(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048035
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】水系組成物および硬化塗膜
(51)【国際特許分類】
C08L 45/00 20060101AFI20240401BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20240401BHJP
C09D 145/00 20060101ALI20240401BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240401BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20240401BHJP
C08J 3/03 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C08L45/00
C09D5/44 B
C09D145/00
C08L65/00
C08F8/46
C08J3/03 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153864
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 修平
(72)【発明者】
【氏名】山根 遼平
(72)【発明者】
【氏名】横道 卓也
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4F070AA12
4F070AA41
4F070AB03
4F070AC12
4F070AC32
4F070AC39
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4J002BK001
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4J100AR00P
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4J100HG09
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA58
4J100JA59
4J100JA61
(57)【要約】
【課題】耐熱性と低誘電特性に優れ、電着塗装に適した水系組成物を提供すること。
【解決手段】環状オレフィン樹脂の側鎖にカルボキシ基を有し、酸価が50当量/トン以上~1000当量/トン未満 である変性環状オレフィン樹脂と、水系媒体とを含む、水系組成物。本発明の変性環状オレフィン樹脂は耐熱性に優れることから、フィルムに機能性のコーティング剤を塗布した機能性フィルムの接着・コーティング剤としてや、食品包装用、化粧品包装用、医療包装用材料、偏光板材料用途にも適用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン樹脂の側鎖にカルボキシ基を有し、酸価が50当量/トン以上1000当量/トン未満である変性環状オレフィン樹脂と、水系媒体とを含む、水系組成物。
【請求項2】
硬化剤を含む請求項1に記載の水系組成物。
【請求項3】
電着塗装用である、請求項1または2に記載の水系組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の水系組成物を硬化させてなる硬化塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系組成物に関する。より詳しくは、変性環状オレフィン樹脂を含有する水系組成物と、それを硬化させてなる硬化塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器分野等で小型化、薄膜化、高機能化に伴い絶縁性、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、難燃性、寸法安定性等に優れた、高機能な材料が求められている。特に、電気電子分野等の材料については、製品の安全性や信頼性を保証するために絶縁性に加え耐熱性の高い材料が求められている。
【0003】
電気電子分野において、電気伝導体としての金属製品には、通常、絶縁膜の被覆が必要となる。金属製品の表面に絶縁膜を形成する有用な手法として、電着塗装が挙げられる。電着塗装は、電着塗料を用いて通電によって金属製品等の被塗装物表面に塗料や樹脂の塗装膜を形成する方法であり、複雑な形状であっても均一に塗装できることから、電気電子機器分野等で多用されている。
【0004】
電着塗装には、カチオン電着塗装と、アニオン電着塗装とがある。カチオン電着塗装は、陰極とした被塗装物を、カチオン電着塗料組成物中に浸漬し、電圧を印加することにより、プラスに帯電した樹脂を被塗装物に付着させることで、塗装する手法である。一方、アニオン電着塗装は、陽極とした被塗装物を、アニオン電着塗料組成物中に浸漬し、電圧を印加することにより、マイナスに帯電した樹脂を被塗装物に付着させることで、塗装する手法である。
【0005】
電着塗装には、水性樹脂が用いられ、例えば、一般的には用いられる樹脂として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0006】
特許文献1には、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の基体樹脂に、ウレア結合またはウレタン結合を介して水和官能基が結合してなる樹脂と、中和化合物とを含有する、耐熱性に優れたコーティング膜を形成することができる水性の塗料が開示されている。
【0007】
