(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004813
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】走行ドラムの製造方法及び走行ドラム
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104658
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尚史
(57)【要約】
【課題】タイヤ性能を精度良く試験できる走行ドラムの製造方法及び走行ドラムを提供する。
【解決手段】ドラム本体20またはドラム本体20に着脱自在に構成された取付部材に、ドラム周方向に延び且つドラム軸方向に距離を隔てて配置される一対の周方向枠41と、その一対の周方向枠41で挟まれてなる成形空間Sをドラム周方向に区分する軸方向枠42と、を含む型枠4を設置する工程と、軸方向枠42で区分された成形空間S1に、疑似路面を構成する組成物5を充填して硬化させる工程と、を備える。軸方向枠42は、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分を有している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の疑似路面と、前記疑似路面を支持するドラム本体と、を備えた走行ドラムの製造方法において、
前記ドラム本体または前記ドラム本体に着脱自在に構成された取付部材に、ドラム周方向に延び且つドラム軸方向に距離を隔てて配置される一対の周方向枠と、その一対の周方向枠で挟まれてなる成形空間をドラム周方向に区分する軸方向枠と、を含む型枠を設置する工程と、
前記軸方向枠で区分された前記成形空間に、前記疑似路面を構成する組成物を充填して硬化させる工程と、を備え、
前記軸方向枠は、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分を有している、ことを特徴とする走行ドラムの製造方法。
【請求項2】
前記軸方向枠のドラム軸方向に対する鋭角側の角度が30~60度である、請求項1に記載の走行ドラムの製造方法。
【請求項3】
前記傾斜部分は、ドラム径方向視において直線状、曲線状、屈曲線状、ジグザグ線状、または、それらを組み合わせた形状に形成されている、請求項1に記載の走行ドラムの製造方法。
【請求項4】
前記軸方向枠の少なくとも一方の端がドラム軸方向に対して実質的に平行に延びている、請求項1~3いずれか1項に記載の走行ドラムの製造方法。
【請求項5】
円筒状の疑似路面と、前記疑似路面を支持するドラム本体と、を備え、
前記疑似路面には、ドラム周方向の複数箇所に組成物の継ぎ目が形成されており、
前記継ぎ目が、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分を有している、走行ドラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ性能試験で使用される走行ドラムの製造方法及び走行ドラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、騒音や軸力などのタイヤ性能を評価するために室内で台上試験が実施されている。かかる台上試験では、一般に、円筒状の疑似路面と、その疑似路面を支持するドラム本体とを備えた走行ドラムを有する台上試験装置が使用される。
【0003】
特許文献1には、ドラム本体の外周面に設置した型枠内の成形空間に未硬化の組成物を充填し、それを硬化させることにより疑似路面を成形する、走行ドラムの製造方法が記載されている。成形空間は、充填した組成物が流れ落ちないよう、適度な長さでドラム周方向に区分されている。そのため、成形空間の位置をドラム周方向にズラしながら、組成物の充填と硬化を繰り返して、円筒状の疑似路面を成形することになる。それ故、疑似路面には、ドラム周方向の複数箇所に組成物の継ぎ目が形成される。
【0004】
