(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048086
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】二次電池用電極、二次電池用電極の製造方法、二次電池用電極の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240401BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240401BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240401BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153941
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】中村 優太
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA09
5H050EA26
5H050EA27
5H050EA28
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050GA28
5H050GA30
5H050HA00
5H050HA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所定の品質を好適に確保可能である、2層構造の電極材層を含む二次電池用電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態では、基材10に2層の電極材スラリー40を同時塗工する塗工工程を含み、少なくとも下層の電極材スラリー20が蛍光材22を含み、前記塗工工程時に前記2層の電極材スラリー40へのX線照射を行い、前記X線照射により発光する前記2層の電極材スラリー40の蛍光発光強度の分布と、事前算出した前記下層の電極材スラリー20の蛍光発光強度と膜厚との関係式とに基づき、前記塗工工程時における前記下層の電極材スラリーの膜厚T1を算出可能となっている、二次電池用電極の製造方法が提供される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に2層の電極材スラリーを同時塗工する塗工工程を含み、少なくとも下層の電極材スラリーが蛍光材を含み、
前記塗工工程時に前記2層の電極材スラリーへのX線照射を行い、
前記X線照射により発光する前記2層の電極材スラリーの蛍光発光強度の分布と、事前算出した前記下層の電極材スラリーの蛍光発光強度と膜厚との関係式とに基づき、前記塗工工程時における前記下層の電極材スラリーの膜厚を算出可能となっている、二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記塗工工程時における前記2層の電極材スラリーの全厚を測定し、前記2層の電極材スラリーの全厚の測定値と前記塗工工程時における前記下層の電極材スラリーの膜厚の算出値との差分から、上層の電極材スラリーの膜厚を算出する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記2層の電極材スラリーの蛍光発光強度に基づき、前記塗工工程時に前記下層の電極材スラリーの塗工量を変更制御する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記上層の電極材スラリーの膜厚に基づき、前記塗工工程時に前記上層の電極材スラリーの塗工量を変更制御する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記2層の電極材スラリーを同時塗工する前にて、前記下層の電極材スラリーの単独塗工を行い、該単独塗工時にて前記下層の電極材スラリーの蛍光発光強度と膜厚を連続的に測定し、所定の関数を用いて該蛍光発光強度と膜厚の平均化を実施して、前記関係式を事前算出する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記上層の電極材スラリーおよび前記下層の電極材スラリーがそれぞれ電極活物質を含み、前記下層の電極材スラリーに含まれる電極活物質が前記上層の電極材スラリーに含まれる電極活物質よりも小さい、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記下層の電極材スラリーのみが前記蛍光材を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記下層の電極材スラリーが上層の電極材スラリーよりも相対的に多くの前記蛍光材を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
2層の電極材層を含み、少なくとも下層の電極材層が電極活物質および蛍光材を含む、二次電池用電極。
【請求項10】
上層の電極材層および前記下層の電極材層がそれぞれ電極活物質を含み、前記下層の電極材層に含まれる電極活物質が前記上層の電極材層に含まれる電極活物質よりも小さい、請求項9に記載の電極。
【請求項11】
請求項9に記載の二次電池用電極を含む二次電池。
【請求項12】
少なくとも下層の電極材スラリーが蛍光材を含む、2層の電極材スラリーを基材に同時塗工可能とするコーター部、
前記電極材スラリーに対してX線を照射する照射部、
前記X線の照射により発光する前記電極材スラリーの蛍光発光強度を検出する検出部、および
前記電極材スラリーの膜厚を測定可能な膜厚測定部
