティング組成物が塗布される基板としては、紫外線遮蔽機能を付与したい物品であれば特に限定されない。基板を構成する素材も特に限定されず、例えば、金属、金属酸化物、ガラス、コンクリート、各種プラスチック、紙、木材等が挙げられ、これらの1種以上を含む複合材でもよい。基板の形状は、板状、曲面状であってもよく、例えば容器形状等の立体形状であってもよい。基板は、表面に凹凸を有するものでもよい。基板の一例としては、先に記載した容器を挙げることができる。
【0033】
上記製造方法によって製造される物品は、上記酸化亜鉛含有被膜を、基板上の少なくとも一部に有することができる。また、上記酸化亜鉛含有被膜は、この被膜が設けられた箇所において、例えば物品の最表層として位置することができる。上記物品は、基板がおもて面および裏面を有する形状の場合、例えばおもて面および裏面のいずか一方または両方の上の一部または全面に、上記酸化亜鉛含有被膜を有することができる。また、基板の側面の少なくとも一部または全面に、上記酸化亜鉛含有被膜が設けられていてもよい。基板は、基材単独であってもよく、基材上に一層以上の層が設けられたものでもよい。
【0034】
<コーティング組成物の塗布>
上記コーティング組成物の塗布方法としては、液滴塗布法、静電塗布、スピン塗布、ディップ塗布等の公知の方法を用いることができる。基板の形状を選ばない点からは、液滴塗布法が好ましい。液滴塗布法の具体例としては、スプレー塗布法、ミストCVD(Chemical vapor deposition)法等を挙げることができる。スプレー塗布法は、塗布液をノズルからスプレーする方法である。スプレー塗布装置としては、市販のスプレー塗布装置および公知の構成のスプレー塗布装置を使用することができる。ミストCVD法は、塗布液を超音波式ミスト発生装置等によりミスト化し、このミストを基板表面に供給する方法である。ミストCVD塗布装置としては、市販のミストCVD塗布装置および公知の構成のミストCVD塗布装置を使用することができる。
【0035】
上記コーティング組成物の塗布は、水および酸素が存在する雰囲気下で行うことができる。「水および酸素が存在する雰囲気」の相対湿度は、例えば20%以上100%以下であることができる。「水および酸素が存在する雰囲気」の相対湿度は、酸化亜鉛含有被膜の生成がスムーズであるという観点から、40%以上100%以下であることが好ましく、50%以上100%以下または50%以上90%以下であることがより好ましい。
「水および酸素が存在する雰囲気」における酸素濃度は、雰囲気中の気体全量(ただし水蒸気を除く)を100体積%として、例えば5体積%以上50体積%以下、10体積%以上40体積%以下または15体積%以上30体積%以下であることができる。
「水および酸素が存在する雰囲気」は、例えば空気であることができ、好ましくは、上記範囲の相対湿度分の水を含有した空気であることができる。または、「水および酸素が存在する雰囲気」は、上記の空気の代わりに窒素、酸素および水を混合させた混合ガスの雰囲気であってもよい。なお、公知の通り、空気の酸素濃度は、水蒸気を除く気体全量に対して約20体積%である。
上記コーティング組成物の塗布は、例えば大気圧下または加圧下で、好ましくは大気圧下で、水および酸素が存在する雰囲気下で行うことができる。大気圧下で実施することは、装置上簡便であり好ましい。
【0036】
上記コーティング組成物の基板上への塗布は、基板を加熱して行うことができる。塗布時の基板温度は、例えば400℃以下とすることができ、ヒーター等の公知の加熱手段によって基板温度を制御することができる。なお、本発明および本明細書において、「基板温度」とは、その上に塗布液(詳しくは上記コーティング組成物)が塗布される基板表面の温度をいうものとする。必要により基板温度を所定の温度とし、溶媒を乾燥させた後、所定の温度で酸化亜鉛形成のための加熱を行うことができる。また、この加熱により、酸化ビスマスを形成することができると推察される。溶媒乾燥温度とその後の酸化亜鉛形成のための基板温度を同一にし、溶媒乾燥と酸化亜鉛形成を同時に行うことも可能である。基板温度については、塗布液に含まれる溶媒の種類等に応じて多段階に昇温する等、適宜設定することもできる。
【0037】
