(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047995
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20240401BHJP
H01L 21/288 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H01L21/92 604B
H01L21/60 301P
H01L21/92 602D
H01L21/288 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153807
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕也
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊介
【テーマコード(参考)】
4M104
5F044
【Fターム(参考)】
4M104AA01
4M104AA03
4M104AA04
4M104BB02
4M104BB03
4M104BB05
4M104BB09
4M104CC01
4M104DD52
4M104DD53
4M104GG06
5F044AA01
5F044EE04
5F044EE06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】方法は、半導体基板の上方に第1金属層22を設けS100、第1金属層22の上方をジンケート液でジンケート処理しS102、第1金属層22の上方にニッケルめっき層24を形成し104、ニッケルめっき層24の上方に金めっき層26を形成するS106。ジンケート処理S102において、ジンケート処理するための浴槽に供給するジンケート液の流量は、16L/min以上、20L/min以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の上方に設けられた第1金属層の上方をジンケート液でジンケート処理する段階と、
前記第1金属層の上方にニッケルめっき層を形成する段階と、
前記ニッケルめっき層の上方に金めっき層を形成する段階と、
を備え、
ジンケート処理する前記段階において、前記ジンケート処理するための浴槽に供給する前記ジンケート液の流量は、16L/min以上、20L/min以下である、
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記ニッケルめっき層を形成する前記段階において、前記半導体基板をニッケルめっき処理するための浴槽に供給するニッケルめっき液の流量は、16L/min以上、20L/min以上である、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記ニッケルめっき液中のニッケル濃度は、4.5g/L以上、4.7g/L以下である、請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記ジンケート液は、水酸化ナトリウム、オキシカルボン酸塩、硫酸ナトリウム、酸化亜鉛、および、鉄を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記ジンケート液中の亜鉛濃度は、2.0g/L以上、3.0g/L以下である、請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記ジンケート液中の鉄濃度は、0.25g/L以上、0.35g/L以下である、請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記金めっき層の上方にはんだを塗布した場合の前記はんだの濡れ性は、80%以上、90%以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記はんだは、錫、銀、銅、ニッケル、ゲルマニウムを含む、請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記ニッケルめっき層の成膜速度は、0.1μm/min以上、0.2μm/min以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記金めっき層の膜厚は、0.01μm以上、0.1μm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1金属層は、アルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金の少なくともいずれか一方を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1金属層の上方に前記ニッケルめっき層を形成する前記段階の後であって、前記ニッケルめっき層の上方に前記金めっき層を形成する前記段階の前に、前記ニッケルめっき層の上方にパラジウムめっき層を形成する段階を備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「金属めっきの表面を、ネオペンチル脂肪酸エステル、二塩基酸、二塩基酸のアミノ塩のうち少なくとも一種類を、アルコール系、塩素系、フッ素系のうち少なくとも一種類の溶剤に溶解して調製した封孔処理剤で処理する」ことが記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2001-237262号公報
