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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047991
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】シリンダ装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 9/09 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
F15B9/09 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153801
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】菅原 央道
(72)【発明者】
【氏名】久保 大和
【テーマコード(参考)】
3H001
【Fターム(参考)】
3H001AA03
3H001AA06
3H001AB06
3H001AB09
3H001AC02
3H001AD04
3H001AE12
3H001AE14
3H001AE23
(57)【要約】
【課題】本発明は、第1可変絞り弁或いは第2可変絞り弁の絞り係数が変化しても目標推力に対する追従性能の悪化を抑制できるシリンダ装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明のシリンダ装置Aは、シリンダ2と、シリンダ2内に移動自在に挿入されてシリンダ2内を二つの作動室R1,R2に区画するピストン3と、互いに並列して作動室同士R1,R2を連通する第1流路4と第2流路5と、第1流路4に設けられた第1可変絞り弁6と、第2流路5に直列に設けられる第2可変絞り弁7およびモータ8によって駆動される双方向吐出型のポンプ9とを有する液圧シリンダ1と、第1可変絞り弁6、第2可変絞り弁7およびモータ8を制御するコントローラ11とを備え、コントローラ11は、液圧シリンダ1の目標推力と実推力とモータ8の回転速度とに基づいてモータ8のトルクを制御するスライディングモード制御部21を備えている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダ内に移動自在に挿入されて前記シリンダ内を二つの作動室に区画するピストンと、互いに並列して前記作動室同士を連通する第1流路と第2流路と、前記第1流路の途中に設けられた第1可変絞り弁と、前記第2流路の途中に直列に設けられる第2可変絞り弁およびモータによって駆動される双方向吐出型のポンプとを有する液圧シリンダと、
前記第1可変絞り弁、前記第2可変絞り弁および前記モータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、スライディングモード制御を用いて前記液圧シリンダの目標推力と実推力と前記モータの回転速度とに基づいて前記モータのトルクを制御するスライディングモード制御部を有する
ことを特徴とするシリンダ装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記モータが制動状態の場合に、前記第1可変絞り弁の絞り係数および前記第2可変絞り弁の絞り係数のいずれか一方または両方を前記モータの回生電力を高くするように制御する回生制御部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記目標推力の入力を受けてフィードフォワード制御によってスライディングモード制御部が求めた電流指令に加算する加算電流指令を求めるフィードフォワード制御部を有し、前記スライディングモード制御部が求めた電流指令と前記フィードフォワード制御部が求めた前記加算電流指令とを加算して前記モータに供給すべき目標電流を指示する最終電流指令を生成する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダ装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記液圧シリンダの実推力と前記モータの回転速度の一方または両方を推定する状態推定部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシリンダ装置としては、たとえば、車両の車体と車軸との間に介装されるアクティブサスペンション等に適用され、具体的には、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されてシリンダ内を二つの作動室に区画するピストンと、ピストンに連結されるロッドと、並列して二つの作動室を連通する第1流路および第2流路と、第1流路に設けられた第1可変絞り弁と、第2流路に直列に設けられた第2可変絞り弁および双方向吐出型のポンプと、ポンプを駆動するモータとを有する油圧シリンダと、第1可変絞り弁、第2可変絞り弁およびモータを制御する制御装置とを備えて構成されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、従来のシリンダ装置は、アクティブサスペンションとして使用される場合、シリンダが車体と車軸の一方に連結されるとともに、ロッドが車体と車軸の他方に連結され、ポンプをモータによって駆動することによって推力を発生して、車体の振動を抑制できる。
【0004】