塗布を行う雰囲気の雰囲気温度は、例えば50℃以下とすることができる。上記コーティング組成物の塗布は、雰囲気温度を50℃以下とし、かつ基板温度を400℃以下として行うことが好ましい。酸化亜鉛含有被膜中の酸化亜鉛の結晶化を促進する観点からは、塗布を行う雰囲気温度は0℃以上40℃以下であることが好ましく、基板温度は100℃以上250℃以下であることが好ましい。更に、「塗布-乾燥-加熱」を1回のサイクルとして、かかるサイクルの回数は1回または2回以上とすることができる。2回以上繰り返すことによって酸化亜鉛含有被膜の厚膜化を図ることができる。また、上記コーティング組成物の塗布量および塗布速度は、コーティング組成物中の上記有機亜鉛化合物の濃度および上記有機ビスマス化合物の濃度、使用する塗布装置の仕様、形成すべき酸化亜鉛含有被膜の膜厚等に応じて調整することができる。また、塗布方法としてスプレー塗布法を採用する場合のスプレー圧力(例えば拡散圧力および/または霧化圧力)を調整することによって、形成される酸化亜鉛含有被膜の膜厚を制御することもできる。スプレー圧力は、例えば0.01MPa以上0.10MPa以下とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0038】
<酸化亜鉛含有被膜>
(膜厚)
上記製造方法によって製造される物品の酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、物品の用途に応じて適宜調整することができ、特に限定されるものではない。より厚い酸化亜鉛含有被膜ほど、より優れた紫外線遮蔽機能を発揮できる傾向がある。上記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、例えば、50nm以上、100nm以上、150nm以上、200nm以上、250nm以上、300nm以上、350nm以上、400nm以上、450nm以上、500nm以上、550nm以上、600nm以上、650nm以上または700nm以上であることができる。また、上記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、被膜の透明性の観点からは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。膜厚は、触針式表面形状測定装置によって測定することができる。測定装置の一例としては、後述の実施例の欄に記載の測定装置を挙げることができる。
【0039】
(紫外線遮蔽機能)
紫外線遮蔽機能の指標としては、紫外領域の波長において測定される透過率を挙げることができる。上記酸化亜鉛含有被膜の各種波長における透過率は、市販の分光光度計によって測定することができる。測定波長における透過率がより低いほど、その測定波長の光を遮蔽する機能により優れるということができる。上記酸化亜鉛含有被膜は、370nm~390nmの波長域の紫外線に対して優れた遮蔽機能を発揮することができる。
【0040】
上記酸化亜鉛含有被膜の波長370nmにおける透過率は、20.0%以下であることが好ましく、18.0%以下、15.0%以下、12.0%以下、10.0%以下、8.0%以下、5.0%以下、2.0%以下、1.0%以下の順により好ましく、また、例えば0%超または0.1%以上であることができる。
上記酸化亜鉛含有被膜の波長380nmにおける透過率は、60.0%以下であることが好ましく、50.0%以下、40.0%以下、30.0%以下の順により好ましく、また、例えば0%超、1.0%以上、5.0%以上、10.0%以上または15.0%以上であることができる。
上記酸化亜鉛含有被膜の波長390nmにおける透過率は、80.0%以下であることが好ましく、70.0%以下、60.0%以下の順により好ましく、また、例えば0%超、1.0%以上、10.0%以上、20.0%以上、30.0%以上、40.0%以上または50.0%以上であることができる。
【0041】
UV-Aの波長域は、波長320nm~400nmの範囲である。上記の波長370nm、380nmおよび390nmは、いずれもUV-Aの波長域に含まれる。UV-Aの波長域の紫外線の遮蔽機能に関して、上記酸化亜鉛含有被膜は、例えば、波長350nmにおける透過率が1.0%以下、0.8%以下もしくは0.4%以下であることができ、波長360nmにおける透過率が5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下もしくは1.0%以下であることができ、および/または、波長400nmにおける透過率が85.0%以下、80.0%以下、75.0%以下もしくは70.0%以下であることができる。波長350nmにおける透過率および波長360nmにおける透過率は、例えば0%、0%以上または0%超であることができる。波長400nmにおける透過率は、例えば0%、0%以上、0%超、30.0%以上または50.0%以上であることができる。
