(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047984
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ガス拡散層及びその製造方法、ガス拡散電極、膜電極接合体並びにそれを用いた電解セル
(51)【国際特許分類】
C25B 11/032 20210101AFI20240401BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240401BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240401BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240401BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240401BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240401BHJP
C25B 3/26 20210101ALN20240401BHJP
【FI】
C25B11/032
C25B11/052
C25B9/23
C25B9/00 G
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M4/88 C
C25B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153781
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岸見 裕子
(72)【発明者】
【氏名】正本 若奈
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011CA04
4K011DA01
4K021AC02
4K021AC04
4K021DB43
5H018AA01
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018DD06
5H018EE05
5H018EE12
5H018EE16
5H018EE18
5H018HH03
5H018HH05
(57)【要約】
【課題】反応液に対する遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上させることができるガス拡散層を提供する。
【解決手段】本願のガス拡散層は、ガス拡散基材と、前記ガス拡散基材の片面に形成されたマイクロポーラス層とを備え、前記マイクロポーラス層は、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子と、導電性粒子と、バインダ樹脂とを含むことを特徴とし、前記フィラー粒子の含有量は、前記導電性粒子100質量部に対して、1~40質量部であることが好ましい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス拡散基材と、前記ガス拡散基材の片面に形成されたマイクロポーラス層とを含むガス拡散層であって、
前記マイクロポーラス層は、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子と、導電性粒子と、バインダ樹脂とを含むことを特徴とするガス拡散層。
【請求項2】
前記フィラー粒子の含有量が、前記導電性粒子100質量部に対して、1~40質量部である請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項3】
前記フィラー粒子が、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、及び酸化タングステンからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物からなる請求項1又は2に記載のガス拡散層。
【請求項4】
前記フィラー粒子の針状突起の長さが、0.1~100μmである請求項1又は2に記載のガス拡散層。
【請求項5】
前記フィラー粒子の針状突起のアスペクト比が、5~50である請求項1又は2に記載のガス拡散層。
【請求項6】
前記導電性粒子が、カーボン粒子である請求項1又は2に記載のガス拡散層。
【請求項7】
前記バインダ樹脂が、フッ素樹脂である請求項1又は2に記載のガス拡散層。
【請求項8】
前記フィラー粒子及び前記導電性粒子の少なくとも一方の表面に、シランカップリング剤に由来する疎水性基を有する請求項1又は2に記載のガス拡散層。
【請求項9】
前記ガス拡散基材が、多孔質導電性材料からなる請求項1又は2に記載のガス拡散層。
【請求項10】