さらに、従来のシリンダ装置では、油圧シリンダが外力によって強制的に伸縮させられる場合、第2流路を流れる作動油によってポンプが回転させられるため、モータが制動領域で使用されて発電して回生電力が発生する。このようにモータが制動領域で使用される場合、モータが発生するトルクによってポンプが作動油の流れに抵抗を与える。そのため、油圧シリンダは、外力による油圧シリンダの伸縮を妨げる推力が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-196597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のシリンダ装置では、第1可変絞り弁の絞り係数と第2可変絞り弁の絞り係数の調整によって、ポンプを通過する作動油量の調整とモータが負担するトルクを調整できる。なお、絞り係数は、単位時間当たり流量を圧力で割った値であり、絞り係数を小さくすれば可変絞り弁における抵抗が大きくなることを示している。
【0007】
モータが制動状態にある場合、モータのトルクを縦軸に採り、モータの回転速度を横軸に採ったグラフ上で、原点を通ってモータを短絡した際のトルクと回転速度との関係を示す短絡曲線に接する直線の傾きの2分の1の傾きを持つ直線(回生効率最大直線)上に、モータが出力しているトルクとモータの回転速度との交点(モータの動作点)があると回生効率が最大となる。
【0008】
よって、従来のシリンダ装置では、モータが制動状態にある場合、モータが出力しているトルクとモータの回転速度との交点が回生効率最大直線上に配置されるように、第1可変絞り弁における絞り係数と第2可変絞り弁における絞り係数とを調整している。
【0009】
このように従来のシリンダ装置では、モータが制動状態にある場合にモータの回生効率を最大とすることを狙ってモータの動作点を回生効率最大直線上に配置するように第1可変絞り弁と第2可変絞り弁との絞り係数を制御するが、第1可変絞り弁と第2可変絞り弁との絞り係数を変化させると、シリンダ装置の特性が変化するためにシリンダ装置の目標推力に対するシリンダ装置の実推力の追従性能が悪化してしまう。
【0010】
そこで、本発明は、第1可変絞り弁或いは第2可変絞り弁の絞り係数が変化しても目標推力に対する追従性能の悪化を抑制できるシリンダ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段におけるシリンダ装置は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されてシリンダ内を二つの作動室に区画するピストンと、互いに並列して作動室同士を連通する第1流路と第2流路と、第1流路に設けられた第1可変絞り弁と、第2流路に直列に設けられる第2可変絞り弁およびモータによって駆動される双方向吐出型のポンプとを有する液圧シリンダと、第1可変絞り弁、第2可変絞り弁およびモータを制御するコントローラとを備え、コントローラは、スライディングモード制御を用いて液圧シリンダの目標推力と実推力とモータの回転速度とに基づいてモータのトルクを制御するスライディングモード制御部を備えている。このように構成されたシリンダ装置によれば、第1可変絞り弁および第2可変絞り弁の絞り係数の変化が液圧シリンダの推力に与える影響を小さくするようにスライディングモード制御部の制御仕様を予め設計することができる。よって、シリンダ装置によれば、第1可変絞り弁および第2可変絞り弁の絞り係数を変化させてシリンダ装置の特性が変化しても液圧シリンダの推力変動を低減できるとともに制御安定性を高めることができる。
【0012】
また、シリンダ装置におけるコントローラは、モータが制動状態の場合に、第1可変絞り弁の絞り係数および第2可変絞り弁の絞り係数のいずれか一方または両方をモータの回生電力を高くするように制御する回生制御部を備えてもよい。このように構成されたシリンダ装置によれば、第1可変絞り弁或いは第2可変絞り弁の絞り係数を変化させてもスライディングモード制御部による制御によって液圧シリンダの推力変動を抑制できるので、回生電力の向上と液圧シリンダの推力変動の抑制とを両立できる。
【0013】
さらに、シリンダ装置におけるコントローラは、目標推力の入力を受けてフィードフォワード制御によってスライディングモード制御部が求めた電流指令に加算する加算電流指令を求めるフィードフォワード制御部を備え、スライディングモード制御部が求めた電流指令とフィードフォワード制御部が求めた加算電流指令とを加算してモータに供給するべき目標電流を指示する最終電流指令を生成してもよい。このように構成されたシリンダ装置によれば、液圧シリンダの実推力をフィードバックしないフィードフォワード制御部が推力指令に対して液圧シリンダの応答遅れを考慮していち早く液圧シリンダの推力が推力指令に追従するような加算電流指令を求め、スライディングモード制御部21の電流指令に加算電流指令を加算して最終電流指令を生成するので、目標推力に対する液圧シリンダの追従性に影響を与えずに目標推力に対する応答性を向上させ得る。
【0014】
また、シリンダ装置におけるコントローラが液圧シリンダの実推力とモータの回転速度の一方または両方を推定する状態推定部を備えている場合には、液圧シリンダの状態量やその他の情報から実推力と回転速度の一方または両方を推定できるので、液圧シリンダに実推力とモータの回転速度の一方または両方を直接的に検知するためのセンサ類の設置が不要となって、シリンダ装置の製造コストを低減できる。
【発明の効果】
【0015】
以上より、本発明のシリンダ装置によれば、第1可変絞り弁或いは第2可変絞り弁の絞り係数が変化しても目標推力に対する追従性能の悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施の形態におけるシリンダ装置の概念図である。
図2図2は、一実施の形態におけるシリンダ装置の流量と差圧の関係を示したモデル図である。
図3図3は、モータの回転速度をポンプの通過流量に対応させるとともに、モータのトルクを液体がポンプを通過する際の差圧(圧力損失)に対応させたグラフである。
図4図4は、モータの回転速度と出力可能なトルクの範囲を示す図である。
図5図5は、コントローラの構成を示した図である。
