(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048068
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/295 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
H01B7/295
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153915
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千華
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 丈
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】堀 賢治
(72)【発明者】
【氏名】福本 遼太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
【テーマコード(参考)】
5G315
【Fターム(参考)】
5G315CA03
5G315CB02
5G315CD02
5G315CD14
(57)【要約】
【課題】ハロゲン系難燃剤を積極的に添加せず、かつ難燃性に優れた電線を提供する。
【解決手段】導体と、
前記導体の外表面を覆う、第一絶縁層を含む絶縁層と、を有しており、
前記第一絶縁層は、ポリオレフィン系樹脂、三酸化アンチモン、および金属水酸化物、を含み、かつ前記三酸化アンチモンを、前記ポリオレフィン系樹脂に対して75質量%以上の割合で含んでおり、
前記絶縁層は、ハロゲン系難燃剤を含まない電線。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外表面を覆う、第一絶縁層を含む絶縁層と、を有しており、
前記第一絶縁層は、ポリオレフィン系樹脂、三酸化アンチモン、および金属水酸化物、を含み、かつ前記三酸化アンチモンを、前記ポリオレフィン系樹脂に対して75質量%以上の割合で含んでおり、
前記絶縁層は、ハロゲン系難燃剤を含まない電線。
【請求項2】
前記導体の断面積が0.025mm2以上0.26mm2以下である請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記絶縁層は、前記導体と前記第一絶縁層との間に配置された、第二絶縁層を有しており、
前記第二絶縁層は、三酸化アンチモンを含まない請求項1に記載の電線。
【請求項4】
前記導体の断面積が0.07mm2以上5.3mm2以下である請求項3に記載の電線。
【請求項5】
前記第一絶縁層の厚さが、前記第二絶縁層の厚さよりも薄い請求項3に記載の電線。
【請求項6】
前記第一絶縁層の厚さが0.1mm以上0.15mm以下である請求項3に記載の電線。
【請求項7】
UL規格で規定される垂直燃焼試験に合格する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電線。
【請求項8】
前記絶縁層は、121℃で、2.45Nの荷重を加えて、1時間保持した場合の加熱変形残率が50%以上である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電線に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エチレン系共重合体を主体とする樹脂成分100質量部に対し、ポリブロモフェニルエーテル及びポリブロモビフェニールを除く臭素系難燃剤15~80質量部、三酸化アンチモン10~70質量部および金属水和物10~60質量部を含む樹脂組成物が導体の周りに被覆されており、当該被覆樹脂が架橋されていることを特徴とする難燃性絶縁電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年環境問題への関心が特に高まっている。このため、燃焼等させた場合に有害なガスが発生することを防止する観点から、ハロゲン化合物の含有量を抑制した電線が求められていた。
【0005】
しかしながら、従来からハロゲン化合物は難燃剤等に用いられているため、ハロゲン系難燃剤であるハロゲン化合物を積極的に添加することなく、難燃性に優れた電線とすることは困難であった。
【0006】
そこで、本開示は、ハロゲン系難燃剤を積極的に添加せず、かつ難燃性に優れた電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電線は、導体と、
前記導体の外表面を覆う、第一絶縁層を含む絶縁層と、を有しており、
前記第一絶縁層は、ポリオレフィン系樹脂、三酸化アンチモン、および金属水酸化物、を含み、かつ前記三酸化アンチモンを、前記ポリオレフィン系樹脂に対して75質量%以上の割合で含んでおり、
