(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004816
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電池パック及び電気機器
(51)【国際特許分類】
H01M 50/244 20210101AFI20240110BHJP
H01M 50/284 20210101ALI20240110BHJP
H01M 50/296 20210101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M50/244 A
H01M50/284
H01M50/296
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104664
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】菅野 翔太
【テーマコード(参考)】
5H040
【Fターム(参考)】
5H040AA07
5H040AA19
5H040AS19
5H040CC16
5H040CC46
5H040DD06
5H040DD10
5H040JJ05
5H040LL01
5H040LL06
5H040NN03
(57)【要約】
【課題】電池パックのラッチ機構の強度と耐摩耗性を向上させる。
【解決手段】電池パックのラッチ機構を構成する部品であって、合成樹脂の一体成形で形成されるフック部品60の一部に、金属製の補強部材(プレート70)を設けた。フック部品60は、電気機器本体と係合するフック部65と、フック部65を移動させるために操作する操作部61と、フック部65と操作部61とを連結する接続部63と連結部64を備える。第1の部材を補強する第2の部材70は、金属板をプレス加工によって所定の形状に曲げたものとし、合成樹脂に鋳込むようにして製造される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルと、
前記電池セルを収容するケースと、
前記ケースに対して移動可能であり、電気機器本体と係合するラッチ機構と、
を備えた電池パックであって、
前記ラッチ機構は、電気機器本体と係合するフック部と、前記フック部を操作する操作部と、前記フック部と前記操作部とを連結する連結部と、を備え、
前記フック部、前記操作部、及び前記連結部は第1の部材で構成され、
前記フック部及び前記連結部に、前記第1の部材と異なり前記第1の部材を補強する第2の部材を設けた、
ことを特徴とする電池パック。
【請求項2】
請求項1に記載の電池パックであって、
電気機器本体に対して第1の方向にスライドさせて装着するよう構成され、
前記フック部は、
前記第1の方向の前方側に位置し、前記電池パックを前記第1の方向にスライドさせた際に電気機器本体に接触する前方側外面と、
前記第1の方向の後方側に位置し、前記電池パックを電気機器本体に取り付けた状態で電気機器本体に対して前記電池パックの脱落を防止するよう電気機器本体と係合する後方側外面と、
を有し、
前記第2の部材は前記前方側外面及び前記後方側外面に設けられる、
ことを特徴とする電池パック。
【請求項3】
請求項2に記載の電池パックであって、
前記連結部は、前記操作部から前記第1の方向と交差する方向に延びて前記電気機器本体に接触可能に構成され、
前記第2の部材は前記ケースに接触可能な前記連結部の接触部に設けられる、
ことを特徴とする電池パック。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電池パックであって、
前記第1の部材は樹脂であり、前記第2の部材は前記樹脂よりも強度又は耐摩耗性が高い部材である、
ことを特徴とする電池パック。
【請求項5】
請求項4に記載の電池パックであって、
前記第2の部材は金属製であって前記樹脂に鋳込まれる、
ことを特徴とする電池パック。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電池パックであって、
前記第2の部材は前記フック部及び前記連結部において部分的に設けられる、
ことを特徴とする電池パック。
【請求項7】
請求項6に記載の電池パックであって、
前記電池セルの上方に、電気機器本体の機器側端子と接続される電池側端子が接続された基板を備え、