図6図6は、回生制御部の構成を示した図である。
図7図7は、推力制御部の構成を示した図である。
図8図8は、本実施の形態のシリンダ装置における目標推力に対する液圧シリンダの実推力との誤差と、一般的な比例積分制御による場合の目標推力に対する液圧シリンダの実推力との誤差とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態におけるシリンダ装置Aは、図1に示すように、液圧シリンダ1と、コントローラ11とを備えて構成されている。
【0018】
以下、シリンダ装置Aの各部について詳細に説明する。液圧シリンダ1は、図1に示すように、シリンダ2と、シリンダ2内に移動自在に挿入されてシリンダ2内を二つの作動室R1,R2に区画するピストン3と、互いに並列して作動室R1,R2同士を連通する第1流路4と第2流路5と、第1流路4に設けられた第1可変絞り弁6と、第2流路5に直列に設けられる第2可変絞り弁7およびモータ8によって駆動される双方向吐出型のポンプ9とを備えて構成され、シリンダ2内には液体が充填され密閉されている。また、ピストン3はシリンダ2内に移動自在に挿通されるロッド10に連結されており、この液圧シリンダ1の場合、シリンダ2の両端からロッド10が突出する、いわゆる、両ロッド型のシリンダ装置とされている。
【0019】
そして、液圧シリンダ1を車両に適用する場合、シリンダ2を車両のばね上部材およびばね下部材のうち一方に連結し、ロッド10をばね上部材およびばね下部材のうち他方に連結して、ばね上部材とばね下部材との間に介装すればよい。液圧シリンダ1は、車両に適用されて使用される場合、発揮する推力によってばね上部材である車両の車体とばね下部材である車両の車輪の振動を抑制する。
なお、本書では、ロッド10がピストン3とともにシリンダ2に対して図1中上方へ移動する場合に液圧シリンダ1が伸長作動すると言い、反対に、ロッド10がピストン3とともにシリンダ2に対して図1中下方へ移動する場合に液圧シリンダ1が収縮作動すると言う。なお、液圧シリンダ1は、図示したところでは、両ロッド型に設定されているが、片ロッド型に設定されてもよい。
【0020】
シリンダ2内は、前述したようにピストン3によって図1中上方の伸側の作動室R1と図1中下方の圧側の作動室R2とに区画されており、各作動室R1,R2内には作動油等の液体が充填されている。液体は、作動油の他にも水や水溶液といった他の液体であってもよい。なお、液圧シリンダ1は、前述したように両ロッド型の液圧シリンダとされており、シリンダ2に対してロッド10がピストン3とともに図1中上下方向に移動してもシリンダ2内でロッド10が押し退ける容積が変化しないため、ロッド10がシリンダ2内に出入りする体積の補償をするリザーバを備えていないが、液体の温度変化による体積変化を補償するためにシリンダ2内に連通されるアキュムレータを備えていてもよい。
【0021】
ポンプ9は、双方向吐出型に設定され、たとえば、ベーンポンプ、ギアポンプやアキシャルポンプ等、図示しない回転軸を備えて当該回転軸の回転によって流体を吸込んで吐出することができるとともに、逆に流体の流れによって回転軸を強制的に駆動することができるものであればよい。さらに、ポンプ9の回転軸は、モータ8に接続されており、モータ8は、通電によって駆動することができるとともに、ポンプ9側からの入力によって強制的に回転駆動させられると発電してポンプ9の回転を抑制するトルクを発生するモータであればよく、直流、交流を問わず、種々の形式のモータ、たとえば、ブラシレスモータ、誘導モータ、同期モータ等を採用することができる。
【0022】
液圧シリンダ1は、モータ8によってポンプ9を回転駆動して液体を伸側の作動室R1から圧側の作動室R2へ、あるいは、圧側の作動室R2から伸側の作動室R1へ第2流路5を介して送り込むことで、自発的に伸縮できるとともに、望む方向へ推力を発生することができる。また、液圧シリンダ1は、液圧シリンダ1が外部入力によって強制的に伸縮させられる場合、伸側の作動室R1から圧側の作動室R2へ、あるいは、圧側の作動室R2から伸側の作動室R1へ、第2流路5を介して移動する液体の流れにモータ8のトルクが伝達されるポンプ9で抵抗を与えて伸縮を妨げる方向に推力を発生することができる。
【0023】
さらに、液圧シリンダ1が強制的に伸縮させられる場合、第2流路5を行き来する液体の流れによってポンプ9を介してモータ8が強制的に駆動されるため、モータ8によって液体の運動エネルギが電気エネルギに変換されて電力回生できる。なお、モータ8によって回生した電力は、外部機器へ送電してもよいし、蓄電器に蓄電するようにしてもよい。
【0024】
転じて、第1可変絞り弁6は、ポンプ9を迂回して作動室R1,R2同士を連通する第1流路4に設けられており、第2可変絞り弁7は、ポンプ9とともに第2流路5に設けられている。よって、第1可変絞り弁6は、第2可変絞り弁7およびポンプ9に対して並列に配置されている。これら第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7は、開度や弁通路長を変更することで、圧力損失に対する通過流量の比である絞り係数を変更することができるようになっており、具体的にはたとえば、可変チョークや可変オリフィスといった種々の弁を使用することができ、また、図示しない弁体をソレノイドやモータ等の駆動源で駆動することによって絞り係数を変更できるようになっている。これら第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7における絞り係数を変更する駆動源はコントローラ11によって制御される。
【0025】
なお、ポンプ9と第2可変絞り弁7の配置関係であるが、ポンプ9は作動室R1と作動室R2のいずれに側に配置してもよい。また、シリンダ2内に充填される流体は、たとえば、油、水、水溶液、気体等、どのような流体を使用しても良い。