中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子と、導電性粒子と、バインダ樹脂とを含む組成物をガス拡散基材上に塗布し、乾燥することにより、前記ガス拡散基材の片面にマイクロポーラス層を形成することを特徴とするガス拡散層の製造方法。
【請求項11】
前記組成物は、シランカップリング剤を更に含む請求項10に記載のガス拡散層の製造方法。
【請求項12】
前記組成物における前記シランカップリング剤の添加量が、前記導電性粒子100質量部に対して、0.1~10質量部である請求項11に記載のガス拡散層の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載のガス拡散層のマイクロポーラス層の上に、触媒層が積層されていることを特徴とするガス拡散電極。
【請求項14】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたイオン伝導性膜とを含む膜電極接合体であって、
前記正極が、請求項13に記載のガス拡散電極であることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項15】
請求項14に記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ガス透過性及び反応液に対する遮蔽性に優れたガス拡散層及びその製造方法、ガス拡散電極及びそれを用いた膜電極接合体、並びにそれを用いた電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭といった化石燃料の使用により、大気中の二酸化炭素の濃度は急激に上昇している。このため、二酸化炭素の排出がない再生可能エネルギーへの期待が高まっている。再生可能エネルギーとしては、太陽電池や風力発電等が挙げられるが、これらは発電量が天候や自然条件に依存しているため、電力の安定供給が難しい。
【0003】
このような状況において、再生可能エネルギーで発生させた電力を用いて二酸化炭素(CO2)を電気化学的に還元し、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)、エチレン(C2H4)等の炭素化合物に変換して貯蔵し、電力供給が逼迫した際に、その炭素化合物を発電用燃料として用いる技術が検討されている。
【0004】
上記技術で用いる二酸化炭素の電解セルについては種々提案されている(特許文献1~4など)。例えば、電解セルは、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する正極と、水を酸化して酸素を生成する負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたイオン伝導性膜とを有する膜電極接合体とを備えている。また、前記正極は、二酸化炭素を含む反応ガス側に配置されるため、触媒層とガス拡散層とを備え、その触媒層はイオン伝導性膜と接して配置されている。
【0005】
前記ガス拡散層には、反応ガスを触媒層に供給するために高いガス透過性が求められる。また、負極側からイオン伝導性膜を通して水(電解液)などの反応液がガス拡散電極の触媒層まで達する。この触媒層に達した反応液が、更にガス拡散層に浸入すると、ガス拡散層のガス透過性が低下するため、ガス拡散層には反応液に対する遮蔽性も求められる。
【0006】
ここで、ガス拡散層の空隙を少なくすれば反応液に対する遮蔽性は高まるが、同時にガス透過性が低下してしまう。一方、ガス拡散層の空隙を多くするとガス透過性は向上するが、同時に反応液に対する遮蔽性が低下してしまう。
【0007】
また、本願に関連する先行技術として特許文献5がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-157252号公報
【特許文献2】特開2020-045509号公報
【特許文献3】特開2021-063267号公報
【特許文献4】特開2021-063292号公報
【特許文献5】特開2011-076848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願が解決しようとする課題は、反応液に対する遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上させたガス拡散層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願のガス拡散層は、ガス拡散基材と、前記ガス拡散基材の片面に形成されたマイクロポーラス層とを含み、前記マイクロポーラス層は、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子と、導電性粒子と、バインダ樹脂とを含むことを特徴とする。
【0011】
本願のガス拡散層の製造方法は、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子と、導電性粒子と、バインダ樹脂とを含む組成物をガス拡散基材上に塗布し、乾燥することにより、前記ガス拡散基材の片面にマイクロポーラス層を形成することを特徴とする。