前記ラッチ機構は前記基板の上方側に位置し、
前記基板と対向する前記フック部及び前記連結部は前記第1の部材で構成され、前記第1の部材の上方側に前記第2の部材が設けられる、
ことを特徴とする電池パック。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電池パックと、
前記電池パックを装着可能な電池パック装着部を有する電気機器本体と、
を備えたことを特徴とする電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池パック及び電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池セルの高容量化や高出力化された電池パックや、電動工具等の電気機器の高出力化や大型化された製品のラインナップが増えつつある。特許文献1には、電気機器本体から電池パックが脱落することを防止するためのラッチ機構を有する電池パックが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
製品の高出力化に伴い電池パックに伝わる振動が増加し、大型化や重量化に伴い落下時等の電池パックへの衝撃力の増加により電池パック部品が破損する虞が高まってきており、部品の強度アップが課題である。特に電動工具と係合するフック部品は前記懸念の影響を受けやすく、振動によりフック部品の係合面が摩耗することで電池パックが設計外の位置まで移動できるようになり、製品と電池パックの通電部同士が離れることで動作不良を引き起こす。また一定の方向からの衝撃に対してはフック部品の係合面に衝撃が集中するため、フック部品が耐えられず折損してしまう虞がある。
【0005】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ラッチ機構の摩耗や破損を抑制した電池パック及び電気機器を提供することにある。
本発明の他の目的は、ラッチ機構の構造や大きさを変えることなく、改良したフック部品を用いることで強度と耐摩耗性を向上させたラッチ機構を有する電池パック及び電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、電池セルと、電池セルを収容するケースと、ケースに対して移動可能であり、電気機器本体と係合するラッチ機構を備えた電池パックであって、ラッチ機構は、電気機器本体と係合するフック部と、フック部を操作する操作部と、フック部と操作部とを連結する連結部を備える。ラッチ機構は、フック部、操作部、及び連結部は第1の部材で構成され、フック部及び連結部には、第1の部材と異なり第1の部材を補強するための第2の部材を設けた。電池パックは、電気機器本体に対して第1の方向にスライドさせて装着するように構成され、フック部には、第1の方向の前方側に位置し、電池パックを第1の方向にスライドさせた際に電気機器本体に接触する前方側外面と、第1の方向の後方側に位置し、電池パックを電気機器本体に取り付けた状態で電気機器本体に対して電池パックの脱落を防止するよう電気機器本体と係合する後方側外面が形成される。補強材たる第2の部材は、前方側外面及び後方側外面に設けられる。
【0007】
本発明の他の特徴によれば、ラッチ機構の連結部は、操作部から第1の方向と交差する方向に延びて電気機器本体に接触可能に構成され、第2の部材はケースに接触可能な連結部の接触部に設けられる。第1の部材は樹脂であり、第2の部材は樹脂よりも強度又は耐摩耗性が高い部材、例えば金属である。第2の部材はインサート成形によって第1の部材に鋳込まれる。第2の部材はフック部及び連結部において部分的に設けられると良い。
【0008】
本発明のさらに他の特徴によれば、電池パックの電池セルの上方には、電気機器本体の機器側端子と接続される電池側端子が接続された基板が設けられ、ラッチ機構は基板よりも上側に位置する。基板よりも上方であって、基板と対向するように設けられるフック部及び連結部は、第1の部材で主に構成され、第1の部材の上方側に第2の部材が設けられる。このようにして電池パックと、電池パックを装着可能な電池パック装着部を有する電気機器本体と、を備えた電気機器が構成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ラッチ機構の摩耗や破損を抑制した電池パック及び電気機器を提供することができる。