また、特許文献2にはカルボキシル基、及びオキサゾリン基を有するアニオン性アクリル共重合体の中和物を水に分散して得られる電着塗料の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-256489号公報
【特許文献2】特開2000-212482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年では、電気電子部品の絶縁膜以外にも、モーターコイル、金属基盤絶縁膜等に電着塗装の適用が拡大しているが、従来のポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂では、低誘電特性を要求される分野への適用が困難であった。また、アクリル共重合体を用いた電着塗料では、耐熱性に劣るという課題を有していた。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、耐熱性と低誘電特性に優れ、電着塗装に適した水系組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、側鎖にアミノ基を有する変性環状オレフィン樹脂が、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成からなる。
【0012】
[1]
環状オレフィン樹脂の側鎖にカルボキシ基を有し、酸価が50当量/トン以上1000当量/トン未満である変性環状オレフィン樹脂と、水系媒体とを含む、水系組成物。
[2]
硬化剤を含む[1]に記載の水系組成物。
[3]
電着塗装用である、[1]または[2]に記載の水系組成物。
[4]
[1]または[2]に記載の水系組成物を硬化させてなる硬化塗膜。
【発明の効果】
【0013】
変性環状オレフィン樹脂は優れた耐熱性と低誘電特性を有し、かつ電着塗装に適している。そのため、本発明の変性環状オレフィン樹脂を含有する水系組成物は電着塗装用の塗料や、これを使用した積層体などに好適に使用できる。また、変性環状オレフィン樹脂は吸水率が低いため、高温高湿下で使用した場合でも、低誘電特性を維持することが期待できる。さらに、変性環状オレフィン樹脂は耐熱性に優れることから、フィルムに機能性のコーティング剤を塗布した機能性フィルムの接着・コーティング剤としてや、食品包装用、化粧品包装用、医療包装用材料、偏光板材料用途にも適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の一形態について以下に詳述する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、既述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できる。
【0015】
<変性環状オレフィン樹脂>
本発明に用いられる変性環状オレフィン樹脂は、環状オレフィン樹脂の側鎖にカルボキシ基を有し、酸価が50当量/トン以上1000当量/トン未満である変性環状オレフィン樹脂である。
【0016】
本発明に用いられる変性環状オレフィン樹脂を構成する環状オレフィン樹脂としては、1種のみの環状オレフィンモノマーから作製されるホモポリマー(COP)、または1種以上の環状オレフィンモノマーおよびコモノマーから構成されるコポリマー(COC)のいずれであってもよい。
【0017】
前記環状オレフィンモノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、またはこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチルなど)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、またはこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0018】
また、前記コモノマーとしては上述した環状オレフィンモノマーと共重合可能なモノマーであればよく、例えば、アルケンモノマーが好ましい。アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン等のα-オレフィンやイソブテンなどが挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
【0019】
環状オレフィン樹脂を構成する単量体成分は、その50質量%以上が前記環状オレフィンモノマーであることが好ましく、より好ましくは60質量%以上が前記環状オレフィンモノマーである。環状オレフィンモノマーが単量体成分全体の50質量%以上であると、耐熱性が良好なものとなる。単量体成分を重合する際の重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
【0020】
環状オレフィン樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記のような環状オレフィン樹脂の市販品としては、例えば三井化学株式会社製のアペルシリーズ、ポリプラスチックス株式会社製のTOPASシリーズ、日本ゼオン株式会社製のゼオノアシリーズ等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる変性環状オレフィン樹脂は、側鎖にカルボキシ基を有する。カルボキシ基を有することで、水性媒体への分散性や溶解性を向上したり、硬化剤との反応性を付与することができる。ここで、カルボキシ基は、酸無水物基であってもよい。
【0022】