[特許文献2] 国際公開第2021/020064号
[特許文献3] 特開2008-248371号公報
[特許文献4] 国際公開第2019/163484号
[特許文献5] 特開2020-120133号公報
【発明の概要】
【0003】
本発明の態様は、半導体基板の上方に設けられた第1金属層の上方をジンケート液でジンケート処理する段階と、前記第1金属層の上方にニッケルめっき層を形成する段階と、前記ニッケルめっき層の上方に金めっき層を形成する段階と、を備え、ジンケート処理する前記段階において、前記ジンケート処理するための浴槽に供給する前記ジンケート液の流量は、16L/min以上、20L/min以上である、半導体装置の製造方法を提供する。
【0004】
前記半導体装置の製造方法において、前記ニッケルめっき層を形成する前記段階において、前記半導体基板をニッケルめっき処理するための浴槽に供給するニッケルめっき液の流量は、16L/min以上、20L/min以上であってよい。
【0005】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記ニッケルめっき液中のニッケル濃度は、4.5g/L以上、4.7g/L以下であってよい。
【0006】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記ジンケート液は、水酸化ナトリウム、オキシカルボン酸塩、硫酸ナトリウム、酸化亜鉛、および、鉄を含んでよい。
【0007】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記ジンケート液中の亜鉛濃度は、2.0g/L以上、3.0g/L以下であってよい。
【0008】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記ジンケート液中の鉄濃度は、0.25g/L以上、0.35g/L以下であってよい。
【0009】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記金めっき層の上方にはんだを塗布した場合の前記はんだの濡れ性は、80%以上、90%以下であってよい。
【0010】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記はんだは、錫、銀、銅、ニッケル、ゲルマニウムを含んでよい。
【0011】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記ニッケルめっき層の成膜速度は、0.1μm/min以上、0.2μm/min以下であってよい。
【0012】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記金めっき層の膜厚は、0.01μm以上、0.1μm以下であってよい。
【0013】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記第1金属層は、アルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金のいずれか一方を含んでよい。
【0014】
上記いずれかの半導体装置の製造方法は、前記第1金属層の上方に前記ニッケルめっき層を形成する前記段階の後であって、前記ニッケルめっき層の上方に前記金めっき層を形成する前記段階の前に、前記ニッケルめっき層の上方にパラジウムめっき層を形成する段階を備えてよい。
【0015】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3A】ジンケート工程S102の断面図の一例を示す。
【
図3B】比較例のジンケート工程の断面図の一例を示す。
【
図4】比較例のジンケート工程から金めっき工程における模式図の一例を示す。
【
図5A】実施例の金めっき工程後の電極部20の表面写真の一例を示す。
【
図5B】比較例の金めっき工程後の電極部の表面写真の一例を示す。
【
図6】比較例の金めっき工程とダイシング工程の断面図の一例を示す。
【
図7A】実施例の金めっき工程後の電極部20にはんだを滴下した場合の表面写真の一例を示す。
【
図7B】比較例の金めっき工程後の電極部にはんだを滴下した場合の表面写真の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
本明細書においては、半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」、「おもて」、「裏」の方向は重力方向、または、半導体装置の実装時における基板等への取り付け方向に限定されない。
【0019】