また、ラッチ機構の構造や大きさを変えることなく、改良したフック部品を用いることで強度と耐摩耗性を向上させたラッチ機構を有する電池パック及び電気機器を提供することができる。また、フック部品の摩耗を可能な限り減らすべく、ラッチ機構のフック部及びその近傍に、金属板等の耐摩耗性が高い部品を介在させることで、フック部品の摩耗および強度をアップさせることができる。さらに、耐摩耗性が高い介在部品は、製品装着時のフック係合面の摩耗防止およびフック係合形状の折損防止に効果がある。仮に、フック部品が基板などの通電部品に近い位置にあってフック部品全体が金属材で構成される場合は、電気機器本体との係合解除する際にフック部品が移動して基板部品に近づいてしまって短絡の虞があるが、本発明では樹脂材料に金属板等を鋳込む構成にすることで、フック部品によって基板などの通電部品に樹脂材料部分が接触しても短絡が発生しないように構成できる。尚、フック部品が製品と係合する爪形状から操作部まで距離がある構造の場合は、爪形状から操作部間の腕形状の強度アップも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の電池パック20が装着される電気機器本体1の電池パック装着部10の形状を示す斜視図である。
【
図2】
図1の電気機器本体1に本実施例に係る電池パック20を装着した状態を示す右側面図の一部である。
【
図4】本発明の電池パック20のフック部品60の単体の斜視図である。
【
図5】
図4のフック部品60の上下中央位置における水平断面図である。
【
図6】
図4のフック部品60に鋳込まれるプレート70の形状を示す斜視図である。
【
図7】本実施例1の電池パック20のフック部品60と電気機器本体1側との係合状態及び係合解除状態を示す部分断面図である。
【
図8】本発明の実施例1に係るフック部品60と電気機器本体1との係合状態を示す断面図である。
【
図9】本発明の第2の実施例を示す図であり、フック部品60と電気機器本体1A側のレール部14との係合及び解除時の状態を示す部分断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施例を示す図であり、フック部品260と電気機器本体201側のレール部214との係合及び解除時の状態を示す部分断面図である。
【
図11】従来の電池パックのフック部品160の形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0012】
図1は電気機器本体1の電池パック装着部10の形状を示す斜視図である。電気機器本体1は、電池パック20(
図2以降で後述)を電源として、モータ、光源、音響装置、熱源等の電力を消費する負荷部を稼働させるための機器である。電気機器本体1は、負荷部収容するハウジング2を有する。
図1の電気機器本体1はインパクトドライバであって、ハウジング2の胴体部分から下方に延びるハンドル部が設けられ、ハンドル部の下側に電池パック装着部10が形成される。ハンドル部にはトリガスイッチ4が設けられる。ハウジング2の前方側には出力軸たるアンビル(図示せず)が設けられ、アンビルの先端には先端工具6を装着するための先端工具保持部5が設けられる。ここでは先端工具6としてプラスのドライバービットが装着されている。
【0013】
電動工具だけに限られずに、電池パックを用いた電気機器全般では、装着される電池パックの形状に対応させた電池パック装着部10が形成される。
図1の電気機器本体1では、ハウジング2の一部に電池パック20を装着するための電池パック装着部10が形成される。電池パック装着部10には、左右両側の内壁部分に前後方向に平行に延びるレール部12、14が形成される。レール部12、14の前後方向長さ、レール部分の幅(上下方向長さ)、形状は、装着可能な電池パック20に適応するように形成され、適合しない電池パックは装着できないように構成される。レール部12の内側部分には、軽量化のための中空部12dが設けられる。中空部12dの形成は必須ではないので、中空部12dを設けなくても良い。図では見えないが、レール部14の内側部分に同様に、中空部14d(後述の
図7(d)参照)が設けられる。
【0014】