変性環状オレフィン樹脂の酸価は50当量/トン以上であることが好ましく、より好ましくは80当量/トン以上、さらに好ましくは100当量/トン以上である。また、1000当量/トン未満であることが好ましく、より好ましくは950当量/トン以下、さらに好ましくは900当量/トン以下である。酸価が前記下限値以上であると、水性媒体への分散性や溶解性を向上したり、硬化剤との反応性を付与することができる。また、前記上限値以下であれば、変性環状オレフィン樹脂が有する低誘電特性を良好に保持することができる。また、酸価が高すぎる場合、吸水率が上昇するおそれがある。
【0023】
変性環状オレフィン樹脂の重量平均分子量(以下、「Mw」と略する。)の下限は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは300,000以下であり、好ましくは100,000以下である。変性環状オレフィン樹脂のMwが上記下限以上であれば、耐熱性や誘電特性が向上するため好ましい。また、Mwが上記上限以下であれば、溶媒への溶解性が良好となるので好ましい。変性環状オレフィン樹脂のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定によって決定される。
【0024】
本発明の変性環状オレフィン樹脂のガラス転移温度は100℃以上であることが好ましい。より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。上限は特に限定されないが、例えば250℃以下である。ガラス転移温度が前記範囲内であると、耐熱性に優れる。
【0025】
<変性環状オレフィン樹脂の製造方法>
本発明に用いられる変性環状オレフィン樹脂を作製する方法は限定されないが、一例として、環状オレフィン樹脂を不飽和カルボン酸化合物(A)でグラフト変性することで、環状オレフィン樹脂の側鎖にカルボキシ基が導入する方法が挙げられる。
【0026】
<不飽和カルボン酸化合物(A)>
前記不飽和カルボン酸化合物(A)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ナジック酸類等の不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸化合物(A)として不飽和カルボン酸無水物を用いてもよく、具体的には、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸類等が挙げられる。なお、ナジック酸類およびその無水物としては、エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸(商標))、メチル-エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(メチルナジック酸(商標))等およびその無水物が挙げられる。これらの中では、後記のヒドロキシアルカン酸等の変性剤との反応性から、不飽和カルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸、無水ナジック酸類が好ましい。不飽和カルボン酸化合物(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
環状オレフィン樹脂を不飽和カルボン酸化合物(A)でグラフト変性する方法としては、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性等が好適に用いられる。中でも設備やコスト競争力に優れた溶融変性が好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性がより好ましい。この時用いられる装置としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサーが挙げられる。中でも連続生産性に優れた単軸押出機、二軸押出機が好ましい。
【0028】
一般に、環状オレフィン樹脂への不飽和カルボン酸化合物(A)によるグラフト変性は、環状オレフィン樹脂を構成するブロック単位の炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これに不飽和官能基が付加するというグラフト反応によって行なわれる。炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温度とする方法や、有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ化合物等のラジカル発生剤を用いることもできる。ラジカル発生剤としてはコストや操作性の観点から有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0029】
上記アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジアゾニトロフェノールが挙げられる。上記無機過酸化物としては、例えば、過酸化水素、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、過酸化バリウムが挙げられる。上記有機過酸化物としては、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド群に含まれるものが挙げられる。具体的には、キュメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド;ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル;シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイドが挙げられる。これらのラジカル発生剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
