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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048044
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】把持状態検出装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/06 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
B62D1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153874
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000222934
【氏名又は名称】東洋電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】石井 陽二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸哉
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DB13
3D030DB17
(57)【要約】
【課題】外乱による静電容量の変化が起こったとしても、把持・非把持状態の判定を精度よく行う。
【解決手段】CPU21は、測定値Sが、記憶部25に記憶された基準閾値TH0を基準とする所定範囲内/所定範囲外となった場合は、それぞれ、非把持状態/把持状態であると判定する。CPU21は、把持状態であると判定した場合、増加測定値SAおよび増加量Δ1を取得し、これらに基づいて更新用閾値を決定し、基準閾値TH0を、上記決定した更新用閾値に更新する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングホイールに対する運転手による把持の状況に応じて変化する静電容量を測定し、測定値として出力する測定部と、
基準閾値を記憶する記憶部と、
前記測定部により出力された前記測定値が前記記憶部に記憶されている前記基準閾値を基準とする所定範囲内である場合は、前記ステアリングホイールが前記運転手により把持されていない非把持状態であると判定し、前記測定値が前記所定範囲外である場合は、前記ステアリングホイールが前記運転手により把持されている把持状態であると判定する判定部と、
前記判定部により把持状態であると判定された場合に、前記測定部により出力された測定値を増加測定値として取得すると共に、前記非把持状態において最後に出力された測定値に対する前記増加測定値の増加量を取得する取得部と、
前記取得部により前記増加量が取得された後において、前記増加測定値と前記増加量とに基づいて更新用閾値を決定し、前記記憶部に記憶された前記基準閾値を前記決定した更新用閾値に更新する更新部と、を有する、把持状態検出装置。
【請求項2】
前記更新用閾値は、前記増加測定値から前記増加量を差し引いた値である、請求項1に記載の把持状態検出装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記把持状態であるという判定の継続中に出力される前記測定値を把持中測定値として取得し、
前記更新部は、前記基準閾値を前記更新用閾値に更新した後において、前記把持中測定値と前記増加量とに基づいて追加更新用閾値を決定し、前記更新用閾値を前記追加更新用閾値に更新する請求項2に記載の把持状態検出装置。
【請求項4】
前記測定部は、ステアリングに配置されたステアリングスイッチケースに設けられ、
前記取得部は、前記把持中測定値の前回値と今回値との差分を取得し、
前記判定部は、前記把持状態であるという判定の継続中に、前記差分が移動判定閾値を超えた場合は、把持位置の移動が生じたと判定し、
前記取得部は、前記把持位置の移動が生じたと判定したことに応じて、前記移動判定閾値を超えた前記差分を変化量として取得し、
前記更新部は、前記把持位置の移動が生じたと判定された後に、前記把持中測定値と前記増加量と前記変化量とに基づいて前記追加更新用閾値を決定する、請求項3に記載の把持状態検出装置。
【請求項5】
前記変化量が、前記前回値に対して前記今回値が大きいことで符号がプラスとなる場合に、前記更新部は、前記把持中測定値から前記増加量および前記変化量を差し引いた値を前記追加更新用閾値として決定する、請求項4に記載の把持状態検出装置。