レール部12、14の間にはターミナル部16が設けられる。ターミナル部16は、合成樹脂等の不導体材料の一体成形により製造され、そこに金属製の複数の端子、例えば機器側正極端子17、機器側負極端子18、LD端子(異常信号端子)19が鋳込まれる。ターミナル部16は、装着方向(前後方向)の突き当て面となる垂直面16aと、水平面16bが形成され、水平面16bは電池パック20の装着時に、上段面34(
図3にて後述)と隣接、対向する面となる。水平面16bの前方側には、電池パック20の窪み部36(
図3にて後述)と係合する突起部10aが形成される。
【0015】
図2は、
図1の電気機器本体1に本実施例に係る電池パック20を装着した状態を示す右側面図の一部である。
図2の例では、公知のインパクト工具のハンドル部の下部に形成される電池パック装着部10が部分的に図示されている。電池パック20は、電気機器本体1に対して所定方向からレール部に沿って装着方向に移動させることで電気機器本体1に装着することができる。本明細書では、電気機器本体1に電池パック20を装着した状態を「電気機器」と呼ぶが、電池パック20を取り外した状態の電気機器本体1を「電気機器」と称することもある。電池パック20が、電気機器本体1に対して電池パック装着方向(本明細書では、この矢印25の方向を「第1の方向」と称する)の所定位置まで装着されると、ラッチ機構が動作して電池パック20が電気機器本体1から脱落しないように固定される。電池パック20を電気機器本体1から取り外すときは、ラッチ機構の操作部51(
図3参照)、61を押した後に電池パック20を電池パック装着方向25とは反対方向の電池パック取外し方向(本明細書では、この矢印26の方向を「第2の方向」と称する)に移動させる。
【0016】
図3は電池パック20の斜視図である。電池パック20の筐体は不導体である合成樹脂製であって、上下方向に分割可能な下ケース21と上ケース30により形成される。上ケース30には、電気機器本体1の電池パック装着部10に形成されたレール部12、14(
図1参照)と嵌合するための2本のレール溝部42、46が形成される。レール溝部42、46は平行になるように前後方向に連続するように形成され、これらに挟まれる空間の上側を繋いだ面が上段面34である。上ケース30の前方側には平らな下段面32が形成され、下段面32と上段面34は階段状に形成され、それらの接続部分は上段面より段差状に下がる鉛直面をもつ段差部33となっている。段差部33から上段面34にかけてスロット群配置領域40が形成され、そこには前方から後方まで切り欠かれるような複数のスロットが形成される。複数のスロットは、段差部33から後方側に延びるように電池パック装着方向に所定の長さを有するように切り欠かれた部分であって、それぞれ切り欠きが形成された部分には、電気機器本体1又は外部の充電装置(図示せず)の機器側端子と嵌合可能な複数の電池側端子(図示せず)が配設される。
【0017】
上段面34の後方側には、隆起するように形成された隆起部35が形成される。隆起部35はその外形が上段面34より上側に隆起する形状であって、その内側の空間がラッチ部品50、60がスライド移動するための空間となる。隆起部35の中央付近には窪み部36が形成される。窪み部36は、電池パック20を、電池パック装着部10に装着した際に、電池パック装着部10の突起部10a(
図1参照)に突き当てられる面となるもので、電気機器本体1側の突起部が窪み部36に当接する位置まで相対移動すると、電気機器本体1に配設された複数の端子(機器側端子)と電池パック20に配設された複数の接続端子が接触して導通状態となる。同時に、電池パック20のフック部品50、60の操作部51、61、フック部55(図では見えない)、フック部65が図示しないスプリングの作用によりレール溝部42、46の窪み内で左右方向に飛び出して、電気機器本体1のレール部12、14に形成された凹部13、15と係合することにより、電池パック20の電気機器本体1からの脱落が防止される。
【0018】
レール溝部42は電池パック20の右側壁面から左右中心点に向けて凹状に窪むように形成された部分で、電池パック20の前方から後方まで連続して形成される。同様にしてレール溝部46は電池パック20の左側壁面の上端から左側壁面と直交方向左側に凹状に窪むように形成された部分で、電池パック20の前方から後方まで直線状に形成される。レール溝部42、46の前方側端部は開放端となり、後方側端部は隆起部35の前側壁面と接続された閉鎖端となる。このレール溝部42、46と、電気機器本体1側のレール部の凹部と嵌合するフック部55、65がラッチ機構の固定部を形成する。電池パック20を電気機器本体1から取り外すときは、左右両側にあるラッチ機構の操作部51、61を押すことにより、ラッチ用のフック部55(図では見えない)、65による電気機器本体1側のレール部の凹部と嵌合状態が解除されるので、その状態のまま電池パック20を装着方向と反対側に移動させる。
