(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048074
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】スチレン系共重合体、フィード液、及びスチレン系共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 212/04 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
C08F212/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153922
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】522381384
【氏名又は名称】株式会社エーアイシーアイ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】末澤 寛典
(72)【発明者】
【氏名】相良 頼成
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AB02Q
4J100AB03P
4J100AB04Q
4J100AB07Q
4J100BA03Q
4J100BA04Q
4J100BA16Q
4J100BB01Q
4J100BB03Q
4J100BB05Q
4J100BB07Q
4J100BB18Q
4J100CA04
4J100FA19
4J100JA32
4J100JA57
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】耐候性に優れたスチレン系共重合体と、スチレン系共重合体を製造するためのフィード液と、フィード液を用いて製造するスチレン系共重合体の製造方法とを提供する。
【解決手段】リビングアニオン重合法によって得られる、α-メチルスチレン単位と下記一般式(1)で表されるビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体であって、サンシャインウェザーメータによる耐候性試験において照射時間1000時間後の全光線透過率の変化量が5%以下、かつ黄色度の変化量が5以下であるスチレン系共重合体。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、炭素数2以上のアルキル基またはフェニル基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、カルボキシル基、またはハロC1-C6アルキル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リビングアニオン重合法によって得られる、α-メチルスチレン単位と下記一般式(1)で表されるビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体であって、サンシャインウェザーメータによる耐候性試験において照射時間1000時間後の全光線透過率の変化量が5%以下、かつ黄色度の変化量が5以下であるスチレン系共重合体。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、炭素数2以上のアルキル基またはフェニル基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、カルボキシル基、またはハロC1-C6アルキル基を表す。)
【請求項2】
前記共重合体中のα-メチルスチレン単位の含有量が10~65質量%であり、重量平均分子量(Mw)は、Mw=5万~30万の範囲であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.6~2.5の範囲にあり、かつ残存する単量体および重合溶媒の総質量が500ppm以下である、請求項1に記載のスチレン系共重合体。
【請求項3】
単量体および重合溶媒からなる、スチレン系共重合体を製造するためのフィード液であって、該フィード液中のアセトニルアセトンの含有量が2ppm以下、ベンズアルデヒドの含有量が10ppm以下、かつフェニルアセチレンの含有量が15ppm以下であるスチレン系共重合体を製造するためのフィード液。
【請求項4】
単量体および重合溶媒からなるフィード液によるスチレン系共重合体の製造方法であって、該フィード液中のアセトニルアセトンの含有量が2ppm以下、ベンズアルデヒドの含有量が10ppm以下、かつフェニルアセチレンの含有量が15ppm以下であるフィード液を用いて製造するスチレン系共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性に優れたスチレン系共重合体と、スチレン系共重合体を製造するためのフィード液と、フィード液を用いて製造するスチレン系共重合体の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、透明性、剛性、寸法安定性等の材料性能に優れるだけでなく、射出成形、延伸シート、フィルム、発泡シート、発泡ボード、ブロー成形等の様々な成形加工が可能であること、さらにスチレン系樹脂の多くは、ラジカル重合法による塊状重合、高い単量体濃度による溶液重合、懸濁重合、乳化重合により大量に安価に製造ができることから非常に多種多様な用途に利用されている。
【0003】