疑似路面上を走行するタイヤには、その疑似路面に形成された継ぎ目との接触や離隔に起因した力が入力されることがある。この入力が過度に大きい場合には、騒音や軸力などのタイヤ性能の評価に影響を及ぼし、試験精度を低下させる原因になりうる。走行ドラムの製法上、継ぎ目のない疑似路面を成形することは困難であるため、継ぎ目に起因した大きな入力がタイヤに付与されないようにするための手法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、タイヤ性能を精度良く試験できる走行ドラムの製造方法及び走行ドラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の走行ドラムの製造方法は、円筒状の疑似路面と、前記疑似路面を支持するドラム本体と、を備えた走行ドラムの製造方法において、前記ドラム本体または前記ドラム本体に着脱自在に構成された取付部材に、ドラム周方向に延び且つドラム軸方向に距離を隔てて配置される一対の周方向枠と、その一対の周方向枠で挟まれてなる成形空間をドラム周方向に区分する軸方向枠と、を含む型枠を設置する工程と、前記軸方向枠で区分された前記成形空間に、前記疑似路面を構成する組成物を充填して硬化させる工程と、を備え、前記軸方向枠は、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分を有しているものである。
【0008】
本開示の走行ドラムは、円筒状の疑似路面と、前記疑似路面を支持するドラム本体と、を備え、前記疑似路面には、ドラム周方向の複数箇所に組成物の継ぎ目が形成されており、前記継ぎ目が、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分を有しているものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】走行ドラムを有する台上試験装置の一例を示す概略構成図
【
図2】ドラム軸方向から見た走行ドラムを示す概略構成図
【
図4】(A)設置工程を実施したドラム本体の平面視展開図、及び、(B)第1の充填工程を実施したドラム本体の平面視展開図
【
図5】(A)除去工程を実施したドラム本体の平面視展開図、及び、(B)第2の充填工程を実施したドラム本体の平面視展開図
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、走行ドラムを有する台上試験装置の構成について簡単に説明する。
図1は、騒音などのタイヤ性能の試験に使用される台上試験装置の一例を示す。
図1に示す台上試験装置1は、その外周面にタイヤTが押し付けられる走行ドラム2を有する。走行ドラム2は、水平に延びたドラム回転軸11により回転可能に支持されている。ドラム回転軸11には、走行ドラム2を回転させるモータなどのドラム動力源12が接続されている。走行ドラム2の外周面には疑似路面3が設けられている。走行ドラム2の外周面に押し付けられたタイヤTは疑似路面3に接地した状態となる。
【0011】
タイヤTは、水平に延びたタイヤ回転軸13により回転可能に支持されている。タイヤ回転軸13には、タイヤ回転軸13に駆動力又は制動力を付与できるモータなどのタイヤ動力源14が接続されている。タイヤ動力源14としては、制動力を付与するためにブレーキを使用したり、モータとブレーキを併用したりしてもよい。タイヤ回転軸13には、トルクやタイヤTの前後力を計測するロードセル15や、タイヤ回転軸13を押し付け方向(
図1の上下方向)において固定する固定部材16が取り付けられている。
【0012】
台上試験装置1は、タイヤTを走行ドラム2に押し付ける押圧手段としての昇降装置17を備える。昇降装置17はタイヤ動力源14を昇降させる。これにより、タイヤ回転軸13に取り付けられたタイヤTを走行ドラム2に対して近付けたり遠ざけたりすることができる。押圧手段として、走行ドラム2を昇降可能に構成された昇降装置を採用してもよい。ロードセル15による計測結果に基づき、昇降装置17によってタイヤTの荷重を所定の値に調整した後、固定部材16でタイヤ回転軸13を固定することにより、所定の荷重でタイヤTを接地させることができる。
【0013】