【0012】
本願のガス拡散電極は、前記本願のガス拡散層のマイクロポーラス層の上に、触媒層が積層されていることを特徴とする。
【0013】
本願の膜電極接合体は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたイオン伝導性膜とを含み、前記正極が、前記本願のガス拡散電極であることを特徴とする。
【0014】
本願の電解セルは、前記本願の膜電極接合体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本願によれば、ガス透過性に優れ、かつ、反応液に対する遮蔽性にも優れたガス拡散層、及びそれを用いたガス拡散電極、そのガス拡散電極を用いた膜電極接合体並びに電解セルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図2は、従来の電解セルの要部模式断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の電解セルの要部模式断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態の電解セルの一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(ガス拡散層)
本願のガス拡散層の実施形態について説明する。本実施形態のガス拡散層は、主として後述する電解セルや燃料電池のガス拡散電極に用いられるものであり、ガス拡散基材と、前記ガス拡散基材の片面に形成されたマイクロポーラス層とを備え、前記マイクロポーラス層は、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子と、導電性粒子と、バインダ樹脂とを含んでいる。
【0018】
本実施形態のガス拡散層は、そのマイクロポーラス層が、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子を含んでいるので、反応液に対する遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上させることができる。
【0019】
ここで、本実施形態のガス拡散層において、反応液に対する遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上できる理由について、二酸化炭素の電解セルを具体例として説明するが、先ず、図面に基づき二酸化炭素を電解する電解セルの概要について説明する。
【0020】
<電解セルの概要>
図1は、従来の電解セルの模式図である。
図1において、従来の電解セルの膜電極接合体10は、プロトン伝導性膜11と、プロトン伝導性膜11の一方の主面に配置された負極12と、プロトン伝導性膜11の他方の主面に配置された正極13とを備えている。負極12の外側は、電解質を含む水溶液(電解液)14に接している。また、正極13の外側は、二酸化炭素を含む反応ガス15に接している。
【0021】
図1において、負極12と正極13との間に電流を供給すると、負極12では、2H
2O→4H
++O
2+4e
-の水(H
2O)の酸化反応が起こり、プロトンH
+及び電子e
-が生じる。このプロトンH
+がプロトン伝導性膜11を介して正極13に移動する。一方、正極13では、負極12からのプロトンH
+及び電子e
-により、下記の二酸化炭素(CO
2)の還元反応が起こり、一酸化炭素(CO)、メタン(CH
4)、エチレン(C
2H
4)等の炭素化合物16が生じる。
【0022】
2CO2+4H++4e-→2CO+2H2O
CO+6H++6e-→CH4+H2O
2CO+8H++8e-→C2H4+2H2O
【0023】
<ガス拡散層の反応液に対する遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上できる理由>
通常、従来の電解セルの正極13は、
図2に示すように、触媒層17とガス拡散層18からなるガス拡散電極で構成されている。電解セルでは、負極12側からプロトン伝導性膜11を通して水(電解液)14がガス拡散電極の触媒層17まで達する。この触媒層17に達した電解液が、更にガス拡散層18に浸入すると、ガス拡散層18のガス透過性が低下するため、ガス拡散層18には電解液に対する遮蔽性が求められる。一方、ガス拡散層18には、反応ガスを触媒層17に供給するために高いガス透過性が求められる。しかし、従来、ガス拡散層18にガス透過性と電解液に対する遮蔽性とを同時に高めて付与することは困難であった。
【0024】
これに対し、