図1は、半導体装置100の断面図の一例を示す。半導体装置100は、半導体基板10と電極部20とを備える。電極部20は、第1金属層22と、ニッケルめっき層24と、金めっき層26とを有する。
【0020】
半導体装置100はウエハ状態であってよく、チップ状態であってもよい。一例として、半導体装置100は、逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT)であってよい。
【0021】
半導体基板10は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板等であってもよい。
【0022】
電極部20は、半導体基板10の上方に設けられる。電極部20は、半導体装置100を半導体装置100の外部と電気的に接続するために用いられてよい。電極部20は、ボンディングワイヤによって半導体装置100の外部と電気的に接続されてよい。電極部20は、はんだを用いて、リードフレーム等の導電部材と電気的に接続されてよい。一例として、電極部20は、RC-IGBTに設けられるエミッタ電極であってよい。別の例として、電極部20は、RC-IGBTに設けられるコレクタ電極であってよい。
【0023】
第1金属層22は、半導体基板10の上方に設けられる。第1金属層22は、アルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金の少なくともいずれか一方を含んでよい。本例において、第1金属層22は、アルミニウム‐シリコン合金を含む。
【0024】
ニッケルめっき層24は、第1金属層22の上方に設けられる。ニッケルめっき層24は、リンを含有していてよい。ニッケルめっき層24中のリン含有量は、5質量%以上、10質量%以下であってよい。ニッケルめっき層24がリンを含有することで、ニッケルめっき層24が頑丈となり、割れにくくなる。
【0025】
金めっき層26は、ニッケルめっき層24の上方に設けられる。金めっき層26の膜厚は、0.01μm以上、0.1μm以下であってよい。金めっき層26の膜厚を0.1μm以下にすることによって、金とリードフレーム等の導電部材との接合を改善し、金とリードフレーム等の導電部材との接続の信頼性を確保することができる。
【0026】
図2は、電極部20の製造工程の一例を示す。本例は、電極部20の製造工程の一例を示しており、これに限定されない。本例においては、第1金属層22の下方に設けられる半導体基板10の図示は省略してある。
【0027】
半導体基板10の上方に第1金属層22を設ける(S100)。半導体基板10の上方に第1金属層22を設ける方法は、特に限定されない。第1金属層22は、スパッタまたは蒸着等の方法によって形成されてよい。第1金属層22が設けられた半導体基板10に対して、脱脂工程、エッチング工程、および/または、酸洗浄工程が行われてよい。めっき形成の準備のための他の工程が行われてもよい。
【0028】
第1金属層22の上方をジンケート液でジンケート処理する(S102)。ジンケート液は、水酸化ナトリウム、オキシカルボン酸塩、硫酸ナトリウム、酸化亜鉛、および、鉄を含んでよい。ジンケート液中のアルカリ性溶液により、第1金属層22の表面に含まれるアルミニウムが溶解し、代わりに、ジンケート液中の亜鉛および/または鉄が第1金属層22の表面に析出してよい。結果として、亜鉛および/または鉄を含むジンケート層28が形成されてよい。
【0029】
ジンケート処理するための浴槽に供給するジンケート液の流量は、16L/min以上、20L/min以下であってよい。ジンケート液の流量を多くすることによって、第1金属層22の表面に供給される亜鉛イオンおよび鉄イオンの量を増加することができる。これにより、亜鉛イオンおよび鉄イオンが供給されずに、第1金属層22のエッチングのみが進行し、第1金属層22の表面が荒れるのを抑制することができる。
【0030】
ジンケート液中の亜鉛濃度は、2.0g/L以上、3.0g/L以下であってよい。ジンケート液中の亜鉛濃度を2.0g/L以上にすることによって、第1金属層22の表面に供給される亜鉛イオンの量を増加することができる。これにより、亜鉛イオンが供給されずに、第1金属層22のエッチングのみが進行し、第1金属層22の表面が荒れるのを抑制することができる。ジンケート液中の亜鉛濃度を3.0g/Lより高くすると、亜鉛濃度の上昇に伴って、ジンケート液中のアルカリ性溶液の量も増加することとなり、第1金属層22の表面のエッチングが必要以上に進行してしまうおそれがある。そのため、ジンケート液中の亜鉛濃度は3.0g/L以下であってよい。
【0031】
既存の濃度比のジンケート液の原液を希釈して用いる場合、ジンケート液中のアルカリ性溶液の量を増加することなく、ジンケート液中の亜鉛濃度を向上することは困難であるという問題がある。本例のように、ジンケート液の流量を多くすることで、既存の濃度比のジンケート液の原液を用いた場合であっても、第1金属層22の表面が荒れるのを抑制することができる。
【0032】