【0019】
図4は本発明の電池パック20のフック部品60の単体の斜視図である。フック部品60は2つの主要部位を有する。その一つは電気機器本体1のレール部14に形成された凹部15と係合するフック部65であり、もう一つはフック部65を移動させるために作業者によって操作される操作部61である。この2つの主要部位を接続するために、連結部64と、前側接続部63と、後側接続部62が形成される。操作部61は、作業者が指で押す部位であり、作業者の指が触れる部位には滑り止めの為に、縦方向に並行して延在する多数の小さい溝61aが形成される。操作部61の裏側は、スプリング39の外側端部(フック部品60側では左側端部)が接続されることにより、圧縮式のスプリング39の反発力によって操作部61を電池パック20の左右中心位置から外側(左側)に付勢する。スプリング39の内側の端部は、上ケース30の内部に形成された壁面(当接面)37に当接するようにスプリング39が配置される。フック部品50、60と、スプリング39等を含むラッチ機構は、電池パックの上ケース30と下ケース21を取り外した際に、上ケース30側に固定される。尚、スプリング39と壁面37の形状は任意であり、
図4に示した形状はフック部品60の動作を説明するために模式的に図示したものである。フック部品60は作業者の押し込みによって、内側方向(左側のフック部品60の場合は右方向)に移動可能であり、押し込み操作の解除によりスプリング39の反発力でフック部品60が外側方向(左方向)に移動する。フック部品60の外側への移動は、上ケース30の壁面の一部と当接する制限位置にて静止する。尚、フック部品60のスライド移動を案内する機構や、フック部品60の左側移動の制限位置を規定する機構等は、従来のラッチ機構と同じで良いので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0020】
連結部64は、操作部61の前側接続部63から前側(第1の方向側)に延びて、電気機器本体1に接触可能に構成されるフック部65を保持する部位である。フック部65は連結部64の外面64a部分と交差(例えば直交)する面(
図5で後述する後方側外面65c)を有する。操作部61が押圧方向49bに移動すると、操作部61の移動とともにフック部65も右方向に移動する。ここで比較のために、
図11を用いて従来の電池パックのフック部品160の形状を説明する。
図11において、フック部品160は合成樹脂の一体成形によって製造されていた。
図11で示す従来のフック部品160と
図4で示す本実施例のフック部品60を比較すると一目瞭然のように、それらの違いは、フック部65に金属製のプレート70が設けられているか否かだけである。金属製のプレート70は、フック部品60の補強のために設けられるものであり、特に、当接する相手材、即ち、電気機器本体1のレール部14の凹部15に当接する面に設けられる。
【0021】
フック部65から後方に延在する連結部64の一部にもプレート70の一部が延在するようにして設けられる。このように、フック部65に金属板などで形成した耐摩耗性が高い部品(プレート70)を介在させることで、フック部品60の傷みやすい箇所であるフック部65の摩耗を最小限に抑えることができる。フック部品60の製造は、合成樹脂製で製造される従来のフック部品160の射出成形時に、プレート70を鋳込むようにする(インサート成形とする)ことで実現できる。また、プレート70の形状は、単純な平面形状でなく、フック部65の形状に沿わせた形状として、プレート70の外面によってフック部65の外縁形状が従来と同形状を維持できるように構成される。従って、
図11で示した従来のフック部品160を、
図4で示す本実施例のフック部品60に置き換えることで、本発明を適用した電池パック20が容易に実現できる。
【0022】
図5は、
図4のフック部品60の上下中央位置における水平断面図(下から見た断面図)である。本明細書では、フック部品60の各部を