一般的にスチレン系樹脂は、リビングアニオン重合によって製造されるが、このリビングアニオン重合は原料に含まれる不純物の影響を受けやすい重合法である(特許文献1)。特に、活性アニオンは水、アルデヒド、ケトン、アルコール等の極性物質と反応し易いことが知られている。極性物質が微量でもアニオン重合の反応系内に存在すると、活性アニオンは極性物質と反応して安定な結合を形成してしまうため、重合が停止するという問題が起こる。そのため、リビングアニオン重合を行うに際しては、原料中の極性物質を減らし、反応系内への極性物質の混入をできる限り抑制しなくてはならない。
【0004】
以上のような問題点を解決するα-メチルスチレンの精製方法として、塩基性物質の存在下にα-メチルスチレン中に含まれる極性物質を反応させ、反応により生じる低沸点の副生物を極性物質の反応物と分離することにより、α-メチルスチレンを精製する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4306682号公報
【特許文献2】特許第4327239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて近年、樹脂の有効利用化が重要視され、各種のリサイクル法が成立し施行されてきた。樹脂がリサイクル、リワーク、リユースできるということは、今後の樹脂市場では必要不可欠なニーズとなってくる。
【0007】
今後開発される樹脂材料は、数回の溶融加工を経ても高分子鎖の切断による分子量の低下や単量体の発生がほとんど起こらず、かつ、長期使用による物性の耐候劣化が少なく、有効に再利用できる樹脂であることが必要である。
【0008】
そのため、これまでのスチレン系共重合体よりも溶融安定性が高く、耐候性に優れた樹脂材料の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、重合に供するフィード液中の特定の化合物の含有量を制御することによって、耐候性に優れたスチレン系共重合体と、スチレン系共重合体を製造するためのフィード液と、フィード液を用いて製造するスチレン系共重合体の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、重合に供するフィード液中に微量含まれる特定の化合物の含有量を特定の範囲に制御することによって、耐候性に優れたスチレン系共重合体が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は以下の諸態様を有する。
【0011】
(1)リビングアニオン重合法によって得られる、α-メチルスチレン単位と下記一般式(1)で表されるビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体であって、サンシャインウェザーメータによる耐候性試験において照射時間1000時間後の全光線透過率の変化量が5%以下、かつ黄色度の変化量が5以下であるスチレン系共重合体。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、炭素数2以上のアルキル基またはフェニル基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、カルボキシル基、またはハロC1-C6アルキル基を表す。)
【0012】
(2)前記共重合体中のα-メチルスチレン単位の含有量が10~65質量%であり、重量平均分子量(Mw)は、Mw=5万~30万の範囲であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.6~2.5の範囲にあり、かつ残存する単量体および重合溶媒の総質量が500ppm以下である、前記(1)に記載のスチレン系共重合体。
【0013】
(3)単量体および重合溶媒からなる、スチレン系共重合体を製造するためのフィード液であって、該フィード液中のアセトニルアセトンの含有量が2ppm以下、ベンズアルデヒドの含有量が10ppm以下、かつフェニルアセチレンの含有量が15ppm以下であるスチレン系共重合体を製造するためのフィード液。
【0014】
(4)単量体および重合溶媒からなるフィード液によるスチレン系共重合体の製造方法であって、該フィード液中のアセトニルアセトンの含有量が2ppm以下、ベンズアルデヒドの含有量が10ppm以下、かつフェニルアセチレンの含有量が15ppm以下であるフィード液を用いて製造するスチレン系共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスチレン系共重合体は、重合に供するフィード液中の特定の化合物の含有量を特定の範囲に制御することによって、耐候性に優れた特性を有する。また、本発明のスチレン系共重合体を含有する成形品は、加温用食品容器、住宅用部品、自動車室内用部品、光学用部品として極めて好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
<スチレン系共重合体>
本発明のスチレン系共重合体について述べる。本発明におけるスチレン系共重合体は、重合に供するフィード液中の特定の化合物の含有量を制御することによって得られる共重合体であって、α-メチルスチレン単位と下記式(1)で表されるビニル芳香族単量体単位とを構成単位として含み、サンシャインウェザーメータによる耐候性試験において照射時間1000時間後の全光線透過率の変化量が5%以下、かつ黄色度の変化量が5以下のスチレン系共重合体である。これにより、耐候性に優れた特性を有する。また、耐熱性、溶融安定性、成形性、強度、剛性にも優れた特性を有する。