を含む、二次電池用電極の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極、二次電池用電極の製造方法、二次電池用電極の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充電および放電の繰返しが可能であり、様々な用途に用いられている。例えば、携帯電話、スマートフォンおよびノートパソコンなどのモバイル機器に二次電池が用いられている。
【0003】
二次電池としては、外装体に、正極、負極およびそれらの間にセパレータを含む電極組立体が収納される共に電解液が注入されたものが用いられ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、電極(正極/負極)として、2層構造の電極材層を含むものが用いられる場合がある。かかる電極の製法としては、集電体となる基材(金属箔)に電極材スラリーをwet on wet方式にて2層塗布する工程が含まれる。電極の品質を担保する上で電極材層または電極材スラリーの面積密度の管理が重要とされているところ、この面積密度を間接的に示すものとして製造時における電極材スラリーの膜厚がある。
【0006】
しかしながら、この電極材スラリーについては、2層塗布を行う場合、全体の膜厚を把握することは可能である一方、2層の電極材スラリーの各々の膜厚を把握することは難しい。そのため、2層塗布を行う場合に、各電極材スラリーにつき所望量を好適に確保することができず、結果として、得られる電極の品質を担保しにくくなる。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、所定の品質を好適に確保可能である、2層構造の電極材層を含む二次電池用電極、その製造方法、およびその製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
基材に2層の電極材スラリーを同時塗工する塗工工程を含み、少なくとも下層の電極材スラリーが蛍光材を含み、
前記塗工工程時に前記2層の電極材スラリーへのX線照射を行い、
前記X線照射により発光する前記2層の電極材スラリーの蛍光発光強度の分布と、事前算出した前記下層の電極材スラリーの蛍光発光強度と膜厚との関係式とに基づき、前記塗工工程時における前記下層の電極材スラリーの膜厚を算出可能となっている、二次電池用電極の製造方法が提供される。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
2層の電極材層を含み、少なくとも下層の電極材層が電極活物質および蛍光材を含む、二次電池用電極が提供される。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
少なくとも下層の電極材スラリーが蛍光材を含む、2層の電極材スラリーを基材に同時塗工可能とするコーター部、
前記電極材スラリーに対してX線を照射する照射部、
前記X線の照射により発光する前記電極材スラリーの蛍光発光強度を検出する検出部、および
前記電極材スラリーの膜厚を測定可能な膜厚測定部
を含む、二次電池用電極の製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、2層構造の電極材層を含む二次電池用電極において、所定の品質を好適に確保可能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造方法(基材の配置)を説明するための模式的断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造方法(下層の電極材スラリーの塗工)を説明するための模式的断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造方法(2層同時塗工)を説明するための模式的断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極を示す模式的断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の別の実施形態に係る二次電池用電極の製造方法(2層同時塗工)を説明するための模式的断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造装置を示す模式的断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造方法における電極材スラリーの塗工工程に関するフローチャートである。
【
図8】
図8は、従来の二次電池用電極を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の一実施形態について具体的に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観または寸法比などは実物と異なり得る。
【0014】
本明細書で直接的または間接的に説明される“上下方向”および“左右方向”は、図中における上下方向および左右方向に相当する。また、本明細書で直接的または間接的に説明される「断面視」は、二次電池用電極の積層方向に沿った断面に基づいている。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材もしくは部位または同じ意味内容を示すものとする。
【0015】
[二次電池の基本的構成]
まず、二次電池の基本的構成について説明する。本明細書でいう「二次電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な電池のことを指している。従って、二次電池は、その名称に過度に拘泥されるものでなく、例えば蓄電デバイスなども対象に含まれ得る。