前記絶縁層は、ハロゲン系難燃剤を含まない。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ハロゲン系難燃剤を積極的に添加せず、かつ難燃性に優れた電線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一態様に係る電線の長手方向と垂直な面での断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の他の態様に係る電線の長手方向と垂直な面での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0012】
(1)本開示の一態様に係る電線は、導体と、
前記導体の外表面を覆う、第一絶縁層を含む絶縁層と、を有しており、
前記第一絶縁層は、ポリオレフィン系樹脂、三酸化アンチモン、および金属水酸化物、を含み、かつ前記三酸化アンチモンを、前記ポリオレフィン系樹脂に対して75質量%以上の割合で含んでおり、
前記絶縁層は、ハロゲン系難燃剤を含まない。
【0013】
第一絶縁層が、三酸化アンチモンをポリオレフィン系樹脂に対して75質量%以上の割合で含有することで、電線の難燃性を特に高められる。
【0014】
また、絶縁層が、ハロゲン系難燃剤を含まないことで、電線に含まれるハロゲン化合物を抑制し、電線を燃焼等させた場合に有害なガスが発生することを抑制できる。
【0015】
(2) 上記(1)において、前記導体の断面積が0.025mm2以上0.26mm2以下であってもよい。
【0016】
導体断面積を0.025mm2以上とすることで、十分大きな導体断面積とすることができ、各種用途に使用できる電線とすることができる。また、導体断面積を0.26mm2以下とすることで、電線の外径を抑制し、取り扱い性に優れた電線とすることができる。
【0017】
(3) 上記(1)において、前記絶縁層は、前記導体と前記第一絶縁層との間に配置された、第二絶縁層を有しており、
前記第二絶縁層は、三酸化アンチモンを含まない。
【0018】
用途によっては、電線の外径である電線径を太く、絶縁層を厚くすることが求められる場合がある。しかし、上記第一絶縁層のみで絶縁層を構成し、電線径を太くすると、該電線を高温環境下に長期間に渡って配置すると、絶縁層の可撓性が低下する場合がある。これに対して、絶縁層がさらに、三酸化アンチモンを含まない第二絶縁層を有することで、電線を高温環境下に長期間に渡って配置した場合でも、絶縁層の可撓性の低下を抑制できる。
【0019】
(4) 上記(3)において、前記導体の断面積が0.07mm2以上5.3mm2以下であってもよい。
【0020】
導体断面積を0.07mm2以上とすることで、十分大きな導体断面積とすることができ、各種用途に使用できる電線とすることができる。また、導体断面積を5.3mm2以下とすることで、電線の外径を抑制し、取り扱い性に優れた電線とすることができる。
【0021】
(5) 上記(3)または(4)において、前記第一絶縁層の厚さが、前記第二絶縁層の厚さよりも薄くてもよい。
【0022】
第一絶縁層の厚さを、第二絶縁層の厚さよりも薄くすることで、絶縁層に占める第二絶縁層の割合を高くし、電線を高温環境下に長期間に渡って配置した場合に、絶縁層の可撓性の低下を特に抑制できる。
【0023】
(6) 上記(3)から(5)のいずれかにおいて、前記第一絶縁層の厚さが0.1mm以上0.15mm以下であってもよい。
【0024】
第一絶縁層の厚さを0.1mm以上とすることで、絶縁層の難燃性を高められる。第一絶縁層の厚さを0.15mm以下とすることで、電線の可撓性を高められる。
【0025】
(7) 上記(1)から(6)のいずれかにおいて、UL規格で規定される垂直燃焼試験に合格する電線であってもよい。
【0026】
UL規格で規定される垂直燃焼試験(VW-1)に合格することで、難燃性に優れた電線にできる。
【0027】
(8) 上記(1)から(7)のいずれかにおいて、前記絶縁層は、121℃で、2.45Nの荷重を加えて、1時間保持した場合の加熱変形残率が50%以上であってもよい。
【0028】
加熱変形残率が50%以上の絶縁層とすることで、荷重を加えながら加熱した場合でも変形しにくい絶縁層であることを意味し、耐熱性に優れた絶縁層を有する電線とすることができる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る電線の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許の請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
[電線]
図1、