図3に示すガス拡散電極(正極)13では、ガス拡散層18が、ガス拡散基材18aと、ガス拡散基材18aの片面に形成されたマイクロポーラス層18bとを備えており、触媒層17側に配置されたマイクロポーラス層18bが、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子を含んでいるので、マイクロポーラス層18bの空隙を多くしてガス透過性を高めても、前記フィラー粒子の中心から放射状に延びる複数の針状突起の作用により、撥水性が低下せず、マイクロポーラス層18bの電解液に対する遮蔽性を維持できると考えられる。ここで、フィラー粒子の中心から放射状に延びる複数の針状突起の作用とは、上記針状突起の先端がマイクロポーラス層の表面に突出することにより生じる電解液に対する遮蔽作用をいう。また、複数の前記フィラー粒子の針状突起同士が交差して空間が形成されやすくなり、マイクロポーラス層18bの空隙率を高めてガス透過性を向上させる作用も期待できる。なお、触媒層17まで達した電解液は、マイクロポーラス層18bで遮蔽されるので、ガス拡散基材18aの電解液遮蔽性は問題とならない。
【0025】
以上より、本実施形態のガス拡散層では電解液などの反応液に対する遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上できると考えられる。
【0026】
以下、本実施形態のガス拡散層の各構成部材について説明する。
【0027】
<マイクロポーラス層>
本実施形態のガス拡散層において、マイクロポーラス層は、ガス拡散層の電解液遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上させるために、ガス拡散基材の片面に形成される。
【0028】
上記マイクロポーラス層の空隙率は、ガス透過性を向上させるために30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。一方、電解液遮蔽性が低下するのを防ぐため、空隙率は70%以下であることが好ましい。上記空隙率は、水銀ポロシメータによる水銀圧入法により測定できる。
【0029】
上記マイクロポーラス層の厚みは、特に限定されないが、薄すぎると電解液遮蔽性が低下するので、通常、1~100μm程度に設定される。
【0030】
上記マイクロポーラス層は、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子と、導電性粒子と、バインダ樹脂とを含んでいる。
【0031】
[フィラー粒子]
上記マイクロポーラス層を構成するフィラー粒子としては、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子を用いる。上記フィラー粒子をマイクロポーラス層に含めることにより、マイクロポーラス層の空隙率を高めてガス透過性を向上させても、フィラーの中心から放射状に延びる複数の針状突起の作用により、撥水性が発現し、マイクロポーラス層の電解液遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上できる。
【0032】
前記フィラー粒子の含有量は、導電性粒子100質量部に対して、1~40質量部であることが好ましい。40質量部を超えるとマイクロポーラス層の導電性が低下するおそれがあり、1質量部を下回ると電解液遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上させるというフィラー粒子の添加効果が発現しないおそれがある。
【0033】
前記フィラー粒子は、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、及び酸化タングステンからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物から形成されていることが好ましい。フィラー粒子を形成する金属酸化物の選択は、使用する電解液に対する耐性を考慮して決定すればよい。例えば、酸化亜鉛であれば酸性溶液又はアルカリ性溶液に対する耐性が低いため、中性に近いpHを有する電解液の場合に使用し、酸化チタン、酸化鉄等であれば酸性溶液に対する耐性が低いため、中性に近いpHを有する電解液又はアルカリ性電解液の場合に使用する。
【0034】
前記フィラー粒子の針状突起の長さは、0.1~100μmであることが好ましい。上記針状突起の長さが0.1μmを下回るとマイクロポーラス層をガス拡散基材の上に形成する際に、フィラー粒子がガス拡散基材に侵入し、マイクロポーラス層の空隙率が低下するおそれがある。一方、上記針状突起の長さが100μmを超えるとマイクロポーラス層の空隙率が大きくなりすぎて、マイクロポーラス層の電解液遮蔽性が低下するおそれがある。
【0035】
前記フィラー粒子の針状突起のアスペクト比は、5~50であることが好ましい。針状突起のアスペクト比が5を下回ると針状突起の作用が低下して電解液遮蔽性が発現しにくくなるおそれがある。一方、針状突起のアスペクト比が50を超えると、フィラー粒子を同量使用しても、マイクロポーラス層の表面に突出する針状突起の先端の数が相対的に減少するため、電解液遮蔽性が発現しにくくなるおそれがある。