【請求項6】
前記更新部は、前記把持状態であるという判定の継続中に、絶対値が前記移動判定閾値を超える前記変化量が複数回取得された場合は、前記把持中測定値から前記増加量および複数の前記変化量を差し引いた値を前記追加更新用閾値として決定する、請求項5に記載の把持状態検出装置。
【請求項7】
前記測定値が前記基準閾値未満となったときに、前記判定部は、前記測定部、前記記憶部、前記取得部または前記更新部の少なくともいずれかの異常と判定する、請求項1に記載の把持状態検出装置。
【請求項8】
前記把持中測定値が前記更新用閾値未満または前記追加更新用閾値未満となったときに、前記判定部は、前記測定部、前記記憶部、前記取得部または前記更新部の少なくともいずれかの異常と判定する、請求項3に記載の把持状態検出装置。
【請求項9】
前記判定部が、前記把持状態から前記非把持状態に移行したと判定した後、前記把持状態に移行したと判定したとき、前記増加量は新たに取得される、請求項1に記載の把持状態検出装置。
【請求項10】
前記増加測定値は、前記測定値が前記所定範囲外となった時点から所定時間の経過後に出力された測定値である、請求項1に記載の把持状態検出装置。
【請求項11】
測定部が、車両のステアリングホイールに対する運転手による把持の状況に応じて変化する静電容量を測定し、測定値として出力する測定ステップと、
前記測定部により出力された前記測定値が、記憶部に記憶されている基準閾値を基準とする所定範囲内である場合は、前記ステアリングホイールが前記運転手により把持されていない非把持状態であると判定し、前記測定値が前記所定範囲外である場合は、前記ステアリングホイールが前記運転手により把持されている把持状態であると判定する判定ステップと、
前記判定ステップにより把持状態であると判定された場合に、前記測定部により出力された測定値を増加測定値として取得すると共に、前記非把持状態において最後に出力された測定値に対する前記増加測定値の増加量を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより前記増加量が取得された後において、前記増加測定値から前記増加量を差し引いて更新用閾値を決定し、前記記憶部に記憶された前記基準閾値を前記決定した更新用閾値に更新する更新ステップと、を有する、把持状態検出装置の制御方法。
【請求項12】
前記取得ステップは、前記把持状態であるという判定の継続中に出力される前記測定値を把持中測定値として取得し、
前記更新ステップは、前記基準閾値を前記更新用閾値に更新した後において、前記把持中測定値と前記増加量とに基づいて追加更新用閾値を決定し、前記更新用閾値を前記追加更新用閾値に更新する請求項11に記載の把持状態検出装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、車両のステアリングホイールの把持状態を検出する把持状態検出装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転手によって操作される車両のステアリングホイールに設けられた静電容量センサにより検知される静電容量の変化に基づいて、ステアリングホイールの把持・非把持状態を判定する装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1の装置では、判定用閾値と静電容量とを比較して、ステアリングホイールに対する把持状態または手放し状態(非把持状態)を判定する。判定用閾値は、把持状態から手放し状態へ移行したときに更新される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6489091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、温度等の外乱によって、検知される静電容量は変化する。特許文献1の装置では、外乱が作用したとしても判定用閾値が更新されることはない。そのため、外乱を考慮して把持・非把持状態の判定精度を高めることに関し、改善の余地があった。
【0006】