第1金属層22の表面に供給される亜鉛イオンの量を増加するため、ジンケート液に浸漬する時間を長くすることが考えられる。しかし、ジンケート液の流量が少ない場合、瞬時的に亜鉛イオンの供給される量が少なくなる部分においては、第1金属層22の表面のエッチングがより進行し、第1金属層22の表面が荒れることとなる。よって、ジンケート液に浸漬する時間を長くすることなく、ジンケート液の流量を多くすることが好ましい。ジンケート液の流量を多くすることで、第1金属層22の表面が荒れるのを抑制することができる。
【0033】
ジンケート液中の鉄濃度は、0.25g/L以上、0.35g/L以下であってよい。ジンケート液中の鉄濃度を0.25g/L以上にすることによって、後に形成されるニッケルめっき層24と第1金属層22との間の密着性を向上させることができる。一方、ジンケート液中の鉄濃度が高すぎる場合、ジンケート工程における亜鉛の析出が阻害され、後に形成されるニッケルめっき層24が成膜不良を生じるおそれがある。そのため、ジンケート液中の鉄濃度は0.35g/L以下であってよい。
【0034】
半導体基板10の上方に設けられた第1金属層22の上方をジンケート液でジンケート処理する段階(S102)の後、第1金属層22の上方にニッケルめっき層24を形成する(S104)。ジンケート層28内の亜鉛および/または鉄が溶解し、代わりに、ニッケルめっき液中のニッケルが第1金属層22の表面に析出することで、ニッケルめっき層24が形成されてよい。ニッケルめっきは、ジンケート層28内の亜鉛粒子を反応起点として析出してよい。ニッケルめっき層の綿密な析出のために、ジンケート層28内の亜鉛粒子による第1金属層22の綿密な表面被覆が形成されてよい。ジンケート処理(S102)において、ジンケート液の流量を多くすることで、ジンケート層28内の亜鉛粒子による第1金属層22の綿密な表面被覆を形成することが可能である。
【0035】
半導体基板10をニッケルめっき処理するための浴槽に供給するニッケルめっき液の流量は、16L/min以上、20L/min以下であってよい。ニッケルめっき液の流量を多くすることによって、ジンケート層28の表面に供給されるニッケルイオンの量を増加することができる。これにより、ニッケルイオンが供給されずに、第1金属層22のエッチングが進行し、第1金属層22の表面が荒れるのを抑制することができ、綿密なニッケルめっき層24を形成することができる。
【0036】
ニッケルめっき液中のニッケル濃度は、4.5g/L以上、4.7g/L以下であってよい。ニッケルめっき液中のニッケル濃度を4.5g/L以上にすることによって、ジンケート層28の表面に供給されるニッケルイオンの量を増加することができる。これにより、ニッケルイオンが供給されずに、第1金属層22のエッチングが進行し、第1金属層22の表面が荒れるのを抑制することができ、綿密なニッケルめっき層24を形成することができる。
【0037】
ニッケルめっき層24の成膜速度は、0.1μm/min以上、0.2μm/min以下であってよい。ニッケルめっき層24の成膜速度は、ニッケルめっき層24が厚さ方向に成膜される速度であってよい。一例として、ニッケルめっき層24の成膜速度が0.1μm/minである場合、ニッケルめっき層24の形成開始から1分間が経過したときのニッケルめっき層24の下面から上面までの厚さは、0.1μmである。ニッケルめっき層24の成膜速度0.1μm/min以上、0.2μm/min以下は、ニッケルめっき液中のニッケル濃度が4.5g/L以上、4.7g/L以下であり、かつ/または、ニッケルめっき液の流量が16L/min以上、20L/min以下であるときの成膜速度であってよい。すなわち、ニッケルめっき層24の成膜速度0.1μm/min以上、0.2μm/min以下は、ジンケート層28の表面に十分な量のニッケルイオンが供給されているときの成膜速度であってよい。
【0038】
次に、ニッケルめっき層24の上方に金めっき層26を形成する(S106)。ニッケルめっき層24の表面のニッケルが溶解し、代わりに、金めっき液中の金がニッケルめっき層24の表面に析出することで、金めっき層26が形成されてよい。金めっき層26の膜厚は、0.01μm以上、0.1μm以下であってよい。金めっき層26の膜厚を0.1μm以下にすることによって、金とリードフレーム等の導電部材との接合を改善し、金とリードフレーム等の導電部材との接続の信頼性を確保することができる。
【0039】
金めっき層26の膜厚が薄い場合、ニッケルめっき層24の表面が面荒れしていると、面荒れの多重点が局所エッチングされ、ピンホールが発生するおそれがある。金めっき層26にピンホールが形成されると、半導体基板10のダイシング時に、ピンホール部からニッケルイオンが拡散し、ニッケル酸化物層が金めっき層26の表面に形成されるおそれがある。
【0040】
本例においては、ジンケート処理(S102)においてジンケート液の流量とジンケート液中の亜鉛濃度および/または鉄濃度を適切に設定することにより、ジンケート層の綿密な形成をしている。また、ニッケルめっき形成(S104)においてニッケルめっき液の流量とニッケルめっき液中のニッケル濃度を適切に設定することにより、綿密なニッケルめっき層24を形成している。これにより、ニッケルめっき層24の表面の面荒れを抑制し、ひいては、金めっき形成(S106)において、金めっき層26にピンホールが形成されることを抑制することができる。