【0036】
上記フィラー粒子の針状突起の長さ及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により測定した画像等により測定できる。
【0037】
[導電性粒子]
上記マイクロポーラス層を構成する導電性粒子は、マイクロポーラス層に導電性を付与するために用いられる。上記導電性粒子としては、電子伝導性、電気化学的安定性等を考慮すると、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック;黒鉛;活性炭;カーボンナノホーン;カーボンナノチューブ;等のカーボン粒子、並びに、ITO、ATO等の導電性金属酸化物を用いることができるが、カーボン粒子が最も好ましい。ITO、ATO等の導電性金属酸化物は、アルカリ性水溶液や酸性水溶液に可溶であるため、使用する電解液が中性の場合に限り使用できる。
【0038】
上記導電性粒子の平均粒子径は、通常、前記フィラー粒子の針状突起の長さより小さく設定され、5~80nm程度である。上記導電性粒子の平均粒子径は、堀場製作所製の粒子径分布測定装置“LA-920”等により測定できる。
【0039】
[バインダ樹脂]
上記マイクロポーラス層を構成するバインダ樹脂としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリル酸、ポリイミド等を用いることができるが、マイクロポーラス層に撥水性を付与するために、PVDF、PTFE等のフッ素樹脂であることが好ましい。
【0040】
[シランカップリング剤に由来する疎水性基]
上記フィラー粒子及び上記導電性粒子の少なくとも一方の表面に、シランカップリング剤に由来する疎水性基を有することが好ましい。これにより、マイクロポーラス層の撥水性をより高めることができる。
【0041】
前述のとおり、マイクロポーラス層に上記フィラー粒子を含有させることにより、マイクロポーラス層の電解液遮蔽性を低下させずに空隙率を高めることが可能である。一方、マイクロポーラス層をミクロに見た場合、上記フィラー粒子が存在しない領域においても、電解液遮蔽性を低下させないことが好ましいが、特に上記導電性粒子の表面に、シランカップリング剤に由来する疎水性基を付与することにより、上記フィラー粒子が存在しない領域においても、撥水性を付与できる。
【0042】
<ガス拡散基材>
ガス拡散基材は、ガス拡散層に本来の機能であるガス透過性を付与するために用いられると共に、上記マイクロポーラス層を保持するための基材として用いられる。このため、ガス拡散基材は、機械的耐久性に優れ、ガス透過性に優れ、マイクロポーラス層との相性が良い基材であればよく、導電性は必ずしも必要ではないが、ガス拡散層に触媒層を積層してガス拡散電極として用いる場合に、ガス拡散基材から集電を取ることができるため、ガス拡散基材にも導電性があったほうが好ましい。そのため、ガス拡散基材は、多孔質導電性材料から形成されていることが好ましい。具体的には、ガス拡散基材としては、カーボン不織布、カーボンペーパー等を用いることができる。
【0043】
ガス拡散基材の厚みは特に限定されないが、通常は例えば100~300μm程度に設定される。
【0044】
(ガス拡散層の製造方法)
本願のガス拡散層の製造方法の実施形態について説明する。本実施形態のガス拡散層の製造方法は、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子と、導電性粒子と、バインダ樹脂とを含む組成物(例えば、ペースト、スラリー等からなる塗料)をガス拡散基材上に塗布し、乾燥することにより、前記ガス拡散基材の片面にマイクロポーラス層を形成するものである。
【0045】
上記のフィラー粒子、導電性粒子、バインダ樹脂及びガス拡散基材については前述のガス拡散層の説明で詳述したので重複する説明は省略する。
【0046】
上記組成物は、中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子を含んでいるので、上記組成物を空隙の多いガス拡散基材に塗布しても、フィラー粒子が有する針状突起の形状特性により、組成物の固形成分がガス拡散基材の空隙内に侵入しにくい。より具体的には、例えば、ガス拡散基材としてカーボン不織布を用いた場合には、フィラー粒子が有する針状突起の形状特性により、カーボン不織布の繊維と繊維とが重なる箇所へ、組成物の粒子成分が侵入しにくくなり、ガス拡散基材上に均一なマイクロポーラス層を形成できる。
【0047】
上記組成物には、フィラー粒子、導電性粒子及びバインダ樹脂を分散させるために溶媒を添加することが好ましい。上記溶媒としては各成分を十分に分散できれば特に限定されず、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、メタノール、エタノール、水等を用いることができる。