【0016】
二次電池は、正極、負極およびセパレータを含む電極構成層を備える電極組立体を備える。電極組立体としては、電極構成層が巻回状に巻かれた巻回構造を有する電極巻回体および/または電極構成層が積層方向にそって複数積層された電極積層体が挙げられる。二次電池では、このような電極組立体が電解質(例えば非水電解質)と共に外装体に封入される。
【0017】
正極は、正極側の集電体および正極側の集電体の主面に塗工された正極材層を含む。正極では、正極側の集電体の少なくとも片面に正極材層が設けられており、正極材層には、電極活物質として正極活物質が含まれている。
【0018】
負極は、負極側の集電体および負極側の集電体の主面に塗工された負極材層を含む。負極では、負極側の集電体の少なくとも片面に負極材層が設けられており、負極材層には、電極活物質として負極活物質が含まれている。
【0019】
正極および負極に含まれる電極活物質、即ち、正極活物質および負極活物質は、二次電池において電子の受け渡しに直接関与する物質であり、充放電、すなわち電池反応を担う正負極の主物質である。より具体的には、「正極材層に含まれる正極活物質」および「負極材層に含まれる負極活物質」に起因して電解質にイオンがもたらされ、かかるイオンが正極と負極の間で移動して電子の受け渡しが行われて充放電がなされる。
【0020】
正極材層および負極材層は特にリチウムイオンを吸蔵放出可能な層であってよい。つまり、二次電池は、非水電解質を介してリチウムイオンが正極と負極との間で移動して電池の充放電が行われる非水電解質二次電池となっていてよい。充放電にリチウムイオンが関与する場合、二次電池は、いわゆる“リチウムイオン電池”に相当し、正極および負極がリチウムイオンを吸蔵放出可能な層を有する。
【0021】
正極材層の正極活物質は例えば粒状体から構成されるところ、粒子同士のより十分な接触と形状保持のためにバインダーが正極材層に含まれていてよい。更には、電池反応を推進する電子の伝達を円滑にするために導電助剤が正極材層に含まれていてもよい。同様にして、負極材層の負極活物質は例えば粒状体から構成されるところ、粒子同士のより十分な接触と形状保持のためにバインダーが含まれてよく、電池反応を推進する電子の伝達を円滑にするために導電助剤が負極材層に含まれていてもよい。このように、複数の成分が含有されて成る形態ゆえ、正極材層および負極材層はそれぞれ“正極合材層” および“負極合材層”などと称すこともできる。
【0022】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であってよい。かかる観点でいえば、正極活物質は例えばリチウム含有複合酸化物であってよい。より具体的には、正極活物質は、リチウムと、コバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄から成る群から選択される少なくとも1種の遷移金属とを含むリチウム遷移金属複合酸化物であってよい。つまり、二次電池の正極材層においては、そのようなリチウム遷移金属複合酸化物が正極活物質として含まれていてよい。例えば、正極活物質はコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、または、それらの遷移金属の一部を別の金属で置き換えたものであってよい。このような正極活物質は、単独種として含まれてよいものの、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0023】
正極材層に含まれ得るバインダーとしては、特に制限されるわけではないが、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体およびポリテトラフルオロエチレンなどから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。正極材層に含まれ得る導電助剤としては、特に制限されるわけではないが、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維等の炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末、ならびに、ポリフェニレン誘導体などから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0024】
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であってよい。かかる観点でいえば、負極活物質は例えば各種の炭素材料、酸化物および/またはリチウム合金などであってよい。
【0025】
負極活物質の各種の炭素材料としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、ハードカーボン、ソフトカーボン、ダイヤモンド状炭素などを挙げることができる。特に、黒鉛は電子伝導性が高く、負極側の集電体との接着性が優れる。負極活物質の酸化物としては、酸化シリコン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化リチウムなどから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。負極活物質のリチウム合金は、リチウムと合金形成され得る金属であればよく、例えば、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、Laなどの金属とリチウムとの2元、3元または、それ以上の合金であってよい。このような酸化物は、その構造形態としてアモルファスとなっていてよい。結晶粒界または欠陥といった不均一性に起因する劣化が引き起こされにくくなるためである。
