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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048052
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】δセクレターゼ活性阻害用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240401BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240401BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240401BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20240401BHJP
   A23L 2/02 20060101ALN20240401BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20240401BHJP
   A61K 36/73 20060101ALN20240401BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P43/00 111
A61P25/28
A61K31/7048
A23L2/02 A
A23L2/00 F
A61K36/73
A61K131:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153886
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】594141451
【氏名又は名称】有限会社中垣技術士事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 拓也
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD08
4B018MD52
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LG05
4B117LK06
4B117LP01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC20
4C088AB51
4C088AC04
4C088BA07
4C088BA14
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA15
4C088ZA16
(57)【要約】
【課題】本発明は、δセクレターゼ活性阻害用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】ケルセチン配糖体及びその代謝物を含む、δセクレターゼ活性阻害用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケルセチン配糖体及びその代謝物を含む、δセクレターゼ活性阻害用組成物。
【請求項2】
前記ケルセチン配糖体が、ケルセチン-3-O-ルチノシド、ケルセチン-3-O-ガラクトシド、及びケルセチン-3-O-グルコシドからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
【請求項3】
認知機能低下の抑制用の、請求項1に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
【請求項4】
脳内アミロイドベータ(Aβ)タンパク質の異常蓄積を示す対象に適用する、請求項1又は2に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
【請求項5】
食品である、請求項1に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
【請求項6】
飲料である、請求項1に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、δセクレターゼ活性阻害用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は神経変性疾患の一種であり、記憶や思考に障害が生じる疾患である。アルツハイマー病の発症の仮説の1つであるアミロイド仮説では、大脳に蓄積したアミロイドベータ (Aβ)タンパク質が神経細胞毒性のカスケードを引き起こし、それによって神経変性とアルツハイマー病が引き起こされると考えられている。アルツハイマー病の早期予防のためには、機能性成分を含む食事の摂取が重要である。
【0003】
アロニア(Aronia melanocarpa)はバラ科の植物であり、アロニアの果実はヨーロッパではメディカルフルーツとして知られている。これまでに、アロニア果汁の健康に対する有益な効果については多くの研究がなされている(非特許文献1、非特許文献2)。しかし、アロニア果汁の神経変性疾患に対する効果については未だ不明な点が多く残されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】山根拓也,“7.アロニア含有バイオファクターによる疾病予防の可能性”, ビタミン, 2019, 93(9): 418-419.
【非特許文献2】森本亮祐, 阪上綾, 中垣剛典, 隅谷栄伸, 伊勢川裕二, “アロニアに含まれる黄色ブドウ球菌に対する増殖抑制成分の検索”, 日本栄養・食糧学会誌, 2018, 71(4): 161-166.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、δセクレターゼ活性阻害用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、ケルセチン配糖体及びその代謝物を含むδセクレターゼ活性阻害用組成物であれば上記課題を解決できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてさらに鋭意検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を包含する。
項1.
ケルセチン配糖体及びその代謝物を含む、δセクレターゼ活性阻害用組成物。
項2.
前記ケルセチン配糖体が、ケルセチン-3-O-ルチノシド、ケルセチン-3-O-ガラクトシド、及びケルセチン-3-O-グルコシドからなる群より選択される少なくとも一種である、項1に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
項3.
認知機能低下の抑制用の、項1に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
項4.
脳内アミロイドベータ (Aβ) タンパク質の異常蓄積を示す対象に適用する、項1又は2に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
項5.
食品である、項1に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
項6.