【0026】
さて、このように構成された液圧シリンダ1は、モータ8にコントローラ11側から電力供給してポンプ9を駆動させる場合には、自ら伸縮するアクチュエータとして機能することができるが、反対に、外力を受けて液圧シリンダ1が伸縮させられる場合、モータ8のトルクでポンプ9の回転を抑制する、すなわち、モータ8を制動領域で使用してモータ8にポンプ9の回転方向とは逆のトルクを発生させるようにし、モータ8、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7とで協働して減衰力を発生できる。そして、モータ8を制動領域で使用する際、これら第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数を調節することによってモータ8の回転速度とトルクをコントロールすることが可能である。
【0027】
なお、モータ8に電流を与えてポンプ9を駆動する、つまり、モータ8を力行領域で使用して、液圧シリンダ1をアクチュエータとして機能させる場合、第1可変絞り弁6を全閉として第1流路4を介しての作動室R1,R2同士が連通されないようにしつつ、第2可変絞り弁7を全開として第2可変絞り弁7によって液体の流れに無用な抵抗を与えてエネルギ損失を生じないようにする。
【0028】
ここで、液圧シリンダ1が外力で伸縮させられる場合におけるモータ8の負荷(回転速度とトルク)のコントロールについて、図2に示すモデル図を使用して説明する。なお、ポンプ9は、モータ8から伝達されるトルクによって液体の流れに抵抗を与え、液体通過時に圧力損失を生じさせることから、可変絞り弁と同等に取り扱うことができるため、図2中では、モータ8およびポンプ9を一つの可変絞り弁Mとして記載している。
【0029】
そして、液圧シリンダ1の伸縮時における一方の作動室R1と他方の作動室R2との差圧をPとし、一方の作動室R1から流出する流体の単位時間当たりの流量(以下、単に流量という)をQとし、第1可変絞り弁6を通過する流体の流量q1を第1可変絞り弁6で生じる差圧(圧力損失)Pで除した比である絞り係数をC1とし、第2可変絞り弁7を通過する流体の流量q2を第2可変絞り弁7で生じる差圧(圧力損失)p2で除した比である絞り係数をC2とし、モータ8とポンプ9でなる可変絞り弁Mを通過する流体の流量q2を可変絞り弁Mで生じる差圧(圧力損失)pmで除した比である絞り係数をCmとすると、下記式1が得られる。
【0030】
【数1】
【0031】
ここで、C=C2×Cm/(C2+Cm)とおくと、式1は下記式2と書くことができる。
【0032】
【数2】
【0033】
さらに、全体の流量Q=q1+q2が成り立ち、第1可変絞り弁6で生じる差圧Pは、第2可変絞り弁7とモータ8とポンプ9でなる可変絞り弁Mの全体で生じる差圧に等しいので、以下の式3が成立する。
【0034】
【数3】
【0035】
式3を式2に代入してまとめると、以下の式4を得る。
【0036】
【数4】
【0037】
そして、上記式4から理解できるように、流量Qおよび差圧Pを変化させない場合、絞り係数C1を変更することで、流量q2を変更することができる。
【0038】
つまり、絞り係数C1を変更することによってポンプ9を迂回する第1可変絞り弁6における流量q1を調整することで、可変絞り弁Mを通過する流量q2を変更することができ、たとえば、第1可変絞り弁6を全閉状態から全開状態に移行する場合、流量q2を増減させて、モータ8の回転速度を増減させることができる。
【0039】
また、第2可変絞り弁7と可変絞り弁Mにおける流量はq2であり、全体の差圧はPであり、可変絞り弁Mにおける差圧(圧力損失)はpmであり、第2可変絞り弁7と可変絞り弁Mの合成絞り係数Cは、上述のようにC=C2×Cm/(C2+Cm)となるため、第2可変絞り弁7と可変絞り弁Mにのみ着目して整理すると、下記式5を得る。
【0040】
【数5】
【0041】
そして、上記式5から理解できるように、流量q2および差圧Pを変化させない場合、絞り係数C2を変更することで、可変絞り弁Mにおける差圧pmを変更することができる。
【0042】
つまり、絞り係数C2を変更することによってポンプ9を流体が通過する際に生じる差圧pmを変更することができ、たとえば、第2可変絞り弁7を全閉状態から全開状態に移行する場合、差圧pmを増減させて、モータ8で負担すべきトルクを増減させることができる。
【0043】
以上のことを、流量Qおよび差圧Pを一定にした状態において、モータ8の回転速度をポンプ9の通過流量に対応させるとともに、モータ8のトルクを流体がポンプ9を通過する際の差圧(圧力損失)に対応させた図3に示すグラフを参照して説明すると、第2可変絞り弁7の絞り係数C2を変更することでモータ8の負担すべきトルク(負担トルク)を縦軸に沿って調節でき、第1可変絞り弁6の絞り係数C1を変更することでモータ8の回転速度を横軸に沿って調節することができるということになる。モータ8の負担トルクは、モータ8とポンプ9との間で作用するトルクである。
【0044】
詳しくは、図3中の点aは、第2可変絞り弁7を全開にして絞り係数C2を最大にし、第1可変絞り弁6を全閉にして絞り係数C1を最小にした状態におけるモータ8の回転速度と負担トルクとの関係を示し、点bは、第2可変絞り弁7を全開にして絞り係数C2を最大にし、第1可変絞り弁6を全開にして絞り係数C1を最大にした状態におけるモータ8の回転速度と負担トルクとの関係を示し、点cは、第2可変絞り弁7を全閉にして絞り係数C2を最小にし、第1可変絞り弁6を全閉にして絞り係数C1を最小にした状態におけるモータ8の回転速度と負担トルクとの関係を示し、点dは、第2可変絞り弁7を全閉にして絞り係数C2を最小にし、第1可変絞り弁6を全開にして絞り係数C1を最大にした状態におけるモータ8の回転速度と負担トルクとの関係を示している。すなわち、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7における絞り係数C1,C2を変更することで点a,b,c,dで囲まれる範囲でモータ8の回転速度と負担トルクを調節することができる。