図2に、本実施形態の電線の長手方向と垂直な断面の構成例を示す。
図1、
図2における紙面と垂直な方向が電線の長手方向になる。
図2は、本実施形態の電線の変形例であることから、主に
図1を用いて本実施形態の電線を説明し、必要に応じて
図2を用いて説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の電線10は、導体11と、導体11の外表面を被覆する、第一絶縁層121を含む絶縁層12とを有することができる。
(1)電線が含有する各部材について
本実施形態の電線が含有する各部材について説明する。
(1-1)導体
導体11の材料は特に限定されないが、例えば銅合金、銅、錫めっき軟銅から選択された1種類以上の導体材料を用いることができる。銅としては軟銅を好適に用いることができる。例えば導体11の伸びを調整するため、アニール処理が施されていてもよい。
【0031】
導体11は、単線であっても、撚線であってもよい。電線10の屈曲性を高める等の観点から、導体11は、複数本の導体素線111を撚り合わせた撚線とすることが好ましい。
【0032】
導体11の外径D11は特に限定されないが、例えば0.17mm以上2.91mm以下であることが好ましく、0.20mm以上2.59mm以下であることがより好ましい。
【0033】
後述する絶縁層12が1層の場合、導体11の外径D11は、0.17mm以上0.61mm以下であることが好ましく、0.20mm以上0.51mm以下であることがより好ましい。
【0034】
絶縁層12が2層の場合、導体11の外径D11は、0.28mm以上2.91mm以下であることが好ましく、0.32mm以上2.59mm以下であることがより好ましい。
【0035】
また、導体11の導体断面積は、0.025mm2以上5.3mm2以下であることが好ましく、0.032mm2以上5.26mm2以下であることがより好ましい。
【0036】
導体断面積を0.025mm2以上とすることで、十分大きな導体断面積とすることができ、各種用途に使用できる電線とすることができる。また、導体断面積を5.3mm2以下とすることで、電線10の外径を抑制し、取り扱い性に優れた電線とすることができる。
【0037】
後述する絶縁層12が1層の場合、導体11の導体断面積は、0.025mm2以上0.26mm2以下であることが好ましく、0.032mm2以上0.23mm2以下であることがより好ましい。
【0038】
絶縁層12が1層の場合に、導体11の導体断面積を0.025mm2以上とすることで、十分大きな導体断面積とすることができ、各種用途に使用できる電線とすることができる。また、上記の場合に、導体断面積を0.26mm2以下とすることで、電線10の外径を抑制し、取り扱い性に優れた電線とすることができる。
【0039】
絶縁層12が2層の場合、導体11の導体断面積は、0.07mm2以上5.3mm2以下であることが好ましく、0.081mm2以上5.26mm2以下であることがより好ましい。
【0040】
絶縁層12が2層の場合に、導体11の導体断面積を0.07mm
2以上とすることで、十分大きな導体断面積とすることができ、各種用途に使用できる電線とすることができる。また、上記の場合に、導体断面積を5.3mm
2以下とすることで、電線10の外径を抑制し、取り扱い性に優れた電線とすることができる。
(1-2)絶縁層
絶縁層12は、
図1に示すように導体11の外表面、具体的には電線10の長手方向に沿った外表面を被覆できる。絶縁層12は、第一絶縁層121を含むことができる。例えば、絶縁層12は、
図1に示した電線10のように、第一絶縁層121の1層を含むことができる。また、絶縁層12は、
図2に示した電線100のように、第一絶縁層121と、第二絶縁層122との2層を含むこともできる。
(1-2-1)第一絶縁層
第一絶縁層121は、ポリオレフィン系樹脂、三酸化アンチモン、および金属水酸化物、を含むことができる。以下、各成分について説明する。
(ポリオレフィン系樹脂)
第一絶縁層121は、樹脂成分としてポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。なお、第一絶縁層121は、樹脂成分として、ポリオレフィン系樹脂のみを含有することもできる。ポリオレフィン系樹脂は、ハロゲン成分を含まないため、燃焼した場合でも、ダイオキシン等の有害ガスの発生を抑制し、環境負荷を特に低減できる。
【0041】