飲料である、項1に記載のδセクレターゼ活性阻害用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ケルセチン配糖体及びその代謝物を含むδセクレターゼ活性阻害用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本研究における実験のスケジュールを示す図である。
図2】Y経路試験結果を示す図である。値は平均±S.E.を示す。WT;野生型、FAD;FAD群、FAD+アロニア;アロニア群、**p<0.01。
図3】Aβ蓄積の観察結果を示す図である。値は平均±S.E.を示す。FAD;FAD群、FAD+アロニア;アロニア群。
図4】大脳におけるδセクレターゼ活性を調べた結果を示す図である。縦軸は、δセクレターゼ活性 (%) を示す。値は平均±S.E.を示す。WT;野生型、FAD;FAD群、FAD+アロニア;アロニア群。
図5】細胞内のδセクレターゼ活性を調べた結果を示す図である。縦軸は、δセクレターゼ活性 (%) を示す。値は平均±S.E.を示す。**p<0.01。
図6】(A) アロニア果汁画分1~5が細胞内のδセクレターゼ活性に与える影響を調べた結果を示す図である。(B) アロニア果汁画分5が細胞内のδセクレターゼ活性に与える影響を調べた結果を示す図である。縦軸は、δセクレターゼ活性 (%) を示す。
図7】LC-MSの結果を示す図である。*p<0.05、**p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1. 本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物
本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物は、ケルセチン配糖体を含有する。
【0010】
ケルセチン配糖体は、以下の構造式を有する公知の化合物であり、例えば、アロニア、ブルーベリー、コリアンダー、ゴツコラ、セントジョーンズワート等に含まれることが知られている。本発明において、ケルセチン配糖体は、アロニア由来であることが好ましい。
【0011】
【化1】
(式中、R1、R2、又はR3のうち少なくとも1つが糖に置換される。)
【0012】
上記糖としては、特に制限されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、ラムノース、ルチノース等が挙げられる。
【0013】
ケルセチン配糖体としては、例えば、ケルセチン-3-O-ルチノシド (ルチン)、ケルセチン-3-O-ガラクシド (ヒペロシド)、ケルセチン-3-O-グルコシド (イソケルセチン)、ケルセチン-3-O-ラムノシド (ケルシトリン)、ケルセチン-4’-O-β-グルコシド (Q4’G)、ケルセチン-3,4’-O-β-ジグルコシド (Q3,4’diG)等が挙げられる。
【0014】
ケルセチン配糖体の代謝物としては、例えば、ケルセチン配糖体の血中代謝物、消化管内代謝物の両方が挙げられる。
【0015】
本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物は、ケルセチン配糖体及びその代謝物からなる群より選択される少なくとも一種からなるものであってもよいし、本発明の効果を損なわない限りケルセチン配糖体及びその代謝物以外の成分を含有してもよい。つまり、本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物は、ケルセチン配糖体及びその代謝物からなる群より選択される少なくとも一種が100重量%からなるものであってもよいし、また本発明の効果を損なわない限り他の成分を含有するものであってもよい。他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば0.01~99.99重量%、好ましくは0.1~99.9重量%が例示できる。他の成分としては、食品衛生学的に許容される基剤、担体、添加剤等が例示でき、さらに詳細には後述する成分が例示できる。なお、本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物のケルセチン配糖体及びその代謝物からなる群より選択される少なくとも一種の含有量は、特に、好ましくは0.00001重量%以上、より好ましくは0.0001重量%以上、さらに好ましくは0.001重量%以上、より更に好ましくは0.005重量%以上である。