【0048】
上記組成物には、シランカップリング剤を更に含むことが好ましい。シランカップリング剤は、添加後に加水分解してフィラー粒子及び導電性粒子の少なくとも一方の表面に、シランカップリング剤に由来する疎水性基を付与することができる。これにより、前述のとおり、形成したマイクロポーラス層の撥水性を高めることができる。
【0049】
上記シランカップリング剤の添加量は、導電性粒子100質量部に対して、0.1~10質量部とすればよい。
【0050】
上記組成物の塗布方法も特に限定されず、例えば、バーコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、デップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター等を用いることができる。
【0051】
上記組成物をガス拡散基材上に塗布し、ガス拡散基材の片面にマイクロポーラス層を形成する際の上記組成物の塗工量は特に限定されないが、固形分換算で、例えば、0.8~3.0mg/cm2とすればよい。
【0052】
上記組成物を塗布した後の乾燥温度及び乾燥時間は特に限定されず、例えば、90~200℃程度の温度で1~10時間程度の真空乾燥を行えばよい。
【0053】
(ガス拡散電極)
本願のガス拡散電極の実施形態について説明する。本実施形態のガス拡散電極は、前述の本願のガス拡散層のマイクロポーラス層の上に、触媒層が積層されている。本実施形態のガス拡散電極は、本願のマイクロポーラス層を有するガス拡散層を備えているので、電解液遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上させつつ、電気化学反応を継続できる。
【0054】
上記触媒層は、触媒材料と、バインダ樹脂とから形成できる。上記触媒材料としては、例えば、銅(Cu)、錫(Sn)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、セリウム(Ce)、イリジウム(Ir)、ビスマス(Bi)等の金属微粒子及びこれらの合金微粒子が使用できるが、二酸化炭素の電解セルの場合には、特にCu微粒子が好ましい。上記触媒材料にCu微粒子を用いると、上記ガス拡散電極を後述する電解セルに用いた場合、二酸化炭素をメタン、エチレン等の炭化水素系の炭素化合物まで還元できるからである。
【0055】
上記触媒材料に用いる金属微粒子の粒子径は、触媒活性を高めるために、1~500nmであることが好ましい。また、上記触媒材料は、導電性材料の表面に担持して用いることもできる。
【0056】
上記バインダ樹脂としては、ポリパーフルオロカーボンスルホン酸、ポリスチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のプロトン伝導性有機材料を用いることができるが、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、ポリイミド等を用いることもできる。
【0057】
上記触媒層におけるバインダ樹脂の含有量は、触媒材料100質量部に対して、2~100質量部とすればよい。
【0058】
上記触媒層は、上記触媒材料と、上記バインダ樹脂と、溶媒とを含む触媒塗料を作製し、この触媒塗料をガス拡散層に塗布した後、溶媒を乾燥除去することにより形成することができる。
【0059】
(膜電極接合体)
本願の膜電極接合体の実施形態について説明する。本実施形態の膜電極接合体は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたイオン伝導性膜とを備え、前記正極として前述の本願のガス拡散電極を用いるものである。
【0060】
本実施形態の膜電極接合体は、正極として本願のガス拡散電極を備えているので、正極の電解液遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上させることができ、安定して電気化学反応を継続できる。
【0061】
以下、本実施形態の膜電極接合体の各構成部材について説明するが、正極については本願のガス拡散電極を使用しているので、その説明は省略する。
【0062】
<負極>
負極は、例えば、電解セルに用いる場合、反応液(水)を酸化して酸化生成物(酸素)を生成する酸化電極として機能し、ガス拡散層と、負極触媒層とを備えているが、負極は、負極触媒層のみで構成されていてもよい。ガス拡散層は、多孔性の電子伝導性材料等で構成することができ、例えば、カーボン不織布、カーボンペーパー等を用いることができる。
【0063】
負極触媒層は、触媒材料と、導電性材料と、バインダ樹脂とから形成できる。負極触媒層に用いる触媒材料としては、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の金属微粒子が使用できる。
【0064】