【0041】
金めっき層26の形成後の電極部20の表面の面荒れの程度は、金めっき層26の上方にはんだを塗布した場合のはんだの濡れ性によって評価されてよい。はんだの濡れ性は、下記数学式1により計算されてよい。
【0042】
[数学式1]
P=(1-ha/hb)×100
【0043】
ここで、Pははんだの濡れ性であり、haははんだ広がり後のはんだの高さであり、hbははんだ塗布時のはんだの高さである。はんだの高さとは、はんだの下面から上面までの高さのうち、最も高い位置におけるはんだの高さであってよい。
【0044】
はんだを塗布した後、はんだが金めっき層26の上方において広がり、そのはんだの高さが、はんだ塗布時の高さよりも低くなればなるほど、はんだの濡れ性は高くなる。一例として、はんだ塗布時のはんだの高さが0.1mm、はんだ広がり後のはんだの高さが0.015mmであるときのはんだの濡れ性は85%である。本例における金めっき層26の上方にはんだを塗布した場合のはんだの濡れ性は、80%以上、90%以下であってよい。
【0045】
はんだは、錫、銀、銅、ニッケル、ゲルマニウムを含んでよい。一例として、各元素の含有率は、錫95.2%、銀3.5%、銅0.5%、ニッケル0.07%、ゲルマニウム0.01%であってよい。鉛が含まれないはんだを用いる場合、対環境性に優れ、共晶に近く、熱疲労特性、強度、濡れ性に優れる。濡れ性の評価に用いられるはんだと、ボンディングワイヤの接続あるいはリードフレームの接合に用いられるはんだとは、同一の組成であってよい。
【0046】
図3Aは、ジンケート工程S102の断面図の一例を示す。ジンケート工程S102では、ジンケート処理するための浴槽50内に半導体基板10が設置される。ジンケート液52は、噴出孔54から噴出される。
【0047】
半導体基板10はウエハ状態であってよい。浴槽50内に設けられる半導体基板10の数は、1つであってよく、複数であってよい。浴槽50内に設けられる半導体基板10の表面積に対する浴槽50の体積の割合を表す浴負荷は、10以上、20以下であってよい。一例において、浴負荷は10であってよい。
【0048】
図3Aにおいては、半導体基板10の表面に設けられている第1金属層22の図示は省略してある。半導体基板10の表面に設けられている第1金属層22は、半導体基板10の一部に設けられていてよく、ウエハ上でチップに対応する位置に複数に分かれて設けられていてよい。
【0049】
図3Aにおいて、破線の矢印は、ジンケート液52の流れを表している。一例において、ジンケート液52の流量は、18L/minであってよい。ジンケート液の流量を多くすることによって、第1金属層22の表面に供給される亜鉛イオンおよび鉄イオンの量を増加することができる。これにより、亜鉛イオンおよび鉄イオンが供給されずに、第1金属層22のエッチングのみが進行し、第1金属層22の表面が荒れるのを抑制することができる。
【0050】
図3Bは、比較例のジンケート工程の断面図の一例を示す。本例のジンケート工程は、ジンケート液52の流量が少ない点で、
図3Aの実施例と相違する。一例において、ジンケート液52の流量は、15L/minであってよい。ジンケート液52の流量が少ない場合、第1金属層22の表面に、亜鉛イオンおよび鉄イオンが十分に供給されずに、第1金属層22のエッチングのみが進行してしまうおそれがある。第1金属層22のエッチングのみが進行し、ジンケート層28が十分に形成されない場合、ニッケルめっき層24の面荒れが生じるおそれがある。ニッケルめっき層24の面荒れが生じると、金めっき層26にピンホールが発生するおそれがある。
【0051】
図4は、比較例のジンケート工程から金めっき工程における模式図の一例を示す。ジンケート工程では、第1金属層22の表面の金属が、金属イオン22aとなって析出し、代わりに、亜鉛イオン30aおよび鉄イオン32aが、それぞれ亜鉛30bおよび鉄32bとなって、第1金属層22の表面に析出し、ジンケート層28を形成する。
図4中の破線の矢印は、ジンケート液52の流れを表している。矢印の始点側を上流側と呼び、矢印の終点側と下流側と呼ぶ場合がある。
【0052】
ジンケート液52の流量が少ない場合であっても、ジンケート液52の上流側では、亜鉛イオン30aおよび鉄イオン32aが第1金属層22の表面に十分に供給されるため、金属イオン22aの溶解と共に、亜鉛30bおよび鉄32bが析出し、ジンケート層28が形成される。一方、ジンケート液52の下流側では、亜鉛イオン30aおよび鉄イオン32aが含まれない純水部56が生じ、その結果、亜鉛イオン30aおよび鉄イオン32aが第1金属層22の表面に十分に供給されず、第1金属層22のエッチング、すなわち、金属イオン22aの溶解のみが進行する。これにより、第1金属層22の表面に面荒れが生じ、後に形成されるニッケルめっき層24の面荒れ、および、金めっき層26のピンホールが生じるおそれがある。本例において、金めっき層26には、10個のピンホールが生じている。