【0045】
具体的には、モータ8の回転速度と負担トルクの交点(モータの動作点)が点aにあるときに、第1可変絞り弁6における絞り係数C1を大きくしていくと、点b側へシフトさせることができ、第2可変絞り弁7における絞り係数C2を小さくしていくと、点c側へシフトさせることができ、第1可変絞り弁6における絞り係数C1を大きくし第2可変絞り弁7における絞り係数C2を小さくしていくと点d側へシフトさせることができるのである。つまり、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数を制御することで、モータ8の回転速度と負担トルクをコントロールすることができるのである。
【0046】
なお、図3の説明において流量Qおよび差圧Pを一定にした状態を仮定しているため、モータ8の負担トルクが0であるのに回転している状態や回転速度が0であるのに負担トルクがある状態は生じないので、点bと点dを結ぶ線および点dと点cを結ぶ線は、モータ8の動作点が採りえる範囲の境界を示しており、モータ8の動作点は、上記線上の値を採ることは無い。
【0047】
ところで、モータ8の任意の回転速度に対して出力することが可能な負担トルク範囲は、図4に示すように、負担トルクを縦軸に採り回転速度を横軸に採った回転速度トルク座標系のグラフにおいて、各象限にて横軸に平行な直線と、直線に連なる曲線とで囲まれたハッチングで示した領域となる。なお、直線は、モータ8の負担トルクの上限を示しており、コントローラ11内に設けられる図示しない電流リミッタによって電流が制限されることに起因して生じる境界である。曲線もまた、その時の回転速度において発生可能な負担トルク領域と発生不可能な負担トルク領域とを仕切る線であり、図示しない電源電圧、モータ8の誘起電力等の特性によって決せられる境界線である。モータ8が正転方向のトルクの符号を正とするとともに逆転方向のトルクの符号を負とし、モータ8が正転方向に回転する場合の回転速度の符号を正とするとともに逆転方向のトルクの符号を負としている。
【0048】
この図4から理解できるように、モータ8は、各象限にて回転速度が高くなればなるほど出力可能な負担トルクの上限が小さくなる。すなわち、第1可変絞り弁6を閉弁して第1流路4を遮断して作動室R1,R2を行き交う液体の全流量をポンプ9に流す場合、液圧シリンダ1の伸縮速度が高くなればなるほど、モータ8の回転速度も高くなりモータ8の出力可能な負担トルクが小さくなることになる。なお、図4中に示した破線は、回生効率が最大となる回転速度と負担トルクとの関係を示す回生効率最大直線であり、当該回生効率最大直線上にモータ8の動作点がある場合に回生効率が最大となる。
【0049】
また、第2象限の回転速度が負で負担トルクが正である領域および第4象限の回転速度が正で負担トルクが負である領域では、モータ8は電力回生を行うことができる制動領域で動作しており、第1象限の回転速度が正で負担トルクが正である領域および第3象限の回転速度が負で負担トルクが負である領域では、モータ8は、電力を消費して力行する力行領域で動作していることを示している。よって、モータ8は、制動領域で動作している場合に制動状態にあり、力行領域で動作している場合に力行状態にある。
【0050】
そして、モータ8が制動領域で動作している場合であって、図4中であって回生効率最大直線よりも横軸側にある点gと点hとを比較すると、回転速度が高い点hの方がモータ8の回生電力が大きくなる。回生効率最大直線は、モータ8の回転速度と回生効率を最大とするトルクとの関係を示す直線であり、モータ8の動作点が回生効率最大直線上にあると、その時の回転速度において回生効率が最大となる。また、モータ8の回転速度をより高速にすれば回生電力をより大きくできる余地がある。
【0051】
よって、本実施の形態のコントローラ11は、図5に示すように、モータ8のトルクを制御して液圧シリンダ1の推力を目標推力に追従させるための推力制御部20の他に、推力制御部20とは独立してモータ8の回生電力を高める回生制御部30を備えている。
【0052】
まず、回生制御部30について説明すると、回生制御部30は、図6に示すように、モータ8の回転速度とトルクとを監視して、第1可変絞り弁6を制御する第1可変絞り弁制御部31と、第2可変絞り弁7を制御する第2可変絞り弁制御部32とを備えている。モータ8の回転速度については、モータ8が図示しないロータの回転位置を検知可能なレゾルバ等のセンサを備えている場合には、当該センサが検知するロータの回転位置情報から得ればよい。モータ8のトルクについてはモータ8をDCモータ或いはDCモータと等価なモータとする場合にはモータ8に流れる電流に比例するから電流をそのままトルクと看做すことができ、モータ8の電流を検知するセンサをモータ制御部20bが備えているので、モータ制御部20bから電流値を入手してモータ8のトルクとして利用すればよい。
【0053】
なお、回生制御部30は、モータ8の回転速度を検知するセンサと、モータ8のトルクを検知するセンサ或いはモータ8の電流を検知するセンサを個別に備えていてもよい。回生制御部30は、モータ8の回転速度とトルクとを所定の演算周期で順次取り込み、取り込んだ回転速度とトルクとを第1可変絞り弁制御部31と第2可変絞り弁制御部32とによって処理する。回生制御部30は、モータ8のトルクを処理するが、前述したように、モータ8に流れる電流をトルクと看做すことができるので、モータ8に流れる電流をトルクとして取り扱って処理すればよい。回生制御部30は、モータ8の回転速度とトルクとを監視して、モータ8の動作点が回転速度とトルクのグラフ上のどの位置にあるか把握する。そして、回生制御部30は、モータ8の動作状態に応じて、第1可変絞り弁6と第2可変絞り弁7の絞り係数を制御する。