また、本発明の一態様において、本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物のケルセチン配糖体及びその代謝物からなる群より選択される少なくとも一種の含有量の上限は例えば100重量%であり、その下限は例えば0.01重量%、0.1重量%、1重量%、2重量%、5重量%、10重量%、20重量%、40重量%、60重量%、又は80重量%である。本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物におけるδセクレターゼ活性阻害の有効成分100重量%に対する、ケルセチン配糖体及びその代謝物からなる群より選択される少なくとも一種の含有量の割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、又は99重量%以上である。
【0016】
本発明の組成物の形態は、特に限定されず、本発明の組成物の用途に応じて、各用途において通常利用される形態をとることができる。
【0017】
本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物を投与する又は摂取させる対象としては、健常人であってもよく、認知機能が低下した対象であってもよい。健常人には認知機能低下の予防のため、認知機能が低下した対象には認知機能の更なる低下の防止、認知機能の維持、又は認知機能の改善のため、本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物を投与する又は摂取させることができる。本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物を投与する又は摂取させる対象は、認知機能が低下した対象が好ましい。
【0018】
認知機能が低下した対象としては、脳内アミロイドベータ (Aβ) タンパク質の異常蓄積を示すという属性を有する対象が好ましい。
【0019】
上記属性を決定する方法は、脳内アミロイドベータ (Aβ) タンパク質の異常蓄積を示すことができる公知の方法であれば特に限定されず、例えば、脳脊髄液中のβ-アミロイド1-42とβ-アミロイド1-40の比(β-アミロイド1-42/1-40比)、脳内Aβ沈着量、血漿Aβ Composite Biomarker等を指標とすることができる。
脳脊髄液中のβ-アミロイド1-42/1-40比を指標とする場合、脳脊髄液中のβ-アミロイド1-42/1-40比が0.0001以上、好ましくは0.0005以上、より好ましくは0.001以上、さらに好ましくは0.005以上の範囲である場合に、認知機能が低下した対象が脳内アミロイドベータ (Aβ) タンパク質の異常蓄積を示すという属性を有すると決定される。
また、脳内Aβ沈着量を指標とする場合、アミロイドPET (Positron Emission Tomography; 陽電子放出撮影法) 検査により脳内Aβ沈着を検出し、認知機能が低下した対象における脳内Aβ沈着量が認知機能が正常な対象の脳内Aβ沈着量に比べて1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは1.4倍以上である場合に、認知機能が低下した対象が脳内アミロイドベータ (Aβ) タンパク質の異常蓄積を示すという属性を有すると決定される。
さらに、血漿Aβ Composite Biomarkerを指標とする場合、IP-MS (Immuno Precipitation-mass spectrometry) 法で測定した血漿中のAPP669-711/Aβ1-42比とAβ1-40/Aβ1-42比を組み合わせた血漿Aβバイオマーカー値がポジティブな場合に、認知機能が低下した対象が脳内アミロイドベータ (Aβ) タンパク質の異常蓄積を示すという属性を有すると決定される。
【0020】
上記属性を有する対象としては、アルツハイマー病患者等が例示される。
【0021】
また、本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物は、人のみならず、健常な動物、又は認知機能低下の症状を呈する動物(特にペット及び家畜)も投与/摂取対象に含まれる。動物としては、例えばイヌ、ネコ、サル、マウス、ラット、ハムスター、牛、馬、豚、羊等が例示できる。
【0022】
本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物の投与形態としては、特に経口投与が好適である。
【0023】