【0053】
図5Aは、実施例の金めっき工程後の電極部20の表面写真の一例を示す。図中の金めっき層26の表面に見られる黒の斑点60が面荒れを表している。実施例においては、ジンケート液の流量、ジンケート液中の亜鉛および鉄の濃度、ニッケルめっき液の流量、および、ニッケルめっき液中のニッケルの濃度を適切に設定することにより、面荒れを抑制し、斑点60の数が少なく、かつ、斑点60の密度が小さくなっている。
【0054】
図5Bは、比較例の金めっき工程後の電極部の表面写真の一例を示す。比較例においては、ジンケート液の流量、ジンケート液中の亜鉛および鉄の濃度、ニッケルめっき液の流量、および、ニッケルめっき液中のニッケルの濃度が適切に設定されておらず、面荒れが生じ、斑点60の数が多く、かつ、斑点60の密度が高くなっている。
【0055】
図6は、比較例の金めっき工程とダイシング工程の断面図の一例を示す。
【0056】
段階S500では、第1金属層22の上方にニッケルめっき層24が設けられており、ニッケルめっき層24の表面は面荒れを生じている。段階S502では、金めっき液中のアルカリ性溶液により、ニッケルめっき層24の表面がニッケルイオン24aとなって溶解する。この際、面荒れの多重点では、局所的なエッチングが進行し、ピンホールが形成される。本例においては、2つのピンホールが形成されている。段階S504では、溶解したニッケルイオン24aの代わりに、金めっき層26が形成される。段階S506では、半導体基板10のダイシング工程において、半導体基板10が水58に浸される。この際、金めっき層26に形成されたピンホール部から、ニッケルイオン24aが、水58に溶解する。段階S508では、水58に溶解したニッケルイオン24aの残渣によって、金めっき層26の表面にニッケル酸化物層34が形成される。このようにして形成されたニッケル酸化物層34は、電極部20の表面の面荒れとともに、はんだの濡れ性を低下させるおそれがある。
【0057】
ピンホールによって、ニッケル酸化物層34が形成されるのを防止するため、特許文献1のように、封孔処理を行う技術が知られている。封孔処理は耐熱性が弱く、はんだリフロー時の加熱で耐食性が低下するという問題がある。
【0058】
実施例においては、ジンケート工程S102およびニッケルめっき工程S104において、ジンケート液の流量、ジンケート液中の亜鉛および鉄の濃度、ニッケルめっき液の流量、および、ニッケルめっき液中のニッケルの濃度を適切に設定することで、面荒れを抑制することにより、金めっき工程S106におけるピンホールの形成を抑制し、ニッケル酸化物層34の形成が抑制されている。そして、面荒れおよびニッケル酸化物層34の形成の抑制により、電極部20のはんだの濡れ性を向上することができる。
【0059】
図7Aは、実施例の金めっき工程後の電極部20にはんだ62を滴下した場合の表面写真の一例を示す。
図7Bは、比較例の金めっき工程後の電極部にはんだ62を滴下した場合の表面写真の一例を示す。実施例においては、比較例と比較して、電極部20に滴下されたはんだ62が、面内方向に等方的に広がっており、はんだの濡れ性は85.6%であった。比較例においては、はんだ62の広がりが小さく、広がり方も異方的であり、はんだの濡れ性は78.1%であった。
【0060】
実施例においては、ジンケート液の流量、ジンケート液中の亜鉛および鉄の濃度、ニッケルめっき液の流量、および、ニッケルめっき液中のニッケルの濃度を適切に設定することにより、電極部20のはんだの濡れ性を向上することができる。
【0061】
図8は、電極部20の製造工程の変形例を示す。変形例におけるS206以外の工程は、S100からS106と同様であるため、説明を省略する。
【0062】
変形例においては、第1金属層22の上方にニッケルめっき層24を形成する段階(S204、S104)の後であって、ニッケルめっき層24の上方に金めっき層26を形成する段階(S208、S106)の前に、ニッケルめっき層24の上方にパラジウムめっき層36を形成する段階を備えてよい。ニッケルめっき層24と金めっき層26の間にパラジウムめっき層36を設けることで、金めっき層26にピンホールが形成した場合であっても、ニッケルめっき層24からピンホールを通してニッケルイオン24aが拡散されるのを抑制し、ニッケル酸化物層34の形成を抑制することができる。
【0063】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0064】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0065】
10 半導体基板、20 電極部、22 第1金属層、24 ニッケルめっき層、26 金めっき層、28 ジンケート層、30 亜鉛、32 鉄、34 ニッケル酸化物層、36 パラジウムめっき層、50 浴槽、52 ジンケート液、54 噴出孔、56 純水部、58 水、60 斑点、62 はんだ、100 半導体装置
【手続補正書】