環状オレフィン樹脂と不飽和カルボン酸化合物(A)との好ましい配合比率は、環状オレフィン樹脂100質量部に対し、不飽和カルボン酸化合物(A)が0.2~5質量部である。環状オレフィン樹脂に対する不飽和カルボン酸化合物(A)の配合比率が上記下限以上であれば、本発明の効果を奏するために必要な所定の変性率を得やすい。また、上記上限以下であれば、未反応の不飽和カルボン酸化合物(A)が残留が低減され、低誘電特性としても好ましい。
【0031】
上記不飽和カルボン酸化合物(A)と上記有機過酸化物との好ましい配合比率は、上記不飽和カルボン酸化合物(A)100質量部に対し、上記有機過酸化物が20~100質量部である。上記不飽和カルボン酸化合物(A)に対する上記有機過酸化物の配合比率が上記下限以上であれば、本発明の効果を奏するためにより好ましい変性率が得やすい。また、上記上限以下であれば、環状オレフィン樹脂の劣化が生じず、色相が悪化することがない。
【0032】
溶融混練変性条件としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機においては150~
300℃の温度にて押出すことが好ましい。
【0033】
溶液変性方法としては、例えば、反応容器に環状オレフィン樹脂、有機溶剤、不飽和カルボン酸化合物(A)および有機過酸化物を配合し、70~150℃に加温、攪拌しながら酸変性を行う。酸変性反応後、貧溶剤等を加えて変性樹脂を析出させ、脱溶剤して変性樹脂を得てもよいし、樹脂溶液から水系媒体を添加し、任意で反応溶剤を留去して水系組成物としてもよい。
【0034】
不飽和カルボン酸化合物(A)として多価カルボン酸化合物あるいは酸無水物化合物を用いてグラフト変性された変性樹脂は、側鎖に導入されたカルボキシ基のひとつを基点として、さらなる変性を施してもよい。さらなる変性に用いる変性剤としては例えば、グリコール酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸等のヒドロキシアルカン酸が挙げられる。ヒドロキシアルカン酸を用いてさらなる変性を施すと、変性剤のヒドロキシ基と変性樹脂のカルボキシ基とが反応して、変性剤の有する新たなカルボキシ基が変性樹脂の主鎖からより離れた位置に導入されるため、水分散性や電着性、硬化剤との反応性の向上が期待できる。
【0035】
<水系組成物>
本発明の水系組成物は、変性環状オレフィン樹脂と、水系媒体とを含有する組成物である。本発明の水系組成物は、変性環状オレフィン樹脂が水系媒体に分散した分散体であることが好ましい。
【0036】
本発明の水系組成物が分散体である場合、好ましい平均粒子径(D50)は0.01~1.0μmである。より好ましくは0.05~0.4μm、さらに好ましくは0.1~0.2μmである。平均粒子径が前記範囲内であると、分散性や保存安定性が良好となる。
【0037】
本発明の水系組成物の製造方法の一例として、水系組成物が分散体である場合、変性環状オレフィン樹脂を有機溶剤に溶解後、中和剤、乳化剤を添加し、攪拌しながら、純水を添加することにより、分散体である水系組成物を得ることができる。
【0038】
本発明の水系組成物は、中和化合物、硬化剤、硬化促進剤、酸化防止剤、乳化剤等を含有していてもよい。
【0039】
前記中和化合物としては、例えば、(ジ)メチルアミン、(ジ)エチルアミン、(ジ)プロピルアミン、(ジ)ブチルアミン、(ジ)ヘキシルアミン、(ジ)オクチルアミン、(ジ)エタノールアミン、(ジ)プロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミン-2-メチル-1-プロパノール、モルフォリン等の有機の塩基性物質;アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム等の無機の塩基性物質を添加することでカルボキシ基のO原子をアニオン化することができる。これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよいが、2種以上の併用がより効果的である。
【0040】
前記硬化剤としては、例えばエポキシ樹脂、カルボジイミド化合物等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、1分子あたり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型、またはそれらに水素添加したもの、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。また、前記エポキシ樹脂は例えば、シリコーン、ウレタン、ポリイミド、ポリアミド等で変性されていてもよく、分子骨格内に硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。
【0041】
前記カルボジイミド化合物としては、分子内にカルボジイミド基を有するものであれば、特に限定されない。好ましくは分子内にカルボジイミド基を2個以上有するポリカルボジイミドである。ポリカルボジイミドを使用することによって、変性環状オレフィン樹脂のカルボキシ基とカルボジイミド基とが反応し、基材との相互作用を高め、密着性を向上することができる
【0042】