台上試験装置1は、台上試験装置1の動作を制御する制御部18を備える。制御部18は、パーソナルコンピュータやPLC(プログラマブルロジックコントローラ)などのコンピュータを用いて構成できる。制御部18は、ドラム動力源12、タイヤ動力源14、ロードセル15、固定部材16、及び、昇降装置17に対して電気的に接続されており、これら各部の動作を制御可能に構成されている。
【0014】
図2は、ドラム軸方向(ドラム回転軸11に沿った方向)から見た走行ドラム2を示す。走行ドラム2は、円筒状の疑似路面3と、その疑似路面3を支持するドラム本体20とを備える。試験に供されるタイヤTは、走行ドラム2の外周面に設けられた疑似路面3に押し付けられる。疑似路面3は、例えば、ISO路面規格の粒度曲線(ISO10844の付属書C設計のガイドラインに記載のアスファルト混合物の粒度曲線許容範囲参照)に合わせたものにより構成されるが、これに限られない。
【0015】
本実施形態において、疑似路面3は、骨材と結合材(バインダ)とを調合させた組成物を硬化させることにより成形される。骨材は、例えば、最大骨材粒形は8mm(許容範囲は6.3mm~10mm)とし、骨材の目標とする粒度曲線はISO路面規格の粒度曲線の範囲内であり、それに合わせて、粗骨剤、細骨材及びフィラーを調合したものが用いられる。結合材には、例えば公知の合成樹脂が用いられるが、骨材との結合強度やドラム本体20の外周面との結合強度を確保する観点から、好ましくはエポキシ樹脂が用いられる。
図2には示していないが、疑似路面3には、ドラム周方向の複数箇所に組成物の継ぎ目が形成されている。
【0016】
次に、走行ドラムの製造方法について説明する。本実施形態における走行ドラム2の製造方法は、設置工程と、第1の充填工程と、除去工程と、第2の充填工程とを備える。これらを含む工程を経ることによりドラム本体20に疑似路面3を設けることができ、それによって
図1,2に示した走行ドラム2が製造される。
【0017】
走行ドラム2の製造方法として、まずはドラム本体20を用意する。ドラム本体20は、例えばドラム軸方向を水平とした状態で回転可能に保持される。次に、
図3に示すようにドラム本体20に型枠4を設置する(設置工程)。型枠4は、ドラム本体20の外周面からドラム径方向外側に突出している。型枠4は、一対の周方向枠41と、軸方向枠42とを含む。一対の周方向枠41は、ドラム周方向に延び且つドラム軸方向に距離を隔てて配置される。軸方向枠42は、その一対の周方向枠41で挟まれてなる成形空間Sをドラム周方向に区分する。
【0018】
図4(A)は、ドラム本体20の平面視展開図であり、ドラム中心軸2Cを鎖線で示している。軸方向枠42は、一対の周方向枠41を連結するようにドラム軸方向に沿って延びている。一対の周方向枠41で挟まれてなる成形空間Sは、ドラム周方向に間隔を設けて配置された複数の軸方向枠42によって複数の成形空間S1,S2,S3・・・に区分されている。継ぎ目の数を減らす観点から各成形空間S1,S2,S3・・・のドラム周方向長さを大きくすることが望まれるものの、過度に大きいと未硬化の組成物が流れ落ちてしまうため、軸方向枠42の間隔はそれらのバランスを考慮して適宜に決定される。
【0019】
続いて、
図4(B)に示すように、軸方向枠42で区分された成形空間S1に、疑似路面3を構成する未硬化の組成物5を充填して硬化させる(第1の充填工程)。充填した未硬化の組成物5が流れ落ちないよう、組成物5が充填される成形空間S1は予め上方(ドラム軸方向から見て12時方向付近)に配置されている。本実施形態では、周方向枠41がドラム周方向に沿って環状に形成されている。但し、これに限られず、周方向枠41は、未硬化の組成物5が充填される成形空間(
図4(B)では成形空間S1)を包含する範囲に配置されていればよい。
【0020】
図5(A)に示すように、充填された組成物5が硬化した後、その組成物5に接する軸方向枠42を取り外す(除去工程)。これにより、軸方向枠42の側壁面(ドラム周方向を向いた面)に接していた組成物5の端面5eが露出する。露出した端面5eのドラム径方向視(例えば平面視)における形状は、その端面5eと接していた軸方向枠42に対応した形状となる。かかる除去工程は、この端面5eの形状が大きく崩れない程度(重力では変形しない程度)に組成物5が硬化していれば、組成物5が完全に硬化する前に実施しても構わない。