本技術は、外乱による静電容量の変化が起こったとしても、把持・非把持状態の判定を精度よく行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本技術の把持状態検出装置は、車両のステアリングホイールに対する運転手による把持の状況に応じて変化する静電容量を測定し、測定値として出力する測定部と、基準閾値を記憶する記憶部と、前記測定部により出力された前記測定値が前記記憶部に記憶されている前記基準閾値を基準とする所定範囲内である場合は、前記ステアリングホイールが前記運転手により把持されていない非把持状態であると判定し、前記測定値が前記所定範囲外である場合は、前記ステアリングホイールが前記運転手により把持されている把持状態であると判定する判定部と、前記判定部により把持状態であると判定された場合に、前記測定部により出力された測定値を増加測定値として取得すると共に、前記非把持状態において最後に出力された測定値に対する前記増加測定値の増加量を取得する取得部と、前記取得部により前記増加量が取得された後において、前記増加測定値と前記増加量とに基づいて更新用閾値を決定し、前記記憶部に記憶された前記基準閾値を前記決定した更新用閾値に更新する更新部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本技術によれば、外乱による静電容量の変化が起こったとしても、把持・非把持状態の判定を精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】把持状態検出装置が適用されるステアリングの正面図である。
図2】ステアリングスイッチ装置の主要部のブロック図である。
図3】把持・非把持判定処理におけるタイミングチャートである。
図4】把持・非把持判定処理を示すフローチャートである。
図5図4の続きのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本技術の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は、本技術の一実施の形態に係る把持状態検出装置が適用されるステアリングの正面図である。
【0012】
この把持状態検出装置は、一例としてステアリングスイッチ装置100として構成される。ステアリングスイッチ装置100は、一例として車両のステアリング90に搭載され、車両のECU(不図示)と電気的に接続可能となっている。
【0013】
ステアリング90は、運転手(運転者)から見て左に向けて突出するステアリングスポーク91Lと、右に向けて突出するステアリングスポーク91Rと、下に向けて突出するステアリングスポーク91Cとを備える。また、ステアリング90は、ステアリングコラム(図示せず)と略同心に、ステアリングスポーク91L、ステアリングスポーク91R、ステアリングスポーク91Cの各端部に連結された円形のステアリングホイール92を備える。運転手は、ステアリングホイール92を操作することにより、車両の進行方向を転換することができる。ステアリングスポーク91Lとステアリングスポーク91Rとの間には、ホーンパッド93が設けられている。ホーンパッド93は、ステアリング90の回転中心と重なる位置に配置されている。
【0014】
ステアリングスイッチ装置100は、運転手(人)が左手または右手でステアリングホイール92を把持した際、その把持の状況を検出可能な装置である。ステアリングスイッチ装置100は、車両の装備品の駆動を操作可能なスイッチ部96と、スイッチ部96が収容されるステアリングスイッチケース94と、ステアリングスイッチケース94内に設けられた基板28とを備える。基板28には、本技術における測定部が設けられている。さらに測定部はセンサ部材および処理部材を含む。スイッチ部96、測定部は、ホーンパッド93を介して左右一対ずつ配置されている。以下では、代表して、左右のうちの、左側のスイッチ部96および測定部について説明する。
【0015】
センサ部材は、ステアリングホイール92への左手の接近を静電容量の変化によって検出する静電容量型近接センサである。処理部材は、発振回路、検出回路および出力回路を有する(いずれも図示せず)。発振回路は、センサ部材と電気的に接続されており、高周波によりセンサ部材に電界を発生させる。検出回路は、手の接近に応じた発振回路の発振周波数の変化を検出する。出力回路は、検出回路での検出結果を出力し、上記ECUに送信する。
【0016】