【化2】
(式中、R
1は、水素原子、炭素数2以上のアルキル基またはフェニル基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、カルボキシル基、またはハロC1-C6アルキル基を表す。)
【0018】
本明細書で用いる用語「C1-C6アルキル基」とは、炭素数が1ないし6個の直鎖状または分枝状のアルキル基を意味し、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1-エチルブチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
【0019】
本明細書で用いる用語「C1-C6アルコキシ基」とは、前記定義の「C1-C6アルキル基」が結合したオキシ基を意味し、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、iso-ペンチルオキシ基、sec-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、iso-ヘキシルオキシ基、1,1-ジメチルプロポキシ基、1,2-ジメチルプロポキシ基、2,2-ジメチルプロポキシ基、2-メチルブトキシ基、1-エチル-2-メチルプロポキシ基、1,1,2-トリメチルプロポキシ基、1,1-ジメチルブトキシ基、1,2-ジメチルブトキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、2,3-ジメチルブトキシ基、1,3-ジメチルブトキシ基、2-エチルブトキシ基、2-メチルペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基等が挙げられ、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基、エトキシ基である。
【0020】
本明細書で用いる用語「炭素数2以上のアルキル基」とは、炭素数が2個以上(好ましくは2ないし6個)の直鎖状または分枝状のアルキル基を意味し、具体的には、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1-エチルブチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基等が挙げられ、好ましくはエチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
【0021】
本明細書で用いる用語「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を意味する。
【0022】
本明細書で用いる用語「ハロC1-C6アルキル基」とは、前記定義の「C1-C6アルキル基」に、前記定義の「ハロゲン原子」が結合した基を意味する。
【0023】
本発明で用いるビニル芳香族単量体とは、例えば、スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、o-エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、p-ヒドロキシスチレン、p-メトキシスチレン、p-クロロスチレン、1,1-ジフェニルエチレン等のその他のスチレン誘導体が挙げられる。好ましいビニル芳香族単量体は、スチレンである。これらのビニル芳香族単量体は、各1種類ずつ用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。本発明において、最も好ましい組み合わせは、α-メチルスチレンとスチレンの組み合わせである。
【0024】
スチレン系共重合体中に含まれるα-メチルスチレン単位の含有量は、好ましくは10~65質量%(以下、wt%ともいう)、より好ましくは、12~63wt%、さらに好ましくは15~60wt%である。α-メチルスチレン単位が10wt%以上であると実使用上耐熱性向上の効果がより大きく、65wt%以下であると溶融成形加工時の熱安定性がより高くなり、成形時のガスの発生をより抑制することができ、また、樹脂中の分解に伴う単量体成分量をより抑制することもできる。
【0025】
前記の単量体以外に本発明の目的を損なわない範囲において他の重合可能な単量体を一緒に用いることができる。共重合可能な単量体類としては、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル類などが挙げられる。これらの単量体は、樹脂の衝撃強度、伸び、耐薬品性などを改良あるいは調整する場合に有用である。
【0026】
本発明におけるスチレン系共重合体は、リビングアニオン重合法で合成される。リビングアニオン重合法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、開始剤として有機リチウム化合物が用いられ、具体的には、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、エチルリチウム、ベンジルリチウム、1,6-ジリチオヘキサン、スチリルリチウム、ブタジエニリルリチウム等が用いられる。この中で好ましくはn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムが挙げられる。
【0027】
重合溶媒としては、ヘテロ原子を含有しない炭化水素系化合物がよい。具体的には、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物が挙げられる。これらの炭化水素化合物は、1種類又は2種類以上用いてもよい。特に、好ましい化合物はシクロヘキサンである。