本発明のδセクレターゼ活性阻害用組成物の投与又は摂取量は、適宜設定することができる。当該剤中のケルセチン配糖体量は、好ましくは成人一日あたり10~1,000 mg、より好ましくは20~500 mgの範囲、さらに好ましくは30~300 mgの範囲となる量を目安とすることができる。なお、1日1回又は複数回(例えば、好ましくは2~3回)に分けて投与又は摂取することができる。
【0024】
本発明の特徴の一つは、ケルセチン配糖体及びその代謝物からなる群より選択される少なくとも一種を投与する又は摂取させることにより認知機能の低下が抑制される点にある。認知機能の低下の抑制とは、認知機能の低下速度を抑制すること、認知機能を維持すること、認知機能を正常の認知機能により近い状態に改善することを含む。具体的には、認知機能の低下の抑制とは、例えば大脳におけるAβタンパク質の増加又は蓄積を抑制することを意味する。よって、本発明は、認知機能低下の抑制に用いるためのδセクレターゼ活性阻害用組成物を包含する。
【0025】
δセクレターゼ活性阻害は、上記の特徴(認知機能低下の抑制)に直接的に又は間接的に働く。また、上記の特徴(認知機能低下の抑制)は、δセクレターゼ活性阻害に直接的に又は間接的に働く。
【0026】
本発明の組成物を食品添加剤として用いる場合、本発明の組成物は、ケルセチン配糖体そのものであってもよいし、これと食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品添加剤として利用され得る成分・材料が適宜配合されたものでもよい。また、このような食品添加剤の形態としては、例えば液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状のものが挙げられるがこれらに限定されない。具体的には、調味料(醤油、ソース、ケチャップ、ドレッシング等)、フレーク(ふりかけ)、焼き肉のたれ、スパイス、ルーペースト(カレールーペースト等)等が例示できる。このような食品添加剤は、常法に従って適宜調製することができる。
【0027】
このような本発明に係る食品添加剤は、該食品添加剤が添加された食品を食べることにより摂取される。なお、当該添加は食品調理中又は製造中に行ってもよいし、調理済みの食品を食べる直前又は食べながら行ってもよい。当該食品添加剤はこのようにして経口摂取することにより、δセクレターゼ活性阻害効果、及び/又は認知機能低下の抑制効果を発揮する。なお、本発明に係る食品添加剤のケルセチン配糖体の一日摂取量、摂取対象、ケルセチン配糖体及び他の成分の含有量等の条件は、上述したのと同様であることが好ましい。
【0028】
本発明の組成物をδセクレターゼ活性阻害用、及び/又は認知機能低下の抑制用の飲食品として用いる場合、当該組成物(以下「本発明に係る飲食品」と記載することがある)は、ケルセチン配糖体と、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料等が適宜配合されたものである。ケルセチン配糖体が配合されてなるδセクレターゼ活性阻害用飲食品、又は認知機能低下抑制用飲食品ということもできる。例えば、ケルセチン配糖体を含む、δセクレターゼ活性阻害用、及び/又は認知機能低下の抑制用の加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等が例示できる。具体的な形態としては、タブレット剤、カプセル剤、ドリンク剤等が例示される。中でも、飲料が好ましい。
【0029】
健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、又はサプリメントとして、本発明に係る飲食品を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態で調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましい。ただし、特にこれらに限定されるものではない。顆粒、カプセル、錠剤等の形態の当該飲食品からなるδセクレターゼ活性阻害剤は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0030】
本発明に係る飲食品のケルセチン配糖体の摂取量、摂取対象、ケルセチン配糖体及び他の成分の含有量等は、例えば上述したのと同様であることが好ましい。
【0031】
2. 本発明の飲料
本発明の飲料は、ケルセチン配糖体及びその代謝物を含むδセクレターゼ活性阻害用組成物を含む。
【0032】
本発明の飲料に含まれるケルセチン配糖体の摂取量、摂取対象、ケルセチン配糖体及び他の成分の含有量等は、例えば上述したのと同様であることが好ましい。
【実施例0033】
実施例1:アルツハイマー病モデルマウスへのアロニア果汁の経口投与