【0054】
第2可変絞り弁制御部32は、第2可変絞り弁7の駆動源へ通電するための駆動回路を含み、基本的には、第2可変絞り弁7の絞り係数を最大として第2可変絞り弁7の流路面積を制御上最大とする。第2可変絞り弁7は、ポンプ9が吐出する液体の通過を妨げ、液圧シリンダ1がアクチュエータとして動作する際には抵抗となってしまうので、第2可変絞り弁制御部32は、モータ8の動作点が力行領域にあってモータ8が力行状態で動作中は、第2可変絞り弁7の絞り係数を最大とする。なお、第2可変絞り弁7は、第2流路5を通過する液体の流れに抵抗を与えるため、絞り係数の増減によってモータ8が負担するトルクを増減させ得る。第2可変絞り弁制御部32は、モータ8の動作点が制動領域にあってモータ8の動作状態が制動状態である場合も基本的には第2可変絞り弁7の絞り係数を最大として第2可変絞り弁7の流路面積を制御上最大とするが、モータ8の動作点が発生不可能な負荷トルク領域にならないように、第2可変絞り弁7の絞り係数を増加させてモータ8の動作点で負担するトルクを減少させる。簡単には、モータ8を駆動する電源電圧によってモータ8の回転速度において出力可能なトルクの上限(トルク上限)が一義的に決まるので、第2可変絞り弁制御部32は、モータ8のトルクがその時の回転速度におけるトルク上限から所定値を差し引いた値以上になると、第2可変絞り弁7の絞り係数を小さくして、モータ8が負担するトルクを減少させるようにすればよい。なお、第2可変絞り弁7の絞り係数を前述の回生効率最大直線上に乗せて回生効率を最大化したい場合、第2可変絞り係数7の絞り係数を求める際に、液圧シリンダ1の推力の情報が必要となるので、回生制御部30は、実推力検知部25から推力を得て、回転速度とトルクに加えて推力に基づいて前記絞り係数を求めてもよい。
【0055】
第1可変絞り弁制御部31は、モータ8が制動状態で動作している場合、モータ8の回転速度を高くするように第1可変絞り弁6の絞り係数を小さくする回生制御を行うとともに、モータ8が力行状態で動作している場合には、第1可変絞り弁6の絞り係数を予め設定される初期値にするように制御する。初期値は、モータ8が力行状態で動作している際に、液圧シリンダ1の推力制御に適する値に設定されている。
【0056】
以上のように、回生制御部30は、モータ8の回転速度とトルクとを監視し、モータ8の動作点が発生不能な負荷トルク領域にならないように、第2可変絞り弁7の絞り係数を制御するとともに、モータ8の動作状態が制動状態である場合には、回生電力を高めるために、第1可変絞り弁6の絞り係数を小さくして、第1流路4を通過する液体の流量を小さくてポンプ9が設置される第2流路5を流れる液体の流量を多くして、モータ8の回転速度を高める。なお、回生制御部30は、前述したところでは、モータ8が制動状態にある場合に、モータ8の回転速度を高めて、モータ8の回生電力を向上させる回生制御を行っているが、モータ8の動作点が回生効率最大直線に配置されるように、第1可変絞り弁制御部31および第2可変絞り弁制御部32で第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数を制御するようにして、回生効率を高める回生制御を行ってもよい。
【0057】
つづいて、推力制御部20は、図7に示すように、上位の制御装置からの液圧シリンダ1の目標推力を指示する推力指令を受けてモータ8に供給すべき目標電流を求めるスライディングモード制御部21およびフィードフォワード制御部22と、スライディングモード制御部21とフィードフォワード制御部22とが出力する各電流指令を加算してモータ8の目標電流を指示する最終電流指令を生成する加算部23と、加算部23が生成した最終電流指令を受け取るとモータ8に流れる電流をフィードバックしてモータ8に流れる電流を目標電流通りに制御するモータ制御部24とを備えている。なお、推力指令は、本実施の形態では、液圧シリンダ1を車両に適用して、上位の制御装置は、主としてばね上部材としての車体の振動の抑制を目的して液圧シリンダ1に発生するべき推力を求める。推力指令は、車体の振動の低減のみならずばね下部材としての車輪の振動の抑制の低減も可能となるように求められてもよい。また、推力制御部20は、上位の制御装置から推力指令を入手するのではなく、車両における車体、或いは車体および車輪の振動情報を検知するか、或いはこれらの振動情報を車両から受け取って、自ら推力指令を求めてもよい。
【0058】
スライディングモード制御部21は、液圧シリンダ1の実推力とモータ8の回転速度を監視して、上位の制御装置から入力される推力指令と液圧シリンダ1の実推力との制御偏差を求め、スライディングモード制御によって、当該制御偏差から液圧シリンダ1に目標推力通りに推力を発生させるためにモータ8に与えるべき電流を求める。なお、液圧シリンダ1の実推力は、作動室R1の圧力を検知する圧力センサ25aと、作動室R2の圧力を検知する圧力センサ25bと、作動室R1の圧力と作動室R2の圧力との差にピストン3の受圧面積を乗じて液圧シリンダ1が発生している実推力を求める演算部25cとを備えた実推力検知部25からスライディングモード制御部21に入力される。また、液圧シリンダ1が発生する実推力は、ロッド10に設けられる荷重の検知によって把握できるので、実推力検知部25はロッド10に作用する荷重を検知するセンサとされてもよい。また、モータ8の回転速度については、前述した通り、ロータの回転位置を検知可能なレゾルバ等のセンサを備えている場合には、当該センサが検知するロータの回転位置情報から得ればよい。
【0059】