【0028】
重合温度は、生産性および製造後の樹脂の着色、耐候性の観点から40℃~110℃の範囲が好ましく、より好ましくは、50℃~100℃の範囲、さらに好ましくは55℃~95℃の範囲である。
【0029】
本発明におけるスチレン系共重合体は、例えば、完全混合型の重合反応器を使って連続リビング重合法によって製造することができる。または、完全混合型の重合反応器と非完全混合型の重合反応器との組み合わせでもよい。特に、ランダム共重合体を得るためには、完全混合型の重合反応器が好ましい。完全混合型の重合とは、リビング重合の反応系内に存在するα-メチルスチレン、ビニル芳香族単量体、リビング共重合体の濃度が常に一定となる様な連続式の完全混合型反応器を使って重合する方法等をいう。
【0030】
原料溶液中の単量体濃度を上げて生産性を高めたい場合は、重合反応の除熱を効率的に行うために重合反応器にコンデンサーを付けて、溶媒の蒸発潜熱で重合熱を除熱することが望ましい。特に、重合溶媒に主としてシクロヘキサン(n-ヘキサンが混入していても構わない)を用いると、沸点が82℃なので重合温度を80℃から90℃付近で制御しやすい。
【0031】
非完全混合型のチューブ型重合反応器を用いる場合は、例えば、反応器の長さ(L)と内径(D)の比L/Dが1以上の場合、又は攪拌効率が悪い場合等、重合反応器内で完全混合状態をとりにくい場合は、反応器の途中からビニル芳香族単量体の溶液を添加することによって本発明のスチレン系共重合体を製造することができる。
【0032】
また、非完全混合型重合器を2基以上直列に連結し、1基目の重合後2基目の重合反応器にビニル芳香族単量体の溶液を添加することによって本発明の共重合体を得ることもできる。さらに、1基目の重合反応器でビニル芳香族単量体のみを重合し、続いて2基目の重合反応器内でα-メチルスチレンとビニル芳香族単量体の共重合を行って、ビニル芳香族単位の単独重合体と共重合体とのブロック共重合体を得ることも可能である。
【0033】
本発明のスチレン系共重合体を得るために使用する単量体に含有される微量成分で、本発明において制御対象とする特定の化合物は、カルボニル基含有化合物、フェノール、重合禁止剤であるt-ブチルカテコールを含むカテコール類、およびフェニルアセチレンである。カルボニル基含有化合物の具体的な例としては、アセトニルアセトン、3-メチル-2-シクロペンテノン、ベンズアルデヒド、アセトフェノン等が挙げられる。
【0034】
これらの化合物は、アニオン重合等によりポリα-メチルスチレン及びその共重合体を製造する際に、重合阻害、ポリマー着色、および耐候性低下の原因物質となるため、できるだけ除くことが好ましい。
【0035】
α-メチルスチレンから制御対象とする特定の化合物を除去する方法としては、α-メチルスチレンに特定の塩基性物質を添加し、反応で生成した高沸点化合物と低沸点化合物を蒸留によってα-メチルスチレンから分離する方法が好ましい。
【0036】
その際に用いられる塩基性物質としては、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムメトキシドなどの金属アルコキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、リチウムジイソプロピルアミドなどの金属アミド、ブチルリチウム、メチルリチウムなどのアルキル金属といったアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有する塩基性化合物を使用することができる。
【0037】
スチレンおよび重合溶媒から制御対象とする特定の化合物を除去する方法としては、通常の精製方法が適用でき、窒素バブリングした後に、活性アルミナを充填した精製塔内を通過させて精製する方法などがある。
【0038】
前記方法などによって、単量体と重合溶媒からなる重合に供するフィード液中の特定の化合物の含有量を制御することが可能である。これら特定の化合物を一定の範囲に制御した場合、重合コントロール、ポリマーの黄色化防止に有効であり、特にポリマーの耐候性改良に非常に有効である。
【0039】
制御対象とするフィード液中の特定の化合物の含有量としては、少なければ少ないほどよいが、アセトニルアセトン2ppm以下、ベンズアルデヒド10ppm以下、およびフェニルアセチレン15ppm以下が好ましい。さらに、フェニルアセチレンは10ppm以下がより好ましい。なお、本明細書でのppmは質量単位である。これらの数値を超えると、得られたポリマーの耐候性の低下が顕著になり、場合によってはリビング重合を阻害する。
【0040】
本発明におけるスチレン系共重合体の黄色度(Yellow Index)の値は3以下が好ましく、より好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下である。黄色度を低下させるためには前述したとおり、フィード液中の特定の化合物の含有量を低減させることが有効である。特に、食品包装分野において利用される2軸延伸シート(OPS)や発泡シート(PSP)の製造時は、シートを巻き取り回収するため樹脂の黄色化は顕著に目立ち品質上の問題を起こす場合がある。従って、この様な用途のユーザーは樹脂の黄色化に対しては特に敏感であり重要な要求性能の一つとしている。
【0041】