本研究には、アルツハイマー病モデルマウスである、家族性アルツハイマー病 (familial Alzheimer’s disease: FAD) 変異を5種含む (2つのFAD変異、すなわちM146L及びL286Vを含むヒトPS1、並びに、スウェーデン型(K670N、M671L)、フロリダ型(I1716V)、及びロンドン型(V717I)FAD変異を有する変異型ヒトAPPを過剰発現する) 5xFADトランスジェニックマウス (5xFAD Tgマウス) を用いた。2週齢の5xFAD TgマウスをFAD群とアロニア群に分け (各群5匹)、FAD群のマウスには水を、アロニア群のマウスには水の代わりにアロニア果汁 (中垣技術士事務所製) を、3か月間それぞれ自由摂取させた (図1)。この間、両群のマウスに通常の食事 (CE-2 diet) を与えた。
【0034】
実施例2:Y迷路試験
アロニア果汁による認知機能の改善を検証するために、実施例1のマウスを用いてY迷路試験を行った。Y迷路試験は、マウスがY迷路内を進路探索 (自発的交替行動) する際に、直前に入ったアームとは異なるアームに入ろうとする習性を利用した試験であり、この試験により認知能力を測定することができる。具体的には、自発的交替行動の割合が高いほど認知能力が高く、自発的交替行動の割合が低いほど認知能力が低いと判断することができる。
【0035】
<Y迷路試験>
Y迷路は灰色のアクリルプラスチック製の3本のアーム (40 cm×10 cm×2 cm) から構成される。マウスにY迷路を10分間探索させた後、Y迷路の中央にマウスを置いて試験を開始した。8分間マウスに3本のアームを自由に探索させ、その間の動きをビデオカメラで撮影し、アームへの進入回数に基づき自発的交替行動の割合 (%) を算出した。Y迷路試験は、野生型 (WT)、FAD群 (FAD)、アロニア群 (FAD+アロニア) の3群のマウスを用いて行った。
【0036】
結果を図2に示す。FAD群の自発的交替行動の割合は野生型に比べて有意に減少した一方で、アロニア群の自発的交替行動の割合はFAD群に比べて有意に増加し、野生型と同程度であった。この結果から、アロニア果汁の摂取により、アルツハイマー病における認知機能の低下が抑制されることが示された。
【0037】
実施例3:大脳におけるアミロイドベータ (Aβ) 蓄積の観察
アロニア果汁による大脳におけるAβ蓄積の改善を検証するために、抗Aβ抗体を用いて免疫組織化学染色を行い、組織を観察した。
【0038】
<免疫組織化学染色>
実施例1に記載の方法で95日間飼育したマウスをイソフルランで麻酔し、大脳を取り出した。大脳を10%中性緩衝ホルマリンに漬けた後、脱水し、パラフィンで包埋した。5 μmの厚さの切片を作製し、脱パラフィンし、再水和した。水和した切片を3%過酸化水素/メタノール溶液でブロッキングした。各切片をPBS中で抗Aβ抗体 (1:500) を用いて4℃で一晩インキュベートした。翌日、各切片をPBSで洗浄し、二次抗体を用いて室温で30分間インキュベートした。基質反応後、これらの切片を顕微鏡 (MZ-9300、キーエンス社製) で観察した。
【0039】
結果を図3に示す。FAD群 (FAD)のAβ蓄積に比べて、アロニア群 (FAD+アロニア)のAβ蓄積は減少した。この結果から、アロニア果汁の摂取により、アルツハイマー病の大脳におけるAβ蓄積が抑制されることが示された。
【0040】
実施例4:δセクレターゼ活性測定
Aβ蓄積には、δセクレターゼという酵素によるアミロイド前駆体タンパク質 (APP) の分解により生じることが知られている。アロニア果汁によるδセクレターゼ活性阻害を検証するために、野生型 (WT)、FAD群 (FAD)、及びアロニア群 (FAD+アロニア)の3群のマウスにおける脳内のδセクレターゼ活性を測定した。
【0041】
<δセクレターゼ活性測定>
δ-セクレターゼの酵素活性は、10 mM Z-Ala-Ala-Asn-MCA 10 μl、pH 5.0の0.5 Mクエン酸ナトリウム緩衝液 100 μl、1 M 2-メルカプトエタノール 5 μl、脳組織及び細胞ライセート 100 μg、並びに蒸留水 (18 mΩ) を含む混合物中の総量 1 ml中の遊離アミノメチルクマリン (AMC) の蛍光数 (励起; 380 nm、発光; 440 nm) を測定することによって調べた。混合物を37℃で30分間インキュベートした後、2 mlの0.2 M酢酸を加えて反応を停止させた。活性の1 単位は、1分あたり1 μmolの基質を加水分解する酵素の量として定義した。
【0042】