【0026】
負極材層に含まれ得るバインダーとしては、特に制限されるわけではないが、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド系樹脂およびポリアミドイミド系樹脂から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。負極材層に含まれ得る導電助剤としては、特に制限されるわけではないが、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維等の炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末、ならびに、ポリフェニレン誘導体などから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。なお、負極材層には、電池製造時に使用された増粘剤成分(例えばカルボキシルメチルセルロース)に起因する成分が含まれていてもよい。
【0027】
正極および負極に用いられる正極側の集電体および負極側の集電体は電池反応に起因して活物質で発生した電子を集めたり供給したりするのに資する部材である。このような集電体は、シート状の金属部材であってよく、多孔または穿孔の形態を有していてよい。例えば、集電体は金属箔、パンチングメタル、網またはエキスパンドメタル等であってよい。正極に用いられる正極側の集電体は、アルミニウム、ステンレスおよびニッケル等から成る群から選択される少なくとも1種を含んだ金属箔から成るものであってよく、例えばアルミニウム箔であってよい。一方、負極に用いられる負極側の集電体は、銅、ステンレスおよびニッケル等から成る群から選択される少なくとも1種を含んだ金属箔から成るものであってよく、例えば銅箔であってよい。
【0028】
正極および負極の間に用いられるセパレータは、正負極の接触による短絡防止および電解質保持などの観点から設けられる部材である。換言すれば、セパレータは、正極と負極との間の電子的接触を防止しつつイオンを通過させる部材であるといえる。例えば、セパレータは多孔性または微多孔性の絶縁性部材であり、その小さい厚みに起因して膜形態を有している。あくまでも例示にすぎないが、ポリオレフィン製の微多孔膜がセパレータとして用いられてよい。この点、セパレータとして用いられる微多孔膜は、例えば、ポリオレフィンとしてポリエチレン(PE)のみ、または、ポリプロピレン(PP)のみを含んだものであってよい。更にいえば、セパレータは、“PE製の微多孔膜”と“PP製の微多孔膜 ”とから構成される積層体であってもよい。セパレータの表面が無機粒子コート層や接着層等より覆われていてもよい。セパレータの表面が接着性を有していてもよい。なお、セパレータは、その名称によって特に拘泥されるべきでなく、同様の機能を有する固体電解質、ゲル状電解質、絶縁性の無機粒子などであってもよい。
【0029】
正極および負極がリチウムイオンを吸蔵放出可能な層を有する場合、電解質は有機電解質・有機溶媒などの“非水系”の電解質であってよい。すなわち、電解質が非水電解質となっていてよい。電解質には電極(正極・負極)から放出された金属イオンが存在することになり、それゆえ、電解質は電池反応における金属イオンの移動を助力することになる。
【0030】
非水電解質は、溶媒と溶質とを含む電解質である。具体的な非水電解質の溶媒としては、少なくともカーボネートを含んで成るものであってよい。かかるカーボネートは、環状カーボネート類および/または鎖状カーボネート類であってもよい。特に制限されるわけではないが、環状カーボネート類としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)およびビニレンカーボネート(VC)から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。鎖状カーボネート類としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジプロピルカーボネート(DPC)から成る群から選択される少なくも1種を挙げることができる。あくまでも例示にすぎないが、非水電解質として環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組合せが用いられてよく、例えばエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物を用いてよい。また、具体的な非水電解質の溶質としては、例えば、LiPF6および/またはLiBF4などのLi塩が用いられてよい。
【0031】
正極用集電リードおよび負極用集電リードとしては、二次電池の分野で使用されているあらゆる集電リードが使用可能である。そのような集電リードは、電子の移動が達成され得る材料から構成されればよく、例えばアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレスなどの導電性材料から構成される。正極用集電リードはアルミニウムから構成されることが好ましく、負極用集電リードはニッケルから構成されることが好ましい。正極用集電リードおよび負極用集電リードの形態は特に限定されず、例えば、線又はプレート状であってよい。
【0032】