【0021】
除去工程後、
図5(B)に示すように、取り外された軸方向枠42に接していた組成物5の端面5eと対向する成形空間S2に、疑似路面3を構成する未硬化の組成物5を充填して硬化させる(第2の充填工程)。未硬化の組成物5が流れ落ちないよう、組成物5が充填される成形空間S2は予め上方に配置されている。この段階では、成形空間S2におけるドラム周方向の一方側は軸方向枠42で区分され、他方側は組成物5の端面5eで区分されている。成形空間S2に充填された組成物5は、成形空間S1に充填されて硬化した組成物5と接着し、それらの間に継ぎ目50が形成される。
【0022】
成形空間S2に充填した組成物5が硬化した後、その組成物5に接する軸方向枠42を取り外す。そして、それによって露出した組成物5の端面と対向する成形空間S3に未硬化の組成物5を充填して硬化させる。この点は、成形空間S2に対する組成物5の充填・硬化と同じ要領で行われる。このように、第2の充填工程は、次の成形サイクルにおける第1の充填工程となるので、以降は除去工程と(第2の)充填工程とが繰り返される。ドラム周方向に沿って一周分の組成物5が連接されることにより、円筒状の疑似路面3が成形される。
【0023】
図6は、型枠4を示す模式図である。
図6の上下方向はドラム軸方向に相当し、左右方向がドラム周方向に相当する(
図7~9も同じ)。
図6では、軸方向枠42で区分された成形空間の一つである成形空間S1を示している。軸方向枠42は、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分42sを有している。これにより、傾斜部分42sに対応した形状の端面5eが形成され(
図5(A)参照)、延いては傾斜部分42sに対応した形状の継ぎ目50が形成される(
図5(B)参照)。その結果、疑似路面3の継ぎ目50は、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分を有することになる。
【0024】
従来技術(特許文献1)のように軸方向枠がドラム軸方向と平行に延びている場合は、それによってドラム軸方向と平行に延びた継ぎ目が形成される。かかる形状の継ぎ目は、タイヤ接地面の輪郭線と合致しやすい。そのため、疑似路面でタイヤを走行させた際に、タイヤ接地面の踏み込み側が一斉に継ぎ目に衝突することにより、或いはタイヤ接地面の蹴り出し側が一斉に継ぎ目から離隔することにより、継ぎ目に起因した大きな入力がタイヤに付与される恐れがある。このことは、騒音や軸力などのタイヤ性能の評価に影響を及ぼし、試験精度を低下させる原因となりうる。
【0025】
これに対して、本実施形態によれば、上記の如き傾斜部分を有する継ぎ目50が形成されることにより、疑似路面3でタイヤを走行させた際に、タイヤ接地面の踏み込み側が一斉に継ぎ目に衝突したり、タイヤ接地面の蹴り出し側が一斉に継ぎ目から離隔したりすることが抑制される。例えば
図5(B)に示した継ぎ目50であれば、タイヤ接地面の踏み込み側が衝突するタイミングは、ドラム軸方向の一方側と他方側とで異なったものとなる。これにより、タイヤ接地面が継ぎ目50に対して一斉に衝突又は離隔することによる大きな入力を防いで、騒音や軸力などのタイヤ性能を精度良く試験することができる。
【0026】
軸方向枠42のドラム軸方向に対する鋭角側の角度θは30~60度であることが好ましい。角度θは、軸方向枠42の両端を結んだ直線を基準にして求められる。角度θが30度を上回ることにより、上述したような継ぎ目50に起因した大きな入力を防ぐ効果がより適切に奏される。また、角度θが60度を下回ることにより、軸方向枠42で区分された成形空間(成形空間S1など)のドラム周方向長さLが大きくなり過ぎないため、継ぎ目50の数が抑えられる。かかる成形空間の長さLと継ぎ目50の数との関係については、後ほど説明する。
【0027】