カルボジイミド化合物は、芳香族カルボジイミド化合物、脂環族カルボジイミド化合物または脂肪族カルボジイミド化合物のいずれでも良く、これらを単独で使用することができるし、2種以上を併用することもできる。芳香族カルボジイミド化合物としては、ポリ-m-フェニレンカルボジイミド、ポリ-p-フェニレンカルボジイミド、ポリトリレンカルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチルジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)などが挙げられる。脂環族カルボジイミド化合物としては、ポリ-m-シクロヘキシルカルボジイミド、ポリ-p-シクロヘキシルカルボジイミド、ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ポリ(3,3’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドなどが挙げられる。脂肪族カルボジイミド化合物としては、直鎖状または分岐状の脂肪族カルボジイミド化合物のいずれであっても構わない。好ましくは直鎖状の脂肪族カルボジイミド化合物であり、具体的には、ポリメチレンカルボジイミド、ポリエチレンカルボジイミド、ポリプロピレンカルボジイミド、ポリブチレンカルボジイミド、ポリペンタメチレンカルボジイミド、ポリヘキサメチレンカルボジイミドなどが挙げられる。これらを単独で、または2種以上を併用して使用することができる。
【0043】
前記硬化促進剤は、変性環状オレフィン樹脂の有するカルボキシ基とエポキシ樹脂との反応を促進させる目的で使用するものであり、第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤およびイミダゾール系硬化促進剤等を使用することができる。
【0044】
第三級アミン系硬化促進剤としては、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、テトラメチルグアニジン、トリエタノールアミン、N,N’-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン等が挙げられる。
【0045】
第三級アミン塩系硬化促進剤としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセンや1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネンの、ギ酸塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、o-フタル酸塩、フェノール塩またはフェノールノボラック樹脂塩等が挙げられる。
【0046】
イミダゾール系硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明の水系組成物が硬化促進剤を含有する場合、硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.5~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。硬化促進剤の含有量が前記範囲内であれば、優れた密着性および耐熱性を有する。
【0048】
前記酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノ-ル系酸化防止剤;ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-ジチオプロピオネート等のイオウ系酸化防止剤;トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の含有量は、変性環状オレフィン樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。酸化防止剤の含有量が上記範囲内であることにより、電気特性および耐熱性を向上させることができる。
【0049】
前記乳化剤としては、種々の界面活性剤が挙げられ、具体的には、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキル類、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリエチルアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)ブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤;高級アルキル硫酸エステル類、アルキル、アリールポリオキシエチレン硫酸エステル塩類、高級脂肪酸塩類、アルキルアリールスルフォン酸塩類、アルキルリン酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤;アルコキシ化アミン等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。また、反応性界面活性剤でもよく、例えば、分子内に親水基としてポリオキシエチレン基を有するものであり、アルキルプロぺニル(ジ)フェノールポリエチレンオキサイドのアダクト体または硫酸エステル塩が好適である。
【0050】
その他、高分子系乳化剤や分散剤を用いてもよい。これらを使用することにより、系内の粘度を上昇させ得るので、エマルションの安定化に寄与する。高分子系乳化剤としては、例えば、ゼラチン、トラガントゴム、デンプン、メチル繊維素、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の高分子化合物またはその誘導体、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体類、ポリアクリル酸塩類の水溶性有機高分子類等が挙げられる。分散剤としては、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、燐酸カルシウム等の難水溶性微粉末状無機化合物またはこれらの混合物;タルク、ベントナイト、珪酸、珪藻土、粘土等の無機性物質;金属酸化物粉末がある。
【0051】