このような構成の測定部では、センサ部材の電界、すなわち、検出領域に手が存在しない場合には、発振回路の発振周波数に変化はない。一方、センサ部材の電界に手が進入した場合には、電界の影響によって手に分極が生じ、手には負電位が発生する、すなわち、負の電荷が偏在して貯まる。これに伴って、センサ部材には、正の電荷が偏在して貯まることとなる。これにより、静電容量が増加して、発振回路の発振周波数が変化する。検出回路は、この発振周波数の変化を検出することができる。そして、検出回路での検出結果が左手に関する把持の状況の検出結果として、出力回路から出力される。なお、採用可能な測定部の構成や配置は問わない。
【0017】
本実施の形態では、把持の状況の検出結果には、ステアリングホイール92が運転手により把持されている「把持状態」と、ステアリングホイール92が運転手により把持されていない「非把持状態」とがある。把持状態・非把持状態は、左手と右手とについて個別に判定されてもよい。あるいは、左右いずれかの手に関して把持状態と判定されれば、全体として把持状態と判定されてもよい。
【0018】
図2は、ステアリングスイッチ装置100の主要部のブロック図である。CPU21に対して、ROM22、RAM23、タイマ24、記憶部25、スイッチ部96、表示部27、基板28および各種I/F29が電気的に接続されている。これらの構成要素の一部は上記ECUに含まれてもよい。
【0019】
CPU21は、ステアリングスイッチ装置100の全体を制御する。ROM22には、CPU21により実行されるプログラムが格納されている。RAM23は、CPU21がプログラムを実行する際のワークエリアを提供する。記憶部25は不揮発メモリであり、各種情報を記憶する。スイッチ部96はタッチパネル等(不図示)を含み、各種指示をユーザが入力するための構成要素である。表示部27は、各種情報を表示する。表示部27は、音声発生機能も有してもよい。センサ部材は、上述したように、運転手による把持の状況に応じて変化する静電容量を測定し、測定値SとしてCPU21に出力する。各種I/F29は、無線または有線の各種の通信I/Fを含む。
【0020】
図3は、把持・非把持判定処理におけるタイミングチャートである。図3の横軸に経過時間をとり、縦軸には測定値Sをとっている。図3では、代表して、左手に関する判定処理を示している。
【0021】
基準閾値TH0の初期値は、記憶部25に記憶されており、把持・非把持判定処理において更新され得る。上限値TH1は、基準閾値TH0に所定値αを加算したものであり、基準閾値TH0と上限値TH1とによって、把持状態か非把持状態かを判定するための閾値範囲が規定される。以後、この閾値範囲を、基準閾値TH0を基準とする「所定範囲」と呼称する。
【0022】
時点t10以前の期間は、装置起動後で把持状態と判定される前の期間であるか、または、把持状態から非把持状態へ移行した判定された後の期間である。CPU21は測定値Sを常時(一定時間間隔で到来する取得タイミングで)監視し、測定値Sが所定範囲外となる(所定範囲内でなくなる)と、把持状態へ移行したと判定する(時点t10)。時点t11は、測定値Sが所定範囲外となった時点t10から所定時間T0の経過後の時点である。時点t11に出力された測定値Sが増加測定値SAである。
【0023】
更新タイミングは、時点t11の後、時間T1ごとに到来する。更新タイミングの間隔(時間T1)は、上記取得タイミングの間隔(一定時間間隔)より長い値に設定されている。
【0024】
詳細は図4図5で後述するが、更新タイミングでは、新たに取得された測定値Sに応じて、把持・非把持が判定されると共に、基準閾値TH0および上限値TH1が更新され得る。なお、所定時間T0は時間T1と等しくてもよいし、等しくなくてもよい。
【0025】
把持・非把持判定処理の内容を概説する。判定部としてのCPU21は、測定部により出力された測定値Sが所定範囲内である場合は非把持状態であると判定し、且つ、測定値Sが所定範囲外である場合は把持状態であると判定する。例えば、非把持状態と判定されている期間(時点t00~t10、t40以降)は、フラグは「0」に設定され、把持状態と判定されている期間(時点t10~t40)は、フラグが「1」に設定される。
【0026】
時点t10で把持状態と判定される。取得部としてのCPU21は、時点t10から所定時間T0の経過後の時点t11で、新たに出力された測定値Sを増加測定値SAとして取得する。さらにCPU21は、非把持状態において最後に出力された測定値Sに対する増加測定値SAの増加量Δ1を、SA-Sにより算出・取得する。
【0027】