図5のように称することにする。二点鎖線よりも上側のハッチング部分で示す部分を操作部61と称する。操作部61は、作業者によって押圧される部位であり、上ケース30の貫通穴48(
図1参照)の内側開口から外側に突出する部分である。フック部65は、ここでは連結部64の外面64aを通す鉛直面よりも外側に突出する部位、即ち、一点鎖線よりも外側(左側)のハッチング線で示す部分である。フック部65は、装着される対象機器、即ち電気機器本体1と係合する部位であり、電気機器本体1のレール部14の形成された凹部15と係合する部位である。フック部65と操作部61は連結部64にて連結されており、操作部61の移動(ここでは左右方向)に伴って、電池パック20の上ケース30からレール溝部46(
図3参照)内に突出する位置と、突出しない位置に移動する。フック部65は、フック部品60のうちの前方側(第1の方向側)に位置し、電池パック20を第1の方向にスライドさせた際に電気機器本体1に最初に接触する前方側外面65aと、前方側外面65aの後方側に位置し、電池パック20を電気機器本体1に取り付けた状態で電気機器本体1に対して電池パック20の脱落を防止するように作用する後方側外面65cと、前方側外面65aと後方側外面65cの間の湾曲面65bを有して形成される。本明細書では、前方側外面65aと湾曲面65bを合わせて、広義の「前方側外面」と呼ぶこともあり、この「前方側外面」は、後方側外面65cに対になる部位を指している。
【0023】
連結部64は、
図5では一点鎖線よりも内側(右側)部分である。連結部64は電池パック20の前後方向に延在する部分であり、フック部65と操作部61を一定の距離を隔てるようにして接続する。前側接続部63は、連結部64と操作部61の間の部分を埋める部位であり、連結部64に対する操作部61の左右方向位置を調整すると共に、フック部65の移動をガイドするガイド面になる。後側接続部62は、フック部65の移動をガイドするガイド面となり、さらには、前側に対向して位置する前側接続部63と共に、スプリング39(
図4参照)を収容する空間を隔てる壁部となる。後側接続部62にはリブ状に後方側に突出するストッパ部62aが形成される。ストッパ部62aの外面と、連結部64の外面64aの後方部分が、上ケース30の壁部分に当接することによってフック部品60の上ケース30の貫通穴48(
図3参照)から突出する方向への移動を制限する。
【0024】
プレート70は、
図5にて黒の塗りつぶしで示した部分に配置される。本実施例では、爪部の外側のフック部65の外面とプレート70の外面が一致するようなプレート形状とされ、プレート70は樹脂の中に鋳込まれる。プレート70は、フック部65の前端位置付近から、フック部65の外面に沿って後方側に延在し、連結部64の外側面(左側面)の半分以上にわたるように配置される。プレート70は、フック部品60を構成する合成樹脂(第1の部材)を補強するために設けられるもので、第1の部材と異なる第2の部材で構成される。ここでは第2の部材として金属が採用され、第1の部材内に鋳込まれる。
【0025】
図6は
図4のフック部品60に設けられるプレート70の形状を示す斜視図である。プレート70は、強度があって耐摩耗性が高い金属板、例えばステンレス合金によって構成される。ここでは、所定の厚さのステンレス板をプレス加工によって切り抜き加工をして、図示の形状に曲げたものである。プレート70は、右側のフック部品50と左側のフック部品60に共通で使えるように、上下対称形状にて形成される。プレート70は、フック部65の外面に沿わせる部分(71a~71c、72、73a、73b)と、連結部64の外面に沿わせる部分(74~75)の2つの主要部位により形成される。
図6(c)において、フック部65の側面部分には、前方側から、鉛直平面71a、湾曲面71b、鉛直平面71cが形成され、これらがフック部65の前方側外面を形成し、フック部65の前方側外面65a(
図5参照)に配置される。フック部65の後面となる部分には、上下左右方向に延在する後方側外面72が形成され、フック部65の後方側外面65c(
図5参照)に配置される。後方側外面72の上下方向の大きさは、フック部65の該当部分(後方側外面65c)の上下方向の大きさとほぼ等しく形成される。一方、前方側外面(鉛直平面71a、湾曲面71b、鉛直平面71c)の上下方向の大きさは、フック部65の該当部分(前方側外面65a)の上下方向の大きさよりも小さく形成される。前方側外面の上下方向の大きさを小さくするのは、鋳込み成形時のプレート70の固定安定度を高める為である。従って、強度や耐久性に問題がないならば、プレート70の前方側外面の上下方向の大きさを、フック部65の該当部分の上下方向の大きさと等しく形成しても良い。