【提出日】2023-06-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の上方に設けられた第1金属層の上方をジンケート液でジンケート処理する段階と、
前記第1金属層の上方にニッケルめっき層を形成する段階と、
前記ニッケルめっき層の上方に金めっき層を形成する段階と、
を備え、
ジンケート処理する前記段階において、前記ジンケート処理するための浴槽に供給する前記ジンケート液の流量は、16L/min以上、20L/min以下である、
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記ニッケルめっき層を形成する前記段階において、前記半導体基板をニッケルめっき処理するための浴槽に供給するニッケルめっき液の流量は、16L/min以上、20L/min以下である、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記ニッケルめっき液中のニッケル濃度は、4.5g/L以上、4.7g/L以下である、請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記ジンケート液は、水酸化ナトリウム、オキシカルボン酸塩、硫酸ナトリウム、酸化亜鉛、および、鉄を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記ジンケート液中の亜鉛濃度は、2.0g/L以上、3.0g/L以下である、請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記ジンケート液中の鉄濃度は、0.25g/L以上、0.35g/L以下である、請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記金めっき層の上方にはんだを塗布した場合の前記はんだの濡れ性は、80%以上、90%以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記はんだは、錫、銀、銅、ニッケル、ゲルマニウムを含む、請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記ニッケルめっき層の成膜速度は、0.1μm/min以上、0.2μm/min以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記金めっき層の膜厚は、0.01μm以上、0.1μm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1金属層は、アルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金の少なくともいずれか一方を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1金属層の上方に前記ニッケルめっき層を形成する前記段階の後であって、前記ニッケルめっき層の上方に前記金めっき層を形成する前記段階の前に、前記ニッケルめっき層の上方にパラジウムめっき層を形成する段階を備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
特許文献1には、「金属めっきの表面を、ネオペンチル脂肪酸エステル、二塩基酸、二塩基酸のアミン塩のうち少なくとも一種類を、アルコール系、塩素系、フッ素系のうち少なくとも一種類の溶剤に溶解して調製した封孔処理剤で処理する」ことが記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2001-237262号公報
[特許文献2] 国際公開第2021/020064号
[特許文献3] 特開2008-248371号公報
[特許文献4] 国際公開第2019/163484号
[特許文献5] 特開2020-120133号公報
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
はんだは、錫、銀、銅、ニッケル、ゲルマニウムを含んでよい。一例として、各元素の含有率は、錫95.2%、銀3.5%、銅0.5%、ニッケル0.07%、ゲルマニウム0.01%であってよい。鉛が含まれないはんだを用いる場合、耐環境性に優れ、共晶に近く、熱疲労特性、強度、濡れ性に優れる。濡れ性の評価に用いられるはんだと、ボンディングワイヤの接続あるいはリードフレームの接合に用いられるはんだとは、同一の組成であってよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
図4は、比較例のジンケート工程から金めっき工程における模式図の一例を示す。ジンケート工程では、第1金属層22の表面の金属が、金属イオン22aとなって析出し、代わりに、亜鉛イオン30aおよび鉄イオン32aが、それぞれ亜鉛30bおよび鉄32bとなって、第1金属層22の表面に析出し、ジンケート層28を形成する。
図4中の破線の矢印は、ジンケート液52の流れを表している。矢印の始点側を上流側と呼び、矢印の終点側
を下流側と呼ぶ場合がある。