時点t11ではさらに、更新部としてのCPU21は、増加測定値SAと増加量Δ1とに基づいて更新用閾値TH0’を決定する。更新用閾値TH0’は、増加測定値SA-増加量Δ1により算出・決定される。さらにCPU21は、記憶部25に記憶された基準閾値TH0を、上記決定した更新用閾値TH0’に更新する。それと共に、CPU21は、更新した更新用閾値TH0’に所定値αを加算することで上限値TH1’も更新する。その結果、所定範囲も更新される。
【0028】
ここで、上限値TH1’は、更新用閾値TH0’に基づき更新される上限値である。上限値TH1”は、追加更新用閾値TH0”(後述する)に基づき更新される上限値である。
【0029】
把持状態であるという判定の継続中に出力される測定値Sを特に「把持中測定値SB」と呼称する。CPU21は、把持状態の判定継続中に出力される測定値Sを把持中測定値SBとして取得する。更新部としてのCPU21は、基準閾値TH0を更新用閾値TH0’に更新した後において、把持中測定値SBと増加量Δ1とに基づいて追加更新用閾値TH0”を決定し、更新用閾値TH0’を追加更新用閾値TH0”に更新する。例えばCPU21は、時点t13において、測定値Sを把持中測定値SBとして取得し、把持中測定値SBと増加量Δ1とに基づいて追加更新用閾値TH0”を決定し、更新用閾値TH0’を追加更新用閾値TH0”に更新する。
【0030】
CPU21は、把持状態の判定継続中に出力される測定値Sを把持中測定値SBとして取得すると共に、把持中測定値SBの前回値と今回値との差分Dを取得する。把持状態の判定継続中においては、CPU21は、更新タイミングにおいて、差分Dの絶対値と移動判定閾値TH2との大小比較を行う。移動判定閾値TH2は固定値であり、予め記憶部25に格納されている。なお、移動判定閾値TH2は車室内環境に応じて変動する変動値でもよい。
【0031】
把持状態の判定継続中に、差分Dの絶対値>移動判定閾値TH2となった場合は、判定部としてのCPU21は、把持位置の移動が生じたと判定する。把持位置の移動が生じたと判定した後に、取得部としてのCPU21は、移動判定閾値TH2を超える差分Dを変化量として取得する。さらに更新部としてのCPU21は、把持中測定値SBと、増加量Δ1と、変化量と、に基づいて追加更新用閾値TH0”を決定する。例えば、CPU21は、把持中測定値SB-(増加量Δ1+変化量)によって、追加更新用閾値TH0”を算出・決定する。この追加更新用閾値TH0”によって更新用閾値TH0’が更新される。
【0032】
把持状態であるという判定の継続中に、差分Dの絶対値>移動判定閾値TH2とならなかった場合は、つまり差分Dの絶対値が移動判定閾値TH2以下となった場合は例えば、更新部としてのCPU21は、把持中測定値SB-増加量Δ1によって、追加更新用閾値TH0”を算出・決定する。この追加更新用閾値TH0”によって更新用閾値TH0’が更新される。
【0033】
上記のような処理により、把持位置の移動に起因した測定値の大きな変化が生じたとしても変化量を用いて算出を行うため、更新用閾値TH0’および追加更新用閾値TH0”、さらには基準閾値TH0の急激な変動が回避される。
【0034】
つまり、手の移動等による測定値の変化を差し引くことで、車室内温度環境の変化に起因する測定値変化のみに追従した、把持状態または非把持状態であるとの判定を行うことができる。
【0035】
図4図5は、把持・非把持判定処理を示すフローチャートである。この処理は、ROM22に格納されたプログラムをCPU21がRAM23に展開して実行することで実現される。この処理は、装置が起動されると開始される。この処理が開始されたとき、CPU21は必要に応じて、所定の処理を実行する。例えば、CPU21は、初期化を実行する。CPU21は、記憶部25に格納されている基準閾値TH0の初期値や移動判定閾値TH2を読み込み、さらにフラグを「0」に設定することができる。従って、この時点では、非把持状態と判定されている。また、CPU21は、基準閾値TH0+所定値αにより「所定範囲」を設定する。これにより、基準閾値TH0を基準とする「所定範囲」の初期値が設定される。所定範囲は、基準閾値TH0以上で上限値TH1以下の範囲である。
【0036】
ステップS101では、CPU21は、その他の処理を実行する。ここでいうその他の処理には、例えば、ユーザ指示に応じた本処理の終了処理等がある。
【0037】