本発明におけるスチレン系共重合体は、サンシャインウェザーメータによる耐候性試験において照射時間1000時間後の全光線透過率の変化量が5%以下、かつ黄色度の変化量が5以下である。
本明細書において、サンシャインウェザーメータによる耐候性試験において照射時間1000時間後の全光線透過率の変化量、及び黄色度の変化量は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0042】
本発明のスチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくはMw=5万~30万の範囲、より好ましくは、Mw=6万~29万、更に好ましくは、Mw=7万~28万の範囲である。機械強度の点からMwが5万以上であることが好ましく、成形時の樹脂の流動性の点から30万以下であることが好ましい。その結果、精密部品の成形がより容易となるだけでなく、高分子鎖の分子配向がより抑制され、光学特性の異方性の発現やシート状押出成形品やシート状射出成形品の面衝撃強度の低下、更に大型成形品の成形が困難という様々な問題をより抑制することができる。
【0043】
更に、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.6~2.5の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、Mw/Mn=1.8~2.4の範囲がよい。Mw/Mnが1.6~2.5では、樹脂の流動性と機械物性のバランスが良くなり、樹脂成形体として充分な性能を出すことができ、上記の問題の発生を同時に抑制することができる傾向にある。
【0044】
本発明におけるガラス転移温度は、DSCによって求めることができ、JIS-K7121に示されている方法で求めた温度をガラス転移温度とする。
【0045】
本発明におけるスチレン系共重合体のα-メチルスチレン単位とビニル芳香族単量体単位の結合様式は、特に制限はされないが、最も好ましい結合様式はランダム結合からなる共重合体である。一般にα-メチルスチレン単位の連鎖が多く存在すると熱分解しやすくなる傾向にある。従って、用途によってはα-メチルスチレン単位の連鎖は2乃至4連鎖以下に制御することが好ましい。
【0046】
ビニル芳香族単量体単位は、連鎖になっていても特に熱安定性を損なうおそれがないので、長鎖の連鎖構造をとっても構わない。本発明者らは、ビニル芳香族単量体単位の長鎖の連鎖が、共重合体の分子鎖の末端に存在するAB型、又はABA型のブロック共重合体(Aは、主としてビニル芳香族単量体単位成分よりなる単独重合体成分;Bは、α-メチルスチレン単位とビニル芳香族単量体単位を含有するランダム共重合体成分)が、耐熱性、熱安定性、機械物性、流動性を含むその他の性能がランダム共重合体と同等であり、なお且つ、ブロックの一成分であるビニル芳香族単量体単位と同じ構造からなる単独重合体と相溶性が極めて良好であるという特性を見出した。この特性を活かして、本発明のスチレン系共重合体をリサイクル材として再利用したい場合、例えばポリスチレンと溶融混練して再利用したい場合は、共重合体の高分子鎖末端にポリスチレン鎖をブロックした共重合体を利用することができる。
【0047】
ビニル芳香族単量体単位のブロック連鎖長は、特に制限はなく、好ましくは、ブロック連鎖部分の数平均分子量が1000から25万の範囲にあればよい。また、ビニル芳香族単量体単位より成るブロック成分のMw/Mnは、1.0から2.5の範囲にあることが好ましい。
【0048】
ビニル芳香族単量体単位をブロック成分とする共重合体の製造方法は、例えば、バッチ型反応器、連続のチューブ型反応器、連続のスタティックミキサー型反応器、連続の攪拌羽根付きの槽型反応器、連続のコイル型反応器等でビニル芳香族単量体単位からなる単独重合体を製造し、引き続き連続の完全混合型反応器内にα-メチルスチレンとビニル芳香族単量体及びリビングのビニル芳香族単量体単位からなる単独重合体をフィードして共重合することにより、AB型のブロック共重合体を得ることができる。ABA型のブロック共重合体を得る場合には、AB型のブロック共重合体を製造した後に、別の反応器内でビニル芳香族単量体単位をリビング重合することにより製造することができる。または、AB型のリビング共重合体を製造した後に、別の反応器内でリビング成長種と反応する2官能性化合物を添加する等してABA型ブロック共重合体を得ることができる。
【0049】
本発明者らは、更に鋭意研究を重ねた結果、連続のリビング重合法によって得られるα-メチルスチレン単位とビニル芳香族単量体単位とを含有する共重合体であり、原料中のα-メチルスチレンと前記式(1)で表されるビニル芳香族単量体の組成比率を連続的又は断続的に変化させて重合反応器内に供給して得られる共重合体中の構成組成比が少なくとも2種以上の異なる共重合体からなるスチレン系共重合体が、耐熱性、熱安定性、機械物性、流動性を含むその他の性能がランダム共重合体と同等であり、かつ、ビニル芳香族単量体単位を主成分とする重合体と相溶性が極めて良好であるという特性を見出した。
【0050】
これは、該共重合体の成形品をリサイクルで使用する場合、ビニル芳香族単量体単位を主成分とする重合体、例えばポリスチレンへもリサイクル材としてブレンドして再利用が可能であることを示唆している。異なる共重合体とは、ガラス転移温度が少なくとも3℃以上異なる共重合体を指す。
【0051】
単量体中のα-メチルスチレンとビニル芳香族単量体の組成比率を連続的又は断続的に変化させて重合反応器内に供給するということは、即ち重合反応系へ導入される各単量体の濃度が連続的に又は断続的に変化することであり、その結果、得られる共重合体の各芳香族単位の組成比が連続的に変化し、少なくとも2種以上の異なる構成組成比からなる共重合体が順次得られる。