図6に示す軸方向枠42は、そのドラム軸方向の全体において傾斜部分42sを有している。これに限られず、例えば
図7(A)~(C)に示すように、軸方向枠42は、そのドラム軸方向の一部において傾斜部分42sを有していなくても構わない。但し、傾斜部分42sは、一対の周方向枠41の中間位置41cを中心とした、一対の周方向枠41の間隔41aの30%の範囲41rを含む領域に設定されていることが好ましく、台上試験装置1で試験し得る最大のタイヤ接地幅の範囲を含む領域に設定されていることがより好ましい。疑似路面3は、その中央部分にタイヤTを接地させることが想定されているためである(
図1参照)。
【0028】
図6の例では、傾斜部分42sが直線状に形成されており、それによって軸方向枠42も全体として直線状に形成されている。但し、これに限られるものではなく、傾斜部分42s及びそれを有する軸方向枠42としては、様々な形状のものを採用可能である。例えば、傾斜部分42sは、ドラム径方向視において直線状、曲線状、屈曲線状、ジグザグ線状、または、それらを組み合わせた形状に形成されていてもよい。
図7~9を参照して、軸方向枠42の変形例について説明する。
【0029】
図7では、軸方向枠42の少なくとも一方の端がドラム軸方向に対して実質的に平行に延びている。これにより、傾斜部分42sを端まで延長した場合と比べて、成形空間の長さL(
図6参照)を小さくできる。軸方向枠42で区分された成形空間は、充填した組成物5が流れ落ちないよう、適度な長さで設けられる必要があるため、成形空間が過度に長くなる場合は軸方向枠42の間隔を小さくせざるを得ない。しかし、そうすると軸方向枠42による区分の数が増え、延いては継ぎ目50の数が増えてしまう。よって、成形空間を過度に長くしないことで、継ぎ目50の数を抑えることができる。
【0030】
図7(A)では軸方向枠42の片方の端が、
図7(B)では軸方向枠42の両方の端が、それぞれドラム軸方向と平行に延びている。これらの端は、屈曲点42pを介して傾斜部分42sと接続されている。
図7(B)の軸方向枠42は、ドラム径方向視においてクランク状(屈曲線状の一例)に形成されている。
図7(C)の傾斜部分42sは、ドラム径方向視においてジグザグ線状に形成されていることを除いて、
図7(B)と同じ形状である。
図7に示した軸方向枠42は、一つ又は複数の屈曲点42pを有している。
【0031】
図8の例では、傾斜部分42sが、ドラム径方向視において曲線状に形成されている。
図8(A)では、傾斜部分42sが、変曲点を有しない円弧状に形成されている。
図8(B)では、傾斜部分42sが、1つの変曲点を有するS字状に形成されている。変形例として、傾斜部分42sが複数の変曲点を有した曲線状に形成されていても構わない。
図8(C)では軸方向枠42の片方の端が、
図8(D)では軸方向枠42の両方の端が、それぞれドラム軸方向と実質的に平行な直線状に形成されている。
【0032】
図9の例では、傾斜部分42sが、ドラム径方向視においてV字状またはU字状に形成されている。
図9(A)では、傾斜部分42sが、二つの直線を組み合わせたV字状に形成されている。
図9(B)では、傾斜部分42sが、二つの曲線(円弧)を組み合わせたV字状に形成されている。
図9(C)では、傾斜部分42sがU字状に形成されている。これらの変形例として、軸方向枠42の少なくとも一方の端がドラム軸方向に対して実質的に平行な直線状に形成されたものでもよい。
【0033】
軸方向枠42は、成形空間Sに面する粗面42f(
図10参照)を有していることが好ましい。かかる構成によれば、除去工程により露出する組成物5の端面5eが、粗面42fによって粗い面として形成される。その結果、組成物5の端面5eと対向する成形空間に未硬化の組成物5を充填した際に、組成物5同士が良く馴染んで良好に接着し、それらの間に形成される継ぎ目の幅の拡大や段差の発生が抑えられる。粗面42fは、少なくとも傾斜部分42sに形成されていることが好ましい。
【0034】
粗面42fの形態としては、上記の如く組成物同士を馴染ませやすくする効果が得られるものであれば特に限定されないが、例えば
図10に示す形態が挙げられる。