また、推力制御部20は、図示はしないが、実推力検知部25やレゾルバ等のセンサに代えて、実際に液圧シリンダ1が出力している推力やモータ8の回転速度を検知するのではなく、液圧シリンダ1の実推力やモータ8の回転速度を推定する状態推定部を備えていてもよい。状態推定部は、車体と車軸とに取り付けられた加速度センサの情報から液圧シリンダ1の実推力を推定してもよく、また、サスペンションのストローク変位の情報からモータ8の回転速度を推定してもよい。このように状態推定部は、シリンダ装置Aの制御以外の用途に使用されているセンサ情報から実推力や回転速度を推定してもよい。さらに、状態推定部は、液圧シリンダ1の実推力とモータ8の回転速度との双方を推定してもよい。たとえば、第1可変絞り弁6、第2可変絞り弁7における絞り係数、モータ8のトルクといった液圧シリンダ1の状態量を検知して、当該状態量から液圧シリンダ1の実推力やモータ8の回転速度を推定するオブザーバ、或いは、車体の変位と速度といったシリンダ装置Aが搭載されたシステムの状態量を検知して当該状態量から液圧シリンダ1の実推力やモータ8の回転速度を推定するオブザーバとされてもよい。
【0060】
そして、電流指令生成部20aは実推力推定部が推定した実推力をフィードバックして目標電流を求めてもよい。モータ制御部20bは、モータ8の形式によってモータ8の電流制御に適した駆動回路を備えて、電流指令に従ってモータ8の電流を制御可能であればよい。
【0061】
本実施の形態のシリンダ装置Aは、第1可変絞り弁6と第2可変絞り弁7の2つの弁の絞り係数を変更可能であって、回生制御部30による回生電力を向上する制御が行われると、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7のパラメータが変動してシリンダ装置Aの特性が変化するシステムとなっている。スライディングモード制御理論は、非線形入力を用いて希望する動特性を制御系に与えるような超平面にシステムの状態量を拘束することでシステムに所望の動作をさせる非線形制御理論である。スライディングモード制御理論によって設計された制御器は、マッチング条件を満たす外乱やパラメータ変動を打ち消すような制御入力を出力するため、これらの影響を除去できる。また、マッチング条件を満たさないようなパラメータ変動に対しても、その上界値が限定される場合に適切な超平面を設計することで安定化できる。これらのことから、スライディングモード制御理論はパラメータ変動に対してロバスト性を向上させ得る制御理論と言え、前述したように回生制御によってパラメータが変動するシリンダ装置Aの推力制御部20の設計に適している。
【0062】
推力制御部20を設計する際は、希望する動特性を制御系に与えるような超平面にシリンダ装置Aの状態量を拘束可能なスライディングモード制御部21を設計すればよい。希望する動特性を制御系に与えるような超平面は、たとえば評価関数を用いて最適制御問題を解くことで設計すればよいが、他の方法を利用してもよい。
【0063】
ここで、回生制御部30によって第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数が変化するが、液圧シリンダ1の実推力をフィードバックして比例積分制御を行う一般的な制御器を用いてモータ8を制御する場合、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の前後で圧力変動が生じて液圧シリンダ1の推力が急変し、液圧シリンダ1の実推力の推力指令に対する追従性能が悪化してしまう。これに対して、本実施の形態のシリンダ装置Aでは、モータ8の制御にスライディングモード制御を行うスライディングモード制御部21を備えており、スライディングモード制御を用いてモータ8を制御する。本実施の形態のシリンダ装置Aでは、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数が変化してもスライディングモード制御を行うことで、図8に示すように、一般的な液圧シリンダ1の推力をフィードバックする比例積分制御(PI制御)を行う場合に比較して、目標推力と液圧シリンダ1の実推力との最大誤差(図8中実線)が凡そ4分の1程度低減されるとともに、目標推力と液圧シリンダ1の実推力との誤差(図8中破線)の二乗平均平方根の値も3分の1程度に低減されることが判った。このように本実施の形態のシリンダ装置Aでは、スライディングモード制御を行うことで、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数が変化してもロバスト性の向上とともに目標推力に対する液圧シリンダ1の実推力の追従性能の悪化を抑制できる。
【0064】
以上の通り、本実施の形態のシリンダ装置Aでは、スライディングモード制御によってコントローラ11が目標推力と実推力とモータ8の回転速度との入力を受けてモータ8に出力させるべき電流指令を求めるスライディングモード制御部21を備えているので、回生制御部30によって第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数が変更されても、液圧シリンダ1の推力変動を低減できるとともに制御安定性を高めることができる。
【0065】
フィードフォワード制御部22は、上位の制御装置から入力される推力指令から液圧シリンダ1の応答性を向上させるために、スライディングモード制御部21が求めた電流指令に加算すべき加算電流を求める。フィードフォワード制御部22は、推力指令に対して液圧シリンダ1の応答遅れを考慮していち早く液圧シリンダ1の推力が推力指令に追従するような加算電流を求める。フィードフォワード制御部22は、液圧シリンダ1の実推力をフィードバックしないので、目標推力に対する追従性に影響を与えずに液圧シリンダ1の目標推力に対する応答性を向上させる。
【0066】