外部端子としては、二次電池の分野で使用されているあらゆる外部端子が使用可能である。そのような外部端子は、電子の移動が達成され得る材料から構成されればよく、通常はアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレスなどの導電性材料から構成される。外部端子5は、基板と電気的かつ直接的に接続されてもよいし、または他のデバイスを介して基板と電気的かつ間接的に接続されてもよい。なお、これに限定されず、複数の正極の各々と電気的に接続される正極用集電リードが正極用外部端子の機能を備えていてよく、また、複数の負極の各々と電気的に接続される負極用集電リードは負極用外部端子の機能を備えていてよい。
【0033】
外装体は、導電性ハードケース又はフレキシブルケース(パウチ等)の形態を有していてよい。導電性ハードケースは、本体部および蓋部からなっている。本体部は当該外装体の底面を構成する底部および側面部から成る。本体部と蓋部とは、電極組立体、電解質、集電リードおよび外部端子の収容後に密封される。密封方法としては、特に限定されるものではなく、例えばレーザー照射法等が挙げられる。本体部および蓋部を構成する材料としては、二次電池の分野でハードケース型外装体を構成し得るあらゆる材料が使用可能である。そのような材料は電子の移動が達成され得る材料であればよく、例えばアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレスなどの導電性材料が挙げられる。本体部および蓋部の寸法は、主として電極組立体の寸法に応じて決定され、例えば電極組立体を収容したとき、外装体内での電極組立体の移動(ズレ)が防止される程度の寸法を有することが好ましい。電極組立体の移動を防止することにより、電極組立体の破壊が防止され、二次電池の安全性が向上する。
【0034】
フレキシブルケースは、軟質シートから構成される。軟質シートは、シール部の折り曲げを達成できる程度の軟質性を有していればよく、好ましく可塑性シートである。可塑性シートは、外力を付与した後、除去したとき、外力による変形が維持される特性を有するシートのことであり、例えば、いわゆるラミネートフィルムが使用できる。ラミネートフィルムからなるフレキシブルパウチは例えば、2枚のラミネートフィルムを重ね合わせ、その周縁部をヒートシールすることにより製造できる。ラミネートフィルムとしては、金属箔とポリマーフィルムを積層したフィルムが一般的であり、具体的には、外層ポリマーフィルム/金属箔/内層ポリマーフィルムから成る3層構成のものが例示される。外層ポリマーフィルムは水分等の透過および接触等による金属箔の損傷を防止するためのものであり、ポリアミドおよびポリエステル等のポリマーが好適に使用できる。金属箔は水分およびガスの透過を防止するためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。内層ポリマーフィルムは、内部に収納する電解質から金属箔を保護するとともに、ヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィンまたは酸変性ポリオレフィンが好適に使用できる。
【0035】
[二次電池の基本的な製造方法]
以下、二次電池の基本的な製造方法について説明する。二次電池の製法では、正極、負極、電解液およびセパレータをそれぞれに作製、調製した後、それらを一体化して組み合わせることで二次電池を得ることができる。
【0036】
(正極の作製)
正極の作製では、まず、正極材層形成原料、すなわち電極材層形成原料を調製する。正極材層形成原料は正極材スラリーであってよい。正極材スラリーは、正極活物質、有機溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)、およびバインダー(例えばポリフッ化ビニリデン)を含む電極材層形成原料である。正極材スラリーは、正極導電剤(例えば黒鉛、グラファイト)を更に含み得る。その後、コーティング装置を用いて、正極材スラリーを正極集電体として用いられる金属シート材(例えば、アルミニウム箔)の主面に塗布する(塗工工程)。正極集電体としては、特に限定されるものではないが、例えば厚さ10~30μmのアルミニウム箔であってよい。その後、塗布した正極材層スラリーを乾燥させ、その後ロールプレス機を用いて加圧および/または圧縮をすることで、最終的に正極材層を形成することができる。
【0037】
これにより、正極前駆体、すなわち、電極前駆体が得られる。特に、金属シート材は、帯状に長い形状を有していることが好ましく、そのような長尺状の金属シートに対して正極材スラリーを塗布する。塗布するエリアは、長尺状の金属シートの全領域ではなく、金属シート材の両幅方向の周縁部分などには塗布されない特定のエリアであることが好ましい。
【0038】
得られる正極前駆体(特に帯状に長い正極前駆体)は、次工程に供されるまで、必要に応じてロール状に巻かれるなどして保管されたり、適宜運搬などに付されたりする。そして、次工程では、正極前駆体から複数の正極を得るべく切り出しが行われる(切り出し工程)(ロール状に巻かれていた場合では展開した後で切り出しが行われる)。例えば、正極前駆体を機械的な切断に付すことによって正極前駆体(特に「正極材スラリーが塗布された部分」)から正極の切り出しを行う。
【0039】
(負極の作製)
負極の作製は、正極の作製と同様である。負極の作製では、まず、負極材層形成原料、すなわち電極材層形成原料を調製する。負極材層形成原料は負極材スラリーであってよい。負極材スラリーは、負極活物質、バインダー(例えばポリフッ化ビニリデン)および有機溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)を含む電極材層形成原料である。その後、コーティング装置を用いて、負極材スラリーを負極集電体として用いられる金属シート材(例えば、銅箔)の主面に塗布する(塗工工程)。その後、塗布した負極材層スラリーを乾燥させ、その後ロールプレス機を用いて加圧および/または圧縮をすることで、最終的に負極材層を形成することができる。