図10(A)は、粗面42fにブラスト加工または研磨加工による粗面化処理が施されている例である。ブラスト加工としては、ショットブラストやサンドブラストなどが挙げられる。研磨加工としては、研磨布や研磨紙(サンドペーパー)、ヤスリを用いた研磨、電解研磨などが挙げられる。例えば、JIS R 6010に準拠した粒度#50、#60または#80の研磨布を用いた研磨加工でもよい。JIS B 0601に準拠した粗面42fの表面粗さ(仕上面粗さ)は、算術平均粗さRaが0.8~3.2μmであることが好ましく、最大高さRzは3.2~12.5μmであることが好ましい。
【0035】
図10(B)~(D)では、粗面42fが、多数の溝を含んだ凹凸面により形成されている。
図10(B)は複数方向の溝を採用した例である。
図10(B)では、粗面42fを形成する凹凸面が、ドラム径方向に相当する縦方向の溝G1と、ドラム軸方向に相当する横方向の溝G2とによる格子状の溝で構成されている。変形例として、溝G1及び溝G2をそれぞれ斜めにしても構わない。このような格子状の溝を含む凹凸面によれば、比較的に目が細かい粗面42fが形成されるため、組成物同士を馴染ませやすくする効果に優れる。
【0036】
図10(C)及び(D)は、それぞれ単一方向の溝を採用した例である。
図10(C)では、粗面42fを形成する凹凸面が、縦方向の溝G1によるストライプ状の溝で構成されている。これによれば、軸方向枠42を取り外す除去工程において、ドラム径方向に沿って軸方向枠42を移動させるときの抵抗を小さくできる。
図10(D)では、粗面42fを形成する凹凸面が、横方向の溝G2によるストライプ状の溝で構成されている。これによれば、粗面42fによるギザギザした形状が組成物5の外表面に現れないようにできる。
【0037】
上述した溝G1及び溝G2は、例えば切削加工によって設けることができる。溝G1の間隔は、例えば1~10mmである。溝G1の幅は、例えば1~10mmである。溝G1の深さは、例えば1~10mmである。溝G1の断面形状は特に限られず、例えば半円形状や矩形状、三角形状など種々の形状を採用可能である。溝G2の寸法と断面形状についても同様である。溝G1及び溝G2は、ドラム軸方向及び/又はドラム径方向における軸方向枠42の端に到達しているが、これに限られず、端に到達していなくてもよい。
【0038】
図示はしていないが、粗面42fの別の例として、ディンプル(窪み)、突起、又は、それらの組み合わせを採用した形態が考えられる。また、粗面42fの別の例として、ドラム軸方向及びドラム径方向に振幅を有する三次元形状を採用した形態が考えられる。例えば、平行四辺形面が組み合わされたミウラ折り状をなす凹凸面を採用した形態が考えられる。これらの例において、側壁面の凹凸量(軸方向枠42の厚み方向において最も窪んだ箇所と最も突出した箇所との間隔)は、例えば1~10mmである。
【0039】
本実施形態では、軸方向枠42の側壁面が全面的に粗面42fで形成されているが、これに限られない。例えば、軸方向枠42の側壁面におけるドラム径方向内側の領域には粗面42fが形成されていなくてもよい。また、軸方向枠42の側壁面におけるドラム径方向外側の領域が内側の領域よりも粗い面であってもよい。継ぎ目50の幅の拡大や段差の発生を抑えるうえでは、タイヤと接する疑似路面3の外周面において組成物同士を良く馴染ませることで事足りるためである。同様に、粗面42fは、ドラム軸方向の中央部分に形成されていればよく、その端には形成されていなくてもよい。疑似路面3は、その中央部分にタイヤTを接地させることが想定されているためである(
図1参照)。
【0040】
粗面42fが形成された軸方向枠42の側壁面は、その軸方向枠42の底面(ドラム本体20の外周面に接する面)よりも粗い面であることが好ましい。換言すると、軸方向枠42の底面は、その軸方向枠42の側壁面よりも平滑な面であることが好ましい。かかる構成によれば、ドラム本体20の外周面に軸方向枠42を密着させやすくなるため、未硬化の組成物5が充填される成形空間を区分するうえで都合がよい。軸方向枠42の底面には粗面化処理が施されていなくてもよい。