【0042】
上記製造方法によって酸化亜鉛含有被膜が形成されて製造される物品は、紫外線遮蔽機能を付与したい物品であれば特に限定されない。その具体例としては、先に記載した容器を挙げることができる。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0044】
以下に記載の酸化亜鉛含有被膜の物性値の測定は、下記測定装置を使用して行った。
【0045】
膜厚の測定は、触針式表面形状測定装置(ブルカーナノ社製DektakXT-S)を使用して行った。
【0046】
透過率測定を日本分光製分光光度計を用いて行い、表1に記載の各種波長における透過率を求めた。
【0047】
[合成例1(トリメチルビスマスの合成)]
還流管と撹拌子を備えた200mLの4つ口フラスコを十分に窒素置換し、メチルリチウムのジエチルエーテル溶液73.9g(メチルリチウム2.78g(126.3mmol))を入れ、0℃に冷却した。三臭化ビスマス18.7g(41.6mmol)をTHF38.8gに混合した混合物を同温にて加え、次いで20℃に昇温して1時間撹拌を継続して、反応を完結させた。
上記で得られた反応液を減圧蒸留し、「留分1」を40.3g(トリメチルビスマス濃度8.2質量%:トリメチルビスマス3.3g、THF23.6g、ジエチルエーテル13.4g)、「留分2」を9.6g(トリメチルビスマス濃度12.2質量%:トリメチルビスマス1.2g、THF7.9g、ジエチルエーテル0.5g)取得した。
【0048】
[実施例1]
<塗布液(コーティング組成物)の調製>
以下に記載の塗布液の調製は窒素ガス雰囲気で行い、溶媒はすべて脱水および脱気して使用した。
合成例1で取得した留分1を15.0g(トリメチルビスマス1.2g(4.8mmol))、キシレン20.4gおよびジエチル亜鉛3.8g(31.0mmol)と混合して十分に撹拌を行うことで塗布液を得た。
上記塗布液において、トリメチルビスマス(有機ビスマス化合物)に含まれるビスマス元素の含有率は、ジエチル亜鉛(有機亜鉛化合物)に含まれる亜鉛元素に対して50質量%である。
【0049】
<酸化亜鉛含有被膜の成膜>
上記で得られた塗布液をスプレー成膜装置(旭サナック社製rCoater)のスプレーボトルに充填した。5cm×5cmのサイズのガラス基板(コーニング社製イーグルXG)を基板ホルダに設置し、基板温度200℃に加熱した後、大気圧下、雰囲気25℃、相対湿度60%の水が存在する空気中で、スプレー成膜装置スプレーノズルより塗布液を1.0ml/minの塗布速度でスプレー塗布した。スプレー圧力(拡散圧力、霧化圧力ともに)は0.07MPaとした。5回スプレー塗布を行い、410nmの膜厚を有する酸化亜鉛含有被膜付きのガラス基板を取得した。5回のスプレー塗布のいずれにおいても、スプレーノズルが詰まることはなかった。
【0050】
[実施例2]
スプレー圧力(拡散圧力、霧化圧力ともに)を0.04MPaとした以外は、実施例1について記載した方法によって酸化亜鉛含有被膜を成膜し、膜厚970nmの酸化亜鉛含有被膜付きガラス基板を取得した。
【0051】
[比較例1]
<塗布液(コーティング組成物)の調製>
以下の塗布液の調製は窒素ガス雰囲気で行い、溶媒はすべて脱水および脱気して使用した。
ジエチル亜鉛3.8g(31.0mmol)とキシレン34.2gとを十分に撹拌することで塗布液を得た。
【0052】
<酸化亜鉛含有被膜の成膜>
上記で得られた塗布液を使用した以外、実施例1について記載した方法によって酸化亜鉛含有被膜を成膜し、膜厚700nmの酸化亜鉛含有被膜付きガラス基板を取得した。
【0053】
実施例1、実施例2および比較例3のそれぞれについて求められた各種波長における透過率を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1、2において酸化亜鉛含有被膜形成のために使用したコーティング組成物は、式(2)で表される有機ビスマス化合物を含む。これに対し、比較例1において酸化亜鉛含有被膜形成のために使用したコーティング組成物は、式(2)で表される有機ビスマス化合物を含まない。表1に示す結果から、実施例1、2において形成された酸化亜鉛含有被膜が、比較例1において形成された酸化亜鉛含有被膜と比べて、370nm~390nmの波長域の紫外線に対して優れた遮蔽機能を発揮する被膜であることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の一態様は、紫外線遮蔽が望まれる各種技術分野において有用である。