【0040】
得られる負極前駆体(特に帯状に長い負極前駆体)は、次工程に供されるまで、必要に応じてロール状に丸められるなどして保管されたり、適宜運搬などに付されたりする。そして、次工程では、負極前駆体から複数の負極を得るべく切り出しが行われる(切り出し工程)(ロール状に巻かれていた場合では展開した後で切り出しが行われる)。例えば、負極前駆体を機械的な切断に付すことによって負極前駆体(特に「負極材スラリーが塗布された部分」)から負極の切り出しを行う。
【0041】
(電解質の調製)
電池使用時にて正極・負極間のイオン移動を担うことになる電解質を調製する(リチウムイオン電池の場合、特に非水電解質を調製することになる)。よって、そのような電解質となる原料を混合して所望の電解質を調製する。なお、電解質は二次電池に使用される常套的な電解質であってよく、それゆえ、その原料も二次電池の製造に常套的に使用されるものを用いてよい。
【0042】
(セパレータの準備)
セパレータは常套的なものであってよく、それゆえ、二次電池として常套的に使用されるものを用いてよい。
【0043】
二次電池は、以上のように作製、調製された正極、負極、電解液およびセパレータを一体的に組み合わせて電極組立体を形成し、かかる電極組立体を電解質と共に外装体に封入することによって二次電池を得ることができる。
【0044】
[本発明の特徴部分]
上記の二次電池の基本的構成およびその基本的な製造方法をふまえ、以下、本発明の特徴部分について説明する。本発明では、基材(金属シート材に相当)に2層の電極材スラリーを同時塗工する塗工工程(即ち、2層同時塗工工程)を経て、得られる二次電池用電極を2層構造の電極材層を含む構成とすることを前提とする。なお、本明細書にて「2層の電極材スラリー」は、電極材スラリーが積層構造を採るため、電極材スラリー積層体とも称し得る。
【0045】
上記のとおり、電極の品質を担保する上での指標となる「電極材層の面積密度」を間接的に示すものとして、電極製造時における電極材スラリーの膜厚がある。この電極材スラリーの膜厚については、2層塗布を行う場合にて、全体の膜厚を把握することは可能である一方、2層の電極材スラリーの各々の膜厚を把握することは難しい状況にある。
【0046】
この点につき、本願発明者は、2層の電極材スラリーの各々の膜厚を把握可能とするための解決策について鋭意検討し、その結果、2層の電極材スラリーのうち少なくとも下層の電極材スラリーに蛍光材を含めることを案出した。
【0047】
その上で、本発明では、上記の2層同時塗工工程時に2層の電極材スラリーへのX線照射を行い、X線照射により発光する2層の電極材スラリーの蛍光発光強度の分布と、事前算出した下層の電極材スラリーの蛍光発光強度と膜厚との関係式とに基づき、2層同時塗工工程時における下層の電極材スラリーの膜厚を算出する。
【0048】
これにより、2層同時塗工工程時における下層の電極材スラリーの膜厚が求まるため、従前より実施されている2層の電極材スラリー(即ち電極材スラリー積層体)の全厚を測定することで、「2層の電極材スラリーの全厚の測定値」と「上記2層同時塗工工程時における下層の電極材スラリーの膜厚の算出値」との差分から、上層の電極材スラリーの膜厚を算出可能となる。
【0049】
その結果、算出された上層の電極材スラリーの膜厚および/または下層の電極材スラリーの膜厚が所定の規定範囲内にない場合、各スラリーを吐出するための対応する供給ポンプの回転数を調整する(具体的には回転数を上げるまたは回転数を下げる)ことで、2層同時塗工工程の途中にて各スラリーの吐出量、即ち塗工量を調整することができる。また、2層の電極材スラリーの蛍光発光強度自体が所定の規定範囲内にない場合にも、2層同時塗工工程時に下層の電極材スラリーの塗工量を変更制御することもできる。
【0050】
以上により、上層電極材スラリーおよび下層電極材スラリーにつき所望量をそれぞれ供給することができ、各スラリーの膜厚管理を好適に行うことができる。この事は、電極材スラリーの膜厚と間接的に関連し得る電極材スラリー、すなわち電極材層の面積密度を好適に確保可能となることを意味する。従って、本発明の一実施形態によれば、最終的に得られる二次電池用電極の品質を好適に確保することが可能となる。
【0051】
なお、後述するが、事前算出した下層の電極材スラリーの蛍光発光強度と膜厚との関係式に基づく、下層の電極材スラリーの膜厚の算出を容易にする点で、下層の電極材スラリーに含まれる蛍光材に基づく同スラリーの発光強度と、同時2層塗工時の電極材スラリー積層体の発光強度とは略同一にすることが好ましい。かかる観点から、下層の電極材スラリーのみが蛍光材を含み得る。
【0052】
これに限定されることなく、蛍光材の発光強度の分布に違いがあれば、上層の電極材スラリーと下層の電極材スラリーとの境界線を識別可能である。そのため、発光強度を相対的に大きくする点もふまえ、下層の電極材スラリーは上層の電極材スラリーよりも相対的に多くの蛍光材を含むこともできる。
【0053】
また、下層の電極材スラリーの発光強度を大きくするためには、所定領域に占める蛍光材の量を増やすことが好ましい。かかる事項を好適に実現するため、下層の電極材スラリーに含まれる電極活物質を上層の電極材スラリーに含まれる電極活物質よりも小さくすることが好ましい。
【0054】
そして、従来の2層構造の電極材層を備える二次電池用電極の構成(
図8参照)と比べて、最終的に得られる本発明の一実施形態に係る二次電池用電極は、少なくとも下層の電極材層20Xが電極活物質21に加え蛍光材22を含む点でも特徴を有する(
図4参照)。
【0055】