【0052】
2種以上の異なる構成組成比を有する共重合体は、バッチ型の槽内で、溶液状態で混合し、その後真空下に加熱したタンク内にフラッシングさせて溶媒を除去してもよいし、または、押出機やニーダーを使って溶媒を除去してペレット状態で回収することができる。または、バッチ型の槽内に溜めずにそのままペレット状態で回収し、バッチ型または連続型の混合容器でペレットを混合し、均一化することも可能である。または、混合容器でペレットを均一状態にした後、さらに押出機を使って溶融混合することも可能である。
【0053】
具体的な製造例を挙げると、α-メチルスチレン(M1)とビニル芳香族単量体(M2)の成分組成比がM1/M2=50/50(wt%)の原料を反応器内にフィードし重合させた後、異なる組成比、例えばM1/M2=40/60(wt%)の原料に切り替えて引き続き反応器に導入し重合を行う。この場合、断続的に原料組成を変化させたという。このようにして重合するとM1/M2=50/50(wt%)で重合して得られる共重合体の組成からM1/M2=40/60(wt%)で得られる共重合体の組成まで連続的に変化した組成を有する共重合体が順次得られてくる。得られた共重合体をバッチ型の槽内で溶液混合又はペレット状態で攪拌混合しその後溶融混練してある一定の組成の共重合体を得る。
【0054】
このような方法によって得られた共重合体は、α-メチルスチレン単位成分とビニル芳香族単量体単位成分の組成比が異なる共重合体の組成物であると考えることができる。これによって得られた共重合体は、ビニル芳香族単量体の単独重合体と極めて相溶性がよく、機械物性の低下を招くことなく且つ透明性を保持できるためリサイクル材として極めて利用価値の高い共重合体であることが分かった。
【0055】
本発明の共重合体の製造方法であるリビングアニオン重合法では、重合反応の完結はビニル芳香族単量体の反応率が99%以上に達した場合に行うことが好ましく、α-メチルスチレンが反応系に残っていてもよい。重合反応の停止は、停止剤として水、アルコール、フェノール、カルボン酸等の酸素-水素結合を有する化合物の添加、エポキシ化合物、エステル化合物、ケトン化合物、カルボン酸無水物、炭素-ハロゲン結合を有する化合物等も同様な効果を期待できる。これらの添加物の使用量は成長種の当量から10倍当量程度が好ましい。余りに多いとコスト的に不利なだけでなく、残存する添加物の混入が障害になる場合も多い。
【0056】
リビング成長種を利用して多官能化合物でカップリング反応させ、ポリマー分子量を増大、さらにはポリマー鎖を分岐構造化させることもできる。この様なカップリング反応に用いる多官能化合物は公知のものから選ぶことができる。多官能化合物とはポリハロゲン化合物、ポリエポキシ化合物、モノまたはポリカルボン酸エステル、ポリケトン化合物、モノまたはポリカルボン酸無水物等を挙げることができる。具体例としてはシリコンテトラクロライド、ジ(トリクロルシリル)エタン、1,3,5-トリブロモベンゼン、エポキシ化大豆油、テトラグリシジル1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、シュウ酸ジメチル、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル、ピロメリット酸二無水物、ジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0057】
重合終了後、未反応モノマーや溶媒は回収し再生使用するためにポリマーから揮発除去される。揮発除去には公知の方法が利用できる。揮発除去装置としては、例えば真空タンクにフラッシュさせる方法及び/又は押出機やニーダーを用いて真空下加熱蒸発させる方法等が好ましく利用できる。溶媒の揮発性にもよるが、一般には温度を180~300℃、真空度100Pa~50KPaにて溶媒や残存モノマー等の揮発性成分を揮発除去させる。
【0058】
揮発除去装置を直列に接続し、2段以上に並べる方法も効果的である。また、1段目と2段目の間に水を添加して2段目のモノマーの揮発能力を高める方法も利用できる。フラッシングタンクで揮発成分の除去後、残余の揮発成分を除去するため、さらにベント付き押出機を用いることもできる。溶媒を除去されたスチレン系共重合体は公知の方法でペレット状に仕上げることができる。
【0059】
本発明では、ペレット状のスチレン系共重合体中に残存する単量体および重合溶媒の総質量が500ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、400ppm以下である。
【0060】
本発明のスチレン系共重合体には、必要により熱的、機械的安定性、流動性、着色性を改良する目的で、スチレン系樹脂で用いられている公知の化合物を添加することができる。その例として、一次酸化防止剤として、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスト-ルテトラキス[-(3,5-ジt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドキシフェニル)プロピオネート、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2[1-(2-ヒドロキシ3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、テトラキス[メチレン3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9ビス[2-{3-(t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキザ[5,5]ウンデカン、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-s-トリアジン-2,4,6(1H,2H,3H)-トリオン、1,1,4-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等の2,4,6-3置換フェノール類が挙げられる。