ポリオレフィン系樹脂としては特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)や、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のエチレンアクリル酸エステル共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸ブチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸共重合体、部分ケン化EVA、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体等を挙げることができる。これらの樹脂は選択した1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
樹脂成分であるポリオレフィン系樹脂は架橋されていても良く、架橋されていなくても良い。
【0043】
ただし、ポリオレフィン系樹脂が架橋されていることで、電線10の耐熱性を高めることができる。このため、電線10について、耐熱性を要求される用途に用いる場合には、ポリオレフィン系樹脂は架橋されていることが好ましい。
(三酸化アンチモン)
第一絶縁層121は、三酸化アンチモンを含有できる。第一絶縁層121が三酸化アンチモンを含有することで、電線10の難燃性を高めることができる。
【0044】
第一絶縁層121は、三酸化アンチモンを、ポリオレフィン系樹脂に対して、75質量%以上の割合で含有することが好ましい。第一絶縁層121が、三酸化アンチモンをポリオレフィン系樹脂に対して75質量%以上の割合で含有することで、電線10の難燃性を特に高められる。
【0045】
第一絶縁層121の三酸化アンチモンの含有量の上限は特に限定されないが、例えばポリオレフィン系樹脂に対して、175質量%以下の割合で含有することが好ましく、150質量%以下の割合で含有することがより好ましい。第一絶縁層121が、三酸化アンチモンを上記割合で含有することで、第一絶縁層121の可撓性を高められる。
(金属水酸化物)
第一絶縁層121は、金属水酸化物を含有できる。第一絶縁層121が金属水酸化物を含有することで、電線10の難燃性を高めることができる。
【0046】
金属水酸化物としては特に限定されないが、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
【0047】
第一絶縁層121における、金属水酸化物の含有量は特に限定されないが、例えば金属水酸化物を、ポリオレフィン系樹脂に対して、100質量%以上の割合で含有することが好ましい。第一絶縁層121が、金属水酸化物を上記割合で含有することで、電線10の難燃性を特に高められる。
【0048】
第一絶縁層121の金属水酸化物の含有量の上限は特に限定されないが、例えばポリオレフィン系樹脂に対して200質量%以下の割合で含有することが好ましい。第一絶縁層121が、金属水酸化物を上記割合で含有することで、第一絶縁層121の可撓性を高められる。
【0049】
第一絶縁層121が複数種類の金属水酸化物を含有する場合には、複数種類の金属水酸化物の含有量の合計が上記範囲を充足することが好ましい。
(添加剤)
第一絶縁層121はポリオレフィン系樹脂、三酸化アンチモン、および金属水酸化物のみから構成することもできるが、上記成分以外に、各種添加剤を含有することもできる。第一絶縁層121は、添加剤として、例えば絶縁層に一般的に配合される酸化防止剤、劣化防止剤、着色剤、架橋助剤、粘着付与剤、滑剤、軟化剤、充填剤、加工助剤、カップリング剤、銅害防止剤などを含有することもできる。
【0050】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、亜リン酸エステル系酸化防止剤などが例示される。
【0051】
劣化防止剤としては、HALS(ヒンダードアミン系光安定剤)、紫外線吸収剤、金属不活性化剤、加水分解防止剤などが例示される。
【0052】
着色剤としてはカーボンブラック、チタンホワイトその他有機顔料、無機顔料などが例示される。これらは、識別のため、または紫外線吸収のために添加することができる。
【0053】
ポリオレフィン系樹脂を架橋する場合に、架橋効率を上げるために、第一絶縁層121に架橋助剤を添加することもできる。架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N'-メタフェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレート、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛などが例示される。
【0054】
粘着付与剤としては、クマロン・インデン樹脂、ポリテルペン樹脂、キシレンホルムアルデヒド樹脂、水素添加ロジンなどが例示される。
【0055】
滑剤としては、脂肪酸、不飽和脂肪酸、それらの金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0056】