用いられ得る蛍光材としては、フルオレッセイン系、クマリン系、オキサゾール系、ピラゾリン系、チアジアゾール系、スピロピラン系、ピレンスルホン酸系、ベンゾイミダゾール系、ジアミノスチルベン系等の周知の蛍光顔料を用いることができる。かかる蛍光材をスラリー材内に投入し、ミキサー、例えばプラネタリーミキサーで分散させることで、最終的に本実施形態で用いるスラリーを得ることができる。
【0056】
最終的に得られる電極材層に含まれる電極活物質の大きさの大小関係についても上記の電極材スラリーの場合と同様に、下層の電極材層20Xに含まれる電極活物質21が上層の電極材層30Xに含まれる電極活物質31よりも小さいという特徴を有し得る。
【0057】
以下では、図面を参照しながら、本発明の二次電池用電極の製造方法における電極材スラリーの塗工態様についてより具体的に説明する。
【0058】
図1は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造方法(基材の配置)を説明するための模式的断面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造方法(下層の電極材スラリーの塗工)を説明するための模式的断面図である。
図3は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造方法(2層同時塗工)を説明するための模式的断面図である。
【0059】
図5は、本発明の別の実施形態に係る二次電池用電極の製造方法(2層同時塗工)を説明するための模式的断面図である。
図6は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造装置を示す模式的断面図である。
図7は、本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造方法の電極材スラリーの塗工に関するフローチャートである。なお、
図6は、理解を促す観点から、基材上への2層の電極材スラリーの塗布が既になされている状態を示している。
【0060】
本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造装置100は、少なくとも下層の電極材スラリー20が蛍光材を含む、2層の電極材スラリー40を基材10に同時塗工可能とするコーター部F、電極材スラリー20、40に対してX線を照射する照射部X、X線の照射により発光する電極材スラリー20、40の蛍光発光強度を検出する検出部D、および電極材スラリー20、40の膜厚を測定可能な膜厚測定部L1、L2を含む(
図6参照)。
【0061】
コーター部Fは2層塗工可能なダイヘッドを備え、このダイヘッドに、制御部と電気接続された上層スラリー供給ポンプおよび下層スラリー供給ポンプが接続している。照射部X、検出部D、膜厚測定部L1、L2は、演算部Bと接続された制御部A、Cと電気接続され、必要時にそれぞれ動作可能に制御されている。また、二次電池用電極の製造装置100は、基材10に塗工された2層の電極材スラリー40を乾燥させるための乾燥炉E、および基材10を流れ方向に移動させるためのロールGを更に含み得る。
【0062】
以上のような構成に基づき、
図7に示すフローに沿った対応を実施する。なお、上述のとおり、本発明では、基材10上への電極材スラリーの2層同時塗工の実施を行うことを前提とするところ、留意すべき事項としては、基材10上への電極材スラリーの2層同時塗工の実施前において、下層の電極材スラリー20の蛍光発光強度と膜厚との関係式を事前算出するために、下層の電極材スラリー20の単独塗工を行う。
【0063】
上記単独塗工時にて、下層の電極材スラリー20の蛍光発光強度と膜厚を連続的に測定し、所定の関数(detect boundary関数と称し得る)を用いて、下層の電極材スラリー20に関する蛍光発光強度と膜厚の平均化を実施して、上記の関係式を事前算出する。
【0064】
具体的には、まず、基材10上に下層の電極材スラリー20のみを塗工する(
図2参照)。照射部Xから下層の電極材スラリー20に対してX線を照射して蛍光発光させる。この際の蛍光発光強度X1を検出部Dで測定する。また、同時に膜厚測定部L1(レーザー変位計に相当)レーザー光を照射し、下層の電極材スラリー20の膜厚T1を測定する。X1が所定の管理値内であれば、2層同時塗工を開始する。なお、2層同時塗工を開始し、上記蛍光発光強度X1が所定の管理範囲外であれば、管理値内に入るように下層電極材スラリー20の供給ポンプP1の回転数を調整する。
【0065】
その上で、蛍光発光強度X1と下層の電極材スラリー20の膜厚T1のデータを連続的に測定して、得られたデータ群について、所定の関数(detect boundary関数)を用いてデータのノイズ除去を行う。具体的には、この関数によって平均化された蛍光発光強度X1と下層の電極材スラリー20の膜厚T1のデータを用いて、蛍光発光強度X1と下層の電極材スラリー20の膜厚T1の関係式を作る(即ち、検量線を作成する)。
【0066】
次いで、下層の電極材スラリー20の塗工は継続したまま、続いて上層の電極材スラリー30の塗工を開始して、2層同時塗工を開始する(
図5参照)。この2層の電極材スラリー40(電極材スラリー積層体に相当)について、照射部XからX線を照射し、2層の電極材スラリー40の蛍光発光強度X2を測定する。
【0067】
蛍光発光強度X2が所定の管理値内であれば、2層同時塗工を継続する。一方、所定の管理値外であれば、管理値内に入るように下層の電極材スラリー20の供給ポンプP1の回転数を調節する。
【0068】
その上で、上記の蛍光発光強度X1と下層の電極材スラリー20の膜厚T1の関係式に基づき、2層の電極材スラリー40の蛍光発光強度X2から、下層の電極材スラリー20の膜厚としての概算値を算出する。この際の下層の電極材スラリー20の膜厚をT1’とする。