上記の乳化剤は、単独で使用しても2種以上を併用してもよいが、2種以上を併用すると、ポリマー成分や重合性単量体の種類や量にもよるが、塗膜の物性が向上したり、エマルションが安定化する場合が多い。乳化剤の使用量としては、エマルション粒子の安定性や、塗膜の耐水性の観点から、変性環状オレフィン樹脂100質量部に対して、0.01~100質量部、特に0.01~40質量部が好ましい。
【0052】
<電着塗料用組成物>
本発明の水系組成物は、電着塗料用組成物として好適に使用することができる。特に本発明に用いる変性環状ポリオレフィン樹脂はカルボキシ基を有しており、アニオン電着用として特に適している。本発明の水系組成物を用いた電着塗装方法としては、公知の電着塗装方法を適用することができる。具体的には、本発明の水系組成物を電着塗料用組成物として使用してアニオン電着塗装をする場合、電着塗料用組成物に被塗装物を浸漬する工程と、被塗装物を陰極とし、陽極との間に電圧を印加して、被塗装物の表面に変性環状オレフィン樹脂被膜を電着させる工程とを含む方法によって、アニオン電着塗装を行うことができる。
【0053】
被塗装物としては、被塗装部分が導電性を有する物品等であって、例えば、銅、鉄、鋼、アルミニウムなどの金属により構成された被塗装部分を有するものが挙げられる。被塗装物の形状については、電着塗料用組成物を接触させることができれば、特に制限されない。
【0054】
アニオン電着塗装では、例えば、被塗装物を陽極とし、陰極との間に、通常、1V以上500V以下の電圧を印加して行うことができる。印加電圧が1V以上であれば十分な電着塗装が可能であり、500V以下であれば、消費電力を抑制し得、経済的である。
【0055】
本発明において電着塗料用組成物を用いて電着塗装する場合、電着塗料用組成物の温度は、例えば10~60℃である。
【0056】
本発明において、電着塗料用組成物は、本発明の水系組成物と、必要に応じて各種添加剤を混合することによって製造することができる。
【0057】
<硬化塗膜>
本発明の硬化塗膜は、例えば、被塗装物に電着後、乾燥および硬化させることにより得ることができる。硬化塗膜の、測定周波数10GHzにおける、誘電正接は0.0030未満であることが好ましい。誘電正接は低ければ低いほど回路基板とした際の電気信号の伝達効率、高速化が得られるために好ましい。
【実施例0058】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。なお、本実施例および比較例において、単に部とあるのは質量部を示すこととする。
【0059】
<物性評価方法>
(酸価の測定)
600MHzの核磁気共鳴スペクトル装置(以下、NMRと略記することがある)を用いて、1H-NMRおよび13C―NMR測定を以下の条件により行い、カルボキシ基を有する化合物が環状オレフィン樹脂に導入された量から、酸価を特定した。
(13C-NMR測定条件)
・装置:BRUKER社製 AVANCE NEO 600分光計
・測定溶媒:重ベンゼン/o-ジクロロベンゼン(体積比2/8)
・試料濃度:約50mg/約0.60mL
・共鳴周波数:150.9MHz
・フリップ角:30度
・データ取得時間:2秒
・パルス繰り返し時間:0.5秒
・積算回数:512回
・測定温度:120℃
(1H-NMR測定条件)
・装置:BRUKER社製 AVANCE NEO 600分光計
・測定溶媒:重ジメチルスルホキシド、または重ジメチルスルホキシド/塩酸(1モル/L)(0.6mL/0.02mL)
・試料濃度:約20mg/約0.60mL
・共鳴周波数:600MHz
・フリップ角:30度
・データ取得時間:4秒
・パルス繰り返し時間:1秒
・積算回数:64
・測定温度:30℃
【0060】
(ガラス転移温度の測定)
示差走査型熱量計(SII社、DSC-200)を用いて測定した。試料5mgをアルミニウム抑え蓋型容器に入れ密封し、液体窒素を用いて-50℃まで冷却した。次いで150℃まで20℃/分の昇温速度にて昇温させ、昇温過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前(ガラス転移温度以下)のベースラインの延長線と、吸熱ピークに向かう接線(ピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線)との交点の温度をもって、ガラス転移温度(単位:℃)とした。ガラス転移温度を耐熱性の指標とした。
【0061】
(平均粒子径)
大塚電子(株)製濃厚系粒径アナライザー“FPAR-1000”を用いた動的光散乱法により、平均粒子径を測定した。水系組成物作製時、硬化剤を加える前にサンプリングし、脱イオン水で希釈し、光量を15000~40000cpsの範囲に調整した。測定時間60秒、測定温度25℃で測定し、得られたヒストグラム解析による平均粒子径D50(μm)を平均粒子径とした。
【0062】
(比誘電率(εc)及び誘電正接(tanδ))
キシレンに溶解した変性環状オレフィン樹脂、またはイソプロパノールを10質量%添加した水系組成物を、厚さ100μmのナフロンテープ(型式TOMBO900、ニチアス社製)に、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した後、ナフロンテープを剥離して試験用の樹脂シートを得た。その後得られた試験用樹脂シートを8cm×3mmの短冊状にサンプルを裁断し、試験用サンプルを得た。比誘電率(εc)及び誘電正接(tanδ)は、ネットワークアナライザー(アンリツ社製)を使用し、空洞共振器摂動法で、温度23℃、周波数10GHzの条件で測定した。
【0063】
<電着塗装>
陰極として銅板、陽極としてSUS板(被塗装物)を使用し、水系組成物に浸して100Vの電圧を印加して銅板の表面に電着塗装を行い、樹脂塗装物が得られれば〇、得られなければ×とした。