軟化剤としては鉱物油、植物油、可塑剤などが挙げられる。
【0057】
充填剤としては炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0058】
カップリング剤としては、シランカップリング剤や、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネートなどのチタネート系カップリング剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0059】
銅害防止剤としては、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、2,3-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジドなどが挙げられる。
(その他)
絶縁層12には、ハロゲン系難燃剤を積極的に添加しない。従って、本実施形態の電線10が有する絶縁層12は、ハロゲン系難燃剤を含まない。なお、絶縁層12がハロゲン系難燃剤を含まないとは、上述のように意図して積極的に添加していないことを意味し、製造工程等で不可避不純物として混入することを排除するものではない。
【0060】
絶縁層12にハロゲン系難燃剤を積極的に添加せず、絶縁層12がハロゲン系難燃剤を含まないことで、電線10に含まれるハロゲン化合物を抑制し、電線10を燃焼等させた場合に有害なガスが発生することを抑制できる。
【0061】
このため、第一絶縁層121についても、ハロゲン系難燃剤を積極的に添加しないことが好ましい。
【0062】
ハロゲン系難燃剤とは、臭素(Br)等のハロゲンを含有する難燃剤を意味する。
(1-2-2)第二絶縁層122
図2に示した電線100のように、絶縁層12は、導体11と、第一絶縁層121との間に配置された、第二絶縁層122を有することもできる。
【0063】
用途によっては、電線の外径である電線径を太く、絶縁層を厚くすることが求められる場合がある。しかし、上記第一絶縁層のみで絶縁層を構成して電線径を太くし、該電線を高温環境下に長期間に渡って配置すると、絶縁層の可撓性が低下する場合がある。これに対して、
図2に示した電線100のように、絶縁層12がさらに、三酸化アンチモンを積極的に添加せず、三酸化アンチモンを含まない第二絶縁層122を有することで、電線100を高温環境下に長期間に渡って配置した場合でも、絶縁層12の可撓性の低下を抑制できる。
【0064】
従って、第二絶縁層122は、三酸化アンチモンを含まないことが好ましい。第二絶縁層122が三酸化アンチモンを含まないとは、上述のように意図して積極的に添加していないことを意味し、製造工程等で不可避不純物として混入することを排除するものではない。
【0065】
第二絶縁層122が三酸化アンチモンを含まないことで、第二絶縁層122の可撓性を高め、該第二絶縁層122を含む絶縁層12の可撓性も高められる。
【0066】
第二絶縁層122は、三酸化アンチモンを含まない点以外は、第一絶縁層121と同様に構成できる。すなわち、第二絶縁層122は、ポリオレフィン系樹脂、および金属水酸化物を含むことができる。また、第二絶縁層122は、必要に応じて各種添加剤を含むこともできる。ポリオレフィン系樹脂、金属水酸化物、添加剤については、第一絶縁層121で説明したため、説明を省略する。
【0067】
第二絶縁層122についても、ハロゲン系難燃剤を含まないことが好ましい。
【0068】
第二絶縁層122についても、ハロゲン系難燃剤を含まないことで、電線10を燃焼等させた場合でも有害ガスの発生を抑制できる。
(1-2-3)各絶縁層の配置、構成について
(絶縁層が1層の場合)
図1に示した電線10のように、絶縁層12が第一絶縁層121のみを有する場合、第一絶縁層121の厚さT121は特に限定されないが、例えば0.10mm以上0.40mm以下とすることが好ましく、0.15mm以上0.35mm以下とすることがより好ましい。
【0069】
第一絶縁層121の厚さT121を0.10mm以上0.40mm以下とすることで、導体11を保護し、可撓性に優れた電線にできる。
(絶縁層が2層の場合)
図2に示した電線100のように、絶縁層12が第一絶縁層121、および第二絶縁層122を有する場合、電線100の導体11に近い位置から順に第二絶縁層122、第一絶縁層121を配置できる。三酸化アンチモンを有意に添加した第一絶縁層121を電線100の外表面を含むように配置することで、電線100の難燃性を高められる。
【0070】
また、第一絶縁層121の厚さT121、および第二絶縁層122の厚さT122は特に限定されない。ただし、第一絶縁層121の厚さT121が、第二絶縁層122の厚さT122よりも薄いことが好ましい。第一絶縁層121の厚さT121を、第二絶縁層122の厚さT122よりも薄くすることで、絶縁層12に占める第二絶縁層122の割合を高くし、電線100を高温環境下に長期間に渡って配置した場合の、絶縁層12の可撓性の低下を特に抑制できる。