【0026】
図6(b)において、連結部64の外面に沿わせる部分は、湾曲部74と、延在平面部75によって形成される。これらの部位とフック部品50との位置関係は、
図4にて理解できるように、連結部64の上下方向の大きさに比べて半分以下である。これは、連結部64の外面は上ケース30とは当接しないため、摩耗性を上げる必要がないためである。また、上下方向の幅を狭くすることで連結部64と延在平面部75の上側縁部と下側縁部が合成樹脂に鋳込まれることによりプレート70がさらに安定的して固定される。このように、本実施例においてプレート70に湾曲部74と、延在平面部75を設けたのは、フック部65に配置されるプレート70を安定的に樹脂部材に鋳込み、プレート70の強度を生かすためである。さらに、樹脂への鋳込みによる固定を安定させるために、プレート70に貫通穴76a、76b、77a、77bを形成し、そこにフック部品60の主要部材たる合成樹脂が充填されるようにしている。
【0027】
図7は本実施例1の電池パック20のフック部品60と電気機器本体1側との係合状態及び係合解除状態を示す部分断面図である。これら断面図は電池パック20の左側に位置するフック部品60の上下中心付近を通る水平断面を下から見た図である。
図7(a)は電池パック20を第1の方向側(前側)へ移動させて電気機器本体1に装着する直前の状態を示し、(b)は電池パック20を第1の方向側(前側)への移動が完了して電気機器本体1に装着した状態を示し、(c)は電池パック20のラッチ解除をしないまま電池パックをわずかに第2の方向側(後側)に移動させた状態を示す。
【0028】
フック部品60は、電池パック20の上ケース30に形成された貫通穴48から操作部61が外部に突出するように、レール溝部46のラッチ穴47からフック部65が突出するように配置される。このフック部品60の位置は、図示しないスプリング39によって付勢されてるためである。その状態で、電池パック20のレール溝部46を電気機器本体1のレール部14に沿わせながら、電気機器本体1に接近するように相対移動させる。すると、フック部品60のフック部65の先端角部を有する前方側の外面(主に湾曲面71b)が、電気機器本体1のレール部14の内側角部14bに当接する。湾曲面71bと内側角部14bは共に、電池パック20の装着方向に対して斜めに形成されているため、それらの当接によってフック部品60を内側(フック部品60の場合は右側)に移動させる力が働き、フック部65が
図7(a)よりも内側に移動する。すると、フック部65の右側端面がレール部14の内側角部14bより内側に位置するので、フック部65とレール部14の、電池パック20の装着方向に対する干渉状態が解除され、電池パック20は
図7(b)のように所定の位置まで第1の移動方向に挿入可能となる。
【0029】
電池パック20の装着方向に対する位置の制限は、例えば、上ケース30の一部がレール部14の先端部14aに当接することによって制限される。この際、フック部65の前端は、レール部14に形成された凹部15に嵌合する領域に位置するので、図示しないスプリングの作用によってフック部品60が外側(左側)に移動して、
図7(b)の状態になる。尚、電池パック20の前後方向(
図7で図示)と、電気機器本体1の前後方向(
図1で図示)は逆向きとなるので注意されたい。
図7の状態では、フック部65は凹部15の内部に位置するので、仮に電池パック20を第2の方向側に移動させる力が作用したとしても、フック部65に設けられたプレート70の後方側外面72が、
図7(c)に示すように凹部15の前方面15aと接触するので電池パック20が電気機器本体1から脱落することを防止できる。
【0030】
図4に示したスプリング39の付勢力によるフック部品60の外側方向への移動は、上ケース30の矢印30b部分と連結部64との接触、及び、上ケース30の矢印30c部分とストッパ部62aとの接触により制限される。フック部品の60の内面には、上ケース30の上壁部分から延在する2本の平行する案内リブ38が形成され、案内リブ38が前側接続部63及び後側接続部62と接触可能なような位置関係になる。また、2つの案内リブ38、前側接続部63、後側接続部62、及び、操作部61によって閉鎖される空間内にスプリング39(