ステップS102では、CPU21は、取得タイミングが到来したか否かを判別する。取得タイミングは、装置起動後、一定時間間隔で到来する。CPU21は、取得タイミングが到来していない場合はステップS101に戻り、取得タイミングが到来すると、ステップS103に進む。ステップS103では、CPU21は、測定部により出力された測定値Sを取得し、RAM23に記憶させる。
【0038】
ステップS104では、CPU21は、ステップS103で取得した測定値Sが所定範囲内である(TH0≦S≦TH1が成立する)か否かを判別する。そしてCPU21は、測定値Sが所定範囲内である場合は、ステップS101に戻る。この場合、判定結果は非把持状態のまま維持される。一方、測定値Sが所定範囲外である場合は、CPU21は、ステップS105に進み、測定値Sが基準閾値TH0未満である(S<TH0が成立する)か否かを判別する。
【0039】
CPU21は、測定値Sが基準閾値TH0未満である場合はステップS111に進み、測定部、記憶部25、上記取得部または上記更新部の少なくともいずれかの異常と判定する。ステップS112では、CPU21は、異常がある旨を表示部27に表示させたり、音声メッセージを発音したりすることで異常を報知し、本処理を終了する。
【0040】
一方、測定値Sが基準閾値TH0未満でない場合は、CPU21は、測定値Sが上限値TH1を超えていると判断できるので、ステップS106に進む。ステップS106では、CPU21は、把持状態であると判定し、フラグを「1」に設定する(図3の時点t10)。
【0041】
ステップS107では、CPU21は、測定値Sが所定範囲外となった時点t10から所定時間T0が経過すると(時点t11)、ステップS108に進む。ステップS108では、CPU21は、新たに測定部により出力された測定値Sを増加測定値SAとして取得する。さらにCPU21は、非把持状態において最後に出力された測定値Sに対する増加測定値SAの増加量Δ1を、「増加量Δ1=SA-S」により算出・取得し、RAM23に記憶させる。ここで、RAM23には、常に最新の測定値Sが記憶されている。従って、「非把持状態において最後に出力された測定値S」は、ステップS106へ移行する直前のステップS103でRAM23に記憶された測定値Sである。
【0042】
ステップS109では、CPU21は、「更新用閾値TH0’=増加測定値SA-増加量Δ1」により更新用閾値TH0’を決定する。ステップS110では、CPU21は、記憶部25に記憶された基準閾値TH0を、上記決定した更新用閾値TH0’に更新すると共に、「TH1’=TH0’+α」により上限値TH1’も更新する。その結果、所定範囲も更新される。
【0043】
続く図5のステップS201では、CPU21は、更新タイミングが到来すると、ステップS202に進む。ステップS202では、CPU21は、新たに測定部により出力された測定値Sを把持中測定値SBとして取得する。
【0044】
ステップS203では、CPU21は、ステップS202で取得された把持中測定値SBが所定範囲内である(TH0’≦SB≦TH1’が成立する)か否かを判別する。そしてCPU21は、把持中測定値SBが所定範囲内である場合は、ステップS210で、非把持状態と判定し、フラグを「0」に設定して(例えば、図3の時点t40)、本処理を終了する。この場合、図3でいうと時点t10以前の状態に戻る。なお、ステップS106以降、ステップS210で非把持状態と判定されるまでの期間は、把持状態であるという判定の継続中の期間である。
【0045】
一方、把持中測定値SBが所定範囲外である場合は、CPU21は、ステップS204に進み、把持中測定値SBが更新用閾値TH0’未満または追加更新閾値TH0”未満である(SB<[TH0’またはTH0”]が成立する)か否かを判別する。
【0046】
把持中測定値SBが更新用閾値TH0’未満または追加更新閾値TH0”未満である場合は、CPU21は、ステップS209に進み、測定部、記憶部25、上記取得部または上記更新部の少なくともいずれかの異常と判定する。ステップS213では、CPU21は、ステップS112と同様の報知処理を実行し、本処理を終了する。すなわちCPU21は、異常を知らせるための報知処理等として、例えば、異常がある旨を表示部27に表示させたり、音声メッセージを発音したりする。一方、把持中測定値SBが更新用閾値TH0’未満または追加更新閾値TH0”未満でない場合は、CPU21は、把持中測定値SBが上限値TH1’またはTH1”を超えており、把持状態が継続していると判断できるので、ステップS205に進む。