加算部23は、スライディングモード制御部21が目標推力から求めた電流指令とフィードフォワード制御部22が目標推力から求めた加算電流指令とを加算して、モータ8に供給すべき目標電流を指示する最終電流指令を生成して、モータ制御部24へ電流指令を入力する。
【0067】
モータ制御部24は、詳しくは図示しないが、モータ8を駆動する駆動回路と、モータ8の実電流をフィードバックして加算部23から入力される電流指令が指示する目標電流とモータ8に流れる実電流との制御偏差に基づいて駆動回路を駆動してモータ8をPWM制御する制御器とを備えている。モータ制御部24は、加算部23から入力される電流指令にしたがって、電流指令が指示する目標電流にモータ8の電流が追従するように制御する。なお、モータ制御部24は、モータ8の形式によってモータ8の電流制御に適した駆動回路を備えて、電流指令にしたがってモータ8の電流を制御可能であればよい。
【0068】
なお、コントローラ11は、実推力検知部25における圧力センサ25a,25b、モータ制御部24における駆動回路および回生制御部30における駆動回路を除き、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、推力指令、モータ8の回転速度およびトルク(電流)およびシリンダ2内の圧力の信号を取り込むためのインターフェースと、モータ8、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7を制御するのに必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、コントローラ11における推力制御部20および回生制御部30の各部は、CPUの前記プログラムの実行により実現できる。また、コントローラ11は、CPUの前記プログラムの実行による実現にかえて、アナログの電子回路によって実現されてもよい。
【0069】
以上、本実施の形態のシリンダ装置Aは、シリンダ2と、シリンダ2内に移動自在に挿入されてシリンダ2内を二つの作動室R1,R2に区画するピストン3と、互いに並列して作動室同士R1,R2を連通する第1流路4と第2流路5と、第1流路4の途中に設けられた第1可変絞り弁6と、第2流路5の途中に直列に設けられる第2可変絞り弁7およびモータ8によって駆動される双方向吐出型のポンプ9とを有する液圧シリンダ1と、第1可変絞り弁6、第2可変絞り弁7およびモータ8を制御するコントローラ11とを備え、コントローラ11は、スライディング制御を用いて液圧シリンダ1の目標推力と実推力とモータ8の回転速度とに基づいてモータ8のトルクを制御するスライディングモード制御部21を備えている。このように構成されたシリンダ装置Aによれば、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数の変化が液圧シリンダ1の推力に与える影響を小さくするようにスライディングモード制御部21の制御仕様を予め設計することができる。よって、本実施の形態のシリンダ装置Aによれば、第1可変絞り弁6および第2可変絞り弁7の絞り係数を変化させてシリンダ装置Aの特性が変化しても液圧シリンダ1の推力変動を低減できるとともに制御安定性を高めることができ、目標推力に対する追従性能の悪化を抑制できる。
【0070】
また、本実施の形態のシリンダ装置Aにおけるコントローラ11は、モータ8が制動状態の場合に、第1可変絞り弁6の絞り係数および第2可変絞り弁7の絞り係数のいずれか一方または両方をモータ8の回生電力を高くするように制御する回生制御部30を備えている。このように構成されたシリンダ装置Aによれば、第1可変絞り弁6或いは第2可変絞り弁7の絞り係数を変化させてもスライディングモード制御部21による制御によって液圧シリンダ1の推力変動を抑制できるので、回生電力の向上と液圧シリンダ1の推力変動の抑制とを両立できる。
【0071】
さらに、本実施の形態のシリンダ装置Aにおけるコントローラ11は、目標推力の入力を受けてフィードフォワード制御によってスライディングモード制御部21が求めた電流指令に加算する加算電流指令を求めるフィードフォワード制御部22を備え、スライディングモード制御部21が求めた電流指令とフィードフォワード制御部22が求めた加算電流指令とを加算してモータ8に供給するべき目標電流を指示する最終電流指令を生成する。このように構成されたシリンダ装置Aによれば、液圧シリンダ1の実推力をフィードバックしないフィードフォワード制御部22が推力指令に対して液圧シリンダ1の応答遅れを考慮していち早く液圧シリンダ1の推力が推力指令に追従するような加算電流指令を求め、スライディングモード制御部21の電流指令に加算電流指令を加算して最終電流指令を生成するので、目標推力に対する液圧シリンダ1の追従性に影響を与えずに目標推力に対する応答性を向上させ得る。
【0072】
また、本実施の形態のシリンダ装置Aにおけるコントローラ11が液圧シリンダ1の実推力とモータ8の回転速度の一方または両方を推定する状態推定部を備えている場合には、液圧シリンダ1の状態量やその他の情報から実推力と回転速度の一方または両方を推定できるので、液圧シリンダ1に実推力とモータ8の回転速度の一方または両方を直接的に検知するためのセンサ類の設置が不要となって、シリンダ装置Aの製造コストを低減できる。
【0073】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1・・・液圧シリンダ、2・・・シリンダ、3・・・ピストン、4・・・第1流路、5・・・第2流路、6・・・第1可変絞り弁、7・・・第2可変絞り弁、8・・・モータ、9・・・ポンプ、11・・・コントローラ、21・・・スライディングモード制御部、22・・・フィードフォワード制御部、30・・・回生制御部、C・・・シリンダ装置、R1,R2・・・作動室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8