【0061】
また、二次酸化防止剤としてリン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、耐候剤としてヒンダードアミンの安定剤、UV吸収剤を添加することも可能である。その他、ミネラルオイル等の可塑剤、長鎖脂肪族カルボン酸及び/又はその金属塩等の滑剤、着色性改良として有機染料、有機顔料を添加することも可能である。
【0062】
着色性改良用のアンスラキノン系の有機染料は、共重合体の熱安定性を損なうことが少ないため特に好ましい。
【0063】
シリコーン系、フッ素系の離型剤、帯電防止剤などもスチレン系樹脂で利用されている公知の技術をそのまま応用することができる。
【0064】
これらの安定剤は、重合が完結した後のポリマー溶液の中に添加して混合するか又はポリマー回収後押出機を使って溶融混合することができる。
【0065】
本発明のスチレン系共重合体は、加工方法としては安価に大量生産が可能な溶融加工法がよく、射出成形、押出成形、発泡押出成形、ブロー成形などが好適に使用できる。
【0066】
また本発明のスチレン系共重合体は、透明性、耐熱性、耐候性、寸法安定性、剛性が優れた材料であるので、光学用部品として好適に利用される。光学用部品としては、例えば、導光板、拡散板、反射板、反射フィルム、反射防止フィルム、偏光板、偏光フィルム、位相差フィルム、レンズ、フレネルレンズなどが挙げられる。
これらの光学部品は、液晶ディスプレイやプロジェクターの大型化に伴い、従来以上に寸法安定性と高い加工性が要求され、更に光源に近いところで使用されるため耐光性と耐熱性も益々重要視される。本発明のスチレン系共重合体は、従来の問題点を一挙に解決し今後の性能ニーズを満足し得る優れた材料であり、加温用食品容器、住宅用部品、自動車室内用部品、光学用部品の各用途以外にも利用できる用途は数多くあると期待できる。
【実施例0067】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明の態様を具体的に説明する。しかし、これらは例であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0068】
実施例及び比較例において用いた分析・評価方法について述べる。
【0069】
<分析・評価方法>
(1)フィード液中の特定化合物の含有量
フィード液中のアセトニルアセトン、ベンズアルデヒド、フェニルアセチレンをガスクロマトグラフィー(装置:島津製作所(株)製GC-14A、カラム:DB-WAX 30m)にて定量した。
【0070】
(2)ペレット中の残存揮発分(単量体および重合溶媒の総質量)
島津製作所社製のGC-MSを使って以下の条件で測定した。
機器:GC-2010、MS-QP2010、ヘッドスペースサンプラー付き
カラム:Rtx-1、0.25mm、1.00μm、60m(島津ジーエルシー社製)
温度条件:60℃で2分保持後、10℃/分で145℃まで昇温し、その後3℃/分で160℃まで昇温した。
測定サンプルの作製:ポリマー0.4gを専用バイアル瓶に入れ、DMF10mlと内部標準(n-ノナン)の入ったクロロホルムを1ml加えて密栓して試料を溶解後、樹脂中の微量単量体とシクロヘキサン(重量ppm)を測定した。
検量線は、スチレン、α-メチルスチレン、シクロヘキサンを使って作成した。
【0071】
(3)分子量測定(Mn、Mw、Mw/Mn)
東ソー(株)製のHLC-8220にカラム(TSKgel SuperHZM-H、40℃)を2本接続し、RI検出器が取り付けてあるSEC装置で測定した。移動相はTHFを用いた。分子量の計算は、ポリスチレンスタンダード(東ソー(株)製)を使って検量線を作成し、ポリスチレン換算にて行った。
【0072】
(4)ガラス転移温度(Tg)
パーキンエルマー(株)製のDSC-7を使って、JIS-K-7121に準拠して求めた。具体的には、窒素下、10℃/minで室温から250℃まで昇温し、その後10℃/minで室温まで戻し、再び10℃/minで250℃まで昇温した。2度目の昇温過程で測定されるガラス転移温度をTgとした。
【0073】
(5)スチレン系共重合体中のα-メチルスチレンの組成
BRUKER社製のNMR(DPX-400)を使って求めた。スチレン系共重合体中のα-メチルスチレンの組成(質量%)を、スチレン系共重合体の1H-NMRを測定し、メチル、メチレン、メチンのピーク面積比から計算で求めた。
【0074】
(6)射出成形方法
PNX60(日精樹脂工業(株)製)を使って次の条件で成形した。シリンダー温度は、ホッパー側から215℃、225℃、230℃、230℃に設定した。金型温度は、50℃、射出時間を10秒、冷却時間を10秒に設定した。溶融樹脂は、樹脂が金型に充填する射出圧力に、更に5MPa高い圧力を加えて充填した。試験片の形状は、80mm×80mm×3mmの平板形状で、耐候性試験用サンプルとして用いた。