【0041】
粗面42fが形成された軸方向枠42の側壁面は、その軸方向枠42の端面(周方向枠41に接する面)よりも粗い面であることが好ましい。換言すると、軸方向枠42の端面は、その軸方向枠42の側壁面よりも平滑な面であることが好ましい。かかる構成によれば、周方向枠41に軸方向枠42を密着させやすくなるため、未硬化の組成物5が充填される成形空間を区分するうえで都合がよい。軸方向枠42の端面には粗面化処理が施されていなくてもよい。
【0042】
型枠4の材料としては、ゴムなどの弾性材、アルミ合金などの金属、樹脂(プラスチック)、セラミック、木材などが例示されるが、特に限定されるものではない。周方向枠41は、軸方向枠42と同じ材料で形成されていてもよいが、異なる材料で形成されていてもよい。周方向枠41及び/又は軸方向枠42がゴムなどの弾性材で形成されている場合は、ドラム本体20の外周面の曲率に合わせて湾曲させつつ、ドラム本体20の外周面に密着させやすいという利点がある。
【0043】
本実施形態の走行ドラム2は、上記方法によって製造されたものである。したがって、走行ドラム2は、円筒状の疑似路面3と、その疑似路面3を支持するドラム本体20とを備え、その疑似路面3には、ドラム周方向の複数箇所に組成物50の継ぎ目が形成されている。継ぎ目50は、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分を有している。この継ぎ目50の傾斜部分は、既述のようにして軸方向枠42の傾斜部分42sにより形成される。
【0044】
継ぎ目50のドラム軸方向に対する鋭角側の角度は30~60度であることが好ましい。この角度は、軸方向枠42のドラム軸方向に対する鋭角側の角度θ(
図6参照)に対応している。継ぎ目50の傾斜部分は、ドラム径方向視において直線状、曲線状、屈曲線状、ジグザグ線状、または、それらを組み合わせた形状に形成されていてもよい。継ぎ目50の少なくとも一方の端は、ドラム軸方向に対して実質的に平行に延びていることが好ましい。
【0045】
本実施形態では、本体ドラム20に型枠4を設置し、既述のようにして組成物の充填・硬化を行うことにより、疑似路面3を本体ドラム20に直接施工する方式を採用しているが、これに限られない。例えば、ドラム本体20に着脱自在に構成された取付部材に型枠4を設置し、組成物の充填・硬化を行った後、その取付部材を本体ドラム20に取り付けることにより疑似路面3を施工する方式を採用してもよい。
図11は、かかる方式で用いられる取付部材の一例を示している。
【0046】
図11に示す取付部材60は、ドラム周方向に沿って湾曲した円弧状の板材により形成されている。取付部材60の外周面には、疑似路面3の一部となる硬化後の組成物5が設けられている。この組成物5は、取付部材60に型枠4(
図11では図示せず)を設置した後、既述のように未硬化の組成物を充填・硬化させることにより成形される。取付部材60には、ドラム本体20の外周面に装着するための取付孔60hが設けられている。ドラム本体20の外周において複数の取付部材60を環状に連ねることにより、ドラム本体20によって支持された円筒状の疑似路面3が設けられる。
【0047】
[1]
上記の通り、本実施形態は、円筒状の疑似路面3と、疑似路面3を支持するドラム本体20と、を備えた走行ドラム2の製造方法において、ドラム本体20またはドラム本体20に着脱自在に構成された取付部材60に、ドラム周方向に延び且つドラム軸方向に距離を隔てて配置される一対の周方向枠41と、その一対の周方向枠41で挟まれてなる成形空間Sをドラム周方向に区分する軸方向枠42と、を含む型枠4を設置する工程と、軸方向枠42で区分された成形空間に、疑似路面3を構成する組成物5を充填して硬化させる工程と、を備え、軸方向枠42は、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分42sを有しているものである。
【0048】