【0064】
(吸水率)
イソプロパノールを10質量%添加した水系組成物をナフロンテープ(型式TOMBO900、ニチアス社製)に乾燥後の厚みが25μmとなるように塗工し、乾燥後、ナフロンテープを剥離して試験用のフィルムを作製した。得られたフィルムを、幅10mm×長さ50mmにカットした。その後、常温で24時間、純水に浸漬した。浸漬前後の質量変化により吸水率(質量%)を算出した。
【0065】
<製造例1>
(変性環状オレフィン樹脂(p-1)の作製)
4つ口フラスコに常温、窒素雰囲気下にて、環状オレフィン樹脂として、ポリプラスチックス(株)製TOPAS 6017Sを用い、これと無水マレイン酸、有機過酸化物(日油(株)製:パーブチルD(ジ-tert-ブチルパーオキサイド))及び溶剤としてキシレンを、環状オレフィン樹脂100質量部に対して無水マレイン酸を12.0質量部、有機過酸化物4.8質量部、キシレン200質量部となる配合比率になるように投入し、140℃で4時間攪拌した。反応終了後、70℃まで冷却し、大過剰のメチルエチルケトンにて精製することにより、側鎖にカルボキシ基が導入された変性環状オレフィン樹脂(p-1)を得た。得られた変性環状オレフィン樹脂(p-1)の物性測定結果を表1に示す。
【0066】
<製造例2>
(変性環状オレフィン樹脂(p-2)の作製)
環状オレフィン樹脂として、ポリプラスチックス(株)製TOPAS 6017Sを用い、これと無水マレイン酸及び有機過酸化物(日油(株)製:パーヘキサ25B(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン))を、環状オレフィン樹脂100質量部に対して無水マレイン酸を4.0質量部、有機過酸化物2.0質量部となる配合比率になるように二軸押出機(日本製鋼(株)製、TEX25αIII)を使用し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数400rpm、吐出量10kg/hで溶融混練し、押出された溶融ストランドを水冷、カッティングすることにより、側鎖にカルボキシ基が導入された変性環状オレフィン樹脂(p-2)を得た。得られた変性環状オレフィン樹脂(p-2)の物性評価結果を表1に示す。
【0067】
<製造例3>
(変性環状オレフィン樹脂(p-3)の作製)
環状オレフィン樹脂として、日本ゼオン(株)製ゼオノア K22Rを用い、これと無水マレイン酸及び有機過酸化物(日油(株)製:パーヘキサ25B(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン))を、環状オレフィン樹脂100質量部に対して無水マレイン酸を4.0質量部、有機過酸化物2.0質量部となる配合比率になるように二軸押出機(日本製鋼(株)製、TEX25αIII)を使用し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数400rpm、吐出量10kg/hで溶融混練し、さらに変性剤としてグリコール酸を5.4質量部となる配合比率になるようにサイドフィードにて注入、混練し、押出された溶融ストランドを水冷、カッティングすることにより、側鎖にカルボキシ基が導入された変性環状オレフィン樹脂(p-3)を得た。得られた変性環状オレフィン樹脂(p-3)の物性評価結果を表1に示す。
【0068】
<製造例4>
(変性環状オレフィン樹脂(p-4)の作製)
変性剤を15-ヒドロキシペンタデカン酸に変更した以外は変性環状オレフィン樹脂(p-3)の作製と同様の手順により、表1に示すような変性環状オレフィン樹脂(p-4)を作製した。
【0069】
<製造例5>
(変性環状オレフィン樹脂(p-5)の作製)
4つ口フラスコに常温、窒素雰囲気下にて、環状オレフィン樹脂として、ポリプラスチックス(株)製TOPAS 6017Sを用い、これと無水マレイン酸、有機過酸化物(日油(株)製:パーブチルD(ジ-tert-ブチルパーオキサイド))及び溶剤としてキシレンを、環状オレフィン樹脂100質量部に対して無水マレイン酸を0.55質量部、有機過酸化物4.8質量部、キシレン200質量部となる配合比率になるように投入し、140℃で4時間攪拌した。反応終了後、70℃まで冷却し、大過剰のメチルエチルケトンにて精製することにより、側鎖にカルボキシ基が導入された変性環状オレフィン樹脂(p-5)を得た。得られた変性環状オレフィン樹脂(p-5)の物性測定結果を表1に示す。
【0070】
<製造例6>
(変性環状オレフィン樹脂(p-6)の作製)
4つ口フラスコに常温、窒素雰囲気下にて、環状オレフィン樹脂として、ポリプラスチックス(株)製TOPAS 6017Sを用い、これと無水マレイン酸、有機過酸化物(日油(株)製:パーブチルD(ジ-tert-ブチルパーオキサイド))及び溶剤としてキシレンを、環状オレフィン樹脂100質量部に対して無水マレイン酸を12.0質量部、有機過酸化物4.8質量部、キシレン200質量部となる配合比率になるように投入し、140℃で4時間攪拌した。その後、リンゴ酸16.4重量部投入し、2時間攪拌した。反応終了後、70℃まで冷却し、大過剰のメチルエチルケトンにて精製することにより、側鎖にカルボキシ基が導入された変性環状オレフィン樹脂(p-6)を得た。得られた変性環状オレフィン樹脂(p-6)の物性測定結果を表1に示す。
【0071】
<製造例7>
(変性オレフィン樹脂(p-7)の作製)
エチレン-プロピレン共重合体(重量平均分子量:320000、エチレン成分4.6モル%)100質量部、無水マレイン酸4質量部、ジクミルパーオキサイド1.5質量部およびトルエン150質量部を、撹拌器を取り付けたオートクレーブに仕込んで窒素置換を約5分間行った後、加熱撹拌しながら140℃で5時間反応を行った。反応終了後、反応液を大量のメチルエチルケトン中に投入して樹脂を析出させ、これをさらにメチルエチルケトンで数回洗浄して未反応のモノマーを除去し、60℃、10torrの圧力下で充分に減圧乾燥して、変性オレフィン樹脂(p-7)を得た。