上記導電性材料としては特に限定されないが、電子伝導性、電気化学的安定性等を考慮すると、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブ等の高表面積の炭素材料粉末が好ましい。
【0065】
負極触媒材料に用いる金属微粒子の粒子径は、触媒活性を高めるために、1~50nmであることが好ましい。また、負極触媒材料は、上記導電性材料粉末の表面に担持されていることが好ましい。負極触媒材料の電子伝導性が向上するからである。負極触媒材料を担持した導電性材料における負極触媒材料の含有量は特に限定されないが、例えば、導電性材料100質量部に対して、10~500質量部とすることができる。
【0066】
上記バインダ樹脂としては、正極(前述の本願のガス拡散電極)の触媒層で用いたバインダ樹脂と同じものが使用できる。また、負極触媒層におけるバインダ樹脂の含有量は、負極触媒材料100質量部に対して、2~100質量部とすればよい。
【0067】
上記負極触媒層は、例えば、触媒材料が導電性材料に担持された担持体と、バインダ樹脂と、溶媒とを含む触媒塗料を作製し、この触媒塗料を負極ガス拡散層に塗布し、その後、溶媒を除去することにより形成することができる。
【0068】
<イオン伝導性膜>
イオン伝導性膜としては、カチオン交換膜を用いることができる。カチオン交換膜は、ポリパーフルオロカーボンスルホン酸、ポリスチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のプロトン伝導性有機材料を含むことが好ましい。これらの有機材料は、架橋構造にすることや、部分フッ素化することにより材料安定性を高めることができるからである。特に、プロトン伝導性有機材料としては、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示すポリパーフルオロカーボンスルホン酸が好ましい。
【0069】
イオン伝導性膜としては、アニオン交換膜を用いることもできる。アニオン交換膜は、例えば、アニオン(OH-)の選択的透過性のあるハイドロタルサイト等で形成できる。また、アニオン交換膜としては、ポリマーをマトリクスとし、かつそのマトリクス中に金属化合物の粒子を分散させた膜を用いることもできる。
【0070】
(電解セル)
本願の電解セルの実施形態について説明する。本実施形態の電解セルは、前述の本願の膜電極接合体を備えている。
【0071】
次に、本願の電解セルの実施形態を図面に基づき説明する。
図4は、本実施形態の二酸化炭素の電解セルの一例を示す模式断面図である。
図4において、電解セル30は、膜電極接合体31を備え、膜電極接合体31は、正極21、負極22及びイオン伝導性膜23から構成されている。膜電極接合体31(正極21、負極22、イオン伝導性膜23)については前述の説明で詳述したので重複する説明は省略する。
【0072】
正極21は、拡散層21aと、触媒層21bとを備えている。正極21には、前述の本願のガス拡散電極を用いているので、拡散層21aは、マイクロポーラス層とガス拡散基材とから構成されているが、
図4ではその区別を省略している。負極22は、ガス拡散層22aと、触媒層22bとを備えているが、負極22は、触媒層22bのみで構成されていてもよい。
【0073】
電解セル30は、正極21のガス拡散層21a及び負極22のガス拡散層22aの外側に、それぞれ集電板24、25を備えている。正極21側の集電板24には、反応ガス(二酸化炭素を含むガス)を取り込むための孔24aが設けられており、更にリード体24bが接続されている。また、集電板24の外側には、反応ガス流路26が設けられている。
【0074】
また、負極22側の集電板25には、電解液を取り込むための孔25aが設けられており、更にリード体25bが接続されている。また、集電板25の外側には、電解液容器27が設けられ、電解液28が充填されている。
【0075】
上記電解液としては、電解質を含む水溶液が用いられ、電解質としては、例えば、水酸化物イオン(OH-)、水素イオン(H+)、カリウムイオン(K+)、ナトリウムイオン(Na+)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、硝酸イオン(NO3
-)、硫酸イオン(SO4
2-)、リン酸イオン(PO4
2-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)等が挙げられる。
【0076】
集電板24、25としては、例えば、白金、金等の貴金属や、ステンレス鋼等の耐食性金属、又は炭素材料等で構成することができる。また、それらの材料に耐食性向上のために、表面にメッキや塗装が施されていてもよい。
【0077】
膜電極接合体31は集電板24、25により挟まれ、シール材29で封止されることにより電解セル30が構成される。
【実施例0078】