【0047】
ステップS205では、CPU21は、把持中測定値SBの前回値と今回値との差分Dを取得する。例えば、今回が時点t13であれば、時点t12で取得された把持中測定値SBと時点t13で取得された把持中測定値SBとの差分Dが取得される。差分Dは「差分D=今回値-前回値」により算出される。従って、差分Dは、前回値に対して今回値が大きい場合に符号がプラスとなる量である。
【0048】
ステップS206では、CPU21は、差分Dの絶対値が移動判定閾値TH2より大きい(移動判定閾値TH2<|差分D|が成立する)か否かを判別する。そして、移動判定閾値TH2<|差分D|が成立しない場合(例えば、時点t13、t14)は、CPU21は、ステップS207に進み、移動判定閾値TH2<|差分D|が成立する場合(例えば、時点t15、t18)は、ステップS211に進む。
【0049】
ステップS211では、CPU21は、把持位置の移動が生じたと判定すると共に、差分Dを変化量(時点t15では変化量Δ2、時点t18では第2変化量Δ3)として取得する。さらにCPU21は、把持中測定値SBから、増加量Δ1および変化量Δ2を差し引いた値を追加更新用閾値TH0”として決定する。すなわち、CPU21は、「追加更新用閾値TH0”=把持中測定値SB-(増加量Δ1+変化量)」の演算によって、追加更新用閾値TH0”を算出・決定する。第2変化量Δ3が取得されている場合は、「追加更新用閾値TH0”=把持中測定値SB-(増加量Δ1+変化量Δ2+第2変化量Δ3)」の演算式を用いる。
【0050】
例えば、今回が時点t18であるとすると、把持状態と判定された後に時点t15で取得された変化量Δ2および時点t18で取得された変化量Δ3が記憶されている。従って、上記演算において、「変化量」には、時点t15で取得された変化量Δ2と今回の時点t18で取得された第2変化量Δ3との合算値が適用される。あるいは、今回が時点t15であるとすると、把持状態と判定された後に取得され記憶されている変化量は存在しない。従って、上記演算において、「変化量」には、今回の時点t15で取得された変化量Δ2だけが適用される。
【0051】
ステップS212では、CPU21は、記憶部25に記憶された更新用閾値TH0’を、ステップS211で決定した追加更新用閾値TH0”に更新すると共に、「TH1”=TH0”+α」により上限値TH1”も更新する。その結果、所定範囲も更新される。その後、CPU21は、本処理を終了する。
【0052】
ステップS207では、CPU21は、把持中測定値SBから、増加量Δ1および、既に記憶されている変化量を差し引いた値を追加更新用閾値TH0”として決定する。すなわち、CPU21は、「追加更新用閾値TH0”=把持中測定値SB-(増加量Δ1+変化量)」の演算によって、追加更新用閾値TH0”を算出・決定する。
【0053】
例えば、今回が時点t13であるとすると、把持状態と判定された後に取得され記憶されている変化量は存在しない。従って、上記演算において、「変化量」には、ゼロが適用される。あるいは、今回が時点t16であるとすると、時点t15で取得され記憶された変化量が1つ存在する。従って、上記演算において、「変化量」には、時点t15で取得され記憶された変化量Δ2が適用される。
【0054】
ステップS208では、CPU21は、記憶部25に記憶された更新用閾値TH0’を、ステップS207で決定した追加更新用閾値TH0”に更新すると共に、「TH1”=TH0”+α」により上限値TH1”も更新する。その結果、所定範囲も更新される。その後、CPU21は、本処理を終了する。
【0055】
本実施の形態によれば、測定値Sが基準閾値TH0を基準とする所定範囲内/所定範囲外となった場合は、それぞれ、非把持状態/把持状態であると判定される。把持状態であると判定された場合、増加測定値SAおよび増加量Δ1に基づいて更新用閾値TH0’が決定され、基準閾値TH0が、上記決定した更新用閾値TH0’に更新される(S109、S110)。そして、所定範囲(TH0’、TH1’)が更新される。
【0056】
増加量Δ1は、最後に出力された測定値Sを基準とした増加測定値SAの増加分であるので、温度や湿度等の外乱による静電容量の変化が補償される。よって、外乱による静電容量の変化が起こったとしても、把持・非把持状態の判定を精度よく行うことができる。
【0057】
また、温度や湿度等の外乱による静電容量の変化を補償する上で、温度センサや湿度センサを設ける必要がない。