【0069】
また、膜厚測定部L2(レーザー変位計に相当)からレーザー光を照射し、2層の電極材スラリー40の膜厚Tを測定する。そして、2層の電極材スラリー40の膜厚Tと下層の電極材スラリー20の膜厚T1’の差分から上層の電極材スラリー30の膜厚T2を算出する。
【0070】
更に、上層の電極材スラリー30の膜厚T2が所定の管理値内であれば、2層同時塗工を続け、管理値外であれば、管理値内に入るように上層の電極材スラリー30の供給ポンプP2の回転数を調節する。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の態様が考えられることを、当業者は容易に理解されよう。
【0072】
本発明の一実施形態は、以下のとおりである。
<1>
基材に2層の電極材スラリーを同時塗工する塗工工程を含み、少なくとも下層の電極材スラリーが蛍光材を含み、
前記塗工工程時に前記2層の電極材スラリーへのX線照射を行い、
前記X線照射により発光する前記2層の電極材スラリーの蛍光発光強度の分布と、事前算出した前記下層の電極材スラリーの蛍光発光強度と膜厚との関係式とに基づき、前記塗工工程時における前記下層の電極材スラリーの膜厚を算出可能となっている、二次電池用電極の製造方法。
<2>
前記塗工工程時における前記2層の電極材スラリーの全厚を測定し、前記2層の電極材スラリーの全厚の測定値と前記塗工工程時における前記下層の電極材スラリーの膜厚の算出値との差分から、上層の電極材スラリーの膜厚を算出する、<1>に記載の製造方法。
<3>
前記2層の電極材スラリーの蛍光発光強度に基づき、前記塗工工程時に前記下層の電極材スラリーの塗工量を変更制御する、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4>
前記上層の電極材スラリーの膜厚に基づき、前記塗工工程時に前記上層の電極材スラリーの塗工量を変更制御する、<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5>
前記2層の電極材スラリーを同時塗工する前にて、前記下層の電極材スラリーの単独塗工を行い、該単独塗工時にて前記下層の電極材スラリーの蛍光発光強度と膜厚を連続的に測定し、所定の関数を用いて該蛍光発光強度と膜厚の平均化を実施して、前記関係式を事前算出する、<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6>
前記上層の電極材スラリーおよび前記下層の電極材スラリーがそれぞれ電極活物質を含み、前記下層の電極材スラリーに含まれる電極活物質が前記上層の電極材スラリーに含まれる電極活物質よりも小さい、<2>に従属する<3>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7>
前記下層の電極材スラリーのみが前記蛍光材を含む、<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法。
<8>
前記下層の電極材スラリーが上層の電極材スラリーよりも相対的に多くの前記蛍光材を含む、<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法。
<9>
2層の電極材層を含み、少なくとも下層の電極材層が電極活物質および蛍光材を含む、二次電池用電極。
<10>
上層の電極材層および前記下層の電極材層がそれぞれ電極活物質を含み、前記下層の電極材層に含まれる電極活物質が前記上層の電極材層に含まれる電極活物質よりも小さい、<9>に記載の電極。
<11>
<9>又は<10>に記載の二次電池用電極を含む二次電池。
<12>
少なくとも下層の電極材スラリーが蛍光材を含む、2層の電極材スラリーを基材に同時塗工可能とするコーター部、
前記電極材スラリーに対してX線を照射する照射部、
前記X線の照射により発光する前記電極材スラリーの蛍光発光強度を検出する検出部、および
前記電極材スラリーの膜厚を測定可能な膜厚測定部
を含む、二次電池用電極の製造装置。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の一実施形態に係る二次電池は、蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の二次電池は、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパー、RFIDタグ、カード型電子マネー、スマートウォッチなどの小型電子機などを含む電気・電子機器分野あるいはモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、ならびに、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などにも本発明を利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
10、10’ 基材
20、20’ 下層の電極材スラリー
20X 下側電極材層
21、21’ 電極活物質
22 蛍光材
30、30’ 上層の電極材スラリー
30A 上層の電極材スラリー
30X 上側電極材層
31、31’ 電極活物質
32 蛍光材
40、40’ 2層の電極材スラリー(電極材スラリー積層体)
40A 2層の電極材スラリー(電極材スラリー積層体)
40X 2層構造の電極材層
A 制御部
B 演算部
C 制御部
D 検出部
E 乾燥炉
F コーター部
G ロール
L1、L2 膜厚測定部
T、T1、T1’ 電極材スラリーの膜厚
X 照射部