【0071】
第一絶縁層121の厚さT121は、例えば0.10mm以上0.15mm以下とすることが好ましい。
【0072】
第一絶縁層121の厚さT121を0.10mm以上とすることで、電線100の難燃性を高められる。第一絶縁層121の厚さを0.15mm以下とすることで、電線100の可撓性を高められる。
【0073】
第二絶縁層122の厚さT122は特に限定されないが、例えば0.10mm以上0.80mm以下とすることが好ましく、0.15mm以上0.70mm以下とすることがより好ましい。
【0074】
第二絶縁層122の厚さT122を0.10mm以上とすることで、絶縁層12の可撓性を高められる。第二絶縁層122の厚さT122を0.80mm以下とすることで、絶縁層12全体の厚さを抑制し、取り扱い性に優れた電線にできる。
【0075】
第二絶縁層122の厚さT122は、第二絶縁層122の外径D122から、導体11の外径D11を引き、2で割った値とすることができる。また、第一絶縁層121の厚さT121は、第一絶縁層121の外径D121から、第二絶縁層122の外径D122を引き、2で割った値とすることができる。
【0076】
第一絶縁層121の外径D121や、第二絶縁層122の外径D122、導体11の外径D11は、以下の手順により測定、算出できる。
【0077】
導体11の外径D11の場合を例に説明する。まず、電線10の長手方向と垂直な任意の一断面内において、電線10の直交する2本の直径に沿って、マイクロメータにより導体11の外径を測定する。そして、測定した導体11の外径の平均値を電線10が有する導体11の外径D11にできる。第一絶縁層121の外径D121、第二絶縁層122の外径D122についても同様に測定、算出できる。
(2)電線の特性について
(2-1)難燃特性
本実施形態の電線10は、難燃性に優れていることが好ましい。このため、本実施形態の電線10は、UL規格で規定される垂直燃焼試験(VW-1)に合格することが好ましい。
【0078】
本実施形態の電線10がUL規格で規定される垂直燃焼試験(VW-1)に合格することで、難燃性に優れた電線にできる。
【0079】
垂直燃焼試験(VW-1)は、UL規格2556に記載されており、同じ条件で作製した10点の試料について、以下の評価を行う。電線の長手方向が垂直となるように配置した各試料に対して、バーナーの炎による15秒接炎と、15秒離炎との操作のセットを5回繰り返す。上記操作を5回繰り返した場合に、60秒以内に消化し、下部に敷いた脱脂綿が燃焼落下物によって類焼せず、かつ試料の上部に取り付けたクラフト紙が燃えたり焦げたりしない試料を良好とする。そして10点の試料を評価し、10点とも良好の場合に合格と評価し、いずれか1点でも良好とならない場合には不合格と評価する。
【0080】
難燃特性は、第一絶縁層121における三酸化アンチモンの含有割合や、第一絶縁層121の厚さT121等を選択することで、所望の特性とすることができる。
(2-2)加熱変形残率
本実施形態の電線10が有する絶縁層12は、121℃で、2.45N(0.25kgf)の荷重を加えて、1時間保持した場合の加熱変形残率が50%以上であることが好ましい。
【0081】
加熱変形残率は、TMA(Thermal Machanical Analysis)を用いて測定できる。まず、評価を行う電線10から絶縁層12を取出し、絶縁層12の厚さである初期厚さを測定する。そして、絶縁層12の厚さに沿って2.45Nの荷重を加え、121℃に昇温し、1時間保持する。次いで、室温まで降温し、荷重を除去した後の絶縁層12の厚さである変形後厚さを測定する。
【0082】
加熱変形残率は、測定した初期厚さ、変形後厚さを用いて、以下の式(1)により算出できる。
【0083】
〔(変形後厚さ)/(初期厚さ)〕×100 ・・・(1)
加熱変形残率が50%以上の絶縁層12とすることで、荷重を加えながら加熱した場合でも変形しにくい絶縁層であることを意味し、耐熱性に優れた絶縁層12を有する電線とすることができる。
【0084】
加熱変形残率の上限値は特に限定されないが、絶縁層12は変形しないことが好ましい。
【0085】
加熱変形残率は、絶縁層12が含有する樹脂の種類や、架橋の有無等を選択することで所望の特性とすることができる。
【実施例0086】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実験例において作製した電線の評価方法について説明する。
(1)導体の外径、絶縁層の厚さ
導体11の外径D11、および絶縁層12である第一絶縁層121の厚さT121は、マイクロメータを用いて測定、算出した。