結果を図4に示す。FAD群のδセクレターゼ活性は野生型に比べて増加した一方で、アロニア群のδセクレターゼ活性はFAD群に比べて減少し、野生型と同程度であった。この結果から、アロニア果汁の摂取により、アルツハイマー病におけるδセクレターゼ活性の増加が抑制されることが示された。
【0043】
次に、アロニア果汁によるδセクレターゼ活性阻害を細胞レベルで検証するため、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いた細胞生存率試験を行い、細胞内のδセクレターゼ活性を測定した。
【0044】
<細胞培養>
ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞は、10%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むD-MEM/F-12培地 (ナカライテスク株式会社製)で5%CO2、37℃で培養した。
【0045】
<細胞生存率測定>
Cell Counting Kit-8 (株式会社同仁化学研究所性) を用いて、細胞生存率を測定した。
【0046】
結果を図5に示す。アロニア果汁の濃度依存的にδセクレターゼ活性が減少した。
【0047】
実施例5:δセクレターゼ活性阻害物質の同定
アロニア果汁に含まれるδセクレターゼ活性阻害物質を同定するために、アロニア果汁を分画し、逆相高速液体クロマトグラフィーで分離後、質量分析計を用いた解析を行った。
【0048】
<アロニア果汁の分画>
アロニア果汁は、ワコーゲル (登録商標) 50C18カラム (富士フイルム和光純薬株式会社製) を用いて分画した。アロニア果汁300 mLを0.1%ギ酸水溶液 (溶媒A) で事前に平衡化したカラムに供し、カラムを溶媒Aで十分に洗浄した後、メタノール濃度を段階的に増加させることにより、吸着された化合物をカラムから溶出した (メタノール:溶媒A=10、20、30、40、及び50% (v/v))。各溶出液を回収し、蒸発させ、それぞれ画分1~5を得た。画分を秤量し、0.1%ギ酸を含む12.5%又は25%メタノール水溶液で最終濃度1~10 mg/mLになるように溶解した。
【0049】
得られた各画分 (画分1~5) について、上記と同様の方法で、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いた細胞生存率試験を行い、細胞内のδセクレターゼ活性を測定した。
【0050】
結果を図6に示す。画分5においてδセクレターゼ活性が有意に減少した。この結果から、δセクレターゼ活性阻害物質が画分5に含まれていることが示唆された。
【0051】
<液体クロマトグラフィー及び質量分析 (Liquid chromatography-mass spectrometry; LC-MS)>
活性画分 (画分5: F5) を、0% B (100% A) で事前に平衡化したInertSustain (登録商標) C18カラム (2.1 mm×150 mm、ジーエルサイエンス株式会社製) を用いて精製した。カラムは、0% Bで0-5分、0-70% Bで5-35分、及び70-100% Bで35-35.1分の勾配で、0.25 ml/分の流速で展開された。カラム温度は40℃に制御した。スプレー電圧は4 kVで、キャピラリー温度は320℃であった。溶出液の質量スペクトルは、ポジティブイオンモードでm/z150~1000の間で記録した。イオン強度が上位5位のイオンピークをデータ依存的にMS/MS測定した。デュアルUHPLCポンプ (Vanquish、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製) および orbitrap (登録商標) 質量分析計 (Q-Exactive、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製) を使用した。データ分析には、Compound Discoverer 3.1ソフトウェア (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製) を用いた。
【0052】
結果を図7に示す。画分5には、ケルセチン配糖体である、ケルセチン-3-O-ルチノシド (ルチン)、ケルセチン-3-O-ガラクシド (ヒペロシド)、及びケルセチン-3-O-グルコシド (イソケルセチン) が含まれることが分かった。
【0053】
以上の結果から、アロニア果汁に含まれるケルセチン配糖体がδセクレターゼ活性阻害を介して認知能力の低下を抑制することが示された。
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図7