図4参照)が配置される。
【0031】
図7から理解できるように、電気機器本体1との係合面となるフック部65の表面に介在部品(プレート70)を鋳込むことで、フック部65の摩耗を効果的に防止できる。さらに、電気機器本体1に対し、操作部61を操作せずに第1の方向に電池パック20を押し込むだけで電池パック20の装着ができる電池パック20において、本実施例によるプレート70が鋳込まれたフック部65とすることで、押し込む際に最初に接触するフック部65の部位の摩耗防止と爪形状表面の劣化による電池パック装着荷重の増加の抑制を実現でき、長寿命の電池パック20を実現できる。
【0032】
図8は、本発明の実施例1に係るフック部品60と電気機器本体1との係合を示す断面図であり、フック部品60の連結部64の前後方向中央付近を通る鉛直断面図を示している。この鉛直断面は電池パック20の左右及び上下方向に延在する面である。電池パック20には、5本の電池セルが収容され、
図8の断面位置では前から2本目の電池セル92が配置されている。電池セル92等は合成樹脂製のインシュレータ80によって長手方向が左右方向に向くようにして、複数の電池セルが整列される。インシュレータ80の上側であって、上ケース30の上側壁との間には回路基板90が固定される。回路基板90には、回路パターンが形成され、図示しないマイコン、抵抗、コンデンサ等の電子素子が搭載されると共に、電気機器本体1に形成された機器側端子と係合することにより電気的な接続を確立する電池側端子(図では見えない)が固定される。複数の電池セルの直列接続の両側端子は、回路基板90に接続タブ(図示せず)にて接続され、回路基板90の図示しない配線パターンを介して図示しない電池側端子(+端子、-端子)に電力が供給される。フック部品60の操作部61は、上ケース30よりも左側に突出するような形状であり、フック部65(図では見えない)及び連結部64の下端位置は回路基板90の下端位置とほぼ等しい位置にある。
【0033】
図8(b)は(a)の状態から操作部61を内側(電池ケースの左右中心側)に押し込んだ状態を示す図であり、操作部61が上ケース30の外縁部よりも内側にまで押し込まれている。ここで、
図8(a)と(b)のフック部品60の連結部64の位置を比較するとわかるように、レール溝部46の底部(但し、
図8の断面位置ではレール溝部46のラッチ穴47の位置に相当するため、溝の底面を形成する鉛直壁は無い)よりも内側まで連結部64が移動する。図では見えない位置にあるフック部65(
図7参照)は、レール溝部46の底面よりも突出しない状態にまで上側ケース30の内側に退避することになる。以上のように、フック部品60は、作業者が操作部61を押しこむことによってフック部65(
図7参照)と電気機器本体1との係合状態が解除される。
【0034】
以上、
図3~
図9の説明では、電池パック20の左側面に位置するフック部品60について説明したが、右側面に位置するフック部品50においても、その形状が左右対称であることを除いて同一の構造である。このように、本実施例によれば、電池パック20のフック部品50、60を大幅に強化することができたので、電気機器本体1の高出力化に伴って電池パック20に伝わる振動の増加に対応できるようになり、また、電池パック20自体の大型化や重量の増大に伴って落下時等の電池パック20への衝撃力が増加する現象にも対応できるようになった。さらに、フック部品50、60を金属製のプレート70によって補強できたため、電気機器本体1と係合するフック部65の係合面が摩耗や破損(折損)してしまうことを大幅に抑制でき、電気機器本体1に対して電池パック20が設計外の位置まで移動してしまう現象の発生を回避できる。この設計外の位置まで電池パック20が移動してしまうと、電気機器本体1の機器側端子と電池パック20の接続端子同士が離れることで引き起こされる動作不良がありうるので、その動作不良の発生防止に本実施例のフック部材50、60は効果的である。尚、第1の実施例ではフック部品50、60を金属製のプレート70によって補強するように構成したが、電気機器本体1側のレール部12、14を金属製のプレートにて補強するように構成することも可能である。その例を
図9を用いて説明する。