軸方向枠42が傾斜部分42sを有していることにより、それに対応した傾斜部分を有する継ぎ目50が形成される。このため、疑似路面3でタイヤを走行させた際に、タイヤ接地面の踏み込み側が一斉に継ぎ目に衝突したり、タイヤ接地面の蹴り出し側が一斉に継ぎ目から離隔したりすることが抑制される。その結果、継ぎ目50に起因した大きな入力がタイヤに付与されることを防いで、騒音や軸力などのタイヤ性能を精度良く試験できる走行ドラムが製造される。
【0049】
[2]
上記[1]の走行ドラムの製造方法において、軸方向枠42のドラム軸方向に対する鋭角側の角度θが30~60度であることが好ましい。角度θが30度を上回ることにより、タイヤ接地面が継ぎ目50に対して一斉に衝突又は離隔することによる大きな入力を防ぐ効果がより適切に奏される。また、角度θが60度を下回ることにより、軸方向枠42で区分された成形空間の長さLが大きくなり過ぎないため、継ぎ目50の数を抑えるうえで都合がよい。
【0050】
[3]
上記[1]又は[2]の走行ドラムの製造方法において、傾斜部分42sは、ドラム径方向視において直線状、曲線状、屈曲線状、ジグザグ線状、または、それらを組み合わせた形状に形成されているものでもよい。傾斜部分42s及びそれを有する軸方向枠42として、このような様々な形状を採用可能である。
【0051】
[4]
上記[1]~[3]いずれか1つの走行ドラムの製造方法において、軸方向枠42の少なくとも一方の端がドラム軸方向に対して実質的に平行に延びているものでもよい。これにより、傾斜部分42sを端まで延長した場合と比べて、軸方向枠42で区分された成形空間(成形空間S1など)のドラム周方向長さLを小さくできるため、継ぎ目50の数を抑えるうえで都合がよい。既述のように、タイヤ性能の試験精度の低下を抑える観点から、継ぎ目50の数はなるべく少ない方が望ましい。
【0052】
[5]
また、本実施形態の走行ドラム2は、円筒状の疑似路面3と、疑似路面3を支持するドラム本体20と、を備え、疑似路面3には、ドラム周方向の複数箇所に組成物5の継ぎ目50が形成されており、その継ぎ目50が、ドラム軸方向に対して斜めに延びた傾斜部分を有しているものである。
【0053】
このような傾斜部分を継ぎ目50が有していることにより、疑似路面3でタイヤを走行させた際に、タイヤ接地面の踏み込み側が一斉に継ぎ目に衝突したり、タイヤ接地面の蹴り出し側が一斉に継ぎ目から離隔したりすることが抑制される。その結果、継ぎ目50に起因した大きな入力がタイヤに付与されることを防いで、騒音や軸力などのタイヤ性能を精度良く試験できる走行ドラムが製造される。
【0054】
以上、本開示の実施形態について説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限定されるものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく、特許請求の範囲によって示され、更には特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0055】
したがって、例えば、前述の実施形態では、走行ドラム2が、その外周面にタイヤTを押し付けて走行させる外面ドラムである例を示したが、これに限られず、その内周面にタイヤを押し付けて走行させる内面ドラムであってもよい。その場合は、円筒状をなすドラム本体の内周面に型枠を設置し、またはドラム本体の内周面に着脱自在に構成された取付部材に型枠を設置し、前述の実施形態と同じ要領で疑似路面を成形すればよい。尚、第1及び第2の充填工程では、組成物が充填される成形空間は下方(ドラム軸方向から見て6時方向付近)に配置されることが好ましい。
【0056】
本開示の走行ドラムの製造方法及び走行ドラムは、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。また、上述した実施形態で採用されている各構成については、任意に組み合わせて採用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 台上試験装置
2 走行ドラム
3 疑似路面
4 型枠
5 組成物
5e 端面
20 ドラム本体
41 周方向枠
42 軸方向枠
42f 粗面
42s 傾斜部分
50 継ぎ目
60 取付部材