以下、実施例により本願を説明するが、本願は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
<マイクロポーラス層形成塗料の作製>
中心から放射状に延びる複数の針状突起を有するフィラー粒子として株式会社アムテック社製のテトラポッド形状酸化亜鉛粉末“パナテトラ(商品名、針状突起の長さ:10μm、針状突起のアスペクト比:7)”、導電性粒子としてカーボンブラック(CB)、バインダ樹脂としてポリビニリデンフルオライド(PVDF)、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を準備した。
【0080】
上記の各成分をパナテトラ:CB:PVDF:NMP=0.2:2:0.1:25の質量比で混合し、マイクロポーラス層形成塗料を作製した。
【0081】
<ガス拡散層の作製>
ガス拡散層のガス拡散基材として厚み205μm、空隙率17%のカーボン不織布を準備した。次に、作製したマイクロポーラス層形成塗料をカーボン不織布の片面に塗布して乾燥し、カーボン不織布の上にマイクロポーラス層が積層されたガス拡散層を作製した。乾燥後のマイクロポーラス層の厚みは、40μmであった。
【0082】
(参考例1)
実施例1で作製したマイクロポーラス層形成塗料において、パナテトラに代えてシランカップリング剤を加え、シランカップリング剤:CB:PVDF:NMP=0.06:2:0.1:25の質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様にしてマイクロポーラス層形成塗料を作製し、このマイクロポーラス層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にしてガス拡散層を作製した。乾燥後のマイクロポーラス層の厚みは、40μmであった。
【0083】
(比較例1)
実施例1のマイクロポーラス層形成塗料から、パナテトラを除いたこと以外は、実施例1と同様にしてマイクロポーラス層形成塗料を作製し、このマイクロポーラス層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にしてガス拡散層を作製した。乾燥後のマイクロポーラス層の厚みは、40μmであった。
【0084】
<ガス拡散層のガス透過性の評価>
実施例1、参考例1及び比較例1のガス拡散層のガス透過性を評価するために、ガス拡散層のカーボン不織布側から、大気圧下で、0.785cm2の面積を空気100mLが通過する時間を測定した。通過時間(透気度)が短いほどガス透過性がよいと評価できる。
【0085】
<ガス拡散層の電解液遮蔽性の評価>
実施例1、参考例1及び比較例1のガス拡散層の電解液遮蔽性を評価するために、ガス拡散層のマイクロポーラス層側の電解液に対する接触角を測定した。接触角が大きいほどマイクロポーラス層の撥水性が高く、ガス拡散層の電解液遮蔽性が大きいと評価できる。
【0086】
上記ガス拡散層のマイクロポーラス層側の表面の電解液に対する接触角は、JIS R3257(1999)の「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」の「6.静滴法」に準じ、接触角測定装置を用いて測定した。すなわち、FIBRO System AB 社製の「携帯式接触角計PG-X+」を用い、平らにセットしたガス拡散層のマイクロポーラス層上に装置の測定ヘッドを置き、マイクロポーラス層の表面に電解液(1mol/Lの濃度のKHCO3水溶液)を1μL滴下し、着滴から1秒経過後に接触角を測定した。
【0087】
上記評価の結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1から、実施例1のガス拡散層は、比較例1に比べて、電解液遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上できることが分かる。これは、実施例1のガス拡散層のマイクロポーラス層に添加したフィラー粒子(パナテトラ)の針状突起の形状的な特性から、マイクロポーラス層の空隙率が大きくなっても、マイクロポーラス層の撥水性が維持され、電解液遮蔽性が低下しなかったものと考えられる。
【0090】
また、参考例1のガス拡散層は、マイクロポーラス層形成塗料にシランカップリング剤を添加したため、シランカップリング剤が添加後に加水分解して、カーボンブラックの表面に疎水性基が付与され、マイクロポーラス層の撥水性が向上し、ガス透過性と電解液遮蔽性とが共に向上したと考えられる。
【0091】
従って、実施例1のマイクロポーラス層形成塗料に更にシランカップリング剤を添加すれば、マイクロポーラス層の撥水性が向上し、ガス透過性と電解液遮蔽性が向上することが期待できる。
以上のように本願のガス拡散層は、反応液に対する遮蔽性を低下させずにガス透過性を向上させることができるので、これを用いることにより、電極表面での反応効率の高い電解セルを提供できる。