【0072】
<製造例8>
(ポリイミド樹脂(p-8)の作製)
4つ口フラスコに乾燥窒素下にて、溶剤のN-メチル--2-ピロリドン(NMP)369.7質量部に、ジアミンである4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)43.8質量部を溶解させた。その後、溶剤のNMPに、カルボン酸無水物であるピロメリット酸無水物(PMDA)46.3質量部を溶解させた。そして、窒素環境下において、室温で12時間撹拌しながら合成することにより、ポリアミック酸を含むポリイミド樹脂(p-8)のNMP溶液を調製した。
【0073】
表1で使用した原料は、以下のとおりである。
(環状オレフィン樹脂)
P1: TOPAS 6017S、ポリプラスチックス(株)製
P2: ゼオノア K22R、日本ゼオン(株)製
【0074】
【0075】
<実施例1>
(水系組成物(d-1)の作製)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、変性環状オレフィン樹脂(p-1)を29重量部、シクロヘキサンを10重量部、トリエチルアミンを1重量部、純水を50重量部、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(ノイゲンEA―197D(第一工業製薬株式会社製)10重量部を加え、70℃にて3時間攪拌した。ここでサンプリングした水分散体の平均粒子径(D50)は0.25μmであった。さらに、硬化剤としてTETRAD―X(三菱ガス化学社製、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン)1.5質量部をメチルエチルケトン5質量部に溶解した溶液を添加して攪拌することにより、水系組成物(d-1)を得た。
【0076】
<実施例2~6、比較例1~2>
(水系組成物(d-2)~(d-8)の作製)
変性環状オレフィン樹脂、乳化剤、硬化剤の種類および量比を表2に示すように変更した以外は水系組成物(d-1)の作製と同様の手順により、水系組成物(d-2)~(d-8)を作製した。ただし、水系組成物(d-7)は変性環状オレフィン樹脂(p-5)の酸価が低いため水分散できなかった。
【0077】
<比較例3>
変性オレフィン樹脂(p-7)100質量部をトルエン500質量部に溶解させ、N,N-ジメチルエタノールアミンを8質量部、ノイゲンEA-197Dを5質量部添加して、さらに脱イオン水1000質量部を入れて、50℃に保った。上記溶液を、ローターおよびスクリーンを装着し(ローターとスクリーンとの間隙は0.2mm)、ローター回転数が16000rpmの乳化機(エム・テクニック社製、クレアミックスCLM-0.8S)を用いて10分間撹拌して、水系組成物(d-9)を得た。
【0078】
<比較例4>
(ポリイミド樹脂の水系組成物(d-10)の作製)
上記ポリイミド樹脂(p-8)のNMP溶液に対して、中和剤としてN,N-ジメチルエタノールアミンをポリイミド樹脂100質量部に対して7.0質量部、さらに水をポリイミド樹脂/水/NMP=15/50/35の質量比になるように70℃にて攪拌しながら添加して水系化し、水系組成物(d-10)を得た。なお、水系組成物(d-10)はほとんど水溶液の状態であり、平均粒子径(D50)は測定できなかった。
【0079】
実施例で使用した原料は、以下のとおりである。
(乳化剤)
E1: ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(ノイゲンEA-197D、第一工業製薬(株)製)
E2: ポリオキシエチレンイソデシルエーテル(ノイゲンSD-80、第一工業製薬(株)製)
(硬化剤)
H1: テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン(TETRAD―X、三菱ガス化学(株)製)
H2: フェノールノボラック型エポキシ樹脂(jER152、三菱ケミカル(株)製)
H3: テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(jER604、三菱ケミカル(株)製)
【0080】
【0081】
表1および表2の結果からわかるように、実施例1~6の変性環状オレフィン樹脂を用いた水系組成物は、耐熱性および低誘電特性に優れ、アニオン電着塗装性も良好であった。また、吸水率も低いことから、高温高湿下で使用した場合でも、低誘電特性を維持することが期待できる。一方、比較例1は変性環状オレフィン樹脂の酸価が低いため樹脂を水分散できず、水系組成物を得られなかった。比較例2では変性環状オレフィン樹脂の酸価がたかく、低誘電特性に劣った。比較例3では変性オレフィン樹脂は環状構造を有していないため、耐熱性に劣った。比較例4ではポリイミド樹脂を使用しており、低誘電特性が悪く、また吸水率にも劣った。
本発明の変性環状オレフィン樹脂は優れた低誘電特性を有し、かつアニオン電着塗装に適していることから、電着塗装用の塗料や水系組成物、これを使用した積層体などに好適に使用できる。また、本発明の変性環状オレフィン樹脂は吸水率が低いため、高温高湿下で使用した場合でも、低誘電特性を維持することが期待できる。さらに、本発明の変性環状オレフィン樹脂は耐熱性に優れることから、フィルムに機能性のコーティング剤を塗布した機能性フィルムの接着・コーティング剤としてや、食品包装用、化粧品包装用、医療包装用材料、偏光板材料用途にも適用することができる。