【0087】
具体的には、導体11の外径D11の場合、電線10の長手方向と垂直な任意の一断面内において、電線10の直交する2本の直径に沿って、マイクロメータにより導体11の外径を測定した。そして、その平均値を電線10が有する導体11の外径D11とした。第一絶縁層121の外径D121についても同様にして測定、算出した。
【0088】
そして、第一絶縁層121の外径D121から、導体11の外径D11を引き、2で割ったものを第一絶縁層121の厚さT121とした。
(2)難燃性試験
UL規格2556に記載のVW-1垂直燃焼試験を、各実験例の電線について同じ条件で作製した10点の試料で行った。電線の長手方向が垂直となるように配置した各試料に対して、バーナーの炎による15秒接炎と、15秒離炎との操作のセットを5回繰り返す。上記操作を5回繰り返した場合に、60秒以内に消化し、下部に敷いた脱脂綿が燃焼落下物によって類焼せず、かつ試料の上部に取り付けたクラフト紙が燃えたり焦げたりしない試料を良好とする。そして10点の試料を評価し、良好となった試料の数の割合を表1に示す。良好となった試料の割合が100%の場合に、VW-1垂直燃焼試験に合格したことになる。
【0089】
各実験例で、絶縁層12である第一絶縁層121に対して電子線を照射し、含有する樹脂を架橋した試料と、架橋していない試料とを作製し、両試料について評価を行った。表1において「照射前」が架橋を行っていない試料についての評価結果となる。表1において、「照射後」が架橋を行った試料についての評価結果となる。
(3)加熱変形残率
加熱変形残率は、TMAを用いて測定した。まず、各実験例で作製した電線10から絶縁層12を取出し、絶縁層12の厚さである初期厚さをマイクロメータで測定した。そして、絶縁層12の厚さに沿って2.45Nの荷重を加え、121℃に昇温し、1時間保持した。次いで、室温まで降温し、荷重を除去した後の絶縁層12の厚さである変形後厚さを測定した。
【0090】
測定した初期厚さ、変形後厚さを用いて、既述の式(1)により加熱変形残率を算出した。電子線を照射し、絶縁層12が含有する樹脂について架橋を行った試料を、加熱変形残率の評価に供した。
(試料の作製条件、評価結果)
実験例1~実験例6の電線を作製し、上記評価を行った。実験例1~実験例3が比較例、実験例4~実験例6が実施例となる。
[実験例1]
実験例1では、長手方向と垂直な断面において、
図1に示すように、導体11と、導体11の外表面を覆う絶縁層12とを備える絶縁電線を作製した。
(導体)
導体11としては、素線径が0.203mmの錫メッキ軟銅線製の導体素線111を7本撚り合わせた撚線を用いた。導体11の外径D11は0.61mmであり、導体断面積は0.226mm
2であった。なお、以下の他の実験例においても同じ構成、サイズの導体を用いた。
(絶縁層)
絶縁層12は、第一絶縁層121のみから構成され、表1の「配合」の欄に示した各成分を混練し、導体11の外表面を覆うように成形することで、絶縁層12を形成した。
【0091】
表1中、「EVA」はエチレン-酢酸ビニル共重合体を意味する。また、表1中、「Mg(OH)2」、「CaCO3」、「Al2O3」、「SiO2」「Sb2O3」は、順に水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素(シリカ)、三酸化アンチモンを意味する。表1中の「部数」は、各成分の質量割合を意味する。
【0092】
表1には、EVAに対する三酸化アンチモンの割合も併せて示している。
【0093】
第一絶縁層121にはハロゲン系難燃剤、ハロゲン化合物は積極的に添加していないため、第一絶縁層121はハロゲン系難燃剤、ハロゲン化合物を含まず、含有割合は0となる。以下の実験例2~実験例6でも同じである。
【0094】
また、電子線を照射することで、絶縁層12が有する樹脂を架橋した試料も作製した。絶縁層12である第一絶縁層121の外径D121は1.15mmであり、第一絶縁層121の厚さT121は0.270mmであった。以下の他の実験例2~実験例6においても作製した電線10が有する第一絶縁層121の外径D121、厚さT121は同じであった。
【0095】
得られた電線について、難燃性試験、加熱変形残率の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2~実験例6]
第一絶縁層121を形成する際に、混練する原料の割合を、表1の「配合」の欄に示した値となるようにした点以外は、実験例1と同じ操作、条件で電線を作製した。また、得られた電線について、難燃性試験、加熱変形残率の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0096】