【0058】
また、把持状態の判定継続中に、把持中測定値SBの前回値と今回値との差分Dが取得される。そして、把持状態であるという判定の継続中に、差分Dが移動判定閾値TH2を超えた場合は、把持位置の移動が生じたと判定され、そのときの差分Dが変化量として取得され、把持中測定値SBと増加量Δ1と変化量とに基づいて追加更新用閾値TH0”が決定される。例えば、差分Dの絶対値が移動判定閾値TH2より大きくなった場合は、把持中測定値SBと増加量Δ1と変化量とに基づいて追加更新用閾値TH0”が決定される(S211)。把持中測定値SBに基づくことで、温度等の外乱による測定値の経時変化に追従することができる。変化量に基づくことで、手の移動等による測定値Sの急変に対応することができる。よって、適切な所定範囲(閾値範囲)を設定することができる。
【0059】
特に、把持状態の判定継続中に、絶対値が移動判定閾値TH2より大きな差分Dが複数回取得された場合は、把持中測定値SBから増加量Δ1および複数の差分Dを差し引いた値が追加更新用閾値TH0”として決定される。これにより、把持状態の判定継続中における複数回の手の移動等に対応して、適切な所定範囲(閾値範囲)を設定することができる。
【0060】
また、差分Dの絶対値が移動判定閾値TH2より一度も大きくならなかった場合は、実質的に、把持中測定値SBと増加量Δ1とに基づいて追加更新用閾値TH0”が決定される(S207)。これにより、温度等の外乱による測定値の経時変化に追従して、適切な所定範囲(閾値範囲)を設定することができる。
【0061】
また、測定値Sまたは把持中測定値SBが基準閾値TH0、更新用閾値TH0’、または追加更新用閾値TH0”未満となったときに、測定部、記憶部25、上記取得部または上記更新部の少なくともいずれかの異常と判定され、報知される。これにより、誤判定が抑制される。
【0062】
また、把持状態から非把持状態に移行した後、さらに把持状態に移行したとき、増加量Δ1は新たに取得される(S210→S101→→S108)。これにより、測定値Sの経時変化に追従した値で、次の非判定状態時における所定範囲(閾値範囲)を設定することができる。
【0063】
なお、ステップS109において、「更新用閾値TH0’=増加測定値SA-増加量Δ1」における増加量Δ1は、増加量Δ1そのものでなくてもよい。例えば、増加量Δ1に応じた値(例えば、増加量Δ1よりも所定値または所定割合だけ小さい値)を適用してもよい。同様に、ステップS207、S211における演算においても、増加量Δ1そのものでなく増加量Δ1に応じた値を適用してもよい。
【0064】
なお、把持状態の判定継続中においても、更新タイミングにかかわらず、常時監視される測定値Sに基づいて把持・非把持を判定してもよい。
【0065】
なお、装置の起動後、把持・非把持判定を実施するか否かを、操作部26による操作指示により指定できるようにしてもよい。
【0066】
以上、本技術をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本技術はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この技術の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本技術に含まれる。
【0067】
本技術は、上記した実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワークや非一過性の記憶媒体を介してシステムや装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータの1以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能である。以上のプログラムおよび以上のプログラムを記憶する記憶媒体は、本技術を構成する。また、本技術は、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0068】
21 CPU、 25 記憶部、 28 基板、 92 ステアリングホイール、 100 ステアリングスイッチ装置、 TH0 基準閾値、 TH1 上限値、 S 測定値、 SA 増加測定値、 Δ1 増加量
図1
図2
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図5