【0075】
(7)全光線透過率Tt
へイズガードII((株)東洋精機製作所製)を用い、ASTM D1003準拠 光源D65の条件で測定した。
【0076】
(8)黄色度Yi
SD6000(日本電色工業(株)製)を用い、光源:D65、視野:10°の条件で測定した。
【0077】
(9)耐候性評価(SWOM照射試験)
デューサイクルサンシャインウェザーメーター S80DHBBR型(スガ試験機(株)製)を用い、光源:サンシャインカーボンアーク、ブラックパネル温度63℃、降雨条件18min/120minで照射を行い、照射前および1000時間照射後の全光線透過率Ttおよび黄色度Yiを測定した。
【0078】
[製造例]
(1)原料
スチレン(St)とシクロヘキサン(CH:出光興産(株)製)は貯蔵タンクに溜め窒素バブリングした後に、溶液を活性アルミナ(住化アルケム(株)製KHD-24)を充填した5L容積の精製塔内を通過させて精製した。なお、Stとしては、住友化学(株)製と台湾化学繊維社製を使用した。
【0079】
α-メチルスチレン(αMeSt)は下記の条件で精製した。なお、αMeStとしては、三井化学(株)社製と信昌化学工業社製を使用した。
【0080】
<αMeSt精製方法>
蒸留は単蒸留にて行った。具体的には、回転子入り300ml反応釜フラスコに液温測定用の温度計を付け、そこへ蒸気温度測定用の温度計を付けたクライゼンヘッド、リービッヒ冷却器、二又アダプター、受けフラスコをつないだ。さらに、アダプター部にバキュームコントローラー((株)岡野製作所製、VC-30S)を介して真空ポンプを接続し、減圧度を調節できるようにした。熱源はオイルバスを用いた。
【0081】
αMeSt200mlを反応釜フラスコに入れ、液温を80℃に昇温した。その後、塩基性物質としてナトリウムエトキシド(20質量%エタノール溶液、富士フィルム和光純薬(株)製)0.08質量%を反応釜フラスコ内に回転子で攪拌しながら添加した。減圧度を230mmHgに調節し、液温が120℃~125℃になるまでゆっくり昇温した。
【0082】
昇温中に沸点に達し、冷却された低沸点留分は初留分として回収した。
液温が120℃~125℃に達し、蒸気温度も120℃~125℃に達した時点を主留分として回収した。
なお主留分は10留分に分割して回収し、実施例ではアセトニルアセトンの含有量が2ppm以下、ベンズアルデヒドの含有量が10ppm以下、かつフェニルアセチレンの含有量が15ppm以下である留分のみを使用した。
【0083】
(2)フィード液の調整
前記(1)の方法で精製した原料をSt/αMeSt/CH=12.5/19.5/68(wt%)の比率で混合し、重合に供するフィード液とした。
【0084】
(3)開始剤
n-ブチルリチウム(15wt%のn-ヘキサン溶液、和光純薬株式会社製)を1/61倍にシクロヘキサンで希釈した。
【0085】
(4)停止剤
メタノール(特級、和光純薬(株)製)を3wt%の濃度になる様にシクロヘキサンで希釈した。
【0086】
(5)重合方法
重合反応器は、攪拌翼(住友重機(株)製マックスブレンド翼)とコンデンサーが取り付けられ、更に原料導入ノズル、開始剤導入ノズルと重合溶液排出ノズルが付いたジャケット付5Lの反応器(R1)を用いた。コンデンサーの出口は、窒素ガスでシールし、外部から空気が混入しないようにした。重合反応器内の重合溶液の容量は、常に3Lとなる様に制御した。重合溶液からは常に溶液の一部が沸騰している状態にし、内温を79℃~81℃の間に制御した。攪拌翼の回転数は320rpmとした。重合反応器の原料入口と出口にはそれぞれギアポンプが取り付けられており、調整済みのフィード液を1.5L/Hrの一定流量で流せるように制御した。また、開始剤溶液は、0.09L/Hrで重合反応器内へ導入した。
【0087】
重合反応器から排出されたリビングポリマーの溶液は、更にギアポンプで10mm径の配管を通じて重合停止剤溶液の導入口まで導いた。反応器から停止剤混合点までの配管の長さは約2m、配管は65~70℃で保温した。停止剤溶液は、0.13L/Hrでの流速で重合反応液内に導入し、その後は、1.2L容量の静的ミキサー(Sulzer(株)製、SMX型)を経て完全に重合反応を停止させた。更に、ポリマー溶液は予熱器で260℃まで加熱し、その後60torrの減圧下、設定260℃に加温された約50Lの容器内へフラッシングし、溶媒と未反応モノマーをポリマーから分離、回収した。フラッシング容器内のポリマー温度は、約240~250℃、ポリマーのタンク内の滞留時間は、約20~30分であった。充分に揮発成分が除去されたポリマーは、その後、ロープ状に排出され水中下で冷却後、カッターでペレタイズ化しスチレン系共重合体を回収した。
【0088】
[実施例1~3、比較例1~3]
原料ロットを変えて調整したフィード液を重合して得られたペレットを使用して、種々の分析・評価を実施した。その結果を表1および表2に示す。なお、得られた共重合体中のαMeSt単位の組成は、52質量%であった。
【0089】
【0090】
【0091】
表1および表2から明らかなように、本発明のスチレン系共重合体は、耐候性に優れることがわかる。
本発明のスチレン系共重合体は、重合に供するフィード液中の特定の化合物の含有量を特定の範囲に制御することによって、耐候性に優れた特性を有する。また、本発明のスチレン系共重合体を含有する成形品は、加温用食品容器、住宅用部品、自動車室内用部品、光学用部